特許第6464525号(P6464525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464525
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物および新規化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 14/09 20060101AFI20190128BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20190128BHJP
   C07D 251/12 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   C08G14/09
   C08G73/06
   C07D251/12CSP
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-96432(P2015-96432)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-210906(P2016-210906A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】東原 知哉
(72)【発明者】
【氏名】上田 充
(72)【発明者】
【氏名】フ マオチュン
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慎治
(72)【発明者】
【氏名】宇野 高明
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−057007(JP,A)
【文献】 特開2014−019868(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0123457(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102219785(CN,A)
【文献】 Ching Hsuan Lin et al.,Miscibility,Microstructure,and Thermal and Dielectric Properties of Reactive Blends of Dicyanate Ester and Diamine-Based Benzoxazine,Macromolecules,2012年,vol.45,7461-7466
【文献】 Ching Hsuan Lin et al.,A study on the co-reaction of benzoxazine and triazine through a triazine-containing benzoxazine,RSC Advances,2016年,vol.6,17539-17545
【文献】 Dengxia Wang et al.,Triazine-Containing Benzoxazine and Its High-Performance Polymer,Journal of Applied Chemistry,2013年,516-522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00−16/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A1)で表される化合物(A)と、
式(B1)で表される化合物(B)と
を含有する熱硬化性組成物。
【化1】
[式(A1)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基であり;RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基である。]
【化2】
[式(B1)中、RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であり;RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり;RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。]
【請求項2】
式(AB)で表される化合物。
【化3】
[式(AB)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基であり;RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基であり;RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であり;RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり;RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物および新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信機器では、処理速度の高速化のために、高周波の電気信号が用いられている。また、電気信号の伝播速度を高速化するために、半導体素子の小型化や、実装基板の高密度化などにより、配線の長さを短縮する方法もあるが、基板の比誘電率(εr)を低くすることによっても、伝播速度を高速化することができる。
【0003】
上記基板を形成する材料として、耐熱性および難燃性に優れたジヒドロベンゾオキサジン化合物を含有する熱硬化性組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。ジヒドロベンゾオキサジン化合物は、ジヒドロベンゾキサジン環が開環反応して熱硬化するため、揮発性物質を発生させないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−241168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含有する熱硬化性組成物において、ジヒドロベンゾオキサジン化合物による開環反応(下記反応式(R1)参照)では、水酸基が生成することから、得られる硬化物の比誘電率を下げることは困難である。
