(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465817
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】インスリン位置特異的結合体
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20190128BHJP
C07K 14/62 20060101ALI20190128BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20190128BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20190128BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20190128BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20190128BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20190128BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20190128BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20190128BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
C07K19/00ZNA
C07K14/62
C07K16/00
A61K38/28
A61K47/56
A61K47/58
A61K47/61
A61K47/54
A61K47/68
A61P3/10
【請求項の数】28
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-559200(P2015-559200)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公表番号】特表2016-510004(P2016-510004A)
(43)【公表日】2016年4月4日
(86)【国際出願番号】KR2014001597
(87)【国際公開番号】WO2014133327
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2017年1月30日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0020703
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515182071
【氏名又は名称】ハンミ ファーム.カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANMI PHARM.CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ミョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、デ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、サン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ウク
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ソン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】クォン、セ チャン
【審査官】
西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/122860(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/165915(WO,A2)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0134210(KR,A)
【文献】
国際公開第2011/122921(WO,A2)
【文献】
Kurose, T. et al.,"Cross-linking of a B25 azidophenylalanine insulin derivative to the carboxyl-terminal region of the alpha-subunit of the insulin receptor. Identification of a new insulin-binding domain in the insulin receptor",J. Biol. Chem.,1994年,Vol. 269,pp. 29190-29197
【文献】
Makower, A. et al.,"Carp insulin: amino acid sequence, biological activity and structural properties",Eur. J. Biochem.,1982年,Vol. 122,pp. 339-345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 38/00−38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン及び免疫グロブリンFc領域が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性重合体リンカーにより連結されたインスリン結合体であって、前記非ペプチド性重合体は、一方の末端がインスリンβ鎖の27〜29位のいずれかのアミノ酸残基に結合され、他方の末端が免疫グロブリンFc領域に結合されており、前記インスリンが、
(i)配列番号1の第1のペプチド及び配列番号2の第2のペプチドを含む天然のインスリン、
(ii)配列番号1の第1のペプチド及び配列番号2の第2のペプチドの少なくとも一方の1つのアミノ酸残基が、天然のインスリンのアミノ酸配列とは置換によって異なるペプチドを含むインスリン変異体であって、それを投与された対象の体内の血糖を調節する機能を有するインスリン変異体、
(iii)配列番号1の第1のペプチド及び配列番号2の第2のペプチドの少なくとも一方の1つのアミノ酸残基が化学的に修飾されたペプチドを含むインスリン誘導体であって、それを投与された対象の体内の血糖を調節する機能を有するインスリン誘導体、又は
(iv)前記天然インスリン、前記インスリン変異体、又は前記インスリン誘導体のフラグメントであって、それを投与された対象の体内の血糖を調節する機能を有するフラグメント
のいずれかである、インスリン結合体。
【請求項2】
前記非ペプチド性重合体が、インスリンβ鎖の29位のリジン残基に結合されている請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項3】
非ペプチド性重合体が結合するインスリンβ鎖のアミノ酸残基が、アミノ基又はチオール基を有するものである請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項4】
非ペプチド性重合体の両末端が、それぞれ免疫グロブリンFc領域と、インスリンβ鎖アミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基に結合されている請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項5】
