特許第6467114号(P6467114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6467114-金属接合積層体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6467114
(24)【登録日】2019年1月18日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】金属接合積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/08 20060101AFI20190128BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20190128BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190128BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20190128BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20190128BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20190128BHJP
   B22F 1/02 20060101ALN20190128BHJP
   H01B 13/00 20060101ALN20190128BHJP
【FI】
   B22F7/08 C
   B22F9/00 B
   B22F1/00 K
   B82Y40/00
   H01B5/02 A
   H01L21/52 C
   !B22F1/02 B
   !H01B13/00 501Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-530164(P2018-530164)
(86)(22)【出願日】2018年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2018021411
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2017-145811(P2017-145811)
(32)【優先日】2017年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 智文
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/007402(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/056589(WO,A1)
【文献】 特開2012-084514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の被接合体と第二の被接合体とが銀粒子焼結層により接合された金属接合積層体の製造方法であって、
前記第一の被接合体に、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を塗布する工程(1)と、
塗布した前記接合用組成物を加熱乾燥する工程(2)と、
加熱乾燥された前記接合用組成物に前記第二の被接合体を押し付ける工程(3)と、
前記接合用組成物を加熱して焼結させ、前記銀粒子焼結層を形成する工程(4)とを含み、
前記工程(1)で塗布される前記接合用組成物中の前記有機成分の含有量は15質量%以下であり、
前記工程(2)で加熱乾燥された前記接合用組成物中の前記有機成分の含有量は4質量%以上であることを特徴とする金属接合積層体の製造方法。
【請求項2】
前記銀粒子焼結層の空隙率は、20体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属接合積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)では、50℃以上、100℃以下の温度で加熱乾燥することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属接合積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)では、前記第二の被接合体を1MPa以下の荷重で押し付けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属接合積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(4)では、前記第一の被接合体と前記第二の被接合体とを無加圧下で接合することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属接合積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接合積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品同士の機械的、電気的及び/又は熱的な接合のために、従来、半田、導電性接着剤、銀ペースト、異方導電性フィルム等の接合材が用いられている。これらの接合材は、金属部品だけでなく、セラミック部品、樹脂部品等の接合に用いられることもある。接合材の用途としては、例えば、LED等の発光素子を基板に接合する用途、半導体チップを基板に接合する用途、それらの基板を更に放熱部材に接合する用途等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、接合材及びそれを用いた接合方法に関し、銀微粒子と溶剤を混合した銀ペーストからなる接合材であって、溶剤がジオールであり、添加剤として1以上のメチル基を有するトリオールが混合されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−8332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、接合材として銀粒子焼結層を用いるために、銀粒子を含有する接合用組成物について研究開発を行っている。