特許第6467110号(P6467110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6467110
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】エタノールアミンリン酸の測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/48 20060101AFI20190128BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20190128BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20190128BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20190128BHJP
   G16B 99/00 20190101ALI20190128BHJP
【FI】
   C12Q1/48 Z
   C12Q1/26ZNA
   C12M1/34 E
   G01N33/50 F
   G06F19/10
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-505750(P2018-505750)
(86)(22)【出願日】2017年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2017034796
(87)【国際公開番号】WO2018062204
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2018年3月1日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/079088
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-70496(P2017-70496)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504059429
【氏名又は名称】ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一謹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】阿部 かおり
(72)【発明者】
【氏名】塙 香織
(72)【発明者】
【氏名】星 綾
(72)【発明者】
【氏名】福原 崇臣
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/069645(WO,A1)
【文献】 特開平11−225793(JP,A)
【文献】 特開2000−189196(JP,A)
【文献】 特開昭62−294097(JP,A)
【文献】 特開昭62−002157(JP,A)
【文献】 特開2009−183203(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/047677(WO,A1)
【文献】 特開平01−091798(JP,A)
【文献】 特開昭49−130364(JP,A)
【文献】 特開昭50−066951(JP,A)
【文献】 特開昭54−060285(JP,A)
【文献】 特開昭57−071693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/48
C12M 1/34
C12Q 1/26
G01N 33/50
G06F 19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のエタノールアミンリン酸(PEA)を測定する方法であって、
(A)カルシウムイオンを用いてリン酸を除去する段階、および
(B)スクロースホスホリラーゼを用いてリン酸を除去する段階
を含む、方法。
【請求項2】
サンプル中のエタノールアミンリン酸(PEA)を測定する方法であって、
(a)サンプル中の、(A)カルシウムイオンを用いてリン酸を除去する段階、および(B)スクロースホスホリラーゼを用いてリン酸を除去する段階、
(b)段階(a)で得られたサンプルに酵素を添加して、サンプルに含まれるPEAからリン酸を生成する段階、
(c)段階(b)で得られたサンプルにリン酸検出用組成物を添加する段階、および
(d)段階(c)で得られたサンプル中のリン酸を検出する段階
を含む、方法。
【請求項3】
段階(b)および(c)が同時に行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酵素が、PEAリアーゼまたはγ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
酵素が、
(i)ヒト由来エタノールアミンリン酸ホスホリアーゼ(AGXT2L1)(配列番号1)、
(ii)パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来GabTドメインを有するタンパク質(配列番号2)、
(iii)大腸菌由来のGabTドメインを有するタンパク質(配列番号3)、
(iv)GXXXBADEBQXGFZRXG[ここで、Xは任意のアミノ酸であり、Bはイソロイシン(I)、ロイシン(L)またはバリン(V)であり、Zはグリシン(G)またはアラニン(A)である](配列番号4)で定義されるアミノ酸配列を含む酵素、
(v)タグが付加された(i)〜(iv)のいずれかに記載の酵素またはタンパク質、および
(vi)(ii)または(iii)に記載のタンパク質のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、PEAからリン酸を生成する、タンパク質の変異体
からなる群から選択される1つ以上の酵素である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
サンプルが生体試料サンプルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
