(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463852
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】プリフォームで永久磁石を形成するための金型および方法、並びに、熱変形システム
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20190128BHJP
【FI】
H01F41/02 G
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-560272(P2017-560272)
(86)(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公表番号】特表2018-522400(P2018-522400A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】CN2015079386
(87)【国際公開番号】WO2016183824
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2017年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジアチン ユー
(72)【発明者】
【氏名】ビチョン チェン
【審査官】
五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2004/013873(WO,A1)
【文献】
特開2002−248517(JP,A)
【文献】
特開2003−311320(JP,A)
【文献】
特開2006−192451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B21C 23/00
B21C 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型主体(603)と、
前記金型主体(603)の中に形成され、且つ送込みポート(607a,607b)および押出しポート(609)を有する少なくとも一つの金型キャビティ(605)と、
を備える、プリフォームで永久磁石(M)を形成するための金型(601)であって、
前記少なくとも一つの金型キャビティ(605)はそれぞれ、互いに通じ合う少なくとも二つの部分(605a,605b)を含み、前記少なくとも二つの部分における二つの隣接部分がお互いに相対的に角度(α)をなしてずれており、
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)のうち前記金型キャビティ(605)の送込みポート(607a,607b)を限定する部分(605a)は、前記金型が二つの対向する送込みポート(607a,607b)を備えるように、前記金型主体(603)を通って伸びており、
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)のうち前記送込みポート(607a,607b)を限定する部分(605a)へ通じており、且つ前記少なくとも二つの部分(605a,605b)のうち前記送込みポート(607a,607b)を限定する部分(605a)の直後にある前記押出しポート(609)を限定する前記金型キャビティ(605)の部分(605b)と揃っている、前記押出しポート(609)とは別個の追加ポート(608)をさらに備える、
金型(601)。
【請求項2】
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)における二つの隣接部分は、後の部分(605b)の断面積が前の部分(605a)の断面積よりも小さくなるように構造されている
請求項1に記載の金型(601)。
【請求項3】
前記角度(α)は0°〜180°の範囲である
請求項1又は2に記載の金型(601)。
【請求項4】
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)は、徐々に小さくなる断面または一定の断面を有する
請求項1から3までのいずれか1項に記載の金型(601)。
【請求項5】
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)のうち前記金型キャビティ(605)の押出しポート(609)を限定する部分(605b)は、矩形、円形、弧形、または三角形の断面を有する
請求項1から4までのいずれか1項に記載の金型(601)。
【請求項6】
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)は、ストレートにされている
請求項1から5までのいずれか1項に記載の金型(601)。
【請求項7】
