特許第6463971号(P6463971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463971
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】フレキシブル基板を有する装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/00 20060101AFI20190128BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   H04R9/00 C
   H04R7/04
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-559588(P2014-559588)
(86)(22)【出願日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2014000489
(87)【国際公開番号】WO2014119319
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-15398(P2013-15398)
(32)【優先日】2013年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】クラリオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正直
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2000/078095(WO,A1)
【文献】 実開昭56−140290(JP,U)
【文献】 特開平09−331596(JP,A)
【文献】 特開2000−201395(JP,A)
【文献】 特開2007−081859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/00
H04R 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイル配線が形成され、平板型の音響変換素子として機能する振動回路部を含むフレキシブル基板であって、前記ボイスコイル配線に音響信号を供給する駆動回路部をさらに含み、前記駆動回路部と前記ボイスコイル配線とが当該フレキシブル基板に形成された接続配線により接続されているフレキシブル基板と、
前記フレキシブル基板を収納するハウジングと、
前記振動回路部に対向するように配置された磁石板と、を有し、
前記フレキシブル基板は、
前記振動回路部と前記駆動回路部との間に形成されたスリットと、前記スリットにより狭い幅に成形されたブリッジ部とを含み、前記ブリッジ部に前記接続配線が配置され、
前記ボイスコイル配線の配線パターンは、前記磁石板の多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延び当該着磁境界に対して対称に配置された複数の配線を有し、
前記振動回路部は多角形であり、前記多角形の一辺に沿って前記スリットおよびブリッジ部が配置され、前記多角形の他の辺は自由な状態で振動する、装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記振動回路部と前記駆動回路部とが前記フレキシブル基板に並置されている、装置。
【請求項3】
請求項において、
前記ボイスコイル配線は、前記多角形の前記一辺に直交する配線パターンまたは平行する前記配線パターンのいずれかを含む、装置。
【請求項4】
請求項において、
前記磁石板は、前記多角形の前記一辺に垂直または並行な着磁パターンを含む、装置。
【請求項5】
請求項3または4のいずれかにおいて、
前記振動回路部は四角形である、装置。
【請求項6】
ボイスコイル配線が形成され、平板型の音響変換素子として機能する振動回路部を含み、当該振動回路部が磁石板に対向配置されるフレキシブル基板であって、
前記ボイスコイル配線に音響信号を供給する駆動回路部をさらに含み、前記駆動回路部と前記ボイスコイル配線とが当該フレキシブル基板に形成された接続配線により接続されており、
