(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リール本体とリール本体に回転可能に取り付けられるハンドルと、前記ハンドルの回転に連動してスプール軸に沿って前後に往復動するスプールと、前記ハンドルの回転に連動して前記スプール軸の周りを回転するロータとを備え、前記ロータが、略筒状のロータ本体と、前記ロータ本体の対向する2つの位置から径方向外方に延びる第1及び第2接続部と、前記第1及び第2接続部の径方向遠端からロータ本体と間隔を隔ててそれぞれ前方に延びる第1ロータアーム部及び第2ロータアーム部とで構成され、前記第2ロータアーム部に取り付けられた釣糸案内部を介して釣糸を前記スプールに巻回可能な魚釣用スピニングリールにおいて、
前記ロータ本体を金属材料で構成し、前記第1及び第2ロータアーム部を前記金属材料より低比重の材料で構成し、
前記第1ロータアーム部を構成する材料が、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、炭素繊維強化材料、ガラス繊維強化プラスチック、樹脂繊維強化プラスチック及びマグネシウム合金からなる群から選択され、前記第2ロータアーム部を構成する材料が、炭素繊維強化材料、ガラス繊維強化プラスチック、樹脂繊維強化プラスチック及びマグネシウム合金からなる群から選択される、魚釣用スピニングリール。
前記第2ロータアーム部のスプール軸からの距離が、前記第1ロータアーム部のスプール軸からの距離より近い位置になるように、前記第1及び第2ロータアーム部が配置されている、請求項5に記載の魚釣用スピニングリール。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールは、一般的に、リール本体に取り付けられるハンドルと、釣糸案内部を有するロータと、釣糸が巻回されるスプールとを備え、ハンドルを回転させると、それに連動して、ロータが回転すると共に、スプールがスプール軸方向に往復動し、釣糸が案内部を介してスプールに巻き取られる構成となっている。ロータは、筒状のロータ本体と、ロータ本体の後端部の対向する2つの位置から径方向外方に延びる第1及び第2接続部と、第1及び第2接続部の遠端からロータ本体と間隔を隔ててそれぞれ前方(スプール側)に延びる第1ロータアーム部及び第2ロータアーム部とを備え、スプール軸の周りを回転自在な状態で装着されており、第1及び第2ロータアーム部の端部には、ベールが遥動自在に取り付けられ、釣り糸巻取り位置においてベールによって釣り糸がロータアーム部の一方に設けられた釣糸案内部に誘導され、釣糸案内部を介して、前後動するスプールに釣糸が巻回されるようになっている。
【0003】
魚がかかった場合には、釣り糸をハンドルで巻き取る際やドラグの滑りによる糸の繰り出し時などに釣糸に大きな張力が発生し、ロータのアーム部に径方向内方に大きな力が掛かる。この力は、ロータ全体に歪みをもたらし、歪みが大きい場合には、ロータアーム部がスプールと干渉しロータの回転に支障を来たすことがある。従って、大きな力がかかるアーム部に高い曲げ強度及び引っ張り強度等が求められるのみならず、ロータ本体の歪みが小さな構造にすることが求められる。
また、上述したような比較的複雑な形状をしていることから、製造コストを抑えるために、製造方法、構成原料等に一定の制限を生じ、従来のロータは、一般的には、金属材料で構成され、金型鋳造法などで一体的に成型されていた。
【0004】
他方、釣り具を長時間保持する際の負担軽減や釣具の取り扱いが容易に行えるように、竿、釣用スピニングリールなどの軽量化が要望されている(特許文献1)。
【0005】
このため、釣用スピニングリールを構成するロータにあっても軽量化が検討され、軽金属もしくはその合金材料、プラスチック材料、強化プラスチック材料などで、比重の大きい金属の置き換えが行われている(特許文献1及び2)。
【0006】
このような軽量化材料のうち、軽金属又はその合金材料でロータを構成した場合、軽量化を一定レベルで達成することができ、しかも引張強度、曲げ強度に優れ、且つ剛性も高いため、アーム部に大きな力が掛かった際にも全体の歪みが少ないロータとすることができる。また、金型鋳造法などで一体的に成型することができるため、比較的複雑なロータの形状を容易に形成できる利点もある。このため、実際、マグネシウム合金やアルミニウム合金などの軽金属で一体的に成型されたロータが普及している。