前記少なくとも二つの部分(605a,605b)のうち前記金型キャビティ(605)の押出しポート(609)を限定する部分(605b)は、屈曲されている
請求項1に記載の金型(601)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のプリフォームで永久磁石(M)を形成するための金型(601)を含み、
前記金型キャビティ(605)から移り出し、且つ前記金型キャビティ(605)に移り込むパンチ(613a,613b)と、
前記追加ポート(608)内を移動可能な追加パンチ(613c)と、を備えるプレス機械をさらに含む、
熱変形システム。
【請求項9】
前記プリフォームを前記金型キャビティ(605)の前記送込みポート(607a,607b)を限定する部分(605a,605b)に送る送り機構をさらに含む
請求項8に記載の熱変形システム。
【請求項10】
前記プリフォームを所定温度までに加熱する加熱機構をさらに含む
請求項8又は9に記載の熱変形システム。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の熱変形システムを利用してプリフォームで永久磁石(M)を形成する方法であって、
プリフォームの少なくとも一部を前記送込みポート(607a,607b)を介して前記金型キャビティ(605)の前記少なくとも二つの部分(605a,605b)における第1の部分(605a)に送るステップと、
所定温度下で、前記プリフォームを前記金型キャビティ(605)の前記少なくとも二つの部分(605a,605b)における前記第1の部分(605a)にプレスするステップと、
前記パンチ(613a,613b)を前記金型キャビティ(605)の前記第1の部分(605a)から取り出すステップと、
次のプリフォームを前記第1の部分(605a)に送りプレスして、前記プリフォームを最終的な永久磁石(M)として前記金型キャビティ(605)の前記押出しポート(609)から押し出すステップと、
を含み、
前記プリフォームを前記押出しポート(609)から押し出すステップにおいて、前記追加ポート(608)内を移動可能な追加パンチ(613c)により、前記プリフォームを、前記金型キャビティ(605)の前記第1の部分(605a)から、前記押出しポート(609)を限定する前記金型キャビティ(605)の第2の部分(605b)に押し付ける、方法。
【請求項12】
複数のプリフォームに対して、ニアネットシェイプの熱変形をシームレスに実行し続けるように、前記ステップが繰り返される
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最終的な永久磁石(M)を永久磁石部材に切断するステップをさらに含む
請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石の製造、特に、プリフォームで永久磁石を形成するための金型、プリフォームで永久磁石を形成するための方法、および、プリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、希土類−鉄−ボロン系永久磁石のような永久磁石は通常、十分高い残留磁場、保磁力および耐食性を有し、且つ−40℃〜180℃のような広い温度範囲に十分高い磁束量を提供することができる。そのため、希土類−鉄−ボロン系永久磁石のような永久磁石は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)および家電機器などのモータに広く適用されている。低減した銅損、高いパワー密度、高い効率および低いロータイナーシャを有するため、希土類−鉄−ボロン系永久磁石を備えるモータは誘導モータに対して性能に優れている。
【0003】
希土類−鉄−ボロン系永久磁石を製造する従来の方法は2種がある。第1の方法は、大体ストリップキャスティング、ハイドロジェン・デクレピテーション、ジェット・ミリング、モールディング、焼結および焼鈍を含む冶金焼結プロセスである。冶金焼結プロセスにより製造する永久磁石は「焼結磁石」と呼ばれ、ほぼ全密度であり、且つ高いエネルギー積を有する。第2の方法は、大体、磁性粉末を有機バインダーとともに(コンパクティング、インジェクティング、イクストルディング、またはカレンダリングにより)モールディングした後、約150℃で硬化させることを含むボンディングプロセスである。ボンディングプロセスにより製造する永久磁石は「ボンド磁石」と呼ばれ、低密度であって、体積百分率が4%超えの有機バインダーを含むのが正常であり、且つ低いエネルギー積を有する。ボンド磁石が焼結磁石よりも小さい磁束量を提供するが、両方とも複雑な形状を有する部材にモールディングされることができる。
【0004】
