(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リパーゼを含む酵素又はゼオライト若しくはゼオライト様の物質の存在下で空気をバブリングさせた水とメタノールとを混合し、得られる混合液と原料炭化水素油とを混合して乳化液を作製し、この乳化液と、二酸化炭素を含む気体とを接触させることを含み、
前記二酸化炭素は、燃焼ガスから回収された二酸化炭素を含むことを特徴とする、炭化水素油の増量方法。
リパーゼを含む酵素又はゼオライト若しくはゼオライト様の物質の存在下で空気をバブリングさせた水とメタノールとを混合し、得られる混合液と原料炭化水素油とを混合して乳化液を作製し、この乳化液と、二酸化炭素を含む気体とを接触処理し、得られる処理物から炭化水素油を採取することを含み、
前記二酸化炭素は、燃焼ガスから回収された二酸化炭素を含むことを特徴とする、炭化水素油の製造方法。
リパーゼを含む酵素又はゼオライト若しくはゼオライト様の物質の存在下で空気をバブリングさせた水とメタノールとを混合する混合槽と、この混合槽に含まれる混合液と炭化水素油とを混合して乳化液を作製する乳化液作製槽と、作製された乳化液と二酸化炭素とを接触させる接触槽とを備え、
前記二酸化炭素は、燃焼ガスから二酸化炭素を回収する装置によって回収された二酸化炭素を含むことを特徴とする
炭化水素油の生成装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、メタノールを含む水と燃料炭化水素を混合して乳化状態にし、乳化状態のメタノール/水/燃料炭化水素混合溶液と、二酸化炭素を含む気体又は水溶液とを接触させることにより、燃料炭化水素の増量を行うというものである。本発明の方法により得られる燃料炭化水素は、原料の燃料炭化水素と比較して少なくとも10%、好ましくは20%、より好ましくは30%、さらに好ましくは40%も増量されている。例えば、生成された燃料炭化水素の増加割合は、原料の燃料炭化水素の10%〜100%であり、好ましくは10%〜50%であり、さらに好ましくは30%〜50%である。
従って、本発明により、極めて効率的に燃料炭化水素を製造することができる。
本発明は、以下の工程を含む。
(i) 触媒の存在下で空気をバブリングさせることにより水を活性化させる水処理工程。
(ii) 活性化した水と炭化水素油とメタノールを混合して乳化液を作製する工程。
【0014】
(iii) 乳化液と、二酸化炭素とを接触させる工程。
ここで、水処理工程の後に混合工程を実施し、さらにその後に反応工程を実施する代わりに、水処理工程と混合工程とを同時に実施したり、混合工程と反応工程とを同時に実施することもでき、さらには、水処理工程、混合工程及び反応工程をすべて同時に実施することもできる。
【0015】
本発明において、上記(i)から(iii)までの工程における反応式は 次式(1)及び(2)によって示される。
【0016】
CO
2 + H
2O +C
nH
2n+2= C
n+1H
2n+4 + 3/2O
2 (1)
CH
3OH +C
nH
2n+2= C
n+1H
2n+4 + H
2O (2)
二酸化炭素が関与する上記式(1)は、以下の連鎖反応で表現することができる。
CO
2+ 2H
2O → CH
3OH + 3/2O
2 (3)
CH
3OH +C
nH
2n+2→ C
n+1H
2n+4+ H
2O (4)
使用する水は、活性種(例えば活性酸素やヒドロキシラジカル)を含む状態にすることが好ましい。活性種を含むようにするためには、水をヒドロキシラジカル化するほか、水処理工程において、リパーゼ等の酵素を水に混合したり、ゼオライトもしくはゼオライト様の物質を反応系に含めることによりなされる。また、所定時間空気にてバブリングすることが好ましい。例えば、上記(1)及び(2)に示す式の反応が常温化でなされるように活性化するためには、常温下で72時間バブリングすることが好ましいが、原料の水の状態により適意時間を変更しても構わない。また、混合工程は、全体が均質となるように実施することが好ましい。
【0017】
本発明において、炭化水素油とは、炭化水素を主成分とし、常温常圧下(例えば温度15度及び1気圧)において液状を呈するものを意味し、C
nH
2n+2又はC
n+1H
