【実施例1】
【0032】
紙幣処理部は現金を直接扱うユニットであるため、それ自体にもセキュリティを維持するための機構が必要である。例えば、紙幣を収納する紙幣カセット202は、前述のように鍵付きの強固な金庫部201に収納することにより、外部からは容易にアクセスすることはできないようになっている。しかも、この金庫の鍵は、全ての係員によって解除できる訳ではなく、係員の中でも一部の特定の権限を与えられた者だけが金庫鍵またはパスワード入力等により、解除して内部の紙幣カセットや現金にアクセスすることが許される。
【0033】
ところが、本発明のATMは、紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501とを一体として引き出すように構成したため、例えば、以下に説明するようなセキュリティ上の問題が発生することがある。
【0034】
レシートプリンタは装填されたロール紙に取引明細等を印字して発行するが、ロール紙が用紙切れとなった場合は、新しいロール紙を係員が補充することとなる。ここで、ロール紙の補充は比較的簡単な作業であり、必ずしもATM内部の現金にアクセスすることが許容された係員が行うとは限らない。
【0035】
一方、紙幣処理部上部ユニット200Aは、通常、取引動作時以外は、紙幣が内部に滞留することはないが、内部のどこかで紙幣詰まり(ジャム)等が発生すると、取引動作時以外も上部ユニット200A内に残留紙幣(ジャム紙幣)が存在することとなる。また、紙幣処理部上部ユニット200Aは、そのような残留紙幣を取り除くために所定の部位を開いて内部へアクセスすることができる構造となっている。
【0036】
本ATMは紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501とが一体化しており両者が同時に引き出される構造のため、紙幣処理部上部ユニット200Aにジャム紙幣等の残留紙幣が存在する場合、レシートプリンタ501のロール紙を補充しようとする係員が、そのジャム紙幣にもアクセスすることが可能となり、その係員がATM内部の現金にアクセスすることが許容された係員でない場合、セキュリティ上、好ましくない。
【0037】
そこで本ATMでは、紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501の引き出しを、その状況に応じて制限する機構を設けることとした。
【0038】
紙幣処理部上部ユニット200AはATM筺体上部に収納されており、係員が保守作業等をする際には、筺体上部パネルを上方に開いた後、紙幣処理部上部ユニット200Aを手前側に引き出すことによって、各種保守作業が可能となる。ここで、
図7に示すように、上部ユニット200Aには、筺体からの引き出しを阻止する電磁ロック機構701が設置されている。
【0039】
図7(A)に示すように、電磁ロック機構701は、ロック状態ではロックバー701Aが下りた状態となっており、筺体のロックバー当接部702にロックバー701Aが当接しているため、上部ユニット200Aは図面の右側(装置前面)に引き出すことができず、ロックが働いている状態となっている。
【0040】
ロックが解除されている状態では、
図7(B)に示すようにロックバー701Aが上方に持ち上がり、ロックバー701Aは当接部702に当たることなく上部ユニット200Aの引き出しが可能となる。なお、この電磁ロック機構701は、停電等によって電力が供給されない状況では、
図7(A)のようなロック状態を維持する。
【0041】
電磁ロック機構701は、ATM装置に通電されている状態では、ATM装置の制御部からの指令に基づいてロック状態とロック解除状態とを切り替える。
図8は上部紙幣ユニット200Aの前面図であり、電磁ロック機構701のロック状態を解除するための、物理的な鍵を挿入できるロック解除鍵部801と引出レバー802を有している。
【0042】
電磁ロック機構701がロック解除状態のときは、係員等によって引出レバー802を押しこむとロックバー701Aが持ち上がり上部紙幣ユニット200Aを引き出すことができるが、電磁ロック機構701によってロック状態となっている場合は、引出レバー802を押し込むことができず、上部紙幣ユニット200Aを引き出すことはできない。この場合は、ロック解除鍵部801へ専用の鍵を挿入して操作(回す等)することによってロック状態を解除させ、引出レバー802が押し込めるようになり、上部紙幣ユニット200Aを引き出すことができる。
