(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、吸入されると、肺の血管を拡張させ、血液の酸素化(oxygenation)を改善し、および肺高血圧症を減少させるように作用するガスである。このため、一酸化窒素は、肺高血圧症の患者用の吸息呼吸ガスに治療用ガスとして提供される。
【0003】
いくつかの一酸化窒素送達装置は、臨床医によって設定された所望の濃度に基づいて、患者の吸息呼吸ガスにほぼ一定濃度の一酸化窒素をもたらすように治療用ガスを連続的に流すために、比例制御弁を用いる。しかしながら、呼吸ガスの流量は吸息または呼息フェーズ内で急速に上昇しかつ下降するため、送達されたNOガスを、吸息流量に応じて比例する(proportional ratio−metric)用量で連続的にもたらすことは困難となる。これは、NO設定用量および人工呼吸器の流量のために低NO要求量、それゆえ低治療用ガス要求量となるときなど、NO流量範囲の下限において特に当てはまる。
【0004】
他の一酸化窒素送達装置は、1つ以上のバイナリ制御弁(binary control valves)を用いて、バイナリ制御弁で定常的にパルス流にすることによって、一酸化窒素の平均一定濃度を近似させている。これらの装置はまた、NO送達範囲の下限において問題を有し、および人工呼吸器の吸息フェーズに応答して、NO流量の突然の要求量の増加に対応する際の応答時間に問題があり得る。
【0005】
さらに他の一酸化窒素送達装置は、患者が自発的に吸入するとき、単一パルスの一酸化窒素を患者に投与する。そのような装置は、患者が特定の呼吸で吸息を始めたときを検出し、かつまた、患者の呼吸の各フェーズ:すなわち吸息、呼息などを検出するために、患者トリガーセンサーとして公知の圧力または流量センサーを使用することが多い。これらの装置は、一般的に、少なくとも1つのバイナリ制御弁を使用して、パルス化作動の最中はNOを一定流量にするが、用量の範囲が制限を受ける。なぜなら、用量は、バイナリ制御弁が開放している時間を変更することによってのみ変更できるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、NO含有ガスなどの治療用ガスを送達するための新しい方法および装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
治療用ガス投与の用量範囲を広げるために、少なくとも1つのバイナリ制御弁(すなわち一定流量弁)および少なくとも1つの比例制御弁(すなわち可変流量弁)を用いる方法および装置が提供される。
【0008】
本発明の一態様は、少なくとも1つのバイナリ制御弁および少なくとも1つの比例制御弁を含む治療用ガス送達装置に関する。この態様の1つ以上の実施形態では、ガス送達装置は、治療用ガス源に接続する入口と、患者に治療用ガスを注入する装置に接続する出口と、入口および出口と流体連通し、一定流量の治療用ガスを送達する少なくとも1つのバイナリ制御弁と、入口および出口と流体連通し、可変流量の治療用ガスを送達する少なくとも1つの比例制御弁と、バイナリ制御弁および比例制御弁の1つ以上を通して治療用ガスを送達する制御システムとを含む。治療用ガスは、一酸化窒素または一酸化窒素放出剤を含んでもよく、または本明細書で説明するような別の治療用ガスであってもよい。
【0009】
1つ以上の実施形態によれば、バイナリ制御弁および比例制御弁は直列である。このバイナリ制御弁と比例制御弁との組み合わせによって、可変流量で治療用ガスのパルスをもたらし得る。一部の実施形態では、治療用ガス送達装置は、さらに圧力センサーを含み、比例制御弁は圧力センサーの上流にあり、および圧力センサーはバイナリ制御弁の上流にある。
【0010】
1つ以上の実施形態では、バイナリ制御弁および比例制御弁は平行な流路にある。
【0011】
複数のバイナリおよび/または比例制御弁が使用される場合、並列および/または直列での弁の様々な組み合わせが可能である。特定の1つの構成は、複数のバイナリ制御弁を並列で含むことができ、これは、治療用ガスのパルスを同じ流量または異なる流量のいずれかでもたらし得る。一部の実施形態では、第1のバイナリ制御弁の流量対第2のバイナリ制御弁の流量の比は、約1:2〜約1:10にわたる。一部の実施形態では、制御システムは、第1のバイナリ制御弁および第2のバイナリ制御弁の1つ以上を通して、呼吸ごとに複数のパルスを送達する。
【0012】
