特許第6465355号(P6465355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465355
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】気液分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20190128BHJP
   G01N 1/10 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
   B01D19/00 102
   !G01N1/10 J
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-112444(P2015-112444)
(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-221481(P2016-221481A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】水田 桂司
(72)【発明者】
【氏名】大谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】安間 健一
(72)【発明者】
【氏名】谷 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】星野 健
(72)【発明者】
【氏名】内藤 均
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 貴信
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−018865(JP,U)
【文献】 特開昭52−024366(JP,A)
【文献】 実開平06−060402(JP,U)
【文献】 特開平08−131711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00−19/04
G01N 1/00− 1/44
F25B 43/00−43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性材料によって形成され、自身に接触した液体を吸収することが可能であるとともに、外部から付加される外力によって、内部に吸収した液体を放出することが可能な親水部と、
該親水部に接続されて、該親水部に吸着された液体を毛細管現象により案内する液体案内部と、
前記親水部及び前記液体案内部を内部に収容するとともに、前記親水部に向かって気液混合流体を供給可能な供給口、気液混合流体における気体を外部に排出する気体排出口、前記液体案内部によって案内された前記液体を外部に排出する液体排出口が形成されたケースと、
前記液体排出口を介して前記液体を前記ケース内から吸い出す吸引部と、
駆動部と、
前記ケース内に収容されるとともに、前記駆動部によって軸線回りに回転駆動されるインペラと、
を備え
前記親水部は、前記インペラに対して前記軸線の径方向外側から対向するように配置される
気液分離装置。
【請求項2】
前記液体案内部における前記液体が触れる領域を覆う、親水性材料によって形成された層状の親水層を備える請求項1に記載の気液分離装置。
【請求項3】
前記液体案内部内における前記液体の液面位置を検出する液面検出部と、
該液面検出部によって検出された前記液面位置を、予め定められた基準範囲と比較し、前記液面位置が該基準範囲内にある場合に前記吸引部を駆動させる制御部と、
を備える請求項1又は2に記載の気液分離装置。
【請求項4】
前記ケースは、可視光を透過可能な透明の材料で形成され、
前記液面検出部は該ケースの外部に設けられて、前記ケースを介して前記液面位置を検出する請求項3に記載の気液分離装置。
【請求項5】
前記親水部は、植物性繊維、又は親水基を有する高分子化合物の重合体で形成されている請求項1から4のいずれか一項に記載の気液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液相状態の流体と気相状態の流体とが混合された流体は、気液混合流体と呼ばれている。このような気液混合流体は、流量計測や組成分析に際して、一般的な測定装置を用いた場合、気泡が混在していることに起因する測定精度への影響が懸念される。そこで、気液混合流体の液相成分と気相成分とを分離することを目的として、これまでに種々の技術が実用化されている。
【0003】
このような技術の一例として、下記特許文献1に記載された気液分離器が知られている。この気液分離器は、サンプルガスを導く導入路と、頂部を介して上記の導入路に接続されるとともに、内部にセパレート室を形成する円錐状壁面と、セパレート室に連通されたドレン及びガス導出路と、を備えている。セパレート室に導入されたサンプルガスのうち、凝縮によって生じた液相成分は円錐状壁面を伝って下方に流れたのち、ドレンを通じて外部へ排出される。一方で、サンプルガスに含まれる気相成分はガス導出路を通じて外部へ排出される。これにより、サンプルガスに含まれる液相成分と気相成分とが分離可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−64138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された気液分離器では、円錐状壁面を伝う液相成分は、自身に働く重力によってドレンへ導かれる。すなわち、この気液分離器は、重力による作用を積極的に用いている。したがって、無重力下や、微小重力下でこの気液分離器を用いた場合、十分な性能を得られない可能性がある。
