(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
疎水性高分子と親水性基含有高分子を含有する中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュールであって、前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、前記親水性基含有高分子として、ピロリドン基および疎水性基を含む親水性基含有高分子であって、かつ、以下の項目を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュール。
(a)前記中空糸膜の自重に対する含水率が10重量%以下
(b)前記疎水性高分子が窒素を含有せず、前記親水性基含有高分子が窒素を含有し、前記中空糸膜の窒素含有率が0.05重量%以上、0.4重量%以下
(c)前記膜内表面における前記親水性基含有高分子の含有率が20重量%以上、45重量%以下
(d)プライミング終流液10mL中の溶出物に対し、滴定のために用いられる2.0×10−3mol/L過マンガン酸カリウム水溶液の消費量が膜面積1m2当たり0.2mL以下
(e)中空糸膜内表面を全反射赤外分光法で測定することによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1549〜1620cm−1の波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(ACC)とし、1711〜1750cm−1までの波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(ACOO)としたときに、(ACOO)/(ACC)が0.005以上
請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュールに用いられる中空糸膜の製造方法であって、製膜原液として窒素を含有しない疎水性高分子を含む溶液、芯液として窒素を含有する親水基含有高分子を0.01重量%以上、1重量%以下含む溶液を用い、二重管口金から吐出させる工程を含み、前記窒素を含有しない疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、前記窒素を含有する親水性基含有高分子として、ピロリドン基および疎水性基を含む親水性基含有高分子を含むことを特徴とする中空糸膜の製造方法。
モジュールに内蔵された前記中空糸膜の自重に対する含水率を10重量%以下とした状態で放射線照射することを特徴とする請求項5に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1および2に記載の発明においては、膜全体のPVP含有率が比較的高く、低溶出を実現するために、実際には、包装容器内の酸素濃度だけでなく、包装容器内の相対湿度および包装容器の水蒸気透過度を制御しなければならないことや、酸素濃度が十分に低下するまで放射線の照射を行うことができないため、製造プロセスが複雑になる問題点がある。
【0012】
また、特許文献3および4に記載の技術においては、ドライタイプのモジュールにおける溶出物および血液適合性の観点から上記親水性基含有高分子の最適な量を検討しておらず、溶出物の抑制については言及がない。むしろ、親水性基含有高分子を芯液に含有させる場合は、当該高分子の芯液中の割合を多くしなければ、十分な量の親水性成分を中空糸膜に付与できないと考えられる傾向が従来からあったが、過剰量の添加により溶出量の増加を招くおそれがある。
【0013】
また、特許文献5に記載の方法では、水洗を行うことによって界面活性剤を取り除くことが必要であるとされているため、水洗不足の場合には溶出物量の増加の懸念がある。さらに、中空糸膜の含水率についても記載されていない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、血液適合性に優れ、溶出物の少ないドライ型の中空糸膜モジュールおよび該モジュールに内蔵された中空糸膜および中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【0015】
上記課題について、発明者が鋭意検討を進めた結果、中空糸を製膜する際の芯液に親水性基含有高分子を添加する方法や、中空糸製膜後に中空糸膜表面に親水性基含有高分子をコーティングする方法を用いることによって、上記課題を達成できる可能性があることを見出した。
【0016】
一方で、単に、親水性基含有高分子を用いて中空糸膜表面を親水化するだけでは上記課題達成することはできないことも見出した。
【0017】
つまり、中空糸膜表面の親水性基含有高分子の状態を制御することによって、中空糸膜からの溶出物が抑制され、かつ血液適合性に優れた低含水率の中空糸膜モジュールを得る技術は未だ確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、疎水性高分子と親水性基含有高分子を含有する中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュールであって、前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、前記親水性基含有高分子として、ピロリドン基および疎水性基を含む親水性基含有高分子であって、かつ、以下の項目を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュールを要旨とするものである。
(a)前記中空糸膜の自重に対する含水率が10重量%以下
(b)前記疎水性高分子が窒素を含有せず、前記親水性基含有高分子が窒素を含有し、前記中空糸膜の窒素含有率が0.05重量%以上、0.4重量%以下
(c)前記膜内表面における前記親水性基含有高分子の含有率が20重量%以上、45重量%以下
(d)プライミング終流液10mL中の溶出物に対し、滴定のために用いられる2.0×10
−3mol/L過マンガン酸カリウム水溶液の消費量が膜面積1m
2当たり0.2mL以下
(e)中空糸膜内表面を全反射赤外分光法で測定することによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1549〜1620cm
−1の波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
CC)とし、1711〜1750cm
−1までの波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
COO)としたときに、(A
COO)/(A
CC)が0.005以上
本発明に係る中空糸膜モジュールは、(a)に挙げるとおりドライタイプのものを想定しており、低含水率の中空糸膜を内蔵したモジュールにおいて、低溶出性と高い血液適合性を可能とする。上記のとおり疎水性高分子と親水性基含有高分子を含有するものであるが、窒素含有率を親水性基量の指標とするため、(b)に記載する如く、上記疎水性高分子は窒素を含有せず、一方で親水性基含有高分子としては窒素を含有したものを用いる(ただし、2種以上の親水性基含有高分子を用いる場合は、少なくとも1種の親水性基含有高分子が窒素を含むものとしてよい)。かかる窒素の含有率について、膜全体の任意の位置において0.05重量%以上、0.4重量%として溶出の低減を図る一方で、(c)に記載する如く、中空糸膜内表面に20重量%以上、45重量%以下の親水性基を含有せしめ、親水性が十分に高いものとしている。しかも(d)に記載する如く、溶出物の量が少なく、さらに血液適合性が高いものである。
【0019】
上記親水性基含有高分子としては、酢酸ビニルとビニルピロリドンの共重合体を用いることもできる。
【0020】
また、本発明においては、製膜原液として窒素を含有しない疎水性高分子を含む溶液、芯液として窒素を含有する親水基含有高分子を0.01重量%以上、1重量%以下含む溶液を用い、二重管口金から吐出させて中空糸膜を得ることを特徴とする。
【0021】
さらに、内蔵された中空糸膜の自重に対する含水率を10重量%以下とした状態で放射線を照射することが好ましい。
【0022】
つまり、本発明は以下の構成を採るものである。
[1]
疎水性高分子と親水性基含有高分子を含有する中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュールであって、前記疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、前記親水性基含有高分子として、ピロリドン基および疎水性基を含む親水性基含有高分子であって、かつ、以下の項目を満たすことを特徴とする中空糸膜モジュール。
(a)前記中空糸膜の自重に対する含水率が10重量%以下
(b)前記疎水性高分子が窒素を含有せず、前記親水性基含有高分子が窒素を含有し、前記中空糸膜の窒素含有率が0.05重量%以上、0.4重量%以下
(c)前記膜内表面における前記親水性基含有高分子の含有率が20重量%以上、45重量%以下
(d)プライミング終流液10mL中の溶出物に対し、滴定のために用いられる2.0×10
−3mol/L過マンガン酸カリウム水溶液の消費量が膜面積1m
2当たり0.2mL以下
(e)中空糸膜内表面を全反射赤外分光法で測定することによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1549〜1620cm
