(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ドア上部内からドアガラスが設けられる窓開口部の側方に位置するドア側部内を経てドア下部内に亘って上下方向に連続状に延設されたリィンフォース部品が設けられた車両用バックドアインナ部品の補強構造であって、
前記ドア側部又は前記ドア下部の外周フランジ部と前記リィンフォース部品との間には、薄肉部を挟んで両者と一体に形成され略180度反転可能なヒンジ部を備え、前記車両用バックドアインナ部品は、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成されているとともに、前記リィンフォース部品は、前記熱可塑性樹脂のみで形成されていることを特徴とする車両用バックドアインナ部品の補強構造。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の更なる軽量化や部品の一体化、又はデザイン性の向上等を実現するため、樹脂製の車両用バックドアを採用する場合がある。しかし、樹脂製の車両用バックドアは、上下方向への開閉動作に伴い車両用バックドアインナ部品の窓開口部に対する剛性不足が生じやすい問題があった。例えば、ドア上部がヒンジでボディに取り付けられた樹脂製のバックドアを、上方に開いた開放位置から下方に閉じた閉塞位置に回動させると、窓開口部の下方に位置するドア下部が部分的に後方へ変形する恐れがあった。
【0003】
この問題に対応するため、例えば、特許文献1には、
図9、
図10に示すように、樹脂製の車両用バックドア100において、樹脂製のドアインナ部品101と樹脂製のドアアウタ部品102との間にあって、ドアインナ部品101のドア上部101a内からバックドアガラス103が設けられる窓開口部101bの側方に位置するドア側部101cを経てドア下部101d(裾部)内に亘って設けられたハット型断面のリィンフォース部品104R、104Lをドアインナ部品101の外周フランジ部1011と窓開口フランジ部1012とに接合していることを特徴とするドアインナ部品101の補強構造が開示されている。
また、特許文献2には、
図11に示すように、樹脂製の車両用バックドアを構成するドアインナ部品の成形装置200において、ヒンジ取付部201とダンパ取付部202との間のドアインナ部品の剛性を高めるため、ドア上部の長手方向中程に形成した外縁ゲート部203及び内縁ゲート部204から繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂を同時に射出し、当該熱可塑性樹脂がキャビティ内でダンパ取付部202に到達するように他のゲート部との射出タイミングが制御されている成形装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の車両用ドアインナ部品101の補強構造には、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1のリィンフォース部品104R、104Lは、それぞれドアインナ部品101とは別体に形成され、ドアインナ部品101の外周フランジ部1011と窓開口フランジ部1012とに接着剤105によって接合される構造であるので、リィンフォース部品104R、104Lとドアインナ部品101とを形成する成形型を別々に用意する必要がある。また、形成したリィンフォース部品104R、104Lをドアインナ部品101に組み付け、接着剤105によって固着させるまで保持する組み付け治具も必要となる。そのため、成形型や組み付け治具等の設備費が増加するとともに、成形や組み付けに伴う生産工数が増加する。
【0006】
この点、リィンフォース部品104R、104Lとドアインナ部品101とを1つの成形型で一体に形成することによって、設備費や生産工数を低減させる方法も考えられる。
しかし、この場合、特許文献2に記載されているように、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂でドアインナ部品を形成しようとすると、リィンフォース部品104R、104Lとドアインナ部品101と両者を繋ぐ連結部まで繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂によって形成されることになる。繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂によって形成された連結部は硬くなって、連結部を折り曲げることができず、リィンフォース部品をドアインナ部品内に挿入できないか、連結部を強引に折り曲げたときには、連結部に亀裂等が発生する問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、補強部材を簡単な構造又は方法で一体に形成でき、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成する車両用バックドアインナ部品の窓開口部に対する補強構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用バックドアインナ部品の補強構造及びその製造方法は、次のような構成を有している。