前記アミノ酸が天然又は非天然アミノ酸である請求項4に記載のインスリン結合体。
【請求項6】
免疫グロブリンFc領域が非グリコシル化されている請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項7】
免疫グロブリンFc領域が、CH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1つ〜4つのドメインからなる請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項8】
免疫グロブリンFc領域がヒンジ領域をさらに含む請求項7に記載のインスリン結合体。
【請求項9】
免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するFc領域である請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項10】
免疫グロブリンFc領域のそれぞれのドメインが、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドである請求項9に記載のインスリン結合体。
【請求項11】
免疫グロブリンFc領域が、同一起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体である請求項9に記載のインスリン結合体。
【請求項12】
免疫グロブリンFc領域がIgG4 Fc領域である請求項9に記載のインスリン結合体。
【請求項13】
免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域である請求項9に記載のインスリン結合体。
【請求項14】
非ペプチド性重合体が、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド(peptide)、ヘミチオアセタール(hemithioacetal)、イミン(imine)又はチオジオキソピロリジニル(thiodioxopyrrolidinyl)結合を形成する請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項15】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応性官能基を有する請求項1に記載のインスリン結合体。
【請求項16】
スクシンイミド誘導体が、スクシンイミジルカルボキシメチル、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N−ヒドロキシスクシンイミド又はスクシンイミジルカーボネートである請求項15に記載のインスリン結合体。
【請求項17】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれブチルアルデヒド基とスクシンイミジルバレレート反応性官能基を有するものである請求項15に記載のインスリン結合体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のインスリン結合体を含み、生体内持続性及び安定性が向上したインスリンの持続性製剤。
【請求項19】
糖尿病治療用である請求項18に記載の持続性製剤。
【請求項20】
(1)非ペプチド性重合体をインスリンβ鎖の27〜29位のいずれかのアミノ酸残基に共有結合で連結する段階と、
(2)前記(1)の反応混合物からインスリンβ鎖の27〜29位のいずれかのアミノ酸残基に非ペプチド性重合体が共有結合したインスリン連結体を分離する段階と、
(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合で連結することにより、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合したインスリン結合体を生成する段階とを含む、請求項1のインスリン結合体の製造方法。
【請求項21】
非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド、ヘミチオアセタール、イミン又はチオジオキソピロリジニル結合を形成するものである請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド誘導体、マレイミド誘導体又はスクシンイミド誘導体を反応性官能基として有するものである請求項20に記載の製造方法。
【請求項23】
非ペプチド性重合体の両末端は、それぞれインスリンβ鎖の前記アミノ酸残基、及び免疫グロブリンFc領域のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基により結合されるものである請求項20に記載の製造方法。
【請求項24】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれブチルアルデヒド基とスクシンイミジルバレレート反応性官能基を有するものである請求項20に記載の製造方法。
【請求項25】
段階(1)が、pH9.0±2のアルカリ環境で行われる請求項20に記載の製造方法。
【請求項26】
前記段階(1)のインスリンと非ペプチド性重合体のモル比が1:1.5〜1:10である請求項20〜25のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項27】
前記段階(3)のインスリン連結体と免疫グロブリンFc領域のモル比が1:1〜1:10である請求項20〜25のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項28】
インスリンが天然のインスリンであるか、又は配列番号1の第1のペプチド及び配列番号2の第2のペプチドを含む変異体であって、配列番号1及び配列番号2の少なくとも一方の1つのアミノ酸残基が、天然のインスリンのアミノ酸配列とは置換によって異なる変異体であり、前記変異体は、それを投与された対象の体内の血糖を調節する機能を有する請求項1に記載のインスリン結合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に特異的に非ペプチド性重合体リンカー及び免疫グロブリン定常領域が共有結合で連結された結合体、並びにそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンとは、ヒトの膵臓のβ細胞から分泌されるペプチドであり、体内の血糖を調節する上で非常に重要な役割を果たす物質である。このようなインスリンが正常に分泌されなかったり、分泌されたインスリンが体内で正常に作用しないと、体内の血糖を調節することができずに上昇するが、この状態を糖尿病という。前述した場合を2型糖尿病といい、膵臓でインスリンを分泌できずに血糖が上昇する場合を1型糖尿病という。2型糖尿病の場合、化学物質を主成分とする経口用血糖降下剤を用いて治療し、一部の患者にはインスリンを用いて治療することもある。それに対して、1型糖尿病の場合はインスリンの投与が必須である。
【0003】
現在多用されているインスリン治療法は、食事の前後に注射でインスリンを投与する方法である。しかし、このようなインスリン治療法は、1日に3回ずつ継続して投与しなければならないので、患者に多大な苦痛と不便さをもたらす。このような問題を克服するために様々な試みがなされてきた。そのうちの1つは、ペプチド薬物の生体膜透過性を向上させることにより、口腔又は鼻腔からの吸入によりペプチド薬物を体内に伝達する方法である。しかし、この方法は注射剤に比べてペプチドの体内伝達効率が著しく低いので、ペプチド薬物の体内活性を所望の条件に維持するには未だ多くの困難がある。
