特許第6464552号(P6464552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464552
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】RFeB系磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20190128BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20190128BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190128BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20190128BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190128BHJP
   B22F 3/00 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
   H01F1/057
   H01F1/08
   H01F41/02 G
   H01F7/02 E
   C22C38/00 303D
   !B22F3/00 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-208936(P2013-208936)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-73045(P2015-73045A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−273815(JP,A)
【文献】 特開2009−224413(JP,A)
【文献】 特開2006−303197(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/061836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
H01F 1/08
H01F 7/02
H01F 41/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1単位磁石、第2単位磁石、及び前記第1単位磁石と前記第2単位磁石の間にのみ存在し該第1単位磁石と該第2単位磁石を接合する境界面材を有する結合型RFeB系磁石であって、
前記第1単位磁石及び前記第2単位磁石は、Nd及びPrのうちの少なくとも1種から成る軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石であり、
前記境界面材は、軽希土類元素RLの酸化物を含有し、
前記第2単位磁石は前記第1単位磁石よりも、Dy、Ho及びTbのうちの少なくとも1種から成る重希土類元素RHを多く含有し、該第1単位磁石の重希土類元素RHの含有量は0〜2.0質量%、該第2単位磁石の重希土類元素RHの含有量は2.0〜5.0質量%であり、
前記結合型RFeB系磁石の全体に占める前記第2単位磁石の体積比は35%以下である
結合型RFeB系磁石。
【請求項2】
磁化曲線の第2象限において残留磁束密度Brの90%に対応する磁界Hkと保磁力HcJの比であるHk/HcJで定義される角形比が90%以上である、請求項1に記載の結合型RFeB系磁石。
【請求項3】
前記第1単位磁石及び前記第2単位磁石の、前記境界面材と接合する面である接合面が平面である、請求項1又は2に記載の結合型RFeB系磁石。
【請求項4】
前記第2単位磁石が前記結合型RFeB系磁石の表面に配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の結合型RFeB系磁石。
【請求項5】
板状の結合型RFeB系磁石であって、前記第2単位磁石が該結合型RFeB系磁石の端部又は角部に配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の結合型RFeB系磁石。
【請求項6】
Nd及びPrのうちの少なくとも1種から成る軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石から成る焼結磁石又は熱間塑性加工磁石である第1単位磁石と第2単位磁石が接合され、該第2単位磁石が該第1単位磁石よりもDy、Ho及びTbのうちの少なくとも1種から成る重希土類元素RHを多く含有する、結合型RFeB系磁石を製造する方法であって、
第1単位磁石と第2単位磁石の接合面を、重希土類元素RHを含有する金属粉末と酸化作用を有する有機物を混合したペーストを介して接触させた状態で加熱することにより粒界拡散処理を行う工程を有する、結合型RFeB系磁石の製造方法。
【請求項7】
