特許第6465019号(P6465019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465019
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20190128BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20190128BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20190128BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B65D65/40 D
   C23C28/00 D
   C23C28/04
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-505354(P2015-505354)
(86)(22)【出願日】2015年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2015051367
(87)【国際公開番号】WO2015111572
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2017年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-12106(P2014-12106)
(32)【優先日】2014年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上林 浩行
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 光
(72)【発明者】
【氏名】徳永 幸大
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−043096(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0229657(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B65D65/00−65/46
C23C14/00−14/58
24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも片面に、ガスバリア層が配されたガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層とケイ素化合物を含む第2層とが高分子基材から見てこの順に接して配されており、X線光電子分光法により測定される前記第1層と前記第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、前記第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ前記第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さいガスバリア性フィルム。
【請求項2】
X線光電子分光法により測定される前記第1層と前記第2層との界面の、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅が2.5eV以上である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記ケイ素化合物が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記第1層が、アルミニウム、ガリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、インジウム、ニオブ、モリブデンおよびタンタルからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記高分子基材と前記第1層との間にアンダーコート層をさらに有し、該アンダーコート層が芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含む請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記第1層が、酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記第1層は、X線光電子分光法により測定される亜鉛原子濃度が10〜35atom%、ケイ素原子濃度が7〜25atom%、アルミニウム原子濃度が0.5〜5atom%、酸素原子濃度が45〜70atom%である請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記第2層は、X線光電子分光法により測定されるケイ素原子濃度が25〜45atom%、酸素原子濃度が55〜75atom%である請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いガスバリア性が必要とされる食品用、医薬品用などの包装材料や、太陽電池、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレーなどの電子部品の材料として使用されるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子基材のガスバリア性を向上する技術としては、例えば、有機ケイ素化合物の蒸気と酸素を含有するガスを用いてプラズマCVD法により高分子基材上に、ケイ素酸化物を主成分とし、炭素、水素、ケイ素および酸素を少なくとも1種類含有した化合物の層を形成することによって、透明性を維持しつつガスバリア性を向上させる技術が開示されている(特許文献1(特許請求の範囲参照))。また、別のガスバリア性を向上する技術としては、基板上にエポキシ化合物を含む有機層とプラズマCVD法で形成されるケイ素系酸化物層を交互に多層積層することで、膜応力によるクラックおよび欠陥の発生を防止した多層積層構成のガスバリア層を形成する方法が開示されている(特許文献2(特許請求の範囲参照))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−142252号公報
【特許文献2】特開2003−341003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、プラズマCVD法によりケイ素酸化物を主成分としたガスバリア層を形成する方法では、ガスバリア層の下地となる高分子基材表面の凹凸の影響を受けて、形成されるガスバリア層内部に欠陥が発生し、高いガスバリア性を安定して得られない問題があった。
【0005】
また、特許文献2の方法では、水蒸気透過度1.0×10−3g/(m・24hr・atm)以下の高いガスバリア性を得るためには、数十層積層して厚膜のガスバリア性の層を形成する必要があるため、屈曲や外部からの衝撃によってクラックが生じやすく、ガスバリア層形成後のフィルム搬送や後工程におけるハンドリングや切断、貼り合わせなどの加工時にガスバリア性が大幅に低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、多層積層をせずとも高度なガスバリア性の発現が可能なガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高分子基材の少なくとも片面に、ガスバリア層が配されたガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層とケイ素化合物を含む第2層とが高分子基材から見てこの順に接して配されており、X線光電子分光法により測定される前記第1層と前記第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、前記第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ前記第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さいガスバリア性フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
水蒸気に対する高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。
図2】本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。
図3】第1層、第2層および第1層と第2層との界面におけるX線光電子分光法で得られたSi2pスペクトルを示したグラフの一例である。
図4】第1層と第2層との界面におけるX線光電子分光法で得られたZn2p3/2スペクトルを示したグラフの一例である。
