(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーと炭素数が1〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーとを含むベースモノマーと、親水性モノマーとしてのアルキル基の炭素数が1〜20の水酸基含有アルキルメタクリレートと、架橋性モノマーと、を含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー材料を含む、眼内レンズ用材料であって、
該芳香環含有アクリレートモノマーが、フェノキシエチルアクリレート、フェニルエチルアクリレートおよびベンジルアクリレートから選択される1つであり、
該架橋性モノマーが、ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス(アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼンおよび1,2−ビス(2−アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼンから選択される1つ以上であり、
該モノマー組成物における該芳香環含有アクリレートモノマーの配合量が、該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、30モル%〜50モル%であり、
該モノマー組成物における該アルコキシアルキルメタクリレートモノマーの配合量が、該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、5モル%〜25モル%であり、
該モノマー組成物における該アルキルアクリレートモノマーの配合量が、該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、20モル%〜40モル%であり、
該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分における、全アクリレートモノマーに対する全メタクリレートモノマーのモル基準配合割合が、0.25〜1.00である、眼内レンズ用材料。
前記アルコキシアルキルメタクリレートモノマーが、メトキシエチルメタクリレートおよびエトキシエチルメタクリレートから選択される1つ以上である、請求項1に記載の眼内レンズ用材料。
前記モノマー組成物における前記親水性モノマーの配合量が、前記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、10モル%〜40モル%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の眼内レンズ用材料。
前記モノマー組成物における前記架橋性モノマーの配合量が、前記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、0.1モル%〜5モル%である、請求項1から4のいずれか1項に記載の眼内レンズ用材料。
前記アルキルアクリレートモノマーが、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアクリレートモノマーから選択される1つ以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載の眼内レンズ用材料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記アクリル系の眼内レンズ用材料は、水溶液中で加水分解が起きることがあり、微量ではあるものの眼内で加水分解物が溶出することがある。本発明は、当該問題に鑑みなされたものであり、よって、本発明の主たる目的は、耐加水分解性が向上された眼内レンズ用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記問題について検討したところ、芳香環含有アクリレートモノマー、親水性モノマーおよび架橋性モノマーを含むモノマー組成物に特定のアルコキシアルキルメタクリレートモノマーを配合することにより、グリスニングの発生を抑制しつつ、耐加水分解性が向上した眼内レンズ材料が得られることがわかった。その一方で、アルコキシアルキルメタクリレートモノマーの使用により、ポリマー材料の柔軟性が低下して折り畳みに問題が生じ得ることも明らかになった。そこで、本発明者らがさらに検討を続けた結果、モノマー組成物におけるアクリレートモノマーとメタクリレートモノマーとの配合割合を所定の範囲とすることで、折り畳みに適した柔軟性を維持しつつ、耐加水分解性が向上したポリマー材料が得られることが見出された。
【0007】
すなわち、本発明の眼内レンズ材料は、芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを含むベースモノマーと、親水性モノマーと、架橋性モノマーと、を含むモノマー組成物を重合して得られ、該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分における、アクリレートモノマーに対するメタクリレートモノマーのモル基準配合割合が、0.25〜1.00である。
1つの実施形態において、上記アルコキシアルキルメタクリレートモノマーが、メトキシエチルメタクリレートおよびエトキシエチルメタクリレートから選択される1つ以上である。
1つの実施形態において、上記モノマー組成物における上記アルコキシアルキルメタクリレートモノマーの配合量が、上記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、1モル%〜30モル%である。
