特許第6466977号(P6466977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6466977
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20190128BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20190128BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20190128BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20190128BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20190128BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190128BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   B05D1/36 A
   B05D1/38
   B05D7/14 A
   B05D7/24 302U
   B05D7/24 302V
   B05D7/24 302S
   B05D7/24 302T
   B05D7/24 302P
   B05D3/02 Z
   C09D5/00
   C09D175/04
【請求項の数】1
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2017-26041(P2017-26041)
(22)【出願日】2017年2月15日
(65)【公開番号】特開2018-130673(P2018-130673A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】安保 啓司
(72)【発明者】
【氏名】成田 義則
(72)【発明者】
【氏名】西中 宏
(72)【発明者】
【氏名】池浦 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】松原 一輝
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−193795(JP,A)
【文献】 特開2003−251276(JP,A)
【文献】 特開2004−073956(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0253449(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、下記工程(1)〜(4)を順次行なう複層塗膜形成方法であって、
工程(1):電着塗膜上に、水性中塗り塗料(X)を塗装して中塗り塗膜を形成する工程
工程(2):予備加熱後、中塗り塗膜上に、水性ベース塗料(Y)を塗装してベース塗膜を形成する工程
工程(3):予備加熱後、ベース塗膜上に、塗料中の樹脂成分固形分100質量部を基準として、カルボキシル基含有化合物40〜60質量部及びポリエポキシド60〜40質量部を含有するクリヤー塗料(Z)を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程
工程(4):前記工程(1)〜(3)で形成された中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化する工程
前記水性中塗り塗料(X)が、ガラス転移温度(Tg)が5〜15℃の範囲内であり、かつ重量平均分子量が30,000〜40,000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(A)、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であり、ポリエーテル骨格を有するポリウレタン樹脂(B)、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)を含有し、該水酸基含有アクリル樹脂(A)と該ポリウレタン樹脂(B)との使用比が固形分比で、20/10〜30/10の範囲内であり、該水性中塗り塗料(X)による加熱硬化後の形成塗膜の20℃における破断伸び率が20〜30%の範囲内であり、ヤング率が5,000〜6,000MPaの範囲内であり、ツーコン硬度が4〜6の範囲内の範囲内であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の塗装において、耐チッピング性及び部材を接着する際の接着強度に優れた複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体、特にその外板部には、優れた防食性や外観を付与することを目的として、一般に、鋼板上に、防食性に優れる下塗塗膜、平滑性および耐チッピング性に優れる中塗り塗膜、ならびに、外観に優れ、環境負荷からの耐性に優れる上塗り塗膜からなる複層塗膜が形成されている。
【0003】
自動車複層塗膜に求められる性能の一つとして耐チッピング性(チッピング:路上の小石等が飛びはねて、塗膜に衝突することによって起こる塗膜損傷)があり、主として中塗り塗膜に機能付与することにより、耐チッピング性の向上が図られてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、イソフタル酸を80モル%以上含有する酸成分と多価アルコールとの重縮合によって得られる水酸基含有ポリエステル樹脂と、脂肪族ジイソシアネート化合物とを反応して得られるウレタン変性ポリエステル樹脂(a);メラミン樹脂();活性メチレン基を有する化合物でブロックしたヘキサメチレンジイソシアネート化合物(c);コアシェル構造を有する非水ディスパージョン樹脂(d);及び扁平顔料(e);を含有する中塗り塗料、を用いる塗膜形成方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、電着塗膜、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順で形成された複層塗膜であって、−20℃において、前記中塗り塗膜のヤング率が35000kg/cm以上、かつ破断伸び率が2%以下であり、前記クリヤー塗膜のヤング率が35000kg/cm以下、かつ破断伸び率が5%以上である自動車等車体外板上の複層塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−211085号公報
【特許文献2】特開2006−239535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、前記上塗り塗膜としてカルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドを含有するクリヤー塗料を用いて形成する場合に、上記耐チッピング性が低下する場合があり、さらなる耐チッピング性の向上が課題とされている。
【0008】
例えば、特許文献1に記載の塗膜形成方法では、前記鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いる場合に、耐チッピング性が不十分となる場合がある。また、特許文献2に記載の複層塗膜では、前記鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、上記クリヤー塗膜をカルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドを含有するクリヤー塗料を用いて形成される場合に、耐チッピング性が不十分となる場合がある。
【0009】
また、自動車の製造仕様において、フロントガラスやリアガラス等のガラス部材等の部材は、一般的に上記上塗り塗膜上に接着剤層が形成され、該接着剤層を介して上記複層塗膜上に固定されているが、上記耐チッピング性の向上を、例えば中塗り塗膜の軟質化により図ろうとすると、該接着剤層下の複層塗膜が凝集破壊を起こしたり、電着塗膜と中塗り塗膜界面との間でハガレが生じたりすることにより、該部材との接着性が不良となる場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、前記鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、前記上塗り塗膜を形成する塗料としてカルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドを含有するクリヤー塗料を用いる場合においても、従来より優れた耐チッピング性を有し、さらにガラス部材等の部材を接着する際の接着強度にも優れた複層塗膜を形成させることができる複層塗膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、水性中塗り塗料、水性ベース塗料並びにカルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドを含有するクリヤー塗料を順次塗装して、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成する複層塗膜形成方法において、水性中塗り塗料が、特定範囲のガラス転移温度および重量平均分子量を有する水酸基含有アクリル樹脂(A)、特定範囲のガラス転移温度を有するポリウレタン樹脂(B)、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)並びに活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)を含有し、水性中塗り塗料における水酸基含有アクリル樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との使用比を特定範囲とし、かつ形成塗膜の破断伸び率、ヤング率およびツーコン硬度を特定範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、下記工程(1)〜(4)を順次行なう複層塗膜形成方法であって、
工程(1):電着塗膜上に、水性中塗り塗料(X)を塗装して中塗り塗膜を形成する工程
工程(2):予備加熱後、中塗り塗膜上に、水性ベース塗料(Y)を塗装してベース塗膜を形成する工程
工程(3):予備加熱後、ベース塗膜上に、塗料中の樹脂成分固形分100質量部を基準として、カルボキシル基含有化合物40〜60質量部及びポリエポキシド60〜40質量部を含有するクリヤー塗料(Z)を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程
工程(4):前記工程(1)〜(3)で形成された中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化する工程
前記水性中塗り塗料(X)が、ガラス転移温度(Tg)が5〜15℃の範囲内であり、かつ重量平均分子量が30,000〜40,000の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(A)、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であり、ポリエーテル骨格を有するポリウレタン樹脂(B)、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)を含有し、該水酸基含有アクリル樹脂(A)と該ポリウレタン樹脂(B)との使用比が固形分比で、20/10〜30/10の範囲内であり、該水性中塗り塗料(X)による加熱硬化後の形成塗膜の20℃における破断伸び率が20〜30%の範囲内であり、ヤング率が5,000〜6,000MPaの範囲内であり、ツーコン硬度が4〜6の範囲内の範囲内であることを特徴とする複層塗膜形成方法、に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層塗膜形成方法は、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、水性中塗り塗料、水性ベース塗料並びにカルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドを含有するクリヤー塗料を順次塗装して、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成する方法であって、水性中塗り塗料が、特定範囲のガラス転移温度および重量平均分子量を有する水酸基含有アクリル樹脂(A)、特定範囲のガラス転移温度を有するポリウレタン樹脂(B)、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)並びに活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)を含有し、水性中塗り塗料における水酸基含有アクリル樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との使用比を特定範囲とし、かつ形成塗膜の破断伸び率、ヤング率およびツーコン硬度を特定範囲に設定していることにより、鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用い、クリヤー塗膜に酸/エポキシ架橋型樹脂を用いた場合であっても、従来より優れた耐チッピング性を有し、さらに部材を接着する際の接着強度を向上させることができ、具体的には、ガラス接着部の複層塗膜の破壊を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の複層塗膜形成方法(以下、単に「本発明の方法」ともいう)は、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、下記工程(1)〜(4)を順次行なうものである。
工程(1):電着塗膜上に、水性中塗り塗料(X)を塗装して中塗り塗膜を形成する工程
工程(2):前記工程(1)で形成された中塗り塗膜を予備加熱後、その上に、水性ベース塗料(Y)を塗装してベース塗膜を形成する工程
工程(3):前記工程(2)で形成されたベース塗膜を予備加熱後、その上に、塗料中の樹脂成分固形分100質量部を基準として、カルボキシル基含有化合物40〜60質量部及びポリエポキシド60〜40質量部を含有するクリヤー塗料(Z)を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程
工程(4):前記工程(1)〜(3)で形成された中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化する工程
【0015】
なお、工程(4)に続いて、工程(5)として、クリヤー塗膜上に接着剤層を形成する工程を設けてもよい。
【0016】
以下、本発明の複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明の複層塗膜形成方法を適用する被塗物は、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、通常、自動車車体に用いられる。なお、自動車車体の素材には、公知の表面処理を適宜施すことができる。
【0018】
電着塗装に使用し得る電着塗料としては、カチオン型樹脂系及びアニオン型樹脂系のいずれであってもよく、また、水溶性型及び水分散型のいずれであってもよく、それ自体既知のものを使用することができる。自動車の塗装においては、防食性等の観点から、カチオン型樹脂系のものが一般的であり、本方法においてもカチオン型樹脂を含んでなるカチオン電着塗料を好適に使用することができる。
【0019】
カチオン電着塗料としては、具体的には例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の架橋性官能基及びカチオン性基を有するカチオン型の基体樹脂(例えば、アミノ基含有化合物で変性したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂等)と、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の架橋剤とを含有するカチオン電着塗料を挙げることができる。
【0020】
カチオン電着塗料には、通常、さらに必要に応じて、基体樹脂の中和剤、着色顔料、防錆顔料、体質顔料、親水性有機溶剤等が配合されることが好ましい。
【0021】
電着塗料の塗装は使用される電着塗料に応じた常法により行うことができる。カチオン電着塗料による場合、具体的には例えば、固形分質量濃度が約5〜約40質量%の範囲内になるように脱イオン水等で希釈し、pHを通常5.5〜8.0の範囲内に保持して常法により電着塗装することができる。塗膜は通常約140〜約210℃の温度、好ましくは150〜180℃の温度で、通常10〜60分間、好ましくは20〜30分間加熱して硬化せしめることができる。また、塗装膜厚は、硬化塗膜に基づいて約10〜約60μmであることが好ましく、特に15〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
