【文献】
奥田竜志,UV印刷インキの特徴と応用,「ネットワークポリマー」Vol.34 No.5,日本,2013年,第248頁〜第249頁,Fig.3代表的な光開始剤の吸収スペクトル
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化性樹脂は、紫外線を照射することによって硬化する感光材である。このような紫外線硬化性樹脂を硬化する技術は、UVキュアリング技術と称されている。このUVキュアリング技術によれば、例えば、被処理体上に塗布した紫外線硬化性樹脂を硬化することによって乾燥処理すること、および2つの被処理体の間に介在させた紫外線硬化性樹脂を硬化することによって当該2つの被処理体を接着処理することなどができる。
このUVキュアリング技術を利用した処理は、被処理体のサイズにもよるが、紫外線硬化性樹脂を硬化するために要する紫外線照射時間が数秒〜数分間であることから、省エネルギー処理である。また、紫外線を照射することのみによって紫外線硬化性樹脂を硬化することができることから、低温処理でもあるため、耐熱性に乏しいプラスチック、および精密な電子部品などを被処理体とすることもできる。
【0003】
而して、UVキュアリング技術は、上述のような特徴により、様々な分野で利用されている。
具体的には、例えば、電子部品や光学部品の紫外線硬化性樹脂よりなる接着剤による接着処理、紫外線硬化性樹脂よりなる印刷インキの乾燥処理(定着処理)、並びに自動車部品、電化製品、建材およびプラスチック部品などにおける、紫外線硬化性樹脂よりなる着色用塗料の乾燥処理(例えば、特許文献1参照。)などに利用されている。また、塗料の分野においては、着色用塗料だけではなく、自動車および自動二輪車などの車体における艶出し用コーティング材料(ハードコート材料)の乾燥処理にも適用されている。
【0004】
紫外線硬化性樹脂からなる紫外線硬化型塗料において、硬化(紫外線硬化)に寄与する主な成分は、光重合開始剤、光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーである。
この紫外線硬化型塗料において、紫外線硬化は、例えば以下のような硬化反応(紫外線硬化反応)を経ることによってなされものである。
紫外線硬化型塗料に対して紫外線が照射されると、まず光重合開始剤により紫外線が吸収されることにより、当該光重合開始剤が活性化して、ラジカルまたはイオンが生成される。この生成したラジカルまたはイオンが、光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーと反応(重合反応)することにより硬化が生じる。
【0005】
一方、UVキュアリング技術において、紫外線放射手段としては、高圧水銀ランプやメタルハライドランプが用いられている。
高圧水銀ランプは、石英ガラス製の発光管の中に、高純度の水銀と希ガスとが封入されてなるものであり、波長365nmを主波長とし、波長254nm、波長303nmおよび波長313nmの紫外線を効率よく放射する。
一方、メタルハライドランプは、発光管の中に、水銀と共に金属ハロゲン化物が封入されてなるものであり、波長200nm〜400nmの広範囲にわたる光、具体的には紫外線および可視光線を放射する。このメタルハライドランプは、高圧水銀ランプよりも長波長の紫外線の出力が高いものである。
【0006】
そして、紫外線硬化型塗料を艶出し用コーティング材料として用いる場合においては、被処理体の地色(具体的には、例えば被処理体の基体の表面に着色用塗料によって形成された着色層の色、すなわち下地の色)が艶出し用コーティング層(紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層)を介して視認できるよう、当該紫外線硬化型塗料を構成する光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーとして、無色透明性の重合体(硬化体)を形成するものが用いられている。
【0007】
しかしながら、紫外線硬化型塗料によって艶出し用コーティング層が形成された被処理体においては、実際上、被処理体の地色(例えば、下地を構成する着色層の色)が視認できず、黄変した状態に見えてしまう、という問題がある。
具体的に説明すると、紫外線硬化型塗料に含有されている光重合開始剤は、当然ながら紫外線領域の光に感度を有するものであるが、可視光線領域の光にも感度を有するものが多くある(例えば、特許文献2の
図2参照)。すなわち、紫外線硬化型塗料に用いられている光重合開始剤には、感度波長領域の長波長側に、可視光線領域の短波長側の領域(具体的には、藍色〜青色領域)を含むものが多くある。ここに、特許文献2の
図2には、或る種の光重合開始剤の吸収スペクトル分布が示されている。このような可視光線領域の光に感度を有する光重合開始剤を含有する紫外線硬化型塗料は、硬化後においても、当該光重合開始剤が可視光線領域の光の一部を吸収する特性を有している。そのため、例えば白色塗料によって着色層が形成された被処理体に、艶出し用のコーティング層を形成した場合には、被処理体の色合いが黄色っぽく見えてしまう。すなわち、被処理体の下地の色(着色層の白色)が視認できない。このような問題は、被処理体の地色が白色である場合に固有のものではなく、被処理体の地色が白色以外の色である場合においても同様に生じるものである。
【0008】
このような問題を回避するための方策としては、艶出し用コーティング材料として、可視光線領域の光に感度を有さない光重合開始剤を含有する紫外線硬化型塗料を用いることが考えられる。すなわち、紫外線硬化型塗料として、
図5の曲線(A)〜曲線(C)に示すような吸収スペクトル分布(感度波長特性)を有する光重合開始剤を含有するものを用いることが考えられる。
艶出し用コーティング材料として、このような紫外線硬化型塗料を用いることにより、形成された艶出し用コーティング層が可視光線領域の光の一部を吸収することはない。そのため、艶出し用コーティング層が積層された被処理体においては、被処理体の地色(例えば、下地を構成する着色層の色)が視認できる。
【0009】
しかしながら、このような感度波長特性を有する紫外線硬化型塗料を用いた場合においては、紫外線硬化型塗料の硬化が不十分となる、という問題が生じるおそれがある。
具体的に説明すると、
図5から明らかなように、従来から紫外線放射手段として用いられている高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプは、波長300nm以上、特に波長350nmを超える領域において、光強度が大きいという特性を有するものである。ここに、
