(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ワンボックス車、ワゴン車、RV(Recreational Vehicle)等の自動車では、後部ドアにスライドドアが適用されることが多い。このスライドドアは、スライドドアの裏側に設けられたローラが、ボディに取り付けられたスライドレールにガイドされながらスライドレールの内底面上を転動することにより、開閉するようになっている。このスライドレールは、通常長手方向に沿って開口部を有する長尺部材であり、一端部が湾曲形状とされている(特許文献1参照)。
【0003】
自動車の製造ラインにおいては、一般的に、スライドレールをボディに取り付けた後、塗装を行うが、このとき、スライドレールの内側には塗料の塗膜が形成され、あるいは塗料ミストが付着することが多い。
【0004】
しかし、スライドレールの内側に塗膜が形成されたり、塗料ミストが付着したりすると、スライドレールの内底面の平滑性が失われ、スライドレールの内底面上を転動するローラがスムーズに回転し難くなり、スライドドアの開閉が重くなったり、開閉時にスライドドアが振動したりする等の問題が生じる。
【0005】
このため、塗装工程後に、スライドレールの内底面に金属板等の別部材を取り付けることにより、スライドレールの内底面に平滑性を付与し、ローラのスムーズな回転を確保することが行われている。しかし、このようにスライドレールの内底面に別部材を取り付ける工程は煩雑であるとともに、別部材を製造するコストが発生するという問題がある。
【0006】
そこで、スライドレールに塗料が付着することを防止するために、基材および粘着剤層を備えるマスキングテープをスライドレールの内底面に貼付してから車体を塗装する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
ここで、スライドレールにおけるマスキングテープが貼付される部分である内底面は、スライドレールの狭い開口部の奥に位置し、しかもマスキングテープは長尺である。このため、特許文献1において具体的な一形態として記載されるように、マスキングテープが基材および粘着剤層(本明細書において「貼付用積層体」ともいう。)ならびに剥離シートからなる場合には、貼付用積層体の内底面への貼付を手作業で行うにあたり、マスキングテープから剥離シートを全て剥がして貼付用積層体における粘着剤層全体を露出させ、この状態で貼付用積層体を内底面に貼付することは容易でない。また、そのような方法で貼付位置を精度よく制御しつつ、しわのような貼付不良を発生させることなく貼付用積層体を貼付することは極めて困難である。
【0008】
それゆえ、マスキングテープの貼付用積層体の内底面への貼付を手作業で行う場合には、マスキングテープから剥離シートを全て剥がして貼付用積層体と剥離シートとを分離させるのではなく、マスキングテープから剥離シートを部分的に剥がしてマスキングテープの一方の端部における粘着剤層を部分的に露出させ、その露出部分を内底面の一部に貼付し、この貼付された部分を支持点として剥離シートをさらに部分的に剥がしてマスキングテープの粘着剤層の一部を露出させ、この露出部分を内底面に貼付する、という作業を繰り返すことによって、長尺のマスキングテープの粘着剤層全体を内底面に貼付することが行われることが多い。以下、このような、マスキングテープにおける剥離シートと貼付用積層体とを部分的に分離する作業と、剥離シートから分離して部分的に露出した貼付用積層体の粘着剤層を被着体に貼付する作業とが連続的に行われる貼付方法を漸次剥離貼付方法ともいう。
【0009】
マスキングテープの貼付用積層体の内底面への貼付は、特許文献2に開示されるような貼付治具を用いて行われる場合もある。この場合も、貼付治具内部に導入されたマスキングテープのうち、剥離シートは貼付治具の進行方向に沿って押し出される一方、貼付用積層体は貼付治具の移動方向前部において押圧部に沿うように撓みつつ移動方向が反転することにより、剥離シートと貼付用積層体とは分離し、剥離シートから分離して粘着剤層が露出した貼付用積層体は押圧部と被着体(スライドレール)との間隙に導入されて、粘着剤層が被着体に貼付される。したがって、この場合も、上記の漸次剥離貼付方法が実施されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るマスキングテープの構成要素やその製造方法等について説明する。
【0026】
1.マスキングテープ
