(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464617
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】剛性強化環およびそれを用いたタイヤ加硫方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20190128BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20190128BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-173492(P2014-173492)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-47626(P2016-47626A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第1358997(EP,A2)
【文献】
特開2014−113733(JP,A)
【文献】
特開2013−111885(JP,A)
【文献】
特開2012−232517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤを金型内にセットし、ブラダーを前記グリーンタイヤの内側からタイヤ径方向外側へ押し付けて加硫成形するとき前記グリーンタイヤのトレッド部に相当する領域の内周面と、前記ブラダーのトレッド部に相当する領域の外周面の間に介在させる円筒形の環であり、該環の周方向に所定量の引張り変形をさせるのに要する応力が、周方向に所定量の圧縮変形をさせるのに要する応力よりも大きく、かつ前記環の外径が加硫したタイヤの内径と略同等で、前記環の幅が加硫したタイヤのトレッド部の幅と略同等であり、かつ加硫したタイヤおよびブラダーと分離可能であることを特徴とする剛性強化環。
【請求項2】
撚り構造を有する補強線材を少なくともタイヤ周方向に巻回した補強体を、未加硫ゴムで被覆し、これを加硫した環からなることを特徴とする請求項1に記載の剛性強化環。
【請求項3】
前記環のタイヤ周方向の引張り剛性が、前記ブラダーのタイヤ周方向の引張り剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の剛性強化環。
【請求項4】
グリーンタイヤを金型内にセットし、前記グリーンタイヤの内側にブラダーを挿入して膨張させることによりタイヤ径方向外側へ押し付けて加硫成形するタイヤ加硫方法であって、前記グリーンタイヤのトレッド部に相当する領域の内周面と、前記ブラダーのトレッド部に相当する領域の外周面の間に、請求項1〜3のいずれかに記載の剛性強化環を介在させた状態で前記ブラダーを膨張させることを特徴とするタイヤ加硫方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の剛性強化環の外周に、前記グリーンタイヤの構成部材を一体的にアッセンブリしたグリーンタイヤ組み立て体を製作し、該グリーンタイヤ組み立て体を前記金型内にセットすることを特徴とする請求項4に記載のタイヤ加硫方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の前記剛性強化環を、予め成形したグリーンタイヤの内腔に挿入してグリーンタイヤ組み立て体を製作し、その内側にブラダーを挿入する特徴とする請求項4に記載のタイヤ加硫方法。
【請求項7】
前記グリーンタイヤ組み立て体を、複数に分割可能な金型の内側にセットすることを特徴とする請求項5または6に記載のタイヤ加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの加硫成形に使用する環状部材およびそれを用いたタイヤ加硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤを加硫成形する方法として、金型の内部にグリーンタイヤをセットした後、そのグリーンタイヤの内部に加硫用ブラダーを挿入してスチーム等を注入・充填し膨張させることにより、グリーンタイヤを加圧・加熱することが多い。しかし加硫用ブラダーを使用した加硫成形では、空気入りタイヤの構成部材が流動し設計された通りに配置されないことが起こり得る。このような場合、所期のタイヤ性能が発揮できない虞がある。また高性能な空気入りタイヤを製造するには、タイヤ構成部材の配置精度を一層高くすることが必要である。
