【文献】
Lymphokine and Cytokine Research,1992年,Vol.11, No.1,p.65-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
誘導するステップが、前記細胞集団中に存在する抗原提示細胞(APC)により、または人工APC(aAPC)により、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達および下流の遺伝子発現を刺激することを含む、請求項1に記載の方法。
誘導するステップが、前記aAPCに結合された少なくとも1つのモノクローナル抗体(mAb)を用いて共刺激することを含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
MHCクラスIまたはMHCクラスII分子と結合するペプチドまたはペプチドの混合物が前記APCまたはaAPCに加えられる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記細胞集団がヒトPBMCから得られたT細胞であり、前記少なくとも1つのRNA分子がサイトカイン遺伝子によってコードされ、前記細胞集団中の細胞がTCRと相互作用する1つ以上のペプチド負荷MHC分子を伴うaAPCにより誘導され、および前記プローブのセットが同じ蛍光部分でそれぞれ単独で標識された20〜60のプローブを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
蛍光活性化細胞の分取により、発現現象を有する少なくとも1つの検出された細胞が発現現象を有しない細胞から分離される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
前記誘導するステップが微生物産物または合成化合物を用いてToll様受容体シグナル伝達および下流の遺伝子発現を刺激するステップを含み、前記微生物産物が脂質、グリカン、糖脂質、硫脂質、糖タンパク質、タンパク質、ペプチド、または核酸である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
前記受容体がToll様受容体、NOD受容体およびNOD様受容体、Gタンパク質共役型受容体、ポリペプチドホルモン受容体、サイトカイン受容体、B細胞受容体、ならびにT細胞受容体からなる群から選択される、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、タンパク質をコードするRNA転写物(例えばメッセンジャーRNA(mRNA)およびプレmRNA)ならびにタンパク質をコードしないRNA転写物を含む1つ以上の遺伝子の発現を測定および評価するための方法を開示する。
【0022】
本明細書に開示されているように、本方法は様々な誘導に応答して遺伝子発現が変化する細胞内のRNA転写物を評価するために用いることができる。誘導は、自然発生でもよく、またはTCRを含む(ただしこれに限定されない)細胞受容体の任意の既知リガンドによって刺激されてもよく、また原則的に、任意の受容体またはリガンド(例えばToll受容体様またはケモカインの受容体およびこれらのリガンド)またはシグナル伝達カスケードを開始する化合物が関与してもよく、特定の遺伝子(例えばIL−2、TNFα、またはIFNγなどの少なくとも1つのサイトカイン遺伝子)の転写合成および発現をもたらしてもよい。
【0023】
ある実施形態において、誘導は、特異的受容体を結合してそれにより遺伝子発現を開始する1つまたは複数の化合物(例えばMHCIまたはMHCII分子に結合したペプチドまたはペプチド混合物)による刺激である。1つまたは複数の化合物は微生物由来でもよく、例えば結核菌由来の免疫原性ペプチドである刺激分子でもよい。遺伝子発現の誘導、例えばT細胞受容体シグナル伝達および下流の遺伝子発現の刺激は、調査する細胞集団中に存在するAPCによってもよい。あるいは、刺激は人工APC(aAPC)によってもよい。MHCクラスI分子またはクラスII分子に結合するペプチドまたはペプチドの混合物は、TCRと相互作用するペプチド負荷MHC分子を産生するために、好ましくは1〜20μg/mlの範囲の濃度でAPCまたはaAPCに加えられてもよい。本発明の方法の特定の実施形態は、APCまたはaAPCに加えて、少なくとも1つのモノクローナル抗体を用いる共刺激を含む。aAPCを用いるとき、mAbはaAPCに結合されてもよい。
【0024】
本発明の方法により、細胞集団の構成における変化ならびに感染性または非感染性疾患の進展および付随する病態進行の間に起こる機能の測定を、迅速かつ高感度で実施することができる。これらの測定により、造血および非造血起源の新生および/または悪性細胞、ならびに自己免疫疾患に関与する細胞の特性を特徴付けることができる。
【0025】
本方法は、疾患状態を処置する治療における応答の監視においても用いることができる。感染症については、抗生物質療法に応答する免疫制御は、病原菌(例えば結核菌)の根絶における進展と、機能性T細胞サブセットの抗原ペプチドに対する応答などの刺激に対する細胞応答の変化とを相関させることによって、確認することができる。
【0026】
本発明の方法は概して、リガンド/刺激分子結合によりシグナル伝達カスケードを開始させることができる特異的受容体を発現する実質的にすべての細胞、哺乳類(ヒトを含むがこれに限定されない)および下等真核生物に適用できる。これらの方法は、細菌の集団および多細胞生物に適用することができる。特定の好ましい実施形態は、ヒト細胞を含むがこれに限定されない動物細胞に対して本発明の方法を適用するものである。適切な源は、まれな現象の検出および/または統計解析のために十分な細胞数を提供する。ある実施形態において、その数はわずか1000細胞またはさらに100細胞である。多くの実施形態において、例えば細胞がT細胞である場合、少なくとも10,000細胞を提供する源が好ましい。より好ましくは、本源は少なくとも100,000細胞または少なくとも100万細胞を提供する。適切な源には、血液サンプルおよび組織サンプル、例えば生検サンプルが含まれる。組織サンプルは個々の細胞に分離されなければならず、すなわち脱凝集した組織が処理のために必要である。
【0027】
前述のように、本発明の方法には、5日を超えず好ましくはさらに短い、例えば4、3、2、もしくは1日、または16、12、10、8、6、もしくは4時間の迅速な誘導が含まれる。好ましい誘導時間は30分から8時間、好ましくは30分から6時間、より好ましくは30分から4時間、さらにより好ましくは30分から2時間である。
【0028】
本発明の方法には、イオン流束によって誘導される活性化および機能的影響(イオノフォアおよび/もしくはマイトジェンによって引き起こされ、またはケモカイン受容体、ポリペプチドホルモン受容体、サイトカイン受容体、B細胞受容体、もしくはTCRを含む、Toll様受容体、NOD受容体、NOD様受容体、ならびにGタンパク質共役型受容体を含むパターン認識受容体を含むがこれに限定されない細胞表面または細胞内受容体を通じたシグナル伝達によって引き起こされるが、これらに限定されない)に基づいて、免疫および非免疫細胞内の1つ以上の遺伝子の発現を迅速に測定するステップが含まれる。本発明に記載の方法は、多様な感染性および非感染性の病態に対する医療を進歩させると考えられる。好ましい実施形態は、単離されたPBMC、T細胞内、または(単離されたPBMCではなく)全血サンプル中のいずれか、およびさらに以下に示す他のタイプの細胞内の個々のリンパ球内の1つ以上のサイトカインについて、mRNAおよびプレmRNAの両方を含むRNAの発現を検出するステップを含む。本発明に記載の方法は、例えばIL−2、IFNγ、およびTNFαを産生するCD3
+CD4
+T細胞(Tヘルパー1またはTh1細胞);IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、およびIL−13を産生するCD3
+CD4
+T細胞(Tヘルパー2またはTh2細胞);(IL−2、IFNγ、TNFα、MIP−1αおよび他のケモカイン)を産生するCD3+CD8+T細胞、ならびに他の特殊なT細胞サブセット(Th17およびTreg細胞を含むがこれらに限定されない)、または他のリンパ球サブセット(NK細胞、NKT細胞を含むがこれらに限定されない)、マクロファージおよび樹状細胞の亜集団、各種身体臓器の内皮および上皮を含む細胞、または神経系の細胞(ニューロンおよびグリアを含むがこれらに限定されない)、ならびにサイトカイン、ケモカイン、およびこれらの細胞によって産生される機能分子(例えば表2を参照)のプレmRNAおよびmRNAの解析に適用される。
【0029】
本発明に記載の特定の方法は、ex vivoでの細胞の刺激または特異的な分子相互作用の誘導を含み、活性マーカーの発現および細胞機能の調節をもたらす。刺激は、直ちに実施されても、または培地内で培養した後の細胞に対して実施されてもよい。刺激は、自然刺激でもよく、すなわち培養物中で単に細胞をインキュベートしてもよい。好ましくは、刺激は、特異的受容体/リガンドをトリガーしてシグナル伝達カスケードを誘導する1つ以上の化合物と共に培地中で細胞をインキュベートすることにより促進されてもよい。これらの化合物は、合成でもまたは微生物(細菌、ウイルス、および菌類を含むがこれらに限定されない)由来でもよく、例えばリポ多糖、リポアラビノマンナン、ペプチドグリカン、細菌起源のミコール酸、またはエプスタイン・バーウイルスもしくはサイトメガロウイルスを含むがこれらに限定されないウイルス起源のタンパク質(例えばそれぞれタンパク質ebvIL−10、cmvIL−10およびUL146)、あるいは真菌(例えばクリプトコッカス関連およびコウジカビ関連)のガラクトキシロマンナンおよびガラクトマンナンならびに可溶性の抗原;ポリペプチドホルモン、例えば血小板由来の増殖因子またはVEGF;サイトカイン;ならびに抗原ペプチドを含む抗原でもよい。刺激の好ましい方法は、人工抗原提示細胞(aAPC;下記参照)を用いる。