前記振動回路部と前記駆動回路部との間に形成されたスリットと、前記スリットにより狭い幅に成形されたブリッジ部とを含み、前記ブリッジ部に前記接続配線が配置され、
前記ボイスコイル配線の配線パターンは、前記磁石板の多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延び当該着磁境界に対して対称に配置された複数の配線を有し、
前記振動回路部は多角形であり、前記多角形の一辺に沿って前記スリットおよびブリッジ部が配置され、前記多角形の他の辺は自由な状態で振動する、フレキシブル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板を有する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特許第3192372号公報には、永久磁石板と、該永久磁石板に対向するように配置した振動膜と、該振動膜と前記永久磁石板との間に介在する緩衝部材と、前記振動膜の永久磁石板に対する相対位置を規制する支持部材とを具備し、前記永久磁石板は、その振動膜対向面のほぼ全面に帯状のN極とS極とが交互に現れる平行縞状の多極着磁パターンが形成され、且つ着磁パターンにおけるニュートラルゾーンの位置に多数の排気用貫通穴を配列した一体構造をなし、前記振動膜は、薄く柔軟な樹脂フィルムに、蛇行形状の導線パターンからなるコイルをプリント配線した構造であって、該導線パターンの直線部分が前記永久磁石板のニュートラルゾーンに対応する位置に設けられ、周辺部にて固定されずに、前記支持部材によって面内方向の変位は規制されるが、厚み方向には自由に変位できるように支持されており、前記緩衝部材は、軟質で且つ通気性を有し前記振動膜とほぼ同じ大きさのシートを複数枚積み重ねた構造をなし、該シートと前記永久磁石板もしくは振動膜との間に隙間を有するように配設されていることを特徴とする薄型電磁変換器が記載されている。
【発明の概要】
【0003】
スピーカーまたはマイクロフォンといった音響変換機能部品とそれを駆動する電子回路を一体化した簡易な構成の装置が求められている。
【0004】
本発明の一態様は、平板型の音響変換素子として機能する振動回路部を含むフレキシブル基板と、フレキシブル基板を収納するハウジングと、振動回路部に対向するように配置された磁石板とを有する装置である。フレキシブル基板は、ボイスコイル配線に音響信号を供給する駆動回路部をさらに含み、駆動回路部とボイスコイル配線とが当該フレキシブル基板に形成された接続配線により接続されている。この装置においては、フレキシブル基板の一部を平板型の音響変換素子、典型的には、平板型スピーカーの振動板として用いる。それとともに、共通の(同じ)フレキシブル基板の他の部分に音響信号を出力する駆動回路部を構成し、共通のフレキシブル基板を振動板として機能させるボイスコイル配線と駆動回路部とを、共通のフレキシブル基板に形成された接続配線により基板内で接続する。このフレキシブル基板は、駆動回路部とボイスコイル配線とを同一工程で製造でき、さらに、駆動回路部とボイスコイル配線とを別工程で接続する必要がない。このため、装置の製造に要する工数を大幅に削減できだけでなく、駆動回路とボイスコイルとを接続するための配線長も短くできる。したがって、ノイズを抑制でき、低コストで信頼性が高く、音響性能の良い装置を提供できる。
【0005】
フレキシブル基板は、振動回路部と駆動回路部との間に形成されたスリットと、スリットにより狭い幅に成形されたブリッジ部とを含み、ブリッジ部に接続配線が配置され、前記ボイスコイル配線の配線パターンは、前記磁石板の多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延び当該着磁境界に対して対称に配置された複数の配線を有する。平板型の音響変換素子として機能する振動回路部の振動特性を改善でき、音響特性を改善できる。
【0006】
振動回路部と駆動回路部とはフレキシブル基板の表裏あるいは積層中のいずれに配置されていてもよく、共通のフレキシブル基板に設けられていれば良い。振動回路部と駆動回路部とが共通のフレキシブル基板に並置されていることが望ましく、比較的短い接続回路でこれらの回路部を接続でき、ノイズを抑制しやすい。
【0007】
