特許第6467105号(P6467105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6467105
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20190128BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   B29C70/10
   B29C70/48
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-178034(P2018-178034)
(22)【出願日】2018年9月21日
【審査請求日】2018年9月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100188226
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 俊達
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】福井 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】内藤 実成
(72)【発明者】
【氏名】古野 伸一
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−208426(JP,A)
【文献】 特開2008−266373(JP,A)
【文献】 特開平08−025383(JP,A)
【文献】 特許第5064981(JP,B2)
【文献】 特開平04−220314(JP,A)
【文献】 特開平10−323855(JP,A)
【文献】 特開昭64−026414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/88
B29C 43/00−43/58
B29C 39/00−39/44
B29C 45/00−45/84
B60R 13/01−13/04
B60R 13/08
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(10A)の一部に繊維シート(21)が樹脂層(30)に埋設された状態に成形され、その繊維シート(21)に樹脂(23)が含浸している樹脂成形品(10)であって、
前記表面(10A)に成形されて、前記繊維シート(21)の外縁部に沿って延びる開環状又は閉環状の環状溝(12)と、
前記繊維シート(21)の外縁部の全周に、連続して又は断続的に形成され、前記環状溝(12)の環内側の開口縁で前記繊維シート(21)の本体部分から曲がって前記環状溝(12)の1対の内側面(12A,12B)のうち前記環内側の内側面(12A)内に前記繊維シート(21)の外縁が位置し、かつ、前記繊維シート(21)の外縁が前記環状溝(12)の最深部よりも手前に位置している見切り部(25)と、を備える樹脂成形品(10)。
【請求項2】
前記環状溝(12)の前記1対の内側面(12A,12B)は、前記樹脂成形品(10)の表面(10A)に対して傾斜し、前記1対の内側面(12A,12B)と前記樹脂成形品(10)の表面(10A)とがそれぞれ第1湾曲面(13)にて連絡されると共に、前記1対の内側面(12A,12B)同士の間が第2湾曲面(14)にて連絡されている請求項1に記載の樹脂成形品(10)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂成形品(10)であって、全体が板状をなし、
前記環状溝(12)の裏側部分が、前記樹脂成形品(10)の裏面から突出する環状突条(16)になっている樹脂成形品(10)。
【請求項4】
前記繊維シート(21)を下に向け、車両(100)のエンジン(90)の下面を覆った状態に固定するための固定部(11)を有する請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)。
【請求項5】
前記表面(10A)の一部に前記繊維シート(21)が複数枚重ねて埋設されている請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)。
【請求項6】
複数の前記繊維シート(21)のうち最も外側に位置する繊維シート(21A)が、それより内側の繊維シート(21B,21C)より大きい請求項5に記載の樹脂成形品(10)。
【請求項7】
前記繊維シート(21)はガラス繊維からなる請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)。
【請求項8】
第1樹脂(23)が含浸している繊維シート(21)の裏側に第2樹脂(30,35)が重ねられて、それら繊維シート(21)と第2樹脂(35)とが加熱された成形金型(80)にて加圧され、前記繊維シート(21)の側方まで広がる前記第2樹脂(30,35)製の樹脂層(30)の表面の一部に前記繊維シート(21)が埋設された構造の樹脂成形品(10)が製造される製造方法であって、
前記成形金型(80)の下型(81)に環状丘部(81A)が設けられ、