1つの実施形態において、上記モノマー組成物における上記親水性モノマーの配合量が、上記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、10モル%〜40モル%である。
1つの実施形態において、上記モノマー組成物における上記架橋性モノマーの配合量が、上記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、0.1モル%〜5モル%である。
1つの実施形態において、上記芳香環含有アクリレートモノマーが、フェノキシ基と、炭素数2以下のアルキレン基とアクリレート結合部位とを有する。
1つの実施形態において、上記モノマー組成物が、炭素数が1〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーをさらに含む。
1つの実施形態において、上記モノマー組成物における上記アルキルアクリレートモノマーの配合量が、上記モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、15モル%〜45モル%である。
1つの実施形態において、上記眼内レンズ材料の破断応力が、4.5MPa〜11.0MPaである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、折り畳みに適した柔軟性を維持しつつ、耐加水分解性が向上した眼内レンズ用材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0011】
1つの実施形態において、本発明の眼内レンズ用材料は、芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを含むベースモノマーと、親水性モノマーと、架橋性モノマーと、を含むモノマー組成物を重合して得られる。モノマー組成物は、好ましくは炭素数が1〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーをベースモノマーとしてさらに含む。換言すれば、本発明の眼内レンズ用材料は、上記各モノマー由来の繰り返し単位を含む。
【0012】
上記眼内レンズ材料は、折り畳みに適した柔軟性を維持しつつ、耐加水分解性に優れるという特徴を有する。このような効果が得られる理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、メタクリレート構造は、メチル基の存在に起因してアクリレート構造よりも水のアタックを受けにくいことから、ベースモノマーにメタクリレートモノマーを配合することによって、得られる材料の耐加水分解性を高めることができると推察される。一方、ベースモノマーにメタクリレートモノマーを配合することによって、材料の柔軟性が低下し得るところ、メタクリレートモノマーとして炭素数4以下のアルコキシアルキル基を有するメタクリレートモノマーを用いること、および、モノマー組成物中のアクリレートモノマーとメタクリレートモノマーとの配合割合を特定の範囲に調整することによって、眼内レンズ材料として望ましい柔軟性(折り畳み性能)を発揮することができる。上記眼内レンズ材料はまた、グリスニングが抑制され、高屈折率を有し、および/または、柔軟性と強度とのバランスに優れたものであり得る。
【0013】
A.モノマー組成物
A−1.ベースモノマー
ベースモノマーは、芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを含む。目的に応じて、ベースモノマーは、炭素数が1〜20のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーをさらに含み得る。本明細書において、ベースモノマーとは、眼内レンズ用材料の主たる構造を構成するモノマーをいう。
【0014】
モノマー組成物におけるベースモノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、59.9モル%〜89.9モル%とすることができ、好ましくは75モル%〜85モル%であり得る。
【0015】
A−1−1.芳香環含有アクリレートモノマー
上記芳香環含有アクリレートモノマーは、眼内レンズ用材料の屈折率を向上させる作用を有する。芳香環含有アクリレートモノマーは、フェノキシ基と、炭素数2以下のアルキレン基とアクリレート結合部位とを有するものであってもよい。芳香環含有アクリレートモノマーの具体例としては、フェノキシエチルアクリレート、フェニルエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、ペンタブロモフェニルアクリレート等が挙げられる。芳香環含有アクリレートモノマーは、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、共重合性や安全性の観点からは、使用される当該モノマーの種類は少ないことが望ましく、好ましくは一種のみが単独で用いられ得る。
【0016】
単独で使用された場合であっても屈折率を高める効果が大きい点から、フェノキシエチルアクリレート、フェニルエチルアクリレートおよびベンジルアクリレートが好ましく、さらに柔軟性を向上させる点から、フェノキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0017】
芳香環含有アクリレートモノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、25モル%〜55モル%とすることができる。吸水状態でも高い屈折率を示す観点から、好ましくは30モル%〜50モル%であり、より好ましくは35モル%〜45モル%である。芳香環含有アクリレートモノマーの配合量が多過ぎると、その嵩高い構造に起因して、柔軟性や形状回復性が低下するおそれがある。一方、芳香環含有アクリレートモノマーの配合量が少な過ぎると、所望の屈折率が得られないおそれがある。
