(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465120
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】中空糸炭素膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20190128BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20190128BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20190128BHJP
D01F 9/24 20060101ALI20190128BHJP
D06M 10/00 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/08
B01D71/52
D01F9/24
!D06M10/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-563757(P2016-563757)
(86)(22)【出願日】2015年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2015084851
(87)【国際公開番号】WO2016093357
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-252126(P2014-252126)
(32)【優先日】2014年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩和
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−071073(JP,A)
【文献】
特開平07−051551(JP,A)
【文献】
特開2013−063415(JP,A)
【文献】
特開2013−094744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
D01F 9/24
D06M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製膜原液中、15〜40重量%の濃度となる量のポリフェニレンオキサイドおよび該ポリフェニレンオキサイドに対して0.2〜3.0重量%の割合となる量の硫黄を、これらを溶解可能な溶媒に溶解させた炭素膜用製膜原液を調製し、該炭素膜用製膜原液を二重環状ノズルを用いて、非溶媒誘起分離法による紡糸法により中空状に成形し、空気中で200〜240℃で架橋処理した後、250〜350℃で加熱して不融化処理し、さらに不活性雰囲気または真空中で450〜850℃で加熱して炭化処理を行うことを特徴とする中空糸炭素膜の製造方法。
【請求項2】
炭化処理後、さらに表面に炭化水素ガスを用いた化学的気相蒸着が施される請求項1記載の中空糸炭素膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により製造された中空糸炭素膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
中空糸炭素膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、ポリフェニレンオキサイドを主成分とする炭素膜用製膜原液を用い、成形性にすぐれた
中空糸炭素膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、分離膜として各種の有機膜や無機膜が提案されている。しかしながら、有機膜は安価であり成形性に優れているものの耐溶剤性や耐熱性が低く、一方セラミックス膜などの無機膜は、有機膜とは反対に耐溶剤性や耐熱性には優れているものの、高価でかつ成形が難しいという問題がみられる。
【0003】
そこで近年、無機膜でありながら成形性にもすぐれ、かつ安価である炭素膜が注目されている。中空糸炭素膜は、ガス分離可能なサイズの孔を有しており、種々の無機膜の中でもすぐれた気体分離性能を示し、かつ有機膜が適用できない70〜150℃といった高い温度に対する耐熱性や耐薬品性が要求される環境でも使用可能なことから、その実用性が大いに期待されている。また、中空糸膜は耐圧性にすぐれ、かつ単位容積当りに占める膜面積が大きく、コンパクトな分離膜モジュールの作製が可能となる。
【0004】
