特許第6466443号(P6466443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオテクノロジー インスティチュート、アイ エムエーエス ディー、 エス.エル.の特許一覧

特許6466443血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法
<>
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000002
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000003
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000004
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000005
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000006
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000007
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000008
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000009
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000010
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000011
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000012
  • 特許6466443-血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6466443
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】血小板及び/又は成長因子が強化され、ゲル化タンパク質を含有する血液組成物の製剤、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/16 20150101AFI20190128BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20190128BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20190128BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20190128BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   A61K35/16 Z
   A61K35/19 Z
   A61K38/18
   A61K47/02
   A61K9/06
   A61L27/36 100
   A61L27/36 430
   A61P7/08
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-530556(P2016-530556)
(86)(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公表番号】特表2016-528225(P2016-528225A)
(43)【公表日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】ES2014070623
(87)【国際公開番号】WO2015015037
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】P201300718
(32)【優先日】2013年8月1日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】507267023
【氏名又は名称】バイオテクノロジー インスティチュート、アイ エムエーエス ディー、 エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アニトゥア アルデコア、エデュアルド
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0030161(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/142784(WO,A2)
【文献】 国際公開第2008/011192(WO,A2)
【文献】 国際公開第2000/067774(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0281081(US,A1)
【文献】 特表2010−535188(JP,A)
【文献】 ARVO ANNUAL MEETING ABSTRACT [on line],[retrieved on 2017-10-17], Rerieved from the Internet,2011年,p.1998,<URL: http://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2352994>
【文献】 Journal of Controlled Release,2005年,Vol.107, No.2,pp.330-342
【文献】 Transfusion Medicine,2012年,Vol.22, No.6,pp.440-445
【文献】 Journal of Controlled Release,2012年,Vol.157, No.1,pp.29-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 38/00−38/58
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 小板及び/又は成長因子が強化された初期ヒト血液組成物を用意する工程;
b) 該初期ヒト血液組成物を、7085℃の温度で少なくとも1分間加熱する工程;
c) 該加熱された初期ヒト血液組成物を、少なくとも1分間冷却して、血小板及び/又は成長因子が強化されたゲル化ヒト血液組成物を産出する工程:
を含む、血小板及び/又は成長因子が強化されたゲル化ヒト血液組成物を含有する製剤を製造する方法であって、
該製剤が、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び/又はストロンチウム塩の群から選択される1以上の無機成分を含む、上記方法
【請求項2】
