(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
【0017】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態におけるサスペンション装置S1は、
図1に示すように、図外の鞍乗車両の車体と車軸との間に介装されて、車輪を車体に懸架する一対のフロントフォークFfR,FfLとを備えて構成されている。
【0018】
各フロントフォークFfR,FfLは、ともに、アウターチューブ1R,1Lとアウターチューブ1R,1L内に摺動自在に挿入されるインナーチューブ2R,2Lとを有するフォーク本体FR,FLと、フォーク本体FR,FL内に収容されてフォーク本体FR,FLの伸縮に伴って伸縮して減衰力を発揮するダンパDR,DLとを備えて構成されている。
【0019】
以下、サスペンション装置S1の各部について詳細に説明する。アウターチューブ1R,1Lおよびインナーチューブ2R,2Lは、共に筒状で一端が閉塞されている。フォーク本体FR,FLは、アウターチューブ1R,1L内にインナーチューブ2R,2Lを軸受8R,9R,8L,9Lを介して摺動自在に挿入して構成されていて、伸縮自在とされている。また、アウターチューブ1R,1Lとインナーチューブ2R,2Lとの間に設けたシール部材10R,10Lにより、フォーク本体FR,FLの内部に密閉される空間が形成されている。
【0020】
なお、本実施の形態のフロントフォークFfR,FfLでは、
図1に示したように、アウターチューブ1R,1Lを上方にし、インナーチューブ2R,2Lを下方に配置した所謂倒立型のフロントフォークとして構成されている、逆に、アウターチューブ1R,1Lを下方にしてインナーチューブ2R,2Lを上方に配置する所謂正立型のフロントフォークとして構成されてもよい。
【0021】
そして、ダンパDR,DLは、インナーチューブ2R,2Lの底部に
図1中下端となる一端が固定されるシリンダ3R,3Lと、シリンダ3R,3L内に摺動自在に挿入されてシリンダ3R,3L内を作動油が充填される伸側室5R,5Lと圧側室6R,6Lとに区画するピストン4R,4Lと、シリンダ3R,3L内に移動自在に挿入されて一端がピストン4R,4Lに連結されるとともに他端がアウターチューブ1R,1Lの頂部に連結されるピストンロッド7R,7Lとを備えており、フォーク本体FR,FL内に収容されている。そして、フォーク本体FR,FL
が伸縮する、つまり、アウターチューブ1R,1Lとインナーチューブ2R,2Lとが軸方向に相対移動する際に、シリンダ3R,3Lとピストンロッド7R,7Lも軸方向に相対移動してダンパDR,DLが伸縮し減衰力を発揮するようになっている。
【0022】
より詳細には、ダンパDR,DLは、さらに、ピストン4R,4Lに設けた伸側室5R,5Lと圧側室6R,6Lとを連通する伸側減衰通路11R,11Lと圧側減衰通路12R,12Lと、シリンダ3R,3Lの下方に設けたバルブケース13R,13Lと、バルブケース13R,13Lに設けられてシリンダ3R,3L内をフォーク本体FR,FL内であってダンパDR,DL外に連通する排出通路14R,14Lと吸込通路15R,15Lとを備えている。そして、フォーク本体FR,FL内であってダンパDR,DL外の空間は、リザーバ16R,16Lとして機能していて、作動油と気体が充填されている。
【0023】
伸側減衰通路11R,11Lは、途中に符示しない減衰弁を備えていて伸側室5R,5Lから圧側室6R,6Lへ向かう作動油の流れのみを許容しつつこの流れに抵抗を与えるようになっている。圧側減衰通路12R,12Lは、途中に符示しない減衰弁を備えていて圧側室6R,6Lから伸側室5R,5Lへ向かう作動油の流れのみを許容しつつこの流れに抵抗を与えるようになっている。
【0024】
