(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465894
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】共結晶の合成及び粉体工学
(51)【国際特許分類】
B01J 2/04 20060101AFI20190128BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20190128BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20190128BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20190128BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20190128BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20190128BHJP
B01J 2/02 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
B01J2/04
A61K9/14
A61K31/522
A61K47/12
A61K31/55
A61K31/445
B01J2/02 A
【請求項の数】27
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-542380(P2016-542380)
(86)(22)【出願日】2014年9月16日
(65)【公表番号】特表2016-536134(P2016-536134A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】GB2014052799
(87)【国際公開番号】WO2015036799
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年9月14日
(31)【優先権主張番号】107166
(32)【優先日】2013年9月16日
(33)【優先権主張国】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】514246691
【氏名又は名称】ホビオネ インターナショナル エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】イリス デュアルテ
(72)【発明者】
【氏名】マリア ジョセ ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ルイス パドレラ
(72)【発明者】
【氏名】マルシオ テムテム
【審査官】
小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−529101(JP,A)
【文献】
国際公開第01/024643(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0031580(US,A1)
【文献】
Pharm Res,2012,Vol.29,No.3,p.806-817
【文献】
Crystal Growth & Design,2010,Vol.10,No.8,p.3302-3305
【文献】
AAPS PharmSciTech,2013,Vol.14,No.1,p.265-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/16−1/20
B01J 2/00−2/30
A61K 9/14−9/16、31/522、31/55、47/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共結晶を形成可能な少なくとも第一物質及び第二物質を有する共結晶を製造する方法であって、該第一物質が、活性医薬成分(API)又はAPIの医薬として許容し得る誘導体であり、該方法が、
a)該少なくとも第一物質及び第二物質の融解混合物を噴霧器内に供給する工程;
b)該融解混合物を霧状化して小滴にする工程;
c)該小滴を粒子へと固体化する工程;
d)該粒子を収集する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
バッチプロセス又は連続プロセスである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一物質及び第二物質が、化学量論比で組み合される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記API又はその医薬として許容し得る誘導体が、チオエーテル、アルコール、チオール、アルデヒド、ケトン、チオケトン、硝酸エステル、リン酸エステル、チオリン酸エステル、エステル、チオエステル、硫酸エステル、カルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、アミド、第一級アミン、第二級アミン、アンモニア、第三級アミン、イミン、チオシアネート、シアナミド、オキシム、ニトリル、ジアゾ、有機ハロゲン化物、ニトロ、S-複素環式環、チオフェン、N-複素環式環、ピロール、O-複素環式環、フラン、エポキシド、過酸化物、ヒドロキサム酸、イミダゾール、及びピリジンから選択される、少なくとも1つの官能基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第二物質が、共結晶を形成することのできる共形成体である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記共形成体が、活性又は非活性成分である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記共形成体が、医薬賦形剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、又は他のAPIである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記共形成体が、チオエーテル、アルコール、チオール、アルデヒド、ケトン、チオケトン、硝酸エステル、リン酸エステル、チオリン酸エステル、エステル、チオエステル、硫酸エステル、カルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、アミド、第一級アミン、第二級アミン、アンモニア、第三級アミン、イミン、チオシアネート、シアナミド、オキシム、ニトリル、ジアゾ、有機ハロゲン化物、ニトロ、S-複素環式環、N-複素環式環、ピロール、O-複素環式環、フラン、エポキシド、過酸化物、ヒドロキサム酸、イミダゾール、及びピリジンから選択される少なくとも1つの官能基を有する、請求項5、6、又は7記載の方法。
【請求項9】
前記第一物質及び第二物質が、少なくとも1分又は2分以上の間、均質な融解混合物が形成されるまで熱に曝される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
