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特許6465605高分子材料に配合されるフィラーの解析装置、解析方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465605
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】高分子材料に配合されるフィラーの解析装置、解析方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20190128BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20190128BHJP
【FI】
   G06F17/50 638
   G06F17/50 612A
   G06F19/00 110
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-198634(P2014-198634)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-71519(P2016-71519A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷺谷 智
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−064658(JP,A)
【文献】 特開2014−164555(JP,A)
【文献】 特開2007−265266(JP,A)
【文献】 特開2011−242336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G06F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルに隣接するイメージセルにおいて前記基本セルと同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、前記基本セルの各モデルについて、前記基本セルと前記イメージセルに配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルを考慮して分子動力学計算を実行し、前記基本セルの各モデルの座標を算出する分子動力学計算実行部と、
前記分子動力学計算実行部の算出結果に基づき、前記基本セル及び前記イメージセルにおいてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成する隣接データ生成部と、
前記隣接データを用いて、前記基本セルの或るフィラーを始点とし、前記イメージセルの対応するフィラーを終点として、前記始点から前記終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索する探索実行部と、
前記探索実行部の探索によって前記始点から前記終点まで到達できた場合には、当該フィラーがネットワークを構成していると判定するネットワーク判定部と、
を備える、高分子材料に配合されるフィラーの解析装置。
【請求項2】
前記基本セルにおける前記フィラーモデルの座標に基づき前記イメージセルにおけるフィラーモデルの座標を生成する座標生成部と、
前記基本セル及び前記イメージセルのフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離が所定距離以下であるときに両フィラーが接触していると判定する接触判定部と、
を備え、
前記隣接データ生成部は、前記接触判定部の判定結果に基づいて前記隣接データを生成する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記探索アルゴリズムは、深さ優先探索アルゴリズムである請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
コンピュータが実行する方法であって、
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルに隣接するイメージセルにおいて前記基本セルと同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、前記基本セルの各モデルについて、前記基本セルと前記イメージセルに配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルを考慮して分子動力学計算を実行し、前記基本セルの各モデルの座標を算出するステップと、
前記分子動力学計算の算出結果に基づき、前記基本セル及び前記イメージセルにおいてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成するステップと、
前記隣接データを用いて、前記基本セルの或るフィラーを始点とし、前記イメージセルの対応するフィラーを終点として、前記始点から前記終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索するステップと、
前記探索によって前記始点から前記終点まで到達できた場合には、当該フィラーがネットワークを構成していると判定するステップと、
を含む、高分子材料に配合されるフィラーの解析方法。
【請求項5】
前記基本セルにおける前記フィラーモデルの座標に基づき前記イメージセルにおけるフィラーモデルの座標を生成するステップと、
前記基本セル及び前記イメージセルのフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離が所定距離以下であるときに両フィラーが接触していると判定するステップと、