前記繊維シート(21)が、前記環状丘部(81A)の内側に、外縁が前記環状丘部(81A)の環内側の斜面上に位置するようにして前記下型(81)に配置される樹脂成形品(10)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維を含有する樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の樹脂成形品として、樹脂が含浸している繊維シートが表面の一部に埋設された状態に成形されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5064981号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の樹脂成形品では、成形時に繊維シートがずれたりよれたりして、繊維シートの外縁が波打ってしまい、材料間の境界部分の外観が悪くなってしまうことが考えられる。これに対し、材料間の境界部分の外観の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、表面(10A)の一部に繊維シート(21)が樹脂層(30)に埋設された状態に成形され、その繊維シート(21)に樹脂(23)が含浸している樹脂成形品(10)であって、前記表面(10A)に成形されて、前記繊維シート(21)の外縁部に沿って延びる開環状又は閉環状の環状溝(12)と、前記繊維シート(21)の外縁部の全周に、連続して又は断続的に形成され、前記環状溝(12)の環内側の開口縁で前記繊維シート(21)の本体部分から曲がって前記環状溝(12)の1対の内側面(12A,12B)のうち前記環内側の内側面(12A)内に前記繊維シート(21)の外縁が位置し、かつ、前記繊維シート(21)の外縁が前記環状溝(12)の最深部よりも手前に位置している見切り部(25)と、を備える樹脂成形品(10)である。
請求項2の発明は、前記環状溝(12)の前記1対の内側面(12A,12B)は、前記樹脂成形品(10)の表面(10A)に対して傾斜し、前記1対の内側面(12A,12B)と前記樹脂成形品(10)の表面(10A)とがそれぞれ第1湾曲面(13)にて連絡されると共に、前記1対の内側面(12A,12B)同士の間が第2湾曲面(14)にて連絡されている請求項1に記載の樹脂成形品(10)である。
【0006】
請求項の発明は、請求項1又は2に記載の樹脂成形品(10)であって、全体が板状をなし、前記環状溝(12)の裏側部分が、前記樹脂成形品(10)の裏面から突出する環状突条(16)になっている樹脂成形品(10)である。
【0007】
請求項の発明は、前記繊維シート(21)を下に向け、車両(100)のエンジン(90)の下面を覆った状態に固定するための固定部(11)を有する請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)である。
【0009】
請求項5の発明は、前記表面(10A)の一部に前記繊維シート(21)が複数枚重ねて埋設されている請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)である。
【0010】
請求項6の発明は、複数の前記繊維シート(21)のうち最も外側に位置する繊維シート(21A)が、それより内側の繊維シート(21B,21C)より大きい請求項5に記載の樹脂成形品(10)である。
【0011】
請求項7の発明は、前記繊維シート(21)はガラス繊維からなる請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載の樹脂成形品(10)である。
請求項8の発明は、第1樹脂(23)が含浸している繊維シート(21)の裏側に第2樹脂(30,35)が重ねられて、それら繊維シート(21)と第2樹脂(35)とが加熱された成形金型(80)にて加圧され、前記繊維シート(21)の側方まで広がる前記第2樹脂(30,35)製の樹脂層(30)の表面の一部に前記繊維シート(21)が埋設された構造の樹脂成形品(10)が製造される製造方法であって、前記成形金型(80)の下型(81)に環状丘部(81A)が設けられ、前記繊維シート(21)が、前記環状丘部(81A)の内側に、外縁が前記環状丘部(81A)の環内側の斜面上に位置するようにして前記下型(81)に配置される樹脂成形品(10)の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の樹脂成形品(10)では、繊維シート(21)の外縁部に、繊維シート(21)の本体部分から曲がって環状溝(12)の環内側の内側面(12A)内に繊維シート(21)の外縁が位置する見切り部(25)が形成されているので、繊維シート(21)の外縁部が奥行方向に向かい、平面視したときの繊維シート(21)の外縁部の波打ちを小さくすることができ、材料間の境界部分の外観が向上される。
また、環状溝(12)において、樹脂成形品(10)の表面と内側面(12A,12B)との間や内側面(12A,12B)同士の間が角ばっていてもよいし、請求項2のように、曲面になっていてもよい。後者の場合、応力集中を防げ、樹脂成型品(10)の破損を抑制することができる。
【0013】
請求項によれば、環状溝(12)の裏側が環状突条(16)になっていて、樹脂成型品(10)の板厚を均一にすることができるので、樹脂成型品(10)全体を薄くすることができる。
【0014】
樹脂成形品(10)は、例えば、請求項のように、車両(100)にエンジン(90)の下面を覆った状態に固定されるエンジンアンダーカバー(10)であってもよいし、バッテリーケースやオイルパン等であってもよい。
【0016】