これまで中空糸炭素膜としては、原料として例えばポリフェニレンオキサイドをスルホン化した樹脂を用いたもの(特許文献1〜2)、芳香族ポリイミドを用いたもの(特許文献3)が提案されている。
【0005】
しかるに、スルホン化ポリフェニレンオキサイドは、それ自身が汎用性材料ではないためポリフェニレンオキサイドをスルホン化する合成工程が必要となり、一方芳香族ポリイミドは、その合成に有機溶媒での反応が必要となるが、この有機溶媒への溶解性を確保することが困難なため、特殊な製造方法となってしまう。このように、スルホン化ポリフェニレンオキサイドあるいは芳香族ポリイミドを原料とする炭素膜は、原料が高価であったり、その原料調製や製膜工程が複雑であったりすることから、膜コストが高くなってしまうといった問題がある。
【0006】
一方、原料として安価であるポリフェニレンオキサイドを用いたものも提案されている(特許文献4)。しかしながら、ポリフェニレンオキサイドのみでは分離性が低いことから、分離性を確保すべくポリフェニレンオキサイド膜上にスルホン化ポリフェニレンオキサイド樹脂を積層した後、焼成処理を行うといった複雑な構成が必要であり、製造工程が煩雑となってしまうことから、安価な原料を用いても逆にコスト高となるといった欠点がある。
【0007】
一般に、炭素膜はいずれの有機質原料を用いた場合にも、中空糸を紡糸し、つづいて空気中で250〜350℃にて加熱する“不融化処理”を施した後に、不活性雰囲気または真空中で600〜800℃で加熱を行う“炭化処理”を施すといった、2段階の加熱を施すことが必要となる。
【0008】
したがって、コストパフォーマンスにすぐれた炭素膜中空糸膜を製造するために、安価な有機質材料を用いて中空糸を紡糸し、かつ煩雑な工程を採ることなく、不融化処理工程および炭化処理工程の2段階の加熱工程を主工程とする製法が求められている。しかるに、安価な材料であるポリフェニレンオキサイドは熱可塑性樹脂のため、250〜350℃にて加熱する不融化処理工程で、ポリフェニレンオキサイドの融解温度である約220℃を経由するため、紡糸で成形した中空糸形状が融解によって損なわれ、中空糸の潰れ、切れ、中空糸間での癒着などが発生し、目的とする歪みのない中空形状の中空糸膜が得られない場合や所望のガス分離性能が得られない可能性がある。
【0009】
このように、従来公知の製法においては、膜材料としてポリフェニレンオキサイドのみを用いた場合には、不融化処理工程および炭化処理工程を経て、中空糸炭素膜を製造する場合には、良好な成形性や所望のガス分離性能を得ることが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−34614号公報
【特許文献2】特開2013−94744号公報
【特許文献3】特開2000−185212号公報
【特許文献4】特開2013−63415号公報
【特許文献5】特開平7−51551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ポリフェニレンオキサイドを主成分とする炭素膜用製膜原液を用い、煩雑な工程を経ることなく、成形性、ガス分離性能にすぐれた中空糸炭素膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、製膜原液中、15〜40重量%の濃度となる量のポリフェニレンオキサイドおよび該ポリフェニレンオキサイドに対して0.2〜3.0重量%の割合となる量の硫黄を、これらを溶解可能な溶媒に溶解させた炭素膜用製膜原液を調製し、該炭素膜用製膜原液を二重環状ノズルを用いて、非溶媒誘起分離法による紡糸法により中空状に成形し、空気中で200〜240℃で架橋処理した後、250〜350℃で加熱して不融化処理し、さらに不活性雰囲気または真空中で450〜850℃で加熱して炭化処理を行うことにより達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る中空糸炭素膜の製造方法によれば、ポリフェニレンオキサイドおよび該ポリフェニレンオキサイドに対して0.2〜3.0重量%の割合となる硫黄を添加せしめた製膜原液を用いて中空糸を成形したうえで、硫黄架橋を行うことにより、ポリフェニレンオキサイドの融解を回避し、ひいては中空糸の潰れ、切れ、中空糸間での癒着などの発生を抑えて、中空糸炭素膜のすぐれた成形性と高いガス分離性能を達成せしめるといったすぐれた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】炭素膜原料のDTA測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ポリフェニレンオキサイドとしては、市販品、例えばSABIC社製品PPO646、三菱エンジニアリングプラスチックス製品PX100F、PX100L等をそのまま用いることができ、これは製膜原液中約15〜40重量%、好ましくは約20〜35重量%の割合で用いられる。ポリフェニレンオキサイドの濃度がこれより高い場合には、製膜原液が分離してしまい紡糸できなくなり、一方これより低い場合には、焼成時に脆くなり良好な炭素膜を得ることができない場合がある。
