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特許6465991光通信ネットワークにおける帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するための方法及びマスターデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6465991
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】光通信ネットワークにおける帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するための方法及びマスターデバイス
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/272 20130101AFI20190128BHJP
【FI】
   H04B10/272
【請求項の数】19
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-544682(P2017-544682)
(86)(22)【出願日】2016年7月7日
(65)【公表番号】特表2018-509092(P2018-509092A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016003235
(87)【国際公開番号】WO2017006568
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年8月22日
(31)【優先権主張番号】15176079.0
(32)【優先日】2015年7月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】フロック、グウィレルム
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−274627(JP,A)
【文献】 特表2014−512733(JP,A)
【文献】 特開2006−197489(JP,A)
【文献】 特開2001−168840(JP,A)
【文献】 特開2007−043270(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02479906(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/272
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターデバイスと、前記マスターデバイスに光ファイバーを介して接続されるスレーブデバイスとを備える光通信ネットワーク内の帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するための方法であって、前記光通信ネットワークは、帯域内通信を可能にするように構成され、前記帯域外通信チャネルは、前記帯域内通信に関するシグナリング信号を送信できるようにすることを意図しており、互いに一致するそれぞれのキャリア波長を使用することによって複数のスレーブデバイスが前記帯域外通信チャネルにアクセスするときに、前記帯域外通信チャネルにおいて衝突が発生する、方法において、前記マスターデバイスは、
前記帯域外通信チャネルへのアクセスを制限することなく、前記スレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号を処理することと、
前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスするスレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号間の衝突を検出すると、
前記検出された衝突に関与したキャリア波長と同一のキャリア波長を使用して前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、前記帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、前記帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始することと、
を実行することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記一時的タイムスロット式アクセスから衝突が発生していないシグナリング信号を受信すると、前記マスターデバイスは、前記シグナリング信号のキャリア波長と同一のキャリア波長を使用して前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い前記スレーブデバイスに向かって、前記シグナリング信号が受信中であることを表す、第1のパディングメッセージを送信することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のパディングメッセージは、前記衝突が発生したとき、前記スレーブデバイスから前記シグナリング信号が既に受信中であったならば、該スレーブデバイスを、前記衝突を引き起こすことになる前記シグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから区別しようと試みる第1の弁別情報を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各シグナリング信号は、該シグナリング信号を送信する前記スレーブデバイスを識別することを目的とする識別情報を含み、前記マスターデバイスは、受信中の前記シグナリング信号のシンボルを復号しようと試みることを特徴とし、前記マスターデバイスは、前記シグナリング信号から復号するのに成功し、それにより、前記第1の弁別情報を形成するシンボルをその中に含むように、前記第1のパディングメッセージを形成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記衝突を検出すると、前記マスターデバイスは、前記衝突を引き起こした前記シグナリング信号のキャリア波長と同一のキャリア波長を使用して前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い前記スレーブデバイスに向かって、前記衝突を表すいわゆるビーコンメッセージを送信し、該ビーコンメッセージは、前記帯域外通信チャネルへの前記一時的タイムスロット式アクセスを開始する時点を前記スレーブデバイスに通知することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ビーコンメッセージは、タイムスロットごとに、該タイムスロット内でシグナリング信号を送信することを許される各スレーブデバイスを表す第2の弁別情報を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の弁別情報は、それぞれのビット位置において識別子ビットのサブセットを含む識別子によって識別される前記スレーブデバイスが、前記タイムスロット内で前記帯域外通信チャネルにアクセスするのを許されるような、前記識別子内の前記ビット位置を有する前記識別子ビットの前記サブセットであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーコンメッセージは更に、タイムスロットごとに、該タイムスロット内で送信されることになる前記シグナリング信号内に補足識別子ビットが含まれることを要求することを特徴とする、請求項5から7のいずれ1項に記載の方法。
【請求項9】
前記一時的タイムスロット式アクセスの1タイムスロット内で衝突が発生していないシグナリング信号を受信すると、前記マスターデバイスは、前記シグナリング信号のキャリア波長と同一のキャリア波長を使用して前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い前記スレーブデバイスに向かって、前記シグナリング信号が受信中であることを表す、第2のパディングメッセージを送信することを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のパディングメッセージは、前記衝突を引き起こすことになる前記シグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、前記衝突が発生したときに前記タイムスロット内で既に受信中であったならば、前記シグナリング信号を送信する前記スレーブデバイスを区別しようと試みる第3の弁別情報を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
各シグナリング信号は、該シグナリング信号を送信する前記スレーブデバイスを識別することを目的とする識別情報を含み、前記マスターデバイスは、前記タイムスロット内で受信中の前記シグナリング信号のシンボルを復号しようと試みることを特徴とし、前記マスターデバイスは、前記シグナリング信号から復号するのに成功し、それにより、前記第3の弁別情報を形成するシンボルをその中に含むように、前記第2のパディングメッセージを形成することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第3の弁別情報は、前記マスターデバイスと、前記衝突が発生したときに前記タイムスロット内で既に受信中であったならば、前記シグナリング信号を送信する前記スレーブデバイスとの間のラウンドトリップ時間を表すことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第3の弁別情報は、前記衝突が発生したときに前記タイムスロット内で既に受信中であったならば、前記シグナリング信号から、前記マスターデバイスによって測定された受信信号強度表示を表すことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
シグナリング情報は連続したシンボル周期にわたる変調シンボルの形をとり、前記マスターデバイスは、前記帯域外通信チャネル内の衝突を検出するために、
前記帯域外通信チャネルを介して信号を受信することと、
前記帯域内通信のために使用されるサンプリング周波数に、又はそこから導出される約数に対応する周波数を使用することによって、そのサンプルを取得するように、前記信号の受信時点から開始して受信信号をオーバーサンプリングすることであって、それにより、シンボル周期ごとに取得されたサンプル量が、前記帯域外通信チャネルにわたる雑音が前記サンプル量にわたって自己補償されると考えるほど十分に高いようにすることと、
シンボル周期ごとに前記サンプルの少なくとも1つのパラメーターの大きさの変動をチェックすることであって、前記各パラメーターは、振幅、位相及び周波数の中の1つのパラメーターであり、前記帯域外通信チャネルを介して送信するために前記信号に適用された変調に従って前記変動をチェックするために選択されることと、
前記各パラメーターの前記変動が、前記パラメーターに関する、前記帯域外通信チャネルにわたる雑音分散以上である所定の閾値より大きいときに衝突を検出することと、
を実行することを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記マスターデバイスは、前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い各スレーブデバイスに、該スレーブデバイスによってそれぞれ送信されることになる更なるシグナリング情報内で前記スレーブデバイスによって使用されることになるそれぞれの短縮識別情報を取得するように、前記スレーブデバイスが、少なくとも該スレーブデバイスのそれぞれの完全な識別子に適用しなければならないマスクを表す情報を送信し、スレーブデバイスごとの前記短縮識別情報は、前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスから前記スレーブデバイスを区別できるようにするために、前記マスクに従って十分なビットを含むことを目的とすることを特徴とする、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記マスターデバイスは、
前記帯域外通信チャネルを介して、いわゆる、アナウンシングシグナリング情報を受信することと、
前記アナウンシングシグナリング情報に応答して、少なくとも前記マスクを表す前記情報を送信することと、
を実行することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マスターデバイスは、前記スレーブデバイスに、パッシブ光通信ネットワーク内に存在する前記スレーブデバイスを製造した異なるベンダーの数に応じて規定された、より短いサイズを有するコードとのベンダー識別子部分の関連性を与える変換表を与え、それにより、前記スレーブデバイスは、送信されるシグナリング情報において、それぞれの識別子のベンダー識別子部分を、前記変換表内で示されるような対応するコードに置き換えることを特徴とする、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記スレーブデバイスの光送信インターフェースが、光バンドパスフィルターを介して前記マスターデバイスに光信号を送信するために調整されなければならず、前記マスターデバイスは、前記キャリア波長が前記光バンドパスフィルターの通過帯域に含まれるときに、前記光バンドパスフィルターによって出力され、キャリア波長上で前記スレーブデバイスによって送信される光信号を受信できるようにするために構成される光受信インターフェースを有し、前記キャリア波長は事前に未知であり、及び/又は前記光バンドパスフィルターの前記通過帯域は事前に未知であり、シグナリング情報を用いて、前記キャリア波長を前記光バンドパスフィルターの前記通過帯域に対してロックすることを特徴とする、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
マスターデバイスと、該マスターデバイスに光ファイバーを介して接続されるスレーブデバイスとを備える光通信ネットワーク内の帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するためのマスターデバイスであって、前記光通信ネットワークは、帯域内通信を可能にするように構成され、前記帯域外通信チャネルは、前記帯域内通信に関するシグナリング信号を送信できるようにすることを意図しており、互いに一致するそれぞれのキャリア波長を使用することによって複数のスレーブデバイスが、前記帯域外通信チャネルにアクセスするときに前記帯域外通信チャネルにおいて衝突が発生する、マスターデバイスにおいて、該マスターデバイスは、
前記帯域外通信チャネルへのアクセスを制限することなく、前記スレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号を処理するプロセッサと、
前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスするスレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号間の衝突を検出すると、
前記検出された衝突に関与したキャリア波長と同一のキャリア波長を使用して前記帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、前記帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、前記帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始するイニシエーターと、
を実装することを特徴とする、マスターデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的には光通信ネットワークに関し、より詳細には、帯域外シグナリング通信チャネルへのアクセスを制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワーク、より詳細には、パッシブ光通信ネットワークは、住宅若しくはオフィスゲートウェイ、若しくはデータセンターへのネットワークアクセスを与えるために、又は、例えば、モバイルバックホーリングを確保するために、使用される機会が増えている。
【0003】
1つのアクセスシステムによってネットワークへのサービスを提供されるユーザー端末の数を増やすために、波長(又は周波数)分割多重化技術が開発されてきた。これらの技術は、単一の光ファイバー上で異なるキャリア周波数を用いて幾つかの光信号を多重化することを利用する。幾つかのユーザー端末が同じキャリア周波数を共有することができるが、同時の光伝送の数を増やすために、通常、周波数スプリッターを用いて、使用時に異なる周波数に分離する。周波数スプリッターは通常、ユーザー端末と、ネットワークの他の部分へのアクセスを提供するマスター端末の組との間に配置される。例えば、これらのマスター端末は、メトロポリタンネットワーク又はコアネットワークへのアクセスを提供する。異なる技術を用いて、そのような周波数スプリッティングを達成することができる。薄膜ベースシステムと、AWG(アレイ波長回折格子:Array Wavelength Gratings)及びFBG(ファイバーブラッグ回折格子)ベースシステムのような干渉空洞とを挙げることができる。
【0004】