<工程(1)>
本発明の方法によれば、まず、工程(1)として、電着塗装された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の電着塗膜上に、水性中塗り塗料(X)が塗装され、中塗り塗膜が形成される。一般に、中塗り塗料は、下塗り塗膜と上塗り塗膜の間に中塗り塗膜層を形成させ、複層塗膜層間の付着性向上に寄与し、被塗物表面の粗度隠蔽による仕上がり外観、及び耐チッピング性向上等の目的で塗装される塗料である。
【0023】
<<水性中塗り塗料(X)>>
本発明の方法において、水性中塗り塗料(X)は、水酸基含有アクリル樹脂(A)、ポリウレタン樹脂(B)、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)を含有し、その他必要に応じて顔料(F)、有機溶剤(G)を含有する塗料組成物である。
【0024】
<<水酸基含有アクリル樹脂(A)>>
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、例えば、水酸基含有不飽和モノマー及び場合によりさらに該モノマーと共重合可能な他の不飽和モノマーを包含する少なくとも1種の不飽和モノマー成分を通常の条件で(共)重合せしめることによって製造することができる。
【0025】
水酸基含有不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物;(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物のε−カプロラクトン変性体;アリルアルコール;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
【0027】
また、上記水酸基含有不飽和モノマーと共重合可能な他の不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業社製)、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−トなどのアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートなどのイソボルニル基を有する不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレートなどのアダマンチル基を有する不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、フェニル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートなどのパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィンなどのフッ素化アルキル基を有する不飽和モノマー;マレイミド基などの光重合性官能基を有する不飽和モノマー;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニルなどのビニル化合物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレートなどのカルボキシル基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチル
アミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物などの含窒素不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩などのスルホン酸基を有する不飽和モノマー;2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェートなどのリン酸基を有する不飽和モノマー;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収性基を有する不飽和モノマー;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの紫外線安定化性能を有する不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)などのカルボニル基を有する不飽和モノマー化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg)が5〜15℃の範囲内である。Tgを該範囲とすることにより、耐チッピング性を向上させることができる。
【0029】
なお、本明細書において、水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、下記式により算出される値である。
1/Tg(K)=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn
Tg(℃)=Tg(K)−273
式中、W1、W2、・・・Wnは各モノマーの質量分率であり、T1、T2・・・Tnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。
なお、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK Fourth Edition,J.Brandrup,E.h.Immergut,E.A.Grulke編(1999年)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0030】
また水酸基含有アクリル樹脂(A)は、重量平均分子量が30,000〜40,000の範囲内である。重量平均分子量を該範囲とすることにより、耐チッピング性を向上させることができる。
【0031】
また、水酸基含有アクリル樹脂(A)は、貯蔵安定性や得られる塗膜の耐水性などの観点から、通常1〜200mgKOH/g、好ましくは2〜100mgKOH/g、より好ましくは3〜60mgKOH/gの範囲内の水酸基価、及び通常1〜200mgKOH/g、好ましくは2〜150mgKOH/g、より好ましくは5〜100mgKOH/gの範囲内の酸価を有することができる。
【0032】
<<ポリウレタン樹脂(B)>>
ポリウレタン樹脂(B)は、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以下であり、ポリエーテル骨格を有する。ポリウレタン樹脂(B)としては、下記のウレタン樹脂エマルション(B1)が好ましい。
【0033】
ウレタン樹脂エマルション(B1)としては、例えば、常法に従いポリイソシアネート成分(b1)及びポリオール成分(b2)から製造されるウレタン樹脂エマルションを挙げることができる。
【0034】
ポリイソシアネート成分(b1)としては、例えば、ジイソシアネート、及びその他のポリイソシアネートを挙げることができる。
【0035】
ウレタン樹脂エマルション(B1)の原料となるジイソシアネートとしては、特に制限を受けず、当該技術分野で広く知られているジイソシアネートを一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トランス−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4及び/又は(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0036】
好ましい実施形態において、上記のジイソシアネートは、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。また、ポリイソシアネート成分(b1)における、ジイソシアネートの含有量(質量%)は、耐チッピング性の点から、10〜60%が好ましく、20〜40%がより好ましい。
【0037】
ウレタン樹脂エマルション(B1)の原料となるその他のポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネートである。例えば、上記例示のジイソシアネートのイソシアヌレート三量化物、ビューレット三量化物、トリメチロールプロパンアダクト化物等;トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等の三官能以上のイソシアネート等が挙げられ、これらのイソシアネート化合物はカルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0038】
ポリオール成分(b2)としては、ポリウレタン樹脂(B)にポリエーテル骨格を付与するために、ポリエーテル骨格を有するポリオールが挙げられる。このようなポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;多価アルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のアルコール等が挙げられる。ポリウレタン樹脂(B1)がポリエーテル骨格を有することにより、優れた耐チッピング性を提供することができる。
【0039】
ポリイソシアネート成分(b1)とポリオール成分(b2)との使用割合は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、ウレタン樹脂エマルション(B1)の製造に用いられるポリイソシアネート成分(b1)及びポリオール成分(b2)の合計質量に対して、ポリオール成分(b2)が好ましくは40〜90質量%、より好ましくは50〜80質量%用いられる。
【0040】
ポリイソシアネート成分(b1)及びポリオール成分(b2)の他、ウレア結合の形成、高分子量化等のために、原料に、必要に応じてアミン成分(b3)を使用することができる。アミン成分(b3)としては、例えば、モノアミン化合物、ジアミン化合物を挙げることができる。
【0041】
モノアミン化合物としては、特に制限を受けず、当該技術分野で広く知られているモノアミン化合物を一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該モノアミン化合物としては、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、2−プロピルアミン、ブチルアミン、2−ブチルアミン、第三ブチルアミン、イソブチルアミン等のアルキルアミン;アニリン、メチルアニリン、フェニルナフチルアミン、ナフチルアミン等の芳香族アミン;シクロヘキサンアミン、メチルシクロヘキサンアミン等の脂環式アミン;2−メトキシエチルアミン、3メトキシプロピルアミン、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミン等のエーテルアミン;エタノールアミン、プロパノールアミン、ブチルエタノールアミン、1−アミノ−2−メチル−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルアミノプロピルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。中でもアルカノールアミンがポリウレタン分子に対して良好な水分散安定性を与えるので好ましく、2−アミノエタノール、ジエタノールアミンが低コストなのでより好ましい。
【0042】
ジアミン化合物としては、特に制限を受けず、当該技術分野で広く知られているジアミン化合物を一種類又は二種類以上混合で用いることができる。該ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の前記例示の低分子ジオールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものである低分子ジアミン類;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;ヒドラジン;上記のポリエステルポリオールに用いられる多価カルボン酸で例示したジカルボン酸とヒドラジンの化合物であるジカルボン酸ジヒドラジド化合物が挙げられる。これらジアミン化合物の中では、低分子ジアミン類が低コストであるので好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0043】
ウレタン樹脂エマルション(B1)には、上記(b1)〜(b3)の他に、ポリウレタン分子に分岐及び/又は架橋構造を与える内部分岐剤及び内部架橋剤を用いてもよい。これらの内部分岐剤及び内部架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0044】
ウレタン樹脂エマルション(B1)の製造方法については、特に制限を受けず、当該技術分野で広く知られている方法を適用することができる。製造方法としては、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でプレポリマー又はポリマーを合成してから、これを水にフィードして分散させる方法が好ましい。例えば、上記溶媒中でポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)からプレポリマーを合成して、これを水中で必要に応じて使用されるアミン成分(b3)と反応させる方法(イ)、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)及び必要に応じて使用されるアミン成分(b3)からポリマーを合成して、これを水中にフィードして分散させる方法(ロ)が挙げられる。また、中和剤成分は、予めフィードする水中に加えておいてもよく、フィードの後で加えてもよい。
【0045】
上記の好適な製造方法に使用される、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。これらの溶媒は、通常、プレポリマーを製造するために用いられる上記原料の合計量に対して、3〜100質量%が用いられる。
【0046】
上記の製造方法において、その配合比は、特に制限を受けるものではない。該配合比は、反応させる段階でのポリイソシアネート成分(b1)中のイソシアネート基と、ポリオール成分(b2)及び必要に応じて使用されるアミン成分(b3)中のイソシアネート反応基とのモル比に置き換えることができる。該モル比については、分散しているポリウレタン分子中に未反応のイソシアネート基が不足すると塗料として用いたときに塗膜密着性及び/又は塗膜強度が低下する場合があり、過剰に存在すると未反応イソシアネート基が、塗料の分散安定性及び/又は物性に影響を及ぼす場合があるので、イソシアネート基1に対して、イソシアネート反応性基は0.5〜2.0が好ましい。また、ポリオール成分(b2)中のイソシアネート反応性基のモル比は、ポリイソシアネート成分(b1)中のイソシアネート基1に対して0.3〜1.0が好ましく、0.5〜0.9がより好ましい。また、必要に応じて使用されるアミン成分(b3)中のイソシアネート反応性基のモル比は、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基1に対して、0.1〜1.0が好ましく、0.2〜0.5がより好ましい。
【0047】
ウレタン樹脂エマルション(B1)の分散性を安定させるために、界面活性剤等の乳化剤を1種類又は2種類以上用いてもよい。粒子径については、特に制限を受けないが、良好な分散状態を保つことができるので1μm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0048】
上記の乳化剤としては、ウレタン樹脂エマルションに使用される、当該技術分野で広く知られているアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等を使用することができる。これらを使用する場合は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤がコストも低く、良好な乳化が得られるので好ましい。
【0049】
上記のアニオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等アンモニウムドデシルサルフェート等のアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノレート;スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレート、トルエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ナトリウムベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。
【0050】
