特許第6465400号(P6465400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特許6465400蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法
<>
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000003
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000004
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000005
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000006
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000007
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000008
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000009
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000010
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000011
  • 特許6465400-蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465400
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20190128BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20190128BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190128BHJP
   H01G 11/14 20130101ALI20190128BHJP
【FI】
   H01M10/44 A
   H01G11/46
   H01M4/58
   H01G11/14
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-59533(P2015-59533)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-181333(P2016-181333A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】増田 真規
(72)【発明者】
【氏名】山福 太郎
【審査官】 辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−049124(JP,A)
【文献】 特開2011−014457(JP,A)
【文献】 特開平04−271232(JP,A)
【文献】 特開昭57−180335(JP,A)
【文献】 特開2012−028225(JP,A)
【文献】 特開2014−120355(JP,A)
【文献】 特開2008−210701(JP,A)
【文献】 特開2010−277839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42−10/48
4/58
H01G 11/00−11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウムを含む正極を備えた蓄電素子の使用時における充電を制御する制御装置であって、
前記蓄電素子に対して、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加するように構成され、
前記蓄電素子は、前記正極に含まれる正極活物質の全質量のうち前記リン酸鉄リチウムの割合が95質量%以上であり、
前記蓄電素子は、炭素材を含む負極を備え、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの前記負極の電位と、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの前記負極の電位との差が、50mV以内となるように構成されている、蓄電素子の制御装置。
【請求項2】
前記蓄電素子をフロート充電するように構成された、請求項1に記載の蓄電素子の制御装置。
【請求項3】
正極活物質の全質量のうちリン酸鉄リチウムの割合が95質量%以上である正極を備えた蓄電素子に対して、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加することを備え
前記蓄電素子は、炭素材を含む負極を備え、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの前記負極の電位と、前記正極の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの前記負極の電位との差が、50mV以内となるように構成されている、蓄電素子の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子の制御装置及び蓄電素子の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電素子としては、正極と負極と非水電解液とを含み、正極の活物質としてリン酸鉄リチウムを含有する非水電解質二次電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記の非水電解質二次電池は、例えば、所定の電圧が印加されることにより、充電され、その後、放電されて使用される。
【0004】
しかしながら、上記の非水電解質二次電池が、単に所定電圧にて充電されると、リン酸鉄リチウムから鉄が溶出する場合がある。鉄が溶出すると、溶出した鉄が負極にて析出し、電池容量が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−252489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、正極のリン酸鉄リチウムから充電によって鉄が溶出することを抑制できる、蓄電素子の制御装置、及び、蓄電素子の制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄電素子の制御装置は、リン酸鉄リチウムを含む正極を備えた蓄電素子に対して、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加するように構成されている。
