(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アミド系溶剤並びに12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸マグネシウムを含む金属石鹸分散液であって、前記12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムとの重量部比が70:30〜2:98であり、前記金属石鹸の示差走査熱量測定において観測されるシングルピークのピーク温度が100〜130℃であることを特徴とする、ポリウレタン用金属石鹸分散液。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは様々な分野で応用されている。その中でも、ポリウレタンフィルム、ポリウレタンウレアフィルムはじめ、ポリウレタンテープないしはポリウレタンウレアテープ、ポリウレタン系弾性繊維及びポリウレタンウレア系弾性繊維等の用途に用いられている。特に、ポリウレタン構造を持つ繊維は、ソフトセグメント成分一般にポリエーテルポリオールを使用し、ハードセグメントは強固な分子間水素結合の構造を有する為、弾性特性、伸長回復性に優れた性質を有している。
【0003】
ポリウレタンは、それ自体に粘着性があり、且つ伸縮性がある為、フィルムや繊維にすると取り扱いにくい。たとえば、フィルムを重ねあわせて、成型するために切断する場合、フィルム同士が粘着して加工性が悪い。加工時の粘着性を改良するために、無機材としてシリカ類を混合したり、単一の金属石鹸を添加したりする方法があるが、この場合はフィルム同士が滑って成型切断時にフィルムがずれて成型性を低下させたり、フィルム同士を熱接着する場合には、添加物の影響で熱接着性を低下させる。またフィルム上に印刷をする場合には、インクののりが悪く印刷性を低下させる問題があった。
【0004】
これに対して、従来からポリウレタンの粘着性や摩擦性改善に関して、ステアリン酸マグネシウムが、ポリウレタンの内部添加剤として多用されている。特許文献1には、ステアリン酸マグネシウムを含む脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合化合物を含むポリウレタン弾性繊維が、特許文献2にはポリウレタン重合体、アミド系溶剤、脂肪酸金属塩、及びポリカルボン酸系共重合化合物を含むポリウレタン組成物の提案がなされている。
しかしながら、該ポリウレタン弾性繊維の提案に関しては、細糸を1000m/分以上の高速紡糸時の糸キレや摩擦性の改善効果において、未だ充分に満足できるレベルでなく、ポリウレタン組成物の提案についても、脂肪酸金属塩の濃度を高くした場合に、脂肪酸金属塩が凝集し、粘度が高くなる傾向があり、更に貯槽タンクで貯蔵中に経時的に粘度が上昇し、このため配管内を通して、脂肪酸金属塩組成物の紡糸工程への輸送が困難になる問題があった。
このように粘度が上昇した脂肪酸金属塩組成物を使用したポリウレタン弾性繊維は、紙管に巻かれて保管されている状態で、経時的に紙管内層部の糸が、擬接着により、解除が困難となり、内層部の糸は使用できず破棄される問題があった。
これに加えて、ステアリン酸金属塩とアミド系溶剤からなる分散液は、固形分濃度が10%以上の場合に分散直後でも粘度が高くなり、更に、保管中に分散液の流動性が低下し、粘度が上昇する等の粘度安定性が乏しい問題もあった。
【0005】
また、固体の金属石鹸や油溶性高分子、高級脂肪酸、アミノ変性シリコーン等を油剤としてポリウレタン系弾性繊維に添加する方法や、平滑剤としてタルク、シリカ、コロイダルアルミナや酸化チタン等をポリウレタン系弾性繊維に分散させる方法、更にはシリコーンジオールやシリコーンジアミンをポリウレタン主鎖の一部に導入する方法等が検討されてきた(例えば、特許文献3)。しかし、これらの方法でも、十分な粘着防止効果が得られなかったり、平滑剤が紡糸機、整経機、編み機やガイド等に重大な磨耗を生じさせたりするといった問題があった。又、整経、編みたて工程に油剤成分によって抽出された糸中のオリゴマーや、油剤中の固体或いは高粘度成分が固体或いはペースト状になって分離したものが多量に付着するため、製品汚損や機械や器具の目詰まり等の問題があり、課題の解決に至っていない。近年の電子部品等に用いられるポリウレタンフィルムは、電子部品の小型軽量化に伴って、ポリウレタンフィルムにおいても、その厚みが10μm〜30μmと極めて薄いフィルムが用いられるようになってきた。このためフィルム間の粘着性を低下させ、取り扱い時の剥離性等の加工性の良好なポリウレタンフィルム及びそれに最適な分散性や経時粘度安定な粒度がそろったポリウレタン用の金属石鹸分散液及びその製造方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について、以下詳細に説明する。
まず、本発明のポリウレタンを製造するために用いる、ポリウレタン用金属石鹸分散液について説明する。
本発明のポリウレタン用金属石鹸分散液は、アミド系溶剤並びに12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸マグネシウムを含む金属石鹸分散液であって、前記12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムとの重量比が70:30〜2:98であり、前記金属石鹸の示差走査熱量測定において観測されるシングルピークのピーク温度が100〜130℃であることを特徴とする。
