(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
《本発明の実施形態の説明》
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0018】
(1)本発明の一態様に係る複合材料成形体は、軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。この複合材料成形体は、表面の少なくとも一部に形成され、算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域を備える。
【0019】
上記の構成によれば、粗面化領域を備えることで良好なアンカー効果を得ることができる。そのため、この複合材料成形体は、他の構成部材との密着性(接合性)に優れる磁性コアを構築できる。即ち、この複合材料成形体をリアクトルの磁性コアに用いた場合、磁性コアとその他の構成部材との密着性(接合性)に優れるリアクトルが得られる。他の構成部材は、詳しくは後述するが、例えば、コア同士を接着したりコア同士の間に介在されるギャップ材とコアとを接着したりする接着剤、磁性コアの表面を被覆する樹脂モールド部、ケース内でコイルと磁性コアとを封止する封止樹脂部などが挙げられる。従って、絶縁性の低下や振動・騒音の増大を抑制できる。
【0020】
(2)上記複合材料成形体の一形態として、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束を軸とする周方向に沿った面を周回面とするとき、粗面化領域は、周回面に形成されていることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、複合材料成形体の周回面とその周回面に接触する他の構成部材との密着性(接合性)を高められる。そのため、この複合材料成形体をリアクトルの磁性コアに用いた場合、磁性コアの周回面に接触する他の構成部材(例えば、樹脂モールド部、封止樹脂部など)との密着性を高められる。特に、この複合材料成形体を磁性コアのうちコイルの内側に配置される内側コア部に用いた場合には、内側コア部の周回面とコイル内周面との間に介在される他の構成部材(例えば、樹脂モールド部、封止樹脂部など)と内側コア部の周回面との密着性を高められるので、コイルと内側コア部との間の絶縁性を向上し易く振動・騒音の増大を抑制できる。
【0022】
(3)上記複合材料成形体の一形態として、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する面を鎖交面とするとき、粗面化領域は、前記鎖交面に形成されていることが挙げられる。
【0023】
上記の構成によれば、複合材料成形体の鎖交面とその鎖交面に接触する他の構成部材との密着性(接合性)を高められる。そのため、この複合材料成形体を複数のコア部材で構成される磁性コアに用いた場合、コア部材同士の間に介在される他の構成部材(例えば、接着剤、樹脂モールド部、封止樹脂部など)との密着性(接合性)を高められる。
【0024】
(4)上記複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末が、Siを1.0質量%以上8.0質量%以下含むFe基合金の軟磁性粒子を含むことが挙げられる。
【0025】
Siを1.0質量%以上含むFe基合金は、電気抵抗率が高く渦電流損を低減し易い。その上に、純鉄に比較して硬いため、製造過程で歪が導入され難いためヒステリシス損を低減し易いことから、鉄損をより低減できる。Siを8.0質量%以下含むFe基合金は、Siの量が過度に多すぎず、低損失と高飽和磁化とを両立させ易い。
【0026】
(5)上記複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末の複合材料成形体全体に対する含有量が、30体積%以上80体積%以下であることが挙げられる。
【0027】
上記含有量が30体積%以上であれば、磁性成分の割合が十分に高い、即ち樹脂成分の割合が少ないため、軟磁性粉末の形状が複合材料成形体の表面に現れ易くその表面に粗面化領域を形成し易い。また、磁性成分の割合が十分に高いため、この複合材料成形体を用いてリアクトルを構築した場合、飽和磁化を高め易い。上記含有量が80体積%以下であれば、磁性成分の割合が過度に高過ぎないため、軟磁性粒子同士の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。
【0028】
(6)上記複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末の平均粒径が、5μm以上300μm以下であることが挙げられる。
【0029】
軟磁性粉末の平均粒径が5μm以上であれば、凝集し難く粉末粒子間に十分に樹脂を介在させ易いため渦電流損を低減し易い。軟磁性粉末の平均粒径が300μm以下であれば、過度に大きくないため、複合材料成形体の表面に粗面化領域を形成し易い。また、粉末粒子自体の渦電流損を低減でき、ひいては複合材料成形体の渦電流損を低減できる。その上、充填率を高められて複合材料成形体の飽和磁化を高め易い。
【0030】
(7)本発明の一態様に係るリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、コイルが配置される磁性コアとを備える。磁性コアの少なくとも一部は、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の複合材料成形体を備える。
【0031】