−1の波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
CC)とし、1711〜1750cm
−1までの波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
COO)としたときに、(A
COO)/(A
CC)が0.005以上
[2]
前記中空糸膜内表面におけるヒト血小板付着数が20個/(4.3×10
3μm
2)以下であることを特徴とする[1]に記載の中空糸膜モジュール。
[3]
中空糸膜内表面を全反射赤外分光法で測定することによって得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1620cm
−1から1711cm
−1までの波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
NCO)とし、1549〜1620cm
−1の波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
CC)としたときに、(A
NCO)/(A
CC)が、0.4以上である[1]または[2]に記載の中空糸膜モジュール。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法であって、製膜原液として窒素を含有しない疎水性高分子を含む溶液、芯液として窒素を含有する親水基含有高分子を0.01重量%以上、1重量%以下含む溶液を用い、二重管口金から吐出させる工程を含み、前記窒素を含有しない疎水性高分子がポリスルホン系高分子であり、前記窒素を含有する親水性基含有高分子として、ピロリドン基および疎水性基を含む親水性基含有高分子を含むことを特徴とする中空糸膜の製造方法。
[5]
[4]に記載の方法で製造された中空糸膜をケースに内蔵することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
[6]
モジュールに内蔵された前記中空糸膜の自重に対する含水率を10重量%以下とした状態で放射線照射することを特徴とする[5]に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、中空糸膜を簡便に親水化し、血液適合性を向上させるとともに、親水性基含有高分子の溶出も抑制した、溶出物の少ないドライ型の中空糸膜モジュールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の中空糸膜モジュールは、疎水性高分子と親水性基含有高分子を含有する中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュールである。
【0026】
[中空糸膜モジュール]
本発明の中空糸膜モジュールは、回収目的物質と廃棄物質を分けることに用いることができるが、疎水性高分子からなる中空糸膜内表面が親水性基含有高分子(親水性基含有ポリマー)によって親水化されていることから、血液浄化器のように中空糸膜内側に被処理液を流す用途に用いることが好ましい。血液浄化器としては、一般に人工腎臓と呼ばれる血液透析器、血液ろ過器、救急救命用途の緩徐式血液ろ過器および血液透析ろ過器等があげられる。
【0027】
図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一態様を示す模式図である。本発明の中空糸膜モジュールは、ケースと中空糸膜モジュールを備えることが好ましい。また、必要な長さに切断された中空糸膜13の束が、筒状のケース11に収められていることが好ましい。中空糸膜両端部は、ポッティング材などによって、筒状のケースの両端部に固定化されていることが好ましい。このとき、中空糸膜の両端が開口していることが好ましい。
【0028】
また、本発明の中空糸膜モジュールは、ケースの両端にヘッダー14Aおよび14Bを備えることが好ましい。ヘッダー14Aは被処理液注入口15Aを備えることが好ましい。また、ヘッダー14Bは被処理液排出口15Bを備えることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の中空糸膜モジュールは、
図1のように、ケースの側面部であって、ケースの両端部の近傍に、ノズル16Aと16Bを備えることが好ましい。
【0030】
通常、被処理液は、被処理液注入口15Aから導入され、中空糸膜の内側を通って、被処理液排出口15Bから排出される。一方、処理液は、通常、ノズル16A(処理液注入口)から導入され、中空糸膜の外側を通って、ノズル16B(処理液排出口)から排出される。つまり、通常、被処理液の流れ方向と、処理液の流れ方向は対向する。
【0031】
本発明の中空糸膜モジュールの用途は、特に限定されるものではないが、人工腎臓用途(血液浄化用途)に供される場合は、通常、被処理液となる血液は、被処理液注入口15Aから導入され、中空糸膜の内側を通ることによって、人工的に透析され、被処理液排出口15Bから、回収目的物質である、浄化後の血液が排出される。つまり、被処理液注入口15Aから、中空糸膜の内側を通じて、被処理液排出口15Bまでの流路が、被処理液の流路(血液側流路)となる。以下、この流路を単に「血液側流路」と称することがある。
【0032】
一方、処理液となる透析液は、ノズル16A(処理液注入口)から導入され、中空糸膜の外側を通ることによって、被処理液(血液)を浄化(透析)せしめ、ノズル16B(処理液排出口)から、血液中の有毒成分(廃棄物質)を含んだ透析液が排出される。つまり、ノズル16Aから、中空糸膜の外側を通じて、ノズル16Bまでの流路が、処理液の流路(透析液流路)となる。以下、この流路を単に「透析液流路」と称することがある。
【0033】
[疎水性高分子と親水性基含有高分子]
本発明における疎水性高分子とは、水に難溶または不溶である高分子であり、20℃の純水100gに対する溶解度が1g未満のことをいう。一方、親水性基含有高分子とは、親水性基単独の重合体の20℃の純水100gに対する溶解度が10g以上である親水性基を含有する高分子のことをいう。本発明において、親水性基とはそれ単独で重合可能な最小単位を指し、そのような親水性基としては、アクリルアミド、アクリル酸、N−ビニル−2−ピロリドン、ビニルアルコールなどが挙げられる。
【0034】
また、本発明の中空糸膜モジュールは、以下の項目を満たすことが重要である。
(a)前記中空糸膜の自重に対する含水率が10重量%以下。
(b)前記疎水性高分子が窒素を含有せず、前記親水性基含有高分子が窒素を含有し、前記中空糸膜の窒素含有率が0.05重量%以上、0.4重量%以下。
(c)前記膜内表面における前記親水性基含有高分子の含有率が20重量%以上、45重量%以下。
(d)プライミング終流液10mL中の溶出物に対し、滴定のために用いられる2.0×10
−3mol/L過マンガン酸カリウム水溶液の消費量が膜面積1m
2当たり0.2mL以下。
【0035】
[中空糸膜とその含水率]
中空糸膜モジュールの含水率は、多すぎると保存時の菌の増殖の懸念や、中空糸膜が凍結し性能の低下が起こることがある。一方、含水率が少ないドライタイプであれば、中空糸膜モジュールの軽量化が可能であり、運送のコスト、安全性が向上する。また、中空糸膜が実質的に乾いている中空糸膜モジュールでは、使用時の泡抜け性が向上する。以上のことから、本発明に係る中空糸膜モジュールの中空糸膜における含水率は、中空糸膜の自重に対して、10重量%以下としており、好ましくは4重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。下限値は特に限定されるものではなく、実質的に0%が下限値となる。
【0036】
ここで、本発明における含水率とは、乾燥前の中空糸膜モジュールまたは中空糸束の質量(a)、中空糸膜を絶乾状態まで乾燥後の中空糸膜モジュールまたは中空糸束の質量(b)を測定し、含水率(重量%)=100×(a−b)/bで算出される。
【0037】
中空糸膜モジュールに内蔵されている中空糸膜は、分離性能に寄与する層と膜の機械的強度に寄与する支持層からなる非対称構造の膜が、透水性、分離性能の面から好ましい。特に、中空糸の内側に血液を通す透析膜などでは、血液適合性の点から中空糸内表面の親水性が重要となる。したがって、中空糸内表面の親水性を高めることで血液適合性が向上する。
【0038】
[窒素を含有しない疎水性高分子]
膜素材となる疎水性高分子としては、窒素を含有しないものであり、ポリスルホン系高分子、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明において、疎水性高分子が窒素を含有しないとは、窒素原子を実質的に含有しないことを意味し、微量窒素分析法に基づいて得られる窒素の含有量が500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらには検出限界以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、疎水性高分子が窒素を全く含有しないことである。
【0040】
この中でも、ポリスルホン系高分子は、中空糸膜を形成させることに適しており、また酢酸ビニルなどのエステル基との相互作用が強く、当該エステル基を疎水性基として含有する親水性基含有高分子を中空糸膜に導入させることを容易とすることから、好適に用いられる。ポリスルホン系高分子とは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を持つものであり、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルエーテルスルホンなどが挙げられる。例えば、次式(1)、(2)の化学式で示されるポリスルホン系高分子が好適に使用され、ポリスルホン系高分子の中でもポリスルホン(次式(1))が特に好適に使用されるが、本発明ではこれらに限定されない。式中のnは、例えば50〜80の如き整数である。