1つ以上の実施形態によれば、ガス制御システムは、バイナリ制御弁および比例制御弁の1つ以上を通して治療用ガスを呼吸ガスの流れに送達し、治療用ガスが実質的に一定濃度の状態で、治療用ガスと呼吸ガスとの複合流をもたらす。さらなる実施形態では、バイナリ制御弁および比例制御弁は平行な流路にあり、および制御システムは、治療用ガス要求量が送達範囲の5%以上であるとき、比例制御弁を通して連続的な流れの治療用ガスを送達し、および治療用ガス要求量が送達範囲の1%以下であるとき、バイナリ制御弁を通して治療用ガスの1つ以上のパルスを送達する。本明細書で説明するように、他の治療用ガス要求量を使用して、バイナリ弁または比例弁のどちらを使用するかを決定し得る。
【0013】
治療用ガスを患者に注入する装置は、人工呼吸器と流体連通し得るか、または患者は、自発的に呼吸し得る。患者に治療用ガスを注入するために使用され得る装置の例は、鼻カニューレ、気管内チューブまたはフェイスマスクを含む。
【0014】
一部の実施形態では、制御システムは、バイナリ制御弁および比例制御弁の1つ以上を通して、患者の呼吸において単一パルスをもたらす。
【0015】
本発明の別の態様は、バイナリ制御弁および可変圧力調整器を含む治療用ガス送達装置に関する。この態様の様々な実施形態では、治療用ガス送達装置は、治療用ガス源に接続する入口と、患者に治療用ガスを注入する装置に接続する出口と、入口および出口と流体連通し、上流の圧力が一定であるとき一定流量の治療用ガスを送達する少なくとも1つのバイナリ制御弁と、バイナリ制御弁と流体連通し、バイナリ制御弁の上流の圧力を変化させる少なくとも1つの可変圧力制御装置と、バイナリ制御弁を通して治療用ガスを送達する制御システムとを含む。治療用ガスは、一酸化窒素または一酸化窒素放出剤を含み得る。
【0016】
1つ以上の実施形態によれば、制御システムは、可変圧力調整器と通信し、およびバイナリ制御弁の上流の圧力を変化させる。一部の実施形態では、可変圧力制御装置は比例制御弁および圧力センサーを含む。
【0017】
本明細書で説明した他の実施形態のように、システムは、複数のバイナリ制御弁、複数の比例制御弁および/または複数の可変圧力調整器を含み得る。一部の実施形態では、送達システムは、第1のバイナリ制御弁に並列な第2のバイナリ制御弁を含む。これらの2つのバイナリ制御弁は、治療用ガスの複数のパルスを同じ流量または異なる流量のいずれかでもたらし得る。一部の実施形態では、第1のバイナリ制御弁の流量対第2のバイナリ制御弁の流量の比は、約1:2〜約1:10にわたる。一部の実施形態では、制御システムは、第1のバイナリ制御弁および第2のバイナリ制御弁の1つ以上を通して、呼吸ごとに複数のパルスを送達する。
【0018】
ここでも、患者に治療用ガスを注入する装置は、人工呼吸器と流体連通し得るか、または患者は、自発的に呼吸し得る。患者に治療用ガスを注入するために使用され得る装置の例は、鼻カニューレ、気管内チューブまたはフェイスマスクを含む。
【0019】
一部の実施形態では、制御システムは、患者の呼吸において単一パルスをもたらす。
【0020】
本発明のさらに別の態様、本明細書で説明した治療用送達装置のいずれかを使用することを含む、患者への治療用ガスの投与方法。一部の実施形態では、方法は、一定流量の治療用ガスを送達する少なくとも1つのバイナリ制御弁と、可変流量の治療用ガスを送達する少なくとも1つの比例制御弁とを有する治療用ガス送達装置を提供するステップ、およびバイナリ制御弁および比例制御弁の1つ以上を通る吸息の最中に、患者に治療用ガスを送達するステップを含む。本明細書で説明した実施形態のいずれかのように、治療用ガスは、限定されるものではないが、一酸化窒素または一酸化窒素放出剤を含む。
【0021】
1つ以上の実施形態では、バイナリ制御弁および比例制御弁は直列であり、バイナリ制御弁と比例制御弁とを組み合わせることによって、治療用ガスのパルスを可変流量でもたらし得る。
【0022】
1つ以上の実施形態では、バイナリ制御弁および比例制御弁は平行な流路にある。
【0023】
様々な実施形態は、患者が一定濃度の薬物を投与されるように、治療用ガスが送達されることを提供する。例えば、方法は、さらに、呼吸ガスの流量を測定するステップ、および呼吸ガスの流量に実質的に比例する量で治療用ガスを送達するステップを含み得る。
【0024】
一部の実施形態では、バイナリ制御弁および比例制御弁は平行な流路にあり、および治療用ガス要求量が送達範囲の5%以上であるとき、治療用ガスの連続的な流れが比例制御弁を通して送達され、および治療用ガス要求量が送達範囲の1%以下であるとき、治療用ガスの1つ以上のパルスがバイナリ制御弁を通して送達される。
【0025】