該初期ヒト血液組成物は血小板強化血漿である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
該初期ヒト血液組成物は血小板強化血漿の上清である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
該初期ヒト血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
該初期ヒト血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿の上清である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
該初期ヒト血液組成物はまたフィブリンゲルであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
該初期ヒト血液組成物は血小板を含み、及び該方法は、加熱の前に、血小板を活性化し、暫定的フィブリンが形成されるまで待つ工程を含むことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板に及び/又は成長因子が強化された初期血液組成物から得られる、望ましい生物学的又は医学的性質を有する製剤に関する。本発明はまた、前記製剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術はヒト又は動物血液から組成物を製造する方法を記載しており、該方法において、該血液は有用な生物学的及び医学的性質を示す血小板強化血漿(PRP)及び/又は成長因子強化血漿(PRGF)を得られるような方法で処理される。前記PRP又はPRGFは、例えば、細胞培養液のようなex vivo適用、及び、例えば、患者における骨再生工程の実施又は浸潤による関節痛に苦しむ患者の治療のようなin vivoにおいて成功のうちに用いられている。前記組成物が患者を治療するためのin vivoにおいて使用される場合では、PRP及びPRGF製剤を製造するための技術は、自己組成物、すなわち、患者自身の血液から得られた組成物の製造について開発された。このようなタイプの組成物及び製造方法の例はUS6569204及びES2221770特許において記載されている。
【0003】
近年、技術はまた、血小板及び/又は成長因子強化組成物をガレヌス組成物又は医薬製剤の形態で得られるように保証することを目標として発展してきた。ガレヌス組成物又は医薬製剤は、化学的又は生物的起源(PRP又はPRGF中のタンパク質の場合)であろうと、医薬又は主要活性化物質がその投与を促進するために適合させた適合供給体として理解される。医薬のガレヌス組成物又は医薬製剤は、用量及び組織への医薬の分子経路を調節するので、医薬の有効性及び安全性を決定するのに最も重要である。更に、医薬のガレヌス組成物又は医薬製剤は、該医薬の製造、その用量及びその投与が知られ、調節され、並びに比較的容易に、かつ繰り返して実施されうることを保証する決定因子である。すなわち、ガレヌス組成物又は医薬製剤は、扱い、保存、輸送、投与、及び総括すると、治療目的で使用される任意の医薬又は物質の性質を促進することを探求する。
【0004】
最も広範に適用されるPRP又はPRGF医薬製剤の一つは、フィブリンゲル又はフィブリンメッシュとして知られており、ある適用において非常に有用な半固体コンシステンシーを有する製剤である。フィブリンゲル又はメッシュの製造工程は、一般的にPRP又はPRGFが適用可能な方法(例えば、患者から抽出した血液を、血液が様々な分画に分離するまで遠心分離し、最上の分画(すなわち、血小板強化血漿(PRP)又は成長因子強化血漿(PRGF)の分画)を抽出する)によって得られる第1のフェーズにより開始される。次に、例えば、塩化カルシウムの添加などによって、PRP又はPRGFに含まれる血小板を活性化(活性化とは、血小板がその内部に含まれるある成長因子を放出することを引き起こす作用として理解される)する。該活性の結果として、及び十分な時間経過を可能にすることを条件として、血漿に含有されるフィブリノゲン由来のフィブリンの重合が最終的に起こり、これにより、フィブリン塊(これはまた、その半固体コンシステンシー、生物学的スポンジのタイプとの類似によって、フィブリンゲル又はメッシュとして知られる)中に存在する最終化合物を生成する。これは、クエン酸ナトリウムなどの抗凝固剤によって改変された血液から得られるフィブリンゲルを得るために通常実施される工程である。該血液は、抗凝固剤と事前に混合されることにより、それなしで処理されうる。この場合、血液が遠心分離される時、血小板が赤血球細胞から分離され、フィブリンゲルは塩化カルシウム又は他の血小板活性化剤を添加する必要なく得られる。フィブリンゲル又はメッシュは、例えば、下記の適用において使用されうる:骨欠損を充填するための生物学的骨格の形成;成長因子の徐放のための創傷又は傷害への適用;幹細胞の培養のためのマトリックスとしての使用;封入欠損又は潰瘍のためのメンブレンとしての使用;及び細胞及び成長因子に加えて、その上で細胞が生育しうるマトリックス又は骨格を有することが特に重要である、ティシュエンジニアリングとして知られる組織の製造における使用。
【0005】
フィブリンゲル又はメッシュはいくつかの顕著な制限を有する。フィブリンゲル又はメッシュの主要な制限は、不安定性及び退縮傾向という事実である。結果として、フィブリンゲル又はメッシュは、経時で安定な容積を維持すること又は経時で安定な組織サポートを提供することができない。いくつかの適用においてはこの退縮傾向は望ましいものであるが、他においては望ましいものではない。例えば、サイナスフロアエレベーションとして知られる歯科外科手術において、骨欠損を再生するために使用されるバイオマテリアルは骨伝達特性を有する必要があり、しかし骨基質が形成されるまでの長期わたり物理的空間を維持できなければならない;さもなくば、該空間は崩壊し、歯槽骨の垂直再生に有害な影響を及ぼす。その他の例は、乳房除去(乳房切除術)の場合であり、乳房空間に充填されるのに使用されるバイオマテリアルやゲルが適切な機械的耐性を有しており、かつ前記空間が崩壊しないことを保証するために長期にわたって空間と容積を提供する必要がある。更なる例は、充填剤又は化粧充填剤(例えば、ヒアルロン酸)の場合であり、(容積を提供し維持する)充填物質は、くまやしわにおける容積を増加させ、これらの欠点を修正し、より若い外見を提供するために審美の分野において広く使用されている;充填剤や充填薬剤として作用するように設計されたいかなる薬剤も、組織の容積を維持することができるように、機械的に安定で、かつ圧力に耐性がなければならない。更に、フィブリンゲル又はメッシュの退縮傾向は、さらなる外用薬、薬品、タンパク質などの放出のための薬剤としてのゲル又はメッシュの使用を妨げるか、中止させることさえするものである。
【0006】