【0030】
本発明に記載の方法は、1つのバイオマーカーサイン、好ましくは複数のバイオマーカーサイン、すなわち無傷細胞内でin situでmRNAまたはプレmRNAを特に含む1つ以上のRNAを有する、特に活性化された細胞を含む個々の細胞の検出をさらに含む。
【0031】
本発明に記載の好ましい方法は、固定および透過処理された細胞で、蛍光標識ハイブリダイゼーションプローブのセットを利用して非結合プローブを洗い流し、mRNAまたはプレmRNA分子を含む発現RNA分子を標識することによって、個々の細胞(例えば活性化T細胞)内での誘導された遺伝子発現(例えばサイトカイン、最も好ましくは複数のサイトカイン)を検出するステップを含む。各RNA標的に対して複数の蛍光標識を提供する複数の核酸ハイブリダイゼーションプローブを用いることによって、単分子感度が得られる。これらのプローブは、同族のmRNAまたはプレmRNAにハイブリダイズされたときに、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって蛍光を発するために標識された特定のフルオロフォアまたはプローブを用いて多重的に標識された少数のプローブでもよい。本発明の好ましい方法は、単一の蛍光色素でそれぞれ標識され、標的配列に同時に結合する、より多くの、例えば10〜100、より好ましくは20〜60、さらにより好ましくは30〜50、例えば約50の、より短いオリゴヌクレオチドプローブを利用する。多数の標識を各RNA分子に付けると、細胞は、FC法によって検出することができるバックグラウンドを上回る十分な蛍光を発するようになる。
【0032】
さらに、本発明に記載の方法は、1つまたは複数の標的RNAを発現する個々の細胞のFCによる検出および解析を含む。本発明の特定の好ましい方法は、所望の細胞内でAPCまたはaAPC刺激により誘導されたサイトカイン遺伝子のRNA発現産物を含む細胞を検出するために、定量的FCを使用するステップを含む。
【0033】
FCは、細胞の単一ファイルを作成する流体力学的絞り込みのための流体システムを含む。次いで、単細胞は1つまたは複数の波長での蛍光発光を調べることができる。FCは、臨床病理の実験室においては当たり前の手法である。例えば、FCによるイムノフェノタイピングは、各種血液系腫瘍の診断および進行度診断において重要なツールである。極めて重要なFCステップは、1つ以上の蛍光部分(例えばフルオロフォア)を用いて細胞を標識するステップ、標識された細胞をフローサイトメーターに導入するステップ、蛍光部分の励起波長で発光するレーザーなどの励起光源を各細胞に照射するステップ、および用いられている各蛍光部分に特異的な発光波長を区別するフィルターおよびミラーを用いて発せられた蛍光を検出するステップであり、それによって、励起および発光に基づき、各細胞に結合した各蛍光部分の存在、および好ましくは量を明らかにするデータを取得する。
【0034】
本明細書に開示されているように、複数の単独標識蛍光ハイブリダイゼーションプローブの利用によりRNAを発現する細胞を検出するために、FCは用いることができる。最も好ましい実施形態は、内在性APCまたはより好ましくはaAPCのいずれかによる結核菌Agの提示によって刺激された、単離されたPBMCのT細胞分画中におけるサイトカイン遺伝子から発現したRNA(mRNAまたはプレmRNA)の検出である。複数のサイトカインに対するRNAは、各RNA種に特異的で、検出される各RNA種を異なる蛍光部分(例えば異なるフルオロフォア)で標識したプローブを使用することにより検出することができる。
【0035】
本発明の方法において、FCは(わずか10,000細胞から100万細胞を超える)細胞の集団に対して実施される。データは1つ以上の現象について取得される。現象は1つの細胞に対する1セットの測定値である。各現象のデータは、ユーザー定義ウィンドウ(例えば、強度レベルXと強度レベルYの間のフルオロフォアAに対するシグナル、またはフルオロフォアAに対するシグナル)に分類される。FC読み取り値の分類はゲーティングと呼ばれるプロセスであり、したがって、現象は、通常、ある一定の閾値を上回るように、またはある特定の許容限界値で制限されて、ゲーティングまたは選別される。次いで、結果は、ある一定のウィンドウ内の細胞の絶対数として、または好ましくは1つ以上のウィンドウ内の細胞の割合、すなわち頻度として表すことができる。例えば、疾患状態の解析において、結果は、10%の細胞がmRNA AおよびmRNA Bについて陽性で、7%の細胞がmRNA BおよびmRNA Cについて陽性で、2%の細胞がmRNA A、mRNA BおよびmRNA Cの3つすべてについて陽性であってもよい。10,000細胞が解析される場合、最低の可能な陽性結果は、ある一定の現象が10,000細胞のなかで1回発生したというものである。一方、100万細胞が解析される場合、最低の可能な陽性結果は、ある一定の現象が100万細胞のなかで1回発生したというものである。
【0036】
FCの結果の解析は、分散分析(ANOVA)を含んでもよいが、これは分散を分析するための統計モデルの集合であり、一般に、全分散を真の偶然誤差による成分と平均値間の差による成分とに分けることによって、グループの平均値または変数の間で有意差を試験する。
【0037】
本発明は、前述の方法を実施するための試薬キットについても開示する。本発明に記載のキットは、少なくとも1つの刺激化合物、例えば、試験される疾患状態に特徴的な応答として1つ以上のサイトカインの発現を刺激するタンパク質またはペプチド、またはこのようなペプチドを負荷し後述のように共刺激分子を保有するaAPC、およびmRNAもしくはプレmRNA中に存在する単一の配列にそれぞれ特異的にハイブリダイズする1つ以上のセットのオリゴヌクレオチドプローブ(好ましくはここで各セットはそれぞれ16〜20塩基のオリゴヌクレオチドを20〜60含み、各オリゴヌクレオチドは単一のフルオロフォアで標識されている)を含む。前記キットは、mRNA特異的プローブ以外に、細胞タンパク質または関心のある標的に結合しているフルオロフォアでタグ付けされた化学プローブを認識するフルオロフォア結合Ab、解析される細胞の固定および透過処理のための試薬、包含されたプローブと細胞とのハイブリダイゼーションのための試薬、および過剰なハイブリダイズされていないプローブまたは他の非結合標識プローブを除去するための洗浄液などのハイブリダイゼーション後の処理のための試薬をさらに含んでもよい。
【0038】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、細胞集団中に存在するAPCまたは合成ビーズ(本明細書においてaAPCと呼ぶ)によるTCRシグナル伝達および下流の遺伝子発現の刺激を含む。合成ビーズは、機械的な担体、すなわちタンパク質(MHCおよび/または共刺激受容体およびリガンド)が化学結合、静電結合、または他の任意のタイプの結合によって結合できるプラットホームとしての役目を果たす。したがって、例えば、aAPCの機械的な担体、すなわちプラットホームとしての役目を果たすために、必要に応じて化学修飾または誘導体化を施したまたは施していない任意のプラスチック表面を用いることができる。
【0039】
APCは、MHC分子と結合し(またはMHC分子によって内因的に処理および提示され)、次いでTCRを刺激することができるよう、添加したペプチド(またはタンパク質)と相互作用(または反応)する。aAPCはMHC分子に結合した添加ペプチドと相互作用し、これによりこれらのペプチド負荷aAPCはTCRを刺激することができる。したがって、aAPCは、CD28および/またはCD49dなどのT細胞上で発現された共刺激受容体と相互作用する1つ以上の抗体または他のタイプのリガンド存在下又は非存在下で、TCRと相互作用するペプチド負荷MHC分子の1つ以上のクラスを保有する。特定の好ましい実施形態において、刺激性ペプチドは、結核菌由来の免疫原である。TCRを刺激するステップは、適切なペプチドを負荷し、また、いくつかの実施形態においては、シグナル伝達を増強する共刺激受容体上の標的に結合する抗体、ペプチド、各種炭水化物含有および脂質含有分子などの共刺激タンパク質または機能的等価物を負荷するMHCクラスIまたはクラスII分子を含むTCR発現細胞の、APCまたはaAPCを用いたインキュベーションを含み、T細胞の活性化を引き起こす。
【0040】
機能的に異なるT細胞サブセットは、現在の検出限界に近い頻度で(一般に0.01〜0.1%)しばしば発現する。したがって、それらの検出には、まれなT細胞サブセットでも直接検出できるように、または特定の分析方法の検出限界を上回る数まで増殖するように、強力なTCR刺激および高感度の検出方法が必要である。本発明の方法は、細胞集団中に存在するAPCによる、あるいはaAPC((i)適切なペプチドを負荷したMHCクラスIまたはクラスII分子、および、特定の好ましい実施形態においては(ii)別のシグナルを提供する共刺激タンパク質(抗CD28および/または抗CD49dモノクローナル抗体)(Oelke et al.,2003,Nature Medicine 9(5):619−24])を含む合成ビーズベースのプラットホーム)による効果的なTCR刺激を誘導するステップを含む。実質的に任意のMHC対立遺伝子をビーズプラットホームに付着でき、および任意の共刺激シグナルは、自然発生するまたは化学的に定義されるいずれかのビーズ付着特異的モノクローナル抗体(mAb)または共受容体リガンドとして提供することができる。優れた刺激特性に加えて、aAPCは非常に安定している:最終的な細胞サイズのaAPCは、結合した合成ペプチドの有無にかかわらず、凍結乾燥形態で保存安定性に優れ、容易に運ぶことができる。
