(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数個の、平面視した場合に一方が相対的に長く、他方が相対的に短い形状で、その上部に開口を有する不織布製ポットを用意し、その各々に栽培用土壌を入れ、当該ポットの長手方向にそれぞれオタネニンジンの苗を、その軸が傾斜した状態となるように植えつけ、これを多段式棚に、当該苗の発芽部側が外側となるよう載置したことを特徴とするオタネニンジンの栽培方法。
植物質および動物質の両方を含む半固形状またはペースト状肥料を1〜3回/年根部先端側に施肥を行う請求項1〜8の何れかの請求項に記載のオタネニンジンの栽培方法。
無機成分として少なくともマグネシウムおよびカルシウムを含む液状肥料を1〜3回/年葉面散布を行う請求項1〜9の何れかの請求項に記載のオタネニンジンの栽培方法。
オタネニンジンの地上部が存在する期間のうち30〜60日間は温度を23〜28℃、それ以外は温度を10〜20℃に維持し、オタネニンジンの地上部が枯死したら、そこから60〜100日間は温度を−3〜5℃に維持した後、オタネニンジンの地上部が新たに形成されるまで温度を10〜20℃に維持する請求項1〜11の何れかの請求項に記載のオタネニンジンの栽培方法。
【背景技術】
【0002】
オタネニンジン(Panax ginseng C.A.Meyer)は、主に中国、朝鮮半島で生産され、漢方薬原料の薬用植物として重要な地位を占めている。このオタネニンジンは、健康志向の高まりとともに、漢方薬原料としてのみならず、強壮を目的とした健康食品等にも使用されるようになり、その需要が増大している。
【0003】
オタネニンジンは、日本国内でも、長野県、福島県、島根県などで栽培されているが、その生産量は少なく、国内の需要を満たすためにかなりの量を海外から輸入している。
【0004】
ところで、日本国内でオタネニンジンの生産量が少ないのは、オタネニンジンは病気になりやすいこと、連作障害があること、収穫までに日数がかかること、栽培に多くの手間がかかることなど、多くの課題があるためである。
【0005】
まず、オタネニンジンは立枯病、根腐病、斑点病等の病気が発生しやすく、土壌を通じた伝染や、雨による病害の発生を防ぐ必要があった。
【0006】
また、オタネニンジンは、連作障害があるため、一つの畑で続けて栽培できず、更に、播種から収穫までに4〜6年を要するので、土地利用の面から極めて効率が悪いという問題がある。加えて、同じ畑で連作するためには、一度栽培した後の土壌を消毒する必要があり更に、栽培に適した土壌にするために1年から数年を掛けて、土壌を造成する必要があると言われている(非特許文献1)。
【0007】
更にまた、栽培に当たっては、直射日光を避けるための日覆い屋根の設置や、畑に生える雑草の除草に手間がかかるという問題もある。
【0008】
このような数多くの課題があるため、オタネニンジンの需要の高まりにもかかわらず、その生産量が増加していないのが、日本の現状である。
【0009】
なお、ソーラーパネルの下にニンジン栽培用のポットを置き、ここで栽培することを示唆するような文献(特許文献1中、
図2)もあるが、当該文献中では、ポットの素材やその形状についても、またニンジンをどのように植えつけ栽培するかについても全く記述はなく、当然上記オタネニンジン栽培での課題を解決するものとは言えない。
【0010】
また、屋内で人工光源を利用してニンジンを栽培する文献(特許文献2)もあるが、当該文献は単に屋外のように不安定な栽培条件とならないように、屋内で明るさと温度等を制御することが記述されているだけであり、実際に効率良くオタネニンジンが栽培できたかどうかの記述すらないし、その他、ニンジンをどのように植えつけるか等についても全く記述はない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の栽培法において、栽培に使用する不織布製ポット(以下、「栽培ポット」という)は、その平面視形状が、一方が相対的に長く他方が相対的に短いものであるが、その具体例としては、平面視が大略長方形、楕円形、舟形等の形状が挙げられる。また、このポットの上部は開口を有し、その開口は完全に開放されていても、天面が設けられ、その一部が開放されていても良く、また、その形状も特に限定されないが、例えば、長方形または楕円形が好ましい。