図5】本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式のスパッタリング・化学気相蒸着装置を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、高分子基材の少なくとも片面に、ガスバリア層が配されたガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層とケイ素化合物を含む第2層とが高分子基材から見てこの順に接して配されており、X線光電子分光法により測定される前記第1層と前記第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、前記第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ前記第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さいガスバリア性フィルムである。なお、「酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層」を、単に「第1層」と、「ケイ素化合物を含む第2層」を、単に「第2層」と略記することもある。
【0011】
図1に本発明のガスバリア性フィルムの一例の断面図を示す。本態様のガスバリア性フィルムは、高分子基材1の片面にガスバリア層2を有している。ガスバリア層2は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層2aとケイ素化合物を含む第2層2bとが高分子基材1から見てこの順に接して配されている。酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層2aに接してケイ素化合物を含む第2層2bが配されていることによって、第1層表面のピンホールやクラック等の欠陥に第2層に含まれるケイ素化合物が充填され、ガスバリア層2は、高度なガスバリア性を有するものとなる。
【0012】
本発明のガスバリア性フィルムにおいてケイ素化合物を含む第2層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は以下の(i)、(ii)、(iii)のように推定している。
【0013】
(i)第2層はケイ素化合物を含むことで層全体が非晶質かつ緻密となるため、第1層表面に存在するクラックやピンホールなどのサイズが大きい欠陥の表面または欠陥内部に第2層のケイ素化合物が効率良く充填され、第1層単層の場合よりも水蒸気の透過が抑制され、ガスバリア性が向上する。
【0014】
(ii)第2層が第1層の亜鉛原子より原子半径の小さいケイ素原子を含むことで、第1層表面に存在する数nm以下サイズの欠陥に効率良くケイ素原子を充填できるため、よりガスバリア性が向上する。
【0015】
(iii)第1層に含まれる亜鉛原子は、融点が低い元素であることから、第2層形成時におけるプラズマや熱の影響を受けて、第1層表面の原子欠陥に充填された第2層のケイ素原子や酸素原子は、第1層に含まれる亜鉛原子およびケイ素原子と化学結合してシリケート結合を形成するため、第1層表面の原子欠陥の減少および結合状態の秩序性の向上により空隙は減少して、より高度なガスバリア性を発現する。
【0016】
本発明において、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーとは、第1層の厚み方向において1/2の位置における結合エネルギーをいう。同様に、第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーとは、第2層の厚み方向において1/2の位置における結合エネルギーをいう。
【0017】
なお、Si2p軌道における結合エネルギーとは、Si原子の2p軌道に存在する束縛電子の結合エネルギーのことであり、X線光電子分光法で得られるSi2pスペクトルにおいて、検出強度が最大を示すエネルギー値である。すなわち、Si2p軌道における結合エネルギーの変化から、Si原子における結合状態の変化を把握することができる。
【0018】
また、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーとは、第1層表面におけるSi2p軌道の結合エネルギーをいう。すなわち、後述のように、第2層表面から第1層側に向けて、アルゴンイオンエッチングして、透過型電子顕微鏡による断面観察により確認される第1層と第2層との界面まで第2層を除去し、第2層が除去された第1層表面を測定したときのSi2p軌道の結合エネルギーをいう。
【0019】
第1層、第2層および第1層と第2層との界面におけるX線光電子分光法で得られたSi2pスペクトルを示したグラフの一例を図3に示す。図3は、X線光電子分光法で得られるSi2pスペクトルにおいて、検出強度の最小値を0、最大値を1として規格化したものである。
【0020】
本発明において、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さいということは、第1層表層に第2層を形成することによって、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な結合が形成されたことを示す。詳細は定かではないが、第1層に含まれる亜鉛原子は融点の低い元素であるため、第1層表面は第2層形成時におけるプラズマや熱の影響を受けて、密着が弱い亜鉛原子は第1層表面から脱離し、第2層がケイ素酸化物を含む場合は、第2層のケイ素原子および酸素原子と化学結合して、Zn−O−Siの亜鉛シリケートの結合となり、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な結合を形成していると考えている。また、第1層表面の原子欠陥に充填された第2層のケイ素原子や酸素原子は、第1層に含まれる未結合手を有する亜鉛原子およびケイ素原子と化学結合して、Zn−O−Siの亜鉛シリケートの結合となり、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な結合が形成されたと考えている。すなわち、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層表面にケイ素化合物を含む第2層を形成し、第1層表面にZn−O−Siの亜鉛シリケートを形成することで、未結合手を有する亜鉛原子およびケイ素原子が減少し、その結果として、第1層と第2層との界面のSi2p軌道の結合エネルギーは第1層に比べて大きくなる。また、第2層がケイ素酸化物を含む場合は、Si−O−Siの秩序性の高い共有結合を多く含むようになるため、第1層および第1層と第2層との界面は第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さくなる。この効果によって、第1層表面の欠陥に第2層のケイ素化合物やケイ素原子が充填されると共に、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な亜鉛シリケートの結合が形成されるため、第1層表面の原子欠陥の減少および結合状態の秩序性の向上により空隙は減少して、高度なガスバリア性を発現する。加えて、第1層と第2層との界面において亜鉛シリケートの結合により第1層と第2層との密着が強くなるため、使用時、屈曲や外部からの衝撃によって剥離や密着性低下が生じにくく、高度なガスバリア性を維持することができるガスバリア性フィルムになると推定している。
【0021】
なお、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーと同じまたは小さい場合は、第1層表面に結合が弱いSi原子や欠陥が多く存在し、第1層よりも強固な亜鉛シリケートの結合は形成されていない状態であるため、第2層を積層することによる大幅なガスバリア性向上の効果は得られない。また、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーと同じまたは大きい場合は、第2層の形成元素だけで化学結合した状態であり、第1層と第2層を構成する元素で化学結合した亜鉛シリケートの結合は形成されないため、第1層と第2層との界面は屈曲や外部の衝撃によって剥離や密着性の低下が生じやすく、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0022】
従って、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さいことが好ましい。第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーは、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより0.2eV以上大きいことが好ましい。また、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーは、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより1.5eV以下の範囲で大きいことが好ましい。第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーは、第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより0.1eV以上小さいことが好ましい。また、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーは、第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより0.7eV以下の範囲で小さいことがより好ましい。また、第1層表面に強固な亜鉛シリケートの結合を形成し、ガスバリア性向上の効果および第1層と第2層の密着性向上の効果が得られる観点から、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーは、102.0eV以上、103.8eV以下であることが好ましい。