【0004】
また、過剰量の薬物を皮下投与して吸収を遅延させる方法があり、これにより1日1回の投与で持続的に血中濃度を維持することができる。その一部は、医薬品(例えば、Lantus(登録商標),Sanofi-aventis)として許可されて現在患者に投与されている。また、インスリンに脂肪酸を修飾してインスリン重合体の結合を強くし、投与部位及び血中のアルブミンに結合させて持続時間を延長する研究が進められており、その一部は医薬品(例えば、Levemir(登録商標),NovoNordisk)として許可されている。しかし、これらの方法は、投与部位に痛みが生じる副作用があり、依然として注射による投与間隔が1日1回であるので、患者に大きな負担となっている。
【0005】
一方、インスリンβ鎖のN末端及びC末端部分、例えば29位のアミノ酸はインスリン受容体との結合において相対的に影響が少ないことが報告されている(非特許文献1,2)。
【0006】
よって、本発明者は研究を重ねた結果、インスリンのβ鎖C末端領域のアミノ酸残基に非ペプチド性重合体と免疫グロブリン定常領域を修飾する方法を開発し、このように製造する方法を用いた場合、インスリンのN末端などの他の位置に修飾して結合体を製造する方法よりも、インスリン受容体との結合力が上昇することを確認して本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第97/034631号
【特許文献2】国際公開第96/032478号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jens Brange and Aage Volund,Adv.Drug Deliv.Rev.,35(2-3):307-335(1999)
【非特許文献2】Peter Kurtzhals et al.,Diabetes,49(6):999-1005(2000)
【非特許文献3】H.Neurath,R.L.Hill,The Proteins,Academic Press,New York,1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、免疫グロブリンFc領域が非ペプチド性重合体によりインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に位置選択的に連結されたインスリン結合体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一態様として、本発明は、インスリン及び免疫グロブリンFc領域が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性重合体リンカーにより連結され、前記非ペプチド性重合体は、一方の末端がインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に結合され、他方の末端が免疫グロブリンFc領域に結合されることを特徴とするインスリン結合体を提供する。
【0011】
前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の20〜29位のいずれかのアミノ酸残基に結合されることが好ましい。
前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の25〜29位のいずれかのアミノ酸残基に結合されることがより好ましい。
【0012】
前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の29位のリジン残基に結合されることがさらに好ましい。
前記非ペプチド性重合体が結合するインスリンβ鎖のアミノ酸残基は、アミノ基又はチオール基を有することが好ましい。
【0013】
前記インスリンは、天然のインスリン、天然のインスリンから一部のアミノ酸が置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの方法の組み合わせにより作製された変異体、インスリン誘導体、インスリンアゴニスト又はそれらのフラグメントであることが好ましい。
【0014】
非ペプチド性重合体の両末端が、それぞれ免疫グロブリンFc領域と、インスリンβ鎖アミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基(thiol group)に結合されることが好ましい。
【0015】
アミノ酸は天然又は非天然アミノ酸であることが好ましい。
免疫グロブリンFc領域が非グリコシル化されたものが好ましい。
免疫グロブリンFc領域が、CH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1つ〜4つのドメインからなることが好ましい。
【0016】
免疫グロブリンFc領域がヒンジ領域をさらに含むことが好ましい。
免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するFc領域であることが好ましい。
【0017】
免疫グロブリンFc領域のそれぞれのドメインが、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドであることが好ましい。
【0018】
免疫グロブリンFc領域が、同一起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体であることが好ましい。
免疫グロブリンFc領域がIgG4 Fc領域であることが好ましい。
【0019】
免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であることが好ましい。
非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド(peptide)、ヘミチオアセタール(hemithioacetal)、イミン(imine)又はチオジオキソピロリジニル(thiodioxopyrrolidinyl)結合を形成することが好ましい。
【0020】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される反応性官能基を有することが好ましい。
【0021】
スクシンイミド誘導体が、スクシンイミジルカルボキシメチル、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N−ヒドロキシスクシンイミド又はスクシンイミジルカーボネートであることが好ましい。
【0022】
非ペプチド性重合体が、両末端にそれぞれ反応性官能基であるブチルアルデヒド基とスクシンイミジルバレレートを有することが好ましい。
他の態様として、本発明は、前記インスリン結合体を含み、生体内持続性及び安定性が向上したインスリンの持続性製剤を提供する。
【0023】
前記製剤は糖尿病治療用であることが好ましい。