式(1)、(2)
【0042】
ポリスルホンの具体例としては、ユーデルポリスルホンP−1700、P−3500(ソルベイ社製)、ウルトラソンS3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(住友化学)、レーデルA(ソルベイ社製)、ウルトラソンE(BASF社製)などのポリスルホンが挙げられる。また、本発明で用いられるポリスルホン系高分子は上記式(1)および/または(2)で表される繰り返し単位のみからなる高分子が好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で、他のモノマーが共重合されていてもよい。特に限定するものではないが、他の共重合モノマーの共重合率は10重量%以下であることが好ましい。
【0043】
[窒素を含有する親水性基含有高分子]
本発明において用いられる親水性基含有高分子は、窒素を含有するものが用いられる。窒素を含有する親水性基含有高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。中でも、血液適合性を向上させる観点からピロリドン基を含有する高分子が好ましい。
特に、安全性や経済性の観点からポリビニルピロリドンが好ましい。
【0044】
さらに、親水性基含有高分子として疎水性基を含有する親水性基含有高分子を用いることもでき、膜素材である疎水性高分子との親和性が向上し、疎水性相互作用により、より効率的に親水性基含有高分子を導入できるため効果的である。ここでいう疎水性基とは、それ単独の重合体では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義し、水に難溶または不溶とは、20℃の純水に100g対する溶解度が1g未満のことをいう。詳細なメカニズムはわかっていないが、血液適合性の観点から、疎水性基がエステル基を含むことが好ましい。
【0045】
したがって、本発明では、親水性基含有高分子がエステル基を含むことが好ましい。
【0046】
このような疎水性基(エステル基)の具体例としては、特に限定はしないが、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル、メチルアクリレート、メトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられ、これらに由来するエステル基を有することが好ましい。
【0047】
つまり、本発明では、親水性基含有高分子がエステル基を含み、かつ前記エステル基がカルボン酸ビニルエステル、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる少なくともひとつに由来することがより好ましい。
【0048】
本発明においては、膜素材への導入効率、血液適合性の観点から酢酸ビニルとビニルピロリドンからなる共重合体を親水性基含有高分子として用いることが特に好ましい。
【0049】
一方で、疎水性基を含有する親水性基含有高分子は、親水性基含有高分子中での疎水性基の比率が小さいと膜素材である疎水性高分子との相互作用が弱まり、導入効率を向上するメリットが得られにくく、一方で、疎水性基の比率が大きいと中空糸膜内表面の親水性が低下し、血液適合性が悪化する。そのため、疎水性基の比率は20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。一方で、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明においては、目的とする用途、特性を得るために、親水性基含有高分子は、1種類で用いるだけでなく、異なる種類の親水性基含有高分子を適宜組み合わせて用いても良い。
【0051】
また、本発明の効果を阻害しないのであれば、窒素を含有しない高分子を併用しても問題はない。具体例として、特に限定はしないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0052】
[中空糸膜の窒素含有率]
本発明においては、疎水性高分子に窒素原子が含まれないので、中空糸膜に含まれる窒素原子は、主に親水性の付与や構造制御の目的で使用されている親水性基含有高分子に由来し、窒素原子を含有する親水性基含有高分子や、その他低分子が有る場合も含めて、溶出の原因となり得る化合物といえる。特に、疎水性高分子がポリスルホン系高分子からなる中空糸膜では相溶性の観点から親水性基含有高分子としてPVPが使用されることが多いが、ピロリドン基には窒素原子が含まれるので、窒素含有率を測定することで、中空糸膜全体に含まれる親水性基含有高分子量を含めた溶出しやすい成分量の指標とすることができる。中空糸膜中に含まれる親水性基含有高分子量が多いと、膜全体が親水化されるために、透水性が向上する。一方で多すぎると溶出物が増加する問題が生じる。そのため、中空糸膜の窒素含有率は0.05重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.15重量%以上である。上限としては、0.4重量%以下が好ましく、より好ましくは0.38重量%以下、さらに好ましくは0.35重量%以下である
本発明における窒素含有率は酸化分解から減圧化学発光法による微量窒素分析法を用いることで測定することができる。詳細な条件の例を実施例に示す。測定値は、3回測定を行った結果の平均値を用いる。
【0053】
[中空糸膜内表面における親水性基含有高分子の含有率]
本発明において、親水性基含有高分子は、例えば、血液浄化用途において通常被処理液との接触面となる中空糸膜内側に局在化していることが望ましく、中空糸膜内表面における親水性基含有高分子の含有率は20重量%以上であり、好ましくは22重量%以上、より好ましくは25重量%以上である。20重量%未満である場合は、親水性が低いため、血液適合性が悪化し、血液の凝固が発生しやすくなる。一方、親水性基含有高分子の含有率が45重量%を超える場合は、血液中に溶出する親水性基含有高分子の量が増加し、該溶出した高分子によって長期透析の間の副作用や合併症を引き起こす原因となる可能性がある。また、中空糸膜全体の窒素含有率や内表面の親水性基含有高分子量が多すぎると放射線を照射した際、高分子同士の架橋が過剰に進行してしまい、生体適合性が低下する恐れがある。そのため、親水性基含有高分子の含有率は、45重量%以下であり、好ましくは42重量%以下である。
【0054】
本発明において、中空糸膜内表面における親水性基含有高分子の含有率はX線電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。測定角としては90°で測定した値を用いる。測定角90°は表面からの深さが約10nmまでの領域が検出される。また、値は3箇所の平均値を用いる。例えば、疎水性高分子がポリスルホンであり、親水性基含有高分子がポリビニルピロリドンである場合、窒素量(c(原子数%))と硫黄量の測定値(d(原子数%))から、次の式により中空糸膜内表面でのポリビニルピロリドンの含有率(重量%)を算出することができる。ここで、111はビニルピロリドン基の分子量であり、442はポリスルホンを構成する繰り返し単位の分子量である。
ポリビニルピロリドン含有率(f)=100×(c×111)/(c×111+d×442)。
【0055】
また、エステル基を含有する親水性基含有高分子を用いる場合は、中空糸膜内表面に存在するエステル基の含有率も血液適合性の観点から考慮することが好ましい。内表面のエステル基含有率が高いと、疎水性が強くなり血液適合性の悪化や、分離性能の低下を招く恐れがあるので、内表面のエステル基由来の炭素量は10原子数%以下が好ましく、さらに好ましくは5原子数%以下である。
【0056】
中空糸膜内表面に存在するエステル基由来の炭素量は、X線電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。測定角としては90°で測定した値を用いる。測定角90°は表面からの深さが約10nmまでの領域が検出される。また値としては、3箇所の平均値を用いる。エステル基(COO)由来の炭素ピークはC1sのCHやC−C由来のメインピークから+4.0〜4.2eVに現れるピークをピーク分割することによって求めることができる。全元素に対する該ピーク面積の割合を算出することで、エステル基由来の炭素量(原子数%)が求まる。より具体的には、C1sには、主にCHx、C−C、C=C、C−S由来の成分、主にC−O、C−N由来の成分、π―π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。したがって、5つの成分でピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC−Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0〜4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比は、小数点第1桁目を四捨五入し、算出する。C1sの炭素量(原子数%)から、COO由来の成分のピーク面積比を乗ずることで求めることができる。ピーク分割の結果、0.4%以下であれば検出限界とする。