加えて、地上(重力環境下)で使用する場合であっても、装置を鉛直方向に配置する必要があることから、装置の姿勢や配置可能な場所が限定的となってしまう。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであって、十分な分離性能を備えるとともに、種々の環境下で使用することが可能な気液分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様に係る気液分離装置は、親水性材料によって形成され、自身に接触した液体を吸収することが可能であるとともに、外部から付加される外力によって、内部に吸収した液体を放出することが可能な親水部と、該親水部に接続されて、該親水部に吸着された液体を毛細管現象により案内する液体案内部と、前記親水部及び前記液体案内部を内部に収容するとともに、前記親水部に向かって気液混合流体を供給可能な供給口、気液混合流体における気体を外部に排出する気体排出口、前記液体案内部によって案内された前記液体を外部に排出する液体排出口が形成されたケースと、前記液体排出口を介して前記液体を前記ケース内から吸い出す吸引部と、駆動部と、前記ケース内に収容されるとともに、前記駆動部によって軸線回りに回転駆動されるインペラと、を備え、前記親水部は、前記インペラに対して前記軸線の径方向外側から対向するように配置される
【0008】
上記の構成によれば、親水部に吸着された液体は、液体案内部における毛細管現象によって案内された後、吸引部によってケースの液体排出口から外部に排出される。すなわち、上記の気液分離装置は、気液の分離に際して重力による作用を用いることがない。したがって、例えば無重力環境はもとより、微小重力環境下でも安定的に運用することができる。
加えて、重力による作用を用いないことから、装置の姿勢に制約が生じることがない。すなわち、上記の気液分離装置は、種々の環境下で使用可能である。
さらに、上記の構成によれば、ケース内に供給された気液混合流体は、回転するインペラによって軸線の径方向外側に向かって飛散した後、親水部に流入する。これにより、インペラによる気液混合流体の遠心分離を行うことができるとともに、親水部に向かう液体の流速が高められるため、気液の分離に要する時間を短縮化することができる。
【0009】
本発明の一態様に係る気液分離装置では、前記液体案内部における前記液体が触れる領域を覆う、親水性材料によって形成された層状の親水層を備えてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、親水層を設けることによって、液体案内部の濡れ性を向上させることができる。これにより、液体案内部を流れる液体に対する流動抵抗を減少させることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る気液分離装置では、前記液体案内部内における前記液体の液面位置を検出する液面検出部と、該液面検出部によって検出された前記液面位置を、予め定められた基準範囲と比較し、前記液面位置が該基準範囲内にある場合に前記吸引部を駆動させる制御部と、を備えてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、液面位置が基準範囲内にある場合、すなわち、液体案内部に十分な量の液体が流入した場合に、制御部は吸引部を駆動する。これにより、液体案内部に流入する気液混合流体の流量に変動が生じた場合であっても、この変動に応じて吸引部の駆動状態を変化させることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る気液分離装置では、前記ケースは、可視光を透過可能な透明の材料で形成され、前記液面検出部は該ケースの外部に設けられて、前記ケースを介して前記液面位置を検出するように構成されていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、液面検出部がケースの外部に設けられることから、液体案内部内を流通する液体に対して液面検出部が接触することがない。これにより、液体の組成に影響を与える可能性を低減することができる。