2n+4で示される物質である(鎖式飽和炭化水素)。nは、例えば1〜40であり、好ましくは1〜20である。このような炭化水素油としては、重油、軽油(例えばn=10〜20)、ガソリン(例えばn=4〜10)、ナフサ、ケロシン(例えばn=10〜15)、灯油(例えばn=9〜15)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、本明細書においては、炭化水素油を「燃料炭化水素」又は「燃料油」ともいう。同様に触媒の存在下で空気をバブリングさせた水を「酵素水」又は「水」ともいう。
本発明にかかる燃料炭化水素の生成方法は、その生成装置として、特開2012―72199に開示された燃料製造装置を利用することにより実施することができる。すなわち、
図1は、水を活性化する水処理装置1の構成図である。水処理装置1は、複数の混合槽11(11a〜11d)と、安定化槽14と、各槽に空気を送り込むブロワーポンプ15と、各槽間で液体を移動させるポンプPと、その移動の際に不純物などを除去するフィルタFとで構成されている。混合槽11a〜11dは、図示上下に2系統設けられており、両系統とも、混合槽11a,11b,11c,11dの順にポンプPとフィルタFとで接続されている。
【0018】
混合槽11aには、例えば軟水、酵素粉末(例えばEP−10)含むゼオライトもしくはゼオライト様の物質が、1000リットル、500gの割合で供給され、この軟水、酵素粉末及びゼオライトがブロワーポンプ15から供給される空気によって、例えば72時間、攪拌混合される。水と酵素粉末を含むゼオライトもしくはゼオライト様の物質の比率は、例えば軟水99.95%(重量比)に対して酵素粉末0.05%(重量比)程度とすることが好ましい。また、この酵素粉末を構成する酵素の由来は特に限定されるものではなく、動物由来であると植物由来であると微生物由来であるとを問わない。酵素は、リパーゼを主原料とすることが好ましく、リパーゼとセルラーゼで構成することがさらに好ましい。また、酵素は、二価酸化鉄を含むことが好ましい。また、酵素は、リパーゼを98%(重量比)、セルラーゼを2%(重量比)とすることがより好ましい。これらの酵素は、マンゴー、アボカド、パイナップル、ノニ、サジー等の果物から抽出することができる。また、市販の酵素を用いてもよい。酵素粉末は、このような酵素を熱乾燥させた粉末とし、保存性を高めて用いることが好ましい。
【0019】
この混合水は、一定時間経過後にポンプPによって次の混合槽11bへ移動される。この移動の際、フィルタFで不純物が取り除かれる。そして、混合槽11bでは、再度ブロワーポンプ15から供給される空気によって攪拌混合される。これを混合槽11dまで繰り返したのち、安定化槽14にてアルコールが添加される。このアルコールは、例えばメタノールやエタノールとすることができ、メタノールを用いることが好ましい。このアルコールの配合率は、例えば混合水に対してメタノール5%〜20%(重量比)程度とすることが好ましい。
アルコールが添加された精製活性水は、安定化槽14からポンプPにより取り出される。その際、3つのフィルタFにより不純物が取り除かれる。取り出された精製活性水は、適宜の容器に移す、あるいは、次の
図2に示す燃料製造装置2の活性水タンク22に貯留する。
本実施例において、水処理装置1によって活性化された水は、常温においても、反応工程において、原料油を加えたときに反応式(1)及び(2)の反応がなされるように活性化されている。
【0020】
図2は、均質混合装置2の構成図を示す。均質混合装置2は、原料油を貯留する油貯留部としての原料油タンク21、活性水を貯留する活性水貯留部としての活性水タンク22、2つの攪拌タンク23、制御盤24、パルス付与部25、ニュートン分離槽26、分離タンク27、精密フィルタ部28、完成タンク29、および排液タンク30により構成されている。
原料油タンク21は、原料となる油を貯留するタンクであり、貯留している原料油を必要量ずつ攪拌タンク23へパイプRを通じて注ぎ込む。原料油は、例えばA重油、B重油、C重油、軽油、灯油等とすることができ、この実施例ではA重油を用いる。
活性水タンク22は、活性水製造装置1で精製した活性水を貯留するタンクであり、貯留している活性水を必要量ずつ攪拌タンク23へパイプRを通じて注ぎ込む。