せん断力及び/又は圧力を利用して、前記融解混合物中の要素の混合及び絡み合いを促進し、並びにそれらの粘性を減少させる、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
磁気撹拌子、パドル、又は押し出し成形法により、せん断力及び圧力を上昇させる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記押し出し成型法が、霧状化システムに接続されたスクリューベースの押し出し成形装置を用いることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記霧状化システムに接続された前記スクリューベースの押し出し成形装置が、単軸スクリュー又は二軸スクリュー押し出し成形装置である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記二軸スクリュー押し出し成形装置が、共回転システム又は逆回転システムである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記混合物の融点が、-120〜+300℃である、請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記混合物が1以上の機能性マトリックス材料をさらに含むことで、前記第一物質及び第二物質の混合が促進され、かつ/又は該混合物の融点が低下し、かつ/又は最終生成物に機能性が付加される、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記1以上の機能性マトリックス材料が、可塑性付与効果を有する薬剤を含み、任意に該1以上の機能性マトリックス材料が、ポリエチレングリコール、二酸化炭素、1以上の界面活性剤、又は1以上のポリマーである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程b)において、霧状化ノズルが回転、加圧、流体、又は超音波の構成を有する、請求項1〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
工程c)において、前記融解混合物の噴霧方向に並流の又は反流の冷却ガス又は冷却液の流れによって冷却が促進される、請求項1〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記小滴の滞留時間が、冷却ガス又は冷却液の反流の流れによって制御される、請求項1〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記ガス又は液の流れの初期温度が、-20〜200℃である、請求項19又は20記載の方法。
【請求項22】
前記冷却ガスが、空気、窒素、又は二酸化炭素である、請求項19、20、又は21記載の方法。
【請求項23】
前記冷却液が、液体二酸化炭素又は液体窒素である、請求項19、20、又は21記載の方法。
【請求項24】
前記反流の流れの冷却ガスが、空気、窒素、又は二酸化炭素である、請求項19又は20記載の方法。
【請求項25】
前記反流の流れの冷却液が、液体二酸化炭素又は液体窒素である、請求項19又は20記載の方法。
【請求項26】
前記得られた粒子が、少なくとも50%(w/w)の共結晶純度、より好ましくは少なくとも75%(w/w)の共結晶純度、特に90%(w/w)以上の共結晶純度を含む、請求項1〜25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記得られた粒子が、1〜500 μmの粒度を有する、請求項1〜26のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共結晶の生産、及び特に、それ以外を排するわけではないが、溶媒を含まず、容易に規模を変更できる方法に関する。該方法は、連続的医薬プロセスに適合し、これによりいかなる後の処理を必要とすることなく、一段階の操作で共結晶を合成し、粒子を操作することを可能とする。
【背景技術】
【0002】
1990年代にコンビナトリアルケミストリー及びハイスループットの薬物スクリーニングプラットフォームが登場して以来、医薬パイプラインに到達する新規化学実体(NCE)の数は急激に増加してきた。主要な問題は、治療的潜在性を提示するこれらの分子の70〜90%はまた、可溶性の制約(すなわち、BCSクラスII及びクラスIV)をも提示することである。貧可溶性のため、限定された生物学的利用性を測定できるだけであり、薬物の治療有効性が制約される。この問題を克服し、新規生物活性化学実体の臨床への成功裏の移行を促すため、様々な工学技術及び製剤化実現プラットフォームが使用されている。例えば微粉化、自己乳化型薬物送達系、シクロデキストリン複合体、塩形態、共結晶、又は非晶質固体分散液である。
【0003】
該アプローチ及び好ましい固体状態形態は、分子の性質及び目指す性能に依存するであろう。しかしながら、APIが結晶状態にある場合、これらはより都合よく経口剤形として開発される。
【0004】
共結晶は、困難の伴う結晶分子の物理化学的特性を向上させるための、代替の結晶工学プラットフォームとして知られていた。新興の技術であるものの、共結晶は現在、その向上した全体の安定性及び性能のために、非晶質薬物及び非晶質固体分散液に対する潜在的な代替物とみなされつつある(Cryst. Growth Des. 2011、11、2662-79)。
【0005】
医薬共結晶は、安定な分子複合体を達成する少なくとも2つの分子(例えば、1つのAPI又は1つのAPIの塩、及び共形成体)の多成分結晶である(J. Am. Chem. Soc. 2004、126、13335-42)。共結晶の形成には特定の構造的要件を要さないため、例えば分子がイオン化可能な基を有することが要求される塩の形成とは対照的に、共結晶化は、理論上あらゆる分子(酸、塩基、非イオン化分子)に適用可能である。好ましいAPIの例としては、これ以外を排するわけではないが、溶解率及び可溶性が制限されたもの(すなわち、BCSクラスII)(J. Am. Chem. Soc. 2003、125、8456-57)、安定性に乏しいもの(Int. J. Pharm. 2006、320、114-23)、吸湿性のもの(Cryst. Gowth Des. 2005、5(3)、1013-21)、又は圧縮性に乏しいもの(Cryst. Growth Des. 2008、8(5)、1575-79)が挙げられる。使用される共形成体は、活性成分又は非活性成分(例えば、医薬賦形剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、他のAPI)であり、該APIとの好ましい分子間相互作用を有し、水素結合、ファンデルワールス力、又はπスタッキングを高めるものである(US 2012/0258170 A1; US 2014/0031403 A1)。得られる共結晶は親API、共形成体、又はそれらの物理的混合物と比較して大きく異なる物理化学的特性を示す。
【0006】