さらに他の態様として、本発明のは、(1)非ペプチド性重合体をインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に共有結合で連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物からインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に非ペプチド性重合体が共有結合したインスリン連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合で連結することにより、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合したインスリン結合体を生成する段階とを含む、インスリン結合体の製造方法を提供する。
【0024】
非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド、ヘミチオアセタール、イミン又はチオジオキソピロリジニル結合を形成することが好ましい。
【0025】
前記非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド誘導体、マレイミド誘導体又はスクシンイミド誘導体を反応性官能基として有することが好ましい。
前記非ペプチド性重合体の両末端は、それぞれインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基、及び免疫グロブリンFc領域のアミノ基又はチオール基により結合されることが好ましい。
【0026】
非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド誘導体及びスクシンイミド誘導体を反応性官能基として有することが好ましい。
前記段階(1)は、pH9.0±2のアルカリ環境で行われることが好ましい。
【0027】
前記段階(1)のインスリンと非ペプチド性重合体のモル比は1:1.5〜1:10であることが好ましい。
前記段階(3)のインスリン連結体と免疫グロブリンFc領域のモル比は1:1〜1:10であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のインスリン結合体は、インスリン受容体に対する結合力が大幅に向上することによりインスリンの生体内活性が著しく向上するので、高効率のインスリンの持続型剤形の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】Source 15Sカラムを用いてモノペグ化インスリンを精製したプロファイルである。
【
図1B】Source 15Sカラムを用いてモノペグ化インスリンを精製したSDS−PAGE gelの写真である。
【
図2】インスリン−PEGペグ化がβ鎖29位のアミノ酸残基に特異的に行われることを示す結果である。
【
図3】最終精製された結合体の純度分析の結果である。
【
図4】インスリン受容体に対するインスリン結合体の結合センサーグラムである。(A)はN末端インスリン結合体であり、(B)はB29インスリン結合体である。各物質の濃度は上から順に1000、500、250、125、62.5nMである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上記目的を達成するための一態様として、本発明は、インスリン及び免疫グロブリンFc領域が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非ペプチド性重合体リンカーにより連結され、前記非ペプチド性重合体は、一方の末端がインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に結合され、他方の末端が免疫グロブリンFc領域に結合されることを特徴とするインスリン結合体を提供する。
【0031】
本発明におけるインスリンとは、体内の血糖が高いときに膵臓から分泌され、肝臓、筋肉、脂肪組織で糖を吸収してグリコーゲンとして貯蔵し、脂肪を分解してエネルギー源として用いることを抑制して血糖を調節する機能を有する生理活性ペプチドの一種である。本発明における「インスリン」には、天然のインスリンだけでなく、インスリンアゴニスト(agonist)、前駆物質(precursors)、誘導体(derivatives)、フラグメント(fragments)、変異体(variants)などが含まれ、天然のインスリン、速効性インスリン、持続型インスリンなどが制限なく含まれることが好ましい。
【0032】
天然のインスリンは、膵臓から分泌されるホルモンであり、一般に細胞内へのグルコースの取り込みを促進し、脂肪の分解を抑制して体内の血糖を調節する役割を果たす。インスリンは、血糖調節機能のないプロインスリン(proinsulin)前駆体の形態からプロセシングを経て血糖調節機能を有するインスリンとなる。天然のインスリンのアミノ酸配列は次の通りである。
【0033】
・α鎖:Gly−Ile−Val−Glu−Gln−Cys−Cys−Thr−Ser−Ile−Cys−Ser−Leu−Tyr−Gln−Leu−Glu−Asn−Tyr−Cys−Asn(配列番号1)
・β鎖:Phe−Val−Asn−Gln−His−Leu−Cys−Gly−Ser−His−Leu−Val−Glu−Ala−Leu−Tyr−Leu−Val−Cys−Gly−Glu−Arg−Gly−Phe−Phe−Tyr−Thr−Pro−Lys−Thr(配列番号2)
前記インスリンは、天然のインスリン、天然のインスリンから一部のアミノ酸の置換、付加、欠失及び修飾のいずれかの方法又はそれらの方法の組み合わせにより作製された変異体、インスリン誘導体、インスリンアゴニスト又はそれらのフラグメントであることが好ましい。
【0034】
インスリンアゴニストとは、インスリンの構造に関係なく、インスリンの生体内受容体に結合してインスリンと同じ生物学的活性を示す物質を意味する。
インスリン誘導体とは、天然のインスリンと比較して、少なくとも80%のアミノ酸配列相同性を有し、アミノ酸残基の一部の基が化学的に置換(例えば、α−メチル化、α−ヒドロキシル化)、欠失(例えば、脱アミノ化)又は修飾(例えば、N−メチル化、グリコシル化、脱脂酸)された形態であり、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドを意味する。
【0035】
インスリンフラグメントとは、インスリンのN末端又はC末端に1つ又はそれ以上のアミノ酸が付加又は欠失された形態を意味し、付加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよく、このようなインスリンフラグメントは体内で血糖調節機能を有する。
【0036】
インスリン変異体とは、インスリンとアミノ酸配列が1つ以上異なるペプチドであり、体内で血糖調節機能を有するペプチドを意味する。
また、インスリンアゴニスト、誘導体、フラグメント及び変異体においてそれぞれ用いる製造方法は、独立して用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明のインスリンペプチドには、天然のインスリンとアミノ酸配列が1つ以上異なり、N末端アミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)された、体内で血糖調節機能を有するペプチドも含まれる。
【0037】
本発明の一態様において用いられるインスリンは、組換え法で生産したものであってもよく、固相(Solid phase)合成法で合成して生産したものであってもよい。
本発明のインスリン結合体は、両末端に反応性官能基を有する非ペプチド性重合体をリンカーとして用いて、重合体の各末端をインスリンβ鎖及び免疫グロブリンFc領域にそれぞれ共有結合させて製造したことを特徴とする。非ペプチド性重合体の両末端が、それぞれ免疫グロブリンFc領域と、インスリンβ鎖アミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基に結合されることが好ましい。