フィブリンゲル又はメッシュの更なる制限は、その通常の、半固体状態において、浸潤又はカニューレ処理されることができないことであり、これにより、皮膚上において、皮膚化粧品において、外傷学及び生物学又は医学などの他の分野において、充填剤として投与することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、血小板及び/又は成長因子が強化された初期血液組成物から得られ、退縮傾向がなく、従って長期にわたって安定な容積を維持することができる、望ましい生物学的又は医学的性質を有する製剤を提供することである。他の適用において、該製剤は、安定な組成物が要求されるようなある適用において、フィブリンゲル又はメッシュの代替手段を提供するために望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は望ましい生物学的又は医学的性質を有する製剤に関連し、該製剤は、血小板及び/又は成長因子が強化された(ヒト又は動物由来;自己的な、同種の又は異種の)初期血液組成物を含む又は該初期血液組成物由来であり、並びに該初期血液組成物に由来するタンパク質を含む。該製剤は、前記タンパク質が熱的加熱及び冷却処理の結果によりゲル化状態にあるという独特な特徴を示す。特に、ゲル化タンパク質は、好ましくはアルブミン、糖タンパク質、グロブリン及び/又はフィブリノゲンである。本願発明の製剤は、ゲル化状態の該タンパク質によって提供されるゲル様コンシステンシーを示すために、(フィブリンゲルを称呼するのに使用されたのと類似の用語法を用いて)「タンパク質ゲル」として記載されうる。該製剤は変形可能である。該組成物は、他の充填剤ゲル、他の血小板及び/又は成長因子強化血液組成物、及び当該分野で周知の他の類似組成物と比較して、新しい形態学的及び生物機械的形状を示す。
【0009】
前述の製剤を製造するための方法も提案され、該方法は:基礎製剤は変更することができ、血小板及び/又は成長因子が強化された初期血液組成物を得る工程と、60℃〜100℃の温度で少なくとも1分間、該初期血液組成物を加熱する工程と;少なくとも1分間該初期血液組成物を冷却する工程を含む。本発明に係る方法は、加熱連続とみなされるものであり、血小板及び/又は成長因子が強化された血液組成物に容積と堅さを提供し、該初期血液組成物に含まれるあるタンパク質のゲル化状態のためにゲルのコンシステンシーを有するタンパク質ゲル又は製剤を生成する。
【0010】
本願発明に係る製剤は、生物適合性、生分解性及び血小板及び成長因子の存在により提供される望ましい生物学的又は医学的性質を示す。加えて、これは、該初期血液組成物に含まれるあるタンパク質のゲル化状態に起因する密度の高い又は粘度の高いコンシステンシーも有し、前記密度の高い又は粘度の高いコンシステンシーは長期にわたり安定である。従って、本願発明に係る製剤は、該製剤が退縮せず、従って物理的空間が充填されたままであることを可能にするため、フィブリンゲル又はメッシュの有利な代替物となる。加えて、該製剤は、(充填剤又は充填薬剤として一般に使用されている)ヒアルロン酸と類似かより良い、圧力に対する良好な耐性を提供し、組織が発揮しうる耐性に満足に対抗する。結果として、該製剤は充填剤又は充填薬剤として使用するのに非常に適している。更に、フィブリンメッシュ及び本発明の製剤が両方とも本来的に半固体である場合であっても、後者のみが変形可能であるという事実のために、浸潤又は注入することができる。該製剤の追加の有利な点は、乾燥させ、のちに再水和させることができることである。
なお、下記[1]から[21]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
望ましい生物学的又は医学的性質を有する製剤であって、ヒト又は動物起源の初期血液組成物を含む又は該初期血液組成物由来であることを特徴とし、血小板及び/又は成長因子が強化され、並びに該初期血液組成物に由来するタンパク質が強化され、前記タンパク質はゲル化状態である、製剤。
[2]
該タンパク質は、アルブミン、糖タンパク質、グロブリン及び/又はフィブリノゲンであることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[3]
該タンパク質は、加熱及び冷却処理の結果によりゲル化状態にあることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[4]
該初期血液組成物は血小板強化血漿であることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[5]
該初期血液組成物は血小板強化血漿から得られた上清であることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[6]
該初期血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿であることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[7]
該初期血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿から得られた上清であることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[8]
該初期血液組成物はフィブリンゲルであることを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[9]
タンパク質、ペプチド、核酸、多糖、脂質、非タンパク質有機物質及び無機物質から選択される1以上の生物活性剤を含むことを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[10]
ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸、デキストラン、シリカゲル、アルギネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キチン誘導体−好ましくはキトサン−、キサンチンガム、アガロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、合成又は天然タンパク質、コラーゲンから選択される、1以上の生分解性ポリマーを含むことを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[11]
ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリラクチド及びこれらのコポリマーにより形成された群から選択される、1以上の有機ポリマーを含むことを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[12]
下記の薬剤:抗生物質、抗菌剤、抗カルシノーゲン、鎮痛剤、成長因子及びホルモン、の1以上を含むことを特徴とする、[1]に記載の製剤。
[13]