図5において、曲線(a)は、高圧水銀ランプの発光スペクトル分布を示しており、曲線(c)は、メタルハライドランプの発光スペクトル分布を示している。そして、高圧水銀ランプにおいて最も光強度の大きいピーク波長は、365nmであり、メタルハライドランプにおいて最も光強度の大きいピーク波長は、360nmよりも長い波長である。
一方、可視光線領域の光に感度を有さない光重合開始剤は、
図5の曲線(A)〜曲線(C)から明らかなように、波長350nmを超える領域の光に対して感度が小さい、という感度波長特性(吸収スペクトル分布)を有するものである。
そして、高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプは、いずれも、可視光線領域の光に感度を有さない光重合開始剤が大きな感度を有する波長350nm以下の領域の光を放射するものではあるが、その光強度は、波長350nmを超える領域の光に比して小さいものである。
そのため、被処理体上に艶出し用コーティング層を形成するために、
図5の曲線(A)〜曲線(C)で示されるような感度波長特性を有する光重合開始剤を含有する紫外線硬化型塗料を用いた場合には、紫外線硬化型塗料の紫外線硬化反応が遅くなり、場合によっては、硬化が不十分となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法の実施の形態について説明する。
本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法は、例えば、必要に応じて下地となる着色層が形成された被処理体上に、艶出し用コーティング材料(ハードコート材料)として紫外線硬化型塗料を用い、その紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層、すなわち艶出し用コーティング層(ハードコート層)を形成する方法である。
本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法に適用される被処理体は、紫外線硬化型塗料を塗布することのできる形状であれば、如何なる形状を有するものであってもよい。この被処理体は、例えば金属材料および樹脂材料などよりなる基体の色が地色とされたものであってもよいが、基体の表面に、例えば着色用塗料などによって形成された着色層の色が地色とされたものであってもよい。
【0020】
この本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法は、紫外線硬化型塗料が塗布された被処理体の表面に、紫外線放射手段からの光(紫外線)を照射する紫外線照射工程を経ることにより、当該紫外線硬化型塗料を硬化させるものである。そして、紫外線硬化型塗料として特定の感度波長特性を有するものを用いると共に、紫外線放射手段として特定の発光特性を有するものを用いることを特徴とする。
【0021】
本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法において、紫外線硬化型塗料は、波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有するものである。すなわち、本発明に係る紫外線硬化型塗料は、紫外線に感度を有し、可視光線に感度を有さないものである。
【0022】
紫外線硬化型塗料が波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有するものであることにより、得られる塗料硬化層において、可視光線の吸収に起因する呈色(黄変)の発生が防止される。
ここに、本発明に係る紫外線硬化型塗料の硬化物(塗料硬化層)においては、当該硬化物の波長380nmの光の透過率が、紫外線硬化型塗料自体の波長380nmの光の透過率の95%以上とされる。すなわち、本発明に係る紫外線硬化型塗料の波長380nmの光の透過率(硬化前の透過率)に対する、当該紫外線硬化型塗料の硬化物の波長380nmの光の透過率(硬化後の透過率)の低下率が、5%以下とされる。
【0023】
本発明に係る紫外線硬化型塗料は、紫外線硬化に寄与する主な成分として、光重合開始剤、重合性モノマーおよび重合性オリゴマーを含有し、また必要に応じて溶剤および使用用途等に応じた添加剤が含有されたものである。添加剤としては、例えば酸化防止剤および光安定剤などが挙げられる。ここに、酸化防止剤は、熱による酸化劣化の発生を防止する機能を有するものであり、また光安定剤は、紫外線により生成したラジカルを捕捉する機能を有し、その機能によって着色防止効果を発揮するものである。また、本発明に係る紫外線硬化型塗料を艶出し用コーティング材料として用いる場合においては、当該紫外線硬化型塗料を構成する光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーとしては、通常、無色透明性の重合体(硬化体)を形成するものが用いられる。
この本発明に係る紫外線硬化型塗料は、照射された紫外線が光重合開始剤に吸収されることによって当該光重合開始剤が活性化してラジカルまたはイオンが生成され、そのラジカルまたはイオンが、重合性モノマーおよび重合性オリゴマーと反応することによって重合反応(硬化反応)が生じることにより、紫外線硬化する。すなわち、本発明に係る紫外線硬化型塗料は、光重合開始剤として、波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有する感度波長特性を有するものを用いることにより、特定の感度波長特性を有するものとされている。
【0024】
本発明に係る紫外線硬化型塗料の具体例としては、
図1に示すような感度波長特性を有する光重合開始剤を含有するものなどが挙げられる。
ここに、曲線(A)で示される感度波長特性を有する光重合開始剤(以下、「光重合開始剤(A)」ともいう。)は、波長320〜330nmの範囲に感度のピークを有するものである。また、曲線(B)で示される感度波長特性を有する光重合開始剤(以下、「光重合開始剤(B)」ともいう。)および曲線(C)で示される感度波長特性を有する光重合開始剤(以下、「光重合開始剤(C)」ともいう。)は、いずれも、波長300nm以下の範囲に感度のピークを有するものである。具体的に、光重合開始剤(B)は、波長240〜260nmの範囲に感度のピークを有するものであり、光重合開始剤(C)は、波長230〜250nmの範囲に感度のピークを有するものである。
【0025】
