(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、板状ワーク及び加熱装置の一例の構成、並びに加熱方法を模式的に示す。
【0014】
図1に示すワークW1は、全体が単一の加熱領域とされている。そして、ワークW1は、厚み及び幅が一定となっている。図示の例では、ワークW1は、一方の端部Lの中間点を通りワークW1の長手方向に沿って延びる軸線Xに関して略対象な長方形状に形成されている。
【0015】
ワークW1を加熱する加熱装置1は、給電部10と、電極11,12からなる電極対13と、移動機構14と、制御部15と、を備えている。
【0016】
給電部10は、電極対13に電流を供給する。給電部10から電極対13に供給される電流は制御部15によって調整される。
【0017】
電極対13を構成する電極11,12は、ワークW1(加熱領域)を幅方向に横断する長さを有し、ワークW1の幅方向に沿って配置される。そして、
図1に示す例では、電極12は、ワークW1の一方の端部Rに配置され、その位置に固定され、電極11は、ワークW1との接触を保ってワークW1の長手方向に沿って移動可能に、移動機構14によって支持されている。以下、電極11を移動電極といい、電極12を固定電極という。
【0018】
移動機構14は、制御部15の制御のもと、移動電極11をワークW1の長手方向に沿って一定速度で移動させる。
【0019】
ワークW1の加熱に際し、
図1に示す例では、固定電極12が配置されているワークW1の端部Rに移動電極11が配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11がワークW1の端部Rから端部Lに向けて一定速度で移動される。
【0020】
移動電極11の移動に伴い、移動電極11と固定電極12との間隔は次第に拡大される。そして、ワークW1において移動電極11と固定電極12との間に位置する区間に電流が流れ、加熱される。
【0021】
移動電極11が一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流を適宜調整する。これにより、ワークW1(加熱領域)を仮想的に区分してなり、移動電極11の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域(A
1,A
2,・・・A
n)毎の加熱温度を調整することが可能となる。
【0022】
移動電極11の移動方向に断面積が一定であるワークW1においては、基本的には、
図1(e)に示すように、移動電極11の移動方向に一致するワークW1の端部Rから端部Lに向けて温度上昇量が次第に小さくなる温度分布が得られる。そして、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、例えばワークW1の温度上昇量を全体的に増減させ、またワークW1の両端部の温度差を拡縮させることができる。
【0023】
図2は、
図1の加熱方法の変形例を示す。
【0024】
図2に示す例は、電極11,12毎に移動機構14を設け、移動電極11をワークW1の長手方向に沿ってワークW1の中央部から端部L側に向けて一定速度で移動させ、移動電極12をワークW1の長手方向に沿ってワークW1の中央部から端部R側に向けて一定速度で移動させるようにしたものである。なお、移動電極11,12の各々の移動速度は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0025】
本例では、基本的には、
図2(e)に示すように、ワークW1の中央部から両端部L,Rの各々に向けて温度上昇量が次第に小さくなる温度分布が得られる。そして、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、例えばワークW1の温度上昇量を全体的に増減させ、またワークW1の中央部と両端部L,Rの各々との温度差を拡縮させることができる。
【0026】
このように、ワークW1(加熱領域)をワークW1の幅方向に横断する長さを有する電極対13をワークW1の幅方向に沿ってワークW1に配置し、電極対13の間に電流を流しながら、移動電極11(又は移動電極11,12)を一定速度でワークW1の長手方向に沿って移動させ、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、ワークW1を仮想的に区分してなり、移動電極11(又は移動電極11,12)の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域毎の加熱温度を調整するができる。そこで、一つの電極対13だけであってもワークW1を所定の温度分布に加熱することができ、加熱装置1の構成を簡潔にできる。
【0027】