サンプルが、全血、血清、または血漿サンプルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
サンプルが、EDTA、クエン酸、シュウ酸、フッ化ナトリウム(NaF)、およびヘパリンからなる群から選択される1つ以上の抗凝固剤で前処理されている全血または血漿サンプルである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
段階(b)〜(d)の少なくとも1つ以上がリン酸が実質的に存在しない環境下で実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象がうつ病に罹患しているかどうかを判定するための方法であって、
(a)請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法により、サンプル中のPEAを測定する段階;および
(b)サンプル中のPEAの測定値が1.5μM未満である場合に、対象がうつ病に罹患していると判定する段階
を含む、方法。
【請求項11】
リン酸を除去する手段としてカルシウム及びスクロースホスホリラーゼを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項12】
PEAからリン酸を生成する手段としてPEAリアーゼまたはγ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
コンピュータに、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを保存したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【請求項15】
請求項11または12に記載のキットを含む、または請求項13に記載のプログラムが組み込まれた、PEAを測定するための装置。
【請求項16】
サンプル中のリン酸を除去する方法であって、
(A)カルシウムイオンを用いてリン酸を除去する段階、および
(B)スクロースホスホリラーゼを用いてリン酸を除去する段階
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中に存在するエタノールアミンリン酸(PEA)の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は気分障害の一種であり、その主な症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。日本の医療機関に対する調査によると、2008年のうつ病の患者数は70万人以上とされている。また、2014年の厚生労働省の調査によると、気分障害(感情障害)患者数は112.2万人であり、患者数が増加してきている。しかし、うつ病の診断は、患者の精神面についての医師や心理士の主観、または患者自身の主観や申告に依存する面が大きく、そのため、客観的な判断がなされているとは言い難い。そこで、うつ病を客観的に診断するために、近年、患者の体液中の成分をうつ病の診断の目安として用いる試みがなされている。
【0003】
従来、うつ病の予測マーカーとして、体液中のトリプトファンまたはその分解物、あるいは特定の遺伝子の発現量などを用いることが報告されていたが(特許文献1、2)、本発明者らは以前に、血液中のエタノールアミンリン酸(PEA)がうつ病を診断するためのバイオマーカーとして有用であることを見出した(特許文献3、4)。本発明者らはさらに、γ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)を用いてPEAからアセトアルデヒド、リン酸、およびアンモニアを生成させることにより、サンプル中のPEAを測定する方法を開発した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/105907号
【特許文献2】特開2008−253258号公報
【特許文献3】国際公開第2011/019072号
【特許文献4】国際公開第2016/047677号
【特許文献5】特許第5688163号明細書
【特許文献6】特開第2003−334099号公報
【特許文献7】特許第4127767号明細書
【特許文献8】特許第5327578号明細書
【特許文献9】特許第5458487号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本研究者らは、これまでの研究結果から、患者がうつ病に罹患しているかどうかを判定するための血液中のPEA量の閾値が約1.5μMであることを見出した(特許文献4)。しかしながら、従来のPEAの測定方法では(特許文献5)、1.5μM未満の値を測定することができなかった。また、測定前のサンプル中にはアセトアルデヒド、リン酸、およびアンモニアが存在しており、従来のPEAの測定方法では(特許文献5)、PEAを正確に測定することが困難であった。そのため、従来法と比べて高感度にPEAを測定する方法が必要とされている。
【0006】
したがって、本発明の解決課題は、サンプル中のPEAを高感度に測定するための方法、ならびにその方法を実施するためのキット、プログラム、および装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、従来のPEAの測定方法と比べて高感度にPEAを測定する方法を確立し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供する:
[1]サンプル中のエタノールアミンリン酸(PEA)を高感度に測定する方法であって、
(a)サンプル中のアンモニアおよび/またはリン酸を除去する段階、
(b)段階(a)で得られたサンプルに酵素を添加して、サンプルに含まれるPEAからアンモニアおよび/またはリン酸を生成する段階、
(c)段階(b)で得られたサンプルにアンモニア検出用組成物および/またはリン酸検出用組成物を添加する段階、および
(d)段階(c)で得られたサンプル中のアンモニアおよび/またはリン酸を検出する段階
を含む、方法;
[2]段階(b)および(c)が同時に行われる、[1]に記載の方法;
[3]酵素が、PEAリアーゼまたはγ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)である、[1]または[2]に記載の方法;
