(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463945
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】医療検査用カセット及びパラフィンブロック作成具
(51)【国際特許分類】
G01N 1/36 20060101AFI20190128BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N1/28 J
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-221130(P2014-221130)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-111112(P2015-111112A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2017年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-228035(P2013-228035)
(32)【優先日】2013年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591242450
【氏名又は名称】村角工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】村角 英彦
【審査官】
萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−303568(JP,A)
【文献】
特開2008−145118(JP,A)
【文献】
特開2008−180625(JP,A)
【文献】
特開2004−125631(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3100779(JP,U)
【文献】
特開2009−168737(JP,A)
【文献】
特開2003−340888(JP,A)
【文献】
特開2009−042075(JP,A)
【文献】
特開2008−145218(JP,A)
【文献】
米国特許第04623308(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
G01N33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部裏面に包埋トレイを装着可能な医療検査用カセットであって、
上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔を有するカセット本体と、多数の透孔を有する蓋体を含み、
前記カセット本体の底部裏面には包埋トレイの上縁部が当接する位置に嵌合部が設けられており、そして
該カセット本体の上面又は側面から底面の嵌合部まで貫通する押し出し孔が穿設されていることを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
嵌合部は溝状であることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
嵌合部は両端がカセット本体の側方に開放された直線状の溝であることを特徴とする請求項2に記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
嵌合部は包埋トレイの上縁部の全体と当接するように設けられていることを特徴とする請求項1又は3に記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の医療検査用カセットと包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具であって、
前記包埋トレイは、少なくともパラフィンブロックをミクロトームに装着するためのアダプターがパラフィンブロックに接する辺において、上縁部が立設された形状であり、
前記医療検査用カセットの底部に装着する際に、前記上縁部が医療検査用カセットの底部に設けられた嵌合部に当接することを特徴とするパラフィンブロック作成具。
【請求項6】
上縁部が垂直方向に立設されていることを特徴とする請求項5に記載のパラフィンブロック作成具。
【請求項7】
包埋トレイの上縁部が、全周にわたって立設されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のパラフィンブロック作成具。
【請求項8】
包埋トレイの縁部のうち、パラフィンブロックをミクロトームに装着するためのアダプターがパラフィンブロックに接しない辺において、上縁部に水平方向に延設された把持部が形成されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のパラフィンブロック作成具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセット及びパラフィンブロック作成具に関し、更に詳しくは、バリの発生を防止することができ、且つカセット本体の底部に包埋トレイを装着するのが容易な医療検査用カセット及びパラフィンブロック作成具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の医療検査用カセット(以下、単にカセットと称することがある)は、