上記のノニオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数1〜18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0051】
上記のノニオン性界面活性剤を構成する炭素数1〜18のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、第三ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第三アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール、デカンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。アルキルフェノールとしては、例えば、フェノール、メチルフェノール、2,4−ジ第三ブチルフェノール、2,5−ジ第三ブチルフェノール、3,5−ジ第三ブチルフェノール、4−(1,3−テトラメチルブチル)フェノール、4−イソオクチルフェノール、4−ノニルフェノール、4−第三オクチルフェノール、4−ドデシルフェノール、2−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、4−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール、ナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。アルキレンジアミンとしては、例えば、これらのアルキレングリコールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものが挙げられる。また、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物とは、ランダム付加物でもブロック付加物でもよい。
【0052】
上記のカチオン性界面活性剤としては、例えば、1級〜3級アミン塩、ピリジニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ハロゲン化アルキル4級アンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0053】
これらの乳化剤を使用する場合の使用量は、特に制限を受けず任意の量を使用することができるが、ウレタン樹脂1に対する質量比で0.01以上とすることにより充分な分散性が得られ、0.3以下とすることにより水性中塗り塗料から得られる塗膜等の耐水性、強度、延び等の物性が低下するのを抑制できることから、0.01〜0.3が好ましく、0.05〜0.2がより好ましい。
【0054】
ウレタン樹脂エマルション(B1)としては、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、Covestro社製の「Bayhydrol」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、三洋化成社製の「パーマリン」シリーズ、「ユーコート」シリーズ等を挙げることができる。
【0055】
また、ウレタン樹脂エマルション(B1)において、その固形分は、特に制限を受けず、任意の値を選択できる。該固形分は10〜50質量%が分散性と塗装性が良好なので好ましく、20〜40質量%がより好ましい。
【0056】
ウレタン樹脂エマルション(B1)に分散しているウレタン樹脂の平均分子量については、特に制限を受けず、水性塗料としての分散性及び良好な塗膜を与える範囲を選択することができる。重量平均分子量については1000〜500000が好ましく、5000〜200000がより好ましい。また、水酸基価についても、特に制限を受けず、任意の値を選択することができる。酸価は、樹脂1g当たりのKOHの消費量(mg)で表され、通常0〜100mgKOH/gである。
【0057】
ウレタン樹脂エマルション(B1)に分散しているウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−50℃以下である。Tgを該範囲とすることにより、耐チッピング性を向上させることができる。Tgは、−80〜−50℃が好ましく、−75〜−50℃がより好ましい。
【0058】
本発明において、上記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置を用いて測定される値であり、原料メーカーのカタログ値を使用とすることができる。
【0059】
<<水酸基含有ポリエステル樹脂(C)>>
水酸基含有ポリエステル樹脂(C)は、既知の方法で、常法に従い、多塩基酸と多価アルコ−ルとをエステル化反応させることによって合成することができる。水酸基含有ポリエステル樹脂(C)は、カルボキシル基等の酸基を有しているものが好ましい。
【0060】
多塩基酸は1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ヘット酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、及びこれらの無水物等を挙げることができる。
【0061】
また、多価アルコ−ルは1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル等のグリコール類、これらのグリコール類にε−カプロラクトン等のラクトン類を付加したポリラクトンジオール、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート等のポリエステルジオール類、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、スピログリコール、ジヒドロキシメチルトリシクロデカン、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、並びに、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0062】
また、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)として、あまに油脂肪酸、やし油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸等の(半)乾性油脂肪酸等で変性した脂肪酸変性ポリエステル樹脂も使用することができる。これらの脂肪酸の変性量は一般に油長で30質量%以下であることが適している。また、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)は安息香酸等の一塩基酸を一部反応させたものであってもよい。
【0063】
また、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)は、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイド等のα−オレフィンエポキシド、カージュラE10(Momentive Specialty Chemicals社製、商品名、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル)等のモノエポキシ化合物等をポリエステル樹脂の酸基と反応させたものであってもよい。
【0064】
ポリエステル樹脂へカルボキシル基を導入する場合、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂に無水酸を付加し、ハーフエステル化することで導入することもできる。
【0065】
水酸基含有ポリエステル樹脂(C)の水酸基価は、塗膜の仕上がり外観及び硬化性の観点から、10〜250mgKOH/gであることが好ましく、特に40〜170mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0066】
水酸基含有ポリエステル樹脂(C)が酸基を有する場合、酸価は、塗膜の硬化性及び付着性の観点から、1〜100mgKOH/gであることが好ましく、特に5〜60mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0067】
水酸基含有ポリエステル樹脂(C)の数平均分子量は、塗膜の硬化性及び仕上がり外観の観点から、1000〜50000であることが好ましく、特に1000〜10000の範囲内であることが好ましい。なお、水酸基含有ポリエステル樹脂(C)の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めるものとする。
【0068】
<<メラミン樹脂(D)>>
本発明において、水性中塗り塗料(X)の架橋剤成分として、メラミン樹脂(D)を含有する。
【0069】
上記メラミン樹脂としては、例えば、メラミン成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分メチロール化メラミン樹脂又は完全メチロール化メラミン樹脂が挙げられる。アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等を挙げることができる。
【0070】
また、上記メチロール化メラミン樹脂のメチロール基を、適当なアルコールによって、部分的に又は完全にエーテル化したものも使用することができる。エーテル化に用いられるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール等を挙げることができる。
【0071】
メラミン樹脂としては、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコール及びブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチル−ブチル混合エーテル化メラミン樹脂が好ましく、メチル−ブチル混合エーテル化メラミン樹脂がより好ましい。
【0072】
上記メラミン樹脂は、重量平均分子量が400〜6,000であるのが好ましく、500〜4,000であるのがより好ましく、600〜3,000であるのがさらに好ましい。
【0073】
メラミン樹脂としては市販品を使用することができる。市販品の商品名としては、例えば、「サイメル202」、「サイメル203」、「サイメル204」、「サイメル211」、「サイメル212」、「サイメル238」、「サイメル251」、「サイメル253」、「サイメル254」、「サイメル303」、「サイメル323」、「サイメル324」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル370」、「サイメル380」、「サイメル385」、「サイメル1156」、「サイメル1158」、「サイメル1116」、「サイメル1130」(以上、オルネクスジャパン株式会社製、商品名);「レジミン735」、「レジミン740」、「レジミン741」、「レジミン745」、「レジミン746」、「レジミン747」(以上、モンサント社製、商品名);「ユーバン120」、「ユーバン20HS」、「ユーバン20SE」、「ユーバン2021」、「ユーバン2028」、「ユーバン28−60」(以上、三井化学株式会社製、商品名);「スミマールM55」、「スミマールM30W」、「スミマールM50W」(以上、住友化学株式会社製、商品名);等を挙げることができる。
【0074】
<<活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)>>
活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E)としては、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基に、活性メチレン化合物を反応させて得られるブロックポリイソシアネート化合物を挙げることができる。本発明では特に、親水基を有する活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E1)が好ましい。このような化合物(E1)としては、ポリイソシアネート化合物(e1)中の一部のイソシアネート基に親水基を有する活性水素含有化合物を反応させて親水基を導入し、さらにポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基に、活性メチレン化合物(e2)を反応させて得られるブロックポリイソシアネート化合物(e3)が好適に使用でき、さらにかかるブロックポリイソシアネート化合物(e3)に炭素数6以上の2級アルコール(e4)を反応させることによって得られるものが好適に使用できる。
【0075】
ポリイソシアネート化合物(e1)は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であって、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、該ポリイソシアネートの誘導体等を挙げることができる。
【0076】
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(慣用名:リジンジイソシアネート)等の脂肪族ジイソシアネート;2,6−ジイソシアナトヘキサン酸2−イソシアナトエチル、1,6−ジイソシアナト−3−イソシアナトメチルヘキサン、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0077】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4−メチル−1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート(慣用名:水添TDI)、2−メチル−1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−もしくは1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、メチレンビス(4,1−シクロヘキサンジイル)ジイソシアネート(慣用名:水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等の脂環族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0078】
前記芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、メチレンビス(4,1−フェニレン)ジイソシアネート(慣用名:MDI)、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネート又はその混合物、ω,ω’−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−又は1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物等の芳香脂肪族ジイソシアネート;1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼン等の芳香脂肪族トリイソシアネート等を挙げることができる。
【0079】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート(慣用名:2,4−TDI)もしくは2,6−トリレンジイソシアネート(慣用名:2,6−TDI)もしくはその混合物、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート;4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート等を挙げることができる。
【0080】
また、前記ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネートのダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、クルードTDI等を挙げることができる。
【0081】
上記ポリイソシアネート及びその誘導体は、それぞれ単独で用いてもよく又は2種以上併用してもよい。また、これらポリイソシアネートのうち、前記ポリイソシアネート化合物(e1)としては、得られるブロックポリイソシアネート化合物(e1)の加熱時の黄変が発生しにくいことから、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及びこれらの誘導体が好ましい。なかでも形成される塗膜の柔軟性向上の観点から、脂肪族ジイソシアネート及びその誘導体がさらに好ましい。
【0082】