また、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法において、紫外線放射手段は、波長350nm以下の紫外域の範囲にピーク波長を有するものである。
この本発明に係る紫外線放射手段は、紫外線放射手段からの光の利用効率および被処理体および塗料硬化層における熱劣化防止の観点から、紫外線領域の光のみを放射するものであることが好ましいが、波長350nm以下の紫外域の範囲にピーク波長を有していれば、紫外線領域以外の領域の光を放射するものであってもよい。
【0026】
紫外線放射手段が波長350nm以下の範囲にピーク波長を有するものであることにより、当該紫外線放射手段からの光を高い効率で利用し、紫外線照射工程において、紫外線硬化反応を実用的な速度で進行させることができる。
また、実験例(具体的には、実験例2)から明らかなように、紫外線照射工程に供する被処理体において、紫外線放射手段からの光が照射されることに伴う温度上昇を小さくすることができる。そのため、被処理体自体および得られる塗料硬化層において、紫外線放射手段からの光が照射されることに起因して熱劣化が発生することを防止できる。また、特に、後述するように、紫外線照射工程において、被処理体が加熱され、当該被処理体の温度が制御されることによって一定の温度を維持した状態とされる場合においては、その被処理体の温度制御を容易に行うことができる。
【0027】
そして、本発明に係る紫外線放射手段は、希ガス蛍光ランプよりなるものであることが好ましい。
ここに、希ガス蛍光ランプとは、例えば、両端に封止部が形成された、石英ガラスなどの透光性を有する誘電体材料よりなる筒状の発光管を有し、この発光管の内部に、キセノン、アルゴンおよびクリプトンなどの希ガスが封入され、当該発光管の内周面に蛍光体層が形成されたものである。そして、発光管の外周面には、一対の外部電極が、当該発光管の管軸方向に沿って互いに離間して設けられている。このような希ガス蛍光ランプにおいては、一対の外部電極に対して高周波電圧を印加することにより、誘電体(石英ガラスよりなる発光管の管壁)が介在された状態の一対の外部電極の間において放電が形成される。その結果、発光管の内部において希ガスエキシマ分子が形成され、この希ガスエキシマ分子が基底状態に遷移する際、エキシマ光が放出される。このエキシマ光により蛍光体層を構成する蛍光体が励起され、当該蛍光体層から紫外線が発生し、その光が発光管の外部に向かって放射される。
【0028】
本発明に係る紫外線放射手段が希ガス蛍光ランプよりなることにより、当該紫外線放射手段を、紫外線以外の光を放射することのないものとすることができ、更には、紫外線硬化型塗料の種類に応じた所期の光を放射するものとすることができる。
具体的に説明すると、希ガス蛍光ランプは、希ガスの種類および蛍光体層を構成する蛍光体を適宜選択することによって放射光(発光スペクトル分布)を制御することのできるものである。そのため、本発明に係る紫外線放射手段を、紫外線以外の光を放射することのないもの、紫外線硬化型塗料が十分に大きな感度を有する波長領域の光(紫外線)を大きな強度で放射するものとすることができる。
そして、紫外線放射手段が紫外線以外の光を放射することのないものであることによれば、紫外線放射手段からの光を有効に利用することができるため、紫外線照射工程において、工程時間の短縮化を図ることができる。また、紫外線放射手段から熱線(赤外線)が照射されることがないことから、被処理体自体および得られる塗料硬化層において、熱線が照射されて過熱されることに起因して、熱劣化が発生することを防止できる。特に、後述するように、紫外線照射工程において、被処理体が加熱され、当該被処理体の温度が制御されることによって一定の温度(設定温度)を維持した状態とされる場合においては、その被処理体の温度制御を容易に行うことができる。
また、紫外線放射手段が紫外線硬化型塗料の種類に応じた所期の光を放射するものであることによれば、紫外線放射手段からの光をより一層高い効率で利用し、紫外線照射工程において、紫外線硬化反応を実用的な速度で進行させることができることから、極めて長時間を要することなく塗料硬化層を形成することができる。
【0029】
本発明に係る紫外線放射手段を構成する希ガス蛍光ランプの具体例としては、
図2において曲線(a)〜曲線(d)で示すような発光スペクトル分布を有する光を放射するものなどが挙げられる。
ここに、曲線(a)で示される発光スペクトル分布を有する光を放射する希ガス蛍光ランプ(以下、「希ガス蛍光ランプ(a)」ともいう。)は、希ガスとしてキセノンが用いられ、蛍光体層を構成する蛍光体としてセリウム付活リン酸ランタン系蛍光体(LaPO
4 :Ce)が用いられており、波長320nm付近にピーク波長を有するものである。曲線(b)で示される発光スペクトル分布を有する光を放射する希ガス蛍光ランプ(以下、「希ガス蛍光ランプ(b)」ともいう。)は、希ガスとしてキセノンが用いられ、蛍光体層を構成する蛍光体としてビスマス付活ホウ酸イットリウムアルミニウム系蛍光体(YAl
3 B
4 O
12:Bi)が用いられており、波長290nm付近にピーク波長を有するものである。曲線(c)で示される発光スペクトル分布を有する光を放射する希ガス蛍光ランプ(以下、「希ガス蛍光ランプ(c)」ともいう。)は、希ガスとしてキセノンが用いられ、蛍光体層を構成する蛍光体としてプラセオジム付活ホウ酸イットリウムアルミニウム系蛍光体(YAl
3 B
4 O
12:Pr)が用いられており、波長250nm付近にピーク波長を有するものである。また、曲線(d)で示される発光スペクトル分布を有する光を放射する希ガス蛍光ランプ(以下、「希ガス蛍光ランプ(d)」ともいう。)は、希ガスとしてキセノンが用いられ、蛍光体層を構成する蛍光体としてプラセオジム付活リン酸ランタン系蛍光体LaPO
4 :Prが用いられており、波長230nm付近にピーク波長を有するものである。
【0030】
これらの希ガス蛍光ランプ(a)〜希ガス蛍光ランプ(d)は、紫外線硬化型塗料の種類(感度波長特性)に応じて適宜に用いられる。
具体的には、紫外線硬化型塗料として、光重合開始剤(A)を含有するものを用いた場合には、希ガス蛍光ランプ(a)および希ガス蛍光ランプ(b)が用いられることが好ましい。
その理由は、希ガス蛍光ランプ(a)が、光重合開始剤(A)が感度のピークを有する波長320〜330nmの範囲にピーク波長を有するものだからである。一方、希ガス蛍光ランプ(b)は、光重合開始剤(A)が感度のピークを有する波長320〜330nmの範囲にピーク波長を有するものではないが、当該光重合開始剤(A)が、当該希ガス蛍光ランプ(b)がピーク波長を有する290nm付近において十分な感度を有するものだからである。
