(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6466730
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
H01L 43/08 20060101AFI20190128BHJP
H01L 43/10 20060101ALI20190128BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
H01L43/08 D
H01L43/10
H01L43/08 Z
H01L43/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-24731(P2015-24731)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-149418(P2016-149418A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 文人
(72)【発明者】
【氏名】徳永 一郎
【審査官】
上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−163369(JP,A)
【文献】
特開2002−333468(JP,A)
【文献】
特開平03−014260(JP,A)
【文献】
特開2007−194322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/02,43/08,43/10,
21/3205,21/768,
23/522
G01R 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の複数の板面のうち少なくとも一つの板面に配置された磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子が配置された素子配置面に配置され、前記磁気抵抗効果素子に電気的に接続された第1電極および第2電極と、
前記基板の前記素子配置面の側に位置する有機保護層と、を有し、
前記素子配置面を平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間に、前記第1電極または前記第2電極に含まれる材料のエレクトロマイグレーションを阻害する阻害部を有し、
前記基板、前記磁気抵抗効果素子および前記有機保護層を含む面で断面視した場合の前記磁気抵抗効果素子と前記有機保護層との間に位置し、かつ、前記素子配置面を平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間に少なくとも一部が位置する無機保護層と、
前記基板、前記磁気抵抗効果素子、前記無機保護層、前記第1電極、前記第2電極および前記有機保護層の全体を覆うモールド樹脂と、をさらに有し、
前記阻害部が、前記無機保護層と接する前記モールド樹脂の一部である
磁気センサ。
【請求項2】
前記阻害部を構成する前記モールド樹脂が、平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間の全域または一部において前記無機保護層と接している
請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記阻害部を構成する前記モールド樹脂が、前記第1電極と前記無機保護層との接触部または前記第2電極と前記無機保護層との接触部で前記無機保護層と接している
請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記無機保護層の前記モールド樹脂との接触部が、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質からなり、
前記モールド樹脂が、エポキシ樹脂からなる
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記有機保護層および前記無機保護層が、透光性を有する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の磁気センサ。
【請求項6】
基板と、
前記基板の複数の板面のうち少なくとも一つの板面に配置された磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子が配置された素子配置面に配置され、前記磁気抵抗効果素子に電気的に接続された第1電極および第2電極と、
前記基板の前記素子配置面の側に位置する有機保護層と、を有し、
前記素子配置面を平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間に、前記第1電極または前記第2電極に含まれる材料のエレクトロマイグレーションを阻害する阻害部を有し、
前記第1電極または前記第2電極と前記有機保護層との接触を阻止する中間層をさらに有し、
前記阻害部が、平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極の間に位置する前記中間層であり、
前記中間層が、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質からなる
磁気センサ。
【請求項7】
前記第1電極または前記第2電極が、Au、AlおよびCuからなる群から選ばれる1種以上の原子を含む
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記有機保護層が、シリコン樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含む