上記親水基を有する活性水素含有化合物としては、ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物、アニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物、カチオン性の親水基を有する活性水素含有化合物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、前記ポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基を前記活性メチレン化合物(e2)によってブロック化する反応が阻害されにくいため、ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物を使用することが好ましい。
【0083】
上記ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物としては、例えば、ポリオキシアルキレン基を有する活性水素含有化合物を好適に使用することができる。上記ポリオキシアルキレン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、本塗料の貯蔵安定性の観点から、ポリオキシエチレン基を有する活性水素含有化合物が好ましい。
【0084】
上記ポリオキシエチレン基を有する活性水素含有化合物は、本塗料の貯蔵安定性及び形成される複層塗膜の付着性等の観点から、通常3個以上、好ましくは5〜100個、より好ましくは8〜45個の連続したオキシエチレン基を有することが好適である。
【0085】
また、上記ポリオキシエチレン基を有する活性水素含有化合物は、連続したオキシエチレン基以外に、オキシエチレン基以外のオキシアルキレン基を含有してもよい。該オキシエチレン基以外のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基等が挙げられる。上記ポリオキシエチレン基を有する活性水素含有化合物における、オキシアルキレン基中のオキシエチレン基のモル比率は、本塗料の貯蔵安定性の観点から、20〜100モル%の範囲内であることが好ましく、50〜100モル%の範囲内であることがより好ましい。オキシアルキレン基中のオキシエチレン基のモル比率が20モル%以上であると、親水性の付与が十分となり、本塗料の貯蔵安定性が低下するのを抑制できる。
【0086】
また、前記ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物は、本塗料の貯蔵安定性及び形成される複層塗膜の耐水性の観点から、数平均分子量が200〜2,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量の下限としては、本塗料の貯蔵安定性の観点から、300がより好ましく、400がさらに好ましい。上限としては、形成される複層塗膜の耐水性の観点から、1,500がより好ましく、1,200がさらに好ましい。
【0087】
前記ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル及びポリエチレングリコールモノエチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(別名:ω−アルコキシポリオキシエチレン)、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル及びポリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(別名:ω−アルコキシポリオキシプロピレン)、ω−メトキシポリオキシエチレン(オキシプロピレン)、ω−エトキシポリオキシエチレン(オキシプロピレン)などのω−アルコキシポリオキシエチレン(オキシプロピレン)、ポリエチレングリコール(プロピレングリコール)モノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(プロピレングリコール)モノエチルエーテル等のポリエチレングリコール(プロピレングリコール)モノアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(プロピレングリコール)、α−(アミノアルキル)−ω−アルコキシポリオキシエチレン、α−(アミノアルキル)−ω−アルコキシポリオキシプロピレン、α−(アミノアルキル)−ω−アルコキシポリオキシエチレン(オキシプロピレン)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル及びポリエチレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。
【0088】
また、上記ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの市販品としては、例えば、日油株式会社製の「ユニオックスM−400」、「ユニオックスM−550」、「ユニオックスM−1000」、「ユニオックスM−2000」等が挙げられる。また、前記ポリエチレングリコールの市販品としては、例えば、日油株式会社製の「PEG#200」、「PEG#300」、「PEG#400」、「PEG#600」、「PEG#1000」、「PEG#1500」、「PEG#1540」、「PEG#2000」等が挙げられる。
【0089】
ポリイソシアネート化合物(e1)中の一部のイソシアネート基と、上記親水基を有する活性水素含有化合物との反応は、0〜150℃で行うことができ、溶媒を用いてもよい。この場合、溶媒としては非プロトン性溶剤が好ましく、特に、エステル、エーテル、N−アルキルアミド、ケトン等が好ましい。また、ポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基と反応しなかった活性水素含有化合物は、反応終了後に除去することができる。ポリイソシアネート化合物(e1)と親水基を有する活性水素含有化合物との反応割合は、塗料の貯蔵安定性及び硬化性、ならびに形成される複層塗膜の平滑性、鮮映性及び付着性の観点から、ポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基1モルを基準として、活性水素含有化合物中の活性水素のモル数が0.03〜0.6モルの範囲内であることが好ましく、0.04〜0.4モルの範囲内であることがより好ましい。
【0090】
活性メチレン化合物(e2)としては、例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジn−プロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジn−ブチル、マロン酸ジイソブチル、マロン酸ジsec−ブチル、マロン酸ジt−ブチル、マロン酸ジn−ペンチル、マロン酸ジn−ヘキシル、マロン酸ジ(2−エチルヘキシル)、マロン酸メチルイソプロピル、マロン酸エチルイソプロピル、マロン酸メチルn−ブチル、マロン酸エチルn−ブチル、マロン酸メチルイソブチル、マロン酸エチルイソブチル、マロン酸メチルsec−ブチル、マロン酸エチルsec−ブチル、マロン酸ジフェニル及びマロン酸ジベンジル等のマロン酸ジエステル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸sec−ブチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸n−ペンチル、アセト酢酸n−ヘキシル、アセト酢酸2−エチルヘキシル、アセト酢酸フェニル及びアセト酢酸ベンジル等のアセト酢酸エステル、イソブチリル酢酸メチル、イソブチリル酢酸エチル、イソブチリル酢酸n−プロピル、イソブチリル酢酸イソプロピル、イソブチリル酢酸n−ブチル、イソブチリル酢酸イソブチル、イソブチリル酢酸sec−ブチル、イソブチリル酢酸t−ブチル、イソブチリル酢酸n−ペンチル、イソブチリル酢酸n−ヘキシル、イソブチリル酢酸2−エチルヘキシル、イソブチリル酢酸フェニル及びイソブチリル酢酸ベンジル等のイソブチリル酢酸エステル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上併用して使用することができる。
【0091】
なかでも、形成される複層塗膜の平滑性及び鮮映性の観点から、活性メチレン化合物(e2)が、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジイソプロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、イソブチリル酢酸メチル及びイソブチリル酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、マロン酸ジイソプロピル、イソブチリル酢酸メチル及びイソブチリル酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。なかでも、形成される複層塗膜の平滑性及び鮮映性ならびに得られるブロックポリイソシアネート化合物(e1)の反応性及び本塗料の貯蔵安定性の観点から、マロン酸ジイソプロピルであることがさらに好ましい。
【0092】
活性メチレン化合物(e2)によるイソシアネート基のブロック化反応は、必要に応じて反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、例えば、金属ヒドロキシド、金属アルコキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセチネート、オニウム塩の水酸化物、オニウムカルボキシレート、活性メチレン化合物の金属塩、活性メチレン化合物のオニウム塩、アミノシラン類、アミン類、ホスフィン類等の塩基性化合物が挙げられる。上記オニウム塩としては、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩が好適である。該反応触媒の使用量は、通常、ポリイソシアネート化合物(e1)及び活性メチレン化合物(e2)の合計固形分質量を基準として、10〜10,000ppmの範囲内であることが好ましく、20〜5,000ppmの範囲内であることがより好ましい。
【0093】
また、上記活性メチレン化合物(e2)によるイソシアネート基のブロック化反応は、0〜150℃で行うことができ、溶媒を用いてもよい。この場合、溶媒としては非プロトン性溶剤が好ましく、特に、エステル、エーテル、N−アルキルアミド、ケトン等が好ましい。反応が目的どおり進行したならば酸成分を添加することで、触媒である塩基性化合物を中和し、反応を停止させてもよい。
【0094】
活性メチレン化合物(e2)によるイソシアネート基のブロック化反応において、活性メチレン化合物(e2)の使用量は、特には限定されないが、ポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基1モルに対して通常0.1〜3モル、好ましくは0.2〜2モル用いることが好適である。また、ポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基と反応しなかった活性メチレン化合物は、ブロック化反応終了後に除去することができる。
【0095】
また、上記活性メチレン化合物(e2)以外に、例えば、アルコール系、フェノール系、オキシム系、アミン系、酸アミド系、イミダゾール系、ピリジン系、メルカプタン系等のブロック剤を併用してもよい。
【0096】
上記のとおりポリイソシアネート化合物(e1)中のイソシアネート基に活性メチレン化合物(e2)を反応させてブロックポリイソシアネート化合物(e3)が得られる。かかるブロックポリイソシアネート化合物(e3)には、さらに炭素数6以上の2級アルコール(e4)を反応させることができる。
【0097】
上記炭素数6以上の2級アルコール(e4)としては、例えば、4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、6−メチル−2−ヘプタノール、7−メチル−2−オクタノール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0098】
ブロックポリイソシアネート化合物(e3)及び2級アルコール(e4)の反応は、例えば、加熱及び減圧等により、ブロックポリイソシアネート化合物(e3)中の活性メチレンに由来するアルコールの一部あるいは全部を系外に蒸留除去し、反応を促進させて得る方法が好ましい。
【0099】
上記製造方法としては、具体的には、通常20〜150℃、好ましくは75〜95℃の温度で、必要に応じて減圧し、通常5分間〜20時間、好ましくは10分間〜10時間をかけて上記アルコールの一部あるいは全部を除去するのが適当である。
【0100】
ブロックポリイソシアネート化合物(e3)及び2級アルコール(e4)の配合割合は、ブロックポリイソシアネート化合物(e3)の固形分100質量部を基準として、2級アルコール(e4)が5〜500質量部の範囲内であることが好ましく、10〜200質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0101】
また、上記ブロックポリイソシアネート化合物(e3)及び2級アルコール(e4)の反応においては、ブロックポリイソシアネート化合物(e1)の分子量を調整するために、該ブロックポリイソシアネート化合物(e3)及び2級アルコール(e4)に、多官能水酸基含有化合物を加えてから前記除去操作を行ってもよい。
【0102】
上記のとおり得られるブロックポリイソシアネート化合物(e1)の数平均分子量は、他の塗料成分との相溶性、形成される複層塗膜の平滑性、鮮映性、耐水性及び耐チッピング性等の観点から、600〜30,000の範囲内であることが好ましく、900〜10,000の範囲内であることがより好ましい。
【0103】
水性中塗り塗料(X)において、水酸基含有アクリル樹脂(A)とポリウレタン樹脂(B)との使用比が固形分比(前者/後者)で、20/10〜30/10の範囲内である。水酸基含有アクリル樹脂(A)の使用比が前記下限未満であると、耐チッピング性およびガラス部材との付着性が悪化し、前記上限を超えると、耐チッピング性が悪化する。
【0104】
水性中塗り塗料(X)において、耐チッピング性及び部材を接着する際の接着強度の向上の観点から、上記成分(A)〜(E)(固形分)の使用割合は、水性中塗り塗料(X)中の樹脂固形分100質量部を基準として以下の範囲内であることが好ましい。
水酸基含有アクリル樹脂(A):通常5〜30質量部、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは20〜30質量部、
ポリウレタン樹脂(B):通常5〜20質量部、好ましくは5〜15質量部、より好ましくは8〜12質量部、
水酸基含有ポリエステル樹脂(C):通常10〜40質量部、好ましくは15〜35質量部、より好ましくは20〜30質量部、
メラミン樹脂(D):通常10〜40質量部、好ましくは15〜35質量部、より好ましくは20〜30質量部、
活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E):通常5〜25質量部、好ましくは5〜15質量部、より好ましくは8〜12質量部。
【0105】
<<顔料(F)>>
顔料(F)としては、通常、塗料に用いられる顔料を使用することができる。具体的には、例えば、二酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等の着色顔料;クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナホワイト、タルク等の体質顔料;アルミニウムフレーク、雲母フレーク等の光輝性顔料等を好適に使用することができる。
【0106】
水性中塗り塗料(X)において上記顔料は、粉体として塗料中に配合することができるが、顔料を樹脂成分の一部と混合分散して予め顔料分散体を調製し、これを残りの樹脂成分や他の成分と共に混合することにより塗料化することもできる。顔料分散体の調製にあたっては、必要に応じて、消泡剤、分散剤、表面調整剤等の慣用の塗料添加剤を使用することができる。なお、上記顔料は、分散性を考慮し、平均粒径0.01μm〜6μmの粉体を用いることが好ましい。
【0107】
顔料(F)の含有量は耐チッピング性及び部材を接着する際の接着強度の両立の観点から、PWC(顔料重量濃度 Pigment Weight Content)が好ましくは40〜60%であり、より好ましくは45〜55%である。
【0108】
<<有機溶剤(G)>>
有機溶剤(G)としては、例えばヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン等の炭化水素系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系;エタノール、プロパノール、2−エチルヘキシルアルコール等のアルコール系;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;スワゾール310、スワゾール1000(コスモ石油株式会社製)等の芳香族炭化水素系;脂肪族炭化水素系、脂環族炭化水素系、アミド系等の溶剤を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独でもしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0109】
