特許第6464037号(P6464037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464037
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】センサ制御装置及びガス検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/419 20060101AFI20190128BHJP
【FI】
   G01N27/419 327R
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-115834(P2015-115834)
(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公開番号】特開2017-3353(P2017-3353A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄三
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−250165(JP,A)
【文献】 特開2010−121951(JP,A)
【文献】 特表2004−503774(JP,A)
【文献】 特開昭63−098556(JP,A)
【文献】 特開2001−022405(JP,A)
【文献】 特開昭61−190601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/419
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスに含まれる特定成分に応じた起電力を生じる検知セルと、ポンプ電流に応じて酸素の汲み入れ又は汲み出しを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記検知セルの前記起電力に応じて変化する起電力信号について、比例演算処理、積分演算処理、及び、微分演算処理を行うPID演算部と、
該PID演算部の比例演算結果、積分演算結果、及び、微分演算結果に基づいて、前記起電力信号が所定の目標値となるように前記ポンプ電流を制御するためのポンプ電流制御信号を生成するポンプ電流制御信号生成部と、
前記PID演算部の演算結果のうち、前記比例演算結果及び前記積分演算結果、又は、前記積分演算結果に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定成分を検出するためのガス検出信号を生成するガス検出信号生成部と、を備えていることを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項2】
前記センサ制御装置は、前記起電力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、前記ポンプ電流制御信号をデジタル信号からアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換部と、をさらに備え、前記PID演算部は、デジタル信号の前記起電力信号について、前記比例演算処理、前記積分演算処理、及び、前記微分演算処理をデジタル制御で行うことを特徴とする請求項1に記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
測定対象ガスに含まれる特定成分に応じた起電力を生じる検知セルと、ポンプ電流に応じて酸素の汲み入れ又は汲み出しを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、
該ガスセンサを制御するセンサ制御装置と、を備え、
該センサ制御装置は、請求項1又は2に記載のセンサ制御装置であることを特徴とするガス検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ制御装置及びガス検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
検知セル及び酸素ポンプセルを有するガスセンサを制御するセンサ制御装置や、ガスセンサ及びセンサ制御装置を備えるガス検知システムが知られている。なお、ガスセンサの検知セルは、測定対象ガスに含まれる特定成分に応じた起電力を生じるセルであり、ガスセンサの酸素ポンプセルは、ポンプ電流に応じて酸素の汲み入れ又は汲み出しを行うセルである。
【0003】