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関し、特に、電極パッド間の信頼性の向上に適用して好適な磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、引用文献1には、電磁波ノイズの侵入防止、外的衝撃からの保護、防水性、防食性の確保を目的とした磁気センサが開示されている。引用文献1において、磁気センサが、基板と、基板表面に形成され、外部磁界に応じて抵抗値が変化する感磁素子を有する磁気回路部と、磁気回路部を被覆する第1の無機膜と、第1の無機膜を被覆する第1の有機樹脂層と、感磁領域に対して外部電磁波を遮断するように、第1の有機樹脂層の表面に形成された非磁性導電膜と、非磁性導電膜を被覆する第2の有機樹脂膜と、第2の有機樹脂膜の表面に形成された第2の無機膜とを備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−163369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気センサを、たとえば車載用途のような衝撃または振動が加わる環境下で用いようとすると、高い信頼性を確保するために、磁気抵抗効果素子等の感磁素子に加わる衝撃または振動を緩和する必要がある。衝撃緩和手段として、特許文献1に記載の磁気センサのように、感磁素子を柔軟な有機樹脂層で覆う手段が考えられる。しかし、本発明者らの実験検討によれば、感磁素子を単に有機樹脂層で覆うのみでは、以下に説明するような問題があることが判明した。
【0005】
すなわち、感磁素子を外部取り出し配線に接続するためには電極パッドが必要であり、当該電極パッドの形成に通常用いられるメッキ法を実施するには、感磁素子をシリコン酸化物等の無機物からなる無機保護層で覆う必要がある。よって、衝撃緩和のための有機樹脂層(有機保護層)は、当該無機保護層の上に形成されることになる。
【0006】
ところが、本発明者らの検討によると、上記無機保護層と有機保護層との接着性が良好でなく、基板(ダイチップ)の全体をエポキシ樹脂等モールド材で囲んだとしても、無機保護層と有機保護層との界面において水分によるリーク電流チャネルが形成され、当該リーク電流により、電極パッドを構成する金属のエレクトロマイグレーションが発生していることを本発明者らは認識した。エレクトロマイグレーションが発生すると、電極パッドを構成する金属のデンドライト(樹枝状結晶)が成長し、電極パッド間の絶縁性能を大きく低下させる恐れが生じる。つまり、無機保護層と有機保護層との接着性の劣化に起因して、磁気センサの信頼性を大きく低下させる可能性があることを本発明者らは認識した。
【0007】
本発明の目的は、感磁素子に対する耐衝撃性を確保しつつ、電極パッド間のエレクトロマイグレーションに起因する信頼性の低下を生じない磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、基板と、前記基板の複数の板面のうち少なくとも一つの板面に配置された磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子が配置された素子配置面に配置され、前記磁気抵抗効果素子に電気的に接続された第1電極および第2電極と、前記基板の前記素子配置面の側に位置する有機保護層と、を有し、前記素子配置面を平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間に、前記第1電極または前記第2電極に含まれる材料のエレクトロマイグレーションを阻害する阻害部を有する磁気センサを提供する。
【0009】
前記基板、前記磁気抵抗効果素子および前記有機保護層を含む面で断面視した場合の前記磁気抵抗効果素子と前記有機保護層との間に位置し、かつ、前記素子配置面を平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間に少なくとも一部が位置する無機保護層と、前記基板、前記磁気抵抗効果素子、前記無機保護層、前記第1電極、前記第2電極および前記有機保護層の全体を覆うモールド樹脂と、をさらに有してもよく、この場合、前記阻害部を、前記無機保護層と接する前記モールド樹脂の一部とすることができる。
【0010】
前記阻害部を、前記無機保護層と接する前記モールド樹脂の一部とする場合、たとえば、前記阻害部を構成する前記モールド樹脂が、平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極との間の全域または一部において前記無機保護層と接している場合を例示できる。あるいは、前記阻害部を構成する前記モールド樹脂が、前記第1電極と前記無機保護層との接触部または前記第2電極と前記無機保護層との接触部で前記無機保護層と接している場合を例示できる。
【0011】
前記無機保護層の前記モールド樹脂との接触部として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質からなるものを挙げることができ、前記モールド樹脂として、エポキシ樹脂からなるものを挙げることができる。
【0012】
前記第1電極または前記第2電極と前記有機保護層との接触を阻止する中間層をさらに有してもよく、この場合、前記阻害部を、平面視した場合の前記第1電極と前記第2電極の間に位置する前記中間層とすることができる。前記中間層として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質を挙げることができる。
【0013】
前記第1電極または前記第2電極が、Au、AlおよびCuからなる群から選ばれる1種以上の原子を含んでもよい。前記有機保護層として、シリコン樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含むものが例示できる。前記有機保護層および前記無機保護層が、透光性を有するものであってもよい。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】磁気センサ100の平面および一部断面を示す。