上記の構成によれば、磁性コアが上記複合材料成形体を備えるため、磁性コアと他の構成部材との密着性(接合性)に優れる。そのため、磁性コアと他の構成部材との剥離に伴う振動や騒音を低減できる。
【0032】
(8)本発明の一態様に係る複合材料成形体の製造方法は、軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む混合物を金型内に注入し、前記樹脂を固化させて複合材料成形体を成形する工程を備える。この複合材料成形体の製造方法は、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの差Tr−Tdが200℃以上である。
【0033】
上記の構成によれば、算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域を備える複合材料成形体を製造できる。この理由は、軟磁性粉末と樹脂の熱膨張率の差に起因していると考えられる。一般に、樹脂の熱膨張率は軟磁性粉末の熱膨張率よりも大きいため、冷却時の樹脂の収縮度合いは軟磁性粉末の収縮度合いよりも大きい。上記温度差Tr−Tdが大きいと、その差が小さい場合に比較して、混合物の表面側が急激に冷却されることで、その表面側における樹脂と軟磁性粉末の収縮度合いの差が大きくなる。そのため、複合材料成形体の表面粗さが大きくなり易い。
【0034】
(9)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、金型の温度Tdが100℃以下であることが挙げられる。
【0035】
Td≦100℃とすれば、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく200℃≦Tr−Tdを満たし易い。混合物の流動性を確保しつつ、樹脂の温度Trが過度に高くならないことにより樹脂の熱分解の促進を抑制し易く、強度など複合材料成形体の物性低下を抑制し易い。その上、複合材料成形体の表面の焼けなどを抑制し易い。
【0036】
(10)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、金型の温度Tdが樹脂のガラス転移点Tg以下であることが挙げられる。
【0037】
Td≦Tgとすれば、金型の温度Tdを低くし易く、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく200℃≦Tr−Tdを満たし易い。
【0038】
(11)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂であることが挙げられる。この場合、金型の温度Tdが、樹脂のガラス転移点Tg−10℃以上樹脂のガラス転移点Tg+10℃以下であることが好ましい。
【0039】
樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂である場合、Tg−10℃≦Tdとすれば、金型の温度Tdが過度に低くなり難い。そのため、樹脂の固化速度が過度に早くならず、複合材料成形体の内部にクラックが発生することを抑制し易い。
【0040】
Td≦Tg+10℃とすれば、金型の温度Tdが高くなりすぎず、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく200℃≦Tr−Tdを満たし易い。また、固化速度が過度に遅くならず、離型性を高め易い。
【0041】
(12)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、樹脂がポリアミド9T樹脂であることが挙げられる。この場合、金型の温度Tdが、樹脂のガラス転移点Tg−45℃以上であることが好ましい。
【0042】
樹脂がポリアミド9T樹脂である場合、Tg−45℃≦Tdとすれば、金型の温度Tdが過度に低くなり難い。そのため、樹脂の固化速度が過度に早くならず、複合材料成形体の内部にクラックが発生することを抑制できる。
【0043】
(13)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、金型の温度Tdが、樹脂の融点Tm−135℃以下であることが挙げられる。
【0044】
Td≦Tm−135℃とすれば、金型の温度Tdを低くし易く、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく200℃≦Tr−Tdを満たし易い。
【0045】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0046】
《実施形態1》
〔複合材料成形体〕
図1を参照して実施形態1に係る複合材料成形体10を説明する。複合材料成形体10は、軟磁性粉末と軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含むものであり、代表的にはリアクトル1に備わる磁性コア3の少なくとも一部を構成する。リアクトル1は、詳しくは後述するが、例えば、
図1に示すコイル2と磁性コア3とを備える。ここでは、コイル2は、巻線2wを螺旋状に巻回した一対の巻回部2a、2bを互いに並列状態で接続してなる。磁性コア3は、同一の形状を有する二つのコア部材30を組み合わせて環状に構成される。この両コア部材30はいずれも、複合材料成形体10で構成される。複合材料成形体10の主たる特徴とするところは、表面粗さの粗い粗面化領域を備える点にある。以下、詳細を説明する。ここでは、コア部材30をコイル2に組み付けてリアクトル1を構築し、リアクトル1を冷却ベースなどの設置対象に設置した際の設置対象側を下、設置対象の反対側を上として説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0047】
