特許第6465475号(P6465475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6465475糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465475
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/08 20060101AFI20190128BHJP
   C08G 65/30 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   C07H15/08
   C08G65/30
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-194584(P2014-194584)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-65013(P2016-65013A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 宏範
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 圭一
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−001494(JP,A)
【文献】 特表2012−517476(JP,A)
【文献】 特開平02−237994(JP,A)
【文献】 特表昭62−501005(JP,A)
【文献】 特開平01−093598(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102352031(CN,A)
【文献】 安部 郁夫,生活衛生,1993年,Vol. 37,pp. 163-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程を含む、糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法であって、
前記糖類が、二糖および糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、
前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選択される少なくとも1種である、糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法
【請求項2】
前記活性炭の使用量が、前記糖類のアルキレンオキシド付加物100質量部に対して0.1〜20.0質量部である請求項1に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法。
【請求項3】
前記活性炭が、木質系活性炭である請求項1または2に記載の糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法。
【請求項4】
糖類にアルキレンオキシドを付加する工程と、前記付加工程で得られた生成物と活性炭とを接触させる工程とを含む、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法であって、 前記糖類が、二糖および糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、
前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選択される少なくとも1種である、糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の精製方法で得られた糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤とを反応させて得られる、糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖類のアルキレンオキシド付加物は、分子内に複数の水酸基を有することから、樹脂原料やその前駆体として有用である。このような、糖類のアルキレンオキシド付加物は着色が起こりやすいことが知られている。そのため、着色の低減方法が検討されており、例えば、特許文献1では、原料である糖類に含まれる還元性物質の含有量を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−096182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物は、高温条件下での着色を抑制できず、例えば、エステル化反応などの原料として用いた場合、生成物の着色や反応遅延などの問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、高温条件下での着色が抑制され、原料として用いた場合における生成物の着色や反応遅延を抑制できる、糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明に係る糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法は、
前記糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程を備えるものであり、前記糖類が二糖および糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選択される少なくとも1種である。
【0007】
かかる構成によれば、経時的な着色を抑制し、かつ、エステル化反応における反応性を高めることができる。本発明のメカニズムは定かではないが、活性炭が、糖類のアルキレンオキシド付加物に含まれる着色およびエステル化を阻害する化合物を効率的に吸着するためではないかと考えられる。
【0008】
本発明に係る糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法は、糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程を含むものであり、前記糖類が二糖および糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選択される少なくとも1種である。
【0009】
かかる構成によれば、高温条件下での着色が抑制され、原料として用いた場合における生成物の着色や反応遅延を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法は、糖類にアルキレンオキシドを付加する工程と、前記付加工程で得られた生成物と活性炭とを接触させる工程とを含むものであり、前記糖類が二糖および糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、前記アルキレンオキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドから選択される少なくとも1種である。
【0011】