【0013】
従来からポリウレタンに多用されているステアリン酸マグネシウムは、そのステアリル基の極性が低い為、ポリウレタン重合体やそのアミド系溶剤との親和性が低い。
【0014】
一方、本発明に用いる12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムは、その化学構造中に存在する水酸基によって、ステアリル基の極性が向上すると同時に、ステアリル残基に由来する低極性の基を併せ持つところに特徴がある。すなわち、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムは、水酸基の存在により、ポリウレタン重合体及びアミド系溶剤のいずれに対しても親和性が良好になり、更に、ステアリル基の側鎖に水酸基を有する為、これが立体障害となりステアリン酸マグネシウムの凝集を抑制する効果があると考える。すなわち、本発明に用いる12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムは、ポリウレタン、アミド系溶剤、ステアリン酸マグネシウムのいずれに対しても、親和性を有する為、ポリウレタン重合体のアミド系溶液中でのステアリン酸マグネシウムの凝集を抑制する分散剤的役割を果たすと考えられる。
【0015】
本発明の金属石鹸分散液において、ステアリン酸マグネシウムの単独使用の場合は、約15重量%になると増粘したり、50℃で経時すると、数日で流動性が大きく低下する問題がある。一方、本発明の12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸組成物の濃度は、N,N’−ジメチルアセトアミド又はN,N’−ジメチルホルムアミド溶液中で、固形分濃度が約40重量%の高濃度まで、流動性があり、これを50℃で放置しても、長期間に渡って流動性を維持できる。
【0016】
以上のような効果は、アミド系溶媒中で所定の条件下にて混合、分散及び溶解かつ微粒子化することにより、はじめてその効果が顕著に発現される。具体的には、後述の実施例においても開示されるが、アミド系溶剤の存在下、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムとの混合物を70〜150℃で加熱・溶解し、ラインミキサー及び/又はホモミキサーで混合しながら、徐冷により均一分散かつ微粒子化することにより達成される。
すなわち、本発明の金属石鹸分散液は、以下の工程を経ることによって製造される。
該アミド系溶剤及び該金属石鹸を含む金属石鹸分散液を、70〜150℃にて加熱、混合及び溶解する工程;
上記の加熱後の金属石鹸分散液を、ラインミキサー及び/又はホモミキサー中を通過させながら50〜110℃で0.5〜10時間維持する工程;
上記の冷却後の金属石鹸分散液を、ラインミキサー及び/又はホモミキサー中を通過させながら70℃以下に冷却させながら、0.5〜10時間かけて40℃以下に冷却する工程;を含む製造方法により製造される。
【0017】
本発明に用いられるアミド系溶剤は、N,N’−ジメチルアセトアミド及びN,N’−ジメチルホルムアミドの少なくともいずれか一つのアミド系溶剤であることが好ましく、N,N’−ジメチルアセトアミドがとりわけ好ましい。両者を混合して使用しても良い。また、金属石鹸100重量部に対するアミド系溶剤の量は100〜2000重量部であることが好ましく、さらに好ましくは150〜800重量部である。
【0018】
上記分散・微粒子化には公知の各種粉砕方法を用いることができ、なかでも溶剤に混合・溶解した後に、金属石鹸が溶剤中から析出し始める時に粉砕する湿式粉砕法が好ましい。湿式粉砕に用いる粉砕機としては、ホモミキサーのような動的混合部を有する混合器を使用するのが好ましい。実施例においても開示されるが、好適に用いられるミキサーの例として、プライミクス株式会社製のパイプラインホモミクサーや、ホモミックラインミルはじめホモミックラインフローなどのラインミキサーやホモミキサーが挙げられる。特に、パイプラインホモミクサーでは、ホモミキサー部とパイプラン部とが一体となった混合器で、動的混合により撹拌・分散されたあとで、パイプラン部にて、液流による静的混合も起こるので好ましい。又、パイプライン部において、さらにスタティックミキサーとホモミキサーを組み合わせてもよい。
【0019】
これによって得られた本発明のポリウレタン用金属石鹸分散液は、適度なシェアレートのもとで動的混合器により均一混合・分散されたあとで、液流による粒子同士の静的混合されるので、分散粒子への衝撃が少なく、又、粒子の拡散速度も抑制されるので、サブミクロンの細かすぎる粒子の生成が抑えられ、それによる再凝集も起こり難くなり、その結果、高濃度においても低粘度で経時的な粘度上昇も少なく安定な分散液が得られる。この分散液を使用すると、ポリウレタン成型工程への安定的な輸送も容易になるので、成型前のポリウレタンに均一に添加し、短時間に均一に混合することができる。一方、ステアリン酸マグネシウムを単独で同様な処理を行った場合には、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムによる溶剤とステアリン酸マグネシウムとの両方に親和性を有する作用がない為、徐冷の際にステアリン酸マグネシウムが急激に析出して粒子が大きくなり微粒子の形状を維持できない。又、ラインミキサーやホモミキサーを用いて分散する利点として、金属石鹸の粒子径が細かくなり過ぎず且つ分布が狭くなるため、微粒子に起因する再凝集による経時的な粘度上昇の問題を回避できる点にある。