【0057】
また、上記の方法を利用して、中空糸膜表面の酢酸ビニルの含有率(重量%)を求めることもできる。例えば、エステル基を有する親水性基含有高分子がビニルピロリドンと酢酸ビニルの6/4(モル比)の共重合体である場合、ビニルピロリドン基の分子量は111、ポリスルホンを構成する繰り返し単位の分子量は442、酢酸ビニルの分子量86であるから、表面の酢酸ビニル量は窒素量(c(原子数%))と硫黄量(d(原子数%))、エステル基由来の炭素量(e(原子数%))の値から、下式より算出できる。
中空糸膜表面の酢酸ビニルの含有率(g(重量%))=(e×86/(c×111+d×442+e×86))×100。
【0058】
したがって、親水性基含有高分子がビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体である場合、中空糸膜内表面の親水性基含有高分子含有率は、ビニルピロリドン含有率(f)と酢酸ビニル含有率(g)の和で表すことができる。
【0059】
中空糸膜内表面の親水性基含有高分子の含有率(h(重量%))=f+g。
【0060】
[中空糸膜外表面における親水性基含有高分子の含有率]
中空糸膜外表面の親水性基含有高分子の含有率も、内表面と同様にXPSを用いて測定することができる。外表面の親水性基含有高分子の含有率が高い場合、乾燥時に親水性基含有高分子を介した中空糸膜同士の固着や、モジュールの組み立て性が悪化するという問題が発生することがある。また、透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)の進入を防ぐという観点でも外表面の親水性基含有高分子の含有率は低い方が効果的である。また、乾燥糸である場合、外表面の親水性基含有高分子量が少ないと、湿潤化しにくくプライミング性が低下する恐れがある。
【0061】
以上のことから、外表面の親水性基含有高分子の含有率は45重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは40重量%以下、一方で、下限としては、20質量%以上が好ましい。
【0062】
[中空糸膜内表面における親水性基含有高分子の存在状態]
また、親水性基含有高分子は中空糸膜内表面に均一に存在していることが血液適合性の点から望ましい。親水性基含有高分子の分布に関しては、全反射赤外分光法(ATR)で測定することができる。ATRの測定方法としては、測定範囲を3μm×3μm、積算回数は30回以上として赤外吸収スペクトルを25点測定する。この25点測定を、1本の中空糸膜について異なる3箇所で、モジュール1本当たり3本の中空糸膜について測定する。得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1620〜1711cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をポリビニルピロリドン由来のピーク面積を(A
NCO)とする。つまり、1620cm
−1から1711cm
−1までの波数域における、スペクトルの正の領域の面積を(A
NCO)とする。同様に1549〜1620cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正の部分で囲まれた部分をポリスルホン由来ベンゼン環C=C由来のピーク面積を(A
CC)として両者の比(A
NCO)/(A
CC)を算出する。この(A
NCO)/(A
CC)の平均値が、0.4以上が好ましく、より好ましくは0.6以上であり、さらに好ましくは0.7以上である。また、(A
NCO)/(A
CC)の値が0.25以下である測定点の割合は、全測定点(25点)に対して10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0063】
親水性基含有高分子がエステル基を含有する場合も同様に、ATR測定にてエステル基の分布を測定することができる。得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1711〜1750cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をエステル基由来のピーク面積を(A
COO)とし、ポリスルホン由来ベンゼン環C=C由来のピーク面積(A
CC)との比(A
COO)/(A
CC)を算出する。この(A
COO)/(A
CC)が、平均値0.005以上が好ましく、より好ましくは0.01以上であり、さらに好ましくは0.02以上である。また、(A
COO)/(A
CC)の値が0.001以下である測定点の割合は、全測定点(25点)に対して10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0064】
[プライミング終流液に対する過マンガン酸カリウム水溶液の消費量]
高い安全性を得る指標として、膜の流路に通液した際に液体に溶出する溶出物に過マンガン酸カリウムを滴定した際の消費量が挙げられる。
【0065】
本発明においては、上記液体としてプライミング終流液を選んでいる。ここで、プライミング終流液とは、中空糸膜モジュールの被処理液側の流路(血液側流路)に37℃に加温した超純水を100mL/minの速度で7分間通液し、ついで処理液側の流路(透析液側流路)に500mL/minの速度で5分間通液し、再度、被処理液側の流路(血液側流路)に100mL/minで3分通液する際の最後の2分間に流出する200mLをサンプリングした液体である。
【0066】
このサンプリング液から10mLを採取し、測定に供する。この10mLのプライミング終流液に2.0×10
−3mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液を20mL、10体積%の硫酸を1mLおよび沸騰石を加え3分間煮沸する。その後、室温(20〜30℃)まで冷却する(10分間放冷することによって冷却することが好ましい)。その後、氷水でよく冷却する(10分間冷却することが好ましい)。10重量%ヨウ化カリウム水溶液1mLを加え、20℃から30℃の状態でよく攪拌した後10分間放置し、1.0×10
−2mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定を行う。溶液の色が淡黄色となった時点で1重量%デンプン水溶液を0.5mL加え、20℃〜30℃でよく撹拌する。その後、溶液の色が透明になるまで滴定を行う。
【0067】
中空糸膜モジュールを通過させていない超純水の滴定に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液量と、プライミング終流液の滴定時に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液量との差を、溶出物により消費された過マンガン酸カリウム水溶液量(過マンガン酸カリウム水溶液の消費量)とする。
【0068】
中空糸膜からの溶出物が多い場合、長時間透析時に血液へ溶出物が混入し、副作用や合併症の原因となる可能性があるため、過マンガン酸カリウム水溶液消費量は、膜面積1m
2当たり0.2mL以下であることが好ましく、より好ましくは0.15mL以下、さらに好ましくは0.1mL以下であり、最も好ましくは0mLである。
【0069】
[中空糸膜内表面における血小板の付着数]
中空糸膜内表面における血液適合性は、中空糸膜に付着する血小板に付着数で評価できる。血小板の付着数が多い場合、血液の凝固に繋がるため、中空糸膜内表面の血液適合性が低いと言える。中空糸膜内表面における血小板の付着数は、ヒト血液と接触させた後の中空糸膜内表面を走査型電子顕微鏡にて観察することで評価が可能である。倍率1500倍で試料の内表面を観察した際、1視野4.3×10
3μm
2に付着する血小板の付着数は20個以下が好ましく、より好ましくは10個以下、さらに好ましくは8個以下、特に好ましくは4個以下である。血小板の付着数は、異なる10視野を観察した際の平均値(小数点第2位を四捨五入する)を用いる。
【0070】
[中空糸膜や中空糸膜モジュールの製造方法]
続いて、中空糸膜や中空糸膜モジュールの製造方法について説明する。
【0071】
本発明では、製膜原液として窒素を含有しない疎水性高分子を含む溶液、芯液として窒素を含有する親水基含有高分子を0.01重量%以上、1重量%以下含む溶液を用い、二重管口金から吐出させることによって、中空糸膜が製造されることが好ましい。
【0072】
より具体的には、本発明の中空糸膜の製造方法は、
製膜原液と芯液を二重管口金から吐出させる工程であって、
製膜原液として窒素を含有しない疎水性高分子を含む溶液が用いられ、芯液として窒素を含有する親水基含有高分子を0.01重量%以上、1重量%以下含む溶液が用いられる工程、を含むことが好ましい。
【0073】
より好ましくは、当該工程において、二重管口金のスリット部から製膜原液が吐出され、円管部から芯液が吐出されることが好ましい。
【0074】
また、当該工程において、製膜原液は疎水性高分子およびその良溶媒と貧溶媒を含むことが好ましい。
【0075】
また、本発明の中空糸膜の製造方法は、
製膜原液と芯液を二重管口金から吐出させる工程の後に、
該吐出物を乾式部に導入・通過させ、その後に凝固浴で凝固させることによって中空糸膜を得る工程を含むことが好ましい。
【0076】