を含み、
前記判定結果に基づいて前記隣接データを生成する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記探索アルゴリズムは、深さ優先探索アルゴリズムである請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
請求項4〜6に記載の方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料に配合されるフィラーの解析装置、解析方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの材料となるゴム等の高分子材料には、カーボンブラックやシリカ等のフィラーが配合される。高分子材料中におけるフィラーの分散状態は、ゴム材料の強度に大きな影響を与えることが知られている。近年、高分子材料に配合されたフィラーの分散状態を、CAE(Computer Aided Engineering)を用い解析及び評価するためのコンピュータシミュレーション方法(数値計算)が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、予め定めた仮想空間に配置されたフィラーモデルとポリマーモデルを用いて分子動力学計算を行い、計算結果を用いてカットオフ距離が最も大きいフィラー粒子の平均二乗変位から自己拡散係数を算出し、当該自己拡散係数が大きいほど、分散状態が良好であると評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−238535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィラーの分散状態がゴム材料の強度に影響を与えるか否かを判断する基準として、複数のフィラー同士が接触し連なることによって広範囲にフィラーのネットワークが形成されていることが重要であると考える。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法は、フィラーの分散のしやすさのみが評価されるに過ぎない。フィラーの分散状態がゴム材料の強度に影響を与える状態であるか、すなわち、複数のフィラー同士が接触し連なることによって広範囲にフィラーのネットワークが形成されているかを解析する手法は、特許文献1に提案されていない。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、広範囲にフィラーのネットワークが形成されているか否かの判定を実現する、高分子材料に配合されるフィラーの解析装置、解析方法及びコンピュータプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明の高分子材料に配合されるフィラーの解析装置は、
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルに隣接するイメージセルにおいて前記基本セルと同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、前記基本セルの各モデルについて、前記基本セルと前記イメージセルに配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルを考慮して分子動力学計算を実行し、前記基本セルの各モデルの座標を算出する分子動力学計算実行部と、
前記分子動力学計算実行部の算出結果に基づき、前記基本セル及び前記イメージセルにおいてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成する隣接データ生成部と、
前記隣接データを用いて、前記基本セルの或るフィラーを始点とし、前記イメージセルの対応するフィラーを終点として、前記始点から前記終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索する探索実行部と、
前記探索実行部の探索によって前記始点から前記終点まで到達できた場合には、当該フィラーがネットワークを構成していると判定するネットワーク判定部と、
を備える。
【0010】
本発明の高分子材料に配合されるフィラーの解析方法は、
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルに隣接するイメージセルにおいて前記基本セルと同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、前記基本セルの各モデルについて、前記基本セルと前記イメージセルに配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルを考慮して分子動力学計算を実行し、前記基本セルの各モデルの座標を算出するステップと、
前記分子動力学計算の算出結果に基づき、前記基本セル及び前記イメージセルにおいてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成するステップと、
前記隣接データを用いて、前記基本セルの或るフィラーを始点とし、前記イメージセルの対応するフィラーを終点として、前記始点から前記終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索するステップと、
前記探索によって前記始点から前記終点まで到達できた場合には、当該フィラーがネットワークを構成していると判定するステップと、
を含む。
【0011】
本発明は、上記方法を構成するステップをコンピュータに実行させるプログラムとして特定可能である。
【0012】