ガスセンサの一例としては、検知セルにて生じる起電力が予め設定された目標電圧となるように、酸素ポンプセルを用いて測定対象ガスに含まれる酸素の汲み入れ又は汲み出しを行い、その際に酸素ポンプセルに流れる(通電される)ポンプ電流に基づいて、測定対象ガスに含まれる酸素濃度をリニアに検出するA/Fセンサ(酸素センサ)が挙げられる。また、酸素ポンプセルを有するガスセンサの他の例としては、測定対象ガスに含まれるNOx濃度を検知するNOxセンサが挙げられる。
【0004】
センサ制御装置は、ポンプ電流を制御するに当たって、様々な演算機能を備える必要がある。例えば、特許文献1には、検知セルの起電力に応じて変化する起電力信号(検知セルの検知電圧)についてPID演算処理(比例演算処理、積分演算処理、微分演算処理)を行うPID演算部を備えたセンサ制御装置が開示されている。このセンサ制御装置は、PID演算部のPID演算結果に基づいてポンプ電流の通電制御値を演算して制御することで、所定の目標電圧になるように検知セルをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4954185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のセンサ制御装置は、PID演算部のPID演算結果に基づいて演算されたポンプ電流の通電制御値をセンサ出力信号(ガス検出信号)として利用し、その信号に基づいて測定対象ガスに含まれる特定成分を検出していた。ところが、PID演算処理によるPID演算結果のうち、特に微分演算処理による微分演算結果は、ポンプ電流の制御と比べて応答性を必要としないガス検出信号にとってノイズ増大の要因となり、ガス検出信号の検出精度の低下を招くおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、起電力を目標電圧にするためのポンプ電流の制御に遅れを生じることなく、ガス検出信号におけるノイズ増大を抑制できるセンサ制御装置及びそのセンサ制御装置を備えたガス検知システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様にかかるセンサ制御装置は、測定対象ガスに含まれる特定成分に応じた起電力を生じる検知セルと、ポンプ電流に応じて酸素の汲み入れ又は汲み出しを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、前記検知セルの前記起電力に応じて変化する起電力信号について、比例演算処理、積分演算処理、及び、微分演算処理を行うPID演算部と、該PID演算部の比例演算結果、積分演算結果、及び、微分演算結果に基づいて、前記起電力信号が所定の目標値となるように前記ポンプ電流を制御するためのポンプ電流制御信号を生成するポンプ電流制御信号生成部と、前記PID演算部の演算結果のうち、前記比例演算結果及び前記積分演算結果、又は、前記積分演算結果に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定成分を検出するためのガス検出信号を生成するガス検出信号生成部と、を備えている。
【0009】
前記センサ制御装置において、ガス検出信号生成部は、測定対象ガスに含まれる特定成分を検出するためのガス検出信号を生成する。ガス検出信号は、PID演算部の演算結果のうち、比例演算結果及び積分演算結果、又は、積分演算結果に基づいて生成される信号である。
【0010】
すなわち、ガス検出信号は、ポンプ電流制御信号とは異なり、PID演算部の演算結果のうち、少なくとも、ガス検出信号におけるノイズ増大の要因となる微分演算結果を除いた、比例演算結果及び積分演算結果、又は、積分演算結果に基づいて生成される信号である。そのため、ガス検出信号におけるノイズ増大を抑制できる。
【0011】
また、ガス検出信号は、ポンプ電流制御信号とは異なり、微分演算結果を除いた演算結果に基づいて生成される信号であるから、ポンプ電流制御信号と比べて、検知セルの起電力における長期間の変化状態が相対的に大きく反映された信号となる。このような信号は、測定対象ガスに含まれる特定成分の検出に適した信号となる。そのため、ガス検出信号を測定ガスに含まれる特定成分を検出するための信号として用いることで、検知セルの起電力における長期間の変化状態に基づいて、測定対象ガスに含まれる特定成分を検出することが可能となる。
【0012】
これにより、例えば、ガス検出信号を用いて測定対象ガスに含まれる特定成分濃度を演算する特定成分演算部が、前述したようにノイズ増大が抑制されたガス検出信号を用いて演算を行うことで、特定成分演算部における特定成分濃度の演算精度を向上させることができる。そして、測定対象ガスに含まれる特定成分の検出精度を向上させることができる。
【0013】