つまり、本発明においては、二重管口金のスリット部から疎水性高分子およびその良溶媒、貧溶媒を含む製膜原液を、円管部から該芯液を吐出し、乾式部を通過させた後に凝固浴で凝固させることによって中空糸膜を製造することが好ましい。
【0077】
上記製膜原液中の疎水性高分子の濃度を高くすることで、中空糸膜の機械的強度を高めることができる。一方で、疎水性高分子の濃度が高すぎると、溶解性の低下や製膜原液の粘度増加による吐出不良などの問題が生じる。また、疎水性高分子の濃度によって透水性、分画分子量を調整することができる。疎水性高分子の濃度を高くすると、中空糸膜内表面の密度が上がるため、透水性および分画分子量は低下する。以上のことから、製膜原液中の疎水性高分子の濃度は14重量%以上が好ましく、一方で24重量%以下が好ましい。
【0078】
本発明における良溶媒とは、製膜原液において実質的に疎水性高分子を溶解する溶媒のことである。特に限定はしないが、ポリスルホン系高分子を用いる場合は、その溶解性から、N,N−ジメチルアセトアミドが好適に用いられる。一方、貧溶媒とは、製膜温度において、実質的に疎水性高分子を溶解しない溶媒のことである。特に限定はしないが、水が好適に用いられる。
【0079】
製膜原液に貧溶媒を添加することで、貧溶媒が核となって、相分離の進行が促進される。一方で貧溶媒の添加量が多すぎると、製膜原液が不安定となって、製膜の再現性を得ることが難しくなる。貧溶媒の最適な添加量は、貧溶媒の種類によって異なるが、代表的な貧溶媒である水を用いる場合は、製膜原液中の貧溶媒の添加量は、0.5重量%以上が好ましく、一方で、4重量%以下であることが好ましい。
【0080】
なお、親水性基含有高分子を中空糸膜内表面に導入する方法としては、従来から親水性基含有高分子を中空糸膜の製膜原液に混和して成形する方法や、製膜時の芯液に親水性基含有高分子を添加する方法や、中空糸膜製膜後に、膜表面に親水性基含有高分子をコーティングする方法が用いられている。
【0081】
本発明においては、製膜時の芯液に親水性基含有高分子を添加し、原液とともに吐出することで中空糸膜内表面に親水性基含有高分子を導入する方法が用いられることが好ましい。当該方法を用いることによって、親水性基含有高分子の使用量が少量であってもでも中空糸膜表面に親水性基含有高分子を密に付与することができるため溶出物を抑制することができる。また、製膜時に親水性基含有高分子を付与するため、紡糸工程にて乾燥を行うことが可能で、特別な設備が不要であり、加えて、血液適合性を有する中空糸膜モジュールを得られることから、本発明では好適な方法である。
【0082】
また、中空糸膜製膜後に、膜表面に親水性基含有高分子をコーティングする方法も好適である。この方法においても、後述のとおり、コーティングに使用する溶液の濃度や温度などの条件、コーティング液の流し方などを工夫することによって、膜表面に親水性基含有高分子を密に付与することが可能であり、溶出物を抑制することができる。
【0083】
また、親水性基含有高分子を中空糸膜内表面に導入する方法として、製膜時の芯液に添加する方法または中空糸膜製膜後に膜表面にコーティングする方法のいずれかを用いる場合においても、製膜原液にも別途親水性基含有高分子を添加することで、増孔剤としての効果による透水性の向上や親水性のさらなる向上が期待できる。ただし、かかる製膜原液中の親水性基含有高分子の添加量が多すぎると、製膜原液の粘度の増加による溶解性の低下や吐出不良が起こることや、中空糸膜中に多量の親水性基含有高分子が残存することで、透過抵抗の増大による透水性の低下などが起こる恐れがある。最適な親水性基含有高分子の製膜原液への添加量は、その種類や目的の性能によって異なるが、1重量%以上が好ましく、一方で15重量%以下が好ましい。かかる製膜原液に添加される親水性基含有高分子としては、特に限定はしないが、疎水性高分子としてポリスルホン系高分子を用いる場合、相溶性が高いことからポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0084】
高分子を溶解する際は、高温で溶解することが溶解性向上のために好ましいが、熱による高分子の変性や溶媒の蒸発による組成変化の懸念がある。そのため、溶解温度は、30℃以上、120℃以下が好ましい。ただし、疎水性高分子および添加剤の種類によってこれらの最適範囲は異なることがある。
【0085】
中空糸製膜時に用いる芯液は良溶媒と貧溶媒の混合液であり、その比率によって中空糸膜の透水性および分画分子量を調整することができる。貧溶媒としては、特に限定しないが、水が好適に用いられる。良溶媒としては、特に限定しないが、N,N―ジメチルアセトアミドが好適に用いられる。
【0086】
製膜原液と芯液が接触することで、貧溶媒の作用によって製膜原液の相分離が誘起され、凝固が進行する。芯液における貧溶媒比率を高くし過ぎると、膜の透水性および分画分子量が低下する。一方で、貧溶媒比率が低すぎると、液体のまま滴下されることになるため、中空糸膜を得ることができない。芯液における適正な両者の比率は、良溶媒と貧溶媒の種類によって異なるが、貧溶媒が上記両溶媒の混合液中10重量%以上であることが好ましく、一方で80重量%以下であることが好ましい。
【0087】
また、該芯液に親水性基含有高分子を添加する場合は、中空糸膜内表面に選択的に多くの親水性基含有高分子を導入することができる。これは、芯液が原液中へ拡散し相分離を誘起する際に、芯液中の親水性基含有高分子も原液中に拡散を起こすことで内表面に親水性基含有高分子が取り込まれるためである。そのため、親水性基含有高分子と膜素材の分子の絡み合いが起こり、製膜後に親水性基含有高分子を付与するよりも、膜素材に強固に結合させることができ、溶出物を低減することができる。このように製膜時における親水性基含有高分子の拡散によって内表面に親水性基含有高分子が導入されることから紡糸条件として原液吐出後の乾式部の長さ、すなわち乾式長が重要となる。乾式長が短すぎると親水性基含有高分子の拡散が進行せず内表面への付与が十分にできない可能性があるため、50mm以上が好ましく、さらに好ましくは100mm以上である。一方、乾式長が長すぎると拡散が進行し、親水性基含有高分子が外表面まで到達してしまう可能性があることや糸揺れなどによって紡糸安定性が低下しかねないため、600mm以下が好ましい。また、芯液における良溶媒の濃度にも大きく影響を受ける。良溶媒の濃度が低いと、内表面の凝固が促進され過ぎ、親水性基含有高分子の拡散が進行しにくくなり、一方良溶媒の濃度が高いと、内表面の凝固が抑制され、親水性基含有高分子の拡散が進行し過ぎると考えられる。そのため、芯液において、上記両溶媒中の良溶媒の濃度は40重量%以上が好ましく、さらに好ましくは50重量%以上であり、一方、90重量%以下が好ましく、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70%以下である。
【0088】
ここで、芯液に添加する親水性基含有高分子の量としては、従来は芯液中10重量%程度添加しなければ、十分な量の親水性基を付与できないと考えられていた。しかしながら、かかる多量の添加では、溶出物が増加する恐れがあった。本願発明に係るドライタイプの中空糸膜の製造においては、上記親水性基含有高分子を含む芯液の設計により、より少量の添加で中空糸膜に十分親水性を付与できることが分かった。一方、親水性基含有高分子の量が少なすぎると、中空糸膜内表面が十分に親水化されず、血液適合性が悪化する。
【0089】
したがって、本発明において芯液に含有される親水性基含有高分子は0.01重量%以上が好ましく、より好ましくは0.03重量%以上であり、一方で上限値としては、1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0.1重量%以下である。
【0090】
吐出時の二重管口金の温度は、製膜原液の粘度、相分離挙動、芯液の製膜原液への拡散速度に影響を与え得る。一般的に、二重管口金の温度が高い程、得られる中空糸膜の透水性と分画分子量は大きくなる。ただし、二重管口金の温度が高過ぎると製膜原液の粘度の低下や凝固性の低下によって、吐出が不安定となるため紡糸性が低下する。一方で、二重管口金の温度が低いと、結露によって二重管口金に水分が付着することがある。そのため、二重管口金の温度は20℃以上が好ましく、一方で90℃以下が好ましい。
【0091】
吐出された製膜原液と芯液が乾式部を通過する際に、芯液における貧溶媒の製膜原液への拡散が進み、中空糸内表面側から外表面側にかけて孔径が大きくなっていく膜構造が形成される。さらに、前述したとおり、芯液が原液中へ拡散し相分離を起こす際に、芯液に含まれる親水性基含有高分子が膜内表面に取り込まれる。
【0092】
乾式部では、外表面が空気と接触することで、空気中の水分を取り込み、これが貧溶媒となるため、相分離が進行する。そのため、乾式部の露点を制御することで、外表面の開孔率を調整することができる。乾式部の露点が低いと相分離が充分に進行しないことがあり、外表面の開孔率が低下し、中空糸膜の摩擦が大きくなって紡糸性が悪化し得る。一方で、乾式部の露点が高過ぎても、外表面が凝固するため開孔率が低下することがある。乾式部の露点は60℃以下が好ましく、一方で10℃以上が好ましい。
【0093】
凝固浴は貧溶媒を主成分としており、必要に応じて良溶媒が添加される。貧溶媒としては水が好適に用いられる。製膜原液が凝固浴に入ることで、凝固浴中の多量の貧溶媒によって製膜原液は凝固し、膜構造が固定化される。凝固浴の温度を高くする程、凝固が抑制されるため、透水性と分画分子量は大きくなる。
【0094】