前記接合面が平面である、請求項6に記載の結合型RFeB系磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R(希土類元素)、Fe及びBを含有するRFeB系磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系磁石は、1982年に佐川眞人らによって見出されたものであり、残留磁束密度等の多くの磁気特性がそれまでの永久磁石よりもはるかに高いという特長を有する。そのため、RFeB系磁石はハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータ、電動補助型自転車用モータ、産業用モータ、ハードディスク等のボイスコイルモータ、高級スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
初期のRFeB系磁石は種々の磁気特性のうち保磁力HcJが比較的低いという欠点を有していた。保磁力は、磁化の向きとは逆向きの磁界(逆磁界)が磁石に印加されたときに、磁化が反転することに耐える力をいう。一般に、温度が高くなるほど熱揺らぎの影響が大きくなることにより保磁力が小さくなるため、逆磁界の強度が室温では自発磁化を反転させない程度であっても、ある温度以上では磁化が反転してしまう。また、同種の磁石同士で比較すると、室温における保磁力が高い磁石の方が、高温における保磁力も高い、という傾向を有する。このような温度依存性はRFeB系磁石においても同様であり、初期のRFeB系磁石は、例えば自動車の駆動モータ用磁石のように、使用温度が200℃程度まで上昇する環境下で使用される磁石には用いることができなかった。
【0004】
その後、RFeB系磁石の内部に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素(以下、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種を「重希土類元素RH」と呼ぶ)を存在させることにより、保磁力が向上することが明らかになった。重希土類元素RHは前述の磁化反転を妨げる効果を持つと考えられている。これにより、自動車の駆動モータのような高温の環境下で使用される場合においても磁化の反転が生じないRFeB系磁石が得られた。
【0005】
一方、RHの含有量が増加すると残留磁束密度Brが低下し、それにより最大エネルギー積(BH)maxも低下するという問題が生じる。また、RHが資源として希少、高価であり、且つ産出される地域が偏在しているという点からも、RHの含有量を増加させることは望ましくない。
【0006】
残留磁束密度Brの低下を抑えつつ保磁力HcJを向上させるための第1の方法として、粒界拡散法が知られている(例えば特許文献1参照)。粒界拡散法では、RHを単体、化合物又は合金として含有する粉末等をRFeB系磁石の表面に付着させ、該RFeB系磁石を加熱することにより、該RFeB系磁石の粒界を通してRHを磁石の内部まで侵入させる。これにより、RHの原子は各結晶粒の表面近傍のみに拡散する。磁石における磁化の反転は最初に結晶粒の粒界付近で発生し、そこから結晶粒の内部に拡がってゆくという特性を有することから、粒界拡散法によって結晶粒の表面近傍のみにRHの原子を拡散させることにより、粒界における磁化の反転を防ぐことができ、それにより磁石全体の磁化反転を防止することができる。また、磁石全体としてはRHの含有量を抑えることができ、残留磁束密度Brの低下を防止することができる。
【0007】
なお、RFeB系磁石には主に、(i)主相粒子を主成分とする原料合金粉末を焼結させた焼結磁石、(ii)原料合金粉末を結合剤(高分子やエラストマなどの有機材料から成る。バインダ。)で固めて成形したボンド磁石、(iii)原料合金粉末に対して熱間プレス加工及び熱間塑性加工を行った熱間塑性加工磁石(非特許文献1参照)があるが、これらのうち粒界拡散処理を行うことができるのは、有機材料のバインダを使用しないことにより粒界拡散処理時の加熱が可能である(i)焼結磁石及び(iii)熱間塑性加工磁石である。
【0008】
残留磁束密度Brの低下を抑えつつ保磁力HcJを向上させるための第2の方法として、磁石全体のうち、保磁力HcJの低下による悪影響が特に顕著になる部分において、局所的にRHの含有率を高める、という方法がある。例えば、特許文献2には、モータの回転子に使用するRFeB系磁石において、モータ内で磁界がより強い、固定子寄りに位置する部分のRHの含有率を、他の部分よりも高くしたものが記載されている。これにより、保磁力を向上させる必要のある部分では確実に保磁力を高めつつ、磁石全体では残留磁束密度Brの低下を抑えることができる。このようにRHの含有率を局所的に高めるために、特許文献2では、互いにRHの含有率が異なる原料から作製した複数のRFeB系磁石を接着することにより、モータの回転子となる1個のRFeB系磁石を作製する、という方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-303433号公報
