(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の濃染性加工糸は、ポリエステルフィラメント糸を含む。これらのポリエステルフィラメント糸の単糸は互いに交絡している。この濃染性加工糸は、伸長率が5%以下、伸度が50〜80%、及び交絡数が30個/M以下である。こうした濃染性加工糸は低熱水収縮率及び高トルクを有する。
【0017】
ポリエステルフィラメント糸を構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、又はPETを主成分とする共重合ポリエステルが挙げられる。
【0018】
ポリエステルフィラメント糸は、丸断面形状であってもよいし、糸条の表面に凹凸形状を有するものであってもよい。ポリエステルフィラメント糸が表面に凹凸形状を有するものであると、繊維表面に光を照射した際に、その不規則な表面形状によって光は乱反射を繰り返し、繊維内部に吸収されて外部への反射光が減少する。そのため、よりいっそう深みのある色を表現することが可能となる。
【0019】
本発明でいう凹凸形状とは、後述のように微小なサイズの凹凸部を有するものをいい、単なる異形断面糸の断面形状(例えば、三角断面、又は六角断面等の多角形断面形状)をいうものではない。
【0020】
ポリエステルフィラメント糸の糸条表面に凹凸形状を形成する手法の具体例としては、溶解性の異なるポリエステルポリマーを複合紡糸法で紡糸して芯鞘複合繊維を得、アルカリ溶出処理により易溶性ポリエステル成分を除去して凹凸形状に異形化する方法;又は、ポリエステルの重合時又は紡糸時にポリエステルに対して不活性な微粒子を添加して紡糸し、アルカリ溶出処理でこの微粒子を除去して凹凸を形成させる手法を挙げることができる。こうした表面形状は、濃染性加工糸の段階で存在していてもよいし、この濃染性加工糸を製編又は製織して織編物を得、この織編物において通常の手法で形成されてもよい。
【0021】
前者の手法について、以下に述べる。例えば、断面形状が芯鞘形状(芯部:難溶性ポリエステル成分、鞘部:易溶性ポリエステル成分)である複合繊維に対し、アルカリ等の溶剤で処理(アルカリ溶出処理)を施すことによって、易溶性ポリエステル成分を溶出させる。そして、難溶性ポリエステル成分を凹凸形状となるように残存させて、
図1に示すような凹凸形状を形成する。
【0022】
凹凸形状部における凸部の幅は0.3〜1.0μmであることが好ましく、かつ、高さは0.4〜3.0μm程度の微小なものが好ましい。凸部の数は15個以上であることが好ましく、15〜35個がより好ましい。さらに,凹凸部の配列分布やその形状は特に限定されるものではなく、例えば,
図1に示すポリエステルフィラメント糸の断面のように、糸条表面に凸部と凹部とが交互にほぼ一様に分布して歯車型(ギア型)となり、凸部の断面が長方形又は略台形形状であってもよい。
【0023】
後者の手法について、以下に述べる。微粒子を含有するポリエステルフィラメント糸の表面の微粒子をアルカリ溶出処理で除去することにより、マイクロクレータ状の凹凸形状を形成することができる。微粒子の含有量はポリエステル全量の1〜15質量%であることが好ましく、微粒子の粒径は2μm以下であることが好ましいが、何れも紡糸時にトラブルを起こさない範囲であればよい。
【0024】
上記で使用する微粒子の種類としては、例えば、セラミックス類等の無機化合物(例えば、バリウム、カルシウム、マグネシウム、若しくはアルミニウム等の酸化物、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩又はシリカ等)を挙げることができる。
【0025】
本発明の濃染性加工糸の伸長率は5%以下であり、1.5〜2.5%であることが好ましい。伸長率は捲縮の度合いの指標となるものであり、伸長率が低いほど捲縮が低いことを示す。伸長率が5%以下であると、捲縮が低くトルクが高くなる。その結果、ポリエステルフィラメント糸のねじれ現象が弱くなり、繊維内部の構造変化(例えば、形態ひずみ)が少なく、しかも断面変形が緩やかなものとなるため配向の進行が極力抑えられ濃染性により優れる。
【0026】