図1は本発明の第一の実施形態に係るマスキングテープを概念的に示す断面図である。
本実施形態に係るマスキングテープ10は、剥離シート11、剥離シート11の剥離面11a上に設けられた粘着剤層12、および粘着剤層12における剥離シート11に対向する側と反対側の主面上に設けられたシート状の基材13を備える。使用時には、マスキングテープ10から剥離シート11が剥離され、粘着剤層12と基材13とからなる貼付用積層体9が、被着体であるスライドレールの内底面に貼付される。
図2は本発明の第一の実施形態に係るマスキングテープが漸次剥離貼付方法により被着体に貼付されている途中の状態を概念的に示す部分断面図である。
【0027】
(1)剥離シート
本実施形態に係る剥離シート11は、マスキングテープ10がスライドレールの内底面に貼付されるまで粘着剤層12を保護するとともに次の機能を有する。
【0028】
(A)貼付作業領域確保機能
貼付作業領域確保機能とは、漸次剥離貼付方法によりマスキングテープ10の粘着剤層12を貼付する際に、被着体14であるスライドレールの内底面に粘着剤層12が付着している部分(貼付済部分、
図2中10a)と、剥離シート11の剥離面11aによって粘着剤層12が覆われている部分(被覆部分、
図2中10c)との間に形成される、粘着剤層12が露出した部分(露出部分、
図2中10b)のマスキングテープ10の長手方向の長さを、漸次剥離貼付方法を安定的に行うために適した長さとする機能、換言すれば、貼付用積層体9の貼付作業のための領域を確保する機能である。
図2に示されるように、貼付作業領域確保機能が適切な剥離シート11は、貼付用積層体9と剥離シート11との剥離が開始する位置である剥離位置SPが被着体14から遠位な位置となって、貼付用積層体9から剥離した剥離シート11と被着体14との間には十分な空間が確保され、貼付済部分10aが進展(
図2では左側への進展)することに剥離シート11が影響を及ぼすこと(マスキングテープ10から剥離した剥離シート11が貼付用積層体9の貼付済部分10a内に巻き込まれてしまうことが具体例として挙げられる。)はない。これに対し、
図2中、二点鎖線で示したように、貼付作業領域確保機能が適切でない剥離シート11’では、剥離位置SP’が被着体14に近位な位置となり、貼付用積層体9から剥離した剥離シート11’と被着体14との間に形成される空間は狭い。このため、貼付済部分10aが進展(
図2では左側への進展)する際に、貼付用積層体9から剥離した剥離シート11’が巻き込まれるおそれがあり、この剥離シート11’の巻き込みは致命的な貼付不良に至りうる。
【0029】
(B)平滑付与機能
平滑付与機能とは、マスキングテープ10から剥離シート11を剥離して得られる貼付用積層体9の粘着剤層12における内底面に貼付される面の平滑度を調整する機能である。マスキングテープ10が被着体に貼付される直前まで粘着剤層12は剥離シート11の剥離面11aに当接した状態にある。粘着剤層12を構成する粘着剤は軟質であるから、剥離面11aに当接した状態にあるときに粘着剤は剥離面11aに倣うように変形している。このため、貼付用積層体9の粘着剤層12における露出する主面(以下、「露出面」という。)は、剥離面11aの反転形状に基づいた形状を有している。ここで、剥離シート11の剥離基材21が紙系材料からなる場合には、紙系材料であることに起因して、剥離基材21の表面は凹凸が多い粗い面となる。一般的な剥離シートは、この剥離基材上に溶融押出成形などにより樹脂層が形成され、その樹脂層上にさらに剥離処理が施されて剥離剤層が設けられることによって得られる。このような一般的な剥離シートの場合には、剥離シートの剥離面には紙系材料に起因する凹凸が存在することになる。このため、一般的なマスキングテープでは、これから剥離シートを剥離して得られる貼付用積層体の粘着剤層の露出面にも凹凸が存在する。前述のように貼付用積層体9を被着体14に貼付する際に強い圧力は加えられない場合が多いため、貼付用積層体9の粘着剤層12の貼付面は、露出面において有していた形状の特徴を維持しやすい。このため、一般的なマスキングテープでは、剥離面の凸部に対応して形成される貼付用積層体9の粘着剤層の露出面の凹部は、貼付されても維持されてしまい、貼付面における気泡となる。この気泡がマスキング不良の原因の一つとなることは前述のとおりである。それゆえ、マスキングテープ10の剥離面11aの表面性状を可能な限り平滑な状態としておくことにより、貼付用積層体9の粘着剤層12の露出面を平滑化することができ、この露出面が平滑化されることによってマスキング不良の発生が抑制される。