繊維シート(21)は1枚であってもよいし、請求項5のように複数枚重ねられていてもよい。後者の場合、繊維シート(21)の外縁部がより波打ちやすくなることが考えられ、本開示の効果をより享受することができる。
【0017】
請求項6では、最も外側に位置する繊維シート(21A)が、それより内側の繊維シート(21B,21C)より大きいので、内側の繊維シート(21B,21C)が最も外側に位置する繊維シート(21A)の側方にはみ出しにくくなる。これにより、繊維シート(21)が複数枚重ねられていても繊維シート(21)の外縁部の波打ちが大きくなることが防がれる。
【0018】
繊維シート(21)の材料は、請求項7のようにガラス繊維であってもよいし、炭素繊維や、化学繊維、天然繊維等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示に係るエンジンアンダーカバーが取り付けられた車両の断面図
図2】エンジンアンダーカバーの平面図
図3】エンジンアンダーカバーの断面図
図4】ガラスクロスの断面図
図5】エンジンアンダーカバーの拡大平面図
図6】エンジンアンダーカバーの製造工程を示す断面図
図7】(A)従来のエンジンアンダーカバーの概念図、(B)ガラスクロスがずれてしまった状態の従来のエンジンアンダーカバーの概念図
図8】従来のエンジンアンダーカバーにおけるガラスクロスの外縁部周辺の拡大平面図
図9】エンジンアンダーカバーにおけるガラスクロスの外縁部周辺の拡大平面図
図10】ガラスクロスがずれてしまった状態のエンジンアンダーカバーの概念図
図11】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
図12】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
図13】変形例に係るエンジンアンダーカバーの拡大平面図
図14】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
図15】変形例に係るエンジンアンダーカバーの製造工程を示す断面図
図16】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
図17】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
図18】変形例に係るエンジンアンダーカバーの断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には、本開示の樹脂成形品としてのエンジンアンダーカバー10が示されている。エンジンアンダーカバー10は、車両100のエンジンルーム95の直下に配され、エンジン90を下方から覆っている。エンジンアンダーカバー10は、車両本体100Hに対してボルト締めされていて、エンジンアンダーカバー10にはボルト締め用のボルト孔11が形成されている。
【0021】
図2は、エンジンアンダーカバー10の両面のうち下側に配される(つまり、車両100の外側に向く)第1面10Aの平面図であり、図3は、エンジンアンダーカバー10の側断面図である。以降、エンジンアンダーカバー10の第1面10A側をエンジンアンダーカバー10における表側、第1面10Aの反対側を裏側とする。図2及び図3に示すように、エンジンアンダーカバー10は、長方形板状の複合シート20が、その複合シート20の側方まで広がる樹脂層30の表面に埋設されてなる。
【0022】
樹脂層30は、熱可塑性樹脂に微細なガラス繊維(図示せず)が分散してなる。一方、複合シート20は、図3に示すように、ガラス繊維を束ねたガラス糸22を平織りしてなるガラスクロス21(図4参照)が3枚重なった状態で、ガラスクロス21に含浸している熱可塑性の樹脂23により一体になったものである。なお、複合シート20の樹脂23や樹脂層30に用いられる熱可塑性樹脂は、例えば、ポリプロピレン(PP)である。
【0023】
ここで、図3及び図5に示すように、本実施形態のエンジンアンダーカバー10では、第1面10Aに、複合シート20の外縁部に沿って延びる環状溝12(図5においてグレースケールで示す部分)が形成されている。
【0024】
図3に示すように、環状溝12における1対の内側面12A,12Bは、エンジンアンダーカバー10の第1面10Aに対して傾斜し、1対の内側面12A,12Bとエンジンアンダーカバー10の第1面10Aとがそれぞれ第1湾曲面13,13にて連絡されると共に、1対の内側面12A,12B同士の間が第2湾曲面14にて連絡されている。これにより、環状溝12の全体が角張らず湾曲している。なお、図5に示すように、本実施形態では、環状溝12が、複数箇所欠けた開環状になっている。
【0025】
そして、複合シート20の外縁部の略全体が、図3に示すように、環状溝12の環内側の開口縁でガラスクロス21の本体部分から曲がって環状溝12における環内側の内側面12A内に位置する見切り部25となっている。つまり、見切り部25では、複合シート20の外縁部がガラスクロス21の本体部分から曲がって奥行方向へ傾斜して延びている。
【0026】
次に、エンジンアンダーカバー10の製造方法について、図6に基づいて説明する。まず、複合シート20が用意される。複合シート20は、例えば、ガラスクロス21を3枚重ねたものに樹脂23を含浸して一体に固定されている。
【0027】
