(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項7に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、マスクブランク用基板の主表面上の一方の表面に、導電膜が形成された導電膜付き基板である。マスクブランク用基板の主表面のうち、導電膜(「裏面導電膜」ともいう。)が形成される主表面を、「裏面」という。また、本発明は、導電膜付き基板の導電膜が形成されていない主表面(単に、「表面」という場合がある。)の上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成された多層反射膜付き基板である。
また、本発明は、多層反射膜付き基板の多層反射膜の上に吸収体膜を含むマスクブランク用多層膜を有する反射型マスクブランクである。
【0037】
図2は、本発明の導電膜付き基板50の一例を示す模式図である。本発明の導電膜付き基板50は、マスクブランク用基板10の裏面の上に、裏面導電膜23が形成されている。尚、本明細書において、導電膜付き基板50とは、少なくともマスクブランク用基板10の裏面に裏面導電膜23が形成されたものであり、他の主表面の上に多層反射膜21が形成されたもの(多層反射膜付き基板20)、及び更に吸収体膜24が形成されたもの(反射型マスクブランク30)等も、導電膜付き基板50に含まれる。
【0038】
図7は、本発明の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。本発明の反射型マスクブランク30は、マスクブランク用基板10の主表面の上に、マスクブランク用多層膜26を有する。本明細書において、マスクブランク用多層膜26とは、反射型マスクブランク30において、マスクブランク用基板10の主表面の上に積層して形成される、多層反射膜21及び吸収体膜24を含む複数の膜である。マスクブランク用多層膜26は、更に、多層反射膜21及び吸収体膜24の間に形成される保護膜22、及び/又は吸収体膜24の表面に形成されるエッチングマスク膜25を含むことができる。
図7に示す反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用基板10の主表面の上のマスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22、吸収体膜24及びエッチングマスク膜25を有している。尚、エッチングマスク膜25を有する反射型マスクブランク30を用いる場合、後述のように、吸収体膜24に転写パターンを形成した後、エッチングマスク膜25を剥離してもよい。また、エッチングマスク膜25を形成しない反射型マスクブランク30において、吸収体膜24を複数層の積層構造とし、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持った吸収体膜24とした反射型マスクブランク30としてもよい。また、本発明の反射型マスクブランク30は、その裏面に、裏面導電膜23を含む。したがって、
図7に示す反射型マスクブランク30は、導電膜付き基板50の一種である。
【0039】
本明細書において、「マスクブランク用基板10の主表面の上に、マスクブランク用多層膜26を有する」とは、マスクブランク用多層膜26が、マスクブランク用基板10の表面に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板10と、マスクブランク用多層膜26との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0040】
図5は、本発明の反射型マスクブランク30の別の一例を示す模式図である。
図5の反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22及び吸収体膜24を有しているが、エッチングマスク膜25を有していない。また、
図5の反射型マスクブランク30は、その裏面に、裏面導電膜23を含む。したがって、
図5に示す反射型マスクブランク30は、導電膜付き基板50の一種である。
【0041】
図3は、多層反射膜付き基板20を示す。
図3に示す多層反射膜付き基板20の主表面に多層反射膜21が形成されている。
図4に、裏面に裏面導電膜23が形成された多層反射膜付き基板20を示す。
図4に示す多層反射膜付き基板20は、その裏面に、裏面導電膜23を含むので、導電膜付き基板50の一種である。
【0042】
本発明の導電膜付き基板50は、裏面導電膜23の表面における1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られるベアリングエリア(%)とベアリング深さ(nm)との関係を所定の関係とし、かつ表面粗さの最大高さ(Rmax)を所定の範囲とすることを特徴とする。
【0043】
本発明の導電膜付き基板50によれば、反射型マスク40、反射型マスクブランク30及び多層反射膜付き基板20の欠陥を欠陥検査装置及び座標計測機等によって検査・計測する際に、欠陥検査装置による検出欠陥の位置精度、座標計測機による基準マークや転写パターン等のパターンの位置精度を向上することができる。その際、裏面導電膜23の表面粗さに起因する疑似欠陥検出を抑制し、異物や傷などの致命欠陥の発見を容易にすることが可能である。
【0044】
次に、裏面導電膜23の表面形態を示すパラメーターである表面粗さ(Rmax、Rms)と、ベアリングカーブ(ベアリングエリア(%)及びベアリング深さ(nm))との関係について以下に説明する。
【0045】
まず、代表的な表面粗さの指標であるRms(Root means square)は、二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根である。Rmsは下式(1)で表される。
【0046】
【数1】
式(1)において、lは基準長さであり、Zは平均線から測定曲線までの高さである。
【0047】
同じく、代表的な表面粗さの指標であるRmaxは、表面粗さの最大高さであり、粗さ曲線の山の高さの最大値と谷の深さの最大値との絶対値の差である。
【0048】
Rms及びRmaxは、従来からマスクブランク用基板10の表面粗さの管理に用いられており、表面粗さを数値で把握できる点で優れている。しかし、これらRms及びRmaxは、いずれも高さの情報であり、微細な表面形態の変化に関する情報を含まない。
【0049】
これに対して、ベアリングカーブは、基板10の主表面上の測定領域内における凹凸を任意の等高面(水平面)で切断し、この切断面積が測定領域の面積に占める割合をプロットしたものである。ベアリングカーブにより、裏面導電膜23の表面粗さのばらつきを視覚化及び数値化することができる。
【0050】
ベアリングカーブは、通常、縦軸をベアリングエリア(%)、横軸をベアリング深さ(nm)としてプロットされる。ベアリングエリア0(%)が、測定する基板表面の最高点を示し、ベアリングエリア100(%)が、測定する基板表面の最低点を示す。したがって、ベアリングエリア0(%)の深さと、ベアリングエリア100(%)の深さの差は、上述の表面粗さの最大高さ(Rmax)となる。尚、本発明では「ベアリング深さ」と呼んでいるが、これは「ベアリング高さ」と同義である。「ベアリング高さ」の場合は、上記と逆に、ベアリングエリア0(%)が、測定する基板表面の最低点を示し、ベアリングエリア100(%)が、測定する基板表面の最高点を示す。以下、本実施形態の裏面導電膜23におけるベアリングカーブの管理について説明する。
【0051】
本発明の導電膜付き基板50では、裏面導電膜23の表面における1μm×1μmの領域を、原子間力顕微鏡で測定して得られるベアリングエリア(%)とベアリング深さ(nm)との関係において、前記ベアリングエリア30%をBA
30、前記ベアリングエリア70%をBA
70、前記ベアリングエリア30%及び70%に対応する前記ベアリング深さをそれぞれBD
30及びBD
70と定義したときに、前記導電膜表面が、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が15以上260以下(%/nm)の関係式を満たし、かつ最大高さ(Rmax)が1.3nm以上15nm以下である。
【0052】
すなわち、上述の(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)(単位:%/nm)は、ベアリングエリア30%〜70%におけるベアリングカーブの傾きを表すものであり、その傾きを15(%/nm)以上とすることで、より浅いベアリング深さ(nm)でベアリングエリアが100%に到達することになる。つまり、反射型マスクブランク30の表面を構成する凹凸(表面粗さ)が、非常に高い平滑性を維持しつつ、非常に揃った表面形態となるため、欠陥検査において疑似欠陥の検出要因である凹凸(表面粗さ)のバラツキを低減することができるので、欠陥検査装置を使用しての欠陥検査における疑似欠陥の検出を抑制することができ、更に致命欠陥の顕在化を図ることができる。
【0053】
更に、ベアリングカーブの傾きを260以下(%/nm)とすることで、反射型マスク40、反射型マスクブランク30及び多層反射膜付き基板20を欠陥検査装置及び座標計測機等によって検査・計測する際に、載置部による基板等の固定の際の裏面導電膜23の滑りを抑制することができる。そのため、反射型マスク40、反射型マスクブランク30及び多層反射膜付き基板20の欠陥を欠陥検査装置で検査する際、及び反射型マスク40、反射型マスクブランク30及び多層反射膜付き基板20に形成された基準マークや、反射型マスクの転写パターンを座標計測機等によって計測する際に、欠陥検査装置による検出欠陥の位置精度、座標計測機による基準マークや転写パターン等のパターンの位置精度を向上することができる。
【0054】