かかる構成によれば、高温条件下での着色が抑制され、原料として用いた場合における生成物の着色や反応遅延を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の製造方法は、前記精製方法で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤とを反応させるものである。
【0013】
かかる構成によれば、原料として前記精製方法で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物を用いることによりエステル化を短時間で完了し得るとともに、得られる糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の着色を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温条件下での着色が抑制された糖類のアルキレンオキシド付加物が得られる。また、着色が抑制された糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物を短時間で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0016】
本実施形態の糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法は、糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程を備える。なお、以下、本実施形態において、本工程の糖類のアルキレンオキシド付加物の精製方法が行われていない糖類のアルキレンオキシド付加物を、「精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物」と表現することとする。
【0017】
精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物に活性炭を接触させる方法は特に限定されず、例えば、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを攪拌機などを用いて混合する方法、活性炭充填カラムに精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物を通過させる方法などが挙げられる。これらのうち、操作が簡便であることから、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを混合する方法が好ましい。また、水や有機溶媒などの溶媒を用いる場合は、予め精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と混合してから活性炭を添加してもよく、活性炭を溶媒に分散してから精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と混合してもよい。
【0018】
活性炭は、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物に含まれる不純物を吸着させてこれを除去するためのものである。活性炭としては、例えば、木質系活性炭、ヤシ殻系活性炭、および石炭系活性炭を例示することができ、これらのうち木質系活性炭が好ましい。また、かかる活性炭は、粉末状、粒状、ペレット状のいずれであってもよく、好ましくは粉末状である。かかる活性炭のうち、粉末状の木質系活性炭がより好ましい。活性炭は、着色をより抑制できることから、1質量%の水懸濁液におけるpHが4以上である活性炭が好ましく、4.5以上である活性炭がより好ましい。また、該pHが11以下である活性炭が好ましく、7.5以下である活性炭がより好ましい。
【0019】
前記活性炭の使用量は、特に限定されないが、前記糖類のアルキレンオキシド付加物100質量部に対して0.1〜20.0質量部であることが好ましく、1.0〜10.0質量部であることがより好ましい。活性炭の使用量を上記範囲内とすることにより、高温条件下での着色がより抑制されるとともに、後述する活性炭の除去工程を簡便に行うことができる。
【0020】
精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程においては、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物を低粘度化し、活性炭との接触をより容易にするために溶媒を使用することができる。このような溶媒としては、水や有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ヘキサン、トルエンなど炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらのうち、安全性、経済性、精製効率などの面から水が好ましい。
【0021】
溶媒を用いる場合の使用量は特に限定されないが、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましい。上記範囲内とすることにより、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物を低粘度化して、活性炭との接触をより容易にすることができるとともに、溶媒の除去工程を比較的簡便に行うことができる。
【0022】
精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる条件は特に限定されないが、例えば、温度は10〜90℃であることが好ましく、30〜70℃であることがより好ましい。接触時間は1〜5時間であることが好ましく、2〜3時間であることがより好ましい。
【0023】
また、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物は、10質量%水溶液におけるpHが4.0〜9.0であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、高温条件下での着色をより抑制することができる。なお、精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物のpHは、酢酸などの酸性化合物や、水酸化カリウムなどのアルカリ性化合物を添加することで調整可能である。
【0024】
精製前の糖類のアルキレンオキシド付加物と活性炭とを接触させる工程においては、前記溶媒以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤など、各種添加剤を使用してもよい。
【0025】
前記活性炭を除去する方法は特に限定されないが、例えば、フィルターなどを用いてろ過することができる。溶媒を用いた場合は、減圧留去などの一般的な方法により除去することができる。
【0026】
また、前記溶媒を使用した場合は、活性炭を除去した後、脱溶媒を行うことができる。脱溶媒の条件は特に限定されないが、着色をより抑制する観点から、温度は50〜100℃で行うことが好ましい。また、上記温度範囲でも十分に溶媒を除去する観点から、圧力は2.7kPa以下とすることが好ましい。
【0027】
本実施形態における糖類のアルキレンオキシド付加物の製造方法は、糖類にアルキレンオキシドを付加する工程と、前記付加工程で得られた生成物と活性炭とを接触させる工程とを備える。
【0028】
糖類にアルキレンオキシドを付加する工程は、特に限定されないが、例えば、触媒の存在下、アルキレンオキシドを70〜120℃、0〜0.3 MPaとなるように反応容器に導入し、糖類と反応させる方法が挙げられる。
