【実施例】
【0052】
以下に製造例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(製造例1:ポリロタキサン−1の製造)
線状分子として、プルロニックP123(シグマ−アルドリッチ社製;ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と称することがある。)とポリプロピレングリコール(以下、「PPG」と称することがある。)とが、PEG−PPG−PEGの順に重合した共重合体;PPG部分の数平均分子量は、4,200、PEG部分の数平均分子量は、1,100×2)を用い、以下のようにして、両末端にシスタミンを結合した。
前記プルロニックP123を20g、1,1’−カルボニルジイミダゾール(シグマ−アルドリッチ社製)を10.2g量り取り、ナス型フラスコへ加えた。テトラヒドロフラン(関東化学社製)を267mL加え溶解し、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、テトラヒドロフランに対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端にカルボニルイミダゾールを有するプルロニックP123(以下、「P123−CI」と称することがある。)を20g得た。
前記P123−CIを9g量り取り、N,N−ジメチルホルムアミドを8mLに溶解した。脱塩したシスタミン(和光純薬社製)を2g量り取りナス型フラスコへ加え、N,N−ジメチルホルムアミドを72mL加え溶解した。P123―CI溶液をナス型フラスコへ滴下して加え、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜へ加え、メタノール(関東化学社製)に対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端にシスタミンを有するプルロニックP123(以下、「P123−SS−NH
2」と称することがある。)を4.95g得た。
【0054】
前記P123−SS−NH
2と、β−シクロデキストリン(以下、「β−CD」と称することがある。)を用い、以下のようにして、擬ポリロタキサンを調製した。
前記β−CDを12g量り取り広口瓶に加え、リン酸緩衝溶液600mLに溶解した。前記P123−SS−NH
2を1g量り取り少量の超純水に溶解した。P123−SS−NH
2水溶液をβ−CD溶液に加え、室温で24時間撹拌した。反応後、得られた沈殿物を遠心分離により回収した。回収した固体を凍結乾燥することで擬ポリロタキサンを得た。
【0055】
前記擬ポリロタキサンの両端部を、以下のようにしてN−トリチルグリシン(シグマ−アルドリッチ社製)でキャッピングすることにより、複数のβ−CDを貫通させた線状分子の両端部に細胞内で分解されるジスルフィド結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサン(以下、「PRX」と称することがある。)を得た。
N−トリチルグリシンを1.64g、4−(4,6−dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)−4−methylmorpholinium chloride hydrate(和光純薬社製)を1.63g量り取りスクリュー管に加え、N,N−ジメチルホルムアミド 11.2mL、メタノール 44.8mLの混合溶媒に溶解した。得られた擬ポリロタキサンに対し、この溶液を加え、室温で24時間撹拌した。反応後、得られた沈殿物を遠心分離により回収した。メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、超純水の順で得られた沈殿物を洗浄し、未反応物を除去した。回収した固体を凍結乾燥することで末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンを697.2mg得た。
【0056】
前記ポリロタキサンのβ−CDにヒドロキシエチル(以下、「HE」)基を以下のようにして導入し、水溶性のポリロタキサン−1(以下、「HE−SS−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの平均貫通数は12.9個;HE基の修飾数は平均53.4個。)。
前記末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンを250mg量り取り、ジメチルスルホキシド10mLに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを235mg加え、室温で24時間撹拌した。その後、反応溶液に2−アミノエタノールを439μL加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し透析をすることで未反応物を除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでヒドロキシエチル基を導入した、末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサン(HE−SS−PRX)を231.5mg得た。
【0057】
前記HE−SS−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図1に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、HE−SS−PRXが下記構造式(1)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(1)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(1)では、括弧内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(1)中、β−CDは下記式(A)で表され、該構造式(1)中では1個のみ記載している。また、下記式(A)では、前記ヒドロキシエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化9】
【化10】
【0058】
(製造例2:ポリロタキサン−2の製造)
線状分子として、前記プルロニックP123を用い、以下のようにして、両末端にアセタール結合を形成させた。
製造例1と同様に合成したP123−CIを8.14g量り取り、N,N−ジメチルホルムアミドを10mLに溶解した。3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンを6.81g量り取りナス型フラスコへ加え、N,N−ジメチルホルムアミドを100mL加え溶解した。P123―CI溶液をナス型フラスコへ滴下して加え、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜へ加え、メタノールに対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端に環状アセタール結合を有するP123(以下、「P123−ace−NH
2」と称することがある。)を7.0g得た。
【0059】
前記P123−ace−NH
2を用いた以外は、製造例1と同様にして、擬ポリロタキサンを調製した。
前記擬ポリロタキサンの両端部を、製造例1と同様にしてN−トリチルグリシンでキャッピングすることにより、複数のβ−CDを貫通させた線状分子の両端部に細胞内で分解されるアセタール結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンを得た。
前記ポリロタキサンのβ−CDに、製造例1と同様にしてHE基を導入し、水溶性のポリロタキサン−2(以下、「HE−ace−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの貫通数は平均12.9個、HE基の修飾数は平均66.9個。)。
【0060】
前記HE−ace−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図2に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、HE−ace−PRXが下記構造式(2)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(2)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(2)では、括弧内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(2)中、β−CDは前記式(A)で表され、該構造式(2)中では1個のみ記載している。また、前記式(A)では、前記ヒドロキシエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化11】
