(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
===開示の概要===
本明細書及び図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
グリップと、フレームと、前記グリップと前記フレームとを連結するシャフトと、を有するラケットであって、前記フレームにはストリングを通すために内周面から外周面まで貫通する貫通孔が複数設けられ、前記フレームの内周面には前記フレームの周方向において前記貫通孔が設けられた位置と重複する位置に突起が設けられ、前記突起は前記フレーム内に形成される打面に直交する厚さ方向における端側の位置に比べて前記厚さ方向における中央側の位置での方が前記周方向の幅が広くなっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、スイング時に、フレームの内周面を厚さ方向に通過する空気流を突起の側面に沿わせることができるため、渦の発生を抑制できる。また、ストリング等に衝突する空気流を低減できる。よって、スイング時にラケットに作用する空気抵抗を低減できる。
【0010】
かかるラケットであって、前記突起は前記厚さ方向における端側から中央側に向かうに従って前記周方向の幅が徐々に広くなっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、スイング時に、フレームの内周面を厚さ方向に通過する空気流が突起の側面に一層沿い易くなる。このため、スイング時にラケットに作用する空気抵抗をより確実に低減できる。
【0011】
かかるラケットであって、前記フレームはその外周面における各前記貫通孔が設けられた位置において前記外周面に対する法線方向を有し、前記突起が設けられた前記フレームの部位では前記厚さ方向における端側の位置に比べて前記厚さ方向における中央側の位置での方が、前記外周面に設けられる前記貫通孔の前記法線方向の位置から前記突起までの前記法線方向の高さが高くなっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、スイング時に、フレームの内周面を厚さ方向に通過する空気流を突起の上面に沿わせることができるため、渦の発生を抑制できる。よって、スイング時にラケットに作用する空気抵抗を低減できる。
【0012】
かかるラケットであって、前記突起が設けられた前記フレームの部位では前記厚さ方向における端側から中央側に向かうに従って前記高さが徐々に高くなっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、スイング時に、フレームの内周面を厚さ方向に通過する空気流が突起の上面に一層沿い易くなるため、スイング時にラケットに作用する空気抵抗をより確実に低減できる。
【0013】
かかるラケットであって、前記フレームの内周面には前記内周面の前記厚さ方向の中心に対して前記厚さ方向の両側に前記突起が設けられていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、厚さ方向におけるラケットの何れの打面を打球方向に向けてスイングする場合にも、空気抵抗を低減できる。
【0014】
かかるラケットであって、前記フレームの内周面の前記厚さ方向の中心に対して前記厚さ方向の両側に設けられた前記突起は、前記内周面の前記厚さ方向の中心に対して対称な形状になっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、厚さ方向におけるラケットの表裏の性能を同じにすることができる。
【0015】
かかるラケットであって、前記グリップ、前記シャフト、及び、前記フレームが連結される方向である縦方向を有し、前記フレームのうち前記縦方向における前記シャフト側とは逆側の先端部に複数の前記突起が設けられていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、スイングスピードが速く、空気抵抗が大きくなるフレームの先端部に作用する空気抵抗を低減できる。
【0016】
かかるラケットであって、前記打面上において前記縦方向に直交する横方向を有し、前記貫通孔には筒状のストリング保護材が通され、前記フレームの先端部に設けられた前記突起のうち前記横方向の外側の前記突起に比べて前記横方向の中央側の前記突起での方が、前記突起と前記周方向に重複する前記貫通孔に通された前記ストリング保護材が前記突起から突出する長さが短くなっていることを特徴とするラケットである。
