(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465013
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】ガスエンジンの制御方法、装置及びガスエンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20190128BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
F02D19/02 F
F02D41/04 305A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-245645(P2015-245645)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2017-110567(P2017-110567A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】永田 新一
(72)【発明者】
【氏名】清水 明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 峻
【審査官】
田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−57872(JP,A)
【文献】
特開2005−220860(JP,A)
【文献】
特開2008−121582(JP,A)
【文献】
特開2005−248718(JP,A)
【文献】
特開昭56−146068(JP,A)
【文献】
特開昭63−57872(JP,A)
【文献】
特開2013−76357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00 − 3/12
F02P 5/145 − 5/155
F02P 7/00 − 17/12
F02B43/00 − 45/10
F02M21/00 − 21/12
F02D13/00 − 29/06
F02D41/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、
エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御に際して、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の開度の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うものであり、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンの制御方法。
【請求項2】
負荷投入が検知された時は、更に、点火時期及び/又は点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた第3の補正係数またはエンジン負荷の増加に応じた第4の補正係数を加算した補正を過渡的に行うことを特徴とする請求項1に記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項3】
負荷投入が検知された時は、更に、点火時期及び/又は点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた第3の補正係数と、エンジン負荷の増加に応じた第4の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うことを特徴とする請求項1に記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項4】
空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御に際して、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うものであって、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンの制御方法。
【請求項5】
負荷投入が検知された時は、更に、点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた第3の補正係数またはエンジン負荷の増加に応じた第4の補正係数を加算した補正を過渡的に行うことを特徴とする請求項4に記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項6】
負荷投入が検知された時は、更に、点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた第3の補正係数と、エンジン負荷の増加に応じた第4の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うことを特徴とする請求項4に記載のガスエンジンの制御方法。
【請求項7】
空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、
エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御装置であって、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段を備え、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンの制御装置。
【請求項8】
空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御装置であって、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投
入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段を備え、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンの制御装置。
【請求項9】
空気供給系統と、
燃料ガス供給系統と、
空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、
混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、
エンジン回転数計測手段と、
空燃比計測手段と、
エンジン負荷計測手段と、
点火エネルギ可変手段と、
エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御する制御手段と、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段と、を備え、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することを特徴とするガスエンジン。
【請求項10】
空気供給系統と、
燃料ガス供給系統と、
空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、
混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、
エンジン回転数計測手段と、
空燃比計測手段と、
エンジン負荷計測手段と、
点火エネルギ可変手段と、
エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御する制御手段と、
エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段と、を備え、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、
前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することを特徴とするガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンの制御方法、装置及びガスエンジンに係り、特に、発電用ガスエンジンに用いるのに好適な、発電機等における負荷投入によるエンジン回転数(単に回転数又は回転とも言う)の変動を速やかに収めることが可能なガスエンジンの制御方法、装置及びこれを用いたガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガス燃料と空気とをガス混合器において所要の空燃比で混合し、この混合気(混合ガス)を給気管を通してエンジンの燃焼室に供給し、点火燃焼するように構成されたガスエンジンが実用化されている。
【0003】
このようなガスエンジンで発電機を回転駆動する発電用ガスエンジンでは、BCP(Business Continuity Plan)対応、すなわち非常時に負荷を必要電力に応じて急激に変動させる必要があり、変動時に周波数(回転数)を規定値内(変動幅、整定時間)に押さえる必要がある。そこで、いわゆる発電機の負荷投入、負荷遮断に対する回転数変動の収まり具合が問われている。
【0004】
ある運転状態から急激に負荷を投入すると、負荷又は回転数を維持するのに必要な燃料ガスが供給できず、急激な回転数の落ち込みを生じることになる。
【0005】
通常の緩やかな回転数変動に対しては、エンジンマップに沿って、供給燃料ガスをコントロールしスピードガバナによるスロットル弁操作でその落ち込みをカバーできるが、高出力率のガスエンジンでは、場合によってエンジンストールに至ることもあり、ガスエンジンを安定化して運転する技術が望まれている。
【0006】
この目的で、特許文献1には、負荷変動に対して、ガバナ(スロットル弁)のみで燃料の増減調整を行うが、一定範囲の上限を超える場合は、更に一定時間・一定量の追加燃料を噴射することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−279740号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、回転変動が収まるまでの時間が最短とまでは言えず、未だ充分とは言えなかった。
【0009】
ガスエンジンのコントローラは、O
2センサなどの空燃比センサや吸気圧力センサにより空気過剰率λを制御しているが、ガスエンジン発電機における負荷投入や負荷遮断の際に、過渡的な応答遅れ、燃料ガス量調整の遅れ、それに伴う燃焼変動等が発生する。これにより自立運転時にはエンジン回転数の変動を生じる。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、ガスエンジン発電機等における負荷投入による回転数変動を速やかに収めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御に際して、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の
開度の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う
ものであり、前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
ここで、負荷投入が検知された時は、更に、点火時期及び/又は点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた
第3の補正係数またはエンジン負荷の増加に応じた
第4の補正係数を加算した補正を過渡的に行うこともできる。
【0013】
又、負荷投入が検知された時は、更に、点火時期及び/又は点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた
第3の補正係数と、エンジン負荷の増加に応じた
第4の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うこともできる。
【0014】
ここで制御値とは、エンジンマップを含む制御回路からの制御信号であって、制御機器対象に過渡的でなく常時送信される制御信号のことである。
【0015】
本発明は、又、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御に際して、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う
ものであって、前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0016】
ここで、負荷投入が検知された時は、更に、点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた
第3の補正係数またはエンジン負荷の増加に応じた
第4の補正係数を加算した補正を過渡的に行うこともできる。
【0017】
また、負荷投入が検知された時は、更に、点火エネルギの制御値に対して、エンジン回転数の低下に応じた
第3の補正係数と、エンジン負荷の増加に応じた
第4の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行うことができる。