【0020】
この栽培ポットの一例としては、不織布の底面となる部分および2枚の側面となる部分を縫い合わせた、上部が開放された舟形のものが挙げられ、これは、1枚の不織布を、W字状に折り、その両側を縫製し、これを広げることで、底面および側面を形成すること等により調製できる。また、上部が完全に開放されたもののみならず、側面上部に天面となる不織布を取り付け、その天面の一部を切り欠いて開放できるようにしても良い。
【0021】
栽培ポットに使用される不織布としては、ポリ乳酸、セルロース、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンおよびそれらの組合せ等の材料で構成された不織布であり、このうち、ポリ乳酸、セルロースおよびポリエステルの材料で構成された不織布が好ましい。このような不織布としては、具体的に、アクスター(東レ製)、エルタス(旭化成製)、ハイボン(シンワ製)、タイベック(旭・デュポン・フラッシュスパン・プロダクツ製)等の市販品を利用することができる。本発明において、このように栽培ポットとして不織布を利用する理由は、これが通水性および土壌に対する通気性に優れており、オタネニンジンのポット栽培に適しているためである。
【0022】
本発明方法においては、上記栽培ポットに栽培用土壌を入れ、これに軸が傾斜した状態になるように苗を植えつける。
【0023】
本発明方法で用いる栽培用土壌は、特に限定されないが、例えば、無菌で、養分が含まれず、かつ保水性の良い土壌母材と元肥を混和したものが、簡易かつ安価に得られるため好ましい。
【0024】
上記栽培用土壌の土壌母材としては、特に限定されないが、例えば、粘
土質の火山灰土や火山噴出物の風化物等が挙げられ、好ましくは安価かつ大量に入手可能な赤玉土、鹿沼土等である。
【0025】
上記土壌母材と組み合わせて使用する元肥としては、特に限定されないが、例えば、腐葉土、油粕等が挙げられる。これら元肥の配合量は、特に限定されないが、例えば、土壌母材と元肥を質量比で10:1〜1:1に混和したものが好ましい。
【0026】
また、上記栽培用土壌の保肥性を示す陽イオン交換容量(CEC;単位:meq/100g)は、特に限定されないが、例えば、20〜60、特に25〜45が好ましい。また、栽培用土壌の通気性は、特に限定されないが、例えば、土壌の空隙率に換算して30〜40%程度、特に34〜37%であることが好ましい。
【0027】
更に、上記栽培用土壌のpHや電気伝導度は、特に限定されないが、例えば、pHが4.8〜6.4程度で、その電気伝導度(EC;単位:mS/cm)が、0.1〜0.5程度であることが好ましい。
【0028】
なお、屋外におけるオタネニンジンの栽培は団粒構造が発達した土壌が好ましいとされ(中国特許公開103430743号、中国特許公開102577835号)、栽培前に土壌に滅菌作業や1〜数年かけて大量の緑肥や堆肥等を混ぜ込み十分撹拌する等のオタネニンジン移植前の準備が必要であると言われている。
【0029】
この団粒構造が発達した土壌は、保肥性、通気性が適度で栽培が良好であるが、このような土壌を得るためには、林地を伐採して新たな畑地を造成するか、一度オタネニンジンを栽培した場所では、動物性を含む肥料を土壌に混和した後に、トウモロコシ等を栽培して土壌に混ぜ込み緑肥にする等、多大な手間と期間をかけて土壌改良しなければならない。
【0030】
しかし、本発明方法では、上記のような団粒構造が発達した土壌を使用してもよいが、これを使用せずとも保水性の良い土壌母材と元肥を混和したもので、十分にオタネニンジンを栽培することができる。
【0031】
上記した、栽培用土壌を充填した栽培ポットへのオタネニンジン苗の植え付けは、その苗の軸方向を栽培ポットの長手方向に合わせ、かつ斜めに植え付ける。この植え付け角は、水平方向に対して60゜以下であり、好ましくは10〜45゜であり、更に好ましくは、15〜30゜である。なお、この植え付けに当たっては、苗の発芽部分に土壌をかけないようにすることが病気対策の上で好ましい。
【0032】
植え付け角をこのようにする理由は、縦(水平面に対して90゜)に植えた場合、オタネニンジン主根全体に細根が生えるが、斜めに植えた場合は、オタネニンジン主根の下側半面にしか生えない為、主根が太くなりやすいためである。
