【実施例】
【0026】
図1に、本発明に係る結合型RFeB系磁石の一実施例である結合型RFeB系磁石10を示す。本実施例の結合型RFeB系磁石10は全体として正方形の平板状の形状を有し、1個の第1単位磁石11と、平面形状が正方形であって互いに同じ大きさを有する4個の第2単位磁石121〜124を接合したものである。第1単位磁石11は、結合型RFeB系磁石10の平面形状である正方形の四隅をそれぞれ、1個の第2単位磁石121〜124の分だけ欠いた「+」字状の形状を有する。これら各単位磁石は焼結磁石から成る。第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124には、本実施例では、R
HとしてDyを含有するものを用いた。R
H(Dy)の含有量は、第1単位磁石11よりも第2単位磁石121〜124の方が高い。第1単位磁石11と4個の第2単位磁石121〜124の接合面はそれぞれ、結合型RFeB系磁石10の平板面に垂直な平面になっており、これら接合面にそれぞれ境界面材131〜134が設けられている。境界面材131〜134は、軽希土類元素R
LであるNdの酸化物を含有する。
【0027】
このように、四隅に重希土類元素R
Hの含有率が高い部分(第2単位磁石121〜124)を設けた結合型RFeB系磁石10は、モータの回転子にその回転方向に沿って複数個配置して用いることができる。この場合、回転子の回転の際に磁界が激しく変動する磁石の端部の保磁力を高めることができ、それにより磁化の反転を防ぐことができる。
【0028】
図2に、上記実施例の変形例を示す。
図2(a)に示した結合型RFeB系磁石10Aは、平面形状が正方形である第2単位磁石121〜124の代わりに、平面形状が直角二等辺三角形である第2単位磁石121A〜124Aを用いたものである。第2単位磁石121A〜124Aの形状に対応して、第1単位磁石11Aの平面形状は八角形とした。第1単位磁石11Aと各第2単位磁石121A〜124Aの境界面には境界面材131A〜134Aが設けられている。
【0029】
図2(b)に示した結合型RFeB系磁石10Bは、平面形状が長方形である第1単位磁石11Bの2つの長辺に、長方形の第2単位磁石121B、122Bを接合したものである。結合型RFeB系磁石10Bの平面形状は正方形である。第1単位磁石11Bと各第2単位磁石121B、122Bの境界面には境界面材131B、132Bが設けられている。
【0030】
図2(c)に示した結合型RFeB系磁石10Cは、平面形状が正方形であって互いに同じ大きさを有する4個の第1単位磁石111C〜114Cと、「+字」状の形状を有する第2単位磁石12Cを接合したものである。結合型RFeB系磁石10Cはちょうど、上述の結合型RFeB系磁石10における第1単位磁石と第2単位磁石の材料を入れ替えた構成を有する。
【0031】
次に、
図3を用いて、本実施例の結合型RFeB系磁石10の製造方法を説明する。
まず、特許文献3に記載の方法を用いて、以下の方法により第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124を作製した。特許文献3に記載の方法は、原料の合金粉末を圧縮成形することなく焼結磁石を製造するものであり、PLP(Press-less Process)法と呼ばれている。PLP法は、圧縮成形を行わないことにより、残留磁束密度の低下を抑えつつ保磁力を向上させることができると共に、複雑な形状の焼結磁石を容易に作製することができるという特長を有している。
【0032】
具体的には、始めに、作製しようとする第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124につき、それぞれ同じ組成を有するストリップキャスト合金を用意した。ストリップキャスト合金の組成は、本実施例では第1単位磁石11に関してはNd:25.4質量%、Dy:0.7質量%、、B:0.99質量%、Fe:残部であり、第2単位磁石121〜124に関してはNd:23.1質量%、Pr:4.7質量%、Dy:3.2質量%、Co:0.9質量%、Al:0.2質量%、Cu:0.1質量%、B:0.99質量%、Fe:残部とした。
【0033】
これらストリップキャスト合金をそれぞれ、水素解砕した後にジェットミルで微粉砕することにより、レーザ法で測定された値で平均粒径が0.1μm〜10μm(望ましくは3〜5μm)である合金粉末21を作製した。次に、この合金粉末を、各単位磁石と同じ形状であって該単位磁石よりも大きい、モールド22のキャビティ221に充填し(a-1)、キャビティ221内の合金粉末21を圧縮することなく磁界中で配向させた(a-2)。なお、
図3では第1単位磁石11の形状に対応したキャビティ221を示したが、第2単位磁石121〜124についてもそれら単位磁石の形状に対応したキャビティを有するモールドを用いればよい。
【0034】
その後、合金粉末21をキャビティ221内に充填させた状態のまま、圧縮することなく加熱する(加熱温度は典型的には950〜1050℃)ことにより合金粉末21を焼結させた(a-3)。これにより、第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124が得られた。
