【実施例】
【0065】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
製造例A
<「乳酸菌ナノ粒子A」の調製>
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリス株を、MRS培地(Difco社製)にて、28〜32℃で、18〜24時間培養し、遠心分離機で菌体を回収し、該菌体を水洗いし、該菌体が懸濁液全体に対して40質量%になるように調整して菌体の懸濁液を調製した。
この菌体の懸濁液を、流速15m/秒に設定した高温(110〜120℃)高速瞬間殺菌機で3秒間殺菌した後、湿式で150kgf/cm
2の高圧ホモゲナイザーを用いて、20℃で5分間処理して微粒子化処理をした。
以下、微粒子化処理をした乳酸菌体を、単に「nEC」と略記する。
【0067】
得られたnECを、「85質量%のエタノールと15質量%の水よりなる混合溶媒にシクロデキストリンを溶解させた溶液」に加えて、10分間撹拌して均一にした。nECを1質量部に対して、分散剤としてシクロデキストリンを7質量部用いた。
その後、噴霧し凍結乾燥機により乾燥して、乳酸菌ナノ粒子Aを調製した。シクロデキストリン中にnECが包埋され、それの全体が、1次粒子のピーク粒子径0.8μmとなるように微粉化されて乳酸菌ナノ粒子Aが形成されていた。
後述の評価例1で示すが、該乳酸菌ナノ粒子Aがそのまま免疫機能調整口腔剤Aとして機能した。
【0068】
得られた「乳酸菌ナノ粒子A」の1次粒子の粒度分布を、SALD−3100粒度分布測定装置((株)島津製作所社製)を用いて測定した。
結果を
図1(a)に示す。「乳酸菌ナノ粒子A」の1次粒子のピーク粒子径は0.8μmであった。また、「乳酸菌ナノ粒子A」の粒子径は、0.1μm〜3.0μmの範囲に、ほぼ100個数%が入っていた。
なお、「乳酸菌ナノ粒子A」の調製過程で、上記微粒子化処理をしなかった乳酸菌体の粒子径の分布を
図1(b)に示す。微粒子化処理をしなかった乳酸菌体の1次粒子のピーク粒子径は27μmであった。
【0069】
製造例1
<チューインガムの製造>
酢酸ビニル75質量部、ポリイソブチレン20質量部、及び、炭酸カルシウム5質量部よりなる結合成分に、上記「乳酸菌ナノ粒子A」を加えて、常法に従って混錬し、1個が3gのチューインガムを評価に必要な数だけ製造した。
「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gのチューインガム1個に対して、1.0×10
12個を含むように加えた。
【0070】
評価例1
<測定>
20歳以上の健常人A、B、C、D、Eの5名を対象とした。チューインガム1個を口腔内に入れて噛み始めてから、1、3、6、10、20及び30分後に、口腔内に溜まった唾液を排出して採取して被検試料とした。また、それぞれの時間ごとに採取した被検試料の唾液の量(mL)を測定した。
この被検試料をよく攪拌した後、一部を分注し、「乳酸菌ナノ粒子A」の濃度(個/mL)を測定するまで−30℃で保管した。
【0071】
<乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度の測定方法並びに個数の算定方法>
噛み始めてから各時間後に採取した被検試料について、乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度(個/mL)を、抗nEC抗体(精製IgG)及びビオチン標識抗nEC抗体を用いたサンドウィッチELISA法(Broma Institute Co.,Ltd., Tokyo Japan)によって、常法に従い測定した。nECの標準曲線の作成には、チューインガムに練りこんであるnECと同一ロットのnECを使用した。
【0072】
乳酸菌ナノ粒子の唾液中の濃度(個/mL)に、それぞれの時間ごとの被検試料の唾液の量(mL)を掛けて、それぞれの時間ごとの乳酸菌体(nEC)の唾液中の個数を算定した。
【0073】
<結果>
チューインガムを噛み始めてから出てくる唾液の量は個人差が認められたが、チューインガムを噛み始めた直後から、チューインガム中の乳酸菌体(nEC)は唾液中に排出され始めた。
図2に、被験者A〜Eの、チューインガムを噛み始めてから、1、3、6、10分後の、唾液中のnECの個数を積算棒グラフで示す。
【0074】
図2に示すように、初期のチューインガムの1個に含まれる1.0×10