【0006】
【化1】
上記式(R1)中、Rはアリール基等の有機基である。
【0007】
本発明は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できる熱硬化性組成物、および例えば前記組成物を熱硬化させて得ることのできる化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の熱硬化性組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、例えば以下の[1]〜[3]に関する。
【0009】
[1]トリアジン構造を有する化合物(A)と、式(B1)で表される化合物(B)と
を含有する熱硬化性組成物。
【0010】
【化2】
[式(B1)中、RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であり;RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり;RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。]
【0011】
[2]前記化合物(A)が、式(A1)で表される化合物である前記[1]に記載の熱硬化性組成物。
【0012】
【化3】
[式(A1)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基であり;RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基である。]
【0013】
[3]式(AB)で表される化合物。
【0014】
【化4】
[式(AB)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基であり;RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基であり;RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であり;RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり;RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。]
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物、およびイソシアヌレート環を有する新規化合物を提供することができる。前記新規化合物は、例えば前記組成物を熱硬化させて得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1の熱硬化性組成物から形成された硬化反応生成物の、1H−NMRである。
図2図2は、比較例1の熱硬化性組成物から形成された硬化反応生成物の、1H−NMRである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、好適態様も含めて詳細に説明する。
〔熱硬化性組成物〕
本発明の熱硬化性組成物は、トリアジン構造を有する化合物(A)と、後述する式(B1)で表される化合物(B)とを含有する。前記組成物を、単に「本発明の組成物」ともいう。
【0018】
本発明の組成物は、従来のジヒドロベンゾオキサジン化合物を含有する熱硬化性組成物に比べ、その硬化反応において水酸基の生成が抑制されている。このため、本発明の組成物を用いることにより、比誘電率(εr)の値が小さい硬化物を得ることができる。
【0019】
〈化合物(A)〉
化合物(A)は、トリアジン構造を有する。化合物(A)は、下記式で表される構造を有することが好ましく、下記式で表される構造を一つ有することがより好ましい。
【0020】
【化5】
上記式中、*は結合手を示す。
化合物(A)は、式(A1)で表される化合物(以下「化合物(A1)」ともいう)であることが好ましい。
【0021】
【化6】
式(A1)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基である。RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換アリール基a」ともいう)である。
【0022】
A1におけるアルキル基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3である。
【0023】
A2におけるアリール基としては、例えば、単環式または2環式以上のアリール基が挙げられ、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基が挙げられる。アリール基の炭素数は、好ましくは6〜18である。
【0024】
A2における置換アリール基aとしては、例えば、アルキル基で置換したフェニル基、具体的には、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基等のモノアルキル置換フェニル基;ジメチルフェニル基等のジアルキル置換フェニル基が挙げられる。置換基であるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜6である。置換アリール基aの炭素数は、好ましくは7〜20である。
【0025】
A1は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0026】
A2は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基で置換したフェニル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基で置換したフェニル基であり、さらに好ましくは4−t−ブチルフェニル基である。
化合物(A1)の好適例としては、例えば、2,6−ジ(4−t−ブチルフェノキシ)−4−メトキシ−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0027】
《化合物(A)の含有量》