攪拌タンク23は、注ぎ込まれた原料油(この例ではA重油)と活性水を攪拌して反応させて燃料油を製造するタンクである。ここでの反応は、酵素による原料油の加水分解反応である。この攪拌タンク23に注ぎ込む原料油と活性水の比率は、原料油の種類によって適宜調整するとよく、例えば、A重油60%と活性水40%、軽油70%と活性水30%、あるいは、灯油70%と活性水30%といった比率にすることが好ましいが、原料油の性状により、さらに適意調整して構わない。
【0021】
制御盤24は、各部を制御する制御部であり、電力供給のON/OFFなどの各種制御を実行する。パルス付与部25は、攪拌タンク23で製造された燃料油に振動を与えて残渣物を取りやすくする。残渣物は、例えば反応し切れなかった水、重油中の不純物等である。
ニュートン分離槽26は、燃料油を貯留して重力によって残渣物を下方へ落とし、上方に残る燃料油を抽出する。
分離タンク27は、燃料油からさらに残渣物を分離する。精密フィルタ部28は、燃料油からフィルタによって残渣物を取り除く。完成タンク29は、完成した燃料油を貯留する。排液タンク30は、パルス付与部25およびニュートン分離槽26で発生した排液を貯留する。
【0022】
図3は、攪拌タンク23の構成を示す構成図である。攪拌タンク23は、略円筒形の攪拌空間40が設けられ、この攪拌空間40内に、攪拌器43(43L,43R)、及びポンプ44(44L,44R)が設けられている。攪拌器43は、図示左方の攪拌器43Lが攪拌空間40内の下方に設けられ、図示右方の攪拌器43Rが攪拌空間40内の上方に設けられており、それぞれが上下左右に分散配置されている。各攪拌器43は、ポンプ44(44L,44R)が接続されており、このポンプ44から燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物などが供給される。
ポンプ44Lは、吸入口41Lが上方に配置されたパイプが接続されており、ポンプ44Lが燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物を攪拌器43Lへ送り出すことによって、攪拌空間40内の燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物などを略均等に循環させている。
ポンプ44Rは、吸入口41Rが下方に配置されたパイプが接続されており、ポンプ44Lが燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物を攪拌器43Lへ送り出すことによって、攪拌空間40内の燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物などを略均等に循環させている。このポンプ44L,44Rは、いずれも30圧〜40圧のポンプを用いることが好ましい。
【0023】
図4は、攪拌器43の構成を説明する説明図である。攪拌器43は、内部中空の金属製であり、略円筒形の頭部51と、その下に続く逆円錐形の胴部59と、その下の後端部60とで主に構成されている。頭部51の上面中央には、円筒形の中心軸53が設けられている。この中心軸53は、上下方向に貫通する流入孔53a(
図5参照)が設けられており、この流入孔53aから燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物が流入する。
頭部51の側面の一部には、燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物が流入する流入口57が設けられている。この流入口57は、外から内へ貫通する孔であり、円筒形の連結カバー55で周囲が囲繞されている。連結カバー55の内面にはネジ溝56が設けられており、ポンプ44と連結するパイプが取り付けられる構成になっている。
また、流入口57の位置および連結カバー55の向きは、
図4(B)のA−A断面図に示すように、攪拌器43の中心より偏心して内周へ向かって燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物が流入するように構成されている。これにより、流入口57のから流入した燃料油等が、円筒形の中心軸53を軸にして効率よく回転する。