12個(10000×10
8個)のnEC数に対して、噛み始めてから1分後に40〜50%、3分後に70〜90%が、チューインガムから唾液中に排出された。
【0075】
6分後〜10分後には、5人全ての被験者で、nECの排出が飽和し始め、10分後には3名の被験者で、口腔内に入れた初期のチューインガム中におけるnEC数が、測定上100%を超えたため(1.0×10
12個を超えたため)、20分後の被検試料の測定は中止した。
【0076】
製造例2
<グミの製造>
ゼラチンを5質量部、及び、ペクチン2.5質量部よりなる結合成分に、ショ糖8質量部、クエン酸1質量部、水83.5質量部、及び、「乳酸菌ナノ粒子A」を加えて、常法に従って混合し、1個が3gのグミを評価に必要な数だけ製造した。
「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gのグミ1個に対して、0.5×10
12個を含むように加えた。
【0077】
評価例2
評価例1と同様の健常人A、B、C、D、Eの5名を対象とし、製造例2で製造したグミ1個を普通に食べてもらった。
5人全員が、15秒以内にグミ1個を食べ終わってしまった。すなわち、口腔内に15秒以下しか滞留しなかったので、唾液は15秒以下しか出なかった。
グミは、製造例1で製造されたチューインガムに比べて、格段に口腔内の滞留時間と唾液との接触時間が短かった。
【0078】
評価例3
<4週間投与後の免疫機能関連項目の測定方法と評価結果>
製造例1で製造したチューインガムと製造例2で製造したグミについて、4週間投与後に、免疫関連項目及び安全性を確認するため一般血液検査項目を測定した。
20歳以上の健常者60名を対象とした。入院中の患者や、副腎皮質ホルモン等の免疫抑制剤、抗がん剤等の投与を受けている者は除外した。
本臨床研究は、原土井病院臨床研究審査委員会において承認を得て実施された。対象者は、本試験の目的、試験方法等について十分な説明を受け、書面にて同意を得た。
【0079】
1×10
12個のnECを含むチューインガムを30名に、0.5×10
12個のnECを含むグミを30名に、それぞれ4週間投与した。
ガム投与群30例の年齢中央値は36歳、性別は男性15例、女性15例で、グミ投与群30例の年齢中央値は41歳で、性別は男性12例、女性18例であった。
【0080】
ガム投与群は、チューインガム1粒(3g)を1日1回投与した。口腔内で噛み始めて30分間は嚥下せずに噛み続けた。
グミ投与群は、nECの初期の数をチューインガムと統一するため、グミ2粒(3g×2粒)を1日1回投与した。なお、その後、グミを通常通り噛んでもらったが、全員が15秒で食べ終わった(飲み込んだ)。
【0081】
両群ともに、投与前、投与2週目と4週目に、問診及び採血を施行し、一般血液検査と免疫機能関連項目の検査を実施した。測定項目は以下の通りである。
【0082】
<<一般血液検査>>
一般血液検査の項目は、白血球、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、アルブミン、alanineaminotransferase(ALT)、尿素窒素、及び、総コレステロールである。
【0083】
免疫機能関連マーカーの測定項目と測定方法は以下の通りである。各ELISAは、二重測定が行われた。
<<免疫機能関連マーカー>>
(1)lipopolysaccharide(LPS)(pg/mL)
Human LPS ELISA Kit, Cusabio Biotech Co., Ltd.Wuhan, China、感度1.56pg/mL
(2)solubleCD14(sCD14)(pg/mL)
Quantikine ELISA Human sCD14Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, USA、感度125pg/mL
(3)interferon-inducibleprotein(IP10)(pg/mL)
Quantikine ELISA HumanCXCL10/IP‐1Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, USA、感度1.67pg/mL
(4)interleukin(IL7)(pg/mL)
Quantikine HS ELISA IL‐7Immunoassay, R & D SYSTEMS, Inc., Minneapolis, US、感度0.1pg/mL
