特許第6464507号(P6464507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464507
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、および抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20190128BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20190128BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20190128BHJP
   C07K 14/32 20060101ALI20190128BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20190128BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   A61K38/16ZNA
   A61P31/12
   A61P31/04
   A61K9/72
   A61K9/12
   C07K14/32
   C07K14/415
   C12P21/02 Z
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-260849(P2014-260849)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121081(P2016-121081A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英晃
(72)【発明者】
【氏名】涌井 秀樹
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−032244(JP,A)
【文献】 特開2011−177155(JP,A)
【文献】 特開2005−210979(JP,A)
【文献】 特開平07−070170(JP,A)
【文献】 特表2008−509969(JP,A)
【文献】 特表2010−517986(JP,A)
【文献】 日本味と匂学会誌,2007年,Vol.14, No.2,p.129-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 31/00
C07K 1/00−19/00
C12P 21/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドを有効成分として含む、抗ウイルス剤;
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有する、ペプチド。
【請求項2】
エンベロープ型ウイルスに対して使用される、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記エンベロープ型ウイルスが、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、コイヘルペスウイルス、サケヘルペスウイルス、ウシヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルス、SARSコロナウイルス、ムンプスウイルス、ラッサウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、黄熱ウイルス、および日本脳炎ウイルスからなる群から選択される、請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
噴霧剤の形態である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)の発酵物から、質量5〜6kDaのペプチドを回収することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤の製造方法。
【請求項6】
前記発酵物が、大豆発酵物である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記5〜6kDaのペプチドの回収が、前記発酵物から30%飽和硫安に可溶な画分(1)を得、
前記画分(1)から50%飽和硫安に不溶な画分(2)を得ることを含む、請求項5ま
たは6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を塗布してなる、繊維製品。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された抗ウイルス剤を繊維に塗布することを有する、繊維製品の製造方法。
【請求項10】
下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドを有効成分として含む、抗菌剤;
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗菌活性を有する、ペプチド。
【請求項11】
肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に対して使用される、請求項10に記載の抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む、抗ウイルス剤および抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インフルエンザ等のウイルス性疾患の流行を背景として、ウイルス性疾患の有効な予防・治療法の開発が望まれている。インフルエンザウイルスやヘルペスウイルスなどのエンベロープ型と呼ばれるウイルスは、エンベロープと呼ばれる脂質二重膜を有する。多くのエンベロープ型ウイルスは、エンベロープと、ウイルスと接触した細胞の細胞膜とが融合することにより、細胞内へ侵入すると考えられている。
【0003】
一部のウイルス性疾患に対する別の対処法としては、アシクロビル、タミビル、またはザナミビルのような医薬品(抗ウイルス薬)が用いられている。しかしながら、多くのウイルス性疾患については有効な治療方法が無く、一般的にはワクチン接種による予防的手段がとられている。
【0004】
このほか、例えば、特許文献1に記載のウイルス性疾患治療用医薬組成物のように、所定の配列を有するペプチドが抗ウイルス活性を呈することも報告され始めており、ウイルス性疾患の新たな予防・治療法として期待される。
【0005】
一方、ウイルスと異なり、微生物に対しては、医学的には抗生物質による治療が一般的に行われている。さらに、抗菌活性を有するペプチド(抗菌ペプチド)の存在も知られており(例えば、特許文献2)、抗菌ペプチドのなかには、ディフェンシンなど、生体が本来的に防御手段として備えるものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−509969号公報