【0041】
本発明の方法において、刺激のための手順は一般に、被験者から所望の細胞を得るステップ、培地内で細胞をインキュベートするステップ、および30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、またはさらに長い期間(例えば1、2、3、4または5日)などの様々な時間で、培養された細胞を刺激するために化合物を加えるステップを含む。細胞は、固形組織の生検により、または気管支肺胞洗浄など、関心のある部位からの液体中の細胞の吸引により得ることができ、あるいは細胞の源は末梢血でもよい。所望の細胞は、これらの細胞を溶解し、溶解した細胞の残分(remnant)から無処置の所望の細胞を分離することによって、または特定の細胞の特性に基づいて不必要な細胞から所望の細胞を分離することによって、不必要な細胞から分離した後に培養してもよい。例えば、血液由来のPBMCは、培地内でのインキュベート前に、赤血球(RBC)の溶解後、または細胞密度に基づくフィコールによる遠沈による回収およびフィコールの除去の後のいずれかで培養してもよい。刺激は、検出される応答を生じるのに十分な量の上述の刺激化合物(細菌、真菌、またはウイルスの産物、あるいは宿主タンパク質またはペプチドなど)を加え、応答を生じるのに十分な時間だけインキュベートすることにより実現することができる。応答は、培養され、刺激された細胞による、プレmRNAまたはmRNAの合成でもよい。応答は、与えられた刺激物に対する所望の細胞の応答に特徴的なサインとして解釈されてもよい。
【0042】
結核感染のサインを得るために、例えば、HLA−A
*0201ベースのaAPCは、Rv1886c、Rv3874およびRv3875などの既知のAg由来のヒトHLA−A−0201MHCクラスIタンパク質に結合することが知られているHLA−A
*0201エピトープ(ペプチド)を負荷することができ、また、A2ベースのAg負荷aAPCは、CD8+Tエフェクターを検出するために、標準的な培養条件下、1:1の比率でPBMCと混合することができる。HLA−DRB1
*04ベースのaAPCも同様に負荷して、CD4+Tエフェクターの検出のために用いることができる。
【0043】
1つ以上の特異的なRNAのコピーを含む細胞を検出するために、各RNAについて、1セットの複数の蛍光標識したオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブを利用することができる。オリゴヌクレオチドプローブは、DNA、RNA、またはDNAとRNAの混合物でもよい。これらは、非天然ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、および非天然ヌクレオチド間結合を含んでもよい。各プローブは、複数の蛍光部分、例えばフルオロフォア、量子ドット、または他の蛍光部分の複数のコピーで標識されてもよい。例えば、国際公開第1997/014816号には、標的あたり5つのプローブを利用した、一段階のin situハイブリダイゼーションによるβ−アクチンおよびγ−アクチンmRNAの検出が記載されており、プローブは、10ヌクレオチドおきに1つのフルオロフォア(フルオレセインまたはCy3)、すなわちプローブあたり5つのフルオロフォアで標識した約50ヌクレオチド長の一本鎖DNAである。本発明の好ましい方法は、単一の蛍光色素を用いてそれぞれ標識され、標的配列に同時に結合する、より多くの、例えば10〜100、より好ましくは20〜60、さらにより好ましくは30〜50、例えば約50の、より短いオリゴヌクレオチドプローブを利用する。多数の標識を各RNA分子に付けると、細胞は、FC法によって検出することができるバックグラウンドを上回る十分な蛍光を発するようになる。ほとんどの実施形態において、各プローブセットは単一の蛍光部分を有するようになり、また、各蛍光部分は、検出可能な程度に他の存在する蛍光部分と区別可能になる。しかし、各細胞が第1のRNAまたは第2のRNAを発現するか否かを検出しようとする場合、両方のプローブセットを同じ蛍光部分で標識することができる。
【0044】
バックグラウンド蛍光は、FCを利用する本発明の方法に対し、細胞内の輝点として個々のRNAを顕微鏡により可視化する顕微鏡的smFISH法とは異なる問題を引き起こす。本発明の方法では、バックグラウンド低減技術を用いてもよい。このような技術の1つは、標的RNA上に隣接して整列するプローブ間でFRETを利用するものである。例えば、第1プローブおよび第2プローブの3’末端に(知られている適切なFRET距離内で)隣接する第1プローブの5’末端と隣接して整列する第2プローブを考えると、第1プローブの5’末端にFRETドナーを、また、第2プローブの3’末端にFRETアクセプターを加えてもよい。この組み合わせでは、細胞はドナーフルオロフォア(例えばフルオレセイン)の吸収波長で励起されるが、シグナルはアクセプターフルオロフォア(例えばTexas Red)の発光波長で検出される。Texas Redフルオロフォアは直接励起されないため、ハイブリダイズされていないプローブ、または誤ってハイブリダイズされたプローブは、蛍光を発しない。別の技術は、Resonsenseプローブを用いたプロービングにおいて実施されるように、二本鎖DNA色素とプローブセットのフルオロフォアとの間でFRETを利用するものである。この場合、SYBR GREENなどのdsDNA色素が含まれ(SYBR GREENはフルオレセインと非常に似た吸収波長および発光波長を有する)、また、プローブセットはSYBR GREENからの発光を受けるフルオロフォア(例えばTMR)で標識される。この組み合わせでは、SYBR GREENの吸収波長で細胞を励起することができるが、フルオロフォアの発光波長で発光を検出する。フルオロフォアは直接励起されないため、ハイブリダイズされていないプローブは蛍光を発しない。
【0045】
RNAのすべての領域は、プローブの標的として役目を果たすことができるが、このようなプローブの選定においては、いくつかの要素が考慮されるべきである。好ましくは、標的領域は細胞内でゲノムの他の領域から発現されるべきでなく、またより好ましくは、標的領域はゲノム中の他の場所に存在すべきでない。これは、所望の標的の配列を、検討されている生物の発現遺伝子および全ゲノム配列を一覧にしているデータベースと照合することによって確実にすることができる。潜在的にバックグラウンドを発生させる配列のこの「フィルトレーション(filtration)」は、「repeat masker」などの公開されているコンピュータープログラムを用いて実施することができる。プローブは、標的と直接隣接する領域から選択することができ、または隣接するプローブ間にいくらかのスペースがあってもよい。プローブの長さはハイブリダイゼーションの厳密性に応じて変化してもよい。
【0046】
下に示す通り、実施例1では、単細胞内での遺伝子発現の特徴的なサインの区別における誘導およびプロービングが実証されている。
【0047】
さらに具体的には、アッセイを実施して、照射された結核菌で刺激された分化THP−1細胞を試験した。細胞を、24時間刺激した後に4%パラホルムアルデヒドで20分間インキュベーションして固定し、次いで2つのmRNA標的についてプローブでハイブリダイズした。1つはTNFαであり、活性化T細胞およびマクロファージの解析に重要な標的である。もう1つはACSL1(脂質代謝遺伝子、GenBank受託番号:BC050073.1)であり、同様に刺激物によって誘導されることが予想される。TNFαに特異的なプローブセット(Ensembl配列ID:ENST00000376122)は、それぞれ約20ヌクレオチド長で、かつテトラメチルローダミンフルオロフォアで末端標識した48のプローブを含んでいた。ACSL1に特異的なプローブセットは、それぞれ約20ヌクレオチド長で、かつ光学的に区別可能なフルオロフォア、すなわちAlexaFluor 596で標識された48のプローブを含んでいた。
【0048】
実施例1については、発現RNA産物は、Raj et al.,2010,Methods in Enzymology 472:365−386およびRaj et al.,2008 Nature Methods 5:877−879に記載の既知の顕微鏡技術、すなわちsmFISHを用いて検出した。この技術は、個々のRNA分子にセットされたプローブのハイブリダイゼーションの目印としての蛍光点の検出を含む。実施例1において、両方のmRNAに対応する点を検出した。TNFαおよびACSL1の画像は、細胞の同じセットの各チャネルの合成三次元積層(merged 3-D stack)であった。解釈には、参考文献に記載されているように、mRNAの個々の分子に対応する回折限界スポットを明らかにするコンピュータープログラムを用いた画像処理、細胞のDIC画像へのその回折限界スポットの重ね合わせ、およびmRNA分子の数の細胞毎の計数値の取得が含まれていた。細胞間で各遺伝子の転写物の数に大きなばらつきが観察されたが、これは、哺乳類細胞においてmRNA合成が非常に確率的であるという以前の観察と一致する。結果(連続して解析した50の細胞で計数された点の合計に基づく刺激および無刺激の細胞におけるTNFαの平均の点の数)では、単細胞の測定がアンサンブル測定よりもはるかに情報価値があることが示された。
【0049】