化合物(A)の含有量は、本発明の組成物のうち化合物(B)を除いた固形分100質量%中、通常は50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。化合物(A)の含有量が前記範囲にあると、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できる点で好ましい。
【0028】
《化合物(A)の合成方法》
化合物(A)の好適例である化合物(A1)は、例えば、式(a1)で表される化合物(以下「化合物(a1)」ともいう)と式(a2)で表される化合物(以下「化合物(a2)」ともいう)とを反応させることにより合成することができる。この反応において、化合物(a2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
【化7】
式(a1)中、RA1は、式(A1)中の同一記号と同義であり、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子であり、塩素原子またはフッ素原子が好ましい。
【0030】
化合物(a1)としては、例えば、2,6−ジクロロ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,6−ジクロロ−4−エトキシ−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0031】
【化8】
式(a2)中、RA2は、式(A1)中の同一記号と同義であり、RA3は、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、メタンスルホニル基またはトリフルオロメチルスルホニル基であり、水素原子が好ましい。
【0032】
化合物(a2)としては、例えば、4−tert−ブチルフェノールが挙げられる。
化合物(a1)および化合物(a2)の使用割合(モル比)は、所望の化合物(A1)を容易に合成できる点から、好ましくは化合物(a1):化合物(a2)=40:60〜20:80である(但し、両者の合計は100である)。
【0033】
化合物(A1)の合成反応は、より具体的には、溶媒の存在下で行うことができる。
溶媒としては、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トルエン、メシチレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチルラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)およびトリアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)が挙げられる。これらの中でも水および有機溶媒を併用することが好ましい。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
化合物(A1)の合成反応は、好ましくは、触媒の存在下で行うことができる。
触媒としては、リチウム、カリウムおよびナトリウム等のアルカリ金属;水素化リチウム、水素化カリウムおよび水素化ナトリウム等の水素化アルカリ金属;水酸化リチウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属;炭酸リチウム、炭酸カリウムおよび炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などのアルカリ金属含有化合物が挙げられる。触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記例示の触媒は、化合物(a1)1モルに対して、通常は0.1〜10モル、好ましくは0.2〜5モルの量で用いることができる。
溶媒として水および有機溶媒を併用する場合には、相間移動触媒を用いることが好ましい。相間移動触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド水和物、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド等の四級ホスホニウム塩;クラウンエーテルが挙げられる。
【0036】
化合物(a1)と化合物(a2)との反応において、反応温度は、好ましくは−10〜200℃であり、より好ましくは−5〜100℃であり、反応時間は、好ましくは0.5〜60時間、より好ましくは1〜40時間である。反応終了後は、得られた化合物(A1)は、公知の方法で精製することができる。
【0037】
〈化合物(B)〉
化合物(B)は、式(B1)で表される化合物である。
【0038】
【化9】
式(B1)中、RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基である。RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。
【0039】
B1およびRB2におけるアルキル基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6である。
【0040】
B3およびRB4における有機基としては、例えば炭化水素基が挙げられ、具体的には、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、前記シクロアルキル基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換シクロアルキル基b」ともいう)、炭素数6〜20のアリール基、または前記アリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基(以下「置換アリール基b」ともいう)が挙げられる。これらの有機基の中でも、アルキル基が好ましい。
【0041】
アルキル基としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3である。
【0042】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。シクロアルキル基の炭素数は、好ましくは3〜18、より好ましくは炭素数3〜8である。
【0043】
置換シクロアルキル基bとしては、例えば、メチルシクロプロピル基、エチルシクロプロピル基、メチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、メチルシクロオクチル基、エチルシクロオクチル基が挙げられる。置換シクロアルキル基bの炭素数は、好ましくは4〜20、より好ましくは炭素数4〜10である。