(1)ドア上部内からドアガラスが設けられる窓開口部の側方に位置するドア側部内を経てドア下部内に亘って上下方向に連続状に延設されたリィンフォース部品が設けられた車両用バックドアインナ部品の補強構造であって、
前記ドア側部又は前記ドア下部の外周フランジ部と前記リィンフォース部品との間には、薄肉部を挟んで両者と一体に形成され略180度反転可能なヒンジ部を備え、前記車両用バックドアインナ部品は、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成されているとともに、前記リィンフォース部品は、前記熱可塑性樹脂のみで形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、ドア側部又はドア下部の外周フランジ部とリィンフォース部品との間には、薄肉部を挟んで両者と一体に形成され略180度反転可能なヒンジ部を備え、車両用バックドアインナ部品は、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成されているとともに、リィンフォース部品は、熱可塑性樹脂のみで形成されているので、外周フランジ部を形成する繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂の内、繊維補強材はヒンジ部における薄肉部によってリィンフォース部品側への流入が阻止され、外周フランジ部を形成している繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂とリィンフォース部品を形成している熱可塑性樹脂とが、ヒンジ部における薄肉部より外周フランジ部側において相溶し、一体に連結される。そのため、車両用バックドアインナ部品自体の剛性を熱可塑性樹脂に含有されている繊維補強材によって高めつつ、補強部材であるリィンフォース部品を熱可塑性樹脂のみからなるヒンジ部の薄肉部で車両用バックドアインナ部品と一体に形成し、ヒンジ部に亀裂等を発生させることなく、リィンフォース部品をヒンジ部を中心に略180度反転して車両用ドアインナ部品内に設けることができる。
よって、本発明によれば、補強部材を簡単な構造で一体に形成でき、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成する車両用バックドアインナ部品の窓開口部に対する補強構造を提供することができる。
【0010】
(2)(1)に記載された車両用バックドアインナ部品の補強構造において、
前記ヒンジ部の薄肉部は、前記外周フランジ部の裏面と連続する面が凹状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、ヒンジ部の薄肉部は、外周フランジ部の裏面と連続する面が凹状に形成されているので、リィンフォース部品を車両用バックドアインナ部品内に設けるべく、ヒンジ部の薄肉部を略180度折り曲げたときにおける薄肉部の局部伸びを低減させることができる。なお、ヒンジ部の薄肉部は、略V字状断面に形成されていることが好ましい。折り曲げられたヒンジ部の薄肉部は、外周フランジ部の先端から外方へ突出せず、車両用バックドアアウタ部品等との干渉が回避されやすいからである。
【0012】
(3)(1)又は(2)に記載された車両用バックドアインナ部品の補強構造において、
前記リィンフォース部品は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部と内壁部とを連結する連結リブを備え、当該連結リブには、リブ面沿いに形成された金属製の補強板が挿入されていることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、リィンフォース部品は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部と内壁部とを連結する連結リブを備え、当該連結リブには、リブ面沿いに形成された金属製の補強板が挿入されているので、車両用バックドアインナ部品を上下方向に湾曲させる曲げ荷重が作用したとき、リィンフォース部品の略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部及び内壁部の変形を、連結リブに挿入された金属製の補強板によって抑制させることができる。そのため、上記曲げ荷重にリィンフォース部品が有効に対抗し、車両用バックドアインナ部品の上下方向への曲げ変形を低減させることができる。
【0014】
(4)(1)又は(2)に記載された車両用バックドアインナ部品の補強構造において、