また、紫外線硬化型塗料として、光重合開始剤(B)を含有するものを用いた場合、および光重合開始剤(C)を用いた場合には、いずれの場合においても、希ガス蛍光ランプ(c)および希ガス蛍光ランプ(d)の少なくとも一方が用いられることが好ましい。
その理由は、光重合開始剤(
B)および光重合開始剤(C)が、いずれも、希ガス蛍光ランプ(c)および希ガス蛍光ランプ(d)がピーク波長を有する波長200〜300nmの範囲において十分な感度を有するものだからである。
【0031】
また、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法においては、紫外線照射工程において、被処理体が加熱され、当該被処理体の温度が制御されることによって一定の温度(設定温度)を維持した状態とされることが好ましい。すなわち、紫外線照射工程において、被処理体に対して紫外線照射が行われている間には、その紫外線照射実施中において、被処理体が一定の温度を維持した状態に加熱処理されることが好ましい。
【0032】
紫外線
照射工程において、被処理体が加熱され、当該被処理体の温度が制御されることによって一定の温度を維持した状態とされることにより、被処理体が過熱されることによって被処理体自体および得られる塗料硬化層において熱劣化が生じるという弊害を伴うことなく、塗料塗布層において紫外線硬化型塗料が十分に硬化され、得られる塗料硬化層が耐摩耗性および耐候性を有するものとなる。また、塗料塗布層において生じる紫外線硬化反応の高速化を図ることができる。その理由は、被処理体が加熱されることにより、熱の作用によって重合反応(熱硬化反応)が生じ、場合によっては、紫外線の作用による重合反応と熱の作用による重合反応とが相乗的に進行することなどにより、紫外線硬化型塗料の硬化反応が促進されるためであると推測される。その結果、紫外線硬化型塗料のキュアリングに要する時間の短縮化を図ることができる。
また、形成すべき塗料硬化層が、50μm以上の厚みの大きいものである場合にも、所期の塗料硬化層を形成することができる。
具体的に説明すると、厚みの大きな塗料硬化層を形成するためには、紫外線硬化型塗料よりなる塗料塗布層の厚みを大きくする必要がある。そして、塗料塗布層の厚みが大きい場合には、本発明に係る紫外線放射手段からの光(紫外線)が当該塗料塗布層の最下面まで到達しないおそれがある。すなわち、塗料塗布層の表面(最上面)に照射された紫外線は、最下面に向かって進行する過程において紫外線硬化型塗料に吸収されることから、最下面に到達する以前に全てが吸収されてしまうおそれがある。そのため、単に本発明に係る紫外線放射手段からの光(紫外線)を照射しただけでは、紫外線が到達することのなかった塗料塗布層の深層部分においては紫外線硬化型塗料の硬化が不十分となる。然るに、被処理体を加熱しつつ紫外線を照射することによれば、熱の作用による重合反応(熱効果反応)が生じることにより、紫外線が十分に照射されない深層部分においても、紫外線硬化型塗料を十分に硬化させることができる。
また、被処理体が、塗料硬化層を形成すべき領域において紫外線放射手段からの光(紫外線)が照射されにくい部分を有する形状のものである場合においても、所期の塗料硬化層を形成することができる。具体的に説明すると、被処理体における被処理領域が平面形状でない場合には、その被処理体の形状によっては、塗料塗布層に、紫外線放射手段からの光(紫外線)が十分に照射されず、紫外線硬化型塗料の硬化が不十分となる部分がある。然るに、被処理体を加熱しつつ紫外線を照射することによれば、熱の作用による重合反応(熱硬化反応)が生じることにより、紫外線が十分に照射されない部分においても、熱硬化反応によって紫外線硬化型塗料を十分に硬化させることができる。
【0033】
この紫外線
照射工程において、被処理体の温度は、用いる紫外線硬化型塗料の硬化物のガラス転移温度より低い温度、すなわち得られる塗料硬化層に変形および変色が生じる温度未満であることが好ましい。
紫外線
照射工程において、被処理体の温度が紫外線硬化型塗料の硬化物のガラス転移温度より低い温度を維持した状態とされることにより、得られる塗料硬化層に変形および変質(変色)が生じることを防止できる。
ここに、紫外線硬化型塗料の硬化物のガラス転移温度は、その紫外線硬化型塗料の種類(紫外線硬化型塗料の組成)によって異なるものであることから、実験等によって予め確認しておく必要がある。
【0034】
このような紫外線
照射工程においては、被処理体は紫外線放射手段とは別個に設けられた加熱手段を有する加熱機構によって加熱処理される。
加熱機構は、例えば、ホットプレートなどの加熱手段と、被処理体の温度を測定する温度測定手段と、当該温度測定手段によって測定される被処理体の温度が一定の温度(設定温度)となるよう、当該加熱手段に対する電力供給を制御する制御手段とによって構成されてなるものである。
【0035】
本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法の具体例としては、後述する、第1のキュアリング方法および第2のキュアリング方法が挙げられる。
第1のキュアリング方法および第2のキュアリング方法のいずれの方法を利用するのかは、被処理体の形状、形成すべき塗料硬化層の厚み、および塗料硬化層の形成に利用することのできる時間などに応じ、紫外線硬化型塗料の種類および紫外線放射手段の種類を考慮して、適宜選択される。
【0036】
〔第1のキュアリング方法〕
第1のキュアリング方法は、下記の(1−1)〜(1−4)の工程を経るものである。
【0037】
(1−1)被処理体の表面に紫外線硬化型塗料を塗布する塗布工程
(1−2)塗布工程を経由した被処理体の表面を前加熱処理する前加熱工程
(1−3)前加熱工程を経由した被処理体の表面に紫外線放射手段からの紫外線を照射する紫外線照射工程
(1−4)紫外線照射工程を経由した被処理体を後加熱処理する後加熱工程
【0038】
この第1のキュアリング方法においては、先ず、被処理体、および本発明に係る紫外線硬化型塗料、すなわち波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有する紫外線硬化型塗料を用意する。そして、用意した紫外線硬化型塗料について、硬化物のガラス転移温度を確認する。
また、本発明に係る紫外線放射手段としては、用意した紫外線硬化型塗料の感度波長特性(吸収スペクトル分布)に応じた発光特性(発光スペクトル分布)を有するものを用意する。
【0039】
(塗布工程)
塗布工程においては、被処理体の表面における塗料硬化層を形成すべき領域の全域に、紫外線硬化型塗料を塗布することにより、塗料塗布層を形成する。