共結晶についての他の利点は、他の物理化学的特性(例えば、純度、毒性、呈味)の中でも、APIの浸透性及び生物学的利用能の増強(すなわち、BCSクラスIII及びIV)(US 2011/0028435 A1)、後の処理加工性(例えば、粒度、構造、流動性)の改善に関するものである(Pharmaceutical Salts and Co-crystals. 2012. 110-27)。さらにまた、共結晶化は生産プロセス自体の利益のために適用され得る。例えば、共結晶化は、生物学反応及び化学反応のいずれについても分離技術として使用されている。該共結晶の形成は、生産物を取り出すことを容易にし、かつプロセスの収率を高めるために、発酵の結果得られる最終生産物の1つについて促進される(Cryst Growth Des. 2010、10 (3)、1171-79)。第二の例としては、共結晶化は混合工程における典型的な困難、すなわちバッチ間の混合ムラの除去、及び生産物の取り扱い及び輸送の間の粒子の分離の問題を克服することを促進してきている(US 2011/0028435 A1)。
【0007】
共結晶化は大きな潜在性を有しているものの、所望の結晶形態を達成するためには厳密な熱力学的及び動的結晶化領域(window)が要求されるために、工業的規模で高効率で共結晶を生産することは困難である。
【0008】
共結晶の生産について使用される典型的な製造方法としては、限定はされないが、溶液結晶化及び機械化学的方法が挙げられる。溶液ベースの方法において、共結晶は一般に、溶解及び緩慢な蒸発(Pharm. Res. 2007 25(3)、530-41)若しくは冷却(Cryst. Growth Des. 2010、10(8)、3763-69)による再結晶化によって、又は液体貧溶媒を加えることによって(Eur. J. Pharm. Bio. 2013、85、854-61)、合成される。摩砕などの機械化学ベースの方法において、固体は乾燥条件下[すなわち、純摩砕法(Pharm. Res. 2006、23(10)、2381-92)]で、又は溶媒存在下[すなわち、溶媒ドロップ摩砕法(Cryst. Growth Des. 2009、9(2)、1106-23)]で一緒に摩砕される。
【0009】
これらの従来技術の使用には、いくつかの困難がある。
―溶液ベースの方法は、撹拌されたタンク中で再現的に規模拡大をするのが容易であるが、比較的大量の有機溶媒を要し(環境面で望ましくない)、かつ反応産物を得るために長い時間を要する。さらに、共結晶組成及び溶媒の間の三成分系相図の知識がなくてはならず、そうでなくては純粋な化合物が沈澱してしまうか、又は他の結晶形態が形成されてしまうおそれが高まる。他の問題としては、API及び共形成体(conformer(s))が有機溶媒との望ましくない相互作用を受けて、結晶格子中に該有機溶媒を取り込み、溶媒和物/水和物を形成する可能性があるという事実が挙げられる。
―共結晶化において純粋な摩砕法又は溶媒補助摩砕法を使用することは、より環境に配慮したプロセスであると考えられるが、規模を拡大することがより難しい。また、結果として得られる共結晶は摩砕中に加えられたストレスに起因する静電的電荷を帯び得る。また、摩砕法は幾分かの非晶質化、及び/又は得られる産物に結晶欠陥を生じ得る。
【0010】
近年、医薬共結晶の分野において、新規方法が開発されている。これらのプロセスは、環境に優しく持続可能な技術への世界的潮流に適合させながら、規模変更の容易さ、連続的処理、頑健さ及び費用対効果を追求している。例えば、Padrelaらの文献では、共結晶のスクリーニング及び設計のために臨界超過のCO
2をベースとした方法の実施が探索された。著者らは、臨界超過のCO
2が溶媒、貧溶媒、又は霧状化増強剤として作用し得ることを示した(Eur. J. Pharm. Sci. 2009、38、9-17)。「環境に優しい」溶媒の使用を兼ね備えた様々な構造、形、及び粒度(ナノからマイクロまで)を有する粒子形態の共結晶を得る可能性(J. of Supercritical Fluids. 2014、86、129-36)が、利点として提示されている。有望な結果であるにもかかわらず、商業規模の装置は、主として高額の投資が要求されるために、依然として利用可能でない(「GMPを遵守する臨界超過流体の処理法についての規模拡大の問題(Scale-up issues for supercritical fluid processing in compliance with GMP.)」2004、15章、Marcel Dekker社)。
【0011】
また、スプレー乾燥法(SD)も、「加工された」医薬共結晶の製造について評価されており、これは、該方法が、共結晶の粒子特性を操作する可能性をも提供するためである。典型的には非晶質材料を製造するのに使用されるものの、吸入用途に最適化された粒子特性を有するテオフィリンベースの共結晶が、Alhalawehらにより成功裏に得られた(AAPS PharmSciTech. 2013、14(1)、265-76)。スプレー乾燥法は、材料処理及び規模拡大のためによく確立された技術であるが、溶媒の使用に固有の限界(すなわち、処理時間、費用、環境への影響)が伴うことを軽視すべきではない。
【0012】
高圧均質化(HPH)及び二軸スクリュー押し出し成形(TSE)は、連続的な共結晶の形成に使用される最新技術のうちの2つである(Cryst. Growth Des. 2013、13、2013-24;US 2010/013035 A1)。ホモジェナイザーの使用も一つの処理工程で所望の特性(すなわち、粒度分布)を有する最終産物を得る可能性を実現するが、他方で溶媒の使用を必然的に伴う。反対に、押し出し成形は、溶媒を含まないプロセスであるが、押し出し品の後工程処理に関する不利益を伴う。ミル粉砕、顆粒化、又はペレット化によるさらなる処理は、望ましくない固体状態の変化(例えば、非晶質化、多形化転移)を導き得る。
【0013】
本明細書に記載される共結晶生産のための新規方法は、SD及びTSEと類似した原理に支配される。該方法は、ハイブリッド技術であると考えることができ、一段階の操作でいかなる後処理も必要とせずに粒子形態の最終産物を得るという利点を含む。さらに、該方法は「環境に優しく」、溶媒を含まないプロセスである。この方法はわずかな改変を加えるだけでSDと同じ装置で実施することができ、そのためプロセスの商業的規模拡大が容易に利用可能となる(Chimica Oggi - Chemistry Today. 2013、31(5)、69-72)。共結晶化プロセスの間の溶媒の非存在は、「環境に優しい」化学的要件に応じ、費用削減を可能とし、かつ水和物又は溶媒和物の形成を回避する。本明細書に記載される新規方法は、融解工程を必然的に伴う。該融解工程はAPI及び共形成体の物理化学的特性に従って、高温で起こり得るので、そのため、熱不安定性化合物及び熱分解プロファイルに注意を払うべきである。
【発明の概要】
【0014】
本発明は規模変更可能で溶媒を含まない、共結晶の生産方法を開示する。本発明の一態様に従って、共結晶を作製する方法であって:
a)共結晶を形成可能な、少なくとも第一物質及び第二物質の融解混合物を噴霧器に供給する工程;
b)該融解混合物を小滴へと霧状化する工程;