【0023】
第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さくするためとする方法としては、まず第1層の成膜中は高分子基材を50℃以上に加熱した状態とし、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む層を緻密かつ第1層表面に原子欠陥が少ない構造で形成することが好ましい。次に、第2層の成膜中に高分子基材を50℃以上に加熱した状態とし、さらにプラズマ、電子ビーム、イオンビームなどを用いて高いエネルギーで第1層表面を処理しながら成膜することによって、第1層表面の亜鉛原子が脱離し、第2層のケイ素原子および酸素原子などと化学結合して、第1層と第2層の界面でZn−O−Siなどの亜鉛シリケートの結合を形成するように第2層を形成する方法が好ましい。
【0024】
ガスバリア性フィルムは、X線光電子分光法により測定される前記第1層と第2層との界面のZn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅が2.5eV以上であることが好ましい。第1層と第2層との界面におけるX線光電子分光法で得られたZn2p3/2スペクトルを示したグラフの一例を、図4に示す。ここで、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅とは、X線光電子分光法で得られるZn2p3/2スペクトルにおいて、検出強度の最小値を0、最大値を1として規格化したときの強度0.5におけるスペクトル幅をエネルギー値で示したものである。
【0025】
第1層と第2層との界面の、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅が2.5eV以上であると、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な亜鉛シリケートの結合が形成されて緻密化し、高いガスバリア性が得られるため好ましい。第1層と第2層との界面の、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅が2.5eVより小さい場合は、第1層と第2層との界面に第1層よりも強固な亜鉛シリケートの結合が形成されていない状態であるため、高いガスバリア性は発現しない場合がある。従って、第1層と第2層との界面の、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅は2.5eV以上であることが好ましく、2.7eV以上であることがより好ましい。また、該半値幅は、4.0eV以下であることが好ましく、3.5eV以下であることがより好ましい。また、第1層表面に強固な亜鉛シリケートの結合を形成し、ガスバリア性向上の効果が得られる観点から、第1層と第2層との界面の、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーは1,020.0eV以上、1,024.0eV以下であることが好ましい。
【0026】
第1層と第2層との界面におけるZn2p3/2軌道の結合エネルギーは、第2層表面から第1層方向に向けて、透過型電子顕微鏡による断面観察により確認される第1層と第2層との界面まで、アルゴンエッチングにより第2層を除去し、第2層が除去された第1層表面においてX線光電子分光法により得ることができる。
【0027】
[高分子基材]
本発明に用いられる高分子基材は、柔軟性を確保する観点からフィルム形態を有することが好ましい。フィルムの構成としては、単層フィルムでもよいし、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであってもよい。フィルムの種類としては、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。
【0028】
高分子基材の素材は、特に限定されないが、有機高分子を主たる構成成分とするものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン;環状構造を有する非晶性環状ポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、汎用性および機械特性に優れた非晶性環状ポリオレフィンまたはポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよい。また、有機高分子として1種類のみを用いてもよいし、複数種類をブレンドして用いてもよい。
【0029】
高分子基材のガスバリア層を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするためにコロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンダーコート層の形成処理等の前処理が施されていてもよい。また、ガスバリア層を形成する側の反対側には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
【0030】
高分子基材の厚みは、特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から高分子基材の厚みは10μm以上、200μm以下がより好ましい。
【0031】
[酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層]
本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア層が酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層を有することによって高いガスバリア性を発現することができる。酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、結晶質の酸化亜鉛成分とガラス質の二酸化ケイ素成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい酸化亜鉛の結晶成長が抑制され、酸化亜鉛の粒子径が小さくなるため、層が緻密化し、水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。また、酸化亜鉛および二酸化ケイ素を含む層は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の一つの金属元素のみからなる酸化物で形成された薄膜よりも膜の柔軟性が優れるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくく、ガスバリア性の低下を抑制できると考えられる。
【0032】
第1層は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含んでいれば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタンタル(Ta)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含んでいてもよい。さらに、これらの元素の酸化物、窒化物、硫化物、または、それらの混合物を含んでいてもよい。例えば、第1層として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる層が、高いガスバリア性が得られるため、好適に用いられる。
【0033】
第1層の厚みは、ガスバリア性の観点から、10nm以上、1,000nm以下が好ましい。層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、高分子基材面内でガスバリア性がばらつく場合がある。また、層の厚みが1,000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって第1層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。第1層の厚みは、柔軟性を確保する観点から100nm以上、500nm以下がより好ましい。第1層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定することが可能である。