【0061】
(比較製造例1:ポリロタキサン−3の製造)
線状分子として、前記プルロニックP123を用い、以下のようにして、細胞内分解性結合を有さない線状分子を調製した。
製造例1と同様に合成したP123−CIを9g量り取り、N,N−ジメチルホルムアミドを8mL加え溶解した。エチレンジアミン(和光純薬社製)を1.65g量り取りナス型フラスコへ加え、N,N−ジメチルホルムアミドを80mL加え溶解した。P123―CI溶液をナス型フラスコへ滴下して加え、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜へ加え、メタノールに対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端に一級アミノ基を有するP123(以下、「P123−NH
2」と称することがある。)を5.85g得た。
【0062】
前記P123−NH
2を用いた以外は、製造例1と同様にして、擬ポリロタキサンを調製した。
前記擬ポリロタキサンの両端部を、製造例1と同様にしてN−トリチルグリシンでキャッピングすることにより、複数のβ−CDを貫通させた細胞内分解性結合を有さない線状分子の両端部に嵩高い置換基を有するポリロタキサンを得た。
前記ポリロタキサンのβ−CDに、製造例1と同様にしてHE基を導入し、水溶性のポリロタキサン−3(以下、「HE−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの貫通数は平均11.3個、HE基の修飾数は平均65.3個。)。
【0063】
前記HE−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図3に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、HE−PRXが下記構造式(3)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(3)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(3)では、カッコ内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(3)中、β−CDは前記式(A)で表され、該構造式(3)中では1個のみ記載している。また、前記式(A)では、前記ヒドロキシエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化12】
【0064】
(製造例3:ポリロタキサン−4の製造)
線状分子として、前記プルロニックP123を用い、以下のようにして、両末端にエステル結合を形成させた。
前記プルロニックP123を10gナス型フラスコに量り取り、テトラヒドロフランを133mL加え溶解した。前記溶液にトリエチルアミン(和光純薬社製)を3.3mL加えた。その後、氷冷下で塩化アクリロイル(和光純薬社製)を1.28mL加え、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜へ加え、メタノールに対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端にアクリロイル基を有するプルロニックP123を6.12g得た。
前記両末端にアクリロイル基を有するプルロニックP123を5.0g、システアミン塩酸塩を1.2gナス型フラスコに量り取り、N,N−ジメチルホルムアミドを40mL加え溶解し、室温で24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜へ加え、メタノールに対し透析をすることで未反応物を除去した。ロータリーエバポレーターで濃縮することで両末端にエステル結合を介して一級アミノ基を有するプルロニックP123(以下、「P123−COO−NH
2」と称することがある。)を2.54g得た。
【0065】
前記P123−COO−NH
2を用いた以外は、製造例1と同様にして、擬ポリロタキサンを調製した。
前記擬ポリロタキサンの両端部を、製造例1と同様にしてN−トリチルグリシンでキャッピングすることにより、複数のβ−CDを貫通させた線状分子の両端部に細胞内で分解されるエステル結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンを得た。
前記ポリロタキサンのβ−CDに、製造例1と同様にしてHE基を導入し、水溶性のポリロタキサン−2(以下、「HE−COO−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの貫通数は平均11.7個、HE基の修飾数は平均65.9個。)。
【0066】
前記HE−COO−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図4に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、HE−COO−PRXが下記構造式(4)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(4)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(4)では、括弧内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(4)中、β−CDは前記式(A)で表され、該構造式(4)中では1個のみ記載している。また、前記式(A)では、前記ヒドロキシエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化13】
【0067】
(製造例4:ポリロタキサン−5の製造)
製造例1と同様にして調製した、末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンのβ−CDにN,N−ジメチルアミノエチル(以下、「DMAE」)基を以下のようにして導入し、水溶性のポリロタキサン−5(以下、「DMAE−SS−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの平均貫通数は12.9個;DMAE基の修飾数は平均65.3個。)。
前記末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンを125mg量り取り、ジメチルスルホキシド5mLに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを117mg加え、室温で24時間撹拌した。その後、反応溶液にN,N−ジメチルアミノエチルアミン(和光純薬社製)を237μL加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し透析をすることで未反応物を除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでN,N−ジメチルアミノエチル基を導入した、末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサン(DMAE−SS−PRX)を104.7mg得た。
【0068】
前記DMAE−SS−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図5に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、DMAE−SS−PRXが下記構造式(5)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(5)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(5)では、括弧内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(5)中、β−CDは下記式(B)で表され、該構造式(5)中では1個のみ記載している。また、下記式(B)では、前記N,N−ジメチルアミノエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化14】
【化15】
【0069】
(製造例5:ポリロタキサン−6の製造)
製造例1と同様にして調製した、末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンのβ−CDにヒドロキシエトキシエチル(以下、「HEE」)基を以下のようにして導入し、水溶性のポリロタキサン−6(以下、「HEE−SS−PRX」と称することがある。)を得た(ポリロタキサン1分子あたりのβ−CDの平均貫通数は16.1個;HEE基の修飾数は平均64.7個。)。