また、ガス検出信号は、前述のとおり、PID演算部の演算結果のうち、比例演算結果及び積分演算結果、又は、積分演算結果に基づいて生成される信号である。そのため、使用者の要求や用途等に合わせて、ガス検出信号の選択が可能となる。例えば、ガス検出の応答性が要求される場合には、比例演算結果及び積分演算結果に基づいて生成されるガス検出信号を選択し、ガス検出の応答性の低下をある程度許容できる場合であってノイズ増大をさらに抑制したい場合には、積分演算結果に基づいて生成されるガス検出信号を選択してもよい。
【0014】
一方、ポンプ電流制御信号生成部は、酸素ポンプセルに通電するポンプ電流の制御に用いるためのポンプ電流制御信号を生成する。ポンプ電流制御信号は、PID演算部の比例演算結果、積分演算結果、及び、微分演算結果に基づいて生成される信号である。
【0015】
すなわち、ポンプ電流制御信号は、ガス検出信号とは異なり、微分演算結果を含む演算結果に基づいて生成される信号であるから、ガス検出信号と比べて、検知セルの起電力における直近の変化状態が相対的に大きく反映された信号となる。このような信号は、検知セルを所定の目標電圧になるようにフィードバック制御するのに適した信号となる。そのため、ポンプ電流制御信号に基づいて生成したポンプ電流を酸素ポンプセルに対して通電することで、検知セルの起電力における直近の変化状態に応じて、酸素ポンプセルによる酸素のポンピング(汲み出し、汲み入れ)を適切に実行できる。つまり、ポンプ電流の制御に遅れが生じることを抑制できる。
【0016】
このように、本発明のセンサ制御装置によれば、起電力を目標電圧にするためのポンプ電流の制御に遅れを生じることなく、ガス検出信号におけるノイズ増大を抑制できる。つまり、測定対象ガスに含まれる特定成分の検出精度を向上させることができると共に、酸素ポンプセルによる酸素のポンピングを適切に実行できる。
【0017】
前記センサ制御装置は、前記起電力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、前記ポンプ電流制御信号をデジタル信号からアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換部と、をさらに備え、前記PID演算部は、デジタル信号の前記起電力信号について、前記比例演算処理、前記積分演算処理、及び、前記微分演算処理をデジタル制御で行ってもよい。この場合には、デジタル制御部分(デジタル回路)を有することにより、アナログ回路と比較して定数変更が容易となる。そのため、より多くの種類のガスセンサの制御や多様な特性のガスセンサの制御に適応することが容易となる。一方、PID演算部をデジタル回路としたとき、PID演算部の微分演算処理による微分演算結果を用いると、ガス検出信号における量子化ノイズの増大につながる場合がある。したがって、微分演算結果を除く演算結果に基づいてガス検出信号を生成する本発明のセンサ制御装置を適用することにより、ガス検出信号における量子化ノイズの増大を抑制できる。
【0018】
本発明の他の態様にかかるガス検知システムは、測定対象ガスに含まれる特定成分に応じた起電力を生じる検知セルと、ポンプ電流に応じて酸素の汲み入れ又は汲み出しを行う酸素ポンプセルと、を有するガスセンサと、該ガスセンサを制御するセンサ制御装置と、を備え、該センサ制御装置は、前述のセンサ制御装置である。
【0019】
前記ガス検知システムは、前述のセンサ制御装置を備えている。そのため、前述のセンサ制御装置と同様に、起電力を目標電圧にするためのポンプ電流の制御に遅れを生じることなく、ガス検出信号におけるノイズ増大を抑制できる。つまり、測定対象ガスに含まれる特定成分の検出精度を向上させることができると共に、酸素ポンプセルによる酸素のポンピングを適切に実行できる。
【0020】
このように、本発明のガス検知システムによれば、起電力を目標電圧にするためのポンプ電流の制御に遅れを生じることなく、ガス検出信号におけるノイズ増大を抑制できる。つまり、測定対象ガスに含まれる特定成分の検出精度を向上させることができると共に、酸素ポンプセルによる酸素のポンピングを適切に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ガス検知システムの全体構成図である。
図2】デジタル演算部の機能ブロック図である。
図3】別例のデジタル演算部の機能ブロック部である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0023】
(実施形態1)
<1−1.全体構成>
図1は、本発明が適用された実施形態としてのガス検知システム1の全体構成図である。