【特許文献2】特開2012-191211号公報
【特許文献3】特開2006-019521号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日置敬子、服部篤 著、「超急冷粉末を原料とした省Dy型Nd−Fe−B系熱間加工磁石の開発」、素形材 第52巻第8号第19〜24頁、一般財団法人素形材センター、平成23年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
保磁力を高める必要がある部分を確実に高保磁力化するためには、第1の方法よりも第2の方法を用いる方が望ましい。しかし、特許文献2には、複数のRFeB系磁石を接着すると記載されているものの、具体的な接着方法は開示されていない。この接着を一般的な有機物の接着剤を用いて行うと、RFeB系磁石の耐熱性が低下してしまう。特に、自動車の駆動モータでは使用時に200℃以上にまで温度が上昇するため、かかるモータには、このような接着剤で接着を行ったRFeB系磁石を用いることはできない。
【0012】
また、第2の方法で作製されたRFeB系磁石は、使用中に温度が上昇すると、高保磁力化されていない部分において磁化の向きが反転してしまうことが生じ得る。すなわち、磁化の向きの維持という点においても、第2の方法で作製されたRFeB系磁石は耐熱性が低いといえる。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、保磁力を高める必要がある部分には局所的にRHの含有率を高めることができ、且つ耐熱性の高いRFeB系磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系磁石は、第1単位磁石、第2単位磁石、及び前記第1単位磁石と前記第2単位磁石の間にのみ存在し該第1単位磁石と該第2単位磁石を接合する境界面材を有する結合型RFeB系磁石であって、
前記第1単位磁石及び前記第2単位磁石は、Nd及びPrのうちの少なくとも1種から成る軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石であり、
前記境界面材は、軽希土類元素RLの炭化物、水酸化物及び酸化物のうちの少なくとも1種を含有し、
前記第2単位磁石は前記第1単位磁石よりも、Dy、Ho及びTbのうちの少なくとも1種から成る重希土類元素RHを多く含有し、該第1単位磁石重希土類元素RHの含有量は0〜2.0質量%、第2単位磁石重希土類元素RHの含有量は2.0〜5.0質量%であり
前記結合型RFeB系磁石の全体に占める前記第2単位磁石の体積比は35%以下である
ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る結合型RFeB系磁石によれば、第2単位磁石は第1単位磁石よりもRHの含有量が高いRH高含有量単位磁石であるため、局所的にRHの含有率の高い結合型RFeB系磁石が得られる。そして、隣接する2個の単位磁石は、軽希土類元素RLの炭化物、水酸化物及び酸化物のうちのいずれか1種又は複数種を有する境界面材により、強固に接合される。このような軽希土類元素RLの炭化物、水酸化物、酸化物等は、有機物の接着剤よりも融点が高いため、有機物の接着剤を用いた従来の結合型RFeB系磁石よりも耐熱性が高い。
【0016】
本発明に係る結合型RFeB系磁石は、以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明に係る結合型RFeB系磁石の製造方法は、Nd及びPrのうちの少なくとも1種から成る軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石から成る焼結磁石又は熱間塑性加工磁石である第1単位磁石と第2単位磁石が接合され、該第2単位磁石が該第1単位磁石よりもDy、Ho及びTbのうちの少なくとも1種から成る重希土類元素RHを多く含有する、結合型RFeB系磁石を製造する方法であって、
第1単位磁石と第2単位磁石の接合面を、重希土類元素RHを含有する金属粉末と有機物を混合したペーストを介して接触させた状態で加熱することにより粒界拡散処理を行う工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る結合型RFeB系磁石の製造方法によれば、上記粒界拡散処理により、ペーストに含有される重希土類元素RHの原子が、単位磁石内の粒界相に拡散し、該単位磁石内の粒界相の軽希土類元素RLの原子を置換してゆく。それに伴って、置換された軽希土類元素RLの原子が単位磁石の接合面に到達し、ペーストに含有される有機物と反応して炭化物、水酸化物及び/又は酸化物が生成されることにより、境界面材が形成される。なお、この反応と共に、ペースト内に残留した重希土類元素RHが有機物と反応することにより、重希土類元素RHの炭化物、水酸化物及び/又は酸化物が生成されてもよい。
【0018】