前記末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサンを200mg量り取り、ジメチルスルホキシド15mLに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを203mg加え、室温で24時間撹拌した。その後、反応溶液に2−(2−アミノエトキシ)エタノール(東京化成工業社製)を624μL加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し透析をすることで未反応物を除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでヒドロキシエトキシエチル基を導入した、末端にジスルフィド結合を有するポリロタキサン(HEE−SS−PRX)を237.6mg得た。
【0070】
前記HEE−SS−PRXについて、重ジメチルスルホキシド(シグマ−アルドリッチ社製)中で測定した、500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルのチャートを
図6に示す。
前記プロトン核磁気共鳴スペクトルから、HEE−SS−PRXが下記構造式(6)で表される構造を有することが確認された。なお、下記構造式(6)中、「m」はポリプロピレングリコールの繰返し単位の数を示し(構造式(6)では、括弧内にポリプロピレングリコールの繰返し単位を3つ記載しているため、「m/3」と記載している)、「n」はポリエチレングリコールの繰返し単位の数を示す。また、下記構造式(6)中、β−CDは下記式(C)で表され、該構造式(6)中では1個のみ記載している。また、下記式(C)では、前記ヒドロキシエトキシエチル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。
【化16】
【化17】
【0071】
(試験例1:溶血試験)
リン酸緩衝食塩水(以下、「PBS」と称することがある。)200μL中で、ラット赤血球(興人バイオより入手、細胞数1×10
8個)と各濃度(シクロデキストリンの濃度として)の以下の試料とを37℃で2時間接触させた。遠心分離により赤血球を沈殿させ、上清を100μL回収し、96ウエルプレート(BDファルコン社製)に加えた。上清の544nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーARVO−MX(パーキンエルマー社製)で測定した。0.1% Triton X−100(ナカライテスク社製)と接触した際の上清の吸光度を溶血率100%として、以下のようにして溶血率(%)を算出した。結果を
図7に示す。
<試料>
(1) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
(2) HE−ace−PRX(製造例2で作製)
(3) HE−PRX(比較製造例1で作製)
(4) ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(以下、「HP−β−CD」と称することがある。;下記構造式(7)で表される化合物;シグマ−アルドリッチ社製;製品番号332607;構造式(7)では、前記ヒドロキシプロピル基の修飾がx個(x=1〜7)の場合を示している。)
【化18】
(5) 2,6−ジメチル−β−シクロデキストリン(以下、「DM−β−CD」と称することがある。;下記構造式(8)で表される化合物;シグマ−アルドリッチ社製;製品番号H0513)
【化19】
<溶血率の算出方法>
溶血率(%)={(試料と接触した際の上清の吸光度)/(0.1% Triton X−100と接触した際の上清の吸光度)}×100
【0072】
図7中、「●」は「DM−β−CD」の結果を示し、「■」は「HP−β−CD」の結果を示し、「△」は「HE−PRX」の結果を示し、「◇」は「HE−ace−PRX」の結果を示し、「▽」は「HE−SS−PRX」の結果を示す。
図7の結果から、シクロデキストリンであるHP−β−CD、及びDM−β−CDは溶血を示したのに対し、ポリロタキサンであるHE−PRX、HE−SS−PRX、及びHE−ace−PRXはいずれもシクロデキストリン濃度換算で20mMの高濃度でも溶血を示さないことが明らかとなった。
これは、ポリロタキサンでは、シクロデキストリンの空洞部をポリマー鎖が占めているため、疎水性空洞部に由来した膜障害性を示さないと推測される。
この結果から、ポリロタキサンは、溶血の観点から、シクロデキストリンよりも安全であると考えられる。
【0073】
(試験例2:コレステロールの集積)
健常者由来皮膚繊維芽細胞(以下、「NHDF」」、又は「NHDF細胞」と称する。Coriell Instituteより入手;番号GM05659)、ニーマン・ピック病C型患者由来皮膚繊維芽細胞(以下、「NPC1」、又は「NPC1細胞」と称する。Coriell Instituteより入手;番号GM03123)を用い、以下のようにして細胞内のコレステロールの集積を調べた。
前記NPC1を24ウエルプレートに播種し(細胞数:2.5×10
4個/ウエル)、37℃で24時間培養後、下記試料をシクロデキストリン濃度に換算して100μM添加し、さらに37℃で24時間培養した。
前記培養後、4% パラホルムアルデヒド溶液で細胞を固定し、100μg/mLに調製したフィリピン(Polysciences社製)のPBS溶液を加え45分間室温で静置した。PBSで3回洗浄した後、共焦点レーザー走査顕微鏡FluoView FV10i(オリンパス社製)でコレステロールの局在を観察した。また、細胞内のコレステロールの集積量の定量を行った。
前記細胞内のコレステロールの集積量の定量は、以下のようにして行った。
細胞溶解液を用い、前記培養後の細胞を溶解させた細胞溶解液を調製し、Amplex Red Cholesterol Assay Kit(インビトロジェン社製)でコレステロールの定量を行い、micro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で総タンパク質量を定量した。細胞内の総コレステロール量は、総コレステロール量(nmol)/総タンパク質量(mg)で表記した。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を投与しなかった場合、及び前記NPC1を用い、試料を投与しなかった場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
(2) HE−ace−PRX(製造例2で作製)
(3) HE−PRX(比較製造例1で作製)
(4) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
(5) DM−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
【0074】
共焦点顕微鏡による細胞内コレステロールの観察結果を
図8A〜
図8Gに示し、細胞内のコレステロールの集積量の定量結果を
図9に示す。
図8Aは、細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合の結果を示し、
図8Bは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合の結果を示し、
図8Cは、細胞としてNPC1を用い、試料としてDM−β−CDを添加した場合の結果を示し、
図8Dは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−SS−PRXを添加した場合の結果を示し、
図8Eは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−ace−PRXを添加した場合の結果を示し、
図8Fは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−PRXを添加した場合の結果を示し、
図8Gは、細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合の結果を示す。各画像において、白色で示された部分がコレステロールを表す。各試料の添加量はシクロデキストリン濃度換算で100μMである。
図9では、左側から順に、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合(試料未添加)」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合(HP−β−CD添加)」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてDM−β−CDを添加した場合(DM−β−CD添加)」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−SS−PRXを添加した場合(HE−SS−PRX添加)」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−ace−PRXを添加した場合(HE−ase−PRX添加)」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHE−PRXを添加した場合(HE−PRX添加)」、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合(試料未添加)」の結果を示す。各試料の添加量はシクロデキストリン濃度換算で100μMである。