【0043】
なお、停電等によってATM装置に通電されていない状態では、前述のように電磁ロック機構701はロック状態を維持しており、引出レバー802を押し込めない状態となっているが、この場合も、ロック解除鍵をロック解除鍵部801へ挿入して操作することによってロック状態を解除することができる。
【0044】
次に、電磁ロック機構701によるロック状態とロック解除状態とを切り替える基準を説明する。電磁ロック機構701は、上部紙幣ユニット200A内に紙幣残留が存在するか否かによって、ロック状態とするか、あるいは、ロック解除状態とするかを切り替える。すなわち、上部紙幣ユニット200A内には、紙幣搬送路や各処理部の所定の箇所に図示しない残留紙幣検知センサを有しており、それらの残留紙幣検知センサのいずれかが「紙幣有り」を検知した場合、残留紙幣有と判定する。
【0045】
そして、残留紙幣有と判定された場合は電磁ロック機構701はロック状態となり、残留紙幣無しと判定された場合は電磁ロック機構701はロック解除状態となるように制御される。なお、これらの制御は、図示しないセンサ等によってATMの上面前扉が開かれたことを検知した場合にのみ、電磁ロック機構701に通電して制御するようにしており、これによって、常時通電する場合に比べて、周辺の温度上昇や電力消費を抑えることが可能である。
【0046】
以上説明した、電磁ロック機構701のロック制御をまとめると
図9のような表となる。これによって、レシートプリンタ501のロール紙の補充のみが許された係員は、上部紙幣ユニット200A内に残留紙幣が存在しない場合に限って、上部紙幣ユニット200A内とレシートプリンタ501とを一体として引き出してロール紙の補充作業を実施することができる。また、上部ユニット200Aの図示しないセンサ等によってジャム紙幣等の残留紙幣が検知されている場合は、電磁ロック機構701はロック状態を維持し、上部紙幣ユニット200A内とレシートプリンタ501とを引き出すことはできない。
【0047】
このとき、ATM内部の現金にアクセスすることが許容された係員は、
図8のロック解除鍵部801へ専用の鍵を挿入して電磁ロック機構701のロック状態を解除し、引出レバー802を押し込むことによって上部ユニット200Aとレシートプリンタ501とを一体として引き出すことが可能となり、ジャム紙幣の除去等の保守作業を行うことも可能である。
【0048】
また、停電時もロック状態が維持されているがは、ロック解除鍵部801へ専用の鍵を挿入して電磁ロック機構701のロック状態を解除し、引出レバー802を押し込むことによって紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501とを一体として引き出すことが可能である。
【0049】
図10は、上述した電磁ロック機構701の動作を説明するフロー図である。
図10のフローの説明の前に、
図11を用いてATM装置側と紙幣処理部の制御機構の接続状態を説明する。
図11に示すように、ATM装置側の本体制御部1120と紙幣処理部1110はバス制御線1100によって接続され、各種制御信号等の送受信を行う。紙幣処理部1100は入出金口1111、識別部1112、一時保留部1113、搬送路部1114、紙幣収納部1115、電磁ロック部1116等が紙幣処理部内の制御部1117と接続されており、制御部からの指令によって各部を制御したり、各部からの信号が制御部1117へ送信されたりする。また、バス制御線1100には、さらに本体下部の前扉401の開閉を検知する前扉開閉検知部1130が接続されており、本体制御部1120に前扉401の開閉状態を通知する。なお、
図11における紙幣処理部1110は
図2等の紙幣処理部200と同一であるが、説明の都合上、異なる符号を付している。
【0050】