本発明に係る結合型RFeB系磁石は上記製造方法で作製することができるため、重希土類元素RHを接合面から単位磁石内に拡散させることができる。そのため、結合型RFeB系磁石の全体に亘って、粒界及び粒界付近にRHを存在させることができ、磁石全体の保磁力を高めることができる。従って、従来の結合型RFeB系磁石よりも高温まで、磁化の反転を防止することができるため、自動車の駆動モータ用磁石のように、温度が200℃程度の高温まで上昇する環境下で使用される磁石にも好適に用いることができる。
【0019】
本発明に係る結合型RFeB系磁石は、境界面材の材料である軽希土類元素RLの炭化物、水酸化物及び酸化物はいずれも絶縁体であることから、使用時に渦電流が発生することを抑えることができる、という効果も奏する。
【0020】
本発明に係る結合型RFeB系磁石及びその製造方法において、隣接する単位磁石同士の接合面で形状を合致させやすくすることができるという点において、接合面は平面であることが望ましい。上記製造方法においては、ペーストを接合面に容易に付着させることができるという点においても、接合面は平面であることが望ましい。
【0021】
第2単位磁石は、結合型RFeB系磁石の表面に配置するとよい。あるいは、第2単位磁石は、板状の結合型RFeB系磁石における端部又は角部に配置してもよい。
【0022】
本発明に係る結合型RFeB系磁石は、磁化曲線の第2象限において、残留磁束密度Brの90%に対応する磁界Hkと保磁力HcJの比であるHk/HcJで定義される角形比が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。角形比が前記範囲であると、自動車の駆動モータ用磁石のように、温度が200℃程度の高温まで上昇する環境下で使用される磁石にも好適に用いることができる。好ましい角形比を有する結合型RFeB系磁石を得るためには、第1単位磁石及び第2単位磁石の組成等を適宜設定すればよいが、重希土類元素RHは資源として希少且つ高価であるため、本発明の目的を達することができる範囲内で、第2単位磁石の体積比はできるだけ小さい方が望ましい。例えば、前記第1単位磁石における重希土類元素RHの含有量が0〜2.0質量%、前記第2単位磁石における重希土類元素RHの含有量が2.0〜5.0質量%である場合には、前記第2単位磁石の体積比は結合型RFeB系磁石全体の35%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることが一層好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、保磁力を高める必要がある部分には局所的にRHの含有率を高めることができ、且つ耐熱性の高いRFeB系磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る結合型RFeB系磁石の一実施例を示す上面図(a)及び斜視図(b)。
図2】本実施例の結合型RFeB系磁石の変形例を示す上面図。
図3】本実施例の結合型RFeB系磁石の製造方法を示す概略図。
図4】本実施例の結合型RFeB系磁石の変形例を示す斜視図。
図5】本発明に係る結合型RFeB系磁石の他の実施例を示す斜視図。
図6】本発明に係る結合型RFeB系磁石の他の実施例を示す斜視図。
図7】本発明に係る結合型RFeB系磁石の他の実施例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る結合型RFeB系磁石及びその製造方法の実施例を、図1図7を用いて説明する。
【実施例】
【0026】
図1に、本発明に係る結合型RFeB系磁石の一実施例である結合型RFeB系磁石10を示す。本実施例の結合型RFeB系磁石10は全体として正方形の平板状の形状を有し、1個の第1単位磁石11と、平面形状が正方形であって互いに同じ大きさを有する4個の第2単位磁石121〜124を接合したものである。第1単位磁石11は、結合型RFeB系磁石10の平面形状である正方形の四隅をそれぞれ、1個の第2単位磁石121〜124の分だけ欠いた「+」字状の形状を有する。これら各単位磁石は焼結磁石から成る。第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124には、本実施例では、RHとしてDyを含有するものを用いた。RH(Dy)の含有量は、第1単位磁石11よりも第2単位磁石121〜124の方が高い。第1単位磁石11と4個の第2単位磁石121〜124の接合面はそれぞれ、結合型RFeB系磁石10の平板面に垂直な平面になっており、これら接合面にそれぞれ境界面材131〜134が設けられている。境界面材131〜134は、軽希土類元素RLであるNdの酸化物を含有する。
【0027】
このように、四隅に重希土類元素RHの含有率が高い部分(第2単位磁石121〜124)を設けた結合型RFeB系磁石10は、モータの回転子にその回転方向に沿って複数個配置して用いることができる。この場合、回転子の回転の際に磁界が激しく変動する磁石の端部の保磁力を高めることができ、それにより磁化の反転を防ぐことができる。