本発明の濃染性加工糸の伸度は50〜80%であり、55〜70%であることが好ましい。伸度がこの範囲であると、製織工程又は製編工程時に受ける張力を抑えるためポリエステルフィラメント糸が過度に伸ばされることがなく、織編物とした場合にヒケ状の欠点を抑制することができ、寸法安定性により優れる。また、ポリエステルフィラメント糸の配向度が低くなるため繊維内部に染料が入り易くなり、濃染性により優れる。
【0027】
本発明の濃染性加工糸に含まれるポリエステルフィラメント糸の各々は交絡しており、その交絡数は30個/M以下であり、5〜25個/Mであることが好ましく、10〜20個/Mであることがより好ましい。交絡数が少ないほど低捲縮となり、さらにトルクが増加する。交絡数が30個/M以下であると、トルクが高くなるためポリエステルフィラメント糸のねじれ現象が弱くなり、繊維内部の構造変化(例えば、形態ひずみ)が少なく断面変形が緩やかなものとなる。その結果、配向が過度に進行することがなく、濃染性により優れる。一方、交絡数が5個/M以上であると、得られた濃染性加工糸を巻き取る工程でスリップし難いため、パッケージングが容易となる。
【0028】
本発明の濃染性加工糸は、低熱水収縮率及び高トルクを有する。具体的には、JIS L−1013(かせ収縮率、A法)に従って、30分間処理後の熱水収縮率が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。30分間処理後の熱水収縮率が5%以下であると、織編物とした後の染色工程等の熱処理の際に収縮幅が大きくなることがなく、寸法安定性により優れる。
【0029】
また、トルクが高いほど撚りの効果は大きく、伸長率が低い濃染性加工糸においては集束性に優れる。さらに、ポリエステルフィラメント糸のねじれ現象が弱く、繊維内部の構造変化(例えば、形態ひずみ)が少なく、しかも断面変形が緩やかなものとなるため配向の進行が極力抑えられ濃染性が向上する。具体的には、トルクは100T/M以上であることが好ましく、150T/M以上であることがより好ましい。トルクが100T/M以上であると濃染性により優れる。また、トルクが300T/M以下であると集束が強すぎないため、ドレープ性に優れる。
【0030】
濃染性加工糸の総繊度は、濃染性及びドレープ性に優れるために、50〜160dtexであることが好ましい。濃染性加工糸のフィラメント数は、同様の理由から、12〜80本であることが好ましい。
【0031】
本発明の濃染性加工糸は、低捲縮かつ高トルクであることにより濃染性に優れる。具体的には、本発明の濃染性加工糸は、織編物とされて黒色染色が施された場合に、9〜13という低い範囲のL
*値を達成することができる。このL
*値は、好ましくは10〜12であり、より好ましくは11〜12である。
【0032】
また、本発明の濃染性加工糸は、低捲縮であり過度に撚りがかかっていないため、しとやかで自然なドレープ性を発現する。
【0033】
本発明の濃染性加工糸は熱水収縮率が低く、製織工程又は製編工程などにおける寸法安定性に優れるため、織編物とされる場合にその他の糸条と複合する必要がない。その結果、異なった糸同士の色差が発生しないため、染色時のイラツキを抑制することができる。
【0034】
次に本発明の濃染性加工糸の製造方法について説明する。
未延伸ポリエステルフィラメント糸を供給糸条として用いる。この供給糸条に対して、延伸倍率を1.2〜1.5倍に調整して熱延伸処理を施す。次いで、下記式(I)で示される仮撚係数を5000〜15000に調整し、かつ延伸倍率を0.95倍〜1.05倍に調整して仮撚加工を施す。
仮撚係数=X×(Y/1.111)
1/2 (I)
次いで、空気圧力を0.05〜0.15MPaに調整して流体噴射加工を施して、本発明の濃染性加工糸を製造することができる。
なお、上記式(I)中、Xは仮撚数を示し、Yは濃染性加工糸の繊度(単位:dtex)を示す。
【0035】
未延伸ポリエステルフィラメント糸は、上記のように、アルカリ溶出処理などにより、その表面に凹凸形状を形成し得るものであることが好ましい。
【0036】
熱延伸処理について以下に述べる。延伸倍率を1.2〜1.5倍に調整して熱延伸処理を施すことで糸条の配向性を安定化させ、さらに伸度を50〜80%とすることができるため寸法安定性が向上する。つまり、熱延伸処理の延伸倍率が上記の範囲であると、熱処理ヒーターでの糸条走行が安定し延伸処理ムラが発生しないため、伸度を適切な範囲に制御することができる。さらに、糸条の配向度が低くなり染料が繊維内部に入りやすくなるため、濃染性により優れる。熱延伸処理時の温度は、続く仮撚加工においてポリエステルフィラメント糸同士が融着しない温度であればよく、例えば140〜200℃とすることで熱延伸を安定的に行うことができる。