【0018】
A−1−2.アルコキシアルキルメタクリレートモノマー
上記アルコキシアルキルメタクリレートモノマーのアルコキシアルキル基は、下記化学式(1)で表すことができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。このアルコキシ基が結合するアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基等が挙げられる。アルコキシアルキルメタクリレートモノマーとしては、メトキシエチルメタクリレートおよびエトキシエチルメタクリレートが好ましく、柔軟性の観点からエトキシエチルメタクリレートがより好ましい。アルコキシアルキルメタクリレートモノマーは、単独または2種以上を混合して用いることができる。
C
nH
2n+1OC
mH
2m− (但し、nおよびmはそれぞれ、1以上の整数であり、(n+m)≦4を満たす) ・・・ 化学式(1)
【0019】
アルコキシアルキルメタクリレートモノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、1モル%〜30モル%とすることができる。加水分解を好適に抑制する観点および折りたたみの容易性の観点から、該配合量は、好ましくは2モル%〜25モル%、より好ましくは5モル%〜20モル%である。上記ベースモノマーにおいて、アクリレートモノマーに対するメタクリレートモノマーの配合量が増加すると、グリスニング等の問題が発生しやすい傾向がある。その理由は定かではないが、アクリレートモノマーとメタクリレートモノマーとでは、重合速度が異なるために相分離が生じやすく(共重合性が悪く)、その結果、グリスニングが発生しやすくなると推察される。これに対し、本発明においては、上記特定のアルコキシアルキルメタクリレートモノマーを選択することにより、上記配合量でメタクリレートモノマーを用いてもグリスニング抑制能を維持することができる。
【0020】
A−1−3.アルキルアクリレートモノマー
上記アルキルアクリレートモノマーは、眼内レンズ用材料の形状回復性および柔軟性のさらなる向上に寄与し得る。また、モノマー相互の共重合性を向上させることができるので、より高いグリスニング抑制能を獲得することができる。
【0021】
アルキルアクリレートモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、ノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキルアクリレートモノマー等が挙げられる。また、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−t−ペンチルアクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−t−ヘキシルアクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2,2′,2′,2′−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルアクリレート等のフッ素置換アルキルアクリレートモノマーもアルキルアクリレートモノマーに含まれ得る。アルキルアクリレートモノマーは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
形状回復性および柔軟性の向上効果が大きいという点から、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアクリレートモノマーが好ましく、エチルアクリレートおよびブチルアクリレートがより好ましく、共重合性の観点からエチルアクリレートが特に好ましい。
【0023】
アルキルアクリレートモノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、0モル%〜60モル%とすることができる。該配合量は、好ましくは15モル%〜45モル%、より好ましくは20モル%〜40モル%である。
【0024】
A−2.親水性モノマー
親水性モノマーは、眼内レンズ用材料に親水性を与えることができる。また、親水性モノマーの配合量を調整することで、柔軟性および強度を維持しつつ、グリスニングの発生を抑制することができる。そのメカニズムは定かではないが、材料中に一定量の親水性モノマーが存在することで、ポリマー中の水分の凝集(グリスニング)を防ぐことができると推察される。
【0025】
親水性モノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜20の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドおよびN−ビニルラクタムが挙げられる。親水性モノマーは、単独または2種以上を混合して用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0026】
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等のジヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0028】
N−ビニルラクタムとしては、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0029】
親水性モノマーは、上述したものに限定されない。他に使用可能な親水性モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体、アミノスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0030】