しかし、このような軽金属のロータの場合、回転動作の始動時及び停止時におけるハンドル動作に対するロータの反応性については、さらなる改善の要望があった。
【0007】
他方、プラスチック材料、強化プラスチック材料などのより比重の小さな材料でロータを構成した場合、さらなる軽量化ができるため、ロータの回転動作の始動時及び停止時におけるハンドル動作に対するロータの反応性を向上させることができる。特にカーボン繊維などにプラスチックを含侵させた繊維強化プラスチックで構成した場合、上記軽金属に比べ比強度が極めて高く、引張強度、曲げ強度が高く、且つ回転動作の始動時及び停止時にハンドル動作に対する高い反応性を有するロータとすることができる。
しかしながら、これらの材料の中には剛性が低く、ロータのアーム部に大きな力が掛かるとそれによってロータ全体の形状が歪み、その歪の影響でロータアーム部がスプールと干渉しロータの回転動作に支障を来たす事さえあった。このため、アーチ状の補強部材などでロータのアーム部を支持する必要があり(特許文献3)、これにより、糸絡み、慣性モーメントの増大等といった問題が新たに生じていた。
また、強化プラスチック材料、炭素繊維などの、引張強度および曲げ強度が極めて高いものの繊維が配向して成型が困難な材料でロータを作製する場合には、通常、ロータの形状に成型することが容易ではなく、製造コストが高くなり易いといった問題もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に着目してなされたものであり、釣具の軽量化に寄与し得るのみならず、回転動作始動時及び回転動作停止時のハンドル動作に対する反応性に優れ、且つ、ロータのアーム部に大きな力が掛かった際でも、ロータ本体の歪みが少なく安定的に回転動作が可能な魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明者は、慣性モーメントが基本的に質量と直径の乗数で表されることに着目し、ロータを比重の異なる部材で構成することを発案した。すなわち、ロータを構成する部材の内、回転軸から遠いロータアーム部、又はロータアーム部及び接続部を、回転軸に近いロータ本体を構成する材料より低比重材料で構成することで、効率的に慣性モーメントが軽減され、回転動作始動時及び回転動作停止時の操作性が向上することを見出した。また、ロータ本体を剛性の高い材料で構成することで、ロータのアーム部に大きな力が掛かった際でも、ロータ本体の歪みが少なく回転動作に支障がないことを見出した。本発明は、このような思想に基くものである。
【0011】
すなわち、本発明は、リール本体とリール本体に回転可能に取り付けられるハンドルと、前記ハンドルの回転に連動してスプール軸に沿って前後に往復動するスプールと、前記ハンドルの回転に連動して、前記スプール軸の周りを回転するロータとを備え、前記ロータが、略筒状のロータ本体と、前記ロータ本体の対向する2つの位置から径方向外方に延びる第1及び第2接続部と、前記第1及び第2接続部の径方向遠端からロータ本体と間隔を隔ててそれぞれ前方(スプール側)に延びる第1ロータアーム部及び第2ロータアーム部とで構成され、前記ロータアーム部の一方に取り付けられた釣糸案内部を介して釣糸を前記スプールに巻回可能な魚釣用スピニングリールにおいて、
前記ロータ本体を金属材料で構成し、前記第1及び第2ロータアーム部を前記金属材料より低比重の材料で構成することを特徴とする、魚釣用スピニングリールを提供する。
本発明の好ましい実施形態では、ロータ本体を構成する金属材料は、ADC12又はA360等のアルミニウム合金、AZ91D等のマグネシウム合金等であり、ロータアーム部を構成する材料は、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化材料(例えば炭素繊維強化プラスチック)、樹脂繊維強化プラスチック等の繊維強化材料、又はAZ91D等のマグネシウム合金などである。
本発明の好ましい実施形態では、前記第2ロータアーム部のスプール軸からの距離(前記第2ロータアーム部がスプール軸と平行に位置しない場合には、最短の距離)が、前記第1ロータアーム部のスプール軸からの距離(前記第2ロータアーム部がスプール軸と平行に位置しない場合には、最短の距離)より近い位置になるように、前記第1及び第2ロータアーム部が配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の魚釣用スピニングリールによれば、回転軸から遠い位置にあるロータアーム部が回転軸に近い位置にあるロータ本体を構成する材料より比重の低い材料で構成されるために、回転時のロータの慣性モーメントが効果的に低減され、回転始動時及び回転停止時において、ロータがハンドル動作に敏感に反応し、操作感度が向上する。また、釣糸の張力変化に敏感に反応でき、魚信感度が向上する。