このように、基本セルのフィラーからイメージセルの対応するフィラーまで、接触によりつながる経路を探索する。経路が存在すれば、当該経路を形成するフィラーの連結が繰り返していることになるので、広範囲にフィラーネットワークが形成されているか否かを判定でき、新たなフィラーの評価、分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の解析装置をブロック図。
図2A】周期境界条件に関する説明図。
図2B】周期境界条件に関する説明図。
図3】基本セル及びイメージセルのフィラーモデルに関する説明図。
図4】論理的な木構造を有する隣接データに関する説明図。
図5】本発明の装置及び方法により得られる解析結果の一例を示す図。
図6】本発明の解析方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
[フィラーの解析装置]
本実施形態の装置は、高分子材料に配合されるフィラーを解析する装置であり、具体的には、高分子材料においてフィラーが広範囲のネットワークを形成しているか否かの判定、及び当該ネットワークの分析を行う。本実施形態では、高分子材料をゴムとし、フィラーをカーボンブラックやシリカを想定しているが、これには限定されない。
【0016】
図1に示すように、装置は、設定部1と、分子動力学計算実行部2と、隣接データ生成部3と、探索実行部4と、ネットワーク判定部5と、出力部6と、を有する。これら各部1〜6は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置において予め記憶されている図示しないルーチンをCPUが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0017】
図1に示す設定部1は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、高分子モデルに関する情報の設定、フィラーモデルに関する設定、分子動力学計算に用いる各種解析条件(基本セル、イメージセル、周期境界条件など)の設定を実行し、これらをメモリに記憶する。
【0018】
図1に示す分子動力学計算実行部2は、高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルに周期境界条件を設定しておき、基本セルの各モデルについて分子動力学計算を実行する。周期境界条件は、コンピュータの演算能力が有限であることから、数十〜数百個程度の系からマクロな系の性質を計算するために用いる。図2Aに示すように、モデル(図中では丸で示す)を配置して実際に計算を行う空間を基本セルC1(図中では実線の四角で示す)と呼び、基本セルC1に隣接する空間をイメージセルC2(図中では破線の四角で示す)と呼ぶ。図2Aに示すように、基本セルC1内のモデルの現象(運動)と同じ現象が全てのイメージセルC2で生じるとするので、あるモデルが基本セルC1から飛び出すと相対する壁から別のモデルが入ってくることになる。イメージセルC2は、基本セルC1のコピーである。周期境界条件では、モデルは、基本セルC1の壁から力を受けることがなく、そのまま基本セルC1の外に出てしまい、対面の壁の相対する位置から同じ速度で入ってくるとする境界条件である。周期境界条件を用いた分子動力学計算では、基本セルC1内のモデルについてのみ計算を行い、イメージセルC2内のモデルについては計算しない。ただし、図2Bに示すように、ポテンシャルU(相互作用)はセルの垣根を越えるので、基本セルC1の各モデルについて、基本セルC1とイメージセルC2に配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルUを考慮する。
【0019】
図2A,Bでは、セルC1及びイメージセルC2は、二次元では正方形で示しているが、三次元では立方体となる。セルの形状は、立方体でもよく、ひし形のような立方体(斜方セル)、六方最密構造でもよい。
【0020】
図3は、分子動力学計算実行部2が、基本セルC1の各モデルについて、基本セルC1とイメージセルC2に配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルを考慮して分子動力学計算を実行し、基本セルC1のフィラーモデルの座標を算出した例を示す。図3は、フィラーモデルを簡素化して丸で示し、高分子モデルは図示していない。説明の簡略化のために、図3では、基本セルC1にフィラーモデルが4つ存在するとしている。本明細書では、説明の便宜上、各フィラーモデルを識別するために、a1〜a4という識別子を付している。イメージセルC2のフィラーモデルにも識別のために、b1〜b4、c1〜c4、d1〜d4、e1〜e4、f1〜f4、g1〜g4、h1〜h4、及びi1〜i4という識別子を付けている。
【0021】
図1に示す隣接データ生成部3は、座標生成部30と、接触判定部31とを有する。
【0022】
図1に示す座標生成部30は、図3に示すように、基本セルC1におけるフィラーモデルの座標に基づきイメージセルC2におけるフィラーモデルの座標を生成する。具体的には、フィラーモデルの座標は重心位置とし、分子動力学計算実行部2の演算結果により得ることができる。基本セルC1の大きさ(一辺の長さ)は、例えばx方向の長さがLx、y方向の長さがLy、z方向の長さがLzというように、予め定まっている。基本セルC1の各フィラーモデルの座標(重心位置)と、基本セルの大きさ(Lx、Ly、Lz)を用いれば、イメージセルC2の各モデルの座標を算出できる。例えば、基本セルC1のフィラーモデルa1の座標が(Xa1,Ya1,Za1)であるとすれば、イメージセルC2のフィラーモデルb1の座標は(Xa1+Lx,Ya1,Za1)と算出できる。ここで、セルC1に隣接する全てのイメージセルC2(26個)についてフィラーモデルの算出をしてもよいが、計算負荷を下げるために、26個中13個だけでもよい。なぜならば、周期境界条件のため、基本セルC1を挟んで対称となる一対のイメージセルC2は一方を省略可能だからである。図3では、フィラーモデルの座標を算出しない部分を×印で示している。