そして、接合用組成物中に分散媒等の有機成分を配合することにより、接合用組成物の良好な塗布性(印刷性)やポットライフ(可使時間)を確保できることを見出したが、銀粒子を焼結させるための焼成時にボイドや剥離が発生しやすく、所望の接合強度が得られない点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、接合用組成物の良好な取り扱い性を確保しつつ、高い接合強度が得られる金属接合積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、接合用組成物の良好な取り扱い性を確保しつつ、高い接合強度が得られる金属接合積層体の製造方法について種々検討し、接合用組成物中に含まれる有機成分に着目した。そして、本発明者は、鋭意検討した結果、第一の被接合体に塗布した接合用組成物に第二の被接合体を押し付ける前に、有機成分の含有量が4質量%以上を維持するように加熱乾燥処理を行うことによって、接合用組成物の塗布性(印刷性)やポットライフ(可使時間)を確保しつつ、銀粒子焼結層における空隙率(ボイド率)を抑制し、高い接合強度が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の金属接合積層体の製造方法は、第一の被接合体と第二の被接合体とが銀粒子焼結層により接合された金属接合積層体の製造方法であって、上記第一の被接合体に、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を塗布する工程(1)と、塗布した上記接合用組成物を加熱乾燥する工程(2)と、加熱乾燥された上記接合用組成物に上記第二の被接合体を押し付ける工程(3)と、上記接合用組成物を加熱して焼結させ、上記銀粒子焼結層を形成する工程(4)とを含み、上記工程(2)で加熱乾燥された上記接合用組成物中の上記有機成分の含有量は4質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
上記銀粒子焼結層の空隙率は、20体積%以下であることが好ましい。
【0010】
上記工程(2)では、25℃以上、100℃以下の温度で加熱乾燥することが好ましい。
【0011】
上記工程(3)では、上記第二の被接合体を1MPa以下の荷重で押し付けることが好ましい。
【0012】
上記工程(4)では、上記第一の被接合体と上記第二の被接合体とを無加圧下で接合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合用組成物の良好な取り扱い性を確保しつつ、高い接合強度が得られる金属接合積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】金属接合積層体の一例であるパワーデバイスの構成を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の金属接合積層体の製造方法は、第一の被接合体と第二の被接合体とが銀粒子焼結層により接合された金属接合積層体の製造方法であって、上記第一の被接合体に、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を塗布する工程(1)と、塗布した上記接合用組成物を加熱乾燥する工程(2)と、加熱乾燥された上記接合用組成物に上記第二の被接合体を押し付ける工程(3)と、上記接合用組成物を加熱して焼結させ、上記銀粒子焼結層を形成する工程(4)とを含み、上記工程(2)で加熱乾燥された上記接合用組成物中の上記有機成分の含有量は4質量%以上であることを特徴とする。
【0016】
本実施形態において製造される金属接合積層体は、第一の被接合体と第二の被接合体とが銀粒子焼結層により接合されたものである。第一の被接合体及び第二の被接合体の種類は特に限定されないが、接合用組成物の加熱焼結時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した部材であることが好ましく、リジッドであってもフレキシブルでもよい。また、高い接合強度を得る観点から、第一の被接合体及び第二の被接合体の接合面は、Cu、Ag、Au等の金属で構成されることが好ましい。また、第一の被接合体及び第二の被接合体の形状及び厚さは特に限定されず、適宜選択することができる。
【0017】
また、第一の被接合体及び/又は第二の被接合体は、銀粒子焼結層との密着性を高めるために、表面処理が行われていてもよい。上記表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理や、被接合体上にプライマー層や導電性ペースト受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0018】
本実施形態において製造される金属接合積層体としては、例えば、電力用半導体素子(パワーデバイス)が挙げられる。図1は、金属接合積層体の一例であるパワーデバイスの構成を示した断面模式図である。図1に示したパワーデバイスは、パワー半導体チップ(第二の被接合体)11の下面と銅張絶縁基板(第一の被接合体)13の上面とが接合材12によって接合されている。パワー半導体チップ11は、Si、SiC、GaN等で本体が構成され、下面にはAuメッキが施されている。接合材12は、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を焼成することで得られる銀粒子焼結層である。銅張絶縁基板13は、窒化ケイ素等で構成された基材13aの両面に、Agメッキが施されたCu層13bを有するものである。Cu層13bにAgメッキが施されないこともある。
【0019】