また、ロータ本体は金属材料で構成されるため剛性が高く、ロータのアーム部に大きな力が掛かった場合でも、ロータ本体の歪みは殆どないため、ロータ本体の歪みによるロータアーム部の歪への影響は小さくなる。また、製造効率、製造コストの点でもメリットがある。
加えて、本発明によれば、ロータアーム部だけを、強化材料、特に、カーボン繊維強化材料の積層体などで構成することができ、これらの材料で複雑な形状の部材を形成する必要がなくなる。このため、これらの材料でロータを一体的に形成する場合に比べ、製造が容易になり、製造コストが低減する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る魚釣用スピニングリールの実施形態について説明する。なお、本出願の全体にわたって、軸方向とは、スプール軸に沿った方向を意味し、後方とは、対象としている部材のリール本体側、前方とは、対象としている部材のスプール側を意味する。
【0015】
図1は、本発明の典型的な一実施形態による魚釣用スピニングリールの外観全体を概略的に示し、
図2は、その基本的な内部構造を概略的に示す。
図3は、本発明の一実施形態によるロータの概要を示し、それぞれ正面図(a)、上面図(b)(
図3(a)の矢印A側から見た図)、及び側面図(
図3(a)、(b)の矢印B側から見た図)である。
図1及び2に示す通り、本発明の典型的な一実施形態において、魚釣用スピニングリールは、リール本体1と、それに取り付けられるハンドル2と、スプール軸6の周りを回転可能に固定されているロータ3と、スプール軸6に固定されているスプール5とを備え、ハンドル2の回転操作に連動してロータ3が回転すると同時に、スプール5がスプール軸6方向に前後に往復動し、ロータ3のアーム部に取り付けられているベール25が釣糸巻き取り位置にある時、釣糸4がベール25によってアーム部の一方に取り付けられている釣糸案内部24に誘導され、釣糸案内部24を介して釣糸4がスプール5に巻回される。
【0016】
図2に示す通り、リール本体1内では、ハンドル2が装着されたハンドル軸2aが軸受を介して回転可能に支持されており、ハンドル軸2aの回転操作をロータ3とスプール5に伝達する動力伝達機構が設けられている。
【0017】
ハンドル2の回転操作をロータ3に伝達する動力伝達機構は、通常、
図2に示すように、ハンドル軸2aに一体に装着されているドライブギヤ10と、スプール軸6方向に添って配置される筒状のピニオンギア12とを含み、ドライブギヤ10は、ピニオンギア12と噛合しており、ピニオンギア12は、ロータ3に固定されている。これにより、ハンドル2の回転動作が、ドライブギヤ10及びピニオンギア12を介してロータ3に伝達される。したがって、ロータ3の重さ及び慣性モーメントは、このような伝達機構を通じて、ハンドル2による操作の際の感触に影響を及ぼし得る。
【0018】
ハンドル2の回転操作をスプール5に伝達する動力伝達機構は、通常、
図2に示すように、ハンドル軸2aに一体に装着されている減速ギア15に噛合しているオシレートギア16と、その周縁部に設けられた突起16aと係合するオシレート溝17aを有するスライダー17とを含む。スライダー17は、スプール軸6に固定されており、オシレートギア16の回転が、その周縁部に設けられた突起16aとオシレート溝17aとの係合を通じてスプール軸6の往復動に変換され、スプール軸6に固定されているスプール5が連動して往復動する。
【0019】
スプール5は、通常、ロータ3の第1ロータアーム部3a及び第2ロータアーム部3bの間に設置され、上述した構成により、ハンドル2を回転操作することで、ロータ3が回転すると共に、スプール5がスプール軸6に沿って前後に往復駆動し、釣糸4は、ロータ3に設けられた釣糸案内部24を介して、スプール5の釣糸巻回胴部5aに巻回される。
【0020】
図3に示す通り、ロータ3は、略筒状(典型的には略円筒状)のロータ本体3eと、ロータ本体3eの両側の、典型的には後端付近の対向する位置から径方向外方に延びる第1及び第2接続部3c、3dと、第1及び第2接続部3c、3dのロータ本体3eから遠い位置の端部からロータ本体3eと間隔を隔てて(典型的には筒状のロータ本体3eと略平行して)それぞれ前方に延びる第1ロータアーム部及び第2ロータアーム部3a、3bとで構成されている。