【0020】
上記の混合器と並んで通常のホモミキサーも好適に使用できる。好適に用いられるホモミキサーとしては、プライミクス株式会社製 製品名「ホモミクサー MARKII」や、みづほ工業株式会社製の真空乳化撹拌装置 モデル VQなどが挙げられる。一般的にホモミキサーの場合には、上記の混合器に比べて混合・分散力が強いので、金属石鹸粒子への衝撃が強く、粒子が細かくなりすぎて、それによって粒子の再凝集ということが起こる場合があるので、この場合はシェアレートを適度に調整して使用される。このようにすることよって、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸を一体として微粒子化する場合、アミド系溶剤との親和性が向上している為、ラインミキサーを使用した場合と同様、得られた分散液中にはサブミクロンの細かい粒径のものが存在しないため、溶液中での再凝集も起こらず、分散液は高濃度でも低粘度で長期間保存してもその粘度変化が少なく安定なものが得られる。
【0021】
以上のミキサー以外に、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、サンドグラインダー、コロイドミル、ボールミル等の各種の湿式粉砕機をホモミキサーの場合に比べさらにシェアレートを小さくすることによって使用することもできる。これらの機器では、微粉砕の際に強いシェア力が粒子にかかり、衝撃が大きいので、サブミクロンの細かい粒径のものが生成しないように、粒子にかかるシェアレートを制御して使用する必要がある。
【0022】
本発明の金属石鹸分散液は、まずアミド系溶剤及び該金属石鹸を含む金属石鹸分散液を、70〜150℃にて加熱混合する。分散液の組成にもよるが、混合温度は80〜120℃がより好ましい。この混合・加熱・撹拌・溶解の各工程においては必ずしも上記のラインミキサーを使用する必要はなく、通常のバッチタイプの混合器が使用される。
【0023】
次の工程からは、ミキサーとしてラインミキサーを例にして説明する。
上記で得られた加熱後の金属石鹸分散液を、たとえばホモミキサーが連結されたパイプラインミキサー中を通過させながら、ゆるやかに徐冷し、ゆっくりと金属石鹸を析出させる。加熱混合された温度よりも低温度にて、徐々に徐冷しながら、金属石鹸をゆっくりと析出させる。徐冷による析出条件は、分散液組成や処理量にもよるが、より好ましい温度及び時間の範囲は、それぞれ60〜80℃にて1〜10時間かけて、より好ましくは3〜8時間かけて徐冷する。このように金属石鹸分散液をゆっくりと徐冷しながらラインミキサー中(ホモミキサー中も含む)を通過させるのは、当該ミキサーのマイルドな分散によって、微粒子の発生を抑制し再凝集や粒径の大きなものを発生させない為である。又、分散後の系内の温度を段階的に降下させるのは、急激な析出による巨大粒子の生成を防止する為である。以下の工程も同様である。
【0024】
その次の工程として、上記で得られた徐冷後の金属石鹸分散液を、ラインミキサー中を通過させながら70℃以下の温度で、0.5〜10時間かけて40℃以下の温度までさらに冷却する工程である。より好ましい時間は1〜3時間である。
【0025】
以上の金属石鹸微粒子の製造方法により得られた12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸微粒子は、その大きさが小さく均一である。そのため、再凝集の原因となる粒径1μm以下の粒子も少なく、かつ20μm以上の大きな粒子も少ない為に、分散液のフィルターの濾過性は極めて良好なものとなる。
【0026】
前記金属石鹸の粒径は、アミド系溶剤中、例えばN,N’−ジメチルアセトアミド中で測定し、平均粒子径が1μmより大きく、20μm未満である。
平均粒子径が1μm以下の小さな粒径のものは、再凝集し、大きな粒子になりやすく、フィルターで詰まりを起こしやすい。20μm以上の大きな粒子の物は、例えばポリウレタンの製造工程でのフィルター詰まりなどを引き起こす。更に好ましい平均粒子径は2〜10μmである。
【0027】
このように粒径が小さくかつ均一な金属石鹸は、示差走査熱量測定において、100〜130℃の範囲にシングルピークが観測される。
図1(符号1及び2)及び
図2(符号3及び4)に、ステアリン酸マグネシウム及び12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムのそれぞれ単体の示差走査熱量計(DSC)により得られたカーブを示した。
図1においては、100〜150℃の温度領域にステアリン酸マグネシウムの複数のピークが観測される。尚、複数ピークが観測されるのは、ステアリン酸が天然物由来であり、炭素数16〜18からなる混合物の為である。又、
図2では、135℃近傍に12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムのピークが観測され、低温側にショルダーピークも観測される。一方、各図中には、各々の単体を本発明の金属石鹸分散液の製造方法(実施例1)の製造条件と同様にして、当該金属石鹸単体の分散液とし、溶剤を除去したあとのDSCカーブも併記(
図1の符号2及び
図2の符号4)されている。ここで具体的な製造条件を付記しておく。