前記リィンフォース部品は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部には、リブ面沿いに形成された金属製の補強板が挿入されていることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、リィンフォース部品は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部には、リブ面沿いに形成された金属製の補強板が挿入されているので、車両用バックドアインナ部品を上下方向に湾曲させる曲げ荷重が作用したとき、リィンフォース部品の略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部の変形を、横壁部に挿入された金属製の補強板によって抑制させることができる。そのため、上記曲げ荷重にリィンフォース部品が有効に対抗し、車両用バックドアインナ部品の上下方向への曲げ変形を低減させることができる。
【0016】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された車両用バックドアインナ部品の補強構造の製造方法において、
前記車両用バックドアインナ部品のキャビティに連通する第1ゲート部と、前記リィンフォース部品のキャビティに連通する第2ゲート部とを有する射出成形装置を備え、前記第2ゲート部から射出される熱可塑性樹脂が、前記第1ゲート部から射出される繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂より先行して、前記ヒンジ部の薄肉部に到着するように、前記第1ゲート部と前記第2ゲート部とにおける射出タイミングを制御することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、車両用バックドアインナ部品のキャビティに連通する第1ゲート部と、リィンフォース部品のキャビティに連通する第2ゲート部とを有する射出成形装置を備え、第2ゲート部から射出される熱可塑性樹脂が、第1ゲート部から射出される繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂より先行して、ヒンジ部の薄肉部に到着するように、第1ゲート部と第2ゲート部とにおける射出タイミングを制御するので、車両用バックドアインナ部品を形成している繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂とリィンフォース部品を形成している熱可塑性樹脂とが、ヒンジ部における薄肉部より車両用バックドアインナ部品の外周フランジ部側において相溶し、一体に連結される。そのため、車両用バックドアインナ部品自体の剛性を熱可塑性樹脂に含有されている繊維補強材によって高めつつ、リィンフォース部品を熱可塑性樹脂のみからなるヒンジ部の薄肉部で、ヒンジ部に亀裂を発生させることなく、リィンフォース部品をヒンジ部を中心に略180度反転して車両用ドアインナ部品内に設けることができる。
よって、本発明によれば、補強部材を簡単な方法で一体に形成でき、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成する車両用バックドアインナ部品の窓開口部に対する補強構造を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補強部材を簡単な構造又は方法で一体に形成でき、繊維補強材を含有する熱可塑性樹脂で形成する車両用バックドアインナ部品の窓開口部に対する補強構造及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る実施形態である車両用バックドアインナ部品の補強構造及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本発明に係る実施形態である車両用バックドアインナ部品と一体に形成されているリィンフォース部品による補強構造を説明する。次に、車両用バックドアインナ部品とリィンフォース部品とを一体に射出成形する射出成形装置を説明する。更に、射出成形装置によって車両用バックドアインナ部品とリィンフォース部品とを一体成形した上で、リィンフォース部品を車両用バックドアインナ部品内の所定位置に接合することによって、車両用バックドアインナ部品の補強構造を形成する方法を説明する。
【0021】
<車両用バックドアインナ部品の補強構造>
まず、本発明に係る実施形態である車両用バックドアインナ部品と一体に形成されているリィンフォース部品による補強構造を、
図1〜
図5を用いて説明する。
図1に、本発明に係る実施形態である車両用バックドアインナ部品の正面図を示す。
図2に、
図1に示すA―A断面図を示す。
図3に、
図2に示すリィンフォース部品を車両用バックドアインナ部品内へ挿入する前の状態を表す断面図を示す。
