特許第6464897号(P6464897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6464897-燃料電池スタック 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6464897
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20190128BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20190128BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20190128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190128BHJP
【FI】
   H01M8/0228
   H01M8/0213
   H01M8/0215
   !H01M8/10 101
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-79220(P2015-79220)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-201205(P2016-201205A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2017年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】両角 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 孝俊
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−141732(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0037710(US,A1)
【文献】 特開2003−331861(JP,A)
【文献】 特開2006−100246(JP,A)
【文献】 特開2016−030845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0228
H01M 8/0202
H01M 8/0213
H01M 8/0215
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを発電体の両面に配置した単セルを複数積層して構成された燃料電池スタックであって、
前記セパレータが、
当該セパレータの一面側に形成された窒化チタン層と、当該窒化チタン層上に形成された導電性の炭素層と、を介して前記発電体と当接していると共に、
当該セパレータの他面側に形成された窒化チタン層を介して、隣接する他の前記セパレータの他面側と当接している、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池単セル(以下「単セル」という。)用のセパレータとして、セパレータの表面に窒化チタン(TiN)膜を形成することでセパレータの表面を酸化しにくくして酸化被膜の発生を抑制し、セパレータの接触抵抗が初期値から経時的に増大するのを抑制したものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−034113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来のセパレータを備える単セルを用いた燃料電池スタックによれば、セパレータの接触抵抗の経時的な増大を抑制できるので、燃料電池スタックの内部抵抗の経時的な増大を抑制して燃料電池スタックの出力低下を抑制できる。一方で、燃料電池スタックの更なる出力性能の向上を図るためには、燃料電池スタックの内部抵抗を低減させることも重要である。
【0005】
本発明はこのような点に着目してなされたものであり、セパレータに適切な表面処理を施し、内部抵抗を低減させると共にその経時的な増大を抑制することで出力性能を向上させた燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によれば、セパレータを発電体の両面に配置した単セルを複数積層して構成された燃料電池スタックであって、セパレータが、当該セパレータの一面側に形成された窒化チタン層と、当該窒化チタン層上に形成された導電性の炭素層と、を介して発電体と当接していると共に、当該セパレータの他面側に形成された窒化チタン層を介して、隣接する他のセパレータの他面側と当接している燃料電池スタックが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のこの態様によれば、燃料電池スタックの内部抵抗を低減させると共に内部抵抗の経時的な増加を抑制して燃料電池スタックの出力性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態による燃料電池スタックの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態による燃料電池スタック100の要部断面図である。