【0023】
図1に示す接触判定部31は、基本セルC1及びイメージセルC2においてフィラー同士が接触しているかを判定する。具体的に、接触判定部31は、基本セルC1及びイメージセルC2のフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離Lが所定距離R以下であるときに両フィラーが接触していると判定する。所定距離Rは、予め設定され、次の式(1)で表される。
=R+δ …(1)
ただし、フィラーの直径がR、2つのフィラーの表面粒子間のポテンシャルが最小値となる距離がδである。フィラー表面粒子間のポテンシャルとしてレナード・ジョーンズポテンシャルを使用するので、δは次の式(2)で表される。
【数1】

σは2つのフィラーの表面粒子間に設定したレナード・ジョーンズ半径である。
【0024】
図1に示す隣接データ生成部3は、接触判定部31の判定結果に基づいて隣接データを生成する。隣接データは、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する。論理的な木構造は、図4に示すように、フィラーを表すノードと、ノード同士を連結するリンクとを有し、リンクによって連結されているフィラーは接触していることを意味する。本実施形態では、図3に示すように、フィラーa1に接触しているフィラーはa2であり、フィラーa2に接触しているフィラーはa1,a3であり、フィラーa3に接触しているフィラーはa2,a4であり、フィラーa4に接触しているフィラーはa3,b3であり、フィラーb1に接触しているフィラーはa4,b2である。
【0025】
本実施形態では、隣接データ生成部3は、隣接データをリスト形式で生成する。図3に示されるフィラーの接触状態をリスト形式で表せば、
a1…(a2)
a2…(a1、a3)
a3…(a2、a4)
a4…(a3、b1)
b1…(a4、b2)
となる。この隣接データは、図4に示すような論理的な木構造を有することになる。
【0026】
図1に示す探索実行部4は、隣接データ生成部3が生成した隣接データを用いて、基本セルC1の或るフィラーを始点とし、イメージセルC2の対応するフィラーを終点として、始点から終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索する。イメージセルC2の対応するフィラーは、基本セルのコピー元のフィラーを意味し、基本セルC1のフィラーa1と、イメージセルC2のフィラーb1,c1,d1,e1が対応する。探索アルゴリズムとして、木検索アルゴリズムを使用する。アルゴリズムには、深さ優先探索、幅優先探索、双方向探索を利用できる。本実施形態では、フィラーの連なりが長くなる可能性があるため、深さ優先探索アルゴリズムを用いている。探索実行部4は、全ての始点と終点の組み合わせについて探索するが、既に探索済みの経路及び等価と見なせる経路は、探索結果が重複するので削除する。等価と見なせるとは一方の経路に他方の経路が含まれる場合が挙げられる。
【0027】
図1に示すネットワーク判定部5は、探索実行部4の探索によって始点から終点まで到達できた場合には、フィラーがネットワークを構成していると判定し、始点から終点まで到達できない場合には、フィラーがネットワークを構成していないと判定する。
【0028】
図1に示す出力部6は、ネットワーク判定部5が、フィラーがネットワークを構成していると判定した場合に、当該ネットワークに関する情報を出力する。出力する情報として、ネットワークの数、ネットワークを構成するフィラーの数などが挙げられる。
【0029】
図5は、上記装置を用いて、フィラー体積分率17%のフィラー充填ゴムモデルを解析した結果を示す。ネットワークは全部で259本存在し、5個から40個のフィラーの繰り返しから形成されるネットワークが存在することが分かった。図中グラフの横軸は、ネットワークの繰り返し単位を構成するフィラーの数を示し、5〜8個、9〜11個、…、39〜41個毎に区切って示している。縦軸は、ネットワークの本数である。図中右は、フィラーネットワークの一例であり、5個のフィラーが繰り返し存在することを示している。
【0030】
[フィラーの解析方法]
上記装置を用いて高分子材料に配合されるフィラーを解析する方法について、図6を参照して説明する。
【0031】
まず、ステップS100において、図1に示す分子動力学計算実行部2は、周期境界条件を用い、基本セルC1の各モデルについて、基本セルC1とイメージセルC2に配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルUを考慮して分子動力学計算を実行し、基本セルC1の各モデルの座標を算出する。
【0032】
次のステップS101において、座標生成部30は、基本セルC1におけるフィラーモデルの座標に基づきイメージセルC2におけるフィラーモデルの座標を生成する。
【0033】
次のステップS102において、接触判定部31は、基本セルC1及びイメージセルC2のフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離Lが所定距離R以下であるときに両フィラーが接触していると判定する。
【0034】
次のステップS103において、隣接データ生成部3は、接触判定部31の判定結果を用いて、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成する。
【0035】