図1の符号2については、ステアリン酸マグネシウム((株)サンエース製、 製品名 SAK−MS−P)、95.55kgをN,N’−ジメチルアセトアミド溶剤(237.9kg)に加えた溶液を、窒素雰囲気下、実施例1と同様の加熱、徐冷条件により分散液を得た後で、N,N’−ジメチルアセトアミドを真空減圧下(0.1Pa)で加熱除去(105℃、10時間)して得られたものである。又、
図2の符号4については、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム((株)サンエース製、製品名 SCI−HMS)、40.95kgをN,N’−ジメチルアセトアミド溶剤(237.9kg)に加えた溶液を、窒素雰囲気下、実施例1と同様の加熱、徐冷条件により分散液を得た後で、N,N’−ジメチルアセトアミドを真空乾燥機内で減圧乾燥除去(0.1Pa、105℃、10時間)して得られたものである。
【0028】
これらの図から分かるように、本発明の製造方法、すなわち、N,N’−ジメチルアセトアミド中にて所定の条件下にて加熱・混合・分散されたあとで、徐冷されて得られた各金属石鹸は、ピーク形状が処理前後で大きく異なることが示されている。ステアリン酸マグネシウムの場合では、処理後に105℃付近にシングルピークが、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムでは、処理後に126℃付近にほぼシングルピークとして観測される。
各々の図中において、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムがシングルピークを有する理由については明らかではない(特に後者の場合は驚きである)が、微粒子の大きさが小さくかつ均一であることが関係し、またアミド系溶剤により溶媒和された各々の金属石鹸が配位的又は錯体的な均質構造を形成し、しかも準安定構造を形成しやすくなっているからと推察される。
【0029】
図3(符号5〜11)には、本発明のステアリン酸マグネシウムと12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸の分散液中に含まれる該石鹸粒子のDSCカーブを、各々の重量部比を変化させた場合について載せた。符号5の金属石鹸は、
図1の符号2のものに相当する。符号6については、ステアリン酸マグネシウムと12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムの重量部比(StMg:12−OHStMg)を9:1とし、実施例1と同様の条件にて、金属石鹸分散液を得、上記と同様の乾燥条件(通常の真空乾燥機内で、0.1Pa、150℃、10時間の条件)にて、溶剤を除去して得た金属石鹸粉末のDSCカーブである。符号7から10については、仕込みの各金属石鹸の重量部比を「符号の説明」に記載されている重量部比に変えて、実施例1と同様の条件及び上記の乾燥条件により得られた金属石鹸粉末のDSCカーブである。符号11の金属石鹸は、
図2の符号4のものに相当する。
以上、
図3に示されるステアリン酸マグネシウムと12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸の製造方法について説明したが、
図3から分かるように、各成分の比率を変えることによって、100℃〜130℃の温度領域内に、それぞれの金属石鹸のシングルピークが観測される。
【0030】
本発明に用いる金属石鹸を構成する12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムの重量部比(12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム/ステアリン酸マグネシウム)は、70/30〜2/98であることが好ましい。
12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムの重量部比が2/98より小さくても、70/30より大きくても、アミド系溶剤中の金属石鹸分散液の粘度安定性は低下する。さらにステアリン酸マグネシウムよりも12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムの方が高価である為、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムの配合比を少なく用いる方が、経済的な面でのメリットがある。12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムの好ましい重量部比は50/50〜5/95である。
【0031】
12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムをあらかじめ一体化してアミド系溶剤中で均一に混合した後、分散・微粒子化するほうが、分散液の低粘度化、経時粘度安定化、粒径分布の狭い粒子が得られる点で好ましい。これは、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムが分散段階でアミド系溶剤中において相互に作用しあうためと考えられる。
【0032】
これによって、ポリウレタンの製造工程でのフィルター通液安定性や成形安定化を可能にすることが分かった。金属石鹸を構成する12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムは、アミド系溶剤中に分散して、たとえばポリウレタンフィルムを製膜する場合には、その製膜前のポリマー原液中に適当な段階で加えることができる。