【0003】
空気入りタイヤの寸法精度を高くしてタイヤ性能を高めるため、剛性中子を内型として使用する加硫方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、剛性中子を用いた加硫方法では、加硫時のタイヤの熱膨張に対処することが難しく適用可能なタイヤ形状が限定されること、加硫したタイヤを内型から取り外すのが困難で生産性が低いことに加え、製造コストが高くなるという問題がある。このため空気入りタイヤの寸法精度を高くしながら、設計自由度および生産性を低下させないようにした空気入りタイヤの加硫方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−69497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、空気入りタイヤの寸法精度を高くしながら、設計自由度および生産性を低下させないようにしたタイヤ加硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の剛性強化環は、グリーンタイヤを金型内にセットし、ブラダーを前記グリーンタイヤの内側からタイヤ径方向外側へ押し付けて加硫成形するとき前記グリーンタイヤのトレッド部に相当する領域の内周面と、前記ブラダーのトレッド部に相当する領域の外周面の間に介在させる円筒形の環であり、該環を周方向に所定量の引張り変形をさせるのに要する応力が、周方向に所定量の圧縮変形をさせるのに要する応力よりも大き
く、かつ前記環の外径が加硫したタイヤの内径と略同等で、前記環の幅が加硫したタイヤのトレッド部の幅と略同等であり、かつ加硫したタイヤおよびブラダーと分離可能であることを特徴とする。
【0007】
また本発明のタイヤ加硫方法は、グリーンタイヤを金型内にセットし、前記グリーンタイヤの内側にブラダーを挿入して膨張させることによりタイヤ径方向外側へ押し付けて加硫成形するタイヤ加硫方法であって、前記グリーンタイヤのトレッド部に相当する領域の内周面と、前記ブラダーのトレッド部に相当する領域の外周面の間に、前記剛性強化環を介在させた状態で前記ブラダーを膨張させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の剛性強化環およびこれを用いたタイヤ加硫方法によれば、グリーンタイヤのトレッド部の内周面と、ブラダーのトレッド部の外周面の間に、その周方向の引張り応力が圧縮応力よりも大きい剛性強化環を配置して加硫成形するので、ブラダーの外径が丸く膨らむのを抑制することによりタイヤの内周面の形状を限定しタイヤ径方向の厚さを調節することができる。またブラダーはタイヤ径方向への膨張が抑制されるので、タイヤ幅方向への膨張が大きくなるのでタイヤショルダー部の厚さを薄くすることができる。これにより空気入りタイヤの寸法精度を高くすることができる。さらに剛性強化環の外径、幅を適宜、調整することによりタイヤの設計自由度をより高くすることができる。しかも剛性強化環を既存のブラダーと共に使用するだけでよいので、生産性を維持すると共に製造コストを悪化させることがない。
【0009】
剛性強化環は、撚り構造を有する補強線材を少なくともタイヤ周方向に巻回した補強体を、未加硫ゴムで被覆し、これを加硫した環であるとよい。さらに剛性強化環のタイヤ周方向の引張り剛性が、ブラダーのタイヤ周方向の引張り剛性よりも大きいことが好ましい。この剛性強化環は、周方向の引っ張り以外の変形は弱い力で達成でき、加硫成形した空気入りタイヤからの取り外しが容易で、繰り返し加硫成形に使用することができる。
【0010】
本発明のタイヤ加硫方法において、剛性強化環の外周に、グリーンタイヤの構成部材を一体的にアッセンブリしたグリーンタイヤ組み立て体を製作し、該グリーンタイヤ組み立て体を金型内にセットすることができる。剛性強化環を、予め成形したグリーンタイヤの内腔に挿入して密着させグリーンタイヤ組み立て体を製作し、その内側にブラダーを挿入することができる。これらグリーンタイヤ組み立て体は、複数に分割可能な金型の内側にセットするとよい。
【0011】
本発明のタイヤ加硫方法は、上述した剛性強化環を用いてグリーンタイヤを加硫することにより寸法精度が高く、高品質の空気入りタイヤを安定的に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の剛性強化環を使用したタイヤ加硫方法の実施形態の一例を子午線方向断面で模式的に示す説明図である。