【特許文献2】特表2010−517986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワクチン療法については、単回接種では免疫されない場合もあり、複数回の接種が被接種者の経済的な負担となり、侵襲度も高い。さらに、免疫療法は、ワクチンに用いられた特定の抗原に対して特異的に機能する抗体が作られるにとどまる。従って、例えばワクチンに用いられたものとは異なる型のウイルスに対しては十分な予防的効果が得られない、といった問題が存在する。また、アシクロビルのような医薬品については、耐性株の発生や重篤な副作用を引き起こす可能性等の問題が指摘されている。従って、本発明の第一の目的は、ワクチンやアシクロビル等の従来公知な医薬品に代わる、新規な抗ウイルス剤を提供することにある。
【0008】
微生物に関しては、抗生物質の使用による耐性菌の発生が大きな問題となっており、抗生物質に代わる抗菌ペプチド等の抗菌剤の開発が望まれている。従って、本発明の第二の目的は、従来の抗生物質に代わる新規な抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、所定の配列を有するペプチドが、抗ウイルス活性、特にエンベロープ型ウイルスに対して高い抗ウイルス活性示すこと見出した。また、本発明者らは、所定の配列を有するペプチドが、抗菌活性、特に肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に対して高い抗菌活性を示すことを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な抗ウイルス剤、特にエンベロープ型ウイルスに対して使用される抗ウイルス剤を提供することにある。また、本発明によれば、新規な抗菌剤、特に肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に対して使用される抗菌剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)の大豆発酵物から抽出したペプチドを、疎水性クロマトグラフィーにより分画した各画分を、SDS/Tris−トリシン系電気泳動により確認した結果である。
図2】バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)の大豆発酵物から抽出した本発明に係るペプチドを、SDS/Tris−トリシン系電気泳動法にて確認した結果である。
図3】本発明に係るペプチドの、ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0013】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0014】
なお、本発明に係る抗ウイルス剤や抗菌剤に有効成分として含まれる「(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチド」、および「(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有するペプチド」を、「本発明に係るペプチド」とも称する。また、「(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなるペプチド」を単に「ペプチド(A)」と、「(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有するペプチド」を「ペプチド(B)」とも称する。
【0015】
<抗ウイルス剤>
本発明の第一の実施形態は、下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドを有効成分として含む、抗ウイルス剤に関する。
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有する、ペプチド。
【0016】
本発明に係る抗ウイルス剤について推測される作用メカニズムを、以下に示す。なお、下記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。従来公知の抗ウイルス薬の多くは、ウイルス自体を破壊するものではなく、ウイルスの増殖を抑制することにより、抗ウイルス活性を発現するものであった。すなわち、アシクロビルやリバビリンはウイルスの核酸合成を阻害することによって、また、タミビルやザナミビルはウイルスのノイラミニダーゼを阻害することによって、ウイルス増殖を抑制する。インターフェロンもまたウイルス性疾患の治療に用いられる医薬であるが、これは免疫機能を賦活することによって抗ウイルス活性を発現するものであり、やはりウイルスを破壊するものではない。一方、本発明に係るペプチドは、以下に説明するように、ウイルスと相互作用し、カプシドを破壊して核酸を放出させることにより抗ウイルス活性を発現するものと推測される。
【0017】
ウイルスのなかには、エンベロープと呼ばれる脂質二重膜によってカプシドが覆われた構造を有するもの(エンベロープ型ウイルス)が存在する。エンベロープは脂質二重膜であることから、負電荷を有する。本発明に係るペプチドにはアルギニン、リジン、ヒスチジンといった塩基性アミノ酸が含まれる反面、アスパラギン酸やグルタミン酸のような酸性アミノ酸が存在しないため、等電点が10.2程度の正電荷を有する。かような電荷の偏りが一因となって、本発明に係るペプチドはエンベロープと電気的に相互作用することが可能となる。従って、本発明の一実施形態では、エンベロープ型ウイルスに対して使用される、抗ウイルス剤が提供される。
【0018】
また、本発明に係るペプチドの9〜21番目のアミノ酸(Pro〜Lys21)(へリックス領域1)、および27〜37番目のアミノ酸(Ala27〜Thr37)(へリックス領域2)はα−へリックス構造をとると考えられる。このため、本発明に係るペプチドは、ウイルスと相互作用した後、上記のへリックス領域がエンベロープやカプシドに穿孔し、ウイルスから核酸が放出されるものと推測される。特に、N末端側に近いへリックス領域1が、カプシドの穿孔について重要な働きを担うものと考えられる。従って、本発明に係る抗ウイルス剤は、ウイルス自体を破壊する機能を有すると考えられ、従来の抗ウイルス薬とは作用機序が相違するものと推測される。
【0019】
【化1】
【0020】
各アミノ酸は、その側鎖の相違に基づいて、類似の性質を有するアミノ酸と置換しうることが、本技術分野においては知られている(保存的置換)。例えば、非極性中性アミノ酸(Gly、Ala、Met、Val、Leu、Ile、Pro)、親水性中性アミノ酸(Asn、Gln、Thr、Ser、Tyr、Cys)、酸性アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸(Arg、Lys、His)、および芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらのグループ内のアミノ酸は相互に置換し得る。