本発明において、前記1μm×1μmの領域は、露光装置を用いて半導体装置を製造する際に、反射型マスクの裏面(裏面導電膜23)が静電チャックに当接する領域、及び欠陥検査装置や座標計測機の載置部が当接する領域を含む領域の任意の箇所でよい。上記静電チャックが裏面導電膜23に当接する領域、及び欠陥検査装置や座標計測機の載置部が当接する領域を含む領域は、マスクブランク用基板10が6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)の場合、例えば、反射型マスクブランク30の表面の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域、146mm×146mmの領域、142mm×142mmの領域や、132mm×132mmの領域とすることができる。また、前記任意の箇所については、例えば、導電膜付き基板50の裏面導電膜23が形成された裏面の中心の領域、及び/又は欠陥検査装置や座標計測機の載置部が裏面導電膜23に当接する領域(当接部及びその近傍)とすることができる。
【0055】
また、本発明において、前記1μm×1μmの領域は、導電膜付き基板50の裏面導電膜23が形成された裏面の中心の領域、及び欠陥検査装置及び座標計測機が裏面導電膜23に当接する領域とすることができる。例えば、裏面導電膜23の膜表面が長方形の形状をしている場合には、前記中心とは前記長方形の対角線の交点である。すなわち、前記交点と前記領域における中心(領域の中心も前記裏面導電膜23表面の中心と同様である)とが一致する。
【0056】
導電膜付き基板50の裏面導電膜23の表面は、疑似欠陥の検出を抑制する観点からは、主表面を構成する凹凸(表面粗さ)が揃った表面形態であることが好ましい。そのため、裏面導電膜23の表面の(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が15(%/nm)以上とする。裏面導電膜23の表面の(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が、好ましくは20(%/nm)以上、より好ましくは30(%/nm)以上、より好ましくは40(%/nm)以上、更に好ましくは50(%/nm)以上であることが望ましい。また、同様の観点から、裏面導電膜23の表面の表面粗さの最大高さ(Rmax)を15nm以下とする。裏面導電膜23の表面の表面粗さの最大高さ(Rmax)が、好ましくは10nm以下、より好ましくは9nm以下、より好ましくは8.5nm以下とすることが望ましい。
【0057】
また、導電膜付き基板50の裏面導電膜23の表面は、載置部による基板等の固定の際の裏面導電膜23の滑りを抑制する観点から、主表面を構成する凹凸(表面粗さ)が完全に平滑な表面形態ではないことが良い。そのため、裏面導電膜23の表面の(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が260(%/nm)以下とする。裏面導電膜23の表面の(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が、好ましくは230(%/nm)以下、より好ましくは200(%/nm)以下であることが望ましい。であることが望ましい。また、同様の観点から、裏面導電膜23の表面の表面粗さの最大高さ(Rmax)を1.3nm以上、好ましくは1.4nm以上、より好ましくは1.5nm以上とすることが望ましい。
【0058】
以上の点から、導電膜付き基板50の裏面導電膜23の表面は、好ましくは、前記導電膜表面における1μm×1μmの領域を、原子間力顕微鏡で測定して得られるベアリングエリア(%)とベアリング深さ(nm)との関係において、前記ベアリングエリア30%をBA
30、前記ベアリングエリア70%をBA
70、前記ベアリングエリア30%及び70%に対応する前記ベアリング深さをそれぞれBD
30及びBD
70と定義したときに、前記導電膜表面が、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)が15以上260以下(%/nm)、好ましくは20以上260以下(%/nm)の関係式を満たし、かつ最大高さ(Rmax)が1.3nm以上15nm以下、好ましくは1.3nm以上10nm以下である。
【0059】
また、裏面導電膜23の表面の表面粗さは、上述の最大高さ(Rmax)に加え、二乗平均平方根粗さ(Rms)で管理することができる。裏面導電膜23の表面の、1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られる二乗平均平方根粗さ(Rms)は、0.15nm以上1.0nm以下であることが好ましい。
【0060】
また、裏面導電膜23の表面は、原子間力顕微鏡で測定して得られたベアリング深さと、得られたベアリング深さの頻度(%)との関係をプロットした度数分布図において、前記プロットした点より求めた近似曲線、又は前記プロットした点における最高頻度より求められる半値幅の中心に対応するベアリング深さの絶対値が、裏面導電膜23の表面の表面粗さにおける最大高さ(Rmax)の1/2(半分)に対応するベアリング深さの絶対値よりも小さい表面形態とすることが好ましい。この表面形態は、裏面導電膜23の表面を構成する凹凸において、基準面に対して凸部よりも凹部を構成する割合が多い表面形態となる。したがって、裏面導電膜23の表面に凸部が存在することによる発塵の問題を防止することができる。
【0061】
また、裏面導電膜に付着した異物を洗浄処理により効果的に除去する観点からは、裏面導電膜23の表面は、原子間力顕微鏡で測定して得られたベアリング深さと、得られたベアリング深さの頻度(%)との関係をプロットした度数分布図において、前記プロットした点より求めた近似曲線、又は前記プロットした点における最高頻度より求められる半値幅の中心に対応するベアリング深さの絶対値が、裏面導電膜23の表面の表面粗さにおける最大高さ(Rmax)の1/2(半分)に対応するベアリング深さの絶対値以上の表面形態とすることが好ましい。この表面形態は、裏面導電膜23の表面を構成する凹凸において、基準面に対して凹部よりも凸部を構成する割合が多い表面形態となる。したがって、反射型マスクブランク及び多層反射膜付き基板の欠陥を欠陥検査装置及び座標計測機等によって検査・計測した際や、反射型マスクの裏面を静電チャックし、露光装置により半導体装置を製造する際に、裏面導電膜に付着する異物を洗浄処理により効果的に除去するとの効果を得ることができる。
【0062】
次に、裏面導電膜23の表面の表面形態を示すパワースペクトル密度(Power Spectrum Density:PSD)について以下に説明する。
【0063】
上述のように、Rms及びRmaxは、従来からマスクブランク用基板10の表面粗さの管理に用いられており、表面粗さを数値で把握できる点で優れている。しかし、これらRms及びRmaxは、いずれも高さの情報であり、微細な表面形状の変化に関する情報を含まない。
【0064】
これに対して、得られた表面の凹凸を空間周波数領域へ変換することにより、空間周波数での振幅強度で表すパワースペクトル解析は、微細な表面形状を数値化することができる。Z(x,y)をx座標、y座標における高さのデータとすると、そのフーリエ変換は下式(2)で与えられる。
【0066】
ここで、Nx,Nyは、x方向とy方向のデータの数である。u=0、1、2・・・Nx−1、v=0、1、2・・・Ny−1であり、このときの空間周波数fは、下式(3)で与えられる。
【0067】
【数3】
ここで、式(3)において、dxはx方向の最小分解能であり、dyはy方向の最小分解能である。
【0068】
このときのパワースペクトル密度PSDは下式(4)で与えられる。
【数4】
【0069】
このパワースペクトル解析は、裏面導電膜23の表面形態の変化を単純な高さの変化としてだけでなく、その空間周波数での変化として把握することができる点で優れており、原子レベルでの微視的な反応などが表面に与える影響を解析する手法である。
【0070】
そして、本発明の導電膜付き基板50において、上記目的を達成するために、裏面導電膜23の表面が、パワースペクトル密度を用い、1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られる空間周波数1μm
−1以上100μm
−1以下のパワースペクトル密度が30nm
4以上200nm
4以下となるようにすることが好ましい。
【0071】
前記1μm×1μmの領域は、露光装置を用いて半導体装置を製造する際に、反射型マスクの裏面(裏面導電膜23)が静電チャックに当接する領域、及び欠陥検査装置や座標計測機の載置部が当接する領域を含む領域の箇所でよい。上記静電チャックが裏面導電膜23に当接する領域、及び欠陥検査装置や座標計測機の載置部が当接する領域を含む領域は、マスクブランク用基板10が6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)の場合、例えば、反射型マスクブランク30の表面の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域、146mm×146mmの領域、142mm×142mmの領域や、132mm×132mmの領域とすることができる。また、前記任意の箇所については、例えば、導電膜付き基板50の裏面導電膜23が形成された裏面の中心の領域、及び/又は欠陥検査装置や座標計測機の載置部が裏面導電膜23に当接する領域(当接部及びその近傍)とすることができる。
【0072】
また、本発明において、前記1μm×1μmの領域は、導電膜付き基板50の裏面導電膜23表面の中心の領域、及び/又は欠陥検査装置や座標計測機が裏面導電膜23に当接する領域とすることができる。例えば、導電膜付き基板50の裏面導電膜23の表面が長方形の形状をしている場合には、前記中心とは前記長方形の対角線の交点である。すなわち、前記交点と前記領域における中心(領域の中心も前記膜表面の中心と同様である)とが一致する。
【0073】
次に、本発明の導電膜付き基板50について、具体的に説明する。
【0074】
[マスクブランク用基板10]
まず、本発明の裏面導電膜23の製造に用いることのできるマスクブランク用基板10について以下に説明する。
【0075】
図1(a)は、本発明の裏面導電膜23の製造に用いることのできるマスクブランク用基板10の一例を示す斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に示すマスクブランク用基板10の断面模式図である。