図4に、
図3に示すヒンジ部の詳細断面図を示す。
図5に、
図3に示す車両用バックドアインナ部品及びリィンフォース部品の部分斜視図を示す。なお、
図1、
図2には、車両における上下、左右、前後の方向を示している。
【0022】
図1、
図2に示すように、車両用バックドアインナ部品1は、車両ボディの後開口部の上端部にヒンジを介して取り付けられるドア上部11と、ドア上部11の左右端部と上端部が接続されドアガラスが設けられる窓開口部12の側方に位置するドア側部13(13R、13L)と、ドア側部13の下端部と接続され前記後開口部の下端部にロックを介して取り付けられるドア下部14とを備えている。ドア側部13は、ドア外縁に沿って形成される外周フランジ部131と、窓開口部12に沿って形成される窓開口フランジ部132と、両者に一端が接続された側壁部133、135と、側壁部133、135の他端に接続された天頂部134とを有し、それらが上下方向に連続する略ハット型断面を構成している。また、ドア下部14には、ドア外縁に沿って形成される外周フランジ部141を備えている。
【0023】
また、車両用バックドアインナ部品1には、ドア上部11内からドア側部13内を経てドア下部14内に亘ってリィンフォース部品2が左右対称に設けられている(
図1の斜線部を参照)。リィンフォース部品2は、外鍔部21及び内鍔部22と、両鍔部間を直線状に連結する横壁部28と、外鍔部21及び内鍔部22と横壁部28との連結部から前方に起立する外壁部25及び内壁部23とを有し、それらが略π字状断面構造を構成して上下方向に延設されている。また、横壁部28には、略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部25と内壁部23とを連結する複数の連結リブ26が前方に起立している。外壁部25、内壁部23、及び連結リブ26の前端部24は、開口されている。リィンフォース部品2の外鍔部21は、ドア側部13又はドア下部14における外周フランジ部131(141)と当接し、接着剤等によって固着されている。また、リィンフォース部品2の内鍔部22は、ドア側部13における窓開口フランジ部132と当接し、接着剤等によって固着されている。
【0024】
また、リィンフォース部品2の連結リブ26には、リブ面沿いに形成された金属製の第1の補強板27が挿入されている。第1の補強板27は、略矩形状に形成され、左右方向の端部が外壁部25及び内壁部23の近傍まで延設されている。また、リィンフォース部品2の略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部28には、リブ面沿いに形成された金属製の第2の補強板29が挿入されている。第2の補強板29は、略矩形状に形成され、左右方向の端部が外鍔部21及び内鍔部22にも挿入されている。第2の補強板29は、横壁部28の上下方向に連続して形成されているが(
図5を参照)、部分的に間隔を空けて形成してもよい。なお、第1の補強板27及び第2の補強板29には、それぞれ位置決め用の通孔が形成されている。
【0025】
また、リィンフォース部品2の外壁部25及び内壁部23は、前端部24付近にて、ドア側部13の側壁部133、135間に圧接した状態で嵌合されている。すなわち、リィンフォース部品2の外壁部25及び内壁部23の外幅寸法は、当接する位置でのドア側部13の側壁部133、135同士の内幅寸法より、僅かに大きく形成されている。そのため、ドア側部13の側壁部133、135の間隔が開くような荷重が作用した場合でも、リィンフォース部品2の外壁部25及び内壁部23がドア側部13の側壁部133、135と当接した状態を保持しやすく、車両用バックドアインナ部品1とリィンフォース部品2との一体性を高めて、剛性を向上している。したがって、ドア側部13に作用する上下方向の曲げ荷重は、常に第1の補強板27及び第2の補強板29に伝達され、当該曲げ荷重に対する耐力が向上する。
【0026】
また、
図1〜
図5に示すように、車両用バックドアインナ部品1におけるドア側部13又はドア下部14の外周フランジ部131(141)とリィンフォース部品2との間には、薄肉部31を挟んで両者と一体に形成されたヒンジ部3を備え、リィンフォース部品2は、車両用バックドアインナ部品1に対してヒンジ部3を中心に180度反転した状態で、車両用バックドアインナ部品1と一体的に形成されている。ヒンジ部3は、上記反転中心線上に複数箇所設けてられている。
【0027】