排出通路14R,14Lは、途中に符示しない減衰弁を備えていて圧側室6R,6Lからリザーバ16R,16Lへ向かう作動油の流れのみを許容しつつこの流れに抵抗を与えるようになっている。吸込通路15R,15Lは、途中に符示しない逆止弁を備えていてリザーバ16R,16Lから圧側室6R,6Lへ向かう作動油の流れのみを許容するようになっている。
【0025】
したがって、このダンパDR,DLの場合、伸長作動を呈すると、ピストン4R,4Lがシリンダ3R,3Lに対して
図1中上昇して、圧縮される伸側室5R,5Lから作動油が伸側減衰通路11R,11Lを通って圧側室6R,6Lへ移動する。伸側減衰通路11R,11Lが作動油の流れに抵抗を与えるので、伸側室5R,5Lの圧力が上昇する一方、圧側室6R,6Lには、ピストンロッド7R,7Lがシリンダ3R,3Lから退出する体積分の作動油が吸込通路15R,15Lを介してリザーバ16R,16Lから供給され、圧側室6R,6Lはリザーバ圧となる。よって、伸側室5R,5Lと圧側室6R,6Lの圧力に差ができ、この差圧がピストン4R,4Lに作用してダンパDR,DLは伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0026】
対して、ダンパDR,DLが収縮作動を呈すると、ピストン4R,4Lがシリンダ3R,3Lに対して
図1中下降して、圧縮される圧側室6R,6Lから作動油が圧側減衰通路12R,12Lを通って伸側室5R,5Lへ移動する。また、ピストンロッド7R,7Lがシリンダ3R,3L内へ侵入する体積分の作動油が排出通路14R,14Lを介してリザーバ16R,16Lへ排出される。圧側減衰通路12R,12Lおよび排出通路14R,14Lが作動油の流れに抵抗を与えるので、圧側室6R,6Lの圧力が上昇する。対して、拡大する伸側室5R,5Lの圧力は下降するので、伸側室5R,5Lと圧側室6R,6Lの圧力に差ができ、この差圧がピストン4R,4Lに作用してダンパDR,DLは収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。なお、前記したところでは、圧側減衰通路12R,12Lが通過する作動油の流れに抵抗を与えるようになっているが、ダンパDR,DLの収縮作動時に排出通路14R,14Lによってシリンダ3R,3L内が昇圧されてダンパDR,DLは、圧側減衰力を発揮できる。よって、圧側減衰通路12R,12Lは、減衰弁の代わりに抵抗をほとんど与えない逆止弁を備える構成を採用してもよい。
【0027】
また、一方のダンパDRにおけるシリンダ3Rの内径は、他方のダンパDLにおける内径よりも大径となっており、ピストン4Rの外径もピストン4Lの外径よりも大径となっている。他方、ピストンロッド7R,7Lの外径は左右のダンパDR,DLとで一致させてある。よって、ピストン4Rの伸側室5R側の受圧面積は、ピストン4Lの伸側室5L側の受圧面積よりも大きく、ピストン4Rの圧側室6R側の受圧面積は、ピストン4Lの圧側室6L側の受圧面積よりも大きくなっている。
【0028】
減衰通路における減衰弁を円形のシート面を持つポペット弁として、減衰弁の閉じ遅れについて説明する。大径なシリンダを持つダンパのシリンダ断面積をA
L、小径なシリンダを持つダンパのシリンダ断面積をA
S、大径なシリンダを持つダンパの減衰通路における通路径をd
L、小径なシリンダを持つダンパの減衰通路における通路径をd
S、大径なシリンダを持つダンパの減衰弁が減衰通路の開口端を開放する際の減衰弁の開口端からのリフト量をh
L、小径なシリンダを持つダンパの減衰弁が減衰通路の開口端を開放する際の減衰弁の開口端からのリフト量をh
S、大径なシリンダを持つダンパの作動によって圧縮される室の圧力をP
L、小径なシリンダを持つダンパの作動によって圧縮される室の圧力をP