【0016】
製膜原液には、さらにポリフェニレンオキサイドに対して約0.2〜3.0重量%、好ましくは約0.4〜2.5重量%の割合となる硫黄が添加される。かかる割合は、ポリフェニレンオキサイドの融解温度より低い温度での架橋が可能となるように決定されている。硫黄の割合がこれより多い場合には、製膜原液が分離してしまい紡糸できなくなり、一方これより少ない場合には、硫黄添加により得られる高いガス分離性能等の効果がみられなくなる。
【0017】
製膜原液中には、硫黄とともに架橋効果のあるジ(2-第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)
ヘキシン-3等のジアルキル系パーオキサイド、ジイソブチリルパーオキサイド等のジアシル系パーオキサイド等の有機過酸化物、フェノール樹脂架橋剤、キノンジオキシム架橋剤等を添加して用いることもできる。
【0018】
製膜原液中に所定量の硫黄を含有せしめ、紡糸後にポリフェニレンオキサイドの融解温度以下の温度で硫黄架橋を行うことで、中空糸炭素膜の成形性の確保が可能となる。これは、
図1のポリフェニレンオキサイドおよび硫黄架橋ポリフェニレンオキサイドのDTA(示差熱分析、室温から300℃まで一定昇温速度で加熱)測定結果に示されるように、ポリフェニレンオキサイドの硫黄架橋は、ポリフェニレンオキサイド融解の吸熱ピーク(下方に凸部)である228.3℃よりも低い226.1℃から開始することによる。逆に、硫黄架橋を行わない場合には、室温から不融化処理温度である250〜350℃に加熱する際に、紡糸膜材料であるポリフェニレンオキサイドの融解が不可避となってしまい、中空糸の潰れ、切れ、中空糸間での癒着などが発生し、良好な成形性や所望のガス分離性能が得られず、目的とするすぐれた成形性や高いガス分離性能を有する中空糸炭素膜を得ることが困難となる場合がある。
【0019】
炭素膜用製膜原液の調製は、ポリフェニレンオキサイド、硫黄(および添加剤)を、これらが溶解可能な溶媒に溶解させることにより行われる。溶解は、まず硫黄を溶媒に溶解させた後、ポリフェニレンオキサイドを溶解させることにより行われる。かかる溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられ、好ましくはN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が用いられる。
【0020】
ここで、紡糸時に紡糸原液が相分離してしまうと安定した紡糸ができないため、紡糸、製膜時における製膜溶液は、相安定な温度、好ましくは〔製膜時の温度−相分離する温度〕の絶対値が10℃以上の相安定性となるものが用いられる。
【0021】
調製された製膜原液は、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法等の非溶媒誘起相分離法による紡糸法によって、二重環状構造の中空糸紡糸ノズルの外管から直接または空走を経て凝固浴中に押し出し、必要に応じて紡糸ノズルの内管からは、製膜原液の
ポリマーに対して非溶解性の芯液を同時に押し出すことにより、ポリフェニレンオキサイド中空糸膜が成形される。ここで芯液および凝固浴は、製膜原液の溶媒と混合するが、ポリフェニレンオキサイドとは非溶解性の溶媒、例えば水、エチレングリコール等が用いられる。また、このときの芯液および凝固浴の温度は、一般に約-20〜60℃、好ましくは約0〜30℃である。
【0022】
得られたポリマー中空糸膜は、必要に応じて水洗され、次いで乾燥、すなわち中空糸状物のポリマー部分から水分の除去が行われる。乾燥は、ポリマー中空糸膜が完全に乾燥する条件であれば特に限定されないが、一般には約20〜80℃、好ましくは約25〜60℃で、約0.5〜4時間程度行われる。
【0023】