[全体構成]
複合材料成形体10は、一対の内側コア部11と、一対の内側コア部11の一端側で両内側コア部11をつなぐ外側コア部12とで構成されている。複合材料成形体10の上方から見た形状は、略U字状である。一対の内側コア部11は、複合材料成形体10を有するコア部材30をコイル2(
図1)に組み付けた際、一対の巻回部2a、2b内にそれぞれ配置される。外側コア部12は、同様に複合材料成形体10を有するコア部材30をコイル2に組み付けた際、コイル2の端面から突出される。内側コア部11と外側コア部12の上面11U,12uは略面一である。一方、外側コア部12の下面12dは、内側コア部11の下面11Dよりも突出して、複合材料成形体10をコイル2と組み合わせた際、コイル2の下面と略面一になるように外側コア部12の大きさを調整している。
【0048】
(内側コア部)
各内側コア部11の形状は、コイル2の形状(コイル2の内部空間)に合わせた形状とすることが好ましい。ここでは、直方体状であり、その角部を巻回部2a,2bの内周面に沿うように丸めている。各内側コア部11の表面は、磁束を軸とする周方向に沿った周回面(巻回部2a、2bの周方向に沿った面)と、内側コア部11の端面で磁束に交差(ここでは直交)する鎖交面11Eとで構成されている。ここでは、各内側コア部11の周回面は、上下左右面11U,11D,11L,11Rの4つの平面と隣り合う平面同士を連結する四つの曲面とで構成されている。左右とは、一対の内側コア部11を外側コア部12側から見たときの一対の内側コア部11の並列方向とする。内側コア部11の鎖交面11Eは、周回面に連続して形成される。
【0049】
(外側コア部)
外側コア部12の形状は、略台形柱状である。外側コア部12は、磁束と平行な上下面12u,12dと、上下面12u,12dを繋ぎ磁束と平行な外端面12o(内側コア部11の鎖交面11Eとの反対側)と、外端面12oの反対側の内端面とを備える。内端面は、両内側コア部11の間で、両内側コア部11の内側の側面に連続して形成される。ここでは、内端面は、各内側コア部11の下面11Dにも連続して形成されている平面である。
【0050】
(粗面化領域)
粗面化領域は、複合材料成形体10の表面の少なくとも一部に形成される。粗面化領域は、算術平均粗さRaが3.0μm以上の領域である。この粗面化領域を備えることで、良好なアンカー効果を得られる。そのため、複合材料成形体10は、後述する接着剤や樹脂モールド部など樹脂を含む他の構成部材との密着性(接合性)に優れる磁性コア3を構築できる。この算術平均粗さRaは、4.0μm以上が好ましく、更には5.0μm以上が好ましく、特に5.5μm以上が好ましい。粗面化領域の算術平均粗さRaは大きいほどアンカー効果が得られるため、その上限は特に限定されないが、実用上、例えば20μm程度とすることができる。
【0051】
粗面化領域の形成箇所は、磁束を軸とする周方向に沿った周回面、及び磁束に交差(ここでは直交)する鎖交面の少なくとも一方が挙げられる。周回面に粗面化領域を形成すれば、複合材料成形体10を磁性コア3に用い、磁性コア3とコイル2と組み合わせてリアクトル1を構築した際、磁性コア3の外周面とコイル2の内周面との間に介在される他の構成部材、例えば後述の樹脂モールド部や封止樹脂などとの密着性(接合性)を向上できる。一方、鎖交面に粗面化領域を形成すれば、鎖交面に接触する他の構成部材、例えば接着剤や樹脂モールド部との密着性(接合性)を高められる。この接着剤は、コア部材30同士を接着させたり、コア部材30同士の間に介在させるギャップ材を接着させたりする。この樹脂モールド部は、コア部材30同士の間でギャップ材として機能する。ここでは、粗面化領域は、内側コア部11の全ての領域、即ち、周回面及び鎖交面の全ての領域に形成している(
図1ではジグザグのハッチングで示す)。外側コア部12には、粗面化領域を形成していない。
【0052】
粗面化領域の表面性状は、例えば、樹脂温度と金型温度との温度制御により粗面化領域を形成した場合(詳しくは後述する)、
図2に示すように、表面から外方へ突出する無数の針状の突起が連続して形成された状態である。また、例えばレーザーを照射して粗面化領域を形成した場合には、
図3に示すように、溶融金属の表面張力により凝集した無数の半球状の突起が連続して形成された状態である。これに対して、粗面化領域を形成していない領域(ここでは外側コア部12の表面)の表面性状は、図示は省略するが、上記針状の突起や上記半球状の突起は形成されておらず、粗面化領域に比較して略平坦状である。
【0053】
(構成材料)
〈軟磁性粉末〉
軟磁性粉末の材質は、鉄族金属やFeを主成分とするFe基合金、フェライト、アモルファス金属などの軟磁性材料が挙げられる。軟磁性粉末の材質は、渦電流損や飽和磁化の点から鉄族金属やFe基合金が好ましい。鉄族金属は、Fe,Co,Niが挙げられる。特に、Feは純鉄(不可避的不純物を含む)であるとよい。Feは飽和磁化が高いため、Feの含有量を高くするほど複合材料の飽和磁化を高められる。Fe基合金は、添加元素としてSi,Ni,Al,Co,及びCrから選択される1種以上の元素を合計で1.0質量%以上20.0質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することが挙げられる。Fe基合金は、例えば、Fe−Si系合金,Fe−Ni系合金,Fe−Al系合金,Fe−Co系合金,Fe−Cr系合金,Fe−Si−Al系合金(センダスト)などが挙げられる。特に、Fe−Si系合金やFe−Si−Al系合金といったSiを含有するFe基合金は、電気抵抗率が高く、渦電流損を低減し易い上に、ヒステリシス損も小さく、複合材料成形体10の低鉄損化を図れる。例えば、Fe−Si系合金の場合、Siの含有量は1.0質量%以上8.0質量%以下が挙げられ、3.0質量%以上7.0質量%以下が好ましい。軟磁性粉末は、材質の異なる複数種の粉末が混合されていても良い。例えば、FeとFe基合金との両方の種類の粉末を混合したものが挙げられる。