【0021】
生理活性を有するペプチドをそっくり含み、その一端または両端に1個または数個のアミノ酸配列が連結されたペプチドもまた、当該生理活性を維持し得ることが、本技術分野において知られている。従って、上記した抗ウイルス活性を有するペプチドを部分配列として含み、その一端または両端に1個または数個のアミノ酸が連結され、抗ウイルス活性を有するペプチドもまた、抗ウイルス剤に用いることが可能である。
【0022】
従って、アミノ酸配列(A)において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有するペプチド(ペプチド(B))も、本発明に係る抗ウイルス剤の有効成分として用いることができる。上記のペプチド(B)における「置換」とは、「保存的置換」であり得る。
【0023】
なお、本明細書において、アミノ酸についての「数個」とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。
【0024】
ペプチド(B)は、2次構造(α−へリックス構造)保持の観点から、アミノ酸配列(A)における9〜21番目のアミノ酸(Pro〜Lys21)と相同な領域を有していてもよい。本発明の一実施形態では、ペプチド(B)は、アミノ酸配列(A)において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列(A)における9〜21番目のアミノ酸(Pro〜Lys21)と相同な領域を有し、かつ抗ウイルス活性を有する。また、アミノ酸配列(A)における9〜21番目のアミノ酸(Pro〜Lys21)、および27〜37番目のアミノ酸(Ala27〜Thr37)と相同な領域を有していてもよい。本発明の一実施形態では、ペプチド(B)は、アミノ酸配列(A)において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列(A)における9〜21番目のアミノ酸(Pro〜Lys21)、および/または27〜37番目のアミノ酸(Ala27〜Thr37)と相同な領域を有し、かつ抗ウイルス活性を有する。
【0025】
本発明に係るペプチドには、抗ウイルス活性を有する限りにおいて、細胞膜透過性、プロテアーゼ耐性、ペプチド合成・精製工程の簡便性等を考慮し、従来公知の手法により修飾したペプチドも含まれる。ペプチドの修飾としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG、例えば分子量100〜5万程度)の付加、膜透過性ペプチド(例えば、Trans−Activator of Transcription Protein(Tat)ペプチド、オリゴアルギニン、またはペネトラチン)の付加、ゲラニル化およびファルネシル化等のプレニル化(例えば、イソプレン単位数1〜5のプレニル基)、ビオチン化、アルキル化(例えば、炭素数1〜15のアルキル基)、アセチル化およびパルミトイル化等のアシル化(例えば、炭素数1〜15のアシル基)、ベンジルオキシカルボニル化、ならび9−フルオレニルメチルオキシカルボニル化などが挙げられる。
【0026】
なお、本明細書において、「抗ウイルス活性」は、例えば、実施例に記載の方法にて評価される。具体的には、試料の終濃度が0.1mg/mlの場合に、実施例の方法にて測定したPFUが、ビヒクルの値を100%としたときに50%以下であればよい。
【0027】
本発明の一実施形態では、ペプチド(B)は、ペプチド(A)と少なくとも70%(例えば、80%、90%、95%、98%または100%)の相同性を有し、かつ抗ウイルス活性を有する。なお、本明細書において、ペプチドの相同性はBLASTPプログラムによって評価される。
【0028】
本発明の一実施形態においては、(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗ウイルス活性を有するペプチド、が提供される。当該「置換」は、「保存的置換」であり得る。本実施形態の別の側面では、(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列と少なくとも70%(例えば、80%、90%、95%、98%または100%)の相同性を有し、かつ抗ウイルス活性を有するペプチド、が提供される。
【0029】
本発明に係る抗ウイルス剤は各種ウイルスに対して使用されるが、特に、エンベロープ型ウイルスに対して使用されることが、抗ウイルス活性の観点から好ましい。エンベロープ型ウイルスとしては、特に制限されるものではないが、例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、コイヘルペスウイルス、サケヘルペスウイルス、ウシヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルス、SARSコロナウイルス、ムンプスウイルス、ラッサウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、黄熱ウイルス、および日本脳炎ウイルス等が例示できる。このうち、本発明に係る抗ウイルス剤は、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、コイヘルペスウイルス、サケヘルペスウイルス、およびウシヘルペスウイルスのようなヘルペスウイルス;ならびにインフルエンザウイルスに対して有効に使用され、特にヘルペスウイルスに対して有効に使用され得る。
【0030】
(ペプチドの製造方法)
本発明に係るペプチドは、アミノ酸合成装置等を用いた従来公知の手段により製造することができる。また、本発明者らは、本発明に係るペプチドが、バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)の発酵物中に質量5〜6kDaのペプチドとして含まれることを見出した。本発明の一実施形態では、バチルス サブチルスの発酵物から、質量5〜6kDaのペプチドを回収することを含む、上記抗ウイルス剤の製造方法が提供される。
【0031】
なお、上記のペプチドの質量は、質量分析、サイズ排除クロマトグラフィー、または電気泳動等公知の手法により測定できるが、本明細書においては、下記条件にてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)/Tris−トリシン系電気泳動法にて確認された値である。
【0032】