そして、電極対13に流れる電流を一定として移動電極11(又は移動電極11,12)の移動速度を制御する場合の速度制御に比べて、電極対13に流れる電流の制御は応答性に優れ、制御が容易である。それにより、ワークW1を所定の温度分布に容易に加熱することができる。
【0028】
以下に説明する例は、長手方向に沿って厚みや幅が変化した板状ワークを加熱するものである。
【0029】
図3は、本発明の実施形態を説明するための、板状ワーク及び加熱装置の一例の構成、並びに加熱方法を模式的に示す。
【0030】
図3に示すワークW2は、全体が単一の加熱領域とされている。そして、ワークW2は、厚みが一定であり、長手方向の一方の端部R側から他方の端部L側に向けて徐々に幅が狭くなっている。図示の例では、ワークW2は、端部Lの中間点を通りワークW2の長手方向に沿って延びる軸線Xに関して略対象な等脚台形状に形成されている。このように形成されたワークW2では、長手方向に沿う単位長さあたりの抵抗が、相対的に幅広の端部R側から相対的に幅狭の端部L側に向けて単調に増加している。
【0031】
ワークW2を加熱する加熱装置は、
図1に示した加熱装置1と同様に構成されており、給電部10と、電極11,12からなる電極対13と、移動機構14と、制御部15と、を備えている。
【0032】
電極対13を構成する電極11,12は、ワークW2(加熱領域)を幅方向に横断する長さを有し、ワークW2の幅方向に沿って配置される。そして、
図2に示す例では、電極12は、ワークW2の相対的に幅広の端部Rに配置され、その位置に固定されており、電極11が、ワークW2との接触を保ってワークW2の長手方向に沿って移動可能に、移動機構14によって支持されている。以下、電極11を移動電極といい、電極12を固定電極という。
【0033】
移動機構14は、制御部15の制御のもと、移動電極11をワークW2の長手方向に沿って一定速度で移動させる。
【0034】
ワークW2の加熱に際し、
図3に示す例では、固定電極12が配置されているワークW2の端部Rに移動電極11が配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11がワークW2の端部Rから端部Lに向けて一定速度で移動される。
【0035】
移動電極11が一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流を適宜調整する。これにより、ワークW2(加熱領域)を仮想的に区分してなり、移動電極11の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域(A
1,A
2,・・・A
n)毎の加熱温度を調整することが可能となる。
【0036】
特に、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が移動電極11の移動方向に単調に増加しているワークW2では、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW2を加熱することが可能である。
【0037】
図4は、ワークW2を所定の温度範囲に加熱する場合の電流調整のコンセプトを示す。
【0038】
図3(c)に示すように、ワークの全長をn個の長さΔlの仮想区分領域に分割して考える。第i区分領域のΔlを移動電極が通過する時の通電電流をI
i、通電時間をt
i(sec)とすると、第i区分領域の昇温θ
iは、移動電極がこの区分領域を通過以後加熱されるので、次式で与えられる。
【0039】
【数1】
ただし、ρ
eは抵抗率(Ω・m)、ρは密度(kg/m
3)、cは比熱(J/kg・℃)、A
iは第i区分領域の断面積(m
2)。
【0040】
各区分領域の温度がθ
1=θ
2=・・・=θ
nと一定になるためには、次式が満たされるように各区分領域での通電電流I
i及び通電時間t
i(電極移動速度V
i)を決めればよく、速度一定であればt
i=一定であるのでI
iだけを定めればよい。
【0042】
固定電極12がワークW2の端部Rに固定され、移動電極11がワークW2の端部Rから端部Lに向けて一定速度で移動される場合に、ワークW2において移動電極11と固定電極12との間に挟まれる通電区間は、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい端部R側から次第に拡大される。したがって、区分領域(A
1,A
2,・・・A
n)の各々における通電時間は異なり、端部R側の区分領域ほど通電時間が長くなる。
【0043】
そして、端部R側の区分領域及び端部L側の区分領域に同じ電流を同じ時間流した場合に、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい(断面積が相対的に大きい)端部R側の区分領域ほど生じる熱量が少ない。
【0044】