前記振動回路部、三角形、四角形などの多角形であり、多角形の一辺に沿ってスリットおよびブリッジ部が配置され、多角形の他の辺は自由な状態で振動する平板型の音響変換素子として機能する振動回路部の振動特性を改善しやすい。さらに、ボイスコイル配線は、スリットが設けられた多角形の一辺に直交する配線パターンまたは平行する配線パターンのいずれかを含むことが望ましい。配線パターンはフレキシブル基板の振動回路部が基板の厚み方向に振動するように形成されるが、万一、力が基板の面に沿った方向に発生した場合でも、スリットに対して直交する配線パターンまたは平行する配線パターンであればスリットの周囲に不均一な歪は発生しにくく、音響特性を向上できる。面に沿った方向の力の発生を抑制するには、配線パターンは、磁石板の多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延びていることが望ましい。したがって、磁石板は、多角形のスリットが形成された一辺に垂直または並行な着磁パターンを含むことが望ましい。振動回路部の典型的な形状(輪郭)は、四角形である。
【0008】
本発明の他の態様の1つは、ボイスコイル配線が形成され、平板型の音響変換素子として機能する振動回路部を含むフレキシブル基板であって、ボイスコイル配線に音響信号を供給する駆動回路部をさらに含み、駆動回路部とボイスコイル配線とが当該フレキシブル基板に形成された接続配線により接続されているフレキシブル基板である。フレキシブル基板は、振動回路部と駆動回路部との間に凹部または凸部状のブリッジ部を設けたり、ブリッジ部の厚みをエッチングなどで調整して低剛性にしてもよい。振動回路部の動きをより自由振動に近くでき、音質を向上しやすい。また、駆動回路部に対する振動の影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】スピーカーの外観を示す図。
図2】スピーカーの構成を展開して示す図。
図3】フレキシブル基板の表裏の構成を示す図。
図4】配線の配置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本発明に係る電子音響変換機能を備えた装置の一例として平板型(平面型)のスピーカーの外観を示している。図2に、平板型のスピーカー10の概略構成を展開図により示している。このスピーカー10は、板状のハウジング20と、ハウジング20の内部の上下(前後または左右)に配置された板状の磁石板31および32と、磁石板31および32に緩衝材(緩衝部材)41および42を介して挟まれるように振動回路部(振動膜部)59が配置されたフレキシブル基板(フレキシブルプリント基板、フレキシブルプリント配線板、メンブレン配線板)50とを含む。フレキシブル基板50の振動回路部59は、平板型(平面型)の音響変換素子として機能する。
【0011】
ハウジング20は、金属製、プラスチック製または木製であり、その他の材料、たとえばセラミック、ガラスなどで構成されていてもよい。ハウジング20は上部ハウジング21と下部ハウジング22とを含み、それぞれに複数の開口23が設けられている。開口23の形状は円形に限定されず、多角形であっても、網状であっても、スリット状などであってもよい。また、ハウジング20は、スピーカー10を単独で構成するものであってもよく、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォンあるいはその他の電気製品または家具の一部であってもよい。さらに、ハウジング20は車両の内装または部屋の内装の一部であってもよく、ハウジング20はその他の動産または不動産の一部であってもよい。
【0012】
ハウジング20の内部に収納された磁石板31および32は、共通の構成の永久磁石板であり、着磁により表面および裏面の着磁面33に帯状のN極35nとS極35sとが平行縞状に交互に現れている。さらに、帯状のN極35nおよびS極35s(以降では極に関わらず着磁領域35と称することがある)の境界(着磁境界)36に沿って、複数の貫通孔34が設けられている。
【0013】