その際、周波数スプリッターは、通信方向ごとに幾つかの光バンドパスフィルターを備える。光バンドパスフィルターを用いて、ユーザー端末がアタッチされるマスター端末に向かってこのユーザー端末によって放射される光信号をフィルタリング及び合成し、各ユーザー端末は、その際、1つのマスター端末と通信すると想定される。他方の方向では、光バンドパスフィルターを用いて、マスター端末にアタッチされるユーザー端末に向かってマスター端末によって放射される光信号をフィルタリングし、スペクトル分割する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのような構成において難しいのは、端末の送信インターフェースを構成することである。実際には、これらの送信インターフェースは、実効的に用いられるキャリア周波数が、それらのキャリア周波数が通信する際に介するそれぞれの光バンドパスフィルターの公称周波数に実質的に等しいように構成されることになる。しかしながら、それぞれの光バンドパスフィルターの公称周波数、及び/又は端末の送信インターフェースの実効的な構成から生じるキャリア周波数は、温度のような環境条件に応じて異なる場合がある。非温度制御環境を使用することは、ユーザー端末に関して特に、動作を複雑にする必要がないので、一般に好ましい。それぞれの光バンドパスフィルターの公称周波数は事前に未知である場合があるので、及び/又は端末の送信インターフェースの実効的な構成は事前に未知である場合があるので、したがって、そのような光バンドパスフィルターによって分離される光通信デバイス間の通信を設定するために、それぞれの光バンドパスフィルターの実効的な公称周波数に対して、使用時にキャリア周波数を実効的にロックするために、端末の送信インターフェースの構成を適切に規定できることが必要とされている。
【0006】
そのような光通信ネットワーク内の通信は通常、光キャリア周波数を介して送信されるベースバンド信号に頼っており、帯域内通信と呼ばれる。ベースバンドは、例えば、1GHz〜10GHzの範囲と規定される。ベースバンドは、帯域内通信信号の復号を実行するのに重要である、任意の帯域内通信信号から生じる成分が位置するスペクトル範囲に対応する。
【0007】
上記の周波数ロッキングを実行するために、そして、光通信ネットワーク内で確立される帯域内通信と干渉しないようにするために、又は任意のシグナリングが帯域内通信によって使用されるスペクトルリソースを使用するのを防ぐために、ロッキングプロトコル又は任意の他のシグナリングプロトコルを実施できるようにするための帯域外通信チャネルが確立される場合がある。2つの光通信デバイス間の帯域外通信は、その2つの光通信デバイス間の帯域内通信と同じキャリア周波数を使用する。帯域外という用語は、帯域外通信チャネル内で行われる通信が、周波数に関してベースバンド下限より通常はるかに低い、帯域内通信のベースバンドとは異なるスペクトル部分に頼ることを示しており、それは、帯域外通信チャネル内のボーレートがベースバンド内のボーレートよりはるかに低いことを意味する。周波数ロッキングに関して、1つの取り得る手法は、第1及び第2の光通信デバイスのうちの開始側デバイスが、所与のキャリア周波数を使用することによって、帯域外通信チャネルを介して、第1及び第2の光通信デバイスのうちの他方の光通信デバイスにロッキング信号を送信することである。開始側デバイスは、関連する光バンドパスフィルターの公称周波数に一致するまで、種々の周波数を走査することによって、それを実行する。
【0008】
そのような帯域外通信チャネルは、他のタイプのシグナリング情報を与えるために確立される場合もある。しかしながら、2つのユーザー端末が同じキャリア周波数を用いて、その端末がアタッチされるマスター端末に向かう帯域外通信チャネルにアクセスするとき、これらのユーザー端末は信号を送信する前に媒体を検知することができないので衝突が生じる場合があり(大部分の無線周波数又は有線システムとは対照的である)、マスター端末の側における信号の復号を(潜在的には不可能ではないにしても)難しくする場合がある。そのような衝突を制限するか、更には回避するために、時分割多元接続(TDMA)技法が、多くの場合に使用される。しかしながら、そのようなTDMA技法は、通信チャネルが低いボーレートを与えるときには特に、望ましくない送信待ち時間を導入する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光通信ネットワークにおいて生じる上記の問題を克服することが望ましい。詳細には、望ましくない送信待ち時間を回避しながら、信号衝突の発生が制限されるようにして、帯域外通信チャネルへのアクセスの制御を管理できるようにする解決策を提供することが望ましい。
【0010】
上記の問題に対するコスト効率の良い解決策を提供することが更に望ましい。
【0011】
本発明はまた、マスターデバイスと、マスターデバイスに光ファイバーを介して接続されるスレーブデバイスとを備える光通信ネットワーク内の帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するための方法であって、光通信ネットワークは、帯域内通信を可能にするように構成され、帯域外通信チャネルは、帯域内通信に関するシグナリング信号を送信できるようにすることを意図しており、互いに一致するそれぞれのキャリア波長を使用することによって複数のスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスするときに、帯域外通信チャネルにおいて衝突が発生する、方法に関する。本方法は、マスターデバイスが、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限することなく、上記スレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号を処理することと、帯域外通信チャネルに同時にアクセスするスレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号間の衝突を検出すると、検出された衝突に関与したキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始することとを実行するようになっている。したがって、帯域外通信チャネルに対して、一時的にそのようなタイムスロット式アクセスを実施することによって、帯域外通信チャネルを介しての衝突の発生が制限される。
【0012】
特定の特徴によれば、一時的タイムスロット式アクセスからのシグナリング信号を受信すると、そのシグナリング信号による任意の衝突発生前に、マスターデバイスは、そのシグナリング信号のキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスに向かって、上記シグナリング信号が受信中であることを表す、第1の、いわゆる、パディングメッセージを送信する。したがって、シグナリング信号を送信しているスレーブデバイスに対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスは、上記シグナリング信号が受信中であることを通知され、それゆえ、帯域外通信チャネルを介してのシグナリング情報のスケジューリングされた送信を遅らせる等の予防措置を実行することができる。
【0013】
特定の特徴によれば、第1のパディングメッセージは、もしあるなら、衝突を引き起こすことになるシグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、衝突が発生したときに既に受信中であったシグナリング信号を送信するスレーブデバイスを区別しようと試みる第1の弁別情報を含む。したがって、第1のパディングメッセージは、受信中のシグナリング信号をどのスレーブデバイスが送信しており、上記シグナリング信号を送信し続けるべきであるかを判断できるようにし、さらに、衝突を暗示する場合があるどの他のスレーブデバイスがシグナリング信号を送信するのを中止すべきであるか、又は送信すべきでないかを判断できるようにする。
【0014】
特定の特徴によれば、各シグナリング信号は、そのシグナリング信号を送信するスレーブデバイスを識別することを目的とする識別情報を含み、マスターデバイスは、受信中のシグナリング信号のシンボルを復号しようと試み、マスターデバイスは、上記シグナリング信号から復号するのに成功し、それにより、上記第1の弁別情報を形成するシンボルをその中に含むように、第1のパディングメッセージを形成する。したがって、上記第1のパディングメッセージは、形成するのが容易である。
【0015】
特定の特徴によれば、上記衝突を検出すると、マスターデバイスは、上記衝突を引き起こしたシグナリング信号のキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスに向かって、上記衝突を表すいわゆるビーコンメッセージを送信し、ビーコンメッセージは、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを開始する時点を上記スレーブデバイスに通知する。したがって、スレーブデバイスは、タイムスロット式アクセスがいかに設定されるか、及び通常の非同期(非タイムスロット式)送信をいつ再開できるかを容易に通知される。
【0016】
特定の特徴によれば、ビーコンメッセージは、タイムスロットごとに、そのタイムスロット内でシグナリング信号を送信することを許される各スレーブデバイスを表す第2の弁別情報を含む。したがって、衝突の発生が更に制限される。
【0017】
特定の特徴によれば、上記第2の弁別情報は、それぞれのビット位置において識別子ビットのサブセットを含む識別子によって識別されるスレーブデバイスが、上記タイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするのを許されるような、上記識別子内の上記ビット位置を有する上記識別子ビットのサブセットである。複数のスレーブデバイスが、関連するタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするための条件に一致するそれぞれの識別子を有する場合であっても、衝突の発生が更に制限される。
【0018】
特定の特徴によれば、ビーコンメッセージは更に、タイムスロットごとに、そのタイムスロット内で送信されることになるシグナリング信号内に補足識別子ビットが含まれることを要求する。したがって、マスターデバイスが、どのスレーブデバイスが衝突を暗示したかをあらかじめ識別できなかった場合に、補足識別子ビットが、候補スレーブデバイスを絞り込むのを助けることになる。
【0019】
特定の特徴によれば、上記一時的タイムスロット式アクセスの1タイムスロット内でシグナリング信号を受信すると、上記シグナリング信号との任意の衝突発生前に、マスターデバイスは、上記シグナリング信号のキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスに向かって、上記シグナリング信号が受信中であることを表す、第2の、いわゆる、パディングメッセージを送信する。したがって、上記シグナリング信号を送信しているスレーブデバイスに対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスは、そのシグナリング信号が関連するタイムスロット内で受信中であることを通知され、それゆえ、そのタイムスロット内でのシグナリング情報のスケジューリングされた送信を遅らせる等の予防措置を実行することができる。
【0020】
特定の特徴によれば、第2のパディングメッセージは、もしあるなら、衝突を引き起こすことになるシグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、衝突が発生したときに上記タイムスロット内で既に受信中であったシグナリング信号を送信するスレーブデバイスを区別しようと試みる第3の弁別情報を含む。したがって、第2のパディングメッセージは、そのタイムスロット内で受信中のシグナリング信号をどのスレーブデバイスが送信しており、そのシグナリング信号を送信し続けるべきかを判断できるようにし、さらに、衝突を暗示する場合があるどの他のスレーブデバイスがシグナリング信号を送信するのを中止すべきであるか、又は送信するのを開始すべきでないかを判断できるようにする。
【0021】
特定の特徴によれば、各シグナリング信号は、上記シグナリング信号を送信するスレーブデバイスを識別することを目的とする識別情報を含み、マスターデバイスは、上記タイムスロット内で受信中のシグナリング信号のシンボルを復号しようと試み、マスターデバイスは、上記シグナリング信号から復号するのに成功し、それにより、上記第3の弁別情報を形成するシンボルをその中に含むように、第2のパディングメッセージを形成する。したがって、上記第2のパディングメッセージは形成するのが容易である。
【0022】
特定の特徴によれば、上記第3の弁別情報は、マスターデバイスと、もしあるなら、衝突が発生したときに上記タイムスロット内で既に受信中であったシグナリング信号を送信するスレーブデバイスとの間のラウンドトリップ時間を表す。
【0023】
特定の特徴によれば、上記第3の弁別情報は、もしあるなら、衝突が発生したときに上記タイムスロット内で既に受信中であったシグナリング信号から、マスターデバイスによって測定された受信信号強度表示を表す。
【0024】
特定の特徴によれば、シグナリング情報は連続したシンボル周期にわたる変調シンボルの形をとり、マスターデバイスは、帯域外通信チャネル内の衝突を検出するために、帯域外通信チャネルを介して信号を受信することと、帯域内通信のために使用されるサンプリング周波数に、又はそこから導出される約数に対応する周波数を使用することによって、そのサンプルを取得するように、上記信号の受信時点から開始して受信信号をオーバーサンプリングすることであって、それにより、シンボル周期ごとに取得されたサンプル量が、帯域外通信チャネルにわたる雑音が上記サンプル量にわたって自己補償されると考えるほど十分に高いようにすることと、シンボル周期ごとにサンプルの少なくとも1つのパラメーターの大きさの変動をチェックすることであって、上記各パラメーターは、振幅、位相及び周波数の中の1つのパラメーターであり、帯域外通信チャネルを介して送信するために上記信号に適用された変調に従って上記変動をチェックするために選択されることと、上記各パラメーターの変動が、上記パラメーターに関する、帯域外通信チャネルにわたる雑音分散以上である所定の閾値より大きいときに衝突を検出することとを実行する。したがって、衝突が容易に、コスト効率良く検出される。
【0025】
特定の特徴によれば、マスターデバイスは、帯域外通信チャネルを介して、いわゆる、アナウンシングシグナリング情報を受信することと、上記アナウンシングシグナリング情報に応答して、上記マスクを少なくとも表す情報を送信することとを実行する。したがって、光通信ネットワークに参加するスレーブデバイスは、短縮識別情報を迅速に使用することができ、帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスによって送信された他のシグナリング情報との衝突のリスクを迅速に低減することができる。
【0026】
特定の特徴によれば、マスターデバイスは、スレーブデバイスに、パッシブ光通信ネットワーク内に存在するスレーブデバイスを製造した異なるベンダーの数に応じて規定された、より短いサイズを有するコードとのベンダー識別子部分の関連性を与える変換表を与え、それにより、上記スレーブデバイスは、送信されるシグナリング情報において、それぞれの識別子のベンダー識別子部分を、上記表内で示されるような対応するコードに置き換える。したがって、上記シグナリング情報を送信しているスレーブデバイスを識別するためにシグナリング情報において実効的に使用される識別情報のサイズが更に削減される。
【0027】
特定の特徴によれば、上記スレーブデバイスの光送信インターフェースが、光バンドパスフィルターを介してマスターデバイスに光信号を送信するために調整されなければならず、マスターデバイスは、上記キャリア波長が光バンドパスフィルターの通過帯域に含まれるときに、上記光バンドパスフィルターによって出力され、キャリア波長上で上記スレーブデバイスによって送信される光信号を受信できるようにするために構成される光受信インターフェースを有し、上記キャリア波長は事前に未知であり、及び/又は光バンドパスフィルターの上記通過帯域は事前に未知であり、上記シグナリング情報を用いて、上記キャリア波長を光バンドパスフィルターの上記通過帯域に対してロックする。したがって、ロッキングキャリア波長は、帯域外通信チャネルを介してリソースを浪費するので、そのような状況において帯域外通信チャネルを介しての衝突のリスクが特に低減され、それゆえ、少なくともシステム応答に関して、ロッキング機構を改善する。
【0028】
本発明はまた、マスターデバイスと、マスターデバイスに光ファイバーを介して接続されるスレーブデバイスとを備える光通信ネットワーク内の帯域外通信チャネルへのアクセスを制御するためのマスターデバイスであって、光通信ネットワークは、帯域内通信を可能にするように構成され、帯域外通信チャネルは、帯域内通信に関するシグナリング信号を送信できるようにすることを意図しており、互いに一致するそれぞれのキャリア波長を使用することによって複数のスレーブデバイスが、帯域外通信チャネルにアクセスするときに帯域外通信チャネルにおいて衝突が発生する、マスターデバイスに関する。マスターデバイスは、マスターデバイスが、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限することなく、上記スレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号を処理するプロセッサと、帯域外通信チャネルに同時にアクセスするスレーブデバイスによって送信されたシグナリング信号間の衝突を検出すると、検出された衝突に関与したキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始するイニシエーターとを実装するようなものになっている。
【0029】
本発明はまた、通信ネットワークからダウンロードすることができ、及び/又はコンピューターによって読み出し、プロセッサによって実行することができる媒体上に記憶することができるコンピュータープログラムに関する。このコンピュータープログラムは、そのプログラムがプロセッサによって実行されるときに、種々の実施形態のうちのいずれか1つにおいて上記の方法を実施するための命令を含む。本発明はまた、記憶された情報がコンピューターによって読み出され、プロセッサによって実行されるときに、種々の実施形態のうちのいずれか1つにおいて上記の方法を実施するための1組の命令を含むコンピュータープログラムを記憶する情報記憶手段に関する。
【0030】