【0038】
ここで、アミノ酸は、天然又は非天然アミノ酸であるが、アミノ基又はチオール基を含んで非ペプチド性重合体と共有結合を形成するものであれば限定されるものではない。
本発明は、インスリンの血中安定性を向上させるために、ポリエチレングリコール(PEG)及び免疫グロブリン定常領域(以下、免疫グロブリンFc又はFcともいう)との結合体を製造する上で、インスリンβ鎖上でPEG−Fcの結合位置によってインスリン受容体に対する結合力が変化することを確認し、さらにインスリン結合力を向上させることにより活性を向上させることのできる結合位置を解明したことを特徴とする。例えば、PEG−Fcとの結合により血中安定性を向上させながらも、前記結合がインスリン受容体との結合を阻害して活性を減少させることのない位置を確認した。インスリンα鎖においては、結合体を形成する際に活性が大幅に減少することが知られているので、インスリンのβ鎖上で最適な結合位置を探索した。その結果、非ペプチド性重合体の結合位置は、インスリンβ鎖のN末端を除く、アミノ基又はチオール基を有する任意のアミノ酸残基であることが確認された。
【0039】
前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の20〜29位のいずれかのアミノ酸残基に結合されることが好ましい。前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の25〜29位のいずれかのアミノ酸残基に結合されることがより好ましい。前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖の29位のリジン残基に結合されることがさらに好ましい。
【0040】
前記非ペプチド性重合体が結合するインスリンβ鎖のアミノ酸残基は、アミノ基又はチオール基を有することが好ましい。例えば、リジン、システイン又はそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の具体的な実施例においては、インスリンβ鎖のN末端と29位のリジンの位置にそれぞれPEG−Fcが結合した結合体を製造し、それぞれのインスリン結合体のインスリン受容体に対する結合力を確認し、その結果、インスリンβ鎖のN末端にPEG−Fcが結合したインスリン結合体より、29位のリジンの位置にPEG−Fcが結合したインスリン結合体のほうが高い結合力(約3.6倍)を示すことが確認された(実施例4,表1)。このように、インスリン受容体に対する結合力の向上は、該当インスリン結合体の活性向上を意味する。
【0042】
しかし、前記インスリンの活性を保持しつつ安定性が向上した結合体を製造するための非ペプチド性重合体の結合位置は、インスリンβ鎖の29位に限定されるものではない。インスリンβ鎖、好ましくはC末端領域、より好ましくは20〜29位のいずれかのアミノ酸残基、さらに好ましくは25〜29位のいずれかのアミノ酸残基に非ペプチド性重合体が連結された結合体も全て本発明に含まれる。例えば、天然のインスリンは、β鎖の29位に位置する唯一のリジンのε−アミノ基により非ペプチド性重合体と共有結合することができる。それ以外の位置にアミノ基又はチオール基を有するアミノ酸残基を含むインスリン変異体、誘導体などにおいては、該当アミノ酸位置に非ペプチド性重合体を結合することができ、これらの結合体も本発明に含まれる。
【0043】
前記インスリンの活性を保持する結合体の製造において、インスリンβ鎖のアミノ酸残基は、容易に製造できるように、リジン又はシステイン残基に置換してもよい。例えば、インスリンβ鎖C末端領域のアミノ酸残基がリジン又はシステイン残基に置換されたインスリン誘導体を用いると、より容易にインスリン結合体を製造することができ、前記インスリン誘導体を用いて製造したインスリン結合体も本発明に含まれる。
【0044】
本発明における「非ペプチド性重合体」とは、繰り返し単位が2つ以上結合した生体適合性重合体を意味し、前記繰り返し単位はペプチド結合ではなく任意の共有結合により互いに連結される。本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)及びPLGA(ポリ乳酸−グリコール酸,polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、ポリエチレングリコール(PEG)であることが好ましい。当該分野に知られたこれらの誘導体及び当該分野の技術レベルで容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0045】
従来のインフレームフュージョン(inframe fusion)方法で作製された融合タンパク質に用いられているペプチド性リンカーの欠点は、生体内でタンパク質分解酵素により容易に切断され、キャリアによる活性薬物の血中半減期の延長効果を期待したほど得られないということである。しかし、本発明においては、タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体を用いることにより、キャリアと同様にペプチドの血中半減期を維持することができる。よって、本発明に用いられる非ペプチド性重合体は、このような役割を果たすもの、すなわち生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であれば制限なく用いられる。非ペプチド性重合体は、分子量が1〜100kDaの範囲、好ましくは1〜20kDaの範囲である。また、生理活性ポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性重合体は、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0046】
本発明に用いられる非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFc領域及びタンパク質薬物に結合される反応性官能基を有する。
前記非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド、ヘミチオアセタール、イミン又はチオジオキソピロリジニル結合を形成することが好ましい。
【0047】
前記非ペプチド性重合体の両末端の反応性官能基の例として、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基などのアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基、スクシンイミド(succinimide)誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルカルボキシメチル、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N−ヒドロキシスクシンイミド又はスクシンイミジルカーボネートが用いられるが、これらに限定されるものではなく、免疫グロブリンFc領域と、インスリンβ鎖アミノ酸残基のアミノ基又はチオール基に選択的に共有結合を形成できる反応性官能基であれば制限なく用いられる。
【0048】