斯かる構成の制御装置によって、正極のリン酸鉄リチウムから鉄が溶出することを抑制できる。
【0008】
上記の蓄電素子の制御装置では、蓄電素子は、負極を備え、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの負極の電位と、正極の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの負極の電位との差が、50mV以内となるように構成されていてもよい。斯かる構成の蓄電素子に対して、上記のごとく電圧を印加することにより、正極から溶出した鉄が負極で析出するときの悪影響を軽減できると考えられる。負極の電位によって、負極上の被膜成長量が大きくなり容量低下に繋がるだけでなく、正極から鉄が溶出するとさらに負極上の被膜成長に影響を及ぼし、容量低下に繋がり得ると考えられる。これに対して、上述の如く電位差を制御することにより、容量低下を抑えることができる。
【0009】
上記の蓄電素子の制御装置は、蓄電素子をフロート充電するように構成されてもよい。
【0010】
本発明の蓄電素子の制御方法は、リン酸鉄リチウムを含む正極を備えた蓄電素子に対して、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加することを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正極のリン酸鉄リチウムから充電によって鉄が溶出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、制御装置の一実施形態を表す概略図である。
図2図2は、制御装置の一実施形態における蓄電素子の斜視図である。
図3図3は、同実施形態における蓄電素子の正面図である。
図4図4は、図2のIV―IV線位置の断面図である。
図5図5は、図2のV−V線位置の断面図である。
図6図6は、同実施形態における蓄電素子の電極体の構成を説明するための図である。
図7図7は、制御方法の一実施形態の工程を表したフローチャート図である。
図8図8は、蓄電素子をフロート充電するための回路を表す回路図である。
図9図9は、電池の容量維持率の測定結果を表すグラフである。
図10図10は、負極での鉄の析出量の測定結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態の蓄電素子の制御装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0014】
本実施形態の蓄電素子の制御装置100は、図1に示すように、蓄電素子1としての非水電解質二次電池1を含む電池パック110と、電池パック110の非水電解質二次電池1に充電を行う充電部120と、電池パック110の非水電解質二次電池1と充電部120とに電気的に接続された負荷部130と、電池パック110から送られる電気信号に基づいて演算処理を実行し充電部120に指示を送る統合ECU140とを備える。なお、充電部120は、統合ECU140から送られた電気信号に基づいて演算処理を実行するCPUと、CPUでの演算処理の結果を記録するメモリMとを有する。
【0015】
電池パック110は、複数の非水電解質二次電池1を含む蓄電装置111(電池モジュール111)と、蓄電装置111の各非水電解質二次電池1の少なくとも電圧を計測するセンサ部112と、センサ部112で計測した計測値に基づいて演算処理を実行し演算処理の結果を統合ECU140に伝える電池監視部113(BMU)とを有する。なお、電池監視部113(BMU)は、センサ部112で計測した計測値に基づいて演算処理を実行するCPUと、CPUでの演算処理の結果を記録するメモリMとを有する。
【0016】
電池パック110は、各非水電解質二次電池1の電圧や温度をセンサ部112によって計測し、計測値に基づいて電池監視部113のCPUで演算処理を実行するように構成されている。また、電池パック110は、電池監視部113のCPUで実行した演算処理の結果を統合ECU140に伝えるように構成されている。
【0017】
上記の制御装置100は、電池パック110の電池監視部113(BMU)から送られた電気信号に基づいて統合ECU140で演算処理を実行し演算処理の結果に基づいて充電部120に指示を送るように構成されている。上記の制御装置100は、蓄電装置111の非水電解質二次電池1を充電することを統合ECU140が決定した場合に、統合ECU140から充電部120へ電気信号を送り、充電部120によって非水電解質二次電池1に所定電圧を印加して非水電解質二次電池1を充電するように構成されている。上記の制御装置100は、センサ部112で計測した電圧の計測値が所定値未満となった場合に、非水電解質二次電池1を充電するように構成されている。
【0018】
上記の制御装置100は、非水電解質二次電池1を充電するときに、リン酸鉄リチウムを含む正極を備えた非水電解質二次電池1に対して、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加するように構成されている。
【0019】
上記の制御装置100は、蓄電素子1(非水電解質二次電池1)をフロート充電するように構成されている。
【0020】
次に、上記の蓄電素子1について説明する。
【0021】
蓄電素子1には、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子1の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。
【0022】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置111に用いられる。蓄電装置111では、該蓄電装置111に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0023】
蓄電素子1は、図2図6に示すように、正極23及び負極24を含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電体5等を有する。
【0024】
電極体2は、正極23と負極24とが互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0025】
正極23は、金属箔と、金属箔の上に形成された活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態における正極の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極23は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極の活物質層の非被覆部(正極の活物質層が形成されていない部位)231を有する。正極23において正極の活物質層が形成される部位を被覆部232と称する。尚、金属箔と活物質層との間に導電性の中間層(アンダーコート層)が配置されても良い。これにより、活物質層の金属箔への密着性を上げることができ、界面抵抗を低減させること等ができる。導電性の中間層は、例えばアセチレンブラックなどの導電助剤と、キトサンなどのバインダーとで構成される。