【0033】
本発明のポリウレタンを構成するポリウレタン又はポリウレタンウレアは、分子量が10,000〜100,000である、実質的に線上の重合体、例えばホモまたは共重合体からなるポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリ炭酸エステルジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリ炭化水素ジオールまたはこれらの混合物またはこれらの共重合物と、有機ジイソシアネートと、多官能性活性水素原子を有する鎖延長剤を主成分とするものである。鎖伸長剤としては、例えばポリオール、ポリアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ポリヒドラジド、ポリセミカルバジド、水、またはこれらの混合物等が挙げられ、ここで、ポリオールを鎖伸長剤として得られたポリマーはポリウレタン、ポリアミンの鎖伸長剤により得られたポリマーはポリウレタンウレアと呼ばれる。さらに詳細には、特許文献1の段落[0043]〜[0049]に記載されている。
【0034】
本発明のポリウレタンはフィルム、シート又はテープとして多様な特性を発現することができて、例えば、樹脂状、ゴム状、熱可塑性エラストマー状等の材質で、又、各種形状に成形された固体状或いはフォーム状、及び液体状等の性状で、フィルム、塗料、接着剤、機能部品等として、衣料、衛生用品、包装、土木、建築、医療、自動車、家電、電子部品、その他工業部品等の広範な分野で用いられる。又、熱可塑性エラストマーとしての用途にも適用される。例えば、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等として使用できる。
特に、本発明で製造されるポリウレタンは、弾性性能や透湿性の特徴を生かす上でフィルム、シート又はテープとして用いられるのが好ましく、これらの具体的用途としては、特に、最近注目を浴びつつある、携帯電話向けの帯電防止フィルムとして、さらに医療、衛生用品または人工皮革等に用いられるのが好ましい。
【0035】
本発明のポリウレタンはフィルム、シート又はテープとして成形することができる。
これらの製造方法は特に限定はなく、公知の方法が使用できる。例えば、フィルムの製造方法として、支持体や離形材にポリウレタン重合体溶液を塗布し、凝固浴中で溶媒その他の可溶性物質を抽出する湿式製膜法と、支持体や離形材にポリウレタン樹脂溶液を塗布し、加熱あるいは減圧等により溶媒を乾燥させる乾式製膜法が挙げられる。
乾燥製膜する際に用いる支持体は特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンフィルム、ガラス、金属、剥離材を塗布した紙はあるいは布等が用いられる。塗布の方式は特に限定されないが、ナイフコーター、ロールコーター、スピンコーター、グラビアコーター等の公知のいずれのものでもよい。乾燥温度は乾燥機の能力によって任意に設定できるが、乾燥不十分、あるいは急激な脱溶媒によって、ポリウレタンの表面が不均一にならない温度範囲を選ぶことが必要である。好ましくは常圧又は減圧下において、室温〜250℃、より好ましくは60℃〜200℃の範囲である。乾燥後にこれらの支持体からポリウレタンを引きはがす際の離形性も本発明のポリウレタンは良好な特性を示す。
【0036】
12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸の配合量は、ポリウレタン100重量部に対して、0.0001〜5重量部であり、0.0001重量部未満では粘着性や摩擦改善の効果が充分に発揮できない。5重量部を超えると、効果が飽和し経済的でない上にスカムも発生しやすい。好ましい金属石鹸の配合量は、0.0005〜3重量部である。
【0037】
本発明のフィルムの厚さは限定されないが、通常、10〜1000μm、好ましくは10〜500μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは、10〜30μmである。フィルムの厚さが厚すぎると、十分な性能が得られない傾向があり、又、薄過ぎると、ピンホールが形成しやすかったり、フィルム同士が合着しやすく取り扱いにくくなる傾向がある。又、このフィルムは、医療用粘着フィルムや衛生材料、包装材、装飾用フィルム、その他透湿性素材等に好ましく用いることができる。最近では、特に携帯電話向けの帯電防止フィルムとしても好適に使用されるようになってきている。さらに、フィルムは布や不織布等の支持体に塗布したものでもよい。この場合は10μmよりもさらに薄くてもかまわない。又、本発明のポリウレタンはフィルム以外にシート状又はテープ状にしても好適に用いられる。
【0038】
本発明のポリウレタンには、他の金属石鹸として、パルミチン酸、ミリスチン酸、アイコサン酸、ドコサン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、オクタン酸、トール油脂肪酸等の脂肪酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、d−ピマル酸、イソ−d−ピマル酸、ポドカルプ酸、アガテンジカルボン酸、安息香酸、ケイ皮酸、p−オキシケイ皮酸、ジテルペン酸等の樹脂酸又はナフテン酸等の有機酸の金属塩を併用することも可能である。