【0075】
図8A〜
図8Gの結果から、前記NHDF細胞に比べ、前記NPC1細胞では多量のコレステロールが細胞内に沈着している様子が認められた。
前記NPC1細胞に対し、前記DM−β−CDを作用させると蛍光強度が減少し、コレステロールの排泄が促進されたと予想される。
一方、細胞内分解性結合を有するHE−SS−PRX、及びHE−ace−PRXで処理した場合には、前記NHDF細胞と同程度まで蛍光強度が減少し、前記DM−β−CD、及び現在臨床試験中の前記HP−β−CDよりも非常に優れたコレステロール除去作用が示された。
なお、細胞内分解性結合を有さないHE−PRXを用いた場合の蛍光強度は、細胞内分解性結合を有するHE−SS−PRX、及びHE−ace−PRXで処理した場合よりも高く、コレステロール除去作用が劣っていた。
【0076】
図9の結果から、現在臨床試験中のHP−β−CDは、本試験濃度ではコレステロールの除去率は僅かであったが、既存の試薬中で最もコレステロール包接能の高いDM−β−CDではHP−β−CDよりもコレステロールを除去できたことが明らかとなった。
一方、細胞内分解性結合を有するHE−ace−PRX、又はDMAE−ace−PRXで処理したNPC1細胞では、前記HP−β−CD、及びDM−β−CDよりもコレステロールを除去することができ、また、細胞内分解性結合を有さない前記HE−PRXよりもコレステロールが除去されており、非常に高い効果を示すことが明らかとなった。
【0077】
以上の結果から、細胞内分解性結合を有するHE−SS−PRX、及びHE−ace−PRXで処理したNPC1細胞ではコレステロールの蓄積が大幅に減少していることが明らかとなった。これは、細胞内でのジスルフィド結合、あるいはアセタール結合の切断によりシクロデキストリンが細胞内で放出されたことで、細胞内のコレステロールが除去されたためと考えられる。
したがって、複数の環状分子を貫通させた線状分子の両端部に細胞内分解性結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンは、低侵襲的かつ疾患細胞からのコレステロールの除去効果に優れ、ニーマン・ピック病C型を含むライソゾーム病の治療薬として用いうることが示された。
【0078】
(試験例3:細胞毒性の評価)
NPC1を用い、以下のようにしてポリロタキサン、シクロデキストリン誘導体の細胞毒性を調べた。
前記NPC1細胞を96ウエルプレートに播種し(細胞数:1×10
4個/ウエル)、10%ウシ胎児血清(Gibco社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(Gibco社製)中で、24時間、37℃で培養した。培地を90μLのダルベッコ改変イーグル培地に交換後、下記試料をシクロデキストリン濃度に換算して0.1mMから20mMの濃度範囲で10μLずつ各ウエルに添加し、さらに37℃で24時間培養した。その後、Cell Counting Kit−8(同仁堂社製)を10μLずつ各ウエルに添加し、さらに37℃で1時間静置した。
Multiskan FCプレートリーダー(ThermoFisher社製)を用いて450nmの吸光度を測定した。試料の代わりにリン酸緩衝溶液を添加した細胞の吸光度を細胞生存率100%として、以下のようにして細胞生存率(%)を算出した。結果を
図10に示す。
<試料>
(1) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
(2) HE−PRX(比較製造例1で作製)
(3) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
(4) DM−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
<細胞生存率の算出方法>
細胞生存率(%)={(試料を添加し、培養した細胞の吸光度)/(リン酸緩衝溶液を添加し、培養した細胞の吸光度)}×100
【0079】
図10中、「●」は「DM−β−CD」の結果を示し、「■」は「HP−β−CD」の結果を示し、「△」は「HE−PRX」の結果を示し、「▽」は「HE−SS−PRX」の結果を示す。
図10の結果から、シクロデキストリン誘導体であるHP−β−CD、及びDM−β−CDは細胞生存率の低下を示したのに対し、ポリロタキサンであるHE−PRX、及びHE−SS−PRXではいずれもシクロデキストリン濃度換算で20mMの高濃度でも細胞生存率の低下を示さないことが明らかとなった。
これは、ポリロタキサンでは、シクロデキストリンの空洞部をポリマー鎖が占めているため、細胞に対する膜障害性を示さないためであると推測される。
この結果から、ポリロタキサンは、細胞毒性の観点から、シクロデキストリンよりも安全であると考えられる。
【0080】
(試験例4:共焦点顕微鏡による局在観察)
<試料の調製>
NPC1と接触した際のポリロタキサン、シクロデキストリン誘導体の局在を明らかとするために、試料として用いるフルオレセインイソチオシアネートエチレンジアミン(FITC―EDA)で修飾したHE−SS−PRX(以下、「FITC標識HE−SS−PRX」と称する)、HP−β−CD(以下、「FITC標識HP−β−CD」と称する)を以下のようにして調製した。
【0081】
−FITC標識HE−SS−PRXの調製−
製造例1で調製したHE−SS−PRX 30mgを3mLのDMSOに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを4.83mg加え、室温で24時間撹拌した。FITC−EDA(既報に従い合成。参考文献:N. V. Nukolova et al. Biomaterials 32(23)、5417−5426(2011))を2.67mg加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し透析をすることで未反応のFITC−EDAを除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでFITC標識HE−SS−PRXを13.2mg得た。FITCの修飾数は紫外−可視分光光度計を用いて494nmの吸光度より算出し、ポリロタキサン中のβ−CD 一分子に対し、0.04分子のFITCが修飾されていることを確認した。
【0082】
−FITC標識HP−β−CDの調製−
HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製) 200mgを10mLのDMSOに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを66.6mg加え、室温で24時間撹拌した。FITC−EDAを61.6mg加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量1,000の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し10日間透析をすることで未反応のFITC−EDAを除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでFITCを修飾したHP−β−CD(FITC−HP−β−CD)を16.9mg得た。FITCの修飾数は上記と同様に行った。未修飾HP−β−CDとFITC−HP−β−CDを混合し、HP−β−CD 一分子に対するFITC修飾数が0.04分子となるよう調整した。
【0083】
<局在観察>
NPC1を35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI社製)に播種し(細胞数:1×10
4個/ディッシュ)、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地中で、24時間、37℃で培養した。培地を900μLのダルベッコ改変イーグル培地に交換後、シクロデキストリン濃度に換算して5mMに調整した前記試料を100μLずつ各ディッシュに添加し、さらに37℃で24時間培養した。
その後、リン酸緩衝溶液で細胞を2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液を1mL加え、室温で15分間静置し、細胞を固定した。