一軸熱変形プロセスは、希土類−鉄−ボロン系永久磁石を製造する新規の方法である。この方法では、まず焼入れされた細い磁性リボンまたは粉末を一次プリフォームに冷間圧延し、その後、一次プリフォームを磁気等方性磁石主体に熱間圧延し、最後、磁気等方性磁石主体に対し一軸熱変形処理を行う。加えられた圧力により駆動されて、磁気等方性磁石主体中のグレーンは一軸熱変形処理過程に、それらの磁性化し易い軸をプレス方向に合わせる。結果として、形成される永久磁石は磁気異方性である。ボンディングプロセスに類似して、一軸熱変形プロセスもネットシェピングプロセスであり、磁石をリング状、ディスク状、ブロック状または他のネットシェイプに直接形成することができる。
【0005】
焼結磁石およびボンド磁石に比べて、一軸熱変形プロセスにより製造する熱変形磁石は、マイクロ構造がナノ構造であり、磁気性能が磁気異方性を呈し、高いエネルギー積を有しており、小さいグレーンサイズのため、熱安定性が高い以上、高い保磁力を得るように、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの重希土類元素を僅かに必要とし、ひいては必要としない。熱変形磁石のこのような特徴は電気自動車/ハイブリッド電気自動車のモータに対しては非常に魅力的である。
【0006】
熱変形処理を実行するには、例えば、ダイアップセット、バックワードイクストルージョン、フォーワードイクストルージョンおよび圧延(ローリング)などの幾つかのプロセスがある。これらのプロセスは適切な雰囲気(真空、不活性ガスなど)の中に、高温(通常、650〜850℃)下で、特別にデザインされた金型において行われる。磁性リボンまたは粉末をデザインされたキャビティにプレスし、またはデザインされた軌道を通過させるように、油圧システムが機械圧力の発生に用いられる。これで、磁性リボンまたは粉末が緻密になり、且つ最終的に、磁性リボンまたは粉末がリング状、ディスク状、ブロック状または他の形状を有する緻密な磁石に変換される。使用される磁性リボンまたは粉末としては、純粋な磁性リボン/粉末であってもよく、或いは、純粋な磁性リボン/粉末と別の純粋な磁性リボン/粉末または非磁性リボン/粉末との混合物を用いても良い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献欧州特許第0513891号明細書は、希土類含有粉末に対し空気に開くプレス機械を用いてホットプレスおよび/または熱加工を行うプロセスを記載している。このプロセスでは、まず金型の壁のみに存在する固体潤滑剤を用いて希土類含有粉末を室温で緊密体にプレスし、その後、アルゴンガスに沈んだ加熱金型を利用し空気に開くプレス機械の中に緊密体をホットプレスする。
【0008】
特許文献米国特許第7730755号明細書は、プリフォームをプレート状の永久磁石にイクストルディングすることで、プリフォームの断面寸法がX方向に小さくなり、X方向に対し垂直なY方向に大きくなるようにするプロセスを記載している。
【0009】
しかしながら、これら従来の熱変形プロセスでは、緊密体またはプリフォームが高温でプレスまたはイクストルディングされると、緊密体またはプリフォーム中のグレーンが成長する傾向がある。よって、最終的な永久磁石の保磁力を悪くすることになる。
【0010】
そのため、従来の熱変形プロセスを改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、プリフォームで永久磁石を形成するための金型および方法を提供する。この金型および方法によれば、グレーンの成長を抑えることで、最終的な永久磁石に高い保磁力をもたらすことができる。
【0012】
本発明の一形態によれば、プリフォームで永久磁石を形成するための金型を提供し、このプリフォームで永久磁石を形成するための金型は、
金型主体と、
前記金型主体の中に形成され、且つ送込みポートおよび押出しポートを有する少なくとも一つの金型キャビティと
を備え、
前記少なくとも一つの金型キャビティはそれぞれ、互いに通じ合う少なくとも二つの部分を含み、前記少なくとも二つの部分における二つの隣接部分がお互いに相対的に角度をなしてずれている。
【0013】
選択的に、前記少なくとも二つの部分における二つの隣接部分は、後の部分の断面積が前の部分の断面積よりも小さくなるように構造されている。
【0014】
選択的に、前記角度は0°〜180°の範囲であり、好ましくは45°〜135°の範囲、より好ましくは90°とされている。
【0015】
選択的に、前記少なくとも二つの部分における二つの隣接部分の間に、屈曲移行部が形成されている。
【0016】
選択的に、前記少なくとも二つの部分は、徐々に小さくなる断面、または一定の断面を有する。
【0017】
選択的に、前記少なくとも二つの部分のうち前記金型キャビティの押出しポートを限定する部分は、矩形、円形、弧形、または三角形の断面を有する。
【0018】
選択的に、前記少なくとも二つの部分は、ストレートにされている。