【0084】
<統計学的解析の方法>
データは中央値(四分位範囲)で表示し、2群間の比較は、Wilcoxon順位和検定を行った。有意水準を0.05未満とし、統計ソフトは、JMP version 9.0.2 (SAS Institute Japan Ltd., Tokyo, Japan)を用いた。
【0085】
<結果>
被験者の投与前の背景については、一般血液検査と免疫機能関連マーカーの何れも、両群に差は認められなかった。また、各検査項目の年齢差・男女差についても差が認められなかった。
【0086】
<<一般血液検査と問診の結果>>
投与期間中の自覚症状についての問診を行ったが、下痢等の有害事象は認められなかった。
また、投与前と投与4週間後の前記一般血液検査の中央値推移について、両群共に投与前と投与4週間後に有意差は認められなかった。また、両群の間に有意差は認められなかった。
これより、チューインガムとグミの安全性が確認され、また、乳酸菌の死菌よりなる乳酸菌体の安全性が確認された。
【0087】
<<免疫機能関連マーカーの結果>>
免疫機能関連マーカーの投与前と投与開始後2週間と4週間後の数値を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の数値データは、全て中央値(四分位)である。
[△2週間後]=[2週後の数値]−[投与前の数値]
[△4週間後]=[4週後の数値]−[投与前の数値]
であり、被験者毎に数値を引き算してから、それらの中央値(四分位)をとったものである。
【0090】
ガム投与群では、投与開始後は、投与前に比較して、何れの免疫機能関連マーカーも低下傾向が認められた。特に、LPSについては、著しい低下が認められた(P<0.05)。
一方、グミ投与群では、LPS値は最終的に(4週間後に)若干の低下傾向が見られたが、sCD14、IP10及びIL7は、数値の低下が見られなかった。
【0091】
個人別にみると、ガム投与群では、4週目には、LPSは24例(80%)、sCD14は24例(80%)、IP10は22例(73%)、IL7は22例(73%)に低下が見られ、全30例において何らかの免疫機能関連マーカーの低下が見られた。
一方、グミ投与群では、LPSは19例(63%)、sCD14は20例(67%)、IP10は19例(63%)、IL7は16例(53%)に低下が見られたが、その低下はわずかであった。
【0092】
チューインガムは、前記した通り、初期のnEC数に対して、噛み始めてから1分後には40〜50%、3分後には70〜90%が唾液中に排出されて唾液と混合された。一方、グミは、15秒間は唾液と混合した可能性があるが、15秒以内に飲み込まれた。
以上から、唾液と混合される時間が長いと、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが分かった。また、口腔内に滞在する時間が長いと、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが分かった。
【0093】
これより、チューインガムでは、分散剤や結合成分が徐放性を示すように調整されているため、乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、時間をかけて口腔内に出てくるので、唾液の量が多くなり、唾液と混合される時間も長くなり、また、口腔内に滞在する時間が長くなり、その結果、グミより免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
これより、乳酸菌ナノ粒子Aは、口腔粘膜から体内に吸収される口腔剤として機能していることが分かり、乳酸菌ナノ粒子Aは免疫機能調整口腔剤であることが分かった。
【0094】
グミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーでも、結合成分や分散剤を調整して、特に結合成分を、固くする、水溶性を低下させる、弾力を出してダレを防止する等して、乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、食品内から時間をかけて口腔内に徐々に出てくるようにすれば、唾液と混合される時間が長くなったり、口腔内に滞在する時間が長くなったりして、チューインガムのように免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが予想された。