[4]酵素が、
(i)ヒト由来エタノールアミンリン酸ホスホリアーゼ(AGXT2L1)(配列番号1)、
(ii)パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来GabTドメインを有するタンパク質(配列番号2)、
(iii)大腸菌由来のGabTドメインを有するタンパク質(配列番号3)、
(iv)GXXXBADEBQXGFZRXG[ここで、Xは任意のアミノ酸であり、Bはイソロイシン(I)、ロイシン(L)またはバリン(V)であり、Zはグリシン(G)またはアラニン(A)である](配列番号4)で定義されるアミノ酸配列を含む酵素、
(v)タグが付加された(i)〜(iv)のいずれかに記載の酵素またはタンパク質、および
(vi)(ii)〜(iv)のいずれかに記載の酵素またはタンパク質の変異体
からなる群から選択される1つ以上の酵素である、[3]に記載の方法;
[5]段階(a)において、アンモニアが樹脂を用いて除去される、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の方法;
[6]サンプルが生体試料サンプルである、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の方法;
[7]サンプルが、全血、血清、または血漿サンプルである、[6]に記載の方法;
[8]サンプルが、EDTA、クエン酸、シュウ酸、フッ化ナトリウム(NaF)、およびヘパリンからなる群から選択される1つ以上の抗凝固剤で前処理されている全血または血漿サンプルである、[6]に記載の方法;
[9]段階(b)〜(d)の少なくとも1つ以上がアンモニアおよび/またはリン酸が実質的に存在しない環境下で実施される、[1]〜[8]のいずれか一つに記載の方法;
[10]対象がうつ病に罹患しているかどうかを判定するための方法であって、
(a)[1]〜[9]のいずれか一つに記載の方法により、サンプル中のPEAを測定する段階;および
(b)サンプル中のPEAの測定値が1.5μM未満である場合に、対象がうつ病に罹患していると判定する段階
を含む、方法;
[11]アンモニアを除去する手段および/またはリン酸を除去する手段を含む、[1]〜[10]のいずれか一つに記載の方法を実施するためのキット;
[12]アンモニア検出用組成物および/またはリン酸検出用組成物を含む、[1]〜[10]のいずれか一つに記載の方法を実施するためのキット;
[13]コンピュータに、[1]〜[10]のいずれか一つに記載の方法を実行させるためのプログラム;
[14][13]に記載のプログラムを保存したコンピュータで読み取り可能な記録媒体;ならびに
[15][11]または[12]に記載のキットを含む、または[13]に記載のプログラムが組み込まれた、PEAを測定するための装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サンプル中のPEAを高感度に測定するための方法、ならびにその方法を実施するためのキット、プログラム、および装置等が提供される。また、対象がうつ病に罹患しているかどうかを判定するための方法、ならびにその方法を実施するためのキット、プログラム、および装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のPEAを測定する方法の一例を示すフロー図である。測定対象として血漿を用いる場合の例を示している。この例では、PEAをアンモニアに変換して、PEAの量を測定している。図1において、試薬1はPEAをアンモニアに変換する酵素を含む試薬であり、試薬2は酵素サイクリング溶液であり、試薬3は検出溶液である。
図2図2は、本発明の装置が行う処理を示すフローチャート図の一例である。
図3図3は、陽イオン交換樹脂による処理後の試料中の成分の残存率を示す。NH3:アンモニア、PEA:エタノールアミンリン酸。
図4図4は、酵素法および沈殿法による処理後の試料中の成分の残存率を示す。PEA:エタノールアミンリン酸。
図5図5は、オイルでのシールの有無がサンプルへのアンモニア透過に及ぼす影響を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一つの実施態様では、本発明は、サンプル中のエタノールアミンリン酸(PEA)を高感度に測定する方法に関する。当該方法は、(1a)サンプル中のアンモニアおよび/またはリン酸を除去する段階、(1b)段階(1a)で得られたサンプルに酵素を添加して、サンプルに含まれるPEAからアンモニアおよび/またはリン酸を生成する段階、(1c)段階(1b)で得られたサンプルにアンモニア検出用組成物および/またはリン酸検出用組成物を添加する段階、および(1d)段階(1c)で得られたサンプル中のアンモニアおよび/またはリン酸を検出する段階を含む。
【0012】
本明細書で用いる場合、用語「高感度に」とは、従来のPEA測定法(特許文献5)に比べて定量限界が低いことを指す。具体的には、1.5μM未満のPEAを定量できることを指す。
【0013】
本明細書で用いる場合、「PEAを測定する」とは、サンプル中にPEAが存在することを確認し、その量を測定することだけでなく、サンプル中にPEAが存在しない(すなわち、PEAの量が検出限界以下である)ことを確認することも包含する。
【0014】
一実施形態では、本発明のPEAを測定する方法では、下記式(1)で示される加水分解反応が利用される。
【化1】
【0015】
段階(1a)では、アンモニアを除去する公知の手段および方法のいずれを用いてもよい。一実施形態では、段階(1a)においてアンモニアが樹脂によって除去される。かかる樹脂の例としては、MCI GEL AFR2(三菱化学)、ダウエックス 50Wx8 200−400メッシュ 強酸性陽イオン交換樹脂(H形)などの陽イオン交換樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、段階(1a)においてアンモニアが酵素処理によって除去されてもよい。かかる酵素処理の例としては、グルタミン酸脱水素酵素、グルタミン合成酵素、またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド合成酵素による処理が挙げられるが、これらに限定されない。アンモニアの除去については、例えば、特開第2003−334099号公報(特許文献6)および特許第4127767号明細書(特許文献7)に記載されている。
