(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層チップコイル1は、セラミック層2と内部電極層3とがY軸方向に交互に積層してあるチップ本体4を有する。
【0016】
各内部電極層3は、四角状環またはC字形状またはコ字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0017】
チップ本体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、積層されたセラミック層2を貫通する端子接続用スルーホール電極6の端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0018】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がY軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図1に示す積層チップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Y軸に略一致する。
【0019】
チップ本体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、たとえばX軸寸法は0.15〜0.8mm、Y軸寸法は0.3〜1.6mm、Z軸寸法は0.1〜1.0mmである。
【0020】
また、セラミック層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3、3の間隔)は3〜50μm、ベース厚み(端子接続用スルーホール電極6のY軸方向長さ)は5〜300μm程度で設定することができる。
【0021】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、本体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0022】
コイル導体30は、Ag(Agの合金含む)を含み、たとえばAg単体、Ag−Pd合金などで構成される。コイル導体の副成分として、Zr、Fe、Mn、Ti、およびそれらの酸化物を含むことができる。
【0023】
セラミック層2は、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。以下、フェライト組成物について詳細に説明する。
【0024】
本実施形態に係るフェライト組成物は、主成分としてFeの化合物、Cuの化合物、Znの化合物およびNiの化合物を含有する。Feの化合物としては、例えばFe
2O
3を含んでもよい。Cuの化合物としては、例えばCuOを含んでもよい。Znの化合物としては、例えばZnOを含んでもよい。Niの化合物としては、例えばNiOを含んでもよい。
【0025】
主成分100モル%中、Feの化合物の含有量は、Fe
2O
3換算で、44.0〜50.0モル%(44.0モル%を含まない)、好ましくは44.1〜49.2モル%である。Feの化合物の含有量が多い場合には直流重畳特性および比抵抗が低下しやすい。また、十分な焼結性が得られにくくなり、特に低温焼結時に密度が低下しやすい。さらに、交流抵抗が高くなりやすい。Feの化合物の含有量が少ない場合には、初透磁率μiが低下しやすい。
【0026】
主成分100モル%中、Cuの化合物の含有量は、CuO換算で、5.5〜14.0モル%、好ましくは6.0〜9.0モル%である。Cuの化合物の含有量が多い場合には、直流重畳特性が低下しやすい。さらに、交流抵抗が高くなりやすく比抵抗が低くなりやすい。Cuの化合物の含有量が少ない場合には、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下しやすい。また、焼結性の劣化により比抵抗が低下しやすい。さらに、初透磁率μiも低下しやすい。
【0027】
主成分100モル%中、Znの化合物の含有量は、ZnO換算で、4.0〜39.0モル%、好ましくは4.5〜25.0モル%である。Znの化合物の含有量が多い場合には、直流重畳特性が低下しやすい。Znの化合物の含有量が少ない場合には、初透磁率μiが低くなりやすい。また、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下しやすい。
【0028】
主成分の残部は、Niの化合物から構成されている。主成分100モル%中、Niの化合物の含有量は、NiO換算で、40.0モル%未満である。好ましくは4.5〜39.9モル%である。Niの化合物の含有量が多い場合には、初透磁率μiが低下しやすい。また、低温焼結時に密度が低下しやすい。
【0029】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、Siの化合物、Coの化合物およびBiの化合物を含有している。
【0030】
Siの化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、SiO
