特許第6466922号(P6466922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6466922
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】電子素子のための界面層
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/155 20060101AFI20190128BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190128BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20190128BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   G02F1/155
   H05B33/14 A
   H05B33/28
   H05B33/10
【請求項の数】15
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-516249(P2016-516249)
(86)(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公表番号】特表2016-520876(P2016-520876A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】GB2014051668
(87)【国際公開番号】WO2014191770
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年5月29日
(31)【優先権主張番号】1309717.5
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ニール マクスポーラン
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー ロバート ニコル
(72)【発明者】
【氏名】デイビット アラン ストリックラー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン デイビッド サンダーソン
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−505941(JP,A)
【文献】 特表2011−525049(JP,A)
【文献】 特表2010−538960(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0098435(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/155
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック素子又は有機発光ダイオードに用いられる、透明基板上に存在する導電性コーティングスタックを備える透明導電性電極であって、
前記スタックは、
少なくとも2つの下層(2、3)であって、該下層の1つがSnOの層を備え、該下層のもう1つがSiOの層を備える、下層と、
前記少なくとも2つの下層の上に直接的に存在する透明導電性酸化物(TCO)層(4)であって、フッ素ドープ酸化スズを備える、透明導電性酸化物層とを備え、
前記電極は、前記透明導電性酸化物層の上に直接的に存在する界面層(10)によって特徴付けられ、前記界面層は、TiO、SiO、SnO、又はZnOを備え、
6〜20Ω/sqの抵抗を有する、電極。
【請求項2】
前記界面層は、5nmを上回る厚さを有するTiO層を備える、請求項に記載の電極。
【請求項3】
前記界面層はZnOを備え、25〜80nmの厚さを有する、請求項に記載の電極。
【請求項4】
エレクトロクロミック素子内に組み込まれた、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
有機発光ダイオード内に組み込まれた、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子又は有機発光ダイオードに用いられる透明導電性電極を製造する方法であって、
i)透明基板上に、少なくとも2つの下層であって、該下層の1つがSnOの層を備え、該下層のもう1つがSiOの層を備える下層を形成するステップと、
ii)前記少なくとも2つの下層の上に直接的に、フッ素ドープ酸化スズを備える透明導電性酸化物(TCO)層を形成するステップと
を備え、前記TCOの上に、TiO、SiO、SnO、又はZnOの層を備える界面層を形成することによって特徴付けられる方法。
【請求項7】