本発明の方法のためのFCデータ取得は、従来のFC技術により実施することができる。光は、前方散乱チャネル(FSC)および側方散乱チャネル(SSC)の両方において検出することができる。データは、密度プロットおよび等高線図のいずれか、またはその両方で提示することができる。不必要な粒子(例えば細片)による結果を排除しながら関心のある細胞を可視化するために、FCゲーティングが用いられる。ゲートおよびウィンドウ、または領域は、陽性の現象がウィンドウ内に現れるように、従来の方法で決定される。真陽性の現象を偽陽性の現象から識別するためのゲーティングを支援するために、陰性対照、すなわち細胞が発現することのできないもののプロービングの使用が役に立つ。原則的に、これはタンパク質のためのFCに類似しており、ここではアイソタイプ陰性対照および/または未染色細胞が利用される。
【0050】
FC検出は、サンプル中の陽性の現象の数、例えば、10,000細胞中に1つの陽性の現象(1/10,000)、100,000細胞中に3つの陽性の現象(3/100,000)、または100万細胞中に2つの陽性の現象(2/10
6)を明らかにする。現象の頻度によって、生物学的な状態、例えば疾患状態に関する結論が導かれてもよい。あるいは、組み合わせによって結論が導かれてもよい(例えばサンプル中の10%の細胞が第1のサイトカイン(サイトカインA)について陽性であり、また、第2のサイトカイン(サイトカインB)について陽性である)。別の例として、疾患状態は以下の組み合わせによって特徴付けることができる:10%以上の細胞がサイトカインAおよびBについて陽性;7%以上の細胞がサイトカインBおよび第3のサイトカイン(サイトカインC)について陽性;2%以上の細胞が3つのサイトカインすべてについて陽性。
【0051】
本明細書に開示されているように、FCが本発明の方法のための読み取り値として有用であることが実証された。後述の実施例2における実験は、個々の細胞内のRNA標的にハイブリダイズされたプローブセットによって生成されたシグナルをFCによって検出することができるかを試験するために計画された。その例では、レンチウイルスコンストラクトから発現させる細胞培養液内のHIV GAG mRNAを検出するステップを説明している。さらに具体的には、293T細胞を、組換えレンチウイルスコンストラクトを一緒に発現させる3つのプラスミドを用いてトランスフェクトし、またGAG mRNAに特異的なプローブを用いてハイブリダイズした。FCの結果は
図1に示しており、トランスフェクトされていない細胞から得られた蛍光強度と前方散乱チャネルA(FSC−A)のグラフが
上側、レンチウイルスパッケージングシステムからの3つのプラスミドを用いてトランスフェクトした細胞から得られたグラフが
下側である。細胞の両方のセットについて、GAG mRNAに対するプローブセットを用いてハイブリダイズした。トランスフェクトした細胞の集団は、外れ値のトランスフェクトされていない細胞(すなわち、設定閾値を上回るもの)からのシグナルに見られる強度より1〜2桁高い強度のシグナルを生じた。対照として、smFISHの結果の画像ベースの解析は、約25%の細胞がコンストラクトを発現していることを示した。同じ集団に対するFC解析により、同じ割合の細胞が蛍光性であることが明らかになった。これらの結果は、mRNA発現がFCによって容易に検出されることを実証するものである。さらに、データは、低頻度の強く刺激された(強い蛍光性の)T細胞を非刺激集団内の外れ値から区別する指針を与えるものである。受信者動作特性(ROC)分析によって、最適な閾値を定義することができる。ROC分析は、試験開発の当業者に周知である。例えば、Zweig et al.,1993,Clinical Chemistry 39(8):561−577およびPepe,2003,The statistical evaluation of medical tests for classification and prediction.New York,NY:Oxfordを参照されたい。
【0052】
T細胞活性化の転写サインの検出において難題は2つあり、細胞の小さなサブセットのみが誘導されること、およびこの誘導された細胞はmRNAのコピーを細胞あたりわずか数個のみ発現することである。実施例7で説明する実験において、本発明者らは、低頻度の応答の高感度検出と、いくつかのmRNA標的の同時検出の両方を本発明の方法により実証することができた。刺激、固定された細胞のプロービング、およびFCを含むアッセイにより、IL−2/TNFαおよびIFNγ/TNFαサイトカインペアをそれぞれ頻度3.35%および6.37%で発現させる細胞が検出される一方で、IL−2/IFNγペアを頻度3.46%で発現させる細胞を検出することができた(
図2、
右下枠)。単一のサイトカインおよび二重のサイトカイン集団、例えば、IFNγ(4.76〜5.40%)とIL−2/IFNγ(3.46%)の比較は、すべてのIFNγ産生株がIL−2を産生できたわけではないことを示唆した。一方、大部分のIFNγ産生株(5.40%)は、IFNγ/TNFα産生集団のサイズ(6.37%)により示唆される通り、TNFαも発現したようである。この結果は、TCRトリガリングおよびレクチン媒介刺激(抗CD3 mAbおよびフィトヘマグルチニン)の併用により非特異的に活性化されたT細胞の集団に予想される。したがって、本発明に記載のアッセイにより、既知のT細胞生物学と一致する結果が得られた。
【0053】
実施例8に示す通り、本発明による方法をex vivoで刺激された結核菌特異的な細胞の検出に適用した。PBMCを、ESAT6由来およびCFP10由来ペプチドの混合物(T−SPOT.TB、Oxford Immunotec、英国)を5μg/mlで用いて5時間インキュベートした。
図3に示す通り、Ag特異的なT細胞内でサイトカインmRNAを発現させる細胞は、この刺激の後、2倍にまで増加した。したがって、抗CD28 mAbによってもたらされる共刺激がない状態でも、アッセイはこのLTBIドナー中に存在する低頻度の循環している結核菌特異的なT細胞を検出した。この結果は、本発明によるアッセイの有用性を実証するものである。
【0054】
実施例9では、実施例8と比較してシグナルを増大させた本発明に記載の方法を説明している。mAbによるTCRのCD28共受容体の会合を利用して、Ag特異的なT細胞に優位な刺激を与えた。実施例8に示す通り、PBMCを、ESAT6由来およびCFP10由来ペプチドの混合物(T−SPOT.TB、Oxford Immunotec、英国)を5μg/mlで用いて5時間インキュベートしたが、今回は、抗CD28 mAb 53D10存在下または非存在下で行った。固定および洗浄した細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP、陰性対照)またはIFNγに特異的なCy5標識DNAプローブを用いてインキュベートし、次いでFCにより解析した。サイトカイン産生株の頻度を
図4に示す。2倍を超えるIFNγ mRNAの発現の増加が、抗CD28 mAbの存在下、LTBIドナーのAg特異的なT細胞内で起きた。対照GFPおよびHIV−1 GAGプローブを用いた非特異的なハイブリダイゼーションは、CD28共刺激によって影響されなかった。実施例9は、シグナルを増幅するための、すなわち同族のAgが特異的に会合したTCRに共刺激シグナルを与えることによる特異な方策を示している。さらに、抗CD28 mAbによって媒介された共刺激は対照プローブ(GFPおよびHIV−1 GAG)の非特異的な結合に影響を与えなかったため、共刺激は特異的なシグナルの強度を増大させてバックグラウンドノイズを上回るようにするために用いることができる。
【0055】
いくつかの方策は、本発明によるアッセイの最適化に特に役立つ。これらは、以下を含む。
【0056】
i)シグナル検出の動態 各RNA標的(例えばサイトカインIL−2、IFNγ、およびTNFαのmRNA)に関するmRNA分析物の発現の動態は、1つまたは複数の適切な誘導因子(例えば実施例8に記載のAgの混合物(例えば5μg/mlで存在するESAT6由来およびCFP10由来ペプチド(T−SPOT.TB、Oxford Immunotec、英国))を用いて刺激された、与えられた源(例えばLTBI+およびLTBI−ドナーの血液サンプルから得られるフィコール分離PBMC)の細胞を用いて決定される。次いで、各サイトカインの発現は、Ag刺激PBMC中で様々な時間(例えば30分、2、4、8、12および16時間)で別々に試験される。特にサイトカインに関して、抗CD3 mAbおよびフィトヘマグルチニン(PHA)を用いて非特異的に刺激されたPBMCは、刺激の陽性対照としての役目を果たす。特異的なPBMC応答の解析のためのアッセイにおいて、非特異的な応答を測定するための好ましい方法では、特異的な応答が測定される条件によって影響されないこと、および影響されることが分かっている人を含む集団からのPBMCを利用および比較する。
【0057】
ii)用量反応 Ag刺激に対する用量反応は、最適なシグナル検出の時点でESAT6とCFP10のペプチド混合物の濃度を変える(1〜20μg/ml)ことによって(例えば3つのサイトカインそれぞれについて)同様に求めることができる。さらに、任意のドナーからのPBMCの非特異的な刺激(抗CD3+PHA)は、様々な濃度を別々におよび組み合わせて試験することによって最適化し、特定のアッセイの標準的な陽性対照を提供することができる。特異的なPBMC応答の解析のためのアッセイにおいて、非特異的な応答を測定するための好ましい方法では、特異的な応答が測定される条件によって影響されないおよび影響されることが分かっている人を含む集団からのPBMCを利用および比較する。
【0058】
iii)シグナル対ノイズ増幅 より非常に強力なフルオロフォアを備えたプローブセットを設計することができる。この目標もいくつかの改善の方策によって実現されるであろう。さらに、プローブ標識法は先に説明の通り変更することができる。ハイブリダイゼーションの厳密性は、シグナル/ノイズ比を向上させるために経験的に最適化することができる。