この塗布工程において、紫外線硬化型塗料の塗布量は、形成すべき塗料硬化層の厚み、および紫外線硬化型塗料の種類などに応じて適宜の量とされる。
【0040】
(前加熱工程(プリベーク工程))
前加熱工程においては、大気雰囲気下において、塗布工程において塗料塗布層が形成された被処理体の表面を加熱する前加熱処理を行う。
この前加熱工程を経ることにより、塗料塗布層を構成する紫外線硬化型塗料が溶剤を含有するものである場合には、当該塗料塗布層から紫外線硬化型塗料に含有されている溶剤が蒸発する。すなわち、前加熱工程においては、塗料塗布層に対して溶剤除去処理が行われる。
【0041】
前加熱工程において、被処理体の表面(塗料塗布層)の加熱条件は、当該被処理体の構成材料の種類、紫外線硬化型塗料の種類、および塗料塗布層の厚みなどに応じて適宜設定される。
具体的な加熱条件を挙げると、加熱温度は80℃であり、加熱時間は10分間である。
【0042】
(紫外線照射工程)
紫外線照射工程においては、大気雰囲気下において、前加熱工程において加熱された、塗料塗布層が形成された被処理体の表面に、紫外線放射手段からの光(紫外線)を照射する。
この紫外線照射工程を経ることにより、溶剤除去処理がなされた塗料塗布層において紫外線硬化型塗料が硬化されて、紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層が形成される。すなわち、紫外線照射工程においては、紫外線硬化型塗料の硬化処理が行われる。
【0043】
紫外線照射工程において、被処理体の表面(塗料塗布層)に照射される紫外線の照度は、例えば42mW/cm
2 である。
また、被処理体の表面に対する紫外線の照射時間は、紫外線硬化型塗料の種類、塗料塗布層の厚み、および紫外線放射手段の種類などに応じて適宜設定されるが、例えば8.5分間である。
【0044】
(後加熱工程(アフタベーク工程))
後加熱工程においては、大気雰囲気下において、紫外線照射工程において塗料硬化層が形成された被処理体の表面を加熱する後加熱処理を行う。
この後加熱工程を経ることにより、塗料硬化層が強固なものとされ、その結果、当該塗料硬化層が、実用上必要とされる十分な耐摩耗性および耐候性を有するものとなる。ここに、後加熱工程においては、塗料硬化層において、2成分以上の3次元高分子ネットワークが複雑に絡み合っている状態が形成されることとなる。
【0045】
後加熱工程において、被処理体の表面(塗料硬化層)の加熱条件は、当該被処理体の構成材料の種類、紫外線硬化型塗料の種類、および塗料硬化層の厚みなどに応じて適宜設定されるが、前述のように、紫外線硬化塗料のガラス転移温度より低い温度、すなわち得られる塗料硬化層に変形および変色が生じる温度未満であることが好ましい。
具体的な加熱条件を挙げると、加熱温度は100℃であり、加熱時間は10分間である。
【0046】
〔第2のキュアリング方法〕
第2のキュアリング方法は、第1のキュアリング方法の紫外線照射工程において、前加熱工程を経由した被処理体を加熱しつつ、紫外線放射手段からの紫外線を照射すること以外は、当該第1のキュアリング方法と同様の工程を有するものである。すなわち、第2のキュアリング方法は、下記の(2−1)〜(2−3)の工程を経るものである。
【0047】
(2−1)被処理体の表面に紫外線硬化型塗料を塗布する塗布工程
(2−2)塗布工程を経由した被処理体の表面を前加熱処理する前加熱工程
(2−3)前加熱工程を経由した被処理体の表面を加熱処理しつつ、当該被処理体の表面に紫外線放射手段からの紫外線を照射する紫外線照射工程
【0048】
この第2のキュアリング方法においては、第1のキュアリング方法と同様に、先ず、被処理体、および本発明に係る紫外線硬化型塗料、すなわち波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有する紫外線硬化型塗料を用意する。そして、用意した紫外線硬化型塗料について、硬化物のガラス転移温度を確認する。
また、本発明に係る紫外線放射手段としては、用意した紫外線硬化型塗料の感度波長特性(吸収スペクトル分布)に応じた発光特性(発光スペクトル分布)を有するものを用意する。
【0049】
(塗布工程)
塗布工程においては、被処理体の表面における塗料硬化層を形成すべき領域の全域に、紫外線硬化型塗料を塗布することにより、塗料塗布層を形成する。
この塗布工程において、紫外線硬化型塗料の塗布量は、形成すべき塗料硬化層の厚み、および紫外線硬化型塗料の種類などに応じて適宜の量とされる。
【0050】
(前加熱工程(プリベーク工程))
前加熱工程においては、大気雰囲気下において、塗布工程において塗料塗布層が形成された被処理体の表面を加熱する前加熱処理を行う。
この前加熱工程を経ることにより、塗料塗布層を構成する紫外線硬化型塗料が溶剤を含有するものである場合には、当該塗料塗布層から紫外線硬化型塗料に含有されている溶剤が蒸発する。すなわち、前加熱工程においては、塗料塗布層に対して溶剤除去処理が行われる。
【0051】
前加熱工程において、被処理体の表面(塗料塗布層)の加熱条件は、当該被処理体の構成材料、紫外線硬化型塗料の種類、および塗料塗布層の厚みなどに応じて適宜設定される。
具体的な加熱条件を挙げると、加熱温度は80℃であり、加熱時間は10分間である。
【0052】
(紫外線
照射工程)
紫外線照射工程においては、大気雰囲気下において、前加熱工程において加熱された、紫外線硬化型塗料塗布層が形成された被処理体の表面に、紫外線放射手段からの光(紫外線)を照射すると共に、当該被処理体の表面を加熱処理する。この加熱処理中においては、被処理体の温度が制御されることによって一定の温度(具体的には、例えば紫外線硬化型塗料の硬化物のガラス転移温度より低い温度)を維持した状態とされる。
この紫外線照射工程を経ることにより、溶剤除去処理がなされた塗料塗布層において紫外線硬化型塗料が硬化されて、紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層が形成され、その塗料硬化層が、強固なものとされ、その結果、実用上必要とされる十分な耐摩耗性および耐候性を有するものとなる。すなわち、紫外線照射工程においては、紫外線硬化型塗料の硬化処理および塗料硬化層の強固化処理が行われる。
【0053】
紫外線照射工程において、被処理体の表面(塗料塗布層)に照射される紫外線の照度は、例えば42mW/cm
2 である。
【0054】
紫外線