カルシウム塩、マグネシウム塩、及び/又はストロンチウム塩の群から選択される1以上の無機成分を含むことを特徴とする、[1]に記載の薬剤。
[14]
a) ヒト又は動物起源の、血小板及び/又は成長因子が強化された初期血液組成物を用意する工程;
b) 該初期血液組成物を、60〜100℃の温度で少なくとも1分間加熱する工程;
c) 該初期血液組成物を、少なくとも1分間冷却する工程:
を含むことを特徴とする、望ましい生物学的又は医学的性質を有する製剤を製造する方法。
[15]
該初期血液組成物は70〜85℃の温度で加熱されることを特徴とする、[14]に記載の方法。
[16]
該初期血液組成物は血小板強化血漿である、[14]に記載の方法。
[17]
該初期血液組成物は血小板強化血漿の上清である、[14]に記載の方法。
[18]
該初期血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿である、[14]に記載の方法。
[19]
該初期血液組成物は放出された成長因子が強化された血漿の上清である、[14]に記載の方法。
[20]
該初期組成物はまたフィブリンゲルであることを特徴とする、[14]に記載の方法。
[21]
該初期血液組成物は血小板を含み、及び該方法は、加熱の前に、血小板を活性化し、暫定的フィブリンが形成されるまで待つ工程を含むことを特徴とする、[14]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の詳細は添付された非限定図に記載されている。
図1図1は、本発明による代表的な製剤の2つの電子顕微鏡イメージを示す。
図2図2は、本発明によるその他の代表的な製剤の2つの電子顕微鏡イメージを示す。
図3図3は、異なる温度及び時間で処理されたフィブリン塊から製造された、本発明による様々な製剤の膨張因子を示す。
図4図4は、異なる温度及び時間で処理した上清から製造された、本発明による様々な製剤の膨張因子を示す。
図5図5は、MG63骨芽細胞様細胞株によって試験された、本発明による様々な製剤の細胞適合性結果を示す。
図6図6は、MG63骨芽細胞様細胞株によって試験された、本発明による様々な製剤の他の細胞適合性結果を示す。
図7図7及び8は、本発明による12の製剤における血小板由来成長因子(PDGF−AB)及びベータ形質転換成長因子(TGF−β)中の内容物をそれぞれ示す。
図8図7及び8は、本発明による12の製剤における血小板由来成長因子(PDGF−AB)及びベータ形質転換成長因子(TGF−β)中の内容物をそれぞれ示す。
図9図9は、異なる期間でインキュベートされた4つの本発明に係る製剤におけるPDGF−AB成長因子の放出動態を示す。
図10図10は、2日間インキュベートされた、本発明に係る4つの製剤におけるTGF−β成長因子の放出動態を示す。
図11図11は、本発明に係る4つの製剤の試料を注入された実験ラットの背中の写真を示す。
図12図12は、前の図の試験に関連するグラフであり、注入から2週間後に測定された、皮内レベルでの製剤注入後の半楕円の容積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
フィブリンゲル及びメッシュの安定性の欠如に関連する、先行技術における現存の問題を解決するために、望ましい生物学的又は医学的性質を有し、長期にわたって強化された安定性を有する代替的製剤が提案された。製剤は、初期血液組成物を含むか、初期血液組成物由来である。血液製剤は、血小板及び/又は成長因子が強化され、様々なタンパク質も含む。従って、該製剤もまた、血小板及び/又は成長因子が強化され、様々なタンパク質を含む。前記タンパク質中、ゲル化状態にある、あるタンパク質が存在し、すなわちこれらは変性しており、好ましくは熱的加熱及び冷却処理により、組織化されたタンパク質ネットワークを形成している。ゲル化状態のタンパク質は、好ましくはアルブミン、糖タンパク質、グロブリン及び/又はフィブリノゲンである。本願発明によるタンパク質ゲルは退縮しないことが証明されており、フィブリンネットワークのみによる他のゲルとは異なり、容易にカニューレ又は浸潤処理され、容積及び空間を維持することができる。
【0013】
初期血液組成物は、例えば、高い血小板濃度の血漿である、血小板強化血漿であってよい。前記血漿は、一般的に、(血液を、赤血球細胞を含む分画、白血球細胞を含む分画及び血小板強化血漿(PRP)を含む分画に分離するために)血液遠心分離技術手段によって得られ、その後、血小板強化血漿(PRP)の全部又は一部の分画を分離する工程が続く。
【0014】
初期血液組成物は、血小板強化血漿(PRP)の上清であってもよい。該上清は、血小板強化血漿(PRP)の凝固及びその後の退縮が起こるときの塊上に現れる実質的な液体である。
【0015】
初期血液組成物は、放出された成長因子(PRGF)が強化された血漿、すなわち、血小板がその内部においてある成長因子を放出した結果、(例えば、塩化カルシウム、トロンビン、塩化カルシウム及びトロンビンの組み合わせ、グルコン酸ナトリウム、コラーゲン、又は血小板の活性化によって及びフィブリン形成の誘導によって作用する任意の他の薬剤によって)活性化された血小板強化血漿であってよい。
【0016】
同様に、初期血液組成物は、放出された成長因子(PRGF)が強化された血漿の上清であってよく、すなわち、凝固の後、(例えば、塩化カルシウム、トロンビン、塩化カルシウム及びトロンビンの組み合わせ、グルコン酸ナトリウム、コラーゲン、又は血小板の活性化によって及びフィブリン形成の誘導によって作用する任意の他の薬剤によって)以前に活性化された血小板強化血漿の引き続く退縮によって得られた上清である。活性化は、血小板内部のある成長因子の放出を引き起こす。
【0017】
初期血液組成物は白血球を含んでも含まなくてもよい。
【0018】
初期血液組成物はまた、抗凝固剤によって改変されていない血液を処理して直接得られたフィブリンゲルであってもよい。
【0019】
望ましい生物学的及び医学的性質を有する製剤を製造する方法も提案され、前記方法は、
a)好ましくは、白血球含むか含まない血小板強化血漿、白血球を含むか含まない成長因子強化血漿、白血球を含むか含まない血小板強化血漿の上清、白血球を含むか含まない成長因子強化血漿の上清、又は抗凝固剤によって改変されていない血液から得られたフィブリンゲルである、初期血液組成物を用意する工程と;
b)血液組成物が血小板を有する場合、任意で、塩化カルシウム、トロンビン、グルコン酸カルシウム、コラーゲン、又はその他の活性化剤、又はこれらの組み合わせによって血小板を活性化し、暫定的なフィブリンが形成されるまで待つ工程と;
c)少なくとも1分間60℃〜100℃の温度で初期血液組成物を加熱する工程と;
d)少なくとも1分間初期血液組成物を冷却するかテンパリングする工程
を含む。
【0020】