【0026】
正極の活物質層は、正極の活物質と、バインダーと、を有する。
【0027】
正極の活物質は、粒子状のポリアニオン化合物を含む。ポリアニオン化合物は、LiFePO(0<a≦1.3,0.7<b<1.3)の化学組成式で表されるリン酸鉄リチウムである。
正極の活物質は、リン酸鉄リチウムを主成分として含む。正極の活物質は、リン酸鉄リチウムを少なくとも95質量%含む。
【0028】
正極の活物質層は、通常、活物質を50質量%以上100質量%以下含む。
【0029】
正極の活物質層に用いられるバインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態における正極の活物質層のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0030】
正極の活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態における正極の活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0031】
負極24は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極の活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態における負極の金属箔は、例えば、銅箔である。負極24は、帯形状の短手方向である幅方向の他方(正極23の非被覆部231と反対側)の端縁部に、負極の活物質層の非被覆部(負極の活物質層が形成されていない部位)241を有する。負極24の被覆部(負極の活物質層が形成される部位)242の幅は、正極23の被覆部232の幅よりも大きい。
【0032】
負極の活物質層は、負極の活物質と、バインダーと、を有する。
【0033】
負極の活物質は、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素、及び易黒鉛化炭素などの炭素材、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などのリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態における負極の活物質は、易黒鉛化炭素である。
【0034】
負極の活物質層に用いられるバインダーは、正極の活物質層に用いられたバインダーと同様のものである。本実施形態における負極の活物質層のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0035】
負極の活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態における負極の活物質層は、導電助剤を有していない。
【0036】
本実施形態の非水電解質二次電池は、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの負極の電位と、正極の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの負極の電位との差が、50mV以内となるように構成されている。斯かる構成の非水電解質二次電池は、例えば、正極活物質および負極活物質の質量比を調整することによって製造できる。
【0037】
以上のように構成される正極23と負極24とがセパレータ25によって絶縁された状態で巻回される。即ち、電極体2では、正極23、負極24、及びセパレータ25の積層体22が巻回される。セパレータ25は、絶縁性を有する部材である。セパレータ25は、正極23と負極24との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極23と負極24とが互いに絶縁される。また、セパレータ25は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ25を挟んで交互に積層される正極23と負極24との間を移動する。
【0038】
セパレータ25は、帯状である。セパレータ25は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアミドなどの多孔質膜によって構成される。セパレータ25は、SiO粒子、Al粒子、ベーマイト(アルミナ水和物)等の無機粒子を含んだ無機層を、多孔質膜によって形成された基材の上に設けることで形成されてもよい。セパレータ25は、例えば、ポリエチレンによって形成される。セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極24の被覆部242の幅より僅かに大きい。セパレータ25は、被覆部同士が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極23と負極24との間に配置される。このとき、正極23の非被覆部231と負極24の非被覆部241とは重なっていない。即ち、正極23の非被覆部231が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極24の非被覆部241が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向(正極23の非被覆部231の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極23、負極24、及びセパレータ25、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。正極23の非被覆部231又は負極24の非被覆部241のみが積層された部位によって、電極体2における非被覆積層部26が構成される。本実施形態の非被覆積層部26は、巻回された正極23、負極24、及びセパレータ25の巻回中心方向視において、中空部を挟んで二つの部位(二分された非被覆積層部)261に区分けされる。
【0039】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)長方形状の蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。ケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0040】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。電解液は、例えば、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPFを溶解させたものである。