【0076】
マスクブランク用基板10(又は、単に基板10と称す場合がある。)は、矩形状の板状体であり、2つの対向主表面2と、端面1とを有する。2つの対向主表面2は、この板状体の上面及び下面であり、互いに対向するように形成されている。また、2つの対向主表面2の少なくとも一方は、転写パターンが形成されるべき主表面である。
【0077】
端面1は、この板状体の側面であり、対向主表面2の外縁に隣接する。端面1は、平面状の端面部分1d、及び曲面状の端面部分1fを有する。平面状の端面部分1dは、一方の対向主表面2の辺と、他方の対向主表面2の辺とを接続する面であり、側面部1a、及び面取斜面部1bを含む。側面部1aは、平面状の端面部分1dにおける、対向主表面2とほぼ垂直な部分(T面)である。面取斜面部1bは、側面部1aと対向主表面2との間における面取りされた部分(C面)であり、側面部1aと対向主表面2との間に形成される。
【0078】
曲面状の端面部分1fは、基板10を平面視したときに、基板10の角部10a近傍に隣接する部分(R部)であり、側面部1c及び面取斜面部1eを含む。ここで、基板10を平面視するとは、例えば、対向主表面2と垂直な方向から、基板10を見ることである。また、基板10の角部10aとは、例えば、対向主表面2の外縁における、2辺の交点近傍である。2辺の交点とは、2辺のそれぞれの延長線の交点であってよい。本例において、曲面状の端面部分1fは、基板10の角部10aを丸めることにより、曲面状に形成されている。
【0079】
また、マスクブランク用基板10の主表面は、触媒基準エッチングにより表面加工された表面とすることが好ましい。触媒基準エッチング(Catalyst Referred Etching:以下、CAREともいう)とは、被加工物(マスクブランク用基板10)と触媒を処理液中に配置するか、被加工物と触媒との間に処理液を供給し、被加工物と触媒を接触させ、そのときに触媒上に吸着している処理液中の分子から生成された活性種によって被加工物を加工する表面加工方法である。尚、被加工物がガラスなどの固体酸化物からなる場合には、処理液を水とし、水の存在下で被加工物と触媒を接触させ、触媒と被加工物表面とを相対運動させる等することにより、加水分解による分解生成物を被加工物表面から除去し加工するものである。
【0080】
マスクブランク用基板10の主表面が、触媒基準エッチングにより、基準面である触媒表面に接触する凸部から選択的に表面加工される。そのため、主表面を構成する凹凸(表面粗さ)が、非常に高い平滑性を維持しつつ、非常に揃った表面形態となり、しかも、基準面に対して凸部よりも凹部を構成する割合が多い表面形態となる。したがって、前記主表面上に複数の薄膜を積層する場合においては、主表面の欠陥サイズが小さくなる傾向となるので、触媒基準エッチングによって表面処理することが欠陥品質上好ましい。特に、前記主表面上に、後述する多層反射膜21及び裏面導電膜23を形成する場合に特に効果が発揮される。
【0081】
尚、基板10の材料がガラス材料の場合、触媒としては、白金、金、遷移金属及びこれらのうち少なくとも一つを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を使用することができる。また、処理液としては、純水、オゾン水や水素水等の機能水、低濃度のアルカリ水溶液、低濃度の酸性水溶液からなる群より選択される少なくとも一種の処理液を使用することができる。
【0082】
本発明の裏面導電膜23に用いるマスクブランク用基板10は、転写パターンが形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されていることが好ましい。EUVの反射型マスクブランク用基板10の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域、又は142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05μm以下である。更に好ましくは、基板10の転写パターンが形成される側の主表面132mm×132mmの領域において、平坦度が0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットするときの静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0083】
EUV露光用の反射型マスクブランク用基板10の材料としては、低熱膨張の特性を有するものであれば何でもよい。例えば、低熱膨張の特性を有するSiO
2−TiO
2系ガラス(2元系(SiO
2−TiO
2)及び3元系(SiO
2−TiO
2−SnO
2等))、例えばSiO
2−Al
2O
3−Li
2O系の結晶化ガラスなどの所謂、多成分系ガラスを使用することができる。また、上記ガラス以外にシリコンや金属などの基板10を用いることもできる。前記金属の基板10の例としては、インバー合金(Fe−Ni系合金)などが挙げられる。
【0084】
上述のように、EUV露光用のマスクブランク用基板10の場合、基板10に低熱膨張の特性が要求されるため、多成分系ガラス材料を使用する。しかしながら、多成分系ガラス材料は、合成石英ガラスと比較して高い平滑性を得にくいという問題がある。この問題を解決すべく、多成分系ガラス材料からなる基板10上に、金属、合金からなる又はこれらのいずれかに酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含有した材料からなる薄膜を形成する。そして、このような薄膜表面を鏡面研磨、表面処理することにより、所望の表面を比較的容易に形成することができる。
【0085】
上記薄膜の材料としては、例えば、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかに酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物が好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、TaSiCONなどを適用することができる。これらTa化合物のうち、窒素(N)を含有するTaN、TaON、TaCON、TaBN、TaBON、TaBCON、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSiN、TaSiON、TaSiCONがより好ましい。尚、上記薄膜は、薄膜表面の高平滑性の観点から、好ましくはアモルファス構造とすることが望ましい。薄膜の結晶構造は、X線回折装置(XRD)により測定することができる。
【0086】
[多層反射膜付き基板20]
次に、本発明の裏面導電膜23及び反射型マスクブランク30に用いることのできる多層反射膜付き基板20について以下に説明する。
【0087】
図3は、本発明の裏面導電膜23及び反射型マスクブランク30に用いることのできる多層反射膜付き基板20の一例を示す模式図である。また、
図4に、本発明の多層反射膜付き基板20の別の一例の模式図を示す。
図4に示すように、多層反射膜付き基板20が所定の裏面導電膜23を有する場合には、この多層反射膜付き基板20は、本発明の裏面導電膜23の一種である。本明細書では、
図3及び
図4の両方に示す多層反射膜付き基板20を、本実施形態の多層反射膜付き基板20という。
【0088】
本実施形態の多層反射膜付き基板20は、上記説明したマスクブランク用基板10の転写パターンが形成される側の主表面上に多層反射膜21を有する構造としている。この多層反射膜21は、EUVリソグラフィー用反射型マスク40においてEUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層反射膜21の構成をとっている。
【0089】
多層反射膜21はEUV光を反射する限りその材質は特に限定されないが、その単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。このような多層反射膜21は、一般的には、高屈折率の材料からなる薄膜(高屈折率層)と、低屈折率の材料からなる薄膜(低屈折率層)とが、交互に40〜60周期程度積層された多層反射膜21とすることができる。
【0090】
例えば、波長13〜14nmのEUV光に対する多層反射膜21としては、Mo膜とSi膜とを交互に40周期程度積層したMo/Si周期多層膜とすることが好ましい。その他、EUV光の領域で使用される多層反射膜21として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などとすることが可能である。
【0091】
多層反射膜21の形成方法は当該技術分野において公知であるが、例えば、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などにより、各層を成膜することにより形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えば、イオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて厚さ数nm程度のSi膜を基板10上に成膜し、その後、Moターゲットを用いて厚さ数nm程度のMo膜を成膜し、これを一周期として、40〜60周期積層して、多層反射膜21を形成する。
【0092】
本実施形態の多層反射膜付き基板20を製造する際、多層反射膜21は、高屈折率材料のスパッタリングターゲット及び低屈折率材料のスパッタリングターゲットにイオンビームを交互に照射して、イオンビームスパッタリング法により形成されることが好ましい。所定のイオンビームスパッタリング法で多層反射膜21を形成することにより、EUV光に対する反射率特性が良好な多層反射膜21を確実に得ることができる。
【0093】
本実施形態の多層反射膜付き基板20は、マスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21の表面のうち、マスクブランク用基板10とは反対側の表面に接して配置される保護膜22を更に含むことが好ましい。