【0035】
単位磁石の作製とは別に、単位磁石同士を接合するためのR
H含有ペースト23を、重希土類元素R
Hを含有するR
H含有金属粉末231と、有機物としてシリコーングリース232を混合することにより作製した(b)。
R
H含有金属粉末231には、Tb:92質量%、Ni:4.3質量%、Al:3.7質量%の含有率を有するTbNiAl合金の粉末を使用した。R
H含有金属粉末231の粒径は、単位磁石内にできるだけ均一に拡散させるためには小さい方が望ましいが、小さ過ぎると微細化のための手間やコストが大きくなる。そのため、該粒径は2〜100μmとすることが望ましい。シリコーンは珪素原子と酸素原子が結合したシロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であることから、シリコーングリース232は粒界拡散処理時にペースト中のR
Hの原子を酸化させる役割を有する。R
H含有金属粉末231とシリコーングリース232の重量混合比は所望のペースト粘度に調整すべく任意に選択できるが、R
H含有金属粉末231の比率が低ければ、粒界拡散処理の際にR
Hの原子が単位磁石内に侵入する量も低下してしまう。そのため、R
H含有金属粉末231の比率は70質量%以上が望ましく、より望ましくは80質量%以上、更に望ましくは90質量%以上とする。なお、シリコーングリース232の量が5質量%未満になると十分にペースト化できないため、シリコーングリース232の量は5質量%以上が望ましい。また、R
H含有ペースト23の粘度を調整するために、シリコーングリース232に加えて、シリコーンオイル、流動パラフィン、ヘキサン等の液状炭化水素等を添加してもよい。
【0036】
上記のように得られた第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124の接合面にR
H含有ペースト23を塗布したうえで、第2単位磁石121〜124をそれぞれR
H含有ペースト23を介して第1単位磁石11と接触させる(c-1)。この状態で真空雰囲気中において900℃に加熱する(c-2)。これにより、R
H含有ペースト23中のTb原子が、粒界を通して第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124内に拡散してゆく。これにより、第1単位磁石11及び第2単位磁石121〜124の少なくとも一方に含まれるNd及び/又はPr原子(R
L原子)がTb原子に置換される。こうして置換されたR
L原子の少なくとも一部は、第1単位磁石11と第2単位磁石121〜124に挟まれたR
H含有ペースト23においてシリコーン中の酸素原子と反応して、R
Lの酸化物を含有する境界面材131〜134が形成される。こうして、第1単位磁石11と第2単位磁石121〜124が境界面材131〜134により強固に接合された結合型RFeB系磁石10が得られる。
【0037】
このように、本実施例の結合型RFeB系磁石10の製造方法では、単位磁石の接合と同時に粒界拡散処理を行うことができるため、結合型RFeB系磁石10全体としての保磁力を高めることができる。また、通常の粒界拡散処理では、R
Hを含有する粉末等を磁石の表面に付着させた状態で加熱を行うことから、そのままでは処理後に当該粉末等の残渣による凹凸が生じてしまうため、当該残渣を除去する必要があった。それに対して本実施例の方法では、粒界拡散処理に用いたR
H含有ペースト23は結合型RFeB系磁石10の表面に残らないため除去の必要がなく、しかも境界面材131〜134として有効に利用される。
【0038】
次に、本実施例の結合型RFeB系磁石につき、作製した試料のパラメータ、及び磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0039】
表1において、「構造」の欄に記載の符号は、結合型RFeB系磁石10、10A、10B及び10Cの符号を指す。各試料は、当該符号に対応した構造(
図1及び
図2参照)を有する。「第2単位磁石体積比」に記載の数値は、結合型RFeB系磁石全体に占める第2単位磁石の体積比を示す。なお、参考例1は第1単位磁石の材料のみから作製した通常の(結合型ではない)磁石、参考例2は第2単位磁石の材料のみから作製した通常の磁石である。「配向度」は、残留磁気分極の測定値J
rを、理論上の最大の磁気分極である飽和磁気分極J
sで除した値(J
r/J
s)で定義される。「角形比」は、磁化曲線の第2象限における、残留磁束密度B
rの90%の値に対応する磁界H
kと保磁力H
cJの比(H
k/H
cJ)で定義される。
【0040】
表1より、R
Hの含有量が最も少ない参考例1の試料と比較して、本実施例1〜6の試料では残留磁束密度B
rがさほど低下していないといえる。また、保磁力は本実施例1〜6のいずれの試料においても25kOeという高い値が得られている。角形比は、高R