有機溶剤(G)の含有量は、水性中塗り塗料(X)中、通常20〜50質量%であり、特に25〜40質量%程度であることが好ましい。
【0110】
水性中塗り塗料(X)において、硬化性向上の観点から、硬化触媒を使用することができる。硬化触媒としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸;該スルホン酸とアミンとの中和塩;リン酸エステル化合物とアミンとの中和塩等を使用することができる。
【0111】
さらに硬化触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2−エチルヘキサン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等の有機金属触媒、第三級アミン等を挙げることができる。
【0112】
さらに、水性中塗り塗料(X)には、必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、艶調整剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。水性中塗り塗料(X)は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。塗装時の固形分含有率は、好ましくは45〜75質量%、特に50〜70質量%の範囲に調整しておくことが好ましい。
【0113】
水性中塗り塗料(X)は、有機溶剤を加えて、塗装に適正な粘度に調整した後に、回転霧化塗装、エアスプレー、エアレススプレー等公知の方法で、必要に応じて印加して、塗装することができ、その膜厚は、塗膜の平滑性や仕上り性等の観点から、硬化塗膜に基づいて通常10〜40μm、好ましくは25〜40μmとなるように塗装することができる。
【0114】
水性中塗り塗料(X)を塗装して得られる中塗り塗膜それ自体は、焼付け乾燥型の場合、通常約120℃〜約180℃の温度で硬化させることができる。
【0115】
本発明の複層塗膜形成方法においては、水性中塗り塗料(X)による形成塗膜(中塗り塗膜)の加熱硬化後の硬化塗膜において、20℃における破断伸び率が20〜30%であり、ヤング率が5,000〜6,000MPaであり、ツーコン硬度が4〜6である。破断伸び率、ヤング率及びツーコン硬度を上記範囲内とすることにより、耐チッピング性及びガラス部材との付着性を両立させることができる。
【0116】
なお、上記物性値は、中塗り塗膜の膜厚が50μm、140℃で18分間キープの加熱条件で硬化させた硬化塗膜の物性値である。
【0117】
破断伸び率及びヤング率は、水性中塗り塗料(X)をガラス板に硬化塗膜に基づく膜厚が50μmになるように塗装し、140℃で18分間キープの条件で加熱し硬化させた後、ガラス板からその塗膜を剥離し、長さ20mm、巾5mmの短冊状に裁断し、「テンシロンUTM−II−20」(株式会社オリエンテック製、商品名)を使用し、20℃において、長手方向に引張り速度4mm/分で測定した値である。
【0118】
破断伸び率は、破断した時点での長さ増分の、元の試験前の長さに対する割合である。ヤング率はストレス−ストレイン曲線の立ち上がり時の曲線の傾きである。
【0119】
ツーコン硬度は、水性中塗り塗料(X)を電着板に硬化塗膜に基づく膜厚が30μmになるように塗装し、140℃で18分間キープの条件で加熱し硬化させた試験塗板を20℃の恒温室に4時間放置後、TUKON(American Chain&Cable Company社製、micro hardness tester)にて測定した値である。
【0120】
前記破断伸び率を調整するには、水酸基含有アクリル樹脂(A)の重量平均分子量の調節、水酸基含有アクリル樹脂(A)と該ポリウレタン樹脂(B)との使用比の調節等の方法がある。
【0121】
前記ヤング率を調整するには、水酸基含有アクリル樹脂(A)の重量平均分子量の調節、水酸基含有アクリル樹脂(A)と該ポリウレタン樹脂(B)との使用比の調節等の方法がある。
【0122】
前記ツーコン強度を調整するには、水酸基含有アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)の調節等の方法がある。
【0123】
<工程(2)>
本発明の方法によれば、次に、工程(1)で形成された中塗り塗膜を、予備加熱後、該中塗り塗膜上に、水性ベース塗料(Y)が塗装され、ベース塗膜が形成される。水性ベース塗料(Y)は、本発明により形成される複層塗膜の意匠性の付与、中塗り塗膜との積層による意匠性及び深み感を向上させる塗料である。
【0124】
予備加熱の温度は、40〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましく、60〜80℃がさらに好ましい。予備加熱の時間は、30秒間〜15分間が好ましく、1〜10分間がより好ましく、2〜5分間がさらに好ましい。
【0125】
中塗り塗膜は、水性ベース塗料(Y)を塗装する前に、上記予備加熱を行うことにより、塗膜の固形分含有率が通常70〜100質量%、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%の範囲内となるように調整することが好適である。
【0126】
水性ベース塗料(Y)につき、まず上記ベース塗膜が、観察角度によって色の見え方が変化しないソリッド色を呈する塗膜である場合について説明する。この場合、ベース塗膜は、水性カラーベース塗料を塗装することによって形成させることができる。
【0127】
水性カラーベース塗料は、通常、着色顔料を含有する。着色顔料としては、具体的には、例えば、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料;酸化チタン顔料等の金属酸化物顔料及びカーボンブラック顔料等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0128】
本発明において、水性カラーベース塗料における着色顔料の配合量は、複層塗膜の明度等の観点から、水性カラーベース塗料中の樹脂固形分総量に対して、通常0.01〜150質量%、特に0.05〜120質量%の範囲内であることが好ましい。水性カラーベース塗料において配合せしめる着色顔料は、粉体として塗料中に配合することができるが、着色顔料を樹脂組成物の一部と混合分散して予め顔料分散体を調製し、これを残りの樹脂成分や他の成分と共に混合することにより塗料化することもできる。顔料分散体の調製にあたっては、必要に応じて、消泡剤、分散剤、表面調整剤等の慣用の塗料添加剤を使用することができる。
【0129】
水性カラーベース塗料は、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の基体樹脂を、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤と併用したものを挙げることができ、これらは有機溶剤及び/又は水等の溶媒に溶解または分散して使用される。
【0130】
さらに、水性カラーベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、レオロジーコントロール剤等の各種添加剤、体質顔料等を適宜配合することができる。
【0131】
水性カラーベース塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、通常12〜60質量%、好ましくは15〜50質量%に調整しておくことが好ましい。
【0132】
水性カラーベース塗料は、水や有機溶媒等を加えて、塗装に適正な粘度に調整した後に、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて通常5〜30μm、好ましくは5〜25μm、より好ましくは10〜25μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。
【0133】
次に、前記ベース塗膜が、観察角度によって色の見え方が変化するメタリック色を呈する塗膜である場合について説明する。この場合、ベース塗膜は、水性ベース塗料(Y)として水性メタリックベース塗料を塗装することによって形成させることができる。
【0134】
水性メタリックベース塗料は塗膜に粒子感を付与することを目的として、通常、鱗片状光輝性顔料を含有する。鱗片状光輝性顔料としては、光反射性顔料及び光干渉性顔料の中から、1種類もしくは2種以上を組合せて適宜選択して使用することができる。
【0135】
光反射性顔料としては、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着又は結合させた鱗片状金属顔料、表面に酸化反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料等を挙げることができる。なかでも粒子感や仕上がり外観の点から鱗片状アルミニウム顔料を好適に使用することができる。
【0136】
鱗片状アルミニウム顔料は、一般にアルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造される。粉砕助剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸の他、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール等を使用することができる。粉砕媒液としては、例えば、ミネラルスピリット等の脂肪族系炭化水素を使用することができる。
【0137】
鱗片状アルミニウム顔料は、粉砕助剤の種類によって、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプに大別することができる。リーフィングタイプは、塗料組成物に配合すると塗装して得られた塗膜の表面に配列(リーフィング)し、金属感の強い仕上がりが得られ、熱反射作用を有し、防錆力を発揮するものであるため、生産設備等のタンク、ダクト、配管類および屋上ルーフィングをはじめ各種建築材料等に利用されることが多い。本発明において、リーフィングタイプの鱗片状アルミニウム顔料を使用可能であるが、このタイプの鱗片状アルミニウム顔料を使用した場合には、その配合量にもよるが、塗膜形成過程において、粉砕助剤の表面張力の効果によって、表面を完全に隠蔽してしまい、粒子感が発現しなくなる可能性があるので注意が必要である。この点から、ノンリーフィングタイプの鱗片状アルミニウム顔料を使用することが好ましい。
【0138】
上記鱗片状アルミニウム顔料の大きさは、平均粒子径が通常8〜25μm、好ましくは10〜18μmの範囲内のものを使用することが、複層塗膜の仕上がり外観やハイライトの明度及び粒子感の点から好ましく、厚さは0.2〜1.0μmの範囲内であることが好ましい。ここでいう粒子径及び厚さは、マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300(商品名、日機装株式会社製)を用いてレーザー回折散乱法によって測定した体積基準粒度分布のメジアン径を意味する。平均粒子径を前記上限値以下とすることにより、得られる塗膜の粒子感が過剰となるのを抑制し、意匠的に好ましく、下限値以上とすることにより粒子感が十分となる。
【0139】
水性メタリックベース塗料においては、鱗片状光輝性顔料として、光干渉性顔料を使用することができる。光干渉性顔料としては、具体的には例えば、天然マイカ、人工マイカ、アルミナフレーク、シリカフレーク、ガラスフレーク等の半透明の基材を金属酸化物で被覆した顔料を使用することができる。
【0140】
金属酸化物被覆マイカ顔料は、天然マイカ又は人工マイカを基材とし、基材表面に金属酸化物を被覆した顔料である。天然マイカとは、鉱石のマイカ(雲母)を粉砕した鱗片状基材であり、人工マイカとは、SiO、MgO、Al、KSiF、NaSiF等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものであり、天然のマイカと比較した場合において、不純物が少なく、大きさや厚さが均一なものである。具体的には、フッ素系雲母(KMgAlSi10)、カリウム四ケイ素雲母(KMg25AlSi10)、ナトリウム四ケイ素雲母(NaMg25AlSi10)、Naテニオライト(NaMgLiSi10)、LiNaテニオライト(LiNaMgLiSi10)等が知られている。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。被覆金属酸化物によって、干渉色を発現することができるものである。
【0141】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料は、アルミナフレークを基材とし、基材表面に金属酸化物が被覆した顔料である。アルミナフレークとは、鱗片状(薄片状)酸化アルミニウムを意味し、無色透明なものである。酸化アルミニウム単一成分である必要はなく、他の金属の酸化物を含有するものであってもよい。被覆金属酸化物としては、例えば、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。被覆金属酸化物によって、干渉色を発現することができるものである。
【0142】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料は、表面が平滑で且つ厚さが均一な基材である鱗片状シリカを、基材とは屈折率が異なる金属酸化物で被覆したものである。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。被覆金属酸化物によって、干渉色を発現することができるものである。
【0143】
金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料とは、鱗片状のガラス基材に金属酸化物を被覆したものであって、基材表面が平滑なため、強い光の反射が生じて粒子感を発現する。被覆金属酸化物としては、酸化チタンや酸化鉄を挙げることができる。被覆金属酸化物によって、干渉色を発現することができるものである。
【0144】
上記光干渉性顔料は、分散性や耐水性、耐薬品性、耐候性等を向上させるための表面処理が施されたものであってもよい。
【0145】
上記光干渉性顔料の大きさは、天然マイカ、人工マイカ、アルミナフレーク、シリカフレークを基材とする光干渉性顔料の場合は、塗膜の仕上がり外観や粒子感の点から平均粒子径が通常5〜30μm、好ましくは7〜25μmの範囲内のものを好適に使用することができる。
【0146】
ガラスフレークを基材とする光干渉性顔料の場合は、塗膜の粒子感の点から平均粒子径が通常15〜100μm、好ましくは17〜45μmの範囲内のものを好適に使用することができる。上記光干渉性顔料の厚さは、通常0.05〜7.0μm、好ましくは0.1〜3μmの範囲内のものを使用することが好ましい。
【0147】
ここでいう粒子径及び厚さは、マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300(商品名、日機装株式会社製)を用いてレーザー回折散乱法によって測定した体積基準粒度分布のメジアン径を意味する。
【0148】
平均粒子径が前記上限値を超えると複層塗膜の光干渉性顔料による粒子感が過剰になって意匠的に好ましくない場合があり、下限値未満では粒子感が不十分になる場合がある。
【0149】
前記水性メタリックベース塗料における鱗片状光輝性顔料の含有量は、得られる塗膜の仕上がり外観や粒子感の点から、塗料中の樹脂組成物固形分総量に対して、合計で0.01〜25質量%であることが好ましく、0.01〜15質量%であることがより好ましく、0.05〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0150】
前記水性メタリックベース塗料には、得られる塗膜の色相や明度を微調整することを目的として、着色顔料を含有させることができる。該着色顔料としては、具体的には、例えば、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料、微粒子酸化チタンを含む酸化チタン顔料、カーボンブラック顔料等の無機顔料や、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料が挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0151】
該着色顔料は、粉体として塗料中に配合することができるが、着色顔料を樹脂組成物の一部と混合分散して予め顔料分散体を調製し、これを残りの樹脂成分や他の成分と共に混合することにより塗料化することもできる。顔料分散体の調製にあたっては、必要に応じて、消泡剤、分散剤、表面調整剤等の慣用の塗料添加剤を使用することができる。