【0034】
第1層の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaが10nmより大きくなると、第1層表面の凹凸形状が大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、膜厚を厚く形成してもガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。また、SRaが10nmより大きくなると、第1層上に積層する第2層の膜質が均一にならないため、X線光電子分光法により測定される第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーを、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さくできず、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、第1層のSRaは10nm以下であることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。第1層のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
【0035】
第1層を形成する方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。例えば、酸化亜鉛、二酸化ケイ素および必要に応じてその他の成分の組成比を目的とする層の組成に合わせた混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等で高分子基材上に第1層を形成することができる。また、酸化亜鉛、二酸化ケイ素およびその他の単体材料をそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて第1層を形成することもできる。これらの方法の中でも、形成された層の組成再現性および簡便性から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。また、高分子基材を50℃以上に加熱した状態で第1層を形成することによって、第1層表面は原子欠陥が少ない緻密な構造で、かつ表面粗さが小さい平坦な面となる。これにより、第1層上に形成される第2層が均一になり、かつ、第1層と第2層が結合しやすくなるため、よりガスバリア性を向上することができるので好ましい。したがって、高分子基材を50℃以上に加熱した状態でスパッタリング法により第1層を形成する方法が特に好ましい。
【0036】
[酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウム層]
第1層として好適に用いられる酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる層について詳細を説明する。なお、「酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムからなる層」を「酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウム層」または「ZnO−SiO−Al層」と略記することもある。
【0037】
二酸化ケイ素(SiO)は、生成時の条件によって、ケイ素と酸素の組成比率が左記組成式から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、その場合も二酸化ケイ素あるいはSiOと表記することとする。かかる金属元素と酸素の組成比の化学式からのずれに関しては、酸化亜鉛および酸化アルミニウムについても同様の扱いとし、それぞれ、生成時の条件に依存する組成比のずれに関わらず、それぞれ酸化亜鉛またはZnO、酸化アルミニウムまたはAlと表記することとする。
【0038】
第1層として酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウム層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素を含む層に、さらに酸化アルミニウムを共存させることによって、酸化亜鉛と二酸化ケイ素のみを共存させる場合に比べて、より結晶成長を抑制することができるため、クラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
【0039】
酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウム層の組成は、後述するようにX線光電子分光法(XPS法)により測定することで得ることができる。ここで、本発明における第1層の組成は、第1層の厚み方向の1/2の位置における、XPS法で測定される各元素の原子濃度比で表される。なお、第1層の厚みは上述の通り透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察で得られた厚みである。第1層は、XPS法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が10〜35atom%、ケイ素(Si)原子濃度が7〜25atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)原子濃度が45〜70atom%であることが好ましい。
【0040】
亜鉛(Zn)原子濃度が35atom%より大きくなる、またはケイ素(Si)原子濃度が7atom%より小さくなると、酸化亜鉛の結晶成長を抑制する二酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムが不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、十分なガスバリア性が得られない場合がある。亜鉛(Zn)原子濃度が10atom%より小さくなる、またはケイ素(Si)原子濃度が25atom%より大きくなると、層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下する場合がある。また、アルミニウム(Al)原子濃度が5atom%より大きくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため膜の鉛筆硬度が上昇し、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。アルミニウム(Al)原子濃度が0.5atom%より小さくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が低下し、層を形成する粒子間の結合力が向上できないため、柔軟性が低下する場合がある。また、酸素(O)原子濃度が70atom%より大きくなると、第1層内の欠陥量が増加するため、所望のガスバリア性が得られない場合がある。酸素(O)原子濃度が45atom%より小さくなると、亜鉛、ケイ素およびアルミニウムの酸化状態が不十分となり、結晶成長が抑制できず粒子径が大きくなるため、ガスバリア性が低下する場合がある。かかる観点から、亜鉛(Zn)原子濃度が15〜32atom%、ケイ素(Si)原子濃度が10〜20atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜3atom%、酸素(O)原子濃度が50〜64atom%であることがより好ましい。
【0041】
酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウム層に含まれる成分は酸化亜鉛、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムが上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)等の金属の酸化物をさらに含んでも構わない。ここで主成分とは、第1層の組成の50質量%以上であることを意味し、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0042】
第1層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的とする層の組成に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで第1層の組成を調整することが可能である。
【0043】
第1層の組成は、XPS法を使用して、亜鉛、ケイ素、アルミニウム、酸素およびその他の含有される元素の組成比を測定することにより、知ることができる。XPS法は、超高真空中においた試料表面に軟X線を照射した際に表面から放出される光電子をアナライザーで検出することにより、得られた束縛電子の結合エネルギー値から元素情報を把握でき、さらに結合エネルギーのピーク面積比から各検出元素を定量することができる。
【0044】