前記下層、TCO、および界面層は、化学蒸着(CVD)によって形成される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記下層、TCO、および界面層は、スパッタリングによって形成される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記下層、TCO、および界面層は、フロートガラス製造工程中に連続ガラスリボン上に形成される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記下層、TCO、および界面層は、プラズマ促進CVDによって形成される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記界面層は、TiO、SiO、およびZnOから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項12】
TiO前記界面層を、5nmを上回る厚さに形成する前記ステップを備える、請求項に記載の方法。
【請求項13】
ZnOの前記界面層を、25〜80nmの厚さに形成する前記ステップを備える、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記界面層を紫外線(UV)に晒すステップを更に備える、請求項6〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
透明導電性電極として、透明基板上に存在する導電性コーティングスタックをエレクトロクロミック素子又は有機発光ダイオードに使用することであって、
前記スタックは、
少なくとも2つの下層であって、該下層の1つがSnOの層を備え、該下層のもう1つがSiOの層を備える、下層と、
前記少なくとも2つの下層の上に直接的に存在する透明導電性酸化物(TCO)層であって、フッ素ドープ酸化スズを備える、透明導電性酸化物層とを備え、
前記電極は、前記透明導電性酸化物層の上に存在する界面層によって特徴付けられ、前記界面層は、TiO、SiO、SnO、又はZnOを備え、前記電極は、6〜20Ω/sqの抵抗を有する、導電性コーティングスタックを使用すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性電極において生成される素子内に含むための界面層に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの基本的に平坦な電極の間に存在するアクティブ領域を備える、光の発生や加工に関する数々の電子素子が知られている。素子からの(または素子への)光伝送を容易にするために、少なくとも1つの電極は透明でなければならない。
【0003】
そのような素子は、有機発光ダイオード(OLED)およびエレクトロクロミック素子を含む。
【0004】
OLEDにおいて、1または複数の有機化合物の層を備える発光エレクトロルミネセンス層が電極間に存在し、印加された電圧に反応して発光する。
【0005】
エレクトロクロミック素子において、組み合わさるとエレクトロクロミック特性を示す材料のスタックが電極間に存在し、印加された電圧に反応して色や不透明度を変化させる。
【0006】
本発明に係る類の素子は通常、透明基板および導電性コーティングスタックを備える透明導電性電極を設け、素子のアクティブ領域および(これも透明であってよい)更なる電極を上に備える連続層を形成することによって製造される。透明導電性電極は多くの場合、当業者には良く知られている例えば化学蒸着(CVD)などの技術を用いて基板上に導電性コーティングスタックを形成することによって実現される。例えばUS7,968,201号を参照されたい。
【0007】
導電性スタックは通常、透明導電性酸化物(TCO)、すなわちドープ金属酸化物を最上層(すなわち、基板から最も離れた層)として備える。必要な電気特性および機械的安定性を提供することに加え、TCOは、素子の残りの部分が製造される際、更なる層の形成のために適した表面を提供しなければならない。透明導電性酸化物材料の例は、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、アルミニウム、ガリウム、またはホウ素がドープされた酸化亜鉛(ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B)、スズがドープされた酸化インジウム(ITO)およびスズ酸カドミウムを含む。
【0008】
残念ながら、これらの表面は本質的に粗いので、局部的な短絡を招き、短絡点から最大数ミリメートルのエリアからの電流を引き込み得る。その結果、望ましくない美的効果および素子の性能の低下が生じる。
【0009】
更に、TCO上に形成される素子におけるピンホールなどの欠陥も同様の問題をもたらし得る。
【0010】
本発明は、これらの問題の両方に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、透明電極は、本明細書に付随する請求項1において記載される特徴を備える。