S、流量係数をc、作動油の密度をρとし、シリンダ内径の異なる二つのダンパを同じストローク速度Vmで作動させて同じ減衰力Fを発揮させる。
【0029】
大径なシリンダを持つダンパと小径なシリンダを持つダンパが同じストローク速度で発生する減衰力Fが等しく、ピストンの受圧面積がシリンダ径に等しいので、以下の式(1)が成り立つ。
【0030】
【数1】
また、圧縮される室の圧力と流量の関係を示すオリフィスの式と式(1)を用いると、以下の式(2)が成り立つ。
【0031】
【数2】
以上、式(2)を整理すると、式(3)を得る。
【0032】
【数3】
つづいて、減衰弁が開弁状態にあってダンパの作動方向が切換わると減衰弁は閉弁するが、減衰弁と減衰通路との間の隙間にある作動油は、減衰弁の閉弁によって減衰通路へ押し出される。減衰弁が閉弁するまではダンパが減衰力を発揮できない状態であり、ダンパの作動方向の切換わりから減衰弁が閉弁するまでの時間は減衰力を発揮できない無断時間となる。大径なシリンダを持つダンパの無断時間をt
L、小径なシリンダを持つダンパの無駄時間をt
Sとすると、減衰弁と減衰通路との間の隙間にある作動油量は、無駄時間にピストンが変位して圧縮される室から減衰通路に押し出される作動油量に等しい。すると、以下の式(4)、(5)が成り立つ。
【0034】
【数5】
式(4)と式(5)を無駄時間t
L,t
Sについて整理して両者の比を求めると以下の式(6)の結果を得る。式(6)を見ると、無駄時間の比t
L/t
Sは、シリンダ断面積の比A
L/A
Sの二乗に比例し、リフト量の比h
S/h
Lに正比例することが分かる。A
L/A
Sは、シリンダ断面積の比であるから、配置スペースの関係上A
L/A
S=(h
L/h
S)
2となりやすい。結局、大まかには、無駄時間の比t
L/t
Sは、シリンダ断面積の比A
L/A
Sの3/2乗に比例することになって、シリンダ径が大きい程、ダンパの作動方向が切換わってから減衰力を発揮するまでの無駄時間が長くなる傾向となるのが分かる。
【0035】
【数6】
転じて、作動油は、非圧縮性であるが、気体が作動油中に混入していると見かけ上圧縮性のある液体として振る舞う。シリンダ内の油柱高さをLとし、気体混入率をχとすると、大径なシリンダを持つダンパのシリンダ内に含まれる気体の体積V
Lと、小径なシリンダを持つダンパのシリンダ内に含まれる気体の体積V
Sは、式(7)および式(8)で示される。
【0037】
【数8】
また、作動油を圧縮してダンパの発生する減衰力が目標減衰力Fに達した場合において、大径なシリンダを持つダンパにおける気体の体積をV
LM、小径なシリンダを持つダンパにおける気体の体積をV
SMとし、圧縮前の気体の圧力をP
airとすると、ボイルの法則より、式(9)および式(10)が成り立つ。
【0039】
【数10】
気体の体積変化をそれぞれΔV
L,ΔV
Sとして、これら体積変化を求めると、式(11)および式(12)を得る。ただし、ΔV
L=V
L−V
LM、ΔV
S=V
S−V
SMであり、二本のシリンダは同じ目標減衰力を持つことからP
L=F/A
L、P
S=F/A
Sである。
【0041】
【数12】
作動油の圧縮を始めてからダンパの減衰力が目標減衰力Fに達するまでの時間をそれぞれt
LP,t
SPとすると、この時間t
LP,t
SPの間にピストンがストローク速度V
mで移動して圧縮される体積が気体の体積変化ΔV
L,ΔV
Sに等しいので、式(13)および式(14)を得る。
【0043】
【数14】
式(13)と式(14)を時間t
Lp,t
Spについて整理して両者の比を求めると以下の式(15)の結果を得る。式(15)を見ると、A
L>A
Sの関係から、時間の比t
Lp/t
Spは、0以上1未満の値採り、シリンダ径が大きい程、作動油の圧縮性に伴うシリンダ内の圧力上昇の遅れは小さくなる傾向となるのが分かる。
【0044】
【数15】