本発明に係るペプチドは、質量が5〜6kDaであり、生体内のタンパク質と比べて比較的分子量が低い。電気泳動法において低分子量領域の分離を向上させるためには、アクリルアミド濃度の高いゲルを用いる必要がある。一般的な電気泳動法であるSDS/Tris−グリシン系では、アクリルアミド濃度の高いゲルほどひび割れや気泡の混入が起こり易く、ゲルの作製が困難になる。また、アクリルアミド濃度の高いSDS/Tris−グリシン系ゲルでは、泳動時の発熱のコントロールも難しく、低分子量領域の分離が良好ではない場合がある。従って、本発明では、SDS/Tris−グリシン系よりも低いアクリルアミド濃度でゲルの作製が可能であり、低分子量領域の分離に適するSDS/Tris−トリシン系電気泳動法にてペプチドの質量を確認する。
【0033】
(ペプチド質量の確認のための電気泳動の方法)
下記組成にて、ゲルを作製する。
【0034】
【表1】
【0035】
具体的には、泳動プレートを用いて分離ゲルを重合させる(重合中は、50%(v/v)2−プロパノール水溶液を重層させる。)。分離ゲルの重合後、泳動プレートを水洗し、スペーサーゲルを重合させる(重合中は、50%(v/v)2−プロパノール水溶液を重層させる。)。再び泳動プレートを水洗し、コームを泳動プレートに挿入した状態で濃縮ゲルを重合させる。かような手法により調製したゲルを水洗して電気泳動に用いる。
【0036】
電気泳動は、下記条件にて行う。
陽極側泳動バッファー :0.2MTris−HCl緩衝液(pH8.9)
陰極側泳動バッファー :0.1MTris−0.1Mトリシン−0.1%(w/v)SDS
泳動 :開始から30分間は50V定電圧とし、以降は150V定電圧(ミニゲルで90分泳動)。
【0037】
バチルス サブチルスの発酵物得られたペプチドの配列は、従来公知のアミノ酸配列の解析方法により確認することができる。
【0038】
バチルス属が生産するプロテアーゼの一種であるサチライシン類(ズブチリシン類、subtilisin)には、本発明に係るペプチドに相当するアミノ酸配列が含まれる。以下に、バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)が生産するサチライシン類(ナットウキナーゼ、およびケラチナーゼ)を例に、clustalWプログラムによりによりペプチド(A)とアライメントを比較した結果を示す。なお、下記アライメント比較結果において、「peptideA」は「ペプチド(A)」を、「nattokinase[B.subtilis]」はバチルス サブチルスのナットウキナーゼ(GenBank: ACJ48969.1)配列を、「keratinase[B.licheniformis]」はバチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のケラチナーゼ(GenBank: AID16241.1)配列を示す。ペプチド(A)は、バチルス サブチルスのナットウキナーゼ(GenBank: ACJ48969.1)と83%の相同性を、バチルス リケニフォルミスのケラチナーゼと98%の相同性を示す。
【0039】
【化2】
【0040】
【化3】
【0041】
本発明の技術的範囲を制限するものではないが、バチルス サブチルスの発酵物中に含まれる質量5〜6kDaのペプチドは、バチルス サブチルスが生産するサチライシン類のプロテアーゼに由来するのではないかと推測される。
【0042】
上記のバチルス サブチルスの発酵物は、大豆発酵物であることが好ましい。大豆発酵物としては、例えば、大豆粉、大豆かす、脱脂大豆かす、大豆ペプチド、大豆加水分解物、ソイトン、またはソイペプトン等を窒素源として含む培地でバチルス サブチルスを培養した培養物であっても良く、また、納豆、味噌等の発酵食品であっても良い。納豆などのバチルス サブチルスの発酵大豆食品は、古くから食経験があり、安全性の観点で特に優れる。本発明の一実施形態では、納豆から質量5〜6kDaのペプチドを回収することを含む、上記の抗ウイルス剤の製造方法が提供される。
【0043】
本発明に係るペプチドの製造に用いられるバチルス サブチルスとしては、本発明に係るペプチドを生産するものであれば特に制限されないが、サチライシン類を生産するものが好ましく、例えば、ATCC 15245株、NCIB 3610株、およびATCC 6051株等が挙げられるが、変種である納豆菌(バチルス サブチルス ナットー(Bacillus subtilis natto))であってもよい。このうち、古来より発酵食品の生産に用いられてきた、納豆菌(バチルス サブチルス ナットー(Bacillus subtilis natto))が、安全性の面から特に好ましい。これらの微生物は、ATCCや独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)等から入手することができる。
【0044】
バチルス サブチルスを培養して発酵物を得る場合、その培養は従来公知の方法で行えばよく、例えば20〜50℃、好ましくは30〜40℃で培養する。培地のpHは、通常は6〜8である。
【0045】
バチルス サブチルスの培養には、通常、炭素源、窒素原、および無機塩を含む、合成培地または天然培地を用いる。
【0046】
例えば、炭素源としては、コーンスターチ、コーンミール、デンプン、デキストリン、麦芽、ブドウ糖、グリセリン、スロース、糖蜜等が単独でまたは混合物として用いられる。
【0047】
窒素源としては、大豆粉、大豆かす、脱脂大豆かす、大豆ペプチド、大豆加水分解物、ソイトン、ソイペプトン、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、コーンスティープリカー、グルテンミール、肉エキス、脂肉骨粉、酵母エキス、乾燥酵母、綿実粉、ペプトン、ポリペプトン、小麦胚芽、魚粉、ミートミール、脱脂米糠、脱脂肉骨粉、麦芽エキス、コーングルテンミール等の無機または有機の窒素源を単独でまたは混合物として使用できる。ペプチドの生産性の観点から、好ましくは、窒素源は大豆に由来するものが好ましく、具体的には、大豆粉、大豆かす、脱脂大豆かす、大豆ペプチド、大豆加水分解物、ソイトン、およびソイペプトンからなる群から窒素源が選択されることが好ましい。
【0048】
無機塩としては、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、臭化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又はリン酸第一カリウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム等の各種無機塩が単独でまたは混合物として使用できる。
【0049】
また、必要に応じて、鉄、マンガン、亜鉛、コバルト、モリブデン酸等の重金属を微量添加することもできる。さらに、加熱滅菌時および培養中における発泡を押さえるため、大豆油、亜麻仁油などの植物油、オクタデカノール等の高級アルコール類、各種シリコン等の消泡剤を添加してもよい。