【0016】
上記式(1)で示される反応が利用される場合、段階(1b)では、上記式(1)で示される反応を触媒する任意の酵素が用いられる。かかる酵素の例として、PEAリアーゼおよびγ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
一実施形態では、段階(1b)で、ヒト由来エタノールアミンリン酸ホスホリアーゼ(AGXT2L1)(配列番号1)、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来GabTドメインを有するタンパク質(配列番号2)、および大腸菌由来のGabTドメインを有するタンパク質(配列番号3)からなる群から選択される1つ以上の酵素が用いられる。あるいは、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来GabTドメインを有するタンパク質(配列番号2)または大腸菌由来のGabTドメインを有するタンパク質(配列番号3)の変異体を用いてもよい。例えば、上記式(1)で示される反応を触媒し、かつ配列番号2または3のいずれかのアミノ酸配列と90%以上、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%、99.8%、または99.9%の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質を用いてもよい。あるいは、上記式(1)で示される反応を触媒し、かつ配列番号2または3のいずれかのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質を用いてもよい。あるいは、配列番号1〜3のいずれかのアミノ酸配列にタグが付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質を用いてもよい。例示的なタグとしては、His−タグ、FLAGタグ、mycタグ、およびGSTタグが挙げられるが、これらに限定されない。タグは、アミノ酸配列のN末端に付加してもよく、C末端に付加してもよい。ヒト由来AGXT2L1については、IUBMB Life. 2013 Jul;65(7):645−50を参照のこと。
【0018】
他の実施形態では、段階(1b)で、GabTドメインを有する酵素が用いられる。GabTドメインとは、GXXXBADEBQXGFZRXG[ここで、Xは任意のアミノ酸であり、Bはイソロイシン(I)、ロイシン(L)またはバリン(V)であり、Zはグリシン(G)またはアラニン(A)である](配列番号4)で定義されるアミノ酸配列領域である。特許第5688163号明細書(特許文献5)には、様々な生物種におけるGabTドメインの配列が記載されている。例示的なGabTドメインを有する例示的な酵素もまた、特許第5688163号明細書(特許文献5)に記載されている。別の実施形態では、上記式(1)で示される反応を触媒し、かつGabTドメインのアミノ酸配列(配列番号4)と50%以上、例えば、52%、58%、64%、70%、76%、82%、88%、または94%の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質が用いられる。さらに別の実施形態では、上記式(1)で示される反応を触媒し、かつGabTドメインのアミノ酸配列(配列番号4)において1または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質が用いられる。かかるタンパク質には、上記のようなタグが付加されていてもよい。
【0019】
好ましい実施形態では、段階(1b)で用いられる酵素は、ヒト由来エタノールアミンリン酸ホスホリアーゼ(AGXT2L1)(配列番号1)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来GabTドメインを有するタンパク質(配列番号2)である。より好ましい実施形態では、段階(1b)で用いられる酵素は、ヒト由来エタノールアミンリン酸ホスホリアーゼ(AGXT2L1)(配列番号1)である。
【0020】
別の実施形態では、段階(1a)の前に、サンプルに上記式(1)で示される反応を触媒する任意の酵素、例えばPEAリアーゼまたはγ−アミノブチルアミノ基転移酵素(GabT)を添加し、その酵素反応を実施する段階がさらに含まれてもよい。
【0021】
段階(1c)で用いられる「アンモニア検出用組成物」には、サンプル中に存在するアンモニアを検出するための、任意の組成物、試薬、およびキットが含まれる。例えば、市販のアンモニア検出用の組成物、試薬、またはキットを用いてもよい。例として、シカリキッドNH(関東化学株式会社)、アンモニア−L(株式会社セロテック)、およびF−キット アンモニア(株式会社J.K.インターナショナル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
あるいは、上記の市販品の改良品を用いてもよい。例えば、以下の表に記載の試薬Iおよび試薬IIの組み合わせを用いて、サンプル中に存在するアンモニアの量を測定してもよい。
【表1】
【表2】
上記の試薬IおよびIIのpHは、適切なバッファーを用いて調整される。pH調整のために用いられるバッファーには、例えばリン酸カリウムやTris−HClが挙げられるが、これに限定されない。上記の試薬は、例えば塩化ナトリウムなどの塩をさらに含んでもよい。
【0023】
別の実施形態では、段階(1b)および(1c)が同時に行われる。すなわち、各段階で必要な酵素、組成物、試薬、および/またはキットを同時に用いてもよい。段階(1b)および(1c)を同時に行うことで、サンプルが外気に触れる機会を減らすことができ、より正確な測定が可能となる。
【0024】