以上より、大きい内径のシリンダ3Rを持つダンパDRの減衰力の特性は、
図2中の破線で示すように、減衰力発生応答に対して無駄時間が大きくなる傾向となるものの、シリンダ3R内の圧力上昇に対しては時間遅れが生じにくい特性となる。反対に、小さい内径のシリンダ3Lを持つダンパDLの減衰力の特性は、
図2中の一点鎖線で示すように、減衰力発生応答に対して無駄時間が小さくなる傾向となるものの、シリンダ3L内の圧力上昇に対しては遅れが大きくなる特性となる。
【0045】
そして、サスペンション装置S1では、シリンダ内径が大きなダンパDRとシリンダ内径が小さいダンパDLを備えている。サスペンション装置S1では、フロントフォークFfR,FfLの作動方向が切換わる際に、ダンパDRでは減衰力発生までの無駄時間が大きいが、ダンパDLでは、減衰力発生までの無駄時間が小さく、速やかに減衰力を発揮できる。また、サスペンション装置S1では、ダンパDLではシリンダ3L内の圧力上昇に時間がかかるが、ダンパDRでは、シリンダ3R内の圧力上昇に時間がかからないので、減衰力が速やかに立ち上がる特性を実現できる。よって、サスペンション装置S1のフロントフォークFfR,FfLの両方が出力するトータルの減衰力の特性は、
図2の実線で示すように、無駄時間が少なく、圧力上昇が鈍くならず減衰力がストローク速度の上昇に伴って速やかに上昇するような特性となる。したがって、本発明のサスペンション装置S1によれば、シリンダ内径の設定による不利を受けにくく、鞍乗車両における乗り心地を向上でき、また、減衰力特性の設計の自由度も向上する。
【0046】
また、内径が小径なシリンダ3Lを左右のダンパDR,DLに用いる場合、減衰弁の漏れ隙間の影響でストローク速度が0の近傍であると、減衰力が出にくくなるが、本サスペンション装置S1では、大径なシリンダ3Rを有するダンパDRを備えているので、ストローク速度が0近傍で推移しても減衰力の発揮が可能となる。
【0047】
さらに、内径が大径なシリンダ3Rを有するダンパDRを備えているので、フロントフォークFfRをエアサス化する際に、シリンダ3R内に最伸長時の気体ばねの初期反力をキャンセルするバランスばねを無理なく設置できる。つまり、サスペンション装置S1をエアサス化が可能となる。
【0048】
そしてさらに、減衰弁を可変減衰弁としてフィードバック制御するようにした場合、特定の固有振動数で制御入力と連成して発信する可能性が高くなるが、サスペンション装置S1では、シリンダ内径が大きなダンパDRとシリンダ内径が小さいダンパDLを備えているので、両方のフロントフォークFfR,FfLの機械的な固有振動数を容易に異なるように設定でき、左右のフロントフォークFfR,FfLが同時に発振してしまい制御が困難となる事態を回避できる。
【0049】
また、内径が小径なシリンダ3Lを有するダンパDLを備えているので、ダンパDLとフォーク本体FLとの間に大きな空間を確保でき、ダンパDLの外周に懸架ばねを配置可能で、懸架ばねの選定の自由度も向上する。さらに、ダンパDLの外周に懸架ばねの一端を支持する環状のばね受を取り付け可能であり、このばね受をリザーバ16L内の作動油中に侵入させて制限流路を形成して、減衰力を発揮できる。
【0050】
一般的なダンパが伸長する場合を考えると、伸側減衰通路を作動油が通過して、伸側室と圧側室とに差圧が生じる。オリフィスの式から、伸側室と圧側室との差圧は流量の二乗に比例する。流量は、ピストンがシリンダで押しのける容積であるから、ダンパのストローク速度にピストンの伸側室側の受圧面積を乗じた値となる。さらに、減衰力は、差圧にピストンの伸側室側の受圧面積を乗じた値となる。ただし、シリンダ径が大きい場合は、オリフィス径も大きくなる傾向になり、オリフィス開口面積とピストンの受圧面積が比例する関係になりやすい。以上より、ダンパが発揮する減衰力は、ピストンの伸側室側の受圧面積のおよそ2乗に比例する値となる。