図5のB−B断面図に示すように、攪拌器43の内部には、内周に沿って複数のピン63が立設されている。この複数のピン63は、それぞれが交差しないように隙間を空けて配置されている。例えば、0.03mmのピンを、10mm程度の間隔を開けて55〜80本設けるとよい。
【0024】
攪拌器43の後端部60には、排出孔61が設けられている。このように構成された攪拌器43は、油と活性水を効率よく攪拌して分解反応させることができる。詳述すると、流入口57から流入した燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物は、中心軸53の周囲を回転しつ、排出孔61へ向かって回転半径が徐々に小さくなる竜巻状に移動する。その際、内部に設けられた複数のピン63によって攪拌される。また、竜巻状に回転することによって、中心軸53の下方付近に負圧が発生し、これによって流入孔53aから燃料油、活性水、あるいは活性水と油の混合物が流入する。すなわち、
図3に示した攪拌器43Lは、吸入口41Lから吸入する主に油をポンプ44Lによって流入口57から取り込み、流入孔53aから主に活性水を取り込んで攪拌する。これと逆に攪拌器43Rは、吸入口41Rから吸入する主に活性水をポンプ44Rによって流入口57から取り込み、流入孔53aから主に油を取り込んで攪拌する。この攪拌器43により、強力な水圧の中で活性水と油を激突させて攪拌し、反応式(1)の反応を促進させることができる。
この攪拌器43を備えた攪拌タンク23にて所定時間(例えば15分〜20分程度)攪拌すると、攪拌器43内で竜巻状に移動して攪拌されている油と酵素が300回から500回接触し、加水分解反応が促進されて分子構造が小さくなり、比重も軽くなる。
【0025】
図6(A)は、パルス付与部25に設けられるパルスフィルタ70の斜視図である。このパルスフィルタ70は、2つのラインミキサーの間に設けられ、格子状の間仕切り71の間に形成される孔に燃料油を通過させる。このパルス付与部25(特に間仕切り71)は、セラミック焼成体で形成されている。
間仕切り71は、内部でスクリュー状に緩やかにねじれており、流入してきた燃料油を振動させ、反応を促進させる。これにより、不純物を取り除きやすい状態にすることができる。
図6(B)は、精密フィルタ部28に設けられる精密フィルタ80の斜視図を示す。この精密フィルタ80は、メッシュ状の素材で形成された円筒形の筒部82の周囲に、中心から放射状に広がるフィルタ81が設けられている。このフィルタ81に対して外周から筒部82内へ向けて燃料油を通過させることで不純物を取り除くことができる。
フィルタ81は放射状に設けられているため、
図6(C)の一部拡大平面図に示すように、基部側81aから先端側81cまでの板状面81b全体で燃料油を通過させることができる。このため、基部側81aに不純物が蓄積してきて通過しづらくなっても、板状面81bで燃料油を問題なく通過させて不純物を取り除くことができる。
【0026】
図7は、本発明にかかる接触槽としてのニュートン分離槽26の縦断面図を示す。ニュートン分離槽26は、底部付近に設けられた傾斜板96と、その上方位置に交互に複数設けられた高位板92と低位板93とで主に構成され、前段に液体流入口91が、後段に液体排出口95が設けられている。高位板92は、下端と傾斜板96の間に空間が設けられており、燃料油が前後へ移動できるように構成されている。低位板93は、上端が高位板92より低く形成されており、貯留している燃料油の上部を溢れさせて隣の貯留部に移動させることができる。この低位板93は、下端部に可動板94が設けられており、この可動板94の下端が傾斜板96に接触するように構成されている。高位板92と低位板93は、この順で交互に並べて構成されており、傾斜板96の傾斜に合わせて下端が次々に短くなるように構成されている。
【0027】
この構成により、液体流入口91から第1貯留部90aに流入した燃料油は、不純物が下方へ蓄積して精製されるとともに、反応式(1)及び(2)により燃料油が生成されて、次の第2貯留部90bへあふれ出る。これを第1貯留部90aから第4貯留部位90dまで繰り返して綺麗になった燃料油は、液体排出口95から排出される。