グリスニングの低下を促進させる作用が大きいという点から、親水性モノマーとしては、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドが好ましく、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
【0031】
親水性モノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、10モル%〜40モル%とすることができ、好ましくは10モル%〜25モル%である。当該範囲では、グリスニングの発生を十分に抑制できるとともに、柔軟性を維持することができる。
【0032】
A−3.架橋性モノマー
架橋性モノマーは、眼内レンズ用材料の柔軟性に関与し得る。具体的には、良好な機械的強度を付与し得るとともに、形状回復性を向上させ得る。また、モノマー同士の共重合性を向上させ得る。
【0033】
架橋性モノマーとしては、例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフマレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、トリアリルジイソシアネート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。なかでも、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのうち1以上が好ましく用いられ得る。柔軟性をコントロールし、良好な機械的強度を付与し、形状回復性および共重合性を向上させる効果が大きいという点から、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。架橋性モノマーは、単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
架橋性モノマーの配合量は、モノマー組成物に含まれる全モノマー成分を100モル%とした場合に、0.1モル%〜5モル%とすることができる。該配合量は、好ましくは0.5モル%〜4モル%であり、より好ましくは1モル%〜3モル%である。当該範囲では、形状回復性を付与するとともに、グリスニング発生を抑制することができる。また、眼内レンズ材料として小切開からの挿入に耐えうる伸び率を付与することができる。
【0035】
A−4.モノマー配合割合
モノマー組成物中における、全アクリレートモノマーに対する全メタクリレートモノマーのモル基準配合割合(メタクリレート/アクリレート)は、0.25〜1.00であり、好ましくは0.30〜0.70であり、より好ましくは0.35〜0.65である。アクリレートモノマーとメタクリレートモノマーの配合割合を当該範囲内とすることにより、折り畳みに適した柔軟性を維持しつつ、耐加水分解性に優れるという特徴を有する眼内レンズ材料が得られ得る。
【0036】
A−5.重合開始剤
モノマー組成物は、必要に応じて重合開始剤を含む。重合開始剤としては、重合方法に応じて、ラジカル重合開始剤、光重合開始剤等の任意の適切な重合開始剤が用いられ得る。
【0037】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。光線等を利用して重合させる場合には、光重合開始剤や増感剤を添加することが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、メチルオルソベンゾイルベンゾエート等のベンゾイン系化合物、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のフェノン系化合物、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、2−クロロチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物、ジベンゾスバロン、2−エチルアンスラキノン、ベンゾフェノンアクリレート、ベンゾフェノン、ベンジル等が挙げられる。
【0038】
重合開始剤や増感剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適切に設定され得る。
【0039】
A−6.他の添加成分
眼内レンズ用材料は、必要に応じて、紫外線吸収剤、色素等その他の添加成分を含んでいてもよい。添加成分は、代表的には、モノマー組成物中に添加されることによって眼内レンズ用材料に配合され得る。
【0040】
紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタクリルオキシエチレンオキシ−t−ブチルフェニル)−5−メチル−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2(3′−t−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、サリチル酸誘導体類、ヒドロキシアセトフェノン誘導体類等が挙げられる。紫外線吸収剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な値に設定され得る。
【0041】
色素は、例えば、青視症を補正する場合、黄色ないし橙色の色素とすることが望ましい。色素としては、例えば、特開2006−291006号公報に記載の染料や、カラーインデックス(CI)に記載されたCIソルベントイエロー、CIソルベントオレンジ等の油溶性染料、CIディスパースイエロー、CIディスパースオレンジ等の分散染料、バット系染料等が挙げられる。色素の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な値に設定され得る。