【0021】
ロータ本体3eは、通常、
図3に示すように、略筒状の胴部31と、軸方向に対して略直交する方向に延び、胴部31に固定される板状の取り付け部32とで構成され、取り付け部32の中央に開口部32aが設けられている。この開口部32aにピニオンギア12が挿入されナット等の固定部材でロータ3に固定される。ピニオンギア12は、通常、細長い筒状の形状をしており、その内部をスプール軸6が貫通しており、ピニオンギア12の内周面には、スプール軸6と隙間を確保するために、軸受けが配置されている。
図3に示す実施形態では、略筒状の胴部31の底部分31aが胴部31の他の部分(31、32)より肉厚になっており、中でも第1及び第2接続部3c、3dとの接続部分31bは、最も肉厚になっており、応力が集中し易い部分の強度を集中的に大きくしている。
【0022】
第1及び第2接続部3c、3dは、
図1乃至3に示す通り、通常、ロータ本体3e略筒状の胴部31の外周面の対向する位置、典型的には後端付近の対向する位置から径方向外方に突出するように設けられ、その遠端で第1及び第2ロータアーム部3a、3bに接続している。第1及び第2接続部3c、3dは、典型的には、
図3に示すように、軸方向に対して略直交する方向に延伸するように設けられるが、軸方向に対して直交する位置から前後に傾斜させて設けることも可能である。ロータ本体3e並びに第1及び第2ロータアーム部3a、3bとの接続部分は応力が集中し易い箇所であるため、強度を高めることが好ましく、
図3に示す実施形態では、第1及び第2接続部3c、3dのロータ本体3eとの接続部分の幅を他の箇所より広くして接続面積が広くなるようにし、接続部分の応力を分散している(
図3b)。他方、第1及び第2ロータアーム部3a、3bは慣性モーメントの低減の観点からロータ本体3eの略筒状の胴部の直径より狭い幅になっており(
図3b)、第1及び第2接続部3c、3dの第1及び第2ロータアーム部3a、3bとの接続部分の厚さを、接続部の他の箇所より大きくすることで接続部の強度を大きくしている(
図3a)。また、特に、釣糸巻き取り時やドラグ繰り出し時などに最も大きな応力が掛かる第2ロータアーム部3b(釣糸案内部を設ける)に接続する第2接続部3dは、第1接続部3cより径方向の長さを短くして強度を大きくしている。
【0023】
第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、それぞれ、第1及び第2接続部3c、3dのロータ本体3eから遠い位置の端部からロータ本体3eと間隔を隔ててそれぞれ前方に延伸するように設けられ、通常、この両アーム部3a、3bの間にスプール5が配置される。第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、典型的には筒状のロータ本体3eと略平行して前方に延設されるが、スプールを配置する空間が確保され、ロータ全体の回転バランスが確保される限り、筒状のロータ本体3eと平行せずに前方に延設されてもよい。
これらアーム部3a、3bは、接続部3c、3dと反対側の端部に孔36が形成され、ここに、揺動自在にベール25が軸支され、通常、これらアーム部3a、3bの一方に、釣糸巻取位置と釣糸放出位置でベールの姿勢を保持するための保持手段33と、釣糸放出位置にあるベールをハンドルの回転に連動させて釣糸巻取位置に自動復帰させるキック手段34が付設され、これらは通常カバー35中に設置される。
図3に示す実施形態では、第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、ベール取り付け側より第1及び第2接続部3c、3dとの接続部分が幅広になっており(
図3c)、第1及び第2接続部3c、3dとの接続部分の強度を大きくしている。他の実施形態において、同様の目的で、第1及び第2ロータアーム部の厚さが、ベール取り付け側より第1及び第2接続部3c、3dとの接続部分の方が大きな形状(積層による場合を含む)とすることもできる。特に第2ロータアーム部3bでは、このような幅広又は厚さの構造にしてもよい。
【0024】
他方、本発明の一実施形態では、ロータの軽量化及び慣性モーメントの低減のための構造も設けている。例えば、