【0030】
以下、剥離シート11が上記機能を備えるために求められる特性について詳しく説明する。
【0031】
i)剛軟度
本実施形態に係る剥離シート11は、貼付作業領域確保機能を適切に備えるように、その剛軟度は100mN以上とされる。剛軟度は、JIS L1096に規定されるガーレ法により測定すればよい。剛軟度が100mN未満の場合には、剥離位置SPは被着体14に近位な位置に移動しやすくなり、この場合にはマスキングテープ10の露出部分10bの長尺方向の長さは過度に短くなってしまう。その結果、漸次剥離貼付方法を安定的に行うことが困難となる。漸次剥離貼付方法による貼付をより安定的に行う観点から、剥離シート11の剛軟度は、150mN以上であることが好ましく、200mN以上であることがより好ましく、300mN以上であることが特に好ましい。
【0032】
本実施形態に係る剥離シート11の剛軟度の上限は限定されない。貼付作業性を確保する観点から、剥離シート11の剛軟度は、1000mN以下であることが好ましく、100mN以上600mN以下の範囲であれば、一般的な自動車のスライドドアに使用されるスライドレールの内底面にマスキングテープ10の粘着剤層12を漸次剥離貼付方法により貼付することが安定的に実現される。
【0033】
このような剛軟度についての要請を満たす観点から、本実施形態に係る剥離シート11は、剥離基材が紙系材料からなる。
【0034】
ii)うねり振幅
上記のように剥離基材が紙系材料からなる場合には、紙系材料からなる剥離基材には、周期が600μmから10mmの範囲のうねりが通常顕著に見られる。このようなうねりを有する剥離基材を用いた場合であっても、本実施形態に係る剥離シート11が平滑付与機能を適切に備えることが求められる。この要請に応えるべく、本実施形態に係るマスキングテープ10の剥離シート11の剥離面11aは、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997)に規定される、算術平均うねりWaが0.3μm以下である。算術平均うねりWaが0.3μm以下であることにより、前述の貼付面における気泡発生の可能性が安定的に低減される。上記の気泡発生の可能性をより安定的に低減させる観点から、本実施形態に係るマスキングテープ10の剥離シート11の剥離面11aの算術平均うねりWaは、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。本実施形態に係るマスキングテープ10の剥離シート11の剥離面11aの算術平均うねりWaの下限は、上記の気泡発生の可能性を低減させる観点からは設定されない。本実施形態に係るマスキングテープ10の剥離シート11は、算術平均うねりWaを0.03μm程度またはそれ以下とすることが可能である。
【0035】
iii)剥離基材
以下、本実施形態に係る剥離シート11の詳細構造について
図3を参照しつつ説明する。
図3は、本実施形態に係る剥離シート11の構造を概念的に示す断面図である。
【0036】
本実施形態に係る剥離シート11は、紙系材料からなる剥離基材21、剥離基材21の一方の主面上に介在粘着剤層22を介して設けられた平滑調整層23、および平滑調整層23における介在粘着剤層22に対向する側と反対側の主面上に設けられた剥離剤層24を備える。本実施形態に係る剥離シート11は、剥離剤層24における平滑調整層23に対向する面と反対側の表面が剥離面11aをなす。
【0037】
剥離基材21を構成する紙系材料は特に限定されず、上質紙、グラシン紙およびクラフト紙が例示される。また、剥離シート11を構成する要素のうちでもっとも高い剛性を有するものであることから、剥離シート11が前述の貼付作業領域確保機能を適切に有することができるように、剥離基材21単独の剛軟度を100mN以上600mN以下とすることが可能な材料であることが好ましい。
【0038】
剥離基材21の厚さも、剥離基材21単独の剛軟度が100mN以上600mN以下となるよう、剥離基材21の材質を勘案して上下限が設定されることが好ましい。
【0039】
剥離基材21単独の剛軟度を100mN以上600mN以下となることが実現されやすくなる観点から、剥離基材21を構成する紙系材料の坪量は、50g/m
2以上200g/m
2以下であることが好ましい。
【0040】
iv)平滑調整層