図16および
図17に示すように、耐薬品性合成樹脂からなるカセット本体C1と蓋体C2とを具備してなる。カセット本体C1は、上面を開放した方形の容器で、底面部に多数の透孔C3を有し、短辺側の一側壁の外側に底面部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部C1aを設けている。蓋体C2は、着脱可能な板状体で、板面に多数の透孔C3を有している。
【0003】
上記カセットCを使用して顕微鏡標本を作製するには、まず、
図17に示すように、採取した検体Sをカセット本体C1内に収容して蓋体C2を取り付け、記録部C1aに被検者を特定するための記号等を記録しておく。
【0004】
続いて、蓋体C2の透孔C3を通じて、検体Sを水洗し、アルコールにより検体Sの水分を除去し、キシレンにより検体Sの脂肪分を除去するとともに後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0005】
次に、
図18に示すようなステンレス製の包埋トレイ(以下、単にトレイと称することがある)T内に液状パラフィンPを入れ、検体Sをカセット本体C1から取り出して前記トレイTの中に移し替え、トレイTの中で検体Sに液状パラフィンを浸透させ検体Sを仮固定する。続いて、トレイTの段部にカセット本体C1を載せ、カセット本体C1の底面部が液状パラフィンPに浸るまで、更に液状パラフィンPを検体S上に注ぎ足す(
図19参照)。
【0006】
液状パラフィンPが固化した後トレイTを取り去ることにより、検体Sを包埋したパラフィンPがカセット本体C1の底面部に付着してなるパラフィンブロックBを得る(
図20参照)。
【0007】
次に、図示しないが、ミクロトーム上にパラフィンブロックBを裏返して載せて、ミクロトームに設置されたアダプターをパラフィンブロックBに係合することにより、パラフィンブロックBをミクロトームに固定する。続いて、パラフィンPの検体Sを包埋した部分をスライスし、得られた薄片に染色、その他の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得る。
【0008】
しかしながら、上記の方法でパラフィンブロックBを作成した場合、トレイTの上端部分から横設された水平状の額縁部T1の上でパラフィンが盛り上がり、その状態でパラフィンが冷却固化するため、この部分がバリbとなってパラフィンブロックBに残留する。このバリbはパラフィンブロックBをミクロトームに固定する際に、アダプターをパラフィンブロックBに係合する邪魔になるので、カッターなどでバリを削り取る必要があるが、冷却固化したパラフィンは硬くて削りにくいため、バリ取りの作業は煩雑である。
【0009】
そこで、バリ取りの作業が発生しないように、額縁部を設けず、側壁部と係止壁との境界に狭いカセット支承部が形成されたトレイ(特許文献1参照)が提案されたが、このトレイはカセット支承部が狭いためトレイにカセットを装着するのが必ずしも容易でないという問題がある。この問題を解決するために、トレイの角部においてカセット支承部を大きく形成したり(特許文献2参照)、内側に傾斜した挟持板でカセットを挟持したり(特許文献3参照)、小さな爪部を設けてカセットの滑動を防ぐ(特許文献4参照)などの改良が提案されている。これらの技術は、従来のカセットがそのまま使用できるので、コストを低くすることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−145118号公報
【特許文献2】特開2008−145218号公報
【特許文献3】特開2008−180625号公報
【特許文献4】特開2009−042075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述のような改良にもかかわらず、これらのトレイはいずれも水平状のカセット支承部が形成され、ここにパラフィンが滞留するためバリの発生を十分に防止することができず、また、トレイにカセットを装着するのが困難であるという問題を解決するには至っていない。
本発明は、バリの発生を防止し、且つトレイに装着しやすいカセット及びこのカセットを用いたパラフィンブロックの作成具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、底部裏面に包埋トレイを装着可能な医療検査用カセットであって、上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔を有するカセット本体と、多数の透孔を有する蓋体を含み、前記カセット本体の底部裏面には包埋トレイの上縁部が当接する位置に嵌合部が設けられて
おり、そして該カセット本体の上面又は側面から底面の嵌合部まで貫通する押し出し孔が穿設されている医療検査用カセットを内容とする。
【0013】
本発明の別の特徴は、嵌合部は溝状である上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0014】
本発明の更に別の特徴は、嵌合部は両端がカセット本体の側方に開放された直線状の溝である上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0015】
本発明の更に別の特徴は、嵌合部は包埋トレイの上縁部の全体と当接するように設けられている上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0017】