【0024】
ガス検知システム1は、例えば、内燃機関の排ガス中の特定ガス(本実施形態では、酸素)を検出する用途に用いられる。
ガス検知システム1は、酸素を検出するガスセンサ8と、ガスセンサ8を制御するセンサ制御装置2と、を備えている。ガス検知システム1は、検出した酸素濃度をエンジン制御装置(図示省略)に通知する。
【0025】
エンジン制御装置は、内燃機関を制御するための各種制御処理を実行するマイクロコントローラである。エンジン制御装置は、各種制御処理の1つとして、ガス検知システム1で検出した酸素濃度を用いて内燃機関の空燃比制御を行う。
【0026】
ガスセンサ8は、内燃機関(エンジン)の排気管に配設され、排ガス中の酸素濃度を広域にわたって検出する。ガスセンサ8は、リニアラムダセンサとも呼ばれる。ガスセンサ8は、センサ素子9と、ヒータ26と、を備えて構成されている。
【0027】
センサ素子9は、ポンプセル14と、起電力セル24と、を備えて構成されている。
ポンプセル14は、部分安定化ジルコニア(ZrO)により形成された酸素イオン伝導性の固体電解質体15と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された一対の多孔質電極16と、を有している。起電力セル24は、部分安定化ジルコニア(ZrO)により形成された酸素イオン伝導性の固体電解質体25と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された一対の多孔質電極28と、を有している。
【0028】
ヒータ26は、外部からの通電により発熱する発熱抵抗体を備えて構成されている。ヒータ26は、ポンプセル14及び起電力セル24を加熱して、ポンプセル14及び起電力セル24を活性化状態にするために備えられる。
【0029】
なお、ガスセンサ8は、ポンプセル14と起電力セル24との間に、ガスセンサ8の内部に設けられた測定室(図示省略)を備えている。測定室には、外部から多孔質拡散層(図示省略)を介して測定対象ガス(本実施形態では、排ガス)が導入される。
【0030】
ガスセンサ8は、起電力セル24を用いて、測定室の酸素濃度(換言すれば、多孔質拡散層を介して測定室内に導入された測定対象ガスの酸素濃度)に応じた起電力(検知電圧Vs)が発生する。具体的には、起電力セル24には、表面の多孔質電極28と裏面の多孔質電極28との酸素濃度差に応じた検知電圧Vsが発生する。つまり、起電力セル24の検知電圧Vsは、測定室の酸素濃度に応じて変化する。
【0031】
そして、起電力セル24の検知電圧Vsが所定の基準値(例えば、450mV)となるように、ポンプセル14を用いて、測定室の測定対象ガスに含まれる酸素の汲み入れ及び汲み出しを行う。具体的には、ポンプセル14の表面の多孔質電極16と裏面の多孔質電極16とにポンプ電流Ipを流して、測定室内の酸素の汲み入れ及び汲み出しを行い、測定室の酸素濃度の調整を行う。
【0032】
つまり、ガスセンサ8は、測定室の酸素濃度が所定の目標濃度(例えば、理論空燃比相当の酸素濃度)になるように、ポンプセル14に流したポンプ電流Ipに基づいて、測定対象ガスに含まれていた酸素濃度を検出する用途に用いられる。
【0033】
センサ制御装置2は、ガスセンサ8を駆動制御して排ガス中の酸素濃度を検出し、検出した酸素濃度をエンジン制御装置(図示省略)に通知する。
センサ制御装置2は、AD変換部31(アナログデジタル変換部31)、デジタル演算部33、電流DA変換部35(電流デジタルアナログ変換部35)、ガス濃度演算部37、検出信号発生部42、バッファ44、演算増幅器46、基準電圧発生部48、マルチプレクサ50、Rpvs演算部51、ヒータ発熱量演算部53、PWM生成部55、ヒータドライバ57、を備えている。
【0034】
検出信号発生部42は、ガスセンサ8の起電力セル24の内部抵抗値を検出するためのインピーダンス検出信号Saを、ガスセンサ8の起電力セル24に対して入力する。具体的には、検出信号発生部42は、デジタル演算部33からの指令に基づいて、インピーダンス検出信号Saとしての定電流を起電力セル24に対して通電する。
【0035】
バッファ44は、起電力セル24の両端電圧をハイインピーダンスで検出し、マルチプレクサ50に対してローインピーダンスで出力する。なお、起電力セル24の両端電圧は、インピーダンス検出信号Saの未入力時には、測定室の酸素濃度に応じて変化する出力信号Vs1(検知電圧Vs)となり、インピーダンス検出信号Saの入力時には、起電力セル24の内部抵抗値に応じて変化する応答信号Vs2となる。
【0036】