乾燥後の中空糸状物は、架橋処理が行われる。架橋処理は、約200〜240℃、好ましくは約220〜230℃で約0.5〜3時間といった条件下で行われる。架橋処理が行われないあるいは架橋処理温度がこれより低い場合には、硫黄架橋が進行せず、一方架橋処理温度がこれより高くなってしまうと、ポリフェニレンオキサイドが融解してしまうことから、いずれの場合にも所望の成形性や、高いガス分離性能の確保が担保されなくなってしまう。
【0024】
架橋処理されたポリマー中空糸膜は、炭化処理の前に不融化処理が行われる。不融化処理では、約250〜350℃程度で約0.5〜4時間といった炭化温度よりも低い温度で加熱処理を施すことにより行われる。かかる不融化処理により、
中空糸炭素膜としての性能が特に改善されることとなる。
【0025】
炭化処理は、前駆体ポリマー中空糸膜を公知の方法、例えば前駆体ポリマー中空糸膜を容器内に収容し、10
-4気圧以下(約10Pa以下)の減圧下もしくはヘリウム
ガス、アルゴンガス、窒素ガスなどで置換した不活性ガス雰囲気下で加熱処理することにより行われる。加熱条件は、前駆体ポリマーを構成する材料の種類、その量などにより異なるが、一般には上記10
-4気圧以下(約10Pa以下)の減圧下もしくは不活性ガス雰囲気下では、約450〜850℃、好ましくは約600〜800℃、約0.5〜4時間といった条件が適用される。
【0026】
得られた中空糸炭素膜は、さらにその分離性能を向上させるべく、その表面に公知技術(特許文献5等参照)である化学的気相蒸着(CVD)、好ましくはプロピレン、ブタン
、シクロヘキサン等の炭化水素ガスを用いたCVD処理を施すこともできる。かかるCVD処理を施すことで、紡糸原液に硫黄を添加して得られた炭素膜は、硫黄未添加の炭素膜と比較してさらに高い分離性を達成するといった特徴がみられる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0028】
実施例
ポリフェニレンオキサイド樹脂(SABIC社製品PPO646)28重量部、硫黄(関東化学製品)0.6重量部、ジメチルアセトアミド71.4重量部からなる紡糸原液を、まずジメチルアセトアミドに硫黄を溶解させた後、ポリフェニレンオキサイド樹脂を溶解させることにより調製した。
【0029】
調製された紡糸原液を150℃に加熱し、二重環状構造の紡糸ノズルを用い、エチレングリコールを芯液として水凝固浴中に押し出し、紡糸速度15m/分で乾湿式紡糸を行った。その後60℃のオーブン中で乾燥し、外径1060μm、内径930μmの多孔質ポリフェニレンオキサイド中空糸膜を得た。
【0030】
次いで、得られた中空糸膜をパーフルオロアルコキシアルカン樹脂(PFA:テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)製管に挿入し、空気中で温度230℃、1時間の加熱を行い、架橋処理を施した。次いで、同様に空気中にて温度300℃、1時間の加熱を行い、不融化処理を施した。さらに、不融化処理した中空糸膜を石英管に挿入し、窒素雰囲気下で温度650℃、1時間の加熱を行い、炭化処理を施して外径430μm、内径370μmの中空糸炭素膜を得た。得られた炭素膜を用いてガス透過試験が行われた。
ガス透過試験:炭素膜の片端をエポキシ樹脂で接着して密封し、他端をス
エジロック製のメタルガスケットのグランド(6LV-4-VCR-3S
-6MTB7)の配管部に10mm挿入して、炭素膜の挿入箇所5mmま
での炭素膜とグランドの配管の隙間をエポキシ樹脂にて接
着し、ガス分離評価用のミニモジュールを作製して、これ
をガス分離装置に取り付け、炭素膜の外側に圧力200kPagに
て異なるガスを流して、管側に透過するガス流量をマスフ
ロコントローラーで測定し、得られたガス流量を膜面積、
時間および圧力で除してガス透過速度を算出した
【0031】
比較例1
実施例において、架橋処理が行われず、また不融化処理が290℃で1時間行われたところ、得られた中空糸膜はうねりがみられ、PFA製管から取り出し難い状態であった。
【0032】
実施例および比較例1で得られた結果は、次の表に示される。
【0033】
比較例2
実施例において、硫黄を用いることなく、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO646)28重量部およびジメチルアセトアミド71.4重量部からなる紡糸原液を用いたところ、不融化処理後に中空糸が溶融によりつぶれ、切れが生じ、成形不良が発生してしまい、目的とする中空糸炭素膜を得ることができなかった。