【0029】
前記糖類としては、糖および糖アルコールなどが挙げられる。糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマンノースなどの単糖、スクロース、ラクトース、マルトースおよびトレハロースなどの二糖、セルロース、アミロースおよびキチンなどの多糖などが挙げられる。また、糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、マルチトールおよびエリスリトールなどが挙げられる。これらのうち、着色をより抑制されるとともに、糖類のアルキレンオキシド付加物の取り扱いが容易であることから、二糖および糖アルコールが好ましい。
【0030】
前記糖類は、糖類単独でも使用可能であるが、反応溶液の粘度を低下させる観点から、糖類を溶解しうる化合物に溶解した糖類を用いることが好ましい。このような糖類を溶解しうる化合物としては、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの糖類以外の水酸基含有化合物が挙げられる。これらのうち、糖類の溶解性が高く、付加反応後の留去が容易であることから水が好ましい。また、糖類を溶解しうる化合物の使用量は、糖類に付加するアルキレンオキシドの割合を高める観点から、糖類100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。
【0031】
前記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、グリシドール、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、反応性に優れることから、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドが好ましい。
【0032】
前記アルキレンオキシド付加反応に用いる触媒としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属類、ジエタノールアミン、トリエチルアミンなどのアミン類、カチオン重合触媒、複合金属シアン化物錯体触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、例えば、糖類100質量部に対して0.01〜5.0質量部である。
【0033】
前記付加工程で得られた生成物と活性炭とを接触させる工程は、前記精製方法と同様に行うことができる。
【0034】
本発明の製造方法では、前記付加工程で得られた生成物と活性炭とを接触させる工程の前工程および/又は後工程として、さらに他の精製方法を行うことができる。このような他の精製方法としては、例えば、アルキレンオキシド付加反応後の、複合金属吸着剤による残留触媒の吸着など、従来公知の精製方法を採用することができる。
【0035】
本発明の糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の製造方法は、前記精製工程で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤とを反応させるものである。前記精製工程で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物を用いることにより、着色が抑制された糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物を短時間で得ることができる。
【0036】
前記エステル化剤としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸アルキルエステル、カルボン酸ハロゲン化物などが挙げられる。
【0037】
カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、その他長鎖脂肪酸などが挙げられる。
【0038】
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0039】
カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、酢酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、安息香酸メチルなどが挙げられる。
【0040】
カルボン酸ハロゲン化物としては、例えば、前記カルボン酸の塩化物、臭化物、ヨウ化物などが挙げられる。
【0041】
これらのうち、着色をより抑制できることから、エステル化剤としてはカルボン酸アルキルエステルを用いることが好ましい。
【0042】
前記エステル化剤の使用量は、糖類のアルキレンオキシド付加物1分子に導入するエステル基の数によって適宜調整することができるが、例えば、エステル基を導入する水酸基1モルに対して、エステル化剤を1.0〜1.2モル用いることが好ましく、1.0〜1.1モルであることがより好ましい。
【0043】
本発明の糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の製造方法は、前記精製工程で得られる糖類のアルキレンオキシド付加物と前記エステル化剤を用いるものであれば特に限定されず、様々な方法を採用することができる。例えば、糖類のアルキレンオキシド付加物とカルボン酸との脱水反応、糖類のアルキレンオキシド付加物とカルボン酸無水物とのエステル化反応、糖類のアルキレンオキシド付加物とカルボン酸アルキルエステルとのエステル交換反応、およびカルボン酸ハロゲン化物による糖類のアルキレンオキシド付加物のエステル化反応などが挙げられる。
【0044】
前記糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤との反応条件は特に限定されず、使用するエステル化剤によって適宜設定することができるが、例えば、
反応温度は70〜120℃、圧力は0.1〜0.4MPaである。
【0045】
前記糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤との反応においては、触媒や反応溶媒などを使用することができる。触媒としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸触媒、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、などの無機塩基、トリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基触媒などが挙げられる。反応溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0046】
また、上記反応において水やアルコールなどが副生する場合は、これらを除去しながら反応させることが好ましい。これらを除去することにより、反応をさらに促進することができる。
【0047】
前記糖類のアルキレンオキシド付加物とエステル化剤との反応においては、重合禁止剤を使用することができる。重合禁止剤を使用することにより、アクリレート基やメタクリレート基のように重合反応性の高い置換基を有するエステル化剤の重合反応などの副反応を抑制することができる。
【実施例】