次のステップS104において、探索実行部4は、隣接データを用いて、基本セルC1の或るフィラーを始点とし、イメージセルC2の対応するフィラーを終点として、始点から終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索する。
【0036】
次のステップS105において、ネットワーク判定部5は、探索によって始点から終点まで到達できた場合には、フィラーがネットワークを構成していると判定する。
【0037】
以上のように、本実施形態の高分子材料に配合されるフィラーの解析装置は、
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルC1に隣接するイメージセルC2において基本セルC1と同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、基本セルC1の各モデルについて、基本セルC1とイメージセルC2に配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルUを考慮して分子動力学計算を実行し、基本セルC1の各モデルの座標を算出する分子動力学計算実行部2と、
分子動力学計算実行部2の算出結果に基づき、基本セルC1及びイメージセルC2においてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成する隣接データ生成部3と、
隣接データを用いて、基本セルC1の或るフィラーを始点とし、イメージセルC2の対応するフィラーを終点として、始点から終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索する探索実行部4と、
探索実行部4の探索によって始点から終点まで到達できた場合には、フィラーがネットワークを構成していると判定するネットワーク判定部5と、
を備える。
【0038】
本実施形態の高分子材料に配合されるフィラーの解析方法は、
高分子モデルとフィラーモデルが配置された基本セルC1に隣接するイメージセルC2において基本セルC1と同じ現象が生じるとする周期境界条件を用い、基本セルC1の各モデルについて、基本セルC1とイメージセルC2に配置される他のモデルとの間に作用するポテンシャルUを考慮して分子動力学計算を実行し、基本セルC1の各モデルの座標を算出するステップ(S100)と、
分子動力学計算の算出結果に基づき、基本セルC1及びイメージセルC2においてフィラー同士が接触しているかを判定し、或るフィラーと接触する全てのフィラーを表す論理的な木構造を有する隣接データを生成するステップ(S101、S102,S103)と、
隣接データを用いて、基本セルC1の或るフィラーを始点とし、イメージセルC2の対応するフィラーを終点として、始点から終点まで到達できるかを探索アルゴリズムで検索するステップ(S104)と、
探索によって始点から終点まで到達できた場合には、フィラーがネットワークを構成していると判定するステップ(S105)と、
を含む。
【0039】
この装置及び方法によれば、基本セルC1のフィラーからイメージセルC2の対応するフィラーまで、接触によりつながる経路を探索する。経路が存在すれば、当該経路を形成するフィラーの連結が繰り返していることになるので、広範囲にフィラーネットワークが形成されているか否かを判定でき、新たなフィラーの評価、分析方法を提供することができる。
【0040】
本実施形態の装置において、基本セルC1におけるフィラーモデルの座標に基づきイメージセルC2におけるフィラーモデルの座標を生成する座標生成部30と、
基本セルC1及びイメージセルC2のフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離Lが所定距離R以下であるときに両フィラーが接触していると判定する接触判定部31と、を備え、
隣接データ生成部3は、接触判定部31の判定結果に基づいて隣接データを生成する。
【0041】
本実施形態の方法において、基本セルC1におけるフィラーモデルの座標に基づきイメージセルC2におけるフィラーモデルの座標を生成するステップ(S101)と、
基本セルC1及びイメージセルC2のフィラーモデルの座標を用いてフィラー同士の重心間距離Lが所定距離R以下であるときに両フィラーが接触していると判定するステップ(S102)と、を含み、
接触判定結果に基づいて隣接データを生成する(S103)。
【0042】
この装置及び方法は、隣接データを生成するための一つの具体例として好ましい。
【0043】
本実施形態の装置及び方法において、探索アルゴリズムは、深さ優先探索アルゴリズムである。フィラーのネットワークは、複数のフィラーが連なって長くなる可能性があるので、深さ優先探索アルゴリズムを使用するのが好適である。
【0044】
本実施形態のコンピュータプログラムは、上記方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
【0045】
本実施形態の記憶媒体は、上記コンピュータプログラムを記憶したコンピュータに読取り可能な記憶媒体である。上記プログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0047】
例えば、図1に示す各部1〜6は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。
【0048】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
C1…基本セル
C2…イメージセル
2…分子動力学計算実行部
3…隣接データ生成部
30…座標生成部
31…接触判定部
4…探索実行部
5…ネットワーク判定部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6