【実施例1】
【0015】
[破砕装置]
<1>全体の構成(
図1)。
本発明に係る破砕装置1は、同方向に先端を向けて対向して配置する一対のライナー10と、一対のライナー10間にこれと同方向に先端を向けて配置するウェッジ20と、ライナー10の外面に付設する突起部30と、ウェッジ20の後部に位置する圧入機構40と、フレーム50と、を少なくとも備える。
フレーム50内には、一対のライナー10およびウェッジ20の後端と、圧入機構40が収容される。
圧入機構40を駆動してウェッジ20を先端方向に押し出すと、クサビ状のウェッジ20が対向するライナー10の間に圧入されることで、ライナー10が側面方向に押し広げられる。
破砕装置1は、油圧ショベルなどの重機の先端に装着するか、その先端から吊り下げて使用する。
【0016】
<2>ライナー。
ライナー10は、ウェッジ20による押出しを受けて、先端を側方に押し広げる一対の部材である。
それぞれのライナー10は、フレーム50内に位置する基部11と、フレーム50から突出する胴部12とを有する。
基部11は、胴部12より幅広に形成され、ライナー10がフレーム50から抜け出さないようにフレーム50内に保持される。
胴部12は、基部11との接続部分から先端に向かって、徐々に断面積が大きくなる。
一対のライナー10を対向して組み合わせた状態における内側の面を胴部12の内面とすると、胴部12の内面は、ウェッジ20の外周面に対応した円滑面を備える。
胴部12の外面は、導入孔aの孔壁に対応した断面円弧状であることが望ましい。
胴部12の外面には突起部30を付設する。
【0017】
<3>ウェッジ。
ウェッジ20は、圧入機構40による加圧を受けて、一対のライナー10を側方に押し広げるクサビ状の部材である。
ウェッジ20は後端から先端に向かって断面積が小さくなる、先細りの形状を呈する。
ウェッジ20は、軸方向に沿って摺動可能な状態で、一対のライナー10の間に保持される。ウェッジ20の後端はフレーム50内であって圧入機構40の前方に位置する。
【0018】
<4>突起部。
突起部30は、ライナー10の外側に付設する峰状の突起部材である。
本例では、突起部30は、タングステンカーバイドの超硬チップを、ライナー10の長手方向に沿って連続して付設してなる。ただし、素材はこれに限られず、所定の硬度を備えれば他の素材を採用してもよい。
突起部30は、一定間隔を空けて断続的に付設してもよい。
【0019】
<4.1>突起部の機能。
突起部30は、(1)導入孔a1の縁部に指向溝Cを形成する溝形成機能、(2)対象物Aの破砕効率を高める破砕促進機能、および(3)ライナー10の摩耗や熱変形を防ぐ摩耗防止機能、を少なくとも備える。
このうち、(1)は破砕方法の記述内で説明し、(2)(3)について以下に説明する。
【0020】
<4.1.1>破砕促進機能。
本発明の破砕装置1は、導入孔a1内でライナー10を拡開すると、まず、突起部30が孔壁に食い込むクサビ効果によって孔壁の一部が破断し亀裂が生じる。続いて、亀裂の周囲の孔壁をライナー10の外面が加圧することで、亀裂が対象物A内に伝播し、破砕対象部分が粉砕されて細分化する。
このように、まず先行して突起部30で破断部を形成した後に、その周囲をライナー10で加圧して破砕するため、破砕効率が非常に高く、従来の破砕機に比べて少ないエネルギーで対象物Aを破砕することができる。
また、突起部30をライナー10の外面に断続的に付設した場合には、突起部30の孔壁への食い込みが良くなるため、破砕促進機能がさらに高くなる。
【0021】
<4.1.2>摩耗防止機能。
従来の破砕装置は、ライナーの外面が孔壁と面接触するため、ライナーの周面と孔壁と間に過大な摩擦が生じてライナーが摩耗しやすかった。また、高温の摩擦熱によってライナーが熱変形することがあった。
これに対し、本発明の破砕装置1は、突起部30のクサビ効果によって孔壁が粉砕されるため、ライナー10の外面と孔壁との接触面積が少なくなり、また対象物Aを少エネルギーで破砕できるため、ライナー10と孔壁の間に過大な摩擦が生じない。このため、ライナー10の摩耗が少なく、熱変形が生じにくい。
【0022】
<5>圧入機構。
圧入機構40は、ウェッジ20を介してライナー10に静圧を与える機構である。
圧入機構40は、ウェッジ20の後部に位置し、ウェッジ20を軸先端方向に押し出して一対のライナー10間に圧入させる。
本例では、圧入機構40として、油圧ポンプ、シリンダ、ピストンなどの組合せによる油圧ユニットを採用する。ただしこれに限られず、他の公知の機構、例えば高圧エアなどを採用してもよい。
圧入機構40の構造については公知なのでここでは詳述しない。
【0023】
<6>加振機構。
このほか、本発明に係る破砕装置1には、加振機構60を設けても良い。