第1層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、透過型電子顕微鏡による断面観察により該無機層や該樹脂層の厚さを測定し、イオンエッチングや薬液処理により該無機層や該樹脂層を除去した後、さらに第1層の厚みが1/2となる位置まで、アルゴンイオンエッチングにより除去し、X線光電子分光法で分析することができる。
【0045】
[ケイ素化合物を含む第2層]
次に、ケイ素化合物を含む第2層について詳細を説明する。本発明における第2層は、ケイ素化合物を含む層であり、ケイ素化合物として、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素炭化物、ケイ素酸窒化物または、それらの混合物を含んでいてもよい。特に、ケイ素化合物が、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0046】
第2層中のケイ素化合物の含有率は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。なお、本発明におけるケイ素化合物は、X線光電子分光法、ICP発光分光分析、ラザフォード後方散乱法等により成分を特定された各元素の組成比が整数で表される組成式を有する化合物として扱う。たとえば、二酸化ケイ素(SiO)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、そのような場合でも、SiOとして扱い上記の質量含有率を算出するものとする。
【0047】
ケイ素化合物を含む第2層の組成は、X線光電子分光法により測定することができる。ここで、本発明における第2層の組成は、第2層の厚みが1/2となる位置において、XPS法で測定される各元素の原子濃度比である。
【0048】
第2層の上に無機層や樹脂層が積層されている場合、透過型電子顕微鏡による断面観察により測定された無機層や樹脂層の厚さ分をイオンエッチングや薬液処理により除去した後、さらに第2層の厚みが1/2となる位置まで、アルゴンイオンエッチングにより除去し、X線光電子分光法で分析することができる。
【0049】
第2層がケイ素酸化物を含む層である場合において、その組成はX線光電子分光法により測定されるケイ素(Si)原子濃度が25〜45atom%、酸素(O)原子濃度が55〜75atom%であることが好ましい。ケイ素(Si)原子濃度が25atom%より小さくまたは酸素原子濃度が75atom%より大きくなると、ケイ素原子に結合する酸素原子が過剰に多くなるため、層内部に空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。また、ケイ素(Si)原子濃度が45atom%より大きくまたは酸素(O)原子濃度が55atom%より小さくなると、膜が過剰に緻密になるため、大きなカールが発生したり柔軟性が低下したりすることにより、熱や外部からの応力でクラックが生じやすくなり、ガスバリア性を低下させる場合がある。かかる観点から、第2層は、ケイ素(Si)原子濃度が28〜40atom%、酸素(O)原子濃度が60〜72atom%であることがより好ましく、さらにはケイ素(Si)原子濃度が30〜35atom%、酸素(O)原子濃度が65〜70atom%であることがより好ましい。
【0050】
第2層に含まれる成分はケイ素(Si)原子濃度および酸素(O)原子濃度が上記組成の範囲であれば特に限定されず、例えば、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。
【0051】
第2層の厚みは、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。層の厚みが10nmより薄くなると、箇所によってガスバリア性がばらつく場合がある。また、第2層の厚みは、1,000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。層の厚みが1,000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって第2層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。
【0052】
第2層を形成する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相蒸着法(CVD法と略す)等の成膜方法によって形成することができる。第1層の表面に存在するクラックやピンホール、原子欠陥等に効率良く第2層を形成する原子を充填し、さらに第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーが、第1層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより大きく、かつ第2層におけるSi2p軌道の結合エネルギーより小さくするために、第1層表面で第2層を構成する原子が活性化するように高いエネルギーで第1層表面を処理しながら第2層を形成する方法が好ましい。
【0053】
例えば、真空蒸着法を用いる場合、高分子基材を50℃以上に加熱した状態において、成膜中に酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスのプラズマを発生させ、さらにプラズマを加速させてビーム化し、第1層表面を処理しながら第2層を形成する、イオンビームアシスト蒸着法が好ましい。
【0054】
スパッタリング法を用いる場合は、高分子基材を50℃以上に加熱した状態において、ターゲット材料をスパッタリングするプラズマとは別に、酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスのプラズマを発生、加速させてビーム化し、第1層表面を処理しながら第2層を形成する、イオンビームアシストスパッタ法が好ましい。
【0055】
CVD法を用いる場合は、高分子基材を50℃以上に加熱した状態において、誘導コイルで酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスの高密度なプラズマを発生させ、プラズマによる第1層表面の処理とケイ素系有機化合物のモノマー気体の重合反応による第2層の形成とを同時に行う誘導結合型CVD電極を用いたプラズマCVD法が好ましい。
【0056】
これらの方法の中でも、第1層表面の欠陥に第2層に含まれる原子を効率良く充填させ、かつ、第1層表面を大面積かつ均一に処理することができる誘導結合型CVD電極を用いたプラズマCVD法がより好ましい。
【0057】
CVD法に使用するケイ素系有機化合物とは、分子内部にケイ素を含有する化合物のことであり、例えば、シラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、プロポキシシラン、ジプロポキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ウンデカメチルシクロヘキサシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、デカメチルシクロペンタシラザン、ウンデカメチルシクロヘキサシラザンなどが挙げられる。中でも取り扱い上の観点からヘキサメチルジシロキサン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0058】
[アンダーコート層]
ガスバリア性フィルムには、ガスバリア性向上および耐屈曲性向上のため、前記高分子基材と前記第1層との間に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含むアンダーコート層が設けられることが好ましい。この態様のガスバリア性フィルムの一例を図2に示す。アンダーコート層3を有することによって、高分子基材1の表面に突起や傷が存在しても、平坦化することができ、ガスバリア層が偏りなく均一に成長するため、より高いガスバリア性を発現するガスバリア性フィルムとなる。また、高分子基材と第1層との熱寸法安定性差が大きい場合も、アンダーコート層を設けることにより、ガスバリア性や耐屈曲性の低下を防ぐことができるので好ましい。
【0059】
アンダーコート層は、熱寸法安定性および耐屈曲性の観点から、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物に加えて、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、有機ケイ素化合物および無機ケイ素化合物から選ばれた化合物を架橋して得られる構造を含有することがより好ましい。以下、溶媒を除く、これらポリウレタン化合物、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、有機ケイ素化合物および無機ケイ素化合物等の化合物を重合性成分と呼ぶ。
【0060】
芳香族環構造を有するポリウレタン化合物は、主鎖あるいは側鎖に芳香族環およびウレタン結合を化合物である。例えば、分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物とを重合させて得ることができる。