そこで、区分領域の各々における通電時間との関係で、ワークW2の形状や寸法から得られる区分領域の各々の抵抗の変化、つまりは移動電極11の移動方向に沿ったワークW2の単位長さあたりの抵抗の変化に基づき、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、区分領域の各々に生じる熱量を略等しくし、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW2を加熱することができる。
【0045】
図5は、
図3の加熱方法において、加熱開始からの経過時間と移動電極11の位置との関係、移動電極11の移動と電極対13の間に流す電流との関係、並びに加熱終了時におけるワークW2の温度分布の一例を示す。なお、
図5において、移動電極11の位置は、加熱開始時における移動電極11の初期位置(ワークW2の端部R)を原点とし、原点からの距離で示されている。
【0046】
図5に示す例では、移動電極11がワークW2の端部Rから端部Lに向けて一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流は次第に小さくなるように調整されている。ワークW2の端部Lを所定の温度範囲に加熱するため、移動電極11が端部Lに達した後の一定時間、移動電極11は端部Lに保持され、その間、移動電極11が端部Lに達した時点での電流が電極対13の間に流されている。かかる電流調整により、ワークW2は、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲に加熱される。
【0047】
図6から
図9は、
図3に示したワーク及び加熱装置並びに加熱方法の変形例を示す。
【0048】
図6に示す例では、電極11及び電極12を移動機構14によって支持し、移動電極11,12をワークW2の長手方向に沿って一定速度で一定の間隔を保って移動させるようにしたものである。
【0049】
移動電極11,12が一定速度で一定の間隔を保って移動されることにより、区分領域(A
1,A
2,・・・A
n)の各々における通電時間は略等しくなる。しかし、ワークW2の端部R側の区分領域及び端部L側の区分領域に同じ電流を同じ時間流した場合に、移動電極11,12の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい端部R側の区分領域ほど生じる熱量が少ない点は
図3に示した加熱方法と共通する。
【0050】
したがって、ワークW2の形状や寸法から得られる区分領域(A
1,A
2,・・・A
n)の各々の抵抗の変化、つまりは移動電極11,12の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗の変化に基づき、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、区分領域の各々に生じる熱量を略等しくし、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW2を加熱することができる。
【0051】
図7に示すワークW3は、厚みが一定であり、長手方向の中央部から一方の端部L側及び他方の端部R側に向けて徐々に幅が狭くなっており、中央部を境に略対称となっている。このように形成されたワークW3では、長手方向の中央部を境にワークW3を端部L側の加熱領域と、端部R側の加熱領域とに区分した場合に、加熱領域毎の長手方向に沿う単位長さあたりの抵抗の変化は、相対的に幅広の中央部側から相対的に幅狭の端部Lないし端部R側に向けて単調に増加している。
【0052】
ワークW3を所定の温度範囲に加熱するには、電極11,12毎に移動機構14を設け、電極対13の間に電流を流しながら、一方の移動電極11をワークW3の長手方向に沿ってワークW3の中央部から端部L側に向け、他方の移動電極12をワークW3の長手方向に沿ってワークW3の中央部から端部R側に向けて互いに同じ一定速度で移動させればよい。
【0053】
ワークW3の端部L側の加熱領域における通電区間は、端部L側の加熱領域において移動される移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さいワークW3の中央部側から次第に拡大される。また、ワークW3の端部R側の加熱領域における通電区間は、端部R側の加熱領域において移動される移動電極12の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さいワークW3の中央部側から次第に拡大される。
【0054】
そこで、ワークW3の形状や寸法から得られる区分領域の各々の抵抗の変化、つまりは移動電極11,12の移動方向に沿ったワークW3の単位長さあたりの抵抗の変化に基づき、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、区分領域の各々に生じる熱量を略等しくし、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW3を加熱することができる。