【0044】
アリール基としては、例えば、単環式または2環式以上のアリール基が挙げられ、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基が挙げられる。アリール基の炭素数は、好ましくは6〜18である。
置換アリール基bとしては、例えば、トルイル基、キシリル基が挙げられる。置換アリール基bの炭素数は、好ましくは7〜20である。
【0045】
B3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。特に好ましくは、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、ベンゾオキサジン環中の窒素原子に対してp位のRB3が炭素数1〜3のアルキル基であり、m位のRB3が水素原子である。
【0046】
B4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。さらに好ましくは、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、ベンゾオキサジン環中の酸素原子に対してo位のRB4が炭素数1〜3のアルキル基であり、特に好ましくは、前記酸素原子に対してo位およびp位のRB4が炭素数1〜3のアルキル基であり、m位のRB4が水素原子である。
化合物(B)の好適例としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【化10】
【0048】
《化合物(B)の含有量》
本発明の組成物において、化合物(B)の含有量は、化合物(A)1molに対して、通常は0.01〜2mol、好ましくは0.05〜1.8mol、より好ましくは0.1〜1.5molである。化合物(B)の含有量が前記範囲にあると、ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含む熱硬化性組成物において、水酸基の生成を抑制できることから、得られる硬化物の比誘電率を低くでき、耐薬品性に優れることから好ましい。
【0049】
《化合物(B)の製造方法》
化合物(B)は、例えば、式(b1)で表されるフェノール化合物(以下「フェノール化合物(b1)」ともいう)と、ホルムアルデヒドと、式(b2)で表されるアニリン化合物(以下「アニリン化合物(b2)」ともいう)とから、合成することができる。
【0050】
【化11】
式(b1)および(b2)中、RB1〜BB4は、それぞれ式(B1)中の同一記号と同義である。
【0051】
フェノール化合物(b1)としては、例えば、フェノール、4−メチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,3−ジメチルフェノール、および2,5−ジメチルフェノールが挙げられる。
【0052】
アニリン化合物(a2)としては、例えば、2,6−ジメチルアニリン、2,4,6−トリメチルアニリン、および2,3,4,5,6−ペンタメチルアニリンが挙げられる。
ホルムアルデヒドとして、パラホルムアルデヒドを用いることもできる。
【0053】
フェノール化合物(b1)1モルに対して、アニリン化合物(a2)を0.9〜1.1モルの範囲で用いることが好ましく、ホルムアルデヒドを1.5〜2.5モルの範囲で用いることが好ましい。
【0054】
反応条件は、以下のとおりである。反応温度は、通常は0〜250℃、好ましくは50〜150℃である。反応時間は、通常は0.5〜40時間、好ましくは1〜30時間である。反応中、反応条件は適宜変えることができる。また、反応はどのような気圧下で行ってもよい。特に、減圧下、水を除去しながら反応を行うことが好ましい。
【0055】
化合物(B)の合成反応は、通常、反応溶媒中で行われる。反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン等の窒素原子含有溶媒が挙げられる。
【0056】
化合物(B)の合成反応は、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、例えば、酸触媒および塩基触媒が挙げられる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸;塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のルイス酸;活性白土、酸性白土、ホワイトカーボン、ゼオライト、シリカアルミナ等の固体酸;酸性イオン交換樹脂が挙げられる。塩基触媒としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
化合物(B)の構造は、NMRおよびIRにより確認することができる。
【0057】
〈その他の成分〉
本発明の熱硬化性組成物は、化合物(A)および化合物(B)に加えて、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。前記その他の成分としては、例えば、無機粒子、樹脂成分、難燃剤、老化防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、界面活性剤、滑剤、充填剤が挙げられる。
【0058】
〈溶媒〉
本発明の組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒は、化合物(A)、化合物(B)およびその他の成分を均一に混合し、取り扱い性を向上させたり、組成物の粘度を調節したり、組成物の保存安定性を向上させるために用いることができる。
【0059】
溶媒としては、有機溶媒が好ましく、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサクロロベンゼン、パーフルオロヘキサン等のハロゲン化炭化水素;2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等の酢酸アルキルエステル溶媒;3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ペンチル−2−ピロリドン、N−(メトキシプロピル)−2−ピロリドン、N−(t−ブチル)−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;が挙げられる。