加えて、液体に曝されることによる液面検出部の汚損等を抑制できることから、メンテナンスコストを低減することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る気液分離装置では、前記親水部は、植物性繊維、又は親水基を有する高分子化合物の重合体で形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、十分な分離性能を備えるとともに、種々の環境下で使用することが可能な気液分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る気液分離装置の全体図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る気液分離装置の平面視断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る気液分離装置の要部拡大断面図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る気液分離装置の変形例における要部拡大断面図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る気液分離装置の全体図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る気液分離装置の要部拡大断面図であって、(a),(b)はそれぞれ気液混合流体の液面位置の状態変化を示す。
図7】本発明の第三実施形態に係る気液分離装置の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る気液分離装置1は、軸線Oに沿って延びるシャフト21と、このシャフト21の端部に設けられたインペラ2と、シャフト21を軸線O回りに回転駆動する駆動部22と、インペラ2に径方向外側から対向するように配置される親水部4と、これらインペラ2および親水部4の周囲を覆うとともに、親水部4に接続される液体案内部31を形成するケース3と、を備えている。さらに、この気液分離装置1は、ケース3内の流体を外部に吸い出す吸引部5を備えている。
【0020】
駆動部22としては、電力によって駆動される電動モータが好適に用いられる。この駆動部22は、駆動部ケース23によって外側から覆われている。なお、駆動部22の態様は上記電動モータに限定されず、例えば作業者が把持可能な把持部を設け、この把持部を介して人力でシャフト21を回転させる構成を採ってもよい。
【0021】
シャフト21は、軸線Oに沿って延びる略柱状の部材であり、軸線O方向における両端部のうち、一方側の端部は駆動部22の出力軸(不図示)に接続されている。これにより、駆動部22の回転エネルギーがシャフト21に遅滞なく伝達され、シャフト21は軸線O回りに回転駆動される。
【0022】
シャフト21の他方側の端部には、インペラ2が設けられている。インペラ2は、シャフト21の軸線Oを中心として、軸線Oの径方向外側に向かって放射状に延びる複数の羽根部24を有している。これら羽根部24の径方向外側における端部はチップ部25とされている。このチップ部25と反対側の端部(すなわち、軸線Oの径方向内側の端部)は、シャフト21の外周面に接続されることで基部26とされている。上記シャフト21の回転に伴ってこのインペラ2も軸線O回りに回転する。
【0023】
以上のように構成されたインペラ2は、ケース3によって外側から覆われている。このケース3は、軸線O方向においてインペラ2とおおむね同一の位置に設けられるリング部30と、このリング部30を外側から覆うケース本体32と、を有している。
【0024】
ケース本体32の内側は収容空間Vとされている。上記のインペラ2は、この収容空間V内で回転する。リング部30は、この収容空間V内で、インペラ2を径方向外側から覆うとともに、軸線Oと交差する面上で延びる概ね円環板状の部材である。なお、リング部30は、いずれもケース本体32と同一の材料によって一体に形成されてもよいし、それぞれ別の部材として構成されてもよい。
【0025】
リング部30の詳細な構成について説明する。図1から図3に示すように、リング部30は、軸線O方向に間隔を空けて積層された2つの部材を有している。これら2つの部材はそれぞれ、軸線O方向における一方側(駆動部22が位置する側)に設けられる第一リング部R1と、他方側(インペラ2が位置する側)に設けられる第二リング部R2とされている。
【0026】
第一リング部R1の径方向内側の領域、及び第二リング部R2の径方向内側の領域は、いずれも軸線Oを中心として略円形に開口されている。このうち、第一リング部R1の内周側の端面(第一内周面33)は、軸線O方向に対しておおむね平行をなしている。なお、この第一内周面33は、軸線O方向に対して必ずしも平行である必要はない。すなわち、第一内周面33が軸線Oに対して傾斜する方向に延びるように構成してもよい。一方で、第二リング部R2の内周側の端面(第二内周面34)は、径方向に対して傾斜している。より詳細には、この第二内周面34は、軸線Oの一方側から他方側に向かうに従って径方向外側から径方向内側に向かうように傾斜している。これにより、第二内周面34は、第一リング部R1の一部(後述する第一対向面35)と軸線O方向に対向している。
【0027】
第一リング部R1における軸線O方向の両面のうち、第二リング部R2と対向する側の面は、第一対向面35とされている。同様に、第二リング部R2における軸線O方向の両面のうち、第一リング部R1と対向する側の面は、第二対向面36とされている。これら第一対向面35、及び第二対向面36はいずれも軸線Oとおおむね直交する面内に延びている。すなわち、これら第一対向面35と第二対向面36とは互いにおおむね平行をなしている。