2換算で、3.0〜13.0重量部(3.0重量部を含まない)、好ましくは5.0〜8.0重量部である。Siの化合物の含有量が多い場合には、焼結性が劣化し、初透磁率μiが低下しやすい。Siの化合物の含有量が少ない場合には、直量重畳特性が低下しやすい。また、交流抵抗が高くなりやすい。
【0031】
Coの化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、Co
3O
4換算で、2.0〜10.0重量部(2.0重量部を含まない)、好ましくは3.0〜8.0重量部である。Coの化合物の含有量が多い場合には、初透磁率μiが低下しやすい。Coの化合物の含有量が少ない場合には、直流重畳特性が低下しやすい。また、交流抵抗が高くなりやすい。さらに、Coの化合物は高い振幅電流に対するQ値の低下を抑制する効果を有する。
【0032】
Biの化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、Bi
2O
3換算で、0.25〜5.00重量部、好ましくは1.00〜4.00重量部である。Biの化合物の含有量が多い場合には、比抵抗が低くなりやすい。また、直流重畳特性が低下しやすく交流抵抗が高くなりやすい。Biの化合物の含有量が少ない場合には、比抵抗が低くなりやすい。また、十分な焼結性が得られにくくなり、特に低温焼結時に密度が低下しやすい。また、Biの化合物は焼結過程においてZn
2SiO
4の生成を促進させる作用も持つ。そして、仮焼材料の粉砕の際に酸化ビスマスを添加する場合に、特にZn
2SiO
4の生成を促進させる作用が大きくなる。
【0033】
(Coの化合物のCo
3O
4換算での含有量)/(Siの化合物のSiO
2換算での含有量)(以下、単に「Co/Si」と記載する)は、重量比で0.4〜2.9である。好ましくは1.0〜2.5である。Coの化合物の含有量およびSiの化合物の含有量が上記の範囲内であっても、Co/Siが高すぎる場合には、初透磁率μiが低下しやすい。Co/Siが低すぎる場合には、交流抵抗Racが高くなりやすい。または、密度が低下しやすい。
【0034】
なお、各主成分および各副成分の含有量は、フェライト組成物の製造時において、原料粉末の段階から焼成後までの各工程で実質的に変化しない。
【0035】
本実施形態に係るフェライト組成物では、主成分の組成範囲が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、Siの化合物、Coの化合物およびBiの化合物が上記の範囲内で含有されている。その結果、焼結性が良好であって比抵抗および初透磁率μiが高く、直流重畳特性および交流抵抗も良好なフェライト組成物を得ることができる。加えて、本発明に係るフェライト組成物は、内部電極として用いられるAgの融点以下の900℃程度で焼結することが可能である。そのため、種々の用途への適用が可能となる。
【0036】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記副成分とは別に、さらにMn
3O
4などのマンガン酸化物、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化マグネシウム、ガラス化合物などの付加的成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。これらの付加的成分の含有量は、特に限定されないが、例えば主成分100重量部に対して0.05〜1.0重量部程度である。
【0037】
特に、酸化マグネシウムの含有量は、0.5重量部以下(0を含む)とすることが好ましい。酸化マグネシウムの含有量を0.5重量部以下とすることで、MgOとSiO
2との反応を抑制し、後述するZn
2SiO
4相からなる第1の副相を生成しやすくなる。
【0038】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0039】
具体的には、不可避的不純物元素としては、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。また、不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量部以下程度であれば含有されてもよい。
【0040】
特に、主成分100重量部に対して、Alの含有量をAl
2O
3換算で0.05重量部以下とすることにより、焼結性および比抵抗を向上させやすくなる。
【0041】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の組成を有し、かつ、
図3Aおよび
図3Bに示すようなコンポジット構造を有することが好ましい。
【0042】
図3Aは本実施形態に係るフェライト組成物11(後述するNo.5)について倍率20000倍でSTEM−EDSにより観察した結果である。
図3Bは
図3Aを模式図化したものである。好ましいフェライト組成物11はスピネルフェライトからなる主相12の他にZn
2SiO