【0054】
軟磁性粉末の平均粒径は、5μm以上300μm以下が好ましい。軟磁性粉末の平均粒径が5μm以上であれば、凝集し難く軟磁性粒子間に十分に樹脂を介在させ易いため渦電流損を低減し易い。軟磁性粉末の平均粒径が300μm以下であれば、過度に大きくないため、粉末自体の渦電流損を低減でき、ひいては複合材料成形体10の渦電流損を低減できる。その上、充填率を高められて複合材料成形体10の飽和磁化を高め易い。軟磁性粉末の平均粒径は、特に10μm以上100μm以下が好ましい。
【0055】
軟磁性粉末は、粒径が異なる複数種の粉末が混合されたものでも良い。微細な粉末と粗大な粉末とを混合した軟磁性粉末を複合材料成形体10の材料に用いた場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトル1が得られ易い。微細な粉末と粗大な粉末を混合した軟磁性粉末を用いる場合、一方をFe、他方をFe基合金とするように異種材質とすることが好ましい。このように両粉末の材質を異種とすれば、Feの特性(飽和磁化が高い)とFe基合金の特性(電気抵抗が高く渦電流損を低減し易い)の両方の特性を兼ね備えられ、飽和磁化の向上効果と鉄損のバランスが良い。両粉末の材質を異種とする場合、粗粒粉末と微粒粉末のどちらをFe(Fe基合金)としてもよいが、微粒粉末をFeとすることが好ましい。即ち、粗粒粉末をFe基合金とすることが好ましい。そうすれば、微粒粉末がFe基合金で、粗粒粉末がFeである場合に比べて、低鉄損である。
【0056】
軟磁性粉末は、絶縁性を向上するために軟磁性粒子の表面(外周)に絶縁被覆を備えていてもよい。軟磁性粉末は、樹脂との馴染み性や樹脂に対する分散性を高めるための表面処理(例えば、シランカップリング処理など)を施したものでもよい。
【0057】
複合材料成形体10中の軟磁性粉末の含有量は、複合材料成形体10を100体積%とするとき、30体積%以上80体積%以下が好ましい。軟磁性粉末が30体積%以上であることで、磁性成分の割合が十分に高いため、この複合材料成形体10を用いてリアクトル1を構築した場合、飽和磁化を高め易い。軟磁性粉末が80体積%以下であると、磁性成分の割合が過度に高過ぎないため、軟磁性粒子同士の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。また、軟磁性粉末と樹脂との混合物の流動性に優れ、複合材料成形体10の製造性に優れる。軟磁性粉末の含有量は、50体積%以上、更に55体積%以上、特に60体積%以上が挙げられる。軟磁性粉末の含有量は、75体積%以下、特に70体積%以下が挙げられる。
【0058】
〈樹脂〉
樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン9T)、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。その他、常温硬化性樹脂、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMC(Bulk molding compound)、ミラブル型シリコーンゴム、ミラブル型ウレタンゴムなどを用いることもできる。
【0059】
〈その他〉
複合材料成形体10には、軟磁性粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性材料からなる粉末(フィラー)が含有されていても良い。フィラーは、放熱性の向上、軟磁性粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒であり、軟磁性粒子間に介在すれば、フィラーの含有による軟磁性粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、複合材料を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上15質量%以下が好ましく、特に0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0060】
〔複合材料成形体の作用効果〕
上述の複合材料成形体10によれば、粗面化領域を備えることで良好なアンカー効果が得られるため、他の構成部材との密着性(接合性)を向上できる。そのため、この複合材料成形体10は、リアクトル1の磁性コア3に好適に利用できる。
【0061】
〔複合材料成形体の製造方法〕
複合材料成形体10の製造は、軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む未固化(流動性のある状態)の混合物を金型内に注入し、樹脂を固化させて成形体素材を成形する成形工程を備える複合材料成形体の製造方法により行える。金型を用いた成形体素材の作製手法としては、射出成形、熱プレス成形、MIM(Metal Injection Molding)を利用することができる。この粗面化領域を有する複合材料成形体の製造方法は、例えば以下の製造方法I〜製造方法IIIが挙げられる。