図6(A)に示すように、複合シート20が成形金型80の下型81に配置される。ここで、下型81には、環状溝12を形成するための環状丘部81Aが開環状に設けられている。複合シート20は、この環状丘部81Aの内側に、外縁部が環状丘部81Aの環内側の斜面上に位置するように配される。そして、複合シート20の上に、樹脂層30となる樹脂ブロック35が載置される。
【0028】
次いで、図6(B)に示すように、成形金型80の上型82が降ろされて成形金型80が閉じ、加熱及び加圧される。すると、樹脂ブロック35の熱可塑性樹脂が軟化又は溶解して、複合シート20の側方まで広がり、樹脂層30となる。
【0029】
そして、成形金型80が冷やされ、樹脂層30及び複合シート20の樹脂23が硬化すると、成形金型80が開かれ、完成したエンジンアンダーカバー10が取り出される(図6(C)参照)。以上が、エンジンアンダーカバー10の製造方法である。
【0030】
ところで、樹脂ブロック35の熱可塑性樹脂が軟化又は溶解して複合シート20の側方まで広がる際に、複合シート20のガラスクロス21が樹脂ブロック35の熱可塑性樹脂の流動に引きずられてずれたりよれたりしてしまうことが考えられる。このとき、図7(A)に示される従来のエンジンアンダーカバー1では、図8に示すように、ガラスクロス21の外縁部が波打つように歪み、複合シート4と樹脂層5との境界部分の外観が悪くなってしまう。
【0031】
特に、ガラスクロス21が複数枚重なっている場合、図7(B)に示すように、複合シート4内の樹脂23が軟化していることで、最も表面側に配されるガラスクロス2Aに対して奥側のガラスクロス2B,2Cがずれやすく、しかもそのずれの大きさが場所によって異なるため、表面側から見た波打ちが大きくなると考えられる。
【0032】
これに対して、本実施形態のエンジンアンダーカバー10では、ガラスクロス21の外縁部の略全体が、環状溝12の環内側の開口縁でガラスクロス21の本体部分から曲がって環状溝12における環内側の内側面12A内に位置する見切り部25となっていて、複合シート20の外縁部がガラスクロス21の本体部分から曲がって奥行方向に傾斜して延びているので、図9に示すように、エンジンアンダーカバー10を第1面10A側から平面視したときのガラスクロス21の外縁部の波打ちを小さくすることができ、複合シート20と樹脂層30との間の境界部分の外観が向上される。
【0033】
また、最も表面側に配されるガラスクロス21A(2A)に対して奥側のガラスクロス21B,21C(2B,2C)がずれると、奥側のガラスクロス21B,21C(2B,2C)の端面やその端面からほつれ出たガラス糸22(3)のガラス繊維がエンジンアンダーカバー10(1)の表面に露見して、複合シート20(4)と樹脂層30(5)との間の境界部分の外観が悪くなってしまうことが考えられるが(図7(B)参照)、本実施形態によれば、図10に示すように、ガラス繊維が露見する部分も奥行方向に傾斜して延びるので、平面視したときにガラス繊維が露見して見える範囲(図10中における符号H)を抑えることができ、複合シート20と樹脂層30との間の境界部分の外観を向上することができる。また、本実施形態のようにガラスクロス21の外縁部が本体部分に対して傾斜していると、平坦な場合よりもガラスクロス21をずれにくくすることができると思われる。
【0034】
なお、本実施形態のように、複合シート20にガラスクロス21が使用されている場合、ガラスクロス21のガラス繊維がエンジンアンダーカバー10の表面に露見すると、そのガラス繊維に光が反射して、炭素繊維等を使用している場合よりも目立ってしまうことが考えられる。しかしながら、上述したように、本実施形態のエンジンアンダーカバー10の製造方法によれば、ガラス繊維がエンジンアンダーカバー10の表面に露見することが抑制される。つまり、複合シート20にガラスクロス21が使用されている場合、上述した効果をより享受することができる。
【0035】
また、本実施形態では、エンジンアンダーカバー10が、樹脂層30よりも強固な複合シート20が車両100の外側を向くように固定されるので、跳ね石等による破損を抑制することができる。さらに、複合シート20と樹脂層30との境界部分に跳ね石等が衝突すると、複合シート20が剥離してしまうことが考えられるが、この境界部分が環状溝112によって第1面10Aより奥側に位置するため、跳ね石等が衝突しにくくなっている。しかも、環状溝12が角張っておらず湾曲しており、応力集中が防がれるため、内部応力や跳ね石等の外部応力による破損が防がれる。また、複合シート20が奥行き方向へも延びることでエンジンアンダーカバー10が横方向に対しても補強され、エンジンアンダーカバー10の破損をより防ぐことができる。
【0036】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0037】
(1)上記実施形態では、ガラスクロス21が複数枚重ねられていたが、1枚であってもよい。また、ガラスクロス21が重ねられる枚数が、2枚であってもよいし、4枚以上であってもよい。
【0038】
(2)上記実施形態では、環状溝12が、全体的に湾曲していたが、図11に示すように角張っていてもよい。
【0039】
(3)上記実施形態では、エンジンアンダーカバー10の裏面が平坦になっていたが、図12に示すように、環状溝12の裏側部分が、環状突条16になっていてもよい。この場合、エンジンアンダーカバー10の厚さを均一にでき、エンジンアンダーカバー10全体の板厚を薄くすることができる。
【0040】