リン酸緩衝溶液で細胞を2回洗浄後、0.1%Triron X−100を1mL加え、室温で10分間静置し、細胞膜の透過処理を行った。
リン酸緩衝溶液で細胞を2回洗浄後、1% ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝溶液で希釈したマウスモノクローナル抗early endosome antigen 1(EEA1)抗体(BD Bioscience社製)、マウスモノクローナル抗CD63抗体(BioLegend社製)、マウスモノクローナル抗lysosomal−associated membrane protein 1(LAMP1)抗体(Santa Cruz社製)をそれぞれのディッシュに加え、室温で1時間静置した。
その後、リン酸緩衝溶液で3回洗浄し、1% ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝溶液で希釈したAlexa Fluor 647−conjugated goat anti−mouse IgG溶液を加え、室温で30分静置した。その後、リン酸緩衝溶液で3回洗浄した。
顕微鏡観察はFluoView FV10i(オリンパス社製)で行った。
【0084】
蛍光顕微鏡観察により、FITC標識HP−β−CD、FITC標識HE−PRXの局在位置を詳細に求めるため、初期エンドソーム、後期エンドソーム、及びリソソームをEEA1、CD63、及びLAMP1で免疫染色した結果を
図11A〜
図11Fに示す。
【0085】
また、FluoView Viewer(オリンパス社製)を用い、EEA1、CD63、又はLAMP1陽性小胞に対するFITC標識HP−β−CD、FITC標識HE−PRXの共局在率を
図11A〜
図11Fの画像より計算した結果を
図12に示す。前記計算は、細胞20個に対し、EEA1、CD63、又はLAMP1陽性小胞に対する共局在率を求め、平均値と標準誤差とを計算した。
【0086】
図11A〜
図12の結果から、FITC標識HP−β−CDは、初期エンドソーム(EEA1陽性小胞)、後期エンドソーム(CD63陽性小胞)、及びリソソーム(LAMP1陽性小胞)における局在は少なく、大部分は細胞膜近傍に局在している様子が観察された。これは、β−CDの空洞部が細胞膜中の脂質、コレステロールと相互作用するためであると予想される。この結果は、β−CDが細胞膜と強く相互作用し、膜障害性、溶血を示すといった上述の結果と一致する。
また、FITC標識HE−PRXは、後期エンドソーム(CD63陽性小胞)、又はリソソーム(LAMP1陽性小胞)に局在していた。ポリロタキサンは、エンドサイトーシスにより細胞内へと取り込まれ、後期エンドソーム、リソソームに到達したと考えられる。ポリロタキサンは、β−CDの空洞部が高分子鎖で占有されているため細胞膜との作用がなく、結果としてエンドサイトーシスにより細胞に取り込まれると予想される。
以上の結果より、FITC標識HP−β−CDとFITC標識HE−SS−PRXとでは、細胞に対する局在、作用箇所が大きく異なることが明らかとなった。
【0087】
(試験例5:コレステロール除去作用)
ポリロタキサン、シクロデキストリン誘導体によるNPC1からのコレステロール除去作用をより詳細に検討した。
NPC1を24ウエルプレート(BD Falcon社製)に播種し(細胞数:2.5×10
4個/ディッシュ)、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地中で、24時間、37℃で培養した。培地を270μLのダルベッコ改変イーグル培地に交換後、シクロデキストリン濃度に換算して0.01mM〜100mMに調整した下記試料を30μLずつ各ウエルに添加し、さらに37℃で24時間培養した。
その後、リン酸緩衝溶液で細胞を2回洗浄後、0.25%トリプシン−EDTA溶液(Gibco社製)を各ウエルに添加し細胞を剥離させた。細胞を1.5mLチューブに集め、リン酸緩衝溶液で2回洗浄した。その後、細胞溶解液(50mMリン酸緩衝溶液、500mM塩化ナトリウム、25mMコール酸、0.5%Triton X−100を含む)を各チューブに加え細胞を溶解した。
各細胞溶解液に対し、Amplex Red Cholesterol Assay Kit(インビトロジェン社製)により総コレステロールの定量を行い、またmicro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により総タンパク質量を定量した。細胞内の総コレステロール量は、総コレステロール量(nmol)/総タンパク質量(mg)で表記した。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を投与しなかった場合、及び前記NPC1を用い、試料を投与しなかった場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
(2) HE−PRX(比較製造例1で作製)
(3) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
(4) DM−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製)
【0088】
結果を
図13に示す。
図13中、「●」は「DM−β−CD」の結果を示し、「■」は「HP−β−CD」の結果を示し、「△」は「HE−PRX」の結果を示し、「▽」は「HE−SS−PRX」の結果を示す。
コレステロール蓄積量に対する用量反応曲線より半数効果濃度(ED50)を求めた結果、HP−β−CD、DM−β−CD、HE−SS−PRXのED50は、それぞれ2.59mM、0.23mM、0.024mMであった。
以上の結果より、細胞内分解性結合を有するHE−SS−PRXは既存のβ−CD誘導体と比較して10分の1から100分の1の濃度でNPC1からのコレステロール除去が可能であることが明らかとなった。また、非分解性のHE−PRXは、本実験濃度域では有意なコレステロール減少は示さなかった。
本結果は、細胞内におけるポリロタキサン中の分解性結合の切断と、それに伴うβ−CDの放出が低濃度でのコレステロール除去に結実したと考えられる。
【0089】
(試験例6:コレステロール除去作用)
試料として、下記試料を用いた以外は、試験例5と同様にして試験を行い、ポリロタキサン中の分解性結合の種類がNPC1からのコレステロール除去作用に与える影響を検討した。
<試料>
(1) HE−PRX(比較製造例1で作製)
(2) HE−ace−PRX(製造例2で作製)
(3) HE−COO−PRX(製造例3で作製)
(4) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
【0090】
結果を
図14に示す。
図14中、「△」は「HE−PRX」の結果を示し、「□」は「HE−ace−PRX」の結果を示し、「○」は「HE−COO−PRX」の結果を示し、「▽」は「HE−SS−PRX」の結果を示す。
コレステロール蓄積量に対する用量反応曲線よりED50を求めた結果、HE−ace−PRX、HE−COO−PRX、HE−SS−PRXのED50は、それぞれ0.13mM、0.49mM、0.024mMであった。
以上の結果より、細胞内分解性結合を有するポリロタキサンはいずれもNPC1からのコレステロール除去が可能であることが明らかとなった。特にジスルフィド結合を有するポリロタキサンはコレステロール除去作用が高いことが明らかとなった。このようなポリロタキサン中の分解性結合種によるコレステロール除去作用の差異は、細胞内における分解性結合の分解効率に関係していると考えられる。
【0091】
(試験例7−1:コレステロール除去作用)
試料として、下記資料を用いた以外は、試験例5と同様にして試験を行い、ポリロタキサンのシクロデキストリンに導入された官能基の種類がNPC1からのコレステロール除去作用に与える影響を検討した。
<試料>
(1) HE−SS−PRX(製造例1で作製)
(2) DMAE−SS−PRX(製造例4で作製)
【0092】
結果を
図15Aに示す。
図15A中、「▽」は「HE−SS−PRX」の結果を示し、「●」は「DMAE−SS−PRX」の結果を示す。
コレステロール蓄積量に対する用量反応曲線よりED50を求めた結果、HE−SS−PRX、DMAE−SS−PRXのED50は、それぞれ0.026mM、0.0028mMであった。
以上の結果より、ポリロタキサンによるNPC1からのコレステロール除去には、ポリロタキサンに修飾する官能基が影響することが明らかとなった。本結果は、細胞内へのポリロタキサンの取り込み量が変化するためであると予想される。特に静電荷を有するDMAE基を導入したポリロタキサンは細胞膜と静電的に強く相互作用し、効率的に細胞内へと取り込まれると考えられる。
【0093】
(試験例7−2:細胞への取込み量)
各ポリロタキサンの細胞への取込み量を以下のようにして、フローサイトメトリーにより求めた。