前記非ペプチド性重合体の両末端の反応性官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一方の末端にはスクシンイミド基、他方の末端にはプロピオンアルデヒド基やブチルアルデヒド基などのアルデヒド基を有してもよい。両末端にヒドロキシ反応性官能基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体で用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応性官能基として活性化するか、商業的に入手可能な修飾された反応性官能基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明のタンパク質結合体を製造することができる。
【0049】
非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれブチルアルデヒド基とスクシンイミジルバレレート反応性官能基を有することが好ましい。
本発明における「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域、重鎖定常領域1(CH1)及び軽鎖定常領域(CL1)を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び重鎖定常領域3(CH3)部分を意味し、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含むこともある。また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。また、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失された領域であってもよい。すなわち、本発明の免疫グロブリンFc領域は、(1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(5)1つ又は2つの以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、(6)重鎖定常領域各ドメインと軽鎖定常領域の二量体であってもよい。
【0050】
前記免疫グロブリンFc領域は、生体内で代謝される生分解性のポリペプチドであるので、薬物のキャリアとして安全に用いることができる。また、免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリン分子全体に比べて相対的に分子量が少ないので、結合体の作製、精製及び収率面で有利なだけでなく、アミノ酸配列が抗体毎に異なるため、高い非均質性を示すFab部分を欠失することにより、物質の同質性が非常に高くなり、血中抗原性を誘発する可能性が低くなるという効果も期待することができる。
【0051】
前記免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、ヒト起源であることが好ましい。また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来であるか、又はそれらの組み合わせ(combination)もしくはそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であることが好ましく、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることが知られているIgG由来であることが最も好ましい。
【0052】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合するこすもすまかしもとを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される2つ以上のフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0053】
本発明における「ハイブリッド(hybrid)」とは、単鎖免疫グロブリンFc領域内に、2つ以上の異なる起源の免疫グロブリンFcフラグメントに相当する配列が存在することを意味する。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から選択される1つ〜4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジを含んでもよい。
【0054】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明においては、それらの組み合わせ又はそれらのハイブリッド化も可能である。IgG2及びIgG4サブクラスであることが好ましく、補体依存性細胞毒性(CDC,Complementdependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFc領域であることが最も好ましい。
【0055】
すなわち、本発明の薬物のキャリアとして最も好ましい免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域である。ヒト由来のFc領域は、ヒト生体において抗原として作用し、それに対する新規な抗体を生成するなどの好ましくない免疫反応を起こす非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。
【0056】
一方、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が欠失された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は欠失には、化学的方法、酵素学的方法及び微生物を用いた遺伝工学的方法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が欠失された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞毒性又は補体依存性細胞毒性が低減又は欠失されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が欠失されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとして本発明の目的に適する。
【0057】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素を用いてFc領域から糖を除去することを意味し、「非グリコシル化(Aglycosylation)」とは、原核生物、好ましくは大腸菌においてグリコシル化されていないFc領域を生産することを意味する。
【0058】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体(変異体)も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214〜238、297〜299、318〜322又は327〜331位のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられる。また、ジスルフィド結合を形成する部位が欠失された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失された誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な種類の誘導体が用いられる。また、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が欠失されてもよく、ADCC部位が欠失されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献1、2などに開示されている。