演算増幅器46は、ポンプセル14と起電力セル24とが接続される共通端子COMの電位を所定電位に設定する。具体的には、演算増幅器46は、グランド電位GNDを基準として、基準電圧発生部48の出力電圧(本実施形態では、2.5V)に基づき定められる電位を、共通端子COMの電位に設定する。なお、本実施形態では、グランド電位GNDがセンサ制御装置2の基準電位に相当する。
【0037】
マルチプレクサ50(以下、MUX50ともいう)は、入力される複数のアナログ信号のいずれか1つを、AD変換部31に対して出力する。マルチプレクサ50は、デジタル演算部33からの指令に基づいて、いずれのアナログ信号を出力するのかを決定する。
【0038】
マルチプレクサ50に入力される複数のアナログ信号には、「起電力セル24のVs+端子と共通端子COMとの間の電圧」(Vs+−COM間電圧)、「ポンプセル14のIp+端子とグランド電位GNDとの間の電圧」(Ip+−GND間電圧)、「共通端子COMとグランド電位GNDとの間の電圧」(COM−GND間電圧)、「起電力セル24のVs+端子とグランド電位GNDとの間の電圧」(Vs+−GND間電圧)が含まれている。なお、Vs+端子および共通端子COMが、起電力セル24の両電極端子に相当し、Ip+端子および共通端子COMが、ポンプセル14の両電極端子に相当する。
【0039】
マルチプレクサ50は、複数の入力端子と1つの出力端子との接続経路上に設けられる複数の切替スイッチ部(図示省略)を備えている。マルチプレクサ50は、複数の切替スイッチ部の各状態(ON状態、OFF状態)がデジタル演算部33からの指令に基づいて設定されることで、複数のアナログ信号のうちいずれか1つを出力可能に構成されている。本実施形態では、マルチプレクサ50は、複数のアナログ信号が入力されて、複数のアナログ信号を1つずつ予め定められた順に出力する。
【0040】
AD変換部31は、マルチプレクサ50から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をデジタル演算部33及びRpvs演算部51に通知する。
デジタル演算部33は、センサ制御処理、ポンプ電流制御処理等の演算制御処理を実行する。ポンプ電流制御処理については、後述する。
【0041】
なお、センサ制御装置2は、図示しないEEPROM及びRAMを備えている。
EEPROMは、演算制御処理の内容や演算制御処理に用いる各種パラメータ等を記憶する記憶部である。また、EEPROMは、制御対象となるガスセンサ8の種類や特性に応じて定められる各種情報(ポンプセル14の許容最大電流等)を記憶している。これらの情報は、センサ制御装置2の製造段階でEEPROMに記憶される。
【0042】
RAMは、各種演算制御処理に用いられる制御データ等を一時的に記憶する記憶部である。
電流DA変換部35は、デジタル演算部33で演算されたポンプ電流Ipの通電制御値の情報(通電方向、電流値)が含まれるDAC制御信号S1を受信し、受信したデジタル信号をアナログ信号に変換し、DAC制御信号S1に基づき定められるポンプ電流Ipをポンプセル14に対して通電する。
【0043】
ガス濃度演算部37は、デジタル演算部33で演算されたポンプ電流Ipの通電制御値の情報が含まれるガス検出信号S2に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度を演算する。
【0044】
つまり、ガス濃度演算部37は、測定室の酸素濃度が所定の目標濃度(例えば、理論空燃比相当の酸素濃度)になるようにポンプセル14に流したポンプ電流Ipに基づいて、測定対象ガスに含まれていた酸素濃度を演算する。
【0045】
Rpvs演算部51は、AD変換部31から通知された応答信号Vs2及び出力信号Vs1に基づいて、起電力セル24の内部抵抗値Rpvsを演算する。
ヒータ発熱量演算部53は、デジタル演算により、Rpvs演算部51で演算された内部抵抗値Rpvsに基づいてガスセンサ8の温度を演算し、演算された温度をセンサ目標温度に近づける、あるいは維持するために必要なヒータ発熱量を演算する。
【0046】
PWM生成部55は、ヒータ発熱量演算部53で演算されたヒータ発熱量に基づいて、ヒータ26に供給する電力のDUTY比率を演算して、そのDUTY比率に応じたPWM制御信号を生成する。
【0047】
ヒータドライバ57は、電源装置59から供給される電力を用いて、PWM生成部55からのPWM制御信号に基づいてヒータ26への通電制御を行う。これにより、ヒータ26の発熱量は、ガスセンサ8の温度をセンサ目標温度に近づける、あるいは維持するために必要な発熱量となる。
【0048】
<1−2.ポンプ電流制御処理>