【0028】
図2に、上記実施例の変形例を示す。図2(a)に示した結合型RFeB系磁石10Aは、平面形状が正方形である第2単位磁石121〜124の代わりに、平面形状が直角二等辺三角形である第2単位磁石121A〜124Aを用いたものである。第2単位磁石121A〜124Aの形状に対応して、第1単位磁石11Aの平面形状は八角形とした。第1単位磁石11Aと各第2単位磁石121A〜124Aの境界面には境界面材131A〜134Aが設けられている。
【0029】
図2(b)に示した結合型RFeB系磁石10Bは、平面形状が長方形である第1単位磁石11Bの2つの長辺に、長方形の第2単位磁石121B、122Bを接合したものである。結合型RFeB系磁石10Bの平面形状は正方形である。第1単位磁石11Bと各第2単位磁石121B、122Bの境界面には境界面材131B、132Bが設けられている。
【0030】
図2(c)に示した結合型RFeB系磁石10Cは、平面形状が正方形であって互いに同じ大きさを有する4個の第1単位磁石111C〜114Cと、「+字」状の形状を有する第2単位磁石12Cを接合したものである。結合型RFeB系磁石10Cはちょうど、上述の結合型RFeB系磁石10における第1単位磁石と第2単位磁石の材料を入れ替えた構成を有する。
【0031】
次に、図3を用いて、本実施例の結合型RFeB系磁石10の製造方法を説明する。
まず、特許文献3に記載の方法を用いて、以下の方法により第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124を作製した。特許文献3に記載の方法は、原料の合金粉末を圧縮成形することなく焼結磁石を製造するものであり、PLP(Press-less Process)法と呼ばれている。PLP法は、圧縮成形を行わないことにより、残留磁束密度の低下を抑えつつ保磁力を向上させることができると共に、複雑な形状の焼結磁石を容易に作製することができるという特長を有している。
【0032】
具体的には、始めに、作製しようとする第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124につき、それぞれ同じ組成を有するストリップキャスト合金を用意した。ストリップキャスト合金の組成は、本実施例では第1単位磁石11に関してはNd:25.4質量%、Dy:0.7質量%、、B:0.99質量%、Fe:残部であり、第2単位磁石121〜124に関してはNd:23.1質量%、Pr:4.7質量%、Dy:3.2質量%、Co:0.9質量%、Al:0.2質量%、Cu:0.1質量%、B:0.99質量%、Fe:残部とした。
【0033】
これらストリップキャスト合金をそれぞれ、水素解砕した後にジェットミルで微粉砕することにより、レーザ法で測定された値で平均粒径が0.1μm〜10μm(望ましくは3〜5μm)である合金粉末21を作製した。次に、この合金粉末を、各単位磁石と同じ形状であって該単位磁石よりも大きい、モールド22のキャビティ221に充填し(a-1)、キャビティ221内の合金粉末21を圧縮することなく磁界中で配向させた(a-2)。なお、図3では第1単位磁石11の形状に対応したキャビティ221を示したが、第2単位磁石121〜124についてもそれら単位磁石の形状に対応したキャビティを有するモールドを用いればよい。
【0034】
その後、合金粉末21をキャビティ221内に充填させた状態のまま、圧縮することなく加熱する(加熱温度は典型的には950〜1050℃)ことにより合金粉末21を焼結させた(a-3)。これにより、第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124が得られた。
【0035】
単位磁石の作製とは別に、単位磁石同士を接合するためのRH含有ペースト23を、重希土類元素RHを含有するRH含有金属粉末231と、有機物としてシリコーングリース232を混合することにより作製した(b)。
RH含有金属粉末231には、Tb:92質量%、Ni:4.3質量%、Al:3.7質量%の含有率を有するTbNiAl合金の粉末を使用した。RH含有金属粉末231の粒径は、単位磁石内にできるだけ均一に拡散させるためには小さい方が望ましいが、小さ過ぎると微細化のための手間やコストが大きくなる。そのため、該粒径は2〜100μmとすることが望ましい。シリコーンは珪素原子と酸素原子が結合したシロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であることから、シリコーングリース232は粒界拡散処理時にペースト中のRHの原子を酸化させる役割を有する。RH含有金属粉末231とシリコーングリース232の重量混合比は所望のペースト粘度に調整すべく任意に選択できるが、RH含有金属粉末231の比率が低ければ、粒界拡散処理の際にRHの原子が単位磁石内に侵入する量も低下してしまう。そのため、RH含有金属粉末231の比率は70質量%以上が望ましく、より望ましくは80質量%以上、更に望ましくは90質量%以上とする。なお、シリコーングリース232の量が5質量%未満になると十分にペースト化できないため、シリコーングリース232の量は5質量%以上が望ましい。また、RH含有ペースト23の粘度を調整するために、シリコーングリース232に加えて、シリコーンオイル、流動パラフィン、ヘキサン等の液状炭化水素等を添加してもよい。