【0019】
選択的に、前記少なくとも二つの部分のうち前記金型キャビティの押出しポートを限定する部分は、屈曲されている。
【0020】
選択的に、前記金型が二つの対向する送込みポートを備えるように、前記少なくとも二つの部分のうち前記金型キャビティの送込みポートを限定する部分は、前記金型主体を通って伸びている。
【0021】
選択的に、前記金型は、前記少なくとも二つの部分のうち前記送込みポートを限定する部分へ通じており、且つ前記少なくとも二つの部分のうち前記送込みポートを限定する部分の直後にある前記金型キャビティの部分と揃っている追加ポートをさらに備える。
【0022】
本発明の別の形態によれば、上述のようなプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを提供する。
【0023】
選択的に、前記熱変形システムは、前記金型キャビティから移り出し、且つ前記金型キャビティに移り込むパンチを備えるプレス機械をさらに含む。
【0024】
選択的に、前記熱変形システムは、前記プリフォームを前記金型キャビティの前記送込みポートを限定する部分に送る送り機構をさらに含む。
【0025】
選択的に、前記熱変形システムは、前記プリフォームを所定温度までに加熱する加熱機構をさらに含む。
【0026】
本発明の別の形態によれば、上述のような熱変形システムを利用してプリフォームで永久磁石を形成する方法を提供し、この方法において、
プリフォームの少なくとも一部を前記送込みポートを介して前記金型キャビティの前記少なくとも二つの部分における第1の部分に送るステップと、
所定温度下で、前記プリフォームを前記金型キャビティの前記少なくとも二つの部分における前記第1の部分にプレスするステップと、
前記パンチを前記金型キャビティの前記第1の部分から取り出すステップと、
次のプリフォームを前記第1の部分に送りプレスして、前記プリフォームを最終的な永久磁石として前記金型キャビティの前記押出しポートから押し出すステップと
を含む。
【0027】
選択的に、複数のプリフォームに対して、ニアネットシェイプの熱変形をシームレスに実行し続けるように、前記ステップが繰り返される。
【0028】
選択的に、前記方法は、前記最終的な永久磁石を永久磁石部材に切断するステップをさらに含む。
【0029】
下記の内容および添付の「特許請求の範囲」を考慮し、図面を参照すると、本発明のこれらまたは他の目的、特徴及び特性、構造に関わる素子と部材の組合せによる運転方法および機能、並びに、製造上の経済性がより顕著になる。下記の内容、添付の「特許請求の範囲」および図面は明細書の一部を構成し、類似する記号は異なる図面において対応する部材を表す。ただし、図面の目的が図示および説明に過ぎず、本発明に対する限定とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1Aは本発明の第1の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を概略的に示す立体図であり、
図1Bは
図1Aのライン1B−1Bに沿う縦断側面図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは本発明の第1の実施例による金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石にして押し出した過程を概略的に示す縦断側面図であり、
図2Cは
図2A〜
図2Bの熱変形システムにより押し出された最終的な永久磁石を概略的に示す図である。
【
図3】
図3Aは本発明の第2の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを概略的に示す縦断側面図であり、
図3Bは
図3Aのライン3B−3Bに沿う縦断側面図であり、
図3Cは
図3Aのライン3C−3Cに沿う縦断側面図であり、
図3Dは
図3A〜
図3Cの熱変形システムにより押し出された最終的な永久磁石を概略的に示す図ある。
【
図4】
図4Aは本発明の第3の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を概略的に示す縦断側面図であり、
図4Bは
図4Aのライン4B−4Bに沿う縦断側面図であり、
図4Cは
図4Aのライン4C−4Cに沿う縦断側面図である。
【
図5】
図5A〜
図5Cは本発明の第4の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出す過程を概略的に示す縦断側面図である。
【
図6A】本発明の第5の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を概略的に示す縦断側面図である。
【
図6E】大きな扇形永久磁石が小さな扇形永久磁石部材に複数切断された過程を概略的に示す図である。