c)該小滴を粒子へと固体化する工程;
d)前記粒子を収集する工程、
を含む、前記方法が提供される。
【0015】
特に、本発明の方法は共結晶を粒子形態で得ることを可能とする。好ましくは、該方法は一切の溶媒を使用せずに実施され、すなわち、該方法は溶媒フリーである。好ましくは、該方法は一段階の操作として実施される。該方法には少なくとも2つの物質の融解混合物の形成が伴うが、所望であれば3以上の物質を使用することができる。該少なくとも2つの物質は、特に選択された物質に適用可能な好ましい処理条件下で、共結晶の形成を可能とするものでなければならない。好ましくは、該小滴の固体化工程は冷却を含み、いかなる適当な形態の冷却をも使用することができる。予想外なことに、高表面積小滴の冷却は、共結晶粒子を生成する。要求される冷却条件は、試験されるシステム及びその具体的な熱力学的及び動的要件に依存し、これは当業者には明らかであろう。また、得られる共結晶粒子の粒度及び構造は、プロセスのパラメータを変更することにより制御することもできる。また、本発明に従って作製された粒子を使用する粒子ベースの組成物も、本発明に開示される。
【0016】
従って、別の態様において、本発明は、本発明の方法に従って作製された共結晶の医薬組成物の製剤における使用を提供する。
【0017】
また、本発明は、別の態様において、本発明の方法によって得ることができる、又は得られた共結晶も提供する。特に、本発明は、本発明の方法によって得ることができる、又は得られた粒子形態の共結晶を提供する。該粒子は、好ましくは制御された冷却により作製される。
【0018】
また、本発明は、本発明の方法に従って作製された共結晶を含む医薬組成物も提供する。特に、本発明は、本発明の方法に従って作製される粒子形態の共結晶を含む、医薬組成物を提供する。
【0019】
既存の従来技術と比較して、本発明には以下の利点がある:
―様々な共結晶組成物についての熱力学的/動的要件を適合して、処理条件(例えば、特に融点、冷却速度、供給流)を所望の結晶形態を達成するように適合することができる;
―得られる共結晶は粒子形態であり、固体状態変化(例えば、ミル粉砕手順の間の非晶質化)を引き起こし得る次の後工程を回避する;
―該粒子の形状及び構造を、処理パラメータ、例えば融解物の粘性、使用される噴霧器の型、霧状化比率又は噴霧圧力を通じて制御することができる。粒度及び構造は、産物の性能(例えば、可溶性、溶解率、吸収性)及び機械的特性(例えば、圧縮性、流動性)に関する決定因子である;
―小型小滴(かつバルク材料ではない)が冷却/固体化されるので、小滴の高表面積のために材料はより均一に冷却される。そのような均一性は目指す結晶形態への効率的な変換に影響し得る;
―プロセスは容易に規模変更することができ、スプレー乾燥適応性を利用して実施することができる;
―有機溶媒は使用されず、環境に優しい化学及び費用対効果の高いプロセスとなっている。溶媒除去のためのさらなる工程が要求されず、このことはまた、水和物又は溶媒和物の形成を回避する。
【0020】
工程aにおいて、少なくとも第一物質及び第二物質の該融解混合物を加熱により適切に製造する。好ましくは、該物質は少なくとも1分間、好ましくは2分以上の間、均質な融解混合物を形成するまで熱に曝される。該融解混合物を得るために要求される時間の長さ及び混合物の融点は、一般に、使用される材料、それらの物理化学的特性(例えば、融点)及び分解プロファイルに依存することが理解されよう。有機化合物の融点は-120〜+300℃、典型的には0〜200℃、特に20〜180℃で様々であり得る(Cryst. Growth Des. 2004、4(5)、879-80)。少なくとも2つの物質からなる該混合物を融解させるための温度設定値は、好ましくは最も低い融点を有する共結晶成分の融点近傍の温度とすべきである。共晶混合物を形成する潜在性があることが知られている場合、該混合物を融解する設定温度は、好ましくは共晶点温度とすべきである。共結晶は共晶融解物から形成することができると報告されている。さらなる機械的力、例えばせん断力及び圧力を利用して、混合及び該混合物中の要素の絡み合いを促進し、並びにそれらの粘性を減少させることができる。混合要素の例としては、限定はされないが、磁気撹拌子、パドル、及び熱制御型単軸又は二軸スクリューを供給/霧状化システム装置と組み合わせることが挙げられる。また、融解混合物を形成するために単軸若しくは二軸スクリュー又は押し出し成形機を使用することは、熱したビーカー又は反応器を使用する従来法と比べて、該少なくとも2つの物質が選択された温度に曝される時間を減少することに寄与する。
【0021】
本発明の好ましい態様において、該第一物質は活性医薬成分(API)とすることができ、該第二物質は共形成体とすることができる。所望される場合、2以上のAPIを使用することができ、かつ/又は2以上の共形成体を使用することができる。該APIは共形成体と混合され融解混合物を形成することができ、好ましくはモル化学量論比は、例えば1:1、1:2、2:1、又は別の整数比である。該APIは原則的に任意のAPIとすることができるが、好ましくは少なくとも1つの官能基を有する、以下から選択されるもの:チオエーテル、アルコール、チオール、アルデヒド、ケトン、チオケトン、硝酸エステル、リン酸エステル、チオリン酸エステル、エステル、チオエステル、硫酸エステル、カルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、アミド、第一級アミン、第二級アミン、アンモニア、第三級アミン、イミン、チオシアネート、シアナミド、オキシム、ニトリル、ジアゾ、有機ハロゲン化物、ニトロ、S-複素環式環、チオフェン、N-複素環式環、ピロール、O-複素環式環、フラン、エポキシド、過酸化物、ヒドロキサム酸、イミダゾール、及びピリジンである。好ましいAPIの例としては、限定はされないが、可溶性に乏しく溶解率が低い活性化合物(すなわち、BCSクラスII)(J. Am. Chem. Soc. 2003、125、8456-57)、安定性に乏しい化合物(Int. J. Pharm. 2006、320、114-23)、吸湿性の高い化合物(Cryst. Gowth Des. 2005、5(3)、1013-21)、又は圧縮性に乏しい化合物(Cryst. Growth Des. 2008、8(5)、1575-79)が挙げられる。
【0022】
該共形成体は、原則的に、好ましくはAPIである該第一物質に関して任意の適当な共形成体とすることができるが、好ましくは該共形成体は、少なくとも1つの官能基を有する以下から選択されるもの:チオエーテル、アルコール、チオール、アルデヒド、ケトン、チオケトン、硝酸エステル、リン酸エステル、チオリン酸エステル、エステル、チオエステル、硫酸エステル、カルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、アミド、第一級アミン、第二級アミン、アンモニア、第三級アミン、イミン、チオシアネート、シアナミド、オキシム、ニトリル、ジアゾ、有機ハロゲン化物、ニトロ、S-複素環式環、チオフェン、N-複素環式環、ピロール、O-複素環式環、フラン、エポキシド、過酸化物、ヒドロキサム酸、イミダゾール、及びピリジンがある。使用される該共形成体は、水素結合、ファンデルワールス力又はπスタッキングを促進し、該APIとの有利な分子間相互作用を有する活性又は非活性成分(例えば、医薬賦形剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、他のAPI)とすることができる(US 2012/0258170 A1; US 2014/0031403 A1)。
