(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467029
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】1,3,3,3−テトラ−フルオロプロペンをベースにした組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20190128BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20190128BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20190128BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 E
C10M105/38
C10N30:00 A
C10N40:30
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-250287(P2017-250287)
(22)【出願日】2017年12月27日
(62)【分割の表示】特願2016-103039(P2016-103039)の分割
【原出願日】2011年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-44181(P2018-44181A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】1057483
(32)【優先日】2010年9月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウィザム ラシェド
(72)【発明者】
【氏名】ベアトリス ブザン
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−280601(JP,A)
【文献】
特表2007−511025(JP,A)
【文献】
米国特許第10119056(US,B2)
【文献】
欧州特許第2431442(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C10M 105/38
C10M 107/24
C10N 30/00
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール・エステル(POE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1〜99重量%のtrans−1,3,3,3−テトラ−フルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と99〜1重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る冷媒Fとを含み、上記POEがペンタエリスリトールまたはジペンタエリトリトール骨格鎖を有するポリオールであることを特徴とする組成物。
【請求項2】
冷媒Fが5〜95重量%のtrans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と、95〜5重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
冷媒Fが30〜91重量%のtrans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と、70〜9重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
POEが2〜15の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のカルボン酸から得られる請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
POEの比率が10〜50重量%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物の、冷蔵、空気調和およびヒートポンプでの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍、空調およびヒートポンプで使用可能なtrans−1,3,3,3−テトラ−フルオロプロペンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、少なくとも一種の潤滑剤とを含む組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気オゾン層を破壊する物質によって生じる問題(ODP:オゾン層破壊係数)に関してはモントリオールで話し合われ、クロロフルオロカーボン(CFC)の製造とその使用を削減するという議定書が批准された。この議定書は修正され、その修正案ではCFCの放棄が課され、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を含む他の化合物にも規制が広げられた。
【0003】
冷凍産業および空調産業はこれらの冷媒流体の代替物に多くの投資を行ってきており、ハイドロフルオロカーボン(HFC)が市場に出された。
【0004】
自動車産業では、多くの国で販売されている車両の空調装置でクロロフルオロカーボン(CFC−12)冷媒流体からオゾン層への影響が少ないヒドロフルオロカーボン(1,1,1,2−テトラフルオロエタン:HFC−134a)冷媒流体へ切り替えられた。しかし、京都議定書で設定された目的を考慮するとHFC−134a(GWP=1430)は地球温暖化係数が高いとみなされている。
温室効果に対する流体の寄与は規格GWP(地球温暖化係数)によって定量化される。このGWPは二酸化炭素の基準値を1にして温暖化可能性を指数化したものである。
【0005】
ヒドロフルオロオレフィン(HFO)は温暖化可能性が低く、従って、京都プロトコルの目的セットを満たす。特許文献1(日本特許第JP 4-110388号公報)には熱伝導流体としてヒドロフルオロプロペンを用いることが記載されている。
【0006】
産業界で最も広く使われている冷凍機は液体の冷媒を蒸発させて冷却するもので、蒸発後、冷媒は圧縮されて液体状態へ戻り、再循環される。
【0007】