1つ以上の実施形態では、治療用ガス送達装置は、さらに、第1のバイナリ制御弁に並列な第2のバイナリ制御弁を含み、これは、一定流量の、または同じ流量もしくは異なる流量で治療用ガスのパルスを送達し得る。一部の実施形態では、第1のバイナリ制御弁の流量対第2のバイナリ制御弁の流量の比は、約1:2〜約1:10にわたる。
【0026】
1つ以上の実施形態は、方法が、さらに、患者の吸息の始まりを感知し、および吸息中に、患者に1つ以上のパルスで治療用ガスを送達することを含むことを提供する。一部の実施形態では、少なくとも1つのパルスは、患者の吸息の前半に送達される。
【0027】
1つ以上の実施形態では、第1の量の治療用ガスは、第一呼吸中に患者に送達され、および方法は、さらに、患者の呼吸数または患者の呼吸数の変化を監視し、および監視された呼吸数または患者の呼吸数の変化に基づいて、1つ以上の後続の呼吸中に、患者に送達される治療用ガスの量を変化させることを含む。
【0028】
上記は、本発明のいくつかの特徴および技術的利点をかなり概括的に概説した。当業者は、開示された具体的な実施形態は、本発明の範囲内の他の構造またはプロセスを修正または設計するための基礎として簡単に用いられ得ることを理解されたい。当業者は、そのような均等な構造が、添付の特許請求の範囲に記載されるような本発明の趣旨および範囲から逸脱しないことも理解されたい。
【0029】
上記で列挙した本発明の特徴が詳細に理解され得るように、上記で簡潔に要約した本発明のさらに詳細な説明は、実施形態を参照することによってなされてもよく、それらのいくつかは、添付の図面に示される。しかしながら、添付図面は、本発明の典型的な実施形態のみを示し、それゆえ、その範囲を限定するものとはみなされず、本発明は、他の同様に効果的な実施形態を認め得ることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のいくつかの例示的な実施形態を説明する前に、本発明は、以下の説明に記載される構造またはプロセスのステップの詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、および様々な方法で実行または実施できる。
【0032】
一酸化窒素送達装置を具体的に引き合いに出すが、当業者は、本明細書で説明する方法および装置が他の医療または治療用ガスを送達するために使用し得ることを理解されたい。投与され得る例示的なガスは、限定されるものではないが、一酸化窒素、酸素、窒素、および一酸化炭素を含み得る。本明細書で使用する場合、語句「治療用ガス」は、患者の疾患または医学的障害を治療するために使用されるガスを指す。
【0033】
一酸化窒素が治療用ガスとして使用される場合、治療され得る例示的な疾患または障害は、新生児持続性肺高血圧症(PPHN)、肺動脈高血圧症(PAH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支肺異形成症(BPD)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTE)、特発性肺線維症(IPF)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)または肺高血圧症(PH)を含むか、または一酸化窒素は、抗菌薬として使用され得る。
【0034】
バイナリ制御弁および比例制御弁の双方を用いる、患者に治療用ガスを投与する方法および装置が提供される。これらの装置は、連続的な一定濃度送達、および呼吸ごとの単一パルス送達の双方に対して、用量範囲を広くし得る。
【0035】
本明細書で使用する場合、「バイナリ制御弁」は、少なくとも2つの状態、完全に閉鎖している第1の状態および実質的に開放している第2の状態を有する制御弁を指す。そのような弁の例は、限定されるものではないが、ソレノイド弁および圧電弁を含む。大きなフロースルー開口領域(圧力低下が小さい)から小径オリフィス(圧力低下が大きい)のバイナリ弁が想定される。そのような弁は、一般的に、開放時に、上流の圧力に依存して、一定流量のガスをもたらす。圧力調整器と組み合わせて、これらの弁は、公知の一定流量、または上流の圧力に比例したガス容積のパルスを提供し得る。
【0036】
本明細書で使用する場合、「比例制御弁」は、可変流量のガスを提供できる弁である。バイナリ制御弁とは異なり、比例制御弁は、完全な閉鎖状態と完全な開放状態との間のほとんど無限数の流量を提供するように、開度を変更できる。制御範囲のある部分にわたって、これらの弁は、流量出力対現在の入力量の線形領域において作動する。これらの弁は、感知装置の統合に依存して、流量または圧力を制御するように構成され得る。
【0037】