【0033】
また、栽培ポット中に斜めに植えつける結果、主根は縦に植えた場合と比べ栽培ポットの高さが低くなり、成長する地上部の高さを考慮しても全体の高さは抑制されるので、後述の多段棚の段数を増やすことが可能であり、単位面積あたりの栽培効率が高まるというメリットもある。
【0034】
上記のようにオタネニンジンを植えつけた栽培ポットは、これを直射日光が遮られ、好ましくは、日中の50%以上の時間が陰になる場所に設置した多段式棚に、当該苗の発芽部側が外側となるよう載置する。この直射日光が遮られ、かつ日中の50%以上の時間が陰になる場所とは、例えば、単に金属製または非金属製の屋根を設置した場所の下でも良いが、更に周囲が壁で囲まれた屋内が好ましい。このうち、屋内で栽培する場合は、当該屋内での温度、湿度、土壌中の含水率の管理や、人工光源の利用による照明の管理が可能な屋内であることが更に好ましい。
【0035】
光源としては、自然光、人工照明等特に制限はないが、光の照射方向は、直接光又は反射光が棚の側面に当たるようにすればよい。棚の側面に光を当てることにより、棚の側方に地上部を伸長させ適切に光が当たるようにすることができる。棚の側面に光を当てる方法としては、棚の配置等を工夫し反射光が側面に当たるように調整しても良いし、棚の側面に向けて人工照明を設置してもよい。
【0036】
上記人工照明としては、特に限定されないが、例えば、白色電球、蛍光灯、LED等からなる光源を用いることが好ましく、特にオタネニンジンの地下部を肥大させるためには赤色光と青色光を含むLEDまたは赤色LEDおよび青色LEDからなる光源を用いることが好ましい。また、赤色LEDと青色LEDの比率は特に限定されないが、例えば、8:2〜6:4とすることが好ましく、7:3が特に好ましい。なお、赤色LEDの波長としては、例えば、発光波長が650〜700nmにピークがあるものが好ましく、660nmにピークがあるものがより好ましい。また、青色LEDの波長としては、例えば、発光波長が450〜500nmにピークがあるものが好ましく、470nmにピークがあるものがより好ましい。
【0037】
また、上記人工照明を用いる場合、オタネニンジンの地下部を肥大させるためには、好ましくはオタネニンジンの葉に対して1日あたり4時間以上、好ましくは8〜16時間、更に好ましくは6〜10時間、光合成光量子束密度の平均が12〜24μmolm
−2s
−1となるように光を照射する。葉に対して照射される光合成光量子束密度の平均が上記範囲より少ないとオタネニンジンの地下部の肥大が十分でない場合があり、多いとオタネニンジンが枯れてしまう場合がある。なお、上記光合成光量子束密度の平均は、オタネニンジンの個体ごとに葉付近の複数個所で、光量子量測定器で測定された光合成光量子束密度の平均値である。
【0038】
また多段式棚は、棚の間の高さが栽培ポットの高さと、生長する地上部が棚上段の影響を受けずに側面から上方向に伸長可能な程度の隙間を設ける必要がある。この各棚の間隔(下段棚板と上段棚板の間隔)は、成長する地上部を妨げない高さであれば特に制約はないが、25〜50cm程度であることが好ましく、30〜40cmが好ましい。棚の間の高さが25cmより狭いと、棚の上下段に設置した栽培ポットから伸長するオタネニンジンの地上部(葉)が棚側面で重なることがあり、下段のオタネニンジンの地上部が十分な光照射を受けられない場合がある。また、この棚板は、スリット等がある網状のものとすることで、より効率的に弱い日光照射を受けることができる。
【0039】
更に、この多段式棚には、栽培ポットはオタネニンジン苗の発芽部分側を棚板の外側に向けて載置するが、これは、発芽後の地上部、特に葉を棚の側方に伸長させることにより、ある程度遮光された日光や、弱めの人工照明であったとしても十分に受けられるようにする。これにより、多段式棚であっても十分にオタネニンジンを成長させることができる。
【0040】
また、オタネニンジンは、地上部が直立した場合の高さが1m程度にもなり、通常の栽培法では、ポットの高さも加えると棚一段あたりの高さが1.5m程度必要になる。そして屋内で栽培することを想定した場合、一般的な建物の高さが1階あたり3〜4m、倉庫でも5〜7mである事から、棚の段数は、2段多くても3段程度にしかできない。これに対し、本発明のように苗を傾斜した状態に植え付け、地上部を棚の側方に伸長させることにより、棚の間隔を狭くすることができ、多くの段数を設けることが可能になり、面積当たりの栽培効率を高めることができる。