照射工程において、被処理体の表面(塗料塗布層)の温度(設定温度)、すなわち被処理体の表面(塗料塗布層)の加熱温度は、当該被処理体の構成材料の種類および紫外線硬化型塗料の種類などに応じて適宜設定されるが、前述のように、紫外線硬化型塗料のガラス転移温度より低い温度、すなわち得られる塗料硬化層に変形および変質(変色)が生じる温度未満であることが好ましい。
【0055】
また、紫外線照射工程に要する時間、具体的には、被処理体の表面(塗料塗布層)に対する紫外線照射時間および加熱時間は、当該被処理体の構成材料、紫外線硬化型塗料の種類、紫外線硬化型塗料塗布層の厚み、および紫外線放射手段の種類などに応じて適宜設定されるが、例えば5分間である。
【0056】
このような本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法においては、紫外線硬化型塗料として、波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有するものが用いられていると共に、紫外線放射手段として、波長350nm以下の範囲にピーク波長を有するものが用いられている。そのため、紫外線照射工程において、紫外線放射手段からの光を高い効率で利用して、紫外線硬化型塗料の紫外線硬化反応を実用的な速度で進行させることができる。また、得られる塗料硬化層において、可視光線の吸収に起因する呈色(黄変)の発生を防止することができる。
従って、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法によれば、被処理体の表面上において長時間を要することなく塗料硬化層を形成することができ、当該塗料硬化層が形成された被処理体において所期の色合いを得ることができる。
その結果、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法によれば、紫外線硬化型塗料において、光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーとして、無色透明性の重合体(硬化体)を形成するものを用いた場合、すなわち紫外線硬化型塗料を艶出し用コーティング材料として用いた場合において、被処理体の地色を、塗料硬化層を介して視認することができる。そのため、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法は、車および自動二輪車などの車体において艶出し用コーティング層を形成するために好適に用いることができる。
【0057】
また、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法においては、紫外線
照射工程において、被処理体の温度を、紫外線硬化型塗料の硬化物のガラス転移温度より低い温度を維持した状態とすることにより、得られる塗料硬化層に変形および変質(変色)が生じることを防止できる。
【0058】
また、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法においては、紫外線放射手段を希ガス蛍光ランプよりなるものとすることにより、当該紫外線放射手段を、紫外線以外の光を放射することのないもの、更には、紫外線硬化型塗料の種類(感度波長特性)に応じた所期の光を放射するものとすることができる。そのため、紫外線
照射工程において、紫外線放射手段からの光を有効に利用することができる。その結果、紫外線硬化型塗料のキュアリングに要する時間の短縮化を図ることができる。
【0059】
この本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法は、紫外線放射手段と、この紫外線放射手段とは別個に設けられた加熱手段を有する加熱機構とを備えた装置などによって実施することができる。
【0060】
図3は、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法を実施するためのキュアリング装置の構成の一例を、表面に紫外線硬化型塗料塗布層が形成された被処理体と共に示す説明図である。
このキュアリング装置10は、前述の第1のキュアリング方法および第2のキュアリング方法のいずれの方法も実施することのできるものである。
【0061】
キュアリング装置10は、表面に塗料塗布層2が形成された被処理体1を載置するためのステージ11と、このステージ11の被処理体載置面11Aに離間した状態で対向配置された紫外線放射手段15とを備えたものである。
【0062】
ステージ11は、被処理体載置面11Aに載置された被処理体1を加熱するための加熱機構(図示省略)が設けられたものである。加熱機構は、ステージ11に埋設された加熱手段と、被処理体載置面11Aに載置された被処理体1の温度を測定するための温度測定手段と、温度測定手段によって測定された被処理体1の温度(具体的には、被処理体1の表面(塗料塗布層2)の温度)に基づいて加熱手段に電力を供給する制御手段とを有するものである。この加熱機構においては、制御手段により、温度測定手段によって測定される被処理体1の温度が所定の温度(設定温度)となるように、加熱手段に対する電力供給が制御される。
この図の例において、加熱機構を構成する加熱手段としては、電熱線よりなるヒータが用いられている。
【0063】
紫外線放射手段15は、波長350nm以下の範囲にピーク波長を有する、棒状のランプよりなるものである。
この図の例において、紫外線放射手段15としては、希ガス蛍光ランプが用いられている。
【0064】
このようなキュアリング装置10においては、本発明に係る紫外線硬化型塗料よりなる塗料塗布層2が表面に形成された被処理体1が、当該塗料塗布層2が紫外線放射手段15に対向した状態で被処理物載置面11Aに載置される。ここに、被処理体1と紫外線放射手段15との離間距離(照射距離)は、例えば10mmである。そして、先ず、被処理物載置面11Aに載置された被処理体1(塗料塗布層2)に対して、制御手段を介して加熱手段に電力が供給されることにより、所期の条件によって加熱処理が行われる。次いで、必要に応じて加熱手段に対する電力供給が停止された後、紫外線放射手段15が点灯されることにより、被処理体1(塗料塗布層2)に対して、所期の条件によって紫外線が照射される。この紫外線照射実施中において、加熱手段に電力供給されることによって被処理体1が加熱されている場合には、当該加熱手段に対する電力供給が制御手段によって制御されており、それにより、被処理体1(塗料塗布層2)は一定の温度を維持した状態とされている。更に、被処理体1(塗料塗布層2)に対する紫外線の照射を、当該被処理体1を加熱せずに行った場合には、紫外線放射手段15が消灯された後、制御手段を介して加熱手段に電力が供給され、それにより、被処理体1(塗料塗布層2)に対して、所期の加熱条件によって加熱処理が行われる。