本発明の特性は、実施形態の一例の以下の説明を読むことから更に明らかになり、その説明は添付の図面を参照しながら行われる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明を実施することができる、マスターデバイス及び複数のスレーブデバイスを含む、光通信ネットワークの構成を表す概略図である。
図2】光通信ネットワークのマスターデバイスの構成を表す概略図である。
図3】帯域外通信チャネルを介して受信されたシグナリング信号を処理するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図4】衝突回避手順を開始するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図5】帯域外通信チャネルを介してマスターデバイスにシグナリング信号を送信するために、各スレーブデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図6】帯域外通信チャネルを介してそれぞれのスレーブデバイスによって送信されるシグナリング信号の衝突を検出するための衝突検出機構を開始するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図7】衝突検出機構を実施するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図8】本発明の1つの実施形態による、帯域外通信チャネルを介して受信されたアナウンシングシグナリング情報を処理するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図9図8に関して導入された本発明の実施形態による、帯域外通信チャネルを介してアナウンシングシグナリング情報を送信するために、各スレーブデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図10】本発明の1つの実施形態による、帯域外通信チャネルを介して更なるシグナリング情報を送信するために、各スレーブデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
図11図10に関して導入された本発明の実施形態による、帯域外通信チャネルを介して受信された上記更なるシグナリング情報を処理するために、マスターデバイスによって実行されるアルゴリズムを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に詳述されるように、マスターデバイス及び複数のスレーブデバイスを含む、光通信ネットワーク内の帯域外通信チャネルへのアクセスを効率的に管理するために、第1の態様によれば、シグナリング信号が、タイムスロット式アクセスを用いることなく、帯域外通信チャネルを介して主に非同期に送信されることが提案される。それは、スレーブデバイスが、アクセス制限を用いることなく、すなわち、スレーブデバイスが望むときに、帯域外通信チャネルにアクセスすることを意味する。2つのスレーブデバイスによって同時に検出される同じイベントが、シグナリング信号のそれぞれの送信、それゆえ、何らかの形の同期した送信を起動できる場合であっても、光通信ネットワーク全体にわたって異なる待ち時間を引き起こす異なる伝搬距離に起因して、シグナリング信号は通常、マスターデバイスによって非同期に受信されることに留意することができる。しかしながら、複数のシグナリング信号が、時には同時に受信される場合があり、それにより、衝突を引き起こす。そのような衝突が検出されるとき、マスターデバイスは、その衝突に関与しているキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始し、それによって、上記キャリア波長に頼る同時のシグナリング信号のそのような衝突の発生を回避するか、少なくとも制限する。
【0033】
第2の態様によれば、上記シグナリング信号に伴う任意の衝突発生より前にシグナリング信号を受信すると、マスターデバイスは、上記シグナリング信号のキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスに向かって、上記シグナリング信号が受信中であることを表すパディングメッセージを送信する。そのようなパディングメッセージは、それゆえ、他のスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスするのを避けるように、上記シグナリング信号が受信中であることをスレーブデバイスに通知するように意図されている。そのようなパディングメッセージは、もしあるなら、衝突を引き起こすことになるシグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、衝突が発生したときに既に受信中であったシグナリング信号をそれぞれ送信しているスレーブデバイスを区別しようと試みる弁別情報を含むことが好ましい。それゆえ、そのようなパディングメッセージは、上記弁別情報に従って選択されない他のスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスするのを中止するように、上記シグナリング信号が受信中であることをスレーブデバイスに通知するように意図されている。上記第2の態様は上記第1の態様から独立して実施できるが、上記第1の態様とともに実施できることが好ましいことに留意することができる(以下に詳述される)。
【0034】
図1は、本発明を実施することができるパッシブ光ネットワークの構成を概略的に表す。
【0035】
波長及び周波数は直接反比例関係(direct inverse relationship)を通して互いに結び付けられ、これら2つの用語は同じ概念を指しているので、当業者によって区別することなく用いられることに留意されたい。
【0036】
これ以降、パッシブ光通信ネットワークとの関連で説明が詳述されるが、光通信ネットワークの更に一般的な状況においても同様に適用することができる。
【0037】
パッシブ光通信ネットワーク100は、マスターデバイス110と、複数のスレーブデバイス141、142、143と、スペクトルスプリッターデバイス120とを備える。スレーブデバイス141、142、143は、スペクトルスプリッターデバイス120を介してマスターデバイス110と相互接続される。マスターデバイス110と相互接続することができるスレーブデバイスの数を増やすために、後に説明されるようなパワースプリッターをスレーブデバイスとスペクトルフィルターデバイス120との間に配置することができる。パッシブ光通信ネットワーク100の全ての相互接続は光ファイバーを用いることによって実行される。マスターデバイス110及びスレーブデバイス141、142、143を実現するための特定のハードウェアプラットフォーム実施形態が、図2に関して後に詳述される。
【0038】
パッシブ光通信ネットワーク100との関連において、スレーブデバイス141、142、143はONU(光ネットワークユニット)タイプである。ONUは通常、エンドユーザー世帯に位置するか、又はフロントホールの適用例の場合には遠隔無線ヘッドに位置するように意図されている。
【0039】
パッシブ光通信ネットワーク100との関連で、マスターデバイス110はOLT(光回線終端装置)タイプである。それにより、ONUがメトロポリタンネットワーク又はコアネットワーク(図示せず)にアクセスできるようになる。
【0040】
スレーブデバイス141、142、143は、パワースプリッターデバイス132を介してスペクトルスプリッターデバイス120に接続することができる。パワースプリッターデバイス132は、ダウンリンク方向(マスターデバイス110からスレーブデバイスへの)において入力信号を複数の対応する信号に分離する受動スプリッターであり、電力がスレーブデバイス141、142、143に向かうリンクの数だけ分割される。ダウンリンク方向における各リンク上に、パワースプリッターデバイス132によって出力される信号は、入力信号と同じ情報を含み、パワースプリッターデバイス132は信号の電力にのみ影響を及ぼす。
【0041】
他のスレーブデバイスがパワースプリッターデバイス131、133を介してスペクトルスプリッターデバイス120に接続することができる。各パワースプリッターデバイス131、132、133及びそれに接続されるスレーブデバイスは、これらのスレーブデバイスがアタッチされるマスターデバイスとともにPON(パッシブ光ネットワーク)タイプのネットワークを形成する。PONは、スペクトルスプリッターデバイス120によってフィルタリングされるようなそれぞれの波長帯において動作する。これを果たすために、スペクトルスプリッターデバイス120は、それぞれの波長帯をフィルタリングすることを目的とし、それゆえ、スペクトルスプリッターデバイス120が波長分割多重化を実行できるようにする、PONごとの一対の光バンドパスフィルターの組を備える。
【0042】
それゆえ、図1に示されるように、スペクトルスプリッターデバイス120は、パワースプリッターデバイス132と、その関連するスレーブデバイス141、142、143とからなるPONを通して伝送するための専用の光バンドパスフィルターの組121、122とを備える。フィルターの組122は、これ以降、アップリンクフィルターと呼ばれ、アップリンク方向における(同じPON内にあるスレーブデバイス141、142、143からマスターデバイス110への)光信号のフィルタリングを担う。フィルターの組121は、これ以降、ダウンリンクフィルターと呼ばれ、ダウンリンク方向における光信号のフィルタリングを担う。組121、122の各フィルターは、中心波長とも呼ばれる公称波長と、帯域幅とによって規定されるバンドパスフィルターである。組121、122の各フィルターは、スペクトル形状によって規定される場合もある。
【0043】
アップリンク方向又はダウンリンク方向について考える場合、スペクトルスプリッターデバイス120の全てのフィルターは同じ帯域幅値を有することが好ましく、一定のスペクトル距離だけ離間されることが好ましい。しかしながら、フィルターの公称波長は事前に未知である。スペクトルスプリッターデバイス120はパッシブであることが好ましく、フィルターの公称波長は、スペクトルスプリッターデバイス120の温度(スペクトルスプリッターデバイス120によって、又は近隣に位置する機器若しくは環境条件によって生成される熱)に応じて変化する場合がある。
【0044】
同じ制約に基づいてバンドパスフィルターが設計されるとき、フィルターの帯域幅値及びフィルター間のスペクトル距離は温度変動と実質的に無関係であることに留意されたい。
【0045】
さらに、スレーブデバイス141、142、143又はマスターデバイス110の光送信インターフェースの所与の構成に対応する実効的なキャリア波長はわからない場合がある。
【0046】
それゆえ、スレーブデバイス141、142、143は、組122の関連するアップリンクフィルターの公称周波数に実質的に等しいキャリア波長において、アップリンク方向において光信号を送信するために構成される必要がある。さらに、マスターデバイス110は、組121の関連するダウンリンクフィルターの公称周波数に実質的に等しいキャリア波長において、ダウンリンク方向において光信号を送信するために構成される必要がある。言い換えると、後に詳述されるように、キャリア周波数はロックされる必要があり、そのために帯域外通信チャネルが実施される。帯域外通信チャネルは、他のシグナリング情報を送信するために更に使用される場合もある。より詳細には、帯域外通信チャネルは、連続するシンボル周期を介しての変調シンボルの形をとる帯域内通信に関するシグナリング情報の伝送を可能にするように意図されている。そのようなシグナリング情報は、例えば、上記スレーブデバイスからマスターデバイスに向かう帯域内通信トラフィックに関連するサービスクラス若しくはデータレート情報、又は上記スレーブデバイスによって既知であり、マスターデバイス110が帯域内通信を管理できるようにするのに有用な任意の他の情報を含む場合がある。また、そのようなシグナリング情報は、関連するスレーブデバイスが適応するセンサーを備えるときに、電池残量(battery remaining load)、環境温度のような運用情報、又は上記スレーブデバイスによって既知であり、マスターデバイス110がパッシブ光通信ネットワーク100の運用を管理できるようにするのに有用な任意の他の情報も含む場合がある。
【0047】
所与のフィルターの通過帯域内の波長は、その所与のフィルターの公称周波数に実質的に等しいと見なされることに留意することができる。
【0048】
フィルターの組121、122の公称波長は同一とすることができることに留意することができる。それは、ダウンリンク方向及びアップリンク方向において、同じキャリア波長を用いることも、異なるキャリア波長を用いることもできることを意味する。
【0049】
スレーブデバイス141のような1つのスレーブデバイスと、マスターデバイス110との間でキャリア周波数をロックできるようにするために、1つの手法は、スレーブデバイスが帯域外通信チャネルを介してロッキング信号を送信することである。このロッキング信号は、上記スレーブデバイスによって、例えば、恣意的に選択されたキャリア周波数を介して送信される。マスターデバイス110から上記スレーブデバイスへの帯域外通信チャネルが既に設定されているとき、マスターデバイス110は、ロッキング信号がマスターデバイス110によって受信されるときに(ロッキング信号のために使用されるキャリア周波数が組122の関連するアップリンクフィルターの公称周波数と一致するときに)、スレーブデバイスに帯域外メッセージを送信することができる。ロッキング信号の送信後の所定の期間内に、そのような帯域外メッセージが上記スレーブデバイスによって受信されないとき、組122の関連するアップリンクフィルターの公称周波数と一致するキャリア周波数が使用されるまで、上記スレーブデバイスは、別のキャリア周波数を用いてそのプロセスを繰り返し行う。マスターデバイス110から上記スレーブデバイスへの帯域内通信が既に設定されているとき、マスターデバイス110は、代わりに、帯域内メッセージを用いて、ロッキング信号に応答することができる。組122の関連するアップリンクフィルターの公称周波数と一致するように、上記スレーブデバイスによって使用時にキャリア周波数を実効的にロックするために、他の手法を実施することができる。例えば、キャリア周波数をロックすることは、欧州特許出願公開第2466768号において記載されているミラーベース手法を用いてアップリンク方向において達成することができる。
【0050】
例えば、スレーブデバイス142からマスターデバイス110への光通信ネットワーク100において既に設定されている帯域内通信との干渉を引き起こすのを回避するために、特に整形されたロッキング信号を生成することが提案される。したがって、マスターデバイス110のような、光通信ネットワーク100の任意の受信機デバイスが、ロッキング信号を既に設定されている帯域内通信の信号から区別することができ、この既に設定されている帯域内通信内で交換される信号を復号し続けることができる。ロッキング信号は、マスターデバイス110に送信される情報から得られる被変調信号である。特定の実施形態において、その変調は、例えば、周波数Ωが帯域内通信のボーレートより低い円関数によって実行される。言い換えると、周波数Ωはベースバンドの下限より低い。ここで、ベースバンドが帯域内通信信号を復号するためにフィルタリングされなければならない周波数範囲に対応することを思い起こされたい。好ましい実施形態において、周波数Ωは、ベースバンドの下限より著しく低い。例えば、周波数Ωは1MHzに等しく、ベースバンドの下限は1GHz(又は最大で10GHz)である。その際、ロッキング信号を介してシグナリング情報を与えるために、振幅変調技法が使用される。一変形形態では、ロッキング信号は、振幅シフトキーイング(ASK)変調、又は周波数シフトキーイング(FSK)変調、又は位相シフトキーイング(PSK)変調、又は差分タイプの変調(差分周波数シフトキーイング、...)のような、そこから派生する任意の種類の変調を用いて変調することができる。好ましい実施形態において、上記スレーブデバイスは、被変調信号をアポダイズする、すなわち、被変調信号内の急峻な不連続性を除去又は平滑化する。したがって、上記スレーブデバイスは、ベースバンド内の過渡周波数がロッキング信号内に生成されないように、アポダイズされた被変調ロッキング信号が信号の開始及び終了時に滑らかに0に向かう傾向があるのを確実にする。帯域外通信信号を生成し、上記帯域外通信信号を帯域内通信信号から弁別するための実施形態が、欧州特許出願公開第2621112号で公開された欧州特許出願において開示される。
【0051】
既に言及されたように、帯域外通信チャネルは、キャリア周波数ロッキングプロセスの範囲内以外のシグナリング情報を送信するために使用することができる。このシグナリング情報は、上述したロッキング信号と同じ信号形状で帯域外通信チャネルを介して送信される。したがって、シグナリング情報は、帯域外信号を形成するために使用される変調に頼ることによって符号化することができる。帯域外通信チャネルを介して達成可能なボーレートは、規定により、帯域内通信チャネルを介して達成可能なボーレートよりはるかに低く、それゆえ、帯域外通信チャネルを介して送信される情報は、サイズに関して制限されると予想されるので、衝突の発生を制限するために、そして、スレーブデバイス間の帯域外通信チャネルへの共有アクセスを容易にするために、他のタイプの情報と比べて、シグナリング情報が好ましい。複数のスレーブデバイスが、互いに一致するそれぞれのキャリア波長を使用することによって帯域外通信チャネルにアクセスするとき、帯域外通信チャネルにおいて衝突が発生する。キャリア波長がマスターデバイス110の観点から同じ検出チャネル(組122のアップリンクフィルターを横切るときにマスターデバイス110によって検出されるキャリア波長)内にあるとき、上記キャリア波長は互いに一致する。
【0052】
PON専用光ネットワークの範囲内でもそのような衝突が発生することに留意することができる。なぜなら、その場合、スレーブデバイスは、マスターデバイス110の観点から同じ検出チャネル内でマスターデバイスと通信するためである(図1の範囲内で、スペクトルスプリッターデバイス120は、異なるマスターデバイスによって使用可能な複数の独立した検出チャネルを生成することを目的とするため)。
