特許第6463889号(P6463889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463889
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】床暖房ヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20190128BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   H05B3/20 377
   H01C7/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-4980(P2014-4980)
(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公開番号】特開2015-133287(P2015-133287A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年10月31日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509354606
【氏名又は名称】株式会社アルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 惠介
【審査官】 根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−198751(JP,A)
【文献】 特開2010−176934(JP,A)
【文献】 特開2011−003429(JP,A)
【文献】 特開平03−129693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02 − 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床暖房に用いられる床暖房ヒータであって、
前記床暖房ヒータは、帯状の長尺物であり、
下面の樹脂製のフィルム上に、PTC特性を有する発熱体であるPTCインク層、導線、および電極を形成し、上面に樹脂製のフィルムを接着して構成され、
前記PTCインク層は、前記フィルム上の複数の領域のそれぞれで、間隔を空けて複数配置され、
上面のフィルムが、前記PTCインク層の間で下面のフィルムに直接接着され、
複数の前記領域の間に、前記床暖房ヒータの取り付けを行うための孔が設けられ、
前記PTCインク層はタイル状に間隔を空けて複数設けられ、前記フィルムが露出する箇所が略格子状に存在し、
前記電極は、前記床暖房ヒータの両側辺に沿って設けられ、
一方の電極から前記床暖房ヒータの幅方向に延びる第1の前記導線と、他方の電極から前記床暖房ヒータの幅方向に延びる第2の前記導線とが、前記床暖房ヒータの長手方向に交互に配置され、
第1の前記導線と、その片側の第2の前記導線との間にのみ前記PTCインク層が設けられ、もう片側の第2の前記導線との間では前記フィルムが前記床暖房ヒータの幅方向に連続して露出することを特徴とする床暖房ヒータ。
【請求項2】
前記PTCインク層は、前記フィルム上の前記床暖房ヒータの長手方向の複数の前記領域のそれぞれに配置され、
上面のフィルムが、前記床暖房ヒータの幅方向に隣り合う前記PTCインク層の間で下面のフィルムに接着され、
複数の前記領域の間に、前記床暖房ヒータの取り付けを行うための孔が前記床暖房ヒータの幅方向に複数設けられたことを特徴とする請求項1記載の床暖房ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床暖房に用いる床暖房ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
暖房装置として、床下等にシート状の床暖房ヒータを敷設して床暖房を行うものが知られている。
【0003】
図4は、このような床暖房ヒータ100を示す図である。図4(a)は床暖房ヒータ100の平面、図4(b)は図4(a)の線a−aに沿った断面を示す。床暖房ヒータ100は帯状の長尺物であるが、図4(a)では長手方向の一部のみ示している。また図4(a)では床暖房ヒータ100の上面のフィルム17の図示を省略している。
【0004】
床暖房ヒータ100では、PET(ポリエチレンテレフタレート)によるフィルム11上に、発熱体であるカーボンインク層20が設けられる。フィルム11の両側辺には、正負の電極13a、13bがそれぞれ形成される。
【0005】