【0037】
仮撚加工について述べる。仮撚係数を5000〜15000という低い範囲に調整して仮撚加工を経ることにより、伸長率が低く低捲縮及び高トルクを有するため、ドレープ性及び濃染性に優れる濃染性加工糸が得られる。さらに、得られる濃染性加工糸の形態が安定し、錘間でのバラツキが抑制されるため品質(外観など)が安定する。
【0038】
仮撚係数は下記式(I)により算出される。
仮撚係数=X×(Y/1.111)
1/2 (I)
なお、上記式(I)中、Xは仮撚数でありYは濃染性加工糸の総繊度(単位:dtex)である。つまり本発明において、仮撚数と総繊度とを適切な範囲に調節することで、仮撚係数を上記の範囲とすることができる。仮撚数は、例えば700〜1800T/Mであってもよい。
【0039】
仮撚条件としては、濃染性を損ねないように低延伸状態であることが好ましい。本発明において低延伸状態とは、具体的には延伸倍率が0.95〜1.05倍であることをいう。延伸倍率がこの範囲であると、加撚中の旋回が安定するため仮撚途中で糸切れなどが発生せず、加工操業面により優れる。さらに、糸条が過度に延伸されることがないため、濃染性及びドレープ性により優れる。
【0040】
次に仮撚加工した糸条に対し、流体噴射ノズル(例えば、インターレースノズル、又はタスランノズル)を用いて流体噴射加工を施して、濃染性加工糸を得ることができる。得られた濃染性加工糸は、通常、その後パッケージに巻き取られるが、流体噴射を施すことで、チーズなどの欠陥を抑制しつつ安定して巻き取ることができる。
【0041】
流体噴射加工の空気圧力は0.05〜0.15MPaであることが好ましい。流体噴射加工の空気圧力がこの範囲であると、エアーによる糸条の絡み合いが強くなり過ぎることがなく交絡数を30個/M以下とすることができ、濃染性加工糸の外観を良好に維持しつつ、得られた濃染性加工糸をパッケージに巻き取ることが容易となる。
【0042】
本発明の製造方法は、上記した各工程(熱延伸処理、仮撚加工、及び流体噴射加工)の順序、及び条件を特定のものとすることにより、ドレープ性及び濃染性に優れ、さらに寸法安定性に優れる加工糸が得られることを見出してなされたものである。すなわち仮撚加工に先立って予め熱延伸処理を実行するという特定の工程を経ることで、伸度を所定の範囲に制御しつつ、濃染性を向上させることができる。さらに、仮撚加工における仮撚係数を所定の範囲とすることで、濃染色性及びドレープ性を両立させることができる。なお、例えば、熱延伸処理と仮撚加工との工程順序を入れ替えた場合は、糸条の配向性が安定しないため、伸度及び伸長率を所定の範囲にまで高めることができず、濃染性に劣る加工糸しか得られない。また、熱延伸処理を施さなかった場合は、伸度が過度に高くなり、寸法安定性に欠ける加工糸しか得られない。
【0043】
本発明の濃染性加工糸は、低伸長率、低い熱水収縮性、及び高いトルクである特性を有するため、ドレープ性があり、しかも濃染性に優れた織編物とすることができる。さらに、は寸法安定性に優れるため、複合糸にすることなく単独で用いることができ、織編物とされた際に、染色後に異なる糸条の色差に起因するイラツキがないという効果が奏される。
【0044】
本発明の織編物は上記の濃染性加工糸からなる。本発明の織編物においては、黒色染色時のL
*値が9〜13であるという濃染効果が発現する。さらに、上記した本発明の濃染性加工糸は寸法安定性に優れるため、他の糸条と複合されずに織編物とされる。織物の組織としては特に限定されるものではなく、平組織、綾組織、朱子組織、又はドビー若しくはジャガードによる変化組織などが採用される。編物の組織としては、特に限定されるものではなく、デンビー編み、アトラス編み、又はコード編みなどが挙げられる。
【0045】
また、織編物には、仕上げ加工工程において染色加工のみならず、各種の加工(例えば、アルカリ溶出、柔軟、制電又は撥水のような加工)が施されてもよい。さらに風合い等を改善する目的で、本発明の濃染性加工糸に追撚又は合撚を施して、織編物としてもよい。
【0046】
本発明の濃染性加工糸の製造方法を、
図2を用いて説明する。