また、車両用バックドアインナ部品1は、繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1で形成されているとともに、リィンフォース部品2は、熱可塑性樹脂SR2のみで形成されている。ドア側部13又はドア下部14の外周フランジ部131(141)を形成する繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1の内、繊維補強材SFはヒンジ部3における薄肉部31によってリィンフォース部品2側への流入が阻止され、外周フランジ部131(141)を形成している繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1とリィンフォース部品2を形成している熱可塑性樹脂SR2とが、ヒンジ部3における薄肉部31より外周フランジ部131(141)側において相溶し、一体に連結されている。なお、繊維補強材SFには、例えば、短繊維化されたガラス繊維又は炭素繊維等が該当する。また、熱可塑性樹脂SR1、SR2には、例えば、ポリプロピレン(PP)等が該当する。
【0028】
また、ヒンジ部3の薄肉部31は、リィンフォース部品2を車両用バックドアインナ部品1内に設けるべく、ヒンジ部3の薄肉部31を略180度折り曲げたときにおける薄肉部31の局部伸びを低減させるように、外周フランジ部131、141の裏面と連続する面32が凹状に形成されている。ここで、ヒンジ部3の薄肉部31は、略V字状断面に形成されていることが好ましい。ヒンジ部の薄肉部を略180度折り曲げたとき、薄肉部31が外周フランジ部131(141)の先端から外方へ突出せず、車両用バックドアアウタ部品4等との干渉が回避されやすいからである。また、薄肉部31の肉厚は、0.3mm程度が好ましい。薄肉部31の肉厚が0.3mm程度であれば、繊維補強材SFを含有することによって粘性の高くなった熱可塑性樹脂SR1の薄肉部31への進入を抑制でき、相対的に粘性の低い熱可塑性樹脂SR2を優先的に侵入させることができるからである。
【0029】
<射出成型装置>
次に、車両用バックドアインナ部品とリィンフォース部品とを一体に射出成形する射出成形装置を、
図6、
図7を用いて説明する。
図6に、
図1に示す車両用バックドアインナ部品及びリィンフォース部品を一体成形する射出成形装置の模式図を示す。
図7に、
図6に示す射出成形装置における金型キャビティ部の模式的断面図を示す。
【0030】
図6、
図7に示すように、車両用バックドアインナ部品1とリィンフォース部品2とを一体に射出成形する射出成形装置5には、車両用バックドアインナ部品1のキャビティ51に連通する第1ゲート部61、62、63と、リィンフォース部品2のキャビティ52に連通する第2ゲート部71、72と、第1ゲート部61、62、63に繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1を供給する第1射出ユニット64と、第2ゲート部71、72に熱可塑性樹脂SR2を供給する第2射出ユニット73とを備えている。第1ゲート部61、62、63に供給する熱可塑性樹脂SR1と第2ゲート部71、72に供給する熱可塑性樹脂SR2とは、同材質であることが好ましい。なお、繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1の射出時における粘性が高くなり過ぎないように、第1射出ユニット64の加熱温度を、第2射出ユニット73の加熱温度より高くしてもよい。
【0031】
第1ゲート部61、62、63は、車両用バックドアインナ部品1のドア上部11、ドア側部13(13R、13L)、ドア下部14の各キャビティ内に繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1ができる限り同時期に注入できるように、上下方向で3箇所に分け、それぞれ複数個設けられている。また、第2ゲート部71、72は、リィンフォース部品2のドア側部13に隣接する左右位置とドア下部14に隣接する左右位置にと分け、各1個ずつ設けられている。
【0032】
射出成形装置5は、第2ゲート部71、72から射出される熱可塑性樹脂SR2が、第1ゲート部61、62、63から射出される繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1より先行して、ヒンジ部3の薄肉部31に到着するように、第1ゲート部61、62、63と第2ゲート部71、72とにおける射出タイミングを制御している。
【0033】
また、射出成形装置5には、車両用バックドアインナ部品1のキャビティ51を有する固定型54と、リィンフォース部品2のキャビティ52を有する可動型55とを備えている。ただし、リィンフォース部品2の外鍔部21、内鍔部22、及び横壁部28のキャビティ53は、固定型54に形成されている。固定型54と可動型55との分割線57は、リィンフォース部品2における外鍔部21及び内鍔部22の裏面に相当する位置531に形成されている。
【0034】
また、第1ゲート部61、62、63及び第2ゲート部71、72は、固定型54に形成されている。また、固定型54には、第2の補強板29の通孔に挿通する位置決めピン59が形成されている。可動型55には、第1の補強板27の通孔に挿通する位置決めピン(図示しない)が形成されている。また、可動型55には、成形後の車両用バックドアインナ部品1とリィンフォース部品2とを同時に押し出すエジェクタピン58が形成されている。