銅張絶縁基板13の下には、パワー半導体チップ11で発生した熱を放出させるために、放熱材14及びヒートシンク15が取り付けられる。図1中の矢印は、熱の放出経路を示している。また、パワー半導体チップ11の上部には、パワー半導体チップ11への電力供給のために、ワイヤーボンド16が取り付けられる。
【0020】
上記銀粒子焼結層で構成される接合材12は、パワー半導体チップ11を銅張絶縁基板13に対し、機械的、電気的及び熱的に強固に接合することができる。銀粒子がナノメートルサイズの粒子である場合には、ナノ粒子特有の融点降下によって低温で焼結させることができ、かつ金属箔に近い高い導電性や熱伝導性を実現できる。一方、従来のように、接合材12として半田を用いる場合には、半田を融解した後、凝固させることによって接合が行われる。この場合、接合材12の接合温度は、半田の融点であり、接合材12の耐熱温度(使用可能温度)は、半田の融点(接合温度)よりも低くなる。このため、接合材12の耐熱温度を上げようとすると、接合温度も上がってしまう。パワーデバイスの開発においては、耐熱性や長期信頼性の向上が求められており、半田よりも高温での信頼性に優れた銀粒子焼結層が好適に用いられる。ここで、長期信頼性とは、接合体の機械的特性等が長期間維持されることを意味し、例えば、多数のヒートサイクルの印加によっても接合体の機械的特性等が低下し難いことを意味する。
【0021】
上記銀粒子焼結層は、接合用組成物を原料とし、上記工程(1)〜(4)を経て形成される。まず、上記工程(1)に用いる接合用組成物から説明する。
【0022】
<接合用組成物>
上記接合用組成物は、銀粒子及び有機成分を含有するものであれば特に限定されないが、塗布しやすいようにペースト状であることが好ましい。また、マイグレーションを起こりにくくするために、銀粒子以外に、イオン化列が水素より貴である金属、すなわち金、銅、白金、パラジウム等の粒子が併用されてもよい。
【0023】
上記銀粒子の平均粒径は1〜20μmであることが好ましい。平均粒径が1〜20μmの銀粒子を用いることで焼結による体積収縮を低減することができ、均質かつ緻密な接合材12を得ることができる。平均粒径が1μm未満の小さな粒子を用いると、低温で焼結が進行するが、粒子同士の焼結が進むと平均粒径の増加に伴い体積収縮が大きくなり、被接合体が当該体積収縮に追従できなくなるおそれがある。そのような場合には、接合材12にボイド等の欠陥が発生し、接合材12の接合強度及び信頼性が低下してしまう。一方、平均粒径が20μmより大きな粒子を用いると、低温での焼結は殆ど進行せず、粒子間に形成される大きな空隙が焼結後も残存してしまうおそれがある。
【0024】
上記銀粒子の平均粒径は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering)、小角X線散乱法、広角X線回折法で測定することができる。本明細書中、「平均粒径」とは、分散メジアン径をいう。なお、平均粒径を測定するその他の手法としては、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いて撮影した写真から、50〜100個程度の粒子の粒径の算術平均値を算出する方法が挙げられる。
【0025】
上記接合用組成物は、銀粒子よりも小径の金属微粒子を含有していてもよい。金属微粒子は、銀粒子とは分離して接合用組成物中に分散されていてもよいし、銀粒子の表面の少なくとも一部に付着していてもよい。かかる金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、ビスマス、スズ、鉄及び白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金)が挙げられる。なかでも、金、銀、銅及び白金が好ましく、銀がより好ましい。これらの金属は単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0026】
上記金属微粒子の平均粒径は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、金属微粒子において融点降下が生じるナノメートルサイズであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましい。金属微粒子の平均粒径が1nm以上であれば、良好な接合材12を形成可能な接合用組成物が得られ、かつ金属微粒子の製造がコスト高とならず実用的である。また、100nm以下であれば、金属微粒子の分散性が経時的に変化しにくく、好ましい。
【0027】
上記有機成分としては特に限定されず、分散媒の他、銀粒子の分散性や、接合用組成物の粘性、密着性、乾燥性、表面張力、塗布性(印刷性)を調整する目的で用いられる添加物等が用いられる。
【0028】
上記分散媒としては、例えば、炭化水素、アルコール、カルビトール類等の有機溶媒が挙げられる。分散媒は、接合用組成物を塗布する工程の間に揮発しくいものが好ましく、室温で揮発しにくいものが好ましい。
【0029】
上記炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素、脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0031】
上記環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0032】
上記脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0033】
上記アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール、脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0034】
上記脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C6−30脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0035】