図2は,本発明の濃染性加工糸の製造方法の一実施態様を示す概略工程図である。供給糸条(未延伸ポリエステルフィラメント糸)Yに対し、フィードローラー1と第1デリベリーローラー3との間で、例えばプレヒーター2を用いて、上記のような特定の条件で熱延伸処理を施す。
引き続き連続して、第1デリベリーローラー3と第2デリベリーローラー6との間で、第1ヒーター4と仮撚装置5とを用い、上記のような特定の条件で仮撚加工を施して低い捲縮を付与する。その後、第2デリベリーローラー6と第3デリベリーローラー8との間で流体噴射ノズル7を用いて流体噴射加工を施すことにより、本発明の濃染性加工糸が得られる。この濃染性加工糸は、巻き取りローラー9によってパッケージ10に巻き取られる。
【0047】
本発明の濃染性加工糸は、フォーマルブラック、水着、又はスポーツウェア等の濃染効果が求められる分野において、好適に使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明する。本発明はこの実施例に限定されない。本発明における物性の測定方法又は評価方法は次の通りである。なお、濃染性加工糸の下記(1)〜(6)の物性は、下記(7)のL
*値の測定に従って得られた筒編地(精練、アルカリ溶出処理、黒色染色、及び洗浄後の筒編地)から濃染性加工糸を採取して測定した。
【0049】
(1)繊度
JIS L−1013 8.3.1の方法に従って測定した。
【0050】
(2)伸長率
JIS L−1013(B法)に従って測定した。
【0051】
(3)伸度
JIS L−1013に従って測定した。
【0052】
(4)交絡数
JIS L−1013に従って測定した。
【0053】
(5)熱水収縮率
JIS L−1013(かせ収縮率;A法)に従って測定した。なお、30分間処理後の熱水収縮率を採用した。
【0054】
(6)トルク
濃染性加工糸を試料とし、U字状に吊り下げた。試料の両上端に0.33cN/dtexの荷重を掛けて固定した。その後、U字状をした試料の下端に0.003cN/dtexの荷重を掛けた。このとき、試料には残留トルクによる旋回が発生し、その旋回が静止するまで放置した。試料が旋回を停止した時の1M当たりの撚数をトルクとした。
【0055】
(7)L
*値
流体噴射加工を経た濃染性加工糸を、英光産業製の筒編機「260N」にて筒編地に編成しこの筒編地に対して下記の処方で精練、アルカリ溶出処理、染色、及び洗浄を行った。
<染色処方>
(精練)
精練剤;サンモールFL(日華化学株式会社製) 2g/L
温度×時間;80℃×20分
【0056】
(アルカリ溶出処理)
苛性ソーダ;10g/L
温度×時間;98℃×30分
なお、アルカリ溶出処理に際しては、ポリエステルフィラメント糸の鞘部(易溶性ポリエステル成分)を減量し、
図1に示したギア型の断面形状とした。
【0057】
(染色)
染料;ダイアニクスブラックHG−FS(分散染料;ダイスター社) 15%omf
助剤;ニッカサンソルトSN130(日華化学株式会社製) 0.5g/L、酢酸0.2cc/L
浴比; 1:50
温度×時間;135℃×30分
【0058】
(洗浄)
還元洗浄剤;ビズノール P−55(一方社油脂工業株式会社製) 0.5cc/L
温度×時間;80℃×20分
【0059】
上記(7)に従って洗浄までを行った筒編地に対して、分光光度計(マクベス社製、「MS−CE3100型」)を用いて反射率を測定し、CIE Labの色差式から濃度指標を求めた値をL
*値とした。なお、L
*値はその値が小さい程、深みがあり濃色であることを示す。
【0060】
(8)外観評価(官能評価)
上記(7)に従って洗浄までを行った筒編地を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:染色品位のバラツキ又はインターレースマークが少なく、良好であった。
×:染色品位のバラツキ又はインターレースマークが多く、悪かった。
【0061】
(9)ドレープ性(官能評価)
上記(7)で得られた筒編地に対し、触感により、以下の基準でドレープ性を評価した。
○:しとやかで自然なドレープ感が発現している。
×:ドレープ感が乏しい。
【0062】
(実施例1)
供給糸条として、アルカリ溶出処理により糸条表面に