【
図2】(a)(b)(c)は、本発明の剛性強化環の実施形態の一例を模式的に示す説明図であり、(a)は剛性強化環の斜視図、(b)は(a)の剛性強化環の表面の一部を取り除いて示す斜視図、(c)は剛性強化環の他の実施形態の斜視図である。
【
図3】(a)(b)(c)は、加硫時の金型の開閉を模式的に示す説明図であり、(a)はグリーンタイヤを金型にセットするとき、(b)は加硫するとき、(c)は加硫したタイヤを取り出すときのタイヤの赤道方向の断面図である。
【
図4】本発明の剛性強化環を使用した実施例において、加硫時の膨張したブラダーの断面図である。
【
図5】従来技術を示す比較例において、加硫時に膨張したブラダーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の剛性強化環を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、加硫成形時の金型1、加硫用ブラダー2(以下、「ブラダー2」という。)およびグリーンタイヤTを模式的に示す説明図である。
図1では、ブラダー2が膨張することにより、グリーンタイヤTが金型1の内面に押し付けられた様子を示している。またグリーンタイヤTは、トレッド部T1、サイド部T2およびビード部T3からなる。
【0015】
本発明では、グリーンタイヤTのトレッド部T1に相当する領域の内周面と、ブラダー2のトレッド部T1に相当する領域の外周面の間に、剛性強化環3が配置される。剛性強化環3は円筒形の環であり、その周方向に所定量の引張り変形をさせるのに要する応力が、周方向に所定量の圧縮変形をさせるのに要する応力よりも大きいことが必要である。すなわち剛性強化環3は、タイヤ周方向に伸長し難く、かつ圧縮しやすい性質を有する。
【0016】
剛性強化環3をブラダー2の外周に外嵌めすることにより、加硫成形時にブラダー2膨張するとき、剛性強化環3が周方向に伸長し難くその直径の変化を抑制するので、ブラダーの外径、とりわけクラウン部(トレッド部)が意に反して丸く膨らむのを抑制し、ブラダー2の外周形状を制限する。すなわち剛性強化環3を使用することにより、加硫成形時にブラダー2膨張するときのタイヤの内周面の形状を限定し、トレッド部に相当する領域におけるタイヤ径方向の厚さを調節し寸法精度を高くすることができる。このため剛性強化環3は、そのタイヤ周方向の引張り剛性が、ブラダー2のタイヤ周方向の引張り剛性よりも大きいことが好ましい。
【0017】
また剛性強化環3に外嵌めされたブラダー2は、タイヤ径方向への膨張が制限されるため、剛性強化環3の開口部、すなわちタイヤ幅方向へ膨張しやすくなる。これにより従来、金型の内面へ接触するのが比較的遅く押付け力を十分に付与することが難しいため、加硫時間が長くなる原因の1つであったグリーンタイヤのショルダー領域に対して十分に加熱・加圧処理を施すことができる。すなわち剛性強化環3を使用することにより、タイヤショルダー部の厚さを薄くして寸法精度を高くすると共に、加硫時間を短くすることができる。
【0018】
剛性強化環3は、その周方向の引張り応力が大きいことに加え、周方向の圧縮応力が小さいという特徴を有する。タイヤの加硫成形の初期段階では、タイヤ内面に近いカーカスやベルト層等のゴムの加硫が進行し、次の中期段階以降にタイヤ内部を含むタイヤ断面全体の加硫が進行する。未加硫ゴムの加硫が進行すると熱膨張によりゴムの体積が増大する。このため中期段階以降にタイヤ断面全体の加硫が進行すると、熱膨張のために初期段階で加硫が進行したタイヤ内面に近い加硫ゴムは、タイヤ内腔の周長が収縮するように、径方向内側に変形する。したがって、加硫成形の初期段階でブラダー2の膨張によりその周長を拡大した剛性強化環3は、中期段階以降では周長を縮小させる必要がある。本発明の剛性強化環3は、周方向の圧縮応力が小さいため、中期段階以降の加硫ゴムの挙動に追従することができ、バックリング等の故障が起きるのを防ぐことができる。
【0019】
図2(a)〜(c)は、本発明の剛性強化環3の実施形態の一例を模式的に示す説明図である。
図2に示す通り、剛性強化環3は円筒形の環であり、その寸法は特に限定されるものではないが、その外径が加硫したタイヤの内径と略同等で、環の幅が加硫したタイヤのトレッド部の幅と略同等であるとよい。これにより、タイヤのトレッド部に相当する領域の径方向内側の形状を調整することができる。