4相からなる第1の副相14aおよびSiO
2相からなる第2の副相14bを含む。さらに、前記各相(主相12と、第1の副相14aと、第2の副相14b)の間にSiO
2相からなる粒界相16を含む。SiO
2相からなる第2の副相14bは含まれなくてもよいが、含まれることが好ましい。第1の副相14aには、Ni、Cu、Coなどのその他の元素が含まれていてもよく、Zn
2SiO
4に固溶していてもよい。第2の副相14bには例えば、Fe、Niなどのその他の元素が含まれていてもよい。また、粒界相16にはSiO
2の他に、Bi
2O
3も主相12よりも多く含まれる。なお、
図3Aおよび
図3Bにおいて第2の副相14bと粒界相16との区別は、暫定的に行ったものである。具体的には、モル比でSiO
2の含有割合がBi
2O
3の含有割合よりも大きな部分を第2の副相14b、SiO
2の含有割合がBi
2O
3の含有割合以下である部分を粒界相16としている。正確な区別は、後述するさらに高倍率のSTEM−EDS観察により行うことができる。
【0043】
Zn
2SiO
4相からなる第1の副相14a、SiO
2を含む第2の副相14b、およびSiO
2を含む粒界相16は、熱膨張係数がスピネルフェライトからなる主相12と比較して小さい。そのため、熱膨張係数の小さい各相が熱膨張係数の大きい主相12に引張応力を印加している。引張応力を印加することで、フェライト組成物11を用いたコイル部品のインダクタンス特性が向上する。
【0044】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物11は、主相12と、主相12とは組成の異なる副相14と、粒界相16と、の合計に占める副相14の割合が従来のフェライト組成物よりも大きい。具体的には、20000倍以上であり主相12が観察できる倍率のSTEM−EDS画像において、主相12と、副相14と、粒界相16との合計面積を100%として副相14の合計面積が5%以上33%以下であることが好ましい。副相14の合計面積が5%以上であることで、上記の引張応力が十分に印加される。引張応力が十分に印加されることで、フェライト組成物11からなるコイル部品はインダクタンス特性が改善され、比抵抗および初透磁率μiが高く、直流重畳特性および交流抵抗も良好となる。また、第1の副相14aの面積は1%以上32%以下であることが好ましく、第2の副相14bの面積は1%以上16%以下であることが好ましい。なお、主相12の面積は66%以上82%以下であることが好ましく、粒界相16の面積は1%以上15%以下であることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態では、Zn
2SiO
4相とは、Zn
2SiO
4を含む相のことを指す。SiO
2相とは、SiO
2の含有割合が主相よりも高い相のことを指す。Bi
2O
3相とは、Bi
2O
3の含有割合が主相よりも高い相のことを指す。なお、後述するようにSiO
2相からなり、かつ、Bi
2O
3相からなる相があってもよい。
【0046】
また、本実施形態に係るフェライト組成物11(No.5)について倍率100000倍でSTEM−EDSを用いて得られるSi元素マッピング画像が
図4である。また、
図4を概略図としたものが
図5である。
【0047】
図4および
図5の副相14が第1の副相14aか第2の副相14bかについては、任意の方法により確認できる。例えば、Zn元素マッピングが挙げられる。
【0048】
図3Aおよび
図3Bと比較して観察倍率を高めた
図4および
図5より、前記各相(主相12と、第1の副相14aと、第2の副相14b)の間にSiO
2相からなる粒界相16が存在し、主相または副相であるコアの周囲をSiO
2を含むシェルで覆うコアシェル構造となっていることがわかる。
【0049】
なお、上述の通り、粒界相16にはBi
2O
3も含まれている。粒界相16がBi
2O
3相かつSiO
2相であることは、例えば、STEM−EDSを用いて主相12および粒界相16を通過する部分を線分析することで確認することができる。
【0050】
本実施形態に係るフェライト組成物11はSiO
2相である粒界相16を含むことで、粒界相16の割合が従来のフェライト組成物における粒界相の割合よりも大きくなる。これは、粒界相16の厚みが従来のフェライト組成物よりも厚いことを意味している。そして、主相とは熱膨張率が異なるSiO
2相からなる粒界相16が含まれ、各相を覆うことで、粒界相16から各相へ引張応力が印加される。引張応力が十分に印加されることで、フェライト組成物11はインダクタンス特性が改善され、比抵抗および初透磁率μiが高く、直流重畳特性および交流抵抗も良好となる。本実施形態では、20000倍以上の主相12が見える大きさのSTEM−EDS画像において、主相12と、主相とは熱膨張率が異なる副相14と、粒界相16との合計面積を100%として粒界相16の面積が1%以上15%以下であることが好ましい。
【0051】