【0059】
シグナルを増幅するための特異な方策は、実施例9に関連して説明した通り、同族のAgが特異的に会合したTCRに共刺激シグナルを与えることによる。共刺激のための条件は、上で概説した通り、本明細書に記述されるアッセイによって、動態および用量反応に対して最適化して、複数のRNA(例えば、3つのサイトカイン)の頑強な検出を実現することができる。
【0060】
iv)閾値の決定 特定のアッセイにおいて臨床的に許容される閾値は商業的アッセイ開発の最終時点で決定できるが、RNA検出のための閾値の初期評価は最適化されたアッセイの標準化に役立つことができる。研究段階において、ドナーから得られ、かつex vivoで刺激されたAg特異的なT細胞内でのRNA検出(サイトカインの発現)の閾値を評価することができる。Ag特異的な応答は、無刺激のPBMCからのシグナルを、最適な時間およびAg用量でAg刺激PBMCを用いて得られた値から差し引くことによって計算することができる。各サイトカイン読み取り値について、ROC(受信者動作特性)曲線は、様々な切点(ドナーの平均に標準偏差の2倍を加えた値を含む)において感度と特異性の間の妥協点を示すと推定され、また、最適な閾値はAg特異的な応答を特定するために選択される。
【0061】
v)血液量および処理時間の低減 現在、平均で0.8mlの血液に相当する2×10
6細胞/パラメータ(例えば各サイトカイン)が解析される。PBMC調製におけるフィコール分離の代わりに、全血の赤血球溶解を導入することによって、また、遠心分離の代わりに真空駆動遠沈(vacuum-driven sedimentation)(96ウェルフォーマット)などの血液処理の改変をさらに加えることによって、サンプル量を少なくし、またアッセイ時間を短縮することができる。予備実験では、シグナルを大幅に損失することなくハイブリダイゼーションの時間を2時間にまで短縮できることが示されている。
【0062】
アッセイ開発は従来の方法により進めることができる。例えば、3つのドナーグループ(活性TB、LTBI、および非感染の対照)由来のPBMCは、実施例4に記載の通り、ESAT6およびCFP10ペプチドを負荷したHLA−A2ベースおよびHLA−DR4ベースのaAPCを用いて刺激することができる。各アッセイは、解析に4色のFCを用いて、表1に示す遺伝子を含むがこれらに限定されないグループから選ばれる刺激(発現特性に基づいて一緒に試験される)に対する応答の4マーカーのパネルを試験することができる。これにより、すべての標的を各ドナーについて評価することが可能になる。初期の試験において選定されたマーカーは、各グループにおいて同様のレベルで発現される遺伝子をまとめるよう選ばれた組み合わせで再試験することができる。統計解析は、実施例4に記載されている通り実施することができる。所望であれば、従来のAPC刺激によって誘導される標的の発現を測定して、単細胞内の複数の分析物に対する検出感度を改善できるaAPCの能力を確認することもできる。さらに、アッセイは蛍光顕微鏡により試験することもできる。統計解析は、実施例5に記載されている通り実施することができる。
【0063】
実施例10に記載されている実験では、T細胞内におけるサイトカインmRNA発現の検出に用いられる「FISH−flow」と呼ばれる同じ手法が、初代マクロファージを含むがこれに限定されない他のタイプの細胞においてうまく利用することができることが実証されている。さらに、この実験では、異なる時間に単一の遺伝子の発現を監視することによって、初代マクロファージ内において異なる刺激に対する応答を区別することができることが実証されている。
【0064】
図5に示す結果は、GFP陰性対照によって評価されるバックグラウンド発現が、一定のままであったが無視できることを示している(ゲーティングされた細胞の約0.1〜0.2%)。リポ多糖(LPS)およびIFNγまたはN−パルミトイル−S−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)−プロピル]−(R)−システイニル−(リシル)3−リシン(Pam
3CSK
4)の混合物を用いた処置は、これらの培養されたマクロファージ内で、陽性であるすべての細胞の6〜42%のレベルまでTNFα転写物の発現を容易に誘導した。TNFα転写物の頑強な発現が、活性化マクロファージ内で予想され、またIFNγ mRNAの中程度(2%未満)の発現とは対照的であった。IFNγ mRNAの発現は、刺激の選択および/または刺激の長さによって影響されなかったため、実際の発現プロファイルではなく、これらの細胞における異常に高いバックグラウンドを反映する可能性がある。LPSおよびIFNγによって誘導されるTNFα mRNA発現の動態は、Pam
3CSK
4によって誘導されるものとは異なるように見受けられ、前者の刺激は、持続的で長いmRNAレベルの上昇につながる。一方、Pam
3CSK
4による同じmRNAの刺激は、持続性がはるかに及ばないものであった。
【0065】
実施例11では、記載したmRNAに特異的なFISHプローブを用いて(
図6A)、またはそれらのタンパク質産物を認識するmAbを用いて(
図6B)得られたフローサイトメトリーの結果を比較して、T細胞活性化のマーカーであるサイトカイン、ケモカイン、およびケモカイン受容体に関する遺伝子発現の経時的なプロファイルの識別を、刺激されたヒトT細胞内で実証している。FISH−Flow(
図6A)によるサイトカイン産生株の頻度は、非刺激の細胞内でのIL−2、IFNγ、TNFα、CCL3、CCR7およびcFos mRNAの発現が、ゲーティングされる細胞の1%未満で発生しており、無視できる(対照GFP、IL−2、IFNγ、およびCCR7)か、または非常に小さい(TNFα、CCL3、およびcFos)かのいずれかであることを示した。予想外なことに、誘導されたこれらのmRNAの発現は、刺激の2時間後にピークに達し、次いで1日から3日の時点を通じて低下するようである。このことは、同じ細胞を(1μg/mlのブレフェルジンAの存在下で)用いて従来のmAb免疫染色法およびフローサイトメトリーにより得られるパラレルデータとは対照的である。ここで、非刺激の細胞は、陰性対照のアイソタイプマッチ(Iso)mAbと比べて、IL−2、IFNγ、およびTNFαなどの少なくとも一部のマーカーに対して検出された基礎レベル(1〜3%)のタンパク質発現を明確に示している。さらに、すべての標的は、2時間で誘導され、試験される3日間は高い状態で保持される。したがって、特異な経時的プロファイルはサイトカインに結合するmAbを用いて検出されなかった。実施例11では、従来のmAb染色法およびフローサイトメトリーに対して、FISH−Flowを用いて優れたプロファイル識別をもたらす動態の違いが実証されており、FISH−Flowが活性化検出感度の大幅な向上を提供することを示唆している。
【0066】
任意の細胞タイプの機能性サイン(すなわち、特殊な生物学的機能を遂行できる能力)を完全に定義するためには、活性化細胞と非活性化(非応答)細胞におけるすべての他のmRNAの発現を知ることが重要であることがある。実施例12において報告される検討では、FISH−Flowにより刺激に応答して1つまたは複数の標的を発現する細胞の標識が可能になること、およびこのような応答物はその遺伝子発現プロファイルを調べる目的で細胞集団全体から単離できることが実証されている。
【0067】
刺激されたヒトT細胞は、GFPに特異的なRNAに相補的なCy5標識DNAプローブと共にインキュベートして対照としてFCにより解析するか、またはIL−2、IFNγ、TNFα、およびCCL3 mRNAに対して反応性を有しCy5単独で標識されているFISHプローブセットの混合物(表3)と共にインキュベートした。GFPプローブを用いて得られた結果を
図7Aに示す。プローブ混合物を用いて得られた結果を
図7Bに示す。リンパ球集団のゲーティング(各図の左枠)の後、保守的な追加ゲーティングを適用して、解析したリンパ球をIFNγ発現細胞(IFN+)と非発現細胞(IFN−)とを区別しうる2つの異なる集団(各図の右枠)に分けた。GFPプローブされた細胞(
図7A)のゲーティング設定により2つの集団が定義され、解析したリンパ球すべてのうち、0.1%がIFN+集団中、71.2%がIFN−集団中であった。IL−2:IFNγ:TNFα:CCL3プローブされた細胞(
図7B)では、同じゲーティングを用いて、10.2%がIFN+、33.7%がIFN−であった。後者のFISHプローブされた細胞(
図7B)は、単離した活性化および非応答細胞に対して遺伝子発現解析を実施するために、蛍光標識細胞分取(FACS)により陽性および陰性の集団に分けた。分取した細胞集団を解析して、特異的なFISHプローブに対するそれらの反応性と一致する特異な遺伝子発現プロファイルを示した。IFNγと「ハウスキーピング」GAPDH(対照)の2つの遺伝子によってコードされたmRNAの発現を選び、本発明のこの態様の実施形態を例証した。分取した細胞集団について、2つの遺伝子のうちの1つに特異的なプライマーを用いてRT−PCRを行った。増幅産物の定量的な測定は、増幅反応混合物中にSYBR GREEN色素を含有させることによって行った。
図8Aに示す結果は、IFNγ特異的なプライマーが、IL−2、IFNγ、TNFα、およびCCL3に対するプローブを用いて識別されたIFN+細胞内で、これらのプローブで最小限に標識されたIFN−細胞内よりも、より多数の標的を検出することを実証するものである。活性化状態によって変化しない対照GAPDHシグナルの増幅は、活性化および非応答細胞内の双方において同様であると予想される。活性化細胞内でGAPDH特異的プライマーに見られるわずかに低減した増幅は、この分取した集団が著しく小さいために、産生できたmRNAがより少なかったことを反映している。