更に、通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス安定剤、着色剤、艶消し剤、充填剤等も併用してもよい。
【0039】
又、本発明のポリウレタンに更に添加することができる併用剤として、ポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。これは分子中に極性基と非極性基を併せ持つ物質であるという点で12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムと共通し、ポリエーテル変性シリコーンと12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムは相互に親和性を有し、併用することで、ステアリン酸マグネシウムに対しても分散剤の役割を相乗的に発揮すると考えられる。
【0040】
本発明に用いるポリエーテル変性シリコーンの具体的な一例としては、信越化学工業(株)製の商品名X−22−4952、X−22−4272、X−22−6266、KF−6123、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−644、KF−6020、KF−6020、KF−6204、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017、X22−2516等があげられる。これらの内から単独または数種類を組み合わせて使用できる。好ましい化合物は、X−22−4952、X−22−4272、X−22−6123、KF−945、KF−6020、KF−6015、X−22−2516である。特に好ましい化合物はX−22−4952である。
【0041】
更に本発明のポリウレタンに添加することができる併用剤として、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムやアミド系溶剤との親和性が良好である、ポリカルボン酸系共重合化合物が挙げられる。このようなポリカルボン酸系共重合化合物としては、ポリオキシアルキレン誘導体と不飽和カルボン酸化合物との共重合化合物で、主鎖にポリカルボン酸基、グラフト鎖にポリオキシアルキレン基を有する化合物が挙げられる。
上記のポリカルボン酸系共重合化合物は、本出願人による特開2012−193259号公報に詳細に記載されている。好ましいポリカルボン酸系共重合化合物の具体的な一例としては、日油株式会社製の商品名マリアリムAKM−0531、AFB−0561、AFB−1521、AAB−0851、AEM−3511、AWS−0851等があげられる。さらに好ましい化合物はAKM−0531、AAB−0851である。
【0042】
上記の変性シリコーン及びポリカルボン酸系共重合化合物のポリウレタン100重量部に対する好ましい配合量は、ポリウレタン100重量部に対し、0.0001〜2重量部であり、更に好ましくは0.0002〜1重量部である。0.0001重量部より少ない場合は効果が小さいし、2重量部より多く入れても効果は変わらず、経済的でない。
【0043】
先述したように、本発明に係る12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムは、ポリウレタンやアミド系溶剤に対する親和性が高く、製膜過程での溶剤揮発中にフィルム表面への移行が比較的緩和で、製膜後にロールに巻きとられた後で、経時的に徐々にフィルム表面に移行し、製膜工程における支持体や離型材からの剥離性が良好となり、フィルムを加工する際の金属製のロールやフィルムガイドに対する耐金属摩擦性の向上にも寄与する。
【0044】
一方、ステアリン酸マグネシウムは、単独では溶剤やポリマーに対する親和性は低いので、フィルム製膜工程中にフィルム表面に過度に析出し、その為フィルムがすべりやすい問題がある。しかしながら、溶剤にも親和性のある12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを併用すれば、ステアリン酸金属塩のフィルム表面への過度な析出を適度に抑制することができる。よって、ポリウレタンフィルムの合着性はステアリン酸マグネシウムのみを用いた場合と比較して、適度な合着性が得られ、フィルム同士のすべりを低減させかつ剥離も容易となり、フィルム表面のダメージも少ない。
【0045】
すなわち、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムとを併用する利点として、製膜直後からマザーロールにフィルムが巻き取られるまでのガイドや金属との摩擦への安定性はステアリン酸マグネシウムが有効であり、ロール巻姿とフィルムの合着性に対しては、12―ヒドロキシステアリン酸マグネシウムが有効で、両者はお互いに補完する効果を発揮する点にある。
【0046】
12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムとステアリン酸マグネシウムとからなる本発明の金属石鹸は、製膜前のポリマー原液に混合して用いてもよいし、又は、成形ノズルから出たポリマー吐出溶液を溶剤乾燥させる前に、フィルム表面に付着させ乾燥後に、ロールに巻き取ってもよい。
【0047】