【0011】
燃料電池スタック100は、複数の単セルを積層方向に沿って互いに積層し、各単セル10を電気的に直列に接続したものである。
【0012】
各単セル10は、酸化剤ガス(例えば空気)と、燃料ガス(例えば水素)と、の電気化学反応により起電力を発生する固体高分子型燃料電池であって、発電体1と、発電体1の両面にそれぞれ配置された一対のセパレータ2と、を備える。
【0013】
発電体1は、例えばMEGA(Membrane Electrode and Gas Diffusion Layer Assembly)やMEA(Membrane Electrode Assembly)である。本実施形態では発電体1をMEGAとしている。
【0014】
図1に示すように、発電体1としてのMEGAは、固体高分子材料で形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜(以下「電解質膜」という。)11の両面に触媒層12を形成し、さらに触媒層12の表面にガス拡散層13を形成してそれらを一体化したものである。触媒層12は、白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材により形成される。ガス拡散層13は、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体などのガス透過性を有する導電性部材によって形成される。一方でMEAは、電解質膜11の両面に、触媒層12を形成して一体化したものである。
【0015】
セパレータ2は、導電性やガス不透過性などに優れた金属を基材とする板状の部材であって、その一面側が発電体1と当接し、他面側が隣接する他のセパレータ2の他面側と当接している。本実施形態では、セパレータ2の基材をチタンとしている。
【0016】
セパレータ2は、発電体1の表面とセパレータ2の一面側との間にガス流通路21としての空間が生じるように、また、当該セパレータ2の他面側と当該セパレータ2に隣接する他のセパレータ2の他面側との間に冷媒流通路22としての空間が生じるように、例えばセパレータ2に対してプレス加工を施すことによってセパレータ2の一部を部分的に突出させ、断面が波形となるように形成されている。発電体1を介して対向する一方のガス流通路21aに酸化剤ガスが供給され、他方のガス流通路21bに燃料ガスが供給されると、発電体1内で電気化学反応が生じて起電力が生じる。
【0017】
セパレータ2の一面側及び他面側には、それぞれ窒化チタン膜3が形成されている。セパレータ2の表面に窒化チタン膜3を形成する方法は特に限られるものではなく、例えばチタンを基材とするセパレータ2の表面に対して窒素を含有する雰囲気中で窒化処理を施すことによって窒化チタン膜3を形成する方法や、チタンを基材とするセパレータ2の表面に対して100[V]未満のバイアス電圧を印加しつつドライコート法によって窒化チタン膜3を形成する方法が挙げられる。
【0018】
本実施形態では、チタンを基材とするセパレータ2の表面に対し、窒素を含有する雰囲気中で窒化処理を施すことによってセパレータ2の表面に窒化チタン膜3を形成している。窒化処理の処理時間は、例えば数秒から3時間程度、処理温度は例えば300℃から1300℃程度である。このような窒化処理を施すことによって、セパレータ2の表面に膜厚が10[nm]から200[μm]程度の窒化チタン膜3が形成される。なお、図1において、窒化チタン膜3の膜厚やセパレータ2の板厚、発電体1の板厚などは、正確なものではなく、発明の理解を容易にするためにそれぞれ調整している。
【0019】
セパレータ2の表面に窒化チタン膜3を形成することで、セパレータ2の表面を酸化しにくくして酸化被膜の発生を抑制することができるので、セパレータ2の接触抵抗が経時的に増大するのを抑制することができる。結果として、燃料電池スタック100の内部抵抗の経時的な増大を抑制することができるので、燃料電池スタック100の出力低下を抑制することができる。
【0020】
そして本実施形態では、発電体1に対面するセパレータ2の一面側に形成された窒化チタン膜3の表面にのみ、膜厚が窒化チタン膜3と同程度の導電性の炭素膜4を形成している。窒化チタン膜3の表面に導電性の炭素膜4を形成する方法は特に限られるものではなく、例えばカーボン、樹脂及び溶媒を混合させた混合物を、窒化チタン膜3の表面にスプレーで塗装することにより形成する方法や、転写により形成する方法が挙げられる。
【0021】
このように、発電体1に対面するセパレータ2の一面側に形成された窒化チタン膜3の表面にのみ、導電性の炭素膜4を形成したのは、以下の知見によるものである。
【0022】
燃料電池スタック100の出力自体を向上させる方法の一つとして、セパレータ2の接触抵抗を低減させて燃料電池スタック100の内部抵抗を低減させることが挙げられる。そこで本件発明者らは、窒化チタン膜3の表面に、さらに導電性の炭素膜4を形成することでセパレータ2の接触抵抗を低減させる試みを行った。その結果、セパレータ2の一面側と発電体1との界面における接触抵抗については低減させることができたが、隣接する一方のセパレータ2の他面側と他方のセパレータ2の他面側との界面、すなわち隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗については逆に増大することが確認された。