次に、デジタル演算部33で実行される各種制御処理のうち、ポンプ電流制御処理について説明する。
【0049】
ポンプ電流制御処理は、起電力セル24の検知電圧Vsが目標制御電圧(本実施形態では、例えば450mV)となるように、ポンプセル14に通電するポンプ電流Ipを制御するための演算制御処理である。
【0050】
ここで、ポンプ電流制御処理を実行する際のデジタル演算部33の機能ブロック図を図2に示す。
ポンプ電流制御処理を実行する際のデジタル演算部33は、PID演算部61、ポンプ電流制御信号生成部63、ガス検出信号生成部65の各機能を有している。
【0051】
このうち、PID演算部61は、目標制御電圧(450mV)と起電力セル24の検知電圧Vs(起電力セル24の起電力)との偏差ΔVsに基づいて、PID演算処理(具体的には、比例演算処理、積分演算処理及び微分演算処理)をデジタル回路で行う。
【0052】
ポンプ電流制御信号生成部63は、PID演算部61での演算処理によって得られた比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)に基づいて、目標制御電圧(450mV)と起電力セル24の検知電圧Vs(起電力セル24の起電力)との偏差ΔVsが0に近づくように(換言すれば、検知電圧Vsが目標制御電圧に近づくように)、ポンプセル14に通電するためのポンプ電流Ipの通電制御値を演算する。
【0053】
そして、ポンプ電流制御信号生成部63は、ポンプ電流Ipの通電制御値の電流値及び通電方向(正方向、逆方向)に関する情報を含んだデジタル信号であり、ポンプ電流Ipの制御に用いるためのDAC制御信号S1を生成し、そのDAC制御信号S1を電流DA変換部35に対して送信(出力)する。
【0054】
DAC制御信号S1を受信した電流DA変換部35は、前述したように、受信したデジタル情報についてDA変換を行い、DAC制御信号S1に基づき定められるポンプ電流Ipをポンプセル14に対して通電する。
【0055】
ガス検出信号生成部65は、PID演算部61での演算処理によって得られた演算結果に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するためのガス検出信号S2を生成する。ここで、PID演算部61の演算結果は、排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度に応じて変化する。本実施形態のガス検出信号生成部65は、PID演算部61の比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)のうち、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するためのガス検出信号S2を生成し、そのガス検出信号S2をガス濃度演算部37に対して送信(出力)する。
【0056】
ガス検出信号S2を受信したガス濃度演算部37は、前述したように、デジタル演算部33で演算された情報が含まれるガス検出信号S2に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度を演算する。具体的には、ガス濃度演算部37は、受信したガス検出信号S2及び蓄積された過去のガス検出信号S2に含まれる情報に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度を演算する。
【0057】
<1−3.効果>
本実施形態のガス検知システム1において、センサ制御装置2は、AD変換部31と、デジタル演算部33と、電流DA変換部35と、を備えている。そして、ポンプ電流制御処理を実行する際のデジタル演算部33は、PID演算部61、ポンプ電流制御信号生成部63、ガス検出信号生成部65の各機能を有している。
【0058】
このうち、PID演算部61は、目標制御電圧と起電力セル24の検知電圧Vs(起電力セル24の起電力)との偏差ΔVsに基づいて、PID演算処理(具体的には、比例演算処理、積分演算処理及び微分演算処理)をデジタル回路で行う。
【0059】
ガス検出信号生成部65は、PID演算部61での演算処理によって得られた演算結果に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するためのガス検出信号S2を生成する。ここで、PID演算部61の演算結果は、排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度に応じて変化する。本実施形態のガス検出信号生成部65は、PID演算部61の比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)のうち、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するためのガス検出信号S2を生成し、そのガス検出信号S2をガス濃度演算部37に対して送信(出力)する。