【0094】
上述のように形成された多層反射膜21の上に、EUVリソグラフィー用反射型マスク40の製造工程におけるドライエッチングやウェット洗浄からの多層反射膜21の保護のため、保護膜22(
図5を参照)を形成することができる。このように、マスクブランク用基板10上に、多層反射膜21と、保護膜22とを有する形態も、本実施形態の多層反射膜付き基板20とすることができる。
【0095】
尚、上記保護膜22の材料としては、例えば、Ru、Ru−(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)、Si−(Ru,Rh,Cr,B)、Si、Zr、Nb、La、B等の材料を使用することができるが、これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を適用すると、多層反射膜21の反射率特性がより良好となる。具体的には、Ru、Ru−(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)であることが好ましい。このような保護膜22は、特に、吸収体膜24をTa系材料とし、Cl系ガスのドライエッチングで当該吸収体膜24をパターニングする場合に有効である。
【0096】
多層反射膜21又は保護膜22の表面の形状を良好なものとするために、多層反射膜21の成膜の際に、基板10の主表面の法線に対して斜めに高屈折率層と低屈折率層とが堆積するように、スパッタリング法により成膜することが好ましい。より具体的には、Mo等の低屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子の入射角度と、Si等の高屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子の入射角度は、0度超45度以下にして成膜すると良い。より好ましくは、0度超40度以下、更に好ましくは、0度超30度以下が望ましい。更には、多層反射膜21上に形成する保護膜22も多層反射膜21の成膜後、連続して、基板10の主表面の法線に対して斜めに保護膜22が堆積するようにイオンビームスパッタリング法により形成することが好ましい。
【0097】
[導電膜付き基板50]
次に、本発明の導電膜付き基板50について、説明する。
図3に示す多層反射膜付き基板20において、基板10の多層反射膜21と接する面と反対側の面に、所定の裏面導電膜23を形成することによって、
図4に示すような本発明の導電膜付き基板50(本発明の多層反射膜付き基板20)を得ることができる。尚、
図2に示すように、マスクブランク用基板10の主表面上の一方の表面に、所定の裏面導電膜23を形成することによって、本発明の導電膜付き基板50を得ることができる。
【0098】
裏面導電膜23に求められる電気的特性(シート抵抗)は、通常100Ω/□以下である。裏面導電膜23の形成方法は公知であり、例えば、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法により、Cr、Ta等の金属や合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0099】
裏面導電膜23の形成方法は、導電膜材料である金属を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜することが好ましい。具体的には、裏面導電膜23を形成するための基板10の被成膜面を上方に向けて、基板10を水平面上で回転させ、基板10の中心軸と、スパッタリングターゲットの中心を通り基板10の中心軸とは平行な直線とがずれた位置で、被成膜面に対して所定の角度傾斜して対向したスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって裏面導電膜23を成膜することが好ましい。所定の角度は、スパッタリングターゲットの傾斜角度が5度以上30度以下の角度であることが好ましい。またスパッタリング成膜中のガス圧は、0.05Pa以上0.5Pa以下であることが好ましい。このような方法によって裏面導電膜23を成膜することにより、導電膜付き基板50を、裏面導電膜23の表面における1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られるベアリングエリア(%)とベアリング深さ(nm)との関係を所定の関係とし、かつ表面粗さの最大高さ(Rmax)を所定の範囲とすることができる。
【0100】
また、本発明の導電膜付き基板50では、基板10と多層反射膜21との間に下地層を形成しても良い。下地層は、基板10の主表面の平滑性向上の目的、欠陥低減の目的、多層反射膜21の反射率増強効果の目的、並びに多層反射膜21の応力補正の目的で形成することができる。
【0101】
[反射型マスクブランク30]
次に、本発明の反射型マスクブランク30について説明する。
図5は、本発明の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。本発明の反射型マスクブランク30は、上記説明した多層反射膜付き基板20の多層反射膜21上又は保護膜22上に、転写パターンとなる吸収体膜24を形成した構造を有する。
【0102】
上記吸収体膜24は、露光光であるEUV光を吸収する機能を有するもので、反射型マスクブランク30を使用して作製される反射型マスク40において、上記多層反射膜21、保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の反射率差を有するものであればよい。
【0103】
例えば、EUV光に対する吸収体膜24の反射率は、0.1%以上40%以下の間で設定される。また、上記反射率差に加えて、上記多層反射膜21、保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間で所望の位相差を有するものであってもよい。尚、このような反射光間で所望の位相差を有する場合、反射型マスクブランク30における吸収体膜24を位相シフト膜と称する場合がある。上記反射光間で所望の位相差を設けて、得られる反射型マスク40の反射光のコントラストを向上させる場合、位相差は180度±10度の範囲に設定することが好ましく、吸収体膜24の絶対反射率で1.5%以上30%以下、多層反射膜21及び/又は保護膜22の表面に対する吸収体膜24の反射率は、2%以上40%以下に設定することが好ましい。
【0104】
上記吸収体膜24は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜のいずれでもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。
【0105】
上記吸収体膜24の材料は、特に限定されるものではない。例えば、EUV光を吸収する機能を有するもので、Ta(タンタル)単体、又はTaを主成分とする材料を用いることが好ましい。Taを主成分とする材料は、通常、Taの合金である。このような吸収体膜24の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主成分とする材料としては、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、更にOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料などを用いることができる。また例えば、TaにB、Si、Ge等を加えることにより、アモルファス構造が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。更に、TaにN、Oを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。吸収体膜24は、微結晶構造であるか、又はアモルファス構造であることが好ましい。結晶構造については、X線回折装置(XRD)により確認することができる。
【0106】
具体的には、吸収体膜24を形成するタンタルを含有する材料としては、例えば、タンタル金属、タンタルに、窒素、酸素、ホウ素及び炭素から選ばれる一以上の元素を含有し、水素を実質的に含有しない材料等が挙げられる。例えば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCN及びTaBOCN等が挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、タンタル以外の金属を含有させてもよい。吸収体膜24を形成するタンタルを含有する材料にホウ素を含有させると、吸収体膜24をアモルファス構造(非晶質)になるように制御しやすい。
【0107】
本発明の反射型マスクブランクの吸収体膜24は、タンタルと窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。吸収体膜24中の窒素含有量は、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましく、20原子%以下であることが更に好ましい。吸収体膜24中の窒素含有量は、5原子%以上であることが好ましい。
【0108】
本発明の反射型マスクブランク30では、吸収体膜24が、タンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることが好ましい。吸収体膜24がタンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることにより、吸収体膜24の表面において、上述の所定のベアリングエリア(%)とベアリング深さ(nm)との関係、及び所定の範囲の最大高さ(Rmax)を得ることができ、更に、吸収体膜24を構成する結晶粒子の拡大を抑制できるので、吸収体膜24をパターニングしたときのパターンエッジラフネスが低減できる。
【0109】
本発明の反射型マスクブランク30では、吸収体膜24の膜厚は、多層反射膜21又は保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の反射率差を有するものとするために必要な膜厚に設定する。吸収体膜24の膜厚は、シャドーイング効果を小さくするために、60nm以下であることが好ましい。