【0061】
分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールF型、レゾルシン、ヒドロキノン等の芳香族グリコールのジエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させて得ることができる。
【0062】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−イソプロピリデンフェノール、4,4’−イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、ビスフェノールAなどを用いることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0063】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート化合物;キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族系イソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0064】
芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5,000〜100,000であれば、得られる硬化皮膜の熱寸法安定性および耐屈曲性が優れるため好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用いて測定され標準ポリスチレンで換算された値である。
【0065】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート等を挙げられる。これらの中でも、熱寸法安定性、表面保護性能に優れた多官能(メタ)アクリレートが好ましい。また、これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0066】
エチレン性不飽和化合物の含有量は特に限定されないが、熱寸法安定性および表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、5〜90質量%の範囲であることが好ましく、10〜80質量%の範囲であることがより好ましい。
【0067】
光重合開始剤としては、ガスバリア性フィルムのガスバリア性および耐屈曲性を保持することができれば特に限定されない。好適に用いることができる光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤;ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤;1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(0−ベンゾイルオキシム)]等オキシムエステル構造を持つ光重合開始剤等が挙げられる。
【0068】
これらの中でも、硬化性および表面保護性能の観点から、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシドおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドから選ばれる光重合開始剤が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0069】
光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、硬化性および表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0070】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、硬化性および活性エネルギー線照射による重合活性の観点から、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一つの有機ケイ素化合物が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0072】
有機ケイ素化合物の含有量は特に限定されないが、硬化性および表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲であることがより好ましい。
【0073】
無機ケイ素化合物としては、表面保護性能および透明性の観点からシリカ粒子が好ましい。シリカ粒子の一次粒子径は1〜300nmの範囲であることが好ましく、5〜80nmの範囲であることがより好ましい。なお、ここでいう一次粒子径とは、ガス吸着法により求めた比表面積sを下記の式(1)
d=6/ρs (1)
ρ:密度
に適用することで求められる粒子直径dを指す。
【0074】
アンダーコート層の厚みは、200nm以上、4,000nm以下が好ましく、300nm以上、2,000nm以下がより好ましく、500nm以上、1,000nm以下がさらに好ましい。アンダーコート層の厚みが200nmより薄くなると、高分子基材上に存在する突起や傷などの欠点の悪影響を抑制できない場合がある。アンダーコート層の厚みが4,000nmより厚くなると、アンダーコート層の平滑性が低下して前記アンダーコート層上に積層する第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。ここでアンダーコート層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定することが可能である。
【0075】
アンダーコート層の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaを10nm以下にすると、アンダーコート層上に均質な第1層を形成しやすくなり、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。アンダーコート層の表面のSRaが10nmより大きくなると、アンダーコート層上の第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。また、凹凸が多い部分で応力集中によるクラックが発生し易いため、ガスバリア性の繰り返し再現性が低下する原因となる場合がある。従って、アンダーコート層のSRaを10nm以下にすることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。
【0076】
アンダーコート層のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
【0077】
ガスバリア性フィルムにアンダーコート層を適用する場合、アンダーコート層を形成するための塗料の塗布手段としては、まず高分子基材上に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を、乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整し、例えばリバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより塗布することが好ましい。また、塗工適性の観点から、有機溶剤を用いて芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を希釈することが好ましい。
【0078】
具体的には、キシレン、トルエン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジブチルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを用いて、固形分濃度が10質量%以下になるように塗料を希釈して使用することが好ましい。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。また、アンダーコート層を形成する塗料には、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
【0079】
次いで、塗布後の塗膜を乾燥させて希釈溶剤を除去することが好ましい。ここで、乾燥に用いられる熱源としては特に制限は無く、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。なお、ガスバリア性向上のため、加熱温度は50〜150℃で行うことが好ましい。また、加熱処理時間は数秒〜1時間行うことが好ましい。さらに、加熱処理中は温度が一定であってもよく、徐々に温度を変化させてもよい。また、乾燥処理中は湿度を相対湿度で20〜90%RHの範囲で調整しながら加熱処理してもよい。前記加熱処理は、大気中もしくは不活性ガスを封入しながら行ってもよい。
【0080】
次に、乾燥後の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗膜に活性エネルギー線照射処理を施して前記塗膜を架橋させて、アンダーコート層を形成することが好ましい。