本発明の更に別の特徴は、上記の医療検査用カセットと包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具であって、前記包埋トレイは、少なくともパラフィンブロックをミクロトームに装着するためのアダプターがパラフィンブロックに接する辺において、上縁部が立設された形状であり、前記医療検査用カセットの底部に装着する際に、前記上縁部が医療検査用カセットの底部に設けられた嵌合部に当接するパラフィンブロック作成具を内容とする。
【0018】
本発明の更に別の特徴は、上縁部が垂直方向に立設されている上記のパラフィンブロック作成具を内容とする。
【0019】
本発明の更に別の特徴は、包埋トレイの上縁部が、全周にわたって立設されている上記のパラフィンブロック作成具を内容とする。
【0020】
本発明の更に別の特徴は、包埋トレイの縁部のうち、パラフィンブロックをミクロトームに装着するためのアダプターがパラフィンブロックに接しない辺において、上縁部に水平方向に延設された把持部が形成されている上記のパラフィンブロック作成具を内容とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の医療検査用カセットは、カセットの嵌合部にトレイの上縁部が嵌合することによりパラフィンの流出が食い止められるので、バリの発生が防止される。また、カセット本体の底部裏面に、包埋トレイの縁部が当接する位置に沿って嵌合部が設けられているため、この嵌合部と包埋トレイの上縁部を嵌合させることにより、容易にカセットの底部に包埋トレイを装着することができる。
【0022】
また、嵌合部の形状を溝状とすれば、カセットの溝状の嵌合部とトレイの上縁部が嵌入するため、より確実にパラフィンの流出が防止される。
【0023】
また、嵌合部を両端がカセット本体の側方に開放された直線状の溝とすれば、嵌合部にパラフィンが詰まった場合でも、ピンやナイフ等で嵌合部内をなぞることにより、詰まったパラフィンを容易に押し出して取り除くことができる。
【0024】
嵌合部をトレイの上縁部の全体と当接するように設ければ、カセットとトレイの間にパラフィンが漏れ出す隙間が全周に亘って無くなるので、バリの発生が一層効果的に防止される。
【0025】
カセット本体の上面又は側面から底面の嵌合部まで貫通する押し出し孔を穿設すれば、パラフィンブロックからトレイを取り外す際、押し出し穴に細長い棒状部材を挿入してトレイの上縁部を押すことにより、パラフィンブロックから容易にトレイを取り去ることができる。
【0026】
トレイの上縁部を垂直方向に立設すれば、該上縁部とカセットの嵌合部とを嵌合させやすくなり、作業性が向上する。特に、嵌合部の形状が溝状である場合、この溝状の嵌合部にトレイの上縁部が嵌入するため、より確実にパラフィンの流出を食い止めることができ、バリの発生が一層効果的に防止される。
【0027】
包埋トレイに把持部を設ければ、当該トレイを扱いやすくなるので作業性が増す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1(a)は本発明の医療検査用カセットの一例を示す側面図であり、(b)、(c)はその底面図である。
【
図2】
図2は
図1のカセットのA−A断面図及び要部拡大図である。
【
図3】
図3は医療検査用カセットの他の例を示す断面図及び要部拡大図である。
【
図4】
図4は医療検査用カセットの他の例を示す断面図及び要部拡大図である。
【
図5】
図5(a)は医療検査用カセットの別の例を示す側面図、(b)はその底面図である。
【
図6】
図6(a)は医療検査用カセットの更に別の例を示す側面図、(b)はその底面図である。
【
図7】
図7(a)は本発明の医療検査用カセットと共に用いる包埋トレイの一例を示す正面図であり、(b)はその平面図である。
【
図8】
図8は包埋トレイの他の例を示す平面図である。
【
図9】
図9は
図1、
図2の医療検査用カセットと
図7の包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具である。
【
図10】
図10は
図3の医療検査用カセットと
図7の包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具である。
【
図11】
図11は
図4の医療検査用カセットと
図7の包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具である。
【
図12】
図12(a)は押し出し孔が穿設されたカセット本体を示す底面図であり、(b)はそのB−B断面図である。
【
図13】
図13は押し出し孔に押し出し棒を挿入してパラフィンブロックから包埋トレイを引き剥がす状態を説明する概略説明図である。
【
図14】
図14は押し出し孔が穿設されたカセット本体の別例を示す概略断面図である。
【
図15】
図15は
図5の医療検査用カセットと
図8の包埋トレイとからなるパラフィンブロック作成具である。
【
図16】
図16は従来の医療検査用カセットを示す斜視図である。
【
図17】
図17は従来の医療検査用カセットに検体を入れた状態を示す断面図である。
【
図18】
図18は従来の医療検査用カセットと共に用いる包埋トレイの斜視図である。
【
図19】
図19はパラフィンブロックの作成方法を示す断面図である。
【
図20】