前述の方法は、初期血液組成物に対して熱的ショックを与え、ヒト血漿中のいくつかのタンパク質のタンパク質ゲル化を誘発する結果を招く;これらのタンパク質は、アルブミン、糖タンパク質、グロブミン及び/又はフィブリノゲンである。本発明の目的のために、「ゲル化」という名前は、分子が経験し、これらが重合するか一緒になって組織化したタンパク質ネットワークを形成する方法に付与される。要するに、熱的ショック方法の結果として、初期血液組成物、ゲル化又はタンパク質重合の共通点に依存して、新しい生物適合性及び生分解性製剤が創造された。
【0021】
加えて、本発明による製剤は、ゲル化タンパク質を提供し、初期血液組成物中の成長因子レベルを主に維持する。言い換えれば、熱的ショックは前記初期血液組成物中の成長因子の大量破壊の原因とはならない。
【0022】
好ましくは、初期血液組成物は、70℃〜85℃の温度で加熱される。
【0023】
血小板及び成長因子が強化された初期血液組成物は、ヒト又は動物起源である。これはまた、自己的(最終製剤によって後のステージにおいて治療される患者に属する)、同種(最終製剤で治療されるか処理される患者、患者、細胞又はその他の生物学的実体と同じ種のメンバーに属する)又は異種(最終製剤によって治療されるか処理される患者、患者、細胞又はその他の生物学的実体と異なる種のメンバーに属する)であってよい。
【0024】
本発明は、初期血液組成物が、請求項に記載された熱処理の前に添加される任意で1以上の追加の物質を検討する。前記追加の物質は:
−タンパク質、ペプチド、核酸、多糖、脂質、非タンパク質有機物質及び無機物質から選択される、1以上の生物活性剤;
−ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸、デキストラン、シリカゲル、アルギネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キチン誘導体−好ましくはキトサン−、キサンチンガム、アガロース、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、合成又は天然タンパク質及びコラーゲンから選択される、1以上の生分解性ポリマー;
−ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリラクチド及びこれらのコポリマーにより形成された群から選択される、1以上の有機ポリマー;
−1以上の下記薬剤:抗生物質、抗菌剤、抗カルシノーゲン、鎮痛剤、成長因子、ホルモン;
−カルシウム塩、マグネシウム塩及び/又はストロンチウム塩の群から選択される1以上の無機成分であってよい。
【0025】
本発明はまた、熱処理が実施された後に、任意の前述の物質が製剤に添加されうることを検討する。
【0026】
本発明による製剤は、請求項に記載された技術的側面に追加して、様々な実施態様を示すことができ、該製剤は、製剤が使用される特定の適用に適した、さらなる化合物、成分及び分子などを含むことができる。すなわち、本発明はタンパク質ゲルに基づいた新しい製剤のファミリーとみなされ、前記ファミリーは、ゲル化タンパク質が存在し、これらの追加の組成物とは異なってもよい異なる製剤によって形成される。
【0027】
更に、製剤をより多用途にするための手段としての乾燥マトリックスを含む、ゲル化タンパク質を伴う製剤に対して、さらなる工程を実施してもよい。言い換えれば、本発明のゲル化タンパク質の製剤は、膜を形成するために、乾燥(乾燥加熱)又は凍結乾燥させてもよい。この膜は、生理食塩水、血小板強化血漿、血小板強化血漿の上清、成長因子強化血漿、成長因子強化血漿の上清、又は膜を水和することができる他の溶液を添加することなどの様々な手段によって、続いて再水和されてもよい。
【実施例】
【0028】
例1
方法は、クエン酸塩抗凝固剤を含まない密閉された封印チューブに保存された、患者から抽出された9mlの血液サンプルにより開始される。血液は、580gのスピードで8分間及び周囲温度で遠心分離される。遠心分離の結果として、チューブに含まれた血液は、様々な分画に分けられる。白血球を含む、一番上の分画、又は血小板強化血漿(PRP)の分画は、5ml注射器に抜き取られる。初期のチューブはクエン酸塩の添加がされていなかったので、PRPは凝固し始める。注射器の内容物は、70℃で10分間加熱される。容器は次に4℃で2分間冷却される。この熱的加熱−冷却連続の結果として、注射器の中でゲルのコンシステンシーを持つ半固体物質が形成される。このようにして活性化製剤が得られ、該活性化製剤は(凝固により発生したフィブリン及び熱処理により生成されたタンパク質のゲル化の両者の結果として)ゲル様コンシステンシーを示し、クエン酸塩及びカルシウムを有さない。フィブリンの存在は、製剤により大きいコンシステンシーと耐性を提供する一方、ゲル化タンパク質は、一定の安定性と容積を提供する。その性質及び機械的耐性により、このタイプの物質は、例えば、顔組織の垂直的欠陥を修正することにおいて有益でありうる。
【0029】
例2
方法は、0.1mlの3.8%クエン酸塩抗凝固剤を含む堅く封印された抽出チューブに保存された、患者から抽出された9mlの血液サンプルにより開始される。血液は、580gのスピードで8分間及び周囲温度で遠心分離される。遠心分離の結果として、チューブに含まれている血液は、様々な分画に分けられる。一番上の分画、又は血小板強化血漿(PRP)の分画は、白血球を含まないで5ml注射器に抜き取られる。注射器は80℃で3分間加熱される。注射器は次に20℃で10分間冷却される。この熱的加熱−冷却連続の結果として、第2の容器中で半固体物質が形成される。物質は、ゲル様コンシステンシーを有し、その血小板はまだ活性化される必要がある。事前に凝固していなかったので、物質はフィブリンを含んでいない。このタイプの物質は、しわの存在を除去するか減少させることによってより若々しい外見を達成するために美容手術の充填剤として使用されてもよい;物質は(25Gより小さいか同等の針を使用して)注入可能な能力及びそのコンシステンシーのおかげで、皮膚をリフティングすることができる。このバイオ−ゲルは、長期間安定であり、またヒアルロン酸などの従来の物質と比較して非常に有利とする、細胞成長及び増殖を刺激する成長因子も放出する。現時点において充填物質として最も広く使用されているヒアルロン酸は、生物活性を欠き、従って、組織の形成を促進せず又は長期持続する改善を達成できない。このことは、一般的に3、4か月毎である定期的投与の必要性を意味する。
【0030】
例3