各貯留部90a〜90dで沈殿した不純物は、傾斜板96に沿って下方へ移動する。この際、可動板94が開いて不純物が下方へ移動することを許容する。なお、この可動板94は、逆方向には開かないため、不純物が逆流することはない。
傾斜板96に沿って下方へ移動した不純物は、回収開口部97からバルブ99aを介して回収部98へ移動し、この回収部98内に回収される。バルブ99aは、間欠的に開閉動作し、ある程度残渣が溜まれば開放して回収部98に回収し、閉鎖する。このとき、回収部98の上部付近に設けられた排気バルブ99cより排気される。回収部98に回収した不純物は、回収バルブ99bから取り出して廃棄等するとよい。
【0028】
なお、攪拌器43は、
図8に示すように異なるタイプの攪拌器43Aを用いてもよい。この攪拌器43Aは、後端部60に排出孔が設けられていない。また、上述した実施例の中心軸53の代わりに中心パイプ54が設けられている。この中心パイプ54は、内部に中空部67を有する円筒形状を有しており、その上端67aが燃料油の排出口として機能する。このように構成された攪拌器43Aは、流入口57から流入した活性水と油を回転させ、回転半径を小さくしながら竜巻状に下方へ移動させ、中心パイプ54の下端から上端へ移動して上端から排出される。この攪拌器43Aも、上述した実施例の攪拌器43と同一の作用効果を奏することができる。
以上に説明した水処理装置1、均質混合装置2及びニュートン分離槽26により、反応式(1)及び(2)による反応をなさしめ、燃料油を生成することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
燃料油の生成試験
本発明者は、上記装置を用いて燃料炭化水素の生成試験を行った。この試験では、上述した発明を実施するための形態に記載した装置を用い、同形態に記載した方法を採用した。
【0030】
<試験結果>
本試験では、原料油として軽油を用い、新燃料として、原料油とメタノール/活性水と混合して調製した燃料(混合体積比は、370:150)を得ることができた。
本試験により、投入した物質は、次のとおりである。
【0031】
比 重 体積(リットル) 質量(kg)
軽油 0.845 3364.30 2842.83
酵素水 1 7057.10 7057.10
メタノール 0.79 412.60 325.95
合計 10834.00 10225.89
これに対し、オーバフローした新燃料と各タンクの残量の合計は、次のとおりである。
軽油 0.845 4923.92 4160.71
メタノール酵素水 0.975 5587.96 5448.26
合計 10511.88 9608.97
よって、軽油の収支は+1317.88kg、メタノール酵素水の収支は−1934.80kgとなり、全収支は−616.92kgとなり、軽油の増加率は46.36%にも及ぶことができた。
【実施例2】
【0032】
追加試験
また、実施例1の後に行った同様の追加試験でも、下記のデータが得られた。
【0033】
[追加試験1による生成分]
全体物質収支 −16.0kg
成分物質収支
軽油 126.5kg
水 −117.1kg
メタノール −25.3kg
軽油増加率 40.2%
[追加試験2による生成分]
連続9バッチ(1バッチ 370リットルの軽油)の生成試験を実施した。
【0034】
投入軽油 :2813.85kg
生成軽油 :3826.88kg
軽油増加率:36%
[追加試験3による生成分]
投入量(総計9768.1kg)
ニュートンタンク準備
メタノール酵素水(ロードセル測定数値:7036.0kg、メタノール濃度0.786%)
(内訳:酵素水(6980.7kg)、メタノール(55.3kg)、軽油(無し))
1クール(6バッチ)投入総量
メタノール酵素水:868.6kg((i)145.3、(ii)144.0、(iii)145.6、(iv)143.6、(v)145.2、(vi)144.9)kg
軽油:1863.5kg(2218.45l、比重0.840)((i)310.3、(ii)310.3、(iii)311.1、(iv)310.3、(v)311.3、(vi)310.2)kg
(基本準備:酵素水130kg/130l、メタノール25.7kg/32.5l、軽油319.2kg/380l)
回収量(総量9608.6kg)
全行程1クール(6バッチ)終了後、手作業にて質量を計測した。