【0041】
以上のように多段式棚に載置された栽培ポットに対する灌水は、主根に近すぎない位置への滴下またはポット側面からの浸潤により行い、その量は栽培用土壌が湿り気を帯びる程度の量が好ましく、具体的には灌水後の栽培用土壌の含水率を8%以上、好ましくは8〜20%になるようにすればよく、常に8%以上である必要はない。また、灌水後とは、灌水したすぐ後から2時間以内のことをいう。このような含水率にするためには、例えば、栽培用土壌4Lに対し、20〜40mLの水を、灌水すればよい。灌水の回数は、2日に一回以上、好ましくは1日1回から2回程度である。
【0042】
オタネニンジンは乾燥状態が続くと枯れてしまう事があるが、栽培ポット中に滞留する水分が多いと病気が発生しやすいので、この灌水の仕方や栽培用土壌の含水率には細心の注意を払うことが必要である。
【0043】
一方施肥は、オタネニンジンの苗を植えて萌芽し、地上部に葉が形成され苗の細根が充分に土壌中に廻ったタイミングから、好ましくは苗の根部先端から3〜5cmの位置に、注射器等のペースト状液肥の注入が可能な器具で、1年に1〜数回、好ましくは1〜3回行い、翌年以降も同じタイミングで行うことが好ましい。
【0044】
この施肥に用いる肥料としては、特に限定されないが、例えば、植物油かす類に由来する原料で作られる植物質肥料および魚、家畜に由来する原料で作られる動物質肥料を含むものが好ましい。この肥料における植物質肥料と動物質肥料の比率は特に限定されないが、例えば、植物質肥料が多い方が好ましく、植物質肥料と動物質肥料の比率は質量比で9:1〜7:3が好ましい。また、これら肥料は土壌中に滞留し徐々に溶け出し、効果が持続するため、半固形状(ゲル状)またはペースト状肥料であることが好ましい。このような肥料の市販品としては、例えば、みんなゆうきペースト(片倉チッカリン製)、有機入りペースト222彩姫(サンアグロ製)、セイワペースト(清和肥料工業製)等が挙げられる。なお、半固形状またはペースト状肥料とは、粘度計により測定される25℃における粘度が1000〜300万mPa・s(ミリパスカル秒)またはファンネル粘度が8〜20秒(500ml/500ml)に該当する液肥をいう。
【0045】
なお、苗の根部先端側に施肥を行うことが好ましい理由は、オタネニンジンの主根に肥料が直接触れることによる肥料焼けを防ぐためであり、主根から離れた部分に施肥することで、土壌中での滞留、拡散により肥料の徐放効果を期待することができる。苗の根部先端の施肥位置は具体的には根先端から3〜5cm離れた栽培用土壌中である事が好ましい。施肥位置が3cmより近いと根腐れしてしまうことがあり、また、施肥位置が根先端部から5cmよりも遠いと、施肥の効果が上がらない場合がある。
【0046】
また、土壌中への追肥とともに葉面散布用肥料により追肥することもできる。この葉面散布は、葉表面全体に1年に1〜数回、好ましくは1〜3回行うことが好ましく、翌年以降も同じタイミングで行うことが好ましい。この葉面散布用肥料による追肥と土壌中への追肥をともに行うことで、よりよい結果を得ることができる。この葉面散布用肥料としては特に限定されないが、例えば、無機成分として少なくともマグネシウムおよびカルシウムを含む液状のものが好ましい。このような葉面散布用肥料としては、Gヘルパー(武蔵野種苗園製)、パワフルグリーン(片倉チッカリン製)等が挙げられる。
【0047】
本発明の栽培法では、前記のように、不織布製ポット中に植栽したオタネニンジンを、多段式棚に載置し、栽培を行うのであるが、その際には、光をコントロールする必要がある。すなわち、ニンジンは陰性植物であるので、1日中強い光にあてる事は好ましくなく、必要により寒冷紗等で最適光量に調整することが好ましい。なお、多段式棚栽培にすることで光の当たる角度により棚の影が出来るため、より好ましい環境を保ちやすいが、例えば屋内環境での栽培では、照明ライトのパワーあるいは角度を変える事により照度を変えることも可能である。
【0048】