【0028】
さらに、第一対向面35と第二対向面36の間には間隙が形成されている。この間隙は、後述する流体(気液混合流体)を毛細管現象によって案内(移動)させる液体案内部31とされている。すなわち、軸線O方向におけるこの間隙の寸法は、液体に対する毛細管現象を惹起する程度に小さく設定されている。
【0029】
ここで、図1図3に示すように、液体案内部31の延在領域のうち、軸線Oの径方向内側の領域は、第二リング部R2の第二内周面34と対向している。これにより、第一対向面35の一部と、第二内周面34との間には、軸線Oと直交する方向から見ておおむね三角形状をなす空間が形成される。この空間は上記のインペラ2のチップ部25に対向することで、インペラ2から供給された気液混合流体が流入する導入口37とされている。一方で、液体案内部31において、この導入口37を除く領域は、延在部31Eとされている。
【0030】
すなわち、第一リング部R1における第一対向面35は、上述したインペラ2のチップ部25よりも、軸線O方向における一方側(駆動部22側)に位置している。一方で、第二リング部R2における第二内周面34は、このチップ部25に対して軸線Oの径方向から対向している。
【0031】
以上のように構成された液体案内部31の導入口37内側には、親水部4が設けられている。親水部4は、例えば綿や絹、麻等の植物性繊維をはじめ、親水基を有する高分子化合物の重合体のように、水に対する親和性を発揮する親水性材料を定型に成形することで得られる。
【0032】
このような親水性材料を、導入口37の形状、容積に対応した形状に成形することで、親水部4とされる。本実施形態では、上記したように、導入口37における軸線と直交する方向から見た断面はおおむね三角形状をなしていることから、親水部4は、その断面形状が三角形状をなすとともに、外形視で第一リング部R1、及び第二リング部R2の周方向に延びる略円環状をなしている。なお、この親水部4は、周方向の延在中途において、後述する切欠き部38に対応する位置で切り欠かれている。すなわち、軸線O方向から見た場合、親水部4はC字状をなしている。
【0033】
親水部4は、自身に接触した液体を速やかに吸収(吸着)することが可能である一方で、内部に吸収した液体を外部から付加される陰圧、あるいは圧搾等の外力によって放出することが可能とされている。
【0034】
上記のように、リング部30の径方向内側には導入口37(液体案内部31)、及び親水部4が形成されている一方で、リング部30の径方向外側の領域には、液体案内部31と連通される案内流路39が形成されている。案内流路39は、第一リング部R1の第一対向面35と、第二リング部R2の第二対向面36とにそれぞれ設けられた一対の凹溝によって形成される。具体的には、第一対向面35には、軸線O方向の一方側に向かって凹没する凹溝が形成されており、第二対向面36には、この凹溝と対向する他の凹溝が形成されている。
【0035】
これら一対の凹溝同士が軸線O方向の両側から対向することで、おおむね矩形の断面形状を有する案内流路39が形成される。このような案内流路39が、リング部30の周方向の全体にわたって形成されている。さらに、案内流路39は、親水部4を介して、上記液体案内部31の導入口37と連通されている。
【0036】
なお、案内流路39のうち、周方向における一部の領域は、図2に示すように、軸線O方向の他方側に向かって開口されている。さらに、ケース本体32におけるこの開口と対応する位置には、同等の寸法と形状を有する他の開口が形成されている。第二リング部R2及びケース本体32に形成されたこれら2つの開口は互いに連通されることで、後述する吸引部5によって液体を外部に排出するための液体排出口61とされている。
【0037】
吸引部5は、吸引ポンプ51と、この吸引ポンプ51に接続された吸引管52と、を備えている。すなわち、吸引ポンプ51を駆動することにより、吸引管52の内部は陰圧となる。この吸引管52は、上述した液体排出口61に挿入されることで、案内流路39中に露出している。すなわち、案内流路39内を流通する流体は、吸引管52を通じて外部に吸引される。
【0038】
さらに、第二リング部R2において、上記の液体排出口61と周方向で対応する位置には、切欠き部38が形成されている。切欠き部38は、液体排出口61よりも径方向の内側における領域を、径方向内側に向かって凹没させることで形成されている。これにより、切欠き部38を含む領域を軸線O方向の一方側から見た場合、第一リング部R1の一部が外部に露出した状態となる。より具体的には、この切欠き部38を通して、第一リング部R1における第一対向面35の一部が外部に露出している。
【0039】
以上のように構成された第一リング部R1、及び第二リング部R2は、上記のケース本体32によって外側から覆われている。図1に示すように、本実施形態ではケース本体32に、2つの開口が形成されている。これら2つの開口のうち、シャフト21(インペラ2)の軸線Oの延長線上に形成された開口は、気液混合流体を外部から導くための供給口62とされている。