上記環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。
【0036】
上記脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0037】
上記カルビトール類としては、例えば、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ヘキシルカルビトール等が挙げられる。
【0038】
上記接合用組成物中に分散媒を含有させる場合の初期含有量は、粘度等の所望の特性によって調整すればよく、接合用組成物中の分散媒の初期含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。分散媒の初期含有量が1〜30質量%であれば、接合用組成物として使いやすい範囲で粘度を調整する効果を得ることができる。分散媒のより好ましい初期含有量は1〜20質量%であり、更に好ましい初期含有量は4〜15質量%である。
【0039】
上記銀粒子の分散性を向上させる添加物としては、例えば、アミン、カルボン酸、高分子分散剤、不飽和炭化水素等が挙げられる。アミンやカルボン酸は官能基が銀粒子の表面に適度の強さで吸着し、銀粒子の相互の接触を妨げるため、保管状態での銀粒子の安定性に寄与する。銀粒子の表面に吸着した添加物は加熱時に粒子の表面から移動及び/又は揮発することにより、銀粒子同士の融着及び基材との接合を促進すると考えられる。上記高分子分散剤は、銀粒子の少なくとも一部に適量付着させることで銀粒子の低温焼結性を失うことなく、分散安定性を保持することができる。
【0040】
上記銀粒子の表面の少なくとも一部には有機成分が付着しており(すなわち、銀粒子の表面の少なくとも一部が有機成分で構成される有機保護層で被覆されており)、有機成分(有機保護層)はアミンを含むことが好ましい。融点降下能を示すナノメートルサイズの銀粒子を安定的に保管するためには、金属粒子の表面の少なくとも一部に有機保護層が設けられることが望ましい。ここで、アミンは官能基が銀粒子の表面に適度の強さで吸着することから、有機保護層として好適に用いることができる。
【0041】
上記アミンは特に限定されず、例えば、オレイルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘキシルアミン等のアルキルアミン(直鎖状アルキルアミン、側鎖を有していてもよい。)、N−(3−メトキシプロピル)プロパン−1,3−ジアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等のアルコキシアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミン、アニリン等のアリルアミン等の第1級アミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の第2級アミン、トリプロピルアミン、ジメチルプロパンジアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、ピリジン、キノリン等の第3級アミン、オクチルアミン等のように炭素数が2〜20程度のものを例示することができるが、炭素数が4〜7のアミンを用いることが好ましい。炭素数が4〜7のアミンの具体例としては、ヘプチルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、及びヘキシルアミンを例示することができる。炭素数が4〜7のアミンは比較的低温で移動及び/又は揮発するため、銀粒子の低温焼結性を充分に活用することができる。また、上記アミンは直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。
【0042】
なお、これらの有機成分は、銀粒子と化学的又は物理的に結合している場合、アニオンやカチオンに変化していることも考えられ、本実施形態においては、これらの有機成分に由来するイオンや錯体等も上記有機成分に含まれる。
【0043】
上記アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。また、上記アミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常温での沸点が300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。
【0044】
上記カルボン酸としては、少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物を広く用いることができ、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、ヘキサン酸、アクリル酸、オクチル酸、レブリン酸、オレイン酸等が挙げられる。カルボン酸の一部のカルボキシル基が金属イオンと塩を形成していてもよい。なお、当該金属イオンについては、2種以上の金属イオンが含まれていてもよい。
【0045】
上記カルボン酸は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、カルボキシル基以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、カルボキシル基の数が、カルボキシル基以外の官能基の数以上であることが好ましい。また、上記カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常温での沸点が300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。
【0046】
また、アミンとカルボン酸はアミド基を形成する。当該アミド基も銀粒子表面に適度に吸着するため、有機成分にはアミド基が含まれていてもよい。
【0047】
アミンとカルボン酸とを併用する場合の組成比(質量)としては、1/99〜99/1の範囲で任意に選択することができるが、好ましくは20/80〜98/2であり、より好ましくは30/70〜97/3である。