従って、本発明の一態様は、少なくとも1つのバイナリ制御弁および少なくとも1つの比例制御弁を有する治療用ガス送達装置に関する。バイナリ制御弁は、比例制御弁と直列にあっても、または比例制御弁と並列にあってもよい。2つ以上のバイナリ制御弁および/または比例制御弁が存在する場合、様々な弁は、弁の直列および並列の組み合わせで、複数の構成に配置され得る。
【0038】
図1は、バイナリ弁および比例制御弁を直列に有する例示的な一酸化窒素送達装置100を示す。一酸化窒素を含む治療用ガス源は、ガス貯蔵シリンダー103を含み得る。例示的なシリンダーは、窒素などのキャリアガス中にNOを含んでもよく、NO濃度は、1ppm〜20,000ppmにわたり、例えば5ppm〜10,000ppm、または10ppm〜5,000ppmである。1つ以上の実施形態では、シリンダーは、約2440ppmまたは約4880ppmなど、高一酸化窒素濃度を有する。他の実施形態では、シリンダー濃度は約800ppmである。
【0039】
NOを含むガスを貯蔵するシリンダーの代わりに、二酸化窒素(NO
2)または亜硝酸塩(NO
2−)などの一酸化窒素放出剤を、適切な還元剤または共反応体と一緒に使用して、NOの流れをもたらしてもよい。例えば、ガス貯蔵シリンダー103は、1ppm〜20,000にわたる濃度でNO
2ガスを含み、および装置は、患者への投与前にNO
2をNOへ変換する適切な反応を用いることができる。
【0040】
ガス貯蔵シリンダー103は、導管105と流体連通しており、導管105は、治療用ガスをガス貯蔵シリンダー103から一酸化窒素送達装置へ送給する。導管105は、治療用ガスを患者に送達するために、鼻カニューレまたは他の鼻もしくは口呼吸器具113と流体連通してもよい。さらに、導管105は、ガスホースまたはチューブセクション、圧力調整器、送達マニホールドなどを含み得る。鼻カニューレを具体的に参照するが、他のタイプの鼻または口呼吸器具、例えば呼吸マスクまたは気管内チューブを使用してもよい。
【0041】
1つ以上の比例制御弁107、ならびに1つ以上のバイナリ制御弁109は、導管105を通って患者に至る治療用ガスの流量を調整する。
図1では、比例制御弁107をバイナリ制御弁109の上流に示すが、比例制御弁107の上流かつそれと直列にバイナリ制御弁109を有することは、均等な構成であろう。一部の実施形態では、比例制御弁107が圧力を受けて開放している場合、バイナリ制御弁109の上流にある必要があり得る。
【0042】
比例制御弁107に加えてまたはその代わりに、可変圧力調整器が、バイナリ制御弁109の上流に配置され得る。可変圧力調整器は、一定の圧力で公知の体積を制御または維持する役割を果たし得る。そのような可変圧力調整器は、出力圧力を変化させ得、それにより、下流のバイナリ制御弁109の流量を変化させ、かつバイナリ制御弁109のダイナミックレンジを広げる。可変圧力調整器は、一酸化窒素送達装置の制御システムによって電子的に制御され得る。
【0043】
一部の実施形態では、圧力センサー108は、比例制御弁107の下流、およびバイナリ制御弁109の上流に配置され得る。比例制御弁107と圧力センサー108を組み合わせることにより、バイナリ制御弁109の上流の圧力を制御する可変圧力調整器の機能を果たし得る。なぜなら、比例制御弁107は、流入量を制御して、圧力センサー108において所望の圧力を達成し得るためである。
【0044】
一部の実施形態では、「公知の圧縮ガス容積」は、バイナリ制御弁109の上流の圧力センサー108によって測定される。
図1では、公知の圧縮ガス容積は、比例制御弁107とバイナリ制御弁109との間の導管105の圧縮ガスの体積である。比例制御弁107から下流およびバイナリ制御弁109の上流の導管105の部分は、チャンバーを画定し、およびこのチャンバーの体積および圧力が分かることによって、比例制御弁107が、バイナリ制御弁109を通る流量を制御できるようにする。
【0045】
導管105と通路111が流体連通しており、この通路111は、患者トリガーセンサー119を導管105に接続する。患者トリガーセンサー119は、圧力または流量センサーである。トリガーセンサー119からの信号は、さらに、中央処理装置(CPU)115を含む制御システムによって、ハードウェアおよび/またはソフトウェア論理により処理され得る。トリガーセンサー119は、患者が吸息および/または呼息を始めるときを検出し、およびその情報を制御システムに提供し得る。
【0046】
一部の実施形態では、トリガーセンサー119を使用して、患者の呼吸努力によって生じた負圧を検出することにより、患者の吸息を決定し得る。この負圧は、2つの基準点間、例えば通路111と一酸化窒素送達装置上の差圧ポート(図示せず)との間で測定され得る。通路111は導管105と流体連通しており、導管は同様に患者と流体連通しているため、通路111の圧力は、患者が吸息を始めて患者の鼻または口に小さな負圧が生じると、降下する。