【0060】
すなわち、ガス検出信号S2は、DAC制御信号S1とは異なり、PID演算部61の演算結果のうち、少なくとも、ガス検出信号S2におけるノイズ増大の要因となる微分演算結果(D)を除いた、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいて生成される信号である。そのため、ガス検出信号S2におけるノイズ増大を抑制できる。
【0061】
また、ガス検出信号S2は、DAC制御信号S1とは異なり、微分演算結果(D)を除いた演算結果に基づいて生成される信号であるから、DAC制御信号S1と比べて、起電力セル24の起電力における長期間の変化状態が相対的に大きく反映された信号となる。このような信号は、測定対象ガス(排ガス)に含まれる特定成分(酸素)の検出に適した信号となる。
【0062】
そのため、ガス検出信号S2を排ガス中の酸素濃度を検出するための信号として用いることで、起電力セル24の起電力における長期間の変化状態に基づいて、排ガス中の酸素濃度を検出することが可能となる。これにより、排ガス中の酸素濃度の検出精度を向上させることができる。
【0063】
一方、ポンプ電流制御信号生成部63は、PID演算部61での演算処理によって得られた比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)に基づいて、目標制御電圧と起電力セル24の検知電圧Vs(起電力セル24の起電力)との偏差ΔVsが0に近づくように(換言すれば、検知電圧Vsが目標制御電圧に近づくように)、ポンプセル14に通電するためのポンプ電流Ipの通電制御値を演算する。
【0064】
そして、ポンプ電流制御信号生成部63は、ポンプ電流Ipの通電制御値の電流値及び通電方向(正方向、逆方向)に関する情報を含んだデジタル信号であり、ポンプ電流Ipの制御に用いるためのDAC制御信号S1を生成し、そのDAC制御信号S1を電流DA変換部35に対して送信(出力)する。
【0065】
すなわち、DAC制御信号S1は、ガス検出信号S2とは異なり、微分演算結果(D)を含む演算結果に基づいて生成される信号であるから、ガス検出信号S2と比べて、起電力セル24の起電力における直近の変化状態が相対的に大きく反映された信号となる。このような信号は、起電力セル24の検知電圧Vsを所定の基準値にするためのポンプセル14の制御に適した信号となる。そのため、DAC制御信号S1に基づいて生成したポンプ電流Ipをポンプセル14に対して通電することで、起電力セル24の起電力における直近の変化状態に応じて、ポンプセル14による酸素のポンピング(汲み出し、汲み入れ)を適切に実行できる。つまり、ポンプ電流Ipの制御に遅れが生じることを抑制できる。
【0066】
また、本実施形態のセンサ制御装置2は、前述のとおり、AD変換部31と、電流DA変換部35と、を備えている。そして、PID演算部61は、比例演算処理、積分演算処理、及び、微分演算処理をデジタル制御で行う。すなわち、デジタル制御部分(デジタル回路)を有することにより、アナログ回路と比較して定数変更が容易となる。そのため、より多くの種類のガスセンサ8の制御や多様な特性のガスセンサ8の制御に適応することが容易となる。一方、PID演算部61をデジタル回路としたとき、PID演算部61の微分演算処理による微分演算結果(D)を用いると、ガス検出信号S2における量子化ノイズの増大につながる場合がある。したがって、微分演算結果(D)を除く演算結果に基づいてガス検出信号S2を生成するセンサ制御装置2を適用することにより、ガス検出信号S2における量子化ノイズの増大を抑制できる。
【0067】
このように、本実施形態のセンサ制御装置2及びそのセンサ制御装置2を備えたガス検知システム1によれば、起電力セル24の検知電圧Vsを所定の基準値にするためのポンプ電流Ipの制御に遅れを生じることなく、ガス検出信号S2におけるノイズ増大を抑制できる。つまり、測定対象ガス(排ガス)に含まれる特定成分(酸素)の検出精度を向上させることができると共に、ポンプセル14による酸素のポンピングを適切に実行できる。
【0068】
<1−4.特許請求の範囲との対応関係>
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