図3に示すように、ロータ本体3eの胴部31及び取り付け部32、並びに第1ロータアーム部3aで通常大きな応力の掛からない部分をくり抜き開口部としている。また、同様の観点から中空構造を採用してよい。
【0025】
図3に示す実施形態では、ロータ本体3eと第1及び第2接続部3c、3dを一体的に形成し、第1及び第2接続部にそれぞれ第1及び第2ロータアーム部3a、3bが螺子などの固定部材30によって固定されている。このような構成では、第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、独立した部材として製造されるため、平坦な板状など、基本的な形状で製造でき、製造プロセス上の制限や原料の制限が少ない点で有利であり、製造コストを低減することにも寄与する。
他の実施形態では、ロータ本体3eと第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bとを、それぞれ別個の部材として作成し、ロータ本体3eに第1及び第2接続部3c、3dを固定部材(例えば螺子など)によって連結し、第1及び第2ロータアーム部3a、3bを、それぞれ、第1及び第2接続部3c、3dに、固定部材(螺子など)によって連結して、ロータを形成してよい。
この実施形態では、第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、独立した部材として製造され、平坦な板状の部材として製造することができる。
【0026】
本発明においては、ロータをどのように構成するかについては、特に制限は無く、他の実施形態によれば、ロータを様々な複数の部材で構成することもできる。また、本発明において各部材の接合方法に特に制限は無く、異種材料を接合する公知の技術を適用することができる。
【0027】
本発明のスピニングリールは、ロータ本体3eと、第1及び第2ロータアーム部3a、3bとで異なる材料で構成することを特徴とする。すなわち、上述したロータの構造において、釣糸が、ロータのアーム部に取り付けられている案内部に係合している状態で、釣糸に張力が掛かると、アーム部には内側の径方向に力がかかり、この応力は、ロータ全体に及ぶ。また、慣性モーメントの観点で見ると、回転軸の近くに位置するロータ本体より、回転軸からより離れて位置する第1ロータアーム部及び第2ロータアーム部の重さがより慣性モーメントに影響することが理解される。本発明は、この問題を複数の材料でロータを構成することで対処する。
より具体的には、第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、ロータ本体3eを構成する材料より比重の小さな材料で構成され、これにより、慣性モーメントを効果的に低減している。また、慣性モーメントへの影響の小さなロータ本体3eは、金属材料で構成され、これにより、ロータ本体3eの剛性を高めて、アーム部3a、3bに内側の径方向に力がかかった際にロータ本体3eの歪みが小さくなるようにしており、大きな負荷がロータに掛かった状態でも円滑な操作を可能にしている。
【0028】
第1及び第2ロータアーム部3a、3bを構成する材料としては、慣性モーメントを低減する点からは比重の小さな材料が望まれるが、これらアーム部3a、3b、特に釣糸案内部を有するアーム部3bでは、大きな応力がかかるので、更に引っ張り強度及び曲げ強度等の強度が高い材料が好ましい。また、アーム部の揺れが大きいと、ドラグ繰り出し時に釣糸がスムーズ繰り出せないことがあるため、一定レベルの剛性を有することも好ましい。
このような観点からすると、第1ロータアーム部3aを構成する材料としては、ポリアミド樹脂(例えば、PA66等)、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化材料(例えば、炭素繊維強化プラスチック)、樹脂繊維強化プラスチック等の繊維強化材料、又はマグネシウム合金などを挙げることができ、炭素繊維強化材料がより好ましい。第2ロータアーム部3bを構成する材料としては、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化材料(例えば、炭素繊維強化プラスチック)等の繊維強化材料又はマグネシウム合金などを挙げることができ、炭素繊維強化材料がより好ましい。なお、ロータアーム部、特に2ロータアーム部3aの剛性は、アーム部をロータ本体の材料より低比重の材料で構成することで慣性モーメントを効果的に軽減する趣旨を逸脱しない範囲で補強構造を設けて補強してもよい。