【
図7】
図7A〜
図7Dは本発明の第6の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出す過程を概略的に示す縦断側面図であり、
図7Eは
図7A〜7Dの熱変形システムにより押し出された最終的な永久磁石を概略的に示す図である。
【
図8】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは本発明の第7の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出す過程を概略的に示す縦断側面図であり、
図8Dは
図8A〜
図8Cの熱変形システムにより押し出された最終的な永久磁石を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
周知の通り、熱変形された希土類−鉄−ボロン系永久磁石を製造するためのニアネットシェイプの連続プロセスは、通常、磁性リボンまたは粉末を冷間圧延および/または熱間圧延することにより緻密なプリフォームを製造するステップと、高温でプリフォームに対し熱変形処理を行うことによりプリフォームを永久磁石に押し出すステップとを含む。磁性リボンまたは粉末は従来のプロセスで形成されたものである。プリフォームを形成する素材および磁性リボンまたは粉末によりプリフォームを製造するプロセスも本分野における従来のものであるため、詳しい説明は省略する。本発明は、どのようにプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出すか、に着目する。
【0032】
図1Aは、本発明の第1の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を示す立体図であり、
図1Bは、
図1Aのライン1B−1Bに沿う縦断側面図である。
図1Aおよび
図1Bに示したように、本発明の第1の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型1は、金型主体3と、金型主体3の中に形成された中空の金型キャビティ5とを備える。金型キャビティ5は大体、第1の部分5aと、第1の部分5aに通じており且つ第1の部分5aに対し角度αをなしてずれている第2の部分5bとを含む。よって、金型キャビティ5は第1の部分5aの端部にある送込みポート7と、第2の部分5bの端部にある押出しポート9とを有する。
図1Aおよび
図1Bに示した実施例では、第2の部分5bは第1の部分5aに対し90°の角度αをなしてずれているが、第2の部分5bは第1の部分5aに対し0°〜180°の範囲、好ましくは45°〜135°の範囲にある角度αをなしてずれているとしても良い。また、第1の部分5aおよび第2の部分5bが矩形の断面を有しているが、第1の部分5aおよび第2の部分5bが例えば円形、半円形、楕円形または三角形などの任意的な適切形状である断面を有するとしてもよい。
図1Aおよび
図1Bに示した実施例では、第1の部分5aおよび第2の部分5bは一定となる断面を有するように示されているが、第1の部分5aおよび第2の部分5bは徐々に小さくなる断面を有するとしても良い。ただし、いかなる場合でも、第2の部分5bの断面積を第1の部分5aの断面積よりも小さくするものである。
【0033】
図2Aおよび
図2Bは、縦断側面図で本発明の第1の実施例による金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出した過程を概略的に示している。
図2Aおよび
図2Bに示したように、熱変形システム11は大体、本発明の第1の実施例による金型1と、上下移動の可能なパンチ13を有するプレス機械(図示しない)とを含む。勿論、熱変形システム11は金型キャビティ5の第1の部分5aにプリフォームの一部を金型キャビティ5の送込みポート7を介して送る送り機構(図示しない)も含む。
【0034】
図2Aに示したように、送り機構が金型キャビティ5の第1の部分5aに、従来のプロセスで製造されたプリフォームP1の少なくとも一部を金型キャビティ5の送込みポート7を介して送る。その後、プリフォームP1を第1の部分5aにプレスするように、プレス機械のパンチ13が下向きに移動する。プレス機械のパンチ13が下向きに移動すると伴って、プリフォームP1が第1の部分5aに更にプレスされ、または、その一部が金型キャビティ5の第1の部分5aから金型キャビティ5の第2の部分5bに押し付けられる。
図2Bに示した通り、送り機構が次のプリフォームP2の一部を第1の部分5aに送るように、プリフォームP1が第1の部分5aにプレスされた後、プレス機械のパンチ13は解放され上向きに移動して金型キャビティ5の第1の部分5aから取り出されてよい。