本実施形態に係る剥離シート11は、剥離シート11が備える平滑付与機能の程度を直接的に制御する部材として平滑調整層23を備える。本実施形態に係る剥離シート11は、剥離シート11の剥離面11aの算術平均うねりWaを平滑調整層12によって小さくすることで、優れた平滑付与機能を有する。
【0041】
平滑調整層23を構成する材料は特に限定されない。かかる材料として樹脂系材料が例示される。ここで「樹脂系材料」とは、樹脂のみならず、樹脂内に例えばフィラーのような非樹脂材料が分散している場合を含む。平滑面を得やすく生産性に優れる観点から、樹脂系材料は熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。平滑調整層23を構成する材料として好適な熱可塑性樹脂を例示すれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(4−メチルペンテン−1)等が挙げられる。これらの材料は単独で使用することもできるし、上記中の異なる種類の材料を積層して使用することもできる。あるいは、上記材料と上記以外の樹脂系材料とを積層して使用することもできる。上記材料の中でも、平滑性、寸法安定性、耐溶剤性、剥離処理剤の密着性、耐熱性、入手安定性等の点からポリエステルが好ましく用いられ、その中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る平滑調整層23は、フィルム状の形状を有する部材であり、その表面はあらかじめ平滑な面に調整されている。一般的な剥離シートも剥離基材上に樹脂層を備える場合があるが、この樹脂層は、通常、剥離基材上に溶融押出成形などによって形成される。このため、樹脂層における剥離基材と反対側の面には、剥離基材における樹脂層に対向する側の面の形状的特徴が反映される。したがって、剥離基材が紙系材料から構成される場合には、樹脂層における剥離基材と反対側の面は、剥離基材を構成する紙系材料に基づく凹凸を有し、平滑な面とはならない。これに対し、平滑調整層23は、上記のように、あらかじめその表面が平滑な面に調整され、剥離シート10における平滑調整層23と紙系材料からなる剥離基材21との間には、介在粘着剤層22が存在する。このため、剥離シート10の平滑調整層23側の面は、平滑調整層23の面が有する平滑性が維持されて、平滑な面となる。
【0043】
この平滑調整層23を与えるフィルムの厚さは限定されない。剥離基材21を構成する紙系材料が有するうねりがマスキングテープ10の剥離シート11の剥離面11aの平滑性に与える影響を低減する観点から、平滑調整層23を与えるフィルムの厚さは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であればさらに好ましい。剥離シート11の剥離面11aの算術平均うねりWaを小さくする観点からは平滑調整層23の厚さの上限は限定されない。平滑調整層23は、剥離シート11の剥離面11aの算術平均うねりWaを0.3μm以下とすることができる限り、マスキングテープ10の生産コストを低減する観点からその厚さは薄い方が有利であり、平滑調整層23が過度に厚い場合には剥離シート11の剛軟度が過度に高くなる原因ともなりうる。かかる観点から、平滑調整層23の厚さは100μm以下であることが好ましい場合がある。
【0044】
v)介在粘着剤層
本実施形態に係る剥離シート11は、あらかじめフィルム状の形状を有する平滑調整層23を紙系材料からなる剥離基材21上に固定するとともに、適度に軟質であって剥離基材21と平滑調整層23との面間距離のばらつきが剥離シート11の剥離面11aの平滑性(具体的には、算術平均うねりWa)に与える影響を少なくするための介在粘着剤層22を備える。介在粘着剤層22は上記目的を果たし、剥離シート11に求められる前述の剛軟度および剥離面11aの算術平均うねりWaについての条件を剥離シート11が満たすことを阻害しない限り、その材質および厚さなどの具体的構成は特に限定されない。
【0045】
介在粘着剤層22を構成する粘着剤の具体例として、アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系粘着剤が例示される。アクリル系粘着剤は、紙系材料からなる剥離基材21に付着しやすいこと、平滑調整層23に付着しやすいこと、および適度に軟質であることを満たすことができる。介在粘着剤層22を構成する粘着剤は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。介在粘着剤層22の厚さは限定されず、通常5μmから50μm程度である。過度に薄い場合には所望の粘着力を得ることが困難となり、過度に厚い場合には剥離シート11の端部において剥離基材11と平滑調整層23との隙間からはみ出しやすくなる。これらを考慮すれば、介在粘着剤層22の厚さは10μm以上30μm以下とすることが好ましい。