【0051】
ダンパのストローク速度が極低い場合、減衰弁が伸側減衰通路を閉塞するものの、漏れ隙間があって、この漏れ隙間を作動油が通過して、伸側室と圧側室に差圧が生じて減衰力が発生する。これに対して、ダンパのストローク速度が高速となると、伸側減衰通路の内径は一定であるため、減衰弁が伸側減衰通路を最大開放すると減衰弁が制限する流路面積よりも伸側減衰通路の流路面積の方が小さくなる。すると、減衰弁による抵抗より伸側減衰通路の管路抵抗の方が大きくなって、ダンパは、伸側減衰通路の管路抵抗に依存して減衰力を発揮する。
【0052】
他方、ダンパのストローク速度が極低速を超えて高速になるまでは、ダンパは、減衰弁の設定によって所望する減衰力の発揮が可能となる。以上、整理すると、一般的にダンパは、ストローク速度が極低速域にある場合と高速域にある場合の減衰力のチューニングがしにくい。
【0053】
前述したように、ダンパが発揮する減衰力は、ピストンの伸側室側の受圧面積のおよそ2乗に比例する値となる。そして、サスペンション装置S1では、シリンダ内径が大きなダンパDRとシリンダ内径が小さいダンパDLを備えている。したがって、ストローク速度が極低速域にある場合に、大きなシリンダ内径を持つダンパDRが発生する減衰力と小さなシリンダ内径を持つダンパDLが発生する減衰力とは異なり、サスペンション装置S1は左右のダンパDR,DLのそれぞれが発揮する減衰力の合計した減衰力を発揮する。また、ストローク速度が高速域にある場合に、大きなシリンダ内径を持つダンパDRが発生する減衰力と小さなシリンダ内径を持つダンパDLが発生する減衰力とは異なり、サスペンション装置S1は左右のダンパDR,DLのそれぞれが発揮する減衰力の合計した減衰力を発揮する。よって、左右のダンパDR,DLのシリンダ内径のチューニングによって、
図3に示すように、ストローク速度が極低速域にある場合にサスペンション装置S1が発揮する減衰力の特性と、ストローク速度が高速域にある場合にサスペンション装置S1が発揮する減衰力の特性を、簡単にチューニングできる。
【0054】
なお、
図3に示す内容は、圧側減衰力についても同様のことが言える。ところで、前記したところでは、シリンダ内径を左右のダンパDR,DLで異なるように設定しているが、ピストンロッド7R,7Lの外径を異なるように設定しても、ピストン4R,4Lの圧側室6R,6L側の受圧面積を左右のダンパDR,DLで異なるようにできる。よって、収縮作動時における減衰力の特性を改善する場合、シリンダ3R,3Lの内径を同一にしておき、ピストンロッド7R,7Lの外径のみを左右のダンパDR,DLで異なるように設定できる。このようにすると、ピストンロッド外径の設定による不利を受けにくく、鞍乗車両における乗り心地を向上でき、また、減衰力特性の設計の自由度も向上する。
【0055】
<第二の実施の形態>
つづいて、第二の実施の形態のサスペンション装置S2について説明する。この第二の実施の形態のサスペンション装置S2では、
図4に示すように、ダンパDR,DLの構造が第一の実施の形態のサスペンション装置S1と異なっている。以下の説明では、第二の実施の形態のサスペンション装置S2と第一の実施の形態のサスペンション装置S1とで同じ構成部材については説明が重複するので、同じ構成部材については同じ符号を付すのみとして、詳しい説明を省略する。
【0056】
第二の実施の形態のサスペンション装置S2の第一の実施の形態のサスペンション装置S1と異なる部分について詳細に説明する。ダンパDRでは、バルブケース13Rを廃止して、シリンダ3Rに圧側室6Rと常にリザーバ16Rに通じさせる透孔23が設けられ、ピストン4Rに設けていた伸側減衰通路11Rおよび圧側減衰通路12Rを廃止し、その代わりに、圧側室6Rから伸側室5Rへ向かう作動油の流れのみを許容する通路24が設けられている。また、このダンパDRでは、ピストンロッド7Rの伸側室5Rに面する側部から開口してリザーバ16Rへ連通する減衰通路25と、減衰通路25の途中に設けた可変減衰弁としての比例制御弁26を備えている。