図2Cに示した通り、次のプリフォームP2を下にプレスするように、プレス機械のパンチ13が再度下向きに移動することで、次のプリフォームP2によって、プリフォームP1が最終的な永久磁石Mとして金型キャビティ5の押出しポート9から完全に押し出される。複数のプリフォームに対して、ニアネットシェイプの熱変形をシームレスに実行し続けるように、当該送り−プレス−取出し−送りのプロセスが自動的に、連続に、且つ繰り返して行われる。周知の通り、
図2Aおよび
図2Bに示したプロセスは適切な雰囲気(真空、不活性ガスなど)の中に、高温(通常、650℃〜850℃)で施すものである。熱変形システム11は、プリフォームを所定温度までに加熱する加熱機構をさらに含んで良い。また、プリフォームを金型キャビティ5の第1の部分5aから金型キャビティ5の第2の部分5bに平滑に押し付けるために、第1の部分5aと第2の部分5bの間に屈曲移行部6が形成されている。
【0035】
図2Aおよび
図2Bに示したプロセスによれば、プレス機械のパンチ13がプリフォームP1を金型キャビティ5の第1の部分5aにプレスすると、プリフォームP1が全密度にホットプレスされ且つ平坦なプレート状磁石に熱変形され、且つ、その後、次にホットプレスおよび熱変形されるプリフォームP2によって金型キャビティ5の第2の部分5bに順次押し付けられて2回目の熱変形を実行する。2回目の熱変形の後、最終的な永久磁石Mが次にホットプレスおよび熱変形されるプリフォームP2によって金型キャビティ5から押し出される。2回目の熱変形において、プリフォームP1が平坦なプレート状で維持し(且つ、金型キャビティ5の第2の部分5bの幾何的形状に合わせてサイズを変更して良い)、プリフォーム中のグレーンは応力切断の効果により微細化され、結果として、最終的な永久磁石Mの保磁力を改善することになる。このプロセスの後、プリフォームは、グレーンが異方性のある磁気特性に配向され(即ち、高い残留磁場)かつグレーンが微細化されて改善した保磁力(即ち、高い熱安定性)を有した平坦なプレート状永久磁石Mとされる。
【0036】
図3Aは、縦断側面図で本発明の第2の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを概略的に示しており、
図3Bは、
図3Aのライン3B−3Bに沿う縦断側面図であり、
図3Cは、
図3Aのライン3C−3Cに沿う縦断側面図である。本発明の第2の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムは、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システムに大体類似している。本発明の第2の実施例による金型を含む熱変形システムにおいて、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム中の部材と同一、または類似する部材は、同一の記号「100」を加えて表記されている。簡素化および簡潔化のために、同一または類似する部材に対する説明は省略する。本発明の第2の実施例による金型101を含む熱変形システム111と、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム11との相違点は、金型キャビティ105の第2の部分105bが矩形断面ではなく、弧形断面を有することにある。よって、金型キャビティ105の押出しポート109から押し出された最終的な永久磁石Mは
図3Dに示した弧形プレートになる。
【0037】
本発明による最終的な永久磁石Mは平坦なプレート状(
図2Cに示したように)または弧形の形状(
図3Dに示したように)に示されているが、金型キャビティの押出しポートを限定する部分の断面形状を選択することにより、最終的な永久磁石Mをいかなる適切な形状にすることができる。例えば、金型キャビティの押出しポートを限定する部分の断面形状を円形または三角形の断面を有するようにデザインすることにより、本発明による最終的な永久磁石Mを円形または三角形の断面を有するロードにすることができる。本発明による最終的な永久磁石Mは、より短くまたはより小さなディスク状、ブロック状、扇形または他の形状を有する複数の磁石部材にさらに切断されることが可能であり、且つ、研磨を施された後にモータに直接用いられることができる。金型キャビティの押出しポートを限定する部分の断面寸法を変更することにより、これら小さな磁石部材のサイズを相応に調整することができる。
【0038】
図4Aは、縦断側面図で本発明の第3の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を概略的に示しており、
図4Bは、
図4Aのライン4B−4Bに沿う縦断側面図であり、
図4Cは、
図4Aのライン4C−4Cに沿う縦断側面図である。本発明の第3の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型は、