【0050】
発酵物が、大豆食品の発酵物である場合、例えば納豆の製造方法を例にとると、洗浄した大豆を必要に応じて水に浸漬し(例えば、10〜20℃で15〜30時間)し、蒸煮する。その後、納豆菌の胞子を大豆に散布し、発酵(35〜50℃、相対湿度85〜95%、15〜30時)を行って発酵物を得る。発酵後、低温(例えば、4〜10℃)で24〜72時間程度さらに熟成させても良い。
【0051】
質量5〜6kDaのペプチドは、硫安(硫酸アンモニウム)沈殿、カラム精製、限外濾過、透析、塩析等、従来公知の方法を適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0052】
発酵物からの本発明に係るペプチドの精製方法としては、例えば、上記の納豆等のバチルス サブチルスの発酵物を生理食塩水、または緩衝液中でホモジナイズし、その後、遠心分離等により水溶性画分を回収する。緩衝液としては、リン酸緩衝液、Tris緩衝液のほか、PIPES、TES、HEPES等のグッド緩衝液等も用いることができる。抽出に用いる緩衝液のpHは、好ましくは6.5〜8.5である。
【0053】
遠心分離により水溶性画分を回収する場合、その条件は特に制限されないが、例えば、10,000〜22,000rpmで5〜60分程度行ない、上清を回収する。もっとも、ここでの操作は、有効成分とその他の成分を大まかに分離するためのものであり、最終的に本発明の効果が得られるのであれば、特に制限されない。
【0054】
続いて、上記の硫安分画、カラムクロマトグラフィー、限外濾過、透析、塩析等、従来公知の方法を適宜組み合わせて、上記の発酵物の水溶性画分から質量5〜6kDaのペプチドを回収する。本発明に係るペプチドは、精製の操作の容易さから、好ましくは、硫安分画によって精製される。
【0055】
本発明に一実施形態では、質量5〜6kDaのペプチドの回収が、発酵物から30%飽和硫安に可溶な画分(1)を得、画分(1)から50%飽和硫安に不溶な画分(2)を得ることを含む、上記抗ウイルス剤の製造方法が提供される。本発明においては、発酵物(例えば、上記の水溶性画分)に飽和濃度の30%の硫安を添加して遠心分離(例えば、15,500rpm、4℃で15分間)を行い得られた上清(画分(1))に、飽和濃度の50%の硫安を添加して遠心分離(例えば、15,500rpm、4℃で15分間)を行ない得られた沈殿画分(2)を、30〜50%画分ともいう。なお、本明細書における「画分(2)」には、上記のように飽和濃度の50%の硫安を添加して遠心分離を行ない得られた沈殿を、さらに透析等によって脱塩、および/または乾燥したものも含まれる。
【0056】
かような手法により得られた30〜50%画分には、本発明に係るペプチドの一種である、質量5〜6kDaのペプチドが含まれる。従って、30〜50%画分を、必要に応じて透析等により脱塩し、バチルス サブチルスの発酵物から回収された本発明に係るペプチドを含む粗精製物として、本発明に係る抗ウイルス剤に用いてもよい。即ち、本発明に係る抗ウイルス剤においては、抗ウイルス効果が得られる限りにおいて、質量5〜6kDaのペプチドのバチルス サブチルスの発酵物に由来する成分が含まれることを妨げない。
【0057】
また、バチルス サブチルスの発酵物から回収された質量5〜6kDaのペプチドとしては、上記で得られた画分(2)を、再び上記の生理食塩水や緩衝液等に溶解させ、より高度な精製工程を経て回収されたものであってもよい。より高度な精製工程としては、カラムクロマトグラフィー、および限外濾過等が例示できる。カラムクロマトグラフィーにより精製する場合、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー(ヒドロキシアパタイト担体)、逆相クロマトグラフィー、および/または親和性クロマトグラフィー等、従来公知の方法を適宜組み合わせて行えばよい。以下、例として、疎水性クロマトグラフィーによる精製条件を例示するが、本発明に係るペプチドが回収可能である限り、下記の方法に制限されるものではない。
【0058】
(疎水性クロマトグラフィーによる精製条件)
画分(2)を、終濃度1%(w/v)となるように10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に添加する。さらに、25%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを上記緩衝液に加え、15,000rpmで15分間、4℃で遠心分離を行う。遠心分離後、上清を回収し、孔径0.45μmのフィルターにてろ過し、ろ液を下記の疎水性クロマトグラフィーによる精製の試料として用いる。ブチルセファロースカラム(例えば、Butyl Sepharose High Performance(GEヘルスケア社製))を、平衡化緩衝液(25%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にて平衡化する。平衡化後のカラムに上記の試料をアプライし、洗浄緩衝液(25%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にてカラムを洗浄する。溶出緩衝液(20%、15%、および10%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にて順次溶出される画分のうち、10%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にて溶出された画分(画分(3))を得る。
【0059】
好ましくは、本発明に係る抗ウイルス剤の製造方法は、上記画分(2)を、疎水性クロマトグラフィーにより分離し、10%飽和硫安溶出画分(3)を得ることをさらに含む。
【0060】
質量5〜6kDaのペプチドを含む当該画分(3)を、抗ウイルス剤に用いることができる。なお、本明細書における「画分(3)」には、上記のような10%飽和硫安溶出画分を、さらに透析等によって脱塩、および/または乾燥したものも含まれる。
【0061】
任意に、上記の画分(3)から、質量5〜6kDaのペプチドである本発明に係るペプチドを更に上記方法により精製し、質量5〜6kDaのペプチドを単離して抗ウイルス剤に用いてもよい。
【0062】
より好ましくは、本発明に係る抗ウイルス剤の製造方法は、上記画分(3)を、逆相クロマトグラフィーにより分離し、保持時間30分の画分(アセトニトリル濃度30%(v/v)の画分、画分(4))を得ることをさらに含む。なお、本明細書における「画分(4)」には、上記のようなアセトニトリル濃度30%(v/v)の画分を、さらに乾燥したものも含まれる。下記に逆相クロマトグラフィーの方法を記載するが、本発明に係るペプチドが回収可能である限り、下記の方法に制限されるものではない
(逆相クロマトグラフィーによる精製条件)