なお、本実施形態に係るフェライト組成物11において主相12および副相14をそれぞれ結晶粒子とした場合の平均結晶粒子径は、好ましくは0.2〜1.5μmである。平均結晶粒子径の測定方法は任意である。例えばXRDを用いて測定する方法がある。
【0052】
さらに、Zn
2SiO
4相の存在は上記のEPMAやSTEM−EDSでの元素分析解析の他、X線回折でも確認できる。
【0053】
以下、Zn
2SiO
4の含有量の定義および測定方法について説明する。
【0054】
X線回折装置にてフェライト組成物のX線回折強度を測定し、フェライト組成物11におけるスピネル型フェライトの(311)面のピーク強度I
AとZn
2SiO
4の(113)面のピークの強度I
Bとを測定する。Zn
2SiO
4相の含有量は、I
AでI
Bを割った値(I
B/I
A)とする。なお、X線回折装置により示される強度からバックグラウンドを引いた値を前記X線回折強度とする。
【0055】
Zn
2SiO
4の含有量(I
B/I
A)は、0.006以上であることが好ましい。また、Zn
2SiO
4の含有量の上限には特に限定はないが、I
B/I
Aが0.200以下であることが好ましい。
【0056】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量する。なお、平均粒径が0.05〜1.0μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0057】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe
2O
3)、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)あるいは複合酸化物などを用いることができる。前記複合酸化物としては、例えば珪酸亜鉛(Zn
2SiO
4)が挙げられる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0058】
副成分の原料としては、酸化珪素、酸化ビスマスおよび酸化コバルトを用いることができる。副成分の原料となる酸化物については特に限定はなく、複合酸化物などを用いることができる。前記複合酸化物としては、例えば珪酸亜鉛(Zn
2SiO
4)が挙げられる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0059】
なお、酸化コバルトの一形態であるCo
3O
4は、保管や取り扱いが容易であり、空気中でも価数が安定していることから、コバルト化合物の原料として好ましい。
【0060】
次に、主成分の原料である酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛を混合し、原料混合物を得る。さらに、上記の主成分の原料のうち、酸化亜鉛はこの段階では添加せず、原料混合物の仮焼後に珪酸亜鉛とともに添加してもよい。逆に、副成分の原料の一部をこの段階で主成分の原料と混合してもよい。原料混合物に含まれる原料の種類と割合、および、原料混合物の仮焼後に添加する原料の種類と割合を適宜制御することで、主相、第1の副相、第2の副相および粒界相の存在割合を制御することができる。
【0061】
具体的には、仮焼後に添加するZn
2SiO
4の添加量が多いほど第1の副相の面積割合が大きくなる傾向にある。また仮焼後に添加するSiO
2の添加量が多いほど第2の副相の面積割合が大きくなる傾向がある。さらに原料混合物におけるZnOの含有量が少ないほど第2の副相もしくは粒界相の面積割合が大きくなる傾向にある。
【0062】
混合する方法は任意である。例えば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。
【0063】
次に、原料混合物の仮焼を行い、仮焼材料を得る。仮焼は、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。仮焼時間および仮焼温度は任意である。仮焼は、通常、大気(空気)中で行うが、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。
【0064】
次に、副成分の原料となる酸化珪素、酸化ビスマス、酸化コバルトおよび珪酸亜鉛等を仮焼材料と混合し、混合仮焼材料を作製する。特にこの段階で添加する珪酸亜鉛が多いほどZn
2SiO
4相である第1の副相の存在割合が高くなりやすい。また、仮焼材料におけるZnが少ないほど、SiO
2相でありBi
2O
3相でもある粒界相の存在割合が高くなりやすい。これは、仮焼材料におけるZnが少ない場合には、焼成時にZn
2SiO
4のZnが主相へ固溶しやすくなり、SiO
2が粒界相に生じるためである。さらに、この段階で添加する酸化珪素が多いほどSiO
2相である第2の副相の存在割合が高くなりやすい。
【0065】
次に、混合仮焼材料の粉砕を行い、粉砕仮焼材料を得る。粉砕は、混合仮焼材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。混合仮焼材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕仮焼材料の平均粒径が、好ましくは0.1〜1.0μm程度となるまで行う。