図1Aおよび
図1Bに示した金型に大体類似している。本発明の第3の実施例による金型において、
図1Aおよび
図1Bに示した金型の部材と同一、または類似する部材は、同一の記号「200」を加えて表記されている。簡素化および簡潔化のために、同一または類似する部材に対する説明は省略する。本発明の第3の実施例による金型201と、
図2Aおよび
図2Bに示した金型1との相違点は、金型キャビティ205が四つの部分、即ち、第1の部分205a、第2の部分205b、第3の部分205cおよび第4の部分205dを含むことにある。同様に、金型キャビティ205の四つの部分のそれぞれは隣接する部分に対して角度αをなしてずれている。且つ、金型キャビティ205の四つの部分における後の部分が前の部分よりも小さな断面積を有する。示した実施例において、金型キャビティは二つ又は四つの部分を有するように示されているが、金型キャビティは三つまたは四つ以上の部分を有するとしても良い。金型キャビティの部分が多いほど、ポリフォームに施される熱変形の回数が多くなる。結果として、最終的な永久磁石Mはマイクロ構造上でさらに微細化されたグレーンサイズ(例えば、さらに微細化されたナノ構造のグレーンサイズ)を有して高い磁気結晶の異方性を保持しつつ高い保磁力を得る。
【0039】
図5A〜5Cは、縦断側面図で本発明の第4の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石にして押し出した過程を概略的に示している。本発明の第4の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムは、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システムに大体類似している。本発明の第4の実施例による金型を含む熱変形システムにおいて、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム中の部材と同一、または類似する部材は、同一の記号「300」を加えて表記されている。簡素化および簡潔化のために、同一または類似する部材に対する説明は省略する。本発明の第4の実施例による金型301を含む熱変形システム311と、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム11との相違点は、金型301が金型主体301の中に形成された二つの金型キャビティ305を備えることにある。それぞれの金型キャビティ305は第1の部分305aと、第1の部分305aに対して角度αをなしてずれている第2の部分305bとを含む。二つ以上の金型キャビティを備える金型であっても良い。複数の金型キャビティを含む金型では、熱変形プロセスにより複数の磁石を同時製造することで、生産の効率を高めることができる。
【0040】
図6Aは、縦断側面図で本発明の第5の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を概略的に示しており、
図6Bは、
図6Aのライン6B−6Bに沿う縦断側面図であり、
図6Cは、
図6Aのライン6C−6Cに沿う縦断側面図であり、
図6Dは、
図6Aに示した金型の左側面図である。本発明の第5の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型は、
図1Aおよび
図1Bに示した金型に大体類似している。本発明の第5の実施例による金型において、
図1Aおよび
図1Bに示した金型の部材と同一、または類似する部材は、同一の記号「400」を加えて表記されている。簡素化および簡潔化のために、同一または類似する部材に対する説明は省略する。本発明の第5の実施例による金型401と、
図1Aおよび
図1Bに示した金型1との相違点は、金型キャビティ405の第2の部分405bがストレートではなく、屈曲されていることにある。金型キャビティ405の第2の部分405bは徐々に小さくなる断面を有するようにデザインされることで、扇形の永久磁石を形成することができる。扇形の永久磁石は(
図6Eに示したように)小さな扇形磁石部材に複数切断されてもよく、小さな扇形磁石部材は研磨後に用いられることができる。熱変形プロセスにおいて、マイクロ構造中のグレーンは磁石の厚み方向に対して垂直な方向に配向される。
【0041】
好ましい実施例では、上部パンチのみがプリフォームを金型キャビティにプレスするために用いられるが、複数のパンチを同時使用しても良い。