【0110】
また、本発明の反射型マスクブランク30では、上記吸収体膜24は、上記多層反射膜21又は保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の位相差を有する位相シフト機能を持たせることができる。その場合、EUV光による転写解像性が向上した反射型マスク40のための原版である反射型マスクブランク30が得られる。また、所望の転写解像性を得るのに必要な位相シフト効果を奏するため、必要な吸収体膜24の膜厚を従来よりも薄膜化することができるので、シャドーイング効果を小さくした反射型マスクブランクが得られる。
【0111】
位相シフト機能を有する吸収体膜24の材料は、特に限定されるものではない。例えば、上記に挙げたTa単体、又はTaを主成分とする材料とすることができるし、それ以外の材料でも構わない。Ta以外の材料としては、Ti、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh、Wが挙げられる。また、Ta、Ti、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh、Wのうち2以上の元素を含む合金や、これらの元素の積層膜とすることができる。また、これらの材料に窒素、酸素、炭素から選ばれる一以上の元素を含有しても良い。
【0112】
尚、吸収体膜24を積層膜とする場合、同一材料の層の積層膜や、異種材料の層の積層膜としても良い。吸収体膜24を異種材料の層の積層膜とした場合、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持った吸収体膜24としてもよい。
【0113】
尚、本発明の反射型マスクブランク30は、
図5に示す構成に限定されるものではない。例えば、上記吸収体膜24の上に、吸収体膜24をパターニングするためのマスクとなるレジスト膜を形成することもでき、レジスト膜付き反射型マスクブランク30も、本発明の反射型マスクブランク30とすることができる。尚、吸収体膜24の上に形成するレジスト膜は、ポジ型でもネガ型でも構わない。また、レジスト膜は、電子線描画用でもレーザー描画用でも構わない。更に、吸収体膜24と前記レジスト膜との間に、いわゆるハードマスク膜(エッチングマスク膜25)を形成することもでき、この態様も本発明における反射型マスクブランク30とすることができる。
【0114】
本発明の反射型マスクブランク30は、マスクブランク用多層膜26が、吸収体膜24の表面のうち、マスクブランク用基板10とは反対側の表面に接して配置されるエッチングマスク膜25を更に含むことが好ましい。
図7に示す反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用基板10の主表面の上のマスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22及び吸収体膜24に加えて、更にエッチングマスク膜25を有している。本発明の反射型マスクブランク30は、
図7に示す反射型マスクブランク30のマスクブランク用多層膜26の最表面に、更にレジスト膜を有することができる。
【0115】
具体的には、本発明の反射型マスクブランク30は、吸収体膜24の材料が、Ta単体、又はTaを主成分とする材料を用いる場合、吸収体膜24上にクロムを含有する材料からなるエッチングマスク膜25が形成された構造となっていることが好ましい。このような構造の反射型マスクブランク30とすることにより、吸収体膜24に転写パターンを形成後、エッチングマスク膜25を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで剥離しても、吸収体パターン27の光学的特性が良好な反射型マスク40を作製することができる。また、吸収体膜24に形成された転写パターンのラインエッジラフネスが良好な反射型マスク40を作製することができる。
【0116】
エッチングマスク膜25を形成するクロムを含有する材料としては、例えば、クロムに、窒素、酸素、炭素及びホウ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料等が挙げられる。例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCN等が挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有させてもよい。エッチングマスク膜25の膜厚は、転写パターンを精度よく吸収体膜24に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、3nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜25の膜厚は、レジスト膜の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0117】
次に、本発明の反射型マスクブランク30の製造方法について、
図4に示す多層反射膜付き基板20を出発材料として、説明する。本発明の反射型マスクブランク30の製造方法は、マスクブランク用基板10の主表面の上に形成された多層反射膜21の上に、吸収体膜24を形成する。尚、
図2に示す多層反射膜付き基板20を用いた場合には、更に基板10の裏面に、上述のように所定の裏面導電膜23を形成する。
【0118】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法では、吸収体膜24を形成する工程において、吸収体膜24は、吸収体膜24に含まれる材料からなるスパッタリングターゲットを用いる反応性スパッタリング法により形成され、反応性スパッタリングの際の雰囲気ガスに含まれる成分が含有されるように吸収体膜24が形成されることが好ましい。反応性スパッタリング法による成膜の際に、雰囲気ガスの流量を調節することにより、表面形状が所定の形状となるように、調節することができる。
【0119】
反応性スパッタリング法により吸収体膜24を形成する場合、雰囲気ガスは、不活性ガスと、窒素ガスとを含有する混合ガスであることが好ましい。この場合には、窒素の流量を調節することができるので、適切な組成を有する吸収体膜24を得ることができる。
【0120】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法では、吸収体膜24は、タンタルを含む材料のスパッタリングターゲットを用いて形成されることが好ましい。この結果、タンタルを含む、光を適切に吸収する吸収体膜24を形成することができる。
【0121】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法は、多層反射膜21の表面に接して配置される保護膜22を形成する工程を更に含むことが好ましい。保護膜22を形成することにより、反射型マスク(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜21の表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が更に良好となる。また、製造される反射型マスクブランク30において、高感度欠陥検査装置を使用しての保護膜22の表面の、欠陥検査における疑似欠陥の検出を抑制することができ、更に致命欠陥の顕在化を図ることができる。
【0122】
保護膜22は、保護膜22材料のスパッタリングターゲットにイオンビームを照射する、イオンビームスパッタリング法により形成されることが好ましい。イオンビームスパッタリング法によって、保護膜22表面の平滑化が得られるので、保護膜22上に形成される吸収体膜24や、更に吸収体膜24上に形成されるエッチングマスク膜25の表面を平滑化させることができる。
【0123】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法は、吸収体膜24の表面に接して配置されるエッチングマスク膜25を形成する工程を更に含むことが好ましい。吸収体膜24とはドライエッチング特性が異なるエッチングマスク膜25を形成することにより、吸収体膜24に転写パターンを形成する際に、高精度の転写パターンを形成することができる。
【0124】
[反射型マスク40]
次に、本発明の一実施形態に係る反射型マスク40について以下に説明する。
図6は、本実施形態の反射型マスク40を示す模式図である。
【0125】
本発明の反射型マスク40は、上記の反射型マスクブランク30における吸収体膜24をパターニングして、上記多層反射膜21上又は上記保護膜22上に吸収体パターン27を形成した構造である。本実施形態の反射型マスク40は、EUV光等の露光光で露光すると、反射型マスク40の表面で吸収体膜24のある部分では露光光が吸収され、それ以外の吸収体膜24を除去した部分では露出した保護膜22及び多層反射膜21で露光光が反射されることにより、リソグラフィー用の反射型マスク40として使用することができる。本発明の反射型マスク40を用いるならば、反射型マスク40を欠陥検査装置及び座標計測機等によって検査・計測する際に、載置部による基板等の固定の際の裏面導電膜の滑りを抑制することができる。
【0126】
[半導体装置の製造方法]
以上説明した反射型マスク40と、露光装置を使用したリソグラフィープロセスにより、半導体基板等の被転写体上に形成されたレジスト膜に、反射型マスク40の吸収体パターン27に基づく回路パターン等の転写パターンを転写し、その他種々の工程を経ることで、半導体基板等の被転写体上に種々の転写パターン等が形成された半導体装置を製造することができる。
【0127】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、高感度の欠陥検査装置を用いた欠陥検査において、異物や傷などの致命欠陥を排除した反射型マスク40を使用できるので、半導体基板等の被転写体上に形成されたレジスト膜に転写する回路パターン等の転写パターンに欠陥がなく、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0128】