カラム: オクタデシル(C18)シリカゲルカラム(例えば、製品名:Wakosil(登録商標)− 5C18HG、和光純薬社製)
移動相: A液(HPLC用HO):B液(HPLC用アセトニトリル)(アセトニトリル濃度0%(v/v)から60%(v/v)のリニアグラジエント)
カラム温度: 30℃
流速: 1ml/min。
【0063】
本発明の一実施形態では、本発明に係るペプチドは、単離されたものである。単離されたペプチドとしては、上記の手法により得られた画分(4)を用いても良い。
【0064】
バチルス サブチルスの発酵物からの回収物中に含まれる質量5〜6kDaのペプチドの量は、例えば、回収物の固形分換算で、10〜100質量%であることが、抗ウイルス活性の観点から好ましい。
【0065】
精製後は、凍結乾燥等により回収物を乾燥し、本発明に係る抗ウイルス剤に用いても良い。
【0066】
<抗菌剤>
本発明の第二の実施形態では、下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドを有効成分として含む、抗菌剤が提供される。
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗菌活性を有する、ペプチド。
【0067】
本実施形態において用いられるペプチドについては、抗ウイルス剤について上述した記載が適宜修飾されて適用される。
【0068】
本発明に係る抗菌剤は、ストレプトコッカス属の菌に対して好適に用いられ、より具体的には、アルファー・溶血レンサ球菌(alfa−Streptococcus)、ストレプトコッカスsp.(Streptococcus sp.)、ストレプトコッカス アガラクティエ(S.agalactiae)、ストレプトコッカス・アンギノサス(S.anginosus)、ストレプトコッカス・コンステラタス(S.constellatus)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(S.gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(S.mitis)、ストレプトコッカス・インターメディウス(S.intermedius)、ストレプトコッカス・オラリス(S.oralis)、肺炎レンサ球菌(S.pneumoniae)、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)、およびストレプトコッカス・サングイニス(S.sanguinis)等が例示できる。
【0069】
このうち、本発明に係る抗菌剤は、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に対して特に有効に使用される。すなわち、本発明の一実施形態では、本発明に係る抗菌剤は、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)に対して使用される。すなわち、本発明の一実施形態では、上記抗菌剤は、抗肺炎レンサ球菌剤である。
【0070】
<抗ウイルス剤、抗菌剤の応用>
本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤は、例えば各種の食品や飲料に混合して、または医薬品もしくは各種生活用品の成分として利用できる。
【0071】
本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤を医薬品として用いるときの投与量は、疾患の症状、患者の年齢などにより異なるが、例えば、本発明に係るペプチドとして成人1日あたり0.1〜10000mg/60kg体重、好ましくは10〜10000mg/60kg体重、より好ましくは100〜5000mg/60kg体重である。
【0072】
医薬品として用いられる場合は、経口投与、または筋肉内、皮内、皮下、静脈内、下部体腔、皮膚などの非経口投与により投与される。また、本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤は、本発明に係るペプチドのみから構成されてもよいし、各投与形態に適した、薬学的に許容される担体および/または希釈剤を用いて製剤化することもできる。製剤化方法および各種担体は、医薬製剤の分野において周知である。薬学的に許容される担体または希釈剤は、例えば、生理緩衝液のような緩衝液や、賦形剤(砂糖、乳糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)であってもよく、結合剤(シロップ、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、ポリビニルクロリド、トラガント等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、タルク、シリカ等)等が適宜混合されていてもよい。投与形態としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、点眼剤、トローチ剤、注射剤、坐剤、軟膏などの剤型が採用されうる。これらの製剤は一般的に知られている製法によって製造することができる。
【0073】
また、本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤を食用に供する量の目安は、前記の医薬品と同じ程度である。健康食品とするときは、乾固物に換算して健康食品素材の全量に対し、0.0005〜10質量%、好ましくは、0.1〜5.0質量%の割合になるように添加される。0.0005質量%以上とすることにより、目的とする効果が効果的に得られ、呈味の観点から10質量%とすることが好ましい。飲食品は、本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤を単独かまたは食品に一般に使用される原料、例えば糖類、澱粉、脂質などの賦形剤、さらには必要に応じて結合剤、滑沢剤、着色剤、香料などの矯味矯臭剤などを併用することができ、常法により製造される。飲食品としては、例えばキャンディー、ドロップ、錠菓、チューイングガム、カプセル、清涼飲料、乳飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などが含まれる。
【0074】
利便性の観点から、本発明の抗ウイルス剤および/または抗菌剤は、噴霧剤の形態であることも好ましい。噴霧剤は、例えば、スプレー、エアロゾル、または乾燥噴霧の形態で使用される。噴霧剤は、圧縮ガスやポンプによる噴霧および/または吐出に適した剤型に加工される。例えば水、pH6〜8程度の緩衝液、または生理食塩水等に本発明に係るペプチドを溶解させたり、揮発性溶媒に懸濁して製剤化したりする。噴霧剤は、口腔用噴霧剤や鼻腔噴霧剤など、生体に直接投与できる他、フェイスマスクや衣類などの繊維製品に塗布したり、加湿器等により室内に霧散させたりして使用できる。