【0029】
繊維強化材料としては、引張弾性率:24tf/mm
2以上の、典型的には30tf/mm
2から60tf/mm
2の繊維強化材料の積層体が好ましく、例えば、24tf/mm
2以上の、典型的には30tf/mm
2から60tf/mm
2のカーボンプリプレグを積層、典型的には10〜50枚積層した積層体を好ましい例として挙げることができる。
【0030】
他方、ロータ本体3eは、金属材料であればよく、様々な金属材料で構成することができる。もっとも、ロータ全体を軽量化して、より高い操作性を達成するには、ロータも軽い金属材料で構成することが望まれる。従って、比重、引っ張り強度及び曲げ強度等の強度、及び剛性の観点から金属材料を選択することが好ましい。具体的には、ロータ本体3eを構成する材料としては、例えば、ADC12又はA360等のアルミニウム合金、AZ91D等のマグネシウム合金などを挙げることができる。小型のロータでは、AZ91D等のマグネシウム合金等がより好ましい。なお、ロータ本体3eをマグネシウム合金で構成する場合には、ロータアーム部3a、3bは、上述したプラスチックで構成されることになる。
【0031】
図3に示す実施形態のように、ロータ本体3eと第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bとが、それぞれ別個の部材として作成される場合には、ロータ本体3eと第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bとをそれぞれ異なる材料で構成してもよいし、ロータ本体3eと第1及び第2接続部を同じ材料で構成し、第1及び第2ロータアーム部を異なる材料で構成してもよいし、第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部を同じ材料で構成し、ロータ本体3eを異なる材料で構成してもよい。もっとも、ロータ本体3eと第1及び第2接続部3c、3dとを異なる材料で構成する場合には、慣性モーメントの効果的な低減の観点から、第1及び第2接続部の材料は、ロータ本体3eを構成する材料より比重の小さな材料にすることが好ましい。
上記の通り、第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bは、独立した部材として製造する場合には、平坦な板状の部材として製造できるため、製造工程の点からこれらを構成する材料に関する制限が少ないため有利である。この観点から、本発明においては、第1及び第2接続部3c、3dと第1及び第2ロータアーム部3a、3bを炭素繊維強化材料で構成してもよい。
【0032】
本発明においては、第1接続部と第2接続部を異なる材料で構成してもよく、第1ロータアーム部と第2ロータアーム部を異なる材料で構成してもよい。例えば、慣性モーメントのバランスをとるために、釣糸案内部を取り付けたアーム部及びそれに接続している接続部を、他のアーム部及びそれに接続している接続部を構成する材料より比重の小さな材料で構成してもよい。また、第1ロータアーム部と第2ロータアーム部を、それぞれ第1接続部と第2接続部を構成する材料より比重の低い材料で構成してもよい。
【0033】
大型のロータとする場合には、より大きな強度を求められるため、好ましい一実施形態によれば、ロータ本体3e(及び接続部3c、3d)を、アルミニウム合金、好ましくはADC12又はA360で構成し、ロータアーム部3a、3bを、引張弾性率:24tf/mm
2以上の、典型的には30tf/mm
2から60tf/mm
2のカーボンプリプレグを積層した積層体、又はマグネシウム合金、好ましくはAZ91Dで構成することができる。
他方、小型ロータでは、一般的には、強度に対する要求は大型のロータより低いためより軽量化に重点を置いた構成にすることができ、好ましい一実施形態によれば、ロータ本体3e(及び接続部3c、3d)を、マグネシウム合金、好ましくはAZ91Dで構成し、ロータアーム部3a、3bを、引張弾性率:24tf/mm
2以上の、典型的には30tf/mm
2から60tf/mm
2のカーボンプリプレグを積層した積層体、又は30重量%〜50重量%のカーボン繊維をポリアミド樹脂に含有させた炭素繊維強化材料で構成することができる。この実施形態では、好ましくは、第1ロータアーム部3aを、30重量%〜50重量%のカーボン繊維をポリアミド樹脂に含有させた炭素繊維強化材料で構成し、第2ロータアーム部3bを、引張弾性率:24tf/mm