また、飴では、口腔内に入れた免疫機能調整口腔剤(飴)の体積が半分になる時間(半減時間)を長くすれば、より唾液と混合される時間が長くなり、口腔内に滞在する時間が長くなるので、上記した改良チューインガム同様、免疫機能関連マーカーの数値低下が見られることが予想された。
【0095】
製造例3
グミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーで、製造例2でグミを製造するときに用いた結合成分に関して、ゼラチンとペクチンの量を増加させ、その分、水を減量して、乳酸菌ナノ粒子とそれに含有される乳酸菌体(nEC)の該食品内における半減時間を3分以上にした。また、全て飲み込まれるまでの時間を5分以上とした。
また、飴で、水溶性を低下させ、口腔内に入れた免疫機能調整口腔剤(飴)の体積が半分になる時間を5分以上にした。
何れも1個3gとし、「乳酸菌ナノ粒子A」については、3gの食品1個に対して、0.5×10
12個を含むように加えた。
【0096】
評価例4
<4週間投与後の免疫機能関連項目の測定方法と評価結果>
製造例3で得られたグミ、ゼリービーンズ及びチューイングキャンディーの何れも、製造例1で製造し評価例3で評価したチューインガムと同様、何れの免疫機能関連マーカーでも低下傾向が認められ、特に、LPSについてはより明確な低下が認められた。
乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、口腔粘膜から吸収されて免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
【0097】
製造例4、評価例5
製造例Aの乳酸菌ナノ粒子Aの調製過程で、微粒子化処理のみを行わなかった乳酸菌体(
図1(b)に粒径分布を示したものであって、1次粒子のピーク粒子径は27μm)を用いた以外は、製造例1と同様に、比較チューインガムを製造した。
比較チューインガムを、評価例4と同様に評価したが、免疫機能関連マーカーの数値の低下が認められなかった。
【0098】
製造例5、評価例6
製造例1のチューインガムの製造において、酢酸ビニルの分子量を上げ、炭酸カルシウム8質量部を用いた以外は、同様にして、チューインガム中に残存する乳酸菌体(nEC)や乳酸菌ナノ粒子の半減時間が5分のチューインガムを製造し、同様に評価をした。
製造例1で製造し評価例3で評価したチューインガムに比べ、LPSについてより明確な低下が認められた。
乳酸菌ナノ粒子や乳酸菌体(nEC)が、口腔粘膜からより吸収されて免疫機能関連マーカーの数値低下が見られた。
【0099】
<実施例まとめ>
LPSは、大腸菌等の腸内細菌を代表とするグラム陰性桿菌の外膜成分であり、エンドトキシンの本体である。グラム陰性桿菌による感染症では、血中に侵入した細菌が壊れて多量にエンドトキシンが放出され、過剰な免疫応答が起こる場合がある。
sCD14は、血中でLPSと結合すると、単球、マクロファージや好中球上のCD14分子に結合し、tumor necrosis factor(TNF)−α, IL−6, interferon(IFN)−γ等の炎症性サイトカインが分泌され炎症を惹起する。
IP10は、ケモカインの1つで、IFN−γ等の炎症性サイトカインの刺激により、単球や上皮細胞、内皮細胞で産生され、単球やリンパ球の走化性因子として働く。
IL7は、単球に作用して炎症性サイトカインの誘導に関与しており、炎症性腸疾患との関連も示唆されている。
【0100】
血中LPSの低下は、唾液中の乳酸菌ナノ粒子が吸収されることにより、腸内細菌叢に占めるグラム陰性桿菌の割合が低下した結果、LPS産生が低下したことに起因すると推察される。LPSの低下は、sCD14の低下に繋がり、IP10、IL7等の炎症性サイトカインの低下に関与した可能性が考えられる。
【0101】
本発明において、血中LPSを初めとする炎症性免疫関連マーカーの低下傾向が認められた。
更に、乳酸菌ナノ粒子が口腔粘膜から体内に吸収される剤型にすることで免疫機能調整口腔剤として機能することが分かった。乳酸菌ナノ粒子が、免疫機能調整食品から徐々に口腔内に排出するようにし、口腔内に長く滞留させて唾液の量を多くすると、より免疫機能調整の効果が向上することが確かめられた。
評価例3〜5では、多くの唾液によって口腔粘膜を介して、直接体内に取り込まれたと考えられ、製造例Aで得られた「乳酸菌ナノ粒子A」は、それ自体で免疫機能調整口腔剤であると考えられた。