凝固浴で凝固させることによって得られた中空糸膜は、溶媒や原液に由来する余剰の親水性基含有高分子を含んでいるため、水洗が必要である。
【0095】
水洗が不充分だと、使用前の洗浄が煩雑になり、また溶出物の被処理液への流入が問題になり得る。水洗温度を上げることで水洗効率が上がることから、水洗の温度は、50℃以上が好ましい。
【0096】
中空糸膜製膜後に中空糸膜内表面にコーティングする際は、コーティング液の親水性基含有高分子濃度、接触時間、コーティング時の温度が、中空糸膜内表面へ付与される親水性基含有高分子量や密度に影響を及ぼす。親水性基含有高分子の濃度が高すぎると、親水性基含有高分子そのものが溶出する恐れがあるため、0.08重量%以下、さらには0.05重量%以下が好ましい。一方で、濃度が低すぎると膜表面に親水性基含有高分子を十分に付与することができず、溶出物の増加および血液適合性が悪化する懸念があるため、0.001重量%以上、さらには0.01重量%以上が好ましい。
【0097】
コーティング液に用いる溶媒としては、安全性の面から水が好適に使用される。
【0098】
また、温度は20〜80℃、接触時間は10秒以上が好適であり、コーティング液を膜厚方向に通液することによって、膜表面に密に親水性基含有高分子をコーティングすることができる。
【0099】
特に、疎水性基を含有する親水性基含有高分子を使用する場合、コーティング液の温度によって膜素材との親和性が大きく影響変化する。親水性基と疎水性基を含有する高分子では、水の温度によって水分子との相互作用の形態が変化し、疎水性基が表面に配向したミセルを形成することで高分子が析出することがある。この温度を曇点と言う。詳細は明らかにはなっていないが、疎水性表面に疎水性基を含有する親水性基含有高分子を使用する場合は、曇点付近の温度でコーティング行うことで、膜表面と親水性基含有高分子中の疎水性基との疎水性相互作用が強まり、効率良く、膜表面に密に親水性基含有高分子をコーティングすることができる。例えば、親水性基含有高分子としてビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64”)を用いる場合であれば、曇点はおよそ70℃程度であるため、コーティング液の温度は60〜80℃が好適である。
【0100】
また、コーティングを連続的に行う場合には、コーティング液の流速は速いほど均一にコーティングが可能であるが、速すぎると十分な量をコーティングできない恐れがあるので、流速は200〜1000mL/minが好適な範囲である。
【0101】
中空糸膜の含水率が10重量%以下の中空糸膜モジュールとする方法としては、モジュール化前に含水率10重量%以下に乾燥させた中空糸膜を束とし、ケースに組み込み、モジュール化する方法や中空糸膜モジュールとした後に中空糸膜を乾燥させる方法がある。特に限定はしないが、モジュール化した後に乾燥させる場合、含水率10重量%以下に乾燥させるのに時間がかかる問題や、中空糸を束とした状態で乾燥するときに膜同士の固着が起こる懸念があるため、モジュール化前に中空糸膜を乾燥させておくことが好ましい。
【0102】
中空糸膜を乾燥処理する方法としては、熱風による乾燥やマイクロ波照射により乾燥させる方法がある。特に限定はしないが、簡便さから熱風による乾燥が好適に用いられる。
【0103】
熱風による乾燥では、乾燥温度が高いと親水性基含有高分子の分解や劣化を招くおそれや、中空糸膜同士の癒着がひきおこされることがある。一方で、乾燥温度が低いと乾燥処理に長い時間がかかる。そのため、乾燥温度は50℃以上が好ましく、さらに好ましくは70℃以上であり、一方で150℃以下が好ましく、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0104】
マイクロ波照射による乾燥でも、中空糸膜温度が上昇しすぎると、親水性基含有高分子の分解や劣化を招くおそれや、中空糸膜の性能低下を引き起こされることがある。そのため、中空糸膜温度が100℃以下、より好ましくは80℃以下で乾燥することがより好ましい。中空糸膜温度を制御する方法としては、特に限定はしないが、減圧下でマイクロ波照射を行う方法などがある。
【0105】
中空糸膜の膜厚は、薄くなるほど境膜物質移動係数を低減できるために中空糸膜の物質除去性能は向上する。一方で、膜厚が薄すぎると糸切れや乾燥つぶれが発生しやすく、製造上問題となる可能性がある。中空糸膜のつぶれ易さは、中空糸膜の膜厚と内径に相関がある。そのため、中空糸膜の膜厚は20μm以上が好ましく、さらには25μm以上が好ましい。一方、50μm以下、さらには45μm以下が好ましい。中空糸膜の内径は80μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは120μm以上であり、一方、250μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは160μmである。
【0106】
上記中空糸膜内径とは、ランダムに選別した16本の中空糸膜の膜厚をマイクロウォッチャーの1000倍レンズ(VH−Z100;株式会社KEYENCE)でそれぞれ測定して平均値aを求め、以下の式より算出した値をいう。なお、中空糸膜外径とは、ランダムに選別した16本の中空糸膜の外径をレーザー変位計(例えば、LS5040T;株式会社KEYENCE)でそれぞれ測定して求めた平均値をいう。
中空糸膜内径(μm)=中空糸膜外径(μm)―2×膜厚(μm)。
【0107】
本発明の中空糸膜モジュールは、上記の方法によって製造された中空糸膜がケースに内蔵されることによって得られるものであることが好ましい。
【0108】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状のケースに入れる。その後、両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング材を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング材を入れる方法は、ポッティング材が均一に充填できるため好ましい方法である。ポッティング材が固化した後。中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断する。ケースの両端にヘッダーを取り付け、ヘッダーおよびケースのノズル部分に栓をすることで中空糸膜モジュールを得る。
【0109】
人工腎臓などの血液浄化用の中空糸膜モジュールは滅菌することが必要であり、残留毒性の少なさや簡便さの点から、放射線滅菌法が多用されている。
【0110】
そのため、本発明においては、ドライタイプの中空糸膜モジュールを得ることを目的としているため、モジュール(ケース)に内蔵された中空糸膜の自重に対する含水率を10重量%以下とした状態で放射線照射を行うことが好ましい。使用する放射線としては、α線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。中でも残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線が好適に用いられる。また、中空糸内表面に取り込まれた親水性基含有高分子は放射線の照射によって膜素材と架橋を起こすことで固定化でき、溶出物の低減にも繋がるため、放射線を照射することが好ましい。放射線の照射線量が低いと滅菌効果が低くなる、一方、照射線量が高いと親水性基含有高分子や膜素材などの分解が起き、血液適合性が低下する。そのため、照射線量は15kGy以上が好ましく、100kGy以下が好ましい。
【0111】
中空糸膜の透水性としては、100ml/hr/mmHg/m
2以上が好ましく、より好ましくは200ml/hr/mmHg/m
2以上、さらに好ましくは300ml/hr/mmHg/m
2以上である。また、人工腎臓用途の場合、透水性が高すぎると残血などの現象が見られることがあるので、2000ml/hr/mmHg/m
2以下が好ましく、さらに好ましくは1500ml/hr/mmHg/m
2以下である。
【実施例】
【0112】
(1)含水率の測定
中空糸膜モジュールを解体して得られた中空糸束の質量を測定した。中空糸束を150℃に設定した乾燥機に入れ、3時間乾燥させた後、再度質量を測定した。中空糸の含水率は下記の式より算出し、測定値は小数点第2位を四捨五入した値を用いる。
含水率(重量%)=100×(a−b)/b
ここで、a:乾燥前重量(g)、b:乾燥後重量(g)である。
【0113】
(2)X線光電子分光法(XPS)測定(中空糸膜内表面のピロリドン基の量の測定)
中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜表面(中空糸膜内表面)を3点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温(25℃)、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件としては、以下の通り。
【0114】
測定装置: ESCALAB220iXL
励起X線: monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径: 0.15mm
光電子脱出角度: 90 °(試料表面に対する検出器の傾き)。