【0023】
好ましくはAPI及び適当な共形成体である該第一及び第二の物質に加え、該融解混合物はまた、所望の場合さらなる機能性マトリックス材料を含むこともできる。これらのマトリックス材料の存在は、典型的には以下の1以上を達成する:API及び共形成体の間の良好な混合を促進すること、該混合物の融点を低下させること、又は最終産物に機能性(例えば、特に、向上した性能、機械的特性)を追加すること。機能性マトリックス材料の例としては、限定はされないが、可塑性付与効果を有する作用剤、すなわち、可塑剤(例えば、ポリエチレングリコール、二酸化炭素)、界面活性剤、又はポリマーを挙げることができる(J. Pharm. Sci. 2014、May 7)。
【0024】
工程bにおいて、該霧状化は、原則的に融解混合物から小滴を生産する任意の適当な技術を用いて行うことができる。例えば、噴霧器ノズルを備える装置を使用することができる。好ましくは、該霧状化は、ノズルで起こる。好ましくは、該融解混合物の該ノズルへの供給は、一貫した温度を確保する熱制御ラインを介して実施される。また、好ましくは、該ノズルは(例えば、加熱された熱流体の循環により)それ自体加熱される。このことは、霧状化の間、該融解混合物温度を制御する一助とすることができる。使用されるノズルの型としては、例えば、限定はされないが:圧力ノズル、流体ノズル、超音波ノズル、又は回転噴霧器が挙げられる。また、当業者に公知の他の小滴形成システムも、使用することができる。
【0025】
工程cにおいて、該小滴の固体化は、好ましくは、制御された冷却により行われる。該制御された冷却は、並流又は反流の冷却ガスの流れを含む(その結果、冷却を促進する)ことができる。冷却ガスは例えば、限定はされないが、空気、窒素、又は二酸化炭素とすることができる。注入ガスの温度は、融解小滴の冷却速度を決定する際に重要であり、従って試験されるシステムに応じて調節されなくてはならない。注入ガスの温度は例えば、-20〜200℃の範囲とすることができる。また、チャンバの大きさも、制御された冷却について該小滴の滞留時間を十分に確保するのに重要である。注入チャンバの容積は、例えば50 m
3未満とすることができるが、好ましくは約10 m
3未満である。目指す結晶形態を達成するためにより遅い冷却速度を必要とする材料については、要求される温度及び流速を有するガスの反流の流れを使用する、「流動噴霧凝固」の設定が適用され得る。また、チャンバを用いない構想も実現可能である。
【0026】
工程dにおいて、得られる粒子は好ましくは1〜500 μmの典型的な粒度を有する。粒子の回収はいくつかの異なる適当な方法論で実施できる。例として、冷却チャンバ中での、又はサイクロンの後の回収が挙げられる。当業者は他の粒子回収システムに知悉しているだろう。該方法の好ましい態様において、少なくとも50%(w/w)の共結晶純度、より好ましくは少なくとも75%(w/w)の共結晶純度、特に90%(w/w)以上の共結晶純度を含む粒子が得られる。得られた該共結晶産物の純度の決定は、共結晶に変換されなかったその結晶前駆体の定量化と関係する。これらの純粋な要素は、不純物とみなされ、最終の共結晶産物全体の性能(例えば特に、可溶性、生物学的利用能、安定性、圧縮性)に影響を与え得る。共結晶純度の定量化の分析技術を挙げると、限定はされないが、フーリエ変換赤外(FTIR)、近赤外(NIR)、ラマン、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量測定(DSC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)がある(J. Pharm. Bio. Ana. 2014、89、166-175; Drug Dev. Ind. Pharm. 2012、38(8)、923-929; J. Supercritical Fluids. 2013、83、78-85)。
【0027】
所望の場合、工程a〜cはバッチ処理又は連続的処理として実施され得る。
【0028】
任意に、特に共結晶化が難しいシステムに対して、又は共結晶形態への変換が該冷却工程の間で不十分な場合には、さらなる後処理を実施することができ、又は要求され得る。このことは、例えば、適当な結晶形態への変換に有利な制御下の温度及び湿度条件に該粒子を曝すことを含み得る。また、該粒子の後処理も所望の場合実施することができ、本発明の範囲内に包含される。
【0029】
本発明の方法により得ることができる、又は得られた粒子は、組成物、例えば医学的状態の治療、予防、又は診断に使用することができる医薬組成物へとさらに製剤化され得る。従ってまた、本発明は組成物、特に、本発明の方法により得ることができる、又は得られた共結晶粒子及び1以上の適当な賦形剤、例えば1以上の医薬として許容し得る賦形剤を含む医薬組成物を提供する。典型的な製剤後の賦形剤の例を挙げると、限定はされないが、密度剤(例えば、特にラクトース、微結晶性セルロース)、結合剤(例えば、特にデンプン、セルロース、ポリビニルピロリドン)、崩壊剤(特にデンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン)、及び湿潤剤がある。本明細書に記載された方法により合成される共結晶を投与するための医薬形態の例としては、例示のみを目的として、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ペレット又は散剤などの固形剤形が挙げられる。
【0030】
好ましくは、工程b〜dで使用される装置は噴霧凝固法(噴霧冷却(spray cooling)、噴霧冷却(spray chilling)、又は融解凝固法とも呼ばれる)の構成を含む。このことは、それにより液体融解物が冷却チャンバ内で球形の微細小滴のしぶきへと霧状化されるプロセスとして定義される。ここで、該小滴は該小滴を固体化するのに十分な冷たさの気流に接触する。冷却による融解物の軟らかい又は流体状態からの硬い又は固体状態への転移を凝固という。従来の研究では、水溶性の乏しいAPIの可溶性及び溶解率を上昇させる目的で(Int. J. Pharm. 2009、381(2)、176-83)、制御放出剤形を得る目的で(Eur. J. Pharm. Bio. 2008、70、409-20)、及び味をマスキングする適用の目的で(Chem. Pharm. Bull. 1999、47(2)、220-25)、マイクロ粒子の製造のための噴霧凝固法の使用が示されている。噴霧凝固法は様々な規模(実験室から工業的まで)で高効率に実施することができる。
【0031】