【0040】
この供給口62には、軸線Oに沿ってケース本体32の外側に延びる管状の供給管63が取り付けられている。この供給管63を通じて外部から気液混合流体が導入される。なお、この供給口62、及び供給管63は、必ずしも軸線Oの延長線上に設けられている必要はなく、上記のように、インペラ2に対向する領域であればいかなる位置に設けてもよい。
【0041】
さらに、上記の供給口62から軸線Oの径方向外側に離間した位置には、収容空間V内に滞留した気体を外部に向かって排出するための気体排出口64が形成されている。詳しくは、この気体排出口64は、インペラ2およびリング部30(第一リング部R1、第二リング部R2)に干渉しない領域で、ケース本体32の内外を連通している。上記の供給口62、及び供給管63と同様に、この気体排出口64にも管状の気体排出管65が取り付けられている。なお、この気体排出管65の延長上には、吸引部5とは別のポンプが設けられていてもよい。
【0042】
以上のように構成された気液分離装置1の動作について図2図3を主に参照して説明する。まず、上述の駆動部22を駆動することにより、インペラ2が軸線O回りに回転駆動される。さらに、上記の吸引部5(吸引ポンプ51)を駆動する。これにより、気液分離装置1は運転状態となる。
【0043】
次に、運転状態における気液分離装置1に、分離を行う試料としての気液混合流体を導入する。具体的には、上記した供給管63を通じて外部から試料が導入される。なお、上記の気液混合流体とは、気相状態の流体と液相状態の流体とが混合された流体のことを指す。本実施形態に係る気液分離装置1は、このような気液混合流体を、液体(液相成分)と気体(気相成分)とに分離することを目的として使用される。
【0044】
上記の供給管63から導入された試料は、インペラ2の一方側の面に達する。インペラ2に達した試料は、インペラ2の回転に伴って発生する遠心力によって、インペラ2の基部26(径方向内側)から、チップ部25(径方向外側)に向かって移動する。このとき、試料中における液体と気体との比重差によって、試料は気液分離される。すなわち、試料中に含まれる液相成分は、気相成分を押しのけて、インペラ2の径方向外側に向かって凝集する。このとき液相成分によって押しのけられた気相成分は、径方向内側に向かって相対移動する。これにより、流体中に混在していた気相成分(気泡)は、インペラ2の径方向内側の領域で凝集する。
【0045】
径方向内側に凝集した気相成分(気体)は、上記した気体排出口64を経て、気体排出管65から外部に排出される。上述したように、気体排出管65の延長上にポンプを設けた場合には、このポンプによる陰圧によって気体は外部に吸引される。なお、供給管63(供給口62)における試料の流入圧力が十分に高い場合には、収容空間V内の圧力も高まるため、この圧力によって気体は気体排出管65から自然に排出される。すなわち、この場合には、気体排出管65上にポンプを設けなくてもよい。
【0046】
他方で、インペラ2のチップ部25に到達した試料のうち、液相成分(液体)は、さらなる遠心力によって、上記液体案内部31の導入口37に向かって飛散する。導入口37はインペラ2の周方向のおおむね全体にわたって形成されていることから、インペラ2のチップ部25から飛散した液体は、そのおおむね全量が導入口37によって回収される。
なお、上述のように、この液体はインペラ2上における遠心力によってすでに気液分離を経ているが、わずかながら、気相成分を含むことが考えられる。そこで、本実施形態に係る気液分離装置1では、インペラ2による遠心分離に加えて、以下に説明するように液体案内部31における毛細管現象に基づいてさらなる気液分離を施す構成を採っている。
【0047】
まず、インペラ2から飛散した液体は、導入口37の内側に設けられた親水部4に到達する。この親水部4は上述のように液体を速やかに吸着(吸収)することが可能な親水性材料で形成されている。これにより、導入口37を経て親水部4の一方側の面(径方向内側の面)に接触した試料は、親水部4の内部に吸収された後、親水部4の周方向にわたっておおむね均一に浸透する。
【0048】
親水部4に吸収された液体には、上記の吸引部5による陰圧が付加される。この陰圧は、以下のような順序を経て、親水部4に伝搬する。まず、吸引部5は案内流路39中に露出した吸引管52を通じて、該案内流路39中を陰圧状態とする。ここで、上記したように、案内流路39は液体案内部31の導入口37、及び親水部4に連通されている。これにより、親水部4も吸引部5によって発生した陰圧に曝されることとなる。
【0049】
上記のような陰圧が付加されることによって、親水部4中に含まれる液体は、親水部4からさらに径方向外側に向かって流動した後、親水部4から滲出する。親水部4から径方向外側に向かって滲出した液体は、液体案内部31の延在部31Eに到達する。延在部31Eに達した液体は、毛細管現象によってさらに径方向外側に向かって流動する。この時、液体中にわずかに含まれていた残余の気相成分(気体)は、液体の流動に伴って、液体案内部31の径方向内側(すなわち、親水部4側)に凝集する。すなわち、この液体案内部31でさらなる気液の分離が行われる。