上記式(1)に示されるとおり、加水分解されるPEAと、生成されるアセトアルデヒド、アンモニア、およびリン酸の比率は、PEA:アセトアルデヒド:アンモニア:リン酸=1:1:1:1である。このことから、生成されたアセトアルデヒド、アンモニア、またはリン酸の量を測定することで、元のサンプル中に存在していたPEAの量を測定することができる。したがって、上記式(1)で示される反応が利用される本発明のPEAを測定する方法において、アンモニアと共に、あるいはアンモニアに代えて、アセトアルデヒドまたはリン酸を採用してもよい。
【0025】
リン酸を測定対象物とする場合、段階(1a)では、リン酸を除去する公知の手段および方法のいずれを用いてもよい。リン酸を除去する方法の例として、酵素法および沈殿法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
酵素法では、例えばプリンヌクレオチドホスホリラーゼ(PNP)が用いられる。リン酸を含む試料にキサントシンおよびPNPを添加すると、PNPの作用によりリン酸がキサントシンと反応し、キサンチンおよびリボース1−リン酸(Ri1P)が生じ、リン酸の除去が可能となる。この場合、反応後にPNPの作用を停止するために、PNP阻害剤を添加してもよい。あるいは、スクロースホスホリラーゼ(SP)を用いてもよい。リン酸を含む試料にスクロースおよびSPを添加すると、SPの作用によりリン酸がスクロースと反応し、α−グルコース1−リン酸(α−Glc−1−Pとフルクトースが生じ、リン酸の除去が可能となる。この場合、反応後にSPの作用を停止するために、pH約9〜約10のバッファー(例えばCHESバッファー)、あるいは、フルクトースなどのSP阻害剤を添加してもよい。
【0027】
沈殿法では、リン酸を含む試料に希土類金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン(MX+)が添加される。これにより、難溶性のリン酸塩(MPO)が生じ、リン酸の除去が可能となる。MX+の添加後に、溶液のpHを9より大きくする、あるいは炭酸イオン(CO2−)を添加して、余剰金属を除去してもよい。沈殿法に用いる試薬としては、CaClなどの水溶性のカルシウム塩が挙げられる。
【0028】
一実施形態では、酵素法および沈殿法が併用される。これらの方法を併用することで、より確実にリン酸を除去することができる。
【0029】
リン酸を測定対象物とする場合、段階(1c)では、リン酸検出用組成物として、サンプル中に存在するリン酸を検出するための、任意の組成物、試薬、および/またはキットが用いられる。例えば、市販のリン酸検出用の組成物、試薬、またはキットを用いてもよい。例示的なリン酸検出用試薬は、マラカイトグリーン(MG)試薬である。MG試薬を添加する前にサンプルを限外ろ過に供してもよい。リン酸の測定については、例えば、特許第5327578号明細書(特許文献8)および特許第5458487号明細書(特許文献9)に記載されている。
【0030】
他の実施態様では、下記式(2)で示される加水分解反応を利用して、PEAを測定してもよい。
【化2】
【0031】
上記式(2)で示される反応が利用される場合、本発明は、サンプル中のエタノールアミンリン酸(PEA)を高感度に測定する方法であって、(2a)サンプル中のエタノールアミンを除去する段階、(2b)段階(2a)で得られたサンプルに酵素を添加して、サンプルに含まれるPEAからエタノールアミンを生成する段階、(2c)段階(2b)で得られたサンプルにエタノールアミン検出用組成物を添加する段階、および(2d)段階(2c)で得られたサンプル中のエタノールアミンを検出する段階を含む、方法を提供する。あるいは、当該方法において、エタノールアミンと共に、あるいはエタノールアミンに代えて、リン酸を除去および検出してもよい。
【0032】
段階(2a)では、エタノールアミンを除去する公知の手段および方法のいずれを用いてもよい。一実施形態では、段階(2a)においてエタノールアミンが樹脂によって除去される。かかる樹脂の例としては、MCI GEL AFR2(三菱化学)などの陽イオン交換樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、段階(2a)においてエタノールアミンが酵素処理によって除去されてもよい。
【0033】
上記式(2)で示される反応が利用される場合、段階(2b)では、上記式(2)で示される反応を触媒する任意の酵素が用いられる。かかる酵素の例として、アルカリホスファターゼが挙げられるが、これに限定されない。一実施形態では、段階(2b)で、アルカリホスファターゼまたはその変異体が用いられる。好ましい実施形態では、段階(2b)で用いられる酵素は、アルカリホスファターゼである。
【0034】
別の実施形態では、段階(2a)の前に、サンプルに上記式(2)で示される反応を触媒する任意の酵素、例えばアルカリホスファターゼを添加し、その酵素反応を実施する段階がさらに含まれてもよい。
【0035】
段階(2c)で用いられる「エタノールアミン検出用組成物」には、サンプル中に存在するエタノールアミンを検出するための、任意の組成物、試薬、およびキットが含まれる。例えば、市販のエタノールアミン検出用の組成物、試薬、またはキットを用いてもよい。
【0036】
別の実施形態では、段階(2b)および(2c)が同時に行われる。すなわち、各段階で必要な酵素、組成物、試薬、および/またはキットを同時に用いてもよい。段階(2b)および(2c)を同時に行うことで、サンプルが外気に触れる機会を減らすことができ、より正確な測定が可能となる。
【0037】
上記式(2)に示されるとおり、加水分解されるPEAと、生成されるエタノールアミンおよびリン酸の比率は、PEA:エタノールアミン:リン酸=1:1:1である。このことから、生成されたエタノールアミンまたはリン酸の量を測定することで、元のサンプル中に存在していたPEAの量を測定することができる。したがって、上記式(2)で示される反応が利用される本発明のPEAを測定する方法において、エタノールアミンと共に、あるいはエタノールアミンに代えて、リン酸を採用してもよい。その場合、段階(2a)では、上記のような、リン酸を除去する公知の手段および方法のいずれを用いてもよい。また、段階(2c)では、リン酸検出用組成物として、サンプル中に存在するリン酸を検出するための、任意の組成物、試薬、およびキットが用いられる。例えば、市販のリン酸検出用の組成物、試薬、またはキットを用いてもよい。例示的なリン酸検出用試薬は、マラカイトグリーン(MG)試薬である。