2以上の、典型的には30tf/mm
2から60tf/mm
2のカーボンプリプレグを積層した積層体で構成することができる。
【0034】
本発明においては、ロータを構成する材料以外について特に制限は無く、上述した事項以外、種々の修正変更を行なうことができる。
例えば、ロータを構成する各部材の厚さ、形状、構造は、曲げ強度及び引っ張り強度等の強度、剛性、及び慣性モーメントの点から、上述した構造等以外に適宜変更することができる。例えば、慣性モーメントの軽減の点から、第1及び第2ロータアーム部を、スプール軸から該アームの位置までの仮想半径で描かれる仮想の円にほぼ一致する曲率半径の曲面を有する形状としてもよい。
また、ロータ全体の慣性モーメントのバランスを取るために、種々の構成を採用することができる。例えば、
図3に示す実施形態のように、保持手段33及び/又はキック手段34を付設した場合、第2ロータアーム部3bとスプール軸6との距離が、他のロータアーム部3aとスプール軸6との距離より短くなる構造のロータとすることができる。また、ロータアーム部の設置側からロータを見た際に、アームのベール取り付け位置(36)がスプール軸に対して上下方向にずれるようにロータアーム部3a、3bを配置することもできる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形が可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
炭素繊維を70重量%以上含有する炭素繊維強化材料(カーボンプリグレグ、30tf/mm
2)から積層法により板状の2つのロータアームを製造した。また、マグネシウム合金(AZ91D)で鋳造によりロータ本体及び2つの接続部を一体的に製造した。2つのロータアームをチタン製のネジでそれぞれ接続部に連結してロータを作製した。寸法を
図4に示す。
【0036】
(実施例2)
2つのロータアームを、30重量%の炭素繊維をPA66樹脂に含有した炭素繊維強化材料(PA66−CF30)を射出成形して製造した以外は、実施例1と同様にしてロータを作製した。
(実施例3)
ロータ本体及び2つの接続部を、アルミニウム合金(A360)で鋳造成型により一体的に成型して作製した以外は、実施例1と同様にしてロータを作製した。
(実施例4)
2つのロータアームを、30重量%の炭素繊維をPA66樹脂に含有した炭素繊維強化材料(PA66−CF30)を射出成形して製造した以外は、実施例3と同様にしてロータを作製した。
【0037】
(比較例1)
ロータ本体、2つの接続部および2つのロータアームを、マグネシウム合金(AZ91D)で鋳造成型により一体的に成型しロータを作製した。寸法は実施例1のロータと同様である。
【0038】
(比較例2)
ロータ本体、2つの接続部および2つのロータアームを、アルミニウム合金(A360)で鋳造成型により一体的に成型しロータを作製した。寸法は実施例1のロータと同様である。
【0039】
(寸法、重量、各材料の比重、慣性モーメント、歪み)
作製した各ロータについて、総重量、重心での慣性モーメント及び歪みについて測定した。重心での慣性モーメント及び歪みは以下のように測定した。
<重心での慣性モーメント>
ロータの寸法、各部を構成する材料の比重から計算により求めた。
<歪み>
各ロータのロータアームの先端を5kgfの力で押した際のロータアームの変位量により評価した。
<結果>
【表1】
実施例1及び2を比較例1と対比すると、いずれもロータ本体及び接続部がマグネシウム合金(AZ91D)で作製されているが、実施例1及び2のように、回転軸から遠い位置にあるロータアーム部が回転軸に近い位置にあるロータ本体を構成する材料より比重の低い材料で構成されると、回転時のロータの慣性モーメントが効果的に低減できた。すなわち、ロータアームもマグネシウム合金(AZ91D)で作製した比較例1のロータでは、慣性モーメントが30220g・mm
2であったのに対して、ロータアームを、比重がより低い炭素繊維強化材料で作製した実施例1及び2のロータでは、慣性モーメントが29964及び29,729g・mm
2であり慣性モーメントが低減できた。
同様に、ロータ本体及び接続部がアルミニウム合金(A360)で作製されている、実施例3及び4並びに比較例2のロータを対比すると、ロータアームの材料の違いによって同様の結果が得られた。