方法は、9mlの血液サンプルを患者から抽出すること、及び0.1mlの3.8%クエン酸塩抗凝固剤を含む堅く封印された抽出チューブに保存することから開始される。血液は、580gのスピードで8分間及び周囲温度で遠心分離される。遠心分離の結果として、チューブに含まれている血液は、様々な分画に分けられる。一番上の分画、又は血小板強化血漿(PRP)の分画は、白血球を含まないで、5ml注射器に抜き取られる。次に、10%塩化カルシウムを、各血漿1mlに対して50μlの比で添加し、血小板の活性化、すなわち、成長因子の放出、及び血漿の凝固を引き起こす。注射器は75℃で5分間加熱される。次に、注射器は周囲温度で10分間冷却される。この熱的加熱−冷却連続の結果として、注射器の内部に半固体物質が形成する。物質は、凝固のために発生したフィブリン及び熱処理によって生成されたタンパク質のゲル化の両者の結果として、ゲル様コンシステンシーを有する。物質は、クエン酸塩、カルシウム及び放出された成長因子を含む。このタイプの物質は、歯槽の再生を促進するために、(歯断片の抽出に続く残された歯槽などの)骨欠損を埋めるのに使用することができる。細胞成長のサポートとして作動する、成長因子の放出及びゲルの能力のため、ゲルは骨組織を伴う歯槽を満たすことを促進し、これにより、例えば、抜歯された歯の置換における歯槽の歯科インプラントなどの、更なる調整のための待機時間を短縮する。
【0031】
例4
方法は、9mlの血液サンプルを患者から抽出すること、及び0.1mlの抗凝固剤として作動する3.8%(重量/容積)クエン酸塩溶液を含む堅く封印された抽出チューブに保存することから開始される。血液は、580gのスピードで8分間及び周囲温度で遠心分離される。遠心分離の結果として、チューブに含まれている血液は、様々な分画に分けられる。一番上の分画、又は血小板強化血漿(PRP)の分画は、白血球を含まないで、9ml分留チューブに抜き取られる。塩化カルシウム溶液(10%重量/容積濃度)は、各血漿1mlに対して50μlの比で添加する。次に、チューブは、37℃のオーブンに入れられる。塩化カルシウムは、血小板の活性化(成長因子放出)、血漿の凝固、フィブリンの形成を引き起こし、前記形成は、オーブン温度条件にチューブが置かれるという事実により加速される。塊退縮の結果として、次に2つの相が得られる:三次元フィブリン構造である固相、並びにタンパク質、血小板成長因子及び血漿成長因子を含む液上清相である。液相又は上清は、3ml注射器に分けられる。注射器は、次に80℃で10分間加熱される。注射器は次に、22℃で5分間冷却される。この熱的加熱−冷却連続の結果として、注射器の中で半固体物質が形成される。この半固体物質は、本発明による製剤と比べてより少ない固体コンシステンシーを有し、フィブリンを含有する。このより少ない固体コンシステンシーのために、このタイプの物質は、例えば、歯牙周囲組織の再生を促進するために、歯牙周囲の骨内欠陥を充填するために有益でありうる。これはまた、物質の骨膜下又は滑膜上浸潤の実施による骨再生に有益でありうる。
【0032】
例5
その他の例では、方法は、フィブリン塊(物質は、血小板強化血漿を得るために580gのスピード及び20℃の温度で血液を遠心分離した後に、各1ml血漿に対して50μlの比で塩化カルシウムを添加し、フィブリンが重合するまで10〜20分間待つことによって製造された)で開始された。塊は、70℃で10分間加熱され、次に20℃で10分間冷却され、このようにしてタンパク質ゲルが得られた。図1は、前述のタンパク質ゲルの2つの電子顕微鏡イメージを示す。左のイメージは、変性されたアルブミンを表す丸い構造及びフィブリンのファイバーである直鎖構造の存在を示す。右のイメージはゲルの密集した(外)表面を示す。
【0033】
例6
その他の例では、方法は、成長因子強化血漿(血液は、様々な分画を得るために、580gのスピード及び20℃の温度で遠心分離した後に、血小板強化血漿(PRP)の分画を分離し、成長因子を放出させ血漿の凝固を開始させるために、各1ml血漿に対して50μlの比で塩化カルシウムを添加して製造された)で開始された。塊の退縮は、上清の取得を可能にする。次に、前記上清は70℃で10分間加熱され、次に20℃で10分間冷却され、タンパク質ゲルが得られた。図2は、前述のタンパク質ゲルの2つの電子顕微鏡的イメージを示す。左のイメージは、ゲルの内部及び変性されたアルブミンを表す丸い構造の存在を示す。右のイメージはゲルの密集した(外)表面を示す。
【0034】
例7
その他の例では、(例5で記載されたとおりに製造された)フィブリン塊を異なる温度及び時間にさらすことによって様々なタンパク質ゲルを製造した。製造条件は、下記のとおりである:塊を70℃で15分間(四角)加熱し、塊を70℃で30分間(丸)加熱し、塊を80℃で15分間(三角)加熱する;これらすべてを4℃で10分間冷却する。これらのゲルは、蒸留水中においてインキュベートする前に、37℃で24時間乾燥された。ゲルは(膨張重量/初期重量として定義される)膨張の程度を計算するために、24時間ごとに重量を計測された。図3は、異なる温度及び時間で製造されたタンパク質ゲルの膨張の程度を示す。ご覧のとおり、ゲルは、水の吸収及び構造中でのその保持によって、初期重量の2及び3倍に増加している。70℃15分間(四角)で製造されたゲルは、24時間で膨張し、その膨張因子はより長いインキュベーション時間によって顕著に変化しないこともわかる。しかしながら、70℃30分間(丸)で製造されたゲルは、24時間後に初期重量の約3倍に膨張しているが、インキュベーション時間が長くなると幾分膨張因子が落ちることが観察される。一方、80℃15分間(三角)で製造されたゲルは、先の2つより最高膨張に達するまでより長い時間がかかり、具体的には48時間である。いずれにしても、ゲルの膨張性は、例えば、生物活性物質(タンパク質又は主要活性化物質)の局所放出のためのマトリックスとして使用されうることを意味する。この使用は、脱水ゲル上の前記生物活性物質を含む溶液を適用することによって通常実施され、これによって、ゲルの水和が起こり、よって生物活性物質の取り込みが起こる。
【0035】
例8
その他の例では、(例6のとおりに製造された)上清を異なる温度及び時間にさらすことによって様々なタンパク質ゲルを製造した。製造条件は、下記のとおりである:上清を70℃で15分間(四角)加熱し、上清を70℃で30分間(丸)加熱し、上清を80℃で15分間(三角)加熱する;これらすべてを4℃で10分間冷却する。これらのゲルは、蒸留水中においてインキュベートする前に、37℃で24時間乾燥された。ゲルは(膨張重量/初期重量として定義される)膨張の程度を計算するために、24時間ごとに重量を計測された。初期重量は水中でのインキュベーション前の乾燥ゲルの重量である。図4は、異なる温度及び時間で製造されたタンパク質ゲルの膨張の程度を示す。ご覧のとおり、ゲルは、水の吸収及び構造中でのその保持によって、初期重量の約3倍に増加した。70℃15分間(四角)で製造されたゲルは、24時間で膨張し、その膨張因子はより長いインキュベーション時間によって顕著に変化しないこともわかる。対照的に、70℃30分間(丸)で製造されたゲルは、48時間後に初期重量の3倍に膨張しているが、インキュベーション時間が長くなると幾分膨張因子が落ちることが観察される。一方、80℃15分間(三角)で製造されたゲルは、24時間インキュベーション後に、前記膨張因子がおおよそ3と等しくなる。いずれにしても、ゲルの膨張性は、例えば、生物活性物質(タンパク質又は主要活性化物質)の局所放出のためのマトリックスとして使用されうることを意味する。この使用は、脱水ゲル上の前記生物活性物質を含む溶液を適用することによって通常実施され、これによって、ゲルの水和が起こり、よってその内部への生物活性物質の取り込みが起こる。