【0057】
他方、ダンパDLでは、バルブケース13Rに吸込通路15Lのみを設け排出通路14Lを廃止し、ピストン4Lに設けていた伸側減衰通路11Lおよび圧側減衰通路12Lも廃止している。シリンダ3Lの上端側部には、伸側室5Lをリザーバ16Lに連通させる透孔20が設けられており、伸側室5Lは常にリザーバ16Lに通じている。また、このダンパDLでは、ピストンロッド7Lの下端から開口してリザーバ16Lへ連通する減衰通路21と、減衰通路21の途中に設けた可変減衰弁としての比例制御弁22を備えている。比例制御弁22と比例制御弁26は、ともに同一寸法で同一構造の弁とされる。
【0058】
したがって、ダンパDRの場合、伸長作動を呈すると、ピストン4Rがシリンダ3Rに対して
図4中上昇して、圧縮される伸側室5Rから作動油が減衰通路25を通ってリザーバ16Rへ移動する。減衰通路25を通過する作動油の流れに対して比例制御弁26が抵抗与えるため、伸側室5Rの圧力は、比例制御弁26によって制御される。また、拡大する圧側室6Rには、作動油が透孔23を介してリザーバ16Rから供給されるので、圧側室6Rの圧力はリザーバ圧である。よって、伸側室5Rと圧側室6Rの圧力に差ができ、この差圧がピストン4Rに作用してダンパDRは伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。対して、ダンパDRが収縮作動を呈すると、ピストン4Rがシリンダ3Rに対して
図4中下降して、圧側室6Rから作動油が透孔23を介してリザーバ16Rに押し出される。よって、圧側室6Rの圧力は、リザーバ圧である。他方、拡大する伸側室5Rには、作動油が通路24を介してリザーバ16Rに通じている圧側室6Rから供給されるので、伸側室5Rの圧力はリザーバ圧となる。よって、伸側室5Rと圧側室6Rの圧力に差が生じず、ダンパDRは収縮作動時にはほとんど減衰力を発揮しない。つまり、ダンパDRは、伸長作動時のみ減衰力を発揮するようになっている。
【0059】
他方、ダンパDLの場合、伸長作動を呈すると、ピストン4Lがシリンダ3Lに対して
図4中上昇して、伸側室5Lから作動油が透孔20を介してリザーバ16Lに押し出される。よって、伸側室5Lの圧力は、リザーバ圧である。他方、拡大する圧側室6Lには、作動油が吸込通路15Lを介してリザーバ16Lから供給されるため、圧側室6Lの圧力はリザーバ圧となる。よって、伸側室5Lと圧側室6Lの圧力に差が生じず、ダンパDLは伸長作動時にはほとんど減衰力を発揮しない。対して、ダンパDLが収縮作動を呈すると、ピストン4Lがシリンダ3Lに対して
図4中下降して、圧縮される圧側室6Lから作動油が減衰通路21を通ってリザーバ16Lへ移動する。減衰通路21を通過する作動油の流れに対して比例制御弁22が抵抗与えるため、圧側室6Lの圧力は、比例制御弁22によって制御される。また、拡大する伸側室5Lには、作動油が透孔20を介してリザーバ16Lから供給されるので、伸側室5Lの圧力はリザーバ圧である。よって、圧側室6Lと伸側室5Lの圧力に差ができ、この差圧がピストン4Lに作用してダンパDLは収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0060】
また、前述のとおり、収縮作動時で要求される減衰力は伸長作動時の二分の一程度であるが、このダンパDLのシリンダ3Lの内径に2の4乗根を乗じた値に等しくなるようにダンパDRのシリンダ3Rの内径を設定してある。このようにすると、ダンパDLがあるストローク速度で収縮する際に発生する減衰力が、ダンパDRが同じストローク速度で伸長する際に発生する減衰力の二分の一となる。