【0047】
同様に、患者トリガーセンサー119は、患者に起因する正圧を検出することによって、患者の呼息を検出し得る。一部の実施形態では、この正差圧は、通路111の圧力が差圧ポートの圧力を超える量である。
【0048】
一酸化窒素送達装置100は、1つ以上のCPU115を含む制御システムを含み得る。CPU115は、ユーザー入力装置117と通信し得る。このユーザー入力装置117は、ユーザーから所望の設定、例えば患者の処方(mg/kg単位での理想体重、mg/kg/時、mg/kg/呼吸、mL/呼吸、シリンダー濃度、送達濃度、パルス持続時間などで)、患者の年齢、身長、性別、体重などを受信し得る。1つ以上の実施形態では、ユーザー入力装置117は、ディスプレイおよびキーボードおよび/またはボタンを含むか、またはタッチスクリーン装置とし得る。
【0049】
CPU115はまた、比例制御弁107およびバイナリ制御弁109を通る治療用ガスの流量を測定する流量センサー121と通信し得る。CPU115は、メモリ(図示せず)に結合でき、かつ容易に入手できるメモリ、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、コンパクトディスク、フロッピーディスク、ハードディスク、または任意の他の形態のローカルまたはリモートデジタルストーレージのうちの1つ以上とし得る。CPU115にサポート回路(図示せず)が結合されて、CPU115、センサー、制御弁などを従来の方法で支援し得る。これらの回路は、キャッシュ、電力供給装置、クロック回路、入力/出力回路、サブシステム、電力制御装置、信号調整装置などを含む。
【0050】
制御システムのCPU115は、比例制御弁107、バイナリ制御弁109、患者トリガーセンサー119、流量センサー121および圧力センサー108と通信し得る。患者トリガーセンサー119が、患者が吸息を始めていると判断すると、CPU115は、制御弁107および109の一方または双方に信号を送信して制御弁を開放し、治療用ガスを送達する。
【0051】
特定のNO投与レジメンに応じて、制御弁107および109は、いくつもの異なる方法で動作し得る。例えば、治療用ガスの1つ以上のパルスが呼吸に投与されると、比例制御弁107を若干開に設定でき、およびバイナリ制御弁109を使用して、治療用ガスの複数のパルスをもたらし得る。このようにして、比例制御弁107は、バイナリ制御弁109を通る流量を制御するために、可変サイズのオリフィスとしての機能を果たし得る。比例制御弁107の開度は、バイナリ制御弁109に望まれる流量に応じて、呼吸ごとに増減させ得る。一例では、第一呼吸は、比例制御弁107を、最大開度の75%で使用し、それに続く呼吸は、比例制御弁107を、最大開度の50%で使用し得る。これは両弁の利点を組み合わせ、比例制御弁107によって流量を変化させることができ、同時に、システムは、バイナリ制御弁109の高速応答時間および正確さを用いる。
【0052】
比例制御弁107およびバイナリ制御弁109のこの動作は、多くの投与スケジュールに有用とし得る。そのような1つの投与スケジュールは、患者に投与されるNO量を各呼吸で変化させるものである。薬物の所望の総量は、時間当たりの理想体重のキログラム当たりでもたらされるNO量(mg/kgIBW/時)など、ユーザーによって設定され得る。患者の理想体重は、患者の性別および身長に応じる。装置は、呼吸毎に与えられる薬物量を調整するため、送達される量は、患者の呼吸数とは無関係である。
図1のバイナリおよび比例制御弁構成は、弁が開放している時間を変化させることだけに依拠するのではなく、流量を変化させ得ることによって、呼吸ごとのより広範囲の用量をもたらし得る。これは、NOパルスのタイミングまたは持続時間が重要である場合、特に重要であり得る。従って、一部の実施形態では、治療用ガスの1つ以上のパルスが、吸息の前半または吸息の始めの3分の1においてもたらされる。
【0053】
メモリは、特定の患者の処方を達成するために、所望のガスパルス容積およびパルススケジュールを計算するための一連の機械実行可能命令(またはアルゴリズム)を記憶し得る。例えば、患者の呼吸数およびシリンダーの濃度が分かっている場合、CPU115は、所望の用量の一酸化窒素をもたらすためには、各呼吸または一連の呼吸でどの程度の容積の治療用ガスを投与する必要があるかを計算できる。メモリはまた、各パルスの最中にバイナリ制御弁109が開放している時間を記録し得るため、どの程度の一酸化窒素が既に投与されたかの将来的な計算を考慮できる。