【0059】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野において公知である(非特許文献3)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。
【0060】
場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0061】
前述した免疫グロブリンFc誘導体は、本発明の免疫グロブリンFc領域と同じ生物学的活性を示すが、免疫グロブリンFc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させた誘導体であってもよい。また、このような免疫グロブリン定常領域は、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得た組換え型又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、免疫グロブリン全体をヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理して得ることができる。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF'c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF'cを分離することができる。
【0062】
好ましくは、ヒト由来の免疫グロブリンFc領域を微生物から得た組換え免疫グロブリン定常領域であってもよい。
本発明における免疫グロブリンFc領域と非ペプチド性重合体の結合は、前記インスリンβ鎖と非ペプチド性重合体の結合と同様に、インスリンに結合しない非ペプチド性重合体の他方の末端の反応性官能基と、免疫グロブリンFc領域のアミノ酸残基のアミノ基又はチオール基の共有結合により形成される。よって、非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFc領域のN末端、又は免疫グロブリンFc領域内のリジン残基のアミノ基もしくはシステイン残基のチオール基に結合する。ここで、免疫グロブリンFc領域において非ペプチド性重合体が結合されるアミノ酸残基の位置は限定されない。
【0063】
他の態様として、本発明は、前記インスリン結合体を含む生体内活性が向上したインスリンの持続性製剤を提供する。前記インスリン持続性製剤は糖尿病治療用であることが好ましい。
【0064】
また、本発明は、前記インスリン持続性製剤を、それを必要とする個体に投与して糖尿病を治療する方法を提供する。
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記結合体の投与経路は、薬物を標的組織に送達できるものであれば、いかなる一般的な経路を介して投与してもよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。しかし、経口投与の場合はペプチドが消化されるので、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが好ましい。注射剤の形態で投与することが好ましい。また、持続性製剤は、活性物質を標的細胞に送達することのできる任意の装置により投与することができる。
【0065】
本発明の結合体を含む持続性製剤は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、経口投与の場合は、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、賦形剤、溶解剤、分散剤、安定化剤、懸濁剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、溶解剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを用いることができる。本発明の持続性製剤の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、単位投薬のアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0066】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0067】
本発明の持続性製剤は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬学的製剤の投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0068】
本発明の持続性製剤は、インスリンの生体内安定性を向上させると共に活性を保持するので、インスリンによる糖尿病治療に効果的である。
さらに他の態様として、本発明は、(1)非ペプチド性重合体をインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に共有結合で連結する段階と、(2)前記(1)の反応混合物からインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基に非ペプチド性重合体が共有結合したインスリン連結体を分離する段階と、(3)分離した連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合で連結することにより、非ペプチド性重合体の両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びインスリンに結合したインスリン結合体を生成する段階とを含む、インスリン結合体の製造方法を提供する。
【0069】
前述したように、非ペプチド性重合体は、インスリンβ鎖のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基と、ペプチド、ヘミチオアセタール、イミン又はチオジオキソピロリジニル結合を形成することが好ましい。ここで、前記非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド誘導体、マレイミド誘導体又はスクシンイミド誘導体を反応性官能基として有するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0070】
前述したように、非ペプチド性重合体の両末端は、それぞれインスリンβ鎖のN末端を除くアミノ酸残基、及び免疫グロブリンFc領域のアミノ酸残基側鎖のアミノ基又はチオール基により結合することが好ましい。
【0071】
非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ独立してアルデヒド誘導体及びスクシンイミド誘導体を反応性官能基として有することが好ましい。ここで、前記段階(1)は、pH9.0±2のアルカリ環境で行うことができる。前記反応がpHが7未満の酸性環境で行われると、N末端のアミノ基に非ペプチド性重合体が結合することがある。前記pHの範囲は、非ペプチド性重合体の反応性官能基の種類、及びそれに反応するインスリンβ鎖のアミノ酸残基の反応性官能基の種類、例えばアミノ基又はチオール基により調節することができる。例えば、スクシンイミド誘導体を反応性官能基として有するPEGを非ペプチド性重合体としてインスリン内のリジンのアミノ基に結合させる場合、pH9.0に調節することにより、N末端アミノ基を除くリジンのアミノ基に選択的に結合したインスリン連結体を形成することができる。