カーボンインク層20の上には導線15a、15bが形成される。導線15a、15bはそれぞれ電極13a、13bから床暖房ヒータ100の幅方向(図4(a)の上下方向に対応する。以下ヒータ幅方向という)に延びるように設けられる。導線15a、15bは床暖房ヒータ10の長手方向(図4(a)の左右方向に対応する。以下ヒータ長手方向という)に交互に配置される。
【0006】
床暖房ヒータ100の上面は、PETによるフィルム17で覆われる。フィルム17の下面にはホットメルト接着剤等の接着層(不図示)が設けられ、これによりフィルム17がカーボンインク層20等と接着される。
【0007】
床暖房ヒータ100では、導線15a、15bの間のカーボンインク層20に通電することによりカーボンインク層20が発熱し、これにより床暖房が行われる。
【0008】
近年、発熱体としてカーボンインクの代わりにPTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有するPTCインクを用いるケースが増加している(特許文献1、2)。PTC特性は、簡単に説明すると温度が上昇するにつれ抵抗が増加する特性である。PTCインクは、例えばカーボンブラック等の導電性粒子と、フッ素系樹脂等の樹脂とを混合して製造できる。
【0009】
通常のカーボンインクは電流を流し続けると温度が上昇しつづけるため、床に人が座っていたりすると熱がこもり高温になりやすく、快適性が低下する。一方、PTCインクは、温度が上昇すると抵抗が増加して通電量が低下するので、温度は上限値に収束し、熱こもり等の問題を防ぐことができる。また、このような自己温度調節機能により、コントローラや温度センサ等を用いた温度制御の負担を減らすことができ、制御にかかるコストも削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−321346号公報
【特許文献2】実用新案登録3038310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、PTCインクはカーボンインクに比べインク層としての強度が低い。そのため、前記した床暖房ヒータ100のカーボンインク層20に代えてPTCインク層を用いると、フィルム17に剥離力が加わった際に、PTCインク層が分裂することでフィルム17が剥離しやすくなる。施工時には床暖房ヒータ100を丸めて持ち運ぶので、この際にフィルム17の剥がれが生じ品質が低下するなどの問題がある。
【0012】
上記の点はPTCインクの樹脂の割合を増やせば改善するが、PTC特性が損なわれ、温度上昇に伴う抵抗の増加量が小さくなる問題がある。また、樹脂の割合を多くすると床暖房ヒータの層厚が大きくなり丸めて落ち運ぶことができず作業性が低下する。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、良好なPTC特性を確保しつつ、フィルムの接着性を高めた床暖房ヒータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するための本発明は、床暖房に用いられる床暖房ヒータであって、前記床暖房ヒータは、帯状の長尺物であり、下面の樹脂製のフィルム上に、PTC特性を有する発熱体であるPTCインク層、導線、および電極を形成し、上面に樹脂製のフィルムを接着して構成され、前記PTCインク層は、前記フィルム上の複数の領域のそれぞれで、間隔を空けて複数配置され、上面のフィルムが、前記PTCインク層の間で下面のフィルムに直接接着され、複数の前記領域の間に、前記床暖房ヒータの取り付けを行うための孔が設けられ、前記PTCインク層はタイル状に間隔を空けて複数設けられ、前記フィルムが露出する箇所が略格子状に存在し、前記電極は、前記床暖房ヒータの両側辺に沿って設けられ、一方の電極から前記床暖房ヒータの幅方向に延びる第1の前記導線と、他方の電極から前記床暖房ヒータの幅方向に延びる第2の前記導線とが、前記床暖房ヒータの長手方向に交互に配置され、第1の前記導線と、その片側の第2の前記導線との間にのみ前記PTCインク層が設けられ、もう片側の第2の前記導線との間では前記フィルムが前記床暖房ヒータの幅方向に連続して露出することを特徴とする床暖房ヒータである。
【0015】
本発明の床暖房ヒータは、PTCインク層の間に露出した下面のフィルムが上面のフィルムと直接接着するので、上面のフィルムの接着性が確保され、フィルムの剥離を防止できる。さらに、フィルムの剥離を防ぐためにPTCインク層の樹脂の割合を多くする必要がないので良好なPTC特性を確保でき、かつ床暖房ヒータを薄厚とできるので巻いて持ち運びができ作業性も高い。
【0017】
また、ヒータ長手方向に沿って下面のフィルムが露出し、この露出箇所で上面のフィルムと下面のフィルムが強く接着される。従って、上面のフィルムの接着力がヒータ長手方向に渡って確保され、上面のフィルムの剥がれが生じにくくなる。