図1に示すような凹凸形状が発現する未延伸ポリエステルフィラメント糸(84dtex/24フィラメント)を用いた。この未延伸ポリエステルフィラメント糸においては、芯部に難溶性ポリエステル成分としてPETが配され、鞘部に易溶性ポリエステル成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5モル%と平均分子量が7000のポリエチレングリコールを12重量%共重合したPETが配されていた。この未延伸ポリエステルフィラメント糸においては、アルカリ溶出処理により、鞘部が溶出されて芯部が残存し、糸条表面に
図1に示すような凹凸形状が発現するものであった。
【0063】
図2に示す工程に従って、下記の表1に示した条件で、未延伸ポリエステルフィラメント糸に対して、熱延伸処理、低速ピン仮撚装置を用いた仮撚加工処理、及びインターレースノズルを用いた流体噴射加工を、この順に施した。そして、上記(7)(L
*値の測定法)に示したように筒編地に編製した。その後、精錬処理及びアルカリ溶出処理によって易溶出成分を除去し、筒編地を黒色染色して洗浄した。これにより、本発明の濃染性加工糸からなる編地を得た。
【0064】
実施例1、及び後述の比較例1〜4の評価を表1に示す。
【表1】
【0065】
(比較例1)
供給糸条を
図2に示すようなフィードローラー1及びプレヒーター2に供給せず、第1デリベリーローラーに直接供給し(つまり、熱延伸処理を施さずに)、仮撚係数を10468に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、加工糸からなる編地を得た。
【0066】
(比較例2)
熱延伸処理の延伸倍率を1.6倍に変更し、仮撚係数を8258に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、加工糸からなる編地を得た。
【0067】
(比較例3)
仮撚数を3856に変更し、仮撚係数を29518に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、加工糸からなる編地を得た。
【0068】
(比較例4)
流体噴射加工のエアー圧を0.49MPaとした以外は、実施例1と同様の手法により、加工糸からなる編地を得た。
【0069】
実施例1で得られた本発明の濃染性加工糸は、伸長率、伸度、及び交絡数が本発明に規定された範囲であり、さらに低熱水収縮率かつ高トルクを有するものであった。この濃染性加工糸からなる編地に黒色染色を施すとL
*値が11.3となり、優れた濃染色性が発現していた。さらに、この編地はドレープ性に優れ、イラツキが抑制されていた。
【0070】
比較例1で得られた加工糸は熱延伸処理を施さなかったため、伸度が過度に高くなった。そのため、熱水収縮性が高く編織工程や染色工程での寸法安定性に欠けるものであり、品質面での問題を有するものであった。
【0071】
比較例2で得られた加工糸は熱延伸処理における延伸倍率を高くしたため、伸度が過度に低くなり、濃染性に劣るものとなった。
【0072】
比較例3では仮撚加工における仮撚係数を高くしたため、糸切れが多発し加工糸を製造することができず、加工操業性に問題が生じた。
【0073】
比較例4で得られた加工糸は流体噴射加工における空気圧力を高くしたため、交絡部の絡み合いが過度に強くなり、編物とした時にインターレースマーク(集束状態の異なる部分が斑点のように筋状に現れる欠陥)が強調された。
【0074】
比較例5で得られた加工糸は、仮撚加工における延伸倍率及び仮撚係数を高く設定したため、伸長率が高くなり過ぎたことから一般的な捲縮加工糸となり、ドレープ性又は濃染効果に欠けるものであった。
【0075】
比較例6で得られた加工糸は、仮撚加工における仮撚係数が極端に低いことから、トルクが少なくペーパーライク風合いとなると共に濃染効果に欠けるものであった。
【0076】
比較例7で得られた加工糸は、熱延伸処理時の延伸倍率が低いことから、加工糸伸度が高なり、工程通過時に物性変化が見られ品位品質(外観)に問題があった。
【0077】
比較例8は、仮撚加工時の延伸倍率が低いことから、糸切れが多発し、加工操業面での問題点を有していた。
【0078】
比較例9で得られた加工糸は、仮撚加工時の延伸倍率を高く設定したことから、加工張力が高くなり、トルク数の高いものが得られず、濃染効果に欠けるものであった。
【0079】
比較例10で得られた加工糸は、仮撚加工時の仮撚係数を高く設定したことから、伸長率が高くなり、ドレープ性や濃染効果に欠けるものであった。