【0053】
帯域外通信チャネルを介して受信されたシグナリング信号を処理するためにマスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムが図3に関して後に詳述され、帯域外通信チャネルを介して上記シグナリング信号を送信するために各スレーブデバイス141、142、143によって実行されるアルゴリズムが、図5に関して後に詳述される。
【0054】
ここで、後に論じられるように、シグナリング信号を送信し、処理する前に、それに応答して送信を実行するために、マスターデバイス110から、これらのシグナリング信号を送信するスレーブデバイスへのダウンリンク方向において、帯域外通信チャネルが既に設定されていると見なされる。例えば、ダウンリンク方向において既に設定されている上記帯域外通信チャネルは、欧州特許出願公開第2466768号において記載されているミラーベース手法を用いて設定される。帯域外通信チャネルを介して上記スレーブデバイスに(すなわち、ダウンリンク方向において)信号を送信するためにマスターデバイス110によって使用されるキャリア周波数は、上記スレーブデバイスに帯域内通信信号を送信するために使用されるキャリア周波数と同じであるので、その代わりに、又はそれに加えて、上記シグナリング信号に応答して上記送信を行うことができるようにするために、マスターデバイス110からスレーブデバイスへの(すなわち、ダウンリンク方向における)帯域内通信が既に設定されていると見なすことができる。
【0055】
図2は、マスターデバイス110の構成を概略的に表す。図示される構成によれば、マスターデバイス110は、通信バス210によって相互接続される以下の構成要素、すなわち、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラー又はCPU(中央処理ユニット)200、RAM(ランダムアクセスメモリ)201、ROM(リードオンリーメモリ)202、記憶手段上に記憶される情報を読み出すように構成されるデバイス203、光信号を送受信するためにスペクトルスプリッターデバイス120に接続されることを目的とする第1の通信インターフェース204、及びメトロポリタンネットワーク又はコアネットワークに接続されることを目的とする第2の通信インターフェース205を備える。
【0056】
CPU200は、ROM202から、又は任意の他の記憶手段からRAM201の中にロードされる命令を実行することができる。マスターデバイス110が起動された後に、CPU200は、RAM201から命令を読み出し、これらの命令を実行することができる。それらの命令は、図3図4図6図7図8及び図11に関して後に記述されるアルゴリズムのステップのうちの幾つか又は全てをCPU200に実行させる1つのコンピュータープログラムを形成する。
【0057】
スレーブデバイス141、142、143も、図2に概略的に示される構成に基づいて実現できることに留意することができる。この場合、第1の通信インターフェース204によって、潜在的にはスペクトルスプリッターデバイス120を通して、マスターデバイス110と通信できるようになり、第2の通信インターフェース205によって、検討対象のスレーブデバイス141、142、143を、ホームネットワークのようなローカルエリアネットワークに接続できるようになる。この場合、命令は、CPU200に図5図9及び図10に関して後に説明されるアルゴリズムのステップの幾つか又は全てを実行させる1つのコンピュータープログラムを形成する。
【0058】
図3図11に関して後に説明されるアルゴリズムのありとあらゆるステップは、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)若しくはマイクロコントローラーのようなプログラム可能な計算機によって1組の命令若しくはプログラムを実行することによってソフトウェアにおいて実施することができるか、又はFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)若しくはASIC(特定用途向け集積回路)のような、機械若しくは専用構成要素によってハードウェアにおいて実現することができる。
【0059】
図3は、帯域外通信チャネルを介して受信されたシグナリング信号を処理するために、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0060】
ステップS301において、マスターデバイス110は、帯域外通信チャネルを介して少なくとも1つのシグナリング信号を受信する。そのようなシグナリング信号は、帯域外通信チャネルを介して非同期で送信され、それは、複数のシグナリング信号がマスターデバイス110によって同時に受信される場合があることを意味する。マスターデバイス110が2つ以上のそれぞれのスレーブデバイスからのシグナリング信号を全く同時に受信し始める確率はかなり低いので、マスターデバイス110は通常、第1のスレーブデバイスから第1のシグナリング信号を受信し始め、第1のシグナリング信号が依然として受信中である間に、潜在的には、第2のスレーブデバイスから第2のシグナリング信号を受信し始める場合があり、第1のスレーブデバイス及び第2のスレーブデバイスは互いに一致するそれぞれのキャリア周波数を使用する。マスターデバイス110が第2のシグナリング信号を受信し始めるとき、第1のシグナリング信号との衝突が発生する。3つ以上のシグナリング信号間の衝突が発生する場合もあることに留意されたい。
【0061】
帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を受信するとき、マスターデバイス110は、シグナリング信号を完全に受信するのを待つことなく、シグナリング信号の既に受信された部分を復号しようと試みる。衝突が発生するとき、この衝突にもかかわらず、マスターデバイス110は、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号を復号しようと試み続けることが好ましい。これは、特に後に詳述されるような第1のパディングメッセージが送信されるときに、衝突を引き起こしたシグナリング信号を送信するスレーブデバイスから、衝突が発生したときに既に受信中であったシグナリング信号を送信するスレーブデバイスを区別できるようにする弁別情報を、そのシグナリング信号から取得するのを助ける場合がある。
【0062】
したがって、ステップS302において、マスターデバイス110が、上記シグナリング信号との任意の衝突の発生前にシグナリング信号を受信し始めるとき、マスターデバイス110は第1のパディングメッセージを送信することが好ましい。第1のパディングメッセージは、衝突を制限するように意図されている。実際には、第1のパディングメッセージが上記スレーブデバイスによって受信されている限り、更には、場合によっては所定の持続時間のガードインターバルに加えて、帯域外通信チャネルへの次回のタイムスロット式アクセス(後の詳述を参照)が終了する限り、第1のパディングメッセージは、他のスレーブデバイスがシグナリング信号を送信し始めるのを防ぐ。さらに、シグナリング信号を現在送信しているスレーブデバイスがそのような第1のパディングメッセージを受信するとき(図5に関して後に詳述される)、そのスレーブデバイスは、帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を送信し続けるためにそのスレーブデバイスが選択されたか否かを、又はそのスレーブデバイスが、シグナリング信号を送信するのを中止し、後にそのシグナリング信号の送信又は同等のシグナリング信号の送信を繰り返し行うことを期待されるか否かをチェックする。そのスレーブデバイスは、そのスレーブデバイスが帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を送信し続けるために選択されないことを認識するとき、シグナリング信号を送信するのを中止し、それは、マスターデバイスの側において発生する衝突を阻止する効果を有する。第1のパディングメッセージは、第1のパディングメッセージの送信をトリガーしたシグナリング信号に関する任意の衝突発生前に送信されることを目的とするので、第1のパディングメッセージを送信することは、それゆえ、予防措置である。
【0063】
第1のパディングメッセージは、もしあるなら、衝突を引き起こすことになるシグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、衝突が発生したときに既に受信中であったシグナリング信号を送信しているスレーブデバイスを区別しようと試みる第1の弁別情報を含むことが好ましい。第1のパディングメッセージは、マスターデバイス110によって当初に検出されたシグナリング信号を、帯域外通信チャネルを介して送信するスレーブデバイスを区別しようと試みる第1の弁別情報を含む。第1の弁別情報は、上記シグナリング信号を送信するスレーブデバイスの識別子の少なくとも一部である。より詳細には、シグナリング信号は、そのシグナリング信号を送信するスレーブデバイスの識別子のビットを含み、マスターデバイス110は、そのシグナリング信号をビットごとに繰り返すことによって、第1のパディングメッセージを形成する。それゆえ、第1のパディングメッセージの送信は、シグナリング信号の受信の終了前に開始することができる。それゆえ、マスターデバイス110は、上記シグナリング信号が受信されるのに応じて、そのシグナリング信号を復号しようと試みる。衝突が発生するとき、マスターデバイス110は、上記シグナリング信号の全てビットを復号しきれない場合があり、この場合、マスターデバイス110は、第1のパディングメッセージを形成するときに、マスターデバイス110が復号できなかったビットを、信号を含まないシンボル周期に置き換える。第1のパディングメッセージは、それゆえ、第1のパディングメッセージの送信をトリガーしたシグナリング信号を送信するスレーブデバイスの全ての識別子ビットを含むとは限らない場合がある。なぜなら、上記シグナリングメッセージに上記全てのビットが含まれるとは限らない場合があり(後の更なる詳細を参照)、そしてマスターデバイス110がシグナリング信号の全てのビットを復号しきれない場合があるためである。それは、複数のスレーブデバイスが、上記シグナリング信号からマスターデバイス110によって復号されたビットと同じビットを有するそれぞれの識別子を有する場合があるので、第1のパディングメッセージ内に含まれる第1の弁別情報が、そのスレーブデバイスを、光通信ネットワークの任意の他のスレーブデバイスから区別できない場合があることを意味する。しかしながら、それは、衝突発生のリスクを制限するか、又は少なくともそのような衝突が存続するリスクを制限する。
【0064】
第1のパディングメッセージは、上記シグナリング信号を送信するために使用されたキャリア周波数が一致する組122のアップリンクフィルターの公称周波数と対をなす組121のダウンリンクフィルターの公称周波数と一致するダウンリンクキャリア周波数であるキャリア周波数を使用することによって、帯域外通信チャネルを介してマスターデバイス110によって送信される(マスターデバイス110と上記スレーブデバイスとの間の通信が単一のPON内で行われるため)。
【0065】
一変形形態では、第1のパディングメッセージは、上記帯域内通信が既に設定されているときに、シグナリング信号を送信するために使用されたキャリア周波数が一致する組122のアップリンクフィルターの公称周波数と対をなす組121のダウンリンクフィルターの公称周波数と一致するダウンリンクキャリア周波数であるキャリア周波数を使用することによって、帯域内通信を介してマスターデバイス110によって送信される(マスターデバイス110とスレーブデバイスとの間の通信が単一のPON内で行われるため)。
【0066】
言い換えると、マスターデバイスは、そのPONのスレーブデバイスに向かって、すなわち、上記シグナリング信号のキャリア波長と実質的に同一であるキャリア波長を用いて帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスに向かって、シグナリング信号が受信中であることを表す第1のパディングメッセージを送信する。
【0067】
その後、ステップS303において、マスターデバイス110は、そのような衝突が検出されるか否かをチェックする。帯域外通信チャネルを介して受信された信号の少なくとも1つのパラメーターの大きさの変動に基づいて衝突を検出するための実施形態が、図6及び図7に関して後に詳述される。一変形形態では、シグナリング信号がM値振幅変調(M個の取り得る状態が異なる振幅に対応する)を使用するとき、マスターデバイス110は、1つ以上のシンボルにわたって帯域外通信チャネルを介して受信された信号内で検出された状態量が厳密にMより大きいときに、衝突を検出する。帯域外通信チャネルを介して受信された信号内に含まれる情報を復号できることに頼る等の、衝突検出のための他の技法を実施することができる。
【0068】
そのような衝突が検出されるとき、ステップS304が実行され、そうでない場合には、ステップS305が実行される。
【0069】
ステップS304において、マスターデバイス110は衝突回避手順を開始する。衝突回避手順は、図4に関して後に詳述される。その後、マスターデバイス110は、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号を復号しようと試み続け、それゆえ、ステップS305を実行する。第1のパディングメッセージが送信される実施形態において、できれば、衝突が発生し始めたときに受信中であったシグナリング信号の受信の終了前に、衝突が第1のパディングメッセージによって阻止されることが期待される。衝突に起因して、マスターデバイス110は、衝突が発生したときに既に受信中であったシグナリング信号を介して送信されたシグナリング情報を完全には復号できなくなる可能性が極めて高く、それにより、図4に関して後に詳述される衝突回避手順の範囲内で、そのシグナリング信号、又は補足シグナリング信号を再送するのを余儀なくされる。
【0070】
ステップ305において、マスターデバイス110は、もしあるなら、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号の受信が終了したか否かをチェックする。シグナリング信号は所定の持続時間を有すると予想され、その持続時間は、帯域外通信チャネルにわたるシンボル周期の所定の量に対応する。シグナリング信号の受信が終了したとき、そのアルゴリズムはステップS306において終了し、そうでない場合には、シグナリング信号がマスターデバイス110によって受信され続けている間、ステップS301が繰り返される。マスターデバイス110によってシグナリング信号が完全に復号できたとき、マスターデバイス110は、復号されたシグナリング信号内に含まれる情報を上位レイヤに与えることによって、その情報を処理する。そうでない場合には、マスターデバイス110は、関連するスレーブデバイスがシグナリング信号を再送、又は補足シグナリング信号を送信できるようにするために、衝突回避手順が実施されるのを待ち、衝突回避手順が実施されれば、その後、マスターデバイス110は、上位レイヤによって更に処理されることになる上記情報を入手できるようになる。
【0071】
図4は、衝突回避手順を開始するために、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0072】
ステップS401において、マスターデバイス110は、ステップS303において検出された衝突を表すビーコンメッセージを送信する。ビーコンメッセージは、衝突問題を克服しようと試みるために、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスが一時的に設定されなければならないことを表す。帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスは、所定の持続時間T中に一時的に設定される。マスターデバイス110は、(ダウンリンク方向において)帯域外通信チャネルにおいてビーコンメッセージを送信する。一変形形態では、アップリンク方向において帯域外通信チャネルに同時にアクセスしたと想定されるスレーブデバイスとの帯域内通信が既に設定されているとき、マスターデバイス110は、帯域内通信チャネルにおいてビーコンメッセージを送信することができる。ビーコンメッセージは、シグナリング信号を送信するために使用された(衝突を引き起こした)キャリア周波数が一致する組122のアップリンクフィルターの公称周波数と対をなす組121のダウンリンクフィルターの公称周波数と一致するダウンリンクキャリア周波数であるキャリア周波数を使用することによって、マスターデバイス110によって送信される(それらが同じPON内で動作するため)。これは、ビーコンメッセージが、検討対象のPONの全てのスレーブデバイスによって受信されるように意図されていることを意味する。それゆえ、ビーコンメッセージは、潜在的な他のスレーブデバイスの中の、衝突を引き起こしたスレーブデバイスによって、そして、実質的に同じキャリア周波数を使用する、すなわち、組122の同じアップリンクフィルターを経由するシグナリング信号送信を伴う任意の他のスレーブデバイスによって受信されるように意図されている。
【0073】
ビーコンメッセージは、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを開始する時点を、スレーブデバイスに暗に、又は明示的に通知する。ビーコンメッセージは、スレーブデバイスによるビーコンメッセージの受信と、そのスレーブデバイスが、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスが開始すると考えることになる時点との間の期間T0を暗に、又は明示的に指示する。マスターデバイス110からスレーブデバイスへの伝搬待ち時間は、マスターデバイス110からそのスレーブデバイスへの光通信ネットワークを介しての経路長によって決まるので、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを開始するこの時点は、それゆえ、実際には確実ではない。それゆえ、各タイムスロットは、光通信ネットワーク内に共通の時間基準が存在しないことに対処するために、光通信ネットワーク内の最大ラウンドトリップ時間(RTT)の半分に等しいガードインターバルを含む。