【0046】
vi)剥離剤層
本実施形態に係る剥離シート11は、平滑調整層23における介在粘着剤層22に対向する側と反対側の主面上に剥離剤層24を備え、この剥離剤層24における平滑調整層23に対向する面と反対側の表面が剥離シート11の剥離面11aをなす。
【0047】
剥離剤層24は、通常、平滑調整層23をなすフィルムの一方の主面上に剥離剤を塗布することにより得られる。剥離剤の種類は限定されない。シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系など公知の剥離剤を用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系の剥離剤が好ましい。剥離剤の塗布厚さおよび剥離剤層24の厚さは、剥離剤の種類により適宜設定されるべきものであり、通常は0.01μmから3μm程度である。
【0048】
vii)製造方法
本実施形態に係る剥離シート11の製造方法は限定されない。
【0049】
一例を挙げれば次のとおりである。まず、平滑調整層23をなす樹脂系材料からなるフィルムの一方の主面上に剥離処理を行って剥離剤層24を形成する。平滑調整層23における剥離剤層24が形成されている面と反対側の主面上に粘着剤を塗布し、これを乾燥して介在粘着剤層22とする。こうして得られた介在粘着剤層22、平滑調整層23および剥離剤層24からなる積層体における介在粘着剤層22からなる主面上に、紙系材料からなる剥離基材21を貼付する。こうして、剥離基材21、介在粘着剤層22、平滑調整層23および剥離剤層24がこの順番で配置される剥離シート11が得られる。
【0050】
(2)粘着剤層
本実施形態に係るマスキングテープ10が備える粘着剤層12は、使用前の段階では上記の剥離シート11の剥離面11a上に付着しており、使用時には剥離面11aから剥がされることで得られる露出面が被着体14上に貼付されて貼付面を形成する。
【0051】
粘着剤層12を構成する粘着剤の材質は、特に限定されない。具体例として、ゴム系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の樹脂を主成分とする粘着剤を使用することができる。これらの粘着剤の中でも、入手容易性、耐久性等の点でアクリル系樹脂を主成分とするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0052】
粘着剤層12の厚さは、通常は5〜60μm程度であり、好ましくは10〜40μmである。過度に薄い場合には所望の粘着力が得られにくくなり、過度に厚い場合には経済的に不利であるとともに基材13から粘着剤がはみ出す可能性が高まることを考慮して、粘着剤層12の厚さを適宜設定すればよい。
【0053】
粘着剤層12は、粘着剤以外の成分を含有していてもよい。そのような成分として、炭酸カルシウム、アルミペースト、シリカゲル等の充填剤が例示される。
【0054】
(3)基材
本実施形態に係るマスキングテープ10は、粘着剤層12の剥離シート11に対向する側と反対側の主面上にシート状の基材13を備える。基材13は、マスキングテープ10の粘着剤層12が被着体14に貼付されたときに粘着剤層12の支持部材となり、マスキング工程の終了後マスキングテープ10を剥がす際に作業者にとっての把持部分となる。
【0055】
本実施形態に係るマスキングテープ10において、基材13の具体的構成、例えば、材質、厚さなどは任意である。
【0056】
基材13が過度に軟質な材料からなる場合には粘着剤層12を支持することができず、逆に過度に硬質な材料になる場合には可撓性が低下しやすくなる。これらの場合には貼付および剥離の作業性が著しく低下することを考慮して、適切な材料を選定すればよい。
【0057】