【0066】
以下、上記の湿式粉砕後の粉砕材料を用いる
図1に示す積層チップコイル1の製造方法について説明する。
【0067】
図1に示す積層チップコイル1は、一般的な製造方法により製造することができる。すなわち、粉砕仮焼材料をバインダーと溶剤とともに混練して得たフェライトペーストを用いて、Agなどを含む内部電極ペーストと交互に印刷積層した後に焼成することで、チップ本体4を形成することができる(印刷法)。あるいはフェライトペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層して焼成することでチップ本体4を形成してもよい(シート法)。いずれにしても、チップ本体を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すればよい。
【0068】
フェライトペースト中のバインダーおよび溶剤の含有量は任意である。例えば、フェライトペースト全体を100重量%としてバインダーの含有量は1〜10重量%程度、溶剤の含有量は10〜50重量%程度の範囲で設定することができる。また、フェライトペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等を10重量%以下の範囲で含有させることができる。Agなどを含む内部電極ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは930℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0070】
たとえば、
図2に示す積層チップコイル1aのセラミック層2を上述した実施形態のフェライト組成物を用いて構成してもよい。
図2に示す積層チップコイル1aでは、セラミック層2と内部電極層3aとがZ軸方向に交互に積層してあるチップ本体4aを有する。
【0071】
各内部電極層3aは、四角状環またはC字形状またはコ字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30aを構成している。
【0072】
チップ本体4aのY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、Z軸方向の上下に位置する引き出し電極6aの端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイルを構成するコイル導体30aの両端に接続される。
【0073】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図2に示す積層チップコイル1aでは、コイル導体30aの巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0074】
図1に示す積層チップコイル1では、チップ本体4の長手方向であるY軸方向にコイル導体30の巻軸があるため、
図2に示す積層チップコイル1aに比較して、巻数を多くすることが可能であり、高い周波数帯までの高インピーダンス化が図りやすいという利点を有する。
図2に示す積層チップコイル1aにおいて、その他の構成および作用効果は、
図1に示す積層チップコイル1と同様である。
【0075】
また、本実施形態のフェライト組成物は、
図1または
図2に示す積層チップコイル以外の電子部品に用いることができる。例えば、コイル導体とともに積層されるセラミック層として本実施形態のフェライト組成物用いることができる。他にも、LC複合部品などのコイルと他のコンデンサ等の要素とを組み合わせた複合電子部品に本実施形態のフェライト組成物を用いることができる。
【0076】
本実施形態のフェライト組成物を用いた積層チップコイルの用途は任意である。例えばNFC技術や非接触給電などが採用されたICT機器(例えばスマートフォンなど)の回路など、特に高い交流電流が流れるために従来は巻線タイプのフェライトインダクタが用いられてきた回路にも好適に用いられる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0078】
(実験例1)
主成分の原料として、Fe
2O
3、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、SiO
2、Bi
2O
3、Co
3O
4を準備した。なお、出発原料の平均粒径は0.05〜1.00μmであることが好ましい。
【0079】
次に、準備した主成分原料の粉末および副成分原料の粉末を、焼結体として表1〜表6に記載の組成になるように秤量した。
【0080】
秤量後に、準備した主成分原料のうち、Fe
2O
3、NiO、CuO、および必要に応じてZnOの一部をボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。なお、実験例1のNo.5では、原料混合物におけるZnOの含有量が10モル%以下となるようにした。すなわち、後述する仮焼材料におけるZnOの含有量も10モル%以下となる。