【0094】
<試料の調製>
ポリロタキサンの細胞への取込み量を調べるために、試料として用いるFITC標識HE−SS−PRX、フルオレセインイソチオシアネートエチレンジアミン(FITC―EDA)で修飾したDMAE−SS−PRX(以下、「FITC標識DMAE−SS−PRX」と称する)を以下のようにして調製した。
【0095】
−FITC標識HE−SS−PRXの調製−
試験例4と同様にして調製した。
【0096】
−FITC標識DMAE−SS−PRXの調製−
製造例4で調製したDMAE−SS−PRX 30mgを5mLのDMSOに溶解した。1,1’―カルボニルジイミダゾールを0.76mg加え、室温で24時間撹拌した。FITC−EDAを4.2mg加え、室温でさらに24時間撹拌した。反応後、分画分子量3,500の透析膜(スペクトラ社製)へ加え、超純水に対し透析をすることで未反応のFITC−EDAを除去した。回収した水溶液を凍結乾燥することでFITC標識DMAE−SS−PRXを27.5mg得た。FITCの修飾数は紫外−可視分光光度計を用いて494nmの吸光度より算出した。未標識DMAE−SS−PRXとFITC−DMAE−SS−PRXを混合し、DMAE−SS−PRX上のβ−CD 一分子に対するFITC修飾数が0.04分子となるよう調整した。
【0097】
<フローサイトメトリー>
NPC1を24ウエルプレート(BD Falcon社製)に播種し(細胞数:1×10
5個/ディッシュ)、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地中で、24時間、37℃で培養した。培地を270μLのダルベッコ改変イーグル培地に交換後、シクロデキストリン濃度に換算して0.25mMに調整した下記試料を30μLずつ各ウエルに添加し、さらに37℃で24時間培養した。
その後、リン酸緩衝溶液で細胞を2回洗浄後、0.25%トリプシン−EDTA溶液(Gibco社製)を各ウエルに添加し細胞を剥離させた。細胞を1.5mLチューブに集め、リン酸緩衝溶液で2回洗浄した。その後、0.1%ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝溶液を加え、35μmセルストレーナー(BD Falcon社製)により濾過した。
細胞の蛍光強度をFACSCantoII(BD Bioscience社製)により求めた。細胞10,000個を数え、その平均値を
図15Bに示す。
【0098】
フローサイトメトリーによりFITC標識HE−SS−PRXとFITC標識DMAE−SS−PRXとの細胞内への取込み量を比較した結果、FITC標識DMAE−SS−PRXは、FITC標識HE−SS−PRXの22.6倍高い蛍光強度を示した(
図15B、
図15B中、HE−SS−PRXはFITC標識HE−SS−PRXの結果を示し、DMAE−SS−PRXは、FITC標識DMAE−SS−PRXの結果を示す)。本結果より、DMAE−SS−PRXは効率的に細胞に取り込まれるため、HE−SS−PRXよりも低濃度でNPC1からのコレステロール除去が可能であると考えられる。
【0099】
(試験例8:免疫染色によるオートファゴソームの観察)
前記NPC1を35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI社製)に播種し(細胞数:1.5×10
4個/ディッシュ)、37℃、5% CO
2環境下で1日間培養後、下記試料を添加し、さらに24時間培養した。
前記培養後、4% パラホルムアルデヒド溶液(Wako社製)で10分間処理することで細胞を固定し、50μg/mL ジギトニン溶液(東京化成工業社製)で5分間処理することで細胞膜の透過処理を行い、1% BSA/PBS溶液で30分間処理することでブロッキングを行った。
次いで、Rabbit polyclonal anti−LC3抗体(MBL社製)を1% BSA溶液で1:200の希釈率で混合したもので、4℃で1日間処理した。細胞をPBSで洗浄後、Alexa Fluor 488−conjugated goat anti−rabbit IgG(Abcam社製)(1% BSA溶液で1,000分の1に希釈)で30分間染色した。細胞をPBSで洗浄後、FluoView FV−10i(オリンパス社製)で観察を行った。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を添加しなかった場合、及び前記NPC1を用い、試料を添加しなかった場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HEE−SS−PRX(製造例5で作製、添加量は、シクロデキストリン濃度に換算して0.01mM〜1mM)
(2) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製、添加量は、0.1mM〜10mM)
【0100】
細胞のLC3染色画像を
図16A〜
図16Dに示し、細胞内LC3陽性小胞数の定量結果を
図16Eに示す。
図16Aは、細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合の結果を示し、
図16Bは、細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合の結果を示し、
図16Cは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加(添加量:10mM)した場合の結果を示し、
図16Dは、細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加(添加量:HEE−SS−PRX上のβ−CD濃度が1mMとなるように添加)した場合の結果を示す。
図16Eでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加(添加量:10mM)した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加(添加量:HEE−SS−PRX上のβ−CD濃度が1mMとなるように添加)した場合」の結果を示す。
【0101】
LC3染色画像より細胞内のLC3陽性小胞数を定量した結果、
図16Eに示されるように、NHDF(正常細胞)と比較してNPC1では、基底状態のLC3陽性小胞数が有意に多いことが確認された。また、HP−β−CDを作用させたNPC1ではLC3陽性小胞数がさらに増加した。一方、ジスルフィド結合を有するポリロタキサン(HEE−SS−PRX)を作用させたNPC1ではLC3陽性小胞数が正常細胞と同程度まで減少することが明らかとなった。
【0102】
(試験例9:LC3及びp62の発現評価)
下記細胞におけるLC3及びp62の発現をウエスタンブロットにより、以下のようにして評価した。
<細胞>
(1) NPC1細胞
(2) NHDF細胞
(3) NPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞(Coriell Instituteより入手;番号GM18455)
(4) ファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞(Coriell Instituteより入手;番号GM00107)
(5) GM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞(Coriell Instituteより入手;番号GM03589)
【0103】
前記細胞を12ウエルプレート(Nunc社製)に播種し(細胞数:1×10
5個/ウエル)、37℃、5% CO
2環境下で1日間培養後、下記試料を添加し、さらに24時間培養した。
前記培養後、細胞をPBSで洗浄し、その後、1% プロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク社製)、1% ホスファターゼインヒビターカクテル(ナカライテスク社製)を含むRIPAバッファー(Wako社製)を150μL加え、30分間振盪し細胞を溶解した。前記細胞溶解液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収した。
前記上清10μLと、Laemmli buffer(Biorad社製) 2.5μLとを混合し、12%アクリルアミドゲルに加えた。その後、150Vで45分間電気泳動を行った。その後、トランスブロット Turbo ブロッティングシステム(Biorad社製)を用いてポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Biorad社製)に転写した。その後、5%スキムミルク溶液(Wako社製)で1時間ブロッキングを行った。