【0050】
その後、液体は案内流路39を経て、吸引管52(液体排出口61)によって案内流路39中の液体は外部に排出される。一方で、液体案内部31中で分離された微量の気相成分は、親水部4を経て収容空間V中に放出された後、上記の気体排出口64から外部に排出される。
以上により、気液分離装置1による気液混合流体の分離が完了する。
【0051】
続いて、上記の切欠き部38における液体の液面の挙動について特に説明する。上記の親水部4に吸収された液体は、吸引部5によって付加された陰圧によって、切欠き部38に向かって周方向に流動する。より詳細には図2中の矢印に示すように、軸線Oを挟んで切欠き部38とは反対側の周方向位置から、互いに離間する2つの方向に向かって親水部4中を流動し続ける。
【0052】
親水部4中を流動した液体は、親水部4の周方向における端面から切欠き部38内に滲出する。ここで、上記したように切欠き部38には、案内流路39及び液体案内部31を経て伝搬された吸引部5の陰圧が付加されている。この陰圧によって、切欠き部38中における液体の液面は、径方向内側から径方向外側に向かって緩やかに湾曲した状態となっている。(なお、この湾曲した液面のうち、径方向における最も外側の位置を、液面位置Lと定義する。)
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る気液分離装置1では、親水部4に吸着された液体が、液体案内部31における毛細管現象によって案内された後、吸引部5によってケース3の液体排出口61から外部に排出される。すなわち、この気液分離装置1は、気液の分離に際して重力による作用を用いることがない。したがって、例えば無重力環境はもとより、微小重力環境下でも安定的に運用することができるとともに、装置の姿勢に対する制約を排除することができる。言い換えると、装置の配置や姿勢の自由度を高めることができる。
【0054】
さらに、上記の気液分離装置1では、ケース3内(収容空間V内)に供給された気液混合流体は、回転するインペラ2によって軸線Oの径方向外側に向かって飛散した後、導入口37を介して液体案内部31の延在部31Eに流入する。このとき、気液混合流体にはインペラ2の回転に伴う遠心力が付加されている。これにより、導入口37に向かう気液混合流体の流速が高められるため、気液の分離に要する時間を短縮化することができる。
【0055】
加えて、インペラ2から飛散した液体は、上記の親水部4によって速やかに吸収、保持される。すなわち、一旦吸収された液体がインペラ2側に再び滲出する可能性を低減することができる。したがって、例えば無重力、又は微小重力の環境下で気液分離装置1を運用する場合であっても、導入口37に達した液体が再び拡散することがない。これにより、気液分離装置1の配置や姿勢の自由度をさらに高めることができる。
【0056】
さらに、本実施形態に係る気液分離装置1では、試料に対して、インペラ2の回転に伴う遠心分離と、液体案内部31における毛細管現象に基づく分離とが連続して行われる。これにより、例えば遠心分離のみを用いる場合に比して、十分な分離性能を得ることができる。
【0057】
以上、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に対する種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の気液分離装置1では、第一リング部R1の第一対向面35、及び第二リング部R2の第二対向面36とが、互いにおおむね平行をなすように構成されている。すなわち、これら第一対向面35と第二対向面36との間に形成される液体案内部31は、軸線Oの径方向においておおむね一様の流路面積を有するように構成されている。
【0058】
しかしながら、液体案内部31は、その流路面積が径方向内側から外側に向かうに従って次第に広がるように形成されてもよい。このような構成によれば、液体案内部31での毛細管現象による気液分離をより十分に行うことができる。
【0059】
さらに、上記の構成に加えて、図4に示すように、液体案内部31の内壁面(導入口37の内壁面、及び延在部31Eの内壁面)に、親水部4と同様の材料で形成された層状の親水層41を設けてもよい。より具体的には、第一リング部R1の第一対向面35と、第二リング部R2の第二対向面36とに親水層41を設ける構成が考えられる。これにより、導入口37、及び延在部31E内における濡れ性を向上させ、液体に対する流動抵抗を低減することができる。すなわち、液体をさらに円滑に流動させることができる。
【0060】
加えて、上述の実施形態では、駆動部22とインペラ2とを有する構成とした。しかしながら、上記のように液体案内部31においても毛細管現象に基づく気液分離が行われることから、これら駆動部22、及びインペラ2を排した構成を採ることも可能である。このような場合、上記の第一リング部R1、及び第二リング部R2に相当する矩形板状の部材によって液体案内部31を形成することが考えられる。これにより、板状部材の延在方向一方側から試料を導入し、他方側から液相成分を排出させることが可能となる。