【0068】
これらの結果(サイズ分析により確認、
図8B)は、遺伝子発現が、細胞の分集団の分取および取得のための当業者に周知の方法、ならびにRT−PCRまたはトランスクリプトーム解析などの遺伝子発現測定のための方法を適用することによって、本発明のFISH−Flowプラットホームを用いて識別された細胞の所望の亜集団においてさらに解析されてもよいことを実証するものである。識別および調査することができる亜集団は、1つの細胞、または1つを超える細胞(10、100、1000、10,000、100,000、またはさらに多い細胞を含むがこれらに限定されない)を含んでもよい。
【実施例】
【0069】
(実施例1)誘導およびプローブセットの実証
この実施例は、RNA(この場合、mRNA)を産生する細胞の人工刺激の使用、および発現RNAにハイブリダイズする単独標識蛍光プローブのセットの使用を実証するものである。
【0070】
この実施例では、smFISHの技術を用いて、プローブに結合したmRNAの個々の分子に対応する点を可視化した。Raj et al.,2010,Methods in Enzymology 472:365−386およびRaj et al.,2008,Nature Methods 5:877−879を参照されたい。プローブのハイブリダイゼーション条件および細胞の洗浄条件は、これらの参考文献に記載されている。手順は、1つの重要な方法において異なっている。洗浄ステップにおける細胞の損失を避けるため、0.5%ウシ胎児血清を洗浄溶液に含有させた。1セットの核酸プローブ(この場合、DNAプローブ)を、活性化T細胞およびマクロファージの解析のために重要な標的であるTNFα mRNAのために選定し、さらに、照射された結核菌で刺激された分化THP−1細胞を試験した。さらに含まれていたのは、異なる色のフルオロフォアで標識され、かつACSL1 mRNA(脂質代謝遺伝子)に結合するよう設計された第2のセットのDNAプローブであった。後者の遺伝子も、刺激物によって誘導されることが予想された。ヒトTNFαに特異的なプローブセットは、それぞれ約20ヌクレオチド長で、かつテトラメチルローダミンフルオロフォアで末端標識した48のプローブを含んでいた。ヒトACSL1遺伝子に特異的なプローブセットは、それぞれ約20ヌクレオチド長で、かつ光学的に区別可能なフルオロフォア、すなわちAlexaFluor 594で標識された48のプローブを含んでいた。プローブの配列は、本説明の最後に記載した配列一覧に記載されている(表3)。各セットに一覧にしたプローブは、標的mRNAの検出に適しているが、Raj et al.,2010,Methods in Enzymology 472:365−386およびRaj et al.,2008,Nature Methods 5:877−879に記載されている、標的RNAの異なる領域から選択される代替のプローブも用いることができる。前述の通り、前記細胞内の両方のmRNAに対応する点を検出した。TNFα RNA分子の数は、誘導なしで細胞あたり0.24から、刺激後に平均で細胞あたり14に増加した。
【0071】
(実施例2)遺伝子を発現する細胞を検出するためのFCの使用
この実験では、アッセイを実施して、レンチウイルスコンストラクトを発現させる細胞培養液内のHIV GAG mRNAを検出した。
【0072】
簡潔には、293T細胞を、組換えレンチウイルスコンストラクトを一緒に発現させる3つのプラスミドを用いてトランスフェクトし、また、HIV mRNAのGAG領域に特異的なプローブを用いてハイブリダイズした(GenBank受託番号:AY835771.1)。プローブの配列は、本明細書の最後に記載する(表3)。プローブをハイブリダイズして、Raj et al.,2010,Methods in Enzymology 472:365−386およびRaj et al.,2008,Nature Methods 5:877−879(これらは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の手順にしたがって細胞を洗浄した。再び、洗浄ステップにおける細胞の損失を避けるため、0.5%ウシ胎児血清を洗浄溶液に含有させた。次いで、FCを実施して、コンストラクトを発現させる細胞を検出した。ゲートは、トランスフェクトされていない細胞の蛍光に基づいて確立した。トランスフェクトした細胞のうち、約25%の細胞が、ゲートにより設定されたレベルよりも強度が高いシグナルによって示されるコンストラクトを発現した。FCの結果は、蛍光強度(「a.u.」)と前方散乱(「FSC−A」)の2つのグラフを示した
図1に示している。
上側のグラフ(レンチウイルス−)は、トランスフェクトされていない細胞を示している。
下側のグラフ(レンチウイルス+)は、レンチウイルスパッケージングシステムからの3つのプラスミドを用いてトランスフェクトした細胞を示している。
【0073】
(実施例3)M−TB由来ペプチドにより刺激されたサイトカイン遺伝子発現の検出
PBMCは、非感染性の無症候性潜伏感染(LTBI)ドナーおよび活性のあるTBドナーから得られる。T細胞は、免疫優性マイコバクテリア性AgのRv3875(ESAT6)およびRv3874(CFP10)由来のT−SPOT.TB IFNγ放出アッセイ(IGRA)(Oxford Immunotec、マサチューセッツ州マールボロ)内で用いられるペプチド混合物を、製造元の指示にしたがって添加することによって活性化される。様々な時間(4〜120時間)で、刺激された細胞は固定および透過処理され、次いで、以下で説明する1つ以上のプローブセットを用いてハイブリダイズされる。標的を発現する細胞の頻度を求めるために、細胞は、プローブを標識するために用いられるフルオロフォアの間で区別する利用可能なフィルターセットを個々におよび組み合わせて用いて、FCにより解析される。
【0074】
TNFαに対するプローブセットは、実施例1において指定したプローブセットである。2つの付加的なプローブセットが、1つはIL−2のために、1つはIFNγのために調製され、それぞれ50のプローブを有する(Ensembl配列IDは、それぞれENST00000226730およびENST00000229135)。3つのセットすべてのプローブは、直鎖状(ランダムコイル)のオリゴヌクレオチド(15〜25ヌクレオチド長)で、単一のフルオロフォアで標識されている。3つのセットに用いられる3つのフルオロフォアは、光学的に区別可能である。これら3つのサイトカイン遺伝子は、T細胞サブタイプを区別するT細胞の活性化および増殖のための既知のマーカーである。標的転写物は十分に長く、それぞれ少なくとも50のプローブの使用が可能になる。
【0075】
ごく一部(≦0.01%)の細胞内でマーカーの発現をFCにより検出するため、1×10
6の現象の結果が収集される。ドナーグループ間の差における統計学的有意性を判定するため、非応答性細胞を応答性細胞から分ける閾値はROC分析によって求められ(例えばZweig et al.,1993,Clinical Chemistry 39(8):561−577およびPepe,2003,The statistical evaluation of medical tests for classification and prediction.New York,NY:Oxfordを参照)、陽性細胞の頻度が判定される。混合モデルANOVAを用いてデータを解析することができる。データは解析に先立ち変換される(例えば対数変換)。ANOVAの仮説を扱うのに単純な変換では不十分な場合は、統計学的手法のノンパラメトリックアナログが適用される。
【0076】
3つのマーカーすべてに関する発現の検出可能な頻度が活性化細胞内で明らかになっている。マーカーの異なる組み合わせを発現する細胞の頻度は疾患のサインである。
【0077】
(実施例4)結核菌特異的エフェクターT細胞向けアッセイ
この実施例では、結核菌特異的なエフェクターT細胞を検出するためのアッセイについて説明する。
【0078】
a.CD8+Tエフェクターの検出 TB患者は、対立遺伝子特異的なmAb BB7.2および0222を用いて免疫染色されたPBMCのFC検出により、またはPCR確認によりHLA分類される。HLA−A
*0201ベースのaAPCは、Rv1886c、Rv3874、およびRv3875由来の個々の既知のHLA−A
*0201エピトープ(ペプチド)を負荷している。
【0079】
これらのペプチドは、結核菌の免疫優性Ag由来である。PBMCは、HLA−A2に分類されたTB患者から単離され、また、A2ベースのAg負荷aAPCを1:1の比率で用い、標準的な培養条件下で刺激される。あるいは、単離されたPBMCは、内在性APCによるT細胞刺激のために、添加されたペプチドと共にインキュベートされる。4〜120時間の様々な時間で、細胞は固定および透過処理され、IL−2、IFNγ、およびTNFαについて特異的プローブと共にインキュベートされる。陰性対照には、上記のAg負荷aAPCで刺激された健康で非感染の(IGRA陰性)ドナーからのPBMC、ならびに無関係なメラノーマ特異的Mart1ペプチド(26〜35エピトープ)および分化Ag gp100ペプチド(44〜59エピトープ)を負荷したaAPCで刺激された陽性ドナーからのPBMCが含まれる。陽性対照には抗CD3 mAb+PHAで非特異的に刺激されたPBMCが含まれる。
【0080】
b.CD4+Tエフェクターの検出 まず、HLA−A
*0201ベースのaAPCを構築するための上述の手法を用いて、HLA−DRB1