【0075】
本発明に係る一実施形態においては、上記の抗ウイルス剤および/または抗菌剤を塗布してなる、繊維製品が提供される。繊維製品は、合成繊維、再生繊維もしくは天然繊維、またはこれらの混紡を加工した衣類、衛生用品、寝装品、フィルム類、およびインテリア用品等である。特に限定されるものではないが、繊維製品としては、例えば、シャツ、外套、ズボン、スカート、ナイトウェア、下着類、靴下、手袋、帽子、白衣、看護衣、介護衣、作業着、フェイスマスク、シーツ、枕カバー、カーペット、布団、座布団、壁紙、各種フィルター類、カーテン、およびカーペット等が例示できる。本発明に係る繊維製品は、例えば、繊維製品または製品加工前の繊維に、本発明に係る抗ウイルス剤および/または抗菌剤をスプレー、浸漬、含浸、またはコーティング等の方法により塗布すればよい。
【0076】
<治療方法等>
本発明の第三の実施形態では、下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドの、ウイルス感染症、または細菌感染症の治療または予防のための使用が提供される。
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗菌活性を有する、ペプチド。
【0077】
当該実施形態は、上記の(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドの有効量を患者に投与することを含む、ウイルス感染症の治療または予防方法である。
【0078】
なお、本明細書において「有効量」とは、ウイルス感染症による健康被害の治療または予防といった所望の効果を発揮するうえで少なくとも必要とされる有効成分の量である。
【0079】
また、患者は、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳類を含む動物を指し、好ましくはヒトである。
【0080】
本実施形態において、上記の(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドは、上記したように、経口投与、または筋肉内、皮内、皮下、静脈内、下部体腔、皮膚などの非経口投与により投与される。また、各投与形態に適した、上記したような薬学的に許容される担体および/または希釈剤を用いて製剤化したペプチドを使用しても良い。
【0081】
本発明の第四の実施形態では、ウイルス感染症、または細菌感染症の治療または予防のための医薬品の製造における、下記(A)および(B)からなる群から選ばれるペプチドの使用が提供される。
(A)LNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNLSASQVRNRLSSTATYGSSFYYGKGLINV(配列番号1)で表わされるアミノ酸配列からなる、ペプチド、
(B)前記アミノ酸配列(A)において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ抗菌活性を有する、ペプチド。
【0082】
本発明の第三の実施形態や、第四の実施形態においては、上記の抗ウイルス剤や抗菌剤における記載が適宜変更されて適用される。
【0083】
本発明の第三の実施形態や第四の実施形態における、ウイルス感染症は、抗ウイルス剤についての説明において記載される上記のウイルスの感染に起因する疾患である。本発明は特に、エンベロープ型ウイルス感染症、なかでもヘルペスウイルス感染症に有効に使用される。
【0084】
本発明の第三の実施形態や、第四の実施形態における細菌感染症は、抗菌剤についての説明において記載される上記のストレプトコッカス属の菌の感染に起因する疾患である。本発明は特に、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)感染症に有効に使用される。
【実施例】
【0085】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0086】
<製造例1>
納豆(株式会社ヤマダフーズ製)170gを秤量し、510ml(納豆に対し3倍量)の10mM Tris−HCl(pH7.4)を加え、ホモジナイザー(ポリトロンPT4000、セントラル科学貿易)で均質化した。均質化した納豆は、15分間(15,500rpm、4℃)遠心分離を行い、水溶性画分と不溶性画分とに分離した。上清の水溶性画分を回収し、飽和濃度の30%になるように硫安を添加して、4℃にて30分間攪拌した。攪拌後、溶液を15分間(15,500rpm、4℃)遠心分離した。遠心分離後に回収した上清に対し、飽和濃度の50%になるように硫安を添加し、4℃にて30分間攪拌した。攪拌後、溶液を15分間(15,500rpm、4℃)遠心分離し、沈殿を得た(30〜50%画分)。
【0087】
得られた沈殿を、10mlの10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で溶解させた。30〜50%画分の溶液を、10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に対して24時間、透析膜を用いて透析を行った(画分(2))。
【0088】
透析後の試料を、終濃度1%(w/v)となるように10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に添加した。さらに、25%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを上記緩衝液に加え、15,000rpmで15分間、4℃で遠心分離を行った。遠心分離後、上清を回収し、孔径0.45μmのフィルターにてろ過し、ろ液を下記の疎水性クロマトグラフィーによる精製の試料として用いた。
【0089】
ブチルセファロースカラム(Butyl Sepharose High Performance(GEヘルスケア社製))を、平衡化緩衝液(25%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にて平衡化した。平衡化後のカラムに上記の試料をアプライし、洗浄緩衝液(25%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にてカラムを洗浄した。溶出緩衝液(20%、15%、10%、5%、および2%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))にて順次溶出した画分のうち、10%飽和濃度の硫酸アンモニウムを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)にて溶出した画分(画分(3))を得た。
【0090】