【0038】
上述のとおり、本発明のPEAを測定する方法は、第1段階として、サンプルからアンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンを除去する段階を含む。アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、およびエタノールアミンは天然に存在し得るため、サンプル中にこれらが既に存在している可能性が高い。また、サンプル取得段階で、これらがサンプル中に混入する可能性もある。したがって、上記式(1)または(2)の反応を実施する前にサンプル中に存在しているアンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンを除去することにより、従来法に比べて正確かつ高感度に、PEAから生成したアンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、またはエタノールアミンを検出することができる。
【0039】
別の実施態様では、本発明は、機器分析法を用いることによる、PEAを高感度に測定する方法を提供する。一実施形態では、イオン交換クロマトグラフィー(IC)および蛍光検出器(FLD)を利用し、PEAのポストカラム蛍光誘導体化による定量法によって、PEAが測定される。他の実施形態では、CE(キャピラリ−電気泳動法)およびMS(質量分析計)を利用して、PEAが測定される。この場合、三連四重極型(QqQ型)のMS装置を用いてもよい。
【0040】
上述した本発明のPEAを測定する方法は、アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンが実質的に存在しない環境(アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンフリーの環境)下で実施されてもよい。「アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンが実質的に存在しない環境」とは、これらの物質の外部からの流入が軽減または防止されている環境を指す。「実質的に存在しない」とは、これらの物質が完全に存在しない状態だけでなく、これらの物質が検出限界以下である状態も意味する。
【0041】
かかる環境としては、例えば、大気との接触が遮断された状態を指す。例えば、反応液の上に被膜を形成することで、反応系と大気との接触を遮断してもよい。被膜の形成に用いられる物質の例としては、無色、非揮発性、疎水性、非極性の物質等が挙げられる。例えば、オイルまたは有機溶媒が用いられる。用いられるオイルの例として、ミネラルオイル、植物由来性オイルが挙げられるが、これらに限定されない。用いられる有機溶媒の例として、オクタノール、ドデカノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
あるいは、減圧下または真空下で本発明のPEAを測定する方法を実施してもよい。「減圧」とは、常圧よりも低い圧力を意味し、例えば周囲の圧力に対して減圧された状態を示しており工業的に利用できる圧力として定義されているJIS規格の低真空とする9.86×10-4気圧以上であり、9.86×10-4〜9.99×10-1気圧、7.0×10-4〜9.99×10-1気圧である。
【0043】
あるいは、本発明のPEAを測定する方法を実施する環境(例えば、容器)中の大気を、アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンを実質的に含まない大気に置換してもよい。「アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンを実質的に含まない」とは、これらの物質が完全に含まれない状態だけでなく、これらの物質が検出限界以下である状態も意味する。
【0044】
上記式(1)で示される反応が利用される場合、一実施形態では、段階(1b)〜(1d)の少なくとも1つがアンモニア、リン酸、および/またはアセトアルデヒドが実質的に存在しない環境下で実施される。他の実施形態では、段階(1b)〜(1d)の少なくとも2つがかかる環境下で実施される。別の実施形態では、段階(1b)〜(1d)全てがかかる環境下で実施される。
【0045】
上記式(2)で示される反応が利用される場合、一実施形態では、段階(2b)〜(2d)の少なくとも1つがエタノールアミンおよび/またはリン酸が実質的に存在しない環境下で実施される。他の実施形態では、段階(2b)〜(2d)の少なくとも2つがかかる環境下で実施される。別の実施形態では、段階(2b)〜(2d)全てがかかる環境下で実施される。
【0046】
別の実施態様では、本発明は、対象がうつ病に罹患しているかどうかを判定するための方法に関する。当該方法は、(i)本発明のPEAを高感度に測定する方法により、サンプル中のPEAを測定する段階;および(ii)サンプル中のPEAの測定値が1.5μM未満である場合に、対象がうつ病に罹患していると判定する段階を含む。
【0047】
上述した本発明の方法で用いられるサンプルは、PEAを含む、または含んでいる可能性がある任意のサンプルである。かかるサンプルの例としては、全血、血清、血漿、組織、脳髄液、および尿などの生体試料サンプルが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、本発明で用いられるサンプルは全血、血清、または血漿サンプルであり、好ましくは血漿サンプルである。
【0048】
他の実施形態では、本発明で用いられるサンプルは、後続の段階に適した状態にするために、事前に処理されていてもよい。例えば、本発明で用いられるサンプルは、抗凝固剤で事前に処理された全血または血漿サンプルである。抗凝固剤の例としては、EDTA、クエン酸、シュウ酸、フッ化ナトリウム、ヘパリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