C1sには、主にCHx,C−C,C=C,C−S由来の成分、主にC−O,C−N由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。従って、5つ成分でピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC−Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0〜4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比を、小数点第2桁目を四捨五入し、算出した。エステル基由来の炭素量(原子数%)は、C1sの炭素量(原子数%)から、COO由来の成分のピーク面積比を乗じることで求めた。なお、ピーク分割の結果、0.4%以下であれば、検出限界以下とし、ゼロと見なした。
【0115】
中空糸膜に含まれる疎水性高分子がポリスルホンであり、親水性基含有高分子がピロリドン基を含む場合、ビニルピロリドン基の分子量は111、ポリスルホンを構成する繰り返し単位の分子量は442であるから、中空糸膜表面のビニルピロリドン基の量は窒素量(c(原子数%))と硫黄量(d(原子数%))の値から、下式より算出した。
中空糸膜内表面のビニルピロリドン基の量(重量%)=(c×111/(c×111+d×442))×100。
【0116】
したがって、親水性基含有高分子がポリビニルピロリドンである場合、上式から算出される「中空糸膜内表面のビニルピロリドン基の量(重量%)」が、「中空糸膜内表面のポリビニルピロリドンの含有率(重量%)」となる。
【0117】
(3)X線光電子分光法(XPS)測定(中空糸膜内表面のエステル基の量の測定)
エステル基を含有する親水性基含有高分子を使用した際の、中空糸膜表面の親水性基含有高分子量は、(2)の通りESCA(XPS)を用いることで算出できる。測定装置および測定条件は(2)と同じにした。中空糸膜に含まれる疎水性高分子がポリスルホンであり、親水性基含有高分子がビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体からなる場合、ビニルピロリドン基の分子量は111、ポリスルホンを構成する繰り返し単位の分子量は442、酢酸ビニルの分子量86であるから、表面の酢酸ビニル(エステル基)の量は窒素量(c(原子数%))と硫黄量(d(原子数%))、エステル基由来の炭素量(e(原子数%))の値から、下式より算出した。
中空糸膜内表面の酢酸ビニル(エステル基)の量(重量%)=(e×86/(c×111+d×442+e×86))×100。
【0118】
したがって、親水性基含有高分子がビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体である場合、中空糸膜内表面の親水性基含有高分子含有率(重量%)は、上記(2)において算出される「中空糸膜内表面のビニルピロリドン基の量(重量%)」と上式から算出される「中空糸膜内表面の酢酸ビニル(エステル基)の量(重量%)」の和で表すことができる。
【0119】
(4)過マンガン酸カリウム消費量の測定
中空糸膜モジュールの被処理液側の流路(血液側流路)に37℃に加温した超純水を100mL/minの速度で7分間通液し血液側流路を洗浄した。ついで処理液側の流路(透析液側流路)に500mL/minの速度で5分間通液し、処理液側の流路(透析液側流路)を洗浄した。再度、被処理液側の流路(血液側流路)に100mL/minで3分通液した際、最後の2分間に流出する200mLをプライミング終流液としてサンプリングし、10mLを採取した。この10mLのプライミング終流液に、2.0×10
−3mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液を20mL、10体積%の硫酸を1mL、沸騰石を加え3分間煮沸した。その後、10分間放冷し、室温まで冷却した。その後、氷水でよく冷却した。10重量%ヨウ化カリウム水溶液1mLを加え、よく攪拌後10分間放置し、1.0×10
−2mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定を行った。溶液の色が淡黄色となった時点で1重量%デンプン水溶液を0.5mL加え、20℃〜30℃でよく撹拌した。その後、溶液の色が透明になるまで1.0×10
−2mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、加えたチオ硫酸ナトリウム水溶液量を測定した。
【0120】
中空糸膜モジュールを通過させていない超純水も同様に滴定を行った。過マンガン酸カリウムの消費量は、超純水の滴定に使用したチオ硫酸ナトリウム水溶液量(f(mL))と測定液の滴定に使用したチオ硫酸ナトリウム水溶液量(g(mL))から、下式より算出する。2回測定した結果の平均値を測定値とし、小数点第3位を四捨五入した値を用いる。
過マンガン酸カリウム消費量(mL)=(f−g)×h/i
ここでh:チオ硫酸ナトリウムのファクター、i:過マンガン酸カリウムのファクターである。
【0121】
(5)微量窒素分析法
中空糸膜を凍結粉砕し、これを測定サンプルとして用いた。当該測定サンプルを常温(25℃)で2時間減圧乾燥した後、分析に供した。測定装置、条件は以下の通り。
【0122】
測定装置: 微量窒素分析装置ND−100型(三菱化学株式会社製)
電気炉温度(横型反応炉)
熱分解部分:800℃
触媒部分 :900℃
メインO
2流量:300mL/min
O
2流量:300mL/min
Ar流量:400mL/min
Sens:Low
3回測定を行った結果の平均値を測定値とし、有効数字は2桁とする。
【0123】
(6)顕微ATR法
中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、超純水でリンスした後、室温(25℃)、0.5Torrにて10時間乾燥させ、表面測定用の試料としたこの乾燥中空糸膜の各表面をJASCO社製IRT−3000の顕微ATR法により測定した。測定は視野(アパーチャ)を100μm×100μmとし、測定範囲は3μm×3μmで積算回数を30回、縦横各5点の計25点測定した。得られたスペクトルの波長1549〜1620cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正の部分で囲まれた部分をポリスルホン由来ベンゼン環C=C由来のピーク面積を(A
CC)とした。同様に1620〜1711cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をピロリドン由来のピーク面積を(A
NCO)、1711〜1759cm
−1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をエステル基由来のピーク面積を(A
COO)とした。
【0124】
上記操作を同一中空糸の異なる3箇所を測定し、(A
NCO)/(A
CC)および(A
COO)/(A
CC)の平均を算出し、小数点第3位を四捨五入した値を用いる。
【0125】
(7)ヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。中空糸膜内表面に汚れやキズ、折り目が存在すると、その部分に血小板が付着するため正しい評価ができないことがあるので注意を要する。該円形板を、筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051、長さ3cm)、中空糸膜を貼り付けた面が、円筒の内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。健常人のヒトの静脈血(赤血球数450万〜500万個/mm
3、白血球数5000〜8000個/mm
3、血小板20万〜50万個/mm
3)を採血後、直ちにヘパリンを50U/mLになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を採血後30分以内に円筒管内に1.0mL加え、37℃にて1時間、回転数700rpmで振とうさせた。その後、中空糸膜を10mLの生理食塩水で洗浄し、2.5体積%グルタルアルデヒド生理食塩水1mLを加え、静置し、血液成分を中空糸膜に固定化させた。1時間以上経過後、20mLの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温(25℃)、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を中空糸膜内表面に形成させて、試料とした。この中空糸膜内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S−800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×10
3μm
2)の付着した血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる10視野での付着した血小板数の平均値(小数点第2位を四捨五入する)を血小板付着数(個/4.3×10
3μm
2)とした。1視野で50個/4.3×10
3μm
2を超えた場合は、50個としてカウントした。中空糸の長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすいため、血小板付着数の計測対象からはずした。
【0126】
(8)中空糸膜外表面の親水性基含有高分子含有率(重量%)
測定対象面を中空糸膜外表面とする以外は、上記(2)および(3)と同様の方法によって、中空糸膜外表面の親水性基含有高分子含有率(重量%)を求めた。
【0127】
[実施例1]