尚、上述のマスクブランク用基板10、多層反射膜付き基板20及び反射型マスクブランク30に、基準マーク44を形成し、この基準マーク44と、上述の高感度欠陥検査装置で検出された致命欠陥の位置を座標管理することができる。得られた致命欠陥の位置情報(欠陥データ)に基づいて、反射型マスク40を作製するときに、上述の欠陥データと被転写パターン(回路パターン)データと元に、致命欠陥が存在している箇所に吸収体パターン27が形成されるように描画データを補正して、欠陥を低減させることができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明のEUV露光用の多層反射膜付き基板20、反射型マスクブランク30及び反射型マスク40を製造した例を実施例として説明する。
【0130】
まず、EUV露光用のマスクブランク用基板10の表面に、多層反射膜21を以下に述べるように成膜して、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の多層反射膜付き基板20を製造した。
【0131】
<マスクブランク用基板10の作製>
実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2に用いるマスクブランク用基板10は、次のようにして製造した。
【0132】
マスクブランク用基板10として、大きさが152mm×152mm、厚さが6.35mmのSiO
2−TiO
2系のガラス基板を準備し、両面研磨装置を用いて、当該ガラス基板の表裏面を、酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカ砥粒により段階的に研磨した後、低濃度のケイフッ酸で表面処理した。これにより得られたガラス基板表面の表面粗さを原子間力顕微鏡で測定したところ、二乗平均平方根粗さ(Rms)は0.5nmであった。
【0133】
当該ガラス基板の表裏面における148mm×148mmの領域の表面形状(表面形態、平坦度)、TTV(板厚ばらつき)を、波長変調レーザーを用いた波長シフト干渉計で測定した。その結果、ガラス基板の表裏面の平坦度は290nm(凸形状)であった。ガラス基板表面の表面形状(平坦度)の測定結果は、測定点ごとにある基準面に対する高さの情報としてコンピュータに保存するとともに、ガラス基板に必要な表面平坦度の基準値50nm(凸形状)、裏面平坦度の基準値50nmと比較し、その差分(必要除去量)をコンピュータで計算した。
【0134】
次いで、ガラス基板面内を加工スポット形状領域ごとに、必要除去量に応じた局所表面加工の加工条件を設定した。事前にダミー基板を用いて、実際の加工と同じようにダミー基板を、一定時間基板を移動させずにスポットで加工し、その形状を上記表裏面の表面形状を測定する装置と同じ測定機にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットの加工体積を算出する。そして、スポットの情報とガラス基板の表面形状の情報より得られた必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
【0135】
設定した加工条件に従い、磁気粘弾性流体による基板仕上げ装置を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magneto Rheological Finishing : MRF)加工法により、ガラス基板の表裏面平坦度が上記の基準値以下となるように局所表面加工処理をして表面形状を調整した。尚、このとき使用した磁気粘弾性流体は、鉄成分を含んでおり、研磨スラリーは、研磨剤として酸化セリウムを約2wt%含むアルカリ水溶液を用いた。その後、ガラス基板を濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬した後、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)乾燥を行った。
【0136】
得られたガラス基板表面の表面形状(表面形態、平坦度)を測定したところ、表裏面の平坦度は約40〜50nmであった。また、ガラス基板表面の表面粗さを、転写パターン形成領域(132mm×132mm)の任意の箇所の1μm×1μmの領域において、原子間力顕微鏡を用いて測定したところ、二乗平均平方根粗さ(Rms)は0.37nmとなっており、MRFによる局所表面加工前の表面粗さより荒れた状態になっていた。
【0137】
そのため、ガラス基板の表裏面について、ガラス基板表面の表面形状が維持又は改善する研磨条件で両面研磨装置を用いて両面研磨を行った。この仕上げ研磨は、以下の研磨条件で行った。
加工液:アルカリ水溶液(NaOH)+研磨剤(濃度:約2wt%)
研磨剤:コロイダルシリカ、平均粒径:約70nm
研磨定盤回転数:約1〜50rpm
加工圧力:約0.1〜10kPa 研磨時間:約1〜10分
【0138】
その後、ガラス基板をアルカリ水溶液(NaOH)で洗浄し、EUV露光用のマスクブランク用基板10を得た。
【0139】
得られたマスクブランク用基板10の表裏面の平坦度、表面粗さを測定したところ、表裏面平坦度は約40nmと両面研磨装置による加工前の状態を維持又は改善しており良好であった。また、得られたマスクブランク用基板10について、転写パターン形成領域(132mm×132mm)の任意の箇所の1μm×1μmの領域を、原子間力顕微鏡で測定したところ、その表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)は0.13nm、最大高さ(Rmax)は1.2nmであった。
【0140】
尚、本発明におけるマスクブランク用基板10の局所加工方法は、上述した磁気粘弾性流体研磨加工法に限定されるものではない。ガスクラスターイオンビーム(Gas Cluster Ion Beams : GCIB)や局所プラズマを使用した加工方法であってもよい。
【0141】
以上のようにして、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2に用いるマスクブランク用基板10を製造した。
【0142】
<多層反射膜21の作製>
実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の多層反射膜21の成膜は次のようにして行った。すなわち、Moターゲット及びSiターゲットを使用して、イオンビームスパッタリングによりMo層(低屈折率層、厚み2.8nm)及びSi層(高屈折率層、厚み4.2nm)を交互積層し(積層数40ペア)、多層反射膜21を上述のマスクブランク用基板10上に形成した。イオンビームスパッタリング法による多層反射膜21の成膜の際、イオンビームスパッタリングにおけるマスクブランク用基板10の主表面の法線に対するMo及びSiスパッタ粒子の入射角度は30度、イオンソースのガス流量は8sccmとした。
【0143】
多層反射膜21の成膜後、更に連続して多層反射膜21上にイオンビームスパッタリングによりRu保護膜22(膜厚2.5nm)を成膜して多層反射膜付き基板20とした。イオンビームスパッタリング法によるRu保護膜22の成膜の際、基板10の主表面の法線に対するRuスパッタ粒子の入射角度は40度、イオンソースのガス流量は8sccmとした。
【0144】
<基準マーク44の形成>
次に、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2のRu保護膜22及び多層反射膜21の、132mm×132mmの外側四隅の所定位置に、長さ550μmの十字型の基準マーク44を、フォトリソグラフィ法により形成した。まず、Ru保護膜22の表面にレジスト膜形成し、所定の基準マーク44パターンを描画及び現像して、基準マーク44パターンのレジストパターンを形成した。次に、このレジストパターンをマスクにしてF系ガスであるClF
3ガスによりRu保護膜22及び多層反射膜付き基板20をドライエッチングすることによって、Ru保護膜22及び多層反射膜付き基板20に基準マーク44を形成した。その後、不要となったレジストパターンを剥離した。
図10に、この基準マーク44を有する反射型マスク40を示す。
【0145】
<吸収体膜24の作製>
次に、上述した実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の多層反射膜付き基板20の保護膜22の表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収体膜24を作成した。吸収体膜24は、吸収層であるTaBN膜及び低反射層であるTaBO膜の二層からなる積層膜の吸収体膜24とした。実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の吸収体膜24の成膜方法は、次のとおりである。
【0146】
まず、上述した多層反射膜付き基板20の保護膜22表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層としてTaBN膜を成膜した。このTaBN膜は、TaB混合焼結ターゲット(Ta:B=80:20、原子比)に多層反射膜付き基板20を対向させ、Arガス及びN
2ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行った。表1に、TaBN膜を成膜する際のArガス及びN
2ガスの流量等の成膜条件を示す。成膜後、X線光電子分光法(XPS法)により、TaBN膜の元素組成を測定した。表1に、XPS法により測定したTaBN膜の元素組成を、TaBN膜の膜厚と共に示す。尚、上記TaBN膜の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。
【0147】
次に、TaBN膜の上に更に、Ta、B及びOを含むTaBO膜(低反射層)を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。このTaBO膜は、第1膜のTaBN膜と同様に、TaB混合焼結ターゲット(Ta:B=80:20、原子比)に多層反射膜付き基板20を対向させ、Ar及びO