【0152】
前記水性メタリックベース塗料に着色顔料を含有させる場合、その配合量は、複層塗膜の明度等の観点から、塗料中の樹脂組成物固形分総量に対して、通常0.01〜10質量%、特に0.01〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0153】
水性メタリックベース塗料は、通常、ビヒクル形成成分として樹脂組成物を含有する。具体的には、例えば、水酸基等の架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とを併用したものを挙げることができ、これらは有機溶剤及び/又は水等の溶媒に溶解または分散して使用される。
【0154】
さらに、水性メタリックベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等の各種添加剤、艶調整剤、体質顔料等を適宜配合することができる。
【0155】
水性メタリックベース塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、通常12〜60質量%、特に15〜50質量%に調整しておくことが好ましい。
【0156】
水性メタリックベース塗料は、水や有機溶媒等を加えて、塗装に適正な粘度に調整した後に、回転霧化塗装、エアスプレー、エアレススプレー等公知の方法で塗装することができる。
【0157】
塗装膜厚は、塗膜の平滑性等の観点から、硬化塗膜に基づいて通常10〜25μmの範囲となるように塗装することが好ましく、好ましくは10〜20μm、より好ましくは13〜17μmの範囲内となるように塗装することができる。
【0158】
本発明において、水性塗料とは、有機溶剤型塗料と対比される用語であって、一般に、水又は水を主成分とする媒体(水性媒体)に、塗膜形成樹脂、顔料等を分散及び/又は溶解させた塗料を意味する。
【0159】
前記水性ベース塗料(Y)の樹脂組成物の基体樹脂は、酸基を有することが好ましく、水分散する場合、水への混合及び分散を容易にするため、中和剤により中和を行なうのが水分散性を向上させる観点から好ましい。
【0160】
該中和剤としては、酸基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水等の塩基性化合物を挙げることができる。
【0161】
水性ベース塗料(Y)を塗装して得られるベース塗膜それ自体は、焼付け乾燥型の場合、通常、約50℃〜約180℃の温度で硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で硬化させることができる。
【0162】
<工程(3)>
本発明の方法によれば、上記の如くして水性ベース塗料(Y)を塗装して得られたベース塗膜を、塗膜が実質的に硬化しない加熱条件で予備加熱し、該ベース塗膜上に、クリヤー塗料(Z)を塗装して、クリヤー塗膜を形成する。
【0163】
予備加熱の温度は、40〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましく、60〜80℃がさらに好ましい。予備加熱の時間は、30秒間〜15分間が好ましく、1〜10分間がより好ましく、2〜5分間がさらに好ましい。
【0164】
ベース塗膜は、クリヤー塗料(Z)を塗装する前に、上記予備加熱を行うことにより、塗膜の固形分含有率が通常70〜100質量%、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%の範囲内となるように調整することが好適である。
【0165】
<<クリヤー塗料(Z)>>
クリヤー塗料(Z)としては、例えば、塗料中の樹脂成分固形分100質量部を基準として、カルボキシル基含有化合物を通常40〜60質量部、好ましくは45〜55質量部の範囲内、及びポリエポキシドを通常60〜40質量部の範囲内、好ましくは55〜45質量部の範囲内で含有するクリヤー塗料を使用することができる。
【0166】
上記カルボキシル基含有化合物は、分子中にカルボキシル基を有する化合物であり、通常50〜500mgKOH/g、好ましくは80〜300mgKOH/gの範囲内の酸価を有することができる。
【0167】
上記カルボキシル基含有化合物としては、例えば、下記の重合体(1)〜(3)及び化合物(4)を挙げることができる。
【0168】
[重合体(1):分子中に酸無水基をハーフエステル化してなる基を有する重合体]
ここで、酸無水基をハーフエステル化してなる基とは、酸無水基に脂肪族モノアルコールを付加せしめて開環させる(即ち、ハーフエステル化する)ことにより得られるカルボキシル基とカルボン酸エステル基とからなる基を意味する。以下、この基を単にハーフエステル基ということがある。
【0169】
重合体(1)は、例えば、ハーフエステル基を有する不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを、常法により共重合させることによって容易に得ることができる。また、ハーフエステル基を有する不飽和モノマーに代えて、酸無水基を有する不飽和モノマーを用いて同様に共重合させた後、該酸無水基をハーフエステル化することによっても容易に得ることができる。
【0170】
酸無水基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられ、また、ハーフエステル基を有する不飽和モノマーとしては、上記酸無水基を有する不飽和モノマーの酸無水基をハーフエステル化したものなどが挙げられる。なお、ハーフエステル化は、上記のとおり、共重合反応の前後のいずれに行ってもよい。
【0171】
ハーフエステル化に使用される脂肪族モノアルコールとしては、低分子量のモノアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。ハーフエステル化は、通常の方法に従い、例えば、室温ないし約80℃の温度で、必要に応じ3級アミンを触媒として用いて行なうことができる。
【0172】
その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、水酸基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエーテル又はアリールエーテル、オレフィン系化合物及びジエン化合物、炭化水素環含有不飽和モノマー、含窒素不飽和モノマー、加水分解性アルコキシシリル基含有アクリル系モノマーなどを挙げることができる。
【0173】
水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸とのモノエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルポリオールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとのモノエーテル;無水マレイン酸や無水イタコン酸のような酸無水基含有不飽和化合物と、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類とのモノエステル化物又はジエステル化物;ヒドロキシエチルビニルエーテルのようなヒドロキシアルキルビニルエーテル類;アリルアルコールなど;2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;α,β−不飽和カルボン酸と、「カージュラE10P」(商品名、Momentive Specialty Chemicals社製、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル)やα−オレフィンエポキシドのようなモノエポキシ化合物との付加物;グリシジル(メタ)アクリレートと酢酸、プロピオン酸、p−tert−ブチル安息香酸、脂肪酸類のような一塩基酸との付加物;上記水酸基含有不飽和モノマーとラクトン類(例えば、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン)との付加物などを挙げることができる。
【0174】
(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜24のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチルなどのアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜18のアルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。
【0175】
ビニルエーテル又はアリールエーテルとしては、例えば、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテルなどの鎖状アルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのシクロアルキルビニルエーテル類;フェニルビニルエーテル、トリビニルエーテルなどのアリールビニルエーテル類、ベンジルビニルエーテル、フェネチルビニルエーテルなどのアラルキルビニルエーテル類;アリルエチルエーテルなどのアリルエーテル類などが挙げられる。
【0176】
オレフィン系化合物及びジエン化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、塩化ビニル、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。
【0177】
炭化水素環含有不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニルプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、p−tert−ブチル−安息香酸と(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとのエステル化物、ジシクロペテニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0178】
含窒素不飽和モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの重合性アミド類;2−ビニルピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジンなどの芳香族含窒素モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの重合性ニトリル;アリルアミンなどが挙げられる。
【0179】
加水分解性アルコキシシリル基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどを挙げることができる。
【0180】
ハーフエステル基又は酸無水物基を有する不飽和モノマーとその他の重合性不飽和モノマーの共重合は、一般的な不飽和モノマーの重合法を用いて行うことができるが、汎用性やコストなどを考慮して、有機溶剤中における溶液型ラジカル重合法により行うことが最も適している。例えば、キシレン、トルエンなどの芳香族溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3−メトキシブチルアセテートなどのエステル系溶剤;n−ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤などの溶剤中で、アゾ系触媒、過酸化物系触媒などの重合開始剤の存在下に、通常約60〜約150℃の温度で共重合反応を行なうことによって、容易に目的とする重合体を得ることができる。
【0181】
ハーフエステル基又は酸無水基を有する不飽和モノマーとその他の重合性不飽和モノマーの各モノマーの共重合割合は、通常、全モノマーの合計質量を基準にして、次のような割合とするのが適当である。即ち、ハーフエステル基又は酸無水基を有する不飽和モノマーは、硬化性や貯蔵安定性などの観点から、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%の範囲内とすることができ、また、その他の重合性不飽和モノマーは通常60〜95質量%、好ましくは70〜90質量%の範囲内とするのが適当である。さらに、その他の重合性不飽和モノマーのうちスチレンの使用量は、硬化塗膜の耐候性の観点から、20質量%程度までとするのが適当である。
【0182】
重合体(1)は通常1,000〜20,000、特に1,500〜15,000の範囲内の数平均分子量を有するアクリル系重合体であることが好ましい。該重合体の数平均分子量を1,000以上とすることにより、硬化塗膜の耐候性が低下するのを抑制できる。また、20,000以下とすることにより、ポリエポキシドとの相溶性を向上することができる。
【0183】
[重合体(2):分子中にカルボキシル基を有する重合体]
重合体(2)は、カルボキシル基含有不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを、重合体(1)の場合と同様の方法により共重合させることによって容易に得ることができる。
【0184】
該カルボキシル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、5−カルボキシペンチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、また、その他の重合性不飽和モノマーとしては、重合体(1)で例示した(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエーテル又はアリールエーテル、オレフィン系化合物及びジエン化合物、炭化水素環含有不飽和モノマー、含窒素不飽和モノマーなどを挙げることができる。
【0185】
重合体(2)は、硬化塗膜の耐候性やポリエポキシド(B)との相溶性などの観点から、通常1,000〜20,000、特に1,500〜15,000の範囲内の数平均分子量を有することが好ましい。
【0186】
[重合体(3):カルボキシル基含有ポリエステル系重合体]
カルボキシル基含有ポリエステル系重合体は、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールと、例えば、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの多価カルボン酸との縮合反応によって容易に得ることができる。例えば、多価カルボン酸のカルボキシル基過剰配合の条件下で1段階の反応により、カルボキシル基含有ポリエステル系重合体を得ることができ、また、逆に多価アルコールの水酸基過剰配合の条件下でまず水酸基末端のポリエステル系重合体を合成した後、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸などの酸無水基含有化合物を後付加させることによっても、カルボキシル基含有ポリエステル系重合体を得ることができる。
【0187】
該カルボキシル基含有ポリエステル系重合体(3)は、通常500〜20,000、特に800〜10,000の範囲内の数平均分子量を有するのが適当である。
【0188】
[化合物(4):ポリオールと1,2−酸無水物との反応により生成するハーフエステル]
ハーフエステルは、ポリオールと1,2−酸無水物とを、酸無水物の開環反応が起こり且つ実質上ポリエステル化反応が起こらないような条件下で反応させることにより得ることができ、その反応生成物は一般に低分子量でありかつ狭い分子量分布を有している。また、該反応生成物は塗料組成物中において低い揮発性有機物含有量を示し、しかも、形成される塗膜に優れた耐酸性などを付与する。
【0189】
該ハーフエステルは、例えば、ポリオールと1,2−酸無水物とを、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で溶媒の存在下に反応させることにより得ることができる。好適な溶媒としては、例えば、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;その他の有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0190】
反応温度は150℃程度以下の低い温度が好ましく、具体的には、通常約70〜約150℃、特に約90〜約120℃の温度が好ましい。反応時間は基本的には反応温度に多少依存して変化するが、通常10分〜24時間程度とすることができる。
【0191】
酸無水物/ポリオールの反応割合は、酸無水物を単官能として計算した当量比で、好ましくは0.8/1〜1.2/1の範囲内とすることができ、これにより所望のハーフエステルを最大限に得ることができる。
【0192】