このようなラケットによれば、フレームの横方向の中央部では、ストリング保護材に衝突する空気流を低減できるため、空気抵抗を一層低減できる。また、フレームの横方向の端部では、ストリングとフレームの損傷を抑制できる。
【0017】
===ラケットの基本構成===
以下、本発明に係るラケットとして、テニス用のラケットを例に挙げて、実施形態を説明する。
図1Aは、ラケット1の正面図であり、
図1Bは、ラケット1の側面図である。ラケット1は、グリップ30と、環状のフレーム10(一般には縦長の略楕円形状のフレーム)と、グリップ30とフレーム10とを連結するシャフト20と、を有する。説明のため、グリップ30、シャフト20、及び、フレーム10が連結される方向を「縦方向」、フレーム10内に形成される打面上において縦方向に直交する方向を「横方向」、縦方向と横方向に直交する方向(打面に直交する方向)を「厚さ方向」と呼ぶ。また、フレーム10においてシャフト20が位置する側を「縦方向の後端側」、その逆側を「縦方向の先端側」と呼ぶ。
【0018】
フレーム10には、ストリング40を通すために、フレーム10の内周面10aから外周面10bまで貫通するストリング孔11(貫通孔)が、フレーム10のほぼ全周に亘り、フレーム10の周方向に沿って間隔を空けて複数設けられている。そして、フレーム10の内側には、横方向に沿うストリング40の部位である「横ストリング41」が、縦方向に間隔を空けて複数本張られ、縦方向に沿うストリング40の部位である「縦ストリング42」が、横方向に間隔を空けて複数本張られ、ネット状の打面が形成される。
【0019】
また、
図1Bに示すように、フレーム10の外周面10bにおける厚さ方向の中心部に、溝部12が設けられていてもよい。そして、その溝部12にストリング孔11の開口部を設け、溝部12でストリング40が折り返されるようにしてもよい。
【0020】
===比較例のフレーム===
図2Aは、比較例のフレーム10’(先端部)の斜視図であり、
図2B及び
図2Cは、
図2Aの位置aa,位置bbにおいて、比較例のフレーム10’を厚さ方向及び貫通方向に切った断面図であり、
図2Dは、比較例のフレーム10’の内周面10a’を貫通方向に見た図である。なお、フレーム10は、その外周面10bにおける各ストリング孔11が設けられた位置において、外周面10bに対する法線方向を有し、本実施形態では、前記法線方向(打面の径方向)に沿って、ストリング孔11が貫通されるとし、前記法線方向を「貫通方向」と呼ぶ。また、図の複雑化を防ぐため、一部の図においてストリング40等を省略したり、断面に付すべきハッチングを省略したりしている。
【0021】
ラケット1では、通常、フレーム10にグロメットが取り付けられた状態で、ストリング40が張設される。グロメットは、筒状(中空円柱状)のストリング保護材50(
図2C参照)と、複数のストリング保護材50を連結する帯状の基底部(不図示)とを有する。フレーム10の外周面10b側からストリング孔11にストリング保護材50が通されつつ、フレーム10の溝部12に基底部が嵌め込まれるようにして、グロメットはフレーム10に取り付けられる。そのため、ストリング40は、グロメットの基底部、及び、ストリング保護材50の各貫通孔に通されることにより、ストリング孔11に通されることになる。
【0022】
図3A及び
図3Bは、比較例のフレーム10’の内周面10a’を通過する空気流の説明図である。
図3Aは、ストリング保護材50の周辺を貫通方向に見た図であり、
図3Bは、ストリング保護材50の周辺をフレーム10’の周方向に見た図である。比較例のフレーム10’では、
図2Aや
図2Cに示すように、フレーム10’の内周面10a’から、ストリング保護材50の先端部が突出する。そのため、
図3Aや
図3Bに示すように、ラケットのスイング時に、フレーム10’の内周面10a’を通過する空気流(点線の矢印)は、ストリング保護材50の周り、つまり、円柱の周りを流れることになる。
【0023】
一般に、流れの中に円柱が置かれると、円柱の表面から流れが剥離し、
図3Aに示すように、円柱(ストリング保護材50)の側面の上流側に、ネックレス状の渦60が発生する。また、
図3Bに示すように、円柱(ストリング保護材50)の下流側に渦61が発生する。その結果、円柱の下流側にて圧力損失が生じ、流体抵抗が増加することが知られている。
【0024】