【0041】
以下では、図2に示すように、蓋板32の長辺方向をX軸方向とし、蓋板32の短辺方向をY軸方向とし、蓋板32の法線方向をZ軸方向とする。
【0042】
ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。
【0043】
蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐようにケース本体31に当接する。より具体的には、蓋板32が開口を塞ぐように、蓋板32の周縁部がケース本体31の開口周縁部に重ねられる。開口周縁部と蓋板32とが重ねられた状態で、蓋板32とケース本体31との境界部が溶接される。これにより、ケース3が構成される。
【0044】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、X軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。
【0045】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。
【0046】
注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(具体的には蓋板32)に固定される。
【0047】
外部端子7は、他の蓄電素子1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子7は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0048】
外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。外部端子7は、蓋板32に沿って拡がる板状である。詳しくは、外部端子7は、Z軸方向視において矩形状の板状である。
【0049】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と通電可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを通電可能に接続するクリップ部材50を備える。
【0050】
集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。図4に示すように、集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。
【0051】
集電体5は、蓄電素子1の正極23と負極24とにそれぞれ配置される。集電体5は、蓄電素子1のケース3内において、電極体2の正極23の非被覆積層部26と、負極24の非被覆積層部26とにそれぞれ配置される。
【0052】
上記実施形態の制御装置100は、リン酸鉄リチウムを含む正極23を備えた蓄電素子1(非水電解質二次電池1)に対して、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加するように構成されている。斯かる構成の制御装置100によれば、正極23のリン酸鉄リチウムから鉄が溶出することを抑制できる。
【0053】
上記実施形態の制御装置100では、蓄電素子1(非水電解質二次電池1)は、負極24を備え、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの負極24の電位と、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの負極24の電位との差が、50mV以内となるように構成される。斯かる構成の蓄電素子1(非水電解質二次電池1)に対して、上記のごとく電圧を印加することにより、正極23から溶出した鉄が負極24で析出するときの悪影響を軽減できると考えられる。負極24の電位によって、負極24上の被膜成長量が大きくなり容量低下に繋がるだけでなく、正極23から鉄が溶出するとさらに負極24上の被膜成長に影響を及ぼし、容量低下に繋がり得ると考えられる。これに対して、上述の如く電位差を制御することにより、容量低下を抑えることができる。
【0054】
続いて、本実施形態の蓄電素子の制御方法について、図面を参照しつつ詳しく説明する。本実施形態の蓄電素子の制御方法(以下、単に制御方法ともいう)は、上記の蓄電素子1(非水電解質二次電池1)に対して行うことができる。
【0055】
詳しくは、本実施形態の蓄電素子1の制御方法は、上記の蓄電素子(非水電解質二次電池1)のフロート充電において、図7に示すように、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるように、蓄電素子(非水電解質二次電池1)に電圧を印加すること(ステップ1)を備える。即ち、上記の制御方法では、リン酸鉄リチウムの結晶がリン酸鉄の単相に変化する電圧を蓄電素子(非水電解質二次電池1)に印加して蓄電素子(非水電解質二次電池1)を充電する。
【0056】
上記の制御方法では、非水電解質二次電池1をフロート充電することが好ましい。非水電解質二次電池1をフロート充電するためには、例えば図8に示すように、整流装置Cに非水電解質二次電池1と負荷体Rとを並列に接続し、回路を組み立てる。
【0057】
フロート充電とは、整流装置Cに蓄電素子1(非水電解質二次電池1)と負荷体Rとを並列に接続し、電池1には一定電圧を印加し、電池1を充電状態にしておく充電である。なお、図8において、実線の矢印は、常時の電流の流れを示し、点線の矢印は、停電などに伴う放電時の電流の流れを示す。
【0058】
上記の制御方法では、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるように、蓄電素子1に対して電圧を印加する。上記の制御方法では、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.65V以上となるような電圧を印加することが好ましい。また、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で4.10V以下となるような電圧を印加することが好ましい。
【0059】
正極23の電位は、電池1に印加する電圧に、負極の電位を加えることによって算出される。負極24の電位は、金属リチウムに対する電位であり、金属リチウムを対極として用いたときの電位である。
【0060】