【0048】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0049】
[実施例1]
ステンレス製オートクレーブに、ショ糖342g(1モル)、水70g、水酸化カリウム 3gを仕込み、反応器内を窒素置換した。80℃まで昇温してショ糖を溶解し、続いて、100℃に昇温し、エチレンオキシド353g(8モル)を内圧0.3MPa以下に保ちながら導入した。エチレンオキシドの導入終了後、100℃で2時間保持し、圧力低下が見られなくなるまで反応させることにより、精製前のショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物750gを得た。
得られた精製前のショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物100gに水30gを混合して50℃に調整し、さらに酢酸を添加してpHを6に調整した。続いて、木質系活性炭(商品名:強力白鷺A(日本エンバイロケミカルズ社製、粉末状、1%水溶液のpH:4.9)10gを加え、50℃で2時間攪拌した。その後、ろ過により木質系活性炭を取り除き、減圧下90℃にて水を除去することにより、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0050】
[実施例2]
エチレンオキシドの導入量を881g(20モル)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(20モル)付加物を得た。
【0051】
[実施例3]
ショ糖に代えてマルチトール344g(1モル)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、マルチトールエチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0052】
[実施例4]
木質系活性炭に代えて、ヤシ殻系活性炭(商品名:WH2C8/32SS、日本エンバイロケミカルズ社製、粒状、1%水溶液のpH:5.0)14gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0053】
[実施例5]
木質系活性炭に代えて、石炭系活性炭(商品名:太閤TG、フタムラ化学社製、ペレット状、1%水溶液のpH:4.8)14gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0054】
[実施例6]
木質系活性炭の使用量を4gとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0055】
[実施例7]
木質系活性炭を添加したあとの攪拌条件を70℃で2時間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
[実施例8]
木質系活性炭を添加したあとの攪拌条件を30℃で2時間に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、ショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0056】
[比較例1]
実施例1で得られた精製前のショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物100gを水200gに溶解し、さらに酢酸を添加してpHを6に調整した。この水溶液を、陽イオン交換樹脂(商品名:アンバーリスト31WET、オルガノ社製)を充填したカラムおよび陰イオン交換樹脂(商品名:アンバーライトIRA400JCL、オルガノ社製)を充填したカラムに通液させ、さらに減圧下90℃にて水を留去することによりショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0057】
[比較例2]
実施例1で得られた精製前のショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物100gと水30gとを混合し、さらに酢酸を添加してpHを6に調整した。続いて、吸着剤(商品名:キョーワード2000、協和化学工業社製)3gを添加し、70℃で2時間攪拌した。その後100℃、減圧下で水を留去し、ろ過することによりショ糖エチレンオキシド(8モル)付加物を得た。
【0058】
[評価方法]
実施例1〜8および比較例1〜2で得られたショ糖エチレンオキシド付加物を用いて、下記の方法により色相を測定した。結果を表1に示す。
(色相)
製造直後および150℃で3時間保存したあとのショ糖エチレンオキシド付加物について、JIS 3331−2009に準じて色相(ガードナー指数)を測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例9〜16および比較例3および4(糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の製造)]
実施例1〜8および比較例1〜2で得られた糖類のアルキレンオキシド付加物、アクリル酸メチル(エステル化剤)、トルエン(溶媒)、炭酸カリウム(触媒)および重合禁止剤(商品名:ハイドロキノン、川口化学工業株式会社製)を、表1に記載の割合で混合し、110℃でエステル化反応率が99%を超えるまで反応させたあと、30℃に冷却した。ここに、トルエンと同量の水を加えて混合し、静置して水相を除去する操作を3回繰り返した。続いて、得られたトルエン相からトルエンを減圧留去することにより、ショ糖エチレンオキシド付加物エステル化物を得た。
【0061】
[評価方法]
下記の方法でエステル化反応率および色相を評価した。結果を表2に示す。
【0062】
(エステル化反応率)
反応開始から4時間後、8時間後および12時間後の反応溶液をガスクロマトグラフィーにて測定し、アクリル酸メチルの残存量を内部標準法(内部標準物質:デカン)にて算出した。これを用いて、下記式によりエステル化反応率(%)を算出した。なお、ガスクロマトグラフィーは、Agilent 7820A GCシステム(商品名、アジレント・テクノロジー社製)にて、カラム(商品名:DB−1、アジレント・テクノロジー社製)を用いて測定した。
【0063】
【数1】
【0064】
(色相)
JIS K3331−2009に準じて、糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物の色相(ガードナー指数)を測定した。
【0065】
【表2】
【0066】
表1から明らかなように、実施例1〜8の糖類のアルキレンオキシド付加物は高温条件下で保存した場合であっても着色を抑制できることがわかる。一方、比較例1および2の糖類のアルキレンオキシド付加物は高温条件下で保存した場合に着色が見られる。
また、表2から明らかなように、実施例9〜16の糖類のアルキレンオキシド付加物エステル化物は、比較例3および4に比べて短時間で製造することができ、色相も優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により得られる糖類のアルキレンオキシド付加物は、アクリル樹脂などの原料前駆体として利用可能である。また、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの原料としても利用可能である。