そのため、比較例のフレーム10’のように、フレーム10’の内周面10a’から筒状のストリング保護材50が突出し、スイング時にストリング保護材50の周りを空気流が流れる場合、ラケットに作用する空気抵抗が高くなる。この結果、スイングスピードを上げることができない。
【0025】
===本実施形態のフレーム===
図4A及び
図4Bは、本実施形態のフレーム10(先端部)の斜視図であり、
図4Cは、
図4Aの位置aaにおいて、フレーム10を厚さ方向及び貫通方向に切った断面図である。
図5Aは、
図4Aの位置bbにおいて、フレーム10を厚さ方向及び貫通方向に切った断面図であり、
図5Bは、フレーム10の内周面10aを貫通方向に見た図であり、
図5Cは、
図5Bの位置aaにおいて、フレーム10をフレーム10の周方向及び貫通方向に切った断面図である。
図6A及び
図6Bは、本実施形態のフレーム10の内周面10aを通過する空気流の説明図である。
【0026】
本実施形態のフレーム10の内周面10aには、フレーム10の周方向(以下、周方向)においてストリング孔11が設けられた位置と重複する位置(例えば、
図4Aの位置bb)に、
図5Bに示すように、厚さ方向に並ぶ一対の突起70が設けられている。
【0027】
各突起70を貫通方向に見た形状(
図5B)は、楕円を短軸方向に半分に切ったような形状であり、また、楕円の長軸方向が厚さ方向に沿うように配置された形状になっている。即ち、各突起70を貫通方向に見た形状は、楕円の長軸方向がスイング時の空気流の方向に沿うように配置された形状となっている。このように、周方向における各突起70の両側面は、流線形状となっている。
【0028】
詳しく説明すると、突起70は、貫通方向に見て(
図5B)、厚さ方向における端側の位置での周方向の幅W1に比べて、厚さ方向における中央側の位置での周方向の幅W2の方が広くなっている(W1<W2)。更に言えば、突起70は、貫通方向に見て(
図5B)、厚さ方向における端側から中央側に向かうに従って、周方向の幅が徐々に広くなっている。また、周方向におけるストリング孔11の中心と、周方向における突起70の中心とが、揃っている。突起70の周方向の最大幅が、ストリング孔11の直径以上となっている。よって、ストリング保護部材50は、突起70よりも周方向に突出しないようになっている。
【0029】
そのため、
図6Aに示すように、スイング時に、フレーム10の内周面10aを厚さ方向に通過する空気流は、周方向における突起70の両側面から剥離することなく、突起70の両側面に沿って流れる。これにより、渦の発生を抑制できる。つまり、本実施形態のラケット1によれば、ストリング40やストリング保護材50の両側部を流れる空気流の乱れを抑制でき、スイング時にフレーム10に作用する空気抵抗を低減できる。また、突起70を設けることで、突起70の両側面に沿って空気流が流れ、ストリング40やストリング保護材50に衝突する空気流を低減できる。このことからも、フレーム10に作用する空気抵抗を低減できると言える。その結果、スイングスピードを向上でき、ボールスピードを上げたり、ボールの回転性を高めたりできる。
【0030】
また、前述のように、
図5Aは、
図4Aの位置bbでのフレーム10の断面図である、即ち、周方向における突起70の中央部でのフレーム10の断面図である。そのため、突起70の上面(貫通方向における内周面側の面)のうち、特に、周方向における中央部が、
図5Aに示すように流線形状となっている。
【0031】
詳しく説明すると、
図5Aに示すように、フレーム10の外周面10bに設けられるストリング孔11(開口部)の貫通方向の位置、つまり、溝部12の底部の貫通方向の位置を基準位置p0とした場合、突起70(特に周方向における突起70の中央部)が設けられたフレーム10の部位では、厚さ方向における端側の位置での基準位置p0から突起70までの貫通方向の高さh1に比べて、厚さ方向における中央側の位置での基準位置p0から突起70までの貫通方向の高さh2の方が高くなっている(h1<h2)。更に言えば、突起70(特に周方向における突起70の中央部)が設けられたフレーム10の部位では、厚さ方向における端側から中央側に向かうに従って基準位置p0から突起70までの貫通方向の高さが徐々に高くなっている。
【0032】
そのため、
図6Bに示すように、スイング時に、フレーム10の内周面10aを厚さ方向に通過する空気流は、突起70の上面から剥離することなく、突起70の上面に沿って流れるため渦の発生を抑制できる。つまり、本実施形態のラケット1によれば、ストリング保護材50の上部を流れる空気流の乱れを抑制でき、スイング時にフレーム10に作用する空気抵抗を低減できる。その結果、スイングスピードを向上させることができる。