【0061】
したがって、このサスペンション装置S2では、同じ構造および寸法の
比例制御弁22,26を利用して伸長作動時には収縮作動時の2倍の大きさの減衰力を発揮できる。よって、このサスペンション装置S2では、一つのフロントフォークFfR,FfLにそれぞれ伸長作動用と収縮作動用の二種類の可変減衰弁を設ける必要もなく、同じ規格の比例制御弁22,26を設けて伸長作動時と収縮作動時に要求される大きさの減衰力を発揮できる。
【0062】
本発明のサスペンション装置S2によっても、シリンダ内径の設定による不利を受けにくく、鞍乗車両における乗り心地を向上でき、また、減衰力特性の設計の自由度も向上する。また、このサスペンション装置S2では、同じ規格の比例制御弁22,26を設けて伸長作動時と収縮作動時に要求される大きさの減衰力を発揮できるので、流量定格に違いがある可変減衰弁を開発し量産する必要もなくなり、コスト面で有利となるだけでなく、可変減衰弁の管理も平易となる。
【0063】
本実施の形態では、ダンパDR,DLの減衰力を制御するために、比例制御弁22,26を用いているため、シリンダ3Rの内径をシリンダ3Lの内径に2の4乗根を乗じた値に等しくして、ダンパDLが発生する減衰力をダンパDRが発生する減衰力の二分の一としているが、減衰力制御の必要がなく、比例制御弁22,26の代わりに固定オリフィスを用いるのであれば、シリンダ3Rの内径をシリンダ3Lの内径に2の6乗根を乗じた値に等しくすると、ダンパDLが発生する減衰力をダンパDRが発生する減衰力の二分の一となる。さらに、比例制御弁22,26の代わりに圧力制御弁を用いる場合には、シリンダ3Rの内径をシリンダ3Lの内径に2の平方根を乗じた値に等しくすると、ダンパDLが発生する減衰力をダンパDRが発生する減衰力の二分の一となる。本実施の形態では、ダンパDLが発生する減衰力をダンパDRが発生する減衰力の二分の一に設定しているが、ダンパDLが発生する減衰力とダンパDRが発生する減衰力の比は、任意に設定でき、設定される比によって、シリンダ3Rの内径とシリンダ3Lの内径を設定すればよい。たとえば、比例制御弁22,26を用い、ダンパDLが発生する減衰力をダンパDRが発生する減衰力のN分の一としたい場合、シリンダ3Rの内径をシリンダ3Lの内径にNの4乗根を乗じた値に等しくすればよい。
【0064】
なお、この実施の形態にあっても、シリンダ内径を左右のダンパDR,DLで異なるように設定しているが、ピストンロッド7R,7Lの外径を異なるように設定しても、ピストン4R,4Lの伸側室5R、圧側室6Lの受圧面積を左右のダンパDR,DLで異なるようにできる。よって、伸長作動時における減衰力の特性を改善する場合、シリンダ3R,3Lの内径を同一にしておき、ピストンロッド7R,7Lの外径のみを左右のダンパDR,DLで異なるように設定できる。このようにすると、ピストンロッド外径の設定による不利を受けにくく、鞍乗車両における乗り心地を向上でき、また、減衰力特性の設計の自由度も向上する。さらに、シリンダ3R,3Lの内径を左右のダンパDR,DLで異なるように設定するだけでなく、ピストンロッド7R,7Lの外径についても左右のダンパDR,DLで異なるように設定してもよい。このようにすると、シリンダ内径およびピストンロッド外径の設定による不利を受けにくく、鞍乗車両における乗り心地を向上でき、また、減衰力特性の設計の自由度も向上する。
【0065】
なお、前述したところでは、本発明のサスペンション装置を鞍乗車両のフロントフォークに適用された例を用いて説明したが、一つの車輪に対して二本のダンパを設けるようにすれば、鞍乗車両以外にも四輪車両等のサスペンション装置として利用できる。
【0066】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。