図20は得られたパラフィンブロックを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、カセット本体2の底部2bの裏面に包埋トレイ4を装着可能な医療検査用カセット1であって、
図1及び
図2に示すとおり、上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔2aを有するカセット本体2と、多数の透孔3aを有する蓋体3を含み、前記カセット本体2の底部2bの裏面には包埋トレイ4の上縁部4aが当接する位置に溝状の嵌合部2cが設けられていることを特徴とする。
図1(b)では、溝状の嵌合部2cがカセット本体2の底面2bの透孔2aが設けられている部分の周囲に設けられた例であり、
図1(c)では、更に、記録部2dの底面まで延設された例である。
【0030】
本発明において、カセット本体2は上向きに開口する方形の容器であり、
図1(b)に示すように、底部に多数の透孔2aを有する。本例において透孔2aの形状は方形であるが、その形状は特に限定されず、例えば円形、楕円形、多角形等であってもよい。
【0031】
本発明における蓋体3は、前記のカセット本体2の開口部に被着されるものであり、カセット本体2の底部2bと同様、多数の透孔3aを有する。
本例において蓋体3は矩形状であり、下側にリブが設けられた構造が採用されているが、蓋体3の形状やカセット本体2への取り付け構造は特に限定されず、この種の医療検査用カセット1において用いられ得る形状や構造が、本発明においても全て適用できる。
【0032】
図3、
図4は、それぞれ本発明のカセットの他の例を示すもので、
図3のカセットでは、カセット本体2の底部2bの外縁部分を切り欠いた段差状の嵌合部2cが形成され、また、
図4のカセットでは外縁部分を残して内側部分を切り欠いた段差状の嵌合部2cが形成されている。
【0033】
図5は、本発明のカセットの別の例を示すもので、カセット本体2の底部2bの対向する2辺(図では短辺)に嵌合部2cが形成されている。パラフィンブロックをミクロトームに装着する際に、アダプターがミクロトームに接する辺は対向する2辺(図では短辺)であるので、この2辺にバリが発生するのを防止できればよく、従って、この2辺に嵌合部2cが設けられた例である。
【0034】
なお、
図5に示した例において、嵌合部2cは両端がカセット本体2の側方に開放された直線状の溝である。このため、嵌合部2cにパラフィンや塵芥が詰まった場合でも、ナイフや薄板で嵌合部2cの中をなぞることにより、容易に嵌合部2c内のパラフィンや塵芥を削り取り、排除することができる。
【0035】
さらに、
図6に示した例においては、両端がカセット本体2の側方に開放された直線状の溝を4本組み合わせることにより、嵌合部2cが形成されている。このような嵌合部2cを備えた医療用カセットを用いれば、全ての辺でバリの発生を防止できる効果と、嵌合部内を清掃しやすくする効果を両立できる。
【0036】
本発明のパラフィンブロック作成具は、上記カセット1と包埋トレイ4からなる。
【0037】
図7は、本発明のカセットとともに用いられる包埋トレイ4の一例を示す。本例では、カセット本体2の底部2bに形成された嵌合部2cと嵌合し易いように、包埋トレイ4の上縁部4a付近が垂直方向に立設されている。
図8は、包埋トレイ4の他の例を示し、包埋トレイ4の対向する2辺(図では長辺)の上縁部中央部分に水平方向に把持部4bが形成されている。この場合の対向する2辺は、アダプターがミクロトームに接しない辺、即ち、バリが発生しても支障のない2辺である。
【0038】
図9は、
図1(a)(b)、
図2のカセット1と
図7の包埋トレイ4とからなるパラフィンブロック作成具を示す。本例の作成具では、カセット本体2の底部2bに設けられた溝状の嵌合部2cと包埋トレイ4の上縁部4aとが嵌入・嵌合し、パラフィンの流出が食い止められ、バリの発生が防止される。また、凹部2cと上縁部4aとを嵌入・嵌合すればよいので、カセット1と包埋トレイ4との装着が容易である。尚、この場合の溝状の嵌合部2cは、包埋トレイ4の上縁部4aの嵌入・嵌合を容易とするために、入口に向かって拡がるテーパー状とすることが好ましい。また、包埋トレイ4の上縁部4aも先端部に向かって縮小するテーパー状として、テーパー状の溝状の嵌合部2cと密接するように設計するのが好ましい。溝状の嵌合部2cは、包埋トレイ4の上縁部4aと嵌入・嵌合した際、3面で接触することにより、パラフィンの流出が防止される。
【0039】
図10は、
図3のカセット1と
図7の包埋トレイ4とからなるパラフィンブロック作成具を示す。本例の作成具では、カセット本体2の底部2bに設けられた段差状の嵌合部2cと包埋トレイ4の上縁部4aとが嵌合し、パラフィンの流出が食い止められ、バリの発生が防止される。また、段差状の嵌合部2cと上縁部4aとを嵌合すればよいので、カセット1と包埋トレイ4との装着が容易である。段差状の嵌合部2cの場合は、包埋トレイ4の上縁部4aと嵌合した際、2面で接触することによりパラフィンの流出が防止される。
【0040】
図11は、
図4のカセット1と
図7の包埋トレイ4とからなるパラフィンブロック作成具を示す。本例の作成具では、上記
図10のパラフィンブロック作成具と同様、カセット本体2の底部2bに設けられた段差状の嵌合部2cと包埋トレイ4の上縁部4aとが嵌合し、2面で接触することによりパラフィンの流出が食い止められ、バリの発生が防止される。また、段差状の嵌合部2cと上縁部4aとを嵌合すればよいので、カセット1と包埋トレイ4との装着が容易である。