【0036】
上記のように得られた第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124の接合面にRH含有ペースト23を塗布したうえで、第2単位磁石121〜124をそれぞれRH含有ペースト23を介して第1単位磁石11と接触させる(c-1)。この状態で真空雰囲気中において900℃に加熱する(c-2)。これにより、RH含有ペースト23中のTb原子が、粒界を通して第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124内に拡散してゆく。これにより、第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124の少なくとも一方に含まれるNd及び/又はPr原子(RL原子)がTb原子に置換される。こうして置換されたRL原子の少なくとも一部は、第1単位磁石11と第2単位磁石121〜124に挟まれたRH含有ペースト23においてシリコーン中の酸素原子と反応して、RLの酸化物を含有する境界面材131〜134が形成される。こうして、第1単位磁石11と第2単位磁石121〜124が境界面材131〜134により強固に接合された結合型RFeB系磁石10が得られる。
【0037】
このように、本実施例の結合型RFeB系磁石10の製造方法では、単位磁石の接合と同時に粒界拡散処理を行うことができるため、結合型RFeB系磁石10全体としての保磁力を高めることができる。また、通常の粒界拡散処理では、RHを含有する粉末等を磁石の表面に付着させた状態で加熱を行うことから、そのままでは処理後に当該粉末等の残渣による凹凸が生じてしまうため、当該残渣を除去する必要があった。それに対して本実施例の方法では、粒界拡散処理に用いたRH含有ペースト23は結合型RFeB系磁石10の表面に残らないため除去の必要がなく、しかも境界面材131〜134として有効に利用される。
【0038】
次に、本実施例の結合型RFeB系磁石につき、作製した試料のパラメータ、及び磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0039】
表1において、「構造」の欄に記載の符号は、結合型RFeB系磁石10、10A、10B及び10Cの符号を指す。各試料は、当該符号に対応した構造(図1及び図2参照)を有する。「第2単位磁石体積比」に記載の数値は、結合型RFeB系磁石全体に占める第2単位磁石の体積比を示す。なお、参考例1は第1単位磁石の材料のみから作製した通常の(結合型ではない)磁石、参考例2は第2単位磁石の材料のみから作製した通常の磁石である。「配向度」は、残留磁気分極の測定値Jrを、理論上の最大の磁気分極である飽和磁気分極Jsで除した値(Jr/Js)で定義される。「角形比」は、磁化曲線の第2象限における、残留磁束密度Brの90%の値に対応する磁界Hkと保磁力HcJの比(Hk/HcJ)で定義される。
【0040】
表1より、RHの含有量が最も少ない参考例1の試料と比較して、本実施例1〜6の試料では残留磁束密度Brがさほど低下していないといえる。また、保磁力は本実施例1〜6のいずれの試料においても25kOeという高い値が得られている。角形比は、高RH体積比が高くなるほど悪化しているものの、第2単位磁石の体積比が35%以下である実施例1〜3の試料では90%以上、特に第2単位磁石の体積比が15%以下である実施例1の試料では95%以上という高い値が得られている。
【0041】
本発明は上記実施例には限定されない。例えば、上記実施例では第1単位磁石及び第2単位磁石にはいずれも焼結磁石を用いたが、熱間塑性加工磁石を用いてもよい。また、上記実施例ではDyの含有量が異なる2種の単位磁石を用いたが、Dyの代わりに又はDyと共に、Tb及び/又はHoの含有量が異なる2種の単位磁石を用いてもよい。さらには、RHの含有量が異なる3種以上の単位磁石を用いてもよい。境界面材においても、RLの酸化物の代わりに又は該酸化物と共に、RLの水酸化物及び/又は炭化物を用いることができる。また、RH含有金属粉末として、Tbの代わりに又はTbと共にDy及び/又はHoを含有する金属粉末を用いることができる。
【0042】
第2単位磁石は、上記実施例では結合型RFeB系磁石の正方形の四隅に設けたが、例えばモータの回転子における回転の前方に該当する二隅のみに設けてもよい。また、接合面は、上記実施例では平面としたが、曲面であってもよい。
【0043】