磁石板31および32は、焼結磁石板、非焼結磁石板、フレキシブル磁石板またはソリッド構造の磁石板であってもよく、その他の公知の構造の磁石板のいずれかであってもよい。磁性を付加する材質は、フェライト磁石、希土類磁石、ネオジム−鉄−ホウ素系磁石などであってもよい。磁石板31の厚さや形状(正方形、長方形、円形、楕円形など)、構造(1枚の永久磁石板であるか、複数の永久磁石板を貼り合わせた構造であるかなど)は任意であり、設計上の問題で、特性やコスト、製造上の必要性、使用状態などに応じて適宜選択できる。また、磁極(磁界)の大きさ(着磁の大きさ)、極ピッチなども任意であり、ハウジング20の大きさ、要求される音量などの要素に基づき選択できる。
【0014】
以下では、2枚の磁石板31および32にフレキシブル基板50の振動回路部59が挟まれた構造のスピーカー10を例に説明するが、1枚の磁石板を用い、フレキシブル基板50の一方(片面)のみが磁石板に対向(対面)していてもよい。また、フレキシブル基板50は両面に振動回路部59が設けられていてもよく、片面のみに振動回路部59が設けられていてもよい。また、磁石板31および32によりフレキシブル基板50を挟む代わりに、1枚の磁石板の両側にフレキシブル基板50を配置してもよく、複数の磁石板および振動膜を積層した構成であってもよい。
【0015】
磁石板31および32と、フレキシブル基板50の振動回路部59との間に配置される緩衝部材41および42は、軟質で、音波が自由に通る程度の通気性を有し、フレキシブル基板50のなかで音響変換領域(音響変換素子)として機能する振動回路部59とほぼ同じ大きさのシート状の部材である。緩衝部材41および42の一例は、薄いシート状の不織布を複数枚重ねたものである。緩衝部材41および42を複数枚のシート状の部材を重ねて構成する場合は、それらを接着せずに、それぞれ別個に振動(変位)できるように重ねて配置することが望ましい。緩衝部材41および42は、動作時に振動回路部59が磁石板31および32にぶつかって異音(正常振動音ではない雑音)を発することを防ぎ、振動回路部59自身の分割振動の発生を防ぐ(びびり音の発生を防ぐ)など、音源に忠実な音波以外の発生を制御する作用を含む。
【0016】
フレキシブル基板50は、薄膜の樹脂フィルム製のフレキシブル基板であり、たとえば、ポリイミドフィルム(芳香族ポリイミドフィルム)、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどが採用される。フレキシブル基板50は、厚みは10−50μm程度が好ましい。フレキシブル基板50は、複数枚のフィルムを積層したものであってもよい。本例のフレキシブル基板は、全体が方形(長方形)で、全体の面積の50〜90%が方形の振動回路部(振動膜部)59となっている。振動回路部59は、全体の50%以下であってもよい。振動回路部59には、ボイスコイル配線(ボイスコイル用配線)60となる複数の配線パターンが両面51および52に形成されている。
【0017】
フレキシブル基板50の振動回路部59を除いた部分58は実装領域(駆動回路部)であり、振動回路部59に音響信号を供給する回路および処理ユニット85が搭載(実装)されている。駆動回路部58と振動回路部59との境界57は接続部であり、振動回路部59に設けられたボイスコイル配線(配線パターン)60は接続配線69により接続されている。駆動回路部58と振動回路部59とは接続部57で双方からの線を個別に接続(半田付け)するわけではなく、共通のフレキシブル基板50の表面に設けられたプリントパターンである接続配線69により一体的に接続されている。フレキシブル基板50の接続部57は低剛性の構造となっている。すなわち、フレキシブル基板50の接続部57の大部分は直線的に延びたスリット状の開口(スリット)55となっており、スリット55により残された部分がブリッジ部54となり、ブリッジ部54に処理ユニット85とボイスコイル配線60とを接続する配線69が配置されている。ブリッジ部54は平坦であってもよく、断面が凸状(凹状)のフレキシブルコネクションであってもよい。
【0018】
すなわち、このフレキシブル基板50は、全体が長方形で、長辺方向(長手方向)の一方の側に音響素子である振動回路部59が配置され、他方の側に振動回路部59を駆動する駆動回路部58が配置され、並置された振動回路部59と駆動回路部58との境界が接続部57となり、接続部57に短辺方向に延びたスリット55が形成されている。したがって、振動回路部59は全体が方形(長方形または正方形)であり、その方形の一辺が、スリット55が形成された接続部57を介して駆動回路部58に繋がり、方形の他の3辺は、緩衝部材41および42と接触するなどの関係はあるが、基本的には自由に振動できる状態でハウジング20に収納されている。