【0036】
例9
その他の例では、上清(この例の最後におけるグラフで「SN」と示される)、フィブリン塊(「フィブリン」)、非−活性化血小板強化血漿(「非−活性化」)及び凝固せずに10%CaCl2により活性化された血小板強化血漿(「活性化−凝固なし」)から、本発明に従って4つのタンパク質ゲル又は製剤が製造され、及び前述の初期物質を、70℃15分間での物質の加熱処理及び21℃10分間での物質の冷却からなる熱処理を実施した。これらの初期物質の製造方法は、例2、3及び6において説明されている。熱処理後に得られたこれらの4つの各製剤は、ウシ胎児血清を含まないダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において48時間インキュベートされた。加えて、該方法は、ウシ胎児血清を含まないDMEMからなる、第5の物質又は対照物質を分けた。この5つの培地は、MG63細胞を培養するために使用され、2(四角)、4(丸)及び7(三角)日毎に新しくされた。これらの各期間後、細胞増殖は、比色試薬WST−1及びプレートリーダーを使用して評価された。増殖のパーセントは、下記の関数を用いて計算された:増殖%=(WST−1のゲル吸収/WST−1の対照物質吸収)×100。図5は、MG63骨芽細胞様細胞株によって試験されたタンパク質ゲルの細胞適合性結果を示す。ご覧のとおり、対照試料に関する細胞増殖の増加によって示されるように、ゲルは非毒性である。増殖の2日後(四角)、非活性化血小板強化血漿から製造されたゲルはより多くの細胞増殖という結果を得た。しかしながら、これらの相違は、より長い増殖時間を生じるものではない(丸、三角)。従って、この例は、本発明による製剤が細胞成長への刺激に対する適切な挙動及び生物適合性を示し、製剤を臨床使用の為に開発することができることを証明した。
【0037】
例10
先行する例に記載されているとおり、4つのタンパク質ゲル又は製剤は:上清(四角)、フィブリン塊(丸)、非活性化血小板強化血漿(中央頂点が上部を指している三角)及び凝固せずに10%CaCl2によって活性化された血小板強化血漿(中央頂点が下部を指している三角)から、本発明に従って製造された。すべての物質は、70℃15分間での物質の加熱及び21℃10分間での物質の冷却からなる熱処理を実施した。これらの初期物質の製造方法は、例2、3及び6において説明されている。得られた4つの製剤は、培地中で2、4、7及び9日間インキュベートされた。各期間の終わりに、培地は集められ、ゲルに新しい培地が添加された。集められた培地はMG63細胞を培養するための用途のために保存された。細胞は、この培地中において48時間成長させることが可能である。次に細胞増殖は、比色試薬WST−1及びプレートリーダーを使用して評価された。増殖のパーセントは、下記の関数を用いて計算された:増殖%=(WST−1のゲル吸収/WST−1の対照物質吸収)×100、ここで血清を含まないDMEMは対照物質として使用された。図6は、培地中の及び各インキュベーション時間間隔における細胞増殖を示す。ご覧のとおり、インキュベーションの2日後により多くの細胞増殖が達成された。より長いインキュベーション時間では、培地はより少ない細胞増殖を促進し、このことは、成長因子の放出はインキュベーション2日後に大きくなり、成長因子のこの内容はより長いインキュベーション時間(4、7及び9日)で培地中でより少なくなったことを示唆しているようである。従って、これらの結果は、ゲル中の細胞増殖刺激物質の放出が、時間の経過に伴って減少し、インキュベーションの最初の数時間で生物活性物質の多くの量を放出し(「バースト」効果)、時間経過に伴って放出量は顕著に減少するという特徴を有する、他のタイプのゲルに類似する放出プロフィールに従うということを示す。
【0038】
例11
その他の例では、2つの初期物質により方法が開始した。第1の物質は、(例6のように)各1ml血漿に対して50μlの比の塩化カルシウムによる血小板強化血漿の活性化後に得られたフィブリンゲルであった。第2の物質は、(例6のように)フィブリン塊の退縮後に得られた上清であった。両物質は、70℃15分間での加熱、70℃30分間での加熱及び80℃15分間での加熱という3つの異なる加熱処理を受けさせた。すべての場合で、加熱には4℃又は20℃の温度で10分間での冷却が続いた。12のタンパク質ゲルが得られた。次に12のゲルは14,800rpmで20分間遠心分離された。次に、血小板由来成長因子(PDGF−AB)及びβ−形質転換成長因子(TGF−β)が測定された。これらの測定の結果は図7及び8に示され、12のゲルは2つの6グループに示され、これらのグループは、「1」(70℃、15分間のフィブリンゲル)、「2」(70℃、30分間のフィブリンゲル)、「3」(80℃、15分間のフィブリンゲル)、「4」(70℃、15分間の上清ゲル)、「5」(70℃、30分間の上清ゲル)及び「6」(80℃、15分間の上清のゲル、並びに各グループにおいて、4℃で冷却されたゲルは黒棒で、20℃で冷却されたゲルは白棒で示されている。図7は、観察されたPDGF−AB成長因子の内容物を示している。この成長因子の内容物は一般的に、4℃で冷却されたゲル(黒棒)より20℃で冷却されたゲル(白棒)において多かったが、但し、冷却温度に依存したPDGF−ABの内容物に差異がほとんど観察されなかった、70℃30分間で製造された上清ゲル(「5」)及び80℃で製造された上清ゲル(「6」)は例外である。図8は、観察されたTGF−β成長因子の内容物を示している。フィブリン(グループ「1」、「2」、「3」)から製造されたゲルに関して、20℃での冷却を実施した場合(白棒)、この3つのグループにおいてTGF−βの内容物は類似していると結論付けることができる。すなわち、ゲルを製造する異なる熱処理に関して、4℃で冷却を実施するところ(黒棒)、TGF−β因子の内容物は、70℃15分間(グループ「1」)で製造したゲルにおいて多い。対照的に、上清から製造したゲル(グループ「4」、「5」、「6」)に関して、70℃15分間での上清から製造したタンパク質ゲル(グループ「1」)のみがTGF−βを放出したことが把握でき、上清から製造された他のゲルにおいては前記因子は検出されなかった。従って、70℃を超える温度において、フィブリンゲルは、上清より、より高い成長因子内容物を維持し、よって加熱温度及び冷却温度はこの成長因子内容物に影響を与え、内容物はより低い加熱温度及び21℃での冷却温度でより多くなると結論付けることができる。また、高い温度においては、TGF−βよりPDGF−ABの方がより安定であり、フィブリンに基づくタンパク質ゲルは上清に基づくタンパク質ゲルより多量のTGF−βを含むと結論付けることができる。
【0039】
例12