ブロッキング処理の後、オートファジーの指標である抗LC3抗体(MBL社製)、選択的オートファジー基質である抗p62/SQSTM1抗体(MBL社製)、抗β−actin抗体(Sigma−Aldrich社製)を1%スキムミルク溶液で希釈したもので、PVDF膜を4℃で1日間処理した。
PBSで3回洗浄後、1%スキムミルク溶液で希釈したHRP−conjugated goat anti−rabbit IgGでPVDF膜を室温で1時間処理した。
PBSで3回洗浄後、Pierce Western Blotting Substrateで処理し、ImageQuant LAS 500システム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)でPVDF膜の撮影を行った。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を添加しなかった場合、前記NHDFを用い、試料の代わりにBafilomycin A1(以下、「Baf A」と称する)を添加した場合、前記NPC1を用い、試料を添加しなかった場合、前記NPC1を用い、試料の代わりにBaf Aを添加した場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HEE−SS−PRX(製造例5で作製、添加量は、HEE−SS−PRX上のβ−CD濃度に換算して0.01mM〜1mM)
(2) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製、添加量は、0.1mM〜10mM)
【0104】
NHDF及びNPC1のウエスタンブロットの結果を
図17Aに示し、NHDF及びNPC1におけるLC3−IIの相対発現量を
図17Bに示し、NHDF及びNPC1におけるp62の相対発現量を
図17Cに示す。
また、NHDF、NPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞、ファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞、及びGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞のウエスタンブロットの結果を
図17Dに示し、NHDF、NPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞、ファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞、及びGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞におけるLC3−IIの相対発現量を
図17Eに示す。
なお、前記各相対発現量は、ウエスタンブロットのバンド強度から求めたものである。
【0105】
図17A、
図17B、及び
図17Cでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNHDFを用い、試料の代わりにBaf Aを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料の代わりにBaf Aを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを0.1mM添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを1mM添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを10mM添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを0.01mM添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを0.1mM添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを1mM添加した場合」の結果を示す。
【0106】
図17D、及び
図17Eでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHP−β−CDを10mM添加した場合」、「細胞としてNPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHEE−SS−PRXを1mM添加した場合」、「細胞としてファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHP−β−CDを10mM添加した場合」、「細胞としてファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHEE−SS−PRXを1mM添加した場合」、「細胞としてGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHP−β−CDを10mM添加した場合」、「細胞としてGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞を用い、試料としてHEE−SS−PRXを1mM添加した場合」の結果を示す。
【0107】
図17A〜
図17Cの結果から、リソソーム内の低pHを中和しオートファジー形成不全を起こすことが知られているBaf Aを添加することにより、LC3、p62の顕著な増加が認められた。また、HP−β−CDを添加した場合には、濃度依存的にLC3−IIの発現量が顕著に増加し、10mMの濃度ではp62の有意な増加も認められた。
一方、HEE−SS−PRX(細胞内分解性結合を有するポリロタキサン)を添加した場合には、LC3−II、p62の発現量の増加は起こらなかった。また、バンド強度より相対発現量を求めると、濃度依存的にLC3−IIの発現量は減少した。
【0108】
また、
図17D及び
図17Eの結果から、オートリソソームの形成不全が認められているNPC2変異型NPC病患者由来皮膚繊維芽細胞、ファブリー病患者由来皮膚繊維芽細胞、及びGM1ガングリオシドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞においても、HP−β−CDの添加はLC3−IIの増加をもたらし、HEE−SS−PRXの添加はLC3−IIを減少させていた。
HP−β−CD、HEE−SS−PRXの細胞内LC3−II量の増減に対する効果は細胞種によらず普遍的であり、HP−β−CDが細胞内にLC3−IIの蓄積をもたらすのに対してHEE−SS−PRXはLC3−IIの蓄積を解消していた。
【0109】
以上の結果より、HP−β−CDはオートリソソームの形成を阻害し、反対に細胞内分解性結合を有するポリロタキサンはオートリソソームの形成を促進していることが予想された。
【0110】
(試験例10:オートリソソーム形成の観察)
EGFPが酸性下で消光することを利用し、酸性下でも励起−蛍光が可能なmRFPを、EGFPを介してLC3と結合することで、それぞれの蛍光画像よりオートファゴソーム、オートリソソームの形成を評価した(S. Kimura et al. Autophagy 3, 452−260 (2007))。具体的には、以下のようにして行った。
【0111】
前記NPC1を35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI社製)に播種し(細胞数:1.5×10
4個/ディッシュ)、37℃、5% CO
2環境下で1日間培養した。
mRFP−EGFP−LC3を直列に結合したptfLC3プラスミドDNA(Addgene社より購入;番号21074)250ngをOpti−MEM(ライフテクノロジーズ社製)で希釈し、Lipofectamine 3000(ライフテクノロジーズ社製)を加え5分間静置した。
前記プラスミド含有溶液を前記細胞培養液中に添加し、24時間培養した。培養液を交換後、下記試料を添加し、さらに24時間培養した。
前記培養後、4% パラホルムアルデヒド溶液(Wako社製)で10分間処理することで細胞を固定した。PBSで洗浄後。FluoView FV−10i(オリンパス社製)で観察を行った。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を添加しなかった場合、及び前記NPC1を用い、試料を添加しなかった場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HEE−SS−PRX(製造例5で作製、添加量は、シクロデキストリン濃度に換算して1mM)
(2) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製、添加量は、10mM)
【0112】
各細胞中のptfLC3の発現を蛍光顕微鏡で観察した結果を
図18Aに示し、オートファゴソーム数及びオートリソソーム数の画像解析結果を
図18Bに示す。
【0113】