【0035】
<車両用バックドアインナ部品の補強構造を形成する方法>
次に、射出成形装置5によって車両用バックドアインナ部品1とリィンフォース部品2とを一体成形した上で、リィンフォース部品2を車両用バックドアインナ部品1内の所定位置に固着することによって、車両用バックドアインナ部品1の補強構造を形成する製造方法を、
図8を用いて説明する。
図8に、
図6に示す射出成形装置5を用いて車両用バックドアインナ部品1及びリィンフォース部品2を一体成形した上で、車両用バックドアインナ部品1にリィンフォース部品2を固着して車両用バックドアインナ部品1の補強構造を形成するフローチャート図を示す。
【0036】
まず、ステップ1に示すように、固定型54と可動型55とを型開き状態にして、予め第1の補強板27と第2の補強板29とを、固定型54及び可動型55の所定位置に各位置決めピンによって固定する。
【0037】
次に、ステップ2に示すように、固定型54と可動型55とを型締め状態にして、第1射出ユニット64から繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1を第1ゲート部61、62、63に供給し、第2射出ユニット73から熱可塑性樹脂SR2を第2ゲート部71、72に供給する。そして、第1ゲート部61、62、63から射出された繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1は、車両用バックドアインナ部品1のキャビティ51内に充填される。また、第2ゲート部71、72から射出された熱可塑性樹脂SR2は、リィンフォース部品2のキャビティ52内に充填される。第1ゲート部61、62、63と第2ゲート部71、72とにおける射出タイミングは、第2ゲート部71、72から射出される熱可塑性樹脂SR2が、第1ゲート部61、62、63から射出される繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1より先行して、ヒンジ部3の薄肉部31に到着するように制御されている。
【0038】
その結果、車両用バックドアインナ部品1における外周フランジ部131(141)を形成している繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1とリィンフォース部品2を形成している熱可塑性樹脂SR2とが、ヒンジ部3における薄肉部31より外周フランジ部131(141)側において相溶し、一体に連結される。
【0039】
次に、ステップ3に示すように、車両用バックドアインナ部品1を形成している繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1とリィンフォース部品2を形成している熱可塑性樹脂SR2とを所定の温度まで冷却させた上で、固定型54と可動型55とを型開き状態にし、エジェクタピン58を作動させて、車両用バックドアインナ部品1とリィンフォース部品2とを一体成形した状態で離型させる。
【0040】
次に、ステップ4に示すように、リィンフォース部品2をヒンジ部3にて180度反転させて、車両用バックドアインナ部品1内の所定位置に挿入する。このとき、リィンフォース部品2の外鍔部21は、ドア側部13又はドア下部14における外周フランジ部131(141)と接着剤によって固着され、リィンフォース部品2の内鍔部22は、ドア側部13における窓開口フランジ部132と接着剤によって固着される。以上のステップによって、本実施形態に係る車両用バックドアインナ部品1の補強構造を形成することができる。
【0041】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る車両用バックドアインナ部品1の補強構造によれば、ドア側部13又はドア下部14の外周フランジ部131(141)とリィンフォース部品2との間には、薄肉部31を挟んで両者と一体に形成され略180度反転可能なヒンジ部3を備え、車両用バックドアインナ部品1は、繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1で形成されているとともに、リィンフォース部品2は、熱可塑性樹脂SR2のみで形成されているので、外周フランジ部131(141)を形成する繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1の内、繊維補強材SFはヒンジ部3における薄肉部31によってリィンフォース部品2側への流入が阻止され、外周フランジ部131(141)を形成している繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1とリィンフォース部品2を形成している熱可塑性樹脂SR2とが、ヒンジ部3における薄肉部31より外周フランジ部131(141)側において相溶し、一体に連結される。そのため、車両用バックドアインナ部品1自体の剛性を熱可塑性樹脂SR1に含有されている繊維補強材SFによって高めつつ、補強部材であるリィンフォース部品2を熱可塑性樹脂SR2のみからなるヒンジ部3の薄肉部31で車両用バックドアインナ部品1と一体に形成し、ヒンジ部3に亀裂等を発生させることなく、リィンフォース部品2をヒンジ部3を中心に略180度反転して車両用バックドアインナ部品1内に設けることができる。