【0020】
なお
図2(a)は、その外径がタイヤ幅方向に一定である円筒形の剛性強化環3を例示するが、剛性強化環3の外径は図示の例に限定されるものではない。例えばタイヤ断面の内周縁を直線状にした空気入りタイヤを製造するときは、
図2(a)に例示する剛性強化環3をそのまま使用することができる。一方、タイヤ断面の内周縁を円弧状に設計した空気入りタイヤを製造するときは、剛性強化環3の外径を、設計した円弧に沿うようにタイヤ幅方向に変化させることができる。すなわち設計されたタイヤの断面形状に応じて剛性強化環3の形状を決めるとよい。これによりタイヤの設計自由度をより高くすることができる。
【0021】
剛性強化環3は、周方向の引張り応力が圧縮応力より大きい特徴を有するものであれば、その構成が特に制限されるものではない。剛性強化環3としては、例えば
図2(b)に示すように、撚り構造を有する補強線材4を少なくともタイヤ周方向に巻回した補強体を、未加硫ゴム5で被覆し、これを加硫した環であることが好ましい。剛性強化環3を、撚り構造の補強線材からなる加硫ゴムで構成することにより、周方向の引張り応力を大きく、周方向の圧縮応力を小さくすると共に、未加硫ゴムおよびブラダーと接着しないようにするとよい。これにより加硫したタイヤの離型性を良好にすることができる。また剛性強化環3は、金型1から取り出した加硫済みのタイヤの内側から容易に剥離させて取り出すことができる。
【0022】
剛性強化環3を構成する補強線材4としては、有機繊維コード、スチールコードが挙げられる。有機繊維コードとしては、例えばポリエステル繊維コード、ポリアミド繊維コード、レーヨン繊維コード、アラミド繊維コード、ポリエチレンナフタレート繊維コード、ポリオレフィンケトン繊維コード、アクリル繊維コード等が例示される。これら繊維コードの撚り構造は、剛性強化環3にしたとき所定の引張り応力および圧縮応力が得られるように適宜、決めることができる。また補強線材4に適当な張力をかけながらタイヤ周方向に螺旋状に巻回することにより補強体を形成する。補強線材4の撚り構造および巻回時の張力により、剛性強化環3の周方向の引張り応力を調節することができる。
【0023】
剛性強化環3は、上述した補強線材3からなる補強体を、未加硫ゴム5のシートで挟み込むなどして被覆し、加硫することにより得られる。未加硫ゴム5での被覆方法は、予め補強線材3を未加硫ゴムで被覆しておき、これをタイヤ周方向に螺旋状に巻回してもよい。
【0024】
また剛性強化環3を構成するゴム成分は、特に限定されるものではなく、加硫ブラダー用ゴム組成物やタイヤ用ゴム組成物を通常、構成するゴム成分であればよい。ゴム成分としては、例えばブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等を例示することができる。
【0025】
剛性強化環3の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜7mmであるとよい。剛性強化環3の厚さが1mm未満であると、加硫成形時におけるタイヤ内周面の形状を調節する作用が十分に得られない虞がある。また剛性強化環3の厚さが10mmを超えると、加硫成形の中期段階以降に周長を縮小させる作用が十分に得られない虞がある。また、加硫されるタイヤの形状や大きさなどに応じて、剛性強化環3の最適な厚さは一律ではない。
【0026】
また剛性強化環3は、
図2(c)に示すように、タイヤ幅方向端部の厚さを、中央領域の厚さよりも薄くすることができ、幅方向端部近くの所定の位置から端部に向けてテーパ6を設けて少しずつ厚さを薄くするとよい。剛性強化環3の端部にテーパ6を設けることにより、剛性強化環3の端部の境界線でのタイヤ内周面の形状変化を緩やかにすることができる。
【0027】
剛性強化環3は、既存のブラダー2と共に使用して加硫成形するだけでよいので、従来の生産性を維持すると共に製造コストを悪化させることがない。
【0028】
以下、剛性強化環3を使用した空気入りタイヤの加硫方法について説明する。本発明のタイヤ加硫方法は、グリーンタイヤTのトレッド部T1に相当する領域の内周面と、ブラダー2の外周面の間に、上述した剛性強化環3を介在させた状態を金型1内にセットし、ブラダー2を膨張させることにより加硫成形する。上述した通り、ブラダー2の外周を剛性強化環3が外嵌めした構成になるので、タイヤ内周側の形状が剛性強化環3の外周形状により規定されると共に、ショルダー部におけるグリーンタイヤの押圧を有効に作用させることができる。