【0054】
一部の実施形態では、メモリは、CPU115による実行時に、一連の機械実行可能命令(またはアルゴリズム)を記憶し、送達装置に:トリガーセンサーによって患者の吸息を感知し、吸息の最中、一酸化窒素を含有する治療用ガスのパルスを患者へ送達し、患者の呼吸数または患者の呼吸数の変化を監視し、およびそれに続く呼吸で送達される治療用ガスの量(例えば体積または質量)を変化させることを含む方法を実行させる。機械実行可能命令はまた、本明細書で説明した他の方法のいずれかに関する命令を含み得る。
【0055】
図1の弁の構成はまた、各呼吸で一定のパルス容積または用量をもたらす投与スケジュールに使用できる(すなわちmL/呼吸、nmol/呼吸、ng/呼吸など)。ここでは、単一の装置を、広範囲の用量条件の患者に使用できる。なぜなら、比例制御弁107を使用して、バイナリ制御弁109への流量または供給圧力を設定できるためである。従って、一人の患者の治療中に流量が変化しない場合でも、装置は、パルス幅(すなわちパルスの長さ)が等しいmL/呼吸に関し、ある範囲の用量をもたらすことができ、および、異なる処方の複数の患者に1つの装置を使用できる。さらに、患者の呼吸パターンの変化につれて、所与の患者の治療の量を1mL/呼吸の量から異なるmL/呼吸の量まで変化させることが望ましいとし得る。例えば、患者は、目が覚めているときには、ある用量のmL/呼吸を、および眠っているときには、それよりも高い用量のmL/呼吸を必要とし得るため、時間または他の期間ごとに送達される薬物量には、大きなばらつきはない。
【0056】
それゆえ、バイナリ制御弁と比例制御弁の組み合わせは、用量範囲の能力を広げ得るか、または患者へのNO送達パルスタイミングのより正確な制御をもたらし得る。
【0057】
バイナリ制御弁および比例制御弁はまた、
図2に示すものなどの並列構成とし得る。
図2では、一酸化窒素送達装置200は、バイナリ制御弁209および210と並列の比例制御弁を有する。
図1の装置のように、一酸化窒素送達装置200は、一酸化窒素または一酸化窒素放出剤の供給を行う治療用ガス源203に接続され得る。導管205は、3つの平行な流路に分かれ、各流路は、異なる制御弁(207、209、210)およびそれ自体の流量センサー(221、223、225)を含む。より多数またはより少数の平行な流路を使用してもよく、バイナリおよび比例制御弁は、同じ流路で組み合わせられてもよい。さらに、流量センサーが、平行な流路が集中する箇所の下流に、または平行な流路が分岐する箇所の上流に配置される場合には、各流路はそれ自体の流量センサーを有する必要はない。
【0058】
制御システムが、各制御弁(207、209、210)および各流量センサー(221、223、225)と通信し得るCPU215を含む。CPU215はまた、ユーザー入力装置217と通信し得る。CPU215およびユーザー入力装置217は、
図1のCPU115およびユーザー入力装置117に関して上述した特徴のいずれかを有し得る。
【0059】
図2では、一酸化窒素送達システム200は、人工呼吸器237を使用して、患者に治療用ガスを送達する。流量センサー227は、人工呼吸器237から吸息リム(limb)231を通る呼吸ガスの流量を測定し、かつCPU215に信号を送信する。その後、CPU215は、1つ以上の制御弁(207、209、210)を開放して、導管205を通る治療用ガスの流れをもたらし、その治療用ガスの流れを、注入モジュール229内の呼吸ガスと組み合わせる。CPU215は、呼吸ガス流量に比例する(比率で測定した(ratio−metric)としても公知)治療用ガスの流量をもたらし、呼吸ガスと治療用ガスの複合流に所望の濃度のNOをもたらす。その後、治療用ガスと呼吸ガスの複合流は、患者リム235を経由して患者に送達され、および患者の呼息ガスは、呼息リム233を通って人工呼吸器237まで伝えられる。流量センサー227は注入モジュール229内にあるとして示すが、吸息リム231のどこにでも、例えば注入モジュール229の上流に配置してもよい。また、流量センサー227の代わりに、CPU215は、人工呼吸器237からの呼吸ガスの流量を表す信号を、人工呼吸器237から直接受信し得る。
【0060】
図1および
図2に示す2つの構成は、バイナリおよび比例制御弁を用いる治療用ガス送達装置の2つの例にすぎない。他の構成は、限定されるものではないが:
a.2つ以上の平行な流路であって、各流路が、少なくとも1つのバイナリ制御弁および少なくとも1つの比例制御弁を直列で有する、流路;