【0018】
前記PTCインク層は、前記フィルム上の前記床暖房ヒータの長手方向の複数の前記領域のそれぞれに配置され、上面のフィルムが、前記床暖房ヒータの幅方向に隣り合う前記PTCインク層の間で下面のフィルムに接着され、複数の前記領域の間に、前記床暖房ヒータの取り付けを行うための孔が前記床暖房ヒータの幅方向に複数設けられることが望ましい。

【0019】
この床暖房ヒータでは、正極と負極の各々から延びる導線をヒータ長手方向に交互に配置し、導線の間のPTCインク層に通電して発熱させる。PTCインク層をヒータ長手方向に沿った帯状に形成し、ヒータ幅方向に間隔を空けて配置することで、このような床暖房ヒータの構成にPTCインク層の配置を適合させ、接着性を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、良好なPTC特性を確保しつつ、フィルムの接着性を高めた床暖房ヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】床暖房ヒータ1を示す図
図2】フィルム17の接着性を示す図
図3】床暖房ヒータ1aを示す図
図4】床暖房ヒータ100を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の実施形態に係る床暖房ヒータ1を示す図である。図1(a)は床暖房ヒータ1の平面、図1(b)は図1(a)の線A−Aに沿った断面を示す。床暖房ヒータ100は帯状の長尺物であるが、図1(a)では長手方向の一部のみ示している。また図1(a)では床暖房ヒータ1の上面のフィルム17の図示を省略している。
【0024】
床暖房ヒータ1は、施工時には巻いて持ち運び、適当な長さだけ切断して敷設する。床暖房ヒータ1は、例えば床下の断熱材等の上に敷設され、その上にフローリング、ソフトシート、タイル、石材、カーペット、薄畳、コルク等が敷設される。
【0025】
床暖房ヒータ1では、PETによるフィルム11上に、発熱体であるPTCインク層30が設けられる。PTCインク層30は、ヒータ長手方向(図1(a)の左右方向に対応する)の複数の領域10に設けられる。
【0026】
PTCインク層30はPTCインクを印刷することにより形成される。PTCインクは、前記したように、例えばカーボンブラック等の導電性粒子と、フッ素系樹脂等の樹脂とを混合して製造できる。
【0027】
PTCインク層30は、ヒータ長手方向に延びる帯状に設けられる。PTCインク層30は、ヒータ幅方向(図1(a)の上下方向に対応する)に間隔を空けて複数配置される。ヒータ幅方向に隣り合うPTCインク層30の間では、下面のフィルム11が露出する。
【0028】
フィルム11の両側辺には、正負の電極13a、13bがそれぞれ設けられる。電極13a、13bは、銀等を印刷することにより形成される。ここでは電極13aを正極、電極13bを負極とするが、逆でもよい。
【0029】
PTCインク層30の上には、銅箔等により導線15a、15bが形成される。導線15a、15bは、電極13a、13bの各々からヒータ幅方向に複数のPTCインク層30に渡って延びるように設けられる。電極13aから設けられる導線15aと、電極13bから設けられる導線15bとは、ヒータ長手方向に交互に配置される。
【0030】
領域10の間には、床暖房ヒータ1の施工用の孔40が設けられる。孔40はヒータ幅方向に複数設けられ、これらの孔40を用いて床下の根太等に床暖房ヒータ1の取り付けが行える。
【0031】
床暖房ヒータ1の上面はPETによるフィルム17で覆われる。前記したように、フィルム17の下面にはホットメルト接着剤等の接着層(不図示)が設けられる。
【0032】
本実施形態では、フィルム17の下面の接着層が、PTCインク層30だけでなく、PTCインク層30の間に露出したフィルム11にも直接接着する。フィルム17の接着層とフィルム11とは強く接着するので、フィルム17の接着性が確保され、フィルムの剥離を防止できる。
【0033】
図2に、本実施形態のようにPTCインク層30を間隔を空けて配置した場合と、PTCインク層30を間隔を空けずに連続的に形成した場合のフィルム17の接着性を剥離試験により測定した結果を示す。
【0034】
剥離試験は、ISO 11339(接着剤−軟質材同士の接着部のT字はく離試験)に対応するKSM(韓国国家標準規格) ISO 11339標準に規定されるT−剥離テストにより測定した。
【0035】
T−剥離テストは、被着材どうしを接着したサンプルについて、各被着材を試験機のつかみ具で掴んで所定の速度で逆方向に移動させる試験であり、剥離できた時の引張力を剥離強度とする。ここでは上記の速度(つかみ移動速度)を10mm/min、テスト時の温度と湿度をそれぞれ23±2(℃)、50±5(%RH)とした。またサンプルの幅は25mmとした。