その他の例では、下記の初期物質を70℃15分間での加熱及び21℃10分間での冷却からなる熱処理を適用することによって、本発明による4つのタンパク質ゲル又は製剤が製造された:上清(SN)、フィブリン塊(「フィブリン」)、非−活性化血小板強化血漿(「非−活性化」)及び凝固せずに10%CaCl2により活性化された血小板強化血漿(「活性化−凝固なし」)。これらの初期物質の製造は、例2、3及び6において説明されている。4つのタンパク質ゲルは、DMEM中で異なる期間(2、4及び7日間)インキュベートされた。各インキュベーション時間において、4つのタンパク質ゲルのこれらの成長因子の放出動態を決定する目的でPDGF−AB及びTGF−β内容物を測定するために培地時間を抽出した。図9は、黒、白、及びストライプ棒によって示された2、4及び7日間のインキュベーション時間に対応する測定として、DMEM培地中のPDGF−ABの放出動態を示す。PDGF−ABの放出は、上清から製造されたタンパク質ゲルの2及び4日間のインキュベーションにおいてより多いことがわかる。他のゲルは、この3つのインキュベーション時間の間に顕著な差異は示さない。次に、図10は、インキュベーションの2日後のDMEM培地中のTGF−βの放出動態を示す。この因子は上清及びフィブリンから製造されたタンパク質ゲルのみにおいて存在し、上清から製造されたタンパク質ゲルからのTGF−βの放出がより多いことがわかる。従って、上清に基づくタンパク質ゲルからより迅速に成長因子が放出されると結論付けることができる。
【0040】
例13
その他の例では、本発明によるタンパク質ゲル又は製剤の充填効果が実験ラットによって試験された。この目的のために4つの発明に係る製剤が製造された。4つの製剤の製造は下記の工程により開始された。まず、抗凝固剤を含まない9mlチューブに患者からの血液を抽出した。次にチューブを850gで8分間遠心分離して赤血球細胞から血漿を分離した。血漿の全体カラムは、白血球を含まずに、赤血球細胞の上部に置かれ、次に新しい9mlチューブに抽出された。この血漿は下記を製造するために使用された:血漿液自身(B);血漿の活性化を起こして塊を形成させる目的のために、各1ml血漿に対して50μlの比で10%塩化カルシウムを添加した、フィブリン塊(C);前記と同じ特徴を有するフィブリン塊を製造し、37℃で60分間経過させフィブリンを退縮させて上清を得る目的のための、上清(A)。血液はまた、抗凝固剤としての0.1mlの3.8%クエン酸ナトリウムを含む9ml抽出チューブに患者から抽出された。該血液を850gで8分間遠心分離し、白血球血小板層のすぐ上部に2mlの血漿が得られ、フィブリン塊(D)を得るために各1ml血漿に対して50μlの比の10%塩化カルシウムによって活性化された。これらの4つの初期物質(A、B、C、D)は、ゲルを得るために70℃で10分間加熱し、20℃で10分間冷却した。各ゲル製剤0.6ml用量を各ラットに投与した。図11に示される写真は、その機械的性質の改善を示唆する、タンパク質ゲルによる容積増加の維持の形成を示す。
【0041】
加えて、(「PRGF−Endoret」と称呼される)成長因子強化血漿は、0.1mlの3.8%クエン酸ナトリウムを含む9mlチューブに血液を抽出し、該血液を850gで8分間遠心分離し、血小板強化血漿の分画(白血球を含まない、赤血球細胞分画のすぐ上の2ml血漿カラム)を分離することによって製造された。そして、ラットに注射する直前に、各1mlに対して50μlの塩化カルシウムを添加することによって(血小板の成長因子の放出を起こし)血漿を活性化させた。
【0042】
図12は、対照としてヒアルロン酸と上記のPRGF−Endoret成長因子強化血漿を使用した、ラットにおけるタンパク質ゲル注入2週間後の容積の変化を示す。タンパク質ゲルは、ヒアルロン酸としての半楕円の容積を維持するのに効果的である一方、PRGF−Endoret成長因子強化血漿は、半楕円の容積を維持するのに有用でないと結論付けることができる。
【0043】
試験において、本発明によるタンパク質ゲルの安定性とフィブリンゲルの安定性を比較する目的で、従来のフィブリンゲル(塊)を注入させる試みも行われたことを追記するべきである。結果は、(上清からフィブリンが分離し)相分離が起きたことにより、フィブリンゲルをそのように投与することができず、前記フィブリンゲルを注入することが不可能であった。
【0044】
例14
例2に記載されているとおり血小板強化血漿を製造する。次に、タイプ−Iコラーゲンが添加される。次に、混合物は75℃で10分間加熱され、続いて20℃で3分間冷却される。この製造の結果は、より高いコンシステンシーのタンパク質ゲルである。このタイプのゲルは、より高い安定性を示し、コラーゲンなしの場合より、より遅い崩壊速度を示すために、しわを治療するための充填剤として使用しうる。従って、この改変は、製剤の崩壊を更に遅延させる。臨床的には、この安定性の改善は、ゲルの第1及び第2の適用の期間を延長させる。このことは、3〜4か月毎の繰り返し投与、言い換えれば、短期間である、ヒアルロン酸によるしわの治療の欠点の解決を示す。
【0045】
例15
例2に記載されているとおり血小板強化血漿を製造する。次に、例えば、顆粒形態のリン酸カルシウムを添加する。次に、混合物は80℃で10分間加熱され、続いて20℃で3分間冷却される。この製造の結果により得られたハイブリッド物質は、リン酸カルシウムによって改変されていないゲルより、より良い機械的性質を示す。リン酸カルシウムによるゲルの改変は、圧縮及び引張力に対するゲルの耐性を増加する。このタイプの物質は、欠損中の1以上の壁の欠如により、より良い機械的安定性を有する充填物質を要する骨欠損の再生のために使用することができる。
【0046】
例16
本発明によるタンパク質ゲルが前述のいずれかの例に記載された製造方法を使用して製造される。次に、ゲルはハイブリッド物質を生成するためにヒアルロン酸と混合される。この物質は、適用領域においてその安定性を促進する、より良い粘弾性性質を示し、これにより、その移動を防ぐ。このハイブリッド物質は、水平骨成長を起こし、これにより歯槽突起の厚さを増加し、十分な骨被覆を伴った歯科インプラントの挿入を可能にする、狭歯槽突起の前庭壁などの表面に適用するのに有益である。
【0047】
例17
例8(プロテインゲルが記載されているあらゆる例は有効である)に記載されているとおりにゲルを製造及び乾燥した後、乾燥物質は、24時間、暗所において、ドキシサイクリンヒクラート抗生物質を15mg/mlの濃度で含む液体中でインキュベートする。結果は、適用領域において続いて起こる放出のための該抗生物質を含むゲル構造である、ゲルの膨張である。よって、より低い血液供給である、すなわち、骨領域の感染治療のための該抗生物質の調節された放出のためにこのゲルを使用することができ、かつ該抗生物質の全身投与を防ぐ。この手順は、その局所放出を保証するために、他の抗生物質、他の薬剤で繰り返すことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12