【0081】
次に、得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中で仮焼して仮焼材料を得た。仮焼温度は原料混合物の組成に応じて500〜900℃の範囲で適宜選択した。その後、仮焼材料に前記湿式混合工程において混合しなかったZnOの残部、およびSiO
2をZn
2SiO
4の化合物の形で添加し、さらにその他の副成分等を添加しながらボールミルで粉砕して粉砕仮焼材料を得た。なお、実験例1のNo.5では仮焼材料へはZn
2SiO
4の化合物およびZnOを添加し、SiO
2は添加しなかった。
【0082】
仮焼材料に添加するZnOの残部の量については、仮焼材料に添加するSiO
2の1.0〜3.0倍(モル換算)とすることが好ましい。
【0083】
次に、この粉砕仮焼材料を乾燥した後、粉砕仮焼材料100重量部に、バインダとして重量濃度6%のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、トロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体、およびディスク形状(寸法=外径12mm×高さ2mm)の成形体を得た。
【0084】
次に、これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である860〜900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルおよびディスクサンプルを得た。さらに得られた各サンプルに対し以下の特性評価を行った。なお、秤量した原料粉末と焼成後の成形体とで組成がほとんど変化していないことを蛍光X線分析装置により確認した。
【0085】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(HEWLETT PACKARD社製4329A)を用いて行った。本実施例では、比抵抗ρは10
6Ω・m以上を良好とした。
【0086】
初透磁率μi
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを10ターン巻きつけ、LCRメータ(アジレントテクノロジー社製4991A)を使用して、初透磁率μ
iを測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度25℃とした。初透磁率μ
iが3.0以上である場合を良好とした。
【0087】
直流重畳特性
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを30ターン巻きつけ、直流電流を印加したときの透磁率μを測定した。印加する直流電流を0〜8Aまで変化させながら透磁率μを測定し、横軸に直流電流を、縦軸に透磁率をとってグラフ化した。直流電流0Aのときの透磁率が初透磁率μ
iである。そして、透磁率がμiから10%低下するときの電流値をIdcとして求めた。
【0088】
印加する直流電流が8A以下の段階で透磁率が10%低下した場合は、透磁率が10%低下したときの直流電流がIdcである。印加する直流電流が8Aの時点で透磁率が10%低下しなかった場合は、直流電流8Aでのグラフの傾きからIdcを算出した。本実施例では、Idcが8.0A以上の場合に直流重畳特性が良好であるとした。
【0089】
密度
前記焼結後のフェライト組成物の密度はトロイダルコアサンプルについて焼成後の焼結体の寸法および重量から算出した。密度が4.70g/cm
3以上の場合に焼結性が良好であるとした。
【0090】
フェライト組成物の観察
前記焼結後のフェライト組成物(トロイダルコアサンプル)について、EPMAおよびSTEM−EDSにより観察した。観察倍率は20000倍以上とし、各実施例および比較例により適した観察倍率を適宜設定した。そして、各フェライト組成物がスピネルフェライト相からなる主相、Zn
2SiO
4相からなる第1の副相、SiO
2相からなる第2の副相およびSiO
2相とからなる粒界相を含むか否かについて確認した。さらに、主相、第1の副相、第2の副相および粒界相の面積割合をSTEM−EDSの観察結果から算出した。表1〜表6の各実施例では、第1の副相の面積は4%以上15%以下、第2の副相の面積は1%以上10%以下、主相の面積は75%以上95%以下、粒界相の面積は5%以上25%以下であった。
【0091】
Zn2SiO4の含有量
Zn
2SiO
4の含有量については、前記焼結後のフェライト組成物についてX線回折装置(Panalytical社製X‘Pert PRO MPD CuKα線)によりI
B/I
Aを測定することで調べた。
【0092】
交流抵抗
交流抵抗(Rac)については、トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを1次側に6ターン、2次側に3ターン巻つけ、B−Hアナライザ(岩通計測製SY−8218)およびアンプ(エヌエフ回路設計ブロック製4101−IW)を使用して、測定時の周波数を3MHz、交流電流値を1.6Armsとした。交流抵抗Racは25mΩ以下を良好とした。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