【0074】
1つの実施形態によれば、各タイムスロットは、マスターデバイス110がそのタイムスロット内で関連するスレーブデバイスから受信するのを予想するシグナリング情報ビットの量に応じて、マスターデバイス110によって動的に決定される持続時間を有する。
【0075】
別の実施形態によれば、各タイムスロットは、帯域外通信チャネルを介して任意のスレーブデバイスによって送信される場合がある任意のシグナリング信号の所定の持続時間以上である所定の持続時間を有する。任意のスレーブデバイスの観点から、そのスレーブデバイスによるビーコンメッセージの受信からT+T0に等しい期間が経過すると、帯域外通信チャネルを介してのそのスレーブデバイスからの純粋に非同期の送信が再開することができる。
【0076】
更に別の実施形態によれば、各タイムスロットは、帯域外通信チャネルを介して任意のスレーブデバイスによって送信される場合がある任意のシグナリング信号の所定の持続時間以上である所定の持続時間を有する。その場合、各タイムスロットの持続時間は、ビーコンメッセージ内に記述される。任意のスレーブデバイスの観点から、そのスレーブデバイスによるビーコンメッセージの受信から期間Pが経過すると、帯域外通信チャネルを介してのそのスレーブデバイスからの純粋に非同期の送信が再開することができ、期間Pの持続時間は、
【数1】
に等しい。なお、Tは、1からNまで変化するインデックスiによって識別されるタイムスロットの持続時間を表し、ただし、Nは、ビーコンメッセージにおいて指示されるような、タイムスロットの量を表す。
【0077】
ビーコンメッセージは、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを規定するタイムスロットの量Nを、スレーブデバイスに暗に、又は明示的に通知する。マスターデバイス110は、ステップS303において検出された衝突を引き起こしたシグナリング信号の量に従って、そのようなタイムスロットの量を調整することができる。例えば、2つのシグナリング信号が衝突を引き起こすとき、2つのタイムスロットが規定される。そのようなタイムスロット中の関連するスレーブデバイスによる帯域外通信チャネルへのアクセスは、図5に関して後に詳述される。
【0078】
ビーコンメッセージの第1の実施形態によれば、スレーブデバイスの中のタイムスロットの分配はルールの組に従ってあらかじめ規定される。この場合、各スレーブデバイスは、このルールの組を知っており、そこから、タイムスロットの量に従って、そのスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスすると想定されるのがどのタイムスロット内であるかを知る。例えば、上記ルールの組が、入力としてスレーブデバイスの識別子を用いて、そのスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスすると想定されるタイムスロットを表す情報を出力する。
【0079】
ビーコンメッセージの第2の実施形態によれば、ビーコンメッセージは、タイムスロットごとに、そのタイムスロット内でシグナリング信号を送信することを許される各スレーブデバイスを表す第2の弁別情報を含む。この第2の弁別情報は、複数のスレーブデバイスを表す場合があることは理解されたい。
【0080】
上記第2の実施形態の特定の実施形態によれば、第2の弁別情報は、識別子ビットのサブセット(暗に、又は明示的に、その識別子内のビットのそれぞれの位置を有する)であり、(対応する位置において)上記識別子ビットのサブセットを含む識別子によって識別される全てのスレーブデバイスが、上記タイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするのを許されるようになっている。例えば、2つのタイムスロットが規定されるとき、マスターデバイス110は、一方のタイムスロットがそれぞれの識別子の最下位2ビットとして「01」を有するスレーブデバイス専用であり、他方のタイムスロットが他のスレーブデバイス専用であることを示すことができる。より詳細な実施形態によれば、少なくとも1つのタイムスロットのための弁別情報は、もしあるなら、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号から復号するのに成功した識別子ビットから、マスターデバイス110によって取得される。例えば、マスターデバイス110は、ビーコンメッセージにおいて、2つのタイムスロットが規定されること、そして、そのタイムスロットのうちの一方によって、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号から復号するのに成功した識別子部分と一致する識別子を有するスレーブデバイスが、そのタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスできるようになることを示す。それゆえ、復号するのに成功した上記識別子部分と一致する部分を有する識別子によって識別される全てのスレーブデバイスが、そのタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするのを許される。マスターデバイス110は、ビーコンメッセージにおいて、他方のタイムスロットによって、衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号から復号するのに成功した識別子部分と一致しない識別子を有するスレーブデバイスが、その他方のタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスできるようになることを更に示す。復号するのに成功した上記識別子部分と一致する部分を有しない識別子によって識別される他のスレーブデバイスは、その他方のタイムスロット中に帯域外通信チャネルにアクセスするのを許される。衝突が発生したときに受信中であったシグナリング信号から復号するのに成功した識別子ビットを頼りにして、1つのタイムスロットに関連付けられる第2の弁別情報を規定することによって、マスターデバイス110は、それゆえ、そのタイムスロット内の更なる衝突発生のリスクを制限する。
【0081】
別の特定の実施形態によれば、ビーコンメッセージは、タイムスロットごとに、そのタイムスロット内で送信されることになるシグナリング信号内に補足識別子ビットが含まれることを更に要求する。好ましくは、ビーコンメッセージは、タイムスロットごとに、ビーコンメッセージに応答して、そのタイムスロット内で後に送信されるシグナリング信号内でどの識別子ビット(ビット位置)が送信されると予想されるかを表す情報を含む。補足識別子ビットは、もしあるなら、関連するタイムスロットに関連付けられる第2の弁別情報として使用される識別子ビットのサブセットを補足する識別子ビットである。そのようにして、特に上記スレーブデバイスのうちの少なくとも1つがパッシブ光通信ネットワークに参加している場合に、そのタイムスロットに同時にアクセスしている潜在的なスレーブデバイス間の弁別がより容易に行われる。
【0082】
或るタイムスロット内で衝突が発生する場合があるとき、第2の弁別情報は単一のスレーブデバイスを識別できないので、マスターデバイス110は、後に詳述されるように、第2のパディングメッセージを送信することによって、潜在的な衝突を管理することが好ましい。
【0083】
上記の説明から明らかなように、マスターデバイス110は、上記衝突に関与したキャリア波長と実質的に同一のキャリア波長を使用して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中のタイムスロット分配に関する所定のルールを用いて、帯域外通信チャネルへのアクセスを制限するように、帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスを開始する。
【0084】
ステップS402において、マスターデバイス110は、送信されたビーコンメッセージによって規定される少なくとも1つのそれぞれのタイムスロット内で少なくとも1つのシグナリング信号を受信し始める。
【0085】
マスターデバイス110が1つのタイムスロット内でシグナリング信号を受信し始めると、マスターデバイス110は、ステップS403において、第2のパディングメッセージを送信するのが好ましい。第2のパディングメッセージは、もしあるなら、衝突を引き起こすことになるシグナリング信号を送信する別のスレーブデバイスから、衝突が発生したときにそのタイムスロット内で既に受信中であったシグナリング信号を送信するスレーブデバイスを区別しようと試みる第3の弁別情報を含むことが好ましい。第2のパディングメッセージは、望ましくないスレーブデバイスに、そのタイムスロット内でシグナリング信号を送信するのを強制的に中止させることによって、そのタイムスロット内の衝突を制限することを目的とする。第2のパディングメッセージは、第2のパディングメッセージの送信をトリガーしたシグナリング信号に関する任意の衝突発生前に送信されることを目的とするので、第2のパディングメッセージを送信することは、それゆえ、予防措置である。第2のパディングメッセージは、上記シグナリング信号を送信するために使用されたキャリア周波数が一致する組122のアップリンクフィルターの公称周波数と対をなす組121のダウンリンクフィルターの公称周波数と一致するダウンリンクキャリア周波数であるキャリア周波数を使用することによって、帯域外通信チャネルを介してマスターデバイス110によって送信される(通信が同じPON内で行われるため)。一変形形態では、アップリンク方向において帯域外通信チャネルに同時にアクセスしたと想定されるスレーブデバイスとの帯域内通信が既に設定されているとき、第2のパディングメッセージは帯域内通信チャネルにおいて送信される。
【0086】
第2のパディングメッセージの第1の実施形態によれば、第3の弁別情報は、上記シグナリング信号を送信するスレーブデバイスの識別子の少なくとも一部である。より詳細には、シグナリング信号がそのシグナリング信号を送信するスレーブデバイスの識別子のビットを含み、マスターデバイス110は、上記シグナリング信号をビットごとに繰り返すことによって、第2のパディングメッセージを形成する。それゆえ、第2のパディングメッセージの送信は、シグナリング信号の受信の終了前に開始することができる。それゆえ、マスターデバイス110は、上記シグナリング信号が受信されるのに応じて、そのシグナリング信号を復号しようと試みる。衝突が発生する場合には、マスターデバイス110は、上記シグナリング信号の全てのビットを復号しきれない場合があり、この場合、マスターデバイス110は、第2のパディングメッセージを形成するときに、マスターデバイス110が復号できなかったビットを、信号を含まないシンボル周期に置き換える。第2のパディングメッセージは、それゆえ、第2のパディングメッセージの送信をトリガーしたシグナリング信号を送信するスレーブデバイスの全ての識別ビットを含むとは限らない場合がある。なぜなら、上記全てのビットが上記シグナリング信号に含まれるとは限らない場合があり(後に更なる詳細を参照)、そして、マスターデバイス110がシグナリング信号の全てのビットを復号しきれない場合があるためである。それは、複数のスレーブデバイスが、上記シグナリング信号からマスターデバイス110によって復号されるのと同じビットを有するそれぞれの識別子を有する場合があるので、第2のパディングメッセージに含まれる第3の弁別情報が、そのスレーブデバイスを、パッシブ光通信ネットワーク100の任意の他のスレーブデバイスから区別できない場合があることを意味する。しかしながら、それは、衝突発生のリスクを制限するか、少なくともそのような衝突が存続するリスクを制限する。
【0087】
第2の実施形態によれば、マスターデバイス110に対するRTT情報がスレーブデバイスによって既知であるとき、第3の弁別情報は、マスターデバイス110と上記シグナリング信号を開始するスレーブデバイスとの間のRTTを表す。スレーブデバイスは通常、そのような光通信ネットワークの数多くの使用状況において大きな地理的地域にわたって広がるので、マスターデバイス110と1つのスレーブデバイスとの間の光ファイバーの長さは一般に、マスターデバイス110と任意の他のスレーブデバイスとの間の光ファイバーの長さとは異なる。それは、RTT情報が、ビーコンメッセージを受信した、更には、関連するタイムスロット内でシグナリング信号を送信するのを許されたと考える任意の他のスレーブデバイスから1つのスレーブデバイスを弁別するのを助けることを意味する。ビーコンの送信から、再送されたシグナリング信号の受信までの時間差は以下の式に等しいので、それゆえ、マスターデバイス110は、シグナリング信号を開始したスレーブデバイスとマスターデバイス110との間のRTTを決定することができる。
【数2】
ただし、εはビーコンメッセージの処理時間を表し、それは、実験室条件下で推定することができ、その推定値を製造プロセス中に記憶することができる。
【0088】
第3の実施形態によれば、組122のアップリンクフィルターがフラットトップタイプであり、シグナリング信号を再送するために使用されるキャリア周波数が関連するアップリンクフィルターのフラットトップ帯域と一致すると想定されるとき、第3の弁別情報は、再送されたシグナリング信号を受信するときにマスターデバイス110によって測定される受信信号強度表示(RSSI)を表す。パッシブ光通信ネットワーク100の仕様に従って、PON内でスレーブデバイスによって使用されることになる送信電力レベルがあらかじめわかっているとき、RSSIを表すその情報は、第2のパディングメッセージの送信をトリガーしたスレーブデバイスからの信号減衰を表す情報を提供する。その際、パッシブ光通信ネットワーク100の仕様に従って、マスターデバイス110によって使用されることになる送信電力レベルがあらかじめわかっているとき、各スレーブデバイスは、マスターデバイス110から受信された信号から、その信号のRSSIを判断することができる。1つのスレーブデバイスからマスターデバイス110までのアップリンク経路及びマスターデバイス110からそのスレーブデバイスまでのダウンリンク経路が実質的に同じ減衰を伴うとき、それは、RSSI情報が、ビーコンメッセージを受信した、更に関連するタイムスロット内でシグナリング信号を送信するのを許されたと考える任意の他のスレーブデバイスから1つのスレーブデバイスを弁別するのを助けることを意味する。
【0089】
ステップS404において、マスターデバイス110は、ステップS403において第2のパディングメッセージの送信を暗示したシグナリング信号を受信し続ける。第2のパディングメッセージが上記シグナリング信号の反復からなるとき、マスターデバイス110は、シグナリング信号が受信されるのに応じて、第2のパディングメッセージを形成し、(帯域外通信チャネルを介して)送信する。言い換えると、マスターデバイス110は、第2のパディングメッセージを送信し始める前にシグナリング信号が完全に受信されるのを待たない。
【0090】
ステップS405において、マスターデバイス110は、シグナリング信号の受信された部分を処理する。マスターデバイス110は、例えば、シグナリング信号が受信されるのに応じて、第2のパディングメッセージを形成するために、シグナリング信号の受信された部分に含まれるシグナリング情報を復号しようと試みる。その際、ステップS405は、ステップS404及びステップS403と並行して実行されることが好ましい。
【0091】
図5は、帯域外通信チャネルを介してマスターデバイス110にシグナリング信号を送信するために、各スレーブデバイス141、142、143によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。図5のアルゴリズムがスレーブデバイス141によって実行されることを例示として考えてみる。
【0092】
図5のアルゴリズムは、スレーブデバイス141が、第1のシグナリング信号がマスターデバイス110に送信されなければならないことを検出するときに実行される。その時点で、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスは設定されず、スレーブデバイスは、帯域外通信チャネルに非同期でアクセスすると想定される。スレーブデバイス141及び別のスレーブデバイスによってそれぞれ使用されるキャリア波長が互いに一致するとき、帯域外通信チャネルを介して上記別のスレーブデバイスによって同時に送信された別のシグナリング信号との衝突が発生する場合がある。
【0093】
好ましい実施形態において、図5のアルゴリズムを実行する前に、スレーブデバイス141は、パディングメッセージ(本明細書において上記で使用された用語による第1のパディングメッセージ)が受信中であるか否かをチェックする。そのようなパディングメッセージが受信中であるとき、スレーブデバイス141は、図5のアルゴリズムの実行を実効的に開始する前に、上記パディングメッセージが完全に受信されるのを待ち、更には、場合によっては所定の持続時間のガードインターバルに加えて、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスが終了するまで待つ。別の手法は、そのようなパディングメッセージが受信中であるときに、スレーブデバイス141は、図5のアルゴリズムの実行を実効的に開始する前に、タイムスロット式アクセスが終了するのを確実にすることを目的として、所定の持続時間のガードインターバルに加えて、上記パディングメッセージが完全に受信されるのを待つ。
【0094】
ステップS501において、スレーブデバイス141は、帯域外通信チャネルを介して第1のシグナリング信号を送信し始める。
【0095】
ステップS502において、スレーブデバイス141は、第1のシグナリング信号が完全に送信されたか否かをチェックする。第1のシグナリング信号が完全に送信されたとき、ステップS506が実行され、そうでない場合には、ステップS503が実行される。