H体積比が高くなるほど悪化しているものの、第2単位磁石の体積比が35%以下である実施例1〜3の試料では90%以上、特に第2単位磁石の体積比が15%以下である実施例1の試料では95%以上という高い値が得られている。
【0041】
本発明は上記実施例には限定されない。例えば、上記実施例では第1単位磁石及び第2単位磁石にはいずれも焼結磁石を用いたが、熱間塑性加工磁石を用いてもよい。また、上記実施例ではDyの含有量が異なる2種の単位磁石を用いたが、Dyの代わりに又はDyと共に、Tb及び/又はHoの含有量が異なる2種の単位磁石を用いてもよい。さらには、R
Hの含有量が異なる3種以上の単位磁石を用いてもよい。境界面材においても、R
Lの酸化物の代わりに又は該酸化物と共に、R
Lの水酸化物及び/又は炭化物を用いることができる。また、R
H含有金属粉末として、Tbの代わりに又はTbと共にDy及び/又はHoを含有する金属粉末を用いることができる。
【0042】
第2単位磁石は、上記実施例では結合型RFeB系磁石の正方形の四隅に設けたが、例えばモータの回転子における回転の前方に該当する二隅のみに設けてもよい。また、接合面は、上記実施例では平面としたが、曲面であってもよい。
【0043】
結合型RFeB系磁石及び各単位磁石の形状も上記実施例には限定されない。例えば、結合型RFeB系磁石の形状には、長方形やその他の形状の板状磁石を用いることができる。また、
図4に示すように、平面の形状が同じである板状の第1単位磁石11Xと第2単位磁石12Xを、境界面材13Xを用いて該平面で接合してもよい。そのような結合型RFeB系磁石10Xは、モータにおいて、第2単位磁石12Xを固定子側に向けて回転子に取り付けることにより、磁界がより強い、固定子に近い位置における保磁力を高めることができる。
【0044】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、
図5に示すように断面が台形である結合型RFeB系磁石30、30Aが挙げられる。
図5(a)に示す結合型RFeB系磁石30では、結合型RFeB系磁石30を横方向に2つに分割した単位磁石を用いており、台形の下辺側の単位磁石を第1単位磁石31、上辺側の単位磁石を第2単位磁石32としている。第1単位磁石31と第2単位磁石32は境界面材33により結合されている。この結合型RFeB系磁石30は、前述の結合型RFeB系磁石10Xと同様の効果を奏する。
【0045】
あるいは、
図5(b)に示すように、断面が台形であって、当該台形の左右両端付近に第2単位磁石321A及び322Aを用い、それらの間に第1単位磁石31Aを用いた結合型RFeB系磁石30Aも本発明に含まれる。第2単位磁石321A及び322Aはそれぞれ、境界面材331A及び332Aにより、第1単位磁石31Aと接合される。一般に、このような形状の磁石では、台形の両端付近において他の部分よりも厚みが薄いことにより、磁化の分極によって形成される反磁界が強くなり、当該部分の保磁力が低下するが、本実施例の結合型RFeB系磁石30Aでは、その部分に第2単位磁石321A及び322Aを用いているため、保磁力の低下を抑えることができる。
【0046】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、
図6に示すように、一面においてのみ弧面(一方向にのみ曲率を有する面)を有する直方体形状が挙げられる。例えば、
図6(a)に示す結合型RFeB系磁石40では、横方向に2つに分割した単位磁石のうち弧面側の単位磁石を第2単位磁石42、他方の単位磁石を第1単位磁石41として両者を境界面材43で接合した構成を有する。また、
図6(b)に示す結合型RFeB系磁石40Aは、弧の両端付近に第2単位磁石421A及び422Aを用い、それらの間に第1単位磁石41Aを配置して、第1単位磁石41Aと第2単位磁石421A、422Aをそれぞれ境界面材431A、432Aで接合した構成を有する。これら結合型RFeB系磁石40及び40Aはそれぞれ、前述の結合型RFeB系磁石30及び30Aと同様の効果を奏する。
【0047】
結合型RFeB系磁石の形状の別の例として、
図7に示すように、第1弧面501及び該第1弧面501の反対面である第2弧面502を有する扇面体形状を有する扇面体が挙げられる。例えば、
図7(a)に示す結合型RFeB系磁石50は、扇面体が第1弧面501及び第2弧面502の間の弧面で分割された第1単位磁石51と第2単位磁石52を境界面材53で接合した構成を有する。なお、第1単位磁石51と第2単位磁石52の接合面は第1弧面501及び第2弧面502と交わっていない。また、第1弧面501と第2弧面502は、断面において同心円弧であってもよいし、同心円弧でなくてもよい。
図7(b)に示す結合型RFeB系磁石50Aは、第1弧面501及び第2弧面502の両端付近に第2単位磁石521A及び522Aを用い、それらの間に第1単位磁石51Aを配置して、第1単位磁石51Aと第2単位磁石521A、522Aをそれぞれ境界面材531A、532Aで接合した構成を有する。これら結合型RFeB系磁石50及び50Aはそれぞれ、前述の結合型RFeB系磁石30及び30Aと同様の効果を奏する。