製造方法I:上記成形工程を特定の温度条件で行う。
製造方法II:上記成形工程を特定の算術平均粗さRaを満たす内面を有する金型を用いて行う。
製造方法III:上記成形工程に加えて、成形工程後の成形体素材に対して特定の表面処理を施す表面処理工程を備える。
以下、製造方法I〜製造方法IIIを順に説明する。
【0062】
[製造方法I]
(成形工程)
製造方法Iの成形工程は、溶融した樹脂の温度Trと金型の温度Tdとを特定の温度条件で行う。それにより、算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域を成形体素材の表面に形成して複合材料成形体10を製造する。
【0063】
〈温度条件〉
成形工程における温度条件は、溶融した樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの温度差(Tr−Td)が、「200℃≦(Tr−Td)」を満たすことが挙げられる。この温度差(Tr−Td)が200℃以上を満たすことで、粗面化領域を備える複合材料成形体10を製造できる。上記温度差(Tr−Td)は、「(Tr−Tc)≦250℃」を満たすことが好ましく、更に「(Tr−Td)≦230℃」を満たすことが好ましく、特に「(Tr−Td)≦220℃」を満たすことが好ましい。
【0064】
金型の温度Tdとは、金型のうち複合材料成形体10の粗面化領域に対応する箇所の温度を言う。即ち、粗面化領域を複合材料成形体10の一部にのみ形成する場合、金型のうち複合材料成形体10の粗面化領域に対応する箇所の温度Tdと、粗面化領域以外の箇所に対応する箇所の温度とは、異なる。金型のうち粗面化領域以外の箇所に対応する箇所の温度は、溶融した樹脂の温度Trとの差が200℃以上でなくてよく、200℃未満でよい。この場合、金型には、金型のうち複合材料成形体10の粗面化領域に対応する箇所の温度Tdと、粗面化領域以外の箇所に対応する箇所の温度とをそれぞれ独立して制御可能な金型を用いる。例えば、金型のうち複合材料成形体10の粗面化領域に対応する箇所とそれ以外の箇所とで独立した温度調節機を設けることが挙げられる。温度調節機の具体例としては、ヒータや熱媒体の流通機構などが挙げられる。
【0065】
例えば、一対の内側コア部11と外側コア部12とを備え、内側コア部11の全面が粗面化領域で形成された上述の複合材料成形体10の製造に用いる金型は、図示は省略するが、金型の分割面が外側コア部12と一対の内側コア部11との境界にあり、金型のうち外側コア部12を成形する箇所の温度と内側コア部11を成形する箇所の温度を独立して調節可能な金型とすることが挙げられる。例えば、各コア部11,12を形成する箇所には、互いに独立した温度調節機を備える。この金型の型抜方向は、外側コア部12と一対の内側コア部11とが並ぶ方向となる。そして、溶融した樹脂の温度Trと金型の内側コア部11を成形する箇所の温度Tdとが「200℃≦(Tr−Td)」を満たすように制御する。
【0066】
金型の温度Tdは、樹脂の種類にもよるが、例えば、「Td≦100℃」を満たすことが好ましい。そうすれば、金型の温度Tdを低くし易く、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく「200℃≦(Tr−Td)」を満たし易い。金型の温度Tdは、流動性が過度に低下しない温度とすることが挙げられる。流動性に優れるほど、密度の高い複合材料成形体10が得られるからである。この金型の温度Tdは、「80℃≦Td」を満たすことが好ましい。
【0067】
金型の温度Tdと樹脂のガラス転移点Tgとの関係は、樹脂の種類に応じて適宜選択できる。例えば、PPS樹脂の場合には、「(Tg−10℃)≦Td≦(Tg+10℃)」を満たすことが好ましい。金型の温度Tdと樹脂のガラス転移点Tgとの関係は、更に「Td≦Tg」を満たすことが好ましい。
【0068】
例えば、ポリアミド(ナイロン)9Tの場合には、「(Tg−45℃)≦Td」を満たすことが好ましい。金型の温度Tdと樹脂のガラス転移点Tgとの関係は、「Td≦Tg」を満たすことが好ましく、更に「Td≦(Tg−25℃)」を満たすことが好ましい。
【0069】
金型の温度Tdと樹脂の融点Tmとの関係は、「Td≦(Tm−135℃)」を満たすことが好ましい。金型の温度Tdと樹脂の融点Tmとの関係は、特に樹脂の種類にもよるがPPS樹脂の場合、「(Tm−155℃)≦Td」を満たすことが更に好ましく、PA9Tの場合、「(Tm−175℃)≦Td≦(Tm−155℃)」を満たすことが特に好ましい。
【0070】
[製造方法Iの作用効果]
製造方法Iによれば、特定の温度条件に制御することで、混合物を金型内に注入し樹脂を固化させるだけで粗面化領域を備える複合材料成形体10を製造できる。そのため、詳しくは後述するが、製造方法IIのような凹凸領域が形成された内面を有する金型を用意しなくてもよいし、成形工程後に製造方法IIIのような表面処理工程を別途施さなくてもよいので、複合材料成形体10を容易に製造できる。
【0071】
[製造方法II]
(成形工程)
製造方法IIの成形工程は、算術平均粗さRaの大きい凹凸領域を有する金型を用いて行う点が製造方法Iと相違する。即ち、製造方法IIでは、実質的に金型内面(凹凸領域)の転写により算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域を成形体素材の表面に形成して複合材料成形体10を製造する。そのため、成形工程における樹脂と金型の温度条件は、上述の製造方法Iのような特定の温度条件ではなく、一般的な温度条件で行うことができる。例えば成形工程における温度条件は、「(Tr−Td)<200℃」を満たすことができる。金型内面の凹凸領域の形成は、例えば、切削加工や研削加工などの他、ブラスト処理などで行える。