【0035】
メタノール酵素水:7092.7kg
軽油:2515.9kg(2995.12l、比重0.84)
マスバランス(−159.5kg)
投入量−回収量=9768.1kg−9608.6kg= −159.5kg
ここで、ロードセルの測定値によると総重量が−140kgとなっていたため、実質的な質量の増減は約19.5kg程度となる。
【0036】
メタノール酵素水の増減:−811.9kg(投入量7904.6kg−回収量7092.7kg)
軽油の増減:+652.4kg(投入量1863.5kg−回収量2515.9kg、776.6l)
軽油増加率:35.0%
【実施例3】
【0037】
試験結果の検証
上記試験結果の物質収支データに基づき、増量した軽油の炭素源を検証した。
まず、物質収支データに基づく軽油増量の炭素源を検証すると、新燃料生成によって得られた物質収支データから、以下の点が明らかとなった。
【0038】
1)メタノールの減少量だけでは、軽油増量を説明できないことから、別の炭素源が存在することが明らかになった。
【0039】
2)水の減少が明確に観測されたことから、メタノール以外の炭素源が必要であり、化学反応式(12)(二酸化炭素が反応に関与すると水が消費される)が成り立つと考えざるを得ないことから、空気中の二酸化炭素が軽油増量の炭素源(カーボンソース)となると考えて差し支えない。
上記より、炭素源がメタノール以外に必要であり、二酸化炭素が反応に関与すると水が消費されることから、空気中の二酸化炭素が軽油増量の炭素源(カーボンソース)となり得ることが示された。なお、実施例1、2における軽油の生成率が異なる点については、反応式(1)〜(4)から、水が増加のための原料であり、この水の性状(pH、硬度、濁度など)により生成率が異なること等が考えられるものの、上記実施例より、概ね30%以上の増量が可能であることは実証できた。
【実施例4】
【0040】
炭素源の検証
二酸化炭素が軽油増量の炭素源となるかどうかを調べるため、炭素安定同位体13Cが軽油中の炭化水素に導入されるかどうかの検証を次の手順で行った。
<実験手順>
1)内容量約500mlのPETボトル(容器1)を、13Cで標識したCO
2で満たし、密栓した。
2)パルスタンクから流出する混合液100g(液温30.5℃)を容器1に入れて、密栓した。
3)5秒ほど振とうして静置した。その際、容器1が潰れることを確認した。
4)上記操作を完了してから6日後、炭素安定同位体比δ13Cをサーモフィッシャーサイエンス社DELTA V ADVANTAGEを使用して計測した。
この計測は、同位体研究所(横浜市鶴見区末広町1−1−40横浜市産学共同研究センター内、代表取締役:塙章)により行った。
2回の分析(分析1、分析2)の結果、炭素安定同位体比(δ13CvsPDB)が、分析1では−26.4(%)であり、分析2では−27.8(%)であった。
すなわち、13Cと接触させた軽油のδ13Cが、元軽油のδ13Cと比較して、1.4‰値が高くなっている。これは、13Cの含有量が元軽油と比較して高いことを示している。したがって、二酸化炭素が軽油増量の炭素源(カーボンソース)となることが実証された。
【0041】
このように、新燃料製造時の物質収支と炭素安定同位体13Cを用いた反応試験により、軽油増量のための炭素源(カーボンソース)として、メタノールだけではなく、二酸化炭素が関与していることが実証された。
つまり、大気中の二酸化炭素の炭素を炭素源とした場合、この炭素を人工的に固定することができ、これを原料として燃料(上記実施例では軽油)を合成(増量)することが副次的に示された。本件発明によって実現される化学反応式より、二酸化炭素を取り込んで、酸素を放出し、炭素を燃料という形でエネルギー源に変換していることから、もはや人工光合成と言って差し支えない反応が生じていることは明らかである。そして、驚くべきことに、上記の反応式(1)(2)による反応が、本件実施例では、高温高圧をかけることなく、すべて常温下にてなされている。もっとも、本件発明は、これらの反応式(1)(2)による反応をすべて常温下にてなされることのみに限定されるものではない。例えば、いずれかの工程を加温下ないしは加圧下で行うことにより、さらなる短時間で高性能のメタノールまたは燃料炭化水素を生成することもできる。