所望のハーフエステルの調製に用いられる酸無水物は、酸部分の炭素原子を除いて炭素数が2〜30の範囲内にあるものである。そのような酸無水物としては、例えば、脂肪族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、オレフィン系酸無水物、環状オレフィン系酸無水物及び芳香族酸無水物が挙げられる。これらの酸無水物は、当該酸無水物の反応性又は得られたハーフエステルの特性に悪影響を与えない限りにおいて、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、クロロ基、アルキル基、アルコキシ基などが挙げられる。酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、メチルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、オクタデセニルコハク酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、アルキルヘキサヒドロフタル酸無水物(例えば、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物)、テトラフルオロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、クロレンド酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、マレイン酸無水物などが挙げられる。
【0193】
上記酸無水物のハーフエステル化のために使用し得るポリオールとしては、例えば、炭素数2〜20、特に炭素数2〜10のポリオール、好ましくはジオール類、トリオール類及びそれらの混合物が挙げられる。具体的には、脂肪族ポリオール、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、グリセロール、1,2,3−ブタントリオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ペンタエリスリトール、1,2,3,4−ブタンテトラオールなどが挙げられ、また、芳香族ポリオール、例えば、ビスフェノールA、ビス(ヒドロキシメチル)キシレンなどを用いることもできる。
【0194】
該ハーフエステルは、通常400〜1,000、特に500〜900の範囲内の数平均分子量を有することができ、エポキシ基と高い反応性を有しているので高固形分塗料の調製に役立つ。
【0195】
以上に述べたカルボキシル基含有化合物と組み合わせて使用されるポリエポキシドは、分子中にエポキシ基を有する化合物であり、エポキシ基含有量が通常0.8〜15ミリモル/g、特に1.2〜10ミリモル/gの範囲内にあるものが好ましい。
【0196】
ポリエポキシドとしては、例えば、エポキシ基含有アクリル系重合体;脂環式エポキシ基含有アクリル系重合体;ジグリシジルエーテル、2−グリシジルフェニルグリシジルエーテル、2,6−ジグリシジルフェニルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル化合物;ビニルシクロヘキセンジオキサイド、レモネンジオキサイドなどのグリシジル基及び脂環式エポキシ基含有化合物;ジシクロペンタジエンジオキサイド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エポキシシクロヘキセンカルボン酸エチレングリコールジエステル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ基含有化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0197】
これらのうち、数平均分子量が好ましくは1,000〜20,000、より好ましくは1,500〜15,000の範囲内にあるエポキシ基含有アクリル系重合体又は脂環式エポキシ基含有アクリル系重合体が好適に用いられる。
【0198】
該エポキシ基含有アクリル系重合体又は脂環式エポキシ基含有アクリル系重合体は、エポキシ基含有不飽和モノマー又は脂環式エポキシ基含有不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを、重合体(1)の場合と同様の方法により共重合させることによって容易に得ることができる。
【0199】
エポキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどを挙げることができ、また、脂環式エポキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0200】
その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、重合体(1)について例示した水酸基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエーテル又はアリールエーテル、オレフィン系化合物及びジエン化合物、炭化水素環含有不飽和モノマー、含窒素不飽和モノマー、加水分解性アルコキシシリル基含有アクリル系モノマーなどを挙げることができる。
【0201】
クリヤー塗料(Z)における前記カルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドの配合割合は、塗膜の硬化性などの観点から、カルボキシル基含有化合物のカルボキシル基とポリエポキシドのエポキシ基との当量比で、1/0.5〜0.5/1の範囲内となるようにすることが好ましく、より好ましくは1/0.7〜0.7/1、さらに好ましくは1/0.8〜0.8/1である。
【0202】
クリヤー塗料(Z)には、必要に応じて、硬化触媒を配合することができる。使用し得る硬化触媒としては、カルボキシル基含有化合物中のカルボキシル基とエポキシド中のエポキシ基との間の開環エステル化反応に有効な触媒として、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド、トリフェニルベンジルフォスフォニウムクロライドなどの4級塩触媒;トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。これらのうち、4級塩触媒が好適である。さらに、該4級塩に該4級塩とほぼ当量のジブチルリン酸などの酸性リン酸化合物を配合したものは、上記触媒作用を損なうことなく、塗料の貯蔵安定性を向上させ且つ塗料の電気抵抗値の低下によるスプレー塗装適正の低下を防ぐことができる点から好ましい。
【0203】
上記硬化触媒を配合する場合のその配合割合は、通常、カルボキシル基含有化合物及びポリエポキシドの合計固形分100質量部に対して0.01〜5質量部程度であるのが好ましい。
【0204】
また、クリヤー塗料(Z)は、さらに必要に応じて、透明性を阻害しない程度に着色顔料、光輝性顔料、染料等を含有することができ、さらにまた体質顔料、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、表面調整剤、有機溶剤などを適宜含有することができる。
【0205】
クリヤー塗料(Z)は、水性ベース塗料(Y)の塗膜面に、それ自体既知の方法、例えば、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装機などにより塗装することができ、塗装の際、静電印加を行ってもよい。塗装膜厚は、硬化膜厚で通常10〜60μm、好ましくは25〜50μmの範囲内になるようにすることができる。
【0206】
なお、本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー株式会社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー株式会社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0207】
<工程(4)>
本発明の複層塗膜形成方法においては、上記工程(1)〜(3)で形成される中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜が加熱硬化される。クリヤー塗料(Z)を塗装してなるクリヤー塗膜は、通常、未硬化のベース塗膜と一度に加熱硬化される。
【0208】
上記加熱は、通常の塗膜の加熱手段、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができる。加熱温度は、60〜180℃が好ましく、110〜170℃がより好ましく、130〜160℃がさらに好ましい。また加熱時間は、特に制限されるものではないが10〜90分間が好ましく、15〜60分間がより好ましく、15〜30分間がさらにより好ましい。
【0209】
加熱硬化の前に適宜プレヒートを行ってもよい。プレヒートの温度は、40〜110℃が好ましく、50〜110℃がより好ましい。プレヒートの時間は、30秒間〜15分間が好ましく、1〜10分間がより好ましい。
【0210】
この加熱により、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜の層からなる複層塗膜を硬化させることができる。
【0211】
また、本発明の方法により得られる複層塗膜は、仕上がり外観の観点から、その膜厚を硬化塗膜に基づいて、70〜120μmとするのが好ましく、より好ましくは80〜100μmである。
【0212】
本発明の方法においては、例えば自動車車体の一部(例えば、フロントガラスやリアガラスが固定される部分)に、工程(1)〜(4)により得られた、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜のクリヤー塗膜上に接着剤層を形成してもよい。以下、この形態における工程(5)について説明する。
【0213】
<工程(5)>
本発明の方法によれば、自動車車体本体とガラス部材等の接着のため、クリヤー塗膜上に、一般に、固定されるガラス部材の形状に相応する枠状に、接着剤層が形成される。
【0214】
接着剤層を形成する接着剤としては、例えば、ウレタン系、アクリル系、シリコーン系、変成シリコーン系、ポリサルファイド系、エポキシ系、PVC系等の、通常、接着剤、シーリング材又はコーティング材として用いられる樹脂組成物を使用することができる。
【0215】
上記の内、クリヤー塗膜との接着性や高耐候性の観点から、ウレタン系接着剤を用いることが好ましい。ウレタン系接着剤とは、イソシアネート基を有する接着剤であればよく、熱硬化型接着剤、熱可塑性型接着剤等のいずれでもよいが、例えば、メチレン−ビス(p−フェニレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、1−クロロフェニルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、エチルベンゼン−α−2−ジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート等を含有する接着剤が挙げられる。ウレタン系接着剤は、1液型、2液型のいずれも使用されるが、特に、1液型の湿気硬化型のウレタン系接着剤が好適に使用される。
【0216】
接着剤として、具体的には、例えば、サンスター株式会社製の「3740」、「3765T」、「560F」(いずれも商品名)、横浜ゴム株式会社製の「WS373」、「WS282」、「WS202」、「WS252」(いずれも商品名)、ダウケミカル日本株式会社製の「58702SFL」、「58702SFH」(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0217】
接着剤の塗布方法は、特に限定されないが、生産性の観点から、自動車の製造ラインでは一般に、ロボット塗装機による塗布が広く行われている。接着剤の塗布量は、硬化塗膜に基づいて、通常約3〜6mmの膜厚となるように塗布することが好ましい。
【0218】
複層塗膜とガラス部材とを接着する場合は、本工程(5)により、電着塗装された自動車車体の一部に、一般に、固定されるガラス部材の形状に相応する枠状に接着剤層が形成され、その上に、フロントガラスやリアウィンドウ等のガラス部材が据えられ、接着剤層が硬化することにより、自動車車体にガラス部材が固定される。
【実施例】
【0219】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものであり、また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づくものである。
【0220】
<水酸基含有アクリル樹脂(A)の製造>
製造例a1
フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテル35部を仕込み85℃に昇温後、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、スチレン20部、イソブチルメタクリレート22部、n−ブチルメタクリレート42部、アクリル酸6部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル15部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.0部の混合物を4時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成した。その後さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテル10部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部の混合物を1時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成した。さらにジエタノールアミン7.4部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル13部を加え、固形分濃度55%の水酸基含有アクリル樹脂(A1)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度は5℃、重量平均分子量は35,000、水酸基価は43mgKOH/g、酸価は47mgKOH/gであった。
【0221】
製造例a2〜a6
製造例1において、モノマー混合物の配合組成及び反応温度を表1に示すものとする以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度55%の水酸基含有アクリル樹脂(A2)〜(A6)溶液を得た。各水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度、重量平均分子量、水酸基価及び酸価を表1にあわせて示す。
【0222】
【表1】
【0223】
<水性中塗り塗料(X)の製造>
製造例x1
製造例a1で得た水酸基含有アクリル樹脂(A1)36部(樹脂固形分20部)、「JR−806」(テイカ社製、商品名、ルチル型二酸化チタン)90部、「カーボンMA−100」(三菱化学社製、商品名、カーボンブラック)0.1部及び脱イオン水5部を混合し、2−(ジメチルアミノ)エタノールでpH8.0に調整した後、ペイントシェーカーで30分間分散して顔料分散ペーストを得た。次に、得られた顔料分散ペースト131部、下記ポリウレタン樹脂(B1)10部、水酸基含有ポリエステル樹脂(C1)30部、メラミン樹脂(D1)30部及び活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E1)10部を均一に混合した。次いで、得られた混合物に、「UH−752」(商品名、ADEKA社製、増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度が45秒の水性中塗り塗料(X1)を得た。
【0224】
製造例x2〜x9および比較製造例x1〜x7
製造例x1において、各原材料を下記表2に示す組成の各原材料に変更する以外は、製造例x1と同様にして、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度が45秒の水性中塗り塗料(X2)〜(X16)を得た。なお、各成分の配合量は固形分量(部)である。
【0225】
ポリウレタン樹脂(B1):「スーパーフレックス E−4800」(商品名、第一工業製薬社製、ポリエーテル骨格を有するポリウレタン樹脂、ガラス転移温度=−65℃)
ポリウレタン樹脂(B2):「スーパーフレックス E−2000」(商品名、第一工業製薬社製、ポリエステル骨格を有するポリウレタン樹脂、ガラス転移温度=−38℃)
【0226】
水酸基含有ポリエステル樹脂(C1):トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸およびアジピン酸を用いて常法によりエステル化反応せしめた。数平均分子量4500、水酸基価120、酸価10。
【0227】
メラミン樹脂(D1):重量平均分子量1200、イミノ基含有メチルブチル混合エーテル化メラミン。