【0029】
本発明の加硫方法において、剛性強化環3の外周に、グリーンタイヤTの構成部材を一体的にアッセンブリしたグリーンタイヤ組み立て体を製作し、得られたグリーンタイヤ組み立て体を金型1内にセットすることができる。これによりグリーンタイヤTのトレッド部T1に相当する領域の内周面に剛性強化環3を確実に配置することができ、タイヤの寸法精度をより高くすることができる。
【0030】
また別の実施形態として、予めグリーンタイヤTを通常の方法で成形し、得られたグリーンタイヤTの内腔に剛性強化環3を挿入してグリーンタイヤ組み立て体を製作し、これを金型1内にセットすることができる。これによりグリーンタイヤ組み立て体を容易に製作することができる。
【0031】
得られたグリーンタイヤ組み立て体をセットする金型としては、
図3(a)〜(c)に示すように、複数に分割可能な金型1を好ましく使用することができる。
図3(a)(b)(c)は、加硫成形時の金型の開閉を、タイヤの赤道方向の断面図で、模式的に示す説明図である。
図3(a)はグリーンタイヤを金型にセットするとき、(b)は加硫するとき、(c)は加硫したタイヤを取り出すときのタイヤの赤道方向の断面図である。
【0032】
図3(a)に例示するように、複数に分割可能な金型1を使用することにより、加硫成形したタイヤの直径とほぼ同じ径を有するグリーンタイヤ組み立て体を、金型1内にセットするのが容易になる。このようなセクショナル金型の分割数は、タイヤ形状およびタイヤサイズに応じて決めることができる。
【0033】
本発明のタイヤ加硫方法により得られた空気入りタイヤは、設計された値に近い寸法精度を有するため、意図したタイヤ性能をより確実に達成することができる。例えば
図2(a)に例示した円筒形の剛性強化環を用いて加硫成形された空気入りタイヤは、トレッド部をフラットにし、かつトレッド部の中央領域の厚さが薄くなるのを防ぎ、略均一の厚さにすることができる。これにより空気入りタイヤの転がり抵抗をより小さくすることができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
同一仕様のグリーンタイヤ(タイヤサイズ205/55R16)を製造するとき、実施例1では剛性強化環を使用して加硫成形し、比較例1では剛性強化環を使用しなかった。なお剛性強化環としては、ポリエステル繊維コード(総繊度2200dtex、撚り構造が46×46(2本撚り)であるコード)をタイヤ周方向に螺旋状にエンド数50本/50mmで巻回しブチルゴムで被覆し加硫した円筒形の環(直径570mm、厚さ2.3mm)を用いた。
【0036】
実施例1および比較例1における加硫成形時に膨張したブラダーの断面の形態をシミュレーションした結果を
図4および
図5に示す。
図4に示した実施例1におけるブラダーが膨張した断面形態では、トレッド部に相当する領域がフラットであり、トレッド部をフラットにした空気入りタイヤを、厚みを略均一にして加硫することができる。さらにタイヤショルダー部へもブラダーが膨張し十分に押圧することが期待される。
【0037】
一方、
図5に示した比較例1におけるブラダーが膨張した断面形態では、トレッド部に相当する領域において、ブラダーが径方向外側に丸く膨らんでいる。このため、トレッド部をフラットにした空気入りタイヤを加硫成形しようとすると、トレッド部の中央領域の厚さが薄くなってしまうことが懸念される。またタイヤショルダー部へのブラダーの膨張が実施例1と比べて少ないことが認められる。
【0038】
実施例1および比較例1で得られたタイヤを、それぞれリム(16×6.5J)に装着し、空気圧をJATMA規定空気圧にして、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)にかけて、試験荷重2.94kN、速度50km/時の抵抗力を測定し、転がり抵抗とした。その結果、比較例1の抵抗力を100とすると実施例1の抵抗力は90であった。これにより実施例1の方法で加硫成形した空気入りタイヤはトレッド部の形状をよりフラットに形成し、転がり抵抗を大幅に低減することが認められた。
【符号の説明】
【0039】
1 金型
2 加硫ブラダー
3 剛性強化環
4 補強線材
5 未加硫ゴム
6 テーパ
T グリーンタイヤ
T1 トレッド部
T2 サイド部
T3 ビード部