基材13を構成する材料としては、樹脂系材料が例示される。樹脂系材料における樹脂の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(4−メチルペンテン−1)等が挙げられる。これらの材料は単独で使用することもできるし、上記中の異なる種類の材料を積層して使用することもできる。あるいは、上記材料と上記以外の樹脂系材料とを積層して使用することもできる。上記材料の中でも、耐熱性、寸法安定性、入手安定性等の点からポリエステルが好ましく用いられ、その中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0058】
マスキングテープ10は、被着体に貼付された状態で高温の環境下に置かれる場合もある。特に、自動車のスライドドアのスライドレールの内底面のマスキング材として使用される場合には、電着塗装後の乾燥のために180℃程度の環境下に置かれる。したがって、そのような高温環境下に曝される場合には、基材13を構成する樹脂系材料の軟化点は200℃以上であることが好ましい。なお、樹脂系材料の軟化点は、JIS K7234に準じて測定することにより求めることができる。
【0059】
基材13の厚さは、通常は20〜300μm程度である。基材13の厚さが20μm未満では、マスキング終了後にマスキングテープ10を剥がす際に基材13が容易に破断して作業性が低下することが懸念される。一方、基材13の厚さが300μmを超えると、可撓性が低下してマスキングテープ10の貼付作業性が低下しやすくなる場合もある。良好な貼付作業性を安定的に確保する観点から、基材13の厚さは250μm以下であることが好ましい。
【0060】
2.マスキングテープの製造方法
上記の剥離シート11、粘着剤層12および基材13の積層体からなる本実施形態のマスキングテープ10の製造方法は特に限定されない。
【0061】
マスキングテープ10の製造方法についていくつかの例を挙げれば、次のようになる。
i)剥離シート11の剥離面11a上に粘着剤層12を形成し、その粘着剤層12上に、基材13の一方の主面を圧着して積層する。このとき、粘着剤層12の形成方法は任意である。
【0062】
粘着剤層12の形成方法の一例を挙げれば次のようになる。粘着剤層12を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する塗布剤を調製する。ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機によって、剥離シートの剥離面上に塗布する。剥離シートの剥離面上の塗布剤からなる層を乾燥させることにより、粘着剤層12が形成される。
【0063】
ここで、基材13の製造方法は任意である。あらかじめフィルム形状を有する部材をそのまま基材13として用いてもよいし、そのようなフィルム形状を有する部材の複数を積層して基材13としてもよい。この積層にあたっては部材間に粘着剤や接着剤からなる層が設けられてもよい。あるいは、流動性を有する組成物をフィルム状に成形して基材13としてもよい。このとき、流動性を有する組成物が複数種類あって、共押出しなどの成形方法によって積層構造を有する基材13を得てもよい。
【0064】
ii)基材13を形成し、その上に粘着剤層12を形成し、さらに剥離シート11を積層する。このときの粘着剤層12の形成方法は上記のとおり任意である。
【0065】
上記(i),(ii)の方法以外の例として、別途シート状に形成した粘着剤層12を基材13に貼付してもよい。
【0066】
3.適用例
続いて、本実施形態に係るマスキングテープ10の具体的な適用例を、
図4から7を用いて説明する。
【0067】
本適用例では、自動車のスライドドア用スライドレールを適用対象とし、マスキングテープ10はスライドレールの内底面をマスキングするマスキング部材として使用される。
【0068】
図4は本実施形態に係る一適用例において使用されるマスキングテープを概念的に示す平面図である。
図5はこの適用例における適用対象としてのスライドレールの全体構造を概念的に示す斜視図である。
図6は、
図5に示されるスライドレールの部分構造を概念的に示す正面図である。
【0069】
図4に示されるように、本適用例におけるマスキングテープ10は、次に説明するスライドレールの内側面の形状に合わせて、長尺であってその長手方向の一端部は湾曲している。かかるマスキングテープ10の具体的な寸法は任意であるが、その幅は通常5〜20mmであり、長さ(湾曲部を直線として換算)は通常450〜1200mmである。
【0070】
図5および