【0036】
図2の「PTC1」はPTCインク層30を間隔を空けて配置した場合の結果であり、「PTC2」はPTCインク層30を間隔を空けずに連続的に形成した場合の結果である。項目「テスト結果」に示すように、PTCインク層30を間隔を空けて配置した場合の剥離強度は77.25(N/25mm)、間隔を空けずに連続的に形成した場合の剥離強度は41.06(N/25mm)となった。これにより、PTCインク層30を間隔を空けて配置した場合にフィルム17の接着性が向上したことがわかった。
【0037】
床暖房ヒータ1は、不図示のコントローラにより、導線15a、15bの間のPTCインク層30への通電のオン/オフを制御し、通電に伴うPTCインク層30の発熱による床暖房を行う。前記したように、PTCインク層30は温度が上昇するにつれ抵抗が増加するPTC特性を有しており、温度が上昇すると通電量は低下する。従って、PTCインク層30の温度は上限値に収束することとなり熱こもり等の問題が生じない。また、このような自己温度調節機能により、コントローラや温度センサ等を用いた温度制御の負担を減らすことができ、制御にかかるコストも削減できる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の床暖房ヒータ1は、PTCインク層30の間に露出した下面のフィルム11が上面のフィルム17と直接接着するので、上面のフィルム17の接着性が確保され、フィルムの剥離を防止できる。さらに、フィルム17の剥離を防ぐためにPTCインク層30の樹脂の割合を多くする必要がないので良好なPTC特性を確保でき、かつ床暖房ヒータ1を薄厚とできるので巻いて持ち運びができ作業性も高い。
【0039】
また、床暖房ヒータ1は帯状の長尺物であり、PTCインク層30がヒータ幅方向に間隔を空けて複数配置される。従って、ヒータ長手方向に沿って下面のフィルム11が露出することとなり、この露出箇所で上面のフィルム17と下面のフィルム11が強く接着される。そのため、上面のフィルム17の接着力がヒータ長手方向に渡って確保され、床暖房ヒータ1のヒータ長手方向を丸めて持ち運んでも、上面のフィルム17の剥がれが生じにくくなる。
【0040】
また、床暖房ヒータ1では、電極13a、13bの各々から延びる導線15a、15bをヒータ長手方向に交互に配置し、導線15a、15bの間のPTCインク層30に通電して発熱させる。PTCインク層30をヒータ長手方向に沿った帯状に形成し、ヒータ幅方向に間隔を空けて配置することで、このような床暖房ヒータ1の構成にPTCインク層30の配置を適合させ、接着性を高めることができる。
【0041】
しかしながら、本発明はこれに限ることはない。例えばPTCインクは前記したものに限らず、導電性粒子や樹脂の種類、あるいはその比率等もPTC特性やインク層としての強度を考慮して様々に定めることができる。例えばPTCインクにおける導電性粒子の比率は30%以上50%以下とし、PTCインクの残部である樹脂の比率を50%以上70%以下とするのが望ましい。樹脂の比率が70%を超えるとPTC特性が損なわれ、50%を下回ると強度が低すぎ、前述したようなインク層の分裂によるフィルム17の剥離が簡単に生じてしまうためである。導電性粒子と樹脂の比率を上記の範囲内に保つことで、良好なPTC特性と、ある程度の強度が実現できる。例えば強度を最大限まで向上させる観点からは、導電性粒子と樹脂の比率は30(%):70(%)程度とするのがよい。
【0042】
また、本実施形態ではPTCインク層30を帯状に設けたが、PTCインク層30の配置もこれに限らない。例えば図3の床暖房ヒータ1aに示すように、PTCインク層30aを矩形タイル状に設けてもよい。
【0043】
図3の例では、導線15a、15bがヒータ長手方向に交互に配置されるが、導線15aと、その片側の導線15bとの間にのみPTCインク層30aが設けられ、もう片側の導線15bとの間ではPTCインク層30aが設けられない。さらに、PTCインク層30aはヒータ幅方向に間隔を空けて設けられており、下面のフィルム11が露出する箇所が略格子状に存在する。この場合でも上面のフィルム17が下面のフィルム11に直接接着し、接着性が向上する。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1、1a、100………床暖房ヒータ
10………領域
11、17………フィルム
13a、13b………電極
15a、15b………導線
20………カーボンインク層
30、30a………PTCインク層
図1
図2
図3
図4