【0055】
図8に示すワークW4は、厚みが一定であり、長手方向の中央部から一方の端部L側及び他方の端部R側に向けて徐々に幅が広くなっており、中央部を境に略対称となっている。このように形成されたワークW4では、長手方向の中央部を境にワークW4を端部L側の加熱領域と、端部R側の加熱領域とに区分した場合に、加熱領域毎の長手方向に沿う単位長さあたりの抵抗の変化は、相対的に幅広の端部Lないし端部R側から相対的に幅狭の中央部に向けて単調に増加している。
【0056】
ワークW4を所定の温度範囲に加熱するには、ワークW4の端部L側の加熱領域、及び端部R側の加熱領域に電極対13及び移動機構14をそれぞれ設け、端部L側の加熱領域において、固定電極12を端部Lに配置し、移動電極11をワークW4の長手方向に沿って端部Lから中央部に向けて一定速度で移動させ、また、端部R側の加熱領域において、固定電極12を端部Rに配置し、移動電極11をワークW4の長手方向に沿って端部Rから中央部に向けて一定速度で移動させればよい。
【0057】
ワークW4の端部L側の加熱領域における通電区間は、端部L側の加熱領域において移動される移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい端部L側から次第に拡大される。また、ワークW4の端部R側の加熱領域における通電区間は、端部R側の加熱領域において移動される移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい端部R側から次第に拡大される。
【0058】
そこで、ワークW4の形状や寸法から得られる区分領域の各々の抵抗の変化、つまりは移動電極11の移動方向に沿ったワークW4の単位長さあたりの抵抗の変化に基づき、各電極対13の間に流れる電流を調整することにより、区分領域の各々に生じる熱量を略等しくし、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW4を加熱することができる。
【0059】
なお、各電極対13の移動電極11の間に挟まれるワークW4の中央部は、
図8(e)及び
図8(f)に示すように、各電極対13の移動電極11がワークW4の中央部に達した後、それらの移動電極11をワークW4から取り外し、各電極対13の固定電極12の間に電流を流すことによって通電加熱すればよい。
【0060】
ここまで、ワークの厚みが一定であるものとして、ワークの長手方向に沿う単位長さあたりの抵抗の変化が幅の変化によってもたらされるものとして説明したが、抵抗の変化は、厚みの変化、又は厚み及び幅の変化によってもたらされてもよい。
【0061】
図9に示すワークW5は、幅が一定であり、長手方向の一方の端部R側から他方の端部L側に向けて徐々に厚みが小さくなっている。このように形成されたワークW5では、長手方向に沿う単位長さあたりの抵抗が、相対的に肉厚の端部R側から相対的に肉薄の端部L側に向けて単調に増加している。
【0062】
ワークW5を所定の温度範囲に加熱するには、固定電極12を端部Rに配置し、移動電極11をワークW5の長手方向に沿って端部Rから端部Lに向けて一定速度で移動させればよい。
【0063】
ワークW5における通電区間は、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が相対的に小さい端部R側から次第に拡大される。
【0064】
そこで、ワークW5の形状や寸法から得られる区分領域の各々の抵抗の変化、つまりは移動電極11の移動方向に沿ったワークW5の単位長さあたりの抵抗の変化に基づき、電極対13の間に流れる電流を調整することにより、区分領域の各々に生じる熱量を略等しくし、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲にワークW5を加熱することができる。
【0065】
図10は、本発明の実施形態を説明するための、板状ワークの一例の構成を示し、
図11は、
図10のワークを加熱する加熱装置の構成及び加熱方法を示す。
【0066】
図10に示すワークW6は、その一部が加熱領域Aとされている。加熱領域Aは、厚みが一定であり、長手方向の一方の端部L側から他方の端部R側に向けて徐々に幅が狭くなっている。
【0067】
そして、加熱領域Aは、一方の端部Lの中間点を通りワークW6の長手方向に沿って延びる軸線Xに関して非対称に形成されており、一方の端部Lに対して他方の端部Rが軸線Xと直交する方向に偏奇している。そのため、相対的に幅広の端部Lを軸線Xに沿って掃引してなる掃引領域S1を仮定した場合に、加熱領域Aには掃引領域S1から外れる領域Eが存在する。これに対し、端部Lを両端部L,Rの中間点同士を結ぶ中心線Yに沿って掃引してなる掃引領域S2を仮定した場合に、加熱領域Aは、全体が掃引領域S2に包含される。