ポリスルホン(アコモ社製“ユーデル”P−3500 LCD MB7 分子量77000〜83000)16重量%、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社製;以下ISP社と略す K30)4重量%およびポリビニルピロリドン(ISP社製 K90)を2重量%、N,N−ジメチルアセトアミド77重量%、水1重量%を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0128】
N,N−ジメチルアセトアミド66重量%、水33.97重量%の溶液にビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64”)0.03重量%を溶解し、芯液とした。
【0129】
製膜原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部の外径0.35mm、内径0.25mmのオリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は乾式長350mm、温度30℃、露点28℃のドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%、温度40℃の凝固浴に導かれ、60〜75℃で90秒の水洗工程、130℃で2分の乾燥工程を通過させ、160℃のクリンプ工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は200μm、外径は280μmであった。中空糸膜の内表面積が1.5m
2になるように、中空糸膜をケースに充填し、かつ中空糸の両端をポッティングによりケース端部に固定し、ポッティング材の端部の一部をカッティングすることで両端の中空糸膜を両面開口させ、ケース両側にヘッダーを取り付け、中空糸膜が内蔵されたモジュールを得た。その後、モジュール内部を窒素で置換し、照射線量25kGyのγ線を照射し、中空糸膜モジュール1を得た。得られた中空糸膜モジュールの含水率、過マンガン酸カリウム消費量および中空糸膜の内外表面の親水性基含有高分子量、内表面の顕微ATR、血小板付着数を測定した。結果を表1に示す。親水性基含有高分子は中空糸内表面に均一に存在しており、血小板付着数が少なく、含水率が低い条件でγ線照射を行ったにも関わらず、溶出物が少ない中空糸膜モジュールが得られた。
【0130】
[実施例2]
芯液に添加する親水性基含有高分子量を0.01重量%、水を33.99重量%とした以外は、実施例と同様にして中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュール2を得た。結果を表1に示す。親水性基含有高分子は中空糸膜に均一に存在しており、血小板付着数が少なく、溶出物が少ない中空糸膜モジュールが得られた。
【0131】
[実施例3]
芯液に添加する親水性基含有高分子をビニルピロリドン/酢酸ビニル(7/3(モル比率))共重合体(BASF社製、“ルビスコールVA73”を使用した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュール3を得た。結果を表1に示す。実施例1と同様に溶出物が少ない中空糸膜モジュールが得られた。
【0132】
[実施例4]
芯液に添加する親水性基含有高分子をビニルピロリドン/酢酸ビニル(3/7(モル比率))共重合体(BASF社製、“ルビスコールVA37”を使用した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュール4を得た。結果を表1に示す。実施例1と同様に溶出物が少ない中空糸膜モジュールが得られた。
【0133】
[実施例5]
芯液に親水性基含有高分子を添加しないこと以外は実施例1と同様の条件で中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュールを得た。
【0134】
そして、ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64”)0.01重量%の80℃の水溶液を該中空糸膜モジュールの被処理液注入口(15A)から被処理液排出口(15B)へ500mL/minで1分間通水した(このとき、被処理液注入口(15A)と被処理液排出口(15B)は開いているが、処理液注入口(16A)と処理液排出口(16B)は閉じられている)。
【0135】
次いで、被処理液注入口(15A)から処理液注入口(16A)へ500mL/minで1分間通水した(このとき、被処理液注入口(15A)と処理液注入口(16A)は開いているが、被処理液排出口(15B)と処理液排出口(16B)は閉じられている)。
【0136】
次に100kPaの圧縮空気で中空糸膜外表面側から中空糸膜内表面側へ充填した液を押し出した(このとき、処理液注入口(16A)と被処理液注入口(15A)は開いているが、被処理液排出口(15B)と処理液排出口(16B)は閉じられている)。
【0137】
そして、中空糸膜外表面側にかかる圧力を100kPaに維持した状態で被処理液出口側(15B)から被処理液入口側(15A)の方向に圧縮空気を送り込み、中空糸膜内部の液体を被処理液入口側(15A)に押し出し(このとき、被処理液排出口(15B)と被処理液注入口(15A)は開いているが、処理液注入口(16A)と処理液排出口(16B)は閉じられている)、中空糸膜のみが湿潤した状態にした。
【0138】
さらにこのモジュールに6kWのマイクロ波を照射して中空糸を乾燥させた後、モジュール内部を窒素置換し、照射線量25kGyのγ線を照射し中空糸膜モジュール4を得た。結果を表1に示す。親水性基含有高分子は中空糸膜に均一に存在しており、血小板付着数が少なく、溶出物が少ない中空糸膜モジュールが得られた。
【0139】
[比較例1]
ポリスルホン(アコモ社製“ユーデル”P−3500)18重量%、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社製;以下ISP社と略す K30)6重量%およびポリビニルピロリドン(ISP社製 K90)を3重量%、N,N−ジメチルアセトアミド72重量%、水1重量%を加熱溶解し、製膜原液とし、芯液に親水性基含有高分子を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュール5を得た。結果は表1の通りであった。内表面の親水性基含有高分子量は十分であるが、中空糸膜中のポリビニルピロリドン量が多いため溶出物が多く見られた。
【0140】
[比較例2]
芯液に親水性基含有高分子を添加しないこと以外は実施例1と同様の条件で中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュールを得た後に、ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64”)0.1重量%の水溶液を中空糸膜モジュールの血液側入口から出口へ500mL/minで1分間、血液側入口から透析液側出口へ500mL/minで1分間通水した。次に100kPaの圧縮空気で透析液側から血液側へ充填した液を押し出し、その後血液側の充填液をブローし、中空糸膜のみが湿潤した状態にした。つまり、実施例5と同様の方法で中空糸膜のみが湿潤した状態にした。
【0141】
さらにこのモジュールを減圧乾燥機にて常温(25℃)で乾燥させた後、モジュール内部を窒素置換し、照射線量25kGyのγ線を照射し中空糸膜モジュール6を得た。得られた中空糸膜モジュール6の含水率、過マンガン酸カリウム消費量および中空糸膜の内外表面の親水性基含有高分子量、内表面の顕微ATR、血小板付着数を測定した。結果を表1に示す。親水性基含有高分子を製膜後にコーティングした場合、親水性が高く、血小板付着抑制に優れるが、溶出物が多く見られた。
【0142】
[比較例3]
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64”)10重量%を溶解した溶液を芯液として用いた以外は実施例1と同様の条件で中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュールを得た後に、これへのγ線の照射を行った。得られた中空糸膜モジュール7の含水率、過マンガン酸カリウム消費量および中空糸膜の内外表面の親水性基含有高分子量、内表面の顕微ATR、血小板付着数を測定した。結果を表1に示す。親水性は高いが、血小板付着抑制効果はやや劣り、溶出物が多く見られた。
【0143】
[比較例4]
ポリスルホン( アモコ社製“ユーデル”P−3500)18重量%およびビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4(モル比率))ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64)9重量%をN,N'−ジメチルアセトアミド72重量%および水1重量%の混合溶媒に加え、加熱溶解して得られた溶液を製膜原液として用いた以外は、比較例1と同様の条件で中空糸膜を製膜し、これをケースに内蔵せしめて、中空糸膜モジュール化を得た後に、これへのγ線の照射を行った。得られたモジュール8の含水率、過マンガン酸カリウム消費量および中空糸膜の内外表面の親水性基含有高分子量、内表面の顕微ATR、血小板付着数を測定した。血小板付着抑制効果に優れるが、溶出物の溶出が多く見られた。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】