起電力セル24が検知セルの一例に相当し、ポンプセル14が酸素ポンプセルの一例に相当し、ガスセンサ8がガスセンサの一例に相当し、センサ制御装置2がセンサ制御装置の一例に相当する。
【0069】
デジタル演算部33のPID演算部61がPID演算部の一例に相当し、デジタル演算部33のポンプ電流制御信号生成部63がポンプ電流制御信号生成部の一例に相当し、デジタル演算部33のガス検出信号生成部65がガス検出信号生成部の一例に相当する。起電力セル24の検知電圧Vsが起電力信号の一例であり、DAC制御信号S1がポンプ電流制御信号の一例に相当し、ガス検出信号S2がガス検出信号の一例に相当する。
【0070】
AD変換部31がアナログデジタル変換部の一例に相当し、電流DA変換部35がデジタルアナログ変換部の一例に相当する。ガス検知システム1がガス検知システムの一例に相当する。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0072】
(1)前述の実施形態では、ガス検出信号生成部65は、PID演算部61の演算結果のうち、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいてガス検出信号S2を生成したが、PID演算部61の演算結果のうち、積分演算結果(I)に基づいてガス検出信号S2を生成してもよい。この場合、使用者の要求や用途等に合わせて、ガス検出信号S2の選択が可能となる。例えば、ガス検出の応答性が要求される場合には、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいて生成されるガス検出信号S2を選択し、ガス検出の応答性の低下をある程度許容できる場合であってノイズ増大をさらに抑制したい場合には、積分演算結果(I)に基づいて生成されるガス検出信号S2を選択してもよい。
【0073】
(2)また、ガス検出信号生成部65は、PID演算部61の演算結果のうち、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づくガス検出信号S2(S2a)と、積分演算結果(I)に基づくガス検出信号S2(S2b)との2つの信号を生成するようにしてもよい。
【0074】
このとき、ガス検出信号生成部65は、2つのガス検出信号S2a、S2bのうち、一方の信号をガス濃度演算部37からの指令に基づき、ガス濃度演算部37に対して送信(出力)するようにしてもよい。また、ガス検出信号生成部65は、両方の信号をガス濃度演算部37に対して送信(出力)し、ガス濃度演算部37がどちらか一方の信号を選択し、その信号に基づいて排ガス中の特定ガス(酸素)の濃度を演算するようにしてもよい。
【0075】
(3)前述の実施形態では、デジタル演算部33は、ポンプ電流制御信号生成部63とガス検出信号生成部65との機能を別々に有しているが、例えば、図3に示すように、デジタル演算部33は、実施形態1のポンプ電流制御信号生成部63及びガス検出信号生成部65(図2参照)の両方の機能を含む信号生成部67を有していてもよい。
【0076】
このような構成の場合、信号生成部67は、PID演算部61での演算処理によって得られた比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)に基づいて、ポンプ電流Ipの制御に用いるためのDAC制御信号S1を生成し、そのDAC制御信号S1を電流DA変換部35に対して送信(出力)する。また、信号生成部67は、PID演算部61での演算処理によって得られた比例演算結果(P)、積分演算結果(I)及び微分演算結果(D)のうち、比例演算結果(P)及び積分演算結果(I)に基づいて、排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するためのガス検出信号S2を生成し、そのガス検出信号S2をガス濃度演算部37に対して送信(出力)する。
【0077】
(4)本発明は、内燃機関の排ガス中の特定ガスを検出する用途に用いられるガス検知システムおよびセンサ制御装置に限定されることはなく、内燃機関への吸気ガス中の特定ガス(例えば、酸素)を検出する用途や、環境気体中の特定ガス(例えば、酸素)を検出する用途に用いるものであってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…ガス検知システム
2…センサ制御装置
14…ポンプセル(酸素ポンプセル)
24…起電力セル(検知セル)
61…PID演算部
63…ポンプ電流制御信号生成部
65…ガス検出信号生成部
8…ガスセンサ
S1…DAC制御信号(ポンプ電流制御信号)
S2…ガス検出信号
Vs…検知電圧(起電力信号)
図1
図2
図3