【0033】
なお、突起70は、
図5Cに示すように、周方向における外側から中央側に向かうに従って、フレーム10の内周面10aから突起70までの貫通方向の高さが徐々に高くなっている。
【0034】
また、本実施形態のラケット1では、
図4Aや
図4Bに示すように、フレーム10の周方向において、ストリング孔11と重複する位置に突起70が設けられる。そのため、前述のように、突起70の両側面を空気流が流れ(
図6A)、ストリング40やストリング保護材50に衝突する空気流を低減でき、空気抵抗を低減できる。一方、ストリング孔11と重複しない位置(例えば、
図4Aの位置aa)には突起70が設けられていないが、ストリング40やストリング保護材50により空気流が乱れないため、問題がないと言える。
【0035】
つまり、フレーム10の周方向において、ストリング孔11と重複する位置にだけ突起70を設けることで、スイング時にフレーム10に作用する空気抵抗を低減しつつ、突起70の数を減らせる。これにより、例えば、フレーム10の製造を容易にできる。但し、突起70の配置は、上記の配置に限らず、周方向にストリング孔11と重複しない位置に突起70を設けてもよい。
【0036】
また、フレーム10の内周面10aには、
図5Bに示すように、内周面10aの厚さ方向の中心に対して、厚さ方向の両側に突起70が設けられている、つまり、一対の突起70が設けられている。そのため、厚さ方向におけるラケット1の何れの打面を打球方向に向けてスイングする場合にも、空気抵抗を低減でき、スイングスピードを向上させることができる。
【0037】
特に、一対の突起70を、フレーム10の内周面10aの厚さ方向の中心に対して、対称な形状にすることで、厚さ方向におけるラケット1の表裏の性能を同じにできる。よって、ラケット1の表裏を意識することなく、ラケット1を使用できる。
【0038】
また、スイングは円弧運動であり、縦方向におけるフレーム10の先端部の方が、後端部に比べて、スイング時のスピードが速く、空気抵抗も大きくなる。そのため、フレーム10の先端部に作用する空気抵抗は、スイングスピードに大きく影響する。そこで、本実施形態のラケット1では、
図1Aや
図4Bに示すように、フレーム10の先端部101にだけ複数の突起70を設ける。そうすることで、フレーム10の先端部101に作用する空気抵抗を低減でき、スイングスピードを効率良く向上させられる。また、突起70の数を減らせるため、例えば、フレーム10の製造を容易にできる。
【0039】
具体的には、横ストリング41が21本、縦ストリング42が16本のラケット1の場合、縦方向の先端側から2番目の横ストリング41を通すストリング孔11、及び、それよりも縦方向の先端側に位置するストリング孔11が設けられた位置に、突起70を設けるとよい。換言すると、フレーム10内の打面の中心Oに対して、2時の方向から10時の方向までの範囲に位置するストリング孔11が設けられた位置に、突起70を設けるとよい。但し、突起70の配置は上記の配置に限らず、フレーム10の先端部101以外に突起70を設けてもよい。
【0040】
また、フレーム10の先端部101に設けられたストリング孔11のうち、横方向の中央側のストリング孔11では、貫通方向と縦方向とで成す角度が小さい。そのため、ストリング保護材50がストリング孔11から突出していなくとも、ストリング40がフレーム10(ストリング孔11の縁)に接触し難く、ストリング40やフレーム10が損傷し難い。一方、横方向の外側のストリング孔11では、貫通方向と縦方向又は横方向とで成す角度が大きく、フレーム10の内周面10aにおいて、ストリング40が屈曲する。そのため、ストリング保護材50がストリング孔11から突出していないと、ストリング40がフレーム10に直接接触し、互いに損傷してしまう。
【0041】
そこで、
図4Bに示すように、横方向の外側のストリング孔11ではストリング保護材50を突起70よりも突出させて、横方向の中央側のストリング孔11ではストリング保護材50を突起70よりも突出させない。つまり、フレーム10の先端部101に設けられた突起70のうち横方向の外側の突起70に比べて横方向の中央側の突起70での方が、各突起70と周方向に重複するストリング孔11に通されたストリング保護材50が突起70から突出する長さが短くなっている。なお、本実施形態では、横方向の中央側のストリング孔11において、