また、本発明の栽培法において、屋内の温度は、概ね、一年の平均気温を20℃程度(夏場は25℃程度、冬場は10℃以下)にすればよいが、新芽をより肥大させるには、オタネニンジンの地上部が存在する期間のうち30〜60日間は温度を23〜28℃、それ以外は温度を10〜20℃に維持し、オタネニンジンの地上部が枯死したら、そこから60〜100日間は温度を−3〜5℃に維持した後、オタネニンジンの地上部が新たに形成されるまで温度を10〜20℃に維持することが好ましい。
【0049】
更に、本発明の栽培法において、屋内の湿度は、特に限定されないが、例えば、栽培期間を通じて70〜80%に維持することが好ましい。
【0050】
以上説明した本発明の栽培法によれば、オタネニンジンは、個別の栽培ポットにより栽培されるため、病害を生じた栽培ポットを個別に除去でき、土壌を通じた病気の伝染や、雨による病害の発生および広がりを押さえることができる。また、栽培に使用した土壌を入れ替えることで、連作障害の問題はなく同じ場所で何度も栽培することが可能であり、また労働負荷を低減することもできる。更に、屋内で栽培すれば、天候に左右されることなく、効率的かつ安定的に栽培することが可能となる。
【0051】
また特に、本発明の栽培法は、屋内で栽培する際には、以下に説明する栽培システムを利用することが好ましい。
【0052】
屋内に、
多段式棚を設置し、この棚に、上記で説明したオタネニンジン栽培ポットを、前記苗の発芽部側が前記棚の外側となるようにして複数個載置し、
前記多段式棚と多段式棚との間に光源を設置し、
前記光源を制御するための光源制御部を設置し、
屋内温度を制御するための温度制御部を設置し、
前記オタネニンジン栽培ポットの土壌含水率を制御するための灌水量制御部を設置する。
【0053】
上記栽培システムにおいて、多段式棚に載置されるオタネニンジン栽培ポットは、これに植えられたオタネニンジンの発芽部側が前記棚の外側となるように傾斜した状態で植えつけられているため、オタネニンジンが成長すると、その葉は多段式棚から外側に飛び出すようになる。そのため、各段の高さは縦に植えつけた場合よりも低くすることができる。
【0054】
また、上記栽培システムにおいて、屋内に設置する光源は、多段式棚と多段式棚との間に設置されるが、多段式棚から外側に葉を伸長させることにより、効率良く光を照射することができる。また、光源として人工照明を用いれば、光の照射方向をコントロールすることも容易である。更に光源は、棚2〜4段に1つ、好ましくは3段に1つ程度設置すればよい。また更に、この光源の制御部は、例えば、光量(光合成光量子束密度)や照射時間が手動または自動的にコントロールできるものであればよい。更にまた、通常の室内栽培では各段の天井部に光源を設置する必要があるが、上記栽培システムではその必要もない。
【0055】
更に、上記栽培システムにおいて、屋内に設置する屋内温度を制御するための温度制御部は、一般的な空調機でよい。
【0056】
また更に、上記栽培システムにおいて、屋内に設置するオタネニンジン栽培ポットの土壌含水率を制御するための灌水量制御部は、例えば、灌水システムと土壌水分測定システムを備えていればよい。具体的には、オタネニンジン栽培ポットに灌水用の管と土壌水分測定用のセンサーを差し込み、これらで土壌含水率を制御すればよい。
【0057】
なお、上記栽培システムにおいては、更に、屋内湿度を制御するための湿度制御部、施肥のための制御部、炭酸ガス濃度の制御部等を追加して設置してもよい。
【0058】
また、上記した制御部は、更にパソコン、サーバー等に接続して自動制御を行ってもよい。
【0059】
以上説明した本発明の栽培法や栽培システムは、オタネニンジンの効率的かつ安定的な供給に極めて有利なものである。
【実施例】
【0060】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0061】
実 施 例 1
栽培用容器素材の検討:
オタネニンジンの根は、水分が停滞する条件や地温が高い条件下では根腐れを引き起こす。そこで、通気性、排水性に優れ、地温が上昇しない等の条件をクリアする栽培用ポットに最適な容器を次の様に選定した。
【0062】