*04ベースのaAPCが作成される。この手法の主要な態様は、生合成の間にクラスIIaおよびbのポリペプチドの対形成を必要とする、HLA−DR4分子の可溶型の発現である。MHCクラスII分子の可溶な類似体のサブユニット対形成を容易にするために、IgG分子が分子足場として用いられるが、これは二価であり、多種多様なタンパク質ドメインに適応するように容易に改変することができる。改変したa鎖およびb鎖は、デュアルプロモーターのバキュロウイルス発現ベクター内でクローン化される。このベクターに感染した細胞は、約0.5〜2.0mg/mlの可溶なHLA−DR4−Ig様物質を分泌する。一般的なクローニングベクターpZigを用いて可溶なMHCクラスIIのHLA−DR4−Ig複合体を構築するため、DR4タンパク質のα鎖およびβ鎖のクラスII細胞外ドメインをコードするDNAは、エンドヌクレアーゼ制限部位を用いてIgの重鎖および軽鎖をコードするDNAに連結される。また、キメラは、改変したpAcUW51ベクターに順次連結される。分泌されるタンパク質の収量、純度および完全性は、HLA−DR4特異的なmAb 0222HA(One Lambda)を用いた生化学的解析(SDS−PAGEおよびウエスタンブロット法)により確認される。精製された可溶なHLA−DR4−Igタンパク質および抗CD28 mAb(1:1の比率)は、磁気ビーズ(M−450 Epoxy Dynabeads、Dynal Invitrogen)に結合される。
【0081】
Rv1886c、Rv3874、およびRv3875由来で、かつHLA−DRB1
*04対立遺伝子によって制限される既知のペプチド(表1)は、HLA−DR4ベースのaAPC上に負荷され、非感染、LTBIおよび活性TBのドナー由来のPBMCを刺激するために用いられる。あるいは、単離されたPBMCは、内在性APCによるT細胞刺激のために、加えられたペプチドを用いてインキュベートされる。4〜72時間の様々な時間の刺激の後、細胞は、IL−2、IFNγ、およびTNFα mRNAについてプローブ検査を行い、FCにより解析される。陰性および陽性対照は、CD8+T細胞について上記で説明した通りである。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例3に記載されている統計解析の方法がこれらの結果に適用される。この実施例における複数の刺激アプローチも、比較のために混合モデルANOVAを必要とする。
【0084】
前述の試験では、対立遺伝子特異的なHLAクラスI拘束性またはクラスII拘束性ペプチドを用いた刺激に基づいて、TB患者の血液中のCD4+およびCD8+エフェクターT細胞の両方を検出することができる。Rv1886c、Rv3874、およびRv3875のAgを認識し、かつ少なくとも単一のサイトカイン、IFNγまたはTNFαを産生することができる活性化エフェクターT細胞は、容易に検出可能である。2つのサイトカイン(IL−2+IFNγ+およびIL−2+TNFα+)の同時産生は、活性TB患者の血液中においてエフェクターの大部分を占める最終分化したT細胞内では頻度が低い。
【0085】
(実施例5)感染段階特異的Agによって誘発される単一のT細胞サイトカインプロファイル
活性TB、LTBI、および非感染のドナーからのPBMCは、Rv1886c(活性のあるTB段階)ならびにRv1986、Rv2659c、およびRv3407(LTBI段階)由来のペプチド混合物を負荷したHLA−A2ベースおよびHLA−DR4ベースのaAPCを用いて、様々な時間(4〜120時間)で刺激される。あるいは、単離されたPBMCは、内在性APCによるT細胞刺激のために加えられたペプチドを用いてインキュベートされる。読み取り値は、3つのセットの約50の単独標識蛍光プローブおよび発現細胞の数のFC検出を用いた、IL−2、IFNγ、およびTNFαの発現である。疾患状態を区別する可能性のあるAg候補を識別するために、一元配置ANOVAを用い、カットオフ値として大きなp値(p=0.25)を用いた。選択したAgを用い、多重または累積ロジスティック回帰などのロジスティック回帰の一般化を利用して、ドナーグループを区別する応答のモデルを構築する。
【0086】
Rv1886cを用いた刺激は、特徴的な感染段階に関連するT細胞サイトカインプロファイルをもたらす:TB患者では単一、二重、および三重の産生株、LTBI患者では大部分がIL−2産生株である。
【0087】
(実施例6)単一のT細胞内における感染段階に関連する機能性エフェクターおよびメモリーサインの識別
TCR活性化によって誘導可能な機能性マーカーは、主たる機能性T細胞サブセットを正確に記述できるように、本発明の方法によって測定することができる。このアッセイのために、TCRの会合後、4〜6時間以内に誘導可能な候補マーカー、および/または成熟段階および既知のT細胞サブセットの機能を反映する遺伝子を選定した。エフェクター、エフェクターメモリー、およびセントラルメモリーT細胞内で発現する活性化および機能性マーカーの得られるパネル(表2)は、これらの考慮すべき事項を満たす。表2のデータは、Mak TW,Saunders ME,editors.New York:Elsevier;2006.p.373−401のZinkernagel RM.T cell activation、およびMak TW,Saunders ME,editors.New York:Elsevier;2006.p.403−432のDoherty P.T cell differentiation and effector function、ならびにこれらの参考文献からまとめたものであった。
【0088】
【表2】
【0089】
TCRを介した刺激およびCD28を介した共刺激を与えるための(実施例3または4に記載の)ペプチドを負荷したaAPCの使用、あるいは、内在性APCによる刺激のための(実施例3または4に記載の)ペプチドを組み合わせた抗CD28 mAbの使用は、重要なケモカインおよびサイトカイン(MIP−1α、IFNγ、およびTNFαを含むがこれらに限定されない)ならびに他の共刺激分子(CD40L、CD137を含むがこれらに限定されない)の発現を迅速に増加させ、それがさらに応答性を高める。ポジティブフィードバックは、検出に用いられる時間枠内で応答を増大させ、また多重パラメータの解析におけるFCの結果の感度を高める。選択したマーカーの組み合わせは、ドナーグループの末梢血中での個々のエフェクター細胞およびメモリー細胞の再現性のある識別および特徴付け、ならびにそれらの定量分析が可能になるように選ばれる。これらのマーカーは、T細胞機能性サインとして役目を果たす。識別されるサインが臨床の場で汎用される機器を用いた解析に適するように、4色のFCが用いられる。
【0090】
高いドナー再現性が、ESAT6とCFP10のペプチドの市販の混合物、およびHLA−A2ベースまたはHLA−DR4ベースのaAPCで刺激されたPBMCを用いて得られたデータで明らかになっている。このペプチド混合物を用いて得られたデータは、内在性APCに基づく従来のIGRAを用いた場合に非常に正確である。aAPCによってもたらされる頑強な刺激は、標準的なサイトカイン標的に関して上述の通り、複数の標的の誘導にも適用される。複数のマーカーを発現させる細胞も、従来のAPC刺激の場合よりも高い頻度で検出される。この実施例の方法により、感染(この場合、TB感染)の様々な段階で存在する特異なT細胞のサインとして役目を果たすマーカーセットの識別が可能になる。
【0091】
(実施例7)刺激したPBMC中の2つのサイトカインmRNAの同時検出
この実施例は、蛍光細胞の非常に小さな集団の検出が可能であることを示している。簡潔には、CFSE標識PMBCをMITOTRACKER(Invitrogen)標識PBMC中に連続的に希釈した。アッセイは0.0013%の頻度の前者を検出でき、十分な感度を実証するものであることが判明した。
【0092】
IL−2、IFNγ、およびTNFα mRNAの検出を実証するために、抗CD3 mAbおよびこれらの細胞内で様々なサイトカインの発現を誘導することが知られているPHAを用いて、TCRを介してPBMCを非特異的に刺激した。刺激後、細胞を固定して、IL−2とIFNγ、IL−2とTNFα、さらにIFNγとTNFαに対するプローブセットのペアの組み合わせを用いてプローブ検査した。各ペアのプローブセットの1つをCy5フルオロフォアで標識し、もう1つはTMRフルオロフォアで標識した。具体的には、PBMCを抗CD3 mAb OKT3およびPHA(いずれも1mg/ml)で5日間刺激し、次いで4%パラホルムアルデヒドおよび70%エタノールを用いて固定した。固定および洗浄した細胞を、IL−2およびIFNγに特異的なCy5標識またはTMR標識RNAプローブを用いてインキュベートすることにより標識し、再び洗浄して、2色のFC(LSRII,Becton Dickinson)により解析した。結果を
図2に示す。
図2の4つのプロットは、
左上、右上、左下、右下の順に、未染色/偽ハイブリダイズ対照;単一のサイトカイン、IFNγ−Cy5標識細胞;単一のサイトカイン、IFNγ−TMR標識細胞;および二重のサイトカイン(IL−2、Cy5標識およびIFNγ、TMR標識)標識細胞である。ゲーティングは、1つまたは2つのサイトカインを発現させる細胞集団およびそれらの頻度を示している。
【0093】
(実施例8)ex vivoで刺激された結核菌特異的な細胞内におけるサイトカインmRNAの検出
この実施例において、ex vivoで刺激された結核菌特異的な細胞を検出するために本発明に記載の方法を適用した。循環している結核菌特異的な細胞は、通常、潜伏TB感染(LTBI)の個人に低頻度で存在する。LTBIドナーからの血液を得て、結核菌Ag ESAT6およびCFP10(T−SPOT.TB試験で一般に用いられる)由来のペプチドの混合物を用いて5時間刺激した。PBMCを、培地のみで、または5μg/mlのESAT6由来およびCFP10由来ペプチドの混合物(T−SPOT.TB、Oxford Immunotec、英国)と共に5時間インキュベートした。固定および洗浄した細胞を、陰性対照としてGFPに特異的な、またはIL−2およびTNFαに特異的なRNAと相補的なCy5標識DNAプローブを用いてインキュベートし、次いでFCにより解析した。サイトカイン産生株の頻度を