図5Aに示すように、突起70の上面(上面のうちの厚さ方向の中央部)と、ストリング保護材50の上面とが、面一になっている。
【0042】
そうすることで、横方向の中央側のストリング孔11では、突起70から突出するストリング保護材50に空気流が衝突することがなくなるため、空気流の乱れを抑制できる。そのため、フレーム10の先端部101のうち横方向の中央部に作用する空気抵抗を一層低減でき、スイングスピードを向上させることができる。一方、横方向の外側のストリング孔11では、突起70から突出するストリング保護材50により、ストリング40とフレーム10の損傷を防止できる。
【0043】
具体的には、横ストリング41が21本、縦ストリング42が16本のラケット1の場合、フレーム10の先端部101のストリング孔11のうち、横方向の外側から3番目の縦ストリング42を通すストリング孔11、及び、それよりも横方向の外側に位置するストリング孔11において、ストリング保護材50を突起70よりも突出させるとよい。但しこれに限らず、横方向の中央側のストリング孔においても、ストリング保護材50を突起70より突出させてもよい。
【0044】
===変形例===
図7は、突起70の変形例の説明図であり、突起70を貫通方向に見た図である。上記実施形態では(
図5B)、フレーム10の厚さ方向の中央で突起70が分割されており、厚さ方向の中央部には突起70が存在していないが、これに限らない。例えば、
図7に示すように、フレーム10の厚さ方向の中心に対して、厚さ方向の両側に設けられる突起70が一体化されていてもよい。但し、上記実施形態のように、突起70が厚さ方向に分割されていると、フレーム10の製造時にフレーム10を金型から取り外した際に、突起70の周囲に付着したバリの除去作業が容易となる。
【0045】
また、上記実施形態の突起70の形状に限らず、例えば、一対の突起70を合わせた形状が、略楕円形ではなく、略菱形の形状であってもよい。また、突起70の周方向の幅(
図5BのW1やW2)や、基準位置p0から突起70までの高さ(
図5Aのh1やh2)が、徐々に変化する形状でなくてもよい。但し、突起70の周方向の幅や基準位置p0から突起70までの高さが徐々に変化する方が、突起70に空気流が一層沿い易くなるため、スイング時にラケットに作用する空気抵抗をより確実に低減できる。また、フレーム10の厚さ方向の中心に対して、厚さ方向の一方側にだけ、突起70が設けられていてもよい。また、フレーム10の厚さ方向の中心に対して、厚さ方向の両側に設けられた突起70が非対称な形状であってもよい。
【0046】
また、突起70は、フレーム10と一体成型されていてもよいし、フレーム10と別部材であってもよい。また、突起70とグロメット(ストリング保護材50)を一体化してもよい。但し、フレーム10を別部材にする場合、例えば、フレーム10に穴をあけて、突起70を嵌め込む必要があり、フレーム10の製造が煩雑となったり、フレーム10の重量が増加したりしてしまう。また、突起70とグロメットを一体化する場合、例えば、フレーム10の外周面10b側から突起70が通過可能な孔をフレーム10に設ける必要があり、フレーム10の強度が低下してしまう。そのため、突起70をフレーム10と一体成型することが好ましい。
【0047】
===ラケットの評価試験===
図8Aから
図8Cは、ラケット1に作用する空気抵抗の評価試験の方法の説明図である。
図9及び
図10は、評価試験の結果を示すグラフである。
評価試験の装置は、
図8Aに示すように、風洞80と、評価対象のラケット1を支持する支持台81と、ロードセル82と、を有する。風洞80は、ラケット1のフレーム10の全域に対して送風を行う。支持台81は、風洞80からの送風に対してラケット1が揺動可能なように、ラケット1のフレーム20を支持する。ロードセル82は、ラケット1の揺動支点よりもグリップ30側のシャフト20の部位であり、送風方向の上流側に取り付けられる。そして、ロードセル82は、風洞80からの送風によりラケット1が揺動する際に、揺動支点よりもグリップ30側のシャフト20の部位が送風方向の逆方向に移動しようとする力、つまり、風洞80からの送風に対するラケット1の反力を測定する。このロードセル82の測定値を、ラケット1に作用する空気抵抗とする。
【0048】
上記の評価試験の装置により、比較例のラケットと、本実施例のラケットについて、空気抵抗の測定を行った。比較例のラケットと本実施例のラケットでは、フレームが異なるものとする。