【0060】
溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物において、溶媒の含有量は、前記組成物中の固形分濃度が通常は1〜100質量%、好ましくは5〜100質量%となる量である。ここで固形分とは、上記溶媒以外の全成分をいう。
【0061】
〈熱硬化性組成物の調製方法〉
本発明の熱硬化性組成物は、各成分を均一に混合することにより調製できる。また、ゴミを取り除くために、各成分を均一に混合した後、得られた混合物をフィルター等で濾過してもよい。
【0062】
〈本発明の特性〉
本発明の熱硬化性組成物を用いることにより、比誘電率(εr)の値が小さい硬化物を形成することができる。また、得られる硬化物は、耐熱性が高く、耐薬品性も高いという特性を有する。
【0063】
熱硬化性組成物の硬化反応の条件は、例えば、加熱温度が通常は80℃以上、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜180℃であり、加熱時間が通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜36時間、より好ましくは1〜26時間である。
以下、本発明の熱硬化性組成物の硬化反応について説明する。
【0064】
本発明の組成物は、トリアジン構造を有する化合物(A)と、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物(B)とを含有する。ここで、化合物(B)に含まれるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造に、化合物(A)に含まれるトリアジン構造を反応させると、後述する反応式に示すように、イソシアヌレート環が形成される(Macromolecules 2012.45.7461参照)。この反応では、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジンの開環反応で生成するはずの水酸基は生じない。
【0065】
また、上記硬化反応では、化合物(B)同士の反応も進行しうる。通常のジヒドロベンゾオキサジン化合物同士の反応では、上述したように、水酸基が生成する。しかしながら、本発明で用いる化合物(B)は、ジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造のN位に結合したフェニル基のα位がともにアルキル基であるという構造を有する。この化合物(B)同士の反応では、後述する反応式に示すように、水酸基が生成しにくい。
【0066】
以下では、下記式(1)で表されるトリアジン構造を有する化合物と、下記式(2)で表されるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物との推定の硬化反応機構について説明する。
【0067】
【化12】
まず、トリアジン構造中の電子豊富な窒素原子NA1がベンゾオキサジン構造中の電子不足のメチレン炭素原子C(OB1−CH2−NB1)にアタックし、その際に、電子豊富な酸素原子OB1(CH2−OB1−Ph)が芳香族環炭素原子(Ar−OA1)にアタックする。前記芳香族環炭素原子は、酸素原子OA1およびトリアジン構造の電子求引特性により、電子不足である。同様の反応が、トリアジン構造中の窒素原子NA2についても起こる。上記反応により、アルキルイソシアヌレート構造およびジフェニルエーテル構造(Ph−OB1−Ph、Ph−OB2−Ph)が形成される。このようにして、以下の構造が形成される。
【0068】
【化13】
また、式(2)で表されるジヒドロ−1,3−ベンゾオキサジン構造を有する化合物同士の反応(重合反応)では、当該化合物中のN位に結合したフェニル基のα位がともにメチル基であるため、上記式(R1)の反応が阻害され、下記式(R2)の反応が進行する。このため、この反応では水酸基の生成が抑制されているものと推定される。
【0069】
【化14】
上記式(R2)中、*は結合手を示す。
【0070】
このように化合物(A)および化合物(B)の硬化反応では、通常のジヒドロベンゾオキサジンの開環反応で生成する水酸基の発生が抑制されていることから、得られる硬化物の比誘電率は小さい。このため、上記特性を有する硬化物が得られると推定される。
【0071】
〔イソシアヌレート環を有する化合物〕
本発明のイソシアヌレート環を有する化合物は、式(AB)で表される化合物(以下「化合物(AB)」ともいう)である。
【0072】
【化15】
式(AB)中、RA1は炭素数1〜20のアルキル基であり;RA2はそれぞれ独立に炭素数6〜20のアリール基、または炭素数6〜20のアリール基に含まれる1または2以上の水素原子が炭素数1〜20のアルキル基で置換された基であり;RB1およびRB2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基であり;RB3はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり;RB4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基である。式(AB)中のRA1〜RA2はそれぞれ式(A1)中の同一記号と同義であり、RB1〜RB4はそれぞれ式(B1)中の同一記号と同義である。
【0073】
化合物(AB)は、上述した、化合物(A)に対する化合物(B)の挿入反応により合成することができる。例えば、化合物(A)および化合物(B)を含有する本発明の組成物を熱硬化させ、得られた化合物(AB)を単離することにより、化合物(AB)を得ることができる。
【0074】
化合物(AB)の合成において、化合物(B)の量は、化合物(A)1molに対して、通常は0.01〜2mol、好ましくは0.05〜1.8mol、より好ましくは0.1〜1.5molである。また、熱硬化の条件は、加熱温度が通常は80℃以上、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜180℃であり、加熱時間が通常は0.1〜48時間、好ましくは0.5〜36時間、より好ましくは1〜26時間である。