【0068】
ワークW6を加熱する加熱装置は、
図1に示した加熱装置1と同様に構成されており、給電部10と、電極11,12からなる電極対13と、図示しない移動機構及び制御部と、を備えている。
【0069】
ただし、本例では、電極対13を構成する電極11,12が、中心線Yと直交する方向に加熱領域Aを横断する長さを有し、中心線Yと直交する方向に沿ってワークW6に配置される。そして、
図11に示す例では、電極12は、ワークW6の相対的に幅広の端部Lに配置され、その位置に固定されており、電極11は、ワークW6との接触を保って中心線Yに沿って移動可能に、移動機構によって支持されている。以下、電極11を移動電極といい、電極12を固定電極という。
【0070】
移動機構は、制御部15の制御のもと、移動電極11を中心線Yに沿って一定速度で移動させる。
【0071】
ワークW6の加熱に際し、固定電極12が配置されているワークW6の端部Lに移動電極11が配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11がワークW6の端部Lから端部Rに向けて一定速度で移動される。
【0072】
ここで、電極対13に流れる電流は、移動電極11と固定電極12との間に挟まれるワークW6の通電区間において典型的には最短経路を流れる傾向にある。したがって、移動電極11及び固定電極12が、
図12に示すように軸線Xと直交する方向に沿って配置された場合に、加熱領域Aにおいて掃引領域S1から外れる領域Eには電流が流れ難くなる。
【0073】
これに対し、移動電極11及び固定電極12が中心線Yと直交する方向に沿って配置されている場合に、加熱領域Aの全体が掃引領域S2に包含されることから、ワークW6の通電区間には略均一に電流が流れる。それにより、ワークW6を所期の温度分布に加熱することができる。
【0074】
以下に説明する例は、板状ワークに第1加熱領域と第2加熱領域とを設け、第1加熱領域と第2加熱領域とを互いに異なる温度範囲に加熱するようにしたものである。
【0075】
図13は、本発明の実施形態を説明するための、板状ワーク及び加熱装置の他の例の構成、並びに加熱方法を示す。
【0076】
図13に示すワークW7は、厚みが一定であり、長手方向の一方の端部R側から他方の端部L側に向けて徐々に幅が狭くなっている。そして、ワークW7は、相対的に幅狭の端部L側に設けられた第1加熱領域Aと、相対的に幅広の端部R側に設けられた端部第2加熱領域Bとを有しており、第2加熱領域Bは、長手方向に第1加熱領域Aと隣り合って第1加熱領域Aと一体に設けられている。第1加熱領域Aの素材と第2加熱領域Bの素材とは異なっており、両者は溶接されて一体化されている。
【0077】
本例では、第1加熱領域Aのみ加熱され、第2加熱領域Bは非加熱とされる。このようなワークW7は、例えば衝撃吸収部材に用いられ、第1加熱領域Aは加熱されることによって硬度が高められるのに対し、第2加熱領域Bは非加熱とされることで衝撃等によって変形し易いよう軟質に保たれる。
【0078】
ワークW7を加熱する加熱装置は、
図1に示した加熱装置1と同様に構成されており、給電部10と、電極11,12からなる電極対13と、移動機構14と、制御部15と、を備えている。
【0079】
電極対13を構成する電極11,12は、ワークW7の第1加熱領域Aを幅方向に横断する長さを有し、ワークW7の幅方向に沿って配置される。そして、
図13に示す例では、電極12は、第1加熱領域Aにおいて相対的に幅広の端部、即ち第1加熱領域Aと第2加熱領域との接合部C側の端部に配置され、その位置に固定されており、電極11は、ワークW7との接触を保って第1加熱領域AにおいてワークW7の長手方向に沿って移動可能に、移動機構14によって支持されている。以下、電極11を移動電極といい、電極12を固定電極という。
【0080】
移動機構14は、制御部15の制御のもと、移動電極11をワークW7の長手方向に沿って一定速度で移動させる。
【0081】
ワークW7の加熱に際し、
図13に示す例では、固定電極12が配置されている第1加熱領域Aの接合部C側の端部に移動電極11が配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11が第1加熱領域Aの接合部C側とは反対側の端部Lに向けて一定速度で移動される。
【0082】
移動電極11が一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流を適宜調整する。これにより、第1加熱領域Aを仮想的に区分してなり、移動電極11の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域毎の加熱温度を調整することが可能となる。