【0042】
B.眼内レンズ用材料の製造方法
眼内レンズ用材料は、上記モノマー組成物を重合することによって得られる。重合方法は、例えば、ラジカル重合開始剤を配合したのち加熱するものとしてもよいし、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)等の電磁波を照射するものとしてもよい。加熱条件や照射条件はモノマー組成物の組成等に応じて適切に設定され得る。
【0043】
重合は、鋳型内で行われてもよく、重合後に得られた材料を切削加工によって所望の形状に加工してもよい。
【0044】
C.眼内レンズ材料の特性
本発明の眼内レンズ材料においては、グリスニングの発生が抑制されている。眼内レンズ材料を眼内レンズに加工した場合、グリスニングの発生数は眼内レンズ1枚当たり15個以下が好ましい。また、実施例に記載のプレートの場合では、グリスニングの発生数はプレート1枚あたり6個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。
【0045】
眼内レンズ材料の破断応力は、好ましくは4.5MPa〜11.0MPaであり、より好ましくは5.0MPa〜10.5MPaである。破断応力が4.5MPa未満であると、強度が弱くなり、レンズ挿入時に破損する恐れがある。また、耐加水分解性が不十分となる場合がある。一方、破断応力が11.0MPaを超えると、柔軟性が低下して小さく折り畳むことが困難となる場合がある。
【0046】
眼内レンズ材料の伸び率は、好ましくは170%以上である。伸び率が170%以上であると、小切開からの挿入に好適である。また、形状回復性の観点から、該伸び率は、600%以下であることが好ましい。
【0047】
水中にて100℃30日間保存した際の、眼内レンズ材料からの加水分解物(例えば、フェノキシエチルアルコール(POEtOH))の溶出率は、0.13質量%以下が好ましく、0.10質量%以下がより好ましい。また、水中にて100℃60日間保存した際の、眼内レンズ材料からの加水分解物の溶出率は、0.80質量%以下が好ましく、0.70質量%以下がより好ましい。また、水中にて100℃90日間保存した際の、眼内レンズ材料からの加水分解物の溶出率は、3.30質量%以下が好ましく、2.80質量%以下がより好ましい。
【0048】
眼内レンズ用材料の屈折率は、乾燥状態(25℃)および吸水状態(35℃)の双方において、好ましくは1.50以上である。
【0049】
眼内レンズ用材料は、吸水率(質量%)が1.5質量%〜4.5質量%の範囲であることが好ましい。吸水率が1.5質量%以上では、グリスニングの発生を抑制することができ、4.5質量%以下では、柔軟性の低下や形状回復性の低下をより抑制することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各処理および各特性の測定方法は以下の通りである。
【0051】
(加水分解処理)
予め試料を60℃にて乾燥し、処理前質量W
0を測定した。100mL耐圧瓶に蒸留水50mLを入れ、試料を浸漬した。100℃の乾燥機に耐圧瓶を入れ保存した。試料として直径6mm厚さ0.5mmのプレートを10枚使用した。瓶の風袋質量W
01、蒸留水添加後の瓶質量W
02、試料浸漬後の瓶質量W
03を記録した。
【0052】
(POEtOH溶出率)
以下の手順によって、加水分解処理30日後の抽出液について、フェノキシエチルアルコール(POEtOH,POEAの加水分解物)の濃度と溶出率を求めた。抽出液採取前の瓶質量W
11を記録後、瓶から抽出液を採取し、抽出液採取後の瓶質量W
12を記録した。採取した抽出液、標準液、およびそれらのブランク(蒸留水)を、HPLCを用いて分析した。分析後、採取した水溶液および標準溶液のクロマトグラムから蒸留水のクロマトグラムを差し引き、ベースライン補正を行った。補正したクロマトグラムからPOEtOHのピーク面積を算出した。標準液のPOEtOH濃度とピーク面積から検量線を作成した。抽出液のPOEtOHのピーク面積と得られた検量線をもとに、抽出液中のPOEtOHの濃度を算出した。得られたPOEtOHの濃度を用いて、試料1gあたりのPOEtOHの溶出率を次式(1)より算出した。抽出液容量については式(2)より算出した。抽出液容量の算出にあたっては、100℃の加熱により変化した質量のうち試料の質量変化は抽出液のそれに比べて無視できる程小さいこと、抽出液の大部分は水のため密度を1g/1mLとして計算して差し支えないとの考えが前提にある。処理30日の抽出液分析後、再び瓶を100℃の乾燥機に入れた。加水分解処理の合計60日後に、抽出液を再び採取した。処理30日の際と同様に、抽出液採取前の瓶質量W
21を記録し、抽出液中のPOEtOH濃度をHPLC分析にて定量し、POEtOHの溶出率を式(3)より算出した。抽出液容量については式(4)より算出した。また、同様に加水分解処理の合計90日後のPOEtOHの溶出率も算出した。
POEtOH溶出率(%)=抽出液中のPOEtOH濃度(ppm)×10
-6×抽出液容量V
1S(mL)/処理前質量W
0(g)×100 …数式(1)
抽出液容量V
1S(mL≒g)=[W
02(g)−W
01(g)]−[W
03(g)−W
11(g)] …数式(2)
POEtOH溶出率(%)=抽出液中のPOEtOH濃度(ppm)×10
-6×抽出液容量V
2S(mL)/処理前質量W
0(g)×100 …数式(3)
抽出液容量V
2S(mL≒g)=V
1S(mL≒g)−[W
11(g)−W
12(g)]−[W
12(g)−W
21(g)] …数式(4)
【0053】
(破断応力)