【0041】
ところで、
図7のような上縁部4a全体が垂直方向に立設された包埋トレイ4を使用した場合、パラフィンの流出を食い止めてバリの発生を防止する点では優れているが、包埋トレイ4をパラフィンブロックBから取り去りにくくなる場合がある。
このような場合は、
図12に示したような、カセット本体2の上面又は側面(
図12に示した例では上面)から底面の嵌合部2cまで貫通する押し出し孔2eが穿設された医療検査用カセット1を用いればよい。例えば、
図13に示すように、押し出し孔2eに押し出し棒2fを挿入して、この押し出し棒2fで包埋トレイ4の上縁部4aを押せば、パラフィンブロックBから包埋トレイ4を簡単に取り去ることができる。
【0042】
押し出し孔2eの数は特に限定されず、また、1辺のみならず2辺、3辺に設けてもよく、4辺全てに設けてもよい。また、押し出し棒2fは押圧しやすいように、先端に水平状の押圧用頭部を設けることもできる。この場合、押し出し孔2eに押し出し棒2fを挿入した後、上下をひっくり返して押し出し棒2fの先端や押圧用頭部を机や作業台等の表面に押しつけたり、打ちつけることによりパラフィンブロックBから包埋トレイ4をワンタッチで取り去ることができ作業性を高めることができる。更に、押し出し孔2eの内部に雌ネジを刻設し、押し出し棒2fの外周に雄ネジを刻設し、押し出し孔2eに押し出し棒2fを螺合して進入させることにより、パラフィンブロックBから包埋トレイ4を取り去ることも可能である。
【0043】
なお、
図12、
図13に示した例では、押し出し孔2eはカセット本体に対して垂直に穿設されているが、
図14に示すように、斜め方向に穿設することもできる。斜め方向に穿設する場合は、包埋トレイ4の側壁の傾斜角度よりも垂直に近い角度とするほうが好ましい。この場合、
図14に示すように、この押し出し孔2eはカセット本体2の側面から底面まで貫通する孔であってもよい。
【0044】
図15は、
図5のカセット1と
図8の包埋トレイ4とからなるパラフィンブロック作成具を示す。本例の作成具では、カセット本体2の底部2bに設けられた溝状の嵌合部2cと包埋トレイ4の上縁部4aとが嵌入・嵌合し、パラフィンの流出が食い止められ、バリの発生が防止される。また、溝状の嵌合部2cと上縁部4aとを嵌入・嵌合すればよいので、カセット1と包埋トレイ4との装着が容易である。
本例では、前記したように、アダプターがミクロトームに接する辺は対向する短辺側とされ(
図15(a))、従って、アダプターがミクロトームに接しない長辺側はバリが発生しても差し支えないため、包埋トレイ4の上縁部から水平方向に把持部4bが設けられている。
【0045】
本発明において、カセット本体2及び蓋体3の材質は耐薬品性を有する硬質部材である限り特に限定されないが、成形性及び軽量性の観点から樹脂製とするのが好ましい。本発明で使用できる合成樹脂の例としては、POM樹脂(ポリアセタール樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン- スチレン共重合樹脂)、AAS樹脂(アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル/エチレンプロピレンゴム/スチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン樹脂)、PS樹脂(ポリスチレン樹脂)、PMMA樹脂(ポリメチルメタクリレート樹脂)、PVC樹脂(ポリ塩化ビニリデン樹脂)、MS樹脂(メチルメタクリレート/スチレン樹脂)、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)、PE樹脂(ポリエチレン樹脂)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)およびPC樹脂(ポリカーボネート樹脂)等が挙げられ、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリアミド11、ポリヒドロキシ酪酸等の生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックも使用できる。
【0046】
本発明において包埋トレイ4の材質は特に限定されず、この種の包埋トレイに使用可能な材質であれば、どのようなものでも使用できる。具体的には放熱性に優れる点で金属が好ましく、このなかでもコストと強度のバランスが良い点でステンレス、鉄、銅、アルミニウム等が更に好ましく、耐久性に優れている点でステンレスが特に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
叙上のとおり、本発明の医療検査用カセット及びパラフィンブロック作成具によれば、バリの発生を防止することができ、且つカセット本体の底部に包埋トレイを装着するのが容易であるので作業効率が良く、医療検査用カセット及びパラフィンブロック作成具として極めて有用性が高いものである。
【符号の説明】
【0048】
1 医療検査用カセット
2 カセット本体
2a 透孔
2b 底部
2c 嵌合部
2d 記録部
2e 押し出し孔
2f 押し出し棒
3 蓋体
3a 透孔
4 包埋トレイ
4a 上縁部
4b 把持部
S 検体
C 従来の医療検査用カセット
C1 カセット本体
C1a 記録部
C2 蓋体
C3 透孔
T 従来の包埋トレイ
T1 額縁部
P パラフィン
B パラフィンブロック
b バリ