【0020】
本発明は、また、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御装置であって、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段を備え
、前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0021】
本発明は、又、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、制御手段とを備え、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御するようにされたガスエンジンの制御装置であって、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段を備え
、前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することにより、同様に前記課題を解決したものである。
【0023】
本発明は、又、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御する制御手段と、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、前記燃料ガス供給系統を構成する燃料ガス流量調整弁の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段と、を備え
、前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を段階的に開ける特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて前記燃料ガス流量調整弁の開度を一気に所定の開度補正量だけ開いて所定時間前記開度補正量を維持した後、所定の補正戻し率で補正前の開度に戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンを提供するものである。
【0024】
本発明は、又、空気供給系統と、燃料ガス供給系統と、空気及び燃料ガスの混合気を形成する混合手段と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁と、エンジン回転数計測手段と、空燃比計測手段と、エンジン負荷計測手段と、点火エネルギ可変手段と、エンジン回転数が一定となるように前記混合気の供給量と空気過剰率を制御する制御手段と、エンジン回転数の低下又はエンジン負荷の増加の少なくともいずれか一方により負荷投入が検知された時は、点火時期の制御値に、エンジン回転数の低下に応じた
第1の補正係数とエンジン負荷の増加に応じた
第2の補正係数を足し合わせた補正係数を加算した補正を過渡的に行う補正手段と、を備え、
前記第1の補正係数は、前記エンジン回転数の低下に応じて点火時期を段階的に遅らせる特性を有し、前記第2の補正係数は、前記エンジン負荷の増加に応じて点火時期を一気に所定の角度だけ進角して所定時間維持した後、補正前の制御値に所定の戻し率で戻す特性を有することを特徴とするガスエンジンを提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、エンジン回転数の減少、及び/又は、発電量の増加を検知し、燃料供給量の一時的な増量、及び/又は、点火時期の一時的な進角や点火エネルギの一時的な増加をエンジンが安定運転するまで行うようにしたので、負荷投入による回転変動を速やかに収めて、BCP対応として質の高い電力供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明が適用されるガスエンジンの全体構成の一例を示す図
【
図2】本発明の第1実施形態における(A)エンジン回転数変動及び(B)発電量変動に対する制御の一例を示すタイムチャート
【
図3】本発明の第2実施形態における(A)エンジン回転数変動及び(B)発電量変動に対する制御の一例を示すタイムチャート
【
図4】同じく点火エネルギの一例を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0029】
本発明が適用される火花点火及び予混合燃焼及び希薄燃焼方式のガスエンジンの例を
図1に示す。このガスエンジンは、空気供給系統10と、例えばステップモータで燃料ガス供給圧力を調整する燃料ガス調圧弁22及び燃料ガス流量調整弁(FCV)24を含む燃料ガス供給系統20と、前記空気供給系統10及び燃料ガス供給系統20から供給される空気及び燃料ガスを均一に混合する混合手段であるキャブレタ30と、エンジン本体60の排気系に配設された過給機タービン40により駆動され、前記キャブレタ30で混合された混合気を圧縮する過給機ブロア42と、該過給機ブロア42の圧縮により加熱された混合気を冷却するためのインタークーラー44と、混合気が過剰なときに過剰な混合気を過給機ブロア42の入口へ戻すためのターボバイパスバルブ(TBV)46と、混合気の供給量を調整するためのスロットル弁50と、エンジン回転速度と出力を制御するため、該スロットル弁50の開度を制御するスピードガバナ52と、エンジン本体60入側の吸気管内の圧力を検出する吸気圧力センサ54と、例えばエンジンクランク軸の回転角を検出するクランク角センサのような回転数センサ62、点火プラグ64、例えば圧電型の気筒内圧センサ66を備えたエンジン本体60と、前記気筒内圧センサ66と対をなす増幅器68と、前記エンジン本体60の出力(クランク)軸により回転駆動される(ガスエンジン)発電機70と、該発電機70に対する負荷(エンジン負荷)を検出する電力トランスデューサ(kwトランスデューサとも称する)72と、前記エンジン本体60の排気管に設けられた、例えば排気ガス中の酸素濃度から空燃比を検出するためのO
2センサ80と、スロットル弁50前後の差圧で弁開度が例えば機械的に調整され、余剰排気を過給機タービン40後にバイパスするためのウェストゲート弁90と、前記吸気圧力センサ54、回転数センサ62、増幅器68、電力トランスデューサ72、O
2センサ80などの入力に応じて、前記燃料ガス調圧弁22、FCV24、TBV46、スロットル弁50、点火エネルギ可変機能付き点火装置(以下、単に点火装置とも称する)110などを制御することにより、エンジン負荷に対する全体の制御を行うエンジンコントローラ100とを備えている。
【0030】