【0019】
輪郭が方形(四角形)の振動回路部59は、ハウジング20に収納した際のスペース効率が高く、または、四角形のハウジング20はさまざまな個所に設置しやすい。したがって、四角形の振動回路部59を有するフレキシブル基板50は、音響素子しての性能、本例のスピーカー10であれば音響出力を確保しやすい。振動回路部59は他の多角形、たとえば、三角形や五角形などであってもよく、フレキシブル基板50の何れかの端を含むように振動回路部59を配置し、振動回路部59を、その一辺を接続部57として支持することにより、振動しやすい、音響性能の高い振動回路部59を備えたフレキシブル基板50を提供できる。また、多角形の振動回路部59の接続部57である一辺に沿ってスリット55を配置することにより、さらに音響性能の高い振動回路部59を備えたフレキシブル基板50を提供できる。
【0020】
図3(a)および(b)に、フレキシブル基板50の両面(上面および下面、前面および後面、表面および裏面)51および52を示している。また、参考のために、対峙する磁石板31および32の着磁面33の着磁領域35nおよび35sの配置を示している。
【0021】
フレキシブル基板50の振動回路部59の表面51には、3本の配線61a、61bおよび61cを含む配線パターン(ボイスコイル配線)60が形成されている。振動回路部59の裏面52には、3本の配線61d、61eおよび61fを含む配線パターンであって、表面51の配線パターンと同じまたは対称な配置の配線パターン60が形成されている。また、フレキシブル基板50の駆動回路部58の表面51には、それぞれの配線61a〜61cおよび61d〜61fに接続配線(中継配線)69を介して接続された処理ユニット85が実装され、駆動回路部58の裏面52には通信用回路部品81と、電池82とが搭載されている。
【0022】
駆動回路部58に搭載される回路素子はこれらに限定されず、用途等により、コンデンサ、抵抗、その他の用途のチップ、それらを接続する配線が実装されていてもよい。処理ユニット85の一例は駆動回路機能を含むデジタルスピーカー駆動ユニットであり、処理ユニット85は振動回路部59の配線61a〜61fのそれぞれに対しデジタル音響信号を供給する。駆動回路部58および振動回路部59を搭載した、共通のフレキシブル基板50に設けられる配線は、ボイスコイル用の配線61a〜61fを含めて、フレキシブル銅張プリントフィルムをフォトエッチングすることにより同時に形成できる。
【0023】
処理ユニット85の典型的な例は、日本国特開2010−28785号公報などに記載されているデジタルスピーカー駆動装置である。この駆動装置は、ΔΣ変調器と、後置フィルターと、s個の駆動回路と、ΔΣ変調器と、後置フィルター及びs個の駆動素子に電源を供給する電源回路とから構成され、s個の駆動回路はs個のデジタル信号端子に対応している。この駆動装置は、ΔΣ変調器とミスマッチシェーピングフィルター回路とにより複数のデジタル信号を出力し、複数のデジタル信号により駆動される複数のスピーカーによりアナログ音声を直接変換するデジタルスピーカー装置に適している。
【0024】
振動回路部59の表面51と裏面52とに設けられた配線パターン60の構成は共通するので、以降では表面51の配線パターン60を説明する。異なる電気信号が印加される独立した複数の配線61a〜61cを含む配線パターン60は、多極磁化された磁石板31の着磁面33の着磁境界36に沿って延びた第1の配列パターン65と、振動回路部59の縁側に配置され着磁境界36に対し直交する方向に延びた第2の配列パターン66とを含む。第1の配列パターン65は、着磁境界36を中心とした対称な位置に複数の配線61a〜61cが配置されている。すなわち、この第1の配列パターン65は、3つの配線61a〜61cを含むので、配線61bが着磁境界36に沿って配置され、配線61aおよび61cが配線61bに対し等しい間隔で平行に配置されている。
【0025】
隣接する第1の配列パターン65は、第2の配列パターン66により接続され、第2の配列パターン66により配線61a〜61cの順番は逆転する。したがって、隣接する第1の配列パターン65では、配線61a〜61cの並び順が逆転している。