【0012】
発明者は、電極スタックの頂部(TCO)と素子のアクティブ領域との間に薄い界面層を含むことにより、TCOの粗さに関連する問題が克服されることを示した。界面層材料の例は、TiO、SiO、SnO、およびZnO、およびそれらのいずれかを備える混合物を含む。これらの材料は高い電気抵抗を有するので、そのような界面層が含まれる場合に得られる素子性能は非常に良好である。
【0013】
好適な実施形態において、界面層は、5nmを上回る厚さを有するTiO層を備える。
【0014】
別の好適な実施形態において、界面層はZnOを備え、25〜80nmの厚さを有する。
【0015】
更なる好適な実施形態において、TCO層は、フッ素ドープ酸化スズを備える。
【0016】
いくつかの実施形態において、下層は、SnOの層およびSiOの層を備える。
【0017】
本発明に係る透明導電性電極は、例えばエレクトロクロミック素子および有機発光ダイオードなどの電子素子に組み込むために適している。
【0018】
本発明の第2の態様によると、透明導電性電極を製造する方法は、本明細書に付随する請求項8において記載されるステップを備える。
【0019】
好適な実施形態において、下層、TCO、および界面層は、化学蒸着(CVD)によって形成される。CVDは、フロートガラス製造工程中に生じるフロートガラスリボン上で行われ得る。
【0020】
別の好適な実施形態において、下層、TCO、および界面層は、プラズマ促進CVDによって形成される。
【0021】
別の好適な実施形態において、下層、TCO、および界面層は、スパッタリングによって形成される。
【0022】
好適には、界面層は、TiO、SiO、およびZnOから選択される。更に好適には、界面は、5nmを下回る厚さを有するTiOを備える。
【0023】
別の好適な実施形態において、界面層はZnOを備え、25〜80nmの厚さを有する。
【0024】
いくつかの実施形態において、TCO層は、フッ素ドープ酸化スズを備える。
【0025】
いくつかの実施形態において、下層は、SnOの層およびSiOの層を備える。
【0026】
例えばTiOやZnOなどの材料は、紫外線(UV)に晒されると、より親水性になる。本発明に係る界面層のそのような処理は、素子が製造される際、特に、後続する層がいわゆる「湿式」化学方法、すなわち溶液を伴う技術によって形成される場合、後続する層の形成に対する電極の受容性を高くする。
【0027】
本発明の別の態様において、透明導電性電極として、透明基板上に存在する、少なくとも1つの下層と下層の上に存在する透明導電性酸化物(TCO)層とを備える導電性コーティングスタックを使用することは、透明導電性酸化物層の上に存在する界面層を有する電極によって特徴付けられる。
【0028】
以下、本発明は、添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】従来技術の透明導電性電極を示す。
図2】本発明に係る透明導電性電極を組み込むエレクトロクロミック素子を示す。
図3】本発明に係る透明導電性電極を組み込む有機発光ダイオードを示す。
図4】基板上のコーティングの実験室規模の化学蒸着のために用いられるいわゆる「ダイナミックコータ」を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
全ての図面は、単に例示することを目的としており、層の相対的厚さは一定の縮尺ではない。
【0031】
図1を参照すると、本発明に係る類の透明導電性電極は通常、コーティング2、3および4から成る導電性スタックを支えるガラス基板1を備える。示される例において、日本板硝子株式会社のTEC(登録商標)シリーズの被覆ガラスを基礎として、スタックは、SnOの下層2およびSiOの下層3と、SnO:FのTCO層4とを備える。
【0032】
TCO層4は通常、(ここでは例示目的のために粗さの縮尺が大きくされているが)粗い表面を有し、それによって、上述したような素子動作中の問題を引き起こし得る。
【0033】
図2を参照すると、本発明に係るエレクトロクロミック素子は、透明電極1〜4、イオン蓄積層5、イオン伝導体(電解質)層6、エレクトロクロミック材料の層7、および更なる透明導電層8を備える。例えばガラスやプラスティックなどの透明材料の更なる層9も一般的に含まれるであろう。
【0034】
動作中、透明導電層4と8との間に電位が印加され、それによってエレクトロクロミック層7およびイオン蓄積層5に酸化還元反応が生じ、これはイオン伝導体層6全域にわたるイオンマイグレーションによる電荷補償を伴う。通常、イオン伝導体層6においてLiイオンが用いられる。
【0035】
これらの反応は、エレクトロクロミック層7の色/透過における変化を伴う。
【0036】