【0081】
かかる場合に適用する活性エネルギー線としては、アンダーコート層を硬化させることができれば特に制限はないが、汎用性および効率の観点から紫外線を用いることが好ましい。紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。また、活性エネルギー線処理は、硬化効率の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は、アンダーコート層の架橋度制御の観点から酸素ガス分圧は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。相対湿度は任意でよい。
【0082】
紫外線照射の積算光量は0.1〜1.0J/cmであることが好ましく、0.2〜0.6J/cmがより好ましい。前記積算光量が0.1J/cm以上であれば所望のアンダーコート層の架橋度が得られるため好ましい。また、前記積算光量が1.0J/cm以下であれば高分子基材へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
【0083】
[その他の層]
本発明のガスバリア性フィルムの最表面の上には、ガスバリア性が低下しない範囲で耐擦傷性の向上を目的としたハードコート層を形成してもよいし、有機高分子化合物からなるフィルムをラミネートしてもよい。なお、ここでいう最表面とは、第1層と接していない側の第2層の表面をいう。
【0084】
[用途]
本発明のガスバリア性フィルムは高いガスバリア性を有するため、様々な電子デバイスに用いることができる。例えば、太陽電池のバックシートやフレキシブル回路基板のような電子デバイスに好適に用いることができる。また、高いガスバリア性を活かして、電子デバイス以外にも、食品や電子部品の包装用フィルム等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0086】
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
【0087】
(1)層の厚み
断面観察用サンプルを、マイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、第1層、第2層およびアンダーコート層の厚みを測定した。
【0088】
(2)中心面平均粗さSRa
三次元表面粗さ測定機(小坂研究所社製)を用いて、以下の条件で各層表面について測定した。
システム:三次元表面粗さ解析システム「i−Face model TDA31」
X軸測定長さ/ピッチ:500μm/1.0μm
Y軸測定長さ/ピッチ:400μm/5.0μm
測定速度:0.1mm/s
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中。
【0089】
(3)水蒸気透過度(g/(m・24hr・atm))
特許第4407466号に記載のカルシウム腐食法により、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下での水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度を測定するためのサンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は各検体について5回とし、得られた10点の平均値を水蒸気透過度(g/(m・24hr・atm))とした。
【0090】
(4)組成およびSi2p軌道の結合エネルギー、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅
第1層、第2層の組成分析およびSi2p軌道の結合エネルギー、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅は、X線光電子分光法(XPS法)により行った。各層の厚みが1/2となる位置まで、表層からアルゴンイオンエッチングにより層を除去して下記の条件で測定した。また、第1層と第2層との界面におけるSi2p軌道の結合エネルギーおよびZn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅は、第2層表面から第1層方向に向けて、(1)に記載の方法で透過型電子顕微鏡による断面観察により確認される第1層と第2層との界面までアルゴンエッチングにより第2層を除去し、第2層が除去された第1層表面をX線光電子分光法(XPS法)により下記の条件で測定した。
装置:Quantera SXM (PHI社製)
励起X線:monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:100μm
光電子脱出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45°
イオンエッチング:Ar ion 2kV
raster サイズ : 2mm×2mm。
【0091】
(5)全光線透過率
JIS K7361:1997に基づき、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。測定は、縦50mm、横50mmのサイズに切り出したフィルム3枚について行い、測定回数は各サンプルにつき5回とし、合計15回測定の平均値を全光線透過率とした。
【0092】
(6)ヘイズ
JIS K7136:2000に基づき、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。測定は、縦50mm、横50mmのサイズに切り出したフィルム3枚について行い、測定回数は各サンプルにつき5回とし、合計15回測定の平均値をヘイズ値とした。
【0093】
(実施例1)
(第1層の形成)
高分子基材1として、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
【0094】
図5に示す巻き取り式のスパッタリング・化学気相蒸着装置4(以降スパッタ・CVD装置と略す)を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極11に設置し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、前記高分子基材1の表面に、第1層としてZnO−SiO−Al層を膜厚150nmとなるように設けた。
【0095】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ・CVD装置4のスパッタ電極11に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタターゲットを設置した。スパッタ・CVD装置4の巻き取り室5の中の、巻き出しロール6に高分子基材1の第1層を設ける側の面がスパッタ電極11に対向するようにセットした。
【0096】
次に、高分子基材1を、巻き出しロール6から巻き出し、ガイドロール7、8、9を介して、温度100℃に加熱されたメインドラム10に通した。真空度2×10−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを巻き取り室5に導入し、直流パルス電源により投入電力3,500Wをスパッタ電極11に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材1の表面上にZnO−SiO−Al層からなる第1層を形成した。第1層の厚みは、フィルム搬送速度により調整した。第1層が形成されたフィルムを、ガイドロール12、13、14を介して巻き取りロール15に巻き取った。
【0097】
この第1層の組成は、Zn原子濃度が27.0atom%、Si原子濃度が13.6atom%、Al原子濃度が1.9atom%、O原子濃度が57.5atom%であった。第1層を形成したフィルムから縦100mm、横100mmの試験片を切り出し、第1層表面の中心面平均粗さSRaの評価を実施した。結果を表1に示す。
【0098】
(第2層の形成)
図5に示す構造のスパッタ・CVD装置を使用し、上記の工程により得られた第1層が形成されたフィルムの第1層の上に、ヘキサメチルジシラザンを原料とした化学気相蒸着(以降、CVDと略す)を実施し、第2層としてSiO層を厚み100nmとなるように設けた。
【0099】
具体的な操作は以下のとおりである。スパッタ・CVD装置4の巻き取り室5の中の巻き出しロール6に前記第1層が形成された高分子基材1をセットし、巻き出し、ガイドロール7、8、9を介して、温度100℃に加熱されたメインドラム10に通した。真空度2×10−1Paとなるように酸素ガス45sccmとヘキサメチルジシラザン5sccmを巻き取り室5に導入し、高周波電源からCVD電極16の誘導コイル17に投入電力3,000Wを印加することにより、プラズマを発生させ、CVDにより前記高分子基材1の第1層上に第2層を形成した。第2層が形成されたフィルムを、ガイドロール12、13、14を介して巻き取りロール15に巻き取り、ガスバリア性フィルムを得た。