疎水性クロマトグラフィーによる精製物を、SDS/Tris−トリシン系電気泳動により展開した結果を図1に示す。図1中、「10%飽和溶出」、「5%飽和溶出」、および「2%飽和溶出」は、それぞれ溶出緩衝液中の硫安飽和濃度(%)を意味する。また、図1における矢印は、5〜6kDaペプチドである。
【0091】
10%飽和濃度の硫酸アンモニウムにて溶出されたペプチド画分(画分(3))を、以下の条件にて逆相クロマトグラフィーに供し、保持時間30分の画分(アセトニトリル濃度30%(v/v)の画分、画分(4))を本発明に係るペプチドとして単離した。
【0092】
(逆相クロマトグラフィーによる精製条件)
カラム: オクタデシル(C18)シリカゲルカラム(製品名:Wakosil(登録商標)− 5C18HG、和光純薬社製)
使用機器: Gulliver series(日本分光社製)
移動相: A液(HPLC用HO)/B液(HPLC用アセトニトリル) (アセトニトリル濃度0%(v/v)から60%(v/v)のリニアグラジエント)
カラム温度: 30℃
流速: 1ml/min
注入量: 1.0ml
検出器: LKB 2158 Uvicord SD(206nm)。
【0093】
上記ペプチドの分子量を、上記条件のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)/Tris−トリシン系電気泳動法にて確認した。結果を図2に示す。図2中、矢印は本発明に係るペプチドである。
【0094】
電気泳動により確認された質量5kDaのペプチドのアミノ酸配列をプロテインシーケンサ(PPSQ−31B/33B、株式会社島津製作所製)にて確認したところ、配列番号1で表されるアミノ酸配列(質量:5480Da)であった。
【0095】
上記方法にて回収されたペプチドを凍結させた後、凍結乾燥を行い、下記実施例における試料(試料1)とした。なお、試料1には、本発明に係るペプチドが90質量%以上含まれる。
【0096】
<実施例1>
上記条件にて得られた試料1を用いて、以下の手法によりヘルペスウイルスに対する抗ウイルス活性を評価した。
【0097】
(1)以下の方法により、HSV1(Herpes simplex virus type 1)(VR3株、ATCCより購入)のウイルス液を調製した。
【0098】
(ウイルス液の調製方法)
細胞:Vero細胞(アフリカミドリサル腎細胞、IFN遺伝子の欠損あり)
培地:10%ウシ胎児血清(FBS)、10μg/ml penicillin−streptomycin含有RPMI1640(以下、「RPMI1640培地」、または単に「培地」とも称する。)(和光純薬社製)
(1)−1: T75フラスコで培養したVero細胞に、HSV1を含むウイルスを接種した。
(1)−2: COインキュベーター内で1時間培養し、細胞にウイルスを接触、感染させた。
(1)−3: 培養上清を除き、細胞をPBS(−)(リン酸緩衝生理食塩水)で一度洗浄した。
(1)−4: フラスコに10mlの培地を入れ、COインキュベーター内で細胞変性効果(CPE、cytopathic effect)が観察されるまで培養した。(約2〜3日)
(1)−5: 培養細胞全体のうち約90%の細胞にCPEが観察された時点で、細胞を凍結融解させた。その後、上清を回収し、遠心分離した(2000rpm、5分、25℃)。
(1)−6: 遠心分離後、上清を回収した。
(1)−7: 回収した上清をウイルス液とし、500μlずつチューブに分注し、使用時まで−80℃で保存した。
【0099】
(2)(1)で調製したウイルス液と、試料1(下記(4)における終濃度:0.1〜1mg/ml)を、RPMI1640培地中で混合し、反応液を調製した。
【0100】
(3)反応液を室温(25℃)で30分間静置した。
【0101】
(4)RPMI1640培地を用いて反応液を希釈し、ウイルス希釈液を作製(10〜10(PFU(Plaque Forming Unit)/ml))した。
【0102】
なお、本明細書において、PFUは以下のように定義される。すなわち、60μlのウイルス液と、540μlのRPMI1640培地とを混合し、10倍希釈系列を作製した。24wellプレート上に単層培養されたVero細胞に、上記で調製したウイルス液を接種し、PBSで洗浄した。その後、カルボキシメチルセルロース(CMC)(終濃度1%(w/v))を溶解したRPMI1640培地を添加し、37℃で48時間培養した。その後、細胞をクリスタルバイオレットで染色し、染色されない透明な円(プラーク)の数を目視により計測した。1個のプラークを形成するウイルス量を「1PFU」と定義した。
【0103】
(5)(4)で調製したウイルス希釈液(250μl)を、24wellプレート(グライナー社製)にあらかじめ単層培養(37℃の5%COインキュベーターで48時間)させたVero細胞(細胞数:1×10/ウェル)に接種させた。
【0104】
(6)ウイルスに接種させたVero細胞を、37℃の5%COインキュベーター内で1時間静置させた。
【0105】
(7)1時間の静置後、上清を捨て、500μlのPBS(−)にて、細胞を洗浄した。
【0106】
(8)500μl/ウェルのRPMI1640培地(1%(w/v)CMCを含む)中にて、37℃の5%COインキュベーター内で細胞を培養した。
【0107】
(9)培地を2日/回のペースで交換しつつ、プラークが出現する5日目まで培養を継続した。
【0108】
(10)培養開始から5日目に、PFU(plaque forming unit)を算出した。
【0109】
PFUの算出結果を図3に示す。図3において、試料1を含まない反応液中でウイルス溶液を静置した場合は、PFU=1.2×10/mlであった。これに対し、試料1を1mg/mlまたは0.1mg/ml含む反応液中でウイルス溶液を静置した場合は、PFUはそれぞれ8.0×10/mlおよび2.8×10/mlであった。
図3に示す通り、試料1には抗ウイルス活性が認められた。
【0110】
<実施例2>
実施例1と同じ条件にて得られた試料1を用いて、以下の手法により各種細菌に対する抗菌活性を評価した。
【0111】
具体的には、下記表2に示す培地により、試料濃度が1280μg/mlから1.25μg/mlまでの2倍希釈系列を調製し、菌体と共に96ウェルプレートに収容した(150μl/ウェル)。37℃のインキュベーター内で一晩培養し、菌体の発育の有無を顕微鏡で確認し、試料1の最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を求めた。結果を表2に示す。
【0112】
なお、陽性対照として用いたペニシリン系抗生物質であるアモキシシリンは、和光純薬工業より購入した。
【0113】
【表2】
【0114】
上記より、本発明に係る抗菌剤は、肺炎レンサ球菌(S.pneumoniae)に対して特に強い抗菌活性を有することが示された。
図1
図2
図3
【配列表】
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