図6に示すように、本適用例におけるスライドレール100は、下向きに開口した断面略コの字状の形状を有するレール上部101と、レール上部101の後側下端に繋がり、垂直方向に設けられているレール背部102と、レール背部102の下端に繋がり、前側に向かって水平方向に設けられているレール底部103と、レール底部103の前端に繋がり、レール底部103と鋭角をなすように傾斜して設けられているフランジ部104とから構成されており、スライドレール100における長手方向の一端部は湾曲している。
【0071】
このような形状を有するスライドレール100においては、レール底部103の表面、すなわちスライドレール100の内底面105が、マスキングテープ10の貼付用積層体9のマスキング対象面となる。換言すれば、マスキングテープ10の貼付用積層体9は、その粘着剤層12からなる主面側がスライドレール100の内底面105に対向するように貼付され、内底面105をマスキングしている。
【0072】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、上記の説明では、マスキングテープ10からの剥離シート11の剥離およびこの剥離により得られた貼付用積層体9のスライドレール100の内底面105への貼付は、治具を用いて行われるが、これに限定されない。剥離シート11の剥離および貼付用積層体9の貼付(漸次剥離貼付方法)が手作業で行われてもよい。剥離や貼付が手作業で行われる場合であっても、本発明の一実施形態に係るマスキングテープ10を用いることにより、貼付用積層体9が内底面105に貼付される領域内に剥離シート11が巻き込まれにくく、かつ貼付の際の加圧が少なくてもマスキング不良が生じにくい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
【0075】
あらかじめ一方の主面に剥離処理(シリコーン0.5μm)が施されているポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)を、一方の主面上に剥離剤層を有する平滑調整層として用意した。この平滑調整層における剥離処理が施されていない主面上に、アクリル系粘着剤を塗布し、これを乾燥して厚さ20μmの介在粘着剤層を形成した。
【0076】
この平滑調整層と介在粘着剤層とからなる積層体の介在粘着剤層側の主面を厚さ94μmの上質紙(坪量80g/m
2)からなる剥離基材の一方の主面に貼付して、剥離剤層からなる剥離面を有する剥離シートを得た。こうして得られた剥離シートの剥離面上に、アクリル系粘着剤を塗布し、これを乾燥して、厚さ40μmの粘着剤層が剥離シート上に設けられた第1積層体を得た。
【0077】
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製 ルミラー(登録商標)T60、厚さ100μm)からなる基材を、上記の第1積層体の粘着剤層側の面の上に貼付して、マスキングテープを得た。
【0078】
〔実施例2〕
実施例1において、上質紙に代えて、厚さ70μmのグラシン紙(坪量83g/m
2)を用いて剥離シートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0079】
〔実施例3〕
実施例2において、あらかじめ一方の主面に剥離処理が施されているポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を平滑調整層として用いて剥離シートを得たこと以外は、実施例2と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0080】
〔実施例4〕
実施例2において、あらかじめ一方の主面に剥離処理が施されているポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)を平滑調整層として用いて剥離シートを得たこと以外は、実施例2と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0081】
〔実施例5〕
実施例1において、厚さ78μmの上質紙(坪量64g/m
2)を用いて剥離シートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0082】
〔実施例6〕
実施例4において、厚さ78μmの上質紙(坪量64g/m
2)を用いて剥離シートを得たこと以外は、実施例4と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0083】
〔比較例1〕