この場合、本発明で用いる金属石鹸は、ポリウレタン重合体との親和性が適度に良好であるためフィルム表面に均一に分散存在し、その結果、耐摩擦性が良好で、摩擦応力変動の小さいポリウレタンフィルムが得られる。すなわち、本発明のポリウレタンフィルムは、本発明の金属石鹸がポリウレタンに製膜前に添加され、製膜された後にポリウレタンフィルムの内部に存在する態様、金属石鹸の一部分がフィルム内部から経時的にフィルム表面に移行して存在する態様を含んでいる。本発明の金属石鹸分散液を前述の併用剤と使用する場合、本発明の金属石鹸分散液を本発明の製造方法により調整したあとで使用してもよいし、本発明の金属石鹸分散液の性能を損なわない範囲において、予め本発明の金属石鹸分散液中に前記の併用剤を混合してから本発明の金属石鹸分散液の製造方法により得られたものを使用することもできる。
【0048】
以上、得られたポリウレタンは、製膜後にロールに巻きとられた形状が型崩れせず、製膜工程における支持体や離形材との剥離性が適度に良好である。本発明のポリウレタンフィルムは加工特性が良好であるため、得られるフィルムの品位は均一で商品価値も高い。すなわち、本発明の具体的な効果として、(1)フィルムが製膜する際に用いる支持体からの剥離が容易になる、と(2)フィルム同士の合着を抑制できる、である。
【0049】
下記の実施例にて詳述するが、剥離性の評価の指標として、密着状態にある2枚のポリウレタンフィルムを引裂く場合に発生する応力を引張試験機により定量化された値を採用した。加工性の面からこの引き裂きテストで、2g〜15gの荷重で引き裂かれる範囲が好ましい。
図4に引張試験機により求められた各試料の発生応力カーブを示した。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例で述べられている各種の測定法は、以下に述べる方法を用いて行った。
(1)<粘度の測定法>
東機産業株式会社製TVE−20H型 E型粘度計を用いて25℃の雰囲気下で測定した。
【0051】
(2)<金属石鹸の平均粒子径の測定法>
あらかじめN,N’−ジメチルアセトアミド溶剤中でスラリー状に均一分散した金属石鹸の分散液を用いて、N,N’−ジメチルアセトアミド溶剤を用いたベックマン・コールター株式会社製LS13―320型粒度分布測定装置にて、サンプル液を数滴滴下し、この装置の適正な測定可能濃度に調整した後、体積統計値基準での測定値から平均粒径を求めた。
【0052】
(3)<示差走査熱量測定方法>
島津製作所製 DSC−50を用いて、試料を5mg(本発明の金属石鹸分散液を150℃、10時間、真空乾燥機内にて乾燥させて得られた固形物)をクリンプセルに計りとり、25〜300℃(昇温速度10℃/分)の条件で測定した。
【0053】
(4)<ポリウレタンフィルムの剥離性の評価法>
下記の実施例2で得られた、製膜時の支持体であるPETフィルム上のポリウレタンフィルムを、1cm×6cmの長方形に2枚切り取って、ポリウレタンフィルムの面を合わせて、それを2枚のガラス板に挟んで、ガラス板上に3Kgの重りを載せ、60℃の環境下で18Hr放置した後、取り出して、室温冷却後にPETフィルムで挟まれた2枚重ねのポリウレタンフィルムを得た。次に、PETフィルムの両面にポリウレタンフィルムを傷つけないように端から1.0cmの切込みを入れて、PETフィルム部を直角に折り曲げたポリウレタン部分の両端部を引張試験機の上下のチャックに固定して、引っ張り試験を行って、重ねたポリウレタンフィルムの引きはがす時の粘着応力(剥離力)を測定した。
尚、引張試験機(オリエンテック(株)製商品名UTM−III 100型)を使用し、20℃、湿度65%の条件下で試料長5cmの試験フィルムを、チャック間距離を10mmとし、100mm/分の速度で引張破断強度の測定を行った。
ポリウレタンの剥離性の評価は以下の評価基準に従って評価した。
○:引張試験において、応力値として、剥離距離(剥離したポリウレタンフィルム間の剥離距離で、測定時のチャック間距離から初期のチャック間距離を差し引いた値)が0mmを超えて60mmまでの間で2g〜15gの値を示す。
×:引張試験において、応力値として、前記の剥離距離が0mmを超えて60mmまでの間で2g未満又は15g以上の値を示す。
尚、当評価で、2g未満のときは、フィルム同士が滑りやすく問題であり、逆に15g以上のときは、フィルム同士の合着が激しく、剥離が極めて困難である。
【0054】
[参考例1](ポリウレタン重合体溶液及び製膜用原液(A)の製造)
平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール166.6重量部および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート31.2重量部を、窒素ガス気流中95℃において80分間攪拌しつつ反応させて、両末端がイソシアネート基残有のプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、N,N−ジメチルアセトアミド270重量部を加え、溶解してプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン2.34重量部およびジエチルアミン0.37重量部をN,N’−ジメチルアセトアミド157重量部に溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2050ポイズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液(A)を得た。
【0055】
[実施例1](金属石鹸分散液の製造)