表1では主にFe
2O
3の含有量およびNiOの含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、Fe
2O
3の含有量が小さすぎるNo.1は初透磁率μiが低すぎる結果となった。また、Fe
2O
3の含有量が大きすぎるNo.7aは焼結性が悪化し、直流重畳特性が悪化し、比抵抗ρが低すぎ、交流抵抗Racが高すぎる結果となった。
【0100】
表2では主にZnOの含有量およびNiOの含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、NiOの含有量が大きすぎるNo.8は初透磁率μiが低すぎる結果となった。
【0101】
表3では主にCuOの含有量およびNiOの含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、CuOの含有量が小さすぎるNo.10aは焼結性が悪化し、比抵抗ρが低すぎ、初透磁率μiが低すぎる結果となった。CuOの含有量が大きすぎるNo.11aは直流重畳特性が悪化し、比抵抗ρが低すぎ、交流抵抗Racが高すぎる結果となった。
【0102】
表4では主にSiO
2の含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、SiO
2の含有量が小さすぎるNo.14aは直流重畳特性が悪化し、交流抵抗Racが高すぎる結果となった。SiO
2の含有量が大きすぎるNo.18aは焼結性が悪化し、初透磁率μiが低すぎる結果となった。
【0103】
表5では主にCo
3O
4の含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、Co
3O
4の含有量が小さすぎるNo.19aは直流重畳特性が悪化し、交流抵抗Racが高すぎる結果となった。Co
3O
4の含有量が大きすぎ、Co/Siも大きすぎるNo.22aは初透磁率μiが低すぎる結果となった。また、Co
3O
4の含有量が大きすぎるNo.22bも初透磁率μiが低すぎる結果となった。
【0104】
表6では主にBi
2O
3の含有量を変化させている。全ての主成分および副成分が所定の範囲内である試料は全ての特性が良好となった。これに対し、Bi
2O
3の含有量が小さすぎるNo.23 aは焼結性が悪化し、比抵抗ρが低すぎ、初透磁率μiが低すぎる結果となった。Bi
2O
3の含有量が大きすぎるNo.24aは比抵抗ρが低すぎ、直流重畳特性が悪化し、交流抵抗Racが高すぎる結果となった。
【0105】
(実験例2)
実験例2では、実験例1のNo.5について、組成を変化させずに原料混合物の組成および仮焼後に添加する添加物の種類および/または添加量を変化させることで、EPMA観察時の主相、第1の副相、第2の副相および粒界相の面積割合を変化させた。結果を表7に示す。
【0106】
具体的には、No.5aおよびNo.5eでは、No.5と比較して原料混合物におけるZnOの含有量を増加させ、仮焼材料にはSiO
2および必要であればZnOを添加した。Zn
2SiO
4の化合物は添加しなかった。なお、原料混合物におけるZnOの含有量は10モル%超である。
【0107】
No.5cでは、No.5と比較して原料混合物におけるZnOの含有量を増加させ、仮焼材料には、Zn
2SiO
4の化合物と、SiO
2および必要であればZnOを添加した。なお、原料混合物におけるZnOの含有量は10モル%以下である。
【0108】
No.5dでは、No.5にて仮焼材料に添加したZn
2SiO
4の化合物の代わりにSiO
2およびZnOを添加した。なお、原料混合物におけるZnOの含有量は10モル%以下である。
【0109】
No.5gでは、No.5と比較して原料混合物におけるZnOの含有量を増加させ、仮焼材料にはZn
2SiO
4の化合物およびSiO
2を添加した。なお、原料混合物におけるZnOの含有量は10モル%超である。
【0110】
【表7】
【0111】
表7より、主相、第1の副相、第2の副相および粒界相の面積割合が変化しても好適な結果が得られた。特に、Zn
2SiO
4からなる第1の副相の面積割合が高いほど、インダクタンス特性が改善され、直流重畳特性および交流抵抗Racも良好となる傾向であった。さらに、Bi
2O
3およびSiO
2からなる粒界相の面積割合が高いほど、インダクタンス特性が改善され、直流重畳特性および交流抵抗Racも良好となる傾向であった。
換算で44.0〜50.0モル%(44.0モル%を含まない)のFeの化合物、CuO換算で5.5〜14.0モル%のCuの化合物、ZnO換算で4.0〜39.0モル%のZnの化合物、および、残部でありNiO換算で40.0モル%未満であるNiの化合物で構成されている。主成分100重量部に対して、副成分として、Siの化合物をSiO