2の混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行った。表1に、TaBO膜を成膜する際のArガス及びO
2ガスの流量等の成膜条件を示す。成膜後、X線光電子分光法(XPS法)により、TaBO膜の元素組成を測定した。表1に、XPS法により測定したTaBO膜の元素組成を、TaBO膜の膜厚と共に示す。尚、上記TaBO膜の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。以上のようにして、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の吸収体膜24(積層膜)を成膜した。
【0148】
【表1】
【0149】
<裏面導電膜23の作製>
上述した実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の多層反射膜付き基板20の多層反射膜21を形成していない裏面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、次のようにして、裏面導電膜23を形成した。表2に形成した裏面導電膜23の組成及び膜厚等を示す。
【0150】
<実施例1の裏面導電膜23の作製>
実施例1の裏面導電膜23は、次のようにして成膜した。すなわち、Crターゲットを多層反射膜付き基板20の裏面に対向させ、Arガス(流量:24sccm)及びN
2ガス(流量:6sccm)の混合ガスを成膜ガスとして用いて、反応性スパッタリングを行った。裏面導電膜23の成膜時間を調節することにより、実施例1の裏面導電膜23の膜厚を20nmとした。
【0151】
<
比較例Aの裏面導電膜23の作製>
比較例Aの裏面導電膜23として、CrN/CrCN/CrONの三層からなる裏面導電膜23を、インライン型スパッタリング装置によりスパッタリング成膜した。まず、クロムターゲットを用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N)の混合ガス雰囲気(Ar:72体積%、N
2:28体積%、圧力0.3Pa)中で反応性スパッタリングにより、膜厚15nmのCrN膜を形成し、次いで、クロムターゲットを用い、アルゴンとメタンの混合ガス雰囲気(Ar:96.5体積%、CH4:3.5体積%、圧力0.3Pa)中で反応性スパッタリングにより、膜厚25nmのCrC膜を形成した。尚、インライン型スパッタリング装置で成膜したため、CrC膜にはNが含まれており、実際にはCrCN膜となっていた。最後に、クロムターゲットを用い、アルゴンと一酸化窒素の混合ガス雰囲気(Ar:87.5体積%、NO:12.5体積%、圧力0.3Pa)中で反応性スパッタリングにより、膜厚20nmのCrON膜を形成した。得られたCrN膜における窒素の含有量は20at%、CrC膜(CrCN膜)における炭素の含有量は6at%、CrON膜における酸素の含有量は45at%、窒素の含有量は25at%であった。尚、上述の膜厚は、単体の膜を成膜した場合の膜厚であるが、CrN/CrCN/CrONの三層を成膜後、三層全体の膜厚を測定したところ、70nmだった。
【0152】
<
参考例3の裏面導電膜23の作製>
参考例3の裏面導電膜23は、成膜時間の調整により膜厚を50nmとした以外は、実施例1の裏面導電膜23と同じ条件で成膜した。
【0153】
<
参考例4の裏面導電膜23の作製>
参考例4の裏面導電膜は、次のようにして成膜した。すなわち、Crターゲットを多層反射膜付き基板20の裏面に対向させ、Arガス(流量:48sccm)及びN
2ガス(流量:6sccm)の混合ガスを成膜ガスとして用いて、反応性スパッタリングを行った。裏面導電膜23の成膜時間を調節することにより、
参考例4の裏面導電膜23の膜厚を200nmとした。
【0154】
<
比較例Bの裏面導電膜23の作製>
比較例Bの裏面導電膜23は、次のようにして成膜した。すなわち、Taターゲットを多層反射膜付き基板20の裏面に対向させ、Xeガス(流量:12sccm)及びN
2ガス(流量:6sccm)の混合ガスを成膜ガスとして用いて、反応性スパッタリングを行った。裏面導電膜23の成膜時間を調節することにより、
比較例Bの裏面導電膜23の膜厚を70nmとした。
【0155】
<比較例1の裏面導電膜23の作製>
比較例1の裏面導電膜23は、成膜時間の調節により膜厚を200nmとした以外は、実施例1の裏面導電膜23と同じ条件で成膜した。
【0156】
<比較例2の裏面導電膜23の作製>
比較例2の裏面導電膜23の成膜は、成膜ガスの混合比を、Arガス流量24sccm及びN
2ガス流量8sccmとした以外は、上述の実施例1及び比較例1の裏面導電膜23と同様に行った。また、裏面導電膜23の成膜時間を調節することにより、比較例2の裏面導電膜23の膜厚を20nmとした。
【0157】
以上のようにして、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の反射型マスクブランク30を得た。
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
<原子間力顕微鏡による測定>
実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2として得られた反射型マスクブランク30の裏面導電膜23の表面について、任意の箇所(具体的には、裏面導電膜23が形成された基板の中心、及び座標計測機の載置部が裏面導電膜23当接する位置)の1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定した。表2及び表3に、原子間力顕微鏡による測定によって得られた表面粗さ(Rmax、Rms)、及びベアリングエリア30%をBA
30、ベアリングエリア70%をBA
70、ベアリングエリア30%及び70%に対応するベアリング深さをそれぞれBD
30及びBD
70と定義したときの、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値(%/nm)を示す。尚、表2及び表3に記載している表面粗さ(Rmax、Rms)及び(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値は、10回測定した測定値の平均値である。
【0161】
図8に、実施例1及び
比較例Aのベアリングカーブ測定結果を示す。また、
図9に、比較例1 及び2のベアリングカーブ測定結果を示す。
図8及び
図9において、縦軸はベアリングエリア(%)、横軸はベアリング深さ(nm)である。参考のため、
図8に、
比較例Aのベアリングカーブ測定結果おける、BA
70、BA
30、BD
70及びBD
30を示す。
【0162】
図8に示す実施例1及び
比較例Aの場合には、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値がそれぞれ、258.065(%/nm)及び46.893(%/nm)であり、15〜260(%/nm)の範囲であった。一方、
図9に示す比較例1及び2の場合には、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値がそれぞれ10.979(%/nm)及び275.86(%/nm)であり、15〜260(%/nm)の範囲外であった。
【0163】
また、
参考例3では、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値が、111.1(%/nm)、
参考例4では、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値が、19.1(%/nm)、
比較例Bでは、(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値が、111.1(%/nm)であり、15〜260(%/nm)の範囲であった。
【0164】
また、表2及び表3に示すとおり、実施例1
、参考例3及び4、比較例A及びBの裏面導電膜23の表面の1μm×1μmの領域において、原子間力顕微鏡で測定して得られる表面粗さの最大高さ(Rmax)は、1.3nm以上15nm以下であった。一方、比較例1及び2の裏面導電膜23の表面の1μm×1μmの領域において、原子間力顕微鏡で測定して得られる表面粗さの最大高さ(Rmax)は、1.3nm以上15nm以下の範囲外だった。
【0165】
次に、上述のようにして得られた実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の裏面導電膜23の表面を、レーザーテック社製マスク・ブランクス欠陥検査装置(MAGICS M1350)を用いて欠陥検査した。表2及び表3に、欠陥検査結果を示す。表2及び表3の中で、「○」は検査可能であることを示し、「×」は検査不可(欠陥検出個数のオーバーフローで検査途中に検査を中断)であったことを示す。表2から明らかなように、比較例1の場合には、欠陥検出個数が多すぎたため、オーバーフローとなり、欠陥検査を行うことができなかった。このことから、比較例1のように、ベアリングカーブの(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値が10.979(%/nm)であり、20(%/nm)未満である場合には、擬似欠陥による見かけ上の欠陥検出個数が増加するため、欠陥検査装置による測定が不可能になることが示唆される。
【0166】
図11は、実施例1のベアリング深さ(nm)とその頻度(%)との関係をプロットした度数分布を示すグラフである。グラフの縦軸(Hist.)は頻度(%)、横軸(Depth)はベアリング深さ(nm)である。
【0167】
図11のグラフより、半値幅FWHM(full width at half maximum)の中心に対応するベアリング深さ(BDM)(nm)(
図11の例では、(BD1+BD2)/2のベアリング深さである点線)の絶対値と、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値(nm)(