まず、栽培用容器の候補として、不織布ポット(アクスター:ルートラップポット黒10A) 、ポリポット(ロンUL120) および素焼き6号鉢を準備した。ついで、この中に、栽培用土壌として、赤玉(小)、赤玉(中)および腐葉土を、3:2:1の割合で混合したものを用意した。この栽培用土壌を、各栽培容器に入れ、上からジョーロで灌水し、排水性を確認した。
【0063】
この結果、不織布ポットは、その全面から速やかな排水が確認され排水性は非常に良好であった。ポリポットと比べて通気性、排水性と保水性に優れると思われ、また、素焼き6
号鉢と比べ通気性が優れるとともに、コストが安価であり、更に軽量であるため作業性が良好であった。
【0064】
一方、上記栽培用土壌を各栽培用容器に詰めた後、日除け条件下(遮光率70%、90%)で、真夏の地温の上昇を調べた。7月27日は13時30分時点に測定し、7月31日と8月2日は不織布ポットとポリポットに温度計を設置して1時間ごとに記録を測定し最高温度、最低温度、平均温度のデータを取った。
【0065】
この結果、2012年7月27日(金)13時30分時点で遮光率70%程度の場所における不織布ポット、ポリポット、素焼き6号鉢の地温はそれぞれ29.3℃、34.8℃、 35.0℃であり、不織布ポットはポリポット、素焼き6号鉢と比べ地温が5.5〜5.7℃低かった。また、7月31日、遮光率70%条件下での不織布ポットの地温は、ポリポットと比較し、最高温度が−8.3℃、最低温度が−4.7℃、平均気温が−8.7℃ であった。更に8月2日、遮光率90%条件下での不織布ポットの地温は、ポリポットと比較し、最高温度が−6.4℃、最低温度が+1.1℃、平均気温が−2℃であった。
【0066】
これらの結果から不織布ポットは上下左右からの排水性に優れ、地温は素焼きの鉢やポリポットよりも6〜8℃低下した結果が得られたことから、今後のオタネニンジン栽培用ポットとして、不織布ポット(ルートラップポット黒)を選択した。
【0067】
実 施 例 2
屋内栽培試験
不織布製の市販の縦置き栽培ポット(アクスター ルートラップポット黒10AΦ15cm×34cm)と同じ不織布を使用した斜め植えつけ用栽培ポット(短辺12cm×長辺34cm×高さ13cm)を用い、下記の栽培条件により屋内栽培を行った。
【0068】
オタネニンジン苗は、長野県産の2年生苗を使用し、縦置き栽培ポットではその発芽部分に土がかぶらないよう真っ直ぐに植えつけ、斜め植えつけ用栽培ポットでは、苗を発芽部分に土がかぶらず、かつ苗が水平面に対して約45゜の角度となるよう植えつけた。また、比較として、同じ苗を用い、屋外の圃場で通常の露地栽培を行った。
【0069】
なお、追肥として、萌芽14日後、42日後および64日後の計3回みんなゆうきペースト(片倉チッカリン製;窒素:リン:カリウム=4:3:3;植物質肥料:動物質肥料=8:2;ファンネル粘度:15〜20)を1株あたり、2mL、3mL、3mL根圏(根部先端から5cm程度離れた場所にスポイト状の器具で注入し)投与した(追肥を行わない無処理群も設けた)。
【0070】
<屋内栽培における条件設定>
温 度: 空調機を使用し、20℃前後となるように設定
湿 度: 70〜80%
光 : 植物育成用蛍光灯(FL40SFRP パナソニック製)
日 長: 明期14時間、暗期10時間
土 壌: 赤玉土(中) :赤玉土(小) :腐葉土=2:3:1
使 用 苗: 長野県産2年生苗
【0071】
このような栽培で、オタネニンジンはいずれも生育したが、露地栽培のものは6月から斑点病が発生し、これが蔓延したため生育が悪くなった。これに対し、屋内栽培のものは、縦置き、斜め植えつけのいずれも病害の発生は極めて軽微であった。
【0072】
また、無処理群では、萌芽82日後ころから葉が黄化し始めたのに対し、追肥を行った場合はそのような現象が見られず、ペースト状肥料が有効であることが示された。なお、縦置き栽培ポットの場合、うまく根圏にペースト状肥料が投与できず、主根の周囲に留まってしまうものもあり、根腐れの現象も認められた。
【0073】
実 施 例 3
斜め植え栽培と縦植え栽培の比較
萌芽後30日後に葉部に霧吹きで葉面散布剤Gヘルパー(武蔵野種苗園製;海藻エキス100%(N:0.10%、P:0.20%、K:1.02%、Ca:0.11% Na:0.13%、Mg:0.01%、Cu:16ppm、Zn:19ppm、Fe:256ppm、Mn:13ppm))を数回噴霧した以外は、実施例2と同じ方法で、斜め植え(A)と縦植え(B)でのオタネニンジンの2年生苗を栽培し、地上部が枯死した萌芽約100日後に根部を掘り出し、苗の植付け時の重量との差を比較した。その結果を