使用される冷凍圧縮機は往復動式、渦形、遠心型またはスクリュータイプのものである。一般に、運動要素の消耗および加熱を減らし、密封を完全にし、腐食から保護するためにコンプレッサ内部を潤滑する必要がある。
【0008】
冷媒が商業的に受入れられるためには熱伝達特性が良好であることに加えて、潤滑剤が熱的安定度であり、潤滑剤と相溶性があることが必要である。すなわち、大多数の冷凍システムに存在するコンプレッサで使用されている潤滑剤と冷媒とが相溶性(compatible)であることが望ましい。冷媒と潤滑剤との組合せは冷凍システムの効率にとって重要である。特に、潤滑剤は運転温度全体で冷媒中に十分に可溶でなければならない。
【0009】
従来の自動車用空調ではポリアルキレングリコール(PAG)がHFC−134aの潤滑剤として使用されていた。
【0010】
潤滑剤と1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンおよび1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの混和性に関するテストは特許文献2(国際特許第WO 2004/037913号公報)の実施例2に記載されている。また、実施例3にはポリアルキレン・グリコールとの相溶性テストも記載されている。しかし、これらのテストには1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの異性体の種類は記載がない。
【0011】
特許文献3(国際特許第WO 2005/108522号公報)にはtrans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと1,1,1,2−テトラフルオロエタンの共沸組成物が開示されている。最近になって自動車用空調での冷媒のHFC−134aの代替として2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが選択された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本特許第JP 4-110388号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2004/037913号公報
【特許文献3】国際特許第WO 2005/108522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、冷蔵、空調およびヒートポンプで使用する冷媒と潤滑剤とのカップルを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の対象は、ポリオール・エステル(POE)または、ポリビニールエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1〜99重量%のトランス(trans)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と、1〜99重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る冷媒Fとを含む組成物にある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明組成物はポリオール・エステル(POE)または、ポリビニールエーテル(PVE)をベースとする少なくとも一種の潤滑剤と、5〜95量%のtrans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と、95〜5重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る冷媒Fとを含むのが好ましい。
【0016】
特に好ましい組成物は、ポリオール・エステル(POE)またはポリビニールエーテル(PVE)をベースとする少なくとも一種の潤滑剤と、30〜91重量%のtrans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(trans−HFO−1234ze)と、70〜9重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンとから成る冷媒Fとを含む組成物である。
【0017】
冷媒Fは他のハイドロフルオロカーボンa含むことができる。
【0018】
この冷媒Fはtrans−HFO−1234zeより性能が良いという利点を有し、しかも、PAGの存在下でのtrans−HFO−1234zeに比較して、POEまたはPVEの存在下での冷媒の安定性がより大きくなる。
【0019】
ポリオール・エステルはポリオール(少なくとも2つのヒドロキシル基−OHを有するアルコール)と、単官能性または多官能性のカルボキシル酸または単官能性のカルボキシルの混合物との反応によって得られる。この反応で生じる水は逆反応(すなわち加水分解)を防ぐために除去される。
【0020】
本発明で好ましいポリオールはネオペンチル骨格鎖を有するもの、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリトリトールである。好ましいポリオールはペンタエリスリトールである。
【0021】
カルボキシルは、2〜15の炭素原子を含むことができ、直鎖または分岐した炭素骨格鎖を有することができる。例としてはn-ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、2- エチルヘキサン酸、2,2- ジメチルペンタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、アジピン酸、琥珀酸およびこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
アルコール官能基の一部はエステル化されないが、その比率は低い。従って、POEはCH
2−O−(C=O)−単位に対して0〜5モル%のCH
2−OH単位を含むことができる。
【0023】
好ましいPOE潤滑剤は40℃で1〜1000センチトトークス(cSt)の粘性、好ましくは10〜200cSt、より好ましくは30〜80cStの粘度を有する。
【0024】
ポリビニールエーテル(PVE)オイルは下記2の単位のコポリマーであるのが好ましい:
【0026】
このオイルの特性(粘性、冷媒溶解性、特に冷媒との混和性)はm/n比およびm+nを変えることで調整できる。
【0027】
好ましいPVEオイルは単位1が50〜95重量%である。
【0028】
本発明の好ましい一つの実施例では潤滑剤は組成物の10〜50重量%の比率で存在する。
【0029】
冷媒Fは芳香剤化合物のような添加剤を含むことができる。
【0030】
本発明のさらに他の対象は上記組成物の冷蔵、特に家庭用および商用の冷蔵、コールドルーム、食品産業、加工業、冷凍輸送(トラック、ボート)、器具がチラーであるか、直接膨張器具である家庭用、商用、工業用空調、ヒートポンプ、特に中温および高温ヒートポンプでの使用にある。
【0031】
本発明組成物はグライド温度が低いので、乾式蒸発器を有する機器およびフラッド(flooded)システムで運転される蒸発器を有する機器で使用できる。
【実施例】
【0032】
実験部分
熱安定性はASHRAE規格97−2007:「sealed glass tube method to test the chemical stability of materials for use within refrigerant systems」に従って実行した。
テスト条件は以下の通り:
冷媒重量 :2.2g
潤滑剤重量:5g
温度 :200℃
持続時間 :14日
【0033】
42.2mlのガラス管に潤滑剤を入れる。それからガラス管を真空減圧し、それに冷媒Fを加える。それからガラス管を溶融して密封し、200℃で14日間、乾燥器中に置く。
【0034】
テスト終了時に各種分析を行う:
(1)気相を回収し、ガスクロマトグラフィで分析する:主たる純物をGC/MSで同定した(ガスクロマトグラフィをマススペクトロメトリに連結)。冷媒Fから来る不純物と潤滑剤から来る不純物とが合さる。
(2)潤滑剤は色(分光測色法(Labomat DR Lange LICO220 Model MLG131)で)、含水率(カール・フィッシャー・クーロメトリ(Mettler DL37)で)および酸価(0.O1Nメタノール水酸化カリウムで定量分析)を分析した。
【0035】
3つの商用潤滑剤:PAG ND8、POE Ze−GLES RB68、PVE FVC 68Dをテストした。
【表1】
【0036】
POEまたはPVEの存在下でのtrans−HFO−1234zeは潤滑剤の安定性を良くすることが分かる。また、POEの存在下では冷媒の安定性も改善される。
【0037】
応用
冷媒Fを使用した系の熱力学的運転性能計算ツール
濃度、エンタルピー、エントロピーおよび混合物の気液平衡データの計算にはRK−Soave式を用いた。この式を使用するには混合物の純物質の性質に関するデータと、各二元組合せ(binary combination)用の相関係数とが必要である。
【0038】
各純物質に必要なデータは以下の通りである:
沸点、臨界圧および臨界温度、沸点から臨界点までの温度を関数とする圧力曲線、温度を関数とする飽和液体および飽和蒸気濃度。
【0039】
HFCのデータはASHRAE Handbook 2005の第20章に記載されており、また、Refrop(冷媒の特性を計算するためのNISTが開発したソフトウェア)から入手できる。
HFO温度-圧力曲線データは静的方法で測定される。臨界圧および臨界温度はSetaram社のC80カロリメータを使用して測定する。温度の関数としての飽和濃度はEcole des Mines de Parisの研究室が開発した振動管デンシメータ法で測定する。
【0040】
二元相関係数:
RK−Soave式では混合物中の各化合物の挙動を表すために二元相関(binary interaction)係数を使用する。この係数は実験で求めた気液平衡データを基に計算される。
気液平衡測定で使用した方法は静的分析セル法である。この均衡セルはサファイヤ管から成り、2つのRolsitm電磁サンプラを備えている。この均衡セルをクリオサーモスタット(cryothermostat)浴(HUBER I1540)中に沈める。種々の回転速度で磁気撹拌して平衡へ達するのを加速する。サンプル分析はカサロメータ(TCD)を使用したガスクロマトグラフィ(1-IP5890シリーズII)で行った。
【0041】
HFC−134a/trans−HFO−1234ze
HFC−134a/trans−HFO−1234ze二元組合せの気液平衡は20℃で下記等温式で測定した。
【0042】
圧縮システム
蒸発器、凝縮器、液体蒸気交換器(内部熱交換器)、スクリュー圧縮機および圧力調節器を備えた圧縮システムを考える。このシステムは15℃の過熱および凝縮器と蒸発器の出口の間の内部熱交換器を用いて運転する。コンプレッサの有効効率(isentropic efficiency)は圧縮比に依存する。この交換効率は下記の式に従って計算される:
【0043】
【0044】
スクリュー圧縮機の場合には有効効率式(1)の定数、b、c、d、eを「Handbook of air conditioning and refrigeration」の第11.52頁に記載の標準データに従って計算する。
【0045】
成績係数(COP)は系に提供または系が消費した動力(パワー)に対する系に供給した有効動力の比として定義される。
【0046】
ローレンツ成績係数(COPLorenz)は成績の基準係数で、温度に依存し、各冷媒のCOPの比較で使用される。ローレンツ成績係数は下記で定義される(温度TはK温度である):
【0047】
【0048】
空調および冷蔵でのローレンツCOP:
【0049】
加熱の場合のローレンツCOP:
【0050】
各組成物でローレンツ・サイクルの成績係数を対応温度の関数で計算する。%COP/COPLorenzは対応するローレンツ・サイクルのCOPに対する系のCOPの比である。
【0051】
冷却モードの結果
冷却モードでは圧縮システムを−5℃の蒸発温度と50℃の凝縮温度との間で運転した。各組成物での成分(HFC-134a、trans−HFO−1234ze)の値は重量百分率で与えられる。
【0052】
【表2】
【0053】
加熱モードの結果
加熱モードでは、圧縮システムを−5℃の蒸発温度と50℃の凝縮温度との間で運転する。各成分(HFC−134a、trans−HFO−1234ze)の値は重量百分率で与えられる。
【0054】
【表3】