【0026】
図4に、スピーカー10において、フレキシブル基板50の振動回路部(振動部分)59が上下の磁石板31および32により挟まれた状態を模式的に、断面図により示している。なお、緩衝部材は省略している。磁石板31および32の表面(着磁面)33にはストライプ状に着磁された着磁領域35(35nおよび35s)が表れる。着磁領域35の垂直な磁界成分(絶対値)は、それぞれの着磁領域35nおよび35sの中心付近で最も大きく、着磁領域35n(N極)と35s(S極)の境界(着磁境界)36付近では最も小さくなる。これは着磁磁界の成分を垂直方向に見て定義しているためで、境界36付近では垂直成分の磁界が無いことから、この領域をニュートラルゾーンと呼ぶこともある。一方、これらの着磁領域35により形成される磁界37の水平成分(永久磁石板の表面に平行な成分)は、それぞれの着磁領域35nおよび35sの中心付近では最も小さく、着磁境界36付近で最も大きい。隣接する着磁領域35n(N極)から着磁領域35s(S極)へ円弧状に磁力線37が通るためである。
【0027】
配線61a〜61cに電流を通すと、フレミングの左手の法則にしたがい、磁界37の方向により振動回路部59を動かす力が働く。磁界37の水平成分は振動回路部59を厚み方向に振動させるのに寄与する成分であり、配線61a〜61cに信号(電流)を印加することにより振動回路部59を厚み方向に振動させて音響に変換できる。このため、配線61a〜61cは、第1の配列パターン65により水平成分の最も大きな着磁境界36に沿って配置される。一方、この第1の配列パターン65は、複数の配線61a〜61cを含む。したがって、着磁境界36に垂直な方向にある程度の幅で複数の配線61a〜61cが配置される。このため、両側の配線61aおよび61cに電流が流れると、磁界37の水平成分だけではなく垂直成分と作用し、振動回路部59を厚み方向(本図では上下方向)に動かすとともに、振動回路部59をフレキシブル基板50と平行な方向(面に沿った方向、本図では水平方向)に動かす力が働く可能性がある。
【0028】
しかしながら、本例の第1の配列パターン65においては、両側の配線61aおよび61cは、着磁境界36に対して対称な位置に配置されている。したがって、両側の配線61aおよび61cに同位相の信号が供給された場合は、磁界37の垂直成分により両側の配線61aおよび61cではフレキシブル基板50と平行な方向(水平な方向)で逆方向の力が発生する。このため、配線61aおよび61cにより発生するフレキシブル基板50を水平方向に動かす力はキャンセルされ、フレキシブル基板50を安定した状態で上下に振動させて音を発生させることができる。
【0029】
フレキシブル基板50においては、配線61a〜61cに対し異なる電気信号を独立して供給できる。したがって、両側の配線61aおよび61cには同じ電気信号が同時に供給されるとは限らない。しかしながら、配線61a〜61cを音源として利用する場合、配線61a〜61cに供給される信号強度は時間平均するとほぼ等しくなることが多い。さらに、処理ユニット85に、配線61a〜61cをクロックの単位でランダムまたはサイクリックに選択して接続する機能を設けることにより、配線61a〜61cに供給される信号強度をさらに平均化できる。処理ユニット85と接続配線69との間に配線61a〜61cをクロックの単位でランダムまたはサイクリックに選択して接続する機能を含む回路またはチップを配置してもよい。
【0030】
さらに、隣接する第1の配列パターン65においては、配線61a〜61cの順番が逆転している。また、隣接する第1の配列パターン65においては各配線61a〜61cに流れる電流の向きは逆転する。したがって、同一の配線、たとえば、配線61cにおいては、磁界37の垂直成分の方向は同じで、電流の向きが逆転する。このため、各配線61aおよび61cにより発生する振動回路部59を水平方向に動かす力は、隣接する第1の配列パターン65の間でキャンセルされる。したがって、各配線61a〜61cに位相の異なる電気信号や極性の異なる電気信号が供給されるような場合であっても、振動回路部59を安定した状態で上下に振動させて、電気信号を音響信号に変換して出力できる。また、振動回路部59を含むフレキシブル基板50が水平方向に動くことを防止できる。