【0023】
セパレータ2の一面側と発電体1との界面における接触抵抗の比較試験は、セパレータ2の一面側にガス拡散層13としてのカーボンペーパを載せて積層方向に1[MPa]の一定の圧縮荷重を加えた状態で、1[A]の電流を流したときのカーボンペーパ及びセパレータ2間に印加される電圧を測定することで行った。その結果は、以下の表1の通りであり、発電体1に対面するセパレータ2の一面側においては、窒化チタン膜3の表面に導電性の炭素膜4を形成したほうが、セパレータ2の一面側と発電体1との界面における接触抵抗が低減することがわかる。
【0024】
【表1】
【0025】
一方で、隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗の比較試験は、2枚のセパレータ2のそれぞれの他面側を重ね合わせて積層方向に1[MPa]の一定の圧縮荷重を加えた状態で、1[A]の電流を流したときのセパレータ2間に印加される電圧を測定することで行った。その結果は、以下の表2の通りであり、セパレータ2の他面側においては、窒化チタン膜3の表面に導電性の炭素膜4を形成してしまうと、隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗が逆に増大してしまうことがわかる。
【0026】
【表2】
【0027】
したがって本実施形態のように、発電体1に対面するセパレータ2の一面側に形成された窒化チタン膜3の表面にのみ導電性の炭素膜4を形成することで、各単セル10を積層して燃料電池スタック100を形成したときに、燃料電池スタック100の内部抵抗を低減することができるので、燃料電池スタック100の出力自体の向上を図ることができる。
【0028】
なお、セパレータ2の他面側において、窒化チタン膜3の表面に導電性の炭素膜4を形成してしまうと、隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗が増大するのは、以下の理由によるものと推測される。
【0029】
すなわち、導電性の炭素膜4の材料は、導電部材であるカーボンと非導電部材である樹脂とを混合させたものなので、炭素膜4の表面の一部に電流が流れない場所が形成される。そのため、セパレータ2の他面側において、窒化チタン膜3の表面に導電性の炭素膜4を形成してしまうと、隣接するセパレータ2間で炭素膜4と炭素膜4とが当接することになって、電流が流れない場所(表面積)が増大し、接触抵抗が増大したものと推測される。
【0030】
以上説明した本実施形態によれば、セパレータ2を発電体1の両面に配置した単セル10を複数積層して構成された燃料電池スタック100の内部において、セパレータ2が、当該セパレータ2の一面側に形成された窒化チタン膜3(窒化チタン層)と、当該窒化チタン膜3上に形成された導電性の炭素膜4(炭素層)と、を介して発電体1と当接していると共に、当該セパレータ2の他面側に形成された窒化チタン膜3を介して隣接する他のセパレータ2の他面側と当接している。
【0031】
そのため、燃料電池スタック100の内部抵抗を低減させると共に内部抵抗の経時的な増加を抑制することができ、燃料電池スタック100の出力自体を向上させると共にその低下を抑制して燃料電池スタック100の出力性能を向上させることができる。
【0032】
すなわち本実施形態によれば、セパレータ2の一面側には窒化チタン膜3が形成されているため、セパレータ2の一面側に酸化被膜が形成されるのを抑制してセパレータ2の一面側と発電体1との界面における接触抵抗の経時的な増大を抑制できる。そしてセパレータ2の一面側は、窒化チタン膜3上に形成された導電性の炭素膜4を介して発電体1と当接しているので、セパレータ2の一面側と発電体1との界面における接触抵抗を低減できる。
【0033】
一方で、セパレータ2の他面側にも一面側と同様に導電性の炭素膜4を形成してしまうと、隣接するセパレータ2同士がそれぞれの他面側に形成された導電性の炭素膜4を介して当接してしまい、隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗が増大することがわかった。そのため、本実施形態によれば、セパレータ2の他面側には窒化チタン膜3のみを形成し、隣接するセパレータ2同士がそれぞれの他面側に形成された窒化チタン膜3を介して当接しているので、隣接するセパレータ2間の界面における接触抵抗の増大を防止できると共に接触抵抗の経時的な増大を抑制できる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0035】
例えば上記の実施形態では、セパレータ2の一面側に形成された窒化チタン膜3の表面全体に導電性の炭素膜4を形成していたが、導電性の炭素膜4は、少なくとも発電体1と当接して接触抵抗が生じる部分に形成してあれば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 発電体
2 セパレータ
3 窒化チタン膜(窒化チタン層)
4 炭素膜(炭素層)
10 単セル
100 燃料電池スタック
図1