b.2つ以上の平行な流路であって、1つ以上の流路が、少なくとも1つのバイナリ制御弁および少なくとも1つの比例制御弁を直列で有し、および1つ以上の他の流路が、バイナリ制御弁のみ、または比例制御弁のみを有する、流路;
c.2つ以上の平行な流路であって、1つ以上の流路がバイナリ制御弁を有し、および1つ以上の流路が比例制御弁を有する、流路;および
d.平行な流路において、2つ以上の比例制御弁と直列のバイナリ制御弁
を含み得る。
【0061】
当業者は、本発明による、並列および/または直列のバイナリおよび比例制御弁の他の組み合わせを想定できる。さらに、本明細書で説明した構成のいずれも、比例制御弁に加えてまたはその代わりにのいずれかで、可変圧力調整器を使用し得る。例えば、比例制御弁およびバイナリ制御弁が直列である代わりに、バイナリ制御弁の上流に配置された可変圧力調整器が、同じ効果をもたらし得る。さらに、比例制御弁と並列のバイナリ制御弁を有する構成の代わりに、2つのバイナリ制御弁は、上流に可変圧力調整器を有するバイナリ制御弁の一方または双方のいずれかと直列とし得る。比例制御弁と一緒に可変圧力調整器も使用し得る。一部の実施形態では、可変圧力調整器は、比例制御弁および圧力センサーを含む。
【0062】
構成のいずれかにおいて、2つ以上のバイナリ制御弁を使用する場合、それらは、同じまたは異なる流量を有し得る。1つのバイナリ制御弁による送達が、別のバイナリ制御弁よりも多い流量であること、例えば、1つのバイナリ制御弁による送達は6L/分であり、および別のバイナリ制御弁による送達は1L/分であることが有利であり得る。1つ以上の実施形態によれば、低流量の弁対高流量の弁の流量比が約1:2〜約1:10にわたる少なくとも2つのバイナリ制御弁が使用され得る。
【0063】
同様に、2つ以上の比例制御弁が使用される場合、それらは、同じまたは異なる流量範囲を有し得る。例えば、第1の比例制御弁の流量範囲は0.1〜10L/分とし、および第2の比例制御弁の流量範囲は0.005〜1L/分とし得る。そのよう配置構成は、各比例制御弁に最適な動作範囲を使用することによって、すなわち、弁の動作範囲の極端な上限または極端な下限を使用せずに、送達される治療用ガス流の精度を最大にし得る。
【0064】
一部の実施形態では、制御システムが、治療用ガスを送達するためにバイナリ制御弁(209、210)または比例制御弁(207)のうちの1つを使用するかどうかは、治療用ガス要求量に依存し得る。「治療用ガス要求量」は、呼吸ガスと治療用ガスの複合流に設定NOをもたらすために必要な治療用ガスの量である。治療用ガス要求量は、治療用ガス中のNOの濃度、設定NO濃度および呼吸ガスの流量に基づいて変化し得る。シリンダー濃度が800ppmのNOであり、および呼吸ガス流量が10L/分である場合、40ppmの送達濃度をもたらすためには、約0.5L/分の治療用ガスが必要である。従って、このシリンダー濃度、呼吸ガス流量および送達濃度の組み合わせに対しては、治療用ガス要求量は0.5L/分である。治療用ガス要求量が、比例制御弁207の最大治療用ガス流量のほんのわずかである場合、比例制御弁207は、高い治療用ガス要求量と同じ正確さでは治療用ガスを送達しないこともできる。比例制御弁207の最大治療用ガス流が6L/分である場合、この量の1または2%未満(すなわち0.06または0.12L/分未満)の治療用ガス要求量は、比例制御弁207を通る連続的な流れでは正確に送達されないことがある。それゆえ、これらの低い治療用ガス要求量において、比例制御弁207または1つ以上のバイナリ制御弁(209、210)のいずれかをパルス状にすることは有利であり得る。このパルス化技術は、呼吸ガス流量に比例する連続的なリアルタイムの治療用ガス送達を生じないが、NOの「ベースライン」の平均濃度をもたらし得る。このパルス化技術は、人工呼吸器237が低バイアス流量を出力するとき、または一酸化窒素送達装置が、低流量の酸素を患者にもたらす鼻カニューレと一緒に使用されるとき、特に有用であり得る。
【0065】
さらに、1つ以上の実施形態では、1つ以上の比例制御弁は、1つまたは複数のパルスでNOを送達するために使用され得る。そのような1つまたは複数のパルスのNOは、呼吸周期にわたって一定濃度用量のNOを概算するために使用され得る。パルスでNOをもたらすためにそのような比例制御弁を使用する装置は、NOの流量を調整するために、上述の通り1つ以上のバイナリ制御弁を組み込んでも、または1つ以上の比例制御弁のみを含んでもよい。上述の通り、2つ以上の比例制御弁が使用される場合、それらは、同じまたは異なる流量範囲を有し得る。装置はまた、ある流量(低流量など)で比例弁を通してガスの複数のパルスをもたらし、および他の流量(高流量など)でガスの連続的な流れをもたらし得る。