図7A〜7Dは、縦断側面図で本発明の第6の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出した過程を概略的に示している。本発明の第6の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムは、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システムに大体類似している。本発明の第6の実施例による金型を含む熱変形システムにおいて、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム中の部材と同一、または類似する部材は、同一の記号「500」を加えて表記されている。簡素化および簡潔化のために、同一または類似する部材に対する説明は省略する。本発明の第6の実施例による金型501を含む熱変形システム511と、
図2Aおよび
図2Bに示した熱変形システム11との相違点は、金型キャビティ505の第1の部分505aが金型主体501を通って伸びており、第1の部分505aが第1の送込みポート507aおよび第2の送込みポート507bを限定するようになることにある。結果として、プレス機械が上部パンチ513aと下部パンチ513bを含む。使用の時、二つのプリフォームP1を金型キャビティ505の第1の送込みポート507aおよび第2の送込みポート507bを介して金型キャビティ505の第1の部分505aに送ることができる。
図7Eは、
図7A〜7Dの熱変形システムにより押し出された最終的な永久磁石を概略的に示している。プリフォームを金型キャビティ505の第1の部分505aから第2の部分505bに平滑に押し付けるために、上部パンチ513aおよび下部パンチ513bの端部には、プリフォームをプレス時にプリフォームと接触する相応の屈曲部分514a、514bが限定されている。
【0042】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、縦断側面図で本発明の第7の実施例によるプリフォームで永久磁石を形成するための金型を含む熱変形システムを用いてプリフォームを永久磁石に押し出した過程を概略的に示している。本発明の第7の実施例による金型601を含む熱変形システム611と、
図7A〜7Dに示した熱変形システム601との相違点は、金型601が金型キャビティ505の第1の部分605aに通じており、第2の部分605bと揃った追加ポート608をさらに備えることにある。結果として、上部パンチ613aおよび下部パンチ613bに加えて、プレス機械が追加パンチ613cをさらに備える。よって、追加パンチ613cはプリフォームを金型キャビティ605の第1の部分605aから第2の部分605bに平滑に押し付けるのに寄与する。
【0043】
プレス機械が少なくとも
図7A〜7Dおよび8A〜8Cに示した上部パンチおよび下部パンチを備えた場合、プリフォームに二つの反対方向に沿って圧力を同時加えることができる。結果として、最終的な永久磁石はマイクロ構造がより同質化され、機械特性および磁気特性もより均一になる。
【0044】
上記の実施例では、プリフォームで永久磁石を形成するための金型の金型キャビティを、相対的にずれている少なくとも二つの部分を有するようにデザインすることにより、プリフォームに圧力を加えて金型を通過させる時にホットプレス変形を少なくとも2回実行して、グレーンサイズをさらに小さくする。結果として、最終的な永久磁石が高い保磁力を有する。
【0045】
本発明による金型およびプロセスは、化学成分上で希土類を富化し、および希土類を少なく含有する永久磁石の製造に用いられる。最終的な永久磁石は、単一相のナノ構造材またはナノ複合材料とすることができる。
【0046】
本発明の実施例は、異なる主題を参照して記載されている。特に、いくつかの実施例は方法請求項を参照して記載されている一方、他の実施例は装置請求項を参照して記載されている。但し、当業者であれば上記および下記の内容から分かるように、逆の説明がない限り、同一主題に属する特徴の任意的な組合せに加えて、異なる主題に関する特徴間の任意的な組合せも本願により開示されると認められる。しかし、相乗効果がそれら特徴の簡単な重ね合わせ以上であれば、すべての特徴を組み合わせても良い。
【0047】
本発明が図面および上記の内容に詳しく表示し記載されているが、このような表示および記載は限定的なものではなく、説明的なまたは例示的なものと思われる。本発明は開示された実施例に限らない。図面、本開示内容および従属請求項を研究することにより、当業者は保護請求している発明を実施する時に、開示された実施例に対する他の変換を理解し実施することも可能である。
【0048】
請求項では、「備える/含む」は他の素子およびステップを取り除くわけではなく、不確定な「一つ/一」は「複数」を取り除くわけではない。単一なプロセッサまたは他のユニットは、請求項に記載されているいくつかの部材の機能を実現することができる。いくつかの特徴が多数項従属請求項に記載されているが、それら特徴の組合せを用いてはならない意味はない。請求項中の記号を請求の範囲に対する限定として解釈してはならない。