【0042】
なお、上記実施例では、燃料(軽油)と反応させたが、反応式(1)によって取り込んだ炭素はメタノールとして利用可能なことから、当該メタノールをさまざまな化学製品の原料や燃料そのものに加工することができ、その応用範囲は広い。
さらに、最近、燃焼ガスから二酸化炭素を回収する装置が多数発表されている。現在、この装置から回収された二酸化炭素は、大深度地下の地殻内に廃棄されているが、この回収した二酸化炭素を本発明の反応系に組み込むことが可能であり、炭素循環の効果が生まれ、大気中の二酸化炭素を増やすことなく燃焼が可能となるし、この場合には、高濃度の二酸化炭素を反応させることができるので、より効率の良いメタノールまたは燃料の生成をすることができる。
【0043】
以上より、本発明は、地球環境の視点からも、画期的な技術であるといえる。
なお、炭素安定同位体比(δ13C:デルタ13C)について、補足する。すなわち、元素や同位体の絶対濃度の直接測定することは極めて困難なので、同位体の相対存在比を測定する方法が一般的に採用されている。安定同位体比δは、標準物質の安定同位体存在比と分析サンプルの安定同位体存在比がどれくらい隔たっているか(ずれ)が、千分率(1/1000:パーミル)で示される。炭素(C)の標準物質は、矢石(PDB:Pee Dee ベレムナイト アメリカ・ノースキャロライナ州のPee Dee層に算出する矢石(イカの仲間の化石)の炭酸カルシウム)で、12Cが98.894%、13Cが1.106%である。
【実施例5】
【0044】
実施例4の検証
実施例4までの説明において、二酸化炭素が炭化水素油増量の炭素源であることを理論的に検証してきたが、実際に二酸化炭素の存在による増量について試験を実施した。なお、装置の構造上、完全に(例えば大気中の)二酸化炭素を遮断できない構造のため、強制的に二酸化炭素を曝露させた場合の挙動について試験を行った。
【0045】
<試験手順1>
パルスタンクから流出される混合液50gをサンプリングして500mlの密閉容器に入れ、以下の条件にて増量の程度を計測した。計測は、上記サンプリングから1時間後に行った。
【0046】
・ 容器内の空隙が大気の場合(通常の場合、二酸化炭素濃度は300ppm程度である)
増量:約15%
・ 容器内の空隙を二酸化炭素で完全に満たした場合
増量:約26%
(i) においても増量されているのは、撹拌タンク・パルスタンク内が開放構造であり、大気に曝露されることと、投入したメタノールの反応とによるものである。(i)と(ii)の違いは曝露されている二酸化炭素濃度の違いだけであり、(ii)が大きく増量しているのは混合液に曝露される二酸化炭素の濃度が高く、反応が早く進行したものと考えることができる。
上記試験により、1時間後に増量の差が確認でき、二酸化炭素の存在によって反応時間の短縮が示唆されたため、次に二酸化炭素濃度の違いによる反応時間の差について試験を実施した。
【0047】
<試験手順2>
パルスタンクから流出される混合液50gをサンプリングして500mlの透明密閉容器に入れ、以下の条件にて増量の時間経過を計測した。
【0048】
・ 容器を密閉せず、大気に開放した場合(通常の場合、二酸化炭素濃度は300ppm程度である)
約30%まで増量する時間:約22時間
・ 容器内の空隙を二酸化炭素で完全に満たし、密閉した場合
約30%まで増量する時間:約90分
上記の試験結果より、積極的に二酸化炭素を曝露することで、反応時間を短縮する可能性を確認することができた。
【実施例6】
【0049】
酸素が発生することを示す化学反応式CO
2+ H
2O +C
nH
2n+2 = C
n+1H
2n+4+ 3/2O
2の化学反応式(1))のように、実際に反応中に酸素が発生されているかどうかを、酸素検知管を用いることにより定性的に確認した。
【0050】
<試験手順>
撹拌タンクの稼働中にタンク上部の気体をサンプリングし、酸素検知管にて酸素濃度を計測した。また、タンク近傍の大気(バックグラウンド)についても同様に行った。
【0051】
・ タンク近傍の大気(バックグラウンド)
酸素濃度:約21%
・ 撹拌タンク内の気体
酸素濃度:約22.5%〜23%
この試験結果により、上記化学反応式(1)において、酸素が発生することを確認することができた。