図3に示す。ここで、上段の3つのプロットは、培地のみでインキュベートしたPBMCの頻度、下段の3つのプロットは、Ag混合物を含む培地でインキュベートしたPBMCの頻度である。
【0094】
(実施例9)LTBIドナーの共刺激されたPBMCにおけるIFNγ検出
PBMCを、ESAT6由来およびCFP10由来ペプチドの混合物(T−SPOT.TB、Oxford Immunotec、英国)を5μg/mlで用い、抗CD28 mAb 53D10存在下または非存在下で5時間インキュベートした。固定および洗浄した細胞を、GFP mRNA(GFP、陰性対照)(GFP配列はpTREd2EGFP(Invitrogen)を指す)、またはIFNγ mRNAに特異的なCy5標識DNAプローブを用いてインキュベートし、次いでFCにより解析した。サイトカイン産生株の頻度を
図4に示す。対照GFPの非特異的な染色は、CD28共刺激によって影響されなかった。
【0095】
(実施例10)活性化マクロファージにおけるサイトカイン誘導
この実施例は、非T細胞、この場合はプラスチックへの密着により末梢血から得て標準的な条件(10%ウシ胎児血清および抗生物質を補充したRPMI 1640培地)下で2週間培養したヒトマクロファージの人工刺激の使用を説明するものである。
【0096】
簡潔には、活性化は、リポ多糖(LPS)(100ng/ml)およびIFNγ(20ng/ml)またはN−パルミトイル−S−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)−プロピル]−(R)−システイニル−(リシル)3−リシン(Pam
3CSK
4)(100ng/ml)の混合物を4時間または1日間用いて実施した。刺激された初代マクロファージを0.2〜0.3%EDTA含有PBS中でプラスチックから取り除き、実施例7に記載されている通り、固定および透過処理し、次いでIFNγおよびTNFα mRNAに特異的なFISHプローブ(表3)を用いてインキュベートし、フローサイトメトリーにより解析した。実施例8に記載の通り、固定および洗浄した細胞を、GFPに特異的なRNAと相補的なCy5標識DNAプローブ(表3)を用いてインキュベートし、陰性対照としてFCにより解析した。上述(例えば実施例2に記載)のFISH−flow解析によりプローブを用いて検出された細胞の頻度を
図5に示しており、図中、上段はGFPプローブを用いた結果、中段はIFNγプローブ、下段はTNFαプローブの結果である。各段の1列目はLPSおよびIFNγを4時間用いた刺激、2列目はLPSおよびIFNγを1日間用いた刺激、3列目はPam
3CSK
4を4時間用いた刺激、4列目はPam
3CSK
4を1日間用いた刺激である。
【0097】
(実施例11)活性化T細胞内におけるサイトカインおよび活性化マーカーの発現動態
この実施例では、フィコール勾配により末梢血から得たヒトT細胞の、PMA(25ng/ml)およびイオノマイシン(350ng/ml)を用いた刺激に応答した、T細胞活性化のマーカーであるサイトカイン、ケモカイン、およびケモカイン受容体に関する遺伝子発現の経時的なプロファイルの識別を実証している。さらに具体的には、様々な時間(2時間、1日、3日)の刺激後、細胞を実施例7に記載されている通り固定および透過処理し、次いで、記載したmRNAに特異的なFISHプローブ(表3)またはそれらのタンパク質産物を認識するmAbを用いてインキュベートし、続いてフローサイトメトリー解析を行った。上述(例えば、実施例2に記載)のFISH−flow解析によりプローブを用いて検出された細胞の頻度を
図6Aに示しており、図中、上段は刺激なしの結果、それに続く段はそれぞれ、2時間、1日間、3日間の刺激後の結果である。各段の1列目はGFPプローブ使用;2列目はIL−2プローブ使用;3列目はIFNγプローブ使用;4列目はTNFαプローブ使用;5列目はCCL3プローブ使用;6列目はCCR7プローブ使用;最後の列はcFosプローブ使用の結果である。上段はGFPプローブ、中段はIFNγプローブ、下段はTNFαプローブの結果である。FCによりmAbを用いて検出された細胞の頻度を
図6Bに示しており、図中、上段は刺激なしの結果、それに続く段はそれぞれ、2時間、1日間、3日間の刺激後の結果である。各段の1列目は、陰性対照のアイソタイプマッチ(Iso)mAb使用;2列目はIL−2を認識するmAb使用;3列目はIFNγを認識するmAb使用;4列目はTNFαを認識するmAb使用の結果である。
【0098】
(実施例12)サイトカイン発現および非発現集団への活性化FISHプローブされたT細胞の分離および解析
この実施例では、上記のFISH−Flowにより刺激に応答して1つまたは複数の標的を発現する細胞の標識が可能になること、およびこのような応答物はその遺伝子発現プロファイルを調べる目的で細胞集団全体から分離できることが実証されている。
【0099】
パートI:集団への分離
フィコール勾配により末梢血から得られ、かつPMA(25ng/ml)およびイオノマイシン(350ng/ml)を用いて全体的に2時間刺激したヒトT細胞は、GFPに特異的なRNAに相補的なCy5標識DNAプローブを用いてインキュベートして、対照としてFCにより解析するか、または、IL−2、IFNγ、TNFα、およびCCL3 mRNAに対して反応性を有しCy5単独で標識されている、いくつかのFISHプローブセットの混合物(表3)を用いてインキュベートした。上述の、例えば実施例2に記載のFISH−Flow解析によりプローブを用いて検出された細胞の頻度を
図7Aおよび
図7Bに示している。GFPプローブを用いて得られた結果を
図7Aに示す。プローブ混合物を用いて得られた結果を
図7Bに示す。FSCおよびSSCに基づくリンパ球集団のゲーティング(各図の左枠)の後、保守的な追加ゲーティングを適用して、解析したリンパ球を2つの特異な集団(各図の右枠)−サイトカイン陽性(IFN+と表す)および陰性(IFN−と表す)に分けた。GFPプローブされた細胞(
図7A)のゲーティング設定により2つの集団が定義され、解析したリンパ球すべてのうち、0.1%がIFN+、71.2%がIFN−であった。IL−2:IFNγ:TNFα:CCL3プローブされた(
図7B)集団では、同じゲーティングを用いて、10.2%がIFN+、33.7%がIFN−であった。後者のFISHプローブされた細胞(
図7B)は、以下で説明する単離したサイトカイン発現および非発現細胞に対して遺伝子発現解析を実施するために、FACSにより陽性および陰性の集団に分けた。この手法は、IFN+およびIFN−分集団に区別および分取された、IFNγ特異的なFISHプローブのみで標識された刺激されたT細胞に対しても成功するものであった。
【0100】
パートII:FISHプローブされ、活性化および非応答T細胞集団に分取されたT細胞のサイトカイン遺伝子発現解析
調製およびパートIに記載の別々の集団に分取した活性化および非応答T細胞を解析し、特異的なFISHプローブに対するそれらの反応性と一致する特異な遺伝子発現プロファイルを示した。IFNγと「ハウスキーピング」GAPDH(対照)の2つの遺伝子によってコードされたmRNAの発現を選び、この目標の実現可能性を例証した。標準的な方法により分取した細胞集団から単離したRNAについて、QIAGEN OneStep RT−PCR Kitを用いて、供給業者によって記述されたプロトコルに従い、また、2つの遺伝子のうちの1つに特異的なプライマーを用いてRT−PCR(逆転写と、それに続く、得られるcDNAのポリメラーゼ連鎖反応による増幅)を行った。増幅反応のプライマー配列は、以下の通りであった。
【0101】
IFNγフォワードプライマー:5’ GAGCATCCAAAAGAGTGTGGAG(配列ID番号:36)
IFNγリバースプライマー:5’ TTCATGTATTGCTTTGCGTTGG(配列ID番号:37)
GAPDHフォワードプライマー:5’ CCAATATGATTCCACCCATGGC(配列ID番号:38)
GAPDHリバースプライマー:5’ TCCTGGAAGATGGTGATGGGAT(配列ID番号:39)
RTインキュベーションおよび94℃、15分間の初期変性に続いて、サーマルサイクリングステップは、94℃で0.5分、55℃で0.5分、72℃で1分であった。40サイクル実施した。増幅産物は、SYBR GREEN色素により検出した。増幅反応の閾値サイクルを
図8Aに示す。増幅結果を検証し、人工産物の可能性を排除するために、確認された増幅産物のサイズを、IFNγ特異的およびGAPDH特異的プライマーを用いてゲル電気泳動により確認した。結果を
図8Bに示す。
【0102】
【表3-1】
【0103】
【表3-2】
【0104】
【表3-3】
【0105】
【表3-4】
【0106】
【表3-5】
【0107】
前述の実施例および好ましい実施形態の説明は、特許請求の範囲により定義される本発明を限定するものではなく、例示するものであると見なされるべきである。容易に理解されるように、特許請求の範囲に記載の本発明から逸脱することなく、上に記載の特徴の多数の変形形態および組み合わせを利用することができる。このような変形形態は、本発明の範囲からの逸脱とは見なされず、このような変形形態はすべて、以下の特許請求の範囲内に含まれるものである。本明細書において引用したすべての参考文献は、その全体が本明細書に組み込まれる。