【0072】
[製造方法IIの作用効果]
製造方法IIによれば、凹凸領域が形成された内面を有する金型を用意することで、製造方法Iと同様、混合物を金型内に注入し樹脂を固化させるだけで、粗面化領域を備える複合材料成形体10を製造できる。そのため、成形工程後に後述の製造方法IIIのような表面処理工程を別途施さなくてもよいので、複合材料成形体10を容易に製造できる。
【0073】
[製造方法III]
製造方法IIIは、成形体素材を成形する成形工程に加えて、成形体素材の表面に特定の表面処理を施す表面処理工程を備える点が製造方法Iや製造方法IIと相違する。即ち、製造方法IIIでは、成形工程で製造方法Iや製造方法IIのような特定の温度条件としたり特定の金型を用いたりするのではなく、成形工程後の表面処理工程で算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域を成形体素材の表面に形成して複合材料成形体10を製造する。そのため、製造方法IIIの成形工程における樹脂と金型の温度条件は、上述の製造方法Iのような特定の温度条件ではなく、上述の製造方法IIのような一般的な温度条件とすることができる。また、この成形工程で用いる金型の内面の算術平均粗さRaは、上述の製造方法IIのような特定の大きさではなく、一般的な大きさとすることができる。
【0074】
(表面処理工程)
表面処理工程は、成形工程で得られた成形体素材の表面に特定の表面処理を施して粗面化領域を形成する。この表面処理としては、例えば、熱的、光学的、機械的、或いはこれらの複合的な処理が挙げられる。具体的には、熱・光学的な処理方法であるレーザー処理、機械的な処理方法であるブラシ研磨処理やブラスト処理などが挙げられる。
【0075】
〈レーザー処理〉
レーザー処理は、成形体素材の表面のうち所定の箇所にレーザーを照射して粗面化領域を形成する。
【0076】
レーザーの種類は、成形体素材表面の算術平均粗さRaを大きくできるレーザーであればよい。具体的には、レーザーの媒体が固体である固体レーザーが挙げられ、例えばYAGレーザー、YVO4レーザー、及びファイバーレーザーの中から選択される1種のレーザーであることが好ましい。これらレーザーの各々には、各レーザーの媒体に種々の材料がドープされた公知のレーザーも含む。つまり、上記YAGレーザーは、その媒体にNd、Erなどをドープしてもよいし、上記YVO4レーザーは、その媒体にNdなどをドープしてもよいし、上記ファイバーレーザーは、その媒体であるファイバーのコアに希土類元素などがドープされており、例えば、Ybなどをドープすることが挙げられる。
【0077】
レーザーの波長は、樹脂の波長吸収領域内であることが好ましい。そうすれば、算術平均粗さRaの大きい粗面化領域を形成できる。レーザーの波長は、具体的には、532nm〜1064nm程度が好ましい。
【0078】
レーザーのエネルギー密度U(W/mm
2)は、レーザーの平均出力をP(W)、レーザーの照射面積をS(mm
2)とするとき、U=P/Sで表され、このエネルギー密度Uは、2W/mm
2≦U≦450W/mm
2を満たすことが好ましい。エネルギー密度Uを2W/mm
2以上とすることで、複合材料成形体10の表面の算術平均粗さRaを十分に大きくできる。一方、エネルギー密度Uを450W/mm
2以下とすることで、過剰溶融による軟磁性粒子同士の接触を十分に抑制できる。レーザーのエネルギー密度U(W/mm
2)は、2W/mm
2≦U≦35W/mm
2が特に好ましい。
【0079】
レーザーのビーム径に対する照射間隔の比率は、小さい方が好ましい。ビーム径は、成形体素材の表面上でのレーザーの径を言う。照射間隔は、1パルスのレーザーの照射時間にレーザービームが走査方向に移動するビームの中心間距離を言う。レーザーのビーム径に対する照射間隔の比率が小さければ、成形体素材の表面にレーザーを走査させた際、レーザーが照射されない未処理領域を減少することができ、表面の算術平均粗さRaを十分に大きくし易い。具体的には、上記比率は、0.35以下であることが好ましく、特に、0.30以下であることが好ましい。
【0080】
〈ブラシ処理〉
ブラシ処理は、成形体素材の表面のうち所定の箇所にブラシでひっかくことで粗面化領域を形成する。このとき、ブラシでのひっかきは、複合材料成形体10の磁性粒子同士が展延して導通部を形成しない程度とする。ブラシの種類や加工条件(回転数や送り速度など)は適宜選択できる。ブラシは、市販の研磨ブラシなどを使用できる。
【0081】
〈ブラスト処理〉
ブラスト処理は、成形体素材の表面のうち所定の箇所に投射材を衝突させて粗面化領域を形成する。ブラスト処理の種類は、例えば、ショットブラストやサンドブラストなどが挙げられる。投射材のサイズ(粒径)や種類、投射条件などは適宜選択できる。
【0082】
[製造方法IIIの作用効果]
製造方法IIIによれば、成形工程後に表面処理工程を別途施すことで、樹脂の温度と金型の温度とが特定の関係を満たすように温度制御したり、凹凸領域が形成された内面を有する金型を準備したりしなくても、粗面化領域を備える複合材料成形体10を製造できる。また、製造方法IIIは、製造方法Iに比較して、部分的に粗面化領域を形成し易い。
【0083】
〔リアクトル〕
上述の複合材料成形体10は、