あらかじめ一方の主面に剥離処理が施されているポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)を剥離シートとして用い、介在粘着剤層および剥離基材を貼付しなかったこと以外は実施例1と同様にして、マスキングテープを製造した。
【0084】
〔比較例2〕
厚さ70μmのグラシン紙(坪量83g/m
2)上に、介在粘着剤層を介さずに直接、厚さ20μmのポリエチレン層を溶融押出成形により貼付して、得られたポリエチレン層上に剥離処理を施して、得られた積層体を剥離シートとしたこと以外は、実施例1と同様にしてマスキングテープを製造した。
【0085】
〔試験例1〕(剛軟度)
実施例および比較例により製造したマスキングテープの剥離シートについて、東洋精機製作所社製ガーレー柔軟度試験機を用いて、JIS L1096:2010に規定されるガーレ法により剛軟度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0086】
〔試験例2〕(算術平均うねりWa)
実施例および比較例により製造したマスキングテープの剥離シートの剥離面について、ミツトヨ社製表面粗さ測定機サーフテストエクストリームSV−3000CNCを用いて、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997)に規定される、算術平均うねりWaを測定した。測定結果を表1に示す。
【0087】
〔試験例3〕(治具貼り性)
上記の実施例および比較例において製造されたマスキングテープを、特許文献2に開示されるマスキングテープ貼付治具(
図7参照)を用いてスライドレール上に貼付した。
ここで、
図7を用いて、上記のマスキングテープ貼付治具の動作について説明する。
図7は、従来技術に係るマスキングテープ貼付治具の使用状態を概念的に示す正面図である。
図7に示されるように、剥離シート11と貼付用積層体9とからなるマスキングテープ10は、マスキングテープ貼付治具1の押圧部4の下側から移動方向前部で折り返して押圧部4の上側を通し、マスキングテープ貼付治具1の移動方向と反対方向から供給するようにする。このようにマスキングテープ10を折り返すと、剥離シート11は、その剛性により、剥離位置SPにおいて貼付用積層体9から剥離する。
マスキングテープ貼付治具1の本体部2を把持して、
図7に示すように、マスキングテープ貼付治具1をスライドレール8側に押し付けながらスライドレール8の左端部側に移動させると、マスキングテープ貼付治具1の押圧部4は、剥離シート11と貼付用積層体9とを分離させながら、貼付用積層体9をスライドレール8の内底面841(
図2では被着体14)に圧着する。このとき、貼付用積層体9と分離した剥離シート11は、マスキングテープ貼付治具の移動方向に逃すようにする。
マスキングテープ貼付治具1を用いた貼付が安定的に行うことができたか否かについて、次の観点で評価した。
A(良好):貼付治具1の移動方向前部において、貼付用積層体9は押圧部4の形状に沿うように折り返しながら剥離シート11と分離し、貼付は安定的に行われた。
B(可):貼付治具1の移動方向前部において貼付用積層体9と剥離シート11とが分離するにあたり、貼付用積層体9と剥離シート11とが分離する位置(剥離位置SP)が内底面841側に移動する、すなわち、剥離シート11における移動方向前部側に進んだ位置に移動する場合があり、このとき、剥離シート11と分離した貼付用積層体9の一部は押圧部4における移動方向前部から離間した状態となった。
C(不可):貼付治具1の移動方向前部において貼付用積層体9と剥離シート11とが分離するにあたり、貼付用積層体9と剥離シート11とが分離する位置(剥離位置SP)が内底面841側に移動する、すなわち、押圧部4における移動方向前部の樹脂シート上に移動する場合があり、このような状態を放置すると、貼付用積層体9と剥離シート11とは分離することなくスライドレール8の内底面841と押圧部4との隙間に入り込み、貼付不良が発生した。
上記の評価により「A」または「B」となった場合に合格と判定した。結果を表1に示す。
【0088】
〔試験例4〕(貼付面の外観)
試験例1により合格と判定され適切に貼付が行われたステンレス鋼板の貼付面を外観で観察し、気泡の残留の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から明らかなように、実施例に係るマスキングテープは、治具貼り性に優れ漸次剥離貼付方法を安定に行うことができ、しかも貼付面には気泡の残留が認められなかった。