結合型RFeB系磁石及び各単位磁石の形状も上記実施例には限定されない。例えば、結合型RFeB系磁石の形状には、長方形やその他の形状の板状磁石を用いることができる。また、図4に示すように、平面の形状が同じである板状の第1単位磁石11Xと第2単位磁石12Xを、境界面材13Xを用いて該平面で接合してもよい。そのような結合型RFeB系磁石10Xは、モータにおいて、第2単位磁石12Xを固定子側に向けて回転子に取り付けることにより、磁界がより強い、固定子に近い位置における保磁力を高めることができる。
【0044】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、図5に示すように断面が台形である結合型RFeB系磁石30、30Aが挙げられる。図5(a)に示す結合型RFeB系磁石30では、結合型RFeB系磁石30を横方向に2つに分割した単位磁石を用いており、台形の下辺側の単位磁石を第1単位磁石31、上辺側の単位磁石を第2単位磁石32としている。第1単位磁石31と第2単位磁石32は境界面材33により結合されている。この結合型RFeB系磁石30は、前述の結合型RFeB系磁石10Xと同様の効果を奏する。
【0045】
あるいは、図5(b)に示すように、断面が台形であって、当該台形の左右両端付近に第2単位磁石321A及び322Aを用い、それらの間に第1単位磁石31Aを用いた結合型RFeB系磁石30Aも本発明に含まれる。第2単位磁石321A及び322Aはそれぞれ、境界面材331A及び332Aにより、第1単位磁石31Aと接合される。一般に、このような形状の磁石では、台形の両端付近において他の部分よりも厚みが薄いことにより、磁化の分極によって形成される反磁界が強くなり、当該部分の保磁力が低下するが、本実施例の結合型RFeB系磁石30Aでは、その部分に第2単位磁石321A及び322Aを用いているため、保磁力の低下を抑えることができる。
【0046】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、図6に示すように、一面においてのみ弧面(一方向にのみ曲率を有する面)を有する直方体形状が挙げられる。例えば、図6(a)に示す結合型RFeB系磁石40では、横方向に2つに分割した単位磁石のうち弧面側の単位磁石を第2単位磁石42、他方の単位磁石を第1単位磁石41として両者を境界面材43で接合した構成を有する。また、図6(b)に示す結合型RFeB系磁石40Aは、弧の両端付近に第2単位磁石421A及び422Aを用い、それらの間に第1単位磁石41Aを配置して、第1単位磁石41Aと第2単位磁石421A、422Aをそれぞれ境界面材431A、432Aで接合した構成を有する。これら結合型RFeB系磁石40及び40Aはそれぞれ、前述の結合型RFeB系磁石30及び30Aと同様の効果を奏する。
【0047】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、図7に示すように、第1弧面501及び該第1弧面501の反対面である第2弧面502を有する扇面体形状を有する扇面体が挙げられる。例えば、図7(a)に示す結合型RFeB系磁石50は、扇面体が第1弧面501及び第2弧面502の間の弧面で分割された第1単位磁石51と第2単位磁石52を境界面材53で接合した構成を有する。なお、第1単位磁石51と第2単位磁石52の接合面は第1弧面501及び第2弧面502と交わっていない。また、第1弧面501と第2弧面502は、断面において同心円弧であってもよいし、同心円弧でなくてもよい。図7(b)に示す結合型RFeB系磁石50Aは、第1弧面501及び第2弧面502の両端付近に第2単位磁石521A及び522Aを用い、それらの間に第1単位磁石51Aを配置して、第1単位磁石51Aと第2単位磁石521A、522Aをそれぞれ境界面材531A、532Aで接合した構成を有する。これら結合型RFeB系磁石50及び50Aはそれぞれ、前述の結合型RFeB系磁石30及び30Aと同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0048】
10、10A、10B、10C、10X、30、30A、40、40A、50、50A…結合型RFeB系磁石
11、11A、11B、111C〜114C、11X、31、31A、41、41A、51、51A…第1単位磁石
121〜124、121A〜124A、121B、122B、12C、12X、32、321A、322A、42、421A、422A、52、521A、522A…第2単位磁石
131〜134、131A〜134A、131B、132B、131C〜134C、13X、33、331A、332A、43、431A、432A、53、531A、532A…境界面材
21…合金粉末
22…モールド
221…キャビティ
23…RH含有ペースト
231…RH含有金属粉末
232…シリコーングリース
501…第1弧面
502…第2弧面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7