【0031】
さらに、第1の配列パターン65は、方形の振動回路部59の長辺に平行に配置されており、配線61a〜61cの長さが等しくなるようにアレンジできる。このため、配線61aおよび61cにより生成される水平な方向の力は、大きさが等しく、方向が異なるのでキャンセルできる。また、第1の配列パターン65は、長方形の振動回路部59の一辺である接続部57に対し直交する方向に延びており、この点でも、ニュートラルゾーンである着磁領域の境界(着磁境界)36の両側に配置される配線61aおよび配線61cの長さを等しくできる。それとともに、特に、接続部57に近い領域で発生する水平方向の力をキャンセルできるので、接続部57に加わる水平方向の力を抑制できる。したがって、スリット55の周辺およびブリッジ部54に発生する面に沿った方向の力を抑制できる。このため、振動回路部59を、固定されている駆動回路部58に対して、ボイスコイル配線である配線パターン60により生成される力で垂直方向に自然な振動モードで振動させることができる。したがって、優れた音響特性を備えたフレキシブル基板50およびスピーカー10を提供できる。
【0032】
第1の配列パターン65が、方形の振動回路部59の短辺方向に平行に配置されている場合も上記と同様に、着磁境界36の両側に配置される配線61aおよび配線61cによる面方向の力(水平方向の力)をキャンセルすることが容易である。また、接続部57の近傍における配線61aおよび配線61cの長さを均等にできるので、接続部57に加わる水平方向の力を抑制できる。したがって、磁石板31および32においても、着磁境界36が方形の振動回路部59の長辺または短辺方向に平行に配置されていることが望ましい。また、着磁境界36が長方形の振動回路部59の一辺である接続部57に対し直交する方向または平行する方向に配置されていることが望ましい。他の多角形形状の振動回路部59において、接続部57に加わる水平方向の力を抑制するためには、配線パターン60が接続部57である多角形の一辺に対して直交する方向または平行な方向に延びていることが望ましい。着磁境界36も同様に、接続部57である多角形の一辺に対して直交する方向または平行な方向に延びていることが望ましい。
【0033】
フレキシブル基板50の振動回路部59により出力された音響信号は、磁石板31および32に設けられた貫通孔(貫通部)34を通して外界に出力される。また、振動回路部59および緩衝部材41および42の水平方向(面と平行な方向)の動きは、ハウジング20に適当なストッパとしての構成を設けて規制することも可能である。たとえば、ハウジング20の側壁で振動回路部59を含むフレキシブル基板50などの動きを規制したり、ハウジング20のコーナーの形状を斜めにしてフレキシブル基板50の動きを規制することができる。さらに、ピンなどの部材によりフレキシブル基板50の水平方向の動きを規制することができる。
【0034】
また、フレキシブル基板50の振動回路部59は、三方の縁(周端)は、自由に振動できる状態でハウジング20に収納されており、一方の縁は接続部57を介して駆動回路部58に一体化されている。接続部57は、接続配線69が配置されるブリッジ部54を除き、スリット状の開口55になっており、さらにブリッジ部54は凸状または凹状のフレキシブルな、さらに低剛性の形状に加工されていてもよい。接続部57の剛性を非常に低くすることにより、振動回路部59の周端(縁)は、接続部57も含めてほぼ全体が自由振動できる状態となり、振動回路部59を自由端状態で振動させることができる。したがって、配線61a〜61fに供給される電気信号に応じた振動を振動回路部59に励起でき、品質の高い音を出力できる。
【0035】
フレキシブル基板50は、接続部57を介して駆動回路部58と振動回路部59とが一体となっている。このため、駆動回路部58に搭載された処理ユニット85と振動回路部59の配線パターン(ボイスコイル配線)60とをフレキシブル基板50に形成されたプリントパターン(接続配線)69により接続できる。このため、処理ユニット85の駆動回路から出力された音響信号を短いパターンでボイスコイル用の配線パターン60に供給でき、周囲のノイズ等の影響を抑制できる。また、駆動回路部58、振動回路部59および接続回路69を含めた、フレキシブル基板50に実装される配線は、一括して製造される。このため、駆動回路部58、振動回路部59を含めたフレキシブル基板50、およびフレキシブル基板50を搭載したスピーカー10の製造コストを低減できる。