このようにして、被処理体1上において、実用上必要とされる十分な耐摩耗性および耐候性を有する塗料硬化層が形成される。
【0065】
本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法においては、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の紫外線硬化型塗料のキュアリング方法を実施するためのキュアリング装置において、加熱機構は、被処理体が存在する空間に熱風を供給し、雰囲気全体温度を上昇させることによって被処理体を温める構成のもの、すなわち温風によって被処理体を加温する構成のものであってもよい。また、加熱機構は、ハロゲンヒータなどによって被処理体を温める構成のもの、すなわち遠赤外線によって被処理体を温める構成のものであってもよい。
【0066】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0067】
〔実験例1〕
(実験用キュアリング装置)
図3に基づいて、紫外線放射手段(15)として、
図4の曲線(a)に示した発光スペクトル分布を有する高圧水銀ランプを備えた実験用キュアリング装置(以下、「キュアリング装置(
A)」ともいう。)を作製した。
このキュアリング装置(A)には、被処理体(1)に対して高圧水銀ランプからの熱線(赤外線)が照射されることのないよう、紫外線放射手段(15)とステージ(11)との間に、熱線(赤外線)をカットするコールドフィルタが配設されている。
このキュアリング装置(A)において、ステージ(11)は、縦横寸法が50mm×50mmの矩形平板状の被処理体(1)を載置することのできる縦横寸法の被処理物載置面(11A)を有するものである。
【0068】
(紫外線硬化型塗料)
光重合開始剤として、特許文献2の
図2において示されている吸収スペクトル分布(感光波長特性)を有する光重合開始剤を含有する紫外線硬化型塗料(以下、「塗料(1)」ともいう。)と、
図4の曲線(A)で示した吸収スペクトル分布(感光波長特性)を有する光重合開始剤を含有する紫外線硬化型塗料(以下、「塗料(2)」ともいう。)とを用意した。
これらの塗料(1)および塗料(2)においては、いずれも、光重合性モノマーおよび光重合性オリゴマーとして、無色透明性の重合体(硬化体)を形成するものが用いられている。
【0069】
(紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層を介して視認される被処理体の色合い確認)
先ず、塗料(1)および塗料(2)を、各々、50mm(縦寸法)×50mm(横寸法)×1.6mm(厚み)の冷間圧延鋼板の表面に白色塗料を塗布することによって白色層を形成した被処理体の当該白色層上に塗布することにより、厚み50μmの塗料塗布層を形成した。
次いで、塗料(1)の塗料塗布層が形成された被処理体および塗料(2)の塗料塗布層が形成された被処理体を、各々、塗料塗布層が紫外線放射手段と対向するように、キュアリング装置(A)における被処理物載置面に載置し、加熱温度80℃、加熱時間10分間の加熱条件で前加熱処理した(前加熱工程)。
その後、紫外線放射手段を点灯して、当該紫外線放射手段からの光を、被処理体の表面に対して、照射距離(被処理体と紫外線放射手段との離間距離)100mm、照射時間5分間の照射条件により照射した(紫外線照射工程)。
更に、その後、被処理体を、加熱温度100℃、加熱時間10分間の加熱条件で後加熱処理した(後加熱工程)。
このようにして、前加熱工程、紫外線照射工程および後処理工程を経るキュアリング手順により、被処理体における白色層上に塗料(1)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(1−1)」ともいう。)と、被処理体における白色層上に塗料(2)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(1−2)」ともいう。)を得た。
得られた積層体(1−1)および積層体(1−2)について、各々、目視により、塗料硬化層を介して視認される被処理体の色合いを確認したところ、積層体(1−1)は、黄みを帯びた白色であったが、積層体(1−2)は、白色であった。
【0070】
(紫外線硬化型塗料の硬化前後における波長380nmの光の透過率の確認)
先ず、塗料(1)および塗料(2)を、各々、透明基板よりなる被処理体の表面に塗布することにより、厚み50μmの紫外線硬化型塗料塗布層を形成した。得られた塗料(1)の塗料塗布層が形成された被処理体および塗料(2)の塗料塗布層が形成された被処理体について、各々、波長380nmの光の透過率(以下、「硬化前透過率」ともいう。)を測定した。
そして、塗料(1)の塗料塗布層が形成された被処理体および塗料(2)の塗料塗布層が形成された被処理体を、各々、キュアリング装置(A)における被処理物載置面(11A)に載置し、前述のキュアリング手順を経ることにより、被処理体上に塗料(1)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(1−3)」ともいう。)と、被処理体上に塗料(2)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(1−4)」ともいう。)を得た。
得られた積層体(1−3)および積層体(1−4)について、各々、波長380nmの光の透過率を測定し、硬化前透過率に対する低下率を確認したところ、積層体(1−3)の低下率は5%を超えていたが、積層体(1−4)の低下率は5%以下であった。
【0071】
この実験例1の結果から、紫外線硬化型塗料として、波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有するものを用いることにより、得られる塗料硬化層において呈色(黄変)の発生を防止できることが明らかである。
また、紫外線硬化型塗料として、波長380nm以上の光に対する感度を有さず、波長380nm未満の光に対する感度を有するものを用いた場合には、当該紫外線硬化型塗料の波長380nmの光の透過率(硬化前の透過率)に対する、当該紫外線硬化型塗料の硬化物の波長380nmの光の透過率(硬化後の透過率)の低下率が、5%以下とされることが明らかである。
一方、紫外線硬化型塗料として、波長380nm以上の光に対する感度を有するものを用いた場合には、得られる塗料硬化層において呈色(黄変)が生じた。
【0072】
〔実験例2〕
(実験用キュアリング装置)