ステアリン酸マグネシウム((株)サンエース製、 製品名 SAK−MS−P)、95.55kgと12―ヒドロキシステアリン酸マグネシウム((株)サンエース製、製品名 SCI−HMS)、40.95kgとを、N,N’−ジメチルアセトアミド溶剤(237.9kg)に加えた混合物を、窒素雰囲気下、2時間、90℃にて撹拌混合して36.5重量%溶解させた溶液とした。この溶液を、プライミクス株式会社製のパイプラインホモミクサー内を循環させながら70℃まで徐冷した。その後、引き続きラインミキサー内を68℃で1時間循環(同温度で維持)させてから、次に同ラインミキサー内で3時間かけて60℃まで冷却しながら循環し、同ラインミキサー内循環させて5時間かけて30℃まで降温させた。得られた金属石鹸分散液は懸濁状の分散液で、この分散液を粒度分布計で測定した結果、平均粒子径は、2.2μmであった。作製直後の粘度は690mPa・s、50℃で10日間放置後の粘度を測定したところ940mPa・sであり、経時安定性は極めて良好であった。さらに、乾燥後の金属石鹸のDSCピーク温度は112.52℃であった。その結果を表1に記載した。尚、同表中で、StMgと12−OHStMgはそれぞれステアリン酸マグネシウムと12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを表す。
【0056】
[比較例1]
実施例1における温度条件をすべて30℃に設定する以外は実施例1と同様の操作により、ステアリン酸マグネシウムと12―ヒドロキシステアリン酸マグネシウムからなる金属石鹸のN,N’−アセトアミド分散液を得た。得られた金属石鹸分散液は懸濁状の分散液で、分布計で測定した結果、平均粒子径は、20.0μmであった。作製直後の粘度は1470mPa・s、50℃で10日間放置後の粘度を測定したところ4250mPa・sであり、経時安定性は悪かった。さらにDSCピークは100〜150℃の範囲で複数ピークが観測された。その結果を表1に記載した。
【0057】
[実施例2](ポリウレタンフィルムの作成)
参考例1で作成した製膜用原液(A)(125.5g)にN,N’−ジメチルアセトアミド溶剤(141.8g)を加えて均一に希釈したポリウレタン重合体溶液(B)を作成する。この溶液(B)にポリウレタン重合体固形分100重量部に対して、実施例1で作製した金属石鹸分散液の1重量部を加えて均一になるように充分に撹拌混合し溶液(C)を製造した。
厚さ0.06mmのアプリケーター(YOSHIMITU製)を用いて、ガラス板(縦20cm、横20cm及び厚さ4mm)の上に、支持体であるPETフィルムを両面テープで固定した上に(C)溶液をキャストして、熱風乾燥機中で70℃24時間放置し、乾燥させPETフィルムの上にポリウレタンフィルムを製膜した。得られたポリウレタンフィルムを前記のフィルムの剥離評価を行った結果、良好な剥離性(○)を示した(2回の繰り返し評価(n=2))。
図4の符号12(n=2のうちの一つ目、n=1/2)及び13(n=2/2)に剥離応力の応力カーブを示した。その結果を表1に示した。
【0058】
[比較例2]
実施例2において使用した実施例1の金属石鹸分散液の代わりに、比較例1で作製した分散液を使用する以外は、実施例2と同様にして、ポリウレタンフィルムを製膜した。得られたポリウレタンフィルムは評価直後から剥離が生じてしまい、悪い評価(×)であった(表1)。評価は1回(n=1)行われ、
図4の符号14にその剥離応力の結果を示した。
【表1】
【0059】
[比較例3]
実施例2において金属石鹸分散液を添加しない以外は、実施例2と同様にして、ポリウレタンフィルムを製膜した。得られたポリウレタンフィルムは、支持体であるPETフィルムとの合着が激しく、悪い評価(×)であった(表1)。評価は繰り返し3回(n=3)行われ、
図4の符号15〜17にその剥離応力の結果を示した。
【符号の説明】
【0061】
1 加熱混合前のステアリン酸マグネシウムのDSCカーブ。
2 実施例1と同様の製造条件により得られた、加熱混合後のステアリン酸マグネシウムのDSCカーブ。
3 加熱混合前の12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムのDSCカーブ。
4 実施例1と同様の製造条件により得られた、加熱混合後の12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムのDSCカーブ。
5 2と同様のカーブ。
6 ステアリン酸マグネシウムと12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムの重量部比(StMg:12−OHStMg)を9:1として、実施例1と同様の製造条件にして得られた金属石鹸のDSCカーブ。
7 StMg:12−OHStMgを8:2にして得られた金属石鹸のDSCカーブ。
8 StMg:12−OHStMgを7:3にして得られた金属石鹸のDSCカーブ。
9 StMg:12−OHStMgを3:7にして得られた金属石鹸のDSCカーブ。
10 StMg:12−OHStMgを1:9にして得られた金属石鹸のDSCカーブ。
11 4と同様のDSCカーブ。
12 実施例2で得られたポリウレタンの剥離性(n=1/2)
13 実施例2で得られたポリウレタンの剥離性(n=2/2)
14 比較例2で得られたポリウレタンの剥離性(n=1/1)
15 比較例3で得られたポリウレタンの剥離性(n=1/3)
16 比較例3で得られたポリウレタンの剥離性(n=2/3)
17 比較例3で得られたポリウレタンの剥離性(n=3/3)