【0048】
上記高分子分散剤としては、市販されている高分子分散剤を使用することができる。市販の高分子分散剤としては、例えば、ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(以上、日本ルーブリゾール社製);ディスパービック(DISPERBYK)142、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック2155(以上、ビックケミー・ジャパン社製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(以上、EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(以上、EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(以上、味の素社製);フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンTG−720W(以上、共栄社化学工業社製)等を挙げることができる。低温焼結性及び分散安定性の観点からは、ソルスパース11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース28000、ディスパービック142又はディスパービック2155を用いることが好ましい。
【0049】
上記高分子分散剤の含有量は0.1〜15質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が0.1質量%以上であれば得られる接合用組成物の分散安定性が良くなるが、含有量が多過ぎる場合は接合性が低下することとなる。このような観点から、高分子分散剤のより好ましい含有量は0.03〜3質量%であり、更に好ましい含有量は0.05〜2質量%である。
【0050】
上記銀粒子は、例えば、金属イオンソースと分散剤とを混合し、還元法によって得ることができる。この場合、添加する分散剤や還元剤の量等を調整することによって、有機成分量を制御することができる。
【0051】
上記銀粒子に付着する有機成分量を調整するためには、銀粒子に対する加熱処理、酸(硫酸、塩酸、硝酸等)による洗浄、アセトンやメタノール等の脂溶性有機溶剤による洗浄等を用いることができる。なお、洗浄中に超音波を印加することで、より効率的に有機成分を取り除くことができる。
【0052】
上記不飽和炭化水素としては、例えば、エチレン、アセチレン、ベンゼン、アセトン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−ビニルシクロヘキセン、シクロヘキサノン、テルペン系アルコール、アリルアルコール、オレイルアルコール、2−パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、チアンシ酸、リシノール酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、アラキドン酸、アクリル酸、メタクリル酸、没食子酸、サリチル酸等が挙げられる。
【0053】
上記不飽和炭化水素のなかでも、水酸基を有する不飽和炭化水素が好適に用いられる。水酸基は銀粒子の表面に配位しやすく、当該銀粒子の凝集を抑制することができる。水酸基を有する不飽和炭化水素としては、例えば、テルペン系アルコール、アリルアルコール、オレイルアルコール、チアンシ酸、リシノール酸、没食子酸、サリチル酸等が挙げられる。好ましくは、水酸基を有する不飽和脂肪酸であり、例えば、チアンシ酸、リシノール酸、没食子酸、サリチル酸等が挙げられる。
【0054】
また、上記有機成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、バインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤、表面張力調整剤等が含まれてもよい。
【0055】
上記樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂、テルペン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記有機溶剤としては、上記の分散媒として挙げられたものを除き、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グリセリン、アセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト、ヘクトライト等の粘土鉱物、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂、ブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記界面活性剤としては特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0059】
本実施形態の金属接合積層体の製造方法に用いられる接合用組成物中の有機成分の初期含有量は、5〜50質量%であることが好ましい。初期含有量が5質量%以上であれば、接合用組成物の貯蔵安定性が良くなる傾向があり、50質量%以下であれば、接合用組成物の導電性が良い傾向がある。有機成分のより好ましい初期含有量は5〜30質量%であり、更に好ましい初期含有量は5〜15質量%である。
【0060】
なお、有機成分の初期含有量を所定の範囲に調整する方法としては、加熱を行って調整するのが簡便である。また、銀粒子を作製する際に添加する有機成分の量を調整することで行ってもよく、銀粒子調製後の洗浄条件や回数を変えてもよい。加熱はオーブンやエバポレーターなどで行うことができ、減圧下で行ってもよい。常圧下で行う場合は、大気中でも不活性雰囲気中でも行うことができる。更に、有機成分の初期含有量の微調整のために、上記アミン、カルボン酸等を後で加えることもできる。
【0061】