上記の非水電解質二次電池1の正極23に含まれるリン酸鉄リチウムの結晶は、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上となるように電池1に電圧が印加されることによって、理論上、所定時間後に、リン酸鉄の単相となる。具体的には、リン酸鉄リチウムの結晶がリン酸鉄の単相となるとは、電圧の印加に伴ってリン酸鉄リチウムのリチウムが負極へ向けて移動することにより、結晶が、リン酸鉄リチウムの結晶とリン酸鉄の結晶との共存状態から、リン酸鉄によって形成された単相の状態になることである。
【0061】
上記の制御方法では、例えば、上記の非水電解質二次電池1に対して、2.5V以上3.8V以下の電圧を印加する。
【0062】
上記実施形態の制御方法は、リン酸鉄リチウムを含む正極を備えた蓄電素子に対して、正極の電位が金属リチウムの電極基準で3.45V以上4.30V以下となるような電圧を印加すること、を備えるため、正極23のリン酸鉄リチウムから鉄が電解液に溶出することを抑制できる。また、溶出した鉄が負極にて析出することを抑制できる。鉄が負極にて析出することを抑制できることから、電池の容量維持率が低下することを抑制できる。
【0063】
上記実施形態の制御方法においては、上述したように、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で3.45Vであるときの負極の電位と、正極23の電位が金属リチウムの電極基準で4.30Vであるときの負極の電位との差が、50mV以内となるように、蓄電素子1(非水電解質二次電池1)が構成されている。斯かる構成の蓄電素子1(非水電解質二次電池1)に対して上記のごとく充電することにより、正極23から溶出した鉄が負極24で析出するときの悪影響を軽減できると考えられる。負極24の電位によって、負極24上の被膜成長量が大きくなり容量低下に繋がるだけでなく、正極23から鉄が溶出するとさらに負極24上の被膜成長に影響を及ぼし、容量低下に繋がり得ると考えられる。これに対して、上述の如く電位差を制御することにより、容量低下を抑えることができる。
【0064】
上記実施形態の制御方法は、例えば、停電などの緊急時に放電させる蓄電素子1(非水電解質二次電池1)を満充電状態にしておくために好適に使用することができる。具体的には、上記実施形態の制御方法は、定置用電源としての電池1を放電可能状態に保つこと等のために好適に使用することができる。
【0065】
尚、本発明の蓄電素子の制御装置及び制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0066】
例えば、上記実施形態の制御装置100は、電池パック110の電池監視部113(BMU)から送られた電気信号に基づいて統合ECU140で演算処理を実行し演算処理の結果に基づいて充電部120に指示を送るように構成されていた。しかしながら、上記の制御装置100は、電池監視部113(BMU)のCPUが演算処理した結果に基づいて、非水電解質二次電池1を充電する指示を電池監視部113(BMU)が充電部120に送るように構成されていてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態において、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【実施例】
【0068】
下記のようにして、蓄電素子(非水電解質二次電池)に対して充電を行った。
【0069】
<非水電解質二次電池の製造>
正極の金属箔(厚み15μmのアルミニウム箔)の両面に、導電助剤(炭素質材料 アセチレンブラック 平均粒子径−35nm)と、バインダー(キトサン 製品名「DCN」 大日精化工業社製)と、NMPとを、導電助剤/バインダー/NMP=5/5/90の質量比で混合することによって、導電性の中間層(アンダーコート層)用の組成物を調製した。調製した組成物を、厚み15μmのアルミ箔の両方の面上に、乾燥後に0.2g/mの量となるようにそれぞれ塗布した。さらに、導電性中間層の表面に、活物質層を形成するための活物質合剤をそれぞれ塗布した。
活物質合剤は、正極用の活物質(LiFePO)と、バインダ(「PVdF」)と、導電助剤(アセチレンブラック)とをそれぞれ90/5/5の質量比で混合することによって調製した。このとき、溶媒はNMPを用いた。活物質合剤は、塗布およびプレス後の片面側の活物質層の厚みが63μmとなるようにした。活物質合剤を塗布した後、加温することによって、溶媒を揮発させ、活物質層を作製した。このようにして、金属箔と活物質層とを含む正極を作製した。
負極用の活物質(易黒鉛化炭素)と、バインダ(PVdF)とを94/6の質量比で混合した。溶媒はNMPを用いた。活物質合剤は、塗布およびプレス後の片面側の活物質層の厚みが57μmとなるようにした。
次に、1.0Mの濃度となるようにLiPFを溶媒(EC:DMC:EMC=30:35:35)に溶解させることにより、電解液を調製した。
続いて、図6に示すような電極体を形成し、図2図5に示す非水電解質二次電池を製造した。なお、下記の各実施例及び各比較例の制御方法をそれぞれ実施するために、複数の電池を上記と同様にして製造した。
【0070】
(実施例1)
・回路の組み立て
図8に示すように回路を組み立てた。ただし、1つの電池に対して所定の電圧を印加するように回路を組み立てた。
・電圧の印加
電池に対して3.55Vの電圧を印加し、60℃にて30日間フロート充電を行った。
【0071】
(実施例2、3)
表1に示すように、電池に印加する電圧を変更した点以外は、実施例1と同様にして制御方法を実施した。
【0072】
(比較例1〜3)
表1に示すように、電池に印加する電圧を変更した点以外は、実施例1と同様にして制御方法を実施した。
【0073】
【表1】
【0074】
<評価>
フロート充電後の電池の容量維持率、及び、フロート充電後の負極における鉄(Fe)の析出量を測定した結果をそれぞれ図9及び図10に示す。図9及び図10から把握されるように、実施例の制御方法(充電方法)によって、正極の活物質のリン酸鉄リチウムから鉄が溶出することが抑制され、溶出した鉄が負極に析出することが抑制される。また、電池の容量維持率が低下することが抑制される。
【符号の説明】
【0075】
1:蓄電素子(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
23:正極、 24:負極、 25:セパレータ、 26:非被覆積層部、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
5:集電体、 50:クリップ部材、
7:外部端子、 71:面、
100:制御装置、
110:電池パック、
111:蓄電装置(電池モジュール)、 112:センサ部、 113:電池監視部、
120:充電部、
130:負荷部、
140:統合ECU、
C:整流装置、 R:負荷体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10