よって、本実施形態によれば、補強部材を簡単な構造で一体に形成でき、繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1で形成する車両用バックドアインナ部品1の窓開口部12に対する補強構造を提供することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、ヒンジ部3の薄肉部31は、外周フランジ部131(141)の裏面と連続する面32が凹状に形成されているので、リィンフォース部品2を車両用バックドアインナ部品1内に設けるべく、ヒンジ部3の薄肉部31を略180度折り曲げたときにおける薄肉部31の局部伸びを低減させることができる。また、ヒンジ部3の薄肉部31は、略V字状断面に形成されているので、折り曲げられたヒンジ部3の薄肉部31は、外周フランジ部131(141)の先端から外方へ突出せず、車両用バックドアアウタ部品4等との干渉を確実に回避できる。
【0043】
また、本実施形態によれば、リィンフォース部品2は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部25と内壁部23とを連結する連結リブ26を備え、当該連結リブ26には、リブ面沿いに形成された金属製の第1の補強板27が挿入されているので、車両用バックドアインナ部品1を上下方向に湾曲させる曲げ荷重が作用したとき、リィンフォース部品2の略π字状断面構造の脚部に当たる外壁部25及び内壁部23の変形を、連結リブ26に挿入された金属製の第1の補強板27によって抑制させることができる。そのため、上記曲げ荷重にリィンフォース部品2が有効に対抗し、車両用バックドアインナ部品1の上下方向への曲げ変形を低減させることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、リィンフォース部品2は、上下方向に延設された略π字状断面構造を有し、当該略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部28には、リブ面沿いに形成された金属製の第2の補強板29が挿入されているので、車両用バックドアインナ部品1を上下方向に湾曲させる曲げ荷重が作用したとき、リィンフォース部品2の略π字状断面構造の頭部に当たる横壁部28の変形を、横壁部28に挿入された金属製の第2の補強板29によって抑制させることができる。そのため、上記曲げ荷重にリィンフォース部品2が有効に対抗し、車両用バックドアインナ部品1の上下方向への曲げ変形を低減させることができる。
【0045】
また、本他の実施形態に係る車両用バックドアインナ部品1の補強構造の製造方法によれば、車両用バックドアインナ部品1のキャビティ51に連通する第1ゲート部61、62、63と、リィンフォース部品2のキャビティ52に連通する第2ゲート部71、72とを有する射出成形装置5を備え、第2ゲート部71、72から射出される熱可塑性樹脂SR2が、第1ゲート部61、62、63から射出される繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1より先行して、ヒンジ部3の薄肉部31に到着するように、第1ゲート部61、62、63と第2ゲート部71、72とにおける射出タイミングを制御するので、車両用バックドアインナ部品1を形成している繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1とリィンフォース部品2を形成している熱可塑性樹脂SR2とが、ヒンジ部3における薄肉部31より車両用バックドアインナ部品1の外周フランジ部131(141)側において相溶し、一体に連結される。そのため、車両用バックドアインナ部品1自体の剛性を熱可塑性樹脂SR1に含有されている繊維補強材SFによって高めつつ、リィンフォース部品2を熱可塑性樹脂SR1のみからなるヒンジ部3の薄肉部31で、ヒンジ部3に亀裂を発生させることなく、リィンフォース部品2をヒンジ部3を中心に略180度反転して車両用バックドアインナ部品1内に設けることができる。
よって、本他の実施形態によれば、補強部材を簡単な方法で一体に形成でき、繊維補強材SFを含有する熱可塑性樹脂SR1で形成する車両用バックドアインナ部品1の窓開口部12に対する補強構造を提供することができる。