【0083】
特に、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が移動電極11の移動方向に単調に増加している第1加熱領域Aでは、
図3に示した加熱方法と同様に、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲に第1加熱領域Aを加熱することが可能である。
【0084】
図14から
図16は、
図13に示した板状ワーク及び加熱装置並びに加熱方法の変形例を示す。
【0085】
図14に示す例は、ワークW7の第1加熱領域Aを熱間加工温度T
1に加熱し、第2加熱領域Bを第1加熱領域Aの加熱温度T
1よりも低い温間加工温度T
2に加熱するようにしたものである。
【0086】
第2加熱領域Bを加熱するには、電極12にも移動機構14を設け、ワークW7との接触を保って第2加熱領域BにおいてワークW7の長手方向に沿って移動可能に電極12を支持し、移動電極12を第2加熱領域Bの接合部C側の端部から反対側の端部Rに向けて一定速度で移動させればよい。その際、第1加熱領域Aにおいて移動される移動電極11が端部Lに到達する以前に、第2加熱領域Bにおいて移動される移動電極12が端部Rに到達するように、移動電極12を移動させる。移動電極11,12のそれぞれの移動開始時間及び移動終了時間については第1加熱領域A及び第2加熱領域Bの左右方向の寸法や各加熱領域の加熱温度に応じて適宜設定すればよい。
【0087】
なお、
図14に示した例では、加熱開始時において、移動電極11,12のいずれもが第1加熱領域Aに配置されており、接合部Cは、第2加熱領域Bと同じ温間加工温度T
2に加熱される。これに対し、
図15に示すように、加熱開始時において、移動電極11を第1加熱領域Aに、移動電極12を第2加熱領域Bに配置するようにして、接合部Cを第1加熱領域Aと同じ熱間加工温度T
1に加熱するようにしてもよい。
【0088】
図16に示すワークW8は、第1加熱領域Aの厚みと第2加熱領域Bの厚みに差がある点で
図14に示したワークW7と異なっている。第1加熱領域Aと第2加熱領域Bとの接合部Cには、両加熱領域A,Bの厚みの差により傾斜が生じており、溶接により凹凸が生じている場合もある。このような場合には、接合部Cには直接通電しないことが好ましい。電極を接合部C上でスライドさせた際にスパークが生じる虞があるためである。
【0089】
ワークW8の加熱に際し、まず第1加熱領域Aが加熱され、移動電極11及び固定電極12が第1加熱領域Aの接合部C側の端部に配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11が第1加熱領域Aの接合部C側とは反対側の端部Lに向けて一定速度で移動される。
【0090】
移動電極11が一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流を適宜調整する。これにより、第1加熱領域Aを仮想的に区分してなり、移動電極11の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域毎の加熱温度を調整することが可能となる。
【0091】
次いで第2加熱領域Bが加熱され、移動電極11及び固定電極12が第2加熱領域Bの接合部C側とは反対側の端部Rに配置される。そして、電極対13の間に電流が流され、その状態で、移動電極11が第2加熱領域Bの接合部C側の端部に向けて一定速度で移動される。
【0092】
移動電極11が一定速度で移動される間、電極対13の間に流れる電流を適宜調整する。これにより、第2加熱領域Bを仮想的に区分してなり、移動電極11の移動方向に沿って並ぶ複数の区分領域毎の加熱温度を調整することが可能となる。
【0093】
特に、第1加熱領域A及び第2加熱領域Bの各々は、移動電極11の移動方向に沿う単位長さあたりの抵抗が移動電極11の移動方向に単調に増加している。よって、
図3に示した加熱方法と同様に、実質的に均一な温度と同視し得る所定の温度範囲に第1加熱領域A及び第2加熱領域Bを加熱することが可能である。
【0094】
接合部Cは、両側の第1加熱領域A及び第2加熱領域Bから伝達される熱によって加熱される。
【0095】
以上説明した加熱方法は、例えば加熱後の急冷による焼入処理に用いることもでき、また、加熱後の高温状態でプレス型により加圧してホットプレス成形を行う、プレス成形品の作製方法に用いることもできる。上述した加熱方法によれば、加熱ための設備が簡素な構成でよく、加熱ための設備をプレス装置に近接配置したり、一体に組み込むことができる。そのため、板状ワークを加熱後に短時間でプレス成形することができ、加熱された板状ワークの温度低下を抑制してエネルギーロスを削減し、また板状ワークの表面の酸化を防止して高品質なプレス成形品を作製することが可能である。