【0072】
インスリンのβ鎖に非ペプチド性重合体を連結する段階(1)において、インスリンと重合体の反応モル比は、1:1.5〜1:10であることが好ましく、1:2であることがより好ましい。また、前記インスリン連結体の非ペプチド性重合体の他方の末端に免疫グロブリンFc領域を共有結合で連結する段階(3)において、インスリン連結体と免疫グロブリンFc領域のモル比は、1:1〜1:10であることが好ましく、1:1.2であることがより好ましい。
【0073】
本発明の具体的な実施例においては、両末端にそれぞれ独立してスクシンイミドとアルデヒド反応性官能基を含むPEGリンカーを用いてインスリンに高い収率で選択的にペグ化させ、マッピング方法を用いて前記ペグ化された位置がインスリンβ鎖の29位残基であることを確認した(
図2〜
図3)。また、前述したように、生成されたモノペグ化インスリンに免疫グロブリン定常領域を結合してインスリン−非ペプチド性重合体−免疫グロブリン定常領域結合体を製造した。
【0074】
また、製造されたインスリン結合体のインスリン受容体に対する結合力を確認した結果、インスリンのN末端にPEG−Fcが結合した結合体に比べて、結合力が約3.6倍高いことが確認された。これは、本発明の結合体の効力がより優れていることを示すものである。
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
実施例1:インスリンβ鎖29位のアミノ酸のペグ化(PEGylation)反応及びモノペグ化インスリンの精製
インスリン粉末を10mM HClに溶解し、その後3.4K butyraldehyde−PEG−succinimidyl valerate(両末端にそれぞれブチルアルデヒド基とスクシンイミジルバレレートを官能基として有するPEG,Laysan Bio,Inc.米国)によりインスリンβ鎖の29位のアミノ酸残基にペグ化させるために、インスリン:PEGのモル比を1:2とし、インスリン濃度を1.5mg/mlとして、常温で約1時間反応させた。ここで、反応は60.8mMホウ酸ナトリウム(Sodium Borate)pH9.0、45%イソプロパノールにおいて行われ、クエン酸ナトリウム(pH3.0)、45%エタノールを含む緩衝液とKCl濃度勾配を利用したSource Sカラム(GE Healthcare)を用いて、反応液からモノペグ化インスリンを精製した(
図1A〜
図1B)。
【0077】
実施例2:モノペグ化インスリンのペグ化部位の確認
実施例1でペグ化されたインスリンにおける3.4K PEGの結合部位を確認するためにGlu−Cマッピング方法を用いた。1mg/mlの濃度のモノペグ化インスリン50μgに1mg/mlの濃度のペプチド内部加水分解酵素Glu−C 10μgを添加した。反応液は50mM HEPES、pH7.5であり、25℃で8時間反応させた。その後、1NのHCl 50μlを添加して反応を終結させた。マッピングはHPLC逆相クロマトグラフィーを用いて行った。その結果を
図2に示す。
【0078】
図2に示すように、インスリンβ鎖29位のアミノ酸を含むピークが移動した。よって、インスリンβ鎖29位のアミノ酸残基に3.4K PEGが結合したことが確認された。
【0079】
実施例3:モノペグ化インスリンと免疫グロブリンFcの結合体の製造
インスリン−PEG−免疫グロブリンFcフラグメント結合体を製造するために、実施例1の方法を用いて得られたモノペグ化(mono-PEGylated)インスリンと免疫グロブリンFcフラグメントのモル比が1:1.2となるようにし、全タンパク質濃度を20mg/mlとして25℃で13時間反応させた。ここで、反応液は100mM HEPES、2M塩化ナトリウム(NaCl)、pH8.2であり、還元剤として20mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムを添加した。
【0080】
反応終了後、Source Qカラム(GE Healthcare)において、Tris−HCl緩衝液(pH7.5)とNaCl濃度勾配を用いて、反応液から反応していないインスリン、反応していない免疫グロブリンFcフラグメント、インスリン−PEG−免疫グロブリンFcフラグメント結合体、モノペグ化インスリン(インスリン−PEG)が2つ以上結合した免疫グロブリンFcフラグメント結合体を分離精製した。
【0081】
その後、Source ISO(GE Healthcare)を用いて、残留している免疫グロブリンFc及びマルチカップリングしたインスリン結合体を欠失し、インスリン−PEG−免疫グロブリンFc結合体を得た。ここで、Tris−HCl(pH7.5)を含む硫酸アンモニウム(Ammonium sulfate)の濃度勾配を用いて溶出した。製造した結合体は、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーを用いてHPLCで純度を分析した(
図3)。
【0082】
実施例4:インスリンβ鎖内の各PEG−Fc結合位置におけるインスリン結合体のインスリン受容体に対する結合力の測定
インスリンのN末端にPEG−Fcが結合したインスリン結合体と、B29にPEG−Fcが結合したインスリン結合体のインスリン受容体に対する結合力を確認するために、表面プラズモン共鳴法(surface Plasmon resonance、SPR、BIACORE 3000)を用いた。インスリン受容体としては、HEK293F細胞で発現させた細胞外ドメイン(extracellular domain、ECD)を精製して用いた。アミンカップリング法を用いて前記インスリン受容体をCM5チップに固定化し、その後1μM〜6.25nMのN末端又はB29インスリン結合体を分注してその結合力を確認した。これらインスリン結合体は結合緩衝液(HBS−EP)で希釈し、インスリン結合体を固定化したチップに4分間結合させて6分間の解離過程を経た。その後、他の濃度のインスリン結合体を結合させるために、インスリン受容体に結合したインスリン結合体に50mMのNaCl/5mMのNaOHを約30秒間分注した。結合力はBIAevaluationプログラムの1:1 Langmuir binding modelを用いて分析した。その結果を
図4に示す。
【0083】
図4に示すように、N末端及びB29インスリン結合体は全て濃度に比例してインスリン受容体に結合することが確認された。これらインスリン結合体のインスリン受容体に対する結合力を表1に示す。同表に示すように、B29インスリン結合体はN末端インスリン結合体の約1.8倍の高い結合速度定数を示す。これは、B29インスリン結合体がN末端インスリン結合体に比べてインスリン受容体に速く結合することを意味する。また、解離速度定数を比較しても、B29インスリン結合体はN末端インスリン結合体に比べて約1.8倍遅いことが分かる。これは、インスリン受容体に結合すると、B29インスリン結合体のほうが安定して結合していることを意味する。その結果、N末端及びB29インスリン結合体の結合力を比較すると、B29インスリン結合体はN末端インスリン結合体に比べて結合力が約3.6倍高いことが確認された。
【0084】
【表1】
【0085】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]