【
図2】磁気センサ100の製造途中における平面および一部断面を工程順に示す。
【
図3】磁気センサ100の製造途中における平面および一部断面を工程順に示す。
【
図4】磁気センサ100の製造途中における一部断面を工程順に示す。
【
図5】磁気センサ100の製造途中における平面および一部断面を工程順に示す。
【
図6】磁気センサ200の平面および一部断面を示す。
【
図7】磁気センサ300の平面および一部断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、磁気センサ100を示し、(a)は平面を、(b)は(a)におけるA−A線一部断面を示す。(a)および(b)において、図面を見やすくするため、一部の部材を省略して示している。
【0018】
磁気センサ100は、基板102、基板酸化層104、下地絶縁層106、磁気抵抗効果素子108、配線層110、無機保護層112、第1電極114、第2電極116、有機保護層118およびモールド樹脂120を有する。
【0019】
基板102は、基板102上に形成される、磁気抵抗効果素子108、配線層110、第1電極114または第2電極116等の磁気センサ100を構成する部材の支持基板である。基板102は、前記部材を支持できる機械的強度を有する限り、材料、寸法、形状等の機械要素に制限は無い。また、基板102の電気的、機械的および化学的な特性、性能にも制限は無い。ただし、基板102は、磁気抵抗効果素子108の磁気特性に影響を及ぼさない非磁性材料であることが好ましい。基板102として、たとえばシリコン基板を例示することができる。
【0020】
基板酸化層104は、基板102としてシリコン基板を採用した場合の表面酸化層である。基板酸化層104は、シリコン基板表面の熱酸化により形成できる。基板酸化層104を形成することにより、基板102の表面に形成される磁気抵抗効果素子108と基板102との間の電気的絶縁性を確保することができ、基板酸化層104の厚さを適切な厚さにすることで、磁気抵抗効果素子108、配線層110、第1電極114および第2電極116の浮遊容量を小さくすることができる。基板酸化層104は、磁気センサ100の構成に必須ではなく、基板102が絶縁体からなる場合には必要ない。基板102が導電体または半導体からなる場合には、基板酸化層104を有する方が好ましい。基板酸化層104が熱酸化法による酸化シリコンである場合、基板酸化層104の厚さとして、1μmを例示することができる。
【0021】
下地絶縁層106は、基板102または基板酸化層104と磁気抵抗効果素子108との間に形成され、基板102と基板酸化層104との間の電気的絶縁性を確保し、さらに高める。また、下地絶縁層106は、磁気抵抗効果素子108を経時的化学的変化から保護する。下地絶縁層106は、磁気抵抗効果素子108との反応性が低い物質で構成されることが好ましく、下地絶縁層106の構成物質として、たとえば、酸化アルミニウムを例示することができる。下地絶縁層106が酸化アルミニウムからなる場合、下地絶縁層106の厚さとして、100nmを例示することができる。
【0022】
磁気抵抗効果素子108は、磁界に応じて抵抗率が変化する感磁素子であり、基板102の複数の板面のうち少なくとも一つの板面に配置される。磁気抵抗効果素子108として、セルフピン止め型のGMR(Giant Magneto Resistive effect)素子を例示することができる。セルフピン止め型のGMR素子である場合、基板102の側から順に、シード層、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層および保護層の順に積層された積層構造を有することができる。シード層として、ニッケル−鉄−クロム合金あるいはCr等が例示できる。シード層の基板102の側にTa,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,W等からなる下地層が形成されてもよい。固定磁性層は、第1磁性層と第2磁性層と、第1磁性層及び第2磁性層の間に介在する非磁性中間層との、人工反強磁性(AAF(Artificial-AntiFerro magnetic))構造とすることができる。磁性層の各層は、コバルト−鉄合金などの軟磁性材料で形成でき、非磁性中間層は、RuやRh等で構成できる。非磁性材料層は、Cuなどの非磁性材料で形成され、フリー磁性層は、ニッケル−鉄合金などの軟磁性材料で形成できる。保護層としてTaを例示できる。
【0023】
配線層110は、磁気抵抗効果素子108を第1電極114および第2電極116に接続する。配線層110の構成材料として、Cr等の金属または銅−アルミニウム等の合金を挙げることができる。配線層110の厚さは、50nm〜100nmが好ましく、配線層110としてCrを用いた場合には、厚さを70nmとすることができる。
【0024】
無機保護層112は、磁気抵抗効果素子108および配線層110を覆って形成される。すなわち、無機保護層112は、基板102、磁気抵抗効果素子108および有機保護層118を含む面で断面視した場合の磁気抵抗効果素子108と有機保護層118との間に位置し、かつ、素子配置面を平面視した場合の第1電極114と第2電極116との間に少なくとも一部が位置する。
【0025】
無機保護層112は、主に、磁気抵抗効果素子108への水分や酸素の侵入を阻止し、磁気抵抗効果素子108を、環境から受ける経時変化から保護する。また、無機保護層112は、第1電極114および第2電極116をメッキ法で形成する際のメッキ液から磁気抵抗効果素子108を保護する。無機保護層112は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質とすることができる。