図18Aでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加した場合」の結果を示し、上段は「GFP」に由来する蛍光画像を示し、下段は「mRFP」に由来する蛍光画像を示す。
【0114】
図18Bでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加した場合」の結果を示し、各項目における左側は、オートファゴソーム数、右側は、オートリソソーム数を解析した結果を示す。
【0115】
図18A及び
図18Bの結果から、未処理の正常繊維芽細胞と比較して、未処理のNPC1細胞ではオートファゴソーム数の増加とオートリソソーム数の減少が認められた。
HP−β−CDで処理したNPC1細胞では、オートリソソーム数に変化はないものの、オートファゴソーム数の増加が認められた。
一方、HEE−SS−PRXで処理したNPC1細胞では、正常細胞とほぼ同程度のオートファゴソーム、オートリソソームが観察され、細胞内分解性結合を有するポリロタキサンの添加により、NPC1細胞におけるオートリソソームの形成不全を解消できることが明らかとなった。
【0116】
(試験例11:オートファゴソームとリソソームとの融合の観察)
オートリソソームの形成をより詳細に調べるために、プラスミドDNAにより一過的に発現させたmRFP−LC3、及びリソソーム特異的膜タンパク質であるLAMP1の局在を、以下のようにして観察した。
【0117】
前記NPC1を35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI社製)に播種し(細胞数:1.5×10
4個/ディッシュ)、37℃、5% CO
2環境下で1日間培養した。
mRFP−LC3発現プラスミドDNA(Addgene社より購入;番号21075)250ngをOpti−MEM(ライフテクノロジーズ社製)で希釈し、Lipofectamine 3000(ライフテクノロジーズ社製)を加え5分間静置した。
前記プラスミド含有溶液を前記細胞培養液中に添加し、24時間培養した。培養液を交換後、下記試料を添加し、さらに24時間培養した。
前記培養後、4% パラホルムアルデヒド溶液(Wako社製)で10分間処理することで細胞を固定し、50μg/mL ジギトニン溶液(東京化成工業社製)で5分間処理することで細胞膜の透過処理を行い、1% BSA/PBS溶液で30分間処理することでブロッキングを行った。
次いで、Mouse monoclonal anti−LAMP1抗体(Santa Cruz社製)を1% BSA溶液で1:200の希釈率で混合したもので、4℃で1日間処理した。細胞をPBSで洗浄後、Alexa Fluor 488−conjugated goat anti−mouse IgG(Abcam社製)(1% BSA溶液で1,000分の1に希釈)で30分間染色した。細胞をPBSで洗浄後、FluoView FV−10i(オリンパス社製)で観察を行い、mRFP−LC3とLAMP1との共局在率を評価した。
なお、比較として、前記NHDFを用い、試料を添加しなかった場合、及び前記NPC1を用い、試料を添加しなかった場合についても同様にして試験した。
<試料>
(1) HEE−SS−PRX(製造例5で作製、添加量は、シクロデキストリン濃度に換算して1mM)
(2) HP−β−CD(シグマ−アルドリッチ社製、添加量は、10mM)
【0118】
各細胞中のmRFP−LC3及びLAMP1の発現を観察した結果を
図19Aに示し、mRFP−LC3とLAMP1との共局在率を求めた結果を
図19Bに示す。
【0119】
図19Aでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加した場合」の結果を示し、上段は「mRFP−LC3」の発現を観察した結果を示し、下段は内在性「LAMP1」の局在を観察した結果を示す。
【0120】
図19Bでは、左側から順に、「細胞としてNHDFを用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料を添加しなかった場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHP−β−CDを添加した場合」、「細胞としてNPC1を用い、試料としてHEE−SS−PRXを添加した場合」の結果を示す。
図19Bにおける縦軸は、細胞におけるmRFP−LC3とLAMP1との共局在率を示す。
【0121】
図19A及び
図19Bの結果から、未処理の正常繊維芽細胞と比較して、未処理のNPC1細胞ではmRFP−LC3とLAMP1との共局在率が低く、オートリソソームの形成が生じにくいことが示唆された。
また、HP−β−CDで処理したNPC1細胞では、未処理のNPC1細胞と同様にmRFP−LC3とLAMP1との共局在率が低かった。
一方、HEE−SS−PRXで処理したNPC1細胞では、mRFP−LC3とLAMP1との共局在率が正常細胞とほぼ同程度まで上昇し、オートリソソーム形成の亢進が示唆された。
【0122】
試験例8〜11の結果から、複数の環状分子を貫通させた線状分子の両端部に細胞内分解性結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンは、オートリソソームの形成を亢進する作用を示すことが見出された。そのため、本発明のポリロタキサンは、オートリソソームの形成不全によりオートファジー機能が阻害された疾患に対する医薬品としての応用が期待される。
【0123】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 複数の環状分子を貫通させた線状分子の両端部に細胞内分解性結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンを含有することを特徴とする脂質代謝異常及びオートファジーの機能異常の少なくともいずれかに起因する疾患に対する医薬組成物である。
<2> 脂質代謝異常及びオートファジーの機能異常の少なくともいずれかに起因する疾患が、ライソゾーム病である前記<1>に記載の医薬組成物である。
<3> 環状分子が、シクロデキストリンである前記<1>から<2>のいずれかに記載の医薬組成物である。
<4> 細胞内分解性結合が、アセタール結合、ケタール結合、ジスルフィド結合、エステル結合、オルトエステル結合、ビニルエーテル結合、及びヒドラジド結合から選択されるいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載の医薬組成物である。
<5> 線状分子が、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体、ポリプロピレングリコール、及びポリエチレングリコールのいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の医薬組成物である。
<6> ライソゾーム病が、ゴーシェ病、ニーマン・ピック病A型、ニーマン・ピック病B型、ニーマン・ピック病C型、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス、ファーバー病、ウォルマン病、及びファブリー病から選択されるいずれかである前記<2>から<5>のいずれかに記載の医薬組成物である。
<7> ライソゾーム病が、ニーマン・ピック病C型、GM1ガングリオシドーシス、及びファブリー病から選択されるいずれかである前記<2>から<6>のいずれかに記載の医薬組成物である。
<8> 複数の環状分子を貫通させた線状分子の両端部に細胞内分解性結合を介して嵩高い置換基を有するポリロタキサンであって、
前記線状分子は、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールの順に重合した共重合体であり、
前記複数の環状分子がβ−シクロデキストリンであることを特徴とするポリロタキサンである。
<9> 細胞内分解性結合が、アセタール結合、ケタール結合、ジスルフィド結合、エステル結合、オルトエステル結合、ビニルエーテル結合、及びヒドラジド結合から選択されるいずれかである前記<8>に記載のポリロタキサンである。
<10> 脂質代謝異常及びオートファジーの機能異常の少なくともいずれかに起因する疾患を予防又は治療するための方法であって、個体に、前記<1>から<7>のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを特徴とする方法である。
<11> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の医薬組成物の脂質代謝異常及びオートファジーの機能異常の少なくともいずれかに起因する疾患を予防又は治療するための使用。
<12> 脂質代謝異常及びオートファジーの機能異常の少なくともいずれかに起因する疾患を予防又は治療するための医薬品製造のための前記<8>または<9>のポリロタキサンの使用。