【0096】
ステップS503において、スレーブデバイス141は、第1のパディングメッセージ(ステップS302においてマスターデバイス110によって送信された)が受信された、又は受信中である(スレーブデバイス141が第1のパディングメッセージを復号し始める立場にある場合があるが、第1のパディングメッセージの一部がまだ受信されていない)か否かをチェックする。そのような第1のパディングメッセージが受信された、又は受信中であるとき、ステップS504が実行され、そうでない場合には、S501が実行され、このS501において、スレーブデバイス141は、第1のシグナリング信号を送信し続ける。
【0097】
ステップS504において、スレーブデバイス141は、第1のパディングメッセージに含まれる第1の弁別情報に従って、スレーブデバイス141が第1のシグナリング信号を送信するために依然として選択されているか否かをチェックする。第1のパディングメッセージは、帯域外通信チャネルにおける衝突を回避するか、又は少なくとも制限することを意図している。スレーブデバイス141が第1のパディングメッセージを復号し始める立場にある場合があるが、第1のパディングメッセージの一部がまだ受信されていないので、スレーブデバイス141は、上記第1の識別情報に従って、ビットごとに、そのスレーブデバイス141が依然として選択されているか否かをチェックすることが好ましい。言い換えると、上記第1の弁別情報の1ビットがスレーブデバイス141によって復号されるたびに、そのスレーブデバイス141は、そのスレーブデバイス141が依然として選択されているか否かをチェックする。スレーブデバイス141が依然として選択されているとき、ステップS501が実行され、スレーブデバイス141は第1のシグナリング信号を送信し続け、そうでない場合には、ステップS505が実行される。
【0098】
図3に関して示されるように、第1のパディングメッセージの送信はオプションの特徴である。マスターデバイス110が、設計によって、任意の第1のパディングメッセージを送信することを想定されないとき、スレーブデバイス141は、以下のようにステップS502を実行する。第1のパディングメッセージが完全に送信されたか否かをチェックした後、すなわち、上記第1のシグナリング信号が完全に送信されたとき、ステップS506が実行され、そうでない場合には、ステップS501が実行され、このステップS501において、スレーブデバイス141は第1のシグナリング信号を送信し続ける。
【0099】
ステップS505において、スレーブデバイス141が帯域外通信チャネルにアクセスするためにもはや選択されていないことをそのスレーブデバイス141が検出したとき、スレーブデバイス141は、第1のシグナリング信号の送信を中止する。その後、ステップS506が実行される。
【0100】
ステップS506において、スレーブデバイス141は、マスターデバイス110からビーコンメッセージが受信された又は受信中であるか否かをチェックする。図4に関して既に説明されたように、そのようなビーコンメッセージは、マスターデバイス110によって検出された衝突を表すことになる。ビーコンメッセージが、第1のシグナリング信号の送信の終了前に、又は第1のシグナリング信号の送信の終了後の所定の時間フレーム内に受信されないとき、ステップS507が実行され、図5のアルゴリズムが終了し(これは、ステップS505を実行することによって第1のシグナリング信号の送信を中止しなければならなかったスレーブデバイス141では生じないはずである)、そうでない場合には、ステップS508が実行される。
【0101】
ステップS508において、スレーブデバイス141は、あらかじめ決定されるか、又はビーコンメッセージ内で規定される場合があるタイムスロット式アクセスの持続時間を決定し、スレーブデバイス141が第2のシグナリング信号を送信するために選択されたビーコンメッセージの受信後にタイムスロットが存在するか否かを判断する。第2のシグナリング信号は第1のシグナリング信号と同一とすることができる。例えば、マスターデバイス110がビーコンメッセージにおいて、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスの範囲内で補足識別子ビットが送信されることを要求するとき、第2のシグナリング信号は第1のシグナリング信号と異なる場合がある。
【0102】
スレーブデバイスの中のタイムスロットの分配は、上述したルールの組に従ってあらかじめ規定することができる。この場合、各スレーブデバイスは、そのルールの組を知っており、そこから、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスのタイムスロットの量に従って、そのスレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスすると想定されるのがどのタイムスロット内であるかを知る。例えば、そのルールの組は、入力としてスレーブデバイスの識別子を用いて、上記スレーブデバイスが帯域外通信チャネルにアクセスすると想定されるタイムスロットを表す情報を出力する。
【0103】
図4に関して示されたように、一変形形態では、ビーコンメッセージは、帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスのタイムスロットごとに、そのタイムスロット内でシグナリング信号を送信するのを許される各スレーブデバイスを表す第2の弁別情報を含む。それゆえ、スレーブデバイス141は、1つのタイムスロットのためにビーコンメッセージ内に含まれる第2の弁別情報が、そのスレーブデバイス141がそのタイムスロット内で送信するために選択されたことを示しているか否かをチェックする。タイムスロットごとにビーコンメッセージ内に含まれる第2の弁別情報が、そのスレーブデバイス141がシグナリング信号を再送するために選択されていないことを示していないとき、図5のアルゴリズムは終了する(検討を簡単にするために、図5には示されない)。そうでない場合には、スレーブデバイス141は、ステップS509を実行する。
【0104】
ステップS509において、スレーブデバイス141は、スレーブデバイス141が第2のシグナリング信号を送信するために選択されたタイムスロットの開始を待つ。図4に関して既に示されたように、ビーコンメッセージは、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを規定するタイムスロットの量をスレーブデバイスに暗に、又は明示的に通知し、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを開始する時点をスレーブデバイスに暗に、又は明示的に通知し、タイムスロットのそれぞれ持続時間をスレーブデバイスに暗に、又は明示的に通知する。その際、スレーブデバイス141は、スレーブデバイス141が第2のシグナリング信号を送信するために選択されたタイムスロットがどの時点で開始するかを判断することができる。上記タイムスロットが開始する時点に達すると、スレーブデバイス141は、ステップS509において、第2のシグナリング信号を送信し始める。ビーコンメッセージが、そのタイムスロット内でビーコンメッセージに応答して送信されるシグナリング信号に補足識別子ビットが含まれることを要求するとき、スレーブデバイス141は、第1のシグナリング信号に含まれた識別子ビットを、スレーブデバイス141の識別子の要求された補足ビットで置き換えるか、又は代替的には補足するように第1のシグナリング信号を変更することによって、第2のシグナリング信号を形成する。
【0105】
ステップS510において、スレーブデバイス141は、第2のシグナリング信号が完全に送信されたか否かをチェックする。この第2のシグナリング信号が完全に送信されたとき、ステップS507が実行され、そうでない場合には、ステップS511が実行される。
【0106】
ステップS511において、スレーブデバイス141は、第2のパディングメッセージ(ステップS403においてマスターデバイス110によって送信された)が受信された、又は受信中である(スレーブデバイス141は、パディングメッセージを復号し始める立場にある場合があるが、パディングメッセージの一部がまだ受信されていない)か否かをチェックする。そのような第2のパディングメッセージが受信された、又は受信中であるとき、ステップS512が実行され、そうでない場合には、ステップS509が実行され、このステップS509において、スレーブデバイス141は、第2のシグナリング信号を送信し続ける。
【0107】
ステップS512において、スレーブデバイス141は、第2のパディングメッセージ内に含まれる第3の弁別情報に従って、スレーブデバイス141が、関連するタイムスロット内で第2のシグナリング信号を送信するために依然として選択されているか否かをチェックする。実際には、そのタイムスロットのためにビーコンメッセージ内に含まれる第2の弁別情報は、複数のスレーブデバイスが、そのタイムスロット中に帯域外通信チャネルにアクセスするのを回避するのに十分でなかった場合がある。それゆえ、第2のパディングメッセージは、帯域外通信チャネルのタイムスロット式アクセスの関連するタイムスロット内の衝突を回避するか、又は少なくとも制限することを意図している。スレーブデバイス141は第2のパディングメッセージを復号し始める立場にある場合があるが、第2のパディングメッセージの一部が依然として受信されていないので、スレーブデバイス141は、第3の弁別情報に従って、スレーブデバイス141が、関連するタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするために依然として選択されているか否かを、ビットごとにチェックするのが好ましい。言い換えると、第3の弁別情報の1ビットがスレーブデバイス141によって復号されるたびに、そのスレーブデバイス141は、そのスレーブデバイス141が依然として選択されているか否かをチェックする。スレーブデバイス141が依然として選択されているとき、ステップS509が実行され、このステップS509において、スレーブデバイス141は第2のシグナリング信号を送信し続け、そうでない場合には、ステップS513が実行され、このステップS513において、スレーブデバイス141が関連するタイムスロット内で帯域外通信チャネルにアクセスするためにもはや選択されていないことをそのスレーブデバイス141が検出したとき、スレーブデバイス141は、第2のシグナリング信号の送信を中止する。その後、ステップS507が実行される。
【0108】
図6は、帯域外通信チャネルを介してスレーブデバイスによってそれぞれ送信されるシグナリング信号の衝突を検出するための衝突検出機構を開始するために、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0109】
ステップS601において、マスターデバイス110は、帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を受信し始める。ステップS601はステップS301に対応する。帯域外通信チャネルへの一時的タイムスロット式アクセスの実施から独立して、複数のシグナリング信号がマスターデバイス110によって同時に受信される場合がある。マスターデバイス110が2つ以上のそれぞれのスレーブデバイスからのシグナリング信号を全く同時に受信し始める確率はかなり低いので、マスターデバイス110は通常、第1のスレーブデバイスから第1のシグナリング信号を受信し始め、第1のシグナリング信号が依然として受信中である間に、潜在的には、第2のスレーブデバイスから第2のシグナリング信号を受信する可能性があり、それは、その場合に、キャリア波長が使用時に互いに一致するときに、衝突が発生することを意味する。
【0110】
ステップS602において、マスターデバイス110は、所定の持続時間Tsを有するタイマーを起動する。持続時間Tsは、帯域外通信チャネル上のシンボル周期に等しい。
【0111】
ステップS603において、マスターデバイス110は、衝突検出機構を起動する。
衝突検出機構の1つの実施形態が図7に関して後に詳述される。
【0112】
ステップS604において、マスターデバイス110は、そのサンプルを取得するために、ステップS601において受信された信号のオーバーサンプリングを実行する。オーバーサンプリングは、帯域内通信のために使用されるサンプリング信号、又はそこから(すなわち、帯域内通信のために使用されるサンプリング周波数から)導出された約数に対応する周波数を使用することによって実行される。オーバーサンプリングは、シンボル周期ごとにこのようにして取得されたサンプルの量が、帯域外通信チャネル上にわたる雑音がそのサンプル量にわたって自己補償されると考えられるほど十分に高いようなサンプリングである。これにより、帯域外通信チャネルの範囲内の衝突検出のために、帯域内信号を処理するために通常設計されるマスターデバイス110の構成要素を再利用できるようになる。
【0113】
ステップS605において、マスターデバイス110は、ステップS602において起動されたタイマーが満了するまで、ステップS604において取得されたサンプルを衝突検出機構に与える。タイマーの満了に達すると、ステップS601が繰り返され、受信中の信号が、依然として存在するなら、別のシンボル周期の間に処理される。
【0114】
特定の実施形態において、マスターデバイス110は、タイマーの満了からマージンMaを引いた値に対応する時点までステップS604において取得されたサンプルを衝突検出機構に与えるだけである。ただし、マージンMaは、衝突検出機構によって解析されたサンプルから、シンボル間遷移に関連するサンプルを引き出すことを意図している。
【0115】
図7は、衝突検出機構を実施するための1つの実施形態の、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0116】
ステップS701において、マスターデバイス110は、1シンボル周期中にステップS604において実行されたオーバーサンプリング動作によって取得されたようなサンプルを収集する。スレーブデバイスによって送信されるようなシグナリング信号は、所定の変調方式に従って変調され、それゆえ、シグナリング信号は、連続したシンボル周期にわたって(変調)シンボルの形でそれぞれ送信されることを思い起こされたい。
【0117】
ステップS602において、マスターデバイス110は、収集されたサンプルの少なくとも1つのパラメーターの大きさをチェックする。上記各パラメーターは、振幅、位相及び周波数の中の1つのパラメーターであり、帯域外通信チャネルを介して送信するために上記信号に適用された変調に従って、その大きさの変動をチェックするために選択される。
【0118】
特定の実施形態によれば、PSK又は差分PSK変調が、帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を送信するためにスレーブデバイスによって使用され、振幅が、その大きさの変動をチェックするために選択された上記パラメーターである。実際には、帯域外通信チャネルは媒体(光ファイバー)の光学特性に起因して準静的であるので、それは、シグナリング信号の包絡線は各シンボル周期にわたって実質的に一定であると予想されることを意味する。
【0119】
特定の実施形態によれば、変形形態において、その大きさの変動をチェックするために選択されたパラメーターは、帯域外通信チャネルを介して送信するためにその信号に適用された変調が作用した、振幅、位相及び周波数の中の1つのパラメーターである。ASK変調等では、振幅が、変調が作用するパラメーターであり、PSK変調等では、位相が、変調が作用するパラメーターであり、FSK変調等では、周波数が、変調が作用するパラメーターであり、QAM(直交振幅変調)変調等では、振幅及び位相が、変調が作用するパラメーターである。
【0120】
ステップS703において、マスターデバイス110は、収集されたサンプルの検討対象の各パラメーターの大きさの変動がそれぞれの所定の閾値THより大きいか否かをチェックする。サンプルの複数のパラメーターが考慮されるとき、各パラメーターが対応する閾値THと比較される。例えば、QAM変調では、サンプルの振幅を振幅閾値と比較することができ、及び/又はサンプルの位相を位相閾値と比較することができる。また、QAM変調が使用される場合であっても、衝突検出のためにマスターデバイス110によって、位相及び振幅の中の1つのパラメーターのみがチェックされる場合があることに留意することもできる。
【0121】
1つの実施形態によれば、マスターデバイス110は、上記パラメーターの最大値と、上記シンボル周期内の上記パラメーターの最大値との間の差を求めることによって、その変動をチェックする。
【0122】
別の実施形態によれば、マスターデバイス110は、各サンプルの少なくとも1つのパラメーターの大きさを、直前のサンプルの同じパラメーターの大きさと順次に比較する。
【0123】
更に別の実施形態によれば、マスターデバイス110は、各シンボル周期内の連続したサンプルのグループを形成することによってその変動をチェックする。例えば、サンプルのグループは、所定のサイズ(所定のサンプル量からなる)のそれぞれの隣接する窓として規定される。好ましい実施形態において、サンプルのグループは、サンプルの1つのグループの規定から、サンプルの直後のグループの規定まで、順次に、検討対象のシンボル周期内の1つ又は複数のサンプルだけ繰り返しシフトされる、所定のサイズのスライディング窓を活用して規定される。このようにして、マスターデバイス110は、検討対象のシンボル周期内のサンプルの連続したグループの対ごとに上記パラメーターの積算値間の差を求めることによって、その変動をチェックする。
【0124】
収集されたサンプルの検討対象の各パラメーターの大きさの変動が所定の閾値THより大きいとき、ステップS704が実行され、そうでない場合には、ステップS705が実行される。所定の閾値THは、その大きさの変動が閾値THと比較される上記パラメーターに関する、帯域外通信チャネルにわたる雑音分散以上である。その意味において、閾値THは、帯域外通信チャネルを介してシグナリング信号を送信するために適用される変調によって決まる。