(4)上記実施形態では、環状溝12が複数箇所欠けた開環状であったが、図13(A)に示すように、一部のみ欠けたC環状であってもよいし、図13(B)に示すように閉環状であってもよい。
【0041】
(5)上記実施形態では、複合シート20にガラス繊維からなるガラスクロス21が用いられていたが、炭素繊維や、化学繊維、天然繊維等の布が用いられてもよい。また、それら布(ガラスクロス21を含む)は、織布であってもよいし、不織布やUD(一方向織物)であってもよい。
【0042】
(6)上記実施形態では、本開示の樹脂成形品が、エンジンアンダーカバー10であったが、バッテリーケースやオイルパン、ピラー等の自動車部品であってもよいし、各種電気機器部品であってもよい。
【0043】
(7)図14に示すように、複合シート20の外縁の境界線を含む帯状領域にシボを成形してなるシボ形成部15を備えてもよい。この場合、ガラスクロス21の外縁部の波打ちを目立たなくすることができ、材料間の境界部分の外観をより向上することができる。なお、シボ加工だけでも効果は得られる。
【0044】
(8)図15に示すように、成形金型80にピン85が設けられ、そのピン85で複合シート20を固定した状態で成形する構成であってもよい
【0045】
(9)樹脂成形品は、インサート成形により製造されてもよい。
【0046】
(10)上記実施形態では、樹脂23や樹脂層30に用いられる熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)が用いられていたが、熱可塑性樹脂全般を適用可能であり、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン、4−メチル−1−ペンテンなどのポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)などのポリエーテル系樹脂、PA6、PA66、PA11、PA12、PA6T、PA9T、MXD6などのポリアミド系樹脂(PA)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)などのアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC)、フッ素系ポリマー樹脂、液晶ポリマー(LCP)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂の他、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリルブタジエンポリケトン(PK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。また、上記樹脂の共重合体や変性体、または2種類以上の樹脂をブレンドした樹脂組成物から構成されていてもよい。
【0047】
(11)また、樹脂23や樹脂層30に用いられる樹脂は、熱硬化性樹脂全般も適用可能であり、例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0048】
(12)また、複合シート20の樹脂23と、樹脂層30と、が同じ樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい
【0049】
(13)上記実施形態では、樹脂層30がガラス繊維を含有していたが、ガラス繊維を含有せず樹脂のみから構成されていてもよい。
【0050】
(14)図16に示すように、3枚のガラスクロス21のうち最も表面側に位置するガラスクロス21Aが、奥側のガラスクロス21B,21Cよりも大きくなっていてもよい。この構成の場合、奥側のガラスクロス21B,21Cがずれたとしても表面側のガラスクロス21Aの側方にはみ出しにくいため、ガラスクロス21の外縁部の波打ちをより抑えることができる。
【0051】
(15)図17に示すように、複合シート20の本体部分に対して外縁部が下がっている構成であってもよい。この場合であっても、環状溝12と同様に材料間の境界部分の外観を向上する効果が得られる。
【0052】
(16)図18に示すように、エンジンアンダーカバー10の第1面10Aに、複合シート20の外縁部に沿って延びる環状突条17が形成される構成であってもよい。この場合であっても、環状溝12と同様に材料間の境界部分の外観を向上する効果が得られる。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジンアンダーカバー
12 環状溝
12A,12B 内側面
13 第1湾曲面
14 第2湾曲面
16 環状突条
20 複合シート
21 ガラスクロス
23 樹脂
25 見切り部
30 樹脂層
35 樹脂ブロック
80 成形金型
【要約】
【課題】材料間の境界部分の外観の向上が求められている。
【解決手段】本開示のエンジンアンダーカバー10では、第1面10Aに、複合シート20の外縁部に沿って延びる環状溝12が形成されている。そして、複合シート20の外縁部の略全体が、環状溝12の環内側の開口縁でガラスクロス21の本体部分から曲がって環状溝12における環内側の内側面12A内に位置する見切り部25となっている。つまり、見切り部25では、複合シート20の外縁部がガラスクロス21の本体部分から曲がって奥行方向へ傾斜して延びている。
【選択図】図3
図1
図2
図3
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