なお、接合用組成物に含まれる有機成分とその量については、例えば、リガク社製のTG−DTA/GC−MSを用いた測定により確認することができる。この測定の条件については適宜調整すればよいが、例えば、10mgの試料を大気中で室温〜550℃(昇温速度10℃/min)まで保持した際のTG−DTA/GC−MS測定を行えばよい。
【0062】
<工程(1)>
上記工程(1)では、第一の被接合体に接合用組成物を塗布する。ここで、「塗布」とは、接合用組成物を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の接合用組成物からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、加熱による焼結後の本実施形態の接合材(銀粒子焼結層)12は、面状及び線状のいずれであってもよく、第一の被接合体上において連続していても不連続であってもよい。
【0063】
上記接合用組成物を塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷(メタルマスク印刷)、ディスペンサー法、ピントランスファー法、ディッピング、スプレー方式、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法、刷毛による塗布方式、流延法、フレキソ法、グラビア法、オフセット法、転写法、親疎水パターン法、シリンジ法等から適宜選択してよい。
【0064】
上記接合用組成物の粘度は、例えば、0.01〜5000Pa・Sの範囲が好ましく、0.1〜1000Pa・Sの範囲がより好ましく、1〜100Pa・Sの範囲であることが更に好ましい。当該粘度範囲とすることにより、接合用組成物を塗布する方法として幅広い方法を適用することができる。粘度の調整は、銀粒子の粒径の調整、有機成分の含有量の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。接合用組成物の粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計(例えばアントンパール社製のレオメーターMCR301)により測定することができる。
【0065】
<工程(2)>
上記工程(2)では、塗布した接合用組成物(塗膜)を加熱乾燥する。第一の被接合体に塗布された接合用組成物は、塗布性(印刷性)及びポットライフ(可使時間)を確保するために有機成分の量が多くされており、そのまま第二の被接合体を押し付け加熱焼結させると、生成する銀粒子焼結層中に空隙(ボイド)が多く発生してしまう。そこで、接合用組成物に第二の被接合体を押し付ける前に、工程(2)において接合用組成物を加熱乾燥し、接合用組成物中の有機成分の含有量を予め低減する。このとき、接合用組成物中の有機成分の含有量を少なくし過ぎると、第二の被接合体が接合用組成物と充分に密着しないため、ボイドや剥離が発生してしまう。そこで、工程(2)における加熱乾燥(予備乾燥)は、加熱乾燥された接合用組成物中の有機成分の含有量が4質量%以上となるように行われる。また、生成する銀粒子焼結層中にボイドが発生することを抑制する観点からは、加熱乾燥された接合用組成物中の有機成分の含有量は6質量%以下とされることが好ましい。
【0066】
上記工程(2)における加熱温度(予備乾燥温度)は、25℃以上、100℃以下であることが好ましい。25℃未満では、接合用組成物中の分散媒を効率よく揮発させることができない。100℃を超えると、分散媒を充分に揮発させることができるが、銀粒子に付着させた分散剤の一部も揮発し、焼結が始まってしまうおそれがあり、その場合、第二の被接合体を押し付けた際に密着させることができず、無加圧での接合が困難となる。予備乾燥温度のより好ましい下限は、50℃であり、更に好ましい下限は60℃である。なお、予備乾燥後の接合用組成物中の有機成分は、予備乾燥の最高温度以下の沸点を有する有機成分を実質的に含有しないものとなる。上記工程(2)における加熱時間は特に限定されないが、接合用組成物中の有機成分の含有量が変化しなくなるまで行うことが好ましい。上記工程(2)における加熱乾燥を行う方法は特に限定されず、例えば従来公知のオーブン等を用いることができる。
【0067】
<工程(3)>
上記工程(3)では、加熱乾燥された接合用組成物に第二の被接合体を押し付ける。第二の被接合体は、1MPa以下の荷重で押し付けられることが好ましい。押し付け荷重が1MPaを超えると、パワー半導体チップ11等の第二の被接合体へのダメージ(表面の傷つきや割れ)が懸念される。押し付け荷重は0.05MPa以上であることが好ましい。押し付け荷重が0.05MPa未満であると、密着不足となり剥離してしまうおそれがある。上記工程(3)における第二の被接合体の押し付けを行う方法は特に限定されず、従来公知のさまざまな方法が適用可能であるが、加熱乾燥された接合用組成物(乾燥塗膜)を均一に加圧する方法が好ましい。
【0068】
ちなみに、工程(3)の後に予備乾燥を行った場合には、分散媒を効率よく揮発させることができないため、工程(3)の前に予備乾燥を行った場合と比べて長い時間がかかるだけでなく、第一の被接合体と第二の被接合体とに挟まれた状態では塗膜の側方からしか分散媒が揮発しないため、塗膜端部のみが接合し始め、塗膜内部に有機成分が残りやすくボイドが発生してしまう。
【0069】
<工程(4)>
上記工程(4)では、接合用組成物を加熱して焼結させ、銀粒子焼結層を形成する。工程(2)の予備加熱では、有機成分のうち、主に分散媒が揮発し、銀粒子に付着させた分散剤等は接合用組成物内に残存するが、工程(4)における加熱により、接合用組成物中の有機成分の大部分又は全てが揮発する。本実施形態においては、接合用組成物がバインダー成分を含む場合は、接合材の強度向上及び被接合部材間の接合強度向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために接合用組成物の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。銀粒子焼結層は、高い接合強度と高い信頼性を得るという点で有機成分の残存量は少ない方がよく、有機成分を実質的に含有しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で有機成分の一部が残存していても構わない。銀粒子焼結層中の有機成分の含有量は、1質量%未満であることが好ましい。