例えばスパッタリング、PECVD(プラズマ促進化学蒸着)、または溶液成膜など、当業者には良く知られている技術によって、様々な層が形成され得る。また当業者は、いくつかのエレクトロクロミック素子が、この例に示される層に加え追加の層を包み得ることが分かるであろう。
【0037】
本発明によると、素子は、TCO層4とイオン蓄積層5との間に更に界面層10を含む。この例において、界面層はTiOを備え、それを含むことによってTCO層4の粗さに関連する問題を緩和する。
【0038】
図3を参照すると、本発明に係るOLED素子は、透明電極1〜4、正孔注入層(HIL)11、正孔輸送層(HTL)12、1または複数の発光層13、正孔阻止層(HBL)14、電子輸送層(ETL)15、および更なる電極16を備える。
【0039】
動作中、電極間に電圧が印加され、発光層の領域における電子孔の再結合が「励起子」(電子孔結合の束縛状態)を引き起こし、それが弛緩すると可視領域における発光が生じる。そのように生じた光は、透明基板1を通って素子から抜け出る。
【0040】
本発明によると、素子は、TCO層4とHIL5との間に更に界面層10を含む。この例において、界面層はTiOを備え、それを含むことによってTCO層4の粗さに関連する問題を緩和する。
例1〜9
【0041】
一連のサンプルは3.2mmのガラス基板上に準備された。各サンプルは、TiO、SnO、またはSiOの界面層に覆われた様々な厚さのSiO(例9のみ)/SnO/SiO/SnO2:F層のスタックを含んでいた。サンプルは、観察されたシート抵抗および透過率の数値とともに、表1(層の厚さはオングストローム単位)に詳しく示される。
【0042】
スタック界面層は、大気圧CVDによって形成された。
【表1】
【0043】
TiOおよびSiOの抵抗率はいずれも1MΩ.cmを上回ることに留意する。これらのスタックが実際の素子に含まれる場合、隣接する層によって反射率が影響を受けるので、透過値は変化しやすい。
例10
【0044】
透明導電性酸化物は、構造ガラス/SnO(60nm)/SiO(15nm)SnO:F(720nm)を有するガラス基板上に形成された。25nmのアンドープ酸化スズが頂部に形成された。表2は、追加のアンドープ酸化スズ層がある場合およびない場合の特性を示す。意外にも、コーティングのシート抵抗は、高抵抗層の追加によってほとんど影響を受けない。
【表2】
【0045】
TCOが光起電モジュールにおいて用いられた結果、表3に示すようにVocおよびFFが向上した。
【表3】

例11〜16
【0046】
様々な基板にZnO層を形成するために一連の実験が行われ、本発明に係る界面層としてのこの材料の適合性が更に調査された。
【0047】
例11〜15について、形成は、図4に示すような「ダイナミック」実験室規模コータを用いて行われた。この装置において、予め混合された前駆体は、密封コーティング部に流入する前に前駆体の流れを均一にするバッフル部18に到達する前に、加熱管路17を通りコータへ向かって移動する。ガラス基板19は、密封コーティング部を取り巻く誘導コイル(不図示)によって、あるいは炭素ブロック内に挿入された加熱素子(不図示)のいずれかを用いて所望の温度に熱された加熱炭素ブロック20の上に乗っている。その後、無反応前駆体や副産物は全てフィッシュテール排気管21の方へ向かい、続いて焼却炉22へ向かう。矢印は、混合ガスが移動する方向を示す。
【0048】
反応体(DEZおよびt−ブチル酢酸塩)は、バブラー(不図示)にNキャリアガスを通過させることによって搬送された。DEZおよびt−ブチル酢酸塩のバブラー温度は、それぞれ100度および85度であった。反応体の量は、基板表面に到達する全ガスフローの観点から示される。
【0049】
例16は、フロートガラス製造工程中に生じるフロートガラスリボン上で、大気圧CVDによって「オンラインで」行われた。この場合、US5,090,985号に記載されるような薄いフィルム蒸発器が反応体を搬送するために用いられ、反応体の量は再び全ガスフローの百分率として示される。
【0050】
表4には、例11〜16を生成するために用いられる反応条件がまとめられる。SLPM=標準的なリットル/分であり、TEC10FS(登録商標)およびTEC10(登録商標)は、フッ素ドープ酸化スズを基礎とする透明導電性電極を設ける被覆ガラス基板を備える、日本板硝子グループの製品である。
【表4】
【0051】
表5には、例11〜16について、ZnOの厚さに関する計測値(オングストローム単位)、百分率ヘイズ、百分率可視透過(Tvis)、およびサンプルのシート抵抗Rsがまとめられる。
【表5】
【0052】
例11〜16の全てに関する透過レベルは、酸化亜鉛層の追加によって有意な吸収作用は一切生じないことを示す。シリカ被覆基板におけるヘイズレベルは本質的に滑らかなコーティングを示し、TEC10を被覆した場合の粗さレベルは基板の値と類似している。
【0053】
シート抵抗は保護膜によって僅かに増加しているが、PV素子に適した範囲に収まっている。
図1
図2
図3
図4