図1に示す。
【0074】
この結果から、本栽培試験の結果、本発明の斜め植え栽培により、根部重量は、平均で6.6g増加したのに対し、縦植え栽培での根部重量は、3.57gしか増加しなかった。このように、斜め植えでは、縦植えと比較してその根部重量が約1.85倍も増加する事が確認された。
【0075】
実 施 例 4
屋内栽培システムによる栽培試験
空調機により温湿度管理が可能な屋内に、棚間隔が20cm、30cm、36cmである幅60cmの多段式棚を複数並べて設置した。実施例2で使用した斜め植え用不織布製栽培ポットに、栽培用土壌を、深さ10〜12cmになる様に入れ、オタネニンジンの2年生苗(5g〜20g)を、重量を測定した後、軸が水平面に対して15〜30°になるように、斜めに植えつけ、萌芽部が上部に出るように栽培用土壌で覆い、オタネニンジン苗を移植した。この苗を移植した栽培ポットの断面図を
図2に示した。また、多段式棚の間の通路部中央に、光源を棚3段に対して一つとなるように設け、光源の光の主照射方向を下向きとした。この屋内栽培システムの模式図を
図3に示した。この屋内栽培システムを用いて以下の条件でオタネニンジン苗を栽培した。
【0076】
く栽培条件>
温 度: 空調機を使用し、一年の平均気温が20℃程度となるように設
定(夏場25℃程度、冬場10℃以下)
湿 度: 70〜80%
光 源: 赤色LED(表面実装型1W型赤色パワーLED 発光波長6
60nmピーク)と青色LED(表面実装型1W型青色パワー
LED 発光波長470nmピーク)を、赤色LED:青色L
ED7:3で設置
日 長: 明期8時間、暗期4時間を2サイクル
土 壌: 赤玉土(中) :赤玉土(小) :腐葉土=2:3:1
使 用 苗: 国産または外国産オタネニンジン2年生または3年生苗
【0077】
なお、苗を移植した栽培ポットは、地上部が棚の外側に伸長するように、萌芽部を外側にして多段式棚に載置し、ポットの側面に自動潅水装置の潅水部が接するように設置し、灌水量を土壌含水率が、表1の範囲となるように調整した。土壌含水率の測定は、TDR土壌水分測定器(TDR-251A:Nakamura製)を用いて、灌水1〜2時間後に土壌水分センサーのロッド部分を測定土壌中に根元まで差し込んで行った。測定は1か所を1回行いその測定値を求め、換算表から体積含水率を求めた。
【0078】
また、萌芽後約4か月後に各個体の地上部の小葉毎に光量子量測定器(SE-MQ200:Apogee Instruments社製)を用いて光合成光量子束密度を測定し、個体毎の平均値を求めた。
【0079】
更に、栽培中追肥として、萌芽30日後にみんなゆうきペーストを1株あたり、5mLを根圏(根部先端から下に約3cm離れた場所に、注射器を使用して注入)に投与するとともに、萌芽後1〜2か月後の葉が十分展開した時に地上部の葉の表面に、葉面散布剤Gヘルパーを散布した。栽培開始後約7か月が経過し地上部が枯死した苗を堀りあげて、その地下部重量を測定した。この測定した地下部重量と、苗の植付け時の地下部重量の差から個体ごとの肥大量(g)を求め、該当する個体の肥大量の平均を算出した。オタネニンジン苗の平均肥大量(g)に対する光合成光量子束密度(PPFD)と土壌含水率の関連性を表1に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
本栽培試験の結果、光合成光量子束密度(PPFD)を12〜24μmolm
−2s
−1または灌水直後の含水率を8%以上、好ましくは8〜20%にすることで地下部の肥大量が多いことがわかった。また、光合成光量子束密度と含水率の両方が上記の範囲だと、更に地下部の肥大量が多いことがわかった。
【0082】
実 施 例 5
継続栽培試験:
実施例4の方法で1年間栽培を行ったものについて、更に、冬期に5℃以下の温度を30日間維持したものと、90日間維持したものについて栽培を継続し、苗の発芽率を比較した。
【0083】
その結果、30日間低温を維持したものは、発芽率が5%未満であったが、90日間維持したものは80%以上発芽し、翌年の栽培を効率良く継続することができた。