【0070】
また、工程(4)における加熱により、接合用組成物内において銀粒子同士が結合するだけでなく、第一の被接合体及び第二の被接合体と銀粒子焼結層との界面近傍では、隣接する層間で金属が拡散し合う。これにより、第一の被接合体と銀粒子焼結層の間、及び、第二の被接合体と銀粒子焼結層の間で強固な結合が形成される。
【0071】
上記工程(4)は、第一の被接合体と第二の被接合体とを加圧しつつ接合するものであってもよいが、第一の被接合体と第二の被接合体とを無加圧下で接合するものであってもよい。無加圧下での接合は、加圧と加熱を同時に行わないことから、生産性に優れている。無加圧下で接合する場合には、接合用組成物を加熱して焼結させる際の有機成分の揮発に起因して銀粒子焼結層内に空隙が発生しやすいが、本実施形態では、工程(2)の予備乾燥により接合用組成物中の有機成分の含有量が調整されているため、無加圧下で接合しても空隙の発生が抑制され、高い接合強度を有する銀粒子焼結層(接合材)が得られる。したがって、本実施形態の方法は、工程(4)において、第一の被接合体と第二の被接合体とを無加圧下で接合する場合に好適である。
【0072】
工程(4)における加熱温度は、銀粒子焼結層を形成することができれば特に限定されないが、200〜300℃であることが好ましい。加熱温度が200〜300℃であれば、第一の被接合体及び第二の被接合体へのダメージを防止しつつ、有機成分等を蒸発又は分解により除去でき、高い接合強度が得られる。また、加熱を行う際、温度を段階的に上げたり下げたりしてもよく、室温から昇温することが好ましい。工程(4)における加熱時間は特に限定されず、加熱温度に応じて、接合強度が充分に得られるように調整すればよい。工程(4)における加熱を行う方法は特に限定されず、例えば従来公知のオーブン等を用いることができる。
【0073】
上記銀粒子焼結層は、機械的、電気的及び熱的に強固な接合状態を得る観点から、緻密な焼結体であることが好ましく、具体的には、銀粒子焼結層の空隙率は、20体積%以下であることが好ましい。本実施形態の金属接合積層体の製造方法によれば、無加圧下で接合しても、空隙率が5〜20体積%の銀粒子焼結層を容易に形成することができる。
【0074】
上記銀粒子焼結層の厚さは、例えば、10〜200μmであり、好ましくは20〜100μmである。
【0075】
本実施形態によれば、先に述べたように、工程(2)の予備乾燥により接合用組成物中の有機成分の含有量が調整されるため、第一の被接合体及び第二の被接合体に対する焼成前の接合用組成物の密着性を向上でき、空隙率が低く、高い接合強度を有する銀粒子焼結層(接合材)が得られる。なお、銀粒子焼結層の厚さは塗膜の厚さによって容易に制御することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
3−メトキシプロピルアミン2.0gをマグネティックスターラーで充分に撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加し、増粘させた。得られた粘性物質を恒温槽に入れて反応させた後、レブリン酸を10g添加して更に反応させ、懸濁液を得た。次に、懸濁液の分散媒を置換するため、メタノールを加えて撹拌後、遠心分離によりレブリン酸で表面が被覆された銀粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返した。このレブリン酸で表面を被覆された銀粒子1gとミクロン銀粒子(福田金属箔粉工業社製、Ag−HWQ1.5)1gに、分散媒としてトリデカノールを0.05g、ブチルカルビトールアセテートを0.06g、リシノール酸を0.005g加えて撹拌混合し、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物Aを得た。
【0078】
得られた接合用組成物Aを銀メッキした銅板(20mm角)にメタルマスクを用いて11mm角に塗布し、予備乾燥として70℃に設定したオーブン入れて3分間乾燥させた。乾燥させた接合用組成物Aの上に、金メッキを施したSiチップ(底面積10mm×10mm)を積層し、0.2MPaで押し付けた。
【0079】
そして、得られた積層体を、リフロー炉(シンアペックス社製)に入れ、大気中で室温から昇温速度を3.8℃/minで最高温度250℃まで上げた後に60分間保持して焼成処理を行い、銀粒子焼結層を形成した。焼成処理の際、加圧は行わず無加圧で行った。銀粒子焼結層の形成により、銀メッキした銅板(第一の被接合体)と金メッキを施したSiチップ(第二の被接合体)とが銀粒子焼結層により接合された金属接合積層体が完成した。
【0080】
<実施例2>
焼成処理を窒素雰囲気下で実施したことと、銀メッキした銅板の代わりに希硫酸にて超音波洗浄した無垢銅板を使用したこと以外は実施例1と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0081】
<実施例3>
トリデカノール0.05g及びブチルカルビトールアセテート0.06gの代わりにヘキシルカルビトール0.2gを添加して接合用組成物Bを得たことと、予備乾燥の時間を15分間に変えたこと以外は実施例1と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0082】
<実施例4>
焼成処理を窒素雰囲気下で実施したことと、銀メッキした銅板の代わりに希硫酸にて超音波洗浄した無垢銅板を使用したこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0083】
<実施例5>