全長(L0)約20mm、平行部長さ(L)6mm、平行部幅(W)1.5mm、厚さ0.8mmのダンベル形状の試験片(
図1参照)を用いて測定した。25℃の恒温水に試料を浸漬して1分間静置した後、100mm/分の速度で破断するまで引っ張った。ソフトウェアを用いて、破断応力を求めた。
【0054】
(グリスニング)
この測定において、直径6mm、中心厚み0.8mm±0.1mmのレンズ形状の試料あるいは直径6mm、厚さ0.5mmのプレートの試料を使用した。レンズ形状の試料については、試料を35℃の水中に17時間以上浸漬し、次いで25℃の水中に2時間浸漬した後、実体顕微鏡にて外観を観察した。プレートの試料については、試料を35℃の水中に22時間浸漬し、次いで25℃の水中に2時間浸漬した後、実体顕微鏡にて外観を観察した。外観の観察は、1種の試料につき2あるいは3検体行い、グリスニング(輝点)の発生個数を調べた。倍率は約10〜60倍であった。グリスニングを観察しやすいよう上記範囲で倍率を適宜調節し観察した。
【0055】
(吸水率)
25℃における平衡含水状態および乾燥状態での試料の質量を測定し、吸水率(質量%)を算出した。吸水率は、25℃における平衡含水状態での試料の質量Ww、乾燥状態での試料の質量Wdとにより、次式(5)より算出した。試料として、直径6mm厚さ0.8mmのプレートを5枚使用した。
吸水率(質量%)=(Ww−Wd)/Wd×100 …数式(5)
【0056】
(屈折率)
アッベ屈折計を用いて試料のHg−e線による屈折率を求めた。乾燥状態の試料(25℃)あるいは吸水状態の試料(35℃)で測定した。試料として、直径6mm厚さ0.8mmのプレートを使用した。
【0057】
[実施例1〜6および比較例1〜9 プレート形状の眼内レンズ用材料の作製]
表1に示す割合の各モノマー成分および重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を、ベースモノマー100質量部に対して0.5質量部混合してモノマー組成物を得た。得られたモノマー組成物を所望のプレート形状の鋳型内に注入した。この鋳型を80℃のオーブン中に入れて40分間にわたって加熱重合成形を行った。得られた重合体を鋳型から脱型し、溶出処理を行った後、60℃のオーブン内で乾燥させ、プレート形状の眼内レンズ用材料を得た。この時、必要な測定項目にあわせ、同じ組成のプレート試料として2種類の厚さの試料を適宜作製した。上述の厚さ0.5mmまたは0.8mmのプレートとは、厚さ0.5mmまたは0.8mmのスペーサーを用いた鋳型から作製されたプレートである。試験の目的に合わせ、乾燥したプレートを直径6mmまたは8mmにくり抜いて測定用のプレートとした。
【0058】
【表1】
【0059】
[使用成分]
表中に記載の化合物の略称を以下に示す。
<ベースモノマー>
POEA :2−フェノキシエチルアクリレート
EA :エチルアクリレート
POEMA:フェノキシエチルメタクリレート
EHMA :エチルへキシルメタクリレート
LMA :ラウリルメタクリレート
ETMA :エトキシエチルメタクリレート
<親水性モノマー>
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
<架橋性モノマー>
BDDA:1,4−ブタンジオールジアクリレート
【0060】
得られた眼内レンズ用材料に関して、各特性を評価した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表1および表2から明らかなとおり、ベースモノマーとして芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを併用した実施例1〜6および比較例4〜9では、耐加水分解性が向上した眼内レンズ材料が得られた。また、これらの眼内レンズ材料は、グリスニングの発生も抑制されていた。さらに、モノマー組成物中のアクリレートモノマーに対するメタクリレートモノマーのモル基準配合割合が0.25〜1.00の範囲内である実施例1〜6では、柔軟で好適に折り畳むことができ、かつ、眼内への挿入に耐え得る強度を有する眼内レンズ材料が得られた。一方、比較例4〜9の眼内レンズ材料は、柔軟性が低く、折り畳むのが困難であるか、あるいは、折り畳む際の負担が大きいことが予想された
【0063】
[比較例10〜12 レンズ形状の眼内レンズ用材料の作製]
表3に示すモノマー成分を用いたこと、および、所望のレンズ形状の鋳型を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてレンズ形状の眼内レンズ用材料を得た。また、得られた眼内レンズ用材料に関して、グリスニング評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示されるとおり、芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを併用しない場合、得られた眼内レンズ材料は、グリスニングが発生しやすい材料であった。
【0066】
[試験例1〜3]
表4に示すモノマー組成物を重合して得られるポリマー材料もまた、本発明の眼内レンズ材料として好適に用いられ得る。
【0067】
【表4】
本発明は、耐加水分解性が向上された眼内レンズ用材料を提供する。本発明の眼内レンズ用材料は、芳香環含有アクリレートモノマーと炭素数が4以下のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルメタクリレートモノマーとを含むベースモノマーと、親水性モノマーと、架橋性モノマーと、を含むモノマー組成物を重合して得られ、該モノマー組成物に含まれる全モノマー成分における、アクリレートモノマーに対するメタクリレートモノマーのモル基準配合割合が、0.25〜1.00である。