図11の例では、「1/2Rmax」と記載した縦軸に平行な直線として図示している。)を求めた。その結果、半値幅FWHMの中心に対応するベアリング深さ(nm)は、0.707nm、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値(nm)は0.77nmであった。したがって、実施例1のCrN膜表面は、半値幅FWHMの中心値に対応するベアリング深さの絶対値が、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値よりも小さい表面形態を有していることが確認された。
【0168】
この実施例1の裏面導電膜表面を静電チャックによりチャッキングする前と、繰り返し5回着脱した後の欠陥個数を欠陥検査装置(レーザーテック社製MAGICS1350)により、0.2μm以上の大きさの増加欠陥数を調べた。測定領域は、裏面導電膜の中心132mm×132mmの領域を測定した。その結果、増加欠陥数は54個となり100個未満で良好な結果が得られた。
【0169】
次に、繰り返し5回着脱した後の実施例1の裏面導電膜表面をアルカリ洗浄液で洗浄したところ、0.2μm以上の大きさの欠陥個数は、7個に低減し、良好な表面状態を得ることができた。
【0170】
次に、
比較例A及び
比較例Bについても同様に、半値幅FWHM(full width at half maximum)の中心に対応するベアリング深さ(nm)の絶対値と、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値(nm)を求めた。その結果、
比較例Aの場合、半値幅FWHMの中心に対応するベアリング深さ(nm)は、5.10nm、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値(nm)は4.08nmであった。一方、
比較例Bの場合、半値幅FWHMの中心に対応するベアリング深さ(nm)は1.42nm、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値(nm)は1.42nmであった。したがって、
比較例AのCrN膜表面と
比較例BのTaN膜表面は、半値幅FWHMの中心値に対応するベアリング深さの絶対値が、最大高さ(Rmax)の2分の1に対応するベアリング深さの絶対値以上の表面形態を有していることが確認された。
【0171】
この
比較例A及び
比較例Bの裏面導電膜表面を静電チャックによりチャッキングする前と、繰り返し5回着脱した後の欠陥個数を欠陥検査装置(レーザーテック社製MAGICS1350)により、0.2μm以上の大きさの増加欠陥数を調べた。測定領域は、裏面導電膜の中心132mm×132mmの領域を測定した。その結果、
比較例Aの増加欠陥数は、788個、
比較例Bの増加欠陥数は、176個と何れも100個超であった。
【0172】
しかし、繰り返し5回着脱した後の
比較例A及び
比較例Bの裏面導電膜表面をアルカリ洗浄液で洗浄したところ、0.2μm以上の大きさの欠陥個数は、
比較例Aの場合、23個、
比較例Bの場合、11個に低減し、良好な表面状態を得ることができた。
【0173】
<座標計測測定評価用マスク40の作製>
実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の反射型マスクブランク30の吸収体膜24の表面に、スピンコート法によりレジストを塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚150nmのレジスト膜を成膜した。次いで、
図10に示す座標計測測定評価用パターン42(単に、「評価用パターン42」という。)の描画及び現像工程を経て、レジストパターン形成した。
【0174】
図10に、評価用パターン42を有する反射型マスク40(座標計測測定評価用マスク40)を示す。
図10に示す反射型マスク40は、132mm×132mm内に等間隔で、20個×20個(合計400個)の評価用パターン42(ホールパターン42、サイズは一辺500nmの矩形状)を吸収体膜24に形成したものである。尚、
図10に示すように、132mm×132mmの外側の四隅に、上述の十字型の基準マーク44(長さ550μm)が形成されている。
【0175】
具体的には、座標計測測定評価用マスク40の製造のために、まず、座標計測機(KLA−Tencor社製 IPRO)を用いて、反射型マスクブランク30に形成された基準マーク44の座標(十字の中心)を計測した。次に、反射型マスクブランク30の吸収体膜24上にレジスト液を塗布し、レジスト膜を形成した。次に、レジスト膜に対して、上述の評価用パターン42を電子線描画(EB描画)し、現像を行い、レジストパターンを形成した。評価用パターン42の電子線描画の際、上述の基準マーク44は、多層反射膜21上に形成された吸収体膜24及びレジスト膜にも反映して形成されているので、EBにて基準マーク44を検出し、基準マーク44と評価用パターン42の座標との相関をとった。基準マーク44の基準座標は、基準マーク44の十字の中心である。次に、レジストパターンをマスクとして、吸収体膜24をCl系ガス(例えば、塩素(Cl
2)及び酸素(O
2)の混合ガス)によってドライエッチングして、吸収体パターン27を形成した。最後にレジスト膜を剥離して、座標計測測定評価用マスク40を得た。
【0176】
<評価用パターン42の計測精度の評価方法>
座標計測測定評価用マスク40を、座標計測機(KLA−Tencor社製 IPRO)にて、座標計測測定評価用マスク40の基準マーク44の座標を計測後、評価用パターン42の座標を計測することによって、評価用パターン42(ホールパターン42の座標)の計測精度を測定した。表2及び表3に、測定によって得られた評価用パターン42の計測精度を示す。表2及び表3から明らかなように、比較例2の場合には、評価用パターン42の計測精度が8.0nmと、実施例1
、参考例3及び4、比較例A及びBと比較して、大きかった。このことから、比較例2のように、ベアリングカーブの(BA
70−BA
30)/(BD
70−BD
30)の値が275.86(%/nm)であり、260(%/nm)を超える場合には、座標計測機による計測時に評価用マスクの滑りが生じ、評価用パターン42の位置精度が悪化することが示唆される。
【0177】
<反射型マスク40の作製及び半導体装置の製造>
実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の反射型マスクブランク30の吸収体膜24の表面に、スピンコート法によりレジストを塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚150nmのレジスト膜を成膜した。次いで、所望のパターンの描画及び現像工程を経て、レジストパターン形成した。当該レジストパターンをマスクにして、所定のドライエッチングにより、吸収体膜24のパターニングを行い、保護膜22上に吸収体パターン27を形成した。尚、吸収体膜24がTaBN膜である場合には、Cl
2及びHeの混合ガスによりドライエッチングすることができる。また、吸収体膜24がTaBN膜及びTaBO膜の二層からなる積層膜である場合には、塩素(Cl
2)及び酸素(O
2)の混合ガス(塩素(Cl
2)及び酸素(O
2)の混合比(流量比)は8:2)によりドライエッチングすることができる。
【0178】
その後、レジスト膜を除去し、上記と同様の薬液洗浄を行い、実施例1
、参考例3及び4、並びに比較例
A、B、1及び2の反射型マスク40を作製した。尚、上述の描画工程においては、上記基準マークを元に作成された欠陥データに基づいて、欠陥データと被転写パターン(回路パターン)データとを元に、致命欠陥が存在している箇所に吸収体パターン27が配置されるように描画データを補正して、反射型マスク40を作製した。得られた実施例1
、参考例3及び4、比較例
A、B、1及び2の反射型マスク40について、高感度欠陥検査装置(KLA−Tencor社製「Teron610」)を使用して欠陥検査を行った。
【0179】
座標計測機の載置部による裏面導電膜の滑りが抑制され、座標計測機によるパターンの計測の際の位置精度が良好であったことにより、実施例1
、参考例3及び4、比較例A及びBの反射型マスク40の高感度欠陥検査装置による測定では、欠陥は少なく、実用上問題ないレベルであった。一方、比較例1及び2の反射型マスク40の場合には、座標計測機の載置部による裏面導電膜の滑りにより、座標計測機によるパターンの計測の際の位置精度が悪化したことにより、高感度欠陥検査装置による測定により、多数の欠陥が検出された。
【0180】
次に、上述の実施例1
、参考例3及び4、比較例A及びBの反射型マスク40を使用し、露光装置を使用して、半導体基板である被転写体上のレジスト膜にパターン転写を行い、その後、配線層をパターニングして、半導体装置を作製すると、パターン欠陥のない半導体装置を作製することができる。
【0181】
尚、上述の多層反射膜付き基板20、反射型マスクブランク30の作製において、マスクブランク用基板10の転写パターンが形成される側の主表面に、多層反射膜21及び保護膜22を成膜した後、上記主表面とは反対側の裏面に裏面導電膜23を形成したがこれに限らない。マスクブランク用基板10の転写パターンが形成される側の主表面とは反対型の主表面に裏面導電膜23を形成し、導電膜付き基板を準備した後、転写パターンが形成される側の主表面に、多層反射膜21や、更に保護膜22を成膜して多層反射膜付き基板20、更に保護膜22上に吸収体膜24を成膜して反射型マスクブランク30を作製しても構わない。この作製方法による反射型マスクブランク30の場合には、上述の実施例
1、参考例3及び4、比較例A及びBと比べて裏面導電膜表面の欠陥個数は若干増加したが、評価用パターンの座標の計測精度は、2.5nm以下となり、上述の実施例
1、参考例3及び4、比較例A及びBと同様の効果が得られることを確認した。欠陥検査装置の載置部が、多層反射膜付き基板20や反射型マスクブランク30の裏面導電膜23に当接して欠陥検査を行う場合、多層反射膜付き基板20や反射型マスクブランク30の欠陥検査においても、検出欠陥の位置精度が向上されるので好ましい。