【0036】
フレキシブル基板50にプリントされる配線で接続配線69を形成できるので、配線パターン60に含まれる複数の配線61a〜61fのそれぞれに異なる音響信号を供給する場合であっても、数多い接続配線69を比較的狭いブリッジ部54に集中して配置できる。したがって、音響信号の量が増えても、ブリッジ部54の面積の増大を抑制でき、接続部57を低剛性に維持できるので振動回路部59をフリーな状態で振動させることができる。
【0037】
たとえば、処理ユニット85が100MHz程度の処理能力の駆動回路機能、あるいはデジタル信号処理機能を備えている場合、24ビットのデジタル音響信号を6回路×4ビット(時間方向に16分割)の再生信号に変換してそれぞれの配線61a〜61fに直に供給することができる。フレキシブル基板50の振動回路部59は、配線61a〜61fに対しそれぞれ独立に供給されたデジタル信号(再生信号)により上下に振動し、再生信号による振動が合成された音が出力される。
【0038】
このように、上述したスピーカー10においては、フレキシブル基板50の一部を振動回路部59として音を出力する。したがって、上記においてはスピーカーとしての機能を主に発揮する装置を例に説明したが、情報端末、携帯端末などの情報処理装置や、家電などの電化製品、産業用機械、車両などにおいて、スピーカー機能を必要とする場合に、スピーカーユニットをフレキシブル基板50に搭載したり、フレキシブル基板50に加えてスピーカーユニットをハウジングに収納するスペースを確保したりする必要はなく、フレキシブル基板50をハウジングに収納する簡易な構成でスピーカーとしての機能を備えた装置を提供できる。
【0039】
振動回路部59は音響出力に適した材質および厚みであり、駆動回路部58は回路部品の搭載や回路形成に適した多層構造などであってもよい。
【0040】
なお、上記では、表裏のそれぞれに3配線(3回路)が形成された振動回路部59を含むフレキシブル基板50を備えたスピーカー10を例に説明しているが、振動回路部59に設けられる配線の数はこれに限定されず、2配線であってもよく、4配線以上であってもよく、いずれか一方の面だけに配線が設けられていてもよい。たとえば、配線パターン60が2配線の場合は、2つの配線は着磁境界36を中心に対称な位置に配置される。また、上記では、配線パターン60は、長方形の振動回路部59の長手方向(縦方向)に折り返しているが幅方向(横方向)に折り返してもよい。また、ボイスコイル用の配線パターン60は上記に限定されず、振動回路部59を振動させるボイスコイルとして機能する配線パターンであればよい。
【0041】
さらに、振動回路部59の形状は長方形に限らず、正方形であっても、それ以外の形状であってもよい。また、振動回路部59は、フレキシブル基板50の一方の端に設けられてもよく、複数の端に設けられていてもよく、さらに、フレキシブル基板50の中、たとえば中央に設けられていてもよい。
【0042】
また、配線パターン60が蛇行またはジグザグに曲がっている(ターンしている)数は3つに限定されない。振動回路部59の面積が十分に確保できない場合は、配線パターン60はストレートであってもよい。配線パターン60には偶数個の第1の配列パターン65が含まれていることが望ましく、この場合は、配線パターン60のターン部分(第2の配線パターン66)は奇数であることが望ましい。
【0043】
また、磁石板31および32に設けられた貫通孔(通気孔)34の位置は任意であるが、振動回路部59の変位が大きくなる着磁境界36に沿って配置することが望ましい。また、貫通孔34の配置は千鳥状であっても格子状であってもよく、円形であっても、長円形であっても、多角形であってもよい。
【0044】
また、上記では振動回路部59が音を出力するスピーカーを例に説明しているが、フレキシブル基板50を含む装置は、振動回路部59が音を電気信号に変換するマイクロフォンとしての機能を備えた装置であってもよい。マイクロフォンとしての機能を備えた装置においては、集音特性をフレキシブルに設定したり、デジタル信号を出力するマイクロフォンを提供できる。
図1
図2
図3
図4