【0066】
従って、一部の実施形態では、CPU215は、高い治療用ガス要求量で比例制御弁207を、および低い治療用ガス要求量でバイナリ制御弁(209、210)の1つ以上を、使用する。一部の実施形態では、送達装置200は、治療用ガス要求量が比例制御弁207の送達範囲の0.1%を上回るとき、例えば治療用ガス要求量が、送達範囲の以下の百分率:0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15または20%以上であるとき、比例制御弁207を通して治療用ガスの連続的な流れを送達する。同様に、一部の実施形態では、送達装置は、治療用ガス要求量が比例制御弁207の送達範囲の20%未満であるとき、例えば、治療用ガス要求量が、送達範囲の以下の百分率:15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5または0.1%以下であるとき、バイナリ制御弁209または210を通して治療用ガスの1つ以上のパルスを送達する。あるいは、送達システム200は、要求量が前述の百分率のいずれか以下であるとき、比例制御弁207を通してパルス化し得るか、または送達システムは、治療用ガス要求量が低いとき、直列のバイナリ制御弁と比例制御弁の組み合わせを通して、パルス化し得る。
【0067】
呼吸ごとの単一パルス送達(すなわち、mg/kgIBW/時、またはmL/呼吸)に対し、
図1の一酸化窒素送達装置100を使用する、または一定濃度に対し、
図2の一酸化窒素送達装置200を使用する必要はない(制御弁のいずれかを繰り返しパルス化動作させるか、または比例制御弁を連続的に流れるかのいずれか)。実際、一酸化窒素を送達するこれらの方法のいずれかは、複数のバイナリおよび比例制御弁を並列で、直列で、またはそれら双方の組み合わせで使用し得る。所望の一酸化窒素療法に依存して、本明細書で説明した装置のいずれかは、自発的に呼吸している患者の呼吸を検出するために、適切な呼吸トリガーセンサーを有し得るか、または人工呼吸器と一緒に使用するように適合され得る。また、「呼吸ごとの単一パルス」療法への言及は、呼吸毎に治療用ガスのパルスを送達する方法に加え、1つ以上の呼吸をスキップする方法を含む。一定濃度用量または呼吸ごとのパルス式用量のいずれかに、本明細書で説明した装置のいずれかを使用することも可能である。
【0068】
本発明の別の態様は、治療用または医療ガスを投与する方法であって、少なくとも1つのバイナリ制御弁および少なくとも1つの比例制御弁を含む治療用ガス送達装置を提供するステップ、およびバイナリ制御弁および比例制御弁の1つ以上を通して、患者に治療用ガスを送達するステップを含む方法を提供する。この方法の治療用ガス送達装置は、直列、並列またはそれら双方の弁の組み合わせを有するなど、バイナリおよび比例制御弁の双方を有する治療用ガス送達装置に関して既に説明した特徴のいずれかを有し得る。治療用ガスは、一酸化窒素または一酸化窒素放出剤を含み得る。治療用ガスが一酸化窒素放出剤を含む場合、好ましくは、患者への投与前に一酸化窒素に変換される。
【0069】
本明細書を通して、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「1つ以上の実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、材料、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。それゆえ、本明細書を通して様々な個所における「1つ以上の実施形態では」、「いくつかの実施形態では」、「一実施形態では」または「実施形態では」などの語句の出現は、必ずしも、本発明の同じ実施形態を指すものではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つ以上の実施形態では任意の好適な方法で組み合わせ得る。
【0070】
本明細書では、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これらの実施形態は、単に、本発明の原理および適用例を説明するためのものであることを理解されたい。当業者には、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、本発明の方法および装置に対する様々な修正形態および変形形態をなし得ることが明白である。それゆえ、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にある修正形態および変形形態を含むものとする。