図10は係員によってレシートプリンタ501のロール紙の補充を行う場合を想定した、電磁ロック機構701のロック制御を説明するフロー図である。レシートプリンタのロール紙を補充に来た係員は、紙幣処理部上部ユニットと一体となったレシートプリンタを引き出すために上面部301を開ける。前述のように、前扉401によって上面部301の開閉を固定する構造の場合は前扉401を開いてから上面部301を開けるが、上面部301のみを単独で開閉できる構造で上面部301の開閉を検知する機構があれば、前扉401を開く必要はない。前述のように、電磁ロック機構701は前扉401が閉じた状態では通電されておらず、その状態ではロック状態を維持している。
【0051】
前扉401の扉開閉状態はセンサ情報により、本体制御部1120内に格納されたATMソフトに通知される(ステップS901)。ここで、前扉開閉検知部1130から前扉401の開状態が通知された場合は、係員等によって保守操作がなされる可能性があることから、本体制御部1120は、紙幣処理部1110内に実装される制御部1117に対し、電磁ロック開コマンドを発行すると共に、電磁ロック機構701に通電が開始される。そして、この時点ではまだロック状態が維持されている(ステップS902)。
【0052】
電磁ロック開コマンドを受けた制御部1117は、紙幣処理部1110の中で紙幣残留の可能性がある入出金口1111、識別部1112、一時保留部1113、搬送路部1114(紙幣処理部上部ユニット200A内の搬送路)からの信号に基づき、これらの各部位のいずれにも残留紙幣がないことを確認する(ステップS903〜S905)。
【0053】
ここで、各部位に紙幣残留が無かった場合は、制御部1117より電磁ロック部1116のロックを解除する(ステップS906)。ここまでのフローで、電磁ロックが解除されたことにより、係員は引出レバー802を押し込むことによって、紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501を引き出すことができ(ステップS907)、ロール紙の補充が可能になる(ステップS908)。
【0054】
これらの保守操作が終了すると、引き出した紙幣処理部上部ユニット200Aとレシートプリンタ501を筺体内の元の位置に戻し(ステップS909)、上面部301および前扉401を閉じる(ステップS910)。前扉閉情報を受け取った本体制御部1120は、紙幣処理部内の制御部1117に対し、電磁ロック閉コマンドを発行する(ステップS911)。このコマンドを受け取った制御部1117は電磁ロック部をロック状態に切り替える。この後、電磁ロック機構701への通電は停止されるが、ロック状態は維持され、電磁ロック禁止(ロック状態)となる(ステップS912)。
【0055】
上述のステップS903〜S905において、入出金口1111、識別部1112、一時保留部1113、上部の搬送路部1114のいずれかの部位において残留紙幣を検知した場合は、本体制御部1120からの電磁ロック開コマンド(ステップS902)を無視してロック状態を維持する。このとき、表示操作部101や図示しない保守操作専用の表示部等に、
図12に示すような異常発生により紙幣処理部上部ユニット200Aが引き出せないことを通知するメッセージを表示してもよい。その後、ロック状態が維持された後、前扉401が閉じられたことを検知すると、ロック状態を維持したまま電磁ロック機構701への通電が停止され、終了する。
【0056】
なお、前扉401が閉じられる前に、入出金口1111、識別部1112、一時保留部1113、上部の搬送路部1114の全てにおいて残留紙幣が無くなったことを検知した場合は、ステップS906へ移行して電磁ロックを解除するように制御してもよい。
【0057】
また、上部紙幣ユニット200Aには、リジェクト紙幣を収納する上部リジェクト庫が配置されることがある。したがって、上述した、上部紙幣ユニット200Aにジャム紙幣が存在する場合と同様に、上部リジェクト庫内にリジェクト紙幣が収納されている場合も、電磁ロック機構701によって上部ユニット200Aとレシートプリンタ501との引き出しを制限することによって、セキュリティを確保することができる。あるいは、上部リジェクト庫には、それを開閉する専用の鍵等を設けるようにしてもよい。
【0058】
以上説明した動作によって、レシートプリンタのロール紙を補充することとのみ許容された係員が、上部ユニット200A内部のジャム紙幣へアクセスしてしまうことを防止することができる。