【0125】
ステップS704において、マスターデバイス110は、帯域外通信チャネルにおいて衝突が検出されたと考える。その後、ステップS706が実行される。
【0126】
ステップS705において、マスターデバイス110は、帯域外通信チャネル上で衝突が検出されないと考える。その後、ステップS706が実行される。
【0127】
ステップS706において、マスターデバイス110は、衝突検出機構を停止する(シンボル周期の全てのサンプルが処理された)。別のシンボル周期が処理されなければならないとき、ステップS603の新たな反復が、衝突検出機構を再び起動すると予想される。
【0128】
上記で説明されたように、マスターデバイス110によって衝突を検出することができ、帯域外通信チャネルへのタイムスロット式アクセスを一時的に設定することによって、そのような衝突の発生リスクが低減される。さらに、そのような衝突の発生リスクを更に低減することができる。これを果たすために、帯域外通信チャネルを介してスレーブデバイスから送信されたシグナリング信号に含まれるシグナリング情報を送信するスレーブデバイスを識別することを目的とする識別情報を含む、シグナリング情報をできる限り短くすることが提案される。その提案は、識別情報を、帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスから、シグナリング情報を送信するスレーブデバイスを弁別できるようにするビットに制限しようと試みることによって、この識別情報のサイズを削減することである。この目的を果たすために、上記スレーブデバイスによってそれぞれ送信されることになる更なるシグナリング情報内でそのスレーブデバイスによって使用されることになるそれぞれ短縮された識別情報を得るために、マスターデバイスは、少なくとも、上記スレーブデバイスがそれぞれの完全な識別子に適用しなければならないマスクを表す情報を送信し、短縮された識別情報は、スレーブデバイスを互いから区別できるようにするのに十分なビットを含むことを目的とする。その後、上記のマスクは、ダウンリンク方向における帯域外通信チャネルを用いて送信することができる。一変形形態では、その後、上記のマスクは、ダウンリンク方向における帯域内通信を用いて送信することができる。そのようなマスクの使用は、パッシブ光通信ネットワーク100内のスレーブデバイスの出現又は消失時に上記マスクを動的に規定する好ましい実施形態において後に詳述される。これに関連して、パッシブ光通信ネットワーク100に参加する各スレーブデバイスは好ましくは、マスターデバイス110にアナウンスされなければならず、それにより、マスターデバイス110は、パッシブ光通信ネットワーク100内にどのスレーブデバイスが存在するかを知ることができる。これは、図8及び図9に関して後に詳述される。
【0129】
図8は、帯域外通信チャネルを介して受信される、アナウンシングシグナリング情報を含む、シグナリング情報を処理するために、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0130】
ステップS801において、マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの識別子の少なくとも一部を含むアナウンシングシグナリング情報を受信する。そのシグナリング情報を送信したスレーブデバイスは、そのシグナリング情報を用いて、パッシブ光通信ネットワーク100における自らの存在をアナウンスするので、そのシグナリング情報は、いわゆる、アナウンシングシグナリング情報である。そのアナウンシングシグナリング情報は通常、マスターデバイス110に向かうアップリンク通信を可能にするために上記スレーブデバイスによって使用されるキャリア周波数をロックするために実施される初期ロッキングプロセスの一部である。アナウンシングシグナリング情報を送信するために上記スレーブデバイスによって実施されるアルゴリズムが、図9に関して後に説明される。
【0131】
後続のステップS802において、マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報が、そのアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの識別子の一部のみを含むか、そのアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの完全な識別子を含むかを判断する。アナウンシングシグナリング情報がそのアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの識別子の一部のみを含むとき、ステップS803が実行され、そうでない場合には、ステップS806が実行される。スレーブデバイスの識別子は通常、所定のビット量、例えば、64ビット又は128ビットを用いて表される。マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報が、上記所定のビット量のサブセットのみを含むか否かを判断する。そのために、アナウンシングシグナリング情報は、スレーブデバイスを識別する情報を与えるためにスレーブデバイスによって使用されるビット量を判断できるようにする情報を含む。マスターデバイス110は通常、上記スレーブデバイスを識別する情報を与えるためにスレーブデバイスによって使用されるビット量から、上記シグナリング情報内に上記所定のビット量の中のどのビット(それぞれのビット位置)が含まれるかを、例えば、いわゆる、下位ビット(当業者によって呼ばれる)をあらかじめ知っている。上記スレーブデバイスを識別する情報を与えるためにスレーブデバイスによって使用されるビット量を通知することは、フィールド区切り文字を用いて、又は所定のサイズ及び位置を有するフィールドに頼ることによって行うことができる。一変形形態では、上記スレーブデバイスを識別する情報を与えるためにスレーブデバイスによって使用されるビット量はあらかじめ規定されており、マスターデバイス110によってあらかじめ知られている。例えば、シグナリング情報はシグナリング情報のタイプについての情報を含み、1つのタイプのシグナリング情報が、完全なデバイス識別子を含むために規定され、別のタイプのシグナリング情報が、そのような部分的なデバイス識別子を含むために規定される。
【0132】
各スレーブデバイスがアナウンシングシグナリング情報内に自らの完全な識別子を含むと想定されるとき、ステップS803が省略され、そのアルゴリズムは、ステップS801からステップS806に直接移行する。対照的に、各スレーブデバイスが、アナウンシングシグナリング情報内の自らの完全な識別子の一部分のみを含むと想定されるとき、ステップS803が省略され、そのアルゴリズムは、ステップS803からステップS806に直接移行する。
【0133】
ステップS803において、マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別子の上記部分を、記憶された識別情報と比較する。その記憶された識別情報は、関連するPON内に既に存在することがマスターデバイス110によって知られている各スレーブデバイスの完全な、又は部分的な識別子のリスト若しくはテーブル、又はより一般的にはデータベースである。言い換えると、マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別子の上記部分が、上記データベース内に記憶された上記完全な、又は部分的な識別子と一致するか否かをチェックする。その比較は、スレーブデバイスの完全な識別子を表すために使用される上記所定のビット量の中の、アナウンシングシグナリング情報内に含まれる識別子の上記部分のビットの位置に対して実行される。
【0134】
後続のステップS804において、マスターデバイス110は、アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別子の部分が、関連するPON内に既に存在していることがマスターデバイス110によって知られている各スレーブデバイスから、上記アナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスを弁別するのに十分であるか否かをチェックする。ステップS803において実行された比較が、識別子の上記部分がデータベースに記憶された完全な、又は部分的な識別子のうちの少なくとも1つと一致することを示すとき、アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別子の上記部分を形成するビット量は、そのような弁別を実行するのに十分でない。それゆえ、マスターデバイス110は、関連するPON内に既に存在していることがマスターデバイス110によって知られている他のスレーブデバイスから、そのスレーブデバイスを区別できるようにするために、そのスレーブデバイスの拡張識別子情報又は完全な識別子の別の部分を入手する必要がある。アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別の上記部分が弁別を実行するのに十分であるとき、ステップS806が実行され、そうでない場合には、ステップS805が実行される。
【0135】
ステップS805において、アナウンシングシグナリング情報において受信されるような識別子の部分が弁別を実行するのに十分でないので、マスターデバイス110は、ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスに、更なる識別情報を要求する。その要求は、上記スレーブデバイスの完全な識別子のどのビットが要求されるかを暗に、又は明示的に示すことができる。第1の例によれば、その要求は、スレーブデバイスがアナウンシングシグナリング情報を送信するが、スレーブデバイスの完全な識別子の全てのビットを用いて再試行すべきであることを暗に示す。第2の例によれば、その要求は、上記スレーブデバイスの完全な識別子の所定の補足ビット量、例えば、アナウンシングシグナリング情報において受信されたような識別子の部分のビット量Bの2倍の量を用いて、例えば、上記スレーブデバイスの完全な識別子の2*Bの下位ビットが送信されるように、アナウンシングシグナリング情報の送信を再試行すべきであることを暗に、又は明示的に示す。その際、図8のアルゴリズムは、ステップS805においてマスターデバイス110によって送信される要求に応答して、そのスレーブデバイスから新たなアナウンシングシグナリング情報を受信するときに再反復されると予想される。
【0136】
特定の実施形態によれば、ステップS805においてマスターデバイス110によって送信された要求に応答して、そのスレーブデバイスの完全な識別子のどのビットが新たなアナウンシングシグナリング情報に含まれることを予想されるかをその要求が明示的に示すように、マスターデバイス110はその要求を構築する。実際には、マスターデバイス110は、どの識別子ビットによって、PON内に既に存在しているスレーブデバイスを互いに弁別できるようになるかを判断することができる。そのビットによって、ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスを、関連するPON内に既に存在しているスレーブデバイスから更に弁別できるようになる確率はかなり高い。それゆえ、ステップS805においてマスターデバイス110によって送信された要求に応答して、上記スレーブデバイスが、送信されることになる新たなアナウンシングシグナリング情報にそのビットを含むべきであることをその要求が明示的に示すように、マスターデバイス110はその要求を構築することができる。
【0137】
ステップS805が実行されると、図5のアルゴリズムは終了する。
【0138】
上記スレーブデバイスがアナウンシングシグナリング情報を送信するときに、衝突が発生する場合があることに留意することができる。この場合、図3に関して既に説明されたように、既に言及された第1のパディングメッセージが送信される。さらに、関連するPON内に既に存在していることがマスターデバイス110によって知られている他のスレーブデバイスから、そのスレーブデバイスを弁別する高い確率を有するスレーブデバイスの識別子ビットを要求するために、マスターデバイス110はビーコンメッセージを使用することができる。
【0139】
ステップS806において、ステップS801において実効的にいずれが受信されるかによって、マスターデバイス110は、ステップS801において受信されるような完全な識別子を、又はステップS801において受信されるような完全な識別子の一部をデータベースに記憶する。データベースに記憶された完全な識別子又は識別子部分によって、その後、他のスレーブデバイスから、ステップS801において受信したアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスを識別できるようになる。
【0140】
後続のステップS807において、マスターデバイス110は、関連するPONのあらゆるスレーブデバイスを互いに弁別できるようにする弁別ビットを判断する。言い換えると、マスターデバイス110は、どのスレーブデバイスが上記シグナリング情報を送信したかを判断するために、更なるシグナリング情報送信中に、どの識別子ビット(すなわち、スレーブデバイスの完全な識別子を表すために必要とされるビット量の中のそれぞれのビット位置)が厳密に送信される必要があるかを判断する。
【0141】
その後、ステップS808において、マスターデバイス110は、スレーブデバイスの完全な識別子から上記弁別ビットのみを保持できるようにする、マスクと、暗に少なくとも1つのシフト深度(完全な識別子から引用するためのビットの位置に関連する)とを決定する。マスクは、弁別ビットの値を抽出できるようにし、シフト深度は、(そのビットがいわゆる下位ビットであるかのように)第1のビット位置から開始して連続的にその値を取得できるようにする。弁別ビットが第5のビット位置から第8のビット位置までのビットであり(第1のビット位置は、いわゆる、識別子の最下位ビットである)、上記マスクが、そのマスクが適用される完全な識別子からそのビットのそれぞれの値を抽出できるようにし、1つのシフト深度が、上記抽出されたビットを、第1のビット位置から第4のビット位置までの範囲にシフトできるようにすることを例示として考えてみる。マスクが不連続な識別用ビットの値を抽出できるようにするとき、シフト深度によるシフト演算後に、第1のビット位置から開始する連続したビットの値を取得するように、幾つかのシフト深度が使用されることに留意されたい。
【0142】
マスクと、暗にシフト深度とが決定されると、マスターデバイス110は、少なくとも、ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスに向かって、帯域外通信チャネルを介して、又は帯域内通信チャネルを用いて、上記マスク及びシフト深度を表す情報を送信する。取得されたマスクが、関連するPON内に既に存在していたスレーブデバイスに適用可能であった先行するマスクとは異なる場合、マスターデバイス110は、スレーブデバイスに更新されたマスク、それゆえ、全ての上記スレーブデバイスに適用可能であるマスクをブロードキャストする。「ブロードキャスト」という用語は、本明細書において、全てのスレーブデバイスに連絡する広い意味で使用される。
【0143】
ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスに向かってデータを送信するために、マスターデバイス110は、上記アナウンシングシグナリング情報を送信するために使用されたキャリア周波数が一致する組122のアップリンクフィルターの公称周波数と対をなす組121のダウンリンクフィルターの公称周波数と一致するダウンリンクキャリア周波数であるキャリア周波数を使用する(通信が同じPON内で行われるため)。
【0144】
その後、マスターデバイス110は、もしあるなら、ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報に含まれるシグナリング情報の任意の他の部分を処理する。ステップS808が実行されると、図8のアルゴリズムは終了する。
【0145】
マスクの送信は、パッシブ光通信ネットワーク100に参加する各スレーブデバイスによって送信されたアナウンシングシグナリング情報に応答して、図8に関してより詳細に説明されてきた。また、マスクは、ダウンリンク方向における帯域外通信チャネル、又はダウンリンク方向における帯域内通信チャネルのいずれかを用いて、マスターデバイス110によって定期的に送信される場合がある。この後者の手法によれば、スレーブデバイスがパッシブ光通信ネットワーク100に参加するときに、上記スレーブデバイスが、自らのアナウンシングシグナリング情報にどの識別子ビットを含むべきであるかを知ることができるようになる。
【0146】
図9は、帯域外通信チャネルを介してアナウンシングシグナリング情報を送信するために、パッシブ光通信ネットワーク100に参加する各スレーブデバイスによって実行される(すなわち、マスターデバイス110に、パッシブ光通信ネットワーク100における自らの存在をアナウンスする)アルゴリズムを概略的に表す。図9のアルゴリズムがスレーブデバイス141によって実行されることを例示として考えてみる。
【0147】