化合物(AB)の構造は、NMRおよびIRにより確認することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
1.各成分の製造
[合成例1]化合物(A11)の合成
フラスコに、2,6−ジクロロ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジン2g(11.1mmol)、4−tert−ブチルフェノール4.17g(27.8mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.161g(0.5mmol)を入れた。次いで、水酸化ナトリウム1.12g(27.9mmol)を含む水溶液15mLとクロロホルム15mLを0℃でフラスコに加え、室温で24時間、激しく撹拌した。反応終了後、液液抽出(有機層:クロロホルム、水層:水)を行った後、有機層を炭酸ナトリウム水溶液で洗浄・乾燥させ、化合物(A11)(2,6−ジ(4−t−ブチルフェノキシ)−4−メトキシ−1,3,5−トリアジン)を含む粗生成物を得た。前記粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/エタノール=4/1(重量比))により精製し、化合物(A11)を得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0076】
1H−NMR(400MHz、CDCl3、δ、25℃):7.37(d、2H;ArH)、7.09(d、1H;ArH)、3.70(s、3H;CH3)、1.32(s、18H;t−butyl)。
【0077】
[合成例2]化合物(B11)の合成
フラスコに、2,4,6−トリメチルアニリン0.0676g(0.5mmol)、パラホルムアルデヒド(1.1mmol)、2,4−ジメチルフェノール0.0611g(0.5mmol)、およびトルエン20mLを入れた。Dean−Stark装置を用い、水分を除きながら、7時間加熱還流した。加熱後の溶液を室温まで冷却した後、溶液を1Mの水酸化ナトリウム水溶液で3回、脱イオン水で3回、洗浄し、溶媒を留去し、化合物(B11)(3−メシチル−6,8−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾ[e][1,3]オキサジン)を含む粗生成物を得た。前記粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=60/1(重量比))により精製し、化合物(B11)を得た。1H−NMRの測定結果、および赤外線分光法(IR)の測定結果を以下に示す。
【0078】
1H−NMR(400MHz、CDCl3、δ、25℃):6.87(s、2H;ArH)、6.84(s、1H;ArH)、6.66(s、1H;ArH)、5.03(s、2H;benzoxazine)、4.29(s、2H;benzoxazine)、2.26(s、3H;−CH3)、2.24(s、3H;−CH3)、2.19(s、3H;−CH3)。
FT−IR(ATR):ν(cm-1):1223(Ar−O−C)、927(oxazinering)。
【0079】
[合成例3]化合物(BR1)の合成
フラスコに、4−tert−ブチルアニリン0.0746g(0.5mmol)、パラホルムアルデヒド(1.1mmol)、4−tert−ブチルフェノール0.0751g(0.5mmol)、およびトルエン20mLを入れた。Dean−Stark装置を用い、水分を除きながら、7時間加熱還流した。加熱後の溶液を室温まで冷却した後、溶液を1Mの水酸化ナトリウム水溶液で3回、脱イオン水で3回、洗浄し、溶媒を留去し、化合物(BR1)(6−(tert−ブチル)−3−(4−tert−ブチルフェニル)−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾ[e][1,3]オキサジン)を含む粗生成物を得た。前記粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=30/1(重量比))により精製し、化合物(BR1)を得た。1H−NMRの測定結果、および赤外線分光法(IR)の測定結果を以下に示す。
【0080】
1H−NMR(400MHz、CDCl3、δ、25℃):7.28(d、J=8.40Hz、2H;ArH)、7.13(d、J=8.80Hz、1H;ArH)、7.06(d、J=8.40Hz、2H;ArH)、6.99(s、1H)、6.74(d、J=8.80Hz、1H;ArH)、5.31(s、2H;benzoxazine)、4.60(s、2H;benzoxazine)、1.273(s、18H;t−butyl)。
FT−IR(ATR):ν(cm-1):1226(Ar−O−C)、941(oxazinering)。
【0081】
2.熱硬化性組成物の製造および評価
[実施例1]
窒素置換したフラスコに、前記化合物(A11)0.0331g(0.0812mmol)、および前記化合物(B11)0.2283g(0.0812mmol)からなる熱硬化性組成物を準備した。窒素気流下で、熱硬化性組成物を140℃で12時間加熱した。加熱後の反応生成物の詳細を1H−NMRにて測定した。その結果を図1に示す。
【0082】
図11H−NMRの結果から、化合物(A11)と化合物(B11)を含む熱硬化性組成物の硬化反応は、水酸基を生成することなく、目的のイソシアヌレート化合物(AB1)が生成していることが明らかとなった。また、水酸基を有する副生成物(A’B’1)は生成していないことが明らかとなった。
【0083】
[比較例1]
実施例1において、化合物(A11)を0.0351g(0.0861mmol)、および化合物(BR1)を0.0351g(0.0861mmol)からなる熱硬化性組成物を準備した。窒素気流下で、熱硬化性組成物を160℃で26時間加熱した。加熱後の反応生成物の詳細を1H−NMRにて測定した。その結果を図2に示す。
【0084】
図21H−NMRの結果から、化合物(A11)と化合物(BR1)を含む熱硬化性組成物の硬化反応は、目的のイソシアヌレート化合物(ABR1)以外に、水酸基を有する副生成物(A’BR’1)を生成していることが明らかとなった。
図1
図2