前記エンジンコントローラ100は、CPU、ROM、RAMなどのコンピュータの一般的な構成に加え、エンジンマップを備えた制御回路(以下、単に制御回路とも称する)102と、本発明による補正回路104とを備えている。
【0031】
燃料ガスはキャブレタ30で空気と混合され、過給後、エンジン本体60へ送られる。
【0032】
前記点火装置110は、エンジンコントローラ100から指令を受けた点火時期(IT)に、所定の点火エネルギパターンを点火プラグ64に与えて混合気へ点火する。
【0033】
このガスエンジンは、希薄燃焼方式であるため、エンジン出力によって空気過剰率λが1(低出力)〜1.8(高出力)程度に変化する。
【0034】
そこで、発電機70の負荷によらずエンジン回転数を一定に保つため、エンジンコントローラ100はスロットル弁50の開度を制御している。具体的には、負荷が増えるとスロットル弁50を開いてエンジン回転数が落ちないようにする。従って、負荷投入や負荷遮断などのような急激な変動であっても許容値内であれば、エンジンストールや発電された電気の質の低下などの問題となるようなエンジン回転数の変動は発生しない。
【0035】
一方、出力が変わると最適な空気過剰率λが変わるため、空気過剰率を制御する必要がある。空気過剰率の制御は、空気供給系統10における給入空気流量に対する燃料ガス流量を、燃料ガス調圧弁22による燃料ガス供給圧力と燃料ガス流量調整弁(FCV)24の弁開度による燃料ガス流量の制御で行う。制御方法は、通常のフィードバック制御の他に、このときのエンジン回転数とエンジン負荷を、制御回路102に含まれるエンジンマップに照らし合わせて決定する方法も採用している。
【0036】
本発明の第1実施形態では、エンジン回転数の変動やエンジン負荷の変動で負荷投入を検知した時に、まず、
図2(A)に示す如く、エンジン回転数の変動に対して、FCV24の開度の制御値に対する過渡的な補正係数(補正係数1)を定める。同時に、
図2(B)に示す如く、エンジン負荷に相当する電力トランスデューサ72の出力信号の変動に対して、FCV24の開度の制御値に対する過渡的な補正係数(補正係数2)を定める。次に、FCV24の開度の制御値に対して、補正係数1と補正係数2を足し合わせた補正係数を加算した補正を与える。これにより、負荷投入に対してエンジン回転数の低下を効果的に抑えるような空気過剰率λを与えることが出来る。即ち、補正係数1は、負荷投入によるエンジン回転の低下に対して、FCV24の開度を、制御値に加算して段階的に開ける特性を有し、補正係数2は、電力トランスデューサ72の出力信号で負荷投入を検知してから所定の補正遅らせ時間B(秒)後に、FCV24の開度を、制御値に加算して一気に所定の開度補正量A(%)だけ開き、その開度を所定の補正継続時間C(秒)だけ継続した後、所定の補正戻し率D(%/秒)で、補正前のFCV開度に戻す特性を有している。ここで、所定の補正遅らせ時間B、所定の開度補正量A、所定の補正継続時間Cおよび所定の補正戻し率Dは予め実験によって求められる常数である。
【0037】
このようにして、FCV24の開度をエンジン回転数の変動とエンジン負荷の変動の両特性を考慮した補正を過渡的に行うことで、負荷投入に伴う回転数変動を収めるまでの時期を早めることができる。
【0038】
一方、FCV24による燃料ガス供給量の補正だけでは負荷投入による回転変動を十分に抑えられない場合がある。そこで、本発明の第2実施形態では、
図3(A)(B)に例示する如く、負荷投入時に更に点火時期ITと点火エネルギを補正することで、負荷変動に伴う回転数変動を収めるまでの時期を早めている。
【0039】
即ち、負荷投入によりエンジン回転数が低下したときは、
図3(A)に示す如く、エンジン回転数の変動に対して、点火時期ITや点火エネルギの制御値に対する過渡的な補正係数(補正係数3や4)を定め、制御値に加算する。具体的には、負荷投入によるエンジン回転数の変動に対して、
図3(A)に示すように、エンジン回転数の変動の大きさによって点火時期ITと点火エネルギの大きさを段階的に変える。
【0040】
ここで、点火電流は、1回の点火で持続的に点火電流を維持し放電するもので、
図4(A)(B)に横軸を時間、縦軸を電流として例示する如く、点火電流が発生する時間を瞬時でなく期間として維持・制御でき、火花の発生期間を調節することで、アーク放電の総面積、即ち点火エネルギを増減することができる。
【0041】
一方、電力トランスデューサ72の出力信号による負荷投入を検知した時は、
図3(B)に示した如く、点火時期ITの制御値に対して、補正遅らせ時間F(秒)経過後に、一気に補正量E(クランク角(度))だけ進角し、補正継続時間G(秒)経過した後に、所定の補正戻し率H(クランク角(度)/秒)で補正前ITに戻す補正係数5を定めて加算する。ここで、補正遅らせ時間F、補正量E、補正継続時間Gおよび所定の補正戻し率Hは予め実験によって求められる常数である。
【0042】
このようにして、負荷投入時の回転数変動を抑えることができる。
【0043】
なお、点火時期と点火エネルギの補正は、一方だけ行うこともできるし、点火時期の補正に対しては、補正係数3と補正係数5を足し合わせた補正係数によって制御値を補正しても良い。
【0044】
なお、前記実施形態においては、本発明が希薄燃焼方式のガスエンジンに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、空気過剰率λがほぼ1のストイキオメトリック方式のガスエンジンにも同様に適用できる。
【0045】
また、前記実施形態においては、本発明が過給機を備えた過給式ガスエンジンに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、過給機を持たない自然給気式ガスエンジンにも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
10…空気供給系統
20…燃料ガス供給系統
22…燃料ガス調圧弁
24…燃料ガス流量調整弁(FCV)
30…キャブレタ
40…過給機タービン
42…過給機ブロア
44…インタークーラー
46…ターボバイパスバルブ(TBV)
50…スロットル弁
52…スピードガバナ
54…吸気圧力センサ
60…エンジン本体
62…回転数センサ
64…点火プラグ
66…気筒内圧センサ
68…増幅器
70…発電機
72…電力(kw)トランスデューサ
80…O
2(空燃比)センサ
90…ウェストゲート弁
100…エンジンコントローラ
102…エンジンマップを備えた制御回路
104…補正回路
110…点火エネルギ可変機能付き点火装置