焼成処理における最高温度を280℃にしたこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0084】
<実施例6>
予備乾燥における温度と時間を100℃5分間にしたこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0085】
<実施例7>
3−メトキシプロピルアミンの代わりに3−エトキシプロピルアミン1.5gとジグリコールアミン0.4gを添加して接合用組成物Cを得たこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0086】
<実施例8>
焼成処理を窒素雰囲気下で実施したことと、銀メッキした銅板の代わりに希硫酸にて超音波洗浄した無垢銅板を使用したこと以外は実施例7と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0087】
<比較例1>
3−メトキシプロピルアミン8.0gとドデシルアミン0.40gを混合し、マグネティックスターラーで充分に撹拌してアミン混合液を調製した。アミン混合液に、撹拌を行いながらシュウ酸銀6.0gと銀粒子(三井金属鉱業社製、還元粉、D50(メジアン径)=1.5μm)10gを添加し、増粘させた。得られた粘性物質を恒温槽に入れ、反応させ、懸濁液を得た。懸濁液の分散媒を置換するため、メタノールを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子で表面を被覆された銀粒子を沈殿させて分離し、上澄みを捨てた。この操作をもう一度繰り返した。この銀微粒子で表面を被覆された銀粒子15gに、分散媒としてトリデカノールを0.4g、ブチルカルビトールアセテートを0.4g、リシノール酸を0.01g加えて撹拌混合し、接合用組成物Dを得た。接合用組成物Dを得たこと以外は実施例1と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0088】
<比較例2>
予備乾燥を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0089】
<比較例3>
予備乾燥を行わなかったこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0090】
<比較例4>
予備乾燥における温度と時間を100℃10分間にしたこと以外は実施例3と同様にして金属接合積層体を作製した。
【0091】
[評価試験]
実施例及び比較例で作製した接合用組成物を用いて下記評価試験を行った。その結果を表1に示した。
【0092】
(1)銀粒子の平均粒径の測定
日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡(型番:S4800)を用いて200000倍で撮影した写真から、50〜100個程度の粒子の粒径の算術平均値を算出する方法にて銀粒子の平均粒径を得た。
【0093】
(2)予備乾燥後の有機成分の含有量の測定
予備乾燥の前後で接合用組成物の質量を測定し、得られた質量を基に、下記式を用いて予備乾燥後の有機成分の含有量を算出した。
有機成分の揮発量(g)=塗布した接合用組成物の質量(g)−予備乾燥後の接合用組成物の質量(g)
予備乾燥後の有機成分の含有量(質量%)={有機成分の添加量(g)−有機成分の揮発量(g)/塗布した接合用組成物の質量(g)}×100
【0094】
(3)接合強度の測定
常温にてボンドテスター(レスカ社製)を用いて接合強度試験を行った。
【0095】
(4)空隙率(ボイド率)の測定
金属接合積層体を研磨にて断面を露出させ、走査型電子顕微鏡にて断面観察を行った。得られた電子顕微鏡写真から、銀粒子焼結層内の空隙の面積を銀粒子焼結層の全体の面積で割って空隙率を算出した。空隙率が20%以下は○、21〜30%は△、31%以上は×とした。また、空隙率の値に関わらず、大きな空隙が存在したり、接合した界面が剥離したりしているものは×とした。
【0096】
【表1】
【0097】
表1から分かるように、実施例1〜8では、銀メッキした銅板(第一の被接合体)上に塗布した接合用組成物に対し、金メッキを施したSiチップ(第二の被接合体)を押し付ける前に、接合用組成物中の有機成分の含有量が4質量%以上となる程度に予備乾燥を行ったことから、作製された金属接合積層体は、銀粒子焼結層の空隙率が低く、高い接合強度が得られた。
【0098】
一方、比較例1では、接合用組成物D中の有機成分の含有量が少なく、予備乾燥後の接合用組成物中の有機成分の含有量が3.2質量%であったため、金メッキを施したSiチップを押し付けても充分に密着しなかった。このため、銀粒子焼結層の空隙率が低くなり、高い接合強度が得られなかった。また、比較例2及び3では、予備乾燥が行われなかったため、銀粒子焼結層内に空隙(ボイド)が多く発生し、接合強度が低かった。また、比較例4では、予備乾燥温度が高く、予備乾燥後の接合用組成物中の有機成分の含有量が3.5質量%であったため、金メッキを施したSiチップを押し付けても充分に密着しなかった。このため、銀粒子焼結層の空隙率が低くなり、高い接合強度が得られなかった。
【符号の説明】
【0099】
11 パワー半導体チップ
12 接合材
13 銅張絶縁基板
13a 基材
13b Cu層
14 放熱材
15 ヒートシンク
16 ワイヤーボンド
【要約】
本発明は、接合用組成物の良好な取り扱い性を確保しつつ、高い接合強度が得られる金属接合積層体の製造方法を提供する。本発明は、第一の被接合体と第二の被接合体とが銀粒子焼結層により接合された金属接合積層体の製造方法であって、上記第一の被接合体に、銀粒子及び有機成分を含有する接合用組成物を塗布する工程(1)と、塗布した上記接合用組成物を加熱乾燥する工程(2)と、加熱乾燥された上記接合用組成物に上記第二の被接合体を押し付ける工程(3)と、上記接合用組成物を加熱して焼結させ、上記銀粒子焼結層を形成する工程(4)とを含み、上記工程(2)で加熱乾燥された上記接合用組成物中の上記有機成分の含有量は4質量%以上である。
図1