ステップS901において、スレーブデバイス141は、帯域外通信チャネルを介してそのようなアナウンシングシグナリング情報内でマスターデバイス110に送信されることになるスレーブデバイス141の識別子の少なくとも一部を取得する。そのために、スレーブデバイス141は、スレーブデバイス141の完全な識別子から、そのそれぞれの位置があらかじめ規定されている、所定のビット量を引用する。スレーブデバイス141を識別するために、引用されたビットのみが、アナウンシングシグナリング情報において送信されようとしている。一変形形態では、スレーブデバイス141は、アナウンシングシグナリング情報内に、スレーブデバイス141の完全な識別子を含むことができる。スレーブデバイス141の完全な識別子から引用されたビット量、及びそのそれぞれ位置は、通常あらかじめ規定される。例えば、デフォルトマスクと、暗に少なくとも1つのデフォルトシフト深度とが、スレーブデバイス141の製造中、又は初期化時にスレーブデバイス141のメモリに記憶され、ステップS901においてスレーブデバイス141によって(上記で説明されたように)適用される。その後、上記アナウンシングシグナリング情報内のスレーブデバイス141を表す識別情報として、引用されたビットのみが保持される。この段階において、スレーブデバイス141は、引用されたビットが、スレーブデバイス141に対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスから、そのスレーブデバイス141を弁別するのに十分であるか否かを知ることはできない。図8に関して既に説明されたように、これは、引用されたビットが、ステップS801において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスに対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスから、そのスレーブデバイス141を弁別するのに十分であるか否かを判断するマスターデバイス110次第である。実際には、引用されたビットが、スレーブデバイス141に対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスから上記スレーブデバイス141を弁別するのに十分であると、マスターデバイス110が判断する場合には、そのスレーブデバイス141は、アナウンシングシグナリング情報に応答して、マスターデバイス110から少なくともマスクを受信すると想定され、そうでない場合には、上記スレーブデバイス141は、アナウンシングシグナリング情報に応答して、マスターデバイス110から、更なる識別情報の要求を受信すると想定される。
【0148】
別の実施形態において、スレーブデバイス141の完全な識別子から引用されたビット量、及びそれらのそれぞれの位置は、ダウンリンク方向における帯域外通信チャネル又は帯域内通信チャネルを用いて、マスターデバイス110によって送信されたマスクから決定される。上記マスクは、上記スレーブデバイスを互いに区別できるようにするために、関連するPON内に既に存在しているようなスレーブデバイスによって知られているスレーブデバイスの識別子からマスターデバイス110によって規定された。上記マスクは、スレーブデバイス141のパッシブ光通信ネットワーク100内の出現に起因して、マスターデバイス110によって更新されることが必要な場合があるが、既に適用可能なマスクが、帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高い他のスレーブデバイスからスレーブデバイス141を区別するために依然として適用可能である確率は無視できない。
【0149】
後続のステップS902において、スレーブデバイス141は、ステップS901においていずれが取得されるかによって、識別情報として完全な識別子又は完全な識別子の一部を含むアナウンシングシグナリング情報を、マスターデバイス110に向かって帯域外通信チャネルを介して送信する。
【0150】
アナウンシングシグナリング情報が完全な識別子の一部のみを含むとき、ステップS903が実行され、そうでない場合には、ステップS904が直接実行される。
【0151】
ステップS903において、スレーブデバイス141は、アナウンシングシグナリング情報に含まれる識別情報が、関連するPON内に既に存在していることがマスターデバイス110によって知られている他のスレーブデバイスからスレーブデバイス141をマスターデバイス110が弁別するのに十分であったか否かをチェックする。言い換えると、スレーブデバイス141は、アナウンシングシグナリング情報に応答して、マスターデバイス110が、更なる識別情報、又は少なくともマスクの要求を送信したか否かをチェックする。スレーブデバイス141が、アナウンシングシグナリング情報に応答して、マスターデバイス110から更なる識別情報の要求を受信したとき、ステップS906が実行され、そうでない場合には、ステップS904が実行される。
【0152】
ステップS904において、スレーブデバイス141は、マスクと、少なくとも1つのシフト深度とを表す情報を受信し、それにより、スレーブデバイス141の完全な識別子から、スレーブデバイス141に対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスからスレーブデバイス141を弁別できるようにする弁別ビットのみを保持できるようになる。マスクと、シフト深度とを表す上記情報は、ステップS808においてマスターデバイス110によって送信された情報に対応する。したがって、スレーブデバイス141は、スレーブデバイス141の完全な識別子から、そして上記マスクから、そして上記シフト深度から、図8に関して既に説明されたように、他のスレーブデバイスからスレーブデバイス141を弁別できるようにする弁別短縮識別子を決定することができる。したがって、上記更なるシグナリング情報内のスレーブデバイス141を表す識別情報として、弁別ビットのみが保持される。
【0153】
後続のステップS905において、スレーブデバイス141は、帯域外通信チャネルを介して送信されることになる更なるシグナリング情報において、識別情報として、弁別短縮識別子を使用する。その際、規定により、弁別短縮識別子によって、上記更なるシグナリング情報がスレーブデバイス141から到来することをマスターデバイス110が知ることができるようになると想定され、その更なるシグナリング情報は、上記更なるシグナリング情報がスレーブデバイス141の完全な識別子を含んでいた場合より短く、それゆえ、帯域外通信チャネルを介しての衝突発生のリスクを低減する。その後、図9のアルゴリズムは終了する。
【0154】
ステップS906において、スレーブデバイス141は、ステップS902において送信されたアナウンシングシグナリング情報に含まれる完全な識別子の一部と比較される更なる識別情報を取得する。マスターデバイス110から受信された更なる識別情報の要求は、上記スレーブデバイスの完全な識別子のうちのどのビットが要求されるかを暗に、又は明示的に示すことができ、ステップS805に関して既に言及された第1の例によれば、その要求は、スレーブデバイスがアナウンシングシグナリング情報の送信を再試行するが、そのスレーブデバイスの完全な識別子の全てのビットを用いて再試行すべきであることを暗に示し、ステップS805に関して既に言及された第2の例によれば、その要求は、スレーブデバイス141の完全な識別子の所定の補足ビット量、例えば、アナウンシングシグナリング情報において受信されたような識別子の部分のビット量Bの2倍の量を用いて、例えば、上記スレーブデバイスの完全な識別子の2*Bの下位ビットが送信されるように、アナウンシングシグナリング情報の送信を再試行すべきであることを暗に、又は明示的に示す。スレーブデバイス141の完全な識別子の上記所定の補足ビット量は、スレーブデバイス141によってのみ知られている場合がある(その要求は、より多くのビットが、その数を示すことなく要求されることを示し、スレーブデバイス141は、例えば、製造中又は初期化時にメモリに記憶されたデフォルト値に基づいて、自ら、提供すべき補足ビットの数を決定する)。
【0155】
後続のステップS907において、スレーブデバイス141は、マスターデバイス110によって暗に要求されるか、明示的に要求されるかに応じて、ステップS906において取得されたような更なる識別情報として完全な識別子又は完全な識別子の一部を含む新たなアナウンシングシグナリング情報を、マスターデバイス110に向かって帯域外通信チャネルを介して送信する。その後、ステップS903が繰り返される。
【0156】
ステップS902においてアナウンシングシグナリング情報を送信した後に、スレーブデバイス141が、所定のタイマー持続時間内にいかなる応答も(マスクも更なる識別情報の要求も)受信しない場合には、スレーブデバイス141は、別のキャリア波長を使用するように、自らの光送信インターフェースの構成を変更する。このプロセスは、スレーブデバイス141によって使用されるキャリア波長が、スレーブデバイス141がマスターデバイス110にデータを送信できるようにする組122のアップリンクフィルターの通過帯域と一致するまで繰り返される。
【0157】
弁別ビットを抽出するために使用されるマスクは、スレーブデバイスに関してマスターデバイス110のデータベース内に記憶された識別情報に頼るので、そして、そのようなマスクは、パッシブ光通信ネットワーク100におけるスレーブデバイスの出現、又はパッシブ光通信ネットワーク100からのスレーブデバイスの消失によって経時的に変化する可能性が高いので、マスターデバイス110は、スレーブデバイスの部分的な識別子のみの代わりに、スレーブデバイスの完全な識別子をデータベースに記憶することが有利であることに留意されたい。それゆえ、あらかじめ受信されたアナウンシングシグナリング情報がそれぞれ部分的な識別子のみを含む特定の実施形態では、関連するスレーブデバイスからマスターデバイス110への帯域内通信が設定されると、上記スレーブデバイスは、帯域内通信を介して、マスターデバイス110に自らの完全な識別子を送信する。マスターデバイス110は、帯域内通信を介して上記完全な識別子を受信すると、データベースから、そのスレーブデバイスに関して以前に記憶された部分的な識別子を検索する。そのために、マスターデバイス110は、受信された完全な識別子に、そのスレーブデバイスに適用可能なマスクを適用し、必要なシフト演算を実行し、データベース内に記憶された部分的な識別子との比較を実行する。一致が見いだされると、上記スレーブデバイスの部分的な識別子が見つけられ、マスターデバイス110は、以前に記憶された部分的な識別子の代わりに、上記完全な識別子を記憶する。
【0158】
第1の実施形態によれば、スレーブデバイスの消失は、そのスレーブデバイスがパッシブ光通信ネットワーク100を離れることを示すために、電源を切る直前に、又はスリープモードに移行する直前にそのスレーブデバイスによってメッセージが送信されることによって、マスターデバイス110が検出することができる。第2の実施形態によれば、消失は、所定の持続時間のタイマーを実現し、マスターデバイスと上記スレーブデバイスとの間のデータ交換があるたびに起動し、マスターデバイスとそのスレーブデバイスとの間の新たなデータ交換が実行される前に、タイマーが満了するときに、スレーブデバイスがパッシブ光通信ネットワーク100を離れたと見なすことによって、検出することができる。それは、そのようなデータ交換が、一般にタイマーの上記所定の持続時間より頻繁に行われると想定されることを意味する。
【0159】
上記の説明において、スレーブデバイスごとに短縮識別情報を決定するために上述したマスクを使用することは、パッシブ光通信ネットワーク100内のスレーブデバイスの出現に応じた動的な更新状況において詳述される。同じ原理が、パッシブ光通信ネットワーク100からのスレーブデバイスの消失による動的な更新状況においても当てはまることは理解することができる。その際、マスクは、上記消失を検出すると更新される場合があり、それは、帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスを区別するために厳密に必要とされる識別子の量を削減することができる。
【0160】
図10は、上述したマスクが適用されなければならないときに、帯域外通信チャネルを介してシグナリング情報(上記のアナウンシングシグナリング情報以外)を送信するために、各スレーブデバイスによって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。図10のアルゴリズムがスレーブデバイス141によって実行されることを例示として考えてみる。
【0161】
ステップS1001において、スレーブデバイス141は、シグナリング情報(上述したアナウンシングシグナリング情報に関する更なるシグナリング情報)が、帯域外通信チャネルを介してマスターデバイス110に向かって送信されなければならないことを検出する。例えば、そのような更なるシグナリング情報は、キャリア波長離調追跡のためのロッキング信号であり、スレーブデバイス141がマスターデバイス110に向かって通信することが想定される組122のフィルターの通過帯域と一致するキャリア波長に対応するように、スレーブデバイス141の光送信インターフェースの構成が調整されなければならないか否かを判断するために、マスターデバイス110が上記ロッキング信号に関する測定を実行できるようになる。
【0162】
後続のステップS1002において、スレーブデバイス141は、スレーブデバイス141の完全な識別子から弁別短縮識別子を取得するために、マスクを表す情報を取得する。そのマスクは、それを表す情報が、ステップS808においてマスターデバイス110によってスレーブデバイス141に(おそらく、ブロードキャストを介して)送信されたマスクである(それは、そのマスクが、上記スレーブデバイス141の後にパッシブ光通信ネットワーク100に参加したか、又はパッシブ光通信ネットワーク100を離れた別のスレーブデバイスによって送信されたアナウンシングシグナリング情報の処理後にスレーブデバイス141によって受信されたことを意味する)。その後、スレーブデバイス141は、(これら全てのビットがいわゆる下位ビットであるかのように)第1のビット位置から連続したビットを取得するために、上記マスクと、対応するシフト深度とを適用する。弁別短縮識別子に対応するビットのみが、上記更なるシグナリング情報内に含まれることになる識別情報として保持される。
【0163】
後続のステップS1003において、スレーブデバイス141は上記更なるシグナリング情報を構築し、スレーブデバイス141は、そのシグナリング情報内に、ステップS1002において取得されたような弁別短縮識別子を含む。
【0164】
後続のステップS1004において、スレーブデバイス141は、マスターデバイス110に向かって帯域外通信チャネルを介して、上記更なるシグナリング情報を送信する。その後、図10のアルゴリズムは終了する。
【0165】
図11は、上記のマスクが適用されなければならないときに、図5のアルゴリズムに従って帯域外通信チャネルを介して送信された上記更なるシグナリング情報を処理するために、マスターデバイス110によって実行されるアルゴリズムを概略的に表す。
【0166】
ステップS1101において、マスターデバイス110は、上記更なるシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの完全な識別子の一部のみ(弁別短縮識別子)を含む、更なるシグナリング情報を受信する。上記更なるシグナリング情報が、その更なるシグナリング情報を送信したスレーブデバイスの完全な識別子を含む場合、ステップS1105が直接実行される。
【0167】
後続のステップS1102において、マスターデバイス110は、上記更なるシグナリング情報に含まれ、ステップS1101において受信されたアナウンシングシグナリング情報を送信したスレーブデバイスに対して帯域外通信チャネルに同時にアクセスする可能性が高いスレーブデバイスの中で、その更なるシグナリング情報を送信したスレーブデバイスを一意に識別することを目的とする識別情報を取得する。
【0168】
後続のステップS1103において、マスターデバイス110は、ステップS1102において取得された識別情報から、上記更なるシグナリング情報を送信したスレーブデバイスを識別する。
【0169】
後続のステップS1104において、マスターデバイス110は、ステップS1101において受信された上記更なるシグナリング情報に含まれるシグナリング情報の任意の他の情報を処理する。ステップS1104が実行されると、図11のアルゴリズムは終了する。
【0170】
図8図11に関して本明細書において上記で導入されたマスクを用いて、特定の実施形態において、上記スレーブデバイスがタイムスロットにアクセスすることをそれぞれ許されるか否かを判断するために、図4に関して既に言及され、スレーブデバイスによって図5のアルゴリズムの範囲内で使用される第2の弁別情報を規定することができる。実際には、第2の弁別情報は、この場合、通常、上記マスクを介して抽出することができる識別子の1つ以上のビットの値である(マスクによって抽出された識別子ビットによって、スレーブデバイスを互いに弁別できるようになるため)。そのようなマスクの使用は、補足ビットがビーコンメッセージを介して要求されなければならない事例を制限する(補足ビットのそのような要求は、新たなスレーブデバイスがパッシブ光通信ネットワーク100に参加し、これまで適用可能であったマスクをもはや使用されないものにする完全な識別子を有するときに特により有用であろう)。
【0171】
一変形形態によれば、識別情報のサイズを削減するために、マスターデバイス110は、関連するPON内に存在している各スレーブデバイスの識別子内に存在するベンダー識別部分の変換を実行する。実際には、数多くのパッシブ光通信ネットワークが、数少ない異なるベンダーによって製造されたデバイスを含み、そのデバイスの識別子は、そのデバイスのそれぞれのベンダーを識別するために大量のビットを含む。例えば、2つの異なるベンダーによってのみ製造されるデバイスがパッシブ光通信ネットワーク100内に存在するとき、両方のベンダーを区別するのに1ビットが必要になる。パッシブ光通信ネットワーク100内に存在するスレーブデバイスを製造した異なるベンダーの数に従って、そのような変換を実行することによって、シグナリング情報に含まれる識別情報のサイズが削減される。そのために、マスターデバイス110は、関連するPONのスレーブデバイスに、パッシブ光通信ネットワーク100内に存在するスレーブデバイスを製造した異なるベンダーの数に応じて規定された、より短いサイズを有するコードとのベンダー識別子部分の関連性を与える変換表を与え、それにより、上記スレーブデバイスは、送信されるシグナリング情報において、それぞれの識別子のベンダー識別子部分を、その表内に示されるような対応するコードに置き換える。その表は、帯域内通信を介して与えられることが好ましいが、代替的には、帯域外通信チャネルを介して与えることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11