【0100】
この第2層の組成は、Si原子濃度が33.5atom%、O原子濃度が66.5atom%であった。
【0101】
得られたガスバリア性フィルムから縦100mm、横140mmの試験片を切り出し、Si2p軌道の結合エネルギー、Zn2p3/2軌道の結合エネルギーピークの半値幅、水蒸気透過度、全光線透過率、ヘイズの評価を実施した。結果を表1、2に示す。
【0102】
(実施例2)
(芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の合成)
5リットルの4つ口フラスコに、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(共栄社化学社製、商品名:エポキシエステル3000A)を300質量部および酢酸エチル710質量部を入れ、内温60℃になるよう加温した。合成触媒としてジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.2質量部を添加し、攪拌しながらジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(東京化成工業社製)200質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応を続行し、続いてジエチレングリコール(和光純薬工業社製)25質量部を1時間かけて滴下した。滴下後5時間反応を続行し、重量平均分子量20,000の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を得た。
【0103】
(アンダーコート層の形成)
高分子基材1として、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
【0104】
アンダーコート層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートDPE−6A)を20質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:IRGACURE(登録商標) 184)を5質量部、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM−503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部およびシクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。該塗液を前記高分子基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)を用いて塗布し、100℃で1分間乾燥した。乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して厚み1,000nmのアンダーコート層を設けた。
【0105】
紫外線処理装置:LH10−10Q−G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm
試料温調:室温。
【0106】
次いで、アンダーコート層上に実施例1と同様の方法で第1層として厚み150nmのZnO−SiO−Al層および第2層として厚み100nmのSiO層を設けた。得られたガスバリア性フィルムを実施例1と同様に評価した。結果を表1、2に示す。
【0107】
(実施例3)
第1層としてZnO−SiO−Al層を厚み450nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0108】
(実施例4)
第1層としてZnO−SiO−Al層を厚み100nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0109】
(実施例5)
第2層としてSiO層を厚み400nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0110】
(実施例6)
第2層としてSiO層を厚み70nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0111】
(実施例7)
第2層形成時のメインドラム温度を110℃として、SiO層を厚み300nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0112】
(比較例1)
第2層としてSiO層を形成しない以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0113】
(比較例2)
第1層としてZnO−SiO−Al層を形成しないで、高分子基材の表面に直接、SiO層を厚み100nmとなるように設けた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0114】
(比較例3)
第2層としてSiO層を形成しない以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0115】
(比較例4)
第1層の形成条件として、メインドラム10の温度を25℃とし、直流パルス電源の投入電力を1,500Wとし、さらに第2層の形成条件としてメインドラム10の温度を25℃とし、CVD電極の誘導コイルの投入電力を500Wとした以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0116】
(比較例5)
第1層としてZnO−SiO−Al層を厚み450nmとなるよう設け、さらに第2層の形成条件としてメインドラム10の温度を25℃とし、CVD電極の誘導コイルの投入電力を500Wとした以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0117】
(比較例6)
第1層としてSiO層を厚み100nmとなるよう形成し、第2層としてZnO−SiO−Al層を厚み150nmとなるよう形成した以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0118】
(比較例7)
第2層の形成条件としてメインドラム10の温度を25℃とし、CVD電極の誘導コイルの投入電力を500Wとして、SiO層の厚みを400nmとなるように形成した以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0119】
(比較例8)
第2層のSiO層に代えて、Al層を厚み100nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。なお、Al層は、ZnO−SiO−Al層形成時の酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットを、純度99.99質量%のアルミニウムからなるスパッタターゲットに代えてスパッタ電極12に設置した以外は実施例2の第1層と同様にして形成した。この第2層の組成は、Al原子濃度が37.5atom%、O原子濃度が62.5atom%であった。
【0120】
(比較例9)
実施例2において、第1層として純度99.99質量%のアルミニウムからなるスパッタターゲットを使用して、Al層を厚み150nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。この第1層の組成は、Al原子濃度が37.5atom%、O原子濃度が62.5atom%であった。
【0121】
(比較例10)
実施例2において、第1層として純度99.99質量%の酸化亜鉛からなるスパッタターゲットを使用して、ZnO層を厚み150nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。この第1層の組成は、Zn原子濃度が48.9atom%、O原子濃度が51.1atom%であった。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のガスバリア性フィルムは、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性に優れているので、例えば、食品、医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス用部材として有用に用いることができるが、用途がこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0125】
1 高分子基材
2 ガスバリア層
2a 酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む第1層
2b ケイ素化合物を含む第2層
3 アンダーコート層
4 巻き取り式スパッタリング・化学気相蒸着装置
5 巻き取り室
6 巻き出しロール
7、8、9 巻き出し側ガイドロール
10 メインドラム
11 スパッタ電極
12、13、14 巻き取り側ガイドロール
15 巻き取りロール
16 CVD電極
17 誘導コイル
図1
図2
図3
図4
図5