本発明のよりよい理解のため、及び共結晶形成における噴霧凝固法の有用性を示すため、本発明の3つの実施例には:2つのモデルAPI(すなわち、カフェイン及びカルバマゼピン)及び3つの適当な共形成体(すなわち、グルタル酸、サリチル酸、及びニコチンアミド)が挙げられる。選択されたAPI及び共形成体は共に、文献に報告されている典型的なモデルシステムである。本発明についての例として使用される「モデル」共結晶は、やはりこれらの同じシステムの共結晶化を研究した科学論文の参照とともに表1に列記されている。
【0032】
表1.本発明の実施態様の例として使用された既報の共結晶システム
【表1】
*Traskらの文献、Chem. Commun. 2004、7、890-91; Luらの文献、Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68; Chiengらの文献、Cryst. Growth Des. 2009、9(5)、2377-86; Liuらの文献、Pharm. Res. 2012、29、806-17。
【0033】
添付の図面の参照、プロセス条件の詳細な説明、及び得られた結果を、以下の節に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
(図面の説明)
添付の図面を参照し、例示を介して本発明を以下にさらに説明する。
【
図1】
図1は純粋なCAF、純粋なGLU AC、CAF:GLU ACの物理的混合物(1:1)、及びCAF:GLU ACの(凝固)粉末(1:1)の熱分析に対応するmDSC熱流曲線を示す。
【
図2】
図2は純粋なCAF、純粋なGLU AC、CAF:GLU ACの物理的混合物(1:1)及びCAF:GLU ACの(凝固)粉末(1:1)に対応するXRPDパターンを示す。
【
図3】
図3a〜3cはCAF:GLU ACの(凝固)粉末(1:1)の、それぞれ100×、350×、及び650×の倍率に対応するSEM顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、純粋なCAF、純粋なSAL AC、CAF:SAL ACの物理的混合物(1:1)及びCAF:SAL ACの(凝固)粉末(1:1)の熱分析に対応するmDSC熱流曲線を示す。
【
図5】
図5は純粋なCAF、純粋なSAL AC、CAF:SAL ACの物理的混合物(1:1)及びCAF:SAL ACの(凝固)粉末(1:1)に対応するXRPDパターンを示す。
【
図6】
図6a〜6cはCAF:SAL ACの(凝固)粉末(1:1)の、それぞれ500×、1000×、5000×の倍率に対応するSEM顕微鏡写真を示す。
【
図7】
図7は純粋なCARB、純粋なNIC、CARB:NIC ACの物理的混合物(1:1)及びCARB:NICの(凝固)粉末(1:1)の熱分析に対応するmDSC熱流曲線を示す。
【
図8】
図8は純粋なCARB、純粋なNIC、CARB:NICの物理的混合物(1:1)及びCARB:NICの(凝固)粉末(1:1)に対応するXRPDパターンを示す。
【
図9】
図9a及び9bはCARB:NICの(凝固)粉末(1:1)の、それぞれ300×、650×に対応するSEM顕微鏡写真を示す。
【0035】
適当な実施例を以下に記載する。これらは本発明を説明することを意図するものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
カフェイン(CAF、β-カフェイン無水物、Sigma-Aldrich社製)及びグルタル酸(GLU AC、Sigma-Aldrich社製)のモル比1:1(総重量は〜50グラム)の混合物を、Turbulaミキサーで10分間46 rpmで物理的に混合した。該物理的混合物を内部に磁気撹拌子を入れたジャケット付きビーカー中にゆっくりと供給した。該混合物を霧状化するまで融解状態で維持するために、サーモスタットバス上で加熱された熱流体を該ビーカーのジャケット、供給ライン、及びノズル内に循環させる。サーモスタットバスの温度設定値を、最も融点が低い共結晶の成分の融点付近の温度に初期設定した。次いで、少しずつ温度を上げながら、API及び共形成体の両方の完全な融解が観察される(すなわち、140℃)まで、温度を上げた。
【0037】
噴霧凝固に適応し、開放サイクルモード(すなわち、凝結用窒素を再循環させることがない)で操作される実験室規模のスプレー乾燥器(4M8-TriX ProCepT、Zelzate、ベルギー)を使用して共結晶を生産した。冷却チャンバの高さはその最高値に設定した(拡張設定で〜197 cm)。融解物を霧状化するのに使用されるジャケット付きの2つの流体ノズル(1.20 mmの先端及びそれぞれのキャップ)により霧状化を行った。窒素を用いた霧状化には、流速11 L/分を設定した。並流の窒素を使用して、霧状化の後の融解物の凝固を促進させた。凝結ガスの流速を、0.35 m
3/分に設定した。
【0038】
該融解物をノズルへ供給する前に、噴霧凝固ユニットを窒素で安定化し、安定な注入温度(T_in)及び排出温度(T_out)(すなわち、140℃及び75℃)を確保した。安定化の後、液体供給速度のための圧力制御器を用いて該ビーカーを加圧することにより該融解物を供給した。該小滴を次いで、噴霧凝固チャンバ中で並流窒素により冷却した。該生産物を含む流れをサイクロンへと向かわせ、固体をガスから分離した。
【0039】
プロセスの最後において、該粉末を冷却し、特性評価のために調節型示差走査熱量測定(mDSC)、X線粉末回折(XRPD)及び走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した。また、純粋なAPI、共形成体、及びそれぞれの物理的混合物(等モル比)も比較のためmDSC及びXRPDで分析した。
【0040】
図1は純粋なCAF、純粋なGLU AC、1:1のCAF:GLU ACの物理的混合物、及び噴霧凝固により得た1:1のCAF:GLU ACの粉末の熱分析に対応するmDSC全熱流曲線を示す。mDSC実験は冷蔵式冷却システム(RCS)を備えるTA Q1000(TA Instruments社、New Castle、Delaware、USA)において実施した。エンタルピー反応をインジウムを用いて較正した。5〜10 mgの重量の試料を、ピンホール式DSCアルミニウムパン及び連続的乾燥窒素パージ(50 mL/分)下で分析した。60秒間及び0.8℃の幅を使用する5℃/分の加熱速度で25℃〜300℃の調節型加熱勾配を使用して、試料を分析した。データをTA Universal Analysis 2000ソフトウェアを用いて分析し、処理した。
【0041】
純粋なCAFに対応するDSCプロファイルは、2つの吸熱性ピークを提示し、一方は140℃であり、他方は233℃であった。Pintoらの文献によると、第一のピークはβ-カフェイン(又は形態II)のα-カフェイン(又は形態I)への転移に対応し、第二のピークはα-無水形態が加熱された際の等方性液体の形成に対応していた(J. Chem. Thermodynamics. 2006、38、1515-22)。また同様に、純粋なGLU ACのDSCプロファイルも2つの吸熱的ピーク(すなわち、それぞれ70℃及び95℃)を提示し、ここで第一のピークは固体-固体転換に関し、第二のピークは形成された新たな固相の融解に関する(Pharm. Res. 2006、23(8)、1888-97)。1:1のCAF:GLU ACの物理混合物のサーモグラムにおいて、71℃での第一のピークは純粋なGLU ACの相転換に対応し、83℃での第二のピークはCAF:GLU ACの共晶混合物の融解に対応し、94℃での第三のピークは形成された共結晶の融解に対応する(Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)。