別の実施態様では、本発明は、上述した本発明の方法を実施するためのキットに関する。一実施形態では、本発明のキットはアンモニアを除去する手段を含む。例えば、アンモニアを除去するために用いられる樹脂が含まれる。かかる樹脂の例としては、MCI GEL AFR2(三菱化学)、ダウエックス 50Wx8 200−400メッシュ 強酸性陽イオン交換樹脂(H形)などの陽イオン交換樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、アンモニアを別の物質に変換する酵素が含まれる。かかる酵素の例としては、グルタミン酸脱水素酵素、グルタミン合成酵素、およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド合成酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
他の実施形態では、本発明のキットは、アンモニアを除去する手段と共に、あるいはアンモニアを除去する手段に代えて、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンを除去する手段を含む。例えば、アセトアルデヒド、リン酸、またはエタノールアミンを除去するために用いられる樹脂、あるいはアセトアルデヒド、リン酸、またはエタノールアミンを別の物質に変換する酵素が含まれる。
【0051】
別の実施形態では、本発明のキットはアンモニア検出用組成物を含む。この場合、サンプル中に存在するアンモニアを検出するための、任意の組成物、試薬、および/またはキットが含まれる。例えば、市販のアンモニア検出用の組成物、試薬、またはキットが含まれる。例として、シカリキッドNH(関東化学株式会社)、アンモニア−L(株式会社セロテック)、およびF−キット アンモニア(株式会社J.K.インターナショナル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
あるいは、上記の市販品の改良品を用いてもよい。例えば、上述した試薬Iおよび試薬IIの組み合わせを用いてもよい(表1および2を参照のこと)。
【0053】
別の実施形態では、本発明のキットは、アンモニア検出用組成物と共に、あるいはアンモニア検出用組成物に代えて、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミン検出用組成物を含む。例えば、市販のアセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミン検出用の組成物、試薬、またはキットが含まれる。リン酸検出用試薬の例として、マラカイトグリーン(MG)試薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
キットは、本発明の方法に用いられる任意の試薬を含んでもよい。また、測定の実施を簡便にするための適当な試薬、例えばサンプル希釈液、反応希釈液、バッファー、洗浄剤などを含んでもよい。通常、試薬は適切な容器に入れて提供される。またさらに、本発明の方法の実行に必要な説明書などの資材を含んでもよい。
【0055】
一実施形態では、本発明のキットは、研究専用(Research Use Only:RUO)キットである。他の実施形態では、本発明のキットは、調査専用(Investigational Use Only:IUO)キットである。別の実施形態では、本発明のキットは、臨床診断キットである。
【0056】
別の実施態様では、本発明は、コンピュータに、上述した本発明の方法を実行させるためのプログラムに関する。本発明のプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録させてもよく、装置に付属するコンピュータの記録媒体に記録してもよい。記録媒体の例としては、ハードディスク、CD、DVD、USBメモリ、およびフロッピー(登録商標)ディスクが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
別の実施態様では、PEAを測定するための装置に関する。一実施形態では、本発明の装置は上述した本発明のキットを含む。別の実施形態では、本発明の装置に上述した本発明のプログラムが組み込まれている。本発明の装置が行う処理を示すフローチャート図の一例を図2に示す。
【0058】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されると解すべきではない。
【実施例1】
【0059】
(I)アンモニアを用いるPEA測定法1
1.陽イオン交換樹脂によるアンモニア除去
サンプルとして血漿を用いた。カチオン交換樹脂MCI GEL AFR2(三菱化学社製、カタログ番号1−033−01)をカラムに充填し、400μLの超純水で洗浄した。50μLのサンプルを、洗浄したカラムに充填して通液し、溶液を回収した。回収した溶液中のアンモニアおよびPEAの残存率を測定した。アンモニアは、シカリキッドNH(関東化学株式会社)を用いて、450nmの吸光度を測定することで測定した。PEAは後述のCE−MS機器法により測定した。
【0060】
結果を図3に示す。アンモニアの残存率は1.5%であった。PEAの残存率は100%であった。このことから、陽イオン交換カラムを用いることで、PEAに対してアンモニアの選択的な除去が可能であることが示された。
【0061】
2.PEAからのアンモニアの生成
アンモニア除去後のサンプル50μLに、50μLのPEA酵素溶液(500μg/mL)を添加混和し、20分間25℃で静置した。酵素サイクリング溶液(試薬A)100μLを添加混和し、5分間25℃で静置した。検出溶液(試薬B)50μLを添加混和した。試薬AおよびBの組成は以下の表のとおりである。上記の手順により、溶液中のPEAからアンモニアを生成した。
【表3】
【表4】
【0062】
3.PEA濃度の測定
10分後と12分後に450nmの吸光度を測定し、アンモニアを検出した。得られた結果をPEA濃度に換算した。なお、機器法(Thermo Fisher Scientific社製IC−FLDおよびAgilent Technologies社製CE−MS)を用いる測定も行った。使用した機器および装置は以下のとおりである:IC−FLD(ICS5000);カラム(AS20);CE(G1600);およびMS(6460)。製造業者の使用説明書に従い、標準物質(2−Aminoethyl dihydrogen phosphate、SIGMA−ALDRICH、製品番号292869)のピークとサンプルのピークを比較して測定した。結果を以下の表に示す。