図1に示すように、リアクトル1の磁性コア3の少なくとも一部に好適に利用できる。リアクトル1は、実施形態1の冒頭で説明したように、一対の巻回部2a、2bを備えるコイル2と、同一の形状を有する二つのコア部材30で構成される磁性コア3とを備える。この両コア部材30は、上述の複合材料成形体10で構成される。
【0084】
[コイル]
一対の巻回部2a、2bは、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなり、連結部2rを介して連結されている。巻線2wは、銅製の平角線の導体の外周にエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる絶縁被覆を備える被覆平角線を利用できる。各巻回部2a,2bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルで構成している。巻回部2a、2bの配置は、各軸方向が平行するように並列(横並び)した状態としている。巻回部2a、2bの形状は、互いに同一の巻数の中空の筒状体(四角筒)である。巻回部2a、2bの端面形状は、矩形枠の角部を丸めた形状である。連結部2rは、コイル2の一端側(
図1紙面右側)において巻線の一部をU字状に屈曲して構成している。巻回部2a、2bの巻線2wの両端部2eは、ターン形成部から引き延ばされている。両端部2eは、図示しない端子部材に接続され、この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0085】
[磁性コア]
各コア部材30の一対の内側コア部11は、コイル2に組み付けた際、一対の巻回部2a,2bの内側に配置される。各コア部材30の外側コア部12は、同様にコア部材30をコイル2に組み付けた際、コイル2から突出するように配置される。一方と他方のコア部材30の内側コア部11の端面11E(鎖交面)同士を巻回部2a,2b内で連結することで環状の磁性コア3が形成される。このコア部材30同士の連結により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成し、磁束は内側コア部11の長手方向に平行となって鎖交面に直交する。
【0086】
コア部材30同士の連結には、絶縁性の接着剤を利用できる。絶縁性の接着剤は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの熱硬化性接着剤、PPS樹脂などの熱可塑性接着剤、アクリレート系の紫外線(光)硬化型接着剤などを好適に利用できる。コア部材30の鎖交面11Eに粗面化領域を備えていることで、接着剤のコア部材30への密着性(接合性)を向上できる。そのため、接着剤がコア部材30から剥離することによる振動や騒音を抑制できる。
【0087】
コア部材30同士の間には、内側コア部11の鎖交面同士の間にギャップ材を介在させてもよい。ギャップ材の材質は、コア部材30よりも低透磁率な材質が挙げられ、例えば、アルミナなどの非磁性材料、PPS樹脂などの非磁性材料と磁性材料(鉄粉など)とを含む混合物などが挙げられる。コア部材30とギャップ材とは、上記接着剤で接着することが挙げられる。コア部材30同士の間には、隙間(エアギャップ)を設けていてもよい。
【0088】
[他の構成部材]
(樹脂モールド部)
磁性コア3は、更に、コア部材30の表面を覆う樹脂モールド部(図示略)を備えていてもよい。樹脂モールド部の被覆領域は、例えば、コア部材30の表面全域とすることができる。内側コア部11の周回面及び鎖交面11Eは粗面化領域を備えることで、その周回面及び鎖交面11Eに対する樹脂モールド部の密着性(接合性)を向上できる。樹脂モールド部の構成材料は、例えば、上述の複合材料成形体10の樹脂と同様の熱可塑性樹脂(例えば、PPS樹脂など)や熱硬化性樹脂などが挙げられる。この構成樹脂には、アルミナやシリカなどのセラミックスフィラーなどを含有していてもよい。そうすれば、熱伝導性に優れる樹脂モールド部となり、リアクトル1の放熱性を高められる。
【0089】
(ケース・封止樹脂部)
リアクトル1は、更に、コイル2と磁性コア3との組合体を内部に収納するケース(図示略)と、ケース内に充填されてケース内に収納された組合体を封止する封止樹脂部(図示略)とを備えていてもよい。この場合、磁性コア3は樹脂モールド部を備えなくてもよい。
【0090】
ケースは、組合体が載置されると共に冷却ベースなどの設置対象(図示略)に設置する底板部と、底板部の周縁に立設されて組合体の周囲を囲む側壁部とを備える。ケースの材質は、アルミニウムやその合金などの金属が好適である。これらの金属は熱伝導率が比較的高いので、その全体を放熱経路に利用でき、組合体に発生した熱を設置対象に効率良く放熱でき、リアクトル1の放熱性を高められる。
【0091】
封止樹脂部の形成領域は、例えば底板部の上面からコイル2の上面が埋設される高さに亘る領域とすることが挙げられる。封止樹脂部は、内側コア部11の周回面とコイル2の内周面との間に介在させられる。また、封止樹脂部は、コア部材30同士(内側コア部11の鎖交面11E同士)の間にエアギャップが設けられている場合、その間に介在させられる。内側コア部11の周回面及び鎖交面11Eは粗面化領域を備えるため、内側コア部11の周回面及び鎖交面11Eと封止樹脂部との密着性を高められる。封止樹脂部の構成樹脂は、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの絶縁性樹脂が挙げられる。封止樹脂部の構成樹脂は、樹脂モールド部と同様、フィラーを含有すると放熱性を高められる。
【0092】
(接着層)