【0228】
活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E1):
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管、滴下装置及び除去溶媒簡易トラップを備えた反応容器に、「スミジュールN−3300」」(商品名、住化バイエルウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアヌレート構造含有ポリイソシアネート、固形分約100%、イソシアネート基含有率21.8%)360部、「ユニオックスM−550」(日油社製、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、平均分子量 約550)60部及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.2部を仕込み、よく混合して、窒素気流下で130℃で3時間加熱した。次いで、酢酸エチル110部及びマロン酸ジイソプロピル252部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液3部を加え、65℃で8時間攪拌した。得られた樹脂溶液中のイソシアネート量は0.12モル/kgであった。これに4−メチル−2−ペンタノール683部を加え、系の温度を80〜85℃に保ちながら減圧条件下で3時間かけて溶剤を留去し、活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E1)1010部を得た。除去溶媒簡易トラップには、イソプロパノールが95部含まれていた。得られた活性メチレンブロックポリイソシアネート化合物(E1)の固形分濃度は約60%であった。
【0229】
<水性ベース塗料(Y)の製造>
(光輝性顔料濃厚液の製造)
攪拌混合容器内において、アルミニウム顔料ペースト「GX−180A」(商品名、旭化成メタルズ社製、金属含有量74%)19部、2−エチル−1−ヘキサノール35部、リン酸基含有樹脂溶液(注1)8部及び2−(ジメチルアミノ)エタノール0.2部を均一に混合して、光輝性顔料濃厚液(P−1)を得た。
【0230】
(注1)リン酸基含有樹脂溶液:温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、メトキシプロパノール27.5部及びイソブタノール27.5部の混合溶剤を入れ、110℃に加熱し、スチレン25部、n−ブチルメタクリレート27.5部、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業社製、分岐高級アルキルアクリレート)20部、4−ヒドロキシブチルアクリレート7.5部、リン酸基含有重合性モノマー(注2)15部、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート12.5部、イソブタノール10部及びt−ブチルパーオキシオクタノエート4部からなる混合物121.5部を4時間かけて上記混合溶剤に加え、さらにt−ブチルパーオキシオクタノエート0.5部とイソプロパノール20部からなる混合物を1時間滴下した。その後、1時間攪拌熟成して固形分濃度50%のリン酸基含有樹脂溶液を得た。本樹脂のリン酸基による酸価は83mgKOH/g、水酸基価は29mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
【0231】
(注2)リン酸基含有重合性モノマー:温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、モノブチルリン酸57.5部及びイソブタノール41部を入れ、90℃まで昇温後、グリシジルメタクリレート42.5部を2時間かけて滴下した後、さらに1時間攪拌熟成した。その後、イソプロパノ−ル59部を加えて、固形分濃度50%のリン酸基含有重合性モノマー溶液を得た。得られたモノマーのリン酸基による酸価は285mgKOH/gであった。
【0232】
(水性ベース塗料(Y1)の製造)
水酸基含有アクリル樹脂分散液(i)100部(固形分30部)、水酸基含有水溶性アクリル樹脂(ii)73部(固形分40部)、前記光輝性顔料濃厚液(P−1)62部及び「サイメル325」(商品名、オルネクスジャパン社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5部(固形分30部)を均一に混合し、更に、「プライマルASE−60」(商品名、ロームアンドハース社製、増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えて、pH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度が40秒の水性ベース塗料(Y1)を得た。
【0233】
水酸基含有アクリル樹脂分散液(i):
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水130部、「アクアロンKH−10」(商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩エステルアンモニウム塩、有効成分97%)0.52部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで下記のモノマー乳化物(1)のうちの全量の1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3部を反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。次いで、残りのモノマー乳化物(1)を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下した。滴下終了後、1時間熟成した。
【0234】
次いで、下記のモノマー乳化物(2)を1時間かけて滴下した。1時間熟成した後、5% 2−(ジメチルアミノ)エタノール水溶液40部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過することにより、濾液として、平均粒子径120nm(サブミクロン粒度分布測定装置「COULTER N4型」(ベックマン・コールター社製)を用いて、脱イオン水で希釈して20℃で測定した。)、固形分濃度30%の水酸基含有アクリル樹脂分散液(i)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂分散液(i)の酸価は33mgKOH/g、水酸基価は25mgKOH/gであった。
【0235】
モノマー乳化物(1):脱イオン水42部、「アクアロンKH−10」0.72部、メチレンビスアクリルアミド2.1部、スチレン2.8部、メチルメタクリレート16.1部、エチルアクリレート28部及びn−ブチルアクリレート21部を混合攪拌して、モノマー乳化物(1)を得た。
モノマー乳化物(2):脱イオン水18部、「アクアロンKH−10」0.31部、過硫酸アンモニウム0.03部、メタクリル酸5.1部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5.1部、スチレン3部、メチルメタクリレート6部、エチルアクリレート1.8部及びn−ブチルアクリレート9部を混合攪拌して、モノマー乳化物(2)を得た。
【0236】
水酸基含有水溶性アクリル樹脂(ii):
フラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテル35部を仕込み85℃に昇温後、メチルメタクリレート30部、2−エチルヘキシルアクリレート20部、n−ブチルアクリレート29部、ヒドロキシエチルアクリレート15部、アクリル酸6部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル15部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.3部の混合物を4時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成した。その後さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテル10部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部の混合物を1時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成した。さらにジエタノールアミン7.4部を加え、固形分濃度55%、酸価47mgKOH/g、水酸基価72mgKOH/gの水酸基含有水溶性アクリル樹脂(ii)を得た。
【0237】
<クリヤー塗料(Z)の製造>
(カルボキシル基含有化合物の製造)
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、「スワゾール1000」(商品名、コスモ石油社製、炭化水素系有機溶剤)680部を仕込み、窒素ガス通気下で125℃に昇温した。125℃に達した後、窒素ガスの通気を止め、下記モノマー混合物を一定の速度で4時間かけて滴下した。なお、p−tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートは重合開始剤である。
【0238】
モノマー混合物:スチレン500部、シクロヘキシルメタクリレート500部、イソブチルメタクリレート500部、無水マレイン酸500部、プロピオン酸2−エトキシエチル1000部、p−tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート100部を混合攪拌して、モノマー混合物を得た。
【0239】
次いで、125℃で窒素ガスを通気しながら30分間熟成させた後、更に、p−tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10部及び「スワゾール1000」80部の混合物を1時間かけて滴下した。その後、60℃に冷却し、メタノール490部及びトリエチルアミン4部を加え、4時間加熱還流下にハーフエステル化反応を行なった。その後、余分なメタノール326部を減圧下で除去し、固形分55%のカルボキシル基含有化合物溶液を得た。カルボキシル基含有化合物は、数平均分子量が3500、酸価が130mgKOH/gであった。
【0240】
(ポリエポキシドの製造)
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、キシレン410部及びn−ブタノール77部を仕込み、窒素ガス通気下で125℃に昇温した。125℃に達した後、窒素ガスの通気を止め、下記モノマー混合物を一定の速度で4時間かけて滴下した。なお、アゾビスイソブチロニトリルは重合開始剤である。
【0241】
モノマー混合物:グリシジルメタクリレート432部(30%)、n−ブチルアクリレート720部(50%)、スチレン288部(20%)、アゾビスイソブチロニトリル72部を混合攪拌して、モノマー混合物を得た。
【0242】
次いで、125℃で窒素ガスを通気しながら30分間熟成させた後、更にキシレン90部、n−ブタノール40部及びアゾビスイソブチロニトリル14.4部の混合物を2時間かけて滴下し、その後2時間熟成して、固形分70%のポリエポキシド溶液を得た。得られたポリエポキシドは、数平均分子量が2000、エポキシ基含有量が2.12mmol/gであった。
【0243】
(クリヤー塗料(Z)の製造)
前記で得たカルボキシル基含有化合物溶液91部(固形分50部)、前記で得たポリエポキシド溶液71部(固形分50部)、「TBAB」(商品名、LION AKZO社製、テトラブチルアンモニウムブロマイド、有効成分100%)1部及び「BYK−300」(商品名、ビックケミー社製、表面調整剤、有効成分52%)0.2部を均一に混合し、さらに、スワゾール1000(商品名、コスモ石油社製、炭化水素系溶剤)を加えて、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度が25秒のクリヤー塗料(Z1)を得た。
【0244】
<試験板の作製>
(試験用被塗物の作製)
リン酸亜鉛処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板に「エレクロンGT−10」(商品名、関西ペイント株式会社製、熱硬化性エポキシ樹脂系カチオン電着塗料)を膜厚20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱して硬化させて試験用被塗物とした。
【0245】
(実施例1)
1)試験用被塗物に、前記で得た水性中塗り塗料(X1)をハンドスプレーガンで硬化塗膜15μmになるように塗装し、5分間放置後、80℃で3分間予備加熱を行なった。次いで、該中塗り塗膜上に前記で得た水性ベース塗料(Y1)をハンドスプレーガンで硬化膜厚10μmとなるように塗装し、5分間放置後、80℃で3分間予備加熱を行なった。
【0246】
次いで、該未硬化のベース塗膜上に前記で得たクリヤー塗料(Z1)を硬化膜厚25μmとなるようにハンドスプレーガン塗装し、7分間放置した後、140℃で30分間加熱して該複層塗膜をすべて加熱硬化させることにより試験板を作製した。
【0247】
上記試験板にさらにウレタン系接着剤(商品名「3740」、サンスター株式会社製、自動車用ウインドシールド剤)を、塗布形状が幅20mm、厚さ3mm、長さ100mm以上となるように塗布し、離型紙を被せた後、平板で均一に押さえつけた。平板を取り除いた後、温度23±2℃、湿度50±5%で72時間放置して硬化させた。その後、離型紙を剥がして、WDB(ガラス接着性)試験用の試験板Aを作製した。
【0248】
2)また、試験用被塗物に、前記で得た水性中塗り塗料(X1)をハンドスプレーガンで硬化塗膜20μmになるように塗装し、5分間放置後、80℃で3分間予備加熱を行なった。次いで、該中塗り塗膜上に前記で得た水性ベース塗料(Y1)をハンドスプレーガンで硬化膜厚15μmとなるように塗装し、5分間放置後、80℃で3分間予備加熱を行なった。
【0249】
次いで、該未硬化のベース塗膜上に前記で得たクリヤー塗料(Z1)を硬化膜厚35μmとなるようにハンドスプレーガンで塗装し、7分間放置した後、140℃で30分間加熱して該複層塗膜をすべて加熱硬化させることにより、耐チッピング性試験用の試験板Bを作製した。
【0250】
(実施例2〜9及び比較例1〜7)
実施例1において、水性中塗り塗料(X1)を水性中塗り塗料(X2)〜(X16)のいずれかに変更する以外は、実施例1と同様にして各試験板(2種類)を作製した。
【0251】
得られた各試験板につき、WDB付着性(ガラス接着性)及び耐チッピング性の試験を以下の試験方法及び評価方法に基づいて行った。また、上述した測定方法により、中塗り塗膜の破断伸び率、ヤング率及びツーコン硬度も併せて測定した。試験結果は表2に併せて示す。
【0252】
<WDB付着性(ガラス接着性)>
上記作製した各試験板Aを40℃に設定した恒温水槽中に240時間浸漬させ、その後、23℃の水中に1時間浸漬させて冷却した後、以下の剥離試験を行った。
硬化した接着剤層を塗膜に対して90度以上の方向に手で引っ張りながら2〜3mm間隔で、塗膜に対して約60度の角度で塗膜表面に達するところまでカッターナイフでカットを入れる。接着剤層を剥がした後の剥離状態を以下の「◎」、「○」、「△」、「×」の基準により評価した。
◎:接着剤層の剥れが認められず、塗膜の露出も認められない。
○:塗膜は破壊されず、接着剤層のみが凝集破壊を起こして剥れるが、塗膜と接着剤層の付着はほぼ保たれている。
△:塗膜が凝集破壊を起こして剥れる。
×:塗膜と接着剤層との界面で剥れが認められる。
【0253】
<耐チッピング性>
スガ試験機社製の飛石試験機JA−400型(チッピング試験装置)の試片保持台に試験板Bを設置し、−20℃において、30cmの距離から0.392MPa(4kgf/cm)の圧縮空気により、粒度7号の花崗岩砕石50gを試験板Bに45度の角度で衝突させた。その後、得られた試験板Bを水洗して、乾燥し、塗面に布粘着テープ(ニチバン社製)を貼着して、それを剥離した後、塗膜のキズの発生程度等を目視で観察し、下記基準により評価した。
◎:キズの大きさが極めて小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない
○:キズの大きさが小さく、電着面や素地の鋼板が露出していない
△:キズの大きさは小さいが、電着面や素地の鋼板が露出している
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の鋼板も大きく露出している
【0254】
【表2】
【0255】
表2の結果から、実施例1〜9はいずれも、耐チッピング性とガラス部材との接着性が共に良好である複層塗膜を形成できた。これに対し、比較例1〜7は、耐チッピング性とガラス部材との接着性の両立ができなかった。