【0026】
無機保護層112は、磁気抵抗効果素子108との反応性が低い物質で構成されることが好ましく、また、磁気抵抗効果素子108に及ぼす応力が低くなるような物質で構成されることが好ましい。反応性が低くなる観点から酸化アルミニウムが例示でき、応力を低くする観点から酸化シリコンを例示することができる。
【0027】
無機保護層112は、2層以上の積層構造とすることができる。無機保護層112を2層以上の積層構造とする場合、複数積層のうち磁気抵抗効果素子108と接する層を酸化アルミニウム層とし、その他の層を酸化シリコン層または酸窒化シリコン層とすることができる。無機保護層112を酸化アルミニウム層と酸化シリコン層との2層構造とする場合、酸化アルミニウム層の厚さを100nm〜300nm(代表的には205nm)、酸化シリコン層の厚さを100nm〜300nm(代表的には235nm)とすることができる。
【0028】
第1電極114および第2電極116は、磁気抵抗効果素子108が配置された側の基板102の素子配置面に配置され、配線層110を介して磁気抵抗効果素子108に電気的に接続される。第1電極114および第2電極116は、磁気抵抗効果素子108を外部取り出し配線に接続するための電極パッドであり、ワイアボンディングに必要な程度の厚さを有する。第1電極114および第2電極116は、後に説明するようにメッキ法で形成され、たとえばAu、AlおよびCuからなる群から選ばれる1種以上の原子を含む。第1電極114および第2電極116がAuメッキ法で形成された金膜である場合、第1電極114および第2電極116の厚さとして2.4μmを例示することができる。
【0029】
有機保護層118は、基板102の素子配置面の側に位置する。有機保護層118は、磁気抵抗効果素子108を衝撃、振動等から保護する耐衝撃層である。有機保護層118は、耐衝撃層の要求を満足する限り材料、構造、厚さ等に制限はないが、無機保護層112とともに透光性を有しているものであれば、磁気抵抗効果素子108の外観検査が容易になり、好ましい。有機保護層118として、シリコン樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含むものを例示することができる。
【0030】
モールド樹脂120は、基板102、磁気抵抗効果素子108、無機保護層112、第1電極114、第2電極116および有機保護層118の全体を覆う。モールド樹脂120は、基板102、磁気抵抗効果素子108、無機保護層112、第1電極114、第2電極116および有機保護層118の全体を保護する。モールド樹脂120として、たとえばエポキシ樹脂を例示することができる。
【0031】
本実施形態の磁気センサ100においては、素子配置面を平面視した場合の第1電極114と第2電極116との間に、第1電極114または第2電極116に含まれる材料、たとえばAuのエレクトロマイグレーションを阻害する阻害部を有する。阻害部として、無機保護層112と接するモールド樹脂120の一部を例示することができる。なお、第1電極114または第2電極116にAuの他、AlやCuが含まれる場合には、阻害部は、Au、AlまたはCuのエレクトロマイグレーションを阻害するものであってもよい。
【0032】
阻害部である、無機保護層112と接するモールド樹脂120の一部として、
図1(a)における領域122、すなわち、第1電極114と第2電極116との間の全域でモールド樹脂120が無機保護層112と接している領域122を例示することができる。
【0033】
当該領域122が阻害部として機能することは、本発明者らの実験検討による知見により得られたものである。すなわち、従来、第1電極114と第2電極116との間の全域には有機保護層118が形成されており、有機保護層118と無機保護層112との接着性は良好ではなかった。そのため、有機保護層118と無機保護層112と界面に水分が侵入し、リーク電流を生じ、結果としてエレクトロマイグレーションが発生して、Au、Al、Cu等のデンドライトが成長し、信頼性を低下させていたことを本発明者らは発見した。そこで、無機保護層112とモールド樹脂120との接着性が良好であることに鑑み、エレクトロマイグレーションが生じる第1電極114と第2電極116との間に、無機保護層112とモールド樹脂120とが直接接触する領域122を設け、これを阻害部としたものである。
【0034】
本実施形態の磁気センサ100においては、阻害部である領域122を第1電極114と第2電極116との間に積極的に設けるため、エレクトロマイグレーションが発生せず、結果として、磁気センサ100の高い信頼性を確保することが可能になる。なお、従来技術において信頼性低下の原因となっていた有機保護層118は、その主な目的である磁気抵抗効果素子108の耐衝撃性向上のため、磁気抵抗効果素子108の上部に従来と同様に配置されている。よって、磁気センサ100の耐衝撃性は、従来同様確保されている。つまり、本実施形態の磁気センサ100によれば、磁気抵抗効果素子108に対する耐衝撃性を確保しつつ、第1電極114と第2電極116との間のエレクトロマイグレーションに起因する信頼性の低下を生じない。
【0035】
磁気センサ100の製造方法を説明する。
図2〜
図5は、磁気センサ100の製造途中における平面および一部断面または一部平面図のみを工程順に示す。
図2、3、5においては、
図1と同様、(a)は平面を、(b)は(a)におけるA−A線一部断面を示す。(a)および(b)において、図面を見やすくするため、一部の部材を省略して示している。
【0036】