リアクトル1は、更に、コイル2の内周面と内側コア部11の周回面との間に介在されてコイル2と内側コア部11とを接着する接着層(図示略)を備えていてもよい。内側コア部11の周回面は粗面化領域を備えるため、内側コア部11の周回面と接着層との密着性を高められる。
【0093】
〔リアクトルの作用効果〕
上述のリアクトル1によれば、磁性コア3と、接着剤、樹脂モールド部、封止樹脂部、接着層などの他の構成部材との密着性(接合性)に優れる。そのため、リアクトル1は、コイル2と磁性コア3との間の絶縁性に優れる上に、磁性コア3から他の構成部材が剥離することに伴う振動や騒音が小さい。
【0094】
《試験例》
軟磁性粉末とこの軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む複合材料成形体の試料を作製し、その試料の密着性を評価した。
【0095】
〔試料No.1−1〜試料No.1−7〕
試料No.1−1〜1−7の複合材料成形体として、原料準備工程と成形工程とを経て、
図1に示す複合材料成形体10を作製した。
【0096】
[原料準備工程]
原料準備工程では、軟磁性粉末と樹脂との混合物を準備した。軟磁性粉末には、平均粒径が80μmで、Siを6.5質量%含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するFe−Si合金の粉末を用いた。一方、樹脂には、PPS樹脂(ガラス転移点Tg=90℃、融点Tm=235℃)、又はPA9T樹脂(ガラス転移点Tg=125℃、融点Tm=255℃)を用いた。この軟磁性粉末と樹脂とを混合し、樹脂を溶融状態で軟磁性粉末と練り合わせて混合物を作製した。混合物中の軟磁性粉末の含有量は、70体積%とした。
【0097】
[成形工程]
成形工程では、射出成形により一対の内側コア部11と外側コア部12とを備えるU字状の複合材料成形体10を作製した。複合材料成形体10の作製は、外側コア部12における一対の内側コア部11との境界に分割面を有する金型を用い、その金型に上記混合物を充填し冷却固化することで行った。即ち、型抜方向は、外側コア部12と一対の内側コア部11とが並ぶ方向である。この金型は、金型のうち外側コア部12を成形する箇所の温度と内側コア部11を成形する箇所の温度を独立して調節可能な温度調節機を備える。ここでは、混合物における溶融状態の樹脂の温度Trと、金型の内側コア部11を成形する箇所の温度Tdとをそれぞれ表1に示すように種々変更した。金型の外側コア部12を成形する箇所の温度は、130℃とした。
【0098】
〔表面粗さ測定〕
各試料の複合材料成形体における外側コア部と内側コア部の表面の算術平均粗さRa(μm)を、市販の表面粗さ測定装置を用いて、JIS B 0601(2013)に準拠して測定した。この算術平均粗さRaの測定は、両コア部とも下面に対して行った。その結果を表1に示す。
【0099】
〔密度の測定〕
各試料の複合材料成形体の密度(g/cm
3)を測定した。その結果を表1に示す。各試料の複合材料成形体の密度は、サイズと質量から算出した見かけ密度Daとした。また、理想状態の複合材料成形体の密度Di(ここでは5.62g/cm
3)と各試料の見かけ密度Daとの差ΔDを算出し、その密度の差ΔDの密度Diに対する割合「(ΔD/Di)×100」を算出した。その割合が0.6%以下(差が0.035g/cm
3以下)の場合を「Good」とし、その割合が0.6%超(差が0.035g/cm
3超)の場合を「Bad」とした。この理想状態の複合材料成形体の密度Diは、軟磁性粉末の平均粒径と混合物中の軟磁性粉末の含有量と複合材料成形体のサイズとから算出した値である。
【0100】
〔密着性の評価〕
各試料における他の構成部材との密着性を評価した。密着性の評価は、各試料の複合材料成形体における内側コア部の下面にエポキシ樹脂の接着層を接着させた測定用試料を作製し、熱衝撃試験後の接着層の接着状態を目視にて確認することで行った。熱衝撃試験は、測定用試料に対して「室温→140℃で1時間保持→−40℃で1時間保持」を1サイクルとする冷熱サイクルを繰り返し500サイクル行った。そして、剥離箇所が見られない場合をGoodとし、剥離箇所が見られた場合をBadとした。その結果を表1に示す。
【0102】
表1に示すように、成形工程で、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdの差(Tr−Td)が「200℃≦(Tr−Td)」を満たす試料No.1−3〜1−5、1−7は、その表面に算術平均粗さRaが3.0μm以上の粗面化領域が形成された。一方、成形工程で上記差(Tr−Td)を「(Tr−Td)<200℃」とした試料No.1−1,1−2,1−6は、その表面の算術平均粗さが1.7μm以下であり、粗面化領域が形成されなかった。この算術平均粗さRaが3.0μm以上の試料No.1−3〜1−5、1−7は密着性に優れ、算術平均粗さRaが3.0μm未満の試料No.1−1,1−2,1−6は密着性に劣ることが分かった。特に、成形工程で「200℃<(Tr−Td)」、「Td<100℃」、或いは「Tr<300℃」を満たす試料No.1−4,1−5,1−7は、密着性に加えて密度も高いことが分かった。
【0103】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、コア部材の形状は磁性コアの複数のコア部材の組み合わせにより適宜選択できる。複数のコア部材の組み合わせを、上述のU−U型コアの他、外側コア部に一つの内側コア部が一体化されたL−L(J−J)型コアなどと呼ばれる形態とすることができる。また、巻回部が一つのみであるコイルと、E−E型コアやE−I型コアなどと呼ばれる磁性コアとを備えるリアクトルとすることができる。