【0061】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図5図6を参照して説明する。なお、上述の第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態に係る気液分離装置1は、上記第一実施形態において説明した切欠き部38における液体の液面位置Lを検出する液面検出部7と、液面検出部7及び吸引部5に電気的に接続された制御部8と、をさらに備えている。
【0062】
液面検出部7は、第二リング部R2における切欠き部38に対応する位置に取り付けられた液面センサである。この液面センサにより、切欠き部38における液面位置Lを検出する。上述したように、この液面位置Lとは、切欠き部38中における湾曲した液面のうち、軸線Oの径方向における最も外側の位置を指している。液面検出部7は、この液面位置Lの位置情報を電気信号に変換した後、後述の制御部8に送出する。
【0063】
制御部8は、液面検出部7から入力された液面位置Lの信号に基づいて、吸引部5(吸引ポンプ51)の駆動を制御する。制御部8には、予め定められた液面位置Lの基準範囲が記憶されている。制御部8では、この基準範囲と上記の液面位置Lとが比較対照される。この比較の結果、液面位置Lが基準範囲内にあると判定された場合には、制御部8は吸引ポンプ51に対して電気信号を送出し、これを駆動する。一方で、液面位置Lが基準範囲外にあると判定された場合には、制御部8は吸引ポンプ51に対して駆動を停止する旨の信号を送出する。
【0064】
より具体的には、上記の基準範囲は、図6に示すように、導入口37(切欠き部38)の内部において径方向に広がる範囲とされている。基準範囲内における径方向内側の位置は最大位置L1とされ、径方向外側の位置は最小位置L2とされている。
【0065】
すなわち、液面位置Lが基準範囲の最大位置L1よりも径方向内側にある場合(図6(a))には、切欠き部38に十分な量の液体が充填された状態とみなすことができる。一方で、液面位置Lが基準範囲の最小位置L2よりも径方向外側にある場合(図6(b))には、切欠き部38にさらに液体を充填することが可能であるとみなすことができる。
【0066】
このような構成によれば、液面位置Lが基準範囲内にある場合、すなわち、液体案内部31に十分な量の液体が充填された場合に、制御部8が吸引部5(吸引ポンプ51)を駆動する。これにより、導入口37に流入する気液混合流体(試料)の流量に変動が生じた場合であっても、この変動に応じて吸引部5の駆動状態を変化させることができる。特に、液体が十分に導入口37内に充填されていない状態で吸引ポンプ51を駆動した場合、収容空間V内の気体を再度巻き込んでしまう可能性がある。しかしながら、上記構成により、このような可能性を低減することができる。
【0067】
[第三実施形態]
続いて、本発明の第三実施形態について、図7を参照して説明する。同図に示すように、本実施形態に係る気液分離装置1は、上記の液面検出部7が、ケース本体32の外側に設けられている点と、ケース本体32及び第一リング部R1、第二リング部R2が透明の材料によって形成されている点で、上記の第二実施形態と異なっている。
【0068】
本実施形態では、ケース3(ケース本体32、第一リング部R1、第二リング部R2)が、いずれも透明な材料(例えばアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等)で形成されている。より詳細には、これら部材は、可視光を透過可能な材料で形成されている。したがって、上述した切欠き部38における液面位置Lは、ケース3の外部から視認、検出可能となる。
【0069】
これにより、液面検出部7をケース3の外部に設けることが可能となる。すなわち、液面検出部7としては、比較的に安価な光学式センサを適用することができる。これにより、装置の製造に伴うコストを低廉化することができる。
【0070】
さらに、液面検出部7をケース3の外部に設けたことにより、液体案内部31内を流通する液体に対して液面検出部7が接触することがない。これにより、液面検出部7が液体の組成や流動性に影響を与える可能性を低減することができる。加えて、液体に曝されることによる液面検出部7の汚損、劣化等を抑制できることから、メンテナンスコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…気液分離装置 2…インペラ 3…ケース 4…親水部 5…吸引部 7…液面検出部 8…制御部 21…シャフト 22…駆動部 23…駆動部ケース 24…羽根部 25…チップ部 26…基部 30…リング部 31…液体案内部 31E…延在部 32…ケース本体 33…第一内周面 34…第二内周面 35…第一対向面 36…第二対向面 37…導入口 38…切欠き部 39…案内流路 41…親水層 51…吸引ポンプ 52…吸引管 61…液体排出口 62…供給口 63…供給管 64…気体排出口 65…気体排出管 L…液面位置 L1…最大位置 L2…最小位置 O…軸線 R1…第一リング部 R2…第二リング部 V…収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7