比較例のフレーム10’は、上記実施形態にて説明した比較例のフレーム10’であり、断面形状が
図2Bや
図2Cに示す形状である。また、フレーム10’は、内周面10a’に突起70が設けられず、
図2Aに示すように、フレーム10’の内周面10a’からストリング保護材50が突出したものとする。
本実施例のフレーム10は、上記実施形態にて説明したフレーム10であり、断面形状が
図4Cや
図5Aに示す形状であり、フレーム10の先端部101の内周面10aに
図5Bに示す一対の突起70が設けられたものとする。
【0049】
但し、試験に使用したラケット1では、
図1Aに示すシャフト20とは異なり、
図8Cに示すように二股に分かれていないシャフト20とする。また、試験に使用したラケットの1のフレーム10,10’は、風洞の吹き出し口(300mm×300mmの正方形)の大きさに合わせ、上記実施形態のラケット1のフレーム10を30%縮小したものとし、
図8Cに示すように、横ストリング41を19本、縦ストリング42を16本とする。
【0050】
そして、比較例、及び、本実施例のラケット1について、以下の条件におけるロードセル82の測定値を、フレーム10,10’に作用する空気抵抗として取得した。
まず、
図8Aに示すように、風洞80の吹き出し口とフレーム10,10’の打面とを平行に固定した状態で、風洞80からの風速を20m/s〜30m/sの範囲で2m/sずつ変化させて、空気抵抗の測定を行った。その結果が
図9であり、
図9の横軸が風洞80からの風速(m/s)を示し、縦軸が空気抵抗(N)を示す。
【0051】
また、
図8Bに示すように、風洞80の吹き出し口に対するフレーム10,10’の傾きを変化させて、空気抵抗の測定を行った。ここで、風洞80の吹き出し口とフレーム10,10’の打面とが平行である
図8Bの位置p1を基準位置とし、傾きを変化させたフレーム10,10’の打面と基準位置p1のフレーム10,10’の打面とで成す角度θを迎角と呼ぶ。例えば、
図8Bの位置p2のフレーム10,10’の迎角θは30°であり、位置p3のフレーム10,10’の迎角θは60°であり、位置p4のフレーム10,10’の迎角θは90°である。そして、風洞80からの風速を30m/sに固定した状態で、フレーム10,10’の迎角を0°〜90°の範囲で15°ずつ変化させて、空気抵抗の測定を行った。なお、ロードセル82の位置は固定した状態とする。その結果が
図10であり、
図10の横軸が迎角(°)を示し、縦軸が空気抵抗(N)を示す。
【0052】
そして、評価試験の結果、
図9に示すように、比較例のフレーム10’に作用する空気抵抗(◆)に比べて、本実施例のフレーム10に作用する空気抵抗(▲)の方が小さくなるという結果が得られた。例えば、風速30m/sのときに、本実施例では比較例に対して、約14%空気抵抗が小さくなるという結果が得られた。この結果からも、フレーム10の内周面10aに突起70を設けることで、フレーム10に作用する空気抵抗を低減でき、スイングスピードを向上させることができることが分かる。また、
図9に示すように、風洞80からの風速が速くなる程に、比較例のフレーム10’と本実施例のフレーム10とで空気抵抗の差が大きくなるという結果が得られた。よって、スイングスピードが速いプレイヤーが本実施例のラケット1を使用する場合に、空気抵抗の低減の効果がより得られることが分かった。
【0053】
また、
図10に示すように、迎角が0°のときに、比較例のフレーム10’に作用する空気抵抗(◆)と本実施例のフレーム10に作用する空気抵抗(▲)との差が大きく、本実施例のフレーム10に作用する空気抵抗をより低減できるという結果が得られた。迎角が0°とは、打面にボールが当たる瞬間のフレーム10の角度である。よって、迎角が0°のときに空気抵抗をより低減できるようにすることで、打面にボールが当たる瞬間のスイングスピードを高めることができ、例えば、ボールスピードをより向上させることができる。
【0054】
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態では、テニス用のラケットを例に挙げているが、これに限らず、例えば、スカッシュ用のラケット、バドミントン用のラケット等に、本発明を適用してもよい。また、上記実施形態では、フレーム内にストリングが張設されたラケットを例に挙げているが、これに限らずストリングが張設されていないラケットでもよい。