加振機構60は、ライナー10に、その中心軸方向の衝撃力を与える機構である。
加振機構60は、例えば、圧入機構40による静圧のみでは対象物Aの破砕が困難な場合などに圧入機構40と併用することができる。
本例では、加振機構60として、シリンダ内のピストンをコントロールバルブで高速制御する機構を採用する。ただしこれに限られず、他の公知の機構を採用してもよい。
【0024】
[破砕方法]
引き続き、本発明の破砕方法について詳細に説明する。
<1>全体の構成(
図2)。
本発明に係る破砕方法は、溝形成工程と、拡開工程と、を少なくとも備える。本例では、溝形成工程の前提となる削孔工程も含めて説明する。
また、本例では、本発明の破砕装置1を用いる場合について説明する。
図2は本発明に係る破砕方法の説明図である。図面右奥から左手前に向かって、削孔工程(S1)、溝形成工程(S2)、拡開工程(S31、S32)の各工程を模式的に表している。
【0025】
<1.1>破砕の対象物。
破砕の対象物Aは、岩盤、岩石やコンクリート構造物など自然物であると人工物であるとを問わない。
本例では、一側に自由面Bを有する岩盤を対象物Aとする例について説明する。
【0026】
<1.2>破砕方向・連続方向。
対象物Aの自由面Bの連続方向と直交する方向を破砕方向X、平行する方向を連続方向Y、とそれぞれ定義する。
なお、この明細書で「直交」「平行」とは、数学的に厳密な定義ではなく、それぞれ直交方向、平行方向という程度の意味である。
【0027】
<2>削孔工程。
削孔工程は、対象物Aに導入孔a1を穿設する工程である(
図2:S1)。穿設には油圧クローラードリルなどの各種公知技術を用いる。
導入孔a1の内径は、一対のライナー10を閉じた時の外径より大きく、開いた時の外径より小さく設定する。
本例では、対象物Aの上面から鉛直方向に導入孔a1を複数穿設する。
それぞれの導入孔a1は自由面B近傍であって自由面Bから一定の距離離れた位置に、自由面Bの連続方向Yに沿って穿設する。
なお、本発明の適用は導入孔a1が鉛直方向に設けられている場合に限られない。例えば、山岳トンネルの切羽において、水平方向に設けられた導入孔a1の内部から、これに直交する方向に破砕することなども可能である。
【0028】
<3>溝形成工程。
溝形成工程は、導入孔a1の縁部に一対の指向溝Cを形成する工程である(
図2:S2)。
導入孔a1内に破砕装置1を吊り下ろしてライナー10を先端から挿入する。この際、破砕装置1のライナー10が拡開する拡開方向を連続方向Yと一致させる。
続いて、孔内で破砕装置1のライナー10を拡開して突起部30を孔壁に圧接させ、孔壁の縁部に一対の指向溝Cを形成する。
また、指向溝Cは、破砕装置1を吊り下ろす際の自重を利用して形成することもできる。
【0029】
<3.1>破砕装置の角度転換。
指向溝Cの形成後、破砕装置1のライナー10を閉じて、破砕装置1を導入孔a1内から吊り上げる。この際、破砕装置1の先端を完全に導入孔a1内から抜き出す必要はなく、ライナー10と突起部30が孔壁から離れればよい。
続いて、後続する拡開工程に備えて破砕装置1を中心軸に沿って90度回転させる。
【0030】
<4>拡開工程。
拡開工程は、対象物Aを導入孔a1内から拡開して、対象物Aを導入孔a1から自由面B側に破砕する工程である。
破砕装置1を再び導入孔a1内に吊り下ろし、ライナー10の外面および突起部30を孔壁に当接させる。この際、破砕装置1の拡開方向を破砕方向Xと一致させる。
続いて、破砕装置1の圧入機構40を駆動して、孔内でライナー10を破砕方向Xに拡開する(
図2:S31)。
導入孔a1の縁部には、予め連続方向Yに向かう指向溝Cが形成してあるため、拡開によって指向溝Cから連続方向Yの両方向へ亀裂が延伸し、亀裂の下方には対象物A内に破断面が形成される。亀裂が隣接する導入孔a1に到達すると、破断面も隣接する導入孔a1に接続する。
このように、導入孔a1が拡開し、破断面の面積が広がることで、対象物Aが自由面B側へ引き剥がされるように破砕される(
図2:S32)。
この際、ライナー10の拡開と平行して、孔内から対象物Aへ加振機構60による振動を与えてもよい。
【0031】
<5>本工法の特徴。
本発明に係る破砕方法は、破砕装置1による破砕に指向性を持たせることによって、対象物Aを連続方向Yに沿って層状に剥がし取るように破砕する工法である。
この点、従来の、対象物を導入孔から自由面に向かって塊状に破砕する方法とは、根本的に技術的思想が異なる。
このように、対象物Aを塊状ではなく層状に破砕可能であるため、破砕範囲を直線状に区画して設定することが可能となり、施工時の設計が柔軟になるほか、施工効率と施工の安全性を高めることができる。