【表5】
【実施例2】
【0063】
(II)アンモニアを用いるPEA測定法2
1.サンプル中のPEA除去
サンプルとして血漿を用いた。サンプル(1)100μLに1M TAPS(pH8.5)10μL、限外ろ過したPEA酵素溶液(4mg/mL)25μLを添加混和し、20分間37℃で静置した。サンプル(2)100μLに1M TAPS(pH8.5)10μL、PEA酵素溶液(4mg/mL)25μLを添加混和し、20分間37℃で静置した。その後、サンプル(1)および(2)をそれぞれ限外ろ過に供した。限外ろ過条件は次のとおりであった:排除限界3kDa、14000g、4℃。
【0064】
2.陽イオン交換樹脂によるアンモニア除去
カチオン交換樹脂MCI GEL AFR2(三菱化学社製、カタログ番号1−033−01)をカラムに充填し、400μLの超純水で洗浄した。サンプル(1)、(2)それぞれ100μLを、洗浄したカラムに充填して通液し、溶液を回収した。
【0065】
3.PEAからのアンモニアの生成
アンモニア除去後のサンプル(1)、(2)それぞれ67.5μLに、12.5μLのPEA酵素溶液(4mg/mL)、1M TAPS(pH8.5)10μLを添加混和し、20分間37℃で静置した。上記の手順により、溶液中のPEAからアンモニアを生成した。
【0066】
4.PEA濃度の測定
上記で得られた酵素反応溶液50μLに、酵素サイクリング溶液(試薬A)100μL、検出溶液(試薬B)100μLを添加混和した。試薬AおよびBの組成は以下の表のとおりである。
【表6】
【表7】
4分後と6分後に450nmの吸光度を測定し、アンモニアを検出した。サンプル(1)の結果からサンプル(2)の結果を差し引き、サンプル中のPEA濃度を求めた。なお、機器法(Thermo Fisher Scientific社製IC−FLD)を用いる測定も行った。使用した機器および装置は以下のとおりである:IC−FLD(ICS5000);カラム(AS−20)。結果を以下の表に示す。
【表8】
【実施例3】
【0067】
(III)リン酸を用いるPEA測定法
1.塩化カルシウムによるリン酸除去(沈殿法)
サンプルとして血清を用いた。サンプル180μLに1M塩化カルシウム20μLを添加混和した後、溶液を限外ろ過した。
【0068】
2.スクロースホスホリラーゼによるリン酸除去(酵素法)
限外ろ過したサンプル110μLに、500mM MOPS(pH7.5)10μL、1M スクロース10μL、スクロースホスホリラーゼ(200U/mL)10μLを添加混和し、10分間37℃で静置した。得られたリン酸除去後のサンプル140μLに、1M CHESバッファー(pH9.0)20μLを添加混和して、酵素反応を停止させた。ここで、CHESバッファー添加前の溶液中のリン酸およびPEAの残存率を別途測定した結果を、図4に示す。リン酸はMalachite Green Phosphate Assay Kit(フナコシ株式会社)を用いて、620nmの吸光度を測定することで測定した。PEAは実施例1に記載のCE−MS機器法により測定した。図4に示すとおり、リン酸の残存率は検出限界以下であり、PEAの残存率は約100%であった。このことから、沈殿法および酵素法を用いることで、PEAに対してリン酸の選択的な除去が可能であることが示された。
【0069】
3.PEAからのリン酸の生成
CHESバッファー添加後のサンプル150μLに、PEA酵素溶液(2.5mg/mL)40μLを添加混和し、20分間37℃で静置した。上記の手順により、溶液中のPEAからリン酸を生成した。
【0070】
4.PEA濃度の測定
上記で得られた酵素反応溶液160μLに、Malachite Green Phosphate Assay Kit(フナコシ株式会社)のReagentMIX40μLを添加混和して、室温で20分間静置した。620nmの吸光度を測定し、リン酸を検出した。検出したリン酸濃度からPEA濃度を求めたところ、2.32μMであった。なお、機器法(Thermo Fisher Scientific社製IC−FLD)を用いる測定も行った。使用した機器および装置は以下のとおりである:IC−FLD(ICS5000);カラム(AS−20)。機器法による結果は2.33μMであった。
【実施例4】
【0071】
(IV)大気中アンモニアのサンプルへの透過に対するオイルの阻害効果
サンプルとして超純水(和光純薬工業(株)LC/MS用(CAS.No.7732−18−5))およびヒト血漿(出願人にて調製したもの)を用いた。オイルとしてミネラルオイルを用いた。96ウェルプレート中に、ミネラルオイルでシールした系と、ミネラルオイルでシールしない系を用意した。大気下で実験を行った。測定開始後、4分から20分まで、2分ごとにサンプル中のアンモニア濃度を測定した。アンモニアは、シカリキッドNH(関東化学株式会社)を用いて、450nmの吸光度を測定することで測定した。
【0072】
結果を図5に示す。血漿、純水いずれのサンプルにおいても、オイルの有無でアンモニア濃度が大きく変化した。これらの結果から、本発明の方法を、「アンモニア、アセトアルデヒド、リン酸、および/またはエタノールアミンが実質的に存在しない環境」において実施することの効果および意義が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、従来法よりも高感度にPEAを測定する方法およびキットが提供される。したがって、本発明は、研究試薬、検査薬、診断薬等の分野において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号1:Ethanolamine−phosphate phospho−lyase
配列番号2:Ethanolamine phosphate catabolic enzyme
配列番号3:Ethanolamine phosphate catabolic enzyme
配列番号4:GabT domain
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]