図2に示すように、基板102の表面に、たとえば、熱酸化法による酸化シリコン層を基板酸化層104として形成し、基板酸化層104上に、たとえばスパッタ法による酸化アルミニウム層を下地絶縁層106として形成する。さらに、下地絶縁層106上に磁気抵抗効果素子108を形成する。磁気抵抗効果素子108を構成する各層の成膜にはスパッタ法を用いることができ、成膜した各層のパターニングには、成膜後にレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクとして各層をエッチングする方法、または、マスクパターンを形成した後に各層の成膜を行い、その後マスクパターンを除去するとともにマスクパターン部分に成膜された各層を同時に除去するリフトオフ法を用いることができる。
【0037】
次に、
図3に示すように、配線層110を形成する。配線層110を構成するCr等の導電層の成膜にはスパッタ法を用いることができ、導電層のパターニングには、磁気抵抗効果素子108の場合と同様、マスクを用いたエッチング法またはリフトオフ法を用いることができる。なお、磁気抵抗効果素子108または配線層110の形成と同時に、領域110bに、製造ロット番号等の情報を書き込んでもよい。
【0038】
次に、
図4に示すように、無機保護層112を、たとえばスパッタ法により形成し、第1電極114および第2電極116の形成領域の無機保護層112を除去した後、
図5に示すように、第1電極114および第2電極116をメッキ法により形成する。メッキ法を適用する際、無機保護層112はメッキ液から磁気抵抗効果素子108を保護する。なお、メッキ法には電解メッキまたは無電解メッキを採用できる。また、必要に応じてメッキシード膜を形成してもよい。
【0039】
さらに有機保護層118を形成し、必要な検査工程、ダイボンティング工程、ワイアボンディング工程を経た後、基板の全体をモールド樹脂120で囲み、
図1に示す磁気センサ100が製造できる。
【0040】
(実施の形態2)
図6は、磁気センサ200の平面および一部断面を示す。
図1と同様、(a)は平面を、(b)は(a)におけるA−A線一部断面を示す。(a)および(b)において、図面を見やすくするため、一部の部材を省略して示している。磁気センサ200を構成する部材は、磁気センサ100とほぼ同様であるため、同様の部材については説明を省略する。
【0041】
磁気センサ200においては、阻害部を構成するモールド樹脂120が、平面視した場合の第1電極114と第2電極116との間の一部において無機保護層112と接している。すなわち、
図6において、第1電極114と第2電極116との間に有機保護層118の孔202を設け、当該孔202の底面において、モールド樹脂120と無機保護層112とが接する領域204を形成している。当該領域204は、磁気センサ100における領域122と同様、阻害部として機能する。よって、磁気センサ200は、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0042】
(実施の形態3)
図7は、磁気センサ300の平面および一部断面を示す。
図1と同様、(a)は平面を、(b)は(a)におけるA−A線一部断面を示す。(a)および(b)において、図面を見やすくするため、一部の部材を省略して示している。磁気センサ300を構成する部材は、磁気センサ100とほぼ同様であるため、同様の部材については説明を省略する。
【0043】
磁気センサ300においては、阻害部を構成するモールド樹脂120が、第1電極114と無機保護層112との接触部または第2電極116と無機保護層112との接触部で無機保護層112と接している。すなわち、
図7において、第1電極114と無機保護層112との接触部および第2電極116と無機保護層112との接触部に有機保護層118の孔302を設け、当該孔302の底面において、モールド樹脂120と無機保護層112とが接する領域304を形成している。当該領域304は、磁気センサ100における領域122と同様、阻害部として機能する。よって、磁気センサ300は、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0044】
(実施の形態4)
図8は、磁気センサ400の一部断面を示す。磁気センサ400を構成する部材は、磁気センサ100とほぼ同様であるため、同様の部材については説明を省略する。
【0045】
磁気センサ400においては、第1電極114または第2電極116と有機保護層118との接触を阻止する中間層402を有する。中間層402は、平面視した場合の第1電極114と第2電極116の間に位置する。中間層402は、第1電極114と第2電極116の間において第1電極114または第2電極116と有機保護層118との接触を阻止していることから、有機保護層118と無機保護層112との界面のリーク電流チャネルの形成を阻害し、阻害部として機能する。よって、磁気センサ400は、実施の形態1〜3と同様の効果を奏する。中間層402として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化シリコンアルミニウム、窒化シリコンアルミニウムおよび酸窒化シリコンアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の物質を例示することができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0047】
100…磁気センサ、102…基板、104…基板酸化層、106…下地絶縁層、108…磁気抵抗効果素子、110…配線層、112…無機保護層、114…第1電極、116…第2電極、118…有機保護層、120…モールド樹脂、122…領域、200…磁気センサ、202…孔、204…領域、300…磁気センサ、302…孔、304…領域、400…磁気センサ、402…中間層。