実験例1において作製したキュアリング装置(A)を用意した。
また、実験例1の実験用キュアリング装置の作製例において、紫外線放射手段として、
図4の曲線(b)に示した発光スペクトル分布を有する希ガス蛍光ランプを用いたこと、およびコールドフィルタを設けなかったこと以外は、当該実験例1と同様にして、実験用キュアリング装置(以下、「キュアリング装置(B)」ともいう。)を作製した。すなわち、キュアリング装置(B)は、
図3に従って作製されたものである。
【0073】
(紫外線硬化型塗料よりなる塗料硬化層を介して視認される被処理体の色合い確認)
先ず、50mm(縦寸法)×50mm(横寸法)×1.6mm(厚み)の冷間圧延鋼板の表面に白色塗料を塗布することによって白色層を形成した被処理体を2つ用意し、各被処理体の白色層上に、塗料(2)を塗布することにより、厚み50μmの塗料塗布層を形成した。
そして、キュアリング装置(A)およびキュアリング装置(B)における被処理物載置面(11A)の各々に、塗料塗布層が紫外線放射手段と対向するように、塗料(2)の塗料塗布層が形成された被処理体を載置し、実験例1と同様のキュアリング手順を経ることにより、被処理体上に塗料(2)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(2−1)」および「積層体(2−2)」ともいう。)を得た。ここに、積層体(2−1)は、紫外線放射手段として高圧水銀ランプを備えたキュアリング装置(A)を用いて作製したものであり、積層体(2−2)は、紫外線放射手段として
希ガス蛍光ランプを備えたキュアリング装置(B)を用いて作製したものである。
得られた積層体(2−1)および積層体(2−2)について、各々、目視により、塗料硬化層を介して視認される被処理体の色合いを確認したところ、いずれも白色であった。
【0074】
(キュアリング装置における光利用効率の確認)
キュアリング装置(A)およびキュアリング装置(B)について、各々、被処理体の表面(塗料塗布層の表面)における照度(具体的には、波長300〜360nmの範囲の光の照度)と、紫外線放射手段の放射強度(具体的には、紫外領域〜赤外領域の光の放射強度)とを測定した。そして、得られた測定値に基づいて、下記の数式(1)によって算出される光利用効率を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
(紫外線放射手段からの光による被処理体の温度上昇の程度の確認)
キュアリング装置(A)を構成する高圧水銀ランプおよびキュアリング装置(B)を構成する希ガス蛍光ランプを用い、各々、速度5m/minで流動する厚み100μmのPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムに対して、光の照射を行い、キュアリング装置(A)は照射距離300mm、キュアリング装置(B)は照射距離10mmの条件で光照射前後のPETフィルムの温度を測定した。そして、得られた測定値に基づいて、光の照射によって上昇した温度(上昇温度)を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
この実験例2の結果から、紫外線放射手段として、波長350nm以下の範囲にピーク波長を有するもの(希ガス蛍光ランプ)を用いることにより、紫外線放射手段からの光を有効に利用することができ、しかも得られる塗料硬化層において呈色(黄変)の発生を防止できることが明らかである。
一方、紫外線放射手段として、波長350nmを超える範囲にピーク波長を有するものを用いた場合には、得られる塗料硬化層において呈色(黄変)の発生を防止できるものの、紫外線放射手段からの光が有効に利用されず、しかもコールドフィルタを用いて熱線(赤外線)をカットしても、光照射に伴って被処理体の温度が上昇することが明らかである。
具体的に説明すると、キュアリング装置における光利用効率の確認の結果から、キュアリング装置(B)における光利用効率が21%であるのに対し、キュアリング装置(A)における光利用効率は4.4%である。すなわち、紫外線放射手段として、波長350nm以下の領域にピーク波長を有するランプ(希ガス蛍光ランプ)を用いることによれば、波長350nmを超える領域にピーク波長を有するランプ(高圧水銀ランプ)を用いた場合よりも、紫外線放射手段からの光を紫外線硬化型塗料の硬化に有効に利用できることが明らかである。
また、紫外線放射手段からの光による被処理体の温度上昇の程度の確認の結果から、キュアリング装置(B)における希ガス蛍光ランプからの光の照射に起因する上昇温度が6℃であるのに対し、キュアリング装置(A)における高圧水銀ランプからの光の照射に起因する上昇温度は27.4℃である。すなわち、紫外線放射手段として、波長350nm以下の領域にピーク波長を有するランプ(希ガス蛍光ランプ)を用いることによれば、波長350nmを超える領域にピーク波長を有するランプ(高圧水銀ランプ)を用いた場合よりも、被処理体の温度上昇を抑制できることが明らかである。
【0079】
〔実験例3〕
先ず、50mm(縦寸法)×50mm(横寸法)×1.6mm(厚み)の冷間圧延鋼板の表面に白色塗料を塗布することによって白色層を形成した被処理体を複数用意し、各被処理体の白色層上に、塗料(2)を塗布することにより、厚み50μmの塗料塗布層を形成した。
そして、塗料(2)の塗料塗布層が形成された被処理体を、塗料塗布層が紫外線放射手段と対向するように、キュアリング装置(B)における被処理物載置面(11A)に載置し、加熱温度80℃、加熱時間10分間の加熱条件で前加熱処理した(前加熱工程)。
その後、被処理体の温度を100℃に維持するように加熱しつつ、紫外線放射手段を点灯して、当該紫外線放射手段からの光を、照射時間8.5分間の照射条件により照射した(紫外線照射工程)。
このようにして、前加熱工程と紫外線照射工程とを経るキュアリング手順により、被処理体における白色層上に塗料(2)よりなる塗料硬化層が形成された積層体(以下、「積層体(3)」ともいう。)を得た。
積層体(3)について、目視により、硬化層を介して視認される被処理体の色合いを確認したところ、白色であった。
また、積層体(3)において、塗料硬化層は、積層体(2−2)と同等の硬化状態および品質を有するものであることが確認された。
【0080】
この実験例3の結果から、下記表2に示すように、この実験例3に係る積層体(3)と前述の実験例2に係る積層
体(2−2)とを比較すると明らかなように、紫外線照射工程において、被処理体を加熱処理することにより、紫外線硬化型塗料のキュアリングに要する時間を短縮できることが明らかである。