【0042】
共晶混合物に続く共結晶の融解を観察することは、共結晶形成を裏付ける。50%を超える有機二成分混合物は共晶点を提示し、共結晶が共晶混合物融解物から形成されることができることが報告されている(Cryst. Growth Des. 2004、4(5)、879-80; Cryst. Growth Des. 2009、9(3)、1621-37)。共結晶形成を予測するために開発された様々なスクリーニング法の中でも、ホットステージ顕微鏡(しばしばコフラー法と呼ばれる)及びDSCのような熱的方法が使用され、融解/共晶の情報を使用して、特定のAPIが共形成体と共結晶を作ることができるかが評価されてきた(Cryst. Growth Des. 2008、8(5)、1697-12; Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)。
【0043】
該1:1のCAF:GLU ACの物理的混合物のサーモグラムを、本発明で提供された方法を用いて生産された該1:1のCAF:GLU ACの結晶性材料と比較すると、純粋なGLU ACの相転移に対応するピークが消失しており、一方共晶混合物融解及び共結晶融解のピークは残ったことが観察できる。さらにまた、両事例で得られた温度も一致している。これらの結果は、噴霧凝固法を使用して1:1のCAF:GLU ACの共結晶が形成されたことを示している。
【0044】
該材料をさらなる特性評価のため、XRPD分析を実行した。
図2は純粋なCAF、純粋なGLU AC、1:1のCAF:GLU ACの物理的混合物及び噴霧凝固法を用いて得られた1:1のCAF:GLU ACの粉末と対応するXRPDパターンを示す。XRPD実験は銅放射源(Cu Kα2、波長=1.5406 Å)を備えたD8 Advance Bruker AXS Theta-2Theta diffractometerにおいて電圧40 kV、及びフィラメント発光 35 mAで実施された。該試料をステップサイズ0.017°及びステップ時間50秒で、3〜70°の間隔の2θで測定した。
【0045】
1:1のCAF:GLU ACの物理的混合物を用いて得られたXRPDディフラクトグラムは純粋な結晶性出発要素(CAF及びGLU AC)と同等であった。さらに、純粋な要素について得られたXRPDパターンは、同化合物についての文献に見出されるパターンと同等であった(J. Chem. Soc. 1997、Perkin Trans. 2. 1985-90; Pharm. Res. 2006、23(8)、1888-97)。対照的に、噴霧凝固された材料のディフラクトグラムでは、新しいピーク(CAF又はGLU ACには特徴的でない)が検出された。これらは文献から入手できるCAF:GLU ACの1:1の 共結晶のディフラクトグラムと同等であった(Chem. Commun. 2004、7、890-91; Cryst. Growth Des. 2005、5(3)、1013-21)。判別的な共結晶のピークとしては、以下の位置のピークが挙げられる:8.4°2θ、11.2°2θ、11.7°2θ、14.8°2θ、16.0°2θ、17.4°2θ、22.3°2θ、22.8°2θ、26.2°2θ、及び28.9°2θ。
【0046】
図3a〜3cは、スプレー固化により生産された1:1のCAF:GLU ACの粉末の、それぞれ100×、350×、及び650×倍率に対応するSEM顕微鏡写真を示す。分析の間、試料は事前にアルミニウムの短い台(stub)に固定されたカーボンの粘着テープ(Ted Pella社、CA、USA)に付着され、該台上では過剰量の粉末は加圧空気の噴射により除去された。試料は真空中2時間静置され、次いで金/パラジウム(South Bay Technologies社、model E5100、San Clement、CA)でコーティングされた。高真空中でJEOL JSM-7001F/Oxford INCA Energy 250/HKL走査型電子顕微鏡(JEOL、日本)が、典型的な加速電圧15〜20 kVで作動した。
【0047】
図3を分析すると、集塊した大きな粒子が得られ、サイズの範囲は50〜100 μmで様々であった。球形に特徴づけられた塊はごくわずかであり、大部分はより不規則な/変化に富む形を提示した。高倍率下で共結晶の塊の表面を観察すると、該塊は互いに絡まり合った、又は融合した棒形及び板形の個々の共結晶からなり、球状の/変化に富む塊を与えることが明らかとなった(
図3c)。
【0048】
(実施例2)
本発明の実施例2は、カフェイン(CAF、β-カフェイン無水物、Sigma-Aldrich社製)及びサリチル酸(SAL AC、Sigma-Aldrich社製)の1:1のモル比の混合物(総重量は〜30グラム)に存する。物理的混合物のさらなる処理は、実施例1に適用された手順と同様とした。該物理的混合物の完全な融解は、150℃で観察された。噴霧凝固法は、実施例1と同じ設備及び同じ条件(すなわち、開放サイクルモード、延長設定、1.20 mmの先端を備えるジャケット付きの2つの流体ノズル)で実施された。霧状化流速は9.2 L/分に設定され、一方凝結ガスの流速は0.35 m
3/分に維持された。安定化後の凝結ガスの注入温度及び排出温度(すなわち、それぞれT_in及びT_out)は、100℃及び58℃であった。該プロセスの最後に得られる粉末は、特性評価のために実施例1と同じ分析技術及びそれぞれの実験方法(すなわち、mDSC、XRPD、及びSEM)により特徴づけられた。また、純粋な共形成体及びそれぞれの物理的混合物も比較のためにmDSC及びXRPDで分析した。
【0049】
図4は純粋なCAF、純粋なSAL AC、CAF:SAL ACの物理的混合物(1:1)、及びCAF:SAL ACの(凝固)粉末(1:1)の熱分析に対応するmDSC熱流曲線を示す。
【0050】
純粋なCAFに対応するDSCプロファイルの解釈は、実施例1に記載のものと同じである。純粋なSAL ACのDSCプロファイルは、材料の融解に帰する156℃での鋭い吸熱ピークと、それに続く分解(degradation)に対応する広い吸熱ピークを示した。1:1のCAF:SAL ACの物理的混合物のサーモグラムにおいて観察された吸熱ピークは、Luらの文献で観察されたものと同等である(Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)。119℃での第一のピーク及び133℃での第二のピークは、それぞれ共晶混合物及び共結晶の融解と対応した。さらに、1:1のCAF:SAL ACの物理的混合物の予備的なDSC分析により、共結晶形成の潜在性について推定することが可能である。
【0051】
1:1のCAF:SAL ACの物理的混合物のサーモグラムを、噴霧凝固法を用いて生産された1:1のCAF:SAL ACの結晶性材料と比較すると、共晶混合物に対応するピークが消失しており、一方共結晶の融解ピークは同じ温度範囲内(すなわち、136℃)に残ったことが観察できる。これらの結果は高純度の1:1のCAF:SAL ACの共結晶が形成されたことを示している。また、スラリー法によって製造される同じ共結晶システムも、共結晶の融解に帰する〜140℃の単一の鋭い吸熱を示した(Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)。
【0052】
図5は、純粋なCAF、純粋なSAL AC、1:1のCAF:SAL ACの物理的混合物、及び噴霧凝固法を用いて得られた1:1のCAF:SAL ACの粉末に対応するXRPDパターンを示す。
【0053】
1:1のCAF:SAL ACの物理的混合物について得られたXRPDディフラクトグラムは、純粋な結晶性の出発要素(CAF及びSAL AC)と同等であった。さらに、該純粋な要素について得られたXRPDパターンは、Luらの文献(Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)で得られ、示されたパターンと同等である。
【0054】
噴霧凝固された1:1のCAF:SAL AC材料のディフラクトグラムは純粋な結晶性のCAF及びSAL ACとは異なり、かつLuらの文献(Cryst. Eng. Comm. 2008、10、665-68)で得られたシミュレーションされたXRPDパターンに類似していた。これらの結果は、革新的な本発明の方法により、別のカフェインベースの共結晶が得られたことを示している。判別的な共結晶ピークとしては、以下の位置のピーク:6.9°2θ、12.4°2θ、13.6°2θ、25.1°2θ、26.0°2θ、27.4°2θ、27.9°2θ、28.6°2θが挙げられる。
【0055】
図6a〜6cは、噴霧凝固法によって得られた1:1のCAF:SAL ACの粉末の、それぞれ500×、1000×、及び5000×の倍率に対応するSEM顕微鏡写真を示す。
【0056】
図6を解析したところ、球形の塊粒子は平均粒度10 μm〜20 μmを有するものとして得られた。共結晶の塊の表面を高倍率下で観察すると、該塊は細長い(管状又は針状の)形の個々の共結晶が凝集して互いに結合されたものからなることが明らかとなった(
図6c)。同じAPIから得られた個々の共結晶の晶癖は、共形成体の固有の結晶特性のために異なり得る。
【0057】
(実施例3)
本発明の実施例3は、カルバマゼピン(CARB無水物、TCI Development社製)及びニコチンアミド(NIC、Sigma-Aldrich社製)のモル比率1:1(総重量〜30グラム)の混合物に存する。物理的混合物のさらなる処理は、実施例1及び2において適用された手順と同様であった。物理的混合物の完全な融解は175℃で観察された。噴霧凝固法を実施例1及び2と同じ設備で、かつ同じ条件(すなわち、開放サイクルモード、延長設定、1.20 mmの先端を備えるジャケット付きの2つの流体ノズル)で実施した。霧状化の流速を11.8 L/分に設定し、一方で凝結ガスの流速は0.35 m
3/分に維持した。安定化後の凝結ガスの注入温度及び排出温度(すなわち、それぞれT_in及びT_out)は、50℃及び36℃であった。プロセスの最後に、得られた粉末を、特性評価のために実施例1及び2と同じ分析技術及びそれぞれの実験方法(すなわち、mDSC、XRPD、及びSEM)により特徴づけた。また、純粋なAPI、共形成体、及びそれぞれの物理的混合物も、比較のためmDSC及びXRPDで分析した。
【0058】
図7は純粋なCARB、純粋なNIC、1:1のCARB:NIC ACの物理的混合物、及び噴霧凝固法を用いて得られた1:1のCARB:NICの粉末の熱分析に対応するmDSC熱流曲線を示している。
【0059】
純粋なCAFのDSCプロファイルと同様に、純粋なCARBは最初に150℃で多形転換し、次に186℃で、新たな層の融解が生じた(J. Pharm. Sci. 2003、92(11)、2260-71)。純粋なNICのサーモグラムは、材料の熱力学的融解に帰する126℃での単一の吸熱ピークを提示した。1:1のCARB:NICの物理的混合物のサーモグラムは122℃及び157℃で2つの鋭い吸熱ピークを示し、これらはそれぞれ共晶混合物及び共結晶の融解と対応していた。103℃の温度では、先に記載した吸熱ピークと比較してずっと小さい関連エンタルピーを有する別の吸熱ピークが観察されたが、これは相転換と対応し得る。噴霧凝固法を用いて生産された粉末について観察されるサーモグラムは、それぞれの物理的混合物のサーモグラムと一致しており、共結晶が形成されたことを示していた。実施例2と同様に、共晶混合物に対応する吸熱は消失したが、一方共結晶の融解に対応するピークは依然として154℃に観察された。これらの結果は、1:1のCARB:NICの共結晶を異なる製造方法を用いて生産した場合、文献(Cryst. Growth Des. 2009、9(5). 2377-86; Pharm. Res. 2012、29、806-17)と一致していた。
【0060】
図8は、純粋なCARB、純粋なNIC、1:1のCARB:NICの物理的混合物、及び噴霧凝固法により生産された1:1のCARB:NICの粉末に対応するXRPDパターンを示している。
【0061】
純粋な要素について得られたXRPDパターンは、Cheingらの文献(Cryst. Growth Des. 2009、9(5)、2377-86)で示されたCARBの形態III及びNICのパターンと同等である。さらに、1:1のCARB:NICの物理的混合物について得られたディフラクトグラムは、予想した通り、純粋な結晶性の出発要素(CARB及びNIC)のパターンと同等であった。後者の結果を噴霧凝固法によって生産された材料のXRPDディフラクトグラムと比較すると、新たな結晶性ピークの出現及び純粋な要素の特徴的なピークのピーク強度の全体的な低下を観察することができる。この1:1のCARB:NICの共結晶のXRPDパターンは、同じ共結晶を固体状態の摩砕法により生産したChiengらの文献において得られた共結晶のディフラクトグラム(Cryst. Growth Des. 2009、9(5)、2377-86)と類似している。判別的な共結晶ピークとしては、以下の位置のピーク:6.8°2θ、9.1°2θ、10.4°2θ、13.5°2θ、15.8°2θ、18.1°2θ、20.6°2θ、26.6°2θが挙げられる。
【0062】
図9a及び9bは噴霧凝固法によって得られた1:1のCARB:NICの最終産物のそれぞれ300×、650×の倍率に対応するSEM顕微鏡写真を示している。
【0063】
図9を分析すると、1:1のCAF:SAL ACの共結晶に関する
図6と同様に、球形の塊粒子が得られた。一般に、これらの粒子は10 μm〜50 μmの粒度を提示する。共結晶